やる夫ショートストーリーセレクション Ep289 できない夫は潜りさまだったようです
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ヽ 丶 ヽ ヾ丶ヽ ヾヽ、丶＼ 、 丶、 ＼.、ヾ ヽﾟ ゞ ヽ＼ ＼ ヽ
＿/__/＿ // ヽ＼、ヽ 丶ヾ＼ ヽ ゝ 丶丶 ヽ ヾゝ ゞヾ ヽ丶
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/ ヽ＼、ヽ 丶ヾ＼ ヽ ゝ 丶丶 ヽ ヾゝ ゞヾ ＼
＼ 丶 ヾ 丶ｖ ＼ ヽ ＼丶丶、 丶＼ ヾ 丶丶＼、 ヽ ＼ ＼. 丶
ヾ丶＼ 、＼ヽ 、丶＼ ＼ ＼ ヾ 丶 ヽ丶 丶 ＼ヾ ヽ丶丶 ＼、＼
ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶＼ ＼ 丶 ＼ 丶 ヾ丶＼ ＼ヽ ゝヽ丶＼丶┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
ヽ ＼ 丶＼丶ヽ＼ 丶 ヾ丶 丶丶 ＼丶 ヽ ＼ ＼丶 ヽ ヾ ゞ. ┃ できない夫は潜りさまだったようです ┃
＼丶 丶＼ ＼.ヽ，丶＼丶, -―- 、...ヽヾ ＼ 丶 ヽヾ＼ ＼丶＼ ＼ヾ. ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
＼ ヽ ＼ 、丶 ＼ ｖ.ﾞl::::: l.ﾞ丶丶 ＼ 、丶 ＼ ＼ ヾ 丶 ｖ ＼
＼ 丶 ヾ 丶ｖ ＼ ヽ |:::::::::: | 丶＼ ヾ 丶丶＼、 ヽ ＼ ＼. 丶
ヾ丶＼ 、＼ヽ 、丶＼ ヽ .ノ......丶 ヽ丶 丶 ＼ヾ ヽ丶丶 ＼、＼
ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ....../ .ヽ...... ＼ 丶 ヾ丶＼ ＼ヽ ゝヽ丶＼丶
ヽ ＼ 丶＼丶ヽ＼. （ | | |....丶 ＼丶 ヽ ＼ ＼丶 ヽ ヾ ゞ 丶
＼丶 丶＼ ＼.ヽ，丶＼丶..ゝl |' 丶ヽヾ ＼ 丶 ヽヾ＼ ＼丶＼ ＼ヾ ゝ
＼ ヽ ＼ 、丶 ＼ ｖ.. ｀.|＿） 丶丶 ＼ 、丶 ＼ ＼ ヾ 丶 ｖ ＼
ﾄｳﾔﾏﾙ
●熊谷達也氏の洞爺丸事故を扱った短編小説「潜りさま」が原作です。
●一部の方言は、現地の方は違和感を感じるかと思いますが、
そのときはご容赦下さい。
.
4
こういうノンフィクション小説のやる夫化大好物や
期待して待つ
8
┌─────┐
│ 津軽海峡 │
└─────┘
＼ ＼
＼ ＼
＼ 北海道. ＼､
} ＼
| ＼_
/ ｀---､_
/ ____ :＼
¨´ / 函館港. ,,,__ノ
/ ,ノ. ☆⌒-‐-_ ／
// ,,,___／. / `ｰ‐'´
| ||. │
/ || │
| }. │
∨ __ノ │ ∧_
｛ ,ｧ‐‐´ │ ﾉ `ｰ--､_
＼＿__ // │ / ＼ _,
¨'′ │ / ＼_ ,,／ }
↑ ◆. / ｀`--‐´ /
│. | /
,,__ │ / / ＼ |
| ＼_ ／ヘ、 │./ _／ ＼ |
/ ｀¨' ＼ │ | __,-‐'￣¨¨´ ｀} ｜
=彳 | │ `‐´ // ｜
日 ヽ | │ { | 太
本. | | │ | |. 平
海. | | │ ,/＼､ | ｜ 洋
/ | │. 〈| ＼ ,/ ||
| ‘| │ } ｀￢､ ノ |
/ ＼` ／ ｀ー´ ｜
/ ☆´ ｜
,＿ ,-‐′ 青森港 ｜
// ｀¨´ |
,/ ｜
_,-‐′ 青森県 ‘，
{: ＼_＿＿,
.
9
／ ｀ヽ
! 弋.ノ ﾋﾞｭｩｰｯ
ゝ... _＿＿＿_
l=ﾆ二三γ了三ﾆ=l , ', ' ,'| ::| ', ' ,
｀]｣＿ ,．' ,' | ::| ', ' ,. ／ ｀ヽ
n /丁ｌ／ -‐ ' ４ ,' _| ::| ', ' ,. ! 弋.ノ ﾋﾞｭｩｰｯ
／ ｀ヽ || ｀丁| , ' ｣| ,' ｜::! |{, ' ,. ゝ... _＿＿＿_
! 弋.ノ ﾋﾞｭｩｰｯ. ,┌='_ﾆ二二三三 , '三三二ﾆ=ｭ｜::! || ', ' ,
ゝ... _＿＿＿_. |/｀ｴ,Τ_丁_丁_丁_丁_丁_丁Τｴ｜::! || ', ' ,
/lﾆ二二二三三三三三三三三二二| ::| ｚ TｌΤ￣Τ￣ΤT､
ﾚ|| _.Ｚ]ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ[｀|_Z. -┴┴―┴―┴ ' - .._
｢|￣￣. ／ ｀ヽﾞ￣￣￣ -‐ '''"´ , ､ ／
|l| 囗 . ! 弋.ノ ﾋﾞｭｩｰｯ. rャ rゃ ｰ' rゃ rｬ／
|,| , ゝ... _＿＿＿_...-‐ ´ ／
|l| ,．'´ _ -‐ / ／ ｀ヽ
Z zｧ _ /_ ! 弋.ノ ﾋﾞｭｩｰｯ
r／ /' ∨r ､ ,/∨ ゝ... _＿＿＿_
｢ / ∨_| ,/∨
| l| / ､ ∨ /∨
＝＝＝＝= = ‐ ｌ、 / /―――――――――――――‐
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:::::::::::::::. がぶるな、今日は……. :::::::::::::::
::::::::::::::: :::::::::::::::
::::::::::::::: :::::::::::::::
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┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
畠山できない夫はそう胸の中で呟き、
麻布製の背嚢とずだ袋を手元に引き寄せると、
三等船室の畳に体を横たえた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
10
┌──────┐
│船内 │
│三等船室 │
└──────┘
∧∧ . . . . . ||
: . : , (ﾟ－ﾟ ；) ... ; .||
;::: ; ; : ; , , : : : /ー-ヽ ; ;.||
冫、; : . :: . ; : . :. . ; /( / ) : .:; ||
`;, , .;; . ,, . ; ; ; ; (_iつとi)_/ . , ..:||
= ＝=＝ =＝= = = ＝＝＝ (＿＿＿ﾉつ＝=.＼
〃
〃 ∧＿∧
/ ∩´A､｀ *)＿＿＿
/. i^Yヽ_/~''^ヽ ⌒ヽ＿＿
〃 ,しと二二iノ――──､＿＿_ilつ
=＝＝＝===＝＝＝=＝＝＝===＝＝＝＝==＝
ｺﾞﾛﾝ ,, -─- ､._
／ ヽ
| |
| ノ ヽ､ .|
| （●）（●） | （まあ、この程度で船酔いなどしねが……）
ｌ^l^lｎ. ｜ |
ヽ. L __´___ ﾉ ／￣＼
ゝ ﾉ.,＿,, ' ⌒''ｰr─､_／ ＼
／ /. ｀￣| < ／''＼ ＼
.／ / <|,,,,,ﾉ ￣￣ ── ＿＿
人＿＿ﾉ＼,,＿＿＿＿＿＿,,,＿＿＿＿,,＿＿＿＿ 二}
.
