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氷川紗夜「風邪」


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氷川紗夜「風邪」
※キャラ崩壊してます
244: 以下、
 氷川紗夜は風邪をひいていた。
 普段から風紀を大事にし、自分を律して規則正しい生活をしていたが、どうしたって風邪をひく時はひいてしまうらしい。
 彼女は自室のベッドで眠り、夢を見ていた。
 気が付くと、紗夜は制服を着て、涼し気な風の吹き抜ける森の中にいた。そして木々の間から見える綺麗に晴れた空の下をしとしと歩いていた。
 風紀委員の仕事に生徒会の手伝い、加えてバンド活動にも精を出し、慌ただしい日々を過ごしている彼女にとって、そのたおやかで静かな空気が心地よかった。
----------------------------------------------------------------------------
245: 以下、
 しばらく歩いていると、綺麗な泉に辿り着いた。
 紗夜はそのほとりでぼんやりと水面を眺めていた。そして思ったことをぽつり呟いた。
「羽沢さんに会いたい」
 この静かな空気をあの天使と一緒に共有出来たらどれだけの幸福と癒しを得られるのか。きっと死んでもいいほどのものが身体中に迸り、風邪なんて三秒で治るだろう。
 静かな水面に彼女の笑顔を思い浮かべてみた。それだけで幸せになったのだから、きっと羽沢つぐみというものは万病に効く特効薬だ。
246: 以下、
「紗夜……私の声が聞こえますか……」
 ふと声が聞こえた。満たされた幸福に水を差された気持ちになり、軽く舌打ちをしながら声のした方へ顔を向ける。そこには天使のコスプレをした丸山彩っぽい人間が立っていた。
「紗夜……」
「何をやっているんですか、丸山さん」
 普段ならそこは見て見ぬ振りや他人の空似で済ますところだが、今の紗夜は機嫌が悪かった。どうみてもふわふわピンク担当な人物にまっすぐ尋ねる。
「私は決して丸山彩ではありません。この地上に舞い降りたアイドルという名前の天使な部分では確かにあっているかもしれませんが」
「そんなことは一言も言っていません。物思いに耽りたいので一人にしてください」
 それだけ言って、紗夜は水面に視線を戻した。
「あれあれ? そういう反応をしてしまっていいのですか?」
「……はい?」
 しかしやたらと挑発的な言葉を投げ返されたので、片眉をひそめつつ、『私が見たいのはマロン色のショートカットだ』と思いながら、もう一度ピンク色に向き直る。
247: 以下、
「何度も言いますが、私は丸山彩ではありません。天使なことは共通していますが」
「それはもう聞きました。そして私にとっての天使は羽沢さんであってあなたではありません」
「つれない人ですね。まぁいいでしょう……あちらを見てください」
 スッとピンクが右手の方を指さした。そちらへ渋々視線を巡らすと、木組みの小屋が二つ建っていた。
「あれがどうかしたのかしら」
「何を隠そう、あれはあなたが心の奥底に抱える欲望を叶えるための小屋なのです。それはもう、あんな願いやこんな願いまで、何だって叶えちゃう素敵ルームなのです」
 ピンクの天使は瞼を閉じ、フフン、と得意気な笑みを浮かべて言葉を続ける。
「けれどまぁ、あなたの対応次第ではあれを消してしまうことだってできるんですよ? ふふ、困りますよね? 困っちゃいますよね? そうしたら、朝に目が覚めてから、あなたの妹にこう言うのです。『天使のような丸山彩をもっと労わるように』と。さぁ、それだけであんなことやこんなこともし放題ですよ? さぁさぁ? どうしますか、紗夜?」
