【ノラとと】ネコのお考え「師走」【ノラと皇女と野良猫ハート】back

【ノラとと】ネコのお考え「師走」【ノラと皇女と野良猫ハート】


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ナレーション「――――12月」
ナレーション「それは、一年の中で最も忙しい月」
ナレーション「締めくくるに相応しい、師走の月」
ナレーション「ここに、その忙しさ――正しく師走を体現するかのような人物がいました」
ノラ「――ッ!!(走ってる)」
ナレーション「その者、冥界の伝説の獣にして元人間。名前を、反田ノラ」
2:以下、
 
ナレーション「その者、冥界の伝説の獣にして元人間。名前を、反田ノラ」
ノラ「冥界ホテルで団体様の予約が入った!? はい、すぐシフトに入ります!(飛んでいく)」
ノラ「タルタロスでヘカトンケイルさんがヤケ酒して神殿大崩壊!? はい、すぐ止めます!(武器を担ぐ)」
ノラ「リップ姫が見合いをブッチして婚約者大激怒で冥界大戦争の危機!? はい、すぐフォローします!(身だしなみ整える)」
………
……

ノラ(――ッ!)
ノラ(??!)
ノラ(……)
ノラ(パトリシア――)
ノラ(時間が足りない…)
 
3:以下、
 
 ***
パトリシア「??♪」
シャチ「ご機嫌ですね、パトリシアさん」
パトリシア「ええ。だって明日はノラが帰ってくるんですもの」
パトリシア「明日は私の誕生日。私の誕生日を祝うために帰ってくると約束しているの♪」
パトリシア「だから待ち遠しくて、一日の時間の進みが止まって感じるぐらいだわ!」
パトリシア「時間を遅くしたり止めることなんて、魔法だって中々できないのに!」
パトリシア「私、今魔法を超えているのね! 愛は魔法を超越するのね!」
シャチ「それにしても、ノラさんが帰ってくるのは本当に久しぶりですね」
シャチ「12月に入ってから帰ってきたのは数えるほどでしたし」
パトリシア「冥界では12の月になると決まって事件が起こりやすくなってしまうの」
パトリシア「放っておくと冥界が滅びかねないような大きな事件も少なくないわ」
パトリシア「だからエンド家は総出で対処にあたらないといけないから毎年忙しいの……」
パトリシア「私も以前まではそうだったわ……。あ、思い出しただけで吐き気が……(口を抑えてる)」
シャチ「それほどまでとは……(パトリシアの背中をさすっている)」
 
4:以下、
 
シャチ「冥界も地上と変わらず、12月は師走だということなのですね」
パトリシア「師走……とは何?」
シャチ「師走というのは、地上での古くからの暦としての12月を指します。そして12月は、師が走り回るぐらい忙しいことからこう名付けられたといいますね」
パトリシア「師が走り回るほど忙しい……。なるほど、納得だわ」
パトリシア「私の師でもあり、大事な姉でもあるお姉さまは……いつも走り回っていたわ」
【回想】
ルーシア「――ッ!!(走ってる)」
ルーシア「はぁ……ッ、はぁ……ッ!」
ルーシア「やはり12の月は休む間もない……」
ルーシア「だがしかし、今年最後の日――――」
ルーシア「最愛の妹、パトリシアの誕生日だけは……必ず予定を空けさせてもらうッ!!」
ルーシア「その為に、翼竜の皮で作った髪留めも用意したのだ……!(血みどろ)」
ルーシア「ふふ……ふふふ……! パトリシアの無邪気に笑う顔が浮かぶ……!」
ルーシア「パトリシア……待っていろ―――ッ!!(走り出す)」
【回想終了】
 
5:以下、
 
パトリシア「毎日毎日返り血を浴びながら走り回って……」
パトリシア「それでも、私の誕生日だけはとても美しい装束を纏って祝ってくれたわ」
シャチ「素敵なお姉さまですね」
パトリシア「ええ。大好きなお姉さまよ♪」
パトリシア「……プレゼントはあんまりだったけれど」
シャチ「一年の終わり。12月31日がパトリシアさんの誕生日なのですね」
パトリシア「ええ、そうよ」
パトリシア「地上では誕生が――命の始まりが縁起がいいとされるように、冥界では死が――終わりが縁起がいいとされているの」
パトリシア「だから一年の終わりの間際に生まれた私は、冥界にとって最も価値のある存在だと言われたこともあるわ」
パトリシア「全てに死を。全てに滅びを与える物として――」
シャチ「……」
パトリシア「でも、ノラに出会って、それも終わった」
パトリシア「私は命ある物として」
パトリシア「逆にノラが、命無き冥界の使者として……走り回っている」
パトリシア「不思議なものよね」
シャチ「きっと、運命なのだと思いますよ」
パトリシア「運命?」
 
