【ミリマス】まつり「わたしの、お姫様」back

【ミリマス】まつり「わたしの、お姫様」


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※MTG14『Charlotte・Charlotte』ドラマパートのネタバレを含みます。ご注意ください。
――それは、プリンセススターズ13人が登壇するアリーナライブに向けた準備が進むある日の出来事がきっかけだった。
育「鏡よ鏡ねぇまだなの王子様?」スタッ
まつり「フムフム。良い感じなのです」
育「ほんと?」
まつり「はいなのです。今日最初に踊ったときから確実に良くなっているのですよ」
育「やったぁ!」
プロデューサー(以下、P)「……」
P(成り行きで始まった育の個人練習だが、まつりが先生役に申し出てくれて本当に助かった)
P(何より二人とも良いコンビネーションだ。これは育にとってとても有意義な時間になりそうだな)
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2: 以下、
――回想。一時間前
P「育、全体練習お疲れ様! この後の予定は1時間後にトゥインクルリズムのアクション演出についての打ち合わせだ。それまでゆっくり休憩しておいてくれ」
育「……ねぇPさん」
P「ん? どうかしたのか?」
育「あのね、わたし、みんなとのレッスンだけじゃなく一人だけの練習もしたい。こんどのアリーナライブに向けて、歌もダンスももっともっと上手になりたいから」
P「育、なんでまた急に……今日の全体練習でもしっかり踊れていたし、美奈子たちも褒めてたじゃないか。今回の形式になってから13人で合わせるのは初めてなのに、すごいって…」
育「うん。ユニットごとにパート分けされた『Princess Be Ambitious!!』をみんなで歌って踊るのは今日が初めてだったけど……」
P「そうだな。だから慣れてるはずの百合子や可奈が戸惑うシーンもあった。居残り練習を志願した二人には、奈緒たちが付き添ってくれてるが…」
育「Pさん……百合子さんが間違えたあの間奏のステップ、わたしもちゃんと踊れてなかったはずだよ。だってわたし昨日までずっと、百合子さんの動きを参考にしてたんだもん」
P(確かにそうだ。この曲も含めて昨日まではトゥインクルリズムの3人だけで練習していた。百合子や亜利沙に合わせていたなら、前列の閃光☆HANABI団とはどうしてもズレてしまう)
育「でも奈緒さんたちもPさんも、さっきわたしのこと注意してくれなかった。それって、子どものわたしなら少しズレてても問題ないってこと?」
P「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
P(全体練習初日でこのくらいの進捗なら及第点だと思ったんだが……百合子たちの居残りも、あくまで本人からの申し出だし。ただ何にせよ、これは俺のミスだな)
育「確かにこの曲のダンスはむずかしいけど……わたしが子どもだからまちがえててもいいって思われてるなら、そんなのぜったいいやだよ!」
P(どうしようか。育の気持ちも汲みたいが、かといって無闇に要求水準を上げるわけにもいかない。今回育には激しいアクションも担当してもらうからな。怪我のリスクは避けないと…)
3: 以下、
まつり「はいほー! 育ちゃん、Pさん、どうしたのです?」
育「あっ、まつりさん」
P「やあ。まつりこそどうしたんだ? 今日この後の予定はもうないから、先に帰ったものと思ってたよ」
まつり「これから雑誌インタビューのお仕事に向かうエミリーちゃんの準備を手伝っていたのです。それで育ちゃん、何かPさんにお願いがあるのです?」
育「えっとね、わたし次のライブまでに歌もダンスももっと上手になりたくて……それでもっと練習したいと思って」
まつり「なるほど。それはとても良い心がけなのです」
育「だってこんどのアリーナライブは、プリンセススターズ13人でのライブでしょ。お姫様みたいにかわいくてはなやかなステージにするんだよね?」
育「だからわたし、まつりさんみたいなすてきなお姫様になってステージに立ちたいんだ!」
まつり「まつりのようなお姫様――なのです?」
