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【ミリマス】茜ちゃんと踊る馬鹿人間【SS】
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そうして迎えた十二月三日。
この日は担当アイドルのうちの一人、野々原茜の記念すべきバースデイでもあった。
「プロちゃんはトーゼン覚えててくれたでしょ?」なんて彼女は笑顔で訊いて来たが、
忘れようにもこの事実は、劇場の面々が仕事の予定を確認するホワイトボードに大きく書き込まれているし、
なんなら事務所の方にも書いてあるし、
劇場のカレンダーという全てのカレンダーに赤丸で印もされている。
さらにダメ押しでもう一か所、私の持つ手帳にも彼女本人の手によりしっかり記されているのである。
おまけに似顔絵サイン付き、これで忘れりゃ私は只の阿保だ。
3: 以下、
…で、あるからして。
「当然覚えているに決まっている」と私は彼女に返してやった。
さらに言えば! デキるPである私はプレゼントだって準備している。
先日のロケ中に偶然発見し、勢いで買ったシロモノだが恐らく彼女は喜んでくれるに違いない。
サイズもピッタリフィットするハズのとっておきの贈り物だ。
――しかしこの後、こうした私の企みを置いてけぼりにするような問題が発生したのである。
4: 以下、
===
「あっ、プロデューサーさん」と、控え室に現れた私に幾つかの視線が集う。
普段使われている長机には茜の他に二人の人間、天海春香と北上麗花の姿があり、
彼女らは視線を伏せる茜を挟み、何やら只ならーぬ重たい雰囲気を部屋に作り出しているのだった。
誕生日を報告して来た時の陽気は一体全体ドコ行った?
正直面食らいもしたが、私は事務室から取って来た紙袋を空いている椅子の上に乗せて「何があった?」と訊き返した。
5: 以下、
「茜ちゃんのパーティ中止なんだそうです」
そう麗花がしょんぼり口を開けば。
「実は、プロデューサーさんがいない間にちょっと困ったことになって」と、説明を引き継いだのは春香である。
彼女は控え室に置かれているホワイトボード――こちらは事務室に置かれている物とは違い、
仕事の予定よりアイドル同士の連絡に使われている物だ――を見やった。
するとそこには、茜が書いたのであろう『茜ちゃんによる茜ちゃんの為のハピバシークレットライブ』の告知。
一体いつの間に準備を進めていたんだと呆れた気持ちになったものの、
よく見れば席順を決める為の参加表明に妙な名が混じっているじゃないか。
6: 以下、
「なぁ春香、この黒ペンで書き込んでるのはひょっとして……」
「……社長です。たまたま私たちと一緒にこっちへ来てて」
「"楽しみにしてる"って書いた千早と律子もその時か」
春香がコクリと頷くと、私は思わず呻き頭を掻いた。
この際、同じアイドル仲間である千早と律子は良しとしよう。
特に律子なんてのは、茜がデビューした時から彼女の教育係として付きっきりだった先輩だ。
後輩の成長を見てやろうじゃないかというその気持ちを私は十分理解出来る。
他に春香と麗花の名前もあるが、二人は「一緒に歌おう」と書き込んでいる辺り茜のサポートに回るつもりらしい。
……だが社長、あのオッサンだけはプレッシャーしか与えていない。
「キミの成長を最前列で見せてもらうよ!」なんて言葉をいの一番で書かれ、
緊張しない新人アイドルがこの世の中のドコにいるかっ!?
7: 以下、
結果、ホワイトボードの隅に書かれることとなった茜の返信――慌てた筆跡の「いったん中止」が痛々しく視線をひくのである。
そうして、それを書かざるを得なかった本人の落ち込む姿というのも、また。
「すまないけど春香、麗花、少しの間だけ茜と二人きりで話をさせて欲しい」
言えば、「分かりました」と春香が頷いた。
「お願いしますね」と麗花が続く。
さらにレッスン室に行ってますねと控え室から二人が去っていくが、
その間、一人残される身の茜は微動だにしなかった。
いいや、彼女はずっと前から奇妙なほどに静かだった。
それは春香たちを心配させる程に。
普段の茜ならこんな時こそ軽口を叩き、必要以上の笑顔を周囲に振りまいていたハズだ。
……なのに、そうする余裕も無いというのは。
8: 以下、
「随分とやられてるじゃないか。……それとも、黙ってたのは演出を考えていたからか?」
茜が僅かに顔を上げる。
それと同時にさり気ない動作で目尻を拭い、彼女はそ知らぬふりでこう応えた。
「そ、そうなの! 可愛い茜ちゃんのバースディステージを、思ってた以上に皆が楽しみにしてくれてるみたいだから……」
「やっぱり俺が思った通り、真面目に演出を練り直していたんだな?