 そこまで捲し立ててからぱっちりと目を開くと、目前に紗夜の姿はなく、彼女は既に小屋の扉に手をかけているところだった。
248: 以下、
「心の奥底に抱える欲望が叶う? なるほどそれは大変に結構なことではあるけれど果たしてその真偽のほどはどうなのかしらね。これはつまり何でも願いが叶うということであってそんなことは夢の世界にでもいなければ起こりうるはずもないのは確定的に明らかであって、となると今私がいる世界は夢なのかもしれないけれど確か明晰夢というものは自分の好きなように夢をいじれると何かの本で読んだからここに来て一番に出会ったのが大天使ツグミエルではなくあのピンク色だったことを鑑みればこれもまた現実であるという可能性を完全には否定できないわよね。それにこう言ってはなんだけれど私自身が心の奥底に抱える欲望が一体どんな形をしているかというのにも非常に興味があるしその興味というのもただ純然たる知的好奇心に他ならなくて敵を知り己を知れば百戦危うからずと昔の軍略家も言っていたし温故知新という言葉もあるのだからこれはまた私が一つ高みへ近づくために避けては通れない向き合うべき事柄なのは説明するまでもないから仕方のないことよね。せっかく丸山さんが用意してくれたんだから入ってみましょう」
249: 以下、
 紗夜はそんなことを呟きながら、小屋の前に立つ。すると両方の小屋の扉に小さな札がかかっているのに気付いた。それに目を通す。
 右手の小屋には『本能の小屋』、左手の小屋には『理性の小屋』と書かれていた。
 なので、紗夜は迷わずに右手の小屋の扉に手をかけた。理由は彼女の本能がこちらに羽沢つぐみがいると直感したからである。それ以上もそれ以下もない。
 ドアノブを回して小屋の中へ足を踏み入れる。すると、そこは自分の部屋だった。
 キョロキョロと室内を見回す。誰もいなかった。よくも騙したわね、と紗夜はピンクに対する報復方法を頭の中で模索する。
「だーれだ♪」
「きゃっ」
 とりあえず日菜をけしかけようと思っていたら、不意に後ろから目隠しをされて紗夜は情けない声を上げてしまった。
250: 以下、
「あはは、変な声が出ましたね」
 自分の目を覆う柔らかな手。ほのかに香る珈琲の匂い。まるで鈴がコロコロと鳴るような可愛らしい声が、楽しそうに鼓膜をくすぐる。それらは間違いなく羽沢つぐみのものだった。
「羽沢さん、急にそんなことをされるとびっくりしてしまいますから……」
 だから紗夜はたしなめるようにそう言いつつ、本心ではもっと遠慮なんかせずにドーンときてガシャーンとやってほしいと思いながら、自分の目を覆う手をそっと退ける。
「バレちゃってました?」
「ええ、バレバレです」
「ふふ、紗夜さんはすごいですね」
「羽沢さんのことですから」
 楽しそうに笑うやたらテンション高めなつぐみに対し、得意げな顔でそう言った。
251: 以下、
「さぁさぁ紗夜さん、扉の前で立ち話もなんですから、部屋に入りましょう」
「ええ」
 ここは私の部屋だけど、と言おうとしたけれど、つぐみに自分の部屋を我が物顔にされるのは決して悪くないどころかむしろ良かったので、紗夜は大人しく頷いて部屋の中に入る。するとつぐみが後ろ手に扉を閉めて、その手元から『カチャリ』と錠をおろす音が聞こえた。
 私の部屋に鍵なんて付いていたかしら。そう言おうとした紗夜の元へ、ずい、とつぐみが迫ってきた。
「紗夜さんてば、こっちの部屋に来ちゃったんですね」
 いつもの優しい癒し系の天使な笑顔が鳴りを潜め、つぐみの顔には小悪魔の耳と尻尾の似合いそうな蠱惑的な笑みが浮かんでいた。口元は嘲りにも少し似た風に歪められ、瞳には爛々と妖しい色が灯っている。
252: 以下、
「え、あの、羽沢さん……?」
 その姿とあまりにも近いつぐみにたじろぐ紗夜。しかしつぐみはそんな紗夜の言葉に聞く耳を持たず口を開く。
