俺の痛すぎる大学3年間を語るback

俺の痛すぎる大学3年間を語る


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1:
陰キャオタクの自分語り()に付き合ってくれないか?
2:
おー立ったか
まあホントにただのオタクが大学時代を振り返るだけなので
物好きな奴がいたら聞いてくれ
3:
身バレも怖くはないけど、
なんとなくぼかすと時代は某萌バンドアニメが覇権を握ってる頃
俺は、大学に進学してピカピカの新生活を始めた
みんな何のサークルに入ろうか迷っていたけど、俺は入学する前からずっと、何の部活に入るか決めていた
4:
俺は学部の連中がサークルの説明会やら体験をめぐろうとしている中、
真っ先にとある部活の部室に向かった
「漫研」だ
何を隠そう俺は高校時代から根っからのオタクだったし、
この頃は「漫画家になりたい」と本気で思っていたので、漫研以外の選択肢はなかった
5:
歴史だけはある大学だったので、敷地の外れにある部室棟はボロボロだったな
正直高校時代の校舎の方が綺麗なレベルだったw
苔むした駐輪場を抜けて、コンクリートが剥げた階段を昇って、3階に漫研の部室があった
人の気配はそこかしこからしたけど、薄暗くて不気味だったわ
6:
俺「すいませーん!」
俺は呼びかけながら「漫画研究会」と書かれたドアを叩いた
返事がなかったので、何度も叫んでドアを叩いたw
すると、中から「うるさいなぁ空いてるよ!」と声がしてドアが開いた
7:
そこには、黒縁メガネをかけた太眉のいかにもな先輩が立っていた。
先輩「え、あ? 誰……?」
俺「一年です!入部したくて来たんす」
先輩「ああ、そうなの……じゃあとりあえず中へ…」
そう言われて、部室の中へと案内された
先輩は話しながら何度も目を擦っていたから、部室で寝ていたのかもしれない
8:
部室の中は薄暗くて、一番奥にある窓から仄かに光が差し込んでいた
壁なんかはパッと見ヤニだらけで黄ばんでいて(昔はタバコが吸えたらしい)
アニメやら同人ゲームのポスターが無造作に貼られていた
脇に置かれたボロボロの木棚には同人誌やら漫画本がぎっしりと並んでいた
広さは10畳…くらいかな?
ひとり暮らしのワンルームよりは広くて、中央に古臭い長机と椅子が置かれていた
9:
俺は特に椅子に座るわけでもなく、部室内をまじまじと観察した
『図書館戦争』や『狼と香辛料』のポスターが目に付き、「センスあんなぁ」なんて思った
それ以外にもPSPのアイマスのパッケージがいくつか転がっていたり、東方のCDが積み重なったりしていた
高校時代からずっと、「漫研」に憧憬のあった俺は、胸が高ぶって仕方なかった
これこれ!これだよ!
俺は大学に来て、こういうのを求めてたんだよ!
と、興奮を抑えきれなかった
10:
俺「やっぱ……すごいっすね! こういうの好きですよぉ!」
先輩「そう? ははは……」
俺の熱量がうざかったのか、先輩のテンションは低く若干引き気味だった
先輩はそんな俺をよそに、戸棚の書類の山を漁っていた
先輩「あれー、入部書類どこなんだろうなぁ」
しばらく待っていたものの、先輩は入部書類の場所が分からないようで、ずっと戸棚と格闘していた
11:
誰も見てる人おらんかもだけど、書くの楽しいから続けるわw
正直、来るタイミングミスったかなぁって思った
こんなよく分からない先輩しかいないし、段取り悪いし同級生もいないし、話は弾まないし、
ぶっちゃけつまんねえなぁーって思った。
部室の雰囲気だけは良いけど、ここにいても青春なんてあるのか?
って思い始めて、帰ろうかとした時だった。
12:
部室のドアが開いて、ショートカットの女の子が入ってきた
そして驚いたことに、これがバチクソに可愛かった
ショートカットなんて攻めた髪型は可愛い子にしか似合わないから、当然かもしれないが。
そして入ってくるなり、「ノリベ先輩いたんですか?」と黒縁メガネの先輩に声をかけた
13:
俺は瞬時に察した。
この可愛い子も漫研なのか!?と。
さすが大学!!
高校とは規模が違うぜ!と本気で思った。
こんなオタク趣味の軍団に、こうも可愛い子がいるなんて!
とマジで頭の中で実況してしまったw
14:
みてるよ(´・ω・`)
17:
可愛い女子の登場書いて力尽きるってどういうことだよ
21:
すまんなんか寝落ちしてたわw
見てくれてる人ありがとう
とりあえず続き書いてくわ
22:
黒縁メガネの先輩は、女子の方を見るなり、
「笹子さん!よかったよ?」と安堵したように言った
ちなみに、出てくる人の名前はニュアンス残しつつ全部変えることにする
ノリべさんも笹子さんも割りかしテキトー。
笹子「ノリべ先輩、何してるんですか?」
ノリべ「いや?、入部希望の一年生が来ちゃって、書類の場所がわかんなくてさ」
笹子「あ、この子ですか?」
そう言うと、笹子さんは俺の方を見て「こんにちは」と笑いかけてきた
23:
大学に来て、初めてのマトモな異性との会話だったので、当然キョドるw
「うっす……っすぅー……」とか言ってたわ
笹子「ノリべさん、もう3年なのに情けないっすよw」
ノリべ「笹子さんごめん、俺このあとバイトだから任せていいかな?」
笹子「わっかりました?」
そう言うと、ノリべさんは「よろしく!」とか言って部室から走り去っていった
この時は「なんだアイツ」とか思ってたけど、
まあ笹子さんもノリべさんも普通にいい人なんだけどなw
24:
笹子「じゃあ、入部書類とか書いてもらうから、こっちに座って」
そう促されて、俺は部室の一番奥の誕生日席に座った
その間、笹子さんは戸棚から手際よく書類一式を持ち出して、
机に並べてくれた
笹子「この入部書類に情報を書いてもらって、それが文部会で承認されれば部員証が発行されるからね」
そのような説明を、イチから丁寧にしてくれた。
入部書類に書き込んでいる途中、覗き込まれて名前を確認された。
笹子「1くんって言うんだね。法学部なんだ」
25:
俺「あ、はい……」
笹子「どうして漫研に来たの?」
俺「ええと……」
笹子「アニメとか、やっぱり好き?」
俺「………」
俺が質問に狼狽えていると、それに気づいたのか笹子さんが二の句を継いだ。
笹子「ああ、ごめんね。私は笹子。文学部の二年だよ」
俺「あ、よろしくお願いします……」
自己紹介をされたことで少しだけ緊張が解けて、
俺もやっとこさ、マトモに会話ができるようになった
26:
俺「書き終わりました。これでいいですか?」
笹子「ありがとう!」
入部書類を書き終えて手渡すと、
笹子さんは満足そうに「問題なさそうだね」と笑ってくれた
そしてすぐに、
「あ、そうだ」と、思い出したようにもう1枚別の紙を俺の前に差し出した。
「新入生一斉アンケート!」と書かれた調査票のようなものだった
27:
そこには
・好きなアニメは?
・好きな漫画は?
・好きなラノベは?
といったオタク垂涎の設問が列挙されており、
最後には、「あなたの嫁(旦那)を描いてね!」という文と共にスペースが設けられていた
なるほど、オタク嗜好調査というワケだ。
俺「これ、書いていいんですか?」
笹子「本当は来週のオリエンテーションで、新入生に一斉に書いてもらうものなんだけど、
1くんは今日せっかく来たから、書いていったらどうかなって」
俺「…なるほどです」
こんなアンケートを見せられて、オタクとしてドキドキしないワケがない。
俺は「書いていきます!」と高らかに宣言して、
もうスピードでペンを走らせたw
28:
自分の頭の中でオタクサミットを開催。
中学俺、高校俺、当時の俺が並んで、
「一番好きなアニメはなんだ…?」とか会議を始めたw
そして散々考え抜いた挙げ句、設問を一つ一つ埋めていく。
とりあえず、好きな漫画はヒカルの碁、
好きなアニメはとらドラ…という風に。
まあ正直曖昧ではあるけれど、
好きなアニメの欄に「とらドラ!」と書いたことは確かで、
最後の「嫁」の欄にも、頑張って大河のイラストを描いた。
29:
まあ先に書いてしまうけど、
俺はバリバリの漫画家志望者だったんだよね
だからこの時、アンケートに大河の絵を描いたのも、
自分の画力を「見せつけたい」という気持ちがあったし、
可愛い可愛い笹子さんに認められたい、という気持ちが強かったんだ。
当然自分の絵は褒められると思っていたし、
手に負えないプライドのようなものが自分の中にどっさりとあった
結果として、この時笹子さんの目の前で大河の絵を描いたのは良かったんだけど、
この「漫画家志望」っていうプライドのせいで、このあと散々揉めることになる
30:
出来上がったアンケートを笹子さんに渡すと、
俺の思ったとおりのリアクションが返ってきた
笹子「え、1くんめっちゃ絵上手だね!」
正直、「まあそう言われるだろうな」とか不遜な事を考えていたんだけど、
嬉しいものは嬉しいので、「ありがとうございます!」と返事をしておいた
31:
笹子「これはまた上手い子が入ってきたなぁ?。きっとみんな、驚くよ?」
俺「えー? そうっすか? まあ普通っすけどねw」
俺、平静を装いながらも心の中では死ぬほどガッツポーズをしていたw
絵に関しては誰にも負けたくなかったから、褒められてシンプルに嬉しかったんだけどね
笹子「っていうかさ、1くんとらドラ好きなんだね」
俺「あ、はい。アニメしか見てないんですけど、大好きです」
笹子「私もとらドラ大好きなんだよ! 趣味の合う人が入ってきてくれて、すごく嬉しいよ!」
そう言って、笹子さんは俺の目の前でにへら、と無邪気に笑ってみせた
32:
キターーーー!!!
って思ったね、正直。 いや、それは思うだろ?
大学入って早々、念願の漫研でとびきり可愛い子と知り合って、
なんと趣味嗜好まで共通だなんて、最高すぎるだろ?
正直漫研に夢を見ていた部分はあったんだけど、
こんなにも煌めいているとは思わなくて、なんだか状況を信じきれなかった
だから俺は聞いたんだよ、笹子さんに。
本当に、単純明快な疑問をさ
33:
俺「別に深い意味はないんすけど、いっこ聞いてもいいですか」
笹子「いいよ。なに?」
笹子さんは不思議そうに小首を傾げて、俺を見ていた。
俺「あのー…、笹子さんはなんで漫研にいるんですか?」
俺「失礼かもしれないですが、全然そんな感じじゃないっすよね」
笹子「あー、そういうこと…」
俺「いや、すいません。変な事言ってるのはわかります。でもぶっちゃけ意味が分かんないというか…」
後になって考えれば、相当に失礼な質問だったと思う。
でも、笹子さんと実際に相対してみれば誰だって不審に思うよ。
それくらい、信じられなかった。
34:
なんというか、よく分からないモヤモヤがあったんだよね
この人は本当にオタクなのか? 安心してすべてさらけ出していいのか?
っていう、まあ陰キャ特有の警戒心もあったり、でさ。
そしたらさ、笹子さん突然「あはははは!」って声出して笑ったんだよ
俺「どうしたんですか…?」
笹子「いや、ごめんごめん。なんだかおかしくてさ、改まってそんな風に言われると」
俺「す、すいません……」
笹子「いや、いいんだよ。じゃあ逆に訊くけどさ、どうして1くんは漫研に来てくれたの?」
35:
俺「はい…?」
笹子「1くんにもきっと、理由があるよね?」
理由とか、そんな事言われてもなぁ……と思った
けれど、そんなのは至ってシンプルなものだった
俺「まあ、漫画とかアニメが好きだから、ですよね」
笹子「でしょ? 私も漫画とかアニメが好きだから、大好きだから、ここにいるんだよ」
そう言われて、すぐには何も返事ができなかった
究極にシンプルで、分かりやすい理由。
でもそれは至極当然のことで、笹子さんが可愛いからって、
なにか特別な事情があるワケじゃないんだ。
36:
笹子「1くん、とらドラ好きだよね?」
俺「はい、大好きです」
笹子「私も同じように、大好き。みのりんなんて何回模写したか分からないし、電撃の原作も読んだ」
俺「ま、まじっすか」
笹子さんは楽しくなったのか、にこにこして部室内を見渡しながら話を続けた
笹子「アニメも漫画もゲームも、全部好きだよ。だから私はここが好きで、ここにいる」
俺「マジなんですね…」
笹子「あはは。君もマジだろ? 楽しいぞ、ここは?」
目の前で楽しそうに笑う笹子さんを見て、これまで自分が持っていた価値観が、
まるまる全部ぶっ壊されたような気がした
それほどまでに、笹子さんとの出会いは衝撃だった。
37:
正直、今はいい時代だよ
アニメや漫画が好きでも、二次元のキャラを愛していても、アイドルを追っかけていようとも、
それに対して、さほど好奇の眼差しを向けられることは減ったように思う
でも、この時は違った
「オタク」の認知は広まり出していたものの、
オタク文化はまだまだ勃興したばかり、世間のそれに対する目は冷ややかだった
俺はそれが原因で、高校時代はイジメに近い行為を受けていた
「女の子の絵を描いている」「漫画家を目指している」
それだけで「キモいオタク」のレッテルを貼られ、罵られていた
正直、めっちゃ辛い日々だったし、それからは自分の嗜好をひた隠しにして生きてきた
だから、「オタク」に対しての偏見を、自分が誰よりも持っていた
38:
でも、目の前にいる笹子さんは違った
好きなものは好きだとハッキリ言って、それになんの疑いも持っていない
きっと、笹子さんの中には「オタク」とか「非オタ」みたいな括りすらなくて、
ただただ自分の好きなものを愛する、という事だけがあるんだろう
だから俺は心に決めた。
この漫研に入って、俺の大学4年間を捧げる!と。
そして笹子さんとも仲良くなって付き合いたい!とw
39:
俺「俺、漫研での活動が楽しみになってきました」
笹子「あはは、それならよかった。来週のオリエンテーションで、もっともっと仲間も増えると思うよ」
同好の士。
それは、俺が高校時代ずっと追い求めていたけれど、結局見つからなかった夢の存在。
一緒に好きなものを語って、一緒に切磋琢磨して絵を描くような、最高の仲間。
もうすぐ、それが、見つかるかもしれない。
ああ、大学。ああ、漫画研究会。
なんて最高なところなんだ、と心から思った。
この時は。
40:
俺「絵が上手い人に会えると嬉しいです、僕は。絵描き仲間もずっといなかったんで」
笹子「そっかぁ。でも、1くんくらい上手い人ってなると、難しいかもね」
そう言われて悪い気はしなかったが、それは困るな、とも思った。
俺「でもほら、先輩とかにも達者な方はいますよね? 色々教わりたいです!」
笹子「そうだね、いるといいね」
俺「俺はまだまだ、もっともっと上手くなりたいんで!」
すると、笹子さんは幾分か色のなくなった声で訊いてきた。
笹子「1くんはさ…プロの作家でも目指してるの?」
41:
ほんほん(´・ω・`)
42:
来たな、と思った。
この手の質問を俺は待っていた
だから、大見栄を切って言い放った
俺「はい、漫画家になりたいです。本気で目指してます」
すると、おかしなことに…
さっきまでの熱意や煌めきを持った笹子さんの瞳が、曇った気がした
気のせいじゃない。
笹子「へえ、そうなんだ――」
そして会話が途切れた
俺はそのあまりに不自然な空気に、自分が言ったことを何度も反芻したが、
何がいけなかったのかサッパリ分からなかった。
43:
今日は一旦ここらで落ちますわ
また、今夜あたりゆるーく書きます
もし見てくれている人がいたら、ありがとう
まったり見守ってくれると助かる
44:
すまんちょっと再開するの遅くなりそう
見てくれてる人がいるか分からんがw
47:
>>44
別に焦らなくていいよw
びっぷらはまったり進行だからw
45:
0時前後には再開するわー
46:
のんびり書ききれば(´・ω・`)
48:
ありがとう
びっぷらはあったかくていいな
そいじゃまったり再開するわ
49:
俺は不安になって、笹子さんに訊ねてみた
俺「すいません。俺、なんか変な事言っちゃいましたか…?」
笹子「いや、そういうワケじゃないんだけど……」
そう話す笹子さんの表情は暗かった
明らかに何か裏がある。バカな俺にもすぐに分かった。
50:
俺なんかが漫画家になれないって思っているのだろうか?