11
八 頭 身 ワッショイ ！！
ﾟ ＼＼ 八 頭 身 ワ ッ シ ョ イ ！！ ／／
。 + + ＼＼ 八 頭 身 ワ ッ シ ョ イ ！！ ／+
＊ + . ＼＼ + 。. . ／ + *
,,,,, ＊ 。 o
o ｍ (っｌｌ)＼ ,,,,,＿＿＿_
）| | ＼＼ (ｍｎ)＿＿ ヽ ＊
+ （ _ｌ ∧＿∧ ｎｍ 〉 .〉 ∧＿∧ / / 。 ﾟ
＼ ＼_（´∀｀ ） / ノ ∧＿∧ / ./ （´∀｀ ）/ / 。
。 * ＼＿￣_￣ ）/ / （´∀｀ )/ ./ （~⌒＼ ﾄ/ ） ＊
／￣ ＼ /＼ ￣￣ ~ / ＼＼ ＼_／ / ・
,⊂二二／〉 / ￣￣| イ./ ＼＼__／| + *
/ / ヽ | ,) ﾉ
。ﾟ （ <./ ＼ ＼／⌒＼ ﾉ、 * 。
＼ ＼ 〉 ／＼ ＼ γヽ 。 +
* / ＼ ＼ ／ ＿／~ / ＼ V _ノ
/ / > / ／ ／＾ / | ＼__）| + ﾟ 。
＊ 。ﾟ ／ ／ | / ＼ ＼ ／ ／ ＼ ＼ 。 +
/ ／ | / ＼ ＼ ／ ／ ＼ ＼ 。 o
< 〈 / /__ __> _><_ <_ _> _>
* + ＼_） 〈_ __＿） （__／ ＼__） （__／ + ＊
＊ + 。 + 。 + ＊ 。 。 +
* o + 。 +＊ + 。 +
+ 。 o
／￣￣＼
／ ─' ＼
| （ ●）（●）
| ｜ | ……
| Ｕ __´___ﾉ
| }
ヽ }
ヽ ノ
/ く
| |
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
それでも50に届いてしまった身だ。
20代、30代という、
他の「かつぎ屋」連中のような盛りはとうに過ぎている。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
12
∧∧ . . . . . ||
: . : , (ﾟ－ﾟ ；) ... ; .||
;::: ; ; : ; , , : : : /ー-ヽ ; ;.||
冫、; : . :: . ; : . :. . ; /( / ) : .:; ||
`;, , .;; . ,, . ; ; ; ; (_iつとi)_/ . , ..:||
= ＝=＝ =＝= = = ＝＝＝ (＿＿＿ﾉつ＝=.＼
〃
〃 ∧＿∧
/ ∩´A､｀ *)＿＿＿
/. i^Yヽ_/~''^ヽ ⌒ヽ＿＿
〃 ,しと二二iノ――──､＿＿_ilつ
=＝＝＝===＝＝＝=＝＝＝===＝＝＝＝==＝
,, -─- ､._
／ ヽ
| |
| ノ ヽ､ .|
| （＝）（＝） | 休める時には少しでも休んでおかねど……
ｌ^l^lｎ. ｜ |
ヽ. L __´___ ﾉ ／￣＼
ゝ ﾉ.,＿,, ' ⌒''ｰr─､_／ ＼
／ /. ｀￣| < ／''＼ ＼
.／ / <|,,,,,ﾉ ￣￣ ── ＿＿
人＿＿ﾉ＼,,＿＿＿＿＿＿,,,＿＿＿＿,,＿＿＿＿ 二}
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
これがこれまでの仕事と軍隊生活で
長年培ってきた習い性となっていた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
13
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
できない夫がいる三等の雑居室は、
船底部のボイラー室や機関室のすぐ上にあり、
畳敷きの床面は喫水線より下になる。
したがって、両舷の上部に明かり取りの丸窓があるものの、
外の景色はまったく見えない。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
ｾｲｶﾝ
【青函連絡船の構造】
┌────┐
│ 船橋 │
┌───┴────┴───┐
│ 一・二等船室 │ ← 上部遊歩甲板
┌─┴────────────┴─┐ ← いわゆる甲板のライン
│ 食堂・ホール・事務室 │ ← 下部遊歩甲板
├────────────────┤
│ 車輌甲板 │
～～～～～～～～～～～ ├────────────────┤ ← 喫水線のライン ～～～～～～～～～
【今ここ】 → │ 三等船室 │
└┬──────────────┬┘
│ 機械室・ボイラー室・船倉など │
└──────────────┘
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
観光のために乗るのであれば、
下部遊歩甲板の三等椅子席に陣取るところだが、
できない夫にはその必要は無かった。
この青函連絡船には、
いつも商売のために乗っているからだ。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
----------------------------------------------------------------------------
14
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
幾度となく津軽海峡を往復していれば、
海の景色など見飽きてくる。
ましてや、今日のように風が強くて船ががぶる時は、
船底に近い雑居室の方が揺れも少なく、
畳敷きなので、横になって体を休めることも出来る。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
_∧_ _∧_ _∧_ _∧_ _∧_
（・◎・） （・△・） （・ |: ・） （=・◎・=） （＇◎＇）
∧
肉
∩´◎｀)
ﾉ つ
（ ⌒lノ 米 中～
し' (ﾟ∀ﾟ∩ (`ハ´)
/// ( ノ | |
、. ,
. , ,.┘ ､ ～ 。
. l （● ─）
. | ! |
ヽ ´ノ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
周りを見回すと、4、50名の同業者たちが、
思い思いの姿勢でくつろいでいた。
仲間同士で雑談をしたり、
トランプをしている者もいるにはいたが、
ほとんどの者は、できない夫と同じように身を横たえ、
むっつりと口を閉ざしている。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
15
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
一方、普通の観光客や旅の者は、
「かつぎ屋」たちと同じ区画に席を取るのを嫌ってか、
少し離れた位置に固まっていた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
, -― 、
／ ｀ヽﾊ
」〈
, -‐''¨￣7 ￣￣ ≧ﾐ 、
／ ／´￣｀ ＼＼
/. / ,个, ｌ:|ヽ、 ﾑ ヽ
/ / ./|::|::ﾄ ||::|::|ヽ l
l ./ M::|::|:::|', /|::|:::|::|ヾ ヽ、
| ｲ|, ―-J /::|（ ） l ト-
. ｌ Ⅳ l .〔＿＿ノﾚ:|::|::|｀::|::´И| |
l.ﾄ ∨ .Vﾍｌ::l:::l:::l::! ,、 /〃
./¨l:::ヽ.∨∧ ヾ￣￣´ ｵｲ ﾑ'
ヾ::::ヽ::::｀ヽ ゝ-..＿__｀||≦´| |
｀ヾ:::::/ >、ﾊ ≧、 ﾊヽ .| |
｀∨|___ヽ ﾊ /〈 | ヾ〉 Ⅵ.|
,ｲ/ ヽ ヾﾊ ヽﾔ ﾄ Ｗ
.ヾ/ ∧ .∧ﾊー-｀ 〈 ヽ、 , -‐- 、
./. | ∨ .∧ﾊ ﾟ。ヽヽ ,.- ''¨´￣｀ヽ、 ヽ、
/ | ∨ ∨ ,.- '´ .＼ ヽ、
| | ∨ .∧ ／ ,⊥ .＼ ヽ、
| i | ∨ .∧ ／ ヽ、 ＼ ヽ、
| | ヽ ∨ .∧ ／ ヽ、 >＜二ニ)
', ', ', ∨ 〉=＜ o ＼ ／ ｿ
以 ｀ー--ヾ-≦＿__> ｀´｀ー――‐´
ヽ｀ヽ--------、ヽ、
） ）
ー―=彡'´
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
揺れが激しいためだろう。
どの客も口数は少なく、
中には青い顔で戻している者もいる。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
16
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
「かつぎ屋」といっても、
決して胸を張れるような仕事ではなかった。
できない夫が運んでいるのは、
青森で仕入れてきたヤミ米――、
寿司屋や料亭などで使われる秋田米で、
それだけよい金になる。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
_, _ ,､
, - ´ ｀ ‐- 、
ノ 丶
／ ｀ ､_
, ´ 、
, ' 丶
ﾉ ヽ
＿,'＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_',＿
ヽ三三三三三三三三三三三三三三三三三三ﾉ
ヽ /
ヽ三三三三三三三三三三三三三三三/
＼ ／
＼三三三三三三三三三三三／
｀ ＜ ＞ ´
｀丁三三三三丁´
＿ ｀ ｰ----‐ ´
／: :冫＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_
（;_;_;ﾌ ｰ─‐ ---＝＝ === ニニニ 二二二 三三三｣
.
17
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
「かつぎ屋」商売が食糧管理法に違反していることなど百も承知だ。
戦争が終わってからはや9年になるというのに、
北海道では相変わらず米不足が続いている。
一方、内地での働き口不足も、未だに解消しきっていない。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
【北海道】. '。〈＼ ｨｧ-' γ´￣￣￣￣｀ヽ
l ＼ ,_ r'" | コメ求む！ |
ﾉ ￣-イr" ｭ. ゝ＿＿＿＿__,ノ
r-J ＿ゝ'ﾞ
r' r､ - ._ /~
ﾟ l ﾆ> ｀'
~
│ ↑
金・海産物 │ │ 米
↓ │
【内地】 ,iｰ-、. γ´￣￣￣￣￣￣￣￣｀ヽ
lﾞ ﾞ''"ﾞ>. | 金、仕事クレクレ～ |
iﾞ´"< .lﾞ _,,ノﾞ| ,!. | コメならある！ |
lﾞ ｌ ｀,,、 lﾞ ! ゝ＿＿＿＿＿＿＿＿___,ノ
! ﾞ‐' ｀''" | ＿/＼／＼／＼／＼／＼／＼／＼／＼／＼／＼/＼／|＿
,-'''" ｌ ＼ ／
. ! _. ﾞ''- ＜ ──. ｜ ＞
｝ "''''"｀ﾞ'''" ﾞl _ ... / ﾞ'､ ＜ ／＼ ／＼て | ＞
! l-'"゛ ﾞl, ＜ |（●）（●）| そ｜ 食糧管理法違反だろ、 . ＞
＜ . | （__人__）；| ｜ 常識的に！ ＞
＜ ! \\\ / ｜ ＞
＜ ヽ｀⌒´ ﾉ | ＞
＜ / ニニ⊃彡 ＞
＜ 【警察】 | | ｜ ＞
／ ＼
￣|／＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/＼/￣
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
特に、零細農家の次男坊や三男坊ともなると、
青函連絡船を使って北海道にヤミ米を運ぶ「かつぎ屋」が、
依然として手っとり早く現金を稼げる手段の一つであった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
18
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
天井を縦横に走っている様々なパイプに目を向けながら、
青森市内の姉夫婦の家に残してきた
妻のことをぼんやりと思う。
恵子は、今回も一緒に荷をかついで函館に行きたがった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
≧s｡:::::::::::＞＜ﾆﾆﾆ≧s｡_‐_‐_‐_‐＞.，: : : : : : : : : : : : : : :＼＼: : : : :＼_‐_‐_‐_‐＼======ﾍ::::::: ∧∧:::∨∧::::::∨ / : : : : :
｀' ＜ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ_: : : : : : : : : :＼＼: : : : : 寸ZZZZZZZZZZZム:::::: ∧∧::∨:∧::::::∨ / : : : :
s｡., ≧s｡.,＿__＞＜ニ≧s｡.,_‐_‐_‐_‐_‐_‐_`ヽ､: : : : : : : : ＼＼: : : : : ＼_‐_‐_‐ ＼====ﾍ::::::: ∧∧::∨:∧::::::∨ / : : :
i:i:i:i:i:≧s｡., ≧s｡.,＿＞ ,ィ升≧s｡.,_‐_‐_‐_‐_‐_ `ヽ､: : : : : : : ＼＼: : : : ::＼_‐_‐_‐ ＼===ﾍ::::::: ∧∧::∨:∧::::::∨ / : :
｀`' ＜i:i:i:i:i:≧s｡=======彡'´＿＞＜ﾆﾆ≧s｡_‐_‐_‐_‐_‐ `ヽ､: : : : : : ＼＼: : : : :＼_‐_‐_‐_,＼=={＼::::∧∧::∨:∧::::::∨ / :
: : : : : : :｀`'＜i:i:i:i:≧s｡., ≧s｡.,＿＞＜ﾆﾆ≧s｡_‐_‐_‐_‐_‐`ヽ､: : : : : ＼＼: : : : :＼_‐_‐_‐ ＼ ﾍ::∨:∧∧ ∨ ∧:::::∨: : :
: : : : : : : : : : : ｀`' ＜i:i:i:i:≧s｡., ≧s｡.,__`'' ＜ﾆﾆ≧s｡.,_‐_‐_‐_‐`ヽ､:_:_:_:::＼＼: : ::::::＼_‐_‐_‐_＼|:|==:∧∧:∨::∧___〉: : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : :｀`'' ＜i:i:i:≧s｡: : : : : : ￣￣`'＜ﾆﾆ≧s｡＿,.｡o≦ |::::::::＼＼: : : : ＼_‐_‐_‐ |:|∨: :∧∧:∨::/::/: : : : :
ｒ'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'ヽ
（ ＿＿＿ ）
） , ´:::::::::::::::::::::::｀ ､ （
（ ／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ . ）
） ／/:::::::::::::::::::ハ::::::::ハ:::::::::::丶 （
（ ∠___{:::::::::::::::|:ﾉ.ノ |从|ヽ|:::::::::ハl .）
） l::::::::::(| |（ ●） .(●::ﾉﾚ´ （
（ l:::::::::::ﾍ| ,, r-ｧ .ﾘ:ﾉ ）
） l:::::::::::::l.ヽ .￣ノ:::::::} （
（ l:::::::::::::l .ﾍ い::::::} ）
） l:::::::/"`￣／⌒)^ヽヽ （
（ l::::::| Y / ∠ }' ! ）
） l::::::.|. V r＜ 〈 | .（
（ |ﾙ:l ', /:::. ..ヽ ヽ ）
） ゝｰ' ＼ノ .（
丶～'⌒'〇'⌒'～⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'´
Ｏ
o
ﾟ
／￣￣＼
／ -‐' ＼
| （ ＝）（＝）
. | | l ……
| ___´__ﾉ
. ｌ^l^lｎ }
. ヽ L }
ゝ ﾉ ノ
／ / ＼
／ / ＼
. / /
.