「本能と理性の小屋がありましたよね?」
「え、ええ……」
「てっきり真面目な紗夜さんのことだから、理性の小屋を選ぶんだろうなって思ってました。そしたら……ふふ、ノータイムで本能を選んじゃってましたね?」
 つぐみが顔を寄せる。今にも首元に噛みつかれそうな気配がして、紗夜は一歩後ずさる。しかしつぐみはすぐに距離を詰めてくる。
「どうしてですか? どうして、こっちの小屋を選んだんですか?」
「それは、その……」
 一歩引く。一歩詰められる。
「言えないんですか? ふふっ、言えないようなこと……期待しちゃったんですか?」
「…………」
 もう一歩引く。また一歩詰められる。
「ねぇ、どうしてなんですか? どうして?」
「えぇと……その、こちらなら……羽沢さんがいるかな、と」
 さらに一歩引く。トン、と背中に衝撃があった。肩越しに振り返ると壁があって、もうこれ以上後ろには下がれない。だけど、つぐみはさらにもう二歩、紗夜に詰め寄った。
253: 以下、
「へぇ、そうなんですね。ふふ、嬉しいなぁ。紗夜さん、私がこっちにいるって思ってこの小屋を選んでくれたんだぁ」
 もう顔と顔とがくっつきそうな位置から、鈴の音がからかうように転がる。それが耳から入ってきて直接脳みそをくすぐるような感覚を覚え、紗夜は小さく唇を噛んだ。
「ダメですよー、紗夜さん?」
「ふぁ――」
 しかしつぐみの手がスッと伸びてきて、紗夜の唇を柔い力で開いてしまった。変な声が出たことに羞恥と決して悪くないという気持ちが入り混じる。紗夜は身体がカァっと熱くなった。
「我慢したら……ダメですよ? いいんですよ? ここは本能の部屋ですから」
 くすくすと笑い声を織り交ぜながら、つぐみは言葉を続ける。
「いつも大変ですよね。風紀委員の仕事、生徒会の手伝い、ロゼリアの練習……すっごく大変ですよね。分かりますよ。いつもいつも、みんなの規範にならなくちゃいけないからって、すっごく頑張ってますよね? だからいいんですよ。ここでは素直になったって」
「す、素直にって……」
「ここは本能の小屋ですから、理性なんていらないですよね? だから私が、紗夜さんが望んでることぜーんぶ叶えちゃいます」
 つぐみの顔が紗夜にさらに近づいて、フワリと揺れた髪から淡い花の香りが広がる。その後すぐに、つぐみの口から「ふーっ」と優しく熱い息が吐き出された。それが紗夜の耳に直にかかって、ゾクゾクと背筋が震えた。
254: 以下、
「ふふ、それに……紗夜さん、本当はこういう風にされたかったんでしょう?」
「――っ」
 その言葉がなけなしの理性を焼き払いにきた。責めるでも蔑むでもなく、ただ純粋に愛を込めてからかうような調子の囁きだった。紗夜はキュッと目を瞑ってしまう。
「彩さんから聞きましたよね? ここは心の奥底に抱える欲望を叶えるための小屋だって。そしてこちらは本能の小屋なんですよ。なら……もう分かりますよね?」
 楽しそうな響きの囁き。紗夜は恥ずかしくて何も答えることが出来なかった。
「ふぅ、仕方のない紗夜さんですね……」
 つぐみは少しだけ呆れたように呟いてから、
「紗夜さん、私にこうしてイジワルされたかったんですよね?」
 とうとう紗夜が思っても絶対に口にしないでおこうと考えていたことを言葉にした。
「うぅぅ……」
 顔が熱い。身体中が熱い。そういえば私は風邪をひいていたのだった、と現実逃避的な思考がやってくるけれど、それを見透かしたようなタイミングで――いや、きっと見透かしているんだろう――つぐみがフッと紗夜の耳に息を吹きかける。
 それに頭がさらに茹だって、けれど全然嫌じゃないというかむしろもっとして欲しいという気持ちが胸中に止めどなく沸き起こる訳で、いっそつぐみに自分の願望を見透かされてスッキリしたというかそういう感じの結構アウトなことを考えた。