でもきっと、笹子さんは他人の夢を笑ったりするような人ではない
じゃあどうして?
なぜ俺が夢を語っただけで、こうも悲しそうな顔をするんだろうか?
俺「俺は本当に漫画家になりたいんです。…変ですか?」
笹子「ううん、そんな事ないよ」
笹子「そんな事はない。けど……」
笹子さんがそう言いかけた時だった
部室の扉が勢いよく開いた
51:
そこには、明るい茶髪で毛先を遊ばせた、清潔感のある男が立っていた
この男もまた笹子さん同様、一見「オタク」には見えなかった
男「おーっす。笹子がこの時間にいるなんて珍しいじゃん」
笹子「あ、うん…。おはよ」
男はあくびをしながら椅子にどかっと座ると、俺を見るなり眉間に皺を寄せた。
男「って、は? お前だれ?」
俺「え、ええと……」
男「なんでその席に座ってんだ?」
俺「せ、席ですか?」
男「そこに誰が座っていいって言ったんだよ?」
なぜだか知らないが俺の事が気に入らないらしく、
喧嘩腰で突っかかってきた。
52:
そこへ、笹子さんが割って入ってきた
笹子「横森、ちがうんだよ!」
横森「ああ? なにが……」
笹子「彼をその席に誘導したのは私だから」
横森「お前が…なんだよ、じゃあいいわ」
すると、横森さんは「はあー」と大きくため息をついて俺の方を見た
横森「いきなり突っかかって悪かったよ、ごめんな」
俺「い、いえ……」
53:
横森「で、彼は誰なわけ?」
横森さんは俺を指差しながら、笹子さんに訊ねた
笹子「入部希望の一年生の、1くんだよ。今日は見学に来てくれた」
俺「よ、よろしくお願いします…」
横森さんは、俺の顔をじろじろ眺めたあとに、
「俺は二年の横森、よろしく」とだけ言った。
54:
横森「ってかなに、1くんアンケート書いてくれてんじゃん!」
俺「あ、はい……」
横森「どんな趣味してんの? 見せてくれよ!」
そう言って、笹子さんの前に置かれていたアンケート用紙を取り上げた。
横森「お、とらドラとか好きな感じ? 熱いよな?!分かってんじゃん」
横森さんは、「俺と趣味が合う」と分かった瞬間から急に明るくなった気がした。
横森「今だったらバカテスとかも熱いぞ! とらドラ好きならいけるって」
横森「え、ってかなに? この絵は1くんが描いたん?」
そう言って、俺が描いた大河の絵を指差していた
55:
すまんが今日はここまでが限界だ?
続きはまた今夜
見てくれてる人ありがとう、おやすみ
56:
期待
58:
察するに、大体2009年あたりだよな?
けいおん!とかバカテスとか、もはや懐かしいもんなぁ
当時は最先端だったのに
59:
まったり続き書いてくわ?
60:
俺「は、はい…。俺が描きました」
横森「マジで! めっちゃ上手いじゃん、1くん、絵描ける人なんだな?」
俺「…! ありがとうございます!」
最初、かなり突っかかってきた横森さんが、
俺の絵を見るなり褒めてきたので、やっぱり俺は嬉しかった
そして、内心こう思った
「やっぱり、どんなヤツでも俺の絵を見たら褒めてくれる。
俺の絵は上手いし、同年代なら敵なしだわ」と。
率直に言って、おごりの塊だった。
この漫研内で、天下が取れると思っていた
61:
横森「なあ笹子、随分と上手い一年が入ってきたな」
横森さんが笹子さんにそう言うと、
笹子さんは「うん」と頷くだけだった
横森さんは、そんな笹子さんを不審そうに一瞥したあと、
再び俺の方を見て、話を続けた。
横森「いやー、俺は絵とか全然描けないからさ、マジですげえと思うわ!」
俺「いやー全然w そんなことないっすよww」
褒められて、懲りずに調子に乗る俺。
そしてまた、不用意な質問をしてしまう。
62:
俺「え、でも、絵が描けないのにどうして漫研にいるんですか?」
こう横森さんに訊ねると、一瞬場が固まった気がした。
ひやりと、冷たい空気が一瞬流れたような、そんな感じ。
横森「あー……」
横森さんは、返答に困っているようだった
俺も決して悪気があったわけではないが。
この質問こそが、今後俺が漫研内で様々な「問題」を起こしていく萌芽であった…
分かる人には分かると思うけど、
「俺は絵を描けるんだぞ」という選民意識は、不幸しか生まないんだ
特に、色んな人が在籍している、大学漫研なんて場においては。
63:
横森「1くんはまだ来たばっかりだから、わかんねえか。
漫研って言っても、みんながみんな絵が描けるワケじゃない」
俺「え、そうなんすか? じゃあ何するんですか? 部室で駄弁るだけっすか?」
不遜な物言い。生意気な態度。
横森さんも、本当によくこらえてくれたわ。
横森「まあ?…それもある。
けど、たとえば俺なんかは渉外担当って言って、他大学のやりとりとか、
学祭の時に企業さんと連絡取ったりとかしてるよ」
俺「へえ……そうなんですね」
64:
ハッキリ言って、この時の俺は納得できなかった
「なんで絵を描けないくせに漫研にいるんだ?」と。
俺の中の漫研のイメージは、巧拙の差こそあれど、
みんな絵が描けて、毎日切磋琢磨していて、
中にはプロレベルに上手い人までいる…
そんな空間を想像していたし、期待していた。
もちろん、今はそんな事ないって理解してるよ
でもこの時の俺はそんな漫研を期待していたし、
「そうあるべきだ」と傲慢にも信じ切っていた。
65:
新入生あるある、ですねぇ
67:
>>65
毎年一年にはこういうヤツいるもんだけど、
特に俺は厄介なヤツだったと思うわ
66:
漫研て描く人の集まりなのか?
どっちかと言えば創作は評論とかが多い連中が行くのが漫研かと思ってた
67:
>>66
その通り
当然描かないヤツもいる
なんなら描かないヤツの方が多いね
68:
俺「でも、絵を描かないのに漫研にいてもつまらなそうですけどね」
横森「いやぁ、そんなこたないぜ。趣味の合う人と話したりするのは楽しいし、
何より俺たちみたいなやつらの居場所になるからな」
俺「まあ、そんなもんですかね」
横森「そんなもんだよ。1くんだって趣味の合う仲間を見つけにきたんだろ?」
正直言って、この時の俺が求めていたものは違った。
はっきりと、違った。
なので、すっぱり言い切ってしまった
俺「いや……違いますけど」
69:
俺「俺は、絵描き仲間が欲しいんです。それも、自分よりもずっと上手い人」
横森「へえ――…」
横森さんは、少々呆れ気味だった。
笹子さんはと言えば、何も言わずにずっと俯いたままだった
横森「1くんのその情熱はすごいと思うわ。でもなんでそんなにこだわってんだ?
プロにでもなんの?」
俺「はい、なります」
すると、横森さんの表情がにわかに険しくなった。
横森「はは、そりゃまた…イラストレーターにでも?」
俺「いえ? 漫画家ですよ、プロの」
70:
横森さんの表情が、みるみる翳っていくのが分かった
横森「漫画家? 冗談だろ? 企業イラストレーターならともかく」
俺「なんすか? 本気ですよ、本気で目指してます」
俺がそう言い返すと、横森さんは分かりやすく大きなため息をついた
横森「ま、まあ目指すのは自由だからいいけどさ。
でも、あんまり漫研内で大手を振って言わない方がいいよ」
俺は、この時の横森さんの態度が許せなかった。
まるでガキの戯言をあやすような言い方、
そして、お前に漫画家なんて無理だと言わんばかりの苦笑い。
バカにされていると思ったんだ。
71:
俺「なんすか? 俺には漫画家なんて無理って言いたいんですか?」
横森「いや、そういうワケじゃないけどさ。ここって別に芸大でもないし、
漫画家なんて実際さ……難しいだろ?」
俺「そんな事わかってますよ。でも、俺は思うんですよ」
横森「……なにが?」
言う直前、笹子さんと目が合った気がした。
俺「相応の努力をすれば、絶対になれるんです。
なれないヤツは…努力が足りないんすよ。甘いんです」
72:
そう言った瞬間だった。
横森さんに思い切り胸ぐらを掴まれた。
服が引き千切れるほどの勢いだった。
テーブル周りの椅子も、いくつか派手に転がった。
横森「おい」
俺「な、なんですか!?」
そしてすぐに、笹子さんが止めに来た。
笹子「ちょっと、横森! やめなよ!」
73:
横森「お前、今なんつった? なれないヤツは甘いって?」
俺「そうですよ……何かおかしいですか?」
横森「お前なんかに何がわかるんだ? 次同じ事言ったらタダじゃおかねえからな!」
そう吐き捨てると、横森さんは投げ捨てるように俺の胸ぐらから手を放した。
横森「気分わりーから、俺はもう帰る。おい、笹子、最後になったら鍵頼むぞ」
笹子「う、うん……」
そして、「ちっ」と舌打ちをして、横森さんは不機嫌そうに部室から去って行った
74:
おもろい
支援
75:
新入生でこれは中々だなw
77:
>>75
そうだねww
だから「痛すぎる」大学3年間なのよ
76:
部室に二人きりで残された笹子さんと俺は、しばらく黙っていた。
嵐のような一瞬が過ぎ去り、何を話すべきか分からなかった
笹子「なんかごめんね。横森が……」
俺「いえ、いいんです。いいんですけど、なんであんなに怒るんでしょうか?」
笹子「そうだね…ちょっとひどかったと思う」
俺「俺は、本当に漫画家になりたいから思ったことを言っただけです。
本当になろうとして頑張れば、絶対になれると思います」
笹子「うーーん…」
笹子さんは気まずそうにするだけで、特に何も言おうとはしない。
俺「え、俺変な事言いましたか? それなら謝りますけど、分からないんです」
78:
笹子「ううん、1くんの言ってることは…間違ってないよ」
俺「そう…ですよね」
横森さんが怒って去ってしまったことで、
なんだか俺も急に不安になり、笹子さんに「大丈夫」と言ってほしかった
すると、笹子さんは不意に立ち上がった。
笹子「しばらく誰も来ないだろうし、私は一度帰るよ。
悪いけど、鍵閉めないといけないから、1くんはどうする?」
俺「あ、そうっすね…どうしましょう…」
笹子「授業もないなら、駅まで一緒に行こうか?」
俺「は、はい!」
79:
部室棟の管理室に鍵を返し、正門を抜けて二人で駅を目指した。
大学に来て早々、可愛い異性と帰途を共にしていることは、
率直に言って俺を大きく舞い上がらせたw
高校の時なんて、ただの一度も女の子と一緒に帰った事はなかった
なので気安く歩いているように見せて、内心は緊張でガチガチだったw
大学近くの国道に差し掛かったところで、笹子さんは口を開いた。
笹子「あのさ、1くん」
俺「…はい?」
80:
笹子「横森のこと…悪く思わないであげてね。アイツにはアイツの考えがあるから」
俺「まあ、はい……俺も俺で、ちょっと調子乗ってたかもしれないですわ、そこは反省します」
笹子「そっか、ありがとう」
笹子さんはそう言うと、にこっと小さく笑みを浮かべた。
それがなんだか、すげえ可愛いと思った。
二人きりで帰ってるっていうシチュエーションもあったから、尚更だよな。
俺「でも、横森さんはどうしてあんなに怒ったんすかね? もしかして横森さんも漫画家を目指してたとか…?」
笹子「いや、それはないないw アイツの絵、本当にひどいんだからw」
81:
笹子さんは、「今度アイツの絵見せてあげるよ?w」なんて言いながら、楽しそうに笑っていた
俺は心の中で、
「今後漫研の中でどんな事があっても、この人だけには嫌われたくないな」
と、強く思った。
恋だったかもしれないし、憧れだったかもしれないし、今でもよくわからん
とにかく、笹子さんにだけは悪く思われたくなかった。
82:
俺「ぶっちゃけ、漫研内に絵を描く人ってどれくらいいるんですか…?」
俺は恐る恐る、笹子さんに訊ねた。
もう変に期待をせず、先に事実を知っておくことで、
ある種の「見切り」をつけようと思ったんだ。
笹子「そうだねえ…正直、半分いればいい方かも。
それに、みんながみんな、1くんみたいに”本気”で描いてるわけじゃないから…」
俺は小さな失望とともに、実際はそんなもんか…とも思えた。
横森さんにガチギレされたのも効いていて、ちょっと冷静にもなっていた。
83:
俺「まあ、そうですよね…」
大学の漫研ライフを楽しみにしていた俺には、その現実は辛かった。
理想と現実のギャップ。
若さゆえに、周りの環境、周りの人間に、自分の思う理想を押し付けていたんだ。
俺のテンションが落ちたのを察したのか、笹子さんは続けた。
笹子「でも、上手い人もたくさんいるしさ。きっと1くんも楽しめるよ」
笹子さんはシンプルに、こんな俺にも部活を楽しんでほしいと思ってくれているようだった。
突然現れた生意気な一年にも嫌な顔一つせず気を遣ってくれるのは、
本当に笹子さんが優しかったんだ。
84:
俺「そういえば…
笹子「ん、なに?」
俺「笹子さんは絵を描くんですか?」
すると、笹子さんはちらりと俺を一瞥し、にやりといたずらに笑った。
笹子「描くよ、そりゃあ。私は、お絵描き大好きだからね」
俺「マジっすか!!」
俺、ここに来て俄然テンション爆上がり。
笹子さんが絵を描いているという事実が、何よりも嬉しかった。
ほかの漫研内の”雑魚ども”と絵の話ができなくても、
笹子さんとさえ絵の話ができるなら、これ以上の事はない!
