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【モバマス】佐藤心「私の名前は『佐藤心』」


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アイドルマスターシンデレラガールズです。
しゅがーはぁとこと佐藤心さんのお話です。
2:
「佐藤さん入りまーす!」
 ADさんの声に続いて私も大きな声で挨拶をする。芸能界は礼儀正しくないとあっという間に干されてしまうから。
 丁寧に丁寧に。でも私らしさは忘れずに。
「佐藤心です! 今日はよろしくお願います! ……でも、はぁとって呼んでくださいね☆ 呼べよ☆」
 私が挨拶をすると現場に笑いが起こった。私の事をバカにした笑いではなく、あったかい笑い声。
「うんうん! 今日もよろしくね! はぁとちゃん!」
「はいっ☆ よろしく願いしま?す☆」
 アイドルになった頃は『しゅがーはぁと』と名乗るだけでバカにするような笑いが起こったのだけど、今はこんなにあったかく迎え入れてくれる。
 ドラマやバラエティ番組、歌番組と。色々なテレビに出させてもらえるようになるにつれ、はぁとの事を知っている人がどんどん増えてくれた。
 業界の人でも私のファンだと言ってくれる人がたくさん増えた。
 もう、私が『しゅがーはぁと』と名乗っても笑う人はどこにもいない。
3:

「ねぇ、プロデューサー」
「はい?」
 仕事を終え、自宅に帰る前に事務所で寛いでいる時にふと思いついたので尋ねてみる事にした。プロデューサーはこんな時間でも忙しそうにキーボードを叩いているのだけど、雑談にくらい付き合ってくれるだろう。
「プロデューサーは自分の名前って好き?」
「あんまり考えた事ないですね。力のある名前だとは思いますけど」
「力?」
 ちょっとした雑談のつもりだったのだが、思いもよらない答えが返って来たのでちょっとびっくりしてしまう。
「はい。名前ってのはまじないなんで」
「まじないって……そんなファンタジーじゃあるまいし」
 ソファーに横たわったまま身体の向きを変える。背もたれに阻まれてプロデューサーの顔が見えないので、上半身だけを起こして背もたれ越しに顔を窺ったのだが、どうやら至って真剣らしい。
「だって魔法使いですし、俺」
 そして真剣な表情のままパソコンに向き合いながらそんな事を言って見せた。
4:
「……魔法使いって。あ、もしかしてそういうあれ?」
 男性は一定の条件を満たしたまま30を迎えると魔法使いになれるとかどうとかってのを聞いたことがあるようなないような。
「違いますって。そういうんじゃなくて、本当に魔法使いですよ」
 確かにプロデューサーって職業は普通の女の子に魔法をかけてくれる職業だとは思うけども、こうも真剣に魔法使いを自称されると少し心配になってしまう。
 プロデューサーって激務だし、疲れてるのかも知れない。そっとしておくのが吉、かな。
「あー、うん。そうね。プロデューサーは魔法使いだもんね。うんうん。わかるわかる」
 どうやら触れちゃいけなさそうなので、適当にあしらっておくことにする。自分から振っといてちょっと申し訳ないけど。再びソファーに横になってテレビを眺めていると同じ事務所の黒埼ちとせちゃんが丁度映っていた。
「そういえば、ちとせちゃんってプロデューサーの事を『魔法使いさん』って呼ぶよね」
「そうですね。ちとせもどちらかと言えば俺達側の人間なんで」
「俺達側?」
 なんかどこかひっかかるような発言をプロデューサーがしたので、ソファーから起き上がりプロデューサーの机の方に移動する。
「どゆこと?」
 シンプルに質問を投げかけてみる。ちょっと気になっただけなのだが、なんか妙に心のどこかにひっかかってしまう。
5:
「さっきから言ってるように本物の魔法使いなんですよ、俺。んで、ちとせは古くからそういうのに縁のある家の血を引いてる娘なんです。だからどっちかと言うと俺達側なんです」
 プロデューサーは一切表情を崩すことなく、パソコンに向かってキーボードをカタカタやっている。
 魔法使いと言う割には随分と近代的じゃないか。
「へー☆ 最近の魔法使いってパソコン使えるんだね☆」