育「そのためには今のままじゃダメだって思うんだ。もちろん練習のしすぎもよくないってわかってるよ」
育「だけど練習しなきゃ上手くならないもん。大好きな『Princess Be Ambitious!!』も、前よりもお姫様らしくパフォーマンスできるようになりたい!」
まつり「それなら、姫におまかせなのです♪ 頑張りたい育ちゃんのためなら、姫が喜んで力を貸すのですよ」
P「まつり……いいのか?」
まつり「もちろんなのです。でも育ちゃん、大事なライブの前に体調を崩したら元も子もないのです。疲れたらすぐに言うのですよ?」
育「うん! まつりさん、ありがとう!」
4: 以下、
――こうして、育とまつりの個人練習が始まったのだった。
まつり「“憧れを叶えてきましょ”のところの手は、こんな感じにすると良いのですよ」
育「うん、やってみるね!」
P(おっと、もうあれから一時間か。そろそろ打ち合わせの時間だな)
百合子「あっ、いたいた。育ちゃん、今美咲さんから連絡があって、演出家さんと殺陣の先生が到着したみたいだよ」
亜利沙「早作戦会議に向かいましょう! トゥインクルリズム出動です!」
育「百合子さん、亜利沙さん! それじゃあまつりさん、今日はありがとう。また明日ね!」
まつり「はいほー! 明日もぱわほー!に頑張りましょー!」
P「まつり、お疲れ様。自分の練習もある中で、育の先生役まで買って出てくれてとても助かったよ。ありがとう」
まつり「ほ? 姫はただ、頑張っている育ちゃんに少しだけアドバイスをしているだけなのです」
P「でも的確な指導だったと思う。手加減すれば育ならすぐ見抜くし、それを何よりも嫌がる。かといってハードルを上げすぎても良くないからな」
P「まつりが育のやりたいこと、して欲しいことを深く理解できている証拠だよ。俺も見習わないとな」
5: 以下、
育「こんどのわたしたち、正義の魔法少女としてステージに立つんだよね?」
亜利沙「はい! ドラマの撮影で使用したあのハイクオリティな武器をステージ上で振るいながら歌う……ムフゥ、最高の演出に興奮が収まりません!」
百合子「正直アクションが上手くできるかは不安だけど……でも、こんなチャンス滅多にないもの。頑張りたいです!」
育「うん! お客さんの前で魔法少女になって戦えるなんて夢みたい……わたしもがんばるね!」
まつり「……」
P「まつり、どうかしたのか?」
まつり「いえ、なんでもないのです。それじゃあPさん、お疲れ様なのです。早くみんなを追いかけないと、打ち合わせに遅れてしまうのですよ?」
P「あ、ああ。お疲れ様」
P(打ち合わせに向かう育を見つめるまつりの顔……一見優しく見守る感じだったが、それよりも懐かしいものを眺める感じというか――)
P(頑張る育の姿に、まつりも何か感じるものがあったのかもしれないな)
6: 以下、
――翌日、レッスンルーム
まつり「ではエミリーちゃん、『ミラージュ・ミラー』の歌とダンス、もう一度頭から行ってみましょう」
エミリー「はい。えっと、その前に……少しだけまつりさんにご相談が……」
まつり「どうしたのです?」
エミリー「この曲は『鏡の中のシャーロット』の物語の最後に流れる楽曲です。凜々しくも幻想的で、それでいて儚くて……魅力に溢れた楽曲だと思っているのですが…」
エミリー「先日振り付けの先生は、物語の中で成長したシャルロットの姿と、そんな彼女を尊重するシャーロットの姿を反映したいとおっしゃっていました」
エミリー「ですが……やはり私は、二人が最後に別れることになってしまったこの物語に、どうしても悲しさや寂しさを感じてしまうんです」
エミリー「劇の中でシャルロットが寄宿学校の制服を着てお義母さまと向き合う場面――それを演じるまつりさんの演技はとても素晴らしいものでした」
エミリー「振り付けの先生がおっしゃる成長した姿とは、まさにあれを指しているのだと感じています。けれど……」
エミリー「……果たして私は現在の考え方のままで、まつりさんの完璧な演技に対して、しっかり鏡映しになれるでしょうか……」
7: 以下、
まつり「なるほど……以前からエミリーちゃんはこのお話のラストを「悲しいお別れ」と感じていると言っていましたね」
エミリー「ええ。ですが『ミラージュ・ミラー』はきっと、別れを惜しむ曲ではありませんから……」