と、本気でそんな不遜な事を思った。
85:
俺「どんな絵描くんですか? 見たいです!」
笹子「いいよぉ。見せられる絵あったかなぁ…」
そう言うと、笹子さんは嬉しそうに携帯をいじり始めた。
一体、どんな絵を見せてくれるのか…。
笹子「2次創作でもいいよね?」
俺「も、もちろん…!」
笹子「わかった。ほら」
そう言って差し出されたのは…
86:
俺「は…? なんすか、これ……」
笹子「え? 私が描いた絵だよ。なんか恥ずかしいなぁw」
俺「マジっすか…」
めちゃくちゃに上手かった。
上手すぎて、ひいた。
プロが描いたとしか思えない、完璧なカラーイラストだった。
俺「これは、あれですね、CLANNADの…」
笹子「さすが、分かるんだ! そうだよ、CLANNADの渚ちゃんだよ。
すごく好きで、何度も見直したからねw」
俺「そ、そうですか…」
87:
俺「笹子さん、めちゃくちゃ上手いですね……」
笹子「いやいや、全然そんな事ないって。好きで描いてるだけだし」
俺「いやぁ……」
いたわ。すっげえ上手い人。
しかも、こんな近くに。
やっぱり大学の漫研はすげえ…!
そんな気持ちが、すぐに俺の心を埋め尽くした。
俺「これはデジタルで描いたんす…?」
笹子「そうだよ、難しい事は分からないから、saiでぱぱっとね」
俺「やっぱりsaiなんですね…便利ですもんね…」
笹子「そうそう、すっごく使いやすいよねw」
88:
ちなみにsaiってのはデジタルお絵描きツールね。
今でも現役のツールだけど、当時は隆盛を極めてた。
まだクリスタもなかった頃だからね。
俺「こんなに上手かったら、pixivのランキングとかも…?」
笹子「そうだね、たまーにデイリーとか入ったりもするかな?」
俺「うおお…すげえ…!!」
分かる人には分かると思うんだけど、
当時の絵描きたちからすると、「pixivで伸びること」はとても重要なファクターで、
さらにランキングに載るっていうのは、本当になかなかできることじゃなかった。
俺の中にも、「いつかpixivのランキングに載る」っていうのは
現実的な目標としてあったので、興奮が止まらなかった。
89:
俺「いやいや、こんなに上手くてpixivのランキングにも載るとか…
もうプロレベルじゃないですか! マジですごいですよ!」
笹子「そんな事ないってばw あんまりおだてないでよ?」
俺は不思議でならなかった。
こんなに上手い人が、どうしてこんな普通の大学にいるのか。
俺「笹子さんは、やっぱりプロになるんですか? 絵の職業に就くんですよね?」
俺は当然そうするんだろうな、と思って訊ねた。
しかし、返ってきた答えは期待したものとは違った。
笹子「まさかぁ。趣味で描いてるだけだから、なれるワケないし、ならないよw」
俺「え…? そんなのもったないですよ…」
90:
笹子「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私には絶対無理だから…」
俺「そうですかね…」
そんな事を言っているうちに駅に到着し、会話は途切れてしまった。
笹子「1くん、横森のこともあったけどさ…来週のオリエンテーションには絶対に来なよ。
定例会にしか来ない上手い人もたくさんいるからさ」
俺「は、はい! 絶対に行きます…!」
そう答えると、笹子さんは笑って手を振り、改札の中へと消えていった。
オリエンテーション、絶対行くぞ。
そこにはきっと、上手い人がたくさんいるんだ。
それになにより。
笹子さんとの出会い。これは本当に運命に違いないと思った。
91:
その後、一人で気持ちの盛り上がった俺は、、
「よっしゃああああああ!!!」
と叫びながら、駅のタクシープールを全力疾走で突っ切ったww
そして思いっ切りジャンプして、「やってやるよ!」とか叫んでた。
この世界の主人公は間違いなく自分だと思い込んでいて、
とんでもないほどの全能感が俺を包んでいた。
なんにでもなれると思っていたし、なんだってできると思っていた。
ああ、懐かしき、痛すぎる日々……。
92:
その後、約一週間後のオリエンテーションまでに何度か部室にも行ったが、
笹子さんや横森さんと出くわすこともなく、特に話の合う人にも出会わなかった
俺は笹子さんの言葉を信じ、オリエンテーションでの新たな出会いを期待していた。
そして何より、また笹子さんと色々話せることを楽しみにしていた。
初日から色々あったものの、
俺は漫研でのこれからが楽しみだったし、
オリエンテーションの日が待ち遠しかった。
93:
そして、待ちに待ったオリエンテーションの日。
俺は、会場である広々とした講義室の端で、一人待機していた。
まだ知り合いなんて笹子さんしかいなかったし、当然一人だった。
恐らく同じように新入生であろう人たちがたくさん来ており、
皆それぞれ楽しそうに話に花を咲かせていた。
俺はといえば、この日のために、
「右手の指すべてに絆創膏を巻く」という演出をし、
毎日絵を描きすぎて、ペンダコがヤバいガチ勢であることを周りに見せつけていた。
当然そこまで自分を追い込んでいるワケはないし、
ペンダコなんてできたことすらない。
ただ、自分は特別な存在なんだと、周りにアピールしたかった。
痛いヤツを通り越して、ヤバいヤツだった。
94:
といったところで、今日はこのへんで落ちます
また今夜あたりに書きます、ではでは
95:
びっぷらにいまだにこんな良スレ立つんやね
めちゃくちゃ面白くて読み耽ったわ
イッチが若い頃の俺にそっくりで、胸が傷んだよ…そういう時は誰にでもあるよ、きっと…
96:
いやぁ面白い自分が主人公かと思いこんじゃう現象はあるあるだな大抵中学生の時になるもんだがw
99:
これは良スレ
103:
俺は教室の隅から周りを観察した。
楽しそうに話す女子たち、遊戯王の対戦に励むやつ、
漫画本を読むやつ、それぞれがそれぞれの時間を過ごしている。
先輩たちは講義室の前方にいるようで、配布物の整理なんかをしているようだった。
ざっと見ただけで、全員で50?60人はいるように見えた。
笹子さんや横森さんがいるかはよく分からなかった。
特に知り合いも話す相手もいないので、
オリエンテーションが始まるまでは、普通にぼっち時間を過ごすことになった。
104:
心のどこかで、ワンチャン誰かが話しかけてこないか…?
なんて淡い期待を抱いていたが…
これ見よがしに利き手の全指に絆創膏を巻き、
眉間に皺を寄せて周囲を威嚇しているような奴に人は寄ってこない。
…まあ、相応の報いである。
105:
しばらくすると、前方の壇上に坊主頭の男が現れて、マイク越しに話し始めた。
部長で3年の、オショウさんだった。
オショウ「みなさん、今日は来てくれてありがとうございます」
オショウさんは軽く挨拶をしたあと、
これから全部員の自己紹介アンケートをまとめて、一冊のコピー誌を作る事を発表した。
106:
この前、部室で書いたあのアンケートが一冊の本になり、
全部員に配られるんだそうだ。
新入生だけでなく、先輩たちもあのアンケートは書いていたらしい。
これは願ってもない展開だった。
俺の”画力”を部員全員に知らしめるチャンスだと思ったからだ。
その後、まだアンケートを記入していない人たちが15分ほどでアンケートを仕上げ、
全員分の自己紹介アンケートが回収された。
107:
そして、一年の何人かがオショウさんに呼ばれた。
別室でのコピーと簡単な製本作業を、一年生がするらしい。
俺は、穂高という一年の男子と二人で、コピーを取る係を任命された。
穂高はとても無邪気で明るいヤツだった。
みんなの書いたアンケートをじっと見つめては、
「すげえな! みんなめっちゃ上手いよ!」と楽しそうに笑いながら作業をしていた。
108:
穂高「1くんはなんで漫研に?」
俺「絵の上手い人に会いたくて」
穂高「へえー。1くんは絵を描くの?」
俺「描くよ。穂高くんは?」
穂高「まあ、ちょっとくらいなら…上手くはないけどねw」
こんな感じで、コピー作業をしながら淡々と会話を続けた。
ちなみに穂高は、こんな俺と唯一最後まで友達でいてくれた聖人だ。
シンプルに、毒気のない良い奴だった。
109:
すまん少しでも書こうと思ったが、
今日はこれが限界だ。
続きはまた今夜。すまねえ…
110:

楽しみにしてます
111:
これまだ3年のうちの数週間だよね
112:
大学なのに3年間というのがしくじり感あるわ
113:
たしかに今更だが4年じゃないのか
116:
今4年なんじゃ?
117:
10年前の話だから今4年生というのはないだろう
中退かサークルやめたか
118:
よっしゃ再開するわ!
>>117
まあそうだね、最終的には病んで大学やめたわ
追々言及するけどw
119:
なぜだか打ち解けた俺と穂高は、
コピー作業が終わって講義室に戻ったあと、隣に座った。
穂高「コピー誌って、これから毎回一年が作るんだってさ。大変だよなぁ」
俺「そうなんだ、めんどいなぁ」
穂高「今日の自己紹介のコピー誌、めちゃくちゃ楽しみだよ。みんな上手いし」
俺「そんなに上手い人いたかぁ?」
穂高「みんな俺よりうめーんだよww」
なぜだか穂高とはすぐに仲良くなることができた…と思う。
120:
穂高「これから月イチでこういう定例会があるんだってさ。1くんは漫研に入部確定?」
俺「うーん、今日のコピー誌次第」
穂高「どういうこと?」
俺「コピー誌を見て、上手い人がいるかどうか見極める、この目で」
穂高「なんだそれww偉そうだなww」
穂高は俺の言ってる事をギャグか何かだと思っているようだった
俺は至って、大真面目だったんだけどね。
121:
穂高「1くんは、昔から絵を描いてんの?」
俺「まあ、そうだね。ずっと描いてる。漫画家になりたいからさ」
穂高「まじかよ! かっけえな?」
俺「まあ、普通だよw」
とまあ、穂高は基本的に否定をしないので俺は気持ちよくなっていた。
きっと、相性が良かったんだろうな
俺なんかとまともにやり取りできる、穂高のコミュ力が異常なだけかもしれないが。
122:
穂高と話しているうちに、コピー誌の製本が終わったようで、
何人かの一年が完成したコピー誌を配り始めた。
同時に、オショウさんが壇上で
「コピー誌が完成したんで配りますー!今月のテーマは毎年恒例の自己紹介です!」
とマイク越しにしゃべっていた。
俺はコピー誌を受け取った瞬間、目をさらにして中を確認した。
上手い人は、上手い人はいないか?
しかし、その中身は期待したものとはかけ離れていた。
123:
当時の俺が抱いた感想をありのまま書くと、
「全員、ゴミ…!!」
俺は本気でそんな事を思っていた。
そもそも、常に自分が一番だと思い込んでいた不遜な人間なんだが、
それでもあまりにもお粗末な内容だった。
笹子さんが突出して上手いのは当然として、
それ以外に”見れる”絵を描いているのは部長のオショウさんと数人だけだった。
ほかの連中は、コメントにすら値しない。
何様?という感じだが、率直にそう思ってしまった。
124:
若いときの全能感は異常
あれはあれで凄いことだよな
それよりも穂高がイイヤツ
125:
隣の日高は楽しそうに「みんなおもしれえな!」とか言いながら見ていたが、
俺は席で頭を抱えた。
ひどい。ひどすぎる、と。
夢にまで見た大学の漫研に来て、この程度か?
素人の集まりもいいところだ。
漫画研究会って言うくらいだから、少しは絵心のある人間がいるんじゃないのか?
俺の(身勝手な)希望は、見事なまでに打ち砕かれた。
126:
俺は頭の中でぐるぐると考えた。
もうこんな部活、時間の無駄だし辞めよう。
でもそしたら俺の大学内での居場所は?
それに、笹子さんにだけは会いたいし、関係を持っていたい…
穂高「なんだ? 満足のいく内容じゃなかった?」
俺「まあ……ね」
穂高「それなら部長に頼んで、昔のコピー誌を見せてもらったら?」
俺「そんなものあるのかな…」
穂高「バックナンバーがあるって聞いたよ。見せてもらえば?」
127:
それだ…!と思った。
ナイス穂高、さすが穂高、さすほだ。
もしかしたら、上手い人が今日偶然休みかもしれないし、
「上手い人ほど休みがち」というのは、結構ありそうだ。
一匹狼みたいな人多そうだし。
俺は一縷の望みを持って、壇上のオショウさんのもとへ向かった
128:
途中で、前方の席に座っていた笹子さんと目が合った。
俺を見つけるなり、にこりと微笑みかけてくれた。
笹子さん、今日来てるのか!
