隊長「魔王討伐?」【その1】back

隊長「魔王討伐?」【その1】


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1:
一次創作です、よろしくおねがいします。
2:
????
「──ったく、クリスマスが近いってのに...」
「聖なる夜の前に、ドラッグに溺れた若者をひっ捕らえなければならないのか...」
「CAPTAIN、もうすぐ着きますよ」
「...あれ?」
「CAPTAIN?」
隊長「──ッ! すまない...返事を忘れていた...」
CAPTAIN、その言葉の意味は隊長というモノ。
そのような男が部下の声かけに応じずにいた。
数秒のラグがあったものの、ようやく返事を行うと部下が心配そうに投げかけた。
「考え事ですか?」
隊長「あぁ、少しな...」
「...また、あの事件のことを考えていたんですか?」
隊長「...着いたようだ、外にでるぞ」
ここは冬のアメリカ合衆国某所。
隊長と呼ばれている者の指示で、車両からぞろぞろと人が降りていく。
黒色のミリタリー、特殊部隊であろう彼らは合計で10人ほどいた。
3:
隊長(...寒いな)
隊長「状況説明を簡潔に頼む」
そういうと、ある隊員の肩をポンッと叩いた。
その隊員は口を開く、いまどのような状況に置かれているかを。
隊員「Yes sir」
隊員「薬物を所持している学生5人が、この建物に立てこもっています」
隊員「学生らは薬物の禁断症状か、軽く錯乱」
隊員「それぞれ、銃を武装しており大変危険な状態」
隊員「さらに、不幸なことに1人の人質がいる模様」
隊員「現状ケガ人はいますが、死者はいないみたいです」
隊員「とてもじゃないが地元警察では手に負えないので我々が出動」
隊長「状況説明は以上です」
隊長「...」
隊員A「どうしますか」
説明を行った者とは別の隊員が隊長の指示を仰ぐ。
期待を背に、顎に手を添えながらも素早く判断をする。
隊長「...建物には俺を含め少数3人で潜入」
隊長「残りは潜入が悟られないようにここで陽動だ」
隊長「銃の発砲は許可されているが、極力控えろ」
隊長「準備が整い次第、作戦開始をする」
隊長「以上だ」
????
4:
????
──カシュッ!
その音と同時に車両の中は濃い香りで満たされる。
彼はコーヒーを飲みながら、銃器の最終セッティングをする。
隊長「...ふぅ」ガチャガチャ
隊長「...」チラッ
隊員「...」
隊長が視線を送っているのはこの部隊で密かに一目を置いている隊員という男。
先ほどの急なプレゼンを求めても毅然として行う姿はどう見てもエリートだ。
顔つきも髪型もいかにも優等生、しかしその実態はとんでもないものだった。
隊員「はぁ...この子萌えるわ...」
隊長「...」
隊長(...これさえなければなぁ)
隊員「Wooooooooo...Wonderful...」
先ほどの仕事用の顔つきとは一転して、とても緩んだ表情をしていた。
そのギャップに頭を悩ませながら、少し躊躇ったが一声をかけた。
5:
隊長「...おい」
隊員「なんでしょう」
隊長「仕事場にそんなものを持ち込むな」
隊員「この仕事で死ぬかもしれないんです、最後まで肌身離さずいたいんです!」
隊長「はぁ...Jokeにならんぞ...」
隊員「ほら、Captainも日本語わかるんでしょ、オススメですよ」
隊長「...確かに大学時代に履修したけどな」
隊員「見てください、この犬っ子ちゃん、可愛くないですか!?」
隊長「"アーソウダナ"」
この時、隊長が放った言葉は日本のモノであった。
大学時代に履修したとはいえ、それは数十年前の話。
英語になれた舌も影響してか、とても訛っている風な日本語であった。
隊員「日本語で答えてくれるなんて、まんざらでもないですね」
隊長「...」
隊員「ほらほら、萌えますでしょ」
隊長(萌えとか言う感情、40手前の俺にはわからん...)
適当な返事を、わざわざ日本語にしたのが間違いだった。
そんな中、隊員の苦手なところに苦悩する隊長に他の隊員が近寄る。
隊員A「CAPTAIN、警察をお連れしましたました」
6:
隊長「あぁ...通してくれ」
警官「すまない...特殊部隊がわざわざ駆けつけてくれて」
隊長「しかたないことだ、軽い錯乱状態で銃を持たれてはな」
警官「このハンドガンだけじゃ、少々な」
警官「幸い、時間が限られてるわけではない」
警官「頼んだぞ」ポン
隊長「...あぁ」
肩を叩かれ、コーヒーをアサルトライフルに溢しかける。
悪意があるわけではない、そのことを咎めることもなく彼は会話を続ける。
するとこの警官は世間話を投げかけてきた。
警官「君の評判は聞いてるよ...人を吹っ飛ばすパンチを使える、ヒーローだってな」
隊長(...誰が流したんだその情報)
隊員「それだけ筋肉が付いてれば、そうなりますね」
隊員「子どもにも優しいですし、コミックブックのヒーローですね」
隊長「あのなぁ...」
警官「まぁ話はここまでにしよう...一応、こちらも拡声器を使っての交渉を続けてみる」
隊長「あぁ...なるべく、刺激を与えないようにな──」ピクッ
≪──CAPTAIN!≫
そんな矢先、耳元に走る切羽の詰まった声。
別の隊員から通信が入った、それと同時に各々がヘルメットとゴーグルを装着した。
隊長「──行くぞ!」
隊員「はいッ!」
????
7:
????
??1「てめーらぁ!!! 殺されてーかッッ!!!!」
??2「助けてぇぇっっ!!」
──バババババババババッッッッ!!!!
怒声とともに銃の乱射音が聞こえる。
そしてその激しい音に続くのは、恐らく人質であろう女性の叫び声。
隊長「──何があった?」
隊員A「特にコチラから何もッ! おそらく錯乱状態からの行動ですッ!」
隊長「...」ピッ
隊長≪全員そのまま陽動、俺達に注意を向けさせるな≫
耳のインカムを起動させ、指示を促す。
隊長が隊員全員に無線を使って通信を行った。
隊長、隊員、そして隊員A、この場にいる3人の顔つきが変わる。
????
8:
????
隊長「...」
隊員「裏口は死角のようですが...」
隊員A「ドアを蹴破るにしろ、ガラスを割るにしろ音がでてしまいます...」
隊長≪...陽動をしてくれ、なるべく大きな声で≫
隊員「...なるほど」
隊員Z「──犯人に告ぐッッ!! 今すぐ抵抗をやめろッッ!」
すぐさまに聞こえてきたのは、拡声器のノイズと別隊員の警告。
これにより得ることができるのは注意を一定の箇所へ向けさせること。
それだけではない、その大きな音自体が隊長らを有利に事を運ばせる。
隊長「...Now」
隊員「Ok」
──ガシャンッ...
拡声器による陽動、それに反応する犯人の怒声により、ガラスが割れた音など簡単にかき消される。
割れたガラスから扉の鍵を開け潜入、すぐさまにクリアリングを行う。
隊長「Go go go go go...」
9:
隊員「...Clear」
隊員A「1階には誰もいないようですね...」
隊員「...2階にいきましょう」
隊長「...そうだな──」
──ギシ...ギシ...
その時だった、わずかに聞こえたこの床の鳴る音。
それを聞き逃すはずがない、隊長がジェスチャーを送り隠れるように指示する。
隊員A「CAPTAIN、これを...」サッ
隊長「...」ギュッ
ギシ...ギシ...ギシ...
ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...
ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...ギシ...
犯人A「──なッ!?」ビクッ
隊長「──ッ!」バッ
───バチィンッ!!
隊長は受け取ったのはスタンガン、即座に犯人との間合いを詰めて使用した。
階段から降りてきて直ぐ、しかも死角からソレを当てられてしまえば一溜まりもない。
犯人の1人である彼はそのまま静かに倒れ込んだ。
隊員「お見事です」
隊長「...あと4人だな、返すぞ」
隊員A「は、はい!」
隊長「お前はこいつを拘束、ここからは隊員と二人で行く」
新たな指示を仰ぐ、これから先には犯人の本拠地があるというのに。
だがこのような狭い屋内での状況、かえって少人数のほうがヤりやすいの確か。
隊長と隊員は、彼1人をここに残し階段を登っていった。
10:
隊長「...ここか」
隊員「どうしますか」
隊長「...合図をしたらだ」
隊員「Ok」
難なくたどり着いた扉の前。
おそらくここに、奴らが潜んでいる。
タイミングを見計らい突入する、彼らは極限まで耳を澄ます。
隊長「...」
隊員「...」
隊長「...」
よく注意をすると、奴らの声が聞こえる。
どうやら、仲間の1人がいつまでたっても戻って来ないことに苛立ちを覚えている。
そして誰かが向こうの扉の前にたった、その確信を得たときに隊長は声を上げる。
隊長「──Nowッ!」
隊員「うおおおおおおおおおッッ!」
──バキィッッ!
二人でドアを蹴破る、これは木造の扉だ。
大の男、それも特殊部隊で鍛え上げられた者たちだ。
それを蹴破ることなど容易いもの、そしてその衝撃に巻き込まれドアの下敷きになる者が1人。
犯人B「──ぐへぇッッ!?」
隊長(──残りは二人かッ!)
11:
犯人C「う、うごk──」スチャ
隊長「──遅いッ...!」ドガッ
隊長が一気に近寄り、構えようとしたショットガンを蹴飛ばす。
犯人BとC、早くもその2人を無力化させる。
そしてその隙を隊員は見逃さなかった。
隊員「──CAPTAINッ! 人質確保ォッッ!!!!」
犯人D「──な...」ポカーン
隊長「──動くな」スチャ
そして犯人Dが銃を構える前に隊長はアサルトライフルを構えていた。
瞬時の出来事であった、扉を蹴破られたと思えばすぐに2人は潰される。
そして気づけば人質が開放されている、口をあんぐりとさせるしかなかった。
隊員「おら、手を出せ」
犯人C「ちくしょう...」
犯人D「くそッ...」
ジャランッ、そう音を立てて手錠を付けられる。
犯人Bは完全に伸びている、手錠をかける必要すらない。
立てこもり事件はこれにて終了、だが1つの違和感が彼を襲った。
隊長「...一人足りないな」
隊員「...警察側の報告に間違いなければ、この事件の犯人は5人いるはずです」
隊長「...?」
そんな矢先、隊長に違和感を感じる。
人の気配のような、何者かの視線を感じた。
犯人E「──あああああああああああッッッ!!!!」ガバッ
12:
隊長「────ッ! クソッ!!」ガバッ
そんな矢先であった、犯人Eがナイフをもって襲い掛かってくる。
隊長はなんとかそれを持ちこたえ、取っ組み合いの状態になる。
だが少しばかり反応の遅れたせいか、隊長側が不利な状態であった。
隊員「──CAPTAINッッ!?」
隊長「グッ...ッ!!」グググ
隊員「──ッ、クソッッ!!!」スチャ
隊員がアサルトライフルを構える。
だが、犯人は隊長と共に動きを止める気配は一切なかった。
それに彼らは取っ組み合いをしている、身体の密着率がとてつもない。
隊員(だめだ、下手に撃ったらCAPTAINに当たるッ!)ダッ
───カランカランカランッ...
隊員が射撃を諦めて隊長たちに近寄ろうとする。
その矢先、どこかしらからそんな音が聞こえた。
隊長の足元だ。
隊長「──グ、グレネード...」
13:
犯人5「道連れにしてやる...」
犯人は意地でも隊長に取っ組み合い、剥がれようとしない。
完全にリミッターが外れてる上に、薬物に依存している人間の力は恐ろしい。
隊長「クソッッ!!!」ゲシッ
隊長がなんとかグレネードを蹴飛ばす。
しかし、結果はよろしくないものであった。
あれではまだ爆発の範囲内、とてもじゃないが重症は避けられない
隊員「──CAPTAINッッ!!!!」ダッ
隊長「────ダメだ来るなッッッ!!!!!!!」
──バコンッ!
その時、手榴弾の音が炸裂する。
その音はとても大きく、残酷なまでに激しいモノであった。
とてもじゃないが助からない、隊員は急いで隊長の無事を確認する。
隊員「──CAPTAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAINッッッ!!」
隊員「...チッ、呆けてる場合じゃないッ!」ピッ
隊員≪クソッ! CAPTAINがグレネードに吹き飛ばされたッッ!≫
隊員≪爆風で建物の外に吹き飛ばされてる! 急いで救護しろッッ!!!!≫
隊員X≪なんだって!? おい、急げッッ!!!≫
建物に大きな穴が出来上がってしまう。
隊員が急いで隊長が吹き飛ばされたであろう外を覗いてみる。
隊長の具合を確かめるべくはずの行動が、予想外の展開へと繋がる。
隊員「──いない...ッ!?」
????
14:
????
(くそ...やられた...)
(急いで...急いで状況を確認だ...)
(くっ...視界が開かない...)
(ここは...)
(なにか...なにかがおかしい...)
(どうなっているんだ...何が起きたんだ...)
(...視界が晴れてきた)
隊長(ここはどこだ...夢か...?)
目を開けると、そこには綺麗な紅葉が見える。
グレネードで出来た鈍い痛みは未だに走っている。
痛みに耐えながらゆっくりと見渡してみると、そこには建物は愚か装甲車や隊員達もいない。
隊長(ぐっ...どうなっているんだ...?)
隊長(...)
隊長「Damn it!!」ドン
――ズキンッ
なにが起きてるか全く理解できず、苛つく。
つい、木に八つ当たりをしてしまう。
だがそれが行けなかった、まだ傷は癒えていない。
隊長(──ぐっ...くそ...)フラッ
隊長(グレネードの傷が...このままでは倒れてしまう...)
隊長(立てない...木に寄りかかって...いや、それすらできない...)ドサッ
隊長(...眠い)
隊長(...)
隊長(......)
????
15:
????
隊長(...)
隊長(なんだ...?)
隊長(口が冷たい...これは...水か...?)
隊長「...」パチリ
口元に感じる違和感、冷たい何かが口の中に入れられている。
隊長がゆっくり目を開ける、ゴーグル越しに見えたそこには。
見覚えないない女の子がそこにいた。
???「ひっ...」
隊長(お、女の子...?)
隊長「Who...are...you...?」
???「な、なんですか...?」
隊長(Japanese...?)
隊長「ダ、ダレダ...?」
少女「え、えぇっと...私は少女です...」
隊長「少女...ノマセテクレタノカ? ミズヲ」
少女「は、はい...大丈夫ですか?」
隊長「アァ、タスカル」ゴソゴソ
とても不慣れな日本語ではあるが、それが幸いしている。
なんとか目を合わせようとするために、ゴーグルをヘルメットに移動させる。
すると少女の顔つきが変わる、不安そうな顔から一変して少しばかり笑顔を見せてくれた。
少女「──よかった...人間ですね」
16:
隊長(...人間?)
少女「家からお薬持ってきますね、待っててください」
隊長(まだ今すぐ聞きたいことは山の様にある...)
隊長「ツイテク、オレモ」
少女「えっ...立てますか?」
隊長「コウスルトタテル」
隊長は手元にあったアサルトライフルを杖代わりにする。
立て銃、それに近い使い方で彼は歩行を可能にした。
少女「大丈夫ですか?」ギュ
隊長「──ッ! カタヲ...タスカル」
少女「それじゃ行きましょう」
隊長「...」スタスタ
少女「......」スタスタ
隊長「.........」スタスタ
少女「............」スタスタ
隊長(緑色の髪、肌はどうみても白人、それなのに言語はジャパニーズ...)チラッ
隊長(それに格好はどこかしらの民族衣装っぽいな...)
隊長(アメリカにそんな地域あったか...?)
隊長(それに、この紅葉の木...)
隊長(今は冬のはずだ...どうなっているんだ...?)
少女「あ、あの」
17:
隊長「...ナンダ?」
少女「お、お名前は...?」
隊長(...すまない、疑ってる訳じゃないが...今は名前は伏せさせてもらうか)
とっさに嘘をつこうとしたら、隊員たちが思い浮かんだ。
むしろこちらのほうが呼ばれなれている、己の名前などしばらく使っていない。
隊長という意味の言葉、それを少女に告げる。
隊長「...CAPTAINッテヨバレテル」
少女「きゃぷてん...???」
隊長(...どうやら英語は通じなさそうだな)
少女「どうして倒れてたんですか?」
隊長(...それは仕事の内容だ、話せないな...誤魔化すか)
隊長「アァ...ワルイヤツ、ヤッツケタ」
隊長「ケド、シッパイシタ...スコシ」
少女「──!」パァッ
隊長「ン...?」
少女「そ、それなら...」
気のせいか、少女の表情がかなり和らいだ。
何かを言おうとしたが、隊長たちは建物へ到着した。
隊長「...ツイタカ?」
少女「あっ、ちょっとここでまっててください」タタタ
隊長(これは村か...? この時代に?)
隊長(建物だって、中世のヨーロッパみたいだぞ...)
少女「きゃぷてんさん、どうぞ」
隊長(世話になるか...)
????
18:
????
隊長「ド、ドウモ」
隊長(...少女の母だろうか、それとも姉か...?)
少女母「あらあら、こんにちわ?」
少女「お母さん、怪我してるんだって」
少女母「じゃあこれをすり潰しておいで」
少女「うん」
隊長「タスカル」
少女母「こういう時は、お互い様ですよ?」
少女母「よかったら、夕ご飯もどうですか??」
隊長(あぁ...俺も結婚してたら今頃、この少女のような娘がいるんだろうな...)
隊長(っていかんいかん、人の妻に手を出したら犯罪者の屑共と一緒だ...)
隊長「アリガトウ、イタダク」
少女「きゃぷてんさん、痛いところどこですか?」
少女が塗り薬を完成させたようだ。
ヘルメットを外し、首を露出させる。
湿布のようなものだろうか、そう認識隊長はあまり効果を期待視していなかった。
隊長「アァ、クビダ」スッ
少女「よいしょ...」ヌリヌリ
隊長「──ッ!?」
すると突然、首から痛みが消え失せる。
まるで鎮静剤を打ったかのような、急激な変化に隊長は驚く。
しかしそれよりも先にやらなければならないことがある、それは礼節を重んじること。
隊長「アリガトウ、ラクニナッタ」
少女「えへへっ」
19:
少女母「それじゃ、ご飯の準備してくるのでゆっくりしててくださいね?」
隊長「トテモタスカル...」
隊長(...今はこの傷を治して貰おう、質問は後回しにしよう)
????
????
少女母「それでは、どうぞ?」
少女「いただきます!」
隊長「...イタダキマス」
隊長(ポトフのようなものか...懐かしいな)
隊長(しかし休息をした結果、いろいろ聞きたいことを聞きそびれてしまったな...)ムムム
少女母「...おいしくないですか?」
隊長「──ッ! チガウゾ、マンゾクダ、コレデ、トテモ」
少女母「あらあら、嬉しいですわ?」ニッコリ
少女「私も手伝ったんですよ」
隊長「ソウカ、ジョウズダ」
少女「えへへっ」
隊長(...独身には辛いな)
隊長(......)ピクッ
隊長(父親はいないのか?)
隊長「アノ」
20:
少女「なんですか?」
隊長「チチオヤハ?」
少女「あっ...」シュン
隊長(...しまった)
隊長「ス、スマナイ、マズカッタ...?」
少女母「いえ...別れたとか、死んでしまったわけではないんです...」
少女「......」
隊長「ドウイウコトダ...?」
少女母「少女...おいで?」
少女「...うん」トテテ
少女母が少女のあたまを撫でる、状況が状況なら和やかな景色だったはずだ。
少女のこの表情を見たことがある、これはとても悲しい出来事の顔つきだ。
無念にも犯罪者に抵抗され、射殺されていまった部下の家族がする面持ちであった。
少女母「実は...」
少女「おとうさんは、山にいってから帰ってこないんです...」
隊長(...登山家かなにかだろうか)
少女「そこの大きな山があるですが...」
窓から外を眺めるだけで見える、確かに大きな山がみえる。
しかし、隊長は次のワードで思考が固まってしまう。
日常的に使うことのない固有名詞が、そうさせてしまった。
少女「そこに、悪い魔女が現れたんです...」
21:
隊長(魔女...? 魔性の女ってことか...?)
少女「そしたら山が凍っちゃたんです...」
隊長(凍った...?)
隊長(...確かに、雪山のようだがそれにしては標高が低いぞ...?)
少女「そして、山を元通りにするために村人の男の人たちが集まって...」
少女「山に向かったんですが...それから帰ってこないんです...」
少女「一度だけ魔女が村に降りてきて...抗議したんですが、すぐにいなくなっちゃって...」
隊長(──あぁ、だから、あの言葉に反応したのか)
いろいろと疑問が残る中、あることを隊長はいち早く察した。
とっさに誤魔化した、悪いやつをやっつけてるという言葉を思い返す。
その言葉に揺さぶられたのか、少女が隊長に縋る。
少女「...きゃぷてんさん、お願いです」
少女「どうか...どうか、お父さんを助けて下さい...っ!」
少女母「だめよ...あの山は危険なのよ」
少女「でも...でも...」
隊長(...正直意味がわからない、だが)
隊長(子どもの泣き顔...俺がもっとも見たくないものだ)
隊長(...これじゃ、ヒーローって情報が流れるわけだな)
22:
隊長「少女」
少女「...?」
隊長「ソノハナシ、ノッタ」
隊長「タスケテクレタ、オンガエシダ」
少女「────っ!」パァ
少女の表情が明るくなる。
だが少女の母は比例せず、険しい表情をみせた。
少女母「──だ、ダメ!! あの山は本当に危険なんですよ!!」
少女「──っ!」ビクッ
隊長(少女母...怒らすと怖いタイプだな...)
隊長「ダイジョウブ、オレハガンジョウダ」
隊長「ソレニ、ナミダハミタクナイ」
少女母「ですがっ...」
隊長「──スマナイ、キョウハトマラセテクレ」
話を強引に切る、とても失礼であるがこうするしかない。
少女母はまだ納得していない、しかしそれでその瞳の奥底には渇望が宿る。
それを見抜いた隊長は強行的に話を進める、正義感の強い彼は己の質問よりも少女の涙を選んだ。
????
23:
????
隊長(今のうちに装備を点検しよう)
隊長(...)
隊長の装備には以下の物があった。
装弾数30発のアサルトライフル、装弾数15発のハンドガン、3つのグレネードにミリタリーナイフ
備品としてアサルトライフルのマガジンが7つ、ハンドガンのマガジンが6つ、軍用サイリウムにライト。
そして腕時計に通信機、チョコレートのレーションが2つに水筒を備えていた。
隊長(...防弾チョッキの収納にレーションと水筒を入れっぱなしだったか...あとで水を入れ替えておこう...)
隊長(アサルトライフルは総計240...ハンドガンは105発か)
隊長(腕時計...問題なく動いてる...時差がなければな)
隊長(通信機...だめだ、電源は入るが電波が届いてない)
隊長(...寝るか、いま深くモノを考えても無意味だ)
隊長(今は前に進むしかない...俺を助けてくれた少女の気を晴らせたら、改めてここについて質問しよう...)
????
????