まつり「それなら心配ご無用なのです。今のエミリーちゃんの解釈で最後まで演じきってもらえれば大丈夫なのですよ」
エミリー「? 本当ですか?」
まつり「はいなのです。まつりが保証するのです。それにまつりはあくまで、今現在のエミリーちゃんの解釈を尊重したいのです」
まつり「それはきっと、大人になったエミリーちゃんでは感じることのできないもの――だから大切にしていて欲しいのです」
まつり「そういう感覚を持った今のエミリーちゃんだからこそ表現できるものを、お客さんたちは見たいと思っているはずなのです」
まつり「『夢なら覚めないでいて 大好きよ』――感じ方は人それぞれあっても、この言葉に嘘はないはずなのですから」
エミリー「まつりさん……わかりました。私、自分が感じたものを大事にしながらシャーロットを演じきってみせます」
まつり「その意気なのです。エミリーちゃん、一緒にがんばりましょー!」
8: 以下、
――一時間後
ガチャ
育「失礼しまーす」
エミリー「あら、育さん。こんにちは」
育「エミリーさん、まつりさん、こんにちは!」
まつり「はいほー! 育ちゃん、トゥインクルリズムのレッスンは順調なのです?」
育「うん! でも百合子さんが鎌をふりすぎて疲れちゃったみたいだから、しばらく休憩時間なんだ」
エミリー「Oh……あの武器、とても重そうでしたからね」
まつり「亜利沙ちゃんはどうしているのです?」
育「亜利沙さんは、殺陣の先生に今まで指導してきたアイドルの人についてインタビューしてるよ。なんだかとってもいそがしそう」
まつり「それなら育ちゃん、休憩の間、まつりたちの練習を見学していくといいのです」
育「ほんと? いいの?」
エミリー「はい。この曲をどなたかの前で舞い踊るのは初めてなので、ぜひ感想を聞かせてください」
育「うん!」
まつり「それじゃあ行くのですよ。――『魔法をかけて』」
9: 以下、
エミリー「育さん、どうでしたか?」
育「すごーい! とってもかわいかった! 二人とも、ダンスも歌も本当に上手だね!」
まつり「わんだほー! それは良かったのです」
育「だけど……ちょっとふしぎな感じだったかな」
エミリー「不思議……ですか?」
育「この曲って、ふだんは律子さんが歌っている曲だよね。これをシャルロット・シャーロットが歌うのってロマンチックだなって思うけど…」
育「でもちょっと意外かもって思った。だってこの曲、まつりさんっぽくないんだもん」
まつり「ほ?」
エミリー「ですがまつりさんはよく「夢のお城」や「姫の魔法」とおっしゃるので、私としては共通する部分があると思いましたが」
育「それだよエミリーさん。まつりさんは魔法が使えるんだよ。だから「魔法をかけてもらう」のを「待つ」のはおかしいんだよ」
まつり「……!」
10: 以下、
エミリー「なるほど……そういう考え方もできますね。育さんらしい意見だと思います」
育「やっぱりまつりさんは『Princess Be Ambitious!!』みたいに「自分で魔法をかけにいく」のがにあってるってわたしは思うな」
まつり「育ちゃん……わんだほー!な意見をありがとうなのです。とっても参考になったのです」
まつり「でも今回まつりとエミリーちゃんは、この曲をシャルロットとシャーロットとして歌うのです。育ちゃんと同じく、演じながら歌うのですよ」
育「そっか。役の子ににあっているなら問題ないもんね。……ごめんねまつりさん、わたし変なこと言っちゃった」
まつり「ノープロブレムなのですよ。本番前に色んな意見をもらえるのは良いことなのです」
エミリー「おや? ということは育さんは『魔法をかけて』はまつりさんには似合っていなくても、シャルロットには似合っているとお考えですか?」
育「うん。シャルロットを演じながら歌うまつりさん、とってもすてきだったよ。物語と同じで、もっと幼くて気弱な女の子って感じだった」
まつり「うふふ。ありがとうなのです」
育「わたしもまつりさんみたいに、自分とぜんぜんちがう役を自由に演じられたらいいのにな…」
育「そうしたら魔法少女ももっと強そうに見えるだろうし、大人っぽい役だってちゃんと演じられるのに…」
まつり「育ちゃん……」
エミリー(? まつりさん……?)