他の事なんてどうでもよくなるくらい、テンションが上がった。
笹子さんが来てるなら、この後あるらしい打ち上げに参加するのも良いかもしれない。
オリエンテーションが終わったら、即帰宅しようと思っていたが。
予定変更だな、なんて偉そうに思ったw
129:
俺「すみません、部長さん」
オショウ「お? どうしたの…?」
突然知らない一年坊が話しかけてきて、オショウさんは驚いたようだった。
俺「俺、一年の1です。コピー誌のバックナンバーってあるんですか?」
オショウ「ああ、昔のコピー誌ね。あるよ、見たいの?」
俺「はい、見たいです」
そうするとオショウさんは、「今どのくらいあるだろ…」と
近くの机に置いてあったファイルを漁り始めた。
130:
オショウ「よかった! 2冊だけだけどあったよ」
そう言って、すこしよれたコピー誌を俺に手渡した。
オショウ「ちょうど去年の自己紹介のやつと、去年の夏のやつだね」
俺「おお…。見てもいいっすか…?」
オショウ「どうぞどうぞw」
今度は、大した期待もせずに眺めてみた。
どうせ、ダメなはず…すると。
131:
一人。ただ一人、異彩を放つ存在がいた。
自己紹介に加えて、4Pの漫画を描いている。
名前には、「3年 カリヤ」とだけ書かれていた
その漫画が、どう見ても商業連載をそのまま引っ張ってきたかのような、
そんなクオリティにしか見えなかった
俺は、額にいや?な脂汗が滲んでくるのを感じながら、
すぐにもう一方のバックナンバーも開いてみた
132:
そしてまた、すぐにガツンと目に入る、”カリヤ”の漫画。
今度は16Pくらいのラブコメ漫画であった。
まず、月イチの単なるコピー誌に16Pの漫画を載せるのが異常だ。
今のTwitterだったらきっと数万RTされるような、
それほどに歯切れがよく、キャラが可愛く、秀逸なラブコメ漫画であった。
そのへんで連載していても、何もおかしくない。
133:
嘘だろ?
俺は目を疑った。
笹子さんでさえ、雲上人の上手さだと思ったのに。
いるじゃん、笹子さんよりも、とんでもない化け物。
三年の、カリヤ…
この時三年なら、今の四年生なのでは?
しかし、今日配られたコピー誌には、その名前がなかった。
俺は思い切ってオショウさんに訊ねる。
134:
俺「あの…この”カリヤ”って人は…?」
オショウ「ああ、雁屋ね。すごく上手いでしょ?」
俺「はい、上手いっす…。今日は来てないんですか?」
オショウ「雁屋は…もういないんだよ」
俺「え、いない? 辞めちゃったんですか?」
オショウ「まあ……そんなとこだねぇ」
俺「どうしてですか?」
俺がそう訊ねると、
オショウさんはなんだか悲しそうに「色々あったみたい」とだけ言った。
135:
カリヤさん…(´;ω;`)
136:
俺は合点がいった気がした。
なるほど、上手い人はこの漫研の現状に失望して、辞めていくんだ。
だから、部長たるオショウさんは不満そうなんだ。
きっとそうなんだ、と決めつけていた。
勝手に、なんの事情も知らずにね。
やっぱりこの漫研はクソだな、と一人で思った。
137:
そして、俺はまたやってしまう。
最低な痛い奴なので、やってしまう。
俺「わかりますよ、上手い人は辞めてくんすね?」
そう言った時だった、一瞬だけ、オショウさんが俺を睨んだ気がした。
ずっと温和な雰囲気をまとっていたオショウさんの様子が急変したので、俺はビビった。
そして思わず、「いや…なんでもないす」と前言撤回。
雑魚中の雑魚だった。
138:
オショウ「いや、別にいいよ、気にしないで」
オショウ「君、あれだろ? かなり上手いっていう一年生の。なんとなく噂を聞いたよ」
俺「ああ、まあ、そうなんすかね…?」
笹子さんなのか、横森さんなのか、はたまた他の人間なのか
俺の事をすでに噂している人間がいたらしい。
まあ、良くも悪くもすでに目立ちすぎていた。
とはいえ、”かなり上手い一年”と評されるのは、
当時の俺にとっては、かなり心地のいいものだった。
139:
オショウ「せっかくだから、漫研に入ってくれると嬉しいよ」
俺「まあ、そうっすね…」
オショウ「今日、この後の打ち上げは来るの? まあ、自由参加だけどね」
俺「行けたら行きます」
なんだか、上手いことかわされてしまった。
正直、部長のオショウさんにとって、俺なんか取るに足らない存在だったんだろう。
天狗の不遜野郎な当時の俺には、そんな事分からなかったが。
140:
壇上から席に戻る時、「ねえ」と呼び止められた。
振り返ると、そこにはいたずらな笑みを浮かべた笹子さん。
話しかけられて、めちゃくちゃ嬉しかった。
笹子「1くん、オショウと何話してたの?」
俺「いや、まあ…大した事じゃないです」
笹子「そっかぁ。1くんはこの後の打ち上げ、来る?」
俺「そ、そうですね…行こうかと…」
141:
笹子「マジ?来るんだ! それじゃ打ち上げでたくさん話そうな?!」
笹子さんは手を振って「またあとでね」と嬉しそうに笑ってくれた。
やっぱり、笹子さんは可愛い。
可愛いうえに、ガチで絵が上手い。
絵が上手いうえに、ガチで可愛い。
この漫研には、本気で笹子さんのためだけに残留しよう、と思った。
142:
その後、席に戻って穂高に遊戯王への熱を語られたり、
最近のアニメやら東方の話なんかをした。
そしてオショウさんから今後の活動の説明があって、オリエンテーションは終わった。
今後は、基本月イチで部会があって、
そこで毎月のお題に沿ったコピー誌を一冊作り、
あとは部員同士で駄弁って、打ち上げをして…というのが毎月行われるらしい。
143:
当時の俺は、この腑抜けたムードと、ゆるい感じが不満だったが…
きわめて一般的な漫研だったと思う。
なんならよくやってる部類で、理想の漫研とも言えたかもしれない。
そんな事、当時の俺には絶対分からないだろうが。
楽しい仲間がいて、ちゃんと活動もしているっていうのは、
本当に尊いことだった…。
そしてその後、大学近くの居酒屋へと場所を移し、
「打ち上げ」という名の親睦会が始まった。
144:
30?40人が座れる大広間を貸し切り、割と大規模な打ち上げがスタート。
初回の親睦会という事もあって、多くの部員が参加しているようだった。
俺は笹子さんを目で追ったが、どうにも遠くの席になってしまったらしい。
席替えでもない限りは、しばらく話せそうになかった。
目の前には、初対面の一年生の女子である戸倉と、
不運にもその隣には横森さんの姿があった。
さすがに気まずく、席についてからしばらくは何も言えなかった。
その間、横森さんは他の人と楽しげに話していた。
145:
そして、オショウさんが乾杯の挨拶をして本格的にスタート。
さっそく、戸倉が俺に話しかけてきた。
戸倉「きみ、名前なんて言うん?」
俺「1、です……」
戸倉「へえ。ねえねえ、どんな作品が好きなん?」
俺「アニメも、漫画も好きだけど…」
戸倉は関西出身で勢いがあり、割と姫気質なところがあった。
ゆえに、俺はめちゃくちゃ苦手だった。
146:
そしてなぜか、その様子を横森さんがニヤニヤしながら見ていた。
横森「1は、とらドラが好きなんだろ? なあ」
俺「え? ああ、はい……」
戸倉「え、そうなんや! あれ面白かったよね?」
横森「戸倉さんは何が好きなの?」
戸倉「ウチはポケモンとかかなりガチです?。あとはハルヒとかヘタリアとか!」
横森「へえ…っぽいわ?!」
戸倉「なんですかそれぇw」
横森さんはこの前の事なんてなかったかのように、自然と会話に混ざってきた。
そしてそのコミュ力を余すところなく発揮した。
147:
戸倉「横森さんは、なにが好きなんですか?」
横森「俺は小説も漫画もアニメも、なんでも来いよ。あと、スポーツも好き」
戸倉「え、スポーツとかするんですか?」
横森「俺、フットサルサークルと掛け持ってるからね」
戸倉「えぇ?すごーい!」
クソどうでもいい会話が、目の前で展開されていく。
横森さんは、フットサルサークルと漫研を兼部するという、リア充かぶれだった。
148:
ってかなんだこれ。漫研の親睦会なのに、
目の前の二人がただのリア充過ぎる。
まあ正直、戸倉がいたから直接横森さんと話さずに済んでよかった。
これなら、揉める事はなさそうだな…と安心した。
…この時までは。
戸倉が”とある話題”を出したせいで、状況は一変する。
149:
戸倉「ウチ、けっこう絵も描くんですよ。横森さんは?」
横森「いや、俺は全然ダメ! まったく画才がないのよ」
嫌な予感がした。
絵が描けるアピールは死ぬほどしたかったが…
流石の俺も、先日キレられた横森さんの前でアピールするのは憚られた。
しかし…
戸倉「1くんは、描く人なん?」
俺「ま、まあ…絵は描くよ」
150:
戸倉「え?マジ? じゃあウチの絵見てよ、ほらぁ」
そう言って戸倉は、俺の前に携帯を差し出して自らの絵を披露した。
戸倉「どう? めっちゃ上手いやろ?」
俺「うーーん…」
戸倉「絶対に1くんより上手いでw」
今思えば。
軽いノリだったんだろう。飲み会の場で、ちょっとふざけたんだろう。
でも、当時の俺はバカだったから…
それが、断じて許せなかった。
151:
俺「下手だよ」
戸倉「え?」
俺「クソ下手だっつってんの」
俺は、同級生の女の子に向かって、そんな事を言っていたんだ。
俺「俺の絵見たことあんのかよ」
戸倉「な、ないけど…」
俺「こんな絵ゴミだわ。比べ物にもなんねえよ」
戸倉「えーーと…」
そして、戸倉は何も言わず涙目になった。
152:
すぐさま、隣の横森さんが立ち上がって俺を睨みつけた。
横森「おい、1! お前何言ってんだ? ああ!?」
ものすごい形相で怒鳴りつけられた。
そして、周囲の視線が一気に俺と横森さんに集まる。
俺「は? 思った事を言っただけですが? 下手なもんは下手ですし」
横森「謝れよお前! 言っていい事と悪い事がある!」
俺「なんでですか? そもそも先に吹っかけてきたのはそっちです」
言い終わった時だった。横森さんが俺の胸ぐらに掴みかかった。
153:
と言った感じで、今日は一旦このへんで落ちますわ
もし何か質問とかあったらお気軽に?
ダラダラ書いてて申し訳ない、気長に付き合ってくれると助かるよ
154:
引きで終わるとはw
お疲れさま
面白かった、今日も
無理しない程度に、でも読みたいから頑張っても欲しいというワガママw
155:
>>154
すまんもう限界なんだ…
また明日頑張るよ!
付き合ってくれてありがとう
158:
1はまだ絵かいてるの?
162:
>>158
おうおう描いてるぜー
なんならこの頃より楽しく描けてるw
159:
共感性羞恥やばい、
162:
>>159
ああ、それはごめんな…
共感性羞恥注意!とか書いとけばよかったw
160:
イッチお疲れ
夢中で読んだよ、漫研ってなんか憧れる
こんな人間模様すらもなんか良いな
163:
>>160
漫研って今思えば最高の環境なんだよな
今なら戻りたいとすら思う
まあ人間、いつだってないものねだりだよ
161:
絵が見たい
163:
>>161
絵ねー
じゃあこのスレが完結したらアップするよ
すまんけど、そこまでは待ってくれると助かる
大してというか、全然上手くないけどな!
164:
ちょっと忙しくて今日は書けなかった…
ごめん…続きはまた明日来ます!