少女母「本当に、いってしまうのですね...」
隊長「アァ、シンパイスルナ」
少女「気をつけてくださいね...」
隊長「ダイジョウブ、ウマクイク」ナデナデ
少女「わっ...えへへっ」
少女母「これを、持ってってください」スッ
24:
隊長(...これは酒か? ずいぶんキツそうだな)
少女母「これである程度の寒さは大丈夫なはずです...ですが飲み過ぎ注意ですよ」
隊長「タスカル」
少女「...お父さんをおねがいします」
隊長「ソンナカオスルナ、ワラッテオケ」
少女「...はい」ニコ
隊長「...ジャアイッテクル」
少女「気をつけてください!」
隊長「...」スッ
静かに親指を立てる。
心配そうに見つめる少女、どこかまだ納得をしていない少女母。
そんな負の感情をもつ彼女らを背に、彼は進み始める。
????
????
隊長(...麓の時点で雪が積もってるな)
隊長(支給品のミリタリー服だが...それがブーツでよかったな...)
隊長(このアルコール...大分度がきつそうだな...)
隊長(凍死寸前まで飲むのは控えとこう...)
隊長(雪山での仕事は...いままでなかったな)
隊長(いい経験になればいいが)
隊長(...登ろう)
????
25:
????
隊長「ハァハァ...」
隊長(大分登ってきたな...麓の村がすごく小さく見える...)
隊長(...ん? あれはなんだ...?)
ゴーグル越しに、目を細めるとかすかに建物が見える。
建物に向かって歩き出すと、異変を感じる。
隊長(な、なんだあれは...ッ!?)
トカゲ「...」
隊長(かなりでかいトカゲだな...凍りついているみたいだが、生きているのか...?)
トカゲ「暇だな...」
隊長(喋ったッ!?)ガサッ
その時だった、思わず足音を強くしてしまう。
野生動物にそれは禁忌、人間よりも遥かに優れる聴覚がそれを捉える。
トカゲ「あん...? てめぇ人間じゃねぇかっ!」
隊長(チッ、厄介なことになりそうだ)
隊長「ナンダオマエハ」スチャッ
この世の出来事とは思えないことに遭遇する。
思わず、トカゲ相手にアサルトライフルを構えてしまう。
トカゲ「てめぇはあの建物に向かってんのかぁ?」
隊長「ソウダ」
トカゲ「だめだなぁ、通すわけにはいかねぇ」
隊長(...面倒だ、迂回するか)
トカゲ「おっとぉ、逃すわけにもイカねぇなぁ...」ニタニタ
隊長「...ダッタラトメテミロ」
トカゲ「へっへっへ...久々の獲物だ...仲間には黙っておくか...独り占めだ...」
トカゲ「ブツブツ...」
隊長「...!」
なにか、雰囲気が変わる、空気から嫌な予感がする。
まるで空気が凍ったような、雪山特有の自然由来の凍てつきではない。
トカゲ「──喰らえっ! "氷魔法"」
26:
隊長「──Whatッ!?」
トカゲがブツブツものを言った後、魔法陣が出現した。
しかもそこから、恐らく殺傷能力のある度で氷が飛び出してきた。
隊長「──クッ!」ダッ
────どさっ...!
非現実的な光景をみて行動が少し遅れるが、横にダイブをすることで直撃を回避する。
雪まみれになった装備、それを払いつつ彼は考察を開始する。
隊長(なんだあれは!? いやそれよりも...)
冷静に状況を確認する。
トカゲに向けていたアサルトライフルの銃身が凍ってしまっていた。
その氷は局部的だが、かなりぶ厚くできていた。
隊長(...これでは発砲はできんな)
トカゲ「オラオラァ! もう一発!」ブツブツ
トカゲ「"氷魔法"!!」
隊長「──ッ!」チラッ
隊長(どうやら、何かつぶやかないとあの攻撃はできないようだな)
考察しながらも動きづらい雪の上で走ることで、攻撃を回避する。
こんな状況でも冷静に判断を行い、弱点を見極めていた。
これが隊長という男、部下の命を預かり任務を遂行する役職持ち。
トカゲ「チィ! もう一発──」ボソボソ
27:
隊長「――――NOWッ!!」ダダダ
トカゲ「──なっ!?」
慣れない雪の上で、無理やり猛ダッシュをしてトカゲに接近する。
その度は人間にしては早いが、野生動物相手に通用するとは思えない。
しかしこのトカゲは違っていた、幸いにも反応が鈍いようだ。
隊長「──ウオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」ドガッ
トカゲ「げはっっっ!?」
トカゲの腹に思い切り蹴りを入れる。
その衝撃でトカゲは少しばかり吹き飛ばされ、距離を置かれてしまった。
トカゲ「て、てめぇゆるさn──」
──ダンッ...!
トカゲには聞いたことのない音が頭を貫く。
隊長はトカゲの頭にハンドガンを発砲していた。
右足に装備していたサイドアームをすばやく引き抜き、凍ったオオトカゲを射殺する。
隊長「...」
隊長(1発ですんだか...節約になったな)
隊長(戦闘中におしゃべりか...)
隊長「...You're second」
トカゲ「―――」ガクッ
トカゲが力尽きると、大きさが縮こまった。
まるでなにかの効力がなくなり、元の姿に戻ったような。
28:
隊長(...縮こまった、なぜだ?)
隊長(これがもとの大きさだとしても、でかすぎる、コモドドラゴンよりでかいぞ...)
隊長(動物を傷つける趣味はないんだがな...先に殺意を向けたのはお前だ、許せ)
隊長(しかし...ここは俺が住んでいる世界と違うのかもしれない...)
隊長(少なくとも、喋るトカゲなんか聞いたこともないな)
隊長(中世ヨーロッパのような世界、Japanese、さらにはいまのMagic...)
隊長(...深く考えるのは後だ)
しかしその説しかありえない、彼はなにかの拍子で別世界へと移った。
非現実的ではあるがこれが一番の説、しかしそれを証明できるモノなどない。
考えても無駄、ならば前に進むことに専念するしかない。
????
????
隊長(ついたな...)
隊長(扉は凍ってて開かない、窓から突入するか)
隊長(...まだ凍っているな)
隊長(ハンドガンだけで乗り切れるだろうか...)
アサルトライフルを鈍器のように扱い、窓を破る。
そのような使い方しかできない、銃口が氷に包まれている現状発砲すると己に危険が及ぶ。
少し不安がよぎるが、頼りにならないアサルトライフルを背負いハンドガンを握り潜入を開始する。
????
31:
????
隊長(魔女とやら...俺の勘が正しければこの屋敷にいる...少なくとも野外で活動しているとは思えない)
隊長(それにしても...ここは書斎か?)
隊長(手にとってみるか...)パラパラ
隊長(ご丁寧にひらがなで読みが書かれている)
隊長(これならたぶん読める、何か参考になる本はないか...)
隊長(これは...?)
適当に手にとった本には、錬金術と表紙に描いてあった。
そのキャッチーなフレーズに響かない人間などいるわけがない。
彼は魔女という存在を探しているのにもかかわらず、少しばかり熟読する。
隊長(...)ペラッ
隊長(......)ペラッ
隊長(...これは...これが本当だったら)
隊長(俺の世界だったら大変なことだな...)
隊長(価値がありそうだ、一応借りていくか)
隊長(この本は...?)スッ
32:
隊長(基礎魔法学?)ペラ
隊長(............ほう、こういうことだったのか)ペラ
本にはこう書かれていた。
魔力を込めた言語を唱えると魔法陣が現れる。このことを詠唱と呼ぶ。
魔法を使うに当たって詠唱は必要不可欠である。
詠唱には様々な種類があり、さらには個人で開発した自分だけの魔法も存在する。
隊長(あのトカゲがつぶやいてたのは詠唱とやらだったのか?)ペラ
魔法には相性がある。
例えば、炎魔法には水魔法が有効である。
強力な炎魔法でも、弱い水魔法、もしくはただの水をぶつけることで相殺できる。
隊長(...マジックにも相性があるのか)ペラッ
隊長(石・紙・はさみみたいなものか...)ペラッ
魔法には大雑把に2つの種類が存在する。
魔力を何らかしらの形状にして、実体化させる”攻撃魔法”
魔力を何らかしらの物質に放ち、その物質内で変化が起きる”補助魔法”
炎を実体化させ攻撃する”炎魔法”は”攻撃魔法”に属する。
物質の瞬間移動が可能になる”転移魔法”は”補助魔法”に属する。
なお、”補助魔法”は自分の他、様々な物にも作用する。
隊長(...覚えておいて損はなさそうだな)ペラッ
隊長(持ち主...誰だかわからん、悪いが借りるぞ)スッ
????
33:
????
隊長(寒い...)
隊長(でかい暖炉だな)
隊長(ん、これは...)
隊長(ベーコン...いや、ただの干し肉か)
隊長(それとマッチがあるな...これで暖でもとるか)
????
????
隊長(一通り探索はしてみたものの...なにもなかったな)
隊長(...本でも読むか)
隊長(この本は...?)スッ
隊長(盗賊が来たときの対処策・防衛策?)
隊長(あまり必要がなさそうだな)ペラ
隊長(...暖炉に隠し部屋への入り口を作るべき?)
隊長(そういえば大きな暖炉がある部屋があったな...)スッ
隊長(...まぁ、ありえないだろう)
隊長(こんな山奥に隠し部屋つくる技術を持ってくるのは難しいしな)
????
34:
????
隊長(まさかな)
隊長(...中、のぞいてみるか)
暖炉に顔を入れてみると、床にあたる部分が大きな穴となっていた。
隠し通路、まるで映画の中のような出来事に隊長は軽く困惑する。
隊長(...はぁ、この本は侮れんな)
隊長(さぁて、飛び降りるか...ん?)ピクッ
隊長が暖炉にある通路に飛び降りる覚悟を決めた瞬間に気づく。
凍っていた銃身が治っている、氷が溶けたのだろうか。
どちらにしろ都合がいい、彼はハンドガンからアサルトライフルへと装備を持ち直す。
隊長(なんだがよくわからんが、運が向いてきたな)
隊長「...よし!」ピョン
隊長「──ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」ビュー
????
35:
????
隊長「オオオオオオオオオオオオ...」ドサッ
隊長(着いた...下手なジェットコースターよりきついな...)
隊長(ここまでのGを感じたのはヘリコプターから緊急脱出したとき以来だな)
隊長(それにしても...なんだこれは...)
隊長が己の武勇伝を思い返していると、ある光景に目を奪われた。
床・天上・壁が氷でできている。そこまでは理解できた。
しかし、その氷の中に沢山の人が埋まっていた。
隊長(...男だらけだな、この格好といい少女がいってた村人たちのようだな)
隊長(...進むしかないか)
隊長(...)サッ
隊長(......)ササッ
クリアリングを淡々と熟していく。
だが、全くといって良いほど手応えはなかった。
隊長(...びっくりするほどなにもないな)
隊長(魔女とかいうやつ...なにか罠でも仕掛けてあると思ったが...)
隊長(...また、下に飛び降りなければいけないみたいだな)
隊長(音は極力ださないようにするか...)ピョン
──ズサアアアァァァァ...
飛び降りた先、そこにはあったのは1つの感覚。
人間誰しもが備わっている、人の気配を微かに感じ取れるソレ。
答えは1つしかない、奴がここにいる。
隊長「──!」ドサッ
???「も?、どこにあるのよ?...」
36:
隊長(...誰かいる)
隊長(...)
後ろ姿しか見えないが、体つきは女。
彼女はローブを羽織っていた、もう如何にも魔女。
隊長(あいつが魔女か...?)
隊長(...思ったより、雰囲気は若いな)
隊長(女相手に乱暴にしたくはないが...仕方ない)
隊長(...)
???「はぁ...寒いし戻ろうかしら...」
隊長(...今だッ!)スッ
隊長「──Freez...」スチャ
隊長は魔女の背中にアサルトライフルを押し付ける。
しかしこれは明らかに失敗であった、果たしてこの言語が伝わるかどうか。
背中に何かを押し付けられた魔女らしき女は慌てふためく。
魔女「──へ? な、なに!?」
隊長「ウゴクナ!」
魔女「な、なんなのよっ!」バッ
もちろん、魔女はアサルトライフルなど知らない。
なのであっけなく動いてしまう、これが非常に危険な行為だと知らずに。
だが隊長は引き金を引けずにいた、その原因は彼女の見た目の若さ故に。
隊長(...まだ成人もしてなさそうな女だな)
隊長(...くっ、躊躇してしまった)
37:
魔女「なによあんたっ!」
隊長「コレイジョウウゴクナッ!」
魔女「──っ...!」ビクッ
隊長の気迫に押される、その表情はかなりのモノであった。
それは当然である、彼は特殊部隊の隊長を担っている。
日々犯罪者を相手にしている、このような脅しが苦手なわけがなかった。
隊長「...オマエガ魔女カ?」
魔女「...そうよ、悪い?」
隊長(...おかしい)
隊長(どうみても、犯罪者の面ではない...)
隊長(それにさっき、寒いとかいってたな...)
長年犯罪者を捕まえてきた経験からか、この魔女に違和感を覚える。
凍らせた本人が寒いといってるなら、ちゃんちゃらおかしい話だ。
疑問が彼の中で巡る、ならもう彼女に答え合わせをしてもらうしかない。
隊長(...聞いてみるか)
隊長「コノヤマコオラセタノカ?」
魔女「...は?」
隊長(...やはりか...面倒なことになりそうだ)
38:
魔女「私はそんな魔力もってないわよ...」
隊長「...ジャア、ダレガコオラセタ」
魔女「...知ってるけど、教えてあげない」
隊長「ナラ、クチヲワッテモラウ」
魔女「教えてほしければねぇ...謝りなさいよっ!」
隊長(...ぐうの音も出ない)
隊長「...スミマセン」
魔女「はぁ...あんたなんなのよ...名前は?」
隊長「...CAPTAINダ」
魔女「きゃぷてん? 変な名前ね」
魔女「変なのは格好、武器、言葉遣いだけじゃないのね」
隊長(...顔は可憐だが...性格は難ありだな)
魔女「私の名前は...魔女よ」
隊長「ハァ...」
隊長(少女にどう説明するか...いやその前に真犯人を見つけなければ)
隊長「タノム、ダレガコオラセタカオシエテクレ」
魔女「う?ん、じゃあ探しもの手伝ってよ」
隊長「...ワカッタ、ナニヲサガセバイイ」
魔女「錬金術って本なんだけど」
隊長(...どうやら、本当に運が向いているみたいだな)ゴソゴソ
隊長「コレカ?」
39:
魔女「なんでもってるのっ!?」
隊長「カリタ」
隊長(勝手にな)
魔女「それを渡せば、教えてあげるわ」
隊長「ハァ...ショウガナイナ」
──グラグラグラグラグラグラグラグラッッ!!!!
本を渡そうとした瞬間、山が揺れた。
それは自然的に発生したものではなく、何者かが起こしたような妙な揺れ方であった。
隊長「──ジシンッ!?」
魔女「きゃあっ!?」
???「──地震ではない、猿共」
奥の方から、なにか巨大な影が近づく。
その見た目は隊長も見たことがある姿であった。
過去に存在していた恐竜、それに翼を生やしたこの姿は間違いない。
隊長(あれは...いよいよファンタジー地味てきてるな...)
魔女「あ、あいつよっ! あの竜が凍らせたのっ! 犯人よっ!」
隊長「──ナニッ!?」
40:
魔女「あいつは氷竜っ!! 危険よっ!」
氷竜「我の巣に近づくなど愚かしい」
隊長(あいつを倒せばいいわけだな...)
隊長「オイッ、サガッテロッ!」
魔女「言われなくても逃げるわよっ!」
氷竜「逃がさん...」ドンッ
──グラグラグラグラッッッ!!!!
足を思い切り踏みつける、それだけでこの揺れが発生する。
その揺れに反応して様々な場所が震え、落盤を起こす。
隊長「クッ、ヤッカイダナ...」ヨロ
魔女「あぁー...最悪、今ので出口が塞がれたわ...」
隊長「...クソッ」
隊長(氷のドラゴンか...この現代兵器が通じればいいが...)
氷竜「貴様か、我の下僕を殺したのは」
隊長(あのトカゲのことか...?)
隊長「...ダッタラドウシタ?」
氷竜「都側に下僕を集中させたのが間違いだったか...まぁいい」
氷竜「死ね」
氷竜「この氷竜の息吹、受けてみろッッ!!!」
――ヒョオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!
氷竜の口から特大の吹雪のようなものがゆっくりと襲い掛かる。
それがどれほどの威力を誇るのか、急に凍てつき始める空気感がそれを醸し出す。
隊長「SHITッ!!」ダダッ
氷竜「ふん、見極めたか...」
氷竜「だが、休ませはしないぞ」
――ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!
安置になり得るであろう場所を判断し、そこに向けて走る。
一度目はそれでなんとかなった、しかし二度目は許されなかった。
隊長「クソッッ!!!」
41:
隊長(次はあたってしまうッッッ!!!)
次は避けられない、氷漬けにされてしまう。
そんな悪いことを考えてると彼女が箒にまたがり、飛んできた。
その姿はまさしく魔女、微笑ましい光景だが極めて重要な役割を担ってくれた。
魔女「──ほら、捕まってっ!!」
隊長「──タスカル!!」ギュッ
魔女「────おっっっもいっ!!!!!!」フラフラ
隊長(箒で飛行する魔女...ハロウィンだな...)
氷竜「ちょこまかと...」
魔女「...」ブツブツ
隊長(──これが詠唱か、魔女も魔法を使えるようだな)
魔女「"雷魔法"」バチバチ
―――バチバチバチバチッッッ!!!
魔女の魔法が氷竜に襲いかかる。
その威力は明らかに高い、1つの稲妻が竜に向かう。
隊長(軍用のスタンロッドより威力がありそうだ...)
氷竜「ぐぅ...効かんわッッッ!」
魔女「う、うっそー...」
隊長「──オリルゾ!」パッ
魔女「あ、ちょっと! どうするつもりよっ!!」
隊長「ヨウドウシテクレッッ!!」
魔女「はぁっ!? まったく...」ブツブツ
42:
魔女「"雷魔法"! "雷魔法"!! "雷魔法"!!!」
―――バチバチバチバチバチバチバチバチバチィッッッッ!!!!!
連続した雷が次々と氷竜に襲いかかる。
しかしそれはあまり効果的ではなかった。
あの竜の様子からするとまだ余裕のある、すこし油断をしている風にも見える。
氷竜「ハッハッハッハッ!!!! 無駄だァ!!!!!!」
隊長「──EAT THISッッッ!!」スチャ
氷竜「──いつのまに近くにッ!?」
──ババババババババババババババババババババババババババババババッッッッッ!!
油断が招いた、魔女による魔法に気を取られすぎた。
気づけば肉薄を許していた氷竜、大きな口を開き傲慢な言葉を吐いていたツケがこれだ。
アサルトライフルのマガジン1本分をお見舞いされる、その威力は魔法と同等。
氷竜「────ッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
氷竜「──グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!?!?!?」
魔女「うわぁー、そんな威力のある武器なのねそれ...」
隊長(意外と効いてるな...)
魔女「──危ないわよっ!!!」
43:
氷竜「猿ゥ...! コロスッッッ!!!!!」ガシッ
隊長(──しまったッッ!?)
痛みに耐え、氷竜は前足を使って隊長を掴む。
その様子には理性などない、激痛がこの竜の逆鱗に触れている。
やはりドラゴンなだけはある、その圧倒的な体格差に敵う人間などいない。
隊長「──グッ!」
氷竜「そのまま潰れろ!!」グググ
隊長「──グゥッッ...ガァァァァァ...ッ!?!?」
魔女「"雷魔法"!!」バチバチ
氷竜「効くかァァァァッッッ!!!!!! そんなものォッッッ!!!!」ブンッ
魔女「──きゃっっ!?」
──ドガァァッッ...!!
氷竜の尻尾が魔女にたたきつけられ、吹き飛ばされる。
それに耐えられる乙女などいない、凄まじい苦痛が彼女を襲った。
吹き飛ばされた先に壁、そこに魔女の身体がめり込む、威力が伺える。
魔女「────っ...」ガクン
隊長「──魔女ッ...!」
隊長(まずい...このままじゃ死ぬ...わけにはいかないんだッ!)
なんとか氷竜の前足から自分の右腕を解放する。
そして取り出すことのできたのは、原始的なこの武器。
比較的刃渡りのあるナイフ、近接攻撃に限るなら銃よりも優秀。
氷竜「ハハハハハハハハハ!! 潰れろ!! 潰れろ!!」グググ
隊長「アアアアアアアアアアアァァァァァ...ッ!」
44:
隊長「...フッッッ!!」スッ
隊長「──オラァ!!」グサッ
氷竜「ガアアアアアアアアアッ...!?」
その刃はかなり深く刺すことができた。
どのような強靭な身体の持ち主でも、ここまで深い切り傷を浴びたらどうなるか。
その鋭い激痛のあまり怯むことは確実、だからこそ隊長を離してしまう。
隊長「グッ...」ドサッ
隊長(どうやら...魔法より物理的な攻撃に弱いみたいだな...)
隊長(しかし、どうする...立てない...このままじゃ死ぬぞ...)
氷竜「貴様ぁ...! 調子にのるなよ...!!!!」
氷竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
隊長(──ッ、なんて叫び声だ、耳がおかしくなる)
氷竜「フハハハ、我を殺すなら火ぐらいもってくるんだったな」ズシン
隊長(...ここにきてから随分と運が向いてるな)
氷竜「さぁ...潰れろ!!」スッ
隊長「──ッ!」スチャ
──ダンッ!
氷竜が後ろ脚をおもいきり持ち上げ振り下ろそうとする。
同時に隊長がなにかを投げ、そして再び同時にそれを狙う。
ハンドガンで見事撃ちぬいたソレの中身が氷竜の傷口あたりに撒き散る。
氷竜「悪あがきだな、まぁいい潰れろ」ズシン
隊長「──フッ...!」クルリ
氷竜「かわすんじゃない! 猿が!!」スッ
隊長が横に転がることで攻撃を回避する。
氷竜はイライラしながらも、もう一度脚を振り下ろそうとする。
隊長「Hey...eat it...」スッ
隊長(拾っておいて正解だったな...)ボッ
45:
氷竜「──なッ!?」
隊長「A single match can start fire...」ポイッ
氷竜「貴様なにをいって────」
英語でつぶやきながらも、箱のやすりを使い着火を行う。
火のついたマッチが撒き散らされた極めて度数の高い酒に引火する。
氷竜「──あっちいいいいいいいいいいいいい!!」バタバタ
氷竜「クソオオオオオオ!! だがこれくらいじゃ死なん────」
──ダンッ!
火達磨になりながら威嚇をする氷竜の眉間をハンドガンで撃ちぬく。
先程まで意外にも動き回っていたこの竜、ようやく狙いをすまし射撃することができた。
眉間、それは生物共通の弱点である、その先には大事な機関が備わっているからだ。
氷竜「くそ...たれ...猿が────」
──ズシィィィィィンッッッ!!
竜の倒れる音は凄まじく、先程の地震とは比べ物にならないモノだった。
ターゲットの沈黙を確認すると、彼はアサルトライフルのマガジンを代え、またも立て銃で杖代わりにする。
隊長(空のマガジン...一応持っておくか)
46:
隊長(合計でアサルトライフル30発、ハンドガンは3発使ったか...)
隊長(...まぁよく節約したほうだろう)ウンウン
隊長(っと...魔女は大丈夫か)
隊長「オイ、ダイジョウブカ?」ユサユサ
魔女「うっ...だ、大丈夫...」
隊長(意識を取り戻したか)
魔女「ブツブツ」
隊長「...?」
魔女「"治癒魔法"」
──ぽわぁっ...!