11: 以下、
ガチャ
亜利沙「ありさ失礼します! 育ちゃん、百合子ちゃんが復活しましたよ。レッスンを再開しましょう!」
育「亜利沙さん――うん、今行くからちょっと待ってて。それじゃあまつりさん、エミリーさん、練習がんばってね!」
まつり「はいほー! 育ちゃんも頑張るのですよ♪」
エミリー「育さん、亜利沙さん、また後でお会いしましょうね」
パタン
エミリー「うふふ。育さんはとても素敵な感性をお持ちですよね」
まつり「ええ。今は先生役になっていますが、きっとこちらが教えられることの方が多いのです」
エミリー「今回演舞場公演を行う姫君組13人の中では、まつりさんが1番のお姉さん、育さんが末の妹になりますよね」
エミリー「私も個人練習に励むお二人の様子を、当初は歳の離れた姉妹のように微笑ましく思っていたのですが――不思議ですね」
エミリー「先ほどの育さんを見つめるまつりさんの横顔を拝見していると、こんな風に感じました」
エミリー「物語序盤、一人で鏡を見つめていたシャルロットも、このような表情をしていたのではないか――と」
まつり「ほ――?」
12: 以下、
エミリー「シャルロットにとってのシャーロットとは何なのか――これまで私は、それを自分なりにずっと考えてきたのですが」
エミリー「今のお二人のお姿を見て、その根幹を掴む糸口を見つけられたかもしれません」
まつり「エミリーちゃん……本当にこのユニットのお仕事を大切に思ってくれているのですね」
エミリー「もちろんです! まつりさんとの双子を演じられるよう、日々精一杯努めさせていただいています」
エミリー「こうしてまつりさんと長く一緒に過ごす中で、僭越ながらまつりさんのことを以前より理解できてきたような……そんな気がしているんです」
まつり「ええ。エミリーちゃんはとてもよく頑張っているのです。もしかするともうまつりのことならなんでもお見通しかもしれないのです」
エミリー「い、いえそんな不躾なことは――」
まつり「実はまつりも、少しだけ不安だったのです。年齢も育った環境も違うエミリーちゃんに見合う双子のお姫様になれるかどうか…」
まつり「けれど二人とも多少の不安はあったにせよ、まつりたちはこうして立派に双子になれたのです。一番大事なのはそこなのですよ。だからまつりはとってもはっぴー!なのです」
エミリー「……まつりさんはいつも先頭に立って私たちを引っ張って、不安を和ませてくださいます。けれど本当は――」
まつり「まつりはみんなの姫なのです。育ちゃんの言ったとおり、姫は魔法が使えるのです。それがただ嬉しいのです」
エミリー「まつりさん……そうですね。私もこの姫君公演を、まつりさんやみなさんと一緒に、最高の舞台にしてみせます!」
13: 以下、
殺陣の先生「――よし! いい感じにまとまってきたね。それじゃあ切りも良いし、今日はこの辺りで解散しようか。みんな、お疲れ様」
育・百合子・亜利沙「ありがとうございました!」
百合子「はぁ……もう腕が上がりません…」
亜利沙「百合子ちゃん、お水をどうぞ。はい、育ちゃんも」
育「ありがとう亜利沙さん」
亜利沙「それにしても育ちゃん、ユニットでのレッスンに全体練習、さらに学校や普段のお仕事をこなしつつ追加で個人練習とは……頭が下がるばかりです!」
育「これくらいなら平気だよ。前から習い事はたくさんしてきたし、いろんなことに挑戦できるのはうれしいから」
百合子「えらいね育ちゃん。私なんて殺陣のレッスンだけでもうクタクタなのに……」
亜利沙「個人練習の先生役も、本来ならありさか百合子ちゃんのどちらかができれば良かったんですが…」
育「ううん、気にしないで。だってわたし、今まで二人にはたくさん助けてもらったもん。こんどはわたしがお返しする番だよ」
育「トゥインクルリズムのセンターはわたしだもん。二人がこまったときは、わたしがたよりになれるようにしなきゃ!」
14: 以下、
亜利沙「育ちゃん……うぅ、我らのプリンセスはなんて立派なんでしょう……ありさ感無量です…!」
百合子「育ちゃんが頑張る姿には、私もいつも励まされてるよ。本当にありがとう」
育「えへへ。だってわたしたちはプリンセススターズ。お姫様はやっぱり、強くて優しくて、みんなを元気づけられる人でなくっちゃ!」
亜利沙「あっ、それで育ちゃんはまつりさんに――」
育「そうなんだ。まつりさんは、かわいくてかっこよくてなんでもできちゃう、すてきなお姫様だからね!」
育「わたし、まだ子どもだからできないことがたくさんあるけど、おとなになればあんな風になれるのかな……わたしもなりたいな。すてきなお姫様に」
育「できるなら、今すぐにでもなれたらいいのに。ナイフのアクションだって、まつりさんだったらきっと、もっと上手にできるんだろうな…」
百合子・亜利沙「……」
15: 以下、
ぎゅーっ
育「ちょっ、もう二人ともくすぐったいよ。子どもあつかいしないでよね」
亜利沙「違いまずぅ、ごれはリスペクトどいうもので」
百合子「子どもだからダメとか、そんなこと関係ないよ! 育ちゃんは強くて優しい、私たちの自慢のお姫様なんだから」
亜利沙「ぞうでずよぉぉぉ!!!」
百合子「まつりさんだってきっと、そんな育ちゃんに励まされてるはずだよ」
育「えっ……そうなの?」
亜利沙「ぞうでずよぉぉぉ!!!」
育「亜利沙さん、それしか言わない…」
16: 以下、
百合子「私や亜利沙さんがこんなに励まされてるんだもん。まつりさんだって同じ気持ちなんじゃないかな」
亜利沙「我々13人は同じチームです! 育ちゃんはプリンセススターズに欠かせない存在ですから!」