166:
実際熱血物の漫画ってこういうキャラいるよね
167:
漫研に行くと戸倉みたいな女オタクは死ぬほどいる
程度の差はあれどこういうのがオタサーの姫になるんだよなぁ
169:
こんな時間になってごめん…
ちょっとだけど書いてく
170:
横森「テメエよ、ほんとに何様だ…あ?」
俺「それはこっちのセリフですよ。絵すら描かないクセにそっちこそ何様すか?」
横森「うるせえ黙ってろ!」
そして思いきり顔面をどつかれ、
後ろの障子のような敷居に思い切りぶつかった。
ハッキリ言って、相当に痛かった。
でも、それで俺も益々頭に来てしまった。
171:
俺「横森てめえ! 何殴ってんだ!」
そして俺も横森さんの長ったるい髪の毛を思い切り掴んだ。
横森「クソガキが、テメエ何してくれてんだ、ああ!?」
そのまま揉み合いになり、大喧嘩に発展。
周りにいた数名の男子が止めに入るも、
俺と横森さんはお互い掴み合ったまま、決して放そうとしなかった。
172:
夜更かししてたら遭遇したw
ラッキーなのかどうなのか、ごっつ眠いし
174:
>>172
超ありがとう
嬉しいけど、無理なさらず
173:
横森「おいガキ! てめえ戸倉さんに謝れよ!謝るまで絶対に許さねえからな!」
俺「うるせえよ!俺は何も間違ってねえ! 指図すんなクソが!」
まったく収拾のつかなくなったところへ、オショウさんが登場。
オショウ「おい、一体なんの騒ぎなんだよ?」
すると、横森さんはおとなしくなり、「いや、すいません…」と一礼した。
175:
オショウ「横森と…1くんじゃねえか。なに、どうしたわけ?」
オショウさんは、俺と横森さんの二人を怪訝な眼差しで見つめた。
横森「いや、ちょっとコイツが、戸倉さんににひどい事言ったんで…」
すかざす俺も、「いや、この人にいきなり殴られたんすよ、俺」
と反論した。
すると横森さんはまたヒートアップして、
「うるせえ! お前は黙ってろ!」と怒鳴った
176:
オショウ「横森。どんな事情があるにしろ、殴るのは論外だ」
オショウ「そこはお前も反省しろ、バカ野郎」
横森「……すいません」
オショウさんは横森さんにそう言うと、今度は俺の方を見た。
オショウ「1くん、戸倉さんに何て言ったの?」
気づけば、目の前の戸倉は隣の女子に抱かれながら号泣していた。
それはそれはひどい有様で、もはや嗚咽状態であった。
177:
俺「何も、大した事は言ってないですよ」
すると、オショウさんは悲しそうな目で戸倉さんを一瞥した。
オショウ「俺は、1くんに正直に言ってもらいたいだけなんだ」
目の前では戸倉が大泣きし、オショウさんはじっと俺を見つめるばかりだった。
俺「その…戸倉さんの絵を、ゴミだと」
オショウ「言ったの?」
俺「…はい」
179:
オショウさんは分かりやすく大きなため息をつくと、
「わかった、もういいよ」とだけつぶやいた。
オショウ「横森、戸倉さんのことお願いね」
横森「…は、はい」
オショウさんは、戸倉の隣にいた女子にも「ありがとね」とだけ言うと、
俺に向かって手招きし、「来な」とトーンの低い声で言った。
俺は促されるままオショウさんの後に付いて行き、
そのまま宴会場から離脱する事になった。
180:
オショウさんと二人で、
居酒屋入り口あたりの灰皿が置いてあるスペースの椅子に腰掛けた。
周りに漫研部員らの姿はなく、バカな俺でも
「二人きりで話すぞ」というオショウさんの意図が汲み取れた。
オショウさんは気だるげにタバコを吸いながら、話しかけてきた。
オショウ「1くんってさあ」
俺「…は、はい」
181:
オショウ「なんでそんなにイライラしてんの?」
俺「イライラ…ですか?」
オショウ「自覚ないの? ずっとイライラしてるように見えるよ、傍からはね」
俺「そう…ですか。それはなんか…すいません」
オショウさんは少しだけ笑うと、ふっと煙を吐いた。
オショウ「別にいいんだけどさ、なんでそんな焦ってんだ?」
182:
俺「焦ってるつもりはないんです…俺はただ」
オショウ「…漫画家になりたいんだろ?」
なぜかオショウさんは、俺が漫画家志望だと知っていた。
俺「はい」
オショウ「本気なんだろ?」
俺「…本気です」
183:
オショウ「夢を追うのは自由だし、俺は漫画家を目指すって言い切ってる1くんを尊敬する」
俺「どうも…」
オショウ「でもさ」
急に、オショウさんの顔つきが険しくなった。
オショウ「巻き込むなよな、周りを」
184:
オショウ「ここは大学の部活で、色んな価値観を持った人間が集まるんだ」
オショウ「多様性は認めるし、各々が自由に活動するのは大歓迎」
オショウ「でも、1くんの理想に周りが合わせる義理も意味もないんだ」
オショウさんは、吸っていたタバコを潰すと、俺の背中を叩いた。
オショウ「分かるだろ」
185:
オショウさんの言葉に対して、反論の余地なんて一切なかった。
何も言い返せるはずなかった。
でも、俺は……
俺「何が言いたいんすか?」
オショウ「だからな、1くんは周りをもっと見て…」
俺「いや、ひどいことを言ったのは事実ですし、それは後で戸倉さんにも謝りますよ」
俺「でも…絵を描いていない連中が偉そうにしてるのは、漫研としてどうなんすか?」
俺は、漫研部長を詰問する絶好のチャンスだと思い込み、
まったく反省などせず、身勝手な質問をぶつけていた。
186:
オショウ「…あのなぁ、1くん。だからそういう考えが良くないんだ」
俺「でも、漫研にいるんだから、絵を描いたり創作活動する素振りくらいは見せるべきでしょう」
俺「部長は、まったく絵を描かない部員をどう思うんですか?」
すると、オショウさんはまた大きなため息を一つついた。
オショウ「…じゃあ、ただ漫画やアニメが好きで漫研にいる子たちは悪いっていうのか?」
俺「そういうワケじゃないですが…絵を描く努力くらいはしてもいいんじゃないですか?」
187:
オショウ「俺はそう思わない。それだけだ」
俺「…だとしたら、この部はクソですよ」
オショウ「クソでいいよ。クソでもみんなが楽しければいい」
俺もオショウさんも、お互いにまったく譲らなかった。
オショウさんの言っていることが全面的に正しいが、俺は自分が正しいと信じて疑わなかった。
俺「そんなんだから…本当に上手い人が辞めるんじゃないですか?」
オショウ「…なんのこと?」
188:
俺「カリヤですよ、カリヤ。さっきのコピー誌にいた超上手い人です」
俺「この漫研に愛想尽かして、今はプロにでもなってるんじゃないですか?」
すると、ぴたりとオショウさんの動きが止まって…
「そうだと、いいけどな」とだけ言い残し、立ち上がった。
オショウ「1くん、もういいよ。俺も熱くなりすぎた。飲み会に戻ろう」
俺「はい? 俺はまだ…」
オショウ「いいから」
189:
オショウ「言っておくけど、俺は1くんに辞めてほしいわけじゃない」
オショウ「これから先、みんなと仲良くやってほしいだけだから」
オショウ「それだけは忘れないでくれよ」
オショウさんはそう言い残して、宴会場に消えていった。
結局、色々といなされて終わった気がした。
俺があまりに未熟すぎて、会話にすらならないと思ったのだろう。
加えて、雁屋さんの件に土足で足を踏み入れたのも、良くなかった。
190:
宴会場に戻ると、戸倉はすっかり復活しており、
横森さんを含めた周囲の人間と、それはそれは楽しげに盛り上がっていた。
そう、最初から俺さえいなければ、この親睦会も大盛り上がりだったんだ。
すべては俺のせい。
空気の読めない俺がなにもかもぶち壊しただけで、
最初からこの漫研は楽しくて良い部活だった。
191:
なんだか俺はすっかり落ち込み、
宴会場に戻った後はずっと広間の端に座り込んで、一人で時間を潰した。
すっかり、同級生に暴言を吐いたヤバい奴認定をされたのだろう、
誰一人として話しかけてくる人はいなかった。
俺が間違っているんだろうか?
一緒に高みを目指して、共に絵を描き、切磋琢磨するような仲間はいなかったんだろうか?
遠くから、盛り上がる他の部員たちを眺めて、
そんな事をずっと頭の中でもやもやと、延々と考えていた。
戸倉にも謝ろうと考えていたけど「こんな部活今日で辞めるだろ」と思って何もできなかった。
192:
今日はこの辺で落ちます。
続きはまた明日、と言いつつ大晦日だし年明けになるかも。
まったりやっていきます、みんなも良いお年を?
193:
お疲れ様
今日も面白かった、けど
また引きで終わるんかーいw
いうほど引きでもないか…
よいお年を!
194:
スラダンの赤木みたいだな
確かに大学まで来ると痛過ぎる
235:
>>194
赤木の方が遥かに良い奴だよ
俺はただの痛いゴミ
195:
よく辞めさせられないな
自分から辞めないのもある意味すごい
235:
>>195
まあ最終的には色々崩壊して去るよw
197:
そもそも"研究会”という名称が良くないと思うんだ
俺は少女ファイトの大石練とか
アイシールド21の元水泳部のラインマンを思い出した
235:
>>197
まあそれもあるな
ってか漫画の趣味が渋くて好き
198:
木暮君ポジションになってくれる奴探さないと
235:
>>198
まあ穂高くらいかなぁ
199:
赤木は草
でも漫研には全国制覇はないからな…
235:
>>199
全国制覇って概念があれば良かったのにね
201:
諦めたらそこで打ち切りですよ
202:
続き楽しみ
今日くらいには来るかな?
203:
こんな時間に申し訳ない
続きゆるっと書いていきます?
204:
親睦会はそのまま大盛り上がりで幕を閉じた。
最後、オショウさんが一本締めをする時なんか、
男子部員の連中が笑いを取ったりして、みんな大笑いしていた。
楽しげで、本当に良い部活だったと思う。
たった一人、俺だけを除いて。
俺はずっと隅で不機嫌そうに周りを睨みつけ、
最後まで誰かと絡むことも一切なく終わった。
205:
高校でもみんなの輪に入ることができず、
大学でもまた、つまはじき者になるんだろうか?
そんな事をぼんやりと考えていた。
その後居酒屋の店先で全員解散したので、俺はそのまま下宿へと帰ろうと思った。
その時だった。
206:
笹子「1くん、帰るの?」
女子数人といた笹子さんが、俺を引き止めた。
一瞬にして鼓動が高鳴り、世界が色づくような錯覚に陥った。
俺「か、帰ります…」
笹子「ちょっと待っててね」
すると笹子さんは、近くにいた女子数人に
「ばいばい、また」と別れを告げた。
207:
そしてそのまま、俺のもとへと駆け寄ってくる笹子さん。
俺「どうしたんですか?」
笹子「いやぁ、親睦会で話そうって言ってたのに、全然話せなかったでしょ?」
俺「ああ…確かに、そうですね」
笹子さんは、「ふふ」と笑うと、「ね、話そうよ」と楽しげに言った。
笹子「駅までの道のりの間、どう?」
俺「いいですよ」
208:
嬉しかった。
笹子さんの方から、わざわざ俺のもとへ来てくれた。
正直居酒屋から駅方面に向かうと遠回りだったけど、
そんな事はどうでも良かった。
結局俺は、笹子さん目当てでこの漫研に来ていたのだから。
俺にとっては願ってもない展開だった。
209:
片田舎の夜の商店街は、実に寂れていた。
街路を行き交う人の数より、国道を通り過ぎる車の数の方が多いくらいだった。
笹子さんの歩く度がゆっくりであったため、
次第に他の漫研部員の姿は周りからなくなっていた。
笹子「1くん、今日…楽しかった?」
隣を歩く笹子さんは、どこか不安そうな表情で訊ねてきた。
210:
俺「楽しくは……なかったっすね」
笹子「まあ…そうだよね。なんか大変だったみたいだしね…」
俺「あれに関しては、俺が悪いんです。…次に会った時には、謝ろうかと」
笹子「…そっか」
しばらく、無言。
気まずかった。
笹子さんも、俺が楽しめなくて悲しかったのか、何も喋ろうとしなかった。
211:
俺は少し逡巡したのち、笹子さんにこんな事を訊いていた。
俺「笹子さん、俺…漫研に入らない方がいいでしょうか」
笹子「どうして…?」
俺「考えが…合わないんです、部長と。あの人は、別にみんなが絵を描かなくてもいいと言った」
俺「でも、俺は決してそうは思いません。絵を描けない人も、練習くらいはすべきですよ」
笹子さんは「うーん」と少し考えてから、言った。
笹子「それはなんとも難しい問題なんだよな、本当に」
212:
笹子「でも、考えてほしいんだ」
俺「なんですか?」
笹子「1くんは、楽器できる人?」
俺「いや、一切できないす」
笹子「たとえばそんな1くんが、いきなり音楽をやれーって言われたら、どう思う?」
俺「そんなの、無理に決まってます。素人ですよ?」
笹子「あはは。そうだよね、できっこないよ」
213:
笹子「1くんが他の子たちに言ってるのは、それに近い事なのかも」
俺「それはずるいですよ…。だって漫研に音楽は無関係です」
笹子「音楽からインスピレーションを受けてる漫画だってあるよ」
俺「音楽漫画はまた別では…」
笹子「ジョジョとかも音楽にゆかりがあるよ」
俺「それもなんかズルいです」
笹子「そうかなぁ」
俺「そうですよ」
214:
笹子「まあさすがに、音楽のたとえは意地悪だったね」
笹子さんは、そう言って苦笑いした。
笹子「でもね。絵を描いたことがない人たちが絵にチャレンジするって、それくらい大変なことだと思うよ」
笹子「私もそうだけど、絵を描く人はそこになかなか気づけないのかもなって」
俺「…それは、そうなのかもしれないですが…」
笹子「だからさぁ!」
笹子さんはそう言うと、くるりと俺の方を見た。
215:
笹子「絵を描いたことがない人が、どうしたら描きたいと思えるか?」
笹子「どうしたら絵に興味を持ってくれるか? そういう風に考えて動こうよ」
俺「でも、なんで俺がそこまで……」
笹子「そこだって!」
俺「な、なんですか」
笹子「世界を変えるには、まずは自分が変わろうよ!」
俺「はい…?」
216:
笹子「黙って眺めてたって、きっと何も変わらないんだよ」
笹子「1くんが漫研を変えたいと願うなら、まずは1くんが変わらなきゃ」
俺「そうですね…」
正直。
そんなものは綺麗事だろ、と思った。
でも、他ならぬ笹子さんの言うことだから、少しは聞いてみようと思った。
上辺だけでも同意しておけば、笹子さんにだけは嫌われずに済む。
天使のような笹子さんの優しさに甘えて、俺はまだそんな身勝手な思考をしていた。
本当に、つくづく最低なヤツなんだ、俺は。
217:
笹子「漫研を居場所にしてる人って、本当に多いの」
俺「居場所、ですか…」
笹子「そう。それも、絶対に替えの効かない唯一の居場所」
笹子「色んな人の拠り所なんだよ。だから、1くんも…もうちょっとだけ関わり方を考えてほしいんだ」
俺「そっすね……」
笹子さんの言うことはもっともだと思った。
もっともだと思いつつも、俺だって譲れないんだ、とも思っていた。
だから、心の底から同意はできなかった。
218:
笹子「とは言っても…。正直、1くんの気持ちもめっちゃ分かるんだよ」
俺「え…?」
笹子「私もね。入ったばかりの頃は、絵を描かない人に対してめっちゃ不満を持ってたから」
俺「そうなんですね…!」
笹子「そうだよ! なんでみんな描かないんだよー!ってねw」
これは意外だった。
部活を楽しむことが最優先で、聖人のように見える笹子さんにも、そんな時代があったなんて。
219:
笹子「だから、さっきまで1くんに言ったことはね…」
笹子「自分に改めて言い聞かせてる部分もあったんだよ」
俺「なるほど…」
すると、笹子さんは不意に寂しそうな顔になった。
笹子「私が一年生だった頃、一番尊敬してたセンパイにさ…まったく同じ事言われたんだ、私」
笹子「笑っちゃうでしょ。そのクセ、今1くんにこんな偉そうな事言ってさ…」
俺「尊敬してたセンパイに…同じ事を?」
笹子「うん。1くんは分からないだろうけど、3年の雁屋センパイっていう人にね」
220:
俺「え…カリヤ? カリヤって、あの漫画が超上手いカリヤですか?」
笹子「え? どうして1くんが雁屋センパイの事知ってるの…?」
笹子さんは、とても驚いているようだった。
俺「コピー誌で見たんです。オリエンテーションの時に部長に見せてもらって…」
笹子「ああ、そういうことか。ビックリしたなぁ」
そう言うと、笹子さんは小声で「どうだった?」と訊いてきた。
俺「あの…めっちゃ上手かったし面白かったです。プロなんじゃないかと思うほど」
笹子「だよねぇ。ほんっとに上手いもんねぇw」
221:
にわかに、俺の頭の中にいくつもの疑問が湧いて出て、グチャグチャになった。
笹子さんはカリヤと面識があった?