 ちょっと嫌味かも知れないけど、プロデューサーが冗談で返してくるならこちらも乗っかっておくことにしよう。こういうくだらない時間が私にとっての息抜きにもなるんだし。
「魔法使いってだけじゃ食っていけないですからね。現代社会じゃデジタルを使えないと稼げないんですよ」
「思ったよりシビアだな☆ 魔法使いも☆」
「そりゃそうですよ。100年とか1000年前ならまだ俺達も魔法使いの仕事多かったらしいですけど、今の世の中はほとんど科学ですから。肩身が狭いんですよ」
 魔法使いを自称するのに科学とか言うとなんかとてもちぐはぐな感じがしてしまう。仮にプロデューサーが本当に魔法使いだとしても、確かに現代社会では魔法で食っていけるイメージは一切できない。
「大変なんだね☆ 魔法使いさんって☆」
「あ、信じてないですね。その顔」
 まぁそりゃ信じろって方が無理あるし。
6:
「だってはぁと、魔法なんて見た事ないもん☆」
 そりゃ子供の頃にアニメとかでは見た事あるし、最近だって魔法少女の役をやったりもした。でもそれらはすべて『物語』の中のお話で、全て作り物だから。
 あ、でも昔に魔法の言葉を教えてもらった事があるような気がする。記憶が曖昧ではっきりとは思い出せないけど。
「心さん、子供の頃とかに好きな人と結ばれるみたいなおまじないやりませんでした?」
「ん? そりゃもちろんあるけど。女の子なら誰だって一度や二度くらいやってると思うぞ☆」
「それが魔法です」
 ……うん。どうやらこの自称魔法使いは結構やばいらしい。今まで築き上げてきた信頼が崩れてしまいそうだ。
「そういうおまじないってのは魔法をもっと簡単にしたものなんです。本当の魔法は俺達が使わないとちゃんと効果が出ません。ですが、おまじないは誰でも使えるけど効果は不十分って感じのものなんです」
 なんとなく言いたいことはわかるけど、そういうおまじないって結局のところは偶然とかそういうやつだし。占いと一緒で当たればラッキーって程度だし。
7:
「それは術者が素人だからです。本物の魔法使いが行えば必ず成功します」
「じゃあプロデューサーなら好きな人と結ばれるって魔法が使えたりするの?」
 もしもそうならプロデューサーは意のままに人間を操れるって事になると思うけど……。
「いえ、無理です」
「無理なのかよ☆」
 思わずずっこけてしまった。今のがバラエティなら確実に褒められるくらいに完璧にずっこけた。
「そういう方面の魔法は俺の専門外ですし、あと人の心を操る魔法は莫大な魔力が必要なんです。だから俺程度では無理ですね」
「もしかして魔法使いってプロデューサー以外にも居るの?」
「もちろん。数は減りましたが居ますよ」
「おおぅ……」
 ちょっとここまで設定が詰められているとなんか壮大な妄想って感じがしてくる。奈緒ちゃんとか好きそう。
8:
「……その顔は信じてないですね」
「いやいや……。だって信じろって方が無理だろ☆」
 どれだけ話を聞かされてもやはり魔法なんて信じる事はできない。実際に見た事ないってのが最大の理由だけど、仮に魔法があったとしてもこれだけ科学が発展した現代社会で今なお魔法なんてものが生き残ってるとは思えない。
「じゃあ見せてあげましょうか」
「……へ?」
「魔法を見た事がないから信じられないって言うなら見せてあげますよ」
 キーボードを叩く手を止めて、顔もパソコンではなく私の方に向けて彼ははっきりと言った。
「マジ?」
「マジもマジです」
「えっ、でも魔法ってそんな簡単に人に見せて良いものなの? なんかペナルティあるんじゃないの?」
 某魔法使いの少年たちの小説では人間世界で魔法を使うとペナルティがあったような気がする。読んだのは子供の頃だし、映画は結局全部見ていないから記憶があいまいだけど。
9:
「ペナルティとかは聞いたことないですね。今の世にも魔法を使って生計を立ててる魔法使いは居ますし」
 現代社会で魔法を使って生計を立てるだと……!? もしかして私はソファーに横たわっているうちに夢の世界に迷い込んでしまったのかもしれない。
「いひゃい……」
「なにしてるんですか……」
 これが現実か確かめるために念のために頬をつねってみたのだけど、ちゃんと痛かった。となるとこれは現実……? え? 私の生きていた世界ってそんなファンタジーワールドだったの?