期待に応える、いや、その期待の遥か上を飛び越えていくのが野々原茜流だもんな」
言って、私はわざとらしい程の過剰なスマイルを顔に浮かべて見せた。
その笑顔につられるようにして、茜も頬を持ち上げるが……まだまだ全然ぎこちない。
9: 以下、
「それで、何をするつもりだ。良かったら相談聞いてやるぞ」
「……プロちゃんが?」
「当然だろう。アイドルの願いを叶えるプロだからプロデューサーなんだぜ?
折角の誕生日ライブなんだ。頼まれれば大砲を使って祝砲だって上げてみせる!」
そうして、今度は両腕を広げるようにして大袈裟な爆発を示すジェスチャー。
見ている彼女の表情が呆れたようにほぐれていく。
そうだ茜、この滑稽な姿に思わず笑顔になってしまえ!
「だから何だって頼んでくれていいぞ。今日だけは最後の最後まで、茜のワガママにとことん付き合ってやる」
10: 以下、
すると茜は小さく鼻をすすり。
「だ、だったら……茜ちゃん、最初はパレードから始めたいでーす!
劇場の前の道路をこう、サンバサンバのカーニバルで練り歩きながら駐車場に入ってくるの」
私に負けじと立ち上がると、彼女はその手を大衆に見立てて机の上を行進させる。
声にはいつもの張りが戻り、語る口ぶりもお調子者の見せるソレだ。
「で、エントランスに着いたらバーンバーンって祝砲ね。グッズ売り場にはもちろん茜ちゃん人形をどっちゃり置いて、
ステージの上もサーカスみたいに飾り付けて。――そうだ、プロちゃん象も用意できる?」
「必要とあらば恐竜だって持ってくるさ!」
「さっすがプロちゃんなんでもできるー♪ それでねそれでね、
ライブでは茜ちゃんの歌以外にも本格的なマジックやスケートショーなんかも披露するの!」
「なるほど、そうすればお客さん大喜び」
「拍手喝采で茜ちゃんだって大喜び! 楽しいステージになりそうだよね――」
説明する彼女は嬉しそうに笑う。
私たちはしばらくの間、人が聞けば、馬鹿話以外の何物でもない荒唐無稽な夢物語を語り合った。
11: 以下、
===
とはいえ、夢というヤツは決まって最後に覚めて終わる。
アイディアをあらかた出し尽くすと、茜は落ち着くように息を吸い込んでから。
「でもこれだけ盛大なパーティだと、流石の茜ちゃんもすこーしばかり緊張かな?」
なんて、柄にもないことをポツリと呟く。
「緊張? ……まさか、お前からそんな言葉が飛び出してくるなんてな」
そうして私は、もっと神経の太い人間だと思っていたと。
「図太いって……」返答に詰まってしまう茜。
そんな彼女の反応が予想通りで、私はからかうようにこう続けた。
「違ったのか? いつでもどこでも騒がしいじゃないか」
「プロちゃん! 勘違いしちゃってるみたいだけど、茜ちゃんのは騒がしいじゃなくて賑やかなの!」
言って、彼女は「にーぎーやーかー!」と念を押すようにもう一回。
12: 以下、
「そこんとこ、プロデューサーだって言うならキチンと把握していなくっちゃ。
いつかプロちゃんには言ったと思うけど、茜ちゃんが現場を盛り上げると、その愛くるしさがお茶の間の人に笑顔を生んで――」
「ゆくゆくは、世界を明るく照らす太陽に取って代わるアイドル……だっけな」
「そ……そんなこと茜ちゃん言ってたっけ?」
「いんや、これは俺の夢だ」
「にゃんとぉーっ!!?」
あっけらかんと言い放たれた茜が見事にズッコケる。
そのリアクションのキレはいつも通りで、
そろそろかなと考えた私は「そうだ!」とおもむろに手を打った。
「だけどさ、皆を盛り上げるってのは今すぐにも実現できそうじゃないか。予算と時間の都合で規模は縮小しなくちゃならんけども」
「……それってプロちゃん、もしかして」
「ああ! ライブの準備はいつ始めればいい? 中止のままじゃ勿体ないぞ」
途端、茜の顔に緊張走る。だが、私はさらに加えてもう一言。
「おまけに俺、さっき出たアイディアで使えそうなシロモノを丁度持って来ているんだよなぁ」
13: 以下、
そうして私は、今の今まで置きっぱなしになっていた紙袋を彼女の前へと差し出した。
受け取った茜が中身を机の上に出す。
それはクリスマスカラーの包装紙で包まれたプレゼントであり、
彼女は包みと私の顔の間で視線を何度かさ迷わせ。
「えっ、今日ってクリスマスだっけ?」
「お店のおねーさんの勘違いだ。ハッピーバースディ、ディア茜?」
「やめて! プロちゃんの音痴は胃に来るから!!」
一瞬酷いことを言われた気もするが、茜は私が見守る中で包みをバリバリと開けていく。
豪快で気持ちの良い開封の儀だ。
それが終われば、現れたのは新品のインラインスケート靴であり、彼女は驚きにその目を丸くすると。
14: 以下、
「……茜ちゃん足四本も無いよ?」
「一足はどうみても俺の分だろ? 茜の足には大きすぎる」
「なーんで一緒に入ってたの?」
「それもお店のおねーさんの勘違いだ。レジがやたらめったらと混んでたのよ」