育「百合子さん、亜利沙さん……うん、わたしみんなのこと大好きだよ。みんなといっしょに、すてきなお姫様になりたい!」
亜利沙「キタァァァ! 育ちゃんの決意表明いただきました! 我々も負けていられませんね百合子ちゃん!」
百合子「はい! そのために今私たちがすべきことは――あ、明日のレッスンに備えて体力を回復させること…」
亜利沙「ま、まあ今一番すべきこととなると、それですかね……」
育・百合子・亜利沙「アハハハハハ――」
こうして、プリンセススターズのアリーナライブに向けた準備は順調に進んでいった。
日を追うごとに各ユニットの絆も深まり、パフォーマンスの完成度も着実に上昇。雰囲気はますます高まっていった。
17: 以下、
――数日後
P「さて、今日はバラエティ番組に出てアリーナライブの告知をしてもらうわけだけど……昨日の打ち合わせの後から気づいたことがあれば何でも言ってくれ」」
まつり「姫は特にないのです。育ちゃんはどうなのです?」
育「うん。わたしもだいじょうぶだよ。まつりさん、今日はいっしょにがんばろうね!」
まつり「はいなのです。今朝のり子ちゃんや奈緒ちゃんたちからも熱い激励を受けてきたのです」
育「ゲームをクリアしたら牛タンがもらえるんだよね。美奈子さんが張り切ってたよ」
まつり「確かに焼き肉はライブに向けての景気づけにはもってこいなのです」
育「みんなのためにも、ぜったいクリアして劇場に牛タンを持って帰ろうね!」
P「それじゃあテレビ局まで移動しよう。二人とも荷物を持って駐車場まで来てくれ」
……
18: 以下、
――そして収録開始。
司会「今日のゲストは今注目のアイドル、徳川まつりちゃんと中谷育ちゃんです!」
まつり・育「よろしくお願いしまーす!」
パチパチパチ…
司会「さてお二人が所属する765プロライブ劇場のアイドルたちは、現在アリーナライブツアーを行っているそうですね?」
まつり「はいなのです。先日のエンジェルスターズの公演に来てくれたファンのみんな、ありがとうなのです!」
育「次はわたしたちプリンセススターズの出番だよ! 最高のライブにするからみんな楽しみにしててね!」
司会「それではこれからお二人には豪華賞品を懸けてゲームにチャレンジしてもらいましょう! 賞品はこちら、牛タン13人前でーす!」
司会「まつりちゃん、育ちゃん、これをチョイスしたのはどういった理由で?」
まつり「これは先日のエンジェル公演が行われた仙台の名物なのです」
育「環ちゃんや星梨花ちゃんたちからとってもおいしかったって聞いて、わたしたちも食べたいと思ってえらびました!」
司会「なるほど。ではぜひ決起集会で牛タンをじっくり味わって、ライブを頑張っていただきたいですね」
司会「そんなお二人に今回チャレンジしていただくゲームはこちら! ウンババウッホッホッゲーム!!」
19: 以下、
司会「ルールは簡単。画面に登場する二人の原始人になりきって難関をクリアしながら5分以内にマンモス肉屋さんを目指すリアルアクションゲームでーす」
(※知らない人は「ンゴボコ」で検索してみてください)
P(二人の息が合うかが鍵を握るゲームだ。おそらく最大の難所は第4ステージのドラゴンを押して穴に落とすところ……育が一人で担当する局面だ)
司会「それでは早参りましょう。ウンババウッホッホッゲーム、スタート!」
……
司会「さあここまで二人は迫り来る障害物をジャンプで乗り越える第1、第2ステージを難なくクリア! さすがはアイドル。抜群のリズム感です!」
司会「続いて挑むのは第3ステージの難所――二人同時の大ジャンプでリフトに飛び乗り、大きなワニが棲む池を越えられるか!?」
 
観客「がんばれー!」
まつり「さあ育ちゃん、手を繋いでせーのでジャンプするのですよ」
育「うん。いくよ――せーのっ!」
ピョピョン…
司会「おっとわずかにタイミングが合わず、リフトに飛び移れない!」
育「おかしいな。呼吸は合わせられたはずなのに……やっぱりわたしの背が小さいからかな」
20: 以下、
まつり「……そうだ。育ちゃん、『Welcome!!』の歌に合わせて飛んでみるのです」
育「『Welcome!!』――そっか! いくよまつりさん」
まつり・育「ワン、ツー、スリー、フォー、せーので――ジャンプ!!」ビョョーーン
司会「リフトに乗れました! 成功です! 続いてリフトから向こう岸までもう一度大ジャンプだ!」
まつり「一度コツを掴めばもう平気なのです。このまま行くのですよ!」ギュッ
育「うん!」ギュッ
まつり・育「ワン、ツー、スリー、フォー、せーので――ジャンプ!!」ビョョーーン
観客「ワァァーーーッ!!」
育「やった!」
まつり「はいほー! 姫たちにかかれば、ざっとこんなものなのです」
司会「第3ステージクリア! 手を繋いでジャンプする姿はまさに仲良し姉妹! たいへん微笑ましかったです! 眼福でした! ありがとうございます!!」
P(司会の人、なんか亜利沙みたいになってきたな)
21: 以下、
司会「続きまして第4ステージはドラゴンとの対決! 目の前のローラーを押し回してドラゴンを穴まで落としてください! 育ちゃん、お願いします!」
観客「がんばれー!!!」
育「たぁぁっ!」グルグルグル
まつり「育ちゃーん! その調子なのですよー!」
P(育はとても頑張ってるけどドラゴンがなかなか後退しない……さすがに大人と同じレギュレーションでは厳しいか。だけど…)
育「ぐっ、このままじゃ牛タンが……だけど、わたしぜったいあきらめないよ……!」グルグル
P(そう。これが育の力だ。俺たちの自慢の末っ子はこのくらいでは負けないぞ!)
