怖い伝説、伝承や民話『姦姦蛇螺』『邪視』『巣くうもの』『リアル』back

怖い伝説、伝承や民話『姦姦蛇螺』『邪視』『巣くうもの』『リアル』


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1:
八尺様とかのを主に、読み終わったら感想を添えて
908:
親父の実家は、自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、
高校になってバイクに乗るようになると、夏休みとか冬休みなんかには、よく一人で遊びに行ってた。
じいちゃんとばあちゃんも、「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。
でも最後に行ったのが、高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて、「行けなかった」んだけど、その訳はこんなことだ。
春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われて、じいちゃんの家にバイクで行った。
まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛いでいた。
そうしたら、
「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」
と、変な音が聞こえてきた。
機械的な音じゃなくて、人が発してるような感じがした。
それも、濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。
生垣の上に置いてあったわけじゃない。
帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで来ると、一人女性が見えた。
まあ帽子は、その女性が被っていたわけだ。
女性は白っぽいワンピースを着ていた。
でも、生垣の高さは二メートルくらいある。
その生垣から頭を出せるって、どれだけ背の高い女なんだ…
驚いていると、女はまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。
また、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。
909:
そのときは、もともと背が高い女が超厚底のブーツを履いていたか、
踵の高い靴を履いた背の高い男が女装したか、くらいにしか思わなかった。
その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを話した。
「さっき、大きな女を見たよ。男が女装してたのかなあ」と言っても、「へぇ?」くらいしか言わなかったけど、
「垣根より背が高かった。帽子を被っていて、『ぽぽぽ』とか変な声出してたし」
と言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。
いや、本当にぴたりと止った。
その後、「いつ見た」「どこで見た」「垣根よりどのくらい高かった」と、
じいちゃんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで、
廊下にある電話まで行き、どこかに電話をかけだした。
引き戸が閉じられていたため、何を話しているのかは良く分からなかった。
ばあちゃんは、心なしか震えているように見えた。
じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、
「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」と言った。
――何かとんでもなく悪いことをしてしまったんだろうか。
と必死に考えたが、何も思い当たらない。
あの女だって、自分から見に行ったわけじゃなく、あちらから現れたわけだし。
そして、「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る」と言い残し、
軽トラックでどこかに出かけて行った。
910:
ばあちゃんに恐る恐る尋ねてみると、
「八尺様に魅入られてしまったようだよ。じいちゃんが何とかしてくれる。何にも心配しなくていいから」
と震えた声で言った。
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまで、ぽつりぽつりと話してくれた。
この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。
八尺様は大きな女の姿をしている。
名前の通り八尺ほどの背丈があり、「ぼぼぼぼ」と、男のような声で変な笑い方をする。
人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年増だったりと、見え方が違うが、
女性で異常に背が高いことと、頭に何か載せていること、それに気味悪い笑い声は共通している。
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。
この地区(今は○市の一部であるが、昔は×村。
今で言う「大字」にあたる区分)に、地蔵によって封印されていて、よそへは行くことが無い。
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。
最後に八尺様の被害が出たのは、十五年ほど前。
これは後から聞いたことではあるが、地蔵によって封印されているというのは、
八尺様がよそへ移動できる道というのは、理由は分からないが限られていて、その道の村境に地蔵を祀ったそうだ。
八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西南北の境界に、全部で四ヶ所あるらしい。
もっとも、何でそんなものを留めておくことになったかというと、周辺の村と何らかの協定があったらしい。
例えば、水利権を優先するとか。
八尺様の被害は、数年から十数年に一度くらいなので、
昔の人は、そこそこ有利な協定を結べれば良し、と思ったのだろうか。
911:
そんなことを聞いても、全然リアルに思えなかった。当然だよね。
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。
「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」
Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。
それから、じいちゃんと一緒に二階へ上がり、何やらやっていた。
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレのドアを完全に閉めさせてくれなかった。
ここにきてはじめて、「なんだかヤバイんじゃ…」と思うようになってきた。
しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。
あと、どこから持ってきたのか、『おまる』が二つも用意されていた。
これで用を済ませろってことか…
「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。
俺もばあさんもな、お前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。
そうだな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。
七時になったらお前から出ろ。家には連絡しておく」
と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。
「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何かおきたら仏様の前でお願いしなさい」
と、Kさんにも言われた。
912:
テレビは見てもいいと言われていたので点けたが、見ていても上の空で気も紛れない。
部屋に閉じ込められるときに、ばあちゃんがくれたおにぎりやお菓子も食べる気が全くおこらず、
放置したまま、布団に包まってひたすらガクブルしていた。
そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、
目が覚めたときには、何だか忘れたが深夜番組が映っていて、