すると、魔女から優しい光が現れる。
その明かりは隊長と彼女を包み込み、心地の良い感覚を与える。
これは傷を癒やす魔法、骨を折ったとしても簡単に治せてしまう驚愕の性能であった。
隊長(身体が、少し楽になった...これも魔法か)
魔女「うぅ...あ、あんた氷竜倒しちゃったの?」
隊長「アァ、ヒニヨワカッタナ」
魔女「凄いわね...私じゃ無理だったよ...」
隊長「...アイツガハンニンナラオマエハ?」
魔女「うーん...あんたはどうしてここにきたのかを説明してくれる?」
隊長は少女に言われたことを説明した。
どのような経緯でこの山を上り、魔女という存在をどうするつもりだったかを。
彼女と出会ってから薄々感じていたことが確証となる。
魔女「それ...勘違いね」
47:
隊長「...ヤハリカ」
魔女「そういえば村に降りた時にすごい剣幕で迫られたわ...そのせいかしら?」
隊長「タブンナ」
魔女「私は錬金術の本だけが目当てだったんだけど」
魔女「ちょうどここら辺に探しに来た時、不幸なことに氷竜が住み着いたのよ」
隊長(...どっちにしろ誤解は解けにくそうだな)
隊長「オマエハムラニチカヨラナイホウガイイ」
魔女「...そうね、そもそも目当ては手に入れたしね」
隊長「...ホラ、ヤル」スッ
魔女「ふふっ、ありがとっ」ニコ
隊長「──ッ!」ピクッ
魔女が妖艶に微笑む、多分本人はただの笑顔のつもりだ。
それが以外にも彼に響いてしまう、男という者は意外と単純であるからこそ。
魔女「ん、出口が開いてるわ」
魔女「それじゃ、帰るわね」
魔女「ばいば?いっ」
48:
隊長「...ハァ、戻るか」スタスタ
??1「な、なんだこれ!」
??2「どうなってるんだ!」
隊長(どうやら、みんなの氷がとけたようだな...)
隊長「オマエラ、オレハ少女ニタノマレテタスケニキタ」
村人1「た、たすかりました!!」
村人2「気づいたら凍らされてたんだ...」
隊長「コオリガトケハジメテキケンダ、イソイデゲザンシヨウ」
村人2「は、はいっ!」
隊長「デグチはコッチだ」
????
????
村人3「ひぇ?氷がとけてもう本来の山になってる」
村人4「ほら、さっさと帰るぞ」
隊長「...サキニカエッテロ」
村人1「は、はぁ...」
隊長(......この建物、何のためにあったんだ?)
隊長(...少女母にでも聞いてみるか)
隊長(朝日がまぶしい...と、いうより朝帰りか...)
氷漬けにされていた村人は多数、それらと共に下山をする。
この出来事で勝ち得たモノは以外にも多い。
まずは第一目標を達成できたことがなりよりであった。
????
49:
????
少女「おがえりなざああああああああい」グスグス
隊長「アァ、タダイマ」
少女母「ほんとうに...おかえりなさい、きゃぷてんさん」
???「──本当に助かりました!!」
少女の家に、新たな人物がそこにいた。
緑髪の少女母とは対象的に、見事なまでに金髪の男。
地毛なのだろうか、とにかく男ということは間違いなくあの関係性である。
隊長「ン...?」
少女父「私は少女父といいます、本当にありがとうございました」ペコリ
隊長(あぁ...無事でよかった...)
隊長「キニスルナ」
隊長「コレガオレノシゴトダ」
少女「おとーさん! きゃぷてんさんがね! 悪い魔女をやっつけてくれてね!」
少女父「はは! そうだな!」
娘と父親の談話が続く。
少女のその表情はとても柔らかく、出会ったばかりの頃とは比べ物にならない。
その笑顔を見ることができた隊長、とても微笑ましくその光景を眺めていた。
50:
少女母「ほんと、いい笑顔ですわね」
隊長「...ソウダ」
少女母「なんですか?」
隊長「サケノオカゲデタスカッタ」
少女母「あらあら?うれしいですわ?」
隊長「...サテ、オレハイクヨ」
少女母「どちらにですか?」
隊長「ソウダナ、タビニデルッテコトダ」
少女「──え...っ!?」
少女母「...本当はもっとおもてなしをしたいのですけど、そういうわけにはいかないみたいですね」
隊長「アァ、スグニデヨウトオモッテイル」
少女「や、やだ...きゃぷてんさん! もっと一緒にいましょうよ!」
隊長「ソウシタイケド、オレハヤルコトガアルンダ」
隊長(色々情報がほしいからな...)
隊長(旅をしながらの情報収集が一番手っ取りはやそうだ)
隊長(本当は少女たちに聞きたいことは山のようにあるが)
隊長(小難しい質問より...今は家族団欒してもらう)
51:
少女「そ、そんな...」ポロポロ
少女母「少女、きゃぷてんさんは救世主なのよ?」
少女母「いろんな人がきゃぷてんさんを待っているのよ」
隊長(少女母...それは大げさすぎる...)
少女「う、うん...」グシグシ
少女母「きゃぷてんさん、気をつけてください」
少女母「あなたのおかげで村と山は蘇り、少女も元の明るい性格になりました」
少女母「感謝しきれないほど、助けてもらいました」
少女母「あなたのたびに不幸がないことを神にお祈りします」スッ
その祈り方はとても神々しいものであった。
まるで教会にいるシスター、このような華麗な人に迫られては入信せざる得ない。
彼の居たアメリが合衆国はキリスト教国である、その光景に抵抗感はなかった。
隊長「...アリガトウ」
少女「...そうだ、これどうそ!」スッ
隊長「...コレハ」
隊長(マフラーか...よくできているな)
少女「はい! わたしの髪の毛と同じ色なんですよ?」
少女「きゃぷてんさんが山にいってる間に編みました!」
隊長「...アリガトウ! トテモウレシイ!」ダキッ
少女「わわっ、えへへ...これをわたしだと思って、大切にしてくださいねっ!」
隊長「...Thank you」
少女「ふぇ?」
隊長「オレノフルサトノコトバダ」
少女「せんきゅー?」
隊長「ソウダ」
少女「せんきゅー!」
少女父「ははは、こんな明るくなったのか」
少女母「あらあら、ヤキモチ焼かないでね?」
????
52:
????
隊長「それジャ、またドコカでな」
村人5「ありがとうございましたー!」
村人6「こまったらいつでもきな!!」
少女母「旅をするならまず都に向かうといいですわ?」
少女「凍ってた山の方角にいけば都につきますよっ!」
少女母「それでは、お元気で?♪」
隊長「アァ、ありがとう」
少女「がんばってください!」
少女父「ご武運をー!」
隊長「...」スッ
隊長は静かに腕を上げ、親指を立てた。
そして振り返ることもなく前に進み始めた。
黒のミリタリー、そして首元には深緑のマフラーが風に煽られる。
少女母「いっちゃったわね」
少女「またあえるといいな...」
少女母「そうねぇ」ニコ
村人1「さぁて戻るか!」
村人2「ひさびさに宴でもすっか!」
村人たち全員が久々の平和に盛り上がる。
こうして集まることに感謝をしながら、彼らは喜びを表現する。
突如として現れた大柄な男、彼の旅の無事を祈って。
???「......ふふ」
????
53:
????
隊長(すこしJapaneseが流暢になったな)
隊長(つい英語を喋ってしまう時があるが...日本語にも慣れてきたな)
隊長「...」モフ
だがまだ思考中の言語は英語である、しかしそれでいて徐々に日本語に適応し始めている。
そんなことを考えながらも、彼は少女にもらったマフラーを撫でていた。
その質感はとても柔らかく、首元の寒さを防いでくれていた。
隊長(緑色のマフラー...肌触りがいいな)
隊長(...あの建物、そういえば少しばかり保存食があったな)
隊長(何か役立つものがあるかもしれない、もう一度探索してみるか)
????
????
隊長(あのときは雪や氷で見れなかったが...)
破れた窓から景色を眺める。
そこには麓の村と、その近辺を彩る紅が。
紅葉がとても美しく、思わず視線を奪われてしまっていた。
隊長「...Beautiful」
隊長(...そうだ、借りていた本を返すか)スッ
54:
隊長(返す前に読んでなかったページを読むか)
隊長(...)ペラ
隊長(...なるほど)ペラ
本にはこう書かれていた。
魔法の詠唱を唱える時、術者の体に存在する魔力が消費される。
詠唱に使う魔力は任意で消費量を操作することができる。
魔力の消費量が多ければ多いほど、魔法の威力が上がる。
さらに、詠唱の時に感情をこめることで威力が上がる場合がある。
例えば殺意をもって詠唱すれば、魔法の威力があがったりする。
逆にその人を心から敬愛していたら、瀕死から蘇らせることもできる。
55:
隊長(...俺にも魔力は存在するのだろうか)ペラ
魔力には潜在的に属性が存在する。
基本的な属性は4つ、炎・水・風・地が存在する属性である。
炎←→水 風←→地 が相性である。その優劣は後出しのほうが有利である。
魔力の所有者にも潜在的に属性が存在する。
炎の魔力の所有者が唱える炎魔法は、通常より威力が高く相性も良い。
なお、炎属性の魔力の所有者が水魔法が使えないということは起きない。
しかし、炎属性の魔力の所有者が水魔法には弱いということは起きる。
1つの属性の中に、さらに2つの属性がある。
炎は炎と爆の属性、水は水と氷の属性、風は風と雷の属性、地は地と衝の属性。
同じ水属性でも、水魔法や氷魔法といった性能差がでる。
基本的に、炎属性の魔力を持っていれば、炎性と爆性の魔法が両方使える。
上位属性として、光・闇が存在する。
相性は互いに強くもあり、弱くもある。その優劣は質の差で変わる。
そして、光や闇属性内には1つの属性しか存在しない。
未だ光と闇属性の研究は進んでおらず謎が多い。
なお、属性が適応されるのは”攻撃魔法”だけである。
”補助魔法”には属性が存在しないが一応、無属性という扱いになる。
隊長(...よくわからんな)
56:
隊長(ん...魔法の効果時間?)ペラ
魔法の効果時間は詠唱の時にきまる。
膨大な魔力を詠唱に消費すれば、死してなおも魔法を発動し続けることができる。
また、感情をこめたりしても同じことができる。
なお、使い魔召還魔法は魔力関係なく術者が死亡すると解除され、元の形へと戻る。
隊長(アサルトライフルの先端がしばらく凍ったままだったのはこれか...)
隊長(トカゲに殺意があったのか魔力が多かったのかわからんが...)
隊長(これでは有利な状況でも魔法の差で圧倒的に不利になってしまうな)
隊長(...だが)
(氷竜「都側に下僕を集中させたのは間違いだったな...」)
隊長(使い魔も解除されるようだし、下山は楽になるな)
隊長(...こんなものか、役に立ったぞ)パタン
本を読み終えて、本棚に返却しようとする。
すると、気になる本を見つける。
隊長(これは...動物・植物・魔物図鑑?)ペラ
57:
隊長(...)ペラ
隊長(これは...前に戦ったドラゴンが載っている)
隊長(つまりこの世界の図鑑か...役に立ちそうだ、もっていくか)
隊長(危険度も記載されているのか...あのドラゴンは高いほうだったようだな)
隊長「ワルイが、コレはモラウぞ」
隊長(...深く考えるのはよしていたが、やはり俺は別世界に来てしまったのかもしれない)
隊長(一体どうすればいいのだろうか...ひとまず前に進むことでしか現実に直面することができない...)
隊長(...考えていても仕方がない、それに腹が減ったな)
隊長(たしか干し肉があったな、貰っていこう──)ピクッ
誰もいない本棚に一方的に話しかける。
ようやく腰をあげて建物から出発しようとすると。
??1「ここを越えるとふもとの村につきますね」
??2「うん! もうちょっとがんばろう!」
??3「特に魔物はいないようだな」
隊長(...)
気づかれないように窓からちらりと確認する。
そこにいたのは、動物ではなく人。
仕事柄か不意な接触に過敏、思わず身を潜めてしまっている。
隊長(3人組みの男女か...)
隊長(女が2人...剣と盾を持っている奴と、もう1人は槍か?)
隊長(ともかく凄い装備だ、それに男のほうは禍々しい格好だな...)
隊長(...戦闘になったら面倒だ、時間をここで潰して接触を避けよう)
隊長(今のうちに干し肉でも食うか)
どこで食べても肉は美味であった。
その味を堪能した後に彼はこの建物から去っていた。
隊長の思惑は当たり、下山中に誰にも遭遇することはなかった。
????
58:
今日はここまでにします、近日また投稿します。
下記はTwitterIDです、日常的な投稿は皆無なのでお知らせBOTとしてご活用ください。
@fqorsbym
59:
????
隊長「Wow...」
雪山を越えるとそこには緑が一面。
目の前に広がった雄大な草原地帯を見て思わずつぶやく。
そんな矢先、何者かの声が聞こえた。
???「──いたたた...誰か助けてぇ?」
隊長「...!」
隊長(女の声...? 助けを求めているな、向かうか)ダッ
苦しげなその声、たとえ見ず知らずの者だとしても気になるのは当然。
ましてはこの男、正義感が強めの方である、動かないわけがなかった。
声のする方向へと向かう、しかしそこにいたのは想像していた人物とはかけ離れたモノだった。
隊長(...水のかたまり?)
???「いたいよぉ...」
隊長(さっきの図鑑にのっているか?)スッ
隊長(...あった、人型スライムのメスか? 危険度は低そうだ)ペラッ
隊長「...おい、オマエ」
スライム「に、人間!? にげないと...いたたた」
60:
隊長「マテ、オレはキガイをクワエン」
スライム「そ、そんなうそに...っ、いてて...」
隊長「ダイジョウぶか? ナニがあった」
スライム「怪我をしちゃって...って、ちかよるなぁ!」
隊長(...結構まぬけだな、図鑑によると水が生命線らしい...たしか水筒があったな)
隊長「おい、ミズいるか?」
スライム「に、人間の世話になんか...」
その言葉を最後に、彼女は固まった。
このまま自然に治るまで苦痛を味わうか。
それとも彼の好意を受け取るのか、そして選ばれるのは。
スライム「...ちょうだい」
隊長「ホラ」スッ
水筒を手渡すと、スライムは背中に水をかけた。
見た目ではわからないが怪我をしたのは背中らしい。
なんとも奇妙なその光景に隊長は視線を奪われる。
スライム「ふぃ?...た、たすかったよ...」
隊長「あぁ、コマッタときはオタガイさまだろ?」
スライム「へんな人間...」ジー
スライム「まったく、こっちは平和に寝ていたのに...」
隊長(もう大丈夫そうだが...この様子だと誰かにやられたようだな、さっきの3人組か?)
隊長「ジャアな、キをつけろよな」
スライム「...あ、まって!」
隊長「ン?」
スライム「こ、これ...一応お礼」スッ
隊長(なんだこれは...ボールか?)
スライム「じゃあね、ありがとうねっ!」
隊長(...一応取っておくか)
手のひらサイズのボールみたいなものをしまいながら先を進みはじめる。
そんなことをしているうちに、レンガでできた巨大な塀のようなものがみえる。
????
61:
????
???「とまれ」
隊長「...」ゴソゴソ
レンガでできた巨大な塀、どうやら都全体のすべてを覆っている様子だった。
当然入り口は限られる、槍と甲冑を装備した門番らしき人物がそれを物語る。
とまれと言われ、大方察しがついた隊長は、ヘルメットとゴーグルをはずすともう一人の門番が近寄ってきた。
門番2「...その人に魔力はないようだ」
門番1「人間のようだな、入っていいぞ」
隊長(...セキュリティーが甘いな)ゴソゴソ
門番を攻略し都に入ることができた。
自分の世界との差を感じながら、ヘルメットとゴーグルを装備しなおす。
しかしそこまで甘いわけではなかった、彼の仕事着にツッコミを入れられてしまう。
門番1「まて、その頭の装備ははずしておけ、不審者のようだ」
隊長「...」
????
????
隊長(...すごい数の人だ)
隊長のその表情は、まるで初めて訪れた外国に心を奪われる少年のようだった。
アサルトライフルを背にヘルメットを抱えながらも街中を歩いていく。
雑踏を掻い潜っていると、紙のたばが道端に落ちていた。
隊長(...コレは新聞か、これもJapaneseだ)
62:
隊長(...)バサッ
隊長(女勇者御一行、この塀の都に滞在?)
隊長(塀の都の王子、病気のため長期的に休暇?)
隊長(...流し読みじゃよくわからんな、後でじっくり読もう)
1面にはそう書いてあったがよくわからない、新聞紙を束ね再び雑踏を歩き始めた。
隣には町民だろうか、同じ歩幅で歩く人物が2人、なにやら世間話をしているようだった。
盗み聞きをしなくとも耳に入る、ましては会話の内容が彼の好奇心を煽る。
町民1「そういえばあの凍っていた山の氷、とけたみたいだね」
町民2「凍っていた山の魔女が死んだんじゃねぇか?」
町民1「勇者の出発と共にとけたみたいだし、よかったじゃないか」
町民2「あの山、魔物が居なくてもヘタな装備でいくと簡単に逝っちまうしな」
隊長(...仕事着の優秀さに感謝しないとな)
己の仕事着、冬用のミリタリーによる防寒性能に助けられていた。
そうこうしているうちに彼はベンチに遭遇する。
少しばかり歩き疲れた隊長は素直に座り込んだ、するとある心配事が浮かび上がった。
隊長(ここの通貨、ドルでもいいのか...?)
隊長(いや、そもそもドルすら持ってないぞ...)
隊長(まずい...このままじゃ絶対にまずいな...といっても何も持っていないしなぁ)ゴソゴソ
途方にくれて、なんとなくスライムからもらったボールを取り出していた。
緑のマフラーに顔をうずめながらボールを見つめる。
その幻想的な色合いをした貰い物に惹かれていた。
隊長(よくみたら綺麗だな...光の当たり加減で水晶にも見える。)
63:
???「おや、それは...」
このボールのような物、なかなか魅力的であることが伺える。
妙に身なりのいい男が1人、新たに惹かれてしまった。
思わずその持ち主に話しかけてしまう程に。
???「それ、綺麗ですね」
隊長「ン? あぁ...ソウだな」
???「どこで手に入れたんですか?」
隊長(...一応伏せておくか)
隊長「さぁな...シリアイからモラッタ」
???「...それにしても素敵だ」
隊長(なんだこいつ...)
???「私はそういう不思議な物が好きでね」
隊長「そ、ソウカ...」
???「よかったら買い取らせてくれないか?」
隊長「...」
思ってもいないことだった、一応もらい物なので悩むが背に腹は変えられない。
ボールを失っても、あのスライムの顔を忘れることはない。
そのような綺麗事を思いながらも彼はしてしまう。
隊長「...わかっタ、イイぞ?」
???「金貨5枚でどうだい?」
隊長(価値がわからんが、まぁないよりは...)
隊長「ホラ、ドウゾ」スッ
???「ありがとう...ふふ、綺麗だな、ではまたどこかで」スタスタ
隊長「オウ」
隊長(よくわからないが運が良かった...)
隊長(とりあえず...図鑑と新聞でも読み直すか)スッ
????
64:
????
隊長(...図鑑の詳細はともかく、ある程度の定義がわかった)
隊長(動物・植物は俺の認識と大体同じだったが...)
隊長(この新たな項目...魔物)
図鑑によると、先天性に魔力をもっている動物・植物を魔物と総称している。
後天性に魔力を得た動物・植物は魔物には分類されないと。
なお、神により選ばれた勇者は魔物には分類されないと書かれている。
隊長(俺が出合ったトカゲ、ドラゴン、スライムは魔物ってことだな...)
隊長(で、問題はこの新聞だ...)
隊長(塀の都の騎士団、草原の魔物を駆逐する準備...か)
隊長(つまり...この都では魔物は害悪って考えなのか?)
新聞によると草原にいる魔物を駆逐するなど、恐ろしいものが書かれていた。
彼はふと出合った魔物を思い返してみる、その行為がどれほど理にかなうモノなのを。
確かに危険な目にはあった、だが一概にはそうとも言えない存在がいた。
隊長(スライムは危険じゃなかったな)
隊長(あいつは加害者というより被害者のようだったが...)
隊長(魔物にも好戦的なものと、そうでないものがいるのか?)
隊長(...今は深く考えないで置こう、これは俺ではどうすることもできん)グー
隊長(...通貨もあるし飯でも食うか)スクッ
考え事をして頭を働かせたせいか、おなかも働かせてしまっていた。
ベンチから立ち上がり、彼は飯屋を探すことにした。
たとえ自分の知らない場所だとしても、嗅覚は裏切らない。
65:
隊長(飲食店はこっちだな...って、あいつは...?)
???「おや?」
隊長(さっきの奴か...)
???「お食事ですか? よかったらどうです?」
隊長(この都の都合は分らん...誰かと居たほうが良さそうだ)
隊長「...あぁ、タノむ」
???「それでは入りましょうか...すみません、2名で」
店員「はいよー! こっちの席にどうぞ!」
????
????
???「私はオススメの料理とオススメお酒を」
隊長(...いるよなこういう奴、俺も少し真似してみるか)
隊長「...オレもベツのオススメを...それとミズをタノム」
???「おや? お酒は嫌いかい?」
隊長「...サケはハンダンリョクがニブる」
???「なるほど...フフ」
クスリ、と帽子を被った男は笑う。
なんというか掴めない、底の見えないようなこの男。
彼は質問を投げかけてきた、それは核心を突かれそうになるモノだった。
???「君はどこから来たんだい?」
隊長「ン...」
隊長(あの山は噂になっていたな...伏せるか)
隊長「ワルイが、コタエルキはない」
???「フフ、君は面白いね」
???「身なりは変だし、言葉は訛っているし、体格もやたらといいし」
隊長(いきなり買取を持ち出す奴にいわれたくないな...)
???「そういえば名前は?」
66:
隊長「...CAPTAINとヨバレテる」
???「きゃぷてん?」
隊長「あぁ」
???「フフ、面白いな...私も真似てみるか」
帽子「私の名前はそうだな...帽子だ」
隊長「...ギメイをオシエテくれてありがとう」
帽子「フフ、うらむなよ?」
店員「お水と葡萄酒です」スッ
帽子「あぁ、ありがとう」
隊長「...」
隊長(よく見ると目元が隠れるまで深く帽子をかぶるっているな)
隊長(...カマをかけてみるか)
隊長「...ダレかにオワレテるのか?」
帽子「...君の冗談は面白いね」
隊長(一瞬、沈黙をした...怪しいな)
隊長(まぁ...触れないでやろう)
隊長「オレのジョウダンはオモシロカッタようだな」
帽子「...君のこと気に入ったよ」ゴクゴク
そんなことをいいながら豪快に酒を飲みはじめた。
身なりの良さ、そして華奢と言えるほどにスタイルのいい男がする飲み方ではなかった。
早くも酔ったのか、帽子という男は突拍子もない事を言い始めた。
帽子「君にお願いがあるんだ」
隊長「...ン?」
67:
帽子「私は塀の外の草原に行きたいんだ、一緒についてきてくれないか?」
隊長「ナゼオレにタノム」ゴク
帽子「君、外からきた人間だろう?」
隊長(訛りにこの格好ときたらバレるよな...)