育(わたしがやらなきゃいけないのは、最後まであきらめずバトンをつなぐこと……そうすれば、もしかしたら――)グルグル
ドラゴン『グォーン!』ズシーン
司会「お見事! 第4ステージクリア! 残り時間50秒で第5ステージのクイズに入ります!」
22: 以下、
まつり「よく頑張ったのです、育ちゃん」
育「えへへ、ありがとう。……だけど残り時間を考えると、クイズを全問即答できてもゴールまで間に合わないね」
まつり「育ちゃん……」
育「でもいいの。きびしいってわかってたけど、わたしどうしてもあきらめたくなかったんだ」
育「だって、もしわたしが19歳で、10歳のまつりさんといっしょにゲームに出たとしても、まつりさんならぜったいあきらめなかったと思うから」
まつり「!」
育「ほら見て、ドラゴンをたおしたわたしの左手。なんだかいつもよりちょっとだけ力持ちになれた気がしたんだよ。さっきまつりさんが手をつないでくれたからかな」
まつり「……」
育「牛タンがもらえないのはくやしいけど、わたしまつりさんといっしょにゲームに出られてとっても楽しいよ!」
まつり「……大丈夫なのです。育ちゃんが頑張ってバトンを繋いでくれたおかげで、50秒“も”残っているのです」
まつり「クイズの作戦も二人で完璧に打ち合わせたのです。絶対即答でクリアしましょう。あとは、姫におまかせなのです」
司会「それではいよいよラスト、第5ステージです!」
23: 以下、
モンスター『ムハハハハ、ワシの出すクイズに3問正解したら通してやる。問題じゃ。足がいのはどっち? カバorサイ』
育「サイ!」ピョンッ
モンスター『よろしい――次の問題じゃ。連載開始が早いのはどっち? 美少女戦士セーラームーンor魔法騎士レイアース』
育・まつり「セーラームーン!!」
まつり「なのです!」ピョンッ
モンスター『よろしい――次の問題じゃ。東にあるのはどっち? JR堺市駅or南海堺東駅』
育「えっ、何これ……」
まつり(どこの駅だか知りませんが、これはおそらく引っかけ――どちらにせよ迷っている暇はないのです!)
まつり「JR堺市駅なのです!」ピョンッ
モンスター『よろしい…』ピキピキ…
司会「モンスターが石化しました! ぶっ壊してください! 残り20秒、厳しいけど急いで!」
まつり「ほ」
ドガシャーン! パンパカパーン
司会「えっ……だ、第5ステージクリアです。残り15秒、このままマンモス屋さんまで突っ走って!」
24: 以下、
司会「――ゴール!! お見事!!」
育「やったぁ!」
まつり「ミラクルわんだほー!なのです♪」
司会「おめでとうございます! 賞品の牛タン13人前獲得です!」
司会「いやあまつりちゃん、あの石化モンスターを右手一撃で粉砕するとは……恐れ入りました」
まつり「ほ? 何のことです? 姫はただ、魔法を使っただけなのですよ?」
育「すごいよまつりさん! とってもかっこよかった!」
まつり「それに姫が頑張れたのは、育ちゃんのおかげなのです。ここまで来れたのも育ちゃんが諦めず最後までドラゴンと戦ってくれたからなのです」
育「それじゃあわたしがあきらめずにいられたのは、まつりさんのおかげ。これでおあいこだよね!」
司会「いやあ実に息の合ったナイスコンビでした! みなさん、改めて盛大な拍手を!」
まつり・育「ありがとうございましたー!」
まつり「みんなぜひ姫たちのライブに遊びに来て欲しいのです!」
育「ライブビューイングもやってるよ! 待ってるからねー!」
25: 以下、
――帰りの車内
P「二人ともお疲れ様。レッスンに追われてる中、体を動かす仕事を入れてすまなかったね。ゆっくり休んでくれ」
育「ううん……わたし疲れてないよ……とっても楽しかったもん…」ウトウト
まつり「育ちゃん、ここはPさんのお言葉に甘えましょう。ね?」
育「でも……わたし、まだまつりさんとお話ししたい……」コテン
まつり「お疲れ様なのです、育ちゃん」ナデナデ
育「……」スヤスヤ
??回想??