自分の時計を見たら、午前一時すぎだった。(この頃は携帯を持ってなかった)
なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。
小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような音だったと思う。
風のせいでそんな音がでているのか、
誰かが本当に叩いているのかは判断がつかなかったが、必死に風のせいだと思い込もうとした。
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして無理やりテレビを見ていた。
そんなとき、じいちゃんの声が聞こえた。
「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」
思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。
また声がする。
「どうした、こっちに来てもええぞ」
じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に、全身に鳥肌が立った。
ふと隅の盛り塩を見ると、それは上のほうが黒く変色していた。
913:
一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め「助けてください」と必死にお祈りをはじめた。
そのとき、
「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」
あの声が聞こえ、窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。
そこまで背が高くないことは分かっていたが、
アレが下から手を伸ばして、窓ガラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。
とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、
つけっぱなしのテレビが、いつの間にか朝のニュースをやっていた。
画面隅に表示される時間は、確か七時十三分となっていた。
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
どうやら眠ってしまったか、気を失ってしまったかしたらしい。
盛り塩はさらに黒く変色していた。
念のため自分の時計を見たところ、ほぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを開けると、
そこには、心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。
ばあちゃんが「よかった、よかった」と涙を流してくれた。
下に降りると、親父も来ていた。
じいちゃんが外から顔を出して、「早く車に乗れ」と促し、庭に出てみると、
どこから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。
そして、庭に何人かの男たちがいた。
914:
ワンボックスは九人乗りで、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、
庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。
全部で九人が乗り込んでおり、八方すべてを囲まれた形になった。
「大変なことになったな。気になるかもしれないが、これからは目を閉じて下を向いていろ。
俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。
いいと言うまで、我慢して目を開けるなよ」
右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。
そして、じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後に親父が運転する乗用車、
という車列で走り出した。
車列は、かなりゆっくりとしたスピードで進んだ。
おそらく、二十キロも出ていなかったんじゃあるまいか。
間もなくKさんが、「ここがふんばりどころだ」と呟くと、何やら念仏のようなものを唱え始めた。
「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」
またあの声が聞こえてきた。
Kさんからもらったお札を握り締め、言われたとおりに目を閉じ下を向いていたが、
なぜか薄目をあけて、外を少しだけ見てしまった。
目に入ったのは白っぽいワンピース。それが車に合わせ移動していた。
あの大股で付いてきているのか。
頭はウインドウの外にあって見えない。
しかし、車内を覗き込もうとしたのか、頭を下げる仕草を始めた。
無意識に「ヒッ」と声を出す。
「見るな」と隣が声を荒げる。
慌てて目をぎゅっとつぶり、さらに強くお札を握り締めた。
915:
コツ、コツ、コツ
ガラスを叩く音が始まる。
周りに乗っている人も、短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。
アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。
Kさんの念仏に力が入る。
やがて声と音が途切れたと思ったとき、Kさんが「うまく抜けた」と声をあげた。
それまで黙っていた周りを囲む男たちも、「よかったなあ」と安堵の声を出した。
やがて車は道の広い所で止り、親父の車に移された。
親父とじいちゃんが他の男たちに頭を下げているとき、Kさんが「お札を見せてみろ」と近寄ってきた。
無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。
Kさんは「もう大丈夫だと思うがな、念のためしばらくの間はこれを持っていなさい」と、新しいお札をくれた。
その後は、親父と二人で自宅へ戻った。
バイクは、後日じいちゃんと近所の人が届けてくれた。
親父も八尺様のことは知っていたようで、
子供の頃、友達のひとりが魅入られて命を落とした、ということを話してくれた。
魅入られたため、他の土地に移った人も知っているという。
バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、
つまりは、極々薄いながらも、自分と血縁関係にある人たちだそうだ。
前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、
少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。
親父の兄弟(伯父)は、一晩でこちらに来られなかったため、
血縁は薄くても、すぐに集まる人に来てもらったようだ。
916:
それでも、流石に七人もの男が今の今、というわけにはいかなく、
また、夜より昼のほうが安全と思われたため、一晩部屋に閉じ込められたのである。
道中、最悪なら、じいちゃんか親父が身代わりになる覚悟だったとか。
そして、先に書いたようなことを説明され、「もうあそこには行かないように」と念を押された。
家に戻ってから、じいちゃんと電話で話したとき、
「あの夜に声をかけたか」と聞いたが、そんなことはしていないと断言された。
――やっぱりあれは…
と思ったら、改めて背筋が寒くなった。
八尺様の被害には、成人前の若い人間、それも子供が遭うことが多いということだ。
まだ子供や若年の人間が、極度の不安な状態にあるとき、
身内の声であのようなことを言われれば、つい心を許してしまうのだろう。
それから十年経って、あのことも忘れがちになったとき、洒落にならない後日談ができてしまった。
「八尺様を封じている地蔵様が、誰かに壊されてしまった。それも、お前の家に通じる道のものがな」
と、ばあちゃんから電話があった。
(じいちゃんは二年前に亡くなっていて、当然ながら葬式にも行かせてもらえなかった。
じいちゃんも起き上がれなくなってからは、絶対来させるなと言っていたという)
今となっては、迷信だろうと自分に言い聞かせつつも、かなり心配な自分がいる。
「ぽぽぽ…」という、あの声が聞こえてきたらと思うと…
3:
サンコウさん
知り合いの話。
その昔、彼女の祖父がまだ炭焼きをしていた頃の話だ。
煮炊きに使う薪を集めに山奥を歩いていると、見覚えのない広場に足を踏み入れた。
はて、この山ン中にこんな開いた所があったろうか?