6:以下、
 
シャチ「パトリシアさんがこうやってこの家で暮らしていることも、ノラさんが冥界にお呼ばれして頑張っていることも」
パトリシア「そうなのかもしれないわ」
シャチ「私はお二人が幸せそうにしているならば、人間であろうと死者であろうと、何も変わることはありませんから」
シャチ「この家に帰ってきたら、お帰りなさいを言って、暖かいご飯を食べてもらえれば……私は幸せです」
パトリシア「……ありがとう、シャチさん♪」
シャチ「ノラさんも冥界で明日に向けて走り回っているのならば、私たちも誕生日の為のお料理を頑張りましょう」
パトリシア「はい、師匠! 私、走ります!」
 
7:以下、
 
 ***
ナレーション「――――そして翌日」
パトリシア「……」
パトリシア「??」
パトリシア「――――ッ!」
パトリシア「ノラのバカぁッ!!」
ナレーション「彼は帰ってきませんでした」
 
8:以下、
 
パトリシア「お料理を作って!」
パトリシア「ケーキも作って!!」
パトリシア「ちょ、ちょっとえっちなサンタ衣装も着たのに!!(照れ)」
パトリシア「なんで帰ってこないのよ―――ッ!!」
明日原「キレてるキレてる。ミニスカサンタが超キレてる」
パトリシア「キレてないわよッ!(キレてる)」
井田「大晦日になんでサンタなんだよ」
田中ちゃん「反田さんが忙しすぎたためにクリスマスを祝えなかったからだそうです」
ノブチナ「学生の身分で師走気分とは、生意気なやつだ」
黒木「え、っていうか反田君、どこで何してるんですか?」
シャチ「冥界で難事件を追ってるそうです」
明日原「反田刑事!」
井田「事件は地上で起こってるんじゃない! 冥界で起こってるんだ!! 的なやつな!?」
ノブチナ「あいつ、刺されて死ぬんじゃないか?」
黒木「待ってください! 学生は副業禁止ですよ!!」
明日原「あ、あれ副業扱いなんだ」
 
9:以下、
 
パトリシア「副業ってなによ! 冥界の使者は主婦の空き時間になんてできません!!」
ノブチナ「ちょっとした片手間にやった仕事で、月のお小遣い10万円増えましたー!」
井田「ネットでよくみるやつな!」
田中ちゃん「そ、そんな簡単なものなんでしょうか……?」
ルーシア「――――いや、生死を駆けるほどの戦いになる」
ノブチナ「また生傷耐えないヤツが現れたぞ」
明日原「副業で死ぬとか最悪じゃないっすか……」
黒木「それ、生命保険とか諸々大丈夫なんですか!?」
井田「冥界で保証される訳ねーだろ」
ルーシア「いや、死んだら次の魂の転移先ぐらいの保証はされているぞ」
井田「マジかよ!」
ノブチナ「意外に良心的なんだな」
 
10:以下、
 
パトリシア「お姉さま!」
ルーシア「パトリシア、今帰ったぞ」
ルーシア「誕生日おめでとう。これでまたお前も一つ大人になったな。姉としてこれほど嬉しいことは無い」
ルーシア「これが私からの誕生日プレゼントだ。さ、受け取って――」
パトリシア「そんなものはどうでもいいのッ!(払い除ける)」
ルーシア「なっ……!」
パトリシア「ノラは!? ノラはどうしたの!? お姉さま知ってるんでしょ!?」
ルーシア「何故だ……何故パトリシアは私の愛を受け取ってくれない……」
明日原「姉パイめっちゃへこんでる」
ノブチナ「そりゃ最愛の妹にプレゼントをどうでもいい呼ばわりされたらな」
田中ちゃん「ぱ、パトリシアさん? お姉さんは大事にしなきゃダメですよ……?」
 
11:以下、
 
ルーシア「ノラ……! そうだ! あいつだ! あいつがいるからいけないのだ……!」
パトリシア「そう、ノラよ! ノラはどこ!? 教えてお姉様! 教えなさい!(叩いている)」
明日原「女王様!?」
ノブチナ「いや、皇女だろう」
黒木「パトリシアさん! 暴力はダメですよ!」
ルーシア「私は平気だ……。いや、むしろパトリシアから手をあげられるなんて、最高の初体験だ……!」
井田「やべーぞこの姉貴」
パトリシア「姉様!」
ルーシア「くっ……ノラのヤツは今ごろリップ姫を追って走り回っている頃だろう」
パトリシア「またあの女!? タフすぎるわッ!!」
ノブチナ「なんだ、ノラのやつ遂に浮気か」
黒木「やっぱ遠距離恋愛って難しいんですかね……」
井田「冥界と地上って遠距離すぎじゃね?」
ルーシア「いや、リップ姫との見合い相手が色々複雑でな。婚約破棄になると冥界が滅びかねないんだ。だからノラがそれをフォローしようとしている」
明日原「やば。女の結婚一つで世界滅ぶとか超やば」
ノブチナ「さすが規模が違うな」
 
