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卯月「宝くじを拾いました」


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1 :
突然ですが、私についてちょっとだけ話したいと思います。
私は島村卯月、17歳の普通の女の子です!
でも、ちょっとだけ……きっと他の人にはない特別なものがあるんです。
それは、完全に平均的な人生を送っているということです!
……あ、平均的って言ってもずっと平均ってわけじゃないですよ?
良いことだってありますし、悪いことだって起こります。
ただ、それらを長い目で見ると、きっと平均的なんです。
こう……幸福度とか、そういったものが。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1517119982
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517119982
2 :
例えばですね、今日の夕飯に私の好きな物が出てきたとします。
すると、次の日はちょっと苦手なものが出てくるんです。
他にはテストの時とか。
テストで良い点を取った次のときは悪い点をとっちゃいます……えへへ。
あとは、仲の良い友達が一人増えたら、違う友達とは喧嘩しちゃったりして疎遠になっちゃったり……。
あ、運動会の結果なんかも毎回勝ったり負けたりしてますね。
……と、まあこんな風に、私って平均的な人生なんですよね。
良いことがあればそれと同じくらいの悪いことが起こって。
悪いことが起こればそれと同じくらいの良いことが起こって。
もちろん、普通のことが起これば次も普通のことが起こって。
そうして私は平均的な……普通の人生を送っているんです。
決してずっとなだらかってわけじゃないけれど、山と谷が完璧に同じくらいの人生を送っているんです。
……さて、どうしていきなりこんな話をしたかというと――
「た……宝くじ拾っちゃいました……それも、一等の……!」
――という、今まで起きたことのないくらい良いことが起きてしまったからです。
3 :
「ど、どうしましょう……見間違いじゃないですよね?」
もう一度番号を照らし合わせて見ます。
一つ一つ、言葉に出して確認していって……やっぱり同じ番号でした。
「わ、わぁ……」ブルッ
思わず身震いをしてしまいます。
今私の手の中にあるこのヒラヒラした紙は、私が一生かかっても手に入らないかもしれないくらいの価値があるのです。
……もう一致していることはわかってるのに何度も確認してしまうくらい混乱しています。
だって、こんなこと本当に初めてだから……。
本当に初めてで、夢みたいで……!
こんなに良いことが起こっちゃったなら、もう――
「……私そろそろ死ぬのかなぁ」
――としか考えられないのです。
だって、私の人生は平均的だから。
こんなにも良いことが起こってしまったなら
……きっと同じくらい悪いことが起きますから。
4 :
「……そっかー」
不思議と驚きとかはありませんでした。
私がこういう人生を生きているって気がついてからいつか来るとは思っていましたから。
覚悟はできていたんだと思います。
「それなら……うん、今のうちにできることをやろうかな」
死ぬ前にやりたいことをやってしまいましょう。
幸い、私の手の中にあるこれを現金に換えたら何もできないことはないでしょう。
そうと決まれば早――
「――あれ?」
そういえば、拾った宝くじって換金できるんでしょうか?
ちょっと調べてみて……あ、ダメなんだ。
「……えー」
一気に気が滅入ってしまいました。
なーんだって気分でいっぱいです……せっかく良い気持ちに慣れたのに。
……あっ、でも警察に届けて、3ヶ月誰も取りに来なかったら私のものになるんですね。
それに、誰かがとってもいくらかは私の分のお金になるみたいですし……。
じゃあ、まるっきりパーになったわけでもないんですね!
「よかったぁ……」
さっきほどではないですけど、それでもまだ良い方向にいます。
全額手に入れるくらいの良いことで私はきっと死ぬってことは、3ヵ月後に死ぬか、それより前に半死半生くらいになるかってところですかね。
んー、すぐ死ぬよりまだマシそうです。
「よーっし!」
そうと決まれば、進路をちょっと変えて。警察にお届けしちゃいましょう!
5 :
「〜♪」
思わず鼻歌です……スキップもしちゃってます。
ご機嫌もご機嫌、島村卯月です!
「フシャーッ!」
「きゃっ!?」
なんて、ルンルン気分でいると、物陰から黒猫が私の目の前に飛び出し、威嚇してきました。
明確に私をにらんでいます。
「……私何か悪いことしました?」
「フシャーッ!」
言葉が通じませんでした。まあ猫ですし。
うーん……私何か悪いことしたんでしょうか……?
……。
……あっ違いますね、これきっと悪いことなんです。
今良いことが起こってるから、それに相対するように悪いことが起きてるんですね。
「そっか……ふふっ」
「フシャーッ!」
そう考えると目の前で威嚇するこの黒猫もとってもかわいいです……むしろ感謝です!
今のうちに小さな悪いことがたまれば、この宝くじを拾った反動も小さなものになるはずです。
死ななくてすむはずです!
……覚悟はしてましたけど、死なないですむならやっぱ死にたくないですしね。
「ふふっ、ありがとうございますっ、猫さん♪」
「シャッ!」
手を伸ばしたらひっかかれました。
うふふっ、もっと悪いことが起こっちゃいました♪
6 :
「うれしいなぁ……ふふっ」
「」ビクッ
「……猫さん、もっと――」
「――!」ダッ
「あっ!」
……もっと傷つけてもらおうと思ったのですが、逃げられてしまいました。
うーん……もっと悪いことが起こってほしかったんですけど……。
……あれ、私が喜んでたら悪いことにならないんでしょうか。
私にとっては良いことになっちゃいますもんね。
じゃあもっと私が喜ばないような悪いことが起こった方がいいのかな。
でも、今の私ならどんなことが起こっても嬉しく思っちゃうかも。
だって、死ぬよりマシですし。
「んー……」
「……」
「……ま、いっか」
考えてもよくわかりませんし。
きっと私の人生の良い悪いは、私から見たものじゃなくて客観的に見たものなんでしょう。
きっとそのはずです……なんとなくそんな気がします。
「……あっ」
電線にたくさんの鳥さんが止まっているのを見つけました。
……あそこでも悪いことが起こりそうですね
7 :
「……」ワクワク
「……」
鳥さんたちの下でワクワクしながら待機します。
……今日の服は結構お気に入りの服です。
そんな服に落し物去れちゃったら、それはもう悪いことでしょう。
「……」ソワソワ
まだかな、まだかな。
「……」
……もうちょっと場所移動したほうがあたるかな?