見れば下生えも綺麗に刈られていて、歩き回るのにも支障がない。
明らかに人の手が入っている。
広場の真ん中に、古びた祠みたいな物が見える。
近よってみたところ、そこには奇妙な物が並べられていた。
人を象った、不格好な木彫りの人形。
誰が拵えた物かわからないが、五体ほど等間隔で置かれていた。
見ているうちに何故か気持ち悪くなり、逃げるようにそこを後にしたそうだ。
5:
続き
炭焼き小屋に帰ってから、居合わせた里仲間に自分の見たことを話してみた。
「サンコウさんの土地に入り込んじまったんだな」と言われた。
サンコウさんとは、そこの山神の呼び名だ。
「人形ってのは今年、サンコウさんが取ると決めた人の形代だろう。お前さん、
山で仕事するんなら気を付けるがいい。機嫌損ねると、その五人の内の一人になっちまうぞ
「嘘か誠かはわからんが、そう言われたんだよ。だからって訳じゃないが、山ン中にいる時は粗相しないよう心掛けたよ。幸い、サンコウさんに取られもせず全う出来た。有り難いことだ」
祖父はそう彼女に語ったという。
最後にこう付け加えた。
「それにしても不思議なのは、あの広場には二度と辿り着けなかったことだ。
サンコウさんは、何で儂にあそこを見せたんだろうな」
9:
姦姦蛇螺
小中学の頃は田舎もんで世間知らずで、特に仲の良かったA、Bと三人で
毎日バカやって荒れた生活してたんだわ。
オレとAは家族にもまるっきり見放されてたんだが、Bはお母さんだけは必ず構ってくれてた。
あくまで厳しい態度でだけど、何だかんだ言ってBのためにいろいろと動いてくれてた。
そのB母子が中三のある時、かなりキツい喧嘩になった。
内容は言わなかったが、精神的にお母さんを痛め付けたらしい。
お母さんをズタボロに傷つけてたら、親父が帰ってきた。
一目で状況を察した親父はBを無視して黙ったまんまお母さんに近づいていった。
服とか髪とかボロボロなうえに、死んだ魚みたいな目で床を
茫然と見つめてるお母さんを見て、親父はBに話した。
10:
B父「お前、ここまで人を踏み躙れるような人間になっちまったんだな。
 母さんがどれだけお前を想ってるか、なんでわからないんだ。」
親父はBを見ず、お母さんを抱き締めながら話してたそうだ。
B「うるせえよ。てめえは殺してやろうか?あ?」
Bは全く話を聞く気がなかった。
だが親父は何ら反応する様子もなく、淡々と話を続けたらしい。
B父「お前、自分には怖いものなんか何もないと、そう思ってるのか。」
12:
B「ねえな。あるなら見せてもらいてえもんだぜ。」
親父は少し黙った後、話した。
B父「お前はオレの息子だ。母さんがお前をどれだけ心配してるかもよくわかってる。だがな、
 お前が母さんに対してこうやって踏み躙る事しか出来ないなら、オレにも考えがある。
 これは父としてでなく、一人の人間、他人として話す。先にはっきり言っておくがオレが
 これを話すのは、お前が死んでも構わんと覚悟した証拠だ。それでいいなら聞け。」
その言葉に何か凄まじい気迫みたいなものを感じたらしいが、いいから話してみろ!と煽った。
14:
B父「森の中で立入禁止になってる場所知ってるよな。あそこに入って奥へ進んでみろ。
 後は行けばわかる。そこで今みたいに暴れてみろよ。出来るもんならな。」
親父が言う森ってのは、オレ達が住んでるとこに小規模の山があって、そのふもとにある場所。
樹海みたいなもんかな。山自体は普通に入れるし、森全体も普通なんだが、
中に入ってくと途中で立入禁止になってる区域がある。
言ってみれば四角の中に小さい円を書いて、その円の中は入るなってのと同じできわめて部分的。