255: 以下、
「ヒドいなぁ、紗夜さん。私にこんなこと言わせて、自分だけ気持ちよくなって……」
「えっ……と、その、ごめんなさい、羽沢さん……」
「ふふ、冗談ですよ。そんなカワイイ紗夜さんも……私は好きですよ?」
「そ、そんなことを耳元で囁くのは……」
「やめてほしい? やめてほしいんですか? ねぇ紗夜さん。本当にやめてほしいんですかね?」
「そ、それは……」
「くすくす……知ってますよ。紗夜さんの『やめてください』は『もっとしてください、やめないでください、お願いします』ですもんね?」
「っぅ……」
 そこまでのものではない。
 しかしそうは思っていても、つぐみから囁かれた言葉を自分が発したと考えるだけで、色々と本当にどうしようもない気持ちが複雑に絡み合った単純な快感に頭の中が支配されてしまう紗夜だった。
256: 以下、
「本当にどうしようもない紗夜さんですね? そんな紗夜さんにはオシオキが必要ですね?」
「お、オシオキ……?」
「ああ、違いましたね。紗夜さんにとっては“ご褒美”でしたね?」
 こしょりと耳元でつま弾かれた言葉が心をさらに波立たせる。可愛い天使のお面を被った小悪魔の声色に脳をこねくり回される。
 ツツ、とつぐみの手が紗夜の首を撫でた。少しひんやりとしたその感触にゾクリと背筋が震える。
257: 以下、
「こんな雑学を知ってますか、紗夜さん」
「な、なにを?」
「諸説ありますけど、他人に触れられて血の気が引いたり、ゾクゾクって寒気がする場所は、前世で致命傷を負った部分なんですって」
「それが――」
「紗夜さんの前世はどこをどうされちゃったんでしょうね? ふふっ、確かめてみましょうか。どこかなぁ、紗夜さんはどこを痛い痛いってされちゃったのかなぁ?」
 楽しそうに嗜虐的な笑みを浮かべたつぐみは、紗夜の首を撫でていた手を、彼女の前鋸筋に持っていった。そしてそこを擦るような強さで撫ぜる。
「っ、うっ」
 ぴくんと紗夜の身体が揺れる。あまり人に触れられない部分に少し強い刺激を与えられて、こそばゆさと言葉にし難い快感が押し寄せてくる。
258: 以下、
「くすぐったいですか?」
「え、ええ」
「……くすぐったいだけですか?」
「…………」
 それには何も答えることが出来ず、紗夜は熱くなった顔をプイと背けた。そんな紗夜を見て、つぐみはやっぱり楽しそうに笑う。
「紗夜さん、強情だなぁ。でも、うふふ……そっちの方が私も楽しいですよ?」
 悪魔めいた囁きが紗夜の耳に突き刺さる。それにも何も答えずにいると、つぐみは前鋸筋から手を離し、次の獲物を定めるように、紗夜の身体に触れるか触れないかくらいの距離を置いて、ゆらゆらと手を動かす。
「っ……」
 触れられていないのにつぐみに全身を撫でまわされているような気持ちになって、紗夜はキュッと奥歯を噛みしめた。
259: 以下、
「次は……ここなんてどうでしょうか」
 コロコロと鈴のような声を転がして、つぐみが次に手を置いたのは大腿四頭筋だった。制服のスカートの裾を少し上げられた。それがまるで自分の心を外気に曝された気持ちにさせてきて、羞恥心と情けない劣情が煽られる。
「この辺りには太い血管が流れていますからね。例え内蔵がなくても、心臓からは遠くても、血をいっぱい出しすぎちゃって死んじゃうこともあるらしいですよ?」
 変わらない囁き声を出しながら、つぐみの手がスルリと内側広筋を撫でる。口から出かけた短い悲鳴じみたものを紗夜はなんとか噛み殺した。
「ふふ……ここは反応が大きいですね?」
「っ、っ……」
 それに何も答えず、ただ彼女は唇を噛み締めつづける。そんな必死な姿をとてもいとおしそうにつぐみは見つめていた。
260: 以下、
「お楽しみは最後にとっておきましょうか。今はオシオキ中ですからね」