19
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
合わせて二俵分にもなる米を
. ﾖﾜｲ
五十齢の人間が一人で運ぶのは流石にきつい。
それもあって、
二人分の船賃を払わなければならないことには目をつぶり、
以前は恵子と二人で海峡を渡ったことも多かった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
，，＿＿＿ ，，
； , ´:::::::::::::::::::::::｀ ､ ； ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ
. ； ／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::｀ヽ ；
／/:::::::::::::::::::ハ::::::::ハ:::::::::::丶
∠___{:::::::::::::::|:ﾉ.ノ |从|ヽ|:::::::::ハl
l::::::::::(| |（ ＞） .(＜::ﾉﾚ´ ；
. ； l:::::::::::ﾍ| ,, __ ﾘ:ﾉ ；
l:::::::::::::l.ヽ .ノ::::}
l:::::::::::::l .ﾍ い::::::} ，，，，，，
. ； |:::::::::/"`|￣￣￣￣Τ￣￣￣￣| ；
. ； |:::::::::ヽ ヽ .| | ；
|ルﾍﾊ|ヽ ヽ | |
； | |ヽ＿ヽ | | ；
； |_L弋__ノ＿＿|＿＿＿＿_| ； ／￣￣＼
. | : : : : : : : : : | ／ _ノ ＼
| : : : : : : : : : | （●）（● ） u. |
； |: : : : : : : : : : :| ； | ｜ u | よ……ッ
. ； |: : : : : : : : : : : :| ； | __｀__ |
. |: : : : : : : : : : : : :| /＿＿ヽ |
. ^^^|^^^|^|^^^|^^＾ { u. /
. | |..| | ゝ <
. |＿_|_」＿_|＿_ 〃￣￣〃￣￣〃￣￣〃 ヽ ｨ'⌒ヽ
{＿＿＿)＿＿). ll/////.ll/////ll///.（⌒´￣￣ ￣ 〉
{{.////.{{/////{{////.{{.TT ''ー─ i
ll/////.ll/////ll/////ll////_} |
ヾ､ ＿＿､＿＿＿､＿__ヾ､_ノ | ) )
┌────────────────────────────┐
│ │
│ 〃￣￣〃￣￣〃￣￣〃 ヽ │
│ ll/////.ll/////ll/////lｌ////! │
│ {{.////.{{/////{{////.{{/////} 一俵＝約60kg * 2 で120kg。 │
│ ll/////.ll/////ll/////ll////_} │
│ ヾ､ ＿＿､＿＿＿､＿__ヾ､_ノ │
│ │
│. │
└────────────────────────────┘
.
20
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
函館の駅裏にある闇市で米を売ったあとは、
そのころになってようやく元気を取り戻しはじめた恵子と一緒に、
函館山に登ったり、五稜郭へ遊びに行ったりした。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
＞≦三ﾑ
＿＿＿＿＿＿＿＿}{ ＞≦ﾆ＜ 寸ﾑ
|三三三三三三三三}{三＞ ＞＜ハ Vﾑ
|三| r──ｧ＿＿＿＿＿/ .V Vﾑ
|三| | r ' Vﾑ
|三| ｀7 V Vﾑ
|三艾 / V ＜≧ｭ，
ﾉ三圦 ./ 仝仝仝仝 V ‘＜≧ｭ，
／三艾 / 巛巛巛]仝 ｰ── ､ ‘＜≧ｭ｡
／三／ __/ 乂 寸ﾆ}
／三／ ／ ／⌒寸＞' r≦ﾆノ
／三／ ∠＿＿彡 ￣￣￣ ＼ ／ rｭ｡_ ,r≦三＞‘
ｲ三∠＿ ＼ ／ /三三＞‘
人三三三三≧=ー─≦..//____ / ∧ r≦三＞‘
｀¨''＜三三三三//ﾆﾆ7 .| | }三V
|三| 寸三＼ ＼ ／ .／三7
|三| 寸三＼ ＼／ .／三／
|三| _｡＜三＼三＼ ／三／
＿＿＿＿ |三|＜三＞‘ ＼三＼／三／
／:::::::::::::::::::::::＞:.、 ＼＞‘ ＼三三／
_,/:::::::::::::辷三/二＼:ヽ ＼／
／/::::::::ｌ:ﾉ-‐ﾚ⊂三乂__ヽl
／ |::::::::::|（ ●） (●|::|ヽ ヽ
￣￣|:::::(|::| ,, r‐ｧ .,|::| ヽ ヽ. （⊃￣￣＼
|:::::::ﾍ|、 ￣ ノ:iﾍ|/ / （⊃ 「 ＼
|:::::::::::::ﾍ＿__Yﾞ:::少 /. （⊃ （ ●）（●）
|:::, -─ヽ／ヽ|‐'ﾞ ／. | ｜ |
|:/ ｖ'´. | __´___ﾉ
| `ー'´ } ＼
／ヽ }. ＼
／ ヽ､.,＿＿__ノ ）
／ . | ＿／
| ／￣￣（＿)
＼ ＼ ／| ＪＪＪ （
＼ ／ ／⊂＿）
.
21
┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓
たまには奮発して、
湯の川温泉に泊まることもあった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ※湯の川温泉：函館市内にある温泉
,..:-:::´￣｀‐-.、
／:::::::::::::::::::::::::::::ヽ
／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
. /:::::::::::::::::::/ﾏ:::::::::::/ﾏ:::::::::::::i __
ｌﾊ:::::::::::i::/-‐ﾏ::::::/‐-ﾏ:i:::::::::レ':::::ゝ
. ﾏﾏ::::|/,.:-ﾐ|ﾊﾊ| ,.-.､'|:::::::::i:::::∠
. (|::::|´ﾏ:::! ´ﾏ:::!｀:::::|):|:Y´￣
. |::::| ｘｘｘ , ｘｘｘ |:::::|:ﾉ::}
. |／ヽ /＼|:::ノ
ヽ ‐ ／ー一´
三三三三三三三三三三=∧｀ ´ iﾆ´三三三三三三三三三三
三三三三三三三三＞－ ノ l¨ ＜三三三三三三三三三
三三三三三三_／ ｰ- ､ ＿ , ｀ .､三三三三三三三
: : : : : : : : : : : :.:′ ` ´ ‘: : : : : : : : : : : : :
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.
22
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
そんな時は、何か新婚当時に戻ったような
照れくささを感じながらも、
戦争に負けてしまったとはいえ、
やはり平和な世の中はよいと思ったものだ。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
_ | || | =‐- _|ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ
';ヽ￣三二ﾆ=‐-- | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
';'; '; | | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
';';';';∨⌒ヽ,, ,,, | | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
';'; ';';'; ';';'; '; '; ; | | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
'; ';';'; ';'; ';';'; ' ;' | | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
,, ,, ,, ,, ,, ,, ,, , , | | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
,,:',,:',,:',,:',,:',,:',,:',,:| | || | ‐- |‐- |‐-｜ : : |
,,:',,:',,:' ,,:' ,,:' ,,:','| | || |=‐- _| |
,,:' ,,:' ,,:' ,,:',,: ' : | | || |: : : : : : : :| | | |
爻x ,,:' ,,:' ,,:' ,,: | | || |: : : : : : : :| | | |
爻爻⌒ﾝ⌒v^ | | || |＿＿_________| |
淡淡爻爻Xxx | | || |///////// | |
￢┘冖⌒´ | | || |///////// | | γ ⌒ ヽ
| | || |///////// | _ -= r┐_r┐ 人 人
_ -‐ ￣| || |/////////_|二＞ '"¨”￣￣￣￣￣ (ヒ|__|__|＞Y＿竺／￣三二ﾆ=‐-- _
_| -‐= 乂〕ト ＿＿＿＿＿＿＿＿___彡'---=ﾆ二三＿三二ﾆ=---
_ -‐= |/|‐--=ﾆ二三＿＿|/|ﾆ=- |/| ￣ ‐-
_ |/| |_| |/| |/| ＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿ ￣三二ﾆ=-- |/| ／: : : : メ: : : : : : : :/ ／
_ ＼＿＿＼ ＜: : : : : : : メ: : : : : : : ＞ ~ 三二ﾆ=‐- : : :_/／
￣三二ﾆ=---
＿＿_
／ ＼
／ 「 へ ヾ
| （●） （●） |
| ｘｘｘ | ｘｘｘ |
| __｀__ |
| u. ノ⌒⌒ヾ
ヽ γ ）） ﾌｷ
ヽ ヽ (( ﾌｷ
/´￣ヾ ） ヽ
ｧ､ヽ｀ﾝ （
.