12:以下、
 
ルーシア「リップ姫はノラのヤツのことをいたく気に入っててな。ノラ次第ではそのまま結婚もあり得る」
パトリシア「嘘……!」
ノブチナ「冥界に結婚に、本当にクソ忙しいヤツだな」
田中ちゃん「このままリップ姫さんとゴールまで駆け抜けてしまうんでしょうか……」
明日原「師走だから!? 田中ちゃん、師走だから!?」
田中ちゃん「え、えぇ……?」
ノブチナ「誰が上手いこと言えと言った」
田中ちゃん「そ、そんな、たまたまですよぅ」
パトリシア「ノラ……。なんで……」
ルーシア「パトリシア。ヤツのことなんて気にするな。お前には私がついているぞ」
パトリシア「ノラぁ……(聞いてない)」
 
13:以下、
 
シャチ「パトリシアさん、大丈夫ですよ」
パトリシア「シャチさん……」
明日原「出た! 仏様の言葉!」
ノブチナ「シャチ神のありがたいお言葉が聴けるぞ!! 全員静粛に!!」
黒木「しー! 静かに!!」
シャチ「昨日も言ったように。お二人は、運命という赤い糸で結ばれた関係」
シャチ「ノラさんは、ちょっと距離が離れたからと言ってパトリシアさんを捨てるような人ではありません」
シャチ「そして、ノラさんはしょうもない嘘は沢山つく人ですが、約束は破らない人です」
シャチ「誕生日に帰ってくると約束したならば、ノラさんは必ず帰ってくると思います」
シャチ「だから、待ちましょう」
シャチ「みんなでパトリシアさんの誕生日を祝いながら、待ちましょう」
パトリシア「……」
 
14:以下、
 
明日原「そっすね。ノラパイは意外に約束破んないんすよね。そーゆうとこはアタシも信頼してます♪」
ノブチナ「確かにどうでもいい嘘はつきまくるが、本気で人を傷付けるような嘘はつかないからな」
黒木「ええ、そうですね。反田君はそういう紳士的なところあります」
黒木「……だから、私もちょっと気になってたんですけど(小声)」
田中ちゃん「反田さんは誠実な人です! だから私は今でもこうやってお家に足を運ばせて貰っているんですから!」
井田「そうだな。あいつは男と男の友情を無下にはしねーやつだからよ。いつまでも待ってるぜ」
パトリシア「みんな……」
 
15:以下、
 
明日原「さ、ノラパイは後で必ず来るとして……。誕生日、祝っちゃいましょ!」
シャチ「そうですね。お料理も冷めてしまいますし」
ノブチナ「腹減ったぞ」
井田「おめーはつまみぐいしてたろ」
黒木「はい、みなさんグラスは持ちましたか? 乾杯しますよ!」
田中ちゃん「黒木さんが乾杯の音頭を取るそうですよ」
井田「風紀委員が仕切るとか、ぜってー話が長くなるやつじゃねーか」
ノブチナ「思えば中三の夏、彼と初めて出会ったことがうんたらかんたら?」
明日原「ながーい! 三行でー!!」
黒木「そんな馴れ初め話しませんよ!」
シャチ「……パトリシアさん、どうぞ(グラスを渡す)」
パトリシア「……ええ」
 
16:以下、
 
黒木「えー、ごほん。それではいいですか?」
黒木「パトリシアさん、じゅ……え、そう言えば冥界の人って年齢って……? まぁいいか」
黒木「17歳の誕生日を祝して……」
『カンパーイ!!』
パトリシア「……みんな」
パトリシア「ありがとう……♪」
 
17:以下、
 
 ***
ナレーション「そして、その夜――――」
パトリシア「……」
パトリシア「??」
パトリシア「――――ッ!」
パトリシア「帰ってこない」
 
18:以下、
 
パトリシア「……はぁ」
パトリシア「あと、5分――――」
パトリシア「もう少しで一年が終わる」
パトリシア「"終わり"の時間が始まる」
パトリシア「……」
パトリシア「月が、綺麗ね――」
 