 そして紗夜の内側広筋から手を離す。スカートがふわりと揺れた。今までつぐみに撫でられていた場所をより実感してしまい、触られている時よりも強い震えが背中を駆け抜けていった。
「次は……ここですね」
 次に紗夜が触れられたのは広背筋だった。つぐみの右手が心臓の後ろ辺りに回されて、二人の身体が密着する。
「あ、紗夜さん……ドキドキが早くなってますよ?」
 ほぼ抱き着くような形になったつぐみがからかうように紗夜を見上げた。愉悦を浮かべた捕食者の顔だった。心臓を背中側から掴まれているようなものだから、きっと概ね間違っていないだろう。
「また鼓動が早くなりましたね? どうしたんですか? 怖いんですか、紗夜さん?」
 耳にかかる甘い猫撫で声。猫とは元来狩りを行う捕食者だ、と湊友希那が雄弁に語っていたことを紗夜は思い出す。
261: 以下、
 柔らかな肉球は足音を殺すためのもの。可愛らしい猫パンチも本来はしとめた獲物を弄ぶためのもの。それが今のつぐみと紗夜の関係に片っぽだけ一致した。
 嗜虐的な笑みを浮かべ、可愛い笑い声をあげながら、獲物を弄ぶつぐみ。
 では捕らえられた紗夜はどうだろうか。生き延びるために必死に抵抗をした? それともせめて苦痛がないようにと力を抜いて逃れることを諦めた?
「……いえ」
 紗夜は弱く首を振った。
 そうだった。ここは本能の小屋。だから本能が直感していたのだ。
 こちらに来れば羽沢つぐみに会えると。こちらに来れば、羽沢つぐみにこうして弄んでもらえるんだと。
 抵抗も諦観もしていない。他でもない紗夜自身がこうされることを夢に見ていたのだから、むしろもっともっとと心と身体が求めているのだった。彼女はここに至ってとうとうそれを自覚してしまった。
262: 以下、
「じゃあどうしたんですか、紗夜さん?」
 答えが分かっているのだろう。つぐみはイジワルな笑みを浮かべて、紗夜にそう尋ねる。
「その……」
 自覚をしてしまったのだから、もう『それ』を言葉にするのを止めるのは、残り僅かな羞恥心だけだった。
「言わないとやめちゃいますよ?」
「……っ!」しかしそんな羞恥心もつぐみのその言葉であっという間に瓦解した。「やっ、やめないで、ください……」
「どうしてですか? オシオキなのにやめないで、っておかしいですよね?」
「それは、羽沢さんに……こうされたかったから……」
「へぇ? 年下の女の子にオシオキされたかたったんですか?」
「年下……というか、羽沢さんに」
「私にこうやって身体中をまさぐられて、恥ずかしい言葉をかけられたかったんですか?」
「……はい」
 つぐみの言葉に頷いたとたんに、全部のタガが外れたような錯覚をおぼえた。度し難いことを自分自身で認めて受け入れたことに、ある種の快楽が紗夜の胸の内に芽生えた。
263: 以下、
「じゃあ紗夜さん、言ってみてください」
 あえて『何を』とは言わないつぐみ。だけど今の紗夜にはそれ以上嬉しく感じる言葉はなかった。
「最後まで……してください」
「何を?」
「私の前世の死因を、余すところなく探って下さい」
「……ふふっ」その言葉につぐみは今日一番の嬉しそうな笑みを浮かべた。「いいですよ。紗夜さんの気が済むまで、ずーっと探ってあげますね?」
「はい……」
264: 以下、
 鈴を転がしたような声が頭の中で何度も反響する。そしてこれから自分がされるだろうことを想像すると、これ以上ないほどの幸福に満たされてしまう。
「心臓が一番の急所ですけど……ここもそうですよね」
 右手は広背筋に回したまま、つぐみの左手がスルリと紗夜の唇を撫でる。紗夜はもう何も言わずにただ頷いた。
 唇から手が離れる。つぐみの小悪魔的笑顔がゆっくりと近付いてきた。
 もうこのまま流れに身を任せよう。それが一番だ。