23
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
できない夫が恵子を伴わなくなったのは、
ちょうど1年ばかり前――
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
. ＼ ＼ ＼ | ,,,--'''''￣ | //＿,,,,,,--┐ ..| ／ ＿,,,...---
. ||￣ /l‐|、-/l...＼┌'￣| ＿,,,,-ゥ/i｀ヽ、 .|ｨ-ｧ| | 「￣ .|
. || ./,' | | |、|￣''''ー-____,,--''''',,,-'''~/ ＼|.. .／／ | | | |
. || //==| |=|/ー-＜￣__,--'' ￣ /. ／／.| | | | |
―--,,,___||_// ┌| |‐---,,,,__￣| | | . ／／ | | | | |
＿＿＿ .||l /| | 'l | | | | ／'''~. | | | |＿,,,,--|--''''
====┐ .||/ .| | |l. | | | | | | | |
|| ||/ .| | '! .| | | | | | | |
|| || | | | | | | | | | |
――||―|| | | | | | |'.―|‐.| |-,,,,,__ |＿,,,,
|| || | | | | | | | | |--''''￣|'''''--
|| || | | | | | | | | |‐-,_____|
|| ﾛ(()==| .| | | ＼| | | | |｀''--
|| || | |. ／ .| | | |＼..| | | |
|| || | |.／ ／ .| | | ＼| ＼ |,,,,....--- |----
|| || |／ ／.. .| | | |＼..| ＼ ＿__|,,,,,,,,,,
.
24
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
函館港に連絡船が接岸するや、
どかどかと乗り込んできた警官隊によって
摘発を受けてからだった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
＿＿ ＼:::::::::::::::::ヽ、 ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
───....ヽ、::::::::::::: ＞ 、.. ───────────────────────────────────────
￣￣￣￣ . ｀ ＜::::::::::::: ＞‐- r..‐..、..ﾞ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
＿＿＿＿＿＿＿.｀ ＜:::::::::::::::::::::::::::＼ ＿ﾞ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
￣￣￣￣￣￣￣￣.....｀ ＜:::::::::::::::::::::／ ＼ _ノ ＿/＼／＼／＼／＼/＼／|＿..ﾞ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿.....〉:::::::::::::::..| （ ● ●）. ＼ ／.. ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣../::::::::::::::::,, | （_人_）_ ＜ 食糧管理法違反だろ、 ＞￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ﾞl:::::::::::::／/ | ￣ |:::::｀ヽ ＜ 常識的に！. ＞￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
＿＿＿＿＿.ﾞﾀﾞ r'::::´￣´:::::::::::::| フ丶＿＿ノ:::::::::/. ／ ＼.....＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿ ﾀﾞ /::::::::::::::::::::::::::::::::l／ /└ フ':::::::::／ ￣|／＼/＼/＼/＼/＼/＼/￣ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
────.ﾀﾞ /:::::::::::::::::::::::::::::::::::l__∠, イ:::::::::／.. ──────────────────────────────
───── . ＼＿::::::::::::::::::::::::::::::::::::_::::-‐::l . ────────────────────────────────
────── . /::::￣ヽ:::::::::::::::::::::::/. |:::::::::| ────────────────────────────────
＿＿＿＿＿＿ /::::::::::::::::|:::::::::::::::::::/ l::::, -ヽ、. ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
￣￣￣￣￣￣/:::::::::::::::: l:::::::::::::::::/ k,ｨ ´｀丶、...￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
＿＿＿＿＿..ﾞ/:::::::::::::: /:｀,. -― ' ヽ_, yノ,....＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
─────,/:::::::::::::: /／ ｀'ﾄ_'／.. ──────────────────────────────
────.ﾞ/|:::::::::::::: /..─────────────────────────────────────────
＿＿＿ . /;;;∨:::::::::/.....＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
￣￣￣./;;;;;;;;;｀;,- ´.ﾞ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
＿.. ／'、;;;;;;;;;/. ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
￣／:::::::::￣ ´. ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
＼ ☆
| ☆
(⌒ ⌒ヽ /
＼ （´⌒ ⌒ ⌒ヾ ／
ﾎﾟｶﾎﾟｶ （'⌒ ; ⌒ ::⌒ ）
（´ ） ::: ） ／ ﾎﾟｶﾎﾟｶ
☆─ （´⌒;: ::⌒`） :; ）
（⌒:: :: ::⌒ ）
／ （ ゝ ヾ 丶 ソ ─
ヽ～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～
.
25
／￣￣＼
／ ＼ _ノ
| （ ●）（●）
| （__人__）. ヤミ米は没収だろ、
| ｀ ⌒´ﾉ 常識的ッ！
| }
ヽ }
ヽ､.,＿＿ __ノ
_, ､ -― ''"::l:::::::＼ｰ-..,ノ,､.ﾞ,i ､
/;;;;;;::ﾞ:':､::::::::::::|＿:::;､>､／⌒_i|ﾞ!:ﾞ､-､_
;;;;;;;;;;;:::::i::::::::::::::／:::_∠＿ノU,-'＼> ））ｰ､
;;;;;;;;;;;;;;;;;|::::::::::::::l::::/;;;;;:::::::::7.<` ヽ:::::::|:::ヽ
;;;;;;;;;;;;;;;;;;!:::::::::::::::/;;;;;;;;:::::::∧|||ゝ／;;;;＼:i::::::>
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|;;;;:::::::/;;;;;;;;;;;;::::/:ﾞ､|||:::ヽ;;;;;;;;::::ヽ::_::＼
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;＼;;/;;;;;;;;;;;;;;:::/:＼:V::/:-＼;;;;;;:::::＼::::i
. l l u r:､／∠ゝ{, } } r=i〉＜_a >l''K_a フ,||=;､ | ﾚ' ,r=;vィ三､! |´u ﾚ1 j N｀
| L_j~／,､くﾆﾆ´,ヘ l { {ｈ||u.三三1 lv三彡lｈ'/ | | //y'/{{ ｅ ヾv u∠ﾆﾚ1 / .N干
. l r:／,ｨ＝ヾ u 'ｨ｡ラﾚﾍヽ ヾ_ﾘ r-ｰr〈 }_ﾊﾆヽ|Lﾘ .l l.〈〈,'/ vUゞ＝ﾞ//l{'e￣ﾗi,､/+.十
ﾚ' ,イ|.r≡ﾟ{ j v ド'´イ´ヽ＼ ｛ {f.ﾃェゞｭ'ｪェﾃ!}ﾄ､ j ｌ Y ,く.>､~r //vヾv彡'l'ﾊ}＋十
.／,イに|l r'ｴｴ＞'´∠!ﾆヽ. ＼＼__, ﾍヾェェｪｪｪェ〃ﾊ ＼// ｌ.{ヽ`く_>Yj'_ '-‐ij'´/'ﾝ/＋十
／ l.冫ｰ|にン ,∠t'ｴﾃヲ {.＿ ＼＼ .ト､v￣三´~ 〈∧ .// /luくゝ､`┴⊥ｴj ノi イ-＋十
,ﾊ} u レ' ／ u === v/::::::::::￣:ヽ.＼l＼＼.u_＿_.丿 ﾚ'/ ./＋! ~ﾐ'-ｴェｪﾝ／ /ﾅ/-＋十
／::::|ゝ' ／`ｰ--- ､._,.イ::::::::r'⌒ ｰ-ゝ `‐-ゝ-‐-～'⌒′! /±土! v ｀ u イ /ﾅ7_,土±
:::／ ／＼ u /|::::ノ ヽ ‘ｰ '´ / /￣ ＿＿＿_
/ /::|. ＼_,,. -‐'_,.ﾆﾆ ぐにゃ～ の {.__,. _-‐..''ﾆニ二¨__￣
二二ニニ´ -‐ '"￣ ） _ノ´ _ノ´ __ ￣¨T'' ‐-
ﾉ ﾉ ＿___ { 予感っ……！！ (´ /r-､__,. ‐''７n ＼ ヽ
. ／∠_¨--‐￢,＞ｧ、 ゝ、 ） ﾚ＼ヽﾆ'ノ/ノ ｆ v }__ l
/,.イ＝=ﾐuｰ '〃 ＿ >〉ｧ',.ﾍ.._ __,.. -─- ､__,.ｨ'⌒ヽ、( lu(ﾞヽV /(a j}!v(.〈ｎヽ:|__
ノ/｣ | v ＿ヾ ,ﾙ'a _/ﾚ',ｨヽ │|.l l ,. -─-､＼ ＼＼ l. (. 9f u Y彡', -ヽ.!j } :| ＼
,.ｲ ﾍヽく. eﾌﾞl'ド三ｧ'∠ヾ;ﾘ､.__! l. l l. /／⌒`ｰ-ゝ.＼- ､＼＼ ＼ﾉ ﾊ u _うﾆ-''"_uY ＼
ヾ'<ヽ r,三=＝'ﾃイj‐',ﾆ、! │l | |r=j,' u ﾄ#､_ ,. -＼＼! ヽヽ (_,ｨﾆﾞUｰ'_,ﾆﾞ-rく_ハ `iｰ- ゝ、
. `ｰ7/r‐ r._l. Lヽ,ィ>'´,| | ﾉﾉ l ﾚﾗ' r‐ ､ﾘ v r,三u､>､ヽ ｉ ｌ__とｔ┬'T⊥┴'＾´,.ィj } / |
／ハ rｴｴﾞｪ'ｴン_,.ｨ夕ﾚ'／ l ﾚ' u' ,ゝﾟ‐ 〃-､ /-､! { ｌ l ￣ゝ''工エ´ゝ'´／ / |
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
むしろ、それまでが運がよすぎたのかもしれない。
次の仕入れの為に、
せっかくの貯金をはたかなければならなくなった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
26
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
だが、できない夫にとっては、金のことよりも、
自分が警察に捕まる姿を妻の目に晒してしまったことへの恥辱の方が、
大きな問題だった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
ﾜｰ
ﾜｰ
／ Ｙ) 〕iト､､、 〕:::::|
〉ｰ─ ､i:i:i:i:i:i〉 ￣￣￣￣￣￣￣￣￣| ＿ - 〕:::::|
¨7t￣芍〉､､く──── ＿__ ‐───┼‐ ￣ |!￣ ﾜｰ
＿＿ } _'__ ﾚr)ノ＿＿＿__くi:i:i:ィL ＿＿＿＿ _＿ ＿＿_|! ﾜｰ
ゝ- 弋 从{､_} ＿__ 〈_､/ﾍ､
｡s≦弭癶 /ハ≧s｡､ /⌒ﾄ､〉 7‐ァ ゝ-く ＼
/ `i:i:i:i:i:}／Ｙ｀ヽ}:i:i:| | ∨ | | ﾘ ＿/`¨´И { |i:i:i:i:|i………… 、
}i:i:i:i:乂＿ ノi:i:i:i| | ∨ | ｀ヽ＿ て下＞‐ 〉 | |i:i:i:i:|::::::::::::::::::::::::::∨
ﾘｰ-ki:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ| | Γ|丐〕iトっﾌ 辷彡} 7フ三刈ニニニニニﾆ∨
/i:i:i:i:|{i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i| | }k|─‐ } | | | ら'´ _, |!::::::::::::::::::::::::::::::l
j!ﾊ____}i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:| | М | | | | | j} |!::::::::::::::::::::::::::::::|
. 厂i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ| | |!〕 { | | | | ﾊ `､二二二二二}!