育「まつりさんは魔法が使えるんだよ。だから「魔法をかけてもらう」のを「待つ」のはおかしいんだよ」
育「わたしもまつりさんみたいに、自分とぜんぜんちがう役を自由に演じられたらいいのにな…」
育「もしわたしが19歳で、10歳のまつりさんといっしょにゲームに出たとしても、まつりさんならぜったいあきらめなかったと思うから」
???????
まつり「いいえ育ちゃん……もし10歳の頃の私が、10歳の今のあなたに会えたなら、きっと――」
26: 以下、
物語の始まりはいつもそう。
昔々ではなく、ほんの少しだけ昔――そこに一人の少女がいました。素直で真面目で頑張り屋が取り柄の、心優しい女の子です。
ただ他の子と違うのは、誰よりもお姫様に憧れていたこと。彼女の夢は、憧れのお姫様になること。
かわいい衣装を身にまとい、夢のお城で舞踏会に――。
だけど彼女はただの女の子。お姫様ではありません。お姫様は自分とは似ても似つかない、憧れの中にだけいる存在でした。
彼女はお姫様になろうとしました。けれどなりたいと思っても、そう簡単になれるものではありません。
わたし、お姫様になんてなれっこないのかな。どこからか魔女さんが現れて、わたしをお姫様にしてくれたらいいのに――。
そんなとき彼女はふと、どうして自分がお姫様になりたいのかと考えました。
自分にいつも夢と勇気をくれるお姫様は、どんなときも絶対にくじけません。
かわいくて美しいお姫様は、それ以上に誰よりも優しく強い心を持ったまっすぐな女の子なのです。
彼女は気づきました。自分もそんな風になりたいのだと。
そしてさらに気づきました。自分にもお姫様と似ている部分があることを。お姫様もまた、心優しい頑張り屋さんではありませんか。
だから彼女は目指したのです。誰よりも優しくて、誰よりも頑張り屋のお姫様を。
その強い思いが、やがて自分を本物のお姫様に変えてくれる魔法になることを信じて。
27: 以下、
P「おっと危ない。野良猫か」
育「Pさん、まつりさんが起きちゃうよ。安全運転でね」
P「ごめんごめん。もうすぐ劇場に着くけど、どうしようか。プリンセスメンバーの集合時間まで余裕があるし」
育「紗代子さんたちのラジオのお仕事、まだ終わってないんだよね。なら、しばらくドライブするのはどう?」
育「本当は早く劇場に着いて、決起集会の準備をしてる琴葉さんたちのお手伝いをしたいけど……」
育「まつりさん、毎日いっぱいがんばってくれてるから……もう少しくらいおひるねさせてあげたいな」
P「そうだな。せっかくだし、遠回りして海沿いを走ってみようか。船も見えるかもしれないぞ」
まつり「……」スヤスヤ
育「よかったね、まつりさん。ゆっくり休んでね」ナデナデ
まつり「ん……」スヤスヤ
育「?」
まつり「ありがとう……わたしの、お姫様……」スヤスヤ
育「ねごとかな? えへへ。どんな夢を見てるんだろう」ナデナデ
育「お礼がしたいのはわたしの方だよ。いつもありがとう、わたしたちのお姉ちゃん。だいすき」ギュッ
28: 以下、
――その夜
美奈子「さあみんな、お肉が焼けたよ!」
のり子「キターーーー!!」
奈緒「待ってたで!」
可奈「わ?っ、おいしそうな牛タン?♪ 可奈は腹ぺこ待ちくたびれたん?♪」
海美「これもまつりんと育りんがゲームをクリアしてくれたおかげだよね!」
育「えへへ、まあね!」
まつり「それじゃあみんな、手を合わせるのですよ。せーのっ」
全員「いただきまーす!!!」
未来「う?ん、おいしーい!」
亜利沙「さすが豪華賞品! そしておいしそうにお肉を頬張るみなさんの表情いただきです!」カシャカシャ
奈緒「亜利沙、せっかく二人が獲ってきてくれたんやから写真撮ってんとしっかり食べや。まあいらんのやったら、私がもらっていくけどな」パクッ
亜利沙「はっ! ダメですよぉ! ただでさえ人数分しかなくてPさんや他のみなさんには我慢してもらってるんですから!」
美奈子「そうそう。牛タンだけだと足りないと思って中華ディナーも作ってきたから、どんどん食べてね♪」