「まぁ……心さんの気持ちもわからなくはないんですけど。そうやって魔法を信じる人が減ったから俺達魔法使いも段々と減っていったんですし……」
 そう言うとプロデューサーは少し悲しそうな表情を浮かべてキーボードをカタカタすることに戻ってしまった。
 誰かに認めてもらえないのは辛い。私だって認めてもらえずに辛い思いはたくさんしてきている。
「……よし! じゃあ見せて! 魔法! そしたら信じるから!」
 私はこの人に出会えたから今こうして『しゅがーはぁと』としてアイドルをやれているんだ。なら、私がこの人を信じて認めてあげなきゃ。
10:
「言っといてなんですが、本当ですか?」
「もち☆ 女に二言は無い!」
 腰に手を当て胸を張って堂々と宣言する。女は度胸って誰かも言ってたしね☆
「……じゃあ、魔法を見せてあげるんでそっちのソファーに座ってください」
「うん☆」
 私がソファーに座るとプロデューサーは床に膝をついて私と目線を合わせた。
 じっと見つめられるとちょっと恥ずかしくなってしまう。
「んじゃいきますよ。俺の目を見てくださいね」
「ん☆」
 プロデューサーに言われた通りに目を見る。プロデューサーも同じように私の目を見ているから、傍から見ると熱く見つめ合っているように見えるだろう。
 少し恥ずかしくなってしまって目線を逸らしてしまった。心なしか頬が赤くなっている気もする。
11:
「目を逸らさないでください。今魔法かけてるんで」
「……あぅ」
 プロデューサーが真剣な眼差しのまま私の顎を手で掴んで目線を合わせてくる。
 少女漫画とかだとこのままキスされちゃう体制と言えば伝わるだろうか。というかこのまま本当にキスされちゃうんじゃないのか。
「……じゅ、呪文とか! そういうのないの!? 魔法の杖とかさ!」
 黙ったままだとなんか色々耐えられないのでとりあえず何か口を動かす事にする。もう魔法とか関係なくこのままだとなんか色々とまずい事になる気がする。だって私アイドルだし!
「呪文とか杖とかは魔法を発動しやすくするための補助なんで。得意じゃない魔法を使うなら必要ですけど、今は必要ないです。得意な魔法ですし」
「プロデューサーの得意な魔法って……?」
「時間を操る魔法です」
 そしてプロデューサーがパチンと指を鳴らすと私の意識が途切れてしまった。
12:

「うん……?」
 やけに外が明るい。電気のような人口の光じゃなくて……これは……太陽?
 目を開けると先ほどまで事務所に居たはずなのに外に突っ立ってた。しかもどうやら今は夕方らしい。
 脳が激しく混乱しているのがわかる。仕事を終えてさっきまで事務所に居た。そこでプロデューサーと魔法の話になって、魔法を見せてもらって……。
「プロデューサー……?」
 にわかには信じがたいが、これがもしも本当に魔法だとしたらプロデューサーがどこかに居ると思うのだけど。
 私が彼の名前を呼んでも返事はない。
「……どうすりゃいいんだよ☆」
 状況がきちんとわからないままではどうする事もできない。これが魔法だとしてもどうして私はこんなところに居るのか。
 きょろきょろとあたりを見回してみると、やけにこの景色に見覚えがあるような気がしてきた。
13:
「……もしかしてここって」
 どうも実家の付近にすごく似ている気がする。びみょーに違う気もするけど。私の知っている場所ならこのまま道沿いに歩いていくと、よく学校の帰りに買い食いをしていたコンビニがあるはずだ。
「えっ!?」
 でも私の記憶にあったはずのコンビニはそこには無かった。
「……いやいや。待った待った。なんでこの店があるんだよ☆」
 コンビニがあったはずの場所には駄菓子屋があった。確か幼稚園の頃だったと思う。泣いていた私を慰めてくれたお姉さんがお菓子を買ってくれた駄菓子屋さんだ。どうして泣いていたかは覚えていないけど、とても素敵なお姉さんだったから記憶に深く残っている。
 でも私が小学校に入る頃にはお店のおばあちゃんが腰を痛めたとかで店を畳んでコンビニになったはず
 だからこの駄菓子屋があるのはおかしい。
「『時間を操る魔法』ってプロデューサーは言ってた……か……?」
 意識が途切れる瞬間に聞こえた言葉。もしもプロデューサーの言葉通りなら、ここは20年以上前の世界って事になるのだろうか。
14:
「いやいやいやいや! ありえないし! そんなわけないし☆」
 口では否定の言葉を並べつつも、ここが過去の世界だとしたら周囲に見覚えがあってもおかしくはない。前に実家に帰った時に見た景色と若干違うのも過去の世界なら合点がいく。
「新聞……! そうだ! 新聞!」
 物語ではこういう時には新聞で日付を確認したはずだ。とりあえずコンビニかどっかで日付のわかるものを……!