∧i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:| | |! | | 」,,」 { | { 'y { ｀`～､、
_∧ ＼＿＿＿＿＿ソﾉ |! | | 〈__と___}r=ﾍｿ 」'"/ ｀`～､
27
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
恵子が自分と一緒に来たがる理由はわかっている。
二人は、できない夫がかつぎ屋を始めてから、
できない夫の一番上の姉が嫁いだ網元の家に、
居候の形でやっかいになっていた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
ｒ'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'ヽ
（ ＿ _, ）
） ＿__,＞ Ｙ´'ー-､ （
（ ／￣＼. ＿>ｚ二_ ＿__`ー≧＿_ ）
） 【義兄】. | | ＞┴'´￣｀ ‐-､￣ ７ ＜ （
（ ＼＿／. ／ ヽ ｀Ｙ′之＞ 【長姉】 .）
） | / , l、 、 , ､ | ヽ }< （
（ l^ヽ /^l ／ ￣ ￣ ＼. ｌ ,ｨ {７Tハ T寸寸 | }ノﾍ ）） ）
） ヽ ｀_/ / .／ ＼ ／ ＼ （（ ,ﾍ, |（⌒） （⌒） / / ,/ / （
（ r'ヽ ヽ ／ ⌒ ⌒ ＼. '､ `| ヽ 「)'/|/ / ）
） ゝ、 r'ヽi| （__人__） |. ＼ヽ､_ ― _,.ィT/=/ （
（ `ヽｰ､ノ ＼ ｀ ⌒´ ／ < l 7Eニ::ィ1 〉 ）
丶～'⌒'〇'⌒'～⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'´
Ｏ
o
ﾟ
,, -─- ､._
／ ヽ
| |
| ノ ヽ､ .|
| （＝）（＝） | ……
ｌ^l^lｎ. ｜ |
ヽ. L __´___ ﾉ ／￣＼
ゝ ﾉ.,＿,, ' ⌒''ｰr─､_／ ＼
／ /. ｀￣| < ／''＼ ＼
. ／ / <|,,,,,ﾉ ￣￣ ── ＿＿
人＿＿ﾉ＼,,＿＿＿＿＿＿,,,＿＿＿＿,,＿＿＿＿ 二}
.
28
ｒ'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'ヽ
（ ＿ _, ）
） ＿__,＞ Ｙ´'ー-､ （
（ ＿>ｚ二_ ＿__`ー≧＿_ ）
） ＞┴'´￣｀ ‐-､￣ ７ ＜ （
（ ／ ヽ ｀Ｙ′之＞ ）
） / , l、 、 , ､ | ヽ }< （
（ ｌ ,ｨ {７Tハ::::T寸寸 | }ノ | ）
） ／￣＼ |ハ |《;･;》::::::《;･;》 / / ,/ﾚ′ （
（ | | `| ヽ 「)'/|/ ）
） ＼＿／.. ヽ､_ ―' _,.ィT/ （
（ |. l 7Eニ::ィ1│ ）
） ／￣￣￣.＼ 'ｲ／ヽ::::｀l┘ （
（ ／ ::＼:::／::＼. i´￣ ｀|::::| ）
） ／ ,<●>::::<●>.＼ ＿＿＿ （
（ | /// （__人__）/// | , ´:::::::::::::::::::::::｀ ､ ）
） ＼ ｀ ヽ_ノ ／ ,r'´∧ :::::::::::::::::::::::::::::＼ .（
（ ヽ , ＿_ , イ ／, ' :::::廴）::::ハ:::::::ハ::::::::::｀,＼ .）
） ／ |＿"＿＿__ ∠ ヽﾙ:::::::::::|ノノ.|从|ヽヽ|::::::::| ＼ .（
（ | ｌ.. ／l´. `l. ￣￣.ﾚ:::(|::|（＝） （＝）|::|)::l￣￣ ）
） ヽ 丶-.,／ |________________| |::::ﾍ| |/:::::| .（
（ /`ー､＿ﾉ ／ ／ |::::::::ゝ ～～ ﾉ:::::::::| ）
） |:::::::::::＞,ｧ-ｬ､＜::::::::::| .（
（ l:::ｨ"´ ｀`､::l .）
丶～'⌒'〇'⌒'～⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'´
Ｏ
o
ﾟ ξ
／￣￣＼
／ ＼
| -‐' へ |
| （ー ) （ー ） |
| u. ｜ | （俺だって居心地がいい訳じゃねえしな）
l __´___ ｌ
ヽ !
ヽ ノ
/ く
/ ヽ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
血を分けた姉の嫁ぎ先ではあったが、
恵子が感じている肩身の狭さは、自分の比ではないだろう。
それは重々わかるのだが、手入れにあった瞬間の、
あのなんともやるせないばつの悪さといったらなかった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
29
,.. ...,. . .,
,,;;;;;;;;,,,, ...:::::::: '';;;:::::::::::''';;;:'' ''''';;,,,,
"""""""'''''
::::::::::::::::::::::::::::::,,,,::::::::::::,,,,.....,,,,
::::::::::::::::::::::::::::::::::::'';;;::::: ''"""
:::::::::::::::;;;: ' ''"""''… .....,,,,::::::::::'' :::::::::: ......,,,,,,,,....
''''"""´
⌒V⌒
＿＿＿:::＿＿___＿＿::＿＿_．--‐‐=_＿＿__
．／.:.:.::ｭ::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:Y゛.:.:.:.:゛.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,,,.:.:.:.:.:.:.:￣¨≧=､_
＿___ｚ≦竺彡.:.:__｀＿___--￢.:.:_.:.:.:.:___.:.:.:.:.:.:.:zｚ≦迂三三三三三爻_
｀¨￣￣￣￣¨~~¨¨￣￣¨￣---┴┴-┴------┴-┴---^^^-^^^--~~┴-------…-‐
～～~ ～～ ~～～..～～~ ～～ ~～～～ ～~~ ～～ ～～~ ～~~
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＿＿＿＿
,..:´:::::::::::::::::::::::｀ヽ
,ｨ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
／￣只￣＼::::::::::::::::ﾊｌ
. ∠＿__,ハ＿＿＼::::|ﾙ'
l::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
|::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
|::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
|::::::::::::::::::::::::::::::::::::|ヽ
───|::::::::::::::::::::::::::::::::::::| ＼──────
|ﾉﾚﾍﾊ从ﾙﾍﾊﾙﾍﾘヽ､__二ｌつ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
あの時、幸いにも恵子は上部甲板に出て
函館山を眺めていたので手入れからは逃れられた。
しかし、もし妻も一緒に警察に捕まってしまったらと思うと、
どうしても「一緒にかつぐべ」とは言えなかった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
30
∧∧ . . . . . ||
: . : , (ﾟ－ﾟ ；) ... ; .||
;::: ; ; : ; , , : : : /ー-ヽ ; ;.||
冫、; : . :: . ; : . :. . ; /( / ) : .:; ||
`;, , .;; . ,, . ; ; ; ; (_iつとi)_/ . , ..:||
= ＝=＝ =＝= = = ＝＝＝ (＿＿＿ﾉつ＝=.＼
〃
〃 ∧＿∧
/ ∩´A､｀ *)＿＿＿
/. i^Yヽ_/~''^ヽ ⌒ヽ＿＿
〃 ,しと二二iノ――──､＿＿_ilつ
=＝＝＝===＝＝＝=＝＝＝===＝＝＝＝==＝
＿/＼／＼／＼/＼／|＿
＼ ／
＜ ――っさん！ ＞
／ ＼
′' ￣|／＼/＼/＼/＼/￣
´
／￣￣＼
／ -‐' ＼
| （ ＝）（●）
| u. | | ……？
. | ___´__ﾉ
| ∩フ´⊃
／ .／ ＿ノ
(. ＼ ／ .／_ノ │
＼ “ ／_＿_| |
. ＼／ ＿＿＿ /
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
そんなことを考えながら
うとうとしかけていたところへ、
誰かが自分を呼んでいるような気がした。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
31
≧s｡:::::::::::＞＜ﾆﾆﾆ≧s｡_‐_‐_‐_‐＞.，: : : : : : : : : : : : : : :＼＼: : : : :＼_‐_‐_‐_‐＼======ﾍ::::::: ∧∧:::∨∧::::::∨ / : : : : :
｀' ＜ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ_: : : : : : : : : :＼＼: : : : : 寸ZZZZZZZZZZZム:::::: ∧∧::∨:∧::::::∨ / : : : :
s｡., ≧s｡.,＿__＞＜ニ≧s｡.,_‐_‐_‐_‐_‐_‐_`ヽ､: : : : : : : : ＼＼: : : : : ＼_‐_‐_‐ ＼====ﾍ::::::: ∧∧::∨:∧::::::∨ / : : :
i:i:i:i:i:≧s｡., ≧s｡.,＿＞ ,ィ升≧s｡.,_‐_‐_‐_‐_‐_ `ヽ､: : : : : : : ＼＼: : : : ::＼_‐_‐_‐ ＼===ﾍ::::::: ∧∧::∨:∧::::::∨ / : :
｀`' ＜i:i:i:i:i:≧s｡=======彡'´＿＞＜ﾆﾆ≧s｡_‐_‐_‐_‐_‐ `ヽ､: : : : : : ＼＼: : : : :＼_‐_‐_‐_,＼=={＼::::∧∧::∨:∧::::::∨ / :