そして、カリヤのことを…尊敬していた?
だとすれば、カリヤとは今も繋がりが?
俺「あの…カリヤはもう辞めたんですよね?」
笹子「……そうだね。うん、辞めちゃったね」
222:
ここでカリヤか……(´・ω・`)
223:
俺「カリヤはどうして辞めちゃったんですか?」
笹子「それは……わかんない。突然だったから」
俺「突然辞めたんですか…?」
そうすると、笹子さんは一度だけ深く頷いた。
笹子「そう、いきなりね…。だから私もびっくりした」
224:
俺「カリヤは今どこで何してるんでしょうね…」
笹子「何してるんだろうね」
俺「笹子さんも知らないんですか?」
笹子「…知らないね」
俺「プロになってますよ、絶対」
俺がそう言うと、笹子さんは少しはにかんで、「だといいねぇ」と言った。
しかし、オショウさんも笹子さんも、みんなして一体なんなんだ。
去った人の事はそこまで追わない…といえばそれまでなんだろうか。
225:
俺「でも、残念です。あんなに上手い人滅多にいないじゃないですか」
俺「カリヤに会ってみたかったですよ、俺…」
すると、笹子さんは俺の目をじっと見つめた。
不自然なくらい、数秒黙って見つめていた。
俺「な、なんですか…?」
笹子「いや、きっと1くんは雁屋センパイとなら気が合っただろうなって」
俺「……どんな人だったんですか?」
226:
笹子「信じられないくらい頑固だったけど、それでいてめっちゃ優しい人だったね」
俺「へえ…」
笹子「さっきの話じゃないけど、絵を描く人にも描かない人にも本当に分け隔てなくてさ」
俺「あんなに上手いのに…ですか?」
俺なら間違いなく天狗になるし、絵を描かないヤツに冷たくなる。
笹子「そう。だからみんなに慕われてたよ」
俺「人格者…なんすね」
227:
カリヤの事を話す笹子さんの瞳が妙にキラキラとしていて、
俺はなんだか胸の奥がモヤモヤとした。
笹子「人格者なんかじゃないよ。すごく変な人だったw」
笹子「でも、だからみんな雁屋センパイが好きだったのかもね」
笹子「漫研に来る人なんて、大概みんな外れ者なんだよ」
笹子「普通のサークルとか、学部とかでちょっと合わなくてさ」
笹子「雁屋センパイは、そんな人達に居場所を用意してくれてた…」
笹子さんは熱心にひと思いで喋り続けた。
228:
笹子「あ、ごめんね。こんな話1くんにしてもね…」
俺「いや、大丈夫ですよ。すごい人だったんすね、カリヤは」
笹子「うん、そうだね…」
俺「でも、だとしたらなんで突然辞めちゃったんですかね?」
笹子「……なんでだろうね」
俺はずっと、カリヤはこの漫研の現状が嫌になって辞めたんだと思い込んでいた。
でも笹子さんの話を聞いていると…それは俺の大きな勘違いのようだった。
でもだとすれば…なぜ辞めたのか本当に分からない。
229:
そんな事を話しているうちに、俺たちは駅にたどり着いた。
笹子「わざわざ駅まで付き合ってもらっちゃって、ごめんね」
俺「いえ、全然大丈夫です。こちらこそ、話してくれてありがとうございました」
そう言うと、笹子さんは笑って「楽しかったよ」と言ってくれた。
改めて、笹子さんはやっぱり可愛いなぁなんて思った。
笹子「なんだか上手く伝わったかわからないけど、1くんも漫研を辞めるなんて言わないでね」
俺「はい…」
笹子「ゆっくりと、変わっていけばいいと思うからさ」
230:
俺「そうですね。漫研にも参加しながら…漫画家目指してみようと思います」
そう言うと、笹子さんは少し固まった。
笹子「……あのさ。それなんだけどね」
俺「…はい?」
別れ際、出し抜けに笹子さんが話を切り出した。
笹子「1くんには無理だから、漫画家なんて辞めようよ」
俺「えーと…、どういう意味ですか…?」
それはあまりにも突然のことだった。
231:
笹子「ごめん。怒らないで聞いてほしいんだけど…」
笹子「1くんにはなれないと思う。だから、漫画家目指すのは今すぐに辞めよう」
俺「はい? 何言ってるんですか? 辞めるわけないじゃないですか」
俺「俺は絶対に漫画家になるんです」
笹子「どうして? 漫画家なんてならなくたって…」
俺「急になんですか…? 漫画家になるのは俺の夢なんです。絶対に諦めませんよ」
すると、笹子さんはふうっと息を吐いたあと…
笹子「そんな漫画家なんて…なれっこないのにさぁ!」
232:
笹子さんが急に大きな声を出したので、俺はめちゃくちゃビックリした。
笹子「何を根拠に言ってるの? どれだけ難しいか分かってる?」
笹子「漫研で楽しく過ごすだけでいいんじゃないの?」
笹子「それじゃだめなの…?」
俺「そ、それは……」
そう言うと笹子さんは「ごめんね」とだけ言い残し、走り去って行った。
そのまま振り返ることもなく、改札の中へと消えてしまった。
233:
笹子さんがいなくなったあと、俺は本当に混乱した。
今日俺は、笹子さんといい感じになったんじゃないのか?
それが、この状況は一体なんなんだ。
というより…。
漫画家を目指すって、そんなにダメな事なのか?
俺なんかが目指しちゃいけないのか?
また週明け部室に行ったら、笹子さんに話を聞こう。
そう心に決めて、俺は極力無心で家路についた。
考えたら考えただけ、意味が分からなくなるだけだった…。
234:
といったところで、今日はこの辺で落ちます
また続きは明日あたりに書きますね
見てくれてる人ありがとう。また?
236:
俺も1と同じ側の人間みたいだ
描けないし描く気もないのに漫研が唯一の居場所って意味わかんない
本気で見下してたら下手な物を見せられても本音を言わないから
1は人としてまだマシだと思う
だからといって女の子泣かしていいわけではないが
238:
今漫画読んでる?
248:
>>238
読んでるぜー。最近は「僕ヤバ」が熱いね
242:
てか雁屋のこと地味に呼び捨てしてるww
248:
>>242
雁屋は部員っていうか俺の中でずっと
「プロの作家」くらい遠い存在だからずっと呼び捨て
鳥山明を「鳥山さん」とは言わないだろ?w
243:
漫研ってなんつーか一番大学っぽくて好き
ワシの勝手な偏見だが
245:
もうこの話を脚色して漫画にしようよw
>>1がどういうジャンルを描く漫画家になりたかったのかはわからないけど
248:
>>245
ありがとう
俺はラブコメみたいのをやりたかったけど…
まあ向いてなかったわ
246:
今しがた追い付いた
高卒で働いて夢も希望も持ち合わせずに今もいる俺には1の話が輝いて見える
248:
>>246
本当にありがとうな
俺も夢折れてるから、同じようなもんさ
247:
遅くなってごめん!
ぼちぼち再開いたします。みんなありがとう…!
249:
俺は週明け、大学に行くとすぐに漫研の部室を訪ねた。
笹子さんと話すため、あの発言の真意を確かめるため…
どうして俺が、漫画家を諦めなければならないのか
俺にはそれがまったく分からなかった。
笹子さんが人の夢を否定するわけない。
そう信じ切っていた俺は、
きっと何かワケがあるんだろうと思っていた。
250:
お昼頃。
2限が終わったら、俺は部室に直行した。
それまでの僅かな経験則で、お昼付近には人が多いことを知っていた。
しかし…。
いたのは、数人の男子と部長のオショウさんのみだった。
俺はがっかりしつつ、部室の扉を開けてしまった以上、
すぐに帰るのも流石におかしいと思い、
「ちわーす…」と死んだような挨拶をした。
252:
知らない部員数名は黙って会釈するのみで、
「おっすー」とまともに返事をしたのはオショウさんのみだった。
その湿った様子を見て、クズな俺は
笹子さんがいなければ本当に価値のない所だな、
キモオタに用はねえんだよ、と本気で考えていた。
部室に通い始めて一週間以上、
未だにまともに話せる相手がほとんどいない自分。
本当にヤバいのは自分だと、どうして気づけなかったのか…。
253:
仕方ないので、オショウさんの近くの、
一番奥の誕生日席に座ろうとした。
すると、オショウさんに「そこじゃなくて…」と手前の席を勧められた。
初日にも、横森さんに一番奥の席に座っていたら怒られたし、
俺は妙な違和感を覚えた。
けどまあどうでも良かったので、そのまま会話を始めた。
254:
俺「この前はなんか、すみませんでした…」
オショウ「いやぁ、いいよ。俺もなんか熱くなって悪かった」
オショウ「1くんがこうやってまた部室に来てくれて、良かったよ」
俺「はあ、それはまあ……」
心の中で、ただ笹子さんに会いたいだけなんだよな、と思った。
オショウ「すぐになにか…なんて思ってないよ。ゆっくり馴染んでいけばいいよ」
俺「はい、あざっす……」
255:
正直、オショウさんとも話すことはなく、あっという間に無言。
オショウさんも他の部員たちと話し始めてしまって、
俺はまた部室で一人、つまはじき状態に。
昼休みが終わって笹子さんが来なければ一度帰るか…
そんな事を思った時。
本棚の中に、不自然に2冊の少年マンガ誌があるのに気づいた。
号も飛び飛びの古いもので、たった2冊だけ。
256:
さすがに怖いので伏せるけど、ジャ○プではないなにか、と思ってくれ。
俺は黙って座ってても意味ないし、と思って、
本棚にあったその少年誌を手にとってみた。
その2冊共に、巻中に分かりやすく付箋が立っていて、
「ここ!」という表記とともに、可愛らしいいちびキャラが描かれていた。
「ここって何がだ…?」と疑問を覚えつつ、そのページを開くと。
そこには見覚えのある絵柄。
まさしく、カリヤの漫画が載っていた。
257:
ペンネームだったので名前こそ違うが、
この前オリエンテーションで見た絵柄と合致していた。
間違いない、これは…。
俺「あの、これって……」
手に持った雑誌を見せつつ、オショウさんに訊ねると、
オショウさんはすぐに察したようだった。
オショウ「ああ、それ見たんだね」
俺「これ……カリヤの漫画が載ってるんですか?」
オショウ「そうだよ。2冊とも読み切りが載ってる」
258:
やっぱり、化け物…!
カリヤはすでに、2回も読み切りを載せていたのか!
すごい。すごすぎる。
そんな次元の違う人がこの漫研にいたのか…。
俺はマジでビビってしまって、しばらくその場に立ち尽くした。
その様子を見たオショウさんに、
「座ってゆっくり読めばいいじゃんw」と笑われるくらいに。
259:
カリヤの読み切り漫画は、めちゃくちゃに面白かった。
相変わらずのラブコメで、絵が上手いし、キャラだって可愛い。
同じ大学生が描いたと信じたくないくらいに…
読んでから、席でしばらく放心した。
俺に今、こんなものが描けるか…?
絶対に無理だ。
オショウ「雁屋の漫画はどうだった?」
俺「めっちゃ面白かったっす……」
260:
オショウ「そうだよねぇ。その読み切り、俺も大好きなんだ」
俺「キャラがすっげえ可愛いです。マジで…」
分かりやすく言うと、カリヤの作風はジャンルは違えど
『あおい坂高校野球部』のそれに近かった。
キャラが生き生きしていて魅力的。
昔、オショウさんとカリヤの二人がめちゃくちゃに
『あおい坂高校野球部』にハマって、カリヤはその影響を色濃く受けたらしい。
後から聞いた話だけど。
261:
俺「カリヤってめっちゃすごいんすね…」
オショウ「…まあ、そうだね」
俺「あの、部長。すみませんでした」
予期せずにカリヤの話になったので、
俺はオショウさんに謝ろうと思った。
オショウ「え、なにが?」
突然のことだったので、オショウさんも面食らったようだった。
262:
俺「俺、カリヤはこの漫研が嫌になって辞めたと思ってたんです。ずっと」
俺「でも、笹子さんに話を聞いて、それは違ったんだって分かって」
俺「思い込みで変な事言って、すみませんでした」
俺は本当に身勝手な人間だったので、
普段イキリ散らかしてるくせに、悪いと思った事は謝らないと気が済まなかった。
オショウ「それならいいよ。1くんに悪気がないのも分かってるから」
俺「ありがとうございます…」
263:
オショウ「それに、雁屋には色々あったのも事実だから。気にしなくていいよ」
俺「あの、部長…それなんですが。その”色々”ってなんなんですか?」
俺「こんなに上手くて、なおかつ人望もあった人なんすよね?」
俺「そんな人が急に……辞めますか?」
オショウさんは不意に眉間に皺を寄せた。
オショウ「それは俺にも、わからないよ。急にいなくなったからさ」
俺「そうなんすか…」
264:
笹子さんの時にも感じた違和感。
そんな事って、あるのか?
俺「漫画制作がもっと忙しくなったんすかね?」
オショウ「…そうかもなぁ」
俺「たとえばほら、連載が決まって、その準備とか!」
オショウ「ははは、それはあるかもね」
だとしたら、カリヤはやっぱりすごい。
読み切りが2回載ってるなら、次は連載の可能性も十分にある。
265:
俺「そりゃあ漫画制作って時間取られますもんね…」
俺「俺も、帰ったら死ぬ気で描きますよ! すぐに追いつきます」
カリヤの連載開始疑惑で火が付いた俺は、一気にやる気が湧いた。
漫画家になるため、自分もすぐに誌面に漫画を掲載するため、
死ぬ気でやってやろうと思った。
オショウ「…追いつくって、やっぱり漫画家になるってことかい?」
俺「部長、今更ですよ。そりゃそうじゃないですか。まずは俺も読み切り、」
俺「いや…、担当を付けるところからですね!」
266:
オショウ「え? まだ担当ついてないの?」
俺「そうですね。持ち込みとかも行ったことないので」
オショウ「へえ……」
お前、あんなに漫画家って豪語しておいて、
まだ担当すらいないんかっていう意図だったんだろうね。
オショウ「1くんさぁ。どうして漫画家がいいの?」
俺「そりゃあ、絵を描くのが好きだからです」
267:
オショウ「それなら、もっと安定した道だってあると思うよ」
オショウ「絵の仕事は他にもあるし、漫画一本に絞るのは、危ないっていうかさ」
俺「なんすか? 何が言いたいんすか?」
オショウ「漫画家は辞めた方がいいと思うよ、俺は」
俺は耳を疑った。
横森さん、笹子さんに続いて、オショウさんまで…!