店員「料理をお持ちしましたー」カチャ カチャ
隊長「オマエがカリにオワレテるタチバなら...モンからデルのはムリジャナイか?」
隊長(少なくとも、門番はいたしな)
帽子「...フフ、お見通しのようだね」
帽子「私はある理由で追われていてね...でも大丈夫」
隊長「...」モグモグ
帽子「実は塀の一部に穴が開いててね」
帽子「早くしないと埋められちゃうから急いでいるんだ...どうだい?」
隊長「...ニゲルためか?」
帽子「違うよ、ただ外に興味があるだけさ...また都に戻ってくるよ」
帽子「もちろん、都に戻るまで一緒にいてもらうよ」モグモグ
隊長「...」モグモグ
帽子「報酬もあるさ、ここの食事代も持ってあげよう」
隊長「はぁ...ワカッタ、ヤル」
帽子「...よし!」ニコ
隊長「アシタ、イッショにいく」
帽子「じゃあ、この店の近くにある宿に泊まっていてくれ」
隊長「あぁ...」モグモグ
帽子「いろいろ準備があるから明日また会おう」ゴクゴク
料理と果実酒を急いで消化して帽子は先に店をでた。
まるで遊びの予定が入った子どものように忙しなかった。
見間違えじゃなければ支払いを済ませていない。
隊長(あの野郎...俺に飯代持たせたな)
隊長(...店員に水筒に水をいれさせてもらえるか聞いてみるか)
????
68:
????
隊長「...この金貨、かなり価値があったな」
意外なことに、帽子から受け取ったこの貨幣はなかなかの代物。
金貨一枚だけで2人分の飯代と宿代が支払えてしまった。
さらにお釣りとして銀貨3枚と銅貨6枚をもらっていた。
隊長(金貨1枚で100ドルくらいか?)
隊長(あいつ...金持ちだな)
隊長(ふぅ...このベット、柔らかいな)
隊長(まだ夕方だが...いまのうちに眠るか)
3日、恐らく異世界へ訪れてしまっての日数。
初めて誰の気もかけずに寝ることができる、自分勝手な睡眠をとることができる。
それは日が沈み切る前の就寝すら許されてしまう。
????
????
??3「ほう...そのような者がこの山の魔女を倒したのか」
口を開いたの女性、その見た目は甲冑に大きな槍を所持している。
ここは麓、少女たちの住む村であった。
そして彼女らは隊長と接触し損ねた人物。
少女母「そうなんですのよ?」
??2「すごいね! その人が山を治していなかったら大変だったかもね!」
??3「あの山の噂は聞いていた、攻略は厳しいとな」
??3「それを1人で制圧したのか...凄いな」
少女「入れ違いになっちゃいましたね...」
女勇者「うーん、会ってみたかったな」
??1「...気になりますね」
??2「どんな人なんだろうね!」
69:
??1「いえ...そうではなく」
??1「魔力の気配がします...それも膨大な」
??2「え...どうして」
魔力の気配、それはどのようなモノなのか。
常人には理解のできない、だからこそ気づけずにいた。
この人物らを見つめる彼の眼差しの異様感に。
少女父「...」
少女「おとうさん?」
少女母「...あなた?」
少女父「.........」ボソボソ
勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...
勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...
勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...勇者...
??2「...え?」
少女父「──"自爆魔法"」
??1「──女勇者様! あぶない!!」
父の唱えた魔法、それはあまりにも残酷なモノだった。
それを喰らえば一溜まりもない、だが彼女たちは違った。
彼自身が爆破する直前、女勇者という者は盾を構えていた。
女勇者「──下がってっ!」スッ
少女母「────少女っ!」
少女「──お母さんっ!?」
────カッッッッ!!!
音として捉えることのできない轟音、とても鋭い炸裂音があたりに響き渡った。
瞬時の出来事だった、村を消し去るほどの威力の魔法が襲い掛かる。
おびただしい砂ホコリや、家だったものが散乱している。
??1「...ゲホッ」
??3「こ、これは...一体...」
女勇者「...村がないよ」
女勇者は盾で人を守った。
しかしそれが出来たのはわずか2人。
彼女にできたのは仲間を危機から護ることだけであった。
70:
女勇者「...どうしよう、女騎士、魔法使いくん...」
魔法使い「...」
女騎士「...」
勇者一行、それはこの3人。
剣と盾を持つ女勇者、甲冑に槍を持つ女騎士、魔法に長けている魔法使い。
仲間2人に投げかけるそのか細いつぶやき、ようやく口を開けたのは彼であった。
魔法使い「...進みましょう、ここにいては追っ手が来るかもしれません」
女勇者「...うん」
女勇者「...でもそのまえに、せめて謝りたい」
魔法使い「...そうですね」
女勇者「ごめんなさい...僕がここに寄らなければ...こんなことには...」
魔法使い「女勇者様...」
女勇者「...いこう」
女騎士「......あぁ」
女勇者が謝罪を終え、村だった場所を足早に去っていた。
罪悪感で彼女の精神が壊されないように。
しかし気づくことができなかった、彼女はもう1人を救っていたことに。
少女「うぅ...」
少女「おかーさん...? おとーさん...?」
???「あの爆風で村人が生き残っているとはな」
少女「誰...?」
???「ふむ...こいつは側近様が洗脳させた人間の娘だな」
???「この前は面白い奴が捕まえられたし、ここはいい実験台が多くて素晴らしい」
少女「誰なの...?」
???「可哀想に...目が見えないのか」
少女「助けて...きゃぷてんさん」
その悲痛な叫びは誰にも届かない。
彼女のその身は、突如として現れた顔もわからない者に預けられる。
家族を取り戻した昨日から一変、彼女は地獄に叩き落とされる。
????
71:
????
隊長「帽子...ハヤすぎるぞ...」
早く寝た代償か、外はまだ薄暗い程の時間に起きてしまっていた。
そしてたまたま外の様子を窓から見たとき、彼に見つかってしまった。
隊長は帽子に向かってジェスチャーを送る、すると帽子は親指を立てる。
隊長(...意味は通じたか?)
隊長(...着替えるか)
隊長(...)
隊長(......)
──コンコンッ
仕事柄慣れない早起き、絶妙に身体がだるい。
そして伝わらなかったジェスチャーに少しばかり苛立ちを覚える。
半ば迷いながらも、隊長は扉を開けた。
帽子「やぁ、おはよう」
帽子「って、なんだいその顔は...ちゃんと宿主に許可をもらってから入ったよ?」
隊長(俺はそこでまってろって伝えたつもりなんだがな...)
隊長「...シタクするからマッテロ」
帽子「すごい装備だね、みたことないよ」
帽子「特にこの武器、どうやってつかうんだ」ジーッ
隊長(最先端の技術で出来てるからな)
72:
帽子「この服? とてもおもたいんだね」グググ
隊長「カエセ」
着替えながらも、窓の様子を伺う。
先程は帽子に邪魔をされてしまったが、今度こそはその景色を楽しむ。
するといささか違和感のある光景が目にはいる。
隊長(...朝早くなのにさっきから人が走りまわってるな)
隊長(こいつの追手だろうか)チラッ
帽子「うん?」
隊長(...よくて万引きくらいの悪さしかしそうにないな)
隊長(たかが泥棒相手にこんな大勢で追うわけないか)
そんなしょうもないことを思いながら、着こなしを終える。
着慣れてしまったこのミリタリー、そして緑のマフラーを忘れずに。
少しばかり早いが、彼らは宿を出発した。
隊長(...よく見たらコイツ、腰に剣をつけてるな...この形状はレイピアか)
帽子「その武器、どう使うんだい」
隊長「...ネラッテ」
帽子「狙って?」
隊長「ヒキガネひく」
帽子「引き金引いて?」
隊長「...オワリ」
帽子「...そんなにつよそうな武器じゃないみたいだね」
隊長(撃ってやろうか...)
帽子「着いたよ」
隊長「オウ...」
そこにあるのは壁、そしてやや大きい箱があった。
帽子がそれをどかすと見事なまでの出入り口が現れる。
この穴はどのようにして作られたのか、もしかして彼が開けたのだろうか。
隊長「...」
帽子「ほら、行くよ?」
????
73:
????
帽子「おお、ここが草原地帯か」
隊長「...キをツケロ」
帽子「うん?」
隊長「...チジンがここでケガをシタ」
帽子「...そうか、気をつけるよ」
帽子「それにしても、塀の外はこんなにも綺麗だったのか...」
隊長「...あぁ、キレイだな」ゴソゴソ
思わずゴーグルをはずし肉眼で景色を楽しむ。
そして鼻に香る草原の香り、とてもさやわかな気持ちになれる。
その時、帽子があるモノを発見する。
帽子「おや、向こうに森があるね」
隊長「...ホントウだな」
隊長(この森、俺が初めてここにきたときはこの塀が邪魔で見えていなかったのか)
帽子「いってみないかい?」スタスタ
隊長(すでに足が動いてるぞ...)
隊長「あぁ...イクか」
????
74:
????
隊長(そういえば、あいつは元気だろうか...)
???「あぁ?! あのときの人間!!」
隊長(...はぁ)
噂をすればなんとやら。
出会ったときよりも声の調子がいい。
どうやら怪我は完治したようだ、その水の身体がそれを証明する。
スライム「なんでわたしの住処の近くにいるの!」
帽子「おや、きゃぷてんの知り合いかい?」
隊長「...あぁ、ケガをしてたチジンだ」
帽子「...へぇ、この子か」
スライム「ちょっと無視しないでよ」
隊長「ヨウ、ゲンキか?」
スライム「あーはいはい、あなたのおかげで元気ですよ?」
帽子「この子、君が売ってくれたこの玉みたいに綺麗な体してるね」サッ
彼が取り出したのは、買い取った例のアレ。
よほど気に入ったのか常備していた模様。
隊長「ン?」
隊長(よく見てなかったが...確かに似ているな)
スライム「あぁー!? それ売ったの!?」
隊長「あぁ、コイツがウッテくれって...」
スライム「それはスライム族の盟友の証よ!!」
スライム「なんで売っちゃうの!?」
隊長「カネにこまってな」
スライム「し、しんじられない...」
75:
帽子「しかし、ボールも君も綺麗だな」
スライム「え...あ、ありがとう...」
帽子「──やはり間違っている」ボソッ
その言葉はあまりにもか細く、そしてあまりにも早かった。
この場にいた者たちには聞き取ることができなかった。
スライム「はぁ...まぁ売った奴も悪そうな奴じゃないしいいか」
隊長「ナンカ、すまんな」
スライム「もういいわよ...それ、持ってればスライム族に襲われないわよ」
帽子「へぇ...素敵なモノをありがとう、きゃぷてん」
隊長「うるせェ」
スライム「...もしかして森に入るの?」
帽子「まずいのかい?」
スライム「そこ、野良魔物の中であんまり評判よくないわよ」
隊長(野良魔物...新聞に載ってたな)
帽子「ふぅむ...どうする?」
隊長(帽子の野郎、俺に決定権をぶん投げやがったな...仕返ししてやるか)
隊長「オレはヤトワレだ、オマエにツイテくだけだ」
帽子「...結局私が決めるのか」
隊長「あぁ」
隊長(...少しだけスカッとした)
帽子「じゃあ...行こうか」
隊長「オウ」
スライム「...付いていっていい?」
帽子「別にかまわないよ?」
????
77:
????
帽子「森の中は暗いね」
スライム「魔物の目にかかれば暗闇もへっちゃらよ」
隊長「...シズカニしろ、オソワレルかもしれん」
帽子「実は私には剣術の嗜みがあってね」
スライム「まもってね?」
隊長(襲われる前提で話をするな)
隊長(...歩いた道にナイフで印を付けておこう)
木々が生い茂り、お日様の光を遮る。
早朝特有の強い日差しがこの森には届かない。
この暗い雰囲気の中数時間歩く、帽子とスライムはひたすらに喋り続けた。
隊長(...)ピクッ
隊長「...イルな」
スライム「えっ?」
帽子「...よく気がついたね」
魔物の分際で未だに気づくことができずにいた。
そんな彼女を放置して、男2人は身構える。
隊長はアサルトライフルを構え、帽子は鞘からレイピアを抜く。
隊長(...8人くらいか?)
78:
スライム「え? え? どういうこと?」
隊長「...クルぞ!」
帽子「──来たね」
??1「──なんだてめぇら!」
??2「なんでこんなところに人が...いや魔物もいるな」
ズボラな格好、しかしそれでいて首元や指には豪華な装飾が。
その姿を見ればわかる、彼らの職業についてだ。
確信を得た帽子は思わずつぶやいた。
帽子「...盗賊か」
スライム「び、びっくりした!」
盗賊1「くく、悪いが盗賊様と出会っちまったら最後」
盗賊2「身包みはがさせてもらうぜ!!」
隊長(...全員で7人か)
盗賊1「ホラ! くらい────ゲフゥ!!」
──バキィッ...!
先陣をきった盗賊が彼に向かって飛びかかった。
短いながらも刃物を持っている、とても危険な場面であった。
しかし、隊長という男が飛びかかりをしてくる犯罪者を想定した訓練を怠るわけがなかった。
帽子「うわ...いい拳が入ったね」
隊長「...オイ、ウシロはまかせたぞ」
帽子「わかったよ...見た目に違わず、すごい怪力だね」
隊長と帽子が背中合わせになる。
もう1人いたはずだが、彼女はいつの間にか姿を隠していた。
逃げたかどうかなど些細な問題、今は続々と押し寄せてくる盗賊共の相手をしなくてはならない。
79:
盗賊2「おらおら!!」シュッ
帽子「──よっと」
──キィンッ...!
鳴り響く、金属が金属に接触する不快な音。
盗賊2が突き出してきた刃物、しかしそれは無謀であった。
圧倒的なリーチの差に敵うはずがない、帽子の剣が盗賊の武装を解除する。
盗賊2「げっ!」
帽子「これでどうだいッ?」ブンッ
盗賊2「──ぎゃッ!」
──ガンッッ!
剣の柄には豪華な装飾は付けられている。
それで殴られれば、たとえ大の男だとしても素っ頓狂な声を上げてしまう。
帽子「...殺すなよッ!」
隊長「ワカッテる...」ダッ
盗賊3「う、うわあああ」
隊長「────ッ!!」ガシッ
まさか返り討ちに合うとは思ってもいなかったようだ。
次々とやられていく仲間たちの姿を見て、棒立ちする盗賊の1人。
そんな彼を持ち上げる、そしてなにをするかと思えば。
隊長「──フッ!!」ブンッ
盗賊3「──ひえええええええええええ」ピューン
盗賊4「こ、こっちにくるぞッ!」
盗賊5「うわああああああ────」
──ズドンッ...!
大きな音とともに、2人の盗賊が下敷きとなる。
当然、投擲武器として使われた盗賊3もそのまま気絶をしてしまう。
帽子「わぁ...もう半分以上片付けてる」
盗賊6「余所見してると死ぬぜ? 坊や」
盗賊7「オラオラッ! くたばりやがれェッ!」
80:
帽子「おっと...よそ見をしてしまったかな?」
わざとらしいセリフであった。
彼の目線は2人の盗賊、よりも先であった。
迫ってくる彼らの背後には彼女が、それも大きな水の流れもおまけとして。
スライム「──"水魔法"っ!!」
──ばしゃばしゃっ...!
水の流れが彼ら盗賊たちを洗い流した。
声も上げる暇もなく、人間は水という絶対的な存在に敵うはずがない。
襲ってきた8人の盗賊をすべて処理し終えていた。
帽子「やるね、魔法だなんて」
スライム「へへん」
隊長「...さテ、どうするか」
帽子「うーん、特にここには何もなさそうだね」
隊長「こイツら、メをサましたらメンドウだ」
帽子「じゃあ、もう戻ろうか...ってだいぶ時間が過ぎたんじゃないか?」
スライム「歩いてるときはずっとおしゃべりしてたもんね」
帽子「って、出口はどっちだ?」
隊長「...コッチだ」
彼は案内する、まるで自分の庭のように。
木々につけてきた傷を頼りに、帰り道を進んでいく。
帰り道も彼と彼女の口が塞がることはなかった、よほど喋ることが好きらしい。
帽子「印をつけてくれたおかげで楽にでれたよ」
隊長「コレはキホンだ」
帽子「さて...もう日が傾いているな」
帽子「私は都に戻るとしようかな、君はどうする?」
隊長「...オレはオマエをオクッタあと、タビをススメル」
81:
帽子「...そうか」
スライム「...」フヨフヨ
沈黙がしばらく続く妙な空気の中、スライムが揺れる。
短い時間ではあったが、彼と彼女といた時間がとても有意義に感じていた。
よほど窮屈な生活をしていたのだろう、帽子は口を開いた。
帽子「...よかったら君の旅に着いていってもいいかい?」
帽子「君のこと、気に入りすぎたみたいだ」
唐突に告げてきた、しかも顔つきは真剣そのもの。
初めて帽子と目が合った、その目を見せられれば言葉などいらない。
この先孤独を楽しむか、それとも適切な距離で接してくれる人物を得るか。
隊長「...オレにはコトワルりゆうはない」
隊長(あんな目をされては、断れないな...入隊したての隊員を思い出した...)
帽子「...フフ、何回か断られると思ったよ」
スライム「よ、よくわからないけどがんばってね」
帽子「...君はついてこないのかい?」
スライム「え、でも...魔物の私じゃ迷惑だよ」
隊長「メイワクなヤツならすでにいる」
帽子「ちょ...」
スライム「...ぷっ!」
スライム「あはは! あなたたちみてると楽しいよ♪」
スライム「これからよろしくね♪」
隊長「あぁ...ヨロシク」
帽子「そういえば、どこにいくんだい?」
隊長(元の世界に戻りたいだけなんだがな...)
82:
隊長「ワカラン、キメテない」
スライム「なにもきめてないの?」
帽子「それなら西南の荒野に賢者の塔がというのがあってね」
帽子「そこにいる大賢者って人はこの世のすべてを知ってるらしいよ」
隊長("すべて"を知ってるか...試してみる価値はありそうだな)
隊長「じゃあ、ソコにいくか」
帽子「やった! 実は前からいってみたかったんだよね」
スライム「草原以外の場所なんて、わたしはじめてだな」
いざ旅へ出発しようと足を進めると、目にあるものが差さる。
その光は紅く、とても心が落ち着く色合いをしている。
夕焼けが彼ら3人を照らしていた。
隊長(ここ、丁度丘になっていて...絶景だな)
スライム「夕日...きれいだね」
帽子「綺麗だな...墓はここに立てたいね」
隊長(...縁起でもないな、こいつ)
????
83:
????
帽子「今日はここに野宿だね、よっと」ギシッ
スライム「ふぃー、つかれた...」モニョモニョ
日は完全に沈み、あたりは暗闇に包まれる。
帽子は近くにあった木に寄りかかり、楽な姿勢をとった。
スライムは少しだけ人の身体の形状を崩していた。
帽子「私は野宿が始めてだ、貴重な体験になるな」
隊長(...犯人確保のために下水道で一晩過ごした時よりマシだな)
帽子「野宿は嫌いかい?」ゴロン
隊長(いつ襲われるかわからないからな)
隊長「さぁな...」
スライム「ぐぅ...」
隊長(もう寝ているのか...)
帽子「ふむ、今日は疲れてるみたいだしもう寝るよ」
そういうと彼は、首元だけ木によりかからせる。
そして被っていた帽子を視線避けにさせる。
はじめての野宿だというのに、妙にこなれていた。
隊長(...野宿か)
隊長(この場合見張りは必須だろうな)
隊長(起きてるしかないな...まぁ1日くらいの徹夜なら仕事柄慣れている)
????
84:
????
帽子「...」スピー
スライム「すぅ...すぅ...」ムニャムニャ
隊長「...」ペラ
隊長(この世界の月夜は明るいな、満月なのも影響してか余裕で図鑑が読める明るさだ)
???「おなかすいたぁ...」ガサガサ
その時だった、聞き間違いではない。
声色からして女、スライムはすでに就寝中。
ならば考えられるのは部外者、隊長は警戒をする。
隊長(...草むらになにかいるな)
目標の位置を捉えた、あとはただ待機するのみ。
向こうがこちらに仕掛けてくるのなら、応戦するしかない。
彼はアサルトライフルのグリップを握りしめた。
???「くんくん...人間のにおいだぁ」ガサガサ
隊長「...おい、おきろ」
帽子「...ん?」
スライム「ふぁぁ...なぁに?」
隊長「敵襲だ」
帽子「──おっと、それはいけないね」カチャ
スライム「ふぇ?」
85:
隊長「...」スッ
帽子の目が瞬時に覚めた、即座に彼は剣を握った。
そして隊長は静かに指を向けた。
そこは草むら、奴はここにいる。
帽子(ここにいるようだね)
帽子「...」コクリ
隊長(どうやら、今回はジェスチャーが伝わったな)
???「ふっふっふ...ばぁ!!」バッ
草むらから魔物が飛び出した、が。
その飛び出し方はとても安直でみえみえ。
隊長は愚か帽子ですら目で追えた、つまりは簡単に組み伏せることができた。
隊長「──フッ!」ガバッ
???「──いたたたたたたっ! ごめんなさぁいぃぃっ!」バタバタ
隊長(女...それも子どもか?)パッ
あっけなく組み伏せた。
しかし、そこから発せられるのは幼い声。
罪悪感が彼の手を話した、いくらなんでも非情になれない。
スライム「...魔物?」
???「うぅ?そうだよぉ」
帽子「名前をおしえてくれるかい?」
86:
ウルフ「あたしはウルフだよぉ」
帽子「...随分と可愛らしい見た目だね」
隊長(白い毛並みのハスキーみたいだな...)
スライム「お手」スッ
ウルフ「わん」ポス
スライム「うひゃぁ...かわいい」
隊長「で、ナンのようだ」
ウルフ「おなかすいちゃって...」
ウルフ「人間は食べないしゅぎなんだけど、いいかなぁって思って...」
立てていた耳を垂らすその仕草。
それは無意識で行われていた、しかしそれに心を奪われない者などいない。
すこしばかり砕けた声色で帽子は問いかける。
帽子「できれば勘弁してほしいな...」
隊長「はぁ...」
隊長(腹が減ったというわけか...)ゴソゴソ
隊長(そういえば確かいくつかレーションが...ってチョコレートだなこれ)ゴソゴソ
隊長(いや、犬にチョコレートはダメだろ)
ウルフ「──っ!」ピクッ
取り出したのがまずかった。
その甘い匂いを嗅いで、待てをできる野良犬などいない。
先程とは大違いの度で隊長の手に持った食べ物が盗まれる。
87:
隊長「──ちょ...はけッ! どくだぞッ!」
ウルフ「──あまぁ?いっ!」
しかしその表情に危険性はなかった。
犬とは言っても、彼女も人の形をなしている。
その影響か、時間が経ってもウルフの顔つきが悪くなることはなかった。
隊長(...そういえば少年時代、犬を飼っていたな...それを思い出した)
帽子「スライムは綺麗だったが、ウルフは愛らしいな...」
スライム「な、なにいってるの...照れちゃうよ...」
隊長(寝起きでおかしくなっているのか、この帽子は)
ウルフ「ふぅ?...ごちそうさまでしたっ!」
帽子「ふむ、私もおなかがすいたな」チラッ
隊長「クサでもくってろ」
スライム「ふぁぁ...もうひとねむりしよう」
ウルフ「ねぇ、あそんでぇ」
隊長(...昔を思い出すな、少し遊んでやるか)
帽子「私も寝るよ...」
????
88:
????
ウルフ「おはようございますご主人!」ハッハッハッ
帽子「なにをしたんだい?」
隊長「アソビすぎた」
隊長(まさか、木の棒でフリスビーみたいなことをしてたら...夜が明けていただなんて...)
ウルフ「どこまでもついていきますっ!」ハッハッハッ
スライム「あたらしい仲間だね」
ウルフ「おんなのこどうし、なかよくしてね!」
スライム「よろしくね」
帽子「ふむ、食事はどうするか」
スライム「わたしは水があればだいじょうぶ」
ウルフ「おなかへったぁ...」
隊長(俺も流石に腹が減ったな...)