: : : : : : :｀`'＜i:i:i:i:≧s｡., ≧s｡.,＿＞＜ﾆﾆ≧s｡_‐_‐_‐_‐_‐`ヽ､: : : : : ＼＼: : : : :＼_‐_‐_‐ ＼ ﾍ::∨:∧∧ ∨ ∧:::::∨: : :
: : : : : : : : : : : ｀`' ＜i:i:i:i:≧s｡., ≧s｡.,__`'' ＜ﾆﾆ≧s｡.,_‐_‐_‐_‐`ヽ､:_:_:_:::＼＼: : ::::::＼_‐_‐_‐_＼|:|==:∧∧:∨::∧___〉: : : :
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――- 、
／ ＼
／ ⌒ ⌒ ＿/＼／＼／＼/＼／|＿
ｌ （●） （●） } ＼ ｵﾔ ／
! ___｀__ } ＜ 親父っさん！ ＞
＼_ ｀ー ´ ／. ／ ＼
_ ∧! ￣ }ヽ. ￣|／＼/＼/＼/＼/￣
__. - ‐ ´〈 ＼ / }_
/ヽ ,へ / l ｀ _
/ ∨ ヽ〈 ⌒ヽ! ｀ 、
/ ∧ / j{|
/ ∧ | j{！
/ | j{.！
i ｜ j{ ！
／l | j{ ！
／ 〈 | j{ ！
/ :. | j{. ！
/ :. | j{ ！
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
声がした方向へ体をねじると、
白いシャツに綿のズボンという小ぎれいな格好をした青年が、
通路にたたずんだまま、
できない夫に向けて赤胴色の顔をほころばせていた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
32
_∧_ _∧_ _∧_ _∧_ _∧_
（・◎・） （・△・） （・ |: ・） （=・◎・=） （＇◎＇）
∧
肉
∩´◎｀)
ﾉ つ 中～
（ ⌒lノ 米. (`ハ´)
し' (ﾟ∀ﾟ∩ | |
/// ( ノ
、 ノ 、 /￣￣￣￣￣￣￣￣ヽ
Ｇ / (● ●）ヽ | 親父っさん、 |
､ヽ ､_'ｧ *ノ ＜ 何してるんですか、 |
∨ .○ | こんな所で |
. , ,.┘ ､ | | ヽ＿＿＿＿＿＿＿＿/
. l （● ●） し Ｊ
. |.u ! |
ヽ. ﾟノ
/ ヽ、
| .ﾆつ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
そう言いながら通路で靴を脱いだ青年は、
人ごみをかき分けてくると、
できない夫の隣に正座して深々と頭を下げた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
33
＿＿＿_
／ ＼
／ ⌒ ⌒ お久しぶりです、
| （ ●） （●） 本当にご無沙汰してました。
人 ___´__ |
, -‐'´ヽ ヾ ｀ー ´ ／ まさかここで
. / ___ i ヽ ヽ､ ／ 親父っさんと会うなんて思ってもいなかったんで、
/ ;'´ ｀ | r;〉'´ﾍ｀丁ヽ ほんとに驚きましたよ
. /,:' レ'´>___/ ,ｨﾍ ｀!
i'Y , /"ア_〈｀`" |
. | ! :. / !'"´ y'~´ |
,! ,! ∨ ／ ヽ
〈 ! ﾞ! ;'｀７ﾞト 〈
／￣￣＼
／ ｢ ＼
| （ ●）（●） ﾈﾏ
| ｜ | まあ、いいから座らい
| __´___ﾉ
| `ー'´}
ヽ }
ヽ ノ
／⌒ ヽ
. / ＼ Y´￣了
/ ＼|＼＿／
| ヽ、__) ┌────────────┐
. │ │
. │. /￣￣￣￣ ￣∧ │
. │ / / '. │ ｽﾞ
. │. / / | │ ｽﾞ. 、
. │ /' ./ .| │ ｽﾞ. ヽ ヽ ヽ
. │. ' { ./ | │. l l l
. │ | ￣￣￣￣ | │. ﾉ ﾉ ﾉ
. │ { ノ .│ ´
. │ ｀ﾆ=---- ―― = .│
. │ │
. └────────────┘
┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
できない夫は尻をずらして
ｱｸﾞﾗ
リュックサックを背に胡坐をかき、
空いたスペースを指さした。
┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
34
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
昔の仕事仲間――
自分の弟子だった小野寺できる夫という名の若者は、
できない夫と同郷でもあった。
年齢は、確かまだ30前のはずだ。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
／￣￣＼
／ 「 ＼ : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. :
| （ ●）（●） : : 役人の類じゃなくて : :
| ｜ |. : : よかった…… : :
| __´＿ﾉ. : : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : :
| `ー'´}
ヽ } ＼ -､
ヽ ノ. （__丿
/ く
| |
＿＿＿_
／ ＼
／ ⌒ ⌒＼
／ （ ●） （●）ヽ んでは、失礼して
| ＿´__ |
＼ ｀'ー` ／
/⌒ヽ ｨ､
/ ､ V
/ / l ', ─ヘ
/ /l ゝ / ヽ
/ / ヽ ,＿＿__ ｀ ,ヽ ヽ
-─ヽ ｲ_ ヽ / ￣￣￣￣`ヽ Ｙ ゝ‐-､. ､
( _i _i＿ﾄ､__) ヽ､＿＿_⊥＿＿＿＿ﾉ 「＿＿＿ﾉ. ノ､ ｽｽｯ
,ノ
.
35
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
ぺこりと頭を下げ、できる夫は胡坐になると、
できない夫の後ろにある荷物に目を向けて、
思案深げな顔をした。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
＿_＿__ ━┓
／ ― ＼ ┏┛
／ノ ( ●) ＼ ・
.｜ ( ●) , |
.｜ /
.｜ '~ /
＼＿ ⊂ヽ∩＼
/´ (,＿ ＼.＼
| / ＼＿ﾉ
┌────────────┐
│ │
│. /￣￣￣￣ ￣∧ │
│ / / '. │
│. / / | │
│ /' ./ .| │ ′'
│. ' { ./ | │ ／￣￣＼ ´
│ | ￣￣￣￣ | │ ／ ｀ヽ ＼
│ { ノ .│ （●）（● ) |
│ ｀ﾆ=---- ―― = .│ | | | こいづは、
│ │ l __｀___ | かつぎ屋の荷物っしゃ
└────────────┘. { `ー'´ ｌ
{ ./
ヽ ノ
ﾉ ヽ
/ |
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
問われる前にできない夫が言うと、
できる夫はたちまち表情を曇らせた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
36
ξ
――- 、
／ ＼
. ／ ノ ヽ
ｌ （ ●） (● 何も、そんなことしなくても、
! u ' } 親父っさんなら……
＼_ ´｀ ／
/＼ ￣ lﾍ
_ -‐ 〈 ＼__ ___ﾉ iｰ- _
_ ´ ＼ / / ）. | ｀ 、
´ ヽ ∨ 〉 ヽﾉ ∧
| ∧ | ∧
| ∧ | l ∧
| | l ∧
| ∧ | ∧
| / )／)／）
∨ {-― - _ /／／ ／ ∧
∨ ∧ ヽ¨¨¨¨l¨¨ ￣￣￣ }
. ∨ ﾉ~｀ ､ _ ＿ 〈 l j{
∨ ￣ ｀ ― ＿ j{
. }∨ | ｊ ´ ¨¨¨¨¨￣
| ｀ ---- ――― ┴― ´ |
￣ ､
´ ＼
／ ヽ
/ ヽ
':::::::::::::: ヽ
l::::::::::::::::: ヽ
. l::::::::::::::::::: l
. l:::::::::::::::::::::::: |
l:::::::::::::::::::::::::: !
l:::::::::::::::::::::::::::: ﾉ いいんだ、
l:::::::::::::::::::::::::::::: /. 好ぎでやってることだがら
!:::::::::::::::::::::::::::::: __/
,'::::::::::::::::::::::::::::::. /
￣ ｀ー -:::::::::::::::::::. / /￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ヽ
｀ ､ / | , , 、 |
:.:.:.:.:.:... ､ ／ | / （● ● でも…… |
:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.. .:.:ヽ _ ´ | ゝu rっ' ﾉ |
ー- :.:.:.:.:.:.:.:.. ..:.:.:.:.:.:ヽ ヽ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿/
｀ ､:.:.:.:.:.:.:...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.＼
. :.｀:.:､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
. :.:.:.:.:.:.:.｀:.:､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./
.
37
／￣￣＼
／ 「 へ ＼
| （●）（●） | おめえだって、
. | ｜ | 何で俺が潜るのをやめだがはわがってるはずだ。
| __´___ ｊ
| } 心配するこたあねえ。
ヽ }
ヽ ノ
i⌒＼ ,__(‐- ､
l ＼ 巛ー─;＼
| ｀ヽ-‐ーく＿）
. | l
／￣￣＼
／ 「 へ＼
| （ ●） （●）| おめえなんかに心配されるほど、
| ｜ .| 俺は歳ば食ってるわけでもねえしな。
| __´___ |
| `ー'´ |
ヽ /
（⌒`:::: ⌒ヽ
ヽ:::: ~~⌒γ⌒）
ヽー―'^ー-'
／￣￣＼
／ 「 ＼ ﾅｼﾞｮ
| （ ●）（●） ところで、おめえの方こそ、如何なのや。
| ｜ |
| __´＿ﾉ 会社では上手くやってっか
| `ー'´}
> ∩ノ ⊃
( ＼ ／ ＿ノ |
＼. ” ／_| |
＼_／＿＿ /
.