それに、一度は夢を尊重すると言ってくれた人が。
268:
ショックだった。
まだまだ若かった俺は、自分の夢を否定される事がたまらなく辛かった。
本気で自分は夢を叶えられると信じていたし、
それを周りの人たちに応援されないことが、とにかく嫌だった。
俺「どうしてですか? 俺が漫画家を目指すのがそんなにいけないんですか?」
オショウ「いや、そうじゃない。でも、漫画家になれる人なんて本当に……」
俺「でも、カリヤはもう入り口に立ってる!」
269:
カリヤと自分を比較するワケじゃなかったが、
身近に漫画家になろうとしている人間がいるのに、
自分だけ否定されるのが本当に納得いかなかった。
俺「なんで俺はダメなんですか?」
俺「そりゃカリヤに比べれば俺は下手ですよ! でも…!」
オショウ「1くん、違うんだよ」
俺「違うって、何が……」
オショウ「漫画家になることだけに固執しなくてもって、俺はそう言いたいだけで…」
俺「それはカリヤだって同じはずでしょう!」
270:
段々とヒートアップし、半ば口論になりかけた時。
数人の2年女子と一緒に、笹子さんが部室へと現れた。
恐らく、昼ごはんを食べに来たんだ。
笹子さん以外の女子は、俺を怪訝な目で見ていた。
笹子「何か賑やかだと思ったら…どうしたんですか?」
オショウ「いや、ごめん。ちょっと…」
271:
俺「部長が、俺に漫画家は辞めろって言うんです…」
オショウ「いや、確かにそうは言ったけど…」
笹子さんは端の席に座りながら「どういう流れなんですかw」と笑っていた。
オショウ「1くんが雁屋の漫画を読んで、そこから…」
すると、笹子さんは机上にあった雑誌を数秒見つめたあと、
「ああ、懐かしいなぁ」とぽつりと言った。
272:
笹子「雁屋センパイの漫画を読んだら、火が付いちゃった?」
笹子さんは、少しだけいたずらな表情でそんな事を訊いてきた。
俺「ま、まあ…そんなところです」
笹子「でも、分かるよ。その漫画、すごく面白いもんね」
俺はその言葉を聞いて、胸がきゅっとした。
「すごく面白い」
俺もいつか、笹子さんからそんな風に言われる漫画を描いてみたい。
カリヤなんかに…負けたくない。
273:
俺「俺も本気で頑張って、読み切りを載せてみせます。すぐに追いつきますよ」
笹子「雁屋センパイに?」
俺「そうですよ。それですぐに追い越しますから」
笹子「へえ……」
笹子さんの反応が思ったよりもずっと鈍くて、また心がざわつく。
笹子「それで、オショウはなんて言ったんです?」
オショウ「いや、漫画家に固執しなくてもってね…」
274:
俺「それが分からないんです」
俺「俺は漫画家に絶対になりたいんだから、それでいいじゃないですか!」
笹子「あのね、1くん。前も言ったけどさ…漫画家は辞めた方がいいよ」
俺「笹子さん、それなんですけど。どうしてそんな事言うんですか?」
笹子さんはしばらく黙ってから、口を開いた。
笹子「1くんが、楽しくなくなると思うから…」
それっぽい言葉だった。
でも、それっぽいだけで、全然納得できなかった。
275:
俺は考えた。
漫研の人間は全員、カリヤという作家を見てきた。
だから、俺程度のヤツなんかじゃ漫画家になれっこないと、そう思っているんだ。
…めちゃくちゃに悔しかった。
ずっと自分が一番だと信じてきた俺には、この上ない屈辱だった。
だったら、証明してやるよ。
俺「わかりました」
笹子「え?
276:
俺「俺が、カリヤよりずっと下手くそだから、そんな事言うんすよね」
笹子「ちがう、そうじゃなくて…」
俺「もう、いいです。決めました」
俺「漫画で賞を取るまで、もう漫研には来ません」
俺はこの二人に絶対に認めてほしくて、そんな事を宣言してしまった。
自分ならできると信じて疑わなかった。
なんて痛いヤツ。
277:
俺「その代わり、賞を取ったら必ず戻ってきます」
俺「その時は、俺の実力を認めて応援してもらいます!」
俺「約束ですよ!」
一方的にそう言うと、勢いよく立ち上がって、
そのまま部室を出て行った。
笹子「1くん、違うよ!そういう事じゃないの!」
笹子さんだけがそう叫んで俺を引き止めようとしたが、
俺は無視してそのまま走っていった。
278:
俺にしては珍しく、固い決心で…。
この日を境に、俺はまったく漫研に顔を出さなくなった。
絶対に賞を取って、あの二人を驚かせてやる。
そして、笹子さんに認めてもらうんだ。
カリヤに向いている目を、俺に向けてやる!
そんな幼稚な考えだけで、自分のモチベーションの火を燃やし続けた。
279:
半年間。
俺は引きこもった。
この時が4月末だったので、正味10月まで、
俺は授業以外は家に引きこもって漫画制作を続けた。
ガチでちゃんとした漫画を制作するのは初めての経験で、
しんどかった。本当に。
その間、笹子さんや穂高だけは、時折心配してメールをくれたりもした。
…孤独だったので、かなり嬉しかった。
280:
過去の自分を唯一褒めるとしたら、
「ちゃんと漫画は仕上げたこと」だと思う。
これは本当に偉い。そこだけは、本当に。
正直言って、漫画を一作仕上げるのって、並大抵の気持ちじゃできない。
この時の俺は若くて、プライドがあって、意地があって、
笹子さんに認められたい、という気持ちがあったからできたんだと思う。
持て余していた感情の全てを、制作にぶつけた。
281:
それでも、たった30ページ程度の漫画を仕上げるのに半年かかるんだ。
毎月、大学の部活なんかのために熱心に漫画を描いていたカリヤが、
どれだけ規格外だったか。
俺は身を持って経験することになった。
漫画を描けば描くほど、カリヤがどれほど遠い存在で、
どれほどに凄かったのかが、嫌というほどに分かった。
282:
プロットからネームを切るストーリー作りは死ぬほど大変だったし、
この頃はまだアナログだったので、作画の苦労だって途方もない。
原稿用紙1枚1枚に下描きし、ペン入れをして、ミスったら修正して、
トーンも一人で貼って、それを削って、今度は背景を描いて…
誇張抜きで死ぬかと思った。
そんな日々を半年間。
一番楽しいはずの大学一年の夏を返上して、
ひたすら引きこもって漫画を描いた。
283:
だからこそ、完成した時は、号泣するくらいに感激した。
自分だけで作り上げた、自分だけの世界。
厳重に梱包したけど、発送する時は本当に緊張したな。
雑誌に書かれた募集要項を何回も見直したりしてさ。
今でもよく覚えてる。
大学近くの郵便局から、意味もなく達で発送して。
「どうか、なんでもいいから賞に引っかかってくれ…!」
って帰りに小さな神社で願掛けしてさ。
大変で泥臭い日々だったけど、楽しくもあったなぁ。
284:
学部が一緒で、たまに授業がかぶる穂高にだけは、
「ずっと引きこもって漫画を描き上げて、賞に応募できたこと」を教えた。
正直、穂高は授業もけっこう一緒に受けるし、
漫研部員でありつつも、その範疇を超えた唯一の友人になっていた。
穂高はひたすら「めちゃくちゃすごい!」と目を輝かせて言っていた。
「本当に賞に投稿してる人を初めて見た」と、
ただ賞に出しただけで、信じられないほどの称賛をくれた。
やはり穂高は良い奴だった。
285:
これが賞にかかれば、報われる。
俺の死ぬほど大変だった6ヶ月間。
その時は、胸を張って笹子さんに報告したい。
笹子さんも、きっと認めてくれるだろう。
そんな想いとともに、結果発表の時が待ち遠しくもあり、
同時に本当に怖くもあって……
原稿を送ってから結果発表まで、
ふわふわして落ち着かない日々を過ごした。
286:
すみません、今日は限界なのでこの辺にしときます。
つ、疲れた…。
続きはまた明日あたりに…。
見てくれてる人、ありがとう。では?
287:
面白い
絵が上手くて面白い文が書けても漫画家にはなれないんだな
厳しい世界だな
MAJORでもダイヤのAでもなくあお高なのが意外
292:
>>287
ありがとう
あお高はとてもいい漫画だよね。
289:
アクタージュ以来の早く続きが見たいものができた
ゆっくりでいいので完結させてください
292:
>>289
マジかよそんなにかww
ありがとう、頑張るよ
290:
この引きは続きが気になるなぁ
291:
ほぼ毎日読みに来てるけど、毎回いいところで区切るねw
続きが気になりすぎる
293:
みんなありがとう!
それじゃのんびりと続きを書いていきます
294:
結果発表は、12月に発売される誌面に掲載されるらしかった。
なので俺はバカ正直に、
その号の発売を心待ちにし、発売日に書店に駆け込んだ。
賞が取れれば言うことはなかったが、
とにかく早く結果を知って、楽になりたかった。
漫研にも早く復帰して、
とにかく笹子さんとも会いたかった。
毎日毎日、自分の漫画がどうなったか、
気にしながら生きるのはしんどかったんだ。
295:
この時点でお気づきの人もいるだろうが…
漫画賞の結果を、結果発表の号が発売されるまで知らないのは、
「負け確」であった。
いや、当然だ。
万が一何かしらの賞を受賞していたとしたら、とっくに連絡が来ているのだ。
応募作品の情報を誌面に出して良いのか、
ペンネームや個人情報は正しいのか、
今後もその雑誌で描いていく意思があるのか…等々。
担当者から絶対に連絡が来るのだ。
296:
そして、俺にはそんなものは一切なかった。
なしのつぶてだ。
でも、そんな事情、当時はまったく知らなかったので…
俺はドキドキしながら、期待に胸を膨らませて書店に行った。
自信だってあったし、小さな賞なら取れているかもしれないという想いもあった。
ドキドキしながらページを開き、新人賞の結果発表記事に目を通す。
俺の名前は……載っていなかった。
297:
当然のことであるにも関わらず、
すぐには事情が飲み込めず、何回も何回も同じページを見直す。
おかしい。
どこかに絶対、俺の名前があるはずなのに…ない。
どうして? 何かの手違いか?
投稿作が届いていなかった? まだ審査されていない?
色んなことを考えるも…そんな事はないだろう。
俺の力が未熟だっただけで、それがすべてだった。
298:
「嘘だろ」
書店の駐車場で、倒れ込みそうになった。
目の前が真っ暗になるような、人生で初めて味わうド級の絶望感。
「へ…へへ、ははは…」
そして次の瞬間にはなぜか笑ってしまった。
人間、本当に現実を受け止められないと、マジで笑っちゃうんだな。
299:
あの地獄のような、苦しい半年間はなんだったんだ。
半年だぞ、半年。
何よりも貴重な、大学一年、19歳の半年間だぞ。
それが一瞬にして泡となって消えた。
俺は半年間もかけて……
賞も取れず、誰にも見てもらえない、「ゴミ」を生み出してしまったのか?
300:
すぐさま家に帰って、真っ暗な部屋の中で布団をかぶった。
ショックすぎて、何も手につかなかった。
賞を取る?笹子さんに認めてもらう?
ましてや……あのカリヤを越えるだって?
馬鹿げていた。
それが、どれほど遠い場所にあって、
これからもどれだけの苦労と努力を続けないとたどり着けない場所にあるのか、
知ってしまった俺は、怖くて怖くて仕方なくなった。
301:
絵や漫画を描くことは好きであった。
人よりも得意であるという自覚を持ってこれまで生きてきた。
でも、漫画家になるという道は……
「俺には無理なのかもしれない…?」
そんな考えが、この時、生まれて初めて脳裏をよぎった。
カリヤに追いつき…そして漫画家になるためには、
またあの孤独で苦しい制作を乗り越えなければならない。
そして、その先に脚光が待っているという保証もない。
今回みたいにまた…箸にも棒にもかからない結果になるかも…。
302:
またこれだけの苦労をして、賞にもかからなかったら、
その時俺は……。
考えると、頭がおかしくなりそうだった。
ずっとずっと、漫研のみんなが
「漫画家になるなんて辞めたほうがいい」と言っていた理由が分かった。
笹子さんの言ったとおり、俺は…
「楽しくなくなっていた」
絵を描くことを心から愛していたのに、考えたくもなくなっていた。
303:
俺は年末から年明けまで、引きこもった。
授業に行く気力すらもなくなり、アパートの部屋でひとり、
泥のようになって過ごしていた。
もう何もかもがどうでもいいと、
たった一回の挫折で、俺のハートは粉々に砕け散った。
笹子さんにはもう一度会いたい。でも、もう無理だ。
合わせる顔もないと思った。
304:
せめて笹子さんが俺の夢を応援してくれれば……なんて、
そんな妄想にも似た事を願っていた。
今漫研に戻っても、きっと笹子さんは俺を笑顔で迎え入れてくれる。
「ほら、漫画家なんて辞めてよかったよね?」と。
でも、俺はそれでいいのか?
ずっと自問自答を続けていた。
笹子さんに応援されるくらい力をつけて、
漫画家を目指し続けたいんじゃないのか?と。
305:
でも今の俺にはそんな力はない。
あんだけ大口叩いて、漫研のみんなからも腫れ物扱いされて、
横森さんやオショウさんにも啖呵を切って、
その結果が、この始末だ。
恥ずかしかった。
きっともう、漫研に俺の居場所はないと、
なんとなくだが察していた。
だからずっと、部屋に引きこもってしまった。
306:
そんな無駄な時間を過ごしているうちに…
冬休みが明けても、まったく授業に行かない俺を心配して、
穂高から連絡が来た。
授業は大丈夫なのか?
3月には春合宿もあるし、漫研にももう一度来たらどうだ?
というような内容だった。
この連絡がある種の吹っ切れにも繋がって…
俺は、一度気持ちの整理のためにも大学へ行き、
漫研にも顔を出そうと思った。
今更、変な意地を張ってもしょうがない気がした。
307:
そこで、正直に賞に落ちたことを笹子さんにも話そう。
恥ずかしいけれど、それが今の俺の実力で、俺のすべてだ。
そこから、またリスタートしてみよう。
そんな決意を固めた。
ちなみに、賞に落ちたことはまだ誰にも言えていなかった。
穂高にも、ずっとひた隠しにしていた。
穂高の方から賞の結果を訊いてこようとしなかったのは、
きっとアイツなりの配慮だったんだろうな。
やっぱり、本当にいいヤツだよ。
308:
というあたりで、一旦落ちます。
今日(深夜?)はまたどこかで続き書けそうだったら来ます!