19:以下、
 
パトリシア「ノラ……」
パトリシア「ノラぁ……」
パトリシア「うぅ……」
パトリシア「うぅ??……ッ!!」
パトリシア「??……」
パトリシア「……また」
パトリシア「新しい一年が始まってしまった」
パトリシア「……?」
パトリシア「月の光が、止まった……?」
 
20:以下、
 
「……!」
パトリシア「……え?」
パトリシア「この声は……ノラ?」
「…………シア!!」
パトリシア「ノラ!」
ノラ「パトリシア????!!(空を走ってくる)」
パトリシア「ノラ!!」
 
21:以下、
 
ノラ「はぁ……! はぁ……!」
ノラ「なんとか……31日に間に合った! 走って戻ってきたよ! 師走だから!!」
パトリシア「何が間に合ったよ! もう過ぎてるわよ! 一年の終わりは過ぎ去ってしまったわ!」
ノラ「いいや、まだだ。ほら、時間を見てみろよ」
パトリシア「何言ってるの、だってもう……」
パトリシア「――――え?」
パトリシア「時間が、止まってる……?」
ノラ「俺も魔法が使えるようになったから。時間を少しだけ止めることなんて訳ないんだ」
パトリシア「時間って……! そんな高度な魔法、私だって使えないのに……!」
ノラ「いやぁ、もう12月はすっげぇ忙しくてさ。冥界の師走なめてたよ」
ノラ「だから足りなくなるんじゃないかと思ってさ。時間の魔法をすっげぇ勉強してたんだよ。事前に」
パトリシア「事前にって……あなた、そんなに勤勉だったかしら……」
ノラ「失礼だな! 俺だって1000年の間に変わったんだぞ!」
パトリシア「ご、ごめんなさい……」
 
22:以下、
 
ノラ「最初はもっと一時間とか止められるかと思ってたけど、そんな甘いもんじゃないんだな魔法って」
パトリシア「当たり前よ! そんな簡単に使えるなら、私だって……!」
ノラ「でも頑張って頑張って、パトリシアの誕生日を祝うために超頑張って……」
ノラ「それで、なんとか5分だけ時間を止められるようになってさ」
ノラ「5分なんかじゃ何の役にも絶たないと思ってたけど、案外使えるもんだな」
ノラ「その5分のおかげで、パトの誕生日を祝えるんだからさ」
パトリシア「ノラぁ……」
ノラ「パトリシア、おめでとう」
ノラ「なんとか戻って来れたよ」
パトリシア「……ふ、ふん!」
パトリシア「浮気性なノラに祝われても嬉しくないんだから! 噂のリップ姫とはどうなったのよ!?」
ノラ「リップ姫?」
ノラ「ああ、それならなんとか説得できたよ」
パトリシア「説得?」
 
23:以下、
 
ノラ「俺には心に決めた人がいる。その人の為に今日まで走り回ってきたんだって。だから期待を裏切る訳にはいかないからって」
ノラ「リップ姫の婚約相手もさ、リップ姫の為に今日まで頑張って走り回ってきたんだからさ。その期待を裏切っちゃダメってさ」
ノラ「そしたら、リップ姫も納得してくれて。もう一回向こうの相手とじっくりお話してみるってさ」
ノラ「ワガママな子だけど、案外カワイイとこあるんだよ」
パトリシア「む……」
ノラ「でもまた会ってくれって云われちゃったけど。ははは」
パトリシア「はははじゃないわよ! 絶対ノラのこと好きになってるじゃない!」
ノラ「いや、でも大丈夫だと思うよ。俺との約束は破らな言ってくれたし」
パトリシア「どうだか……!」
ノラ「それに俺は、パトリシア一筋だからさ」
ノラ「俺も、約束は破らなかっただろ?」
パトリシア「それは、そうだけど……」
 
24:以下、
 
ノラ「パトリシア」
パトリシア「……ノラ」
ノラ「改めて、誕生日……おめでとう♪」
パトリシア「??」
パトリシア「……」
パトリシア「……ありがとう」
 
25:以下、
 
ナレーション「――――1年の終わりの日」
ナレーション「その、最後の最後。最も長い5分間が今、終わりを迎えようとしていました」
ナレーション「そしてまた始まる、新しい1年の始まりに……」
ナレーション「ノラとパトリシアさんの愛の形が育まれ、ここに新たな生命が誕生しようとしていました」
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ナレーション「母親として、これほど嬉しいことはないと――――冥界とは真逆の空から、微笑むのでありました」
 
26:以下、
 
 ***
パトリシア「ノラと皇女と野良猫ハート」
 ***
 
27:以下、

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