 その時、泣きべそをかきながら歩いてくる女の子が目に入った。
「……うそ」
 前から歩いてくる女の子は……私だった。
 見間違えるはずなんてない。当時お気に入りだったキャラクターのポシェットは私の宝物で、遊びに行くときはいつも持っていた。今も実家の部屋には大切に飾ってある。
「うえぇぇ……!」
 過去の私が泣きながら私の横を通り過ぎていく。あれ、私この時に……。
「大丈夫? どうしたの?」
 思わず声をかけてしまった。
15:
「……おねえちゃん、だれぇ?」
 私が泣きながらも少し警戒したようなそぶりを見せる。そりゃ過去の私にしてみたら今の私なんて知らない人なんだし。
「んーと……。お姉ちゃんはアイドルだぞ☆」
「あいどる……? あいどるってなぁに……?」
「アイドルってのはぁ、こうやって可愛い格好をして楽しく歌って踊ることかな☆」
 私お手製の可愛いを詰め込んだ『しゅがーはぁと』を表現した私服で良かった。最近は変装かねて年相応な落ち着いた格好をしている事も増えていたし。
 でもまだまだ過去の私にはピンとこないらしい。まぁそりゃそっか。当時の私は『アイドル』なんて言葉知らなかったわけだし。
「お姉ちゃんはアイドルだからこういう事も出来ちゃうんだぞ☆」
 怪訝そうな顔のままの私にちょっとだけ歌とダンスを披露すると、目をまんまるにした後に徐々に笑顔になってくれた。
「すごいすごい! おねえちゃんお姫さまみたい!」
 さっきまでの泣きべそはどこへやら。笑顔になるとぴょんぴょんと飛び跳ねながら全身で感情を表現している。さすが私。表現力豊かだ。
「でしょ☆ でも、お姫様じゃなくて、アイドルだぞ♪」
 そこはちゃんと訂正しておかなきゃいけない。私はアイドルに自信を持っているのだから。
16:
「それよりもどうして泣いてたの?」
 目線を合わせながら過去の私に尋ねつつ、自分の記憶も探ってみるのだが、さすがに20年以上前の記憶ははっきりしない。
「……わ、わたしの……名前が」
 やっと泣き止んだはずだったのにまた泣き出しそうな顔になってしまう。
「ほら、ゆっくりでいいから。お姉ちゃんに話してみ?」
「あのね……! あのね……。えっと……、かわいくないって……」
 あぁ、やっと思い出した。そうだ。確か幼稚園の男の子に名前をからかわれたんだっけ。『しん』なんて男みたいって。
「わた……わたし……の名前が……うえぇぇぇ……!」
「あー、ほらほら泣くなって☆」
 服の袖で涙を拭ってあげる。カバンがあれば可愛いハンカチも入ってたんだけど、見当たらないしカバンは一緒に来られなかったようだ。
17:
「お嬢ちゃん、お名前はなんていうの?」
 今では大好きな名前だけど、昔は嫌いだったな。
「……かわいくないからやだ」
「じゃあお姉ちゃんが当ててあげよっか。んー、そうだなぁ。『しん』ちゃんかな?」
 私の名前だから知っていて当然なんだけど、私が名前を当てると過去の私は驚いたような表情を見せた。でもすぐにまた泣きそうな顔に戻ってしまった。
「しんちゃんは自分の名前、嫌いなの?」
「……うん。かわいくないもん」
「しんちゃんのお名前はね。漢字だとこうやって書くんだよ」
 地面で指に『心』となぞる。
「わかんない……」
「あはは。そっか。そうだよね。んー、どうしよっかな……」
 さすがに漢字を知らないと指でなぞっただけじゃわからないよね。
「あ、思い出した。ねぇ、しんちゃん。そのポシェットの中に紙とクレヨン入ってるでしょ? ちょっとだけ貸してくれる?」
 当時はお絵かきが流行っていたので私はポシェットに紙とクレヨンを入れて遊びに行っていたのだ。