無理なら明日でw
付き合って読んでくれてる人、ほんとにありがとう。
ではでは?
309:
この頃に心が折れちゃってもう描かなくなったみたいな感じ?
310:
ここで挫折してたら大学は辞めてないと思うし
漫画描き続けたらもう大学行かないだろうし
なんで大学3年間ということになったのかさっぱりわからん
311:
まだ一年だもんなぁこの先何があるんだ
314:
漫画を一作描くのが天竺ほど遠い道のりなのはガチ。
賞を乗り越えた先にも読み切りがあって、連載したとしても即打ち切りになったり。
漫画家で食おうなんて難しいよな…
それでも夢を追った1にはなんであれ敬意を表したい。
324:
>>314
ありがとう、俺にはもったいない言葉だよ
316:
ここまで読んだ感じだと自分が学生時代所属してたアニサーに雰囲気がすごく似てるんだよな
漫研って名前がついてなきゃこんなややこしい喧嘩売らなくて済んだんだろうね
324:
>>316
やっぱオタサー系はどこも似た雰囲気なのかな?
318:
友達に教えてもらってちょいちょい見に来てたけどすごく面白い
ちょっと大学行けば良かったかなと後悔した
324:
>>318
ありがとうな
大学は基本は楽しい所だと思うよ
319:
ごめんちょっと今日は書けそうにない。。
今夜は書けるかと思うので、お待ち下さい…
323:
鬼滅の吾峠さんもネーム落とされまくって漫画家やめようと思ってた時期があったらしいからねシビアな世界だわ
324:
>>323
吾峠さんも苦労の人なんだなぁ
325:
大学に行こうと決めた日。
その日はまだ生活リズムがイカれていた事もあって、
大学へ行く頃にはすでに夕方前になっていた。
約1ヶ月ぶりの大学は、思った以上に人が多くて、
なんだか自分以外の人間が全員幸せそうに見えて、
精神的にかなり擦り切れるものがあった。
326:
それでも、歯を食いしばって外に出て、
漫研に顔だけでも出そうと思えたのは、大きな進歩だった。
笹子さんに会って、これまでの事を全部話そう。
自分には賞は到底無理であったこと、
漫研の人たちに迷惑をかけて申し訳なかったこと…
俺の頭の中には笹子さんの事しかなかった。
とにかく、すぐにでも笹子さんと話したかった。
327:
だから俺は、部室の扉を開けて戸惑った。
横森さんが一人で漫画を読んでいたからだ。
他には誰もいなかった。
俺「あぁ……」
横森「あ? なんだ1じゃねえか。久々だな」
大きなブランクがあるにも関わらず、
西日を背負った横森さんは、春先と変わらない調子で話しかけてきた。
328:
俺「ひ、久しぶりっす…」
横森「ずいぶん来てなかったから、辞めちゃったのかと思ったよ」
俺「いえ、そういうワケでは……」
横森「お前みたいな奴、漫研以外に居場所ないだろ? もっと来いよぉw」
横森さんは、おどけてそんな皮肉を言ってみせたが、
俺には言い返すような気力も最早なく…。
俺「そっすね、ははは…」
横森「おいおい、元気ねえじゃねえか。そんなキャラだったっけ…?」
俺「いえ…」
329:
正直、横森さんに対しても相当な負い目があって、何て言えばいいか分からなかった。
何を話せばいいんだ…と考えていると、
横森さんが「みなみけ」を読んでいることに気づいた。
俺「みなみけ、読んでるんすね…」
横森「ん? そうだけど。なに、1も好きなん?」
俺「好きっすね…」
すると横森さんは少し笑顔になって、「いいじゃん」と言った。
330:
横森「んで、誰派よ?」
俺「はい? なんですか?」
唐突に質問されたので、本当に意味が分からなかった。
横森「三姉妹で誰派かって聞いてんだよ。お前なら分かるだろ?」
俺「ああ、そういうことですか。俺は…えっと……」
横森「恥ずかしがんなよなw」
俺「夏奈っすかね……」
そう答えると、横森さんは「おお!」と興奮した様子だった。
331:
横森「やっぱりそうだよな! 夏奈一択だよなぁ?!」
俺「元気で可愛いってのが…やっぱりいいですよね」
横森「そうそう! 分かるわぁ」
そしてその後、しばらくみなみけ談義に花を咲かせた。
なぜだか思ったよりもずっと盛り上がって、すごく楽しかった。
すると、横森さんは俺の目の前でにやりと無邪気な笑みを浮かべた。
横森「やっぱり悔しいけど、1とは趣味が合うんだよ」
俺「そ、そっすかね……」
横森「そうだよお前。ずっと来なくてさぁ」
332:
横森「漫研に来ない間、何してたんよ?」
俺はそう訊かれ……横森さんになら全部言っていいか、と思った。
俺「横森さん、俺……漫画描いてたんすよ」
横森「漫画? そういえばそんな事言ってたな、お前」
俺「30ページの、ラブコメみたいなヤツで」
横森「へえ。それは最後まで完成させたん?」
そう訊かれて俺は、「はい」とうなずいた。
横森「え、お前すげえじゃん…」
333:
俺「それで俺、ずっと憧れてた○○の賞に投稿したんです」
横森「マジかよお前! 本当に投稿してるとは思わんかったわ……」
話しているうちに、なんだか喉元が熱くなってくるのを感じた。
俺「正直俺、賞なんか簡単に取れるだろって、舐めてたんです」
俺「こんだけ頑張って描いて、取れないワケねえだろって」
俺「でも……賞なんて取れなかったんです。なんにも」
横森さんは、しばらく神妙な面持ちで俺を見つめていた。
334:
俺「半年も漫画に費やしておきながら……なにも成せなかったんです」
横森「でもお前、漫画を描き上げて賞に出すなんて、そんな事なかなかできるもんじゃねえぞ…」
俺「やめてください。漫画を完成させるだけだったら誰にだってできます」
俺「あれだけ偉そうな事言っておいて…俺にはまったく才能がなかったんです」
横森「バカかお前!」
横森さんは急に大きな声を出した。
過去に、横森さんを二度キレさせた俺は正直ビビった。
335:
横森「誰にでもできるワケねえだろ!」
横森「お前はすげえよ。あのな、普通漫画を一作描こうと思っても、」
横森「大抵のヤツが一作すら完成させられずに辞めちまうんだよ」
俺は黙って横森さんを見つめていた。
横森「同級生にも先輩にも、いたよ。お前みたいに”漫画家になる”って言いふらしてたヤツ」
横森「でもそういうヤツのほとんどが、漫画家どころか、漫画一作すら描かずに消えていった」
横森「だから初めてお前を見た時も、またこういうヤツが来たかって思ったよ、正直」
横森「描けない俺が、何いってんだって思うかもしれないけどさ」
336:
横森「でもお前は違うじゃねえかよ!」
横森「一作描き上げて、憧れの雑誌に投稿したんだろ?」
横森「そんなこと……本当になかなかできねえぞ?」
俺は横森さんのその言葉を聞いて、ぼろぼろと泣き出した。
今まで一人で抱えてきたこと、決して誰にも認められることのなかった苦労、
信じ続けてきた理想の自分と現実とのギャップ、
そういったものが一気に弾けて…もうダメだった。
337:
横森さん…(´;ω;`)ブワッ
338:
俺「横森さん…俺……賞取りたかったっす……」
俺「あんなに偉そうな事言ってたのに…すいません……」
俺は泣きながら、横森さんにそう言っていた
横森「なに言ってんだよ、お前…」
俺「俺、本当にみっともないなぁって…なんかほんと、すいません……」
横森「おい、そんなことねえって…」
339:
俺「もう、漫画家になるのなんて、やめようかなって思うんです」
横森「なんでだよ。なんでやめちゃうんだよ」
俺はもう、溢れ出た涙でぐずぐずになっていた。
俺「笹子さんに、辞めろって言われてるからです」
横森「ええ、笹子……?」
340:
俺「笹子さんは、俺が漫画を描かない方がいいって言ってたんです」
横森「なんで笹子なんだ…?」
俺「……」
横森「一作仕上げるガッツがあるんなら、もったねえよ。俺は応援するぞ」
俺「ありがとうございます。でも、俺は…どうしても笹子さんに認めてほしかったんです!」
この一言で、横森さんはすべてを察したようだった。
横森「1、お前さ……」
俺はこう問いかけられ、迷わずに答えていた。
俺「俺は、笹子さんが好きです」
341:
横森さんは驚いたようだったが、決して笑ったり茶化したりはしなかった。
横森「マジかよ……」
俺「最初は、ただ漠然と漫画家になろうと思ってました」
俺「でも、ここへ来てからは…漫画家になって、笹子さんの気を引きたいって思っていました」
横森「お前、それで半年もかけて漫画描いたのかよ…」
俺「はい」
横森「すげえわ……」
342:
俺「変ですよね、すいません……」
横森「いやいや、そんな事ねえよ。本当にすごいと思う」
横森「きっかけがどうであれ、お前はやりきったんだ」
横森さんは、なぜだか嬉しそうだった。
横森「にしてもお前、面食いか??」
俺「そ、そんなんじゃないですよ。絵だってすごく上手だし、優しいし、俺にとっては憧れです」
横森「そっかそっかw」
横森さんはそう茶化すと、楽しそうに「ひひひ」と笑っていた。
そして、少ししてから。
343:
横森「…でもだとしたら1、お前は大変だよ」
横森「いや、めっちゃ大変だな…」
俺「…なにがですか?」
横森さんは、部室の一番奥の誕生日席を見つめた。
横森「残念だけど、笹子がお前を応援することはあり得ないんだよ」
俺「どうしてですか…?」
横森「お前、雁屋さんの事なにも聞いてないだろう?」
俺「カリヤですか? 知ってますよ。めっちゃ漫画が上手いあのカリヤですよね?」
横森「なんで知ってんだ?」
俺「コピー誌で見たからです。今も、漫画家目指してるんですよね?」
344:
そう言うと、横森さんは黙った。
俺「どうしたんですか? カリヤが何か…?」
横森「いや……」
俺「なんすか? 笹子さんとカリヤが何かあったんですか?」
すると、横森さんはゆっくりと話し始めた。
横森「雁屋さんは、自殺したんだ。俺たちが1年の夏に」
俺「え…?」
345:
俺「そ、そんな事聞いてないですよ? 笹子さんも部長もそんな事は……」
横森「オショウさんと笹子は特に雁屋さんと親しかったからな、そりゃ言わねえだろ」
俺「なんで……」
ショックだった。ショックで、全身に鳥肌が立った。
カリヤが亡くなっていた事もそうだったし…
俺は、笹子さんとオショウさんにめちゃくちゃひどい事を言ったんじゃないのか。
なんの事情も知らずに……
横森「まあ、新入生には話さないようにしてたんだよ。知る必要もないしな」
横森「お前も、他の一年には言うなよ?」
346:
俺「そんな、自殺だなんて……信じられない」
横森「まあ気持ちは分かる。俺だって信じたくねえよ」
横森「そこの一番奥の席、あるだろ?」
横森さんはそう言って、部室の一番奥の誕生日席を指差した。
横森「そこな、未だに誰も座らないようにしてんだ」
俺「なんでですか…?」
横森「いつも雁屋さんが座ってたから」
347:
俺の脳内1
NHKにようこその主人公
笹子
NHKにようこそのヒロイン
オショウ
ゴールデンカムイの坊主頭
横森
ワールドトリガーの槍使い
カリヤ
ガンダムWのトロワ
362:
>>347
全員分かるからなんか吹いたわw
348:
横森「雁屋さんはいつもその席に座って、ネームを描いてた」
横森「本当にいつも座ってるもんだから、次第に雁屋さん専用席みたいになったらしい」
俺「そうだったんすね…」
横森「俺だってさ、今でもそこに普通に座ってる気がするよ」
横森「毎回、部室のドアを開けるたびに、そこに雁屋さんがいるんじゃねえかって…」
初日に、なぜ座っていたら怒られたのか、すべての合点がいった。
部室の一番奥の席は、紛れもなく「カリヤ席」だったんだ。
349:
それは在りし日のカリヤの人望であったり、
残された部員たちの気持ちが表れたものだったんだろうけど…
俺には、みんながカリヤの幻影にずっと取りつかれてるようで、
なんだか悲しい気持ちになった。
この漫研が、そんなものを背負って活動してきたなんて、
にわかには信じられなかったよ。
350:
俺「でも、それが笹子さんと何の関係があるんですか…?」
横森「お前、察し悪いなぁ…」
俺「え、もしかして……」
そのもしかしてだった。
考えうる限りで、一番茨のルートだった。
横森「笹子は、雁屋さんの事が好きだったからな」
俺「そうなんですね……」
悲しみなのか、虚無感なのか、なんとも言えない
暗い感情に包まれたのを覚えてる。
351:
横森「笹子は、雁屋さんが漫画なんか描いてなければ死ななかったと思ってる」
俺「どういうことですか?」
横森「雁屋さんは、連載案が通らなくてずっと悩んでたんだ。ずっとな」
俺「でもそれで自殺なんて……」
横森「いや、今のお前になら分かるだろ?上手くいかない気持ち」
俺「でも、俺なんかとは……」
横森「一緒だろ」
352:
横森さんは、涙声になっていた。
俺も話を聞いているのが本当に辛かった。
横森「亡くなる直前の雁屋さんの追い込まれ方、尋常じゃなかったからな」
横森「二徹三徹なんか当たり前で、毎晩毎晩考え込んでたらしい」
横森「その様子が普通じゃなかったから、俺たちもすごい心配したんだけどさ…」
横森さんは涙をこらえるように、懸命に話してくれた。
353:
横森「俺たちが、悪いんだ」
横森「俺たちが、雁屋さんすごい!ってまくし立てて、連載楽しみです!なんて言い続けてさ」
横森「誰も、雁屋さんが死ぬほど追い込まれてる事に気づけなかったんだ」
横森さんは、大きなため息をついた。
横森「俺でさえ、こんな引け目を感じてるんだ」
横森「オショウさんや……特に笹子がどう思ってるかなんて…なぁ」
そう言われて俺は…本当に言葉が出なかった。
35

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