ウルフ「...みずがながれるおとがするよ?」ピコピコ
隊長「...!」
耳をかなり集中をさせて、ようやく確認できた。
人間にはそれが限界、だが犬や狼なら朝飯前の行動。
近くに水の流れる川がある、そこには当然魚もいるだろう。
隊長(流石、犬なだけあるな...)
????
89:
????
スライム「うひぃ?きもちぃ?」プカプカ
帽子「魚がいるみたいだね」
ウルフ「うぅ...すばしっこくてとれない」
しばらく歩くとやはり川が存在していた。
そしてそこには魚影、今朝の食事はこれしかない。
だが問題点が1つ、それは魚を取る道具がなかった。
そんなこともつゆ知らずか、スライムは川に入り浮かんで遊んでいる。
隊長(...魚か、いいエナジーになるな)
隊長(どうやって取るかが問題だな)
スライム「──うひゃぁ!!」バチャ
帽子「ど、どうしたんだい? って...」
スライム「く、くすぐったい」プルプル
スライムの身体、それは水である。
川に入れば自身はそれと同化する、そう言っても過言ではない。
スライムの身体を川の一部と勘違いした魚が彼女に入り込んでいた。
帽子「だいじょうぶかい?」スッ
スライム「ちょ、わたしの中に手を入れないで...///」
帽子「す、すまない...そんな価値観だとは思わなくて...」
隊長(...案外、こいつらは足手まといではないようだな)
隊長(...はぁ、これから先どうなることか)
ウルフ「わぁい、ごはんだぁー!」
隊長(まぁ...今は飯にしよう)
????
90:
????
帽子「ふむ、焼いただけの魚もいけるものだね」
ウルフ「やっぱりおさかなは生のままだぁ!」
隊長「やかないとオレはくえん」
隊長(マッチを拾ってなかったら生で食うハメになったな)
スライム「わたしなんて水以外必要ないよ」
隊長(食生活はこの世界も様々だな)
帽子「よし、食べたことだし進もうか」
????
????
帽子「川から大分歩いたね...」ゼェゼェ
隊長「ソウだな」
スライム「すずしい顔してるねぇ...」ハァハァ
ウルフ「ご主人すごい!」
帽子「そろそろ休みたいものだね...」ゼェゼェ
隊長「...どうやら、ヤスめるみたいだぞ」
スライム「あれは...村...?」ハァハァ
ウルフ「わぁい! いこういこう!」ハッハッハッ
隊長「まて、オレがようすをみてくる」
隊長(魔物に良い印象をもっていないかもしれんしな)
帽子「わ、私も行くよ」ゼェゼェ
隊長「オマエもまってろ」
????
91:
????
???「はぁ...よっこらしょ」
村に入ると、女性が1人。
なにやら大きな荷物を運んでいる。
当然、人の気配などに気づいているわけがない。
隊長「すまない...キキタイことが──」サッ
???「えっ!? あ、うわっとっとっとっと!」
──ガッシャンッ!
死角から現れた大柄の男、村の者でもないのが相まってか。
女性はビックリして荷物を落としてしまう。
それどこか尻もちをつかせてしまう、隊長は申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。
隊長(...確かに、物陰から急に現れれば驚くだろうな)
隊長「すまん...テをとれ」スッ
???「いや...大丈夫だよ...いてて」ガシッ
隊長「...カワりにニモツをもとう」
???「なんかすまん...あぁ、それおもたいからな」
隊長「なれている、ドコまではこべばいい?」
???「そこの私んちまでだ、よろしく」
隊長「オウ」
重い荷物の運搬など、彼にとって些細なことだった。
迷惑をかけてしまった分を取り戻そうと、隊長は女性の家に招かれた。
そして無事に荷物を運び終えることができた。
92:
???「いやーたすかったよ」
隊長「レイにはおよばん」
???「ちょっとあがっていきなよ、聞きたいことあるんだろ?」
隊長「すまない、タスかる」
???「座って待ってなー」
隊長(...外にあいつら置いてきたが大丈夫だろうか)
隊長(とりあえず座ろう)スッ
??1「お姉ちゃん、お風呂あがったよー」
その時、先程の人物とは違う声が聞こえた。
正確に言えば違う、違う声とはいってもどこか似たようなモノだった。
他人の空似だったのなら、どれだけよかったことか。
魔女「ふぅーいい湯だった...ってあれ...」
???「あっ、いま客きてるから裸でうろつくなよー?」
隊長「...」
魔女「...」
???「きいてるかー? っておそかったか...」
隊長(女が戻ってきたか...時間も戻ればよかったのにな)
93:
魔女「...し」
隊長「...シ?」
???「し?」
魔女「しねええええええええええええええええええっっ!」
──バチバチバチバチッッッ!!
人を軽く殺せる威力の雷が隊長の顔を掠めた。
どうして、彼女との再開がこのような茶番になってしまったのか。
隊長「──ま、まて!」
???「ちょ、まてまてまて!!」
魔女「なんでいるのよおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!」バチバチ
隊長「トリあえずかくせ!!」
???「いい加減にしろ! 落ち着けっ!」
????
????
ウルフ「ご主人おそいなぁ...ふぁ?あ」
スライム「あくびをすると眠くなっちゃうよ」
帽子「...」スピー
スライム「って、この人寝てるし...」
ウルフ「くぅ...」スヤスヤ
スライム「2人ともねちゃった...」
スライム「...そういえばこの人の顔ってどんなんだろ」
スライム「...みちゃお」
帽子「zzz」スピー
スライム「...そぉ?っと」ドキドキ
その時だった、あと少しで彼の帽子を剥ぐことができたというのに。
後ろから声をかけられてしまった、その声は間違いなく隊長。
しかしなぜだろうか、少しばかり疲れているような。
隊長「...オイ、オマエら」
スライム「──ぴゃっ!! ごめんなさいごめんなさい! ってあれ...?」
94:
帽子「...ん、眠ってしまってたか...おや?」
ウルフ「くぅ...くぅ...」スヤスヤ
魔女「...」ムッスー
隊長「...ムラにはいるぞ」
露骨に不機嫌な魔女と、目が若干虚ろな隊長がそこにはいた。
一体どのような関係性なのだろうか、とても気になった帽子。
しかし声をかけることはできなかった、そのあまりの剣幕に。
????
????
帽子「なるほど、ここは魔物の村なのか」
テーブルには食事がならんでいる、無事招待された模様。
帽子はそんな話を聞きながら、オークが馬小屋の馬を世話している光景を凝視する。
この女性の話、その真偽をその眼で確かめた。
???「そうさ、おっと自己紹介がまだだったな」
魔女姉「私は魔女姉、こいつの姉貴さ」
魔女「...」ムス
魔女姉「そんな機嫌悪くするなよ」
魔女「お姉ちゃんのせいじゃん!」
魔女姉「そもそも裸でうろつく癖がな...」
魔女「ぐぬぬ...」
帽子「...裸?」
魔女「な、なんでもないっ!」
隊長(...はぁ)
95:
魔女姉「ここは普通、見つからない秘境みたいな感じなんだけどな」
帽子「そうなんですか?」
魔女姉「まぁ魔物自体の存在を許してない奴も多いからな」
魔女姉「襲われたらイヤだろ?」
帽子「そうですね...」チラッ
再び、帽子は外の光景を眺めた。
庭だろうか、そこには村の魔物の子と戯れるスライムとウルフ。
早くも打ち解けている、同じ魔物だからだろうか、そんな光景が彼の心を奪う。
帽子「──こんなに綺麗で美しい光景なのに」ボソッ
魔女姉「...ん? なんかいったか?」
帽子「...いえ」
魔女姉「まぁ、私が魔法をつかって見つからないようにしてるんだがな」
帽子「その魔法とは?」
魔女姉「...悪いがよそ者には教えられんな」
帽子「フフ、それもそうですよね」
魔女姉「あんたら悪そうな奴じゃなさそうなんだけどな、村の掟みたいなもんさ」
帽子「ですが...なぜ私たちはこの村に気づいたんだろう」
魔女姉「うーん...魔物と一緒にいたからじゃないか?」
魔女姉「この魔法、魔物には目視ができるからな」
魔女姉「認識されちまったら、一緒にいる奴らも見えちまうだろうね」
帽子「ふむ...」
隊長(...話が盛り上がってるな、俺も参加したいところだが)
魔女「じー」ギロリ
隊長(視線が鋭い、俺の部隊にもこんな奴はいないぞ)
96:
ウルフ「こっちだよぉー!」バタバタ
村の子1「ま、まっていぬのおねえちゃん」
スライム「ほら、お花のかんむりができたよ」パサッ
村の子2「わぁ?ありがと!」ニコニコ
隊長(みんな楽しそうだが俺だけ地獄のようだ)
魔女「じー」ギロ
隊長「...ナンだ」
魔女「ふんだ」
帽子「この村の人間はあなたたちだけみたいですね」
帽子があたりを確認しながらつぶやく。
周りの村民、姿形はほぼ人に近いがやはり違う。
だが彼女ら姉妹は人間と遜色ない、むしろそのモノである。
魔女姉「あー...いや、この村に人間はいないぞ」
帽子「おや、あなたたちは...どうみても人間のようだが?」
魔女姉「私たちの魔力は後天性じゃなくて、先天性なんだ」
帽子「...人間と魔物の子ってわけですか」
隊長(...ハーフか)
97:
魔女姉「母が人間で父が魔物の魔術師で...」
ある疑問が彼には浮かんでいた。
持って生まれたのか、そうでないのかの差。
この世界の住民でないからこそ、その僅かな差に引っかかる。
隊長「...そこまでさべつされるノか?」
帽子「...後天性の魔力は神からの贈り物と言われ、浄化されていると認識されてるんだ」
帽子「逆に先天性の魔力は神を通してないから穢れていると認識されてるんだよ...」
魔女姉「そうだな...」
隊長「...なるホド」
魔女姉「そういえば...あんたら旅してるんだってね、目的地とかあるのか?」
帽子「一応目的地は、賢者の塔ですね」
魔女姉「──け、賢者の塔だって!?」
それは魔物だからこそのツッコミであった。
あそこがどれほど危険な地域であるか。
人間の彼ら、ましては野良の魔物にはわからない。
帽子「どうしました?」
魔女「...あそこは危険だからあんたたち人間が近寄ると死んじゃうよ」
魔女姉「こら、言い方がひどいぞ...まぁ実際そうなんだが」
帽子「ふむ、そこまで言われると逆にいってみたいな」
隊長「どちらにしろ、オレにはしりたいことがアルんでな」
魔女姉「まぁ止めはしないよ...だが気をつけろよ?」
98:
魔女「ふんだ、死んじゃえ」
魔女姉「おい、流石に口が悪いぞ」
隊長「イヤ、オレはきにしていない」
魔女「...私は部屋に戻るわよ」
そう言うと、彼女は足早に去っていた。
露骨に嫌悪感を醸し出されている、流石に応えるものがある。
しかし、偶然とはいえ乙女の身体を見てしまったこの中年男性が悪い。
隊長「...だいぶキラわれてるな」
魔女姉「なんか、すまん」
魔女姉「...ってもう暗いな、今日はうちに泊まりな」
隊長「タスかる...」
魔女姉「いいってことよ、魔物を連れて旅する奴に悪いやつはいないさ」
????
99:
????
魔女姉「さて、寝床どうするか...」
村のもてなしを受けた、その密度は濃い。
ここに訪れたのは朝だというのに、すでに日は沈みかけていた。
窓から夕焼けの紅が差し込む中、魔女姉は2人に問いかけた。
隊長「オレはイスでいい」
帽子「私もイスで大丈夫」
魔女姉「じゃあ、スライムとウルフは私の部屋においで」
スライム「はーい」
ウルフ「がうっ!」
魔物の仲間2人が、魔女の姉に連れられた。
昨夜は野宿だったが、今夜は屋根のある場所で就寝できる。
地味に徹夜をしていた隊長、今日こそはぐっすりとできるだろう。
帽子「...」スピー
隊長(早いな...)
????
102:
????
魔女姉「──だから無理だっ! かえってくれ!!」
???「そうはいかん、魔王様の命令だ」
隊長(...ん?)
帽子「...起きたかい? なにやらもめているね」
早朝、外から聞こえてき大声。
なにやら魔女の姉が誰かともめている様子だった。
ただの喧嘩だろうか、そう思った矢先にとても不穏な言葉が発せられる。
魔女姉「──この村に人間と戦争するような奴はいない!!」
帽子「──...ッ!?」
隊長「...」
寝ぼけているわけではない、確実に耳にしたのは戦争というワード。
それがどれだけ重みのある言葉なのか、魔女姉の意見に賛同する村民たちの声が沸き立つ。
困惑気味の彼らの背後に、彼女が訪れる。
魔女「あいつの刺青を見て...あれ魔王軍の証だよ」
隊長「...まおう?」
魔女「魔王もしらないのね...人間の敵の王様よ」ハァ
???「ふん、手を貸さないなら...こんな村、この暗躍者が消してやろう」
魔女姉「──や、やめろ!!」
魔女「────っ」ダッ
隊長「──まてッ!」
彼女は走り出してしまった。
隊長の静止は虚しく、止まることはなかった。
首根っこを掴んででも止めるべきであった。
帽子「これ...まずいんじゃない?」
????
103:
????
魔女姉「たのむ、もう帰ってくれ...」
暗躍者「...死んでもらおうか」
魔女姉「──おまえら、離れろ!」
魔女姉の一声で、集まっていた村民は離れていった。
この男の腕には大きな入れ墨、魔女が言うには魔王軍の証らしい。
彼の名は暗躍者、一体なぜこのような者がこんな辺鄙な村に。
暗躍者「...あんまり時間を掛けさせないでくれ」
魔女「──お姉ちゃん!!」
魔女姉「──魔女! くるな!!」
暗躍者「...妹殿、我らの魔王様に仕える気はないのか?」
魔女「あるわけないじゃん!! お姉ちゃんから離れろ!」
暗躍者「...チッ、魔物モドキの分際で調子に乗るなよ」
魔女姉「────なんだって?」ピクッ
その時、空気が変わる。
なにか言ってはいけない単語を放ってしまったかのような。
彼女の周りに焔が纏う、これは彼女の得意な魔法。
暗躍者「...人間などの下等生物の血を半分も受け継ぐなど考えられん」
魔女姉「母を侮辱することはゆるさんぞ...」
暗躍者「チッ、クズが」ブツブツ
──バチバチバチバチィッ!
しかし、怒りに誘われたのは彼女だけではない。
感情の込められた雷が、暗躍者に襲いかかる。
暗躍者「...チッ、雷魔法か」
魔女「お母さんを...馬鹿にするなぁっっっ!!!!」
魔女姉「...魔女、下がってろ」
暗躍者「どちらにも死んでもらう...下がらなくてよいぞ」ブツブツ
しかし、雷魔法で怯む彼ではなかった。
彼は魔王の名を口にした、そのようなことは下等な者には許されない。
この男、かなりの実力を誇っている、それを証明する威力の魔法が飛び出した。
暗躍者「──"風魔法"」
104:
魔女姉「────あぶない!」ガバッ
──ヒュンッ!
その単純な音が、彼女の身を痛めつける。
風の魔法、それは目で捉えることのできない強烈な魔法。
魔女姉「──ぐあぁっっ...」
魔女「──お姉ちゃん!? お姉ちゃん!?」
魔法が魔女姉の頭部に直撃し、そのまま気絶をしてしまう。
あまりの出来事に魔女は動転してしまい、姉の名前を呼ぶことしかできずにいた。
暗躍者「...安心しろ、まだ死んでない」
暗躍者「魔王様の命令を断った罰だ、この剣で逝かせてやろう」スッ
魔女「くっ..."雷魔法"!!」
──バチッ...!
先程のモノと比べると、弱々しい。
気が動転している、考えられる要因は1つしかなかった。
それは隊長が読んでいた本にも記載されている項目。
暗躍者「詠唱がめちゃくちゃだぞ、そのような魔法など食らわん」
暗躍者「...クズよ、逝け」スッ
魔女「ひっ」
彼女の得意な魔法は通用しなかった。
そして暗躍者は見せしめのように、剣を見せつけてきた。
わざわざ剣で惨たらしく殺す気だ、魔女は無意識に姉を庇おうとした。
魔女「────っ!」
──ダンッ!
そして聞こえたのは、未知の音。
まるで何かが弾けたような、そして香るのは独特な匂い。
隊長「──Scum...」
帽子「...なにをいってるんだい?」
隊長「オレのフルサトのことばだ」
105:
暗躍者「ぐっ...なんだこの威力はッ...!?」
手のひらに感じるのは激痛。
何かが貫通した後が残る、その手で剣を握ることなどできない。
暗躍者は思わず剣を弾き落としてしまった。
暗躍者「俺に傷をつけるのは困難なはず...!」
隊長「帽子、魔女姉をタノム」
帽子「よしきたね」
魔女「ま、まって!」
隊長「ココはオレにまかせろ、オマエは魔女姉についてやれ」
暗躍者「ま、まてぇ! "風ま──」
──ターンッ!
詠唱によって魔法陣が現れ、そこから風が生まれようとする。
だがそのような目に見えた行動、彼が許すわけがなかった。
隊長「...いけ」
暗躍者「グッ...ガハァッ...!?」
魔女「で、でも...」
帽子「魔女さん、行きましょう」
帽子は気絶した魔女姉を背負い、動揺する魔女の腕を強引に引っ張った。
ここに残ったのは、隊長と暗躍者の2人。
場は整った、しかし彼は忘れ物をしていた。
隊長(慌てずに、アサルトライフルをもってくればよかったな...)
暗躍者「貴様...人間か、その武器さえどうにかすれば余裕だな」
隊長「ドウにかしてみろ、クズ」
暗躍者「──貴様ぁ!! 今に見ていろ!!」スッ
彼は懐から何かを取り出した。
微かに見えたのは小瓶、そしてその中身を飲み込んだ。
すると、暗躍者の身体は消え始める。
隊長(ステルスか...なんでもありだな...)
106:
暗躍者「──"風魔法"」
──ヒュンッ!
そして早くも仕掛けてきた、見えないところから見えない魔法が襲いかかる。
防弾チョッキで守られているとはいえ、腹部に直撃した。
その威力は絶大、思わず嗚咽してしまうほど。
隊長「──ッ!? ガハァッ...」
隊長(なんて威力だ...車にぶつかったような痛みだ...)
隊長(...厄介だ)
暗躍者「"風魔法"」
──ヒュンッ
再び襲いかかる突風。
隊長が比喩した、車にぶつかったような痛み。
それが連続すれば、確実に死に至ってしまう。
隊長「──グフゥッ...!」
隊長(落ち着け...耳を澄ませ...)
暗躍者「"風魔法"」
隊長(──いまだッ!)スッ
──ヒュンッ!
隊長が突然屈み込んだ、それどころかほぼ寝そべりの状態に移行した。
彼には耳がある、たとえ見えない相手でも確実に捉えることのできるモノがある。
魔法には詠唱が必要、ならば必ず声を発するはず。
107:
暗躍者(な、なにぃ...かわしただと...)
暗躍者(チィ...偶然だろう、もう一度頃合いを測って...
隊長「...」
隊長「......」
隊長「.........」
暗躍者「..."風ま──]
隊長「──ッ!」スチャッ
──ダンッ!
彼は寝そべりながらも射撃した。
ハンドガンのエイム、それはなにもない場所を捉えていた。
だがそれは虚空ではなかった、その足元に紅が飛び散る。
暗躍者「──ゲホッ...な、なぜだ...ッ!?」
隊長(口ほどにもないな...)
手応えあり、彼の射撃精度が悪くなければ確実に胸元を貫いているはず。
そうしたのであれば、あの暗躍者という男はもう動くことができない。
勝敗が白黒つけられる、そんな中心配してきた彼女が戻ってきてしまう。
魔女「...た、たおしちゃったの?」
隊長「...あぁ」
隊長(現代兵器は頼れる...頼れすぎるのが原因で社会問題にもなるがな)
魔女「...氷竜も倒しちゃうし...あんた何者?」
しかし、不可視の恐ろしさはまだ終わらない。
なにも見えないからこそ、その行動を許してしまった。
目視することができない、それが隊長の油断を招いてしまった。
108:
暗躍者「──まだだ...」ゴク
隊長(──しまったッ!? まだ息があったかッ!?)
暗躍者「くく...これは側近様が作られた魔力薬...」ボコッ
暗躍者「──側近様の魔力が俺の中にぃいいいいいいいいいいいいい」ボコッ
彼の油断、それは見えないことだけではない。
頼れすぎてしまう銃の威力を盲信してしまっていたからであった。
胸を打たれ心を貫かれても、魔物という生き物はすぐには死なないのであった。
魔女「な、なにあれ...変異してる...」
隊長「...なんだアレはッ!?」
暗躍者の体が膨らんでゆく、それは次第にある形をなし始めていた。
その見た目はまるで巨大な花のような。
この出来事を許してしまったことが悔やまれる。
暗躍者「──ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
魔女「──うぅ...耳がぁ...っ!」
隊長(クソッ...)
花の分際で、耳を破るような大声を出していた。
一体どこからその音がなっているのか。
それは明白であった、花弁の中央に。
魔女「なにあれ...花の中におっきな口が」
隊長「...Fuck」
魔女「...え?」
隊長「さがってろ!」
暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
──ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ!
その時だった、花弁から魔法が放たれる。
それはまだあの男が人の形をなしていた時に使っていた魔法。
突風、疾風、烈風、多数の風が無軌道に放たれる。
109:
魔女「風魔法っ!? それも同時にたくさんっ!?」
隊長「──こっちだ! こい!!」
隊長が見つけたのは大きな木。
少なくとも身を隠せることができる、ある程度は風避けになってくれるはずだ。
そう考えた彼は走り出す、そして偶然にも風にあたることはなかった。
魔女「ぐ...きゃあぁっ!」バタッ
しかし、彼女は違っていた。
不幸にも魔女は転んでしまう、それは一体何故か。
風は無差別に放たれている、風が地面に当たればそこには穴ができてしまう。
魔女(...転んだ...もうだめだ)
足が穴に引っかかり、体勢を大きく崩す。
そして感じるのは風の音、確実に被弾することは間違いない。
恐怖からか、彼女は瞳を閉じる、瞼の暗闇が彼女の最後の光景。
魔女「...?」
しかし彼女の身体に異変はなかった。
一体なぜ、あの軌道は確実に魔女の身体を捉えていたのに。
恐る恐る視界を開いてゆくと、目の前には彼が。
魔女「な...なんで...?」
隊長「...ツギはあきらめるな」
隊長が魔女に覆いかぶさることで護っていた。
しかしそれもつかの間、花から触手が生み出されていた。
そしてそれが隊長の足を掴む。
110:
隊長「しまっ────」
──ふわっ...
そして、無理やり上に持ち上げ
隊長「──うおおおおおおおッッ!?」
──ドスンッ!!