えーっと……鳥さんがあっちにお尻を向けてるからもうちょっと下がって……。
……傍から見たら私はどんな風に見られてるんでしょう。
電線の下で位置調整して……すっごく変な人ですね。
変なうわさが流れちゃうかもしれません。
……それも悪いことですね!
一石二鳥ですっ!
「……あっ!」
そんな感じで待機していたら、ついに落し物が当たってしまいました。
右肩にガッツリついちゃってます。
「……あー」
そうさせるようにしたのは私なのですが……やっぱり凹みます。
お気に入りの服なんですけど……うぅ……。
……とりあえず拭かなきゃ。
8 :
……よし、気を取り直しましょう。
結果的に悪いことは起こったので目標は達成したんです。
さあ次の悪いことが起こりそうな場所を探しましょう。
「……んー」
後は何があるかなー。
ずっと晴れだったので、水溜りがあるわけでもないですし……。
水溜りがあれば水がはねるのを待てたりしたんですけど。
後は、どっかの店先の打ち水が体に当たるとか?
……いえ、今寒いですしそんなことしませんよね。
「悪いことって難しいですねー」
まあ、そんなに簡単に起こらないから悪いことなんでしょうけど。
「んー……」
後どのくらいの悪いことが起これば帳消しできるでしょうか。
この件にそれも書いていてくれたら楽なんですけどねー。
……実は書いてあったりしないですかね。
「……きゃっ!」
なんて、じっと宝くじを見ていると、急に突風が吹いてきました。
「……あっ!」
思わずスカートをおさえます。
……その時に、ちょっと離れちゃったのでしょう。
風に乗って宝くじが飛んでいってしまいました。
9 :
「やったっ!」
悪いことが起こりました!
そうですね、こうやって偶然に起こる悪いこともあるんですね。
「……ととっ、追いかけなきゃ!」
……あれ、でもこれで拾えちゃったら良いことになっちゃいますよね。
じゃあ、これって意味の無い悪いこと?
「……えー」
でも拾わなきゃいけませんし……うーん、もったいないです。
じゃあ、さっさと拾わなくっちゃ。
……ちょっと足をめて追いかけます。
「待ってくださーいっ」
……追いかけますが、一向に追いつきません
風に乗ってどんどん飛んでっちゃいます。
もうちょっと足をめます。
でも、宝くじもどんどん離れていっちゃいます。
10 :
「はっ……はっ……!」
そうしてしばらく追いかけていたんですが、ようやく宝くじが降りてきました。
「や、やっと……」
……これきっと、拾ったっていう良いことより、拾うために追いかけたっていう悪いことの方が大きいですよね。
だから、結果的に悪いことの方が大きくなったはずです。
……とにかく、無駄じゃないなら良いんですけど……。
「ふぅ……」
一呼吸して、宝くじが落ちてくるのを待ちます。
ひらりひらりと落ちてきて、宝くじはそのまま川の方向へ。
……えっ、川の方向?
「あーっ!」
た、大変です! 大変です! 宝くじがっ!
宝くじが川に落ちちゃいますっ!
「もっ、戻ってきてくださーいっ!」
声をかけますが、むしろ宝くじは離れていっちゃいます。
裕子ちゃんみたいにサイキックが使えないか腕を伸ばして見ますけど、どんどん遠くにいっちゃいます。
空でも飛べたら拾いに行けたんでしょうけど、そんなこともできず……。
ただ念じるしかなくって……。
……そして、宝くじは川に落ちてしまいました。
11 :
「……あー」
がっくりです。
とっても悪いことが起こってしまいました……良いことが全部帳消しされちゃうくらいの。
それどころか、今の幸せ度的には悪い方向に振り切っちゃってます。
だって、指を黒猫に引っかかれたのも、服が汚れちゃったのも、全部無駄になっちゃって……ただの悪いことになっちゃって。
「……はぁ」
夢だったら覚めて欲しいですし、時間が戻せるなら戻したいです。
でも、そんなことはできません。
宝くじの落ちた川を見つめて呆けるしかありません。
……うぅ。
しばらく、立ち直れ無そうです……。
……。
……あれ、電話?
「もしもし……あっ、お母さん」
『もしもし。卯月? 今どこにいるの?』
「あ、えっと……川の辺りだよ?」
『そう。そろそろご飯だから帰ってらっしゃい』
「はーい……」
『あら、元気ないわね。どうしたの?』
「ううん……別に……」
『そう……』
『……今日は貴方の好きな生ハムメロンもあるわ』
「ほんと!」
『えぇ、本当よ。ケーキもあるわ』
「やったーっ!」
『うふふっ。元気が出たみたいで良かった』
『さ、早く帰ってらっしゃい』
「はーいっ! 急いで変えるねっ!」
『うふふ、怪我しないようにね』
電話を切って、私は勢いよく走り出します!
さっきまでの疲れもいやな思いも全部消えちゃいました!
だって夕食が楽しみで仕方ないんだもんっ!
「はっ、はっ!」
やっぱり、悪いことの後には良いことが起こるんですね。
そんな感じで、今日の私の人生もやっぱり平均的でした。
おしまい
1

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