38
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
ため息をついて、頭を掻きながら、
できる夫は自分の近況を話し始めた。
就職したサルベージ会社の潜水夫として忙しい日々を送っており、
今は函館の支社に勤めているという。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
( ヽ、
／.:.￣￣＿＿＼ ＼
／: : : <＿＿ ＼ ＼
／: : : ＿ <＿＿ ＼ ＼ ﾍ /⌒/
／: : : : ´ , ｀└--ﾐ ヽ、＼ - ＼ |
: : : : :／´ ｀ヽ 丶 - 〉 はあ……、
: : : :.（ ー‐ l ( ＼ !. かくかくしかじかで――
: : : : ヽ_ ｀ _ノ ＼_ヽ {
: : : : : : ´"''" ' "''ﾍ > 、
: : : : : : . . ` ＼ ∠／ヽヘ
＼: : : : : : :. ⊂ﾆニつ ＼(⌒) ﾉ ＼
／ヽ: : : : : : : : : : : ヾ、 ／ ＼
／: : : :｀`ｰ- -‐'"´ ＼／ ＼(
,'⌒ ゝ
ヽ＿ノ
☆
／
／￣￣＼ : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. :
／ へ ＼ : : : :
（－）（● ） | : : こいつは見込みがあると思った : :
| | | : : 俺の目は確かだったな : :
| ___｀___ |. : : : :
{ ｜ : : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : :
⊂ ヽ∩ く
| '､＿ ＼ ／ )
| |_＼ “ .／
ヽ､ ＿_＼_／
.
39
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
東京で開催された潜水講習会からの帰りで、
乗船の時に、できない夫に似た姿を目にし、
気になって三等室まで探しに降りてきたとのことだった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
──────────────────────────────────────────────────
l=ﾆ二三γ了三ﾆ=l , ', ' ,'| ::| ', ' ,
｀]｣＿ ,．' ,' | ::| ', ' ,
n /丁ｌ／ -‐ ' ４ ,' _| ::| ', ' ,
|| ｀丁| , ' ｣| ,' ｜::! |{, ' ,
,┌='_ﾆ二二三三 , '三三二ﾆ=ｭ｜::! || ', ' ,
|/｀ｴ,Τ_丁_丁_丁_丁_丁_丁Τｴ｜::! || ', ' ,
/lﾆ二二二三三三三三三三三二二| ::| ｚ TｌΤ￣Τ￣ΤT､
ﾚ|| _.Ｚ]ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ冖ﾆ[｀|_Z. -┴┴―┴―┴ ' - .._
｢|￣￣￣￣ , ' ￣￣￣ -‐ '''"´ , ､ ／
|l| 囗 ﾛ ' -‐ '''"´ rャ rゃ ｰ' rゃ rｬ／
|,| ,．'´ _ -‐ ´ ', ', ／
|l| ,．'´ _ -‐ ', / ',
Z zｧ _ ', /_', ',
r／ /' ∨r ､ ',. /∨ ', ',
｢ / ∨_| '/∨ ', ',
,ｨT工} / ､ ∨ /∨ ', ',
――――‐ f／ ｌ、 / /---',.-----',--',------------
. λ......｀ ‐- _ / ‐- ', ', -‐
. Λ ‐- _:::::::::::::::::::::::::::....................................l′ ',
/￣￣￣￣￣ ￣￣￣ヽ.. ‐- _::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| ￣ ',
|. ヽ.― 、 | ‐- _-―-―ｰ―-┘ ～ _
| ●） l ..| ‐- _ -‐
|.. ! .| |
|. ヽ ノ ..|
|. r へ、 ...|
| GL _ィ^ ○ .|
| . (___/｀ー' |
ヽ＿＿＿＿＿＿＿＿＿/ ′'
,っ - －、 ´
i {● ●） ヽ あれはもしかして……
ヽ. ､-'- ノ
ヽ ＼_
〉 |-'
ιー Ｊ
──────────────────────────────────────────────────
.
40
＿＿＿_
／ ＼
／ ― ― ＼ ――まあ、それで二年前に函館出身の娘と結婚して、
／ （●） （●） ＼
| '' ' '' | 娘も産まれて……
＼ ￣ ／
ノ ＼
x‐ ‐x
X X
／￣￣＼
rヽ ／ ⌒ ⌒ ＼
i ! | （⌒）（⌒） | おっ、小僧だったおめえも一丁前に……
r;r‐r/ | | ｜ |
〈_L (｀ヽ .} |. __´___ ﾉ それはよかったよかった、おめでどーごし
l｀ （ ｀`/ . | `ー'´ }
ヽ l . ヽ }
|,. l /⌒ ー‐ ｨ ヽ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
そして、できる夫の話の中で何より嬉しかったのは、
結婚して娘が生まれ、
ﾎｳﾗｲﾁｮｳ
今は函館山の麓にある 宝来町 の市営住宅で親子三人、
つつましく暮らしているということだった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
41
／￣￣＼
／ 「 ＼
| （ ●）（●）
. | │ │ 戦後のごたごたが続いているとはいえ、
| ___´___ﾉ
,| } 全く知らずにご祝儀もやれないで
／ ヽ } すまながったな
く く ヽ ノ
＼ `' く
ヽ、 |
| .|
_＿＿＿
／ノ ヽ､.＼
／（●) （●） ＼ いや、そんな、とんでもない……
／ __'___ u. ＼
| ｀ー` | こちらこそ何の連絡もせずに申し訳ないです。
(⌒(⌒(⌒ﾞｉ＼ (⌒(⌒(⌒ﾞｉ ／
ﾞｉ ﾞｉ ﾞｉ ﾞｉ (⌒) ﾞｉ ﾞｉ ﾞｉ | !､
ﾞｉ::::::::::: ゝ (⌒)::::::::::: | ﾞｉ
ﾞｉ （ ﾞｉ !､ | ｌ |
＼ ｉ ﾞｉ ,r'_,／ /
＼ ｉ ＼ ＿＿ ／
.
42
―- 、
／ ＼
. ／ ⌒ ⌒. 上の二等室に一人分よけいに席があるので
ｌ （● ） ） せっかくだから来てくださいよ
! __'__ }
ヽ （ ﾉ／
_/ ｀ヽ､ ￣l .,､∩ ｸｨｯ
_´ ＼ 〉､/|ヽ、 / / |ヽ ｸｨｯ
／ ヽ ヽ./ |} ﾚ' ＼./ ' ' ' !
. / | i j
| ,⊥., ／
| ／ く
. ∨ ∧ ／ ／ヽ
. ∨ ∧ ／ ／/ |
∨ ／ ／ γ _ |
／￣￣＼
／ 「 ＼
| （ ●）（●）
| ｜ | いや、それは、
| __´___ﾉ おめえの仲間に気をつかわせらはんで遠慮しておぐ
| `ー'´}
ヽ } /￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ヽ
ヽ ノ ｍm ﾋﾗ | , -‐ノ 、 .|
/ ￣￣￣ つﾉ ﾋﾗ |. / （● ● ふむぅ… |
| |￣￣￣ |. ゝ -'-ノ |
ヽ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿/
.
43
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
できない夫が丁寧に断ると、
できる夫は取り出したメモ帳に何かを書き付け――
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
＿＿＿
／ ＼
／ ノ ヽ＼. これ、私の住所です。
／. （●） （●）＼ 手狭なところ何のもてなしも出来んですが、
| __´__ | . __
＼ `ー'´ ／./ / ぜひ今夜、うちに泊まっていってください
ヽ <.. /r‐ﾍ
| ⌒ヽ i | . } ﾌ′
| ヽ ＼. ∨. /
／￣￣＼
／ _ノ ヽ､_ ＼
.| （ ●）（● ） | いや、今日は米さ売ったら、
.| | │ 折り返しこの船で青森へ帰っからっしゃ。
| __´___ .|
.| `ー'´ .| なんも気にせんでいい
r､ r､ヽ /
ヽヾ 三 |:l1.ヽ /
＼>ヽ |｀ ｝ > <
ﾍ lノ `'ｿ ヽ
/´ /,1 | |
＼ ノ .｜ | |
.
44
／￣￣＼
／ ｢ ＼
| （ ●）（●） そのうち、暇になった時にでも、
. | ｜ |. 寄ってみるがらや
| __´___ﾉ __
. | } / /
. ヽ. /r‐ﾍ
ヽ. } ﾌ′
/.. ∨ イ
| /
＿＿＿_
／ ＼ そうですか、残念だなあ……。
／ _,ﾉ ＼ ＼ でも気が変わったらいつでも来てください。
／ （●） （●） ＼
| ' |. 遠慮なんかいらんですから
＼ ⌒ ／
ノ. ＼
.
45
／￣￣＼
／ ＼
| -‐' へ |
| （ ●) ( ●） | わがった、
| ｜ │ そのうちな
| ､__´___ ｌ
ヽ ! /￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ヽ
ヽ ノ |. ､ ノ 、 |
/ く | ● ●） ヽ 必ずですよ |
/ ヽ |. （^ ､-'- ノ |
|. ＼ と） |
ヽ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿/
――- 、
／ ＼
ス ／ _ノ ヽ
ッ ｌ （●） （●） } じゃあそろそろ戻りますから
ク ! ___｀__ }
＼_ ｀ー ´ ／
_ ∧! ￣ }ヽ
__. - ‐ ´〈 ＼ / }_
/ヽ ,へ / l ｀ _
/ ∨ ヽ〈 ⌒ヽ! ｀ 、
/ ∧ / j{|
/ ∧ | j{！
/ | j{.！
i ｜ j{ ！
／l | j{ ！
／ 〈 | j{ ！
/ :. | j{. ！
/ :. | j{ ！
.