そこから地面へと叩き落とされる。
隊長「──ガハぁぁ...ッ!?」
背中には鈍い痛み、それ故に脱力してしまう。
抵抗する間もなく隊長は大きく上に持ち上げられる。
触手は彼を逆さまに吊るしている、そして花は大きな口をあける。
隊長「クッ...」スチャッ
──ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン
抵抗虚しく、この小さな銃では太刀打ちできない。
花という化物が口を開いている、この後に続くのは間違いなく捕食行動。
隊長(だめだ...ハンドガンではまったく怯まない)
隊長(...ここまでか、食われておわる人生か)
魔女「──"雷魔法"っ!!」
暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
立場が逆転してしまった。
先程は彼女に諦めるなと伝えたはずなのに。
今度は彼女が、隊長に向かってそう伝えてきたような。
隊長(...まだ死ねないみたいだな)スッ
隊長「──フッッ!!」ズバッ
最後の力を振り絞る、隊長はナイフを取り出した。
みなぎるのは気力、腹筋を利用することで逆さまに吊るしている触手をめがける。
そして彼は憎たらしい植物の一部を切り裂いた、すると当然真っ逆さまに落ちる。
隊長「──うおおおおおおおおッ!!」
隊長(これはヘリからの緊急脱出よりも怖いぞッ...!)
111:
隊長「──って、スライム!?」
スライム「ほいきた! "水魔法"っ!」
その時だった、真っ逆さまの先にいたのは彼女。
そして何を思ったのか、スライムは自分に水魔法をぶつけた。
すると、スライムの体に変化が見られた。
隊長(──大きくなったッ!?)
隊長「うおおおおおおッッ!!」
──バシャーンッッ!!
隊長が直撃したのは、水の塊。
地味に鈍い痛みが走るが、地面に直撃するかよりはマシ。
どうやらスライムは自らの体積を水で増やしたようだった。
隊長「...」ゴボボ
隊長(マット代わりになったのか...助かった)スイスイ
あとは簡単、泳いでスライムの中から脱出した。
驚くほどに水はさらさらしている、理由はわからないが身体や銃は水浸しにならなかった。
隊長「──ぶはッ! スライム、たすか...」
スライム「...うっぷ、吸収しすぎた」オロロ
隊長「...やすんでてくれ」
スライム「は、はぁい...うっぷ」オロロ
魔女「大丈夫だったっ!?」
隊長「あぁ...オカゲさまでな」
暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
隊長「...じゃくてんとかナイか?」
魔女「...あんた、マッチとかもってなかったっけっ!?」
隊長「そうか...もやシテミルか...ホラ」
暗躍者「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
隊長「...きくのか?」
魔女「試してみなきゃわからないってば! えいっ」ボッ
適当になげたマッチが、茎部分に火が移る。
それは以外にも軽く燃え広がった。
この暗躍者という男、乾燥肌のようだ。
112:
暗躍者「──ガアアアアアアアアアッッ!?!?!?!?」
魔女「効いてる! やっぱ弱点は火!」
隊長「──うしろだッ!」スチャ
──カチッ! カチッ!
弱点を見つけ喜ぶ魔女の背後に触手がせまる。
それを銃撃により撃墜しようとしたが、トリガーの音がそれを拒否する。
隊長(た、弾切れ...くそッ!)バッ
魔女「え!?」ドン
彼は魔女を強く押した、その影響で彼女は倒れ込む。
そして隊長は身代わりとなる、その身を犠牲にして。
魔女「あ、あんたっ!?」
隊長「──オぉうッッッ!」
──ザッシュッ...!
隊長の右肩に細い触手が貫通する、非情にもソレは激しく貫通したまま動く。
そのあまりの激痛に悶えるしかない、手が震えるなか彼はナイフを取り出した。
隊長「ガァ...ぐぅ...」スッ
隊長(よりにもよって利き腕のほうか...)
帽子「──ほら!」ズバッ
帽子「...大丈夫だったかい?」
隊長「あぁ...タスかった」
魔女「..."治癒魔法"」
──ぽわぁっ...
明かりが隊長を癒やす、そして帽子が触手を払ってくれた。
しかし彼の限界は遠くない、これ以上長引くと危険だ。
隊長「たすかる...」
113:
魔女「無茶しないで...なんであんたは...」
隊長「はなしはコイツをたおしてからだ...」
帽子「フフ、そうだね」
帽子「ところでこれ、君の武器だろ?」スッ
隊長「あぁ、たすかる」スチャッ
──ババババババババババッッッ!!
帽子が持ってきてくれたのは、彼の忘れ物。
これさえあれば、短期決戦に持ち込めるかもしれない。
今の乱射で多数に出来上がった銃痕がそう思わせた。
帽子「うわっ、すっごい威力」
暗躍者「──ガアアアアアアアアアアアアアッッ!?!?!?」
隊長「魔女!」
魔女「わかってるって!、えいっ!」ボッ
──ババババババババババッッッ!!
──ズバッ!! ザシュッ!!
大量の弾痕がある茎にマッチをぶつける。
それを阻止しようと大量の触手が襲い掛かる。
だがそれも阻止しようと、2人の男が抵抗する。
帽子「触手は私たちにまかせて、君は火をぶつけまくれ!」
隊長「はやくシテクレッ!」
──ババババババババババッッッ!!
──ザシュッ!! グサッ!!
触手を薙ぎ払う音、だがそこにもう1つが加わる。
???「"炎魔法"」ゴォ
──ゴオオオオォォォォウッ...!
その炎はマッチなどと比べ物にならない。
魔法により生まれたその大きな炎は植物を果てさせる。
暗躍者「ガアアアァァァァァァ────」
隊長「──Target destroyed」
戦いはこれ以上長引くことはなかった。
アサルトライフルが、帽子の剣が、魔女の火が。
そして魔女姉の炎が暗躍者だったモノを滅する。
115:
隊長「おわったな...」
魔女姉「ふぅ...いいとこどりしちゃったな」
ウルフ「わふっ」
魔女姉「おぶってもらってわるいね、ウルフ」
帽子「いやー、つかれたね」
魔女「お姉ちゃん、もう大丈夫なの?」
魔女姉「あぁ、まだ頭が痛いがな」
スライム「うぅ...やっと体型もどった...」
帽子「よくがんばったね」
魔女姉「とりあえず私んちにきな、腹減っただろ」
隊長「...あぁ」
????
????
魔女姉「ごちそーさん」
ウルフ「ふぁーおなかいっぱい」
スライム「ここの水はおいしいね」
帽子「そういえば、水を含むと体が大きくなるんだね」
スライム「うん、スライム族の特技だよ」
魔女姉「そうなのか、しらなかったなぁ」
食卓の料理を平らげる、6人もいればぺろりといけてしまう。
その後に始まるのは雑談、先程の出来事のことで話題は持ちきり。
しかし彼だけは会話に参加ぜず俯く、それはなぜか。
隊長(...アサルトライフルが残り180発、ハンドガンが残り90発か)
隊長(まだ残ってはいるが...次第に底をついてしまうな...どうしたものか)
116:
魔女「...ねぇ、あんた」
隊長「ん...?」
魔女「きゃ、きゃぷてん...」
隊長「なんだ?」
魔女「...た、助けてくれてありがとね」
隊長「...めのまえでしなれてはこまる」
魔女「私のことじゃなくて!」
隊長「...?」
魔女「あんたがいなかったら...この村はたぶんなくなっていたよ」
隊長「...」
あの暗躍者とかいう男、銃を前に手も足もでなかった。
しかしそれはあの武器がどのような代物なのか全く知らなかった為。
奴は十分に実力を保持していた、このような村を滅ぼすなんて些細なことだったのかもしれない。
隊長「...おれはただしいとおもったことをしただけだ、れいはいらん」
魔女「...そっか」
隊長「...帽子、そろそろいくぞ」
帽子「おや、それでは行きますか」
スライム「もうちょっとやすみたかったな」
ウルフ「ご主人のいうことをきけぇ!」ワン
スライム「ひゃわっ! 急にほえないでよっ!!」
魔女姉「もういくのかい? 積もる話はまたの機会にしておくか!」
????
117:
????
帽子「フフ、またあいましょう」
スライム「またね?」
ウルフ「わふっ」
隊長「じゃあな、魔女」
魔女「...ばいばい」
魔女姉「気をつけろよー!」
帽子とスライムが手を振る、その相手はここの村の住民たち。
村の危機を救ってくれた者たちを出迎えるために、集まっていた。
旅の出発を見送る、やがて彼らの姿が見えなくなるまで村民たちは見守っていた。
魔女姉「...よかったのかい?」
魔女「...なにが」
魔女姉「賢者の塔、いってみたいんじゃなかったのか?」
魔女「...今度ひとりでいくもん」
魔女姉「...村のことは心配するな、魔王の奴らが村に報復にくるとかおもってんだろ?」
魔女「う...」
魔女姉「大丈夫だ、結界は強くするし...この村には力自慢の奴らとかいるだろ?」
魔女「い、いかないってば...」
その言葉のあと、彼女は数秒沈黙をする。
魔女の葛藤、そこには興味のあった場所に行けるという理由。
しかしそれだけではなかった、妙な感情が魔女を揺らぐ。
魔女「...ごめん、やっぱり行ってくるよ」
魔女姉「あぁ、楽しんでおいで...あいつらならあんたを任せられる」
魔女姉「餞別だ、姉ちゃんの帽子をやるよ」スッ
魔女「うん! ありがとねお姉ちゃん!」
魔女姉「気をつけろよ...魔女」
彼女は駆け足で彼らの方向へと向かう。
その様子を最後まで見届ける、魔女の姉。
少しばかり寂しい感情が残るが、それでよかったのである。
????
118:
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隊長「...なにかうしろからちかよってくるぞ」
いち早く気がついたのは彼であった。
後方から草原をかき分けていく音が注意力を刺激する。
少しばかりか日本語が上達している、訛りが少なくなった隊長が帽子たちにそう伝えた。
魔女「──まって!」
隊長「...どうした?」
スライム「あれ、なんできたの?」
魔女「はぁ...はぁ...ごめん、私も付いていっていい?」
帽子「えっと...私は構わないけど...」
ウルフ「...?」
皆に不思議そうな顔つきをされる。
なので彼女は説明をした、前々から賢者の塔に興味を持っていたことを。
上辺だけを述べる、だがそれだけで彼らの信用を得ることができていた。
旅の仲間に新たな1人が加わる、隊長が異世界にきて6日。
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スライム「やっと草原地帯を抜けた...」
ウルフ「きれいなうみだなぁー」
草原地帯を抜けると、そこには大海原が見えた。
ここは海岸地帯、海に隣接した崖が有名な観光地でもある。
帽子「この海岸地帯を抜けると、賢者の塔のある荒野地帯につくみたいだね」
魔女「よくお姉ちゃんに連れてってもらったなぁ、ここ」
隊長「...」
各々が海原の雄大さに心を奪われている。
そんな中、彼だけは違っていた、その表情はかなり強張っている。
無意識なのか、首元に巻いた深緑のマフラーを触りこんでいる。
隊長(なんだ...この胸騒ぎ...)
????
119:
????
??1「──ちゃん、あなた、ご飯よ?」
??2「お、今日もおいしそうだ」
??1「あらあら、あなたってばいつもおいしそうって言ってくれるじゃない」ニコ
??2「──ちゃん、早くきなさぁ?い」
??3「はーい、いまいくよお母さん」
??3「わぁ! おいしそうな料理!」
??4「ソウだな、オイシそうだ」
??3「──さん! きてたんですね!」
??1「あらあら、ずっと一緒にくらしてたじゃない」
??2「──さんとお父さんどっちが好き?」
??3「うーん...──さん?」
??2「ば...ばかな...娘をよろしくおねがいします」
??4「オイオイ、キヲオトスな」
??2「お父さんは──さんに勝てる所がないようだ...」
??3「そんなことはないよね? お母さん」
??1「ふふふ、そうねぇ?、お父さんは素敵ねぇ?」
??2「おまえっ!」ガバッ
??1「あらあら、子供の前よ」
??3「ふふ、変なの」
??4「ソウダな」
??3「──さんが魔女を倒して平和ですね」
??4「アア」
??3「こんな平和な時間、ずっと続きますように!」
????
120:
????
少女「あっ...あっ...あっ...あっ...」
???「側近様、入ります...」
今まで見せられたのは、彼女の夢。
ここはどこかの部屋、そこに入り込むのは少女を連れてきた者。
そしてその者が畏まる、その相手の名前は側近と呼ばれる者。
側近「おぉ偵察者か、入れ」
偵察者「ハッ...早、実験台を使っているようですね」
側近「お前の連れてきたこの少女、なかなかいい物になりそうだ」
少女「あっ...あっ...あっ...あっ...」
──ちゅぷっ ちゅぷっ くちゅっ ぴちゃっ
白い花から大量の触手が伸び、少女の耳から体内への侵入を繰り返す。
その音はあまりにもエグく、まるで脳がかき混ぜられていると勘違いできるほどに激しかった。
偵察者「...草原の村に向かった暗躍者が倒されたようです」
側近「...あの村にあいつを倒せるような奴はいないはずだが」
偵察者「それに、氷竜も女勇者ではない誰かが倒していたようです...」
側近「なに...では氷竜を倒した者が暗躍者を倒した可能性があるな」
側近「...たしかこの少女、氷竜がいた山の麓の村人だよな」
偵察者「はっ、そのとおりでございます」
側近「なにか知ってるかもしれん、頭の記憶を覗いてみよう」
側近「なにか見つかったらまた呼ぶ、もどっていいぞ」
偵察者「はっ、失礼します」
????
121:
????
帽子「...この看板って?」
帽子が訪ねた看板、そこには角の生えた人が描かれていた。
これは海岸地帯の港町の入り口、そこに表示されている。
これが何を意味するのか、魔女が答えをくれた。
魔女「これは魔物が入っても大丈夫って意味の看板よ」
魔女「ここは商業主義の町だから、お金さえ払ってくれれば人間も魔物も関係ないってことよ」
帽子「...そうだったのか、知らなかった...このような町があるだなんて」
隊長「あぁ、これでらくにやすめるな」
ウルフ「おいしいものがたべたい...」
帽子「私はお酒が飲みたいね」
魔女「私は別に...」
スライム「水がほしいな」
隊長「おまえら...」
ウルフ「くんくん...このにおいっ!」バッ
スライム「あっ! まってウルフちゃん!」ダッ
帽子「まて! 流石に1人は危険だ!」ダッ
なにかの匂いを嗅ぎつけ、ウルフは1人飛び出してしまった。
それを止めるべく、スライムと帽子も後を追う。
だが犬相手にかけっこで勝てる者などそうそういない、ウルフは早くも匂いの根源にたどり着く。
ウルフ「おかしだぁ!」ハッハッハッ
122:
商人「1つ銅貨2枚だよ」
ウルフ「はっ...おかねもってないぃ...」
商人「わるいね、魔物の嬢ちゃん」
スライム「ま、まって...はぁっ...はぁっ...」
帽子「1人で行動は危険だ...ウルフさん」
ウルフ「う...ごめん...」
スライム「なんで走り出したの...ってこれか」
帽子「お金がないみたいだね、買ってあげよう」
ウルフ「いいの!?」ヘッヘッヘッ
帽子「フフ、スライムさんもどうだい?」
スライム「わ、わたしは固形物たべれないから...」
帽子「ふむ...1ついくらですか?」
店員「1つ銅貨2枚だぜ、金髪の兄ちゃん」
帽子「では、2枚で1つ貰おうか」スッ
店員「まいどありぃ!」スッ
帽子「はいどうぞ、ウルフさん」
ウルフ「わぁ! ありがとぉ!!」モグモグ
帽子「さて、きゃぷてんたちと合流しないと」
????
????
魔女「...ごめん」
隊長「...まよったな」
隊長「こうなってはしかたない、どこかみはらしのいいところにいくぞ」
魔女「それならあれはどう?」スッ
ウルフたちに追いつこうと、彼たちも町を進んだのは良かったが。
どうやら道に迷ってしまったらしい、見知らぬ土地でこれは仕方ない。
すると、魔女が遠くにある高台を指差す。
隊長「...よさそうだな、あそこにいこう」
????
123:
????
帽子「ふむ、いないようだね」
スライム「こ、こまったね」
ウルフ「おいしい♪」モグモグ
帽子「きゃぷてんのことです、きっとどこか見晴らしのいいところに行ったはず」
スライム「おぉーそうかもね」
ウルフ「♪」モグモグ
帽子「あの高台、いそうだね」
スライム「いってみようよ」
帽子「フフ、そうだね」
????
????
魔女「日が傾いてきちゃった」
隊長「あぁ、そうだな」
魔女「...ねぇ、あんた」
隊長「ん?」
魔女「あんた、変な防具してるから顔みたことないよ」
魔女「...よかったらみせてよ」
隊長「あぁ、べつにかまわんが...」ゴソゴソ
日常的に装備していたせいか、もはや身体の一部といっても過言ではない。
そんな彼の素顔、いつもは部隊で支給されたヘルメットとゴーグルをつけていた。
まじまじと隊長の顔を見たことない彼女は、その素顔を見つめた。
隊長「...ふぅ、あたまがかるいな」
魔女「...」
隊長「...どうした?」
魔女「な、なんでもないわ...」
隊長「そ、そうか...」
????
124:
????
ウルフ「くんくん...ご主人はどこだぁ!」
帽子「フフ、ウルフさんの鼻はたよれるみたいだね」
スライム「はやく合流できるといいね」
ウルフ「──いたぁー!」ダッ
スライム「ちょ、またどっかいっちゃった...」
帽子「高台も近くだし、大丈夫だよ」
スライム「そ、そっかぁ」
帽子「...おや、これは?」
帽子が気になったのは、地べたに座り込んでいる人物。
そしてそこには商品だろうか、いろいろと妙な代物を並べている。
かなり怪しい見た目、だが帽子という男には偏見など備わっていない。
行商人「この商品に目をつけるなんて、お兄さんやるねぇ」
スライム「どれどれ、わぁ! きれい」
帽子「綺麗な指輪だね」
行商人「この指輪、今なら金貨1枚で2つ買わせてやるよ」
スライム「たかっ!」
帽子「ふむ、それはお得だね」スッ
行商人「まいどあり、いい事あるぜ?」
スライム「お、お金もちだね」
帽子「ほら、あげるよ」スッ
スライム「えっ、な、なんで...」
帽子「さっき、ウルフさんにチョコ買った時に物欲しそうな顔をしていたからね」
帽子「食べ物はダメなようだし、この指輪が似合うとおもってね」
スライム「あ、ありがとう...大事にするね♪」
125:
帽子「もう1つおまけに貰ってしまったな...私がつけようかな」
スライム「そ、それって...」
帽子「フフ、まるで恋人同士みたいだね」
スライム「...///」
夕日に染まるより、顔が紅くなる。
くさいセリフを下心で言ったつもりではない、彼なりの冗談であった。
だがスライムという魔物はそのような言葉に慣れていない、のでまともに受け取ってしまう。
帽子「じょ、冗談だったんだけど...そこで照れられるとこっちも照れてしまうよ」タハハ
スイラム「...いこっ♪ 帽子さん」
帽子「あ、あぁうん...」
スライム(...はじめて誰かから贈り物もらっちゃった♪)
????
????
ウルフ「ご主人?!!」
隊長「ウルフか...やっと見つかったな」
魔女「帽子とスライムは?」
ウルフ「すぐそこにいるかなぁ?」
帽子「おーい!」
隊長「...合流できたな」
帽子「すまないね、いろいろ時間をかけて」
隊長「1りになるのはきけんだ、きをつけろ」
ウルフ「う...ごめんなさい...」
隊長「なに、つぎしないならいい」
帽子「暗くなってきたね、宿を探そう」
スライム「?♪」
ウルフ「...? スライムがなんかよろこんでる!」
スライム「なんでもないよ?♪」
????
126:
????
帽子「ではまた明日」
スライム「おやすみなさい♪」
ウルフ「うぅ...ご主人...」ウル
隊長「...」
魔女「ほら、女の子はこっちの部屋よ」グイ
ここは港町のどこかの宿。
どうやら男女で2部屋を借りたようだ。
その資金はどこからでたのか、言うまでもない。
帽子「とくになにも障害はなくてよかったよ」ゴクゴク
隊長「...そうだな」
隊長(...こいつ、もう酒を飲んでやがる)
帽子「君も一杯どうだい?」
隊長「さけはのまん...ねる」
帽子「おやすみ...ぷはっ、おいしいな」
隊長「...」
まるで倒れ込むように、彼は眠りに入った。
そんな隊長の様子を見ながら、帽子は1人つぶやく。
帽子「...フフ、疲れが溜まってるみたいだね」
帽子「君は常に周囲を警戒してるからしかたないね」
帽子「...独り言はこれくらいにしておこう」
帽子「ん、大浴場があるのか...はいってみるか」
????
127:
????
ウルフ「わふぅ、ふかふかぁ...すぅ...」ゴロゴロ
スライム「寝るのはやっ!」
魔女「あ、いいものじゃん」
スライム「なにそれ?」
魔女「お酒よ、お、さ、けっ!」
スライム「へ、へぇ?」
魔女「あんたは飲まないの?」
スライム「私は水いがい口にできないから...スライムだし」
魔女「難儀な性質ね...」
スライム「色物の水を飲んだら、からだが染まっちゃうしね...」
魔女「そうなんだ...それにしても...」
スライム「...なに?」
魔女「綺麗な身体ね、スライムなのにすべすべしてる」
スライム「ぬめぬめにもねばねばにもできるけど、さらさらだと周りの物をぬらさないし楽なんだよね」
魔女「へぇ?、まぁぬめぬめだと布が大変なことになるしね...」
スライム「ふふっそうね♪」
????
????
隊長「...ん」パチッ
帽子「...」スピー
隊長「...まだ暗いな」
隊長「...」
隊長「大浴場...?」
部屋に張ってあったのは、案内図。
どうやらこの宿泊施設には大浴場があるらしい。
現代社会を生きてきた彼にこの殺し文句はあまりにも卑怯であった。
隊長(温泉か...あんまり経験はないが入ってみるか)
????
128:
????
隊長「あぁぁ...ふぅ...」
隊長(温泉...いいものだ...)
隊長(...今度Japanに旅行でもしてみるか)
見上げると吹き抜けになっていて、月がよく見える。
しかし、その月は自分が見てきたものとは大きさが違う。
温泉の影響で安らいでいるせいか、その事実をようやく受け止めることができた。
隊長(月...綺麗だな...)
隊長(改めて認識した...この世界はやはり異世界のようだ)
隊長(いったいなぜ、俺はこの世界にきてしまったのか...)
隊長(あの時、犯人のグレネードに巻き込まれて、気づけばこの世界に...)
隊長(...大賢者とやらは、このことも知っているのだろうか)
隊長(...わからないことに悩んでも仕方ないな)
隊長(今はこの湯を堪能しよう)
????
????
魔女「...ん」パチッ
魔女「はれ...私...毛布?」モゾッ
魔女(...そうか、お酒飲みながらおしゃべりしてたんだっけ)
魔女(きっとスライムが毛布をかけてくれたのね...)
スライム「くぅ...くぅ...」スピー
ウルフ「むにゃ...」スピピ
129:
魔女「...あったまいたい」
魔女「...お風呂はいろ、たしか大浴場があったんだっけ」
魔女「えーっと...代えの下着っと...」ガサゴソ
ウルフ「──わひゃっ!?」ビクッ
魔女「ご、ごめん...起こしちゃった?」
ウルフ「うぅ...おはようごじゃます...」
魔女「ごめんね? 起こしてあれだけど一緒にお風呂入る?」
ウルフ「...うん」
????
????
魔女「よいしょっと...」
ウルフ「...おっぱいおおきい」ジー
魔女「ちょ、なにみてんのっ!」サッ
ウルフ「あたしのはちいさい...」
魔女「そのうち大きくなるって...」
ウルフ「うぅ...あたし魅力ないかも...」
魔女「あんたのその犬耳とか尻尾とか可愛いわよ」
ウルフ「ほんとぉ?」うるうる
魔女「うっ...」
魔女(か、可愛いわね...)