二メートル近い高さの柵で囲まれ、柵には太い綱と有刺鉄線、柵全体にはが連なった
白い紙がからまってて(独自の紙垂みたいな)、大小いろんな鈴が無数についてる。
変に部分的なせいで柵自体の並びも歪だし、とにかく尋常じゃないの一言に尽きる。
28:
あと、特定の日に巫女さんが入り口に数人集まってるのを見かけるんだが、
その日は付近一帯が立入禁止になるため何してんのかは謎だった。
いろんな噂が飛び交ってたが、カルト教団の洗脳施設がある…ってのが一番広まってた噂。
そもそもその地点まで行くのが面倒だから、その奥まで行ったって話はほとんどなかったな。
親父はBの返事を待たずにお母さんを連れて2階に上がってった。
Bはそのまま家を出て、待ち合わせてたオレとAと合流。そこでオレ達も話を聞いた。
A「父親がそこまで言うなんて相当だな。」
オレ「噂じゃカルト教団のアジトだっけ。捕まって洗脳されちまえって事かね。
 怖いっちゃ怖いが…どうすんだ?行くのか?」
B「行くに決まってんだろ。どうせ親父のハッタリだ。」
面白半分でオレとAもついていき、三人でそこへ向かう事になった。
あれこれ道具を用意して、時間は夜中の一時過ぎぐらいだったかな。
意気揚揚と現場に到着し、持ってきた懐中電灯で前を照らしながら森へ入っていった。
軽装でも進んで行けるような道だし、オレ達はいつも地下足袋だったんで歩きやすかったが、
問題の地点へは四十分近くは歩かないといけない。
ところが、入って五分もしないうちにおかしな事になった。
オレ達が入って歩きだしたのとほぼ同じタイミングで、何か音が遠くから聞こえ始めた。
夜の静けさがやたらとその音を強調させる。最初に気付いたのはBだった。
B「おい、何か聞こえねぇか?」
Bの言葉で耳をすませてみると、確かに聞こえた。落ち葉を引きずるカサカサ…という音と、
枝がパキッ…パキッ…と折れる音。それが遠くの方から微かに聞こえてきている。
遠くから微かに…というせいもあって、さほど恐怖は感じなかった。
人って考える前に動物ぐらいいるだろ、そんな思いもあり構わず進んでいった。
動物だと考えてから気にしなくなったが、そのまま二十分ぐらい進んできたところで
またBが何か気付き、オレとAの足を止めた。
29:
B「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ。」
A「?…何でだよ。」
B「いいから早く」
Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、またこっちへ戻ってくる。
それを見て、Bは考え込むような表情になった。
A「おい、何なんだよ?」
オレ「説明しろ!」
オレ達がそう言うと
Bは「静かにしてよ?く聞いててみ」と、Aにさせたように一人で前へ歩いていき、
またこっちに戻ってきた。二、三度繰り返してようやくオレ達も気付いた。
遠くから微かに聞こえてきている音は、オレ達の動きに合わせていた。
オレ達が歩きだせばその音も歩きだし、オレ達が立ち止まると音も止まる。
まるでこっちの様子がわかっているようだった。
何かひんやりした空気を感じずにはいられなかった。
周囲にオレ達が持つ以外の光はない。月は出てるが、木々に遮られほとんど意味はなかった。
懐中電灯つけてんだから、こっちの位置がわかるのは不思議じゃない…
だが一緒に歩いてるオレ達でさえ、互いの姿を確認するのに目を凝らさなきゃいけない暗さだ。
そんな暗闇で光もなしに何してる?
なぜオレ達と同じように動いてんだ?