奈緒「――って、ちゃんと他にもおかずあるんかい!」
29: 以下、
琴葉「まつりちゃん、今日はお疲れ様。二択クイズの必勝法、あれで役に立てたのなら何よりだけど…」
まつり「はいなのです。琴葉ちゃんと紗代子ちゃんのアドバイスのおかげで、とってもさくせすほー!だったのですよ」
紗代子「良かったです。ふふっ、今日のまつりさん、なんだかいつも以上に楽しそう」
まつり「そうですね……今日のまつりは、素敵な魔法にかけられたのです。楽しそうに見えるのも、きっとそのおかげなのです」
紗代子「魔法……ですか?」
琴葉「もしかして今私たちに見せているその右手に、魔法が?」
まつり「ずばり正解なのです。牛タンをもらえたのも、その魔法のおかげなのですよ」
??回想??
育「ほら見て、ドラゴンをたおしたわたしの左手。なんだかいつもよりちょっとだけ力持ちになれた気がしたんだよ。さっきまつりさんが手をつないでくれたからかな」
??????
まつり「ほ」ドガシャーン
??????
30: 以下、
育「――そしたら上手くジャンプできたんだよ」
エミリー「Wow! お見事です」
まつり「育ちゃん、エミリーちゃん、お食事中失礼するのです」
育・エミリー「まつりさん」
まつり「今日は二人に、姫のとっておきの秘密を教えるのですよ」
エミリー「まつりさんの秘密ですか?」
育「どんなひみつなの? 教えて教えて!」
まつり「姫は、魔法をかけるのも、魔法をかけられるのも、どちらも良いものだと思っているのです」
エミリー「えっと、それは……」
育「どういう意味?」
エミリー「舞台で披露するあの曲の件、でしょうか……?」
まつり「それ以上は秘密、なのです♪」
31: 以下、
――こうしてプリンセススターズは、無事アリーナ公演当日を迎えた
まつり「……」
育「あっ、いた! まつりさーん!」
まつり「ほ? 育ちゃん」
育「まつりさん鏡見てたんだね。もしかしてどこか気になるところがあるの? なら早くスタッフさんに言って直してもらわなくちゃ」
まつり「いいえ。なんでもないのです。そうですね――これはおまじないみたいなものなのです」
育「そうなの? ……あ、それより早くスタンバイしなきゃ。みんな待ってるよ」
まつり「はいなのです。では育ちゃん、一緒に参りましょう。強く凜々しく美しく――いよいよお姫様の祭典が始まるのです」
育「お客さんたち、喜んでくれるかな。楽しみだね!」
32: 以下、
鏡の中のわたしへ。
いつも勇気をくれてありがとう。
最近の私は、すっかりあなたの力に頼る機会は減ったけど、それでもいつも感謝してるよ。
実は今私のそばには、あなたみたいに私に勇気をくれる子がいるの。
その子は誰よりも優しくて、誰よりも頑張り屋で――なんだかあなたに似ていて。
そんな子が、私のことを「私みたいなお姫様になりたい」って言ってくれたんだよ。
これだけで私がどんなに嬉しかったか、あなたならきっとわかってくれるよね?
今日の私、あなたからはどう見えてるのかな。
あの頃のわたしに胸を張れるようなお姫様に、なれていたら嬉しいな。
33: 以下、
育「みんなー、まつりさん来たよー」
まつり「お待たせしてしまったのです」
奈緒「よっしゃ。これで全員揃ったな」
海美「あっ、Pがサイン出してるよ。向こうも準備オッケーみたいだよ」
琴葉「いよいよだね」
紗代子「あとはこれまで積み上げてきたものを、全部出し切るだけですね」
育「わたしたち、今日までいっぱい練習してきたもんね」
まつり「はいなのです。お姫様みんなの力で、最高にぱわほー!でわんだほー!なライブにするのですよ♪」
未来「よしっ、それじゃあいっくよー。……プリンセススターズ、ファイト―」
全員「オーーッ!!!」
おわり
34: 以下、
読んでくださったみなさん、ありがとうございました。
元スレ
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