涙目で上目遣いで犬耳をたれさせて、尻尾がゆっくり振っている。
その様子を見て心を奪われないモノなどいない、たとえ同性であっても。
魔女「ほ、本当よ、ほら行くわよ」
ウルフ「わぁい!」
──ガララッ
それが地獄の始まりであった。
130:
魔女「わぁ、吹き抜けなんだ」
ウルフ「うっ...なんか臭い...」
魔女「温泉の匂いよ、身体に悪いわけじゃないから安心して」
ウルフ「そうなんだ...って、温泉のなかに岩がある!」
魔女「結構広いわね...」
ウルフ「うひぃ?いいおゆぅ?」ホワーン
魔女「んっ...あぁ?そうねぇ」
ウルフ「わふっ」バチャバチャ
魔女「あははっ、きれいな犬かき」ケラケラ
魔女「よいしょっと...」サッ
魔女が湯の中にあるオブジェのような岩に寄りかかる。
置物にしては少々大きい、誰かが身を隠していても気づくことができない程。
はたして、その裏側には誰がいるのか。
隊長「...」
隊長(な、なぜ魔女たちが...いや、この状況...)
隊長(入り口のドアは開いたままだ...)
隊長(しかし、入り口までにこの岩以外に遮蔽物はない...)
隊長(チャンスは魔女たちがこの岩より奥に行ったときしかない...)
隊長(早く奥にいけっ!)
131:
ウルフ「わふっわふっ」ジャバジャバ
魔女「ふぅ...私ももうちょっと深いところにいこっと」ジャバジャバ
隊長(...この波の動き、誰かが移動している)
隊長(魔女であってくれ...いまだ!)スッ
──バシャバシャッ!
お湯をかき分けていく音が響く。
その音に気づかないわけがない、魔女が反応する。
魔女「...え? なにいまの音?」
ウルフ「わぁい♪」バシャバシャ
魔女「...なんだ、ウルフか」
????
????
隊長「...ふぅ」ホカホカ
隊長(どうやらまだ衰えてないな、久方ぶりの隠密行動だった...)
類まれに見る脱出劇であった。
もし失敗すれば信用を失うことになる、2度も乙女の身体を見ては弁解もできない。
成功してよかった、そのような余韻に浸りながら彼は置いてあった椅子に座る。
ウルフ「──あ、ご主人!」ホカホカ
魔女「あれ、どうしたの?」ホカホカ
すると現れたのは、先程見かけた彼女たちであった。
ウルフの白い髪と魔女の淡い栗色の髪が濡れている。
いつもと違う風にみえる彼女たちに、少しばかり吃ってしまう。
隊長「...いや、べつに」
魔女「あぁ、風呂に入りにきたのね」
魔女「いまなら誰もいないわよ、よかったわね」
隊長「い、いやそういう...」
魔女「ほら、いったいった」
????
132:
????
隊長「...二度目だな」
隊長(...)
(魔女「あれ、どうしたの?」ホカホカ)
隊長(...)
隊長(......ハッ!俺は何を考えてるんだ)
隊長(これじゃそこらへんの性犯罪者共と変わらん...)
隊長(...水を浴びてあがろう)
????
????
スライム「くぅ...くぅ...」スピピ
魔女「それじゃ、おやすみ」
ウルフ「むむ...あたしもねよ」
ウルフ「あれ? なにこの本」ヒョイ
備え付けてあった雑誌を手に取る。
しかしそこには文字、文字、文字のオンパレード。
あまり賢いとは言えないウルフには難しい内容であった。
ウルフ「う...よくわかんない...」ペラ
ウルフ「あ、占いだーこれだけはわかる!」
スライム「ん...zzz」
魔女「シーッ、うるさいよ」
ウルフ「ご、ごめん...」
ウルフ「この月の1位はくろかぁー、ビリはきんいろ...」
ウルフ「...これおとこのひとへんだった」
ウルフ「おんなのこは...1位はしろ? ビリはみどりかぁ」
ウルフ「やったぁ、わたしのかみのいろはしろいや♪」
魔女「へぇ?茶髪は...なんで茶色は載ってないのよ...」
????
133:
????
ウルフ「おはようございます! ご主人!」ハッハッハッ
帽子「おはよう、きゃぷてんさん」
スライム「ふぁぁ?...おはよ」
魔女「おはよ...ってどうしたの?」
隊長「...いや、べつに...?」
帽子「目の下にクマができているよ」
隊長「だいじょうぶだ、なれている」
????
????
帽子「ふむ、この料理は絶品だな」
スライム「ごくごく...」
ウルフ「わふっ」ガツガツ
魔女「朝は軽めがお腹に優しいわって、あんたは凄い量ね...」
隊長「あさはえいようがひつようだからな」モグモグ
帽子「ふむ、一理あるね、おかわり」
隊長「たべたらいくぞ」
????
134:
????
隊長「さて...」
宿を出発し港町を出た、彼らは再び野外を歩み始めた。
崖から見える大海原の迫力に目を奪われているとウルフが尋ねてきた。
ウルフ「ご主人、ご主人」
隊長「ん?」
ウルフ「ご主人のその武器って、つよいよね!」
魔女「...確かに」
帽子「あの巨大な花の攻撃を蹴散らしたよね」
隊長「そうだな...」
ウルフ「その小さい方も強いの?」
隊長(ハンドガンのことか?)
隊長「あぁ、そうだな」
隊長「これなら、ウルフでもつかえるかもな」
ウルフ「かしてっ!」
隊長(...マガジンを抜けば安全か)スッ
隊長「ほら、おとすなよ」
ウルフ「やった! みてみてスライムちゃんっ!」
魔女「えっ、大丈夫なの? 危なくない?」
隊長「これをぬいておけば、だいじょうぶだ」
スライム「へぇ?...なんかすごいね」
帽子「その抜いたやつ、見してくれないか?」
隊長「...? いいぞ」スッ
135:
帽子「ふぅん...あぁ、これが飛び出してたんだね」
魔女「こんなの見たことない...どこで手に入れたの?」
隊長「ひみつだ」
魔女「けちっ!」
ウルフ「これ、どうやってつかうの?」
隊長「こうやって、ねらいをつけるんだ」
ウルフ「こう?」
隊長「そうだ、で、そのひきがねをひけばおわりだ」
ウルフ「かんたんだねっ!」
帽子「その大きい方も、そんな感じなのかい?」
隊長「まぁそんなところだ」
ウルフ「はいっ、ありがとね!」スッ
隊長「あぁ」スチャ
帽子「...なんか、それを入れる動作かっこいいな...」
隊長「...わからんでもない」
スライム「それじゃいこうよ」
隊長「おう」
帽子「ここ、崖になっているね」
ウルフ「わぁ、したにすなはまがある!」
スライム「砂は肌につくからいやだなぁ...」
魔女「降りる? 魔法でなんとかするわよ」
隊長(特に周りにはなにもないな)
隊長(...なんだ?)ピクッ
突如として襲った違和感、それは空、
隊長の付近には影、しかし今は快晴、雲ひとつない。
ならば考えられるのは1つしかない。
隊長(──上か...ッ!?)
136:
隊長「みんな! きをつけろ!!」
――ドスゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!
なにか、巨大なものが落ちてきた。
その衝撃で大地にはクレーターが、そしてその轟音は計り知れない。
塵芥が舞い散る中、そこには大きな男が1人。
???「──てめぇらか、暗躍者を倒したのは」
魔女「──魔王軍の刺青っ!」
帽子「...どちらさまだい?」
追跡者「俺の名前は追跡者だ、暗躍者の仇をとらせてもらう」
隊長「スライム! ウルフとかくれていろ!」
追跡者「悪いが、戦力を分けさせてもらうぜ..."分身魔法"!」スゥッ
分身「...」スゥッ
スライム「きゃっ!」
帽子「危ない! スライム!!」
突如現れた男、その名は追跡者。
そしてさらに突如に現れたのはその分身。
偽物の彼がスライムめがけ地面を殴る、すると大地に異変が起こる。
魔女「──崖が崩れるっ!?」
帽子「うわッ!?」
分身「...」グラグラ
ここは海岸地帯の崖、このようなことをすればそこは崩落する。
スライム、帽子、魔女、そして追跡者の分身が巻き込まれた。
彼らの無事を確認するために、隊長はそこへ向かおうとする。
隊長「──おまえら!!」ダッ
ウルフ「──みんなぁ!」ダッ
追跡者「──いかせねぇよ!! "転移魔法"!」
その時だった、追跡者が突然として彼らの前に立ちふさがる。
唱えられた魔法、それは瞬間移動を可能にする。
137:
ウルフ「──!?」ビクッ
隊長(...今度はテレポートかッ!?)
追跡者「俺の体術は、ちと人間にはきついぜぇ?」
追跡者「たおせるかなぁ!?」ブンッ
隊長「──フッッ!!」
──ドサッ!
大男による基本的な殴りかかり。
それを回避するべく、隊長は背中向きで思い切り後ろへと飛び込んだ。
追跡者「かわしてんじゃねぇぞ!」
????
????
帽子「まずい! このままじゃ地面にぶつかる!」
スライム「ふぁあああああああ!」
魔女「..."風魔法"っ!!」
──ふわっ...
崖から転落した彼らの様子。
魔女が唱えたのは風魔法、その威力は圧倒的に暗躍者より弱い。
だがそれでも十分であった、地面から向かい風吹く、彼らを少しばかり持ち上げた。
帽子「──これで着地ができる!」トサッ
スライム「あ、あわわわわ」ヒュー
帽子「──スライム!」ダキッ
スライム「あ、ありがとう」
魔女「お姫様だっこなんて、まるで王子様ね」トサッ
帽子「...フフ、素敵な冗談だね」
分身「...」
魔女「そんな中あいつは...普通に着地してるし...」
帽子「肉体派みたいだね」
分身「...」ダッ
魔女「きたわよ!!」
????
138:
????
追跡者「──オラァ!!」ブン
隊長「────ッ!!」
──サッ...!
素早い身のこなし、あのような大ぶりの殴りかかりなど容易に避けることができる。
だがそれが狙いであった、追跡者は構えを変更する。
先程まで腕力でねじ伏せようとしていた彼だが、次に扱うのは脚力。
ウルフ「──ご主人っ! あぶないっ!」
追跡者「隙ありぃ!!」
隊長「──まずい!」
追跡者が繰り出してきたのは、脚。
そこから放たれるのは無形の足技。
チンピラのような蹴りが放たれる、だがその威力は計り知れない。
ウルフ「──わっ!」サッ
隊長「ウルフ────!?」
隊長(まずい、ウルフが俺を庇ってしま────)
刹那であった、ウルフが隊長と追跡者の合間に割り込んできた。
主人を護ろうとする健気な忠犬、このままでは彼女が身代わりになってしまう。
そのはずであった、そのウルフの構えを見るまでは。
139:
ウルフ「──がうっっっ!」シュッ
──バギィィッッッッ!!!!!
人間がこれを喰らえば、確実に骨がやられている。
ウルフが放ったそのカウンターハイキック、それが追跡者の顔面に命中し怯ませる。
軽やかな身のこなし、背丈が倍以上あるというのに持ち前の跳躍力がそれを可能にした。
追跡者「──ぐぅ...いてぇな...!」
隊長「...やるなウルフ」
ウルフ「おなかは空いてないから、いっぱいうごけるよっ!」
隊長(...どうやら、ウルフは戦力になりそうだ)
追跡者「...野良魔物のわりにはなかなかいい蹴りだったぜ」
追跡者「だが...なめんなよッッッ!!」ダッ
隊長「ウルフ、ひきながらたたかえッ!!」ダッ
ウルフ「はい! ご主人!」ダッ
追跡者「にげてんじゃねぇぞ! 鬼ごっこなんてしたくねぇんだよ!!」
????
????
分身「...」ブン
スライム「──あっ」
──バシャッ...!
追跡者の分身、それから放たれる殴りかかりに被弾した。
まともに喰らえばひとたまりもない、足の遅いスライムでは避けることができなかった。
帽子「──スライムっ!?」
魔女「バカっ! もろに喰らって────」
もろに喰らったはずなのに、スライムは悲鳴をあげなかった。
それも当然であった、彼女は水である。
水を殴ったところで、一体何が起こるというのか。
140:
分身「...!」
スライム「ふふふ...わたしに拳はくらわないよ!」ドヤァ
帽子「...そうか! そもそも水みたいなものだからね」
魔女「スライムは大丈夫そうね...」
分身「...」
魔女「...最悪、スライムを盾にしてればなんとかなりそうね」
スライム「...えっ!?」
帽子「でも、倒さないと先に進めないね...」
????
????
──ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ
崖の上、そこに響くのはハンドガンの発砲音。
しかしそれは効果的ではなかった、一体なぜか。
隊長(くそっ...かれこれ30分は経つか?)
隊長(ジリ貧だ...奴の弱点はないんだろうか...)
ウルフ「──えいっ!!!」バシッ
追跡者「くらわねぇよ、ワン公!」ブンッ
ウルフ「おっとっと!」スッ
隊長「──ッ!」スチャ
──バババババッッッ
狙いを済ませたその照準。
それは間違いなく追跡者を捉えていた。
これで勝負は決まるはず、だがすでに30分も経過している理由が明らかとなる。
追跡者「──"転移魔法"ッ!」スッ
隊長(...ダメだ、当たらん...それに大分弾を消費している...)
隊長が狙いをつけ、発砲する間に彼は逃走経路を確保できる。
よく噛まずにいられるモノであった、とてつもない早口が可能にするのは瞬間移動。
そして目の前に現れるのは当然彼であった。
追跡者「よう、死ね!!」ブンッ
141:
隊長「──ハッッ!」ドサッ
追跡者「また避けられたか、ちょこまかと...もういい、飽きた」
追跡者「最初から、てめぇらなんか簡単に殺せるんだよ...!」
隊長(何がくる...?)
追跡者「..."爆魔法"ッ!」
──バコンッ!
1つの爆発音、それがどれだけ広範囲を削るモノか。
あたりに強烈な圧力が襲いかかった、その威力はとてつもない。
まるでナパーム爆撃を食らったかのような衝撃が彼らを襲った。
ウルフ「────っっ!」
隊長「──ガハ...ッ!?」
それを喰らって立てる者などいない。
気づけば2人は倒れ込み、血反吐を吐いていた。
30分にも渡る戦闘、疲労も相まってしまったか。
追跡者「...死んだか?」
追跡者「あっけねぇな...分身のほうを手伝うか」
隊長(だめだぁ...いかせはしない...)スチャ
????
142:
????
帽子「はぁ...はぁ...まずいね」
魔女「はぁ...はぁ...くどすぎる...」
分身「...」
スライム「..."水魔法"!」
分身「...」スッ
──ぴちゃぴちゃ...
へろへろな水流は呆気無くかわされてしまった。
帽子たちは果敢にも攻撃を仕掛けるが、すべてあしらわれていた。
スライムという防御策があっても、奴を負傷させる攻撃策がないのがまずかった。
スライム「だ、だめ...もう...動けない...」
魔女「あいつ...戦闘能力はそれほどないけど...」
帽子「...体力がありすぎる」
魔女「じわりじわりと体力と魔力を奪ってるわね...」
帽子「そういうことですか...」
魔女「あいつは私たちを疲れさせて、本体がくるのを待ってるのね」
帽子「フフ...まるで弱った獲物を見つけた烏だ...きゃぷてんさんには是非止めて貰いたい」
魔女「...いまのところきてないってことは止めてくれてるみたいね」
分身「──!」ダッ
その時、ついに動いた。
弱った獲物、それを確実に仕留められると思ったのか。
魔女を目掛けて奴が走り出してきた。
帽子「──魔女さん! あぶない!」フラッ
帽子(──しまった...走れるほど私には体力が...)
帽子「魔女さんっっ!!!」
魔女「──きゃっ!」
????
143:
????
──バババババッッッ!!
背後から不意打ち。
流石にこれを予期することは不可能。
ようやくまともに当たった、その威力に仰天する。
追跡者「──グアアアアアアアアアッッ!?!?」
追跡者「いてぇなぁ!! てめぇッ!!」ダッ
隊長(...うごけないな、立つのが精一杯だ)
追跡者「────しねぇ!!」ブン
ギリギリの状態で立ち尽くす隊長。
追跡者の殴りかかりが目で追える、あたりの時間の流れが遅くなる。
それが意味するのは、己の最後。
隊長(時間の流れが遅いな...これがよくいわれていたヤツか)
隊長(死の直前はスローに感じる...本当だったな)
隊長(俺が死んだら...隊員たちが困るな)
隊長(...俺がここでこいつを倒さんと)
隊長(魔女たちは殺されてしまうのか)
隊長(魔女が殺される...どうしてだ)
隊長(そのフレーズを考えるとすごく腹が立つ...)
隊長(...)
隊長「――ッハアアアアアアアアアアアアッッッ!!」ダッ
最後の力を振り絞る、彼は突然走り出す。
そして殴りかかってきた追跡者の腕を避け、懐に入った。
いったいどこにそんな力が、思わず追跡者は困惑する。
144:
追跡者「──な」
隊長「──デヤッッッ!!」
──グサッッ!
聞こえたのは、己の肉体に傷が付く音。
その音はあまりにも深く、思わず悶絶せざる得ない痛み。
追跡者「──ぐああああああああああああ!?」
隊長「テヤッッッ!! ハァッッ!!」ガシッ
そして彼は殴り続ける、腹に刺さったナイフを。
絶対に殴られることを想定していないナイフの柄、拳に血が滲み始める。
隊長(痛みなんて、しるかッッッ!!!!!)
隊長「──フッッッ!! デヤッッッ!!」
──ドゴォッ...!
トドメの一撃、それは文字通り蹴りのつく一撃。
ブーツのそこでナイフの柄を蹴る、それがどれほどの威力か。
あまりに痛みに追跡者はついに倒れ込む。
追跡者「──いでえええええええええええ!!」ドサッ
ウルフ「──うわああああああああぁぁぁぁっっっ!」
──ぐちゃああああっっ!!!
半ば発狂しながらも、彼女も起き上がる。
そして放ったのは、全体重を込めた強烈なネリチャギ。
彼女もナイフの柄を蹴り上げ、そしてその痛みに悶絶する。
追跡者「──ああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
隊長「──OPEN FIREッッッッッ!!」スチャッ
──ババババババババババババババババババババッッッッッ!!
完全なるトドメ、マガジンに込められたすべてを放つ。
それは追跡者の身体にすべて被弾する。
氷竜や暗躍者を抹殺したその威力、追跡者も同様である。
追跡者「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ.....」
追跡者「────」
隊長「...Target down」
????
145:
????
魔女「...あれ」
手応えはない、殴りかかられたというのに。
その答えは明白であった、奴の姿を見てみれば。
分身「────」スゥ
スライム「消えてる...?」
帽子「ど、どうやら、本体を倒したみだいだね...」
魔女「た、たすかったぁ...」
帽子「この崖...どうしましょう...」
魔女「..."風魔法"」フワッ
スライム「わぁ」フヨフヨ
帽子「...フフ、魔法は使いようだね」
魔女「小細工ならたくさん勉強したわ...みっちりとね」
????
????
帽子「よっと...」
スライム「よいしょ」
魔女「──えっ!?」
ウルフ「ご主人...」
隊長「だ、だいじょうぶだ...」
146:
帽子「...すごい戦いだったみたいだね」
スライム「う、うん...」
帽子「私たちは体力を消耗させられただけか...」
無数のクレーターや爆発跡、そして血まみれの隊長とウルフさらに追跡者の死体を見た。
それを見れば自分たちの戦いなどぬるすぎる、そう実感できた。
魔女「あちこちの骨が折れてるじゃない...」
隊長「あぁ...」
魔女「..."治癒魔法"」ポワッ
隊長「はぁ...らくになった」
魔女「まったく...」
隊長(...こいつは銃弾を避ける分、時間がかかったな)
隊長(ただ、攻撃が決まれば案外脆かったな)
隊長(現代兵器はこの世界でも強い武器ではあるが...)
隊長(...こいつが倒せたからといって、これから先の障害に勝てるだろうか)
隊長(アサルトライフルが60発、ハンドガンも消費して残り60発...)
隊長(大分使ってしまったな...追手がこないことを祈ろう)
帽子「...少し休もうか?」
隊長「...いや、すすもう」
????
148:
????
帽子「ついに、荒野地帯になったね」
海岸地帯を抜けた先、そこは少しばかり見栄えの悪い場所であった。
ここは荒野地帯、生物が暮らす環境としては少しオススメできない。
それはスライムの様子をみればわかることだった。
スライム「うぅ...水気がたりない...」
魔女「...頑張りなさい」
ウルフ「ご主人...だいじょうぶ?」
隊長「すこしいたむくらいだ、だいじょうぶだ」
魔女「...あんたの戦い方って危なっかしいわね」
隊長「なれてるからな...」
魔女「心配する身にもなりなさい」
隊長「...すまんな」
帽子「...遠くに賢者の塔らしきものがみえるね」ジー
スライム「ほんとだ」
魔女「塔の周りに...建物?」
帽子「...あれは遺跡っぽいね」
隊長「...なんにせよ進むぞ」
????
????
隊長(...まるでギリシャのパルテノン神殿みたいだな)
魔女「いい感じに魔力に満ちてるわね、ここらへん」
スライム「なんか元気になってきた」
ウルフ「わふっ!!」
帽子「...私にはわからないね、魔力」
隊長「あぁ...そうだな」
149:
帽子「ここ、よく見ると崖みたいになってるね」
──ガササッ
荒野の遺跡、これが隊長の世界なら間違いなく世界遺産に登録されている。
その神秘的な景色に気を取られていると、どこからか物音が聞こえた。
風や自然現象が起こしたモノではない、これは明らかに何者かが歩いた音。
隊長「──ッ!」スチャ
帽子「うん? どうしたんだい?」
ウルフ「おとがした!」ピコピコ
隊長(...確認できんな)
隊長「はなれるな、きをつけてすすむぞ」
スライム「う、うん」
帽子「...わかったよ」
魔女「後ろは私が見ておくよ」
ウルフ「くんくん...あまいにおいがする...もも? みたいな...」
隊長「もも?」
ウルフ「うん...ももっぽいにおい...」
隊長(...香水かなにかか? だとしたら女か────)ピクッ
ウルフが核心を突きそうな発言をした。
その時に仕掛けられてしまった、そして遅れてしまった。
先程の戦闘での疲労が抜けきっていない、隊長の反応度はいつもの半分以下に。
???「──"封魔魔法"」
隊長「──魔女!」
魔女「きゃっ──」
だが気がついた隊長ですら遅かった。
魔女が魔法にあたり一瞬黒い光に包まれる。
彼女を庇おうとしたが、それは失敗に終わる。
150:
???「..."衝魔法"」
──ズシッ...!
これは地属性による衝撃の魔法。
その威力に大地は悲鳴をあげる、すると起こるのは。
またも彼らは、崩落を味わってしまう。
帽子「──また地面が崩れるぞ!」
隊長「────うおおおおおおおおおおおおおッ!?」
魔女「──きゃああああああああッ!?」
崩落の面子、今度は彼ら2人が選ばれてしまった。
魔法の影響で地面が崩れ、隊長と魔女が落ちていってしまった。
そんな彼らを追おうと3人が動こうとすると、奴が姿を現す。
???「...行かせません」
スライム「魔女ちゃん! きゃぷてんさん!」
ウルフ「がうがう! においはこいつからだぁ!」クンクン
帽子「くそっ...もう戦闘かっ!」
???「魔物が2匹、そして1匹は人間と落ちて死にましたね」
帽子「...何者だ?」
???「魔物...魔王軍ですね?」ギロッ
スライム「...!」ビクッ
ウルフ「うぅ??...」
帽子「違う! 私たちは──」
???「...消えてもらいますね」
弁明の余地もない、彼女の視線から感じるのは殺意。
どこか切羽詰ったような様子も伺えるがそれどころではない。
先程の魔法の威力、見た目は人間でかつ女性だが、油断はしてはならない。
帽子「──来るぞッ!」
ウルフ「わふっ!」
スライム「むむむ...」
????