B「ふざけんなよ。誰かオレ達を尾けてやがんのか?」
A「近づかれてる気配はないよな。向こうはさっきからずっと同じぐらいの位置だし。」
Aが言うように森に入ってからここまでの二十分ほど、オレ達とその音との
距離は一向に変わってなかった。近づいてくるわけでも遠ざかるわけでもない。
終始、同じ距離を保ったままだった。
オレ「監視されてんのかな?」
A「そんな感じだよな…カルト教団とかなら何か変な装置とか持ってそうだしよ。」
30:
音から察すると、複数ではなく一人がずっとオレ達にくっついてるような感じだった。
しばらく足を止めて考え、下手に正体を探ろうとするのは危険と判断し、
一応あたりを警戒しつつそのまま先へ進む事にした。
それからずっと音に付きまとわれながら進んでたが、やっと柵が見えてくると、
音なんかどうでもよくなった。
音以上にその柵の様子の方が意味不明だったからだ。
三人とも見るのは初めてだったんだが、想像以上のものだった。
同時にそれまでなかったある考えが頭に過ってしまった。
普段は霊などバカにしてるオレ達から見ても、その先にあるのが
現実的なものでない事を示唆しているとしか思えない。
それも半端じゃなくやばいものが。
まさか、そういう意味でいわくつきの場所なのか…?
森へ入ってから初めて、今オレ達はやばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。
A「おい、これぶち破って奥行けってのか?誰が見ても普通じゃねえだろこれ!」
B「うるせえな、こんなんでビビってんじゃねえよ!」
柵の異常な様子に怯んでいたオレとAを怒鳴り、Bは持ってきた道具あれこれで柵をぶち壊し始めた。
破壊音よりも、鳴り響く無数の鈴の音が凄かった。
しかしここまでとは想像してなかったため、持参した道具じゃ貧弱すぎた。
というか、不自然なほどに頑丈だったんだ。
特殊な素材でも使ってんのかってぐらい、びくともしなかった。
結局よじのぼるしかなかったんだが、綱のおかげで上るのはわりと簡単だった。
だが柵を越えた途端、激しい違和感を覚えた。
閉塞感と言うのかな、檻に閉じ込められたような息苦しさを感じた。
AとBも同じだったみたいで踏み出すのを躊躇したんだが、
柵を越えてしまったからにはもう行くしかなかった。
先へ進むべく歩きだしてすぐ、三人とも気付いた。
ずっと付きまとってた音が、柵を越えてからバッタリ聞こえなくなった事に。
正直そんなんもうどうでもいいとさえ思えるほど嫌な空気だったが、
Aが放った言葉でさらに嫌な空気が増した。
A「もしかしてさぁ、そいつ…ずっとここにいたんじゃねえか?この柵、こっから見える分だけでも
 出入口みたいなのはないしさ、それで近付けなかったんじゃ…」
B「んなわけねえだろ。オレ達が音の動きに気付いた場所ですらこっからじゃもう見えねえんだぞ?
 それなのに入った時点からオレ達の様子がわかるわけねえだろ。」
32:
普通に考えればBの言葉が正しかった。
禁止区域と森の入り口はかなり離れてる。時間にして四十分ほどと書いたが、
オレ達だってちんたら歩いてたわけじゃないし、距離にしたらそれなりの数字にはなる。
だが、現実のものじゃないかも…という考えが過ってしまった事で、
Aの言葉を頭では否定できなかった。
柵を見てから絶対やばいと感じ始めていたオレとAを尻目に、Bだけが俄然強気だった。
B「霊だか何だか知らねえけどよ、お前の言うとおりだとしたら、
 そいつはこの柵から出られねえって事だろ?そんなやつ大したことねえよ。」
そう言って奧へ進んでいった。
柵を越えてから二、三十分歩き、うっすらと反対側の柵が見え始めたところで、
不思議なものを見つけた。
特定の六本の木に注連縄(しめなわ)が張られ、その六本の木を
六本の縄で括り、六角形の空間がつくられていた。
柵にかかってるのとは別の、正式なものっぽい紙垂もかけられてた。
そして、その中央に賽銭箱みたいなのがポツンと置いてあった。
目にした瞬間は、三人とも言葉が出なかった。
特にオレとAは、マジでやばい事になってきたと焦ってさえいた。
バカなオレ達でも、注連縄が通常どんな場で何のために用いられてるものか、何となくは知ってる。
そういう意味でも、ここを立入禁止にしているのは間違いなく目の前のこの光景のためだ。
オレ達はとうとう、来るとこまで来てしまったわけだ。
オレ「お前の親父が言ってたの、たぶんこれの事だろ。」
A「暴れるとか無理。明らