【進撃の巨人】リヴァイ「はじめての冬」back

【進撃の巨人】リヴァイ「はじめての冬」


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1:
窓が風でカタカタと鳴っている。外に立ち並ぶ常緑樹以外のほとんどの木々が落葉し、丸裸だ。
もう季節は冬になっていた。
リヴァイが調査兵団へ来てから数ヵ月が経つ。
ファーランとイザベルがいなくなり、その後同室の者も減り、今はリヴァイだけになっている。
誰もいないだだっ広い部屋はひどく寒い。
それをわかっているのか時おり人がやって来る。もう見慣れたというより見飽きた顔の者たちが。
2:
命のやり取りをしている調査兵団ならではなのかこの数ヵ月で皆もリヴァイを仲間と認識し、
リヴァイもそれなりに兵団に慣れてきた。
クソメガネは鬱陶しいし、でか鼻はスンスン嗅いでくる、金髪まゆげは底知れない。
早くも慣れた理由はそんな見飽きた連中のお蔭でもあるがそこは気にしないでおく。
リヴァイはここでの生活も悪くないと思い始めていた。
しかしここのところ何かおかしい。
酒浸りのリーゼントはちょくちょく飲みに誘いに来ていたのに急にパッタリと止んだ。
3:
特に騒がしいクソメガネとリーゼント……ハンジとゲルガーは目が合うと何かを言いたげにウズウズしているのがわかるが
近づいても来ないし話しかけもしてこない。
どうしたものかと眺めているとそのたびにでか鼻……ミケやリーネ、ナナバが彼らを叩(はた)いて引っ張っていく。
そして何やらミケには見張られているようにも感じる。
結局のところ元ゴロツキとして完全な仲間にはなれないということなのだろうか?
だが他に行く宛ももうない。ここで生きていくとも決めた。
周りがどうあれ自分がやれることをやっていくだけだとリヴァイは自分に言い聞かせた。
4:
―――― その数日前のこと。
書類の整理をしているエルヴィンのもとへ班の名簿を持ってきたハンジがやってきた。
亡くなった兵士や怪我をして退団する者などの編成を今回はエルヴィンが行っていたからだ。
「やぁ、エルヴィン。大変そうだね」
「ああ。名簿を持ってきてくれたのか。そこに置いててくれ」
「……名簿の編成、お疲れ様」
「いや……」
その時ノックの音が聞こえた。入室を何故かハンジが促し、ミケが入ってくる。
5:
「ここはいつの間にかハンジの執務室になったのか?」
部屋の主に代わり入室許可を出したハンジにスンッとひとつ鼻を鳴らして惚けた。
何しに来たのかとハンジが問えばエルヴィンの手伝いに来たと言う。
書類で埋もれそうになっているのではないかと心配したらしい。
ひとつ、ミケが名簿を手にするとその名に目が止まる。
ひょいっとそれをハンジが覗きこんだ。
6:
「これリヴァイのだね? ちゃんと書類作ってたんだ」
「当たり前だろう」
エルヴィンが笑いながら言う。じっと書類を見つめていたミケも口を開いた。
「……ファミリーネームは無いんだな」
「そういうこともあるだろう」
リヴァイは地下街出身だ。そこにはファミリーネームを持たない者もいるだろう。
その中にリヴァイがいてもおかしくはない。
「…………あれ? でも……」
覗きこんでいたハンジの言葉、それにミケも注目する。
そして、その事柄に対するハンジの提案に、二人は乗った。
7:
周りの態度が判然としない状況のまま、リヴァイは少々苛つきながらもぼんやりと過ごしていた。
そんなある日。
「リヴァイ」
「…………エルヴィンか」
何とはなしに廊下の掃除をしていたところをエルヴィンに声をかけられた。
8:
「君は掃除が本当に好きなんだな」
「汚ぇのが嫌いなだけだ。何か用か」
「大したことじゃないんだが18時に食堂へ来てくれないか? 大事な用事だ」
「? 大事な用事なら食堂じゃない方がいいんじゃねぇか?」
「いや、食堂の方がいいんだ。悪いが時間厳守だ。ただ遅れるのは構わないが早くに来てはいけない」
異なことを言う。時間厳守と言いながら遅れても良いとはどういうことか。
しかも早く来てはいけないとは。普通は逆ではないだろうか?
そんな疑問を口にする前にエルヴィンはさっさといなくなってしまった。
ここに属すると決めた以上、基本的に言われたことは守るつもりでいるリヴァイは首を捻りながらも時間を脳内に書き留めた。
9:
「俺、このために最近酒を飲むのを我慢してたんだぜ」
得意気に胸を張ってゲルガーが言う。
あんたはいつもそれくらい我慢してるくらいが丁度いいでしょうよ、とリーネがたしなめた。
食堂に大勢の者が集まっている。正直、ここまでの人数になるとは三人は思ってはいなかった。
ハンジの提案でリヴァイに関わったことのある者に片っ端から声をかけるとほぼ全員が参加してくれた。
参加できなかった者も帰省したり、何か先約がある者だけだ。
思っていた以上にリヴァイは兵団に馴染んでいたということなのだろう。
少ない金をこの時の酒代にするため、好きな酒を我慢をする者が出るほどに。
10:
「全く、ゲルガーとハンジは本人に漏らしそうになるからヒヤヒヤしたよ」
だいぶリヴァイに不審に思われたんじゃないの? と呆れたようにナナバが肩をすくめる。
二人がリヴァイを見かけるたびにそわそわとしだすのでナナバやリーネ、ミケが止めに入らなければならなかった。
ミケに至ってはさりげなくリヴァイを見張り、ハンジやゲルガーを近づけないようにまでしていた。
だというのに、「いやーつい」と二人は悪びれずに笑っている。
だがそんな苦労も今日でやっと終わる。
そんな雑談やワイワイとリヴァイとのエピソードなどを話しながら食堂で待っていると時間が迫ってきた。
「みんな。そろそろ時間だ! 気配を殺して静かにしてくれよ?
まぁ、それでも居ることはリヴァイに気づかれそうだけど」
苦笑しながらハンジがそう言うと違いないと笑いが起こった。
どうせ気づかれるのだから気配を殺す意味はないかもなと言う者もいた。
11:
「それでもできるだけ気づかれないように。
後でどれだけの人数だと思ったか聞いてみよう」
その言葉に皆がハッとした。
そして絶対少人数だと思わせてみせる! といきがりはじめた。
何故だか妙なプライドが沸き上がり、そこにはこれまた妙な一体感が生まれつつあった。
それを満足そうにうんうんと頷いてハンジが見ている。
隣でなかなかやるじゃないかとエルヴィンがハンジを褒めていた。
「さぁ、盛大にリヴァイの誕生日を祝ってやろうじゃないか!」
あの日、ミケとハンジが注目していたリヴァイの名簿に記載されていたある事柄
――それは彼が誕生した日付けだった。
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