18:
「うん。いいよ。でもどうしてわかったの?」
「んー? ないしょ☆ しんちゃんが大きくなったらわかるかもね☆」
 過去の私から紙とペンを受け取ると、手を引きながら駄菓子屋の前のベンチに移動した。ずっと中腰は結構しんどいのだ。
 私の横に過去の私を座らせてから、もう一度『心』と書く。今度は紙にクレヨンで。
「心ちゃんのお名前は漢字だとこうやって書くの。『佐藤心』」
「やっぱりかわいくない……」
「そうかな? この『心』って漢字は『こころ』とも読むんだぞ☆」
「こころ……」
「そ☆ 『こころ』。んでね、『こころ』は英語で『ハート』の事なの。心ちゃん、ハート好きでしょ?」
 この年頃の女の子なら大抵はハートが好きなんだけどね。まぁ確かに自分も好きだったし。
「うん。かわいいもん」
「でしょ? 心ちゃんの名前はハートなんだよ。ほら可愛い」
 少しずつではあるが表情が明るくなってきた気がする。可愛いとか可愛くないってのは女の子にとっては重要な事なんだよね。
19:
「ハートだけでも可愛いけど、こうやって……『はぁと』にしてあげるともっと可愛いでしょ?」
 紙に書いた『心』の上に平仮名で『はぁと』と書き足す。『しゅがーはぁと』の『はぁと』を。
「ね?」
 紙を過去の私に手渡すと、過去の私はパァっと笑顔になって大きな声で「うん!」と言ってくれた。
 よしよし。これなら大丈夫そうかな。
「心ちゃん、どう? これでもまだ可愛くない?」
「ううん! わたしの名前ってかわいい!」
「うんうん☆ 良い笑顔だな☆ よし! じゃあお姉ちゃん、その可愛さを評して何かお菓子買ってあげよう☆」
「いいの!?」
「もち☆」
 私の記憶ではこの後にお菓子を買ってもらったはず。だから私も同じようにお菓子を買ってあげなきゃいけないのだが……。
20:
 よく考えたら私お金持ってないような……。だってカバン持ってないし財布なんて当然ないし……。でもお菓子を買ってもらった記憶はしっかりある。となるとどこかにお金があるのだろうか。
 スカートのポケットに手を突っ込むと、小さな金属の塊に手が当たった。取り出してみると100円玉が4枚入っていた。
「……なんで?」
 普段の私はポケットに小銭を突っ込んだりしないから、こんなとこにお金が入っているわけはないのだが。それも100円玉ばかり。
「おねえちゃん! これいい!?」
 駄菓子屋の中から私の声が聞こえてきた。とりあえず考えるのは後回しにしよう。400円もあれば駄菓子屋なら充分に足りるし。
「おっけーおっけー☆」
 ピンク色のこざくら餅。可愛くて好きだったのを思い出す。あれ、この頃ってまだこんなに入ってたんだっけ。
「おばあちゃん、これ二つくーださい☆」
「あいよ。40円だね」
「100円でお願いします☆」
 会計をしながらこざくら餅を過去の私に渡すと、外に元気に駆け出して行った。
「まったくもう☆ 元気だなぁ」
 すっかり元気になった過去の私を見ているとちょっと嬉しくなってしまう。
21:
「はい、おつり。60円」
「あ、ありがとうございます☆」
 私がおつりを受け取ろうとするとおばあちゃんが声を小さくして私に囁いた。
「プロデューサーにちゃんと返すんだよ」
「えっ!?」
「おねえちゃーん! 食べてもいーい!?」
 外で過去の私が私を呼ぶ声が聞こえる。
「ほら、行った行った」
「え、あ、はい」
 駄菓子屋のおばあちゃんからおつりを受け取って、スカートのポケットに突っ込む。きっとおばあちゃんに問い質しても答えてはくれないだろうし、あとでプロデューサーに聞いた方が早そうだ。
22:
 駄菓子屋から出ると過去の私がベンチに腰掛けて足をブンブンと振っていた。よほど嬉しかったんだろう。
「美味しい?」
「うん! 美味しい!」
 私も封をあけてつまようじで刺してひとつ頬張る。うん。懐かしい味だ。
「わたしも……」
「ん?」
「わたしもおねえちゃんみたいにかわいくなれるかなぁ」
 こざくら餅を頬張る手が止まる。
「……もちろん。女の子はね。魔法にかかるとどんどん可愛くなるんだぞ☆ だから私が心ちゃんに魔法かけたげる☆ えいっ、スウィーティー☆」
 プロデューサーが私にしたように指をパチンと鳴らす。気休めのおまじないにすぎないけど、おまじないなら誰でも使えるってプロデューサーは言っていた。それに私がこうしてアイドルをやっているのが何よりの証明。だからこのおまじないは……魔法はちゃんと効くはずだ。
23:
「ありがとう! ところですうぃーてぃーってなぁに?」
「スウィーティーな☆ これは魔法の呪文だぞ☆」
「魔法かぁ……。ねぇ、おねえちゃんも誰かに魔法をかけてもらったの?」
「どうして?」
「だってとってもかわいいから!」
 ……その時、ふと彼の顔が頭をよぎった。いつも私達のために頑張ってくれている素敵な彼の顔が。
「うん☆ とびっきり素敵な魔法使いが居るから♪」
 遠くの方で音楽が聞こえ始めた。『遠き山に日は落ちて』だっけ。これが聞こえたら帰ってきなさいってお母さんに言われてたな。
24:
「あ! ごめんね! おねえちゃん! わたしそろそろ帰らなきゃ怒られちゃう!」
「じゃあね、心ちゃん。これからも『はぁと』をよろしくね☆」
 もっと先、ずっと大事にしていた『はぁと』が『しゅがーはぁと』になって花開く時が来るから。その時までずっと大切に。そうしたら『佐藤心』って名前を好きになるから。
「ありがとう! おねえちゃん! ばいばーい!」
「ばいば?い!」
 ブンブンと大きく手を振りながら私が駆けていく。その背中を見送りながら残っていたこざくら餅を口に放り込む。
「さて……。こっからどうするかなぁ……」
 これからどうすればいいか全然わからない。どうやって帰ればいいのか見当もつかないし。駄菓子屋のおばあちゃんに聞けばわかるのだろうか。
「まぁ……いっか。懐かしいし、ちょっと……のんびりしていこう……」
 私も売れっ子アイドルになって忙しい毎日を送っているわけだし。こうしてのんびり出来る時間はとても貴重。せっかくだし、ゆったりとした時間を過ごしていこう。
 遠くに聞こえる音楽に耳を傾けていたら瞼がどんどん重くなってきた。やがて目を開けているのが辛くなってきた頃、音楽に混ざってパチンと言う指を鳴らす音が聞こえた気がした。
25:

「んぁ……?」
「おかえりなさい」
 目を開けると事務所だった。外は夜だし、私はソファーで横になっていた。
「夢……?」
「何がですか?」
 キーボードを叩きながらプロデューサーが尋ねてくる。
「……だよねー☆ 夢じゃなきゃおかしいし☆ 魔法なんてそんな、ねぇ」
「はぁ……。この人はまったく……」
 プロデューサーがキーボードを叩く手を止めると頭を押さえてうなだれてしまった。
 首を回して時計を見ると結構な時間が経っているらしかった。丁度過去に戻っていたのと同じくらいの時間。
「まさか、ね……」
 まさかと思いつつもスカートのポケットに手を入れると、小さな金属の塊に手が当たった。360円。
「……え? マジ?」
 どうやら、あれは夢じゃなかったのかも知れない。
End
26:

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