46
────────────────────────────────────────────
, -- 、
/ ヽ
ゝ ノ
（| /）
/ （_ﾉ
(（（ 〈_／ ヽノ
────────────────────────────────────────────
￣ ､
´ ＼
／ ヽ
/ ヽ
':::::::::::::: ヽ
l::::::::::::::::: ヽ
. l::::::::::::::::::: l
. l:::::::::::::::::::::::: |
l:::::::::::::::::::::::::: !
l:::::::::::::::::::::::::::: ﾉ ………………
l:::::::::::::::::::::::::::::: /. ………………
!:::::::::::::::::::::::::::::: __/
,'::::::::::::::::::::::::::::::. /
￣ ｀ー -:::::::::::::::::::. /
｀ ､ /
:.:.:.:.:.:... ､ ／
:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.. .:.:ヽ _ ´
ー- :.:.:.:.:.:.:.:.. ..:.:.:.:.:.:ヽ
｀ ､:.:.:.:.:.:.:...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.＼
. :.｀:.:､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
. :.:.:.:.:.:.:.｀:.:､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
通路の奥に消えていくできる夫の後ろ姿を眺めながら、
できない夫は鈍い痛みを伴った記憶を反芻していた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
47
┌──────────────────────────────────────┐
│ │
│ │
└──────────────────────────────────────┘
┌───────────────────┐
│ │
└───────────────────┘
┌──────┐
└──────┘
┌──┐
└──┘
□
.
48
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
できない夫が潜水夫になることを夢見て親方の下へ弟子入りしたのは、
大正7年（西暦1918年）の春のことで、
ちょうど14歳になったばかりだった。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
＿__＿
／ ＼
／ ﾍﾆヾﾞﾘン ＼(;;;;;(. 潜りは一人前になれば、
／＝▲▼--▼▲＝) ;;;;) ｵｶ
| /（__人__）ヽ ;;;／|. お天道様まかせの陸と違って、
＼ ｀⌒┃ｌ;;;; ／. 気張れば気張る分だけ稼げっからな
/´`''" '"´｀`Y'・"｀`'j⌒ ヽ
{ ,ﾉ' i| ,. ,､ ,,|,,. ､_/´ ,-,,.;;l
'､ ヾ ,`''-‐‐'''"￣_{ ,ﾉi,､;;;ﾉ
ヽ､, ,.- ,.,'／`''｀,,_ ,,/
`''ゞ-‐'" `'ヽ､,,､,､,,r'
,ﾉ ヾ ,, ''";l
/=====､ ....====i、
ｒ'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'～'⌒'ヽ
（ ）
） ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿__ （
（ |100 百 | ）
） | 行銀供子 ∧＿∧ | .（
（ | 團百 （´∀｀ ）| ）
） | ◎ | （
（ ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣ ）
） （
丶～'⌒'～'⌒'～⌒'～'⌒'〇'⌒'～'⌒'～'´
Ｏ
o
ﾟ
＿＿
／ ─ ＼
● ● | へえ……
( !_ ⊂⊃|
/⌒l |
/. / /
| l ＞ ィ
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
理由は簡単だ。
陸で稼ぐ何倍もの収入が得られたからである。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
.
49
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
ｵﾅｶﾞﾜ
できない夫は宮城県 女川 村に、
漁民の村としては珍しい農家の、
男女取り混ぜて五人兄弟の末っ子として生まれた。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ r､_____
＿＿ 〈 ￣ヽ
ﾉ´ ｀ヽ‐ 、 〈 }
i､_r-､_ノ´ ヽ＿＿＿_ ／ r､}
ヽ __〉 〉 〈{_} ﾘ
｀} ｀ヽ __{ヽ‐､_ ,> __／
｀ 7 ｀ ‐､ ﾉ μ {
/ ｀´ ヾ‐,
'ｯ ___ノヽﾉ
r､_/ 〉＿_ 太
. ', /. 平
', 宮城県 r '´ 洋
〈 ｀‐‐、
ﾄ､ ヽ i_i
_〉 石巻 _〈 o
/ ＿_ ・ ★ 女川
. _〉 z-､ , ´ '‐'ヽ = ´
{´ r'´ _ノ { ＜、 ヽ
／ '‐'ヽ￣｀ O 'ｰ､ }< ､
{ 仙台. r‐ ´ ヾ}｀ ' ¨
| ◎ /
. } /
／ /
. { ,
＿＿r‐' l ※女川村：大正15年より町制に変更され、現在に至る。
.{ l
. 〉 _ l
｀ ‐‐' ‐‐┐ l
{＿＿r､＿__ l
｀{ i´￣
〈 {
ヽ、_ i=‐‐'
￣
.
50
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
農家の三男坊ともなると、
田畑は全て長男が家督として受け継ぐことになるので、
どこかへ婿養子にでも入らない限り、
地元で暮らしていくのは難しい。
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
|￣|
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_＿ __ r──‐‐┐＿__ /三三三三三三三三三三三/＼
-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_.／＼￣＼￣＼ ..| |三三|¨:ﾄ､l￣|| 丁ＴＴT.┐/三三三三三三三三三三三三三ﾑ
￣￣￣￣￣￣￣￣￣||￣￣￣￣ｌ|ｌ￣￣￣￣￣::|＼＼ | |--‐‐| |__|___||__廴|二lﾆl |¨| __|_||──── l__／￣:|￣..|
田 田田 田田 ||「」 「」 「」ｌ|ｌ─────┴‐ ＼＼-─ ￣＿ -=ﾆ二三三三 l￣￣ |丁二二二二匕ィｧ…|￣..|
|￣￣￣| ..|| ＿＿__ｌ|二二二二二二二二二|-=ﾆﾆ二二三三三三三三三|＿＿__|‐|┴┴┴┴┴／／丁￣|
￣￣￣￣二二二ﾆ=-..|l｡o≦＿＿＿＿斗rf .| | || || l|. ｌ| ∩ XXXXXXX|￣￣|^＼fzzzzzzｭ二二二二二二二二二二
￣￣￣￣| ||三||三||;;;||;;;||;;ｌ||;;;|;;|..│ |/⌒||-┴┘| | /‐‐‐‐／{二|二二廴___＼二入斗rヤ¨¨￣ ／´´´´´´´´´
| ||三||三||;;;||;;;||__||_ﾉﾉ‐┴ノXX八 厂￣|‐‐‐/￣￣丁￣＼ ‐─斗ｬヤて／ ／ {:.:.:.:...... ～
|厂￣7T'''7__||三||三廴匸コｌ‐┐___ _,.斗弌￣￣￣|--'￣￣￣|斗t≦ ／ / /────':.:.:.... ～～
二二二二|三三|-r彡 .l |XXXミx‐┘ 斗t≦ ＞匕 ￣￣￣￣￣￣￣￣ {-----'￣￣:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
x^x^x^Y=- ¨´ |＿__|ＸＸＸＸ＞＜ ＞''“´ ￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.～～～ ~~~ ～～ ～
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. |⊂⊃ _! | : : 女川を離れるにしても、. : :
. | l⌒ﾞｉ. : : 海の生活はしたいなあ……. : :
. ヽ ﾞｉ ﾞｉ : : : :
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, ──.、 : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. :
／ _ノ ＼ : : : :
| ● ●). : : 近所の人の船にでも : :
. ⊂⊃ ! ⊂l. : : 乗せてもらおうか…… .: :
! ～ / : : : :
ヽ ﾉ : : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : :
/ ヽ、
| ﾆつ
.
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（ ／ ／ ｀丶、 ‐- | ）
） ／-―- ／ o 丶、 ‐- 丶 l （
（ 〃l | | l／l l i＼ ＼ ｀ / ）
） /l／´￣￣￣￣｀ ‐- 、 ＼ / （
（ :i´ l ヽ ＼ 丶 ｀丶 ＼ o ｡ / ）
） :| | ヽ ＼ 丶 ｀ ､ 丶 , -‐=￢ ｀/ 、 ﾟ _xa::.、 （
（ :.。 、 ＼ 丶 ｀ 、 ｀丶 ＼ ／ ニ二.ヽ/ ｡ ． ´ ヾli .）
） % ヽ ＼ 丶 ｀ 、 ＼ ＼ ―――／┘ ． ´ i|! （
（ ・ ＼ 丶 ｀ 丶 ＼ ＼ ｛ ', ． ´ l|! ）
） ＼ 丶、 ｀ 、 ｀ 、 ＼ ヽ 丶 ､_丶-‐・ ´ ： 〃 （
（ 。 丶. ｀ . ｀丶、 丶 o ヽ 丶 ・ 、 ￣｀i:. ノﾟ 〃 .）
） (( ＞ 。 ｀丶 ＼ ＼ ﾟ。 ', ', ＼__ノ:.％ ／ ' （
（ ∠、 /‘Ｊ >､ 、 丶 。 % ／ ： 。 :. li x〆″ ）
） )／ ,ｘく.__{-ｕ、_ ： ／ | / i| xｆ⌒Y′ （
（ u ／ l| o ノヽ ￣￣ il |l !〃 ﾘ )ﾉ'ｧｲ ）
） il´￣ i! 丶 ｀￣‘, i! i ﾉ / / i| ∠ _厂 （
（ o 。 l i ＼ jﾟli j j!｡_彡イ / /' ﾉ ﾘﾉ / Ａ〈 _ －＝ニ二 . ）
） 。 丶＼ 从 ) ﾉ l| j 。 ￣乂// ／／ レ ﾟ＿rｆ匕ﾆ二三三三三三三 .（
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／ _ノ ＼. : : : :
| ● ●) : : 捕鯨船もいいかも…… .: :
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! ～ / : : :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : :
ヽ ﾉ
/ ヽ、
| ﾆつ
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子供ながらに色々思い描いていた時、
潜水夫の本場、房州の勝浦から仕事に来ていた
『潜りさま』たちの仕事ぶりを見てたちまち虜になった。
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〃О｀,,-‐‐‐‐-､ ｀‐ i─,,,,, (-○-) ,,,,,─'i"´ ,,-‐‐‐‐-'､℃ヾ::i r,=======il !､|!
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／て ) ／ ⌒ ⌒ ＼
（ _ﾉ ﾌ. | (⌒) (⌒） |
ゝ、 〈. |/// │ ///| これだっ！
/ ハ ヽ | __´___ |
/〃 ﾍ ＼ . | |r┬ | !
ｉ ！ ＼ ｀. ヽ ﾞー′ }
丶丶 _ ＞ ⌒ヽ ノヽ
ゝ'´- ､_ y-､ ＼
〈 ￣ う /､ ヽ
`ー― ￢､__ノ | > /
| r'＾ヽ'´ _／
| `く__ノ´
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