151:
????
隊長「──うおおおおおおおお!?」
魔女「────"風魔法"っ!!」
──ヒュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ...ッ!
聞こえるのは風の音だが、そうではない。
魔女の魔法はなぜか不発に終わる、我が身に感じるのは地面が迫る焦燥感。
落下する際に発生する風がソレを煽る。
魔女「あれっ!? なんで!?」
隊長「どうしたッ!?」
魔女「ま、魔法が使えないのっ!」
隊長(くっ...このままじゃ地面と...)
隊長「──魔女」ガバッ
魔女「──な、きゃっ!?」
身に受ける風を利用して宙を移動する、スカイダイビングでよく見る光景。
そしてそのまま魔女に接近し、彼女を抱き寄せた。
それはまるで包み込むような、魔女の頭を優しく手で包み込む。
隊長「...ッ!」
ぐるり、隊長は身体をひねらせ仰向けの状態に。
背中を地面に向けさせた、彼はこのまま着陸姿勢に入り込んだ。
魔女「──ちょっとっ!?」
────ドガァッ!!!!!
その音は、奇跡的にもあまり大きくなかった。
だとしても、身体に掛かる負担は決して侮れない。
隊長自身がクッションになることで、魔女への負荷を大幅に減らした。
隊長「──ゲハッ...!?」
魔女「ぐっ...うっ...」
魔女「あ、あんたまた..."治癒魔法"」
しかし、魔法は発動しなかった。
あの優しい明かりが、血反吐を吐いている彼を癒やすはずだったのに。
死ぬかどうかギリギリの高さから落ちた、こうして会話ができるだけ幸いである。
152:
隊長「だ、だいじょうぶだ...ゲホッ...」スッ
立て銃、アサルトライフルを杖代わりにすることで立ち上がる。
背中には嫌な違和感、痛みをそこまで感じることはなかった、それが逆に恐ろしい。
隊長(...10mくらいの高さから落ちたようだ)
魔女「口から血が...私は魔法を使えないし役立たずじゃん...」
隊長「...うえにはあがれないな、みちなりにすすむぞ」
魔女「う、うん...肩持ってあげるね」ソッ
隊長「...たすかる」
????
????
帽子「──よっとッ!」
──キィーンッッ!
帽子の剣は、彼女に命中したというのに。
なぜこのような音がなるのか、それは事前に彼女が魔法を唱えていたからであった。
???「...無駄です、この防御魔法には通用しませんよ」
帽子「...まいったなぁ」
スライム「"水魔法"!!」
──バシャンッ!
巨大な水鉄砲、消防隊が消火活動に使う水の勢いと同じ。
人間が受ければひとたまりもない、だが彼女は平気な顔をして立ち尽くす。
ウルフ「うぅ...どうすれば...」
???「...魔物め」
帽子「...いい加減、名前ぐらいおしえてほしいな」
それは戯言のつもりであった。
少しでも彼女の素性を知ることがこの戦いに必要なのか。
現状としては全く必要ない、しかし以外にも彼女は答えてしまう。
女賢者「...女賢者です、言いたいことはわかりますよね?」
帽子「...?」
賢者という名前から察するに、間違いなく賢者の塔に関係する人物である。
しかし名乗りの意味は全く理解できない、一体何のために。
????
153:
????
魔女「はぁっ...はぁっ...」
負傷した隊長に肩をかして、歩行を続けている。
しかしそれはあまりにも無謀であった、彼女は魔物であるが乙女でもある。
隊長という男、人をふっとばすパンチを行えるということはかなりの筋力量を保持している。
そのような者を長時間支えることなど難しい。
隊長「ぐっ...」
隊長(早く帽子たちと合流しないとまずいな...)
魔女「はぁっ...はぁっ...」
隊長「...すこしやすむぞ」
魔女「はぁっ...だ、だめ...」
隊長「つかれてるだろ?」
魔女「すこしでも...はぁっ...はぁっ...役に立たないと...」
隊長「...いいか、いけ」
魔女「...」
隊長「やくにたつとかはもんだいではない」
隊長「どういきのこるかがだいじだ」
隊長「ここでたいりょくをしょうひしてはしぬぞ」
隊長「それに...」
魔女「うん...?」
隊長「魔女のおかげで、らくになったさ」
空元気であった、精一杯のごまかしの微笑み。
それを素直に受け取るしかない、ここまで言われてしまったのであれば。
万が一に備え、隊長は魔女の体力を温存する方向へと持っていった。
魔女「...分かったわよ」
隊長「...おう」
154:
魔女「──っ!」ハッ
しかしこの女、気づくのが遅すぎた。
罪悪感によって少しの間、隊長に肩を貸していたがようやく気づいた。
お互いの身体が密接していることを、それは彼の匂いを嗅げてしまう程に近い。
隊長「...どうした?」
魔女「...なんでもない」
隊長「...」
妙な沈黙、流石に疲れたのだろうか。
そう納得した隊長は深く追求しなかった、すると訪れる沈黙。
その沈黙が鍵だった、周囲になにもないはずなのに、答えは下。
隊長「...したからこえがしないか?」
魔女「え?」
隊長「...」ガバッ
隊長と魔女が地面に耳をあてる。
ものすごく滑稽な光景ではあるが、こうすることでしか確認できない。
すると聞こえてくるのは、老いた男と女々しい口調の男の声。
??1「ゲホッ...老体を傷つけるなんて、ひどいじゃないか」
??2「ふふふ、いいからつかまれよ..."拘束魔法"」
??1「──"解除魔法"」
聞こえてしまったその会話。何者かが何者かに襲われている。
襲われているのは初老の男性の声、それを聞いて彼の正義感が煽られないわけがなかった。
魔女「ほ、本当だ!」
隊長「──魔女、さがってろ」ピン
身体の不調、それにムチ打ってした行動彼が投げたのはピンの抜けたグレネード。
現代で作られた爆弾が地面に大穴を開ける、あとは簡単だ。
その大穴に向かって飛び込めばいい。
155:
隊長「...!」スタッ
魔女「──きゃっ」ドテッ
??1「なんじゃ!?」
??2「──な、なにがおこったッ!?」
隊長「...ぜんいんそのばからうごくな」スチャ
捕縛者「...ふふふ、人間か...この魔王軍の捕縛者に勝てるとでも?」
彼の腕には魔王軍の入れ墨、その名は捕縛者。
暗躍者が剣を、追跡者が拳を、そしてこの男は何を使うのか。
彼の持っているモノは原始的かつ、それでいて確実性のある武器。
??1「い、いかん逃げるんじゃ!」
捕縛者「ふふふ..."水魔法"ッ!」
──ゴシャァァァッッッ!!
激流、まるで滝が落ちてきたかのような威力。
スライムのモノとは比較にならない、とてつもない水魔法。
魔女「──すごい威力よっ!?」
隊長「...ッ!」ダッ
捕縛者「ふふふ、さぁ...大賢者ッ! つかま────」
──ババババババババババッッッ!!
油断をしすぎていた、彼をただの人間だと認識したのがまずかった。
水の流れほど読みやすいものはない、挙動が読めるなら簡単に安置を見つけることができる。
身体に軋む痛みを我慢しながらも、隊長は安全地帯に急行し発砲した。
捕縛者「──ぐああああああッッ!?!? ぐッ..."防御魔法"ッ!」
──ガキンッ! ガキンッ!
その音が意味するのは、銃弾がなにか硬いモノに当たり弾かれた。
捕縛者の身体を見てみると、透明ななにかが存在していた。
最もそれも、すぐさまに銃で破壊されてしまったが。
156:
隊長(...半分ははじかれたな)
??1「...な、なんという威力じゃ...防御魔法を簡単に崩すとは」
魔女「お爺さん、大丈夫っ!?」
??1「──お主呪われておるな..."解除魔法"」
老人が唱えた魔法は、単純でいて強力な魔法。
それを扱える人間はそうそう居ない、なのになぜ。
身体の違和感が消えた魔女は思わず訪ねた。
魔女「──お爺さん何者っ!?」
大賢者「...ワシは大賢者じゃ」
魔女「...えぇっ!?」
捕縛者「...おしゃべりなら僕もまぜてくれないか?」
隊長「おまえのあいてはおれだ」
捕縛者「ふぅん、人間の癖に...武器と口だけは一丁前だね」
捕縛者「...喰らいなよ」スッ
──ヒュンッ!
何かが風を切り裂く音、これは風魔法ではない。
彼の持つ武器、それは矢という代物を射出するモノ。
かつて銃が普及するまで第一線を担ってきた、遠距離武器。
157:
大賢者「──いかん! 奴の弓は魔力でできていて危険じゃ!」
──バッ!!
その警告は虚しく砕け散った、単発の射撃、それが撃ち落としたのは彼の矢。
捕縛者の弓はまっすぐ前に向けられている、ならばこちらも真っ向から放てば狙いをつけることなど容易。
銃撃戦に目が慣れている彼には、矢の度など見えてしまっている。
隊長(アーチェリーか...原始的だな)
捕縛者「...打ち落としたか、やるねぇ」
大賢者「な、なんじゃあの人間...魔力で強化されてるわけではないみたいじゃな...」
魔女「今のうちに..."治癒魔法"」
──ぽわぁっ...!
彼女の明かりが、隊長を包み込む。
大賢者により呪いは解かれた、いつもどおりの治癒魔法が彼を癒やす。
折れた骨はまだ完治していない、だがこれなら十分動ける。
隊長「たすかったぞ、魔女!」
捕縛者「参ったなぁ、治癒魔法持ちか...これは長引きそうだねぇ」
????
????
帽子「...」
女賢者「...」
お互いが睨み合う、恐らく次で決着がついてしまう。
帽子が彼女の防御を崩すか、彼女が彼らに強力な魔法を放つか。
だが、その緊迫した空気感をさらに強張らせる出来事が起こる。
ウルフ「うぅ...このにおい...」
ウルフの鼻、それは犬並みであるのは当然。
彼女が捉えてしまったのは、あの嫌な匂い。
血の匂いに混じるのは、何かが焦げたような匂い。
158:
???「みつけたぜ...」
その男はくどかった、驚異の生命力であった。
魔王軍の一員なだけはある、この匂いは爆破の際に付着した焦げの匂い。
血まみれの男が彼たちに追いついてしまった。
帽子「──お前はッ!?」
スライム「つ、追跡者っ!?」
ウルフ「がるるる...」
追跡者「...俺としたことが、痛みで気絶しちまったぜ」
追跡者「あの人間はいねぇな...まぁいい、お前らを殺してあいつも殺す」
女賢者「くっ...また魔物が...」
帽子「...なぁ君」
女賢者「...共闘ですか?」
帽子「状況判断が早くて助かるよ」
女賢者「...いいでしょう、それに何となく察してました...謝罪は後ほどに」
彼女が先程まで帽子を睨んでいた理由。
本当なら即座に魔法でトドメをさせれていたというのに。
思いとどまってよかった、どうやら彼女が目の敵にしているのは魔物ではなく魔王軍だった。
追跡者「ごちゃごちゃうるせぞ! オラァッ!!」ダッ
帽子「くるぞっ!」
女賢者「..."衝魔法"」
──ズシィッ...!
その音を聞けばわかる、当たってはいけないということに。
女賢者が放つ魔法はかなり洗練されている。
それを察知した追跡者は十八番の魔法を唱え、彼女の背後へ移る。
159:
追跡者「"転移魔法"」ヒュン
女賢者「...転移魔法持ちですか、それにずいぶんと早口ですね」
追跡者「──なんたって、魔王軍だからなぁッ!」
追跡者「"爆魔法"だッ!! 吹き飛びなッ!!」
女賢者「..."地魔法"」
隙のない詠唱により現れた魔法陣から、土石流が襲いかかる。
それは爆発が起こる前に無理やり、そして物量で飲み込こんだ。
追跡者「──"転移魔法"」シュン
──ドッッッッゴォォォォォンッッ!!
そして土石流がそのまま追跡者の方向へと進む。
彼が転移魔法を唱えていなければそのまま飲み込まれていただろう。
彼女の地魔法はそのまま進み遺跡の一部を削り取った。
帽子「──うわッ!?」
帽子(あれだけで、遺跡の一部が簡単に砕けた...)
追跡者「へっ、威力は認めるが...当たるわけにはいかねぇぜ」
女賢者(どうにかして当てさえすれば...)
スライム「..."水魔法"」バシャー
追跡者「あたんねぇよ!」サッ
帽子「そこだっ!」
──グサッ...!
水魔法は囮、絶妙なコンビネーションで帽子が追跡者に接近する。
まさか人間と野良魔物の戦術がここまで熟されているとは思わなかった。
肉薄を許した追跡者の腹部に、帽子の剣が刺さりこんだ。
追跡者「ぐッ...てめぇ!」
帽子「ウルフさん!」
ウルフ「────がうっ!」
──バキィィッッッ!
当然ウルフも接近していた、そして海岸地帯でのトドメを再現する。
腹部に刺さった剣の柄を思い切り蹴り込んだ。
その影響でその傷は更に深まる。
160:
追跡者「ぐっ...二度目もこれで倒れるわけにはいかねぇんだよ!」ガシッ
ウルフ「──わっ!?」
女賢者「"衝魔法"」
──ズシィッッ...!
追跡者という大男、その腕は愚か手のひらも常人のソレではない。
ウルフという小さめの子を掴むなど簡単、そのまま潰すことだって可能。
しかしそれは防がれた、犬に気を取られすぎたこの男はまともに魔法を受けてしまう。
追跡者「──グハゥッ...」グラッ
ウルフ「──うおおおおおおっ!!」パッ
追跡者「チッ...逃げられた..."爆──」
スライム「──"水魔法"」バシャー
彼女は察知する、次にくる魔法がどのようなモノか。
あの時、隊長やウルフの身に何が起きたのかを聞いてたお陰か。
スライムは自らに水魔法を当て、自身の体積を大幅に増やし彼らの前に出た。
追跡者「──魔法"ッッ!」
──ドッッッガァァァァァァンッッ!!!!!
追跡者が魔法を唱え終わる前に、水が仲間を護り抜いた。
魔法の相性、それは後出しのほうが有利のはずなのに、なぜ護れたのか。
女賢者「...スライムの固有能力は侮れませんね」
帽子「どういうことです?」
女賢者「あとで説明します、それより助かりました」
帽子「おしゃべりは戦闘の後だ...って彼なら言うでしょうね」
スライム「そ、そうだね...」オロロ
ウルフ「わふっ!」
帽子「あいつも傷を負ってる、こっちが優勢だ!」
追跡者「くそっ...」
追跡者「..."炎魔法"ッッッ!!!!!」ゴゥ
スライム「へ、へへーん! 炎なんか怖くないよっ!」
帽子「──違う、まずいぞッッ!」
161:
追跡者「俺ぐらいになるとォ! 魔法はこうやって、自在に操作できんだよォッ!!!!」
繰り出された炎はスライムだけ綺麗に避けて、帽子たちに襲い掛かる。
女賢者は急いで対処をする、まるで気を取られたかのように。
女賢者「..."防御魔法"」
帽子(──そうかッ! これも陽動...ッ!)
気づけば、追跡者はすぐそこにまで迫っていた。
判断が遅れた、もう少し早く気づいていれば。
炎魔法は揺動、そして女賢者に魔法を唱えさえ判断を遅れさせるのが目的。
追跡者「..."転移魔法"ッッ!」シュン
帽子「──し、しまった!」
案の定だった、魔法が頼りにならないのなら。
絶対に持ち前の体術で仕掛けてくる、なぜ気づけなかったのか。
そして反則じみたその転移魔法が追跡者の接近を許してしまった。
追跡者「──オラァッ!!」ブンッ
帽子「――ッッ!?!?」
──メキメキィッ...!
ただの殴りかかりで、骨が悲鳴を上げる。
モロに受けてしまった帽子はその衝撃で吹き飛ばされる。
スライム「帽子さん!?」
追跡者「...まずは1人」
ウルフ「──がうっっ!!!」
──バキィッ!
追跡者の顔面に跳び蹴りが入る。
しかしそれだけであった、この男相手にまともな体術は得策ではなかった。
追跡者「...いてぇじゃねぇか!」ガシッ
ウルフ「わふっ!?」フワッ
追跡者「くらいなぁ!!」ブンッ
──ガッッッッシャアァァァァァンッッ!!
大きな手で足を掴まれたと思えば、そのまま地面に叩きつけられた。
そのような痛みに耐えられるはずもなく、ウルフはそのまま気を失う。
ウルフ「────っ...」ガクッ
162:
スライム「うぅ...どうしよう」
女賢者「...あなた、合図をしたら──」ゴニョゴニョ
スライム「──え...うん..."水魔法"!」バシャー
追跡者「きかねぇぞッ!」ダッ
スライム「ひゃっ、こっちきた!」
女賢者「..."地魔法"」
追跡者「だからよ...あたんねぇよぉッ!!!!!」
追跡者「──"転移魔法"ッ!」シュン
女賢者「────今ですっっ!!」
スライム「──"水魔法"っ!」
合図をしたら、女賢者の出した指示はこれだった。
スライムは追跡者を狙わず、はたまた自らも狙わず。
空に向かって水を放つ、それは雨のように広範囲に水をばらまいた。
追跡者(...何が狙いだ?)
追跡者「なにがしてぇか、わからねェが...こんなんじゃ...!」
──ぴちゃっ...!
雨のせいか、身体に水が付着する。
しかしの水は、雨粒の大きさとは違う。
その違和感はすぐに解消する。
スライム「──つかまえたっっっ!!!!」
163:
追跡者「なッッ...!?」
気づけばスライムが追跡者を拘束していた。
始めこそは上半身のみだったが、雨が次第に集まり元の身体を形成し始めていた。
追跡者(これはスライム族の固有能力の水化...水魔法は陽動ッッ!?)
女賢者「雨という水に身体を同化させ、彼女自身が雨となり...あなたに近寄ったってわけです...」
追跡者「ぐッ...はなせェッッッ!!!」
スライム「──死んでもはなさいっっっ!!」
追跡者(くそッッ! 足が粘ついて動かねェッ!!!)
女賢者「...どうやら、足が不安定で力が入らないみたいですね」
追跡者「くっ..."転移──」
スライム「──させないっっ!!!」
追跡者「ごぼぼぼぼっぼッッ...!」
女賢者「...詠唱できなければ、魔法は使えませんよ」
追跡者(まじィッッッ!!! このままじゃッッ!!!!)
女賢者「..................」ブツブツ
追跡者(わざとらしくッッ!! 詠唱の質を上げてやがるッッッ!!!!)
女賢者「..."地魔法"」
長ったらしく唱えられたその魔法。
そこから生まれるのは、まるで大地そのもの。
とてつもない規模の地魔法が追跡者を飲み込む。
追跡者「──があああああああああああああッ!?!?」
????
164:
????
捕縛者「喰らいなッッ!」
──ヒュンッ!
それはわずか一瞬であった、少しばかり視線を逃したが為に放たれた。
先程とはまるで違う、隊長という男を警戒したからこその一撃。
隊長「──ぐはぁッ!?」
隊長(は、はやすぎる...)ガシッ ポイッ
自分に刺さった矢を抜きながら、先ほどの矢の度の違いに驚く。
これまでは人間という種族だからこそ、魔物相手に油断を誘えていた。
しかしこの捕縛者という男、なかなかにキレ者であった。
捕縛者「悪いけどさっきみたいにふざけないで、本気でいかせてもらうね」ヒュン
捕縛者「..."分身魔法"」スゥッ
再び彼が弓を射ると、そのまま射出した矢に魔法をかけた。
それは何重にも重なる、矢が分身を行えばどのようなことになるのか。
初めは1本だったモノが、瞬く間に数10本に。
隊長(これじゃまるで弓の雨だな)
隊長「...」スチャ
──ババババッッッ!!
銃で一箇所だけを集中して狙う。
狙われた箇所は、やや下方向の軌道を持つ矢数本。
隊長「──ハッッ!!」スッ
あとは屈めば簡単に避けることができる。
瞬時の状況判断が可能にしたのは、最低限の動きでの回避術。
だがそれは読まれていた、捕縛者は魔法を続ける。
165:
捕縛者「..."転移魔法"」シュンッ
隊長「──ッ!?」
捕縛者「──ほらっ! もらったね!」
──ゲシッ...!
捕縛者が接近してきたと思えば、なにかを蹴飛ばした。
それは彼の主力武器、今まで見たことのない何かを飛ばしてくる武器を解除する。
アサルトライフルを失った隊長、そんな彼に矢の刃を向ける。
隊長「──そこだ!」スッ
捕縛者「────なッ!?」
──ザシュッ...!
矢を刃物代わりに使ってきた捕縛者、ならばこちらも刃物で対抗する。
素早い判断で彼はナイフを取り出し、矢を握っている彼の腕に斬りかかる。
捕縛者「ぐっ...人間の分際で!」
隊長「──おまけだ!」スチャッ
──ダンッ!
未曾有の武器はもう1つあった。
サイドアーム、彼はハンドガンをすばやく取り出し、そのまま射撃する。
捕縛者「──ぐはぁッ!?」スッ
隊長(いッ...!)
だが彼は抵抗した、軽やかな身のこなしですぐさまに離脱を試みる。
結果的には足を撃たれてしまったが、もともとの照準は眉間を狙われていた。
離脱は比較的成功、隊長はトドメのチャンスを逃されてしまった。
隊長(くそっ! 女々しい口調だがあいつ、やるな...)
捕縛者「ふふふ、君も軍人みたいな者のようだね」
隊長「...」
お互いに武器を構え、睨みあう。
軍人ではないものには何が起きているのか目が追いつかない。
ハンドガンと弓、どちらが先に動きを見せるのか。
魔女「す、すごい...」
大賢者「ふむ...ワシの老いた目にはちとすぎる戦いじゃ」 
166:
捕縛者「...武器、拾いに行かないのかい?」
隊長(誘導のつもりか...ここは動かしやすいハンドガンの方が有利だ)
隊長「...」
捕縛者「...へぇ、いかないのか」
捕縛者(...あの人間、武器だけじゃなくて判断力も凄いね)
捕縛者(歴然の軍人なのかな? しかし人間界にいる実力者一覧表には載ってなかったな)
捕縛者(...大賢者拉致の仕事が大変なことになっちゃったな)
隊長「...」
隊長(...魔法があるからといって)
隊長(詠唱を唱えるとき、一瞬隙があるみたいだな)
隊長(...ほんの、一瞬だがな)
隊長(それを恐れて、派手に動けないみたいだな)
隊長(...俺も動けないんだけどな)
お互いにお互いを解析する、大賢者と魔女はただ眺めることしかできない。
流れ弾を食らわないような場所から戦いを見ていることでしか隊長を援護できない。
下手に魔法で援護をすれば、逆に隊長の戦略が崩れるかもしれないからだ。
大賢者「次に動いたら決着が決まるようじゃな」
魔女「...そうなの?」
大賢者「...あの人間は負けるぞ」
魔女「そ、そんな...」
大賢者「...落胆するな、ここままの話じゃ」チラッ
魔女「えっ...?」
????
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