忙しそうで言い出せなくて、と説明するとプロちゃんらしいやと笑われた。
しかし、すぐにも彼女は「ありがとう」と。
……うぬ惚れても良いと言われるなら、
この感謝にはプレゼントに対する以上の気持ちが込められていたと考えたい。
15: 以下、
===
――さて、それからおよそ三時間後。
私は茜と劇場内のメインホール、そのステージ裏で待機していた。
チラリと客席の様子を覗いてみれば、そこには事務所所属のアイドル達、
それからこの日の仕事を終えた劇場スタッフが思い思いにくつろいでおり、
スピーカーからは進行役を引き受けてくれた少女のゆったりとした声が響いている。
16: 以下、
「それでは歌声とお笑いのコラボレーション、ぷっぷかリボンのお二人で?す」
ステージ中央、マイクを握った美也の紹介で春香たち二人が舞台に飛び出る。
それを出迎える拍手の小気味よさに聞き入りながら、
私はつい数時間前までの余裕を完全に失った自らの体たらくさを笑っていた。
「ちょっとプロちゃん、顔が死んでるから」
そうして声に誘われるまま視線を移してみれば、こちらを覗き込んでいる茜と目が合った。
彼女は私とは対照的にやる気で満ち満ちてる様子、
その意気込みで紅潮した頬っぺたのなんと赤いことか。
17: 以下、
「そ、そうか? こういうことには慣れてなくて。……しかし凄いな。茜たちはいつもこんな緊張の中で出て行くのか」
「いやー……この状況で改めて関心されたってね?
プロちゃんってばプロデューサーなのに、大勢の前で発表したりするの慣れてないの?」
「企画と演技じゃモノが違うさ。相手する人数も期待もとてもとても――」
おまけに最前列に社長いるし。
「う、ぐぅ……腹ぁ痛くなってきたぞ」と腹部を押さええて前屈み。
ああ、できれば今すぐ一杯引っかけたい。とても素面でやりきる自信が無いっ!!
18: 以下、
>>17訂正
〇「いやー……この状況で改めて感心されたってね?
×「いやー……この状況で改めて関心されたってね?
19: 以下、
すると、そんな私の醜態に呆れたのか茜が大きなため息をついた。
彼女は手近な椅子に座った私の前にしゃがみ込むと、その手をこちらの膝に乗せ。
「ねぇプロちゃん、そんなにシンドイならやっぱり――」
「大丈夫だ、でも少しだけ茜の頭借りるぞ!」
最後まで言葉を言わせないように私は茜の頭を撫でた。彼女も黙って受け入れる。
その髪質はサラサラと指を滑り、人の心を不思議と和ませてくれるのだ。
「心配するんじゃない茜。今日はちょっと、昼に美奈子の料理を食べ過ぎてな」
「……レディの頭を撫でながら言うことかにゃー」
「そういうのは思っても口に出さないんだ」
おまけに頭の丸みも素晴らしい……なんてことに心奪われていると、
一際大きな拍手がステージの方から聞こえて来た。
気づけば前座の出番も終わったようで、春香たちが戻ってくる姿が見える。
20: 以下、
「……よーし、やったろうじゃないか!」
そうして私は気合一発、鼻息も荒く立ち上がった。
さらにはそんな私に寄り添うようにして茜もすっくと立ち上がると。
「そうそうプロちゃん、その意気その意気っ♪ 転ぶ時には茜ちゃんも一緒だから」
スケートを履いた彼女が私の背中をポンと叩き、先導するように片手を取った。
引かれて動く私の足。その先端にはなれない滑車がついている。
21: 以下、
「それではいよいよ真打ち登場ですぞ?」
美也が舞台から手招いた。「ねぇプロちゃん」と振り返った茜が私に笑いかける。
「今日はステージの最後の最後まで、とことんつき合わせちゃうんだからね!」
だからこそ私は「当然だ」と。
「今更遠慮なんてするな、俺は茜のプロデューサーなんだぜ!」
……そして何より、君の笑顔を守りたい気持ちが俺をプロデューサー足らしめるのだと。
慣れない履き物で彼女の背中を追いながら、この場の誰より陽気に浮かれる私であった。
22: 以下、
===
以上おしまい。用意していたネタがホワイトボードによって爆発四散したのですが
結果的には満足のいく話が書けて良かったなって思ってます。
それでは、改めましてハッピーバースデー茜ちゃん!
お読みいただきありがとうございました。
23: ◆NdBxVzEDf6 2018/12/04(火) 00:30:05.70 ID:DE1i+Jod0
ホワイトボードのあの流れか
いいプレゼントの仕方だった、乙です
>>2
野々原茜(16) Da/An
>>4
天海春香(17) Vo/Pr
北上麗花(20) Da/An
>>16
宮尾美也(17) Vi/An
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1543845055/
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