 紗夜はそう思って目を瞑った。きっともうすぐ唇に柔らかい感触が来るはずだ。その先のことは……
 ――ピピピピピ……
 ……と、そこまで考えたところで無機質な音が耳元で聞こえた。パチリと瞳を開けば、目の前には自分の枕があった。
265: 以下、
「…………」
 どうやら自室のベッドに横になっていたようだ。
 上半身を起こして辺りを見回す。見慣れた自分の部屋だった。つぐみの姿はない。代わりに枕元でまだ機械的にアラームを奏で続けるスマートフォンが目についた。
「…………」
 とりあえずそれに手を伸ばして音を止める。それからぼんやりとした頭で今がどういう状況なのか考える。
266: 以下、
「……私の部屋ね」
 やたら乾燥した喉から発せられる掠れた呟き。そうだ、そういえば風邪をひいていたんだと思い出す。
 次にスマートフォンの画面に映った時計に目を移す。二月十一日の午前十時二分だった。
 もう一度部屋の中を見回す。やっぱりここにはつぐみはいなかった。
「……夢?」
 そして最終的に辿り着いた答えがそれだった。
267: 以下、
 せめてあと十分、いや、三分でいいから眠らせていてくれれば……という気持ちになっていたら咳き込んだ。咳をしても一人、という有名な自由律俳句が頭に浮かんで非常にやるせなくなった。
「夢……夢、だったのね……」
 もう一度眠ればあの夢の続きが見れるだろうか。少し考えてみたけど、未だ消えぬ鮮明な小悪魔つぐみの残滓がそれを許してくれなかった。きっと今の紗夜は遠足前日の小 学生よりも眠るのに時間を擁すことだろう。
 その間にあの夢はどんどん薄れていってしまうし、それはそれで焦らされているようでなかなかいいのではないか、と夢の中ならまだしも現実であれば相当ヤバいことを考えつつ、とりあえず紗夜は日菜にメッセージを送ることにした。
『最近、丸山さんが愚痴を吐いていたわよ。『日菜ちゃんが相手にしてくれなくて寂しいなぁ、もっとからかいに来てほしいなぁ』って』
 一昨日の記憶を思い起こすと、確かこの二月の三連休はパステルパレットで泊まり込みのロケがあると日菜は言っていた。
 あまり思い出せないが、何か彩に対して報復をしようと心に誓ったような気がした。それならこれであとは日菜が上手くやってくれるだろう。
268: 以下、
 送って二秒でついた『既読』の文字を確認してから、今度はつぐみにメッセージを送ろうと紗夜は思った。
 文面は……「たすけてくださいはざわさん」にしよう。それから「家にだれもいなくて、風邪をひいていて」と送りましょう。
 これならきっと彼女は来てくれる。そして夢の中とは180°違う優しい天使のような姿で看病してくれる。
 何から何まで甲斐甲斐しくお世話してくれるつぐみの姿を思い浮かべてみたら意識が朦朧としてきた。きっと体温が1℃くらい上がったのだろう。
 重症なほど羽沢さんは優しくなってくれそうね、流石私の身体だわ……そう思いながら、紗夜はつぐみに送るメッセージを打ち込みはじめるのだった。
 おわり
269: 以下、
風邪をひいた時の夢っていつにも増して支離滅裂でワケ分からないよね、という話でしたごめんなさい。
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1544965078/
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「世界で嫌われる韓国」 日本のSNSで拡散

今の仕事辞めて「自販機にジュース補助して回る仕事」に就くという選択・・・

旅行の計画全部自分に任せられっぱなしでイライラする

【古代スポーツ】600年前にゴルフ? 元時代の壁画を展示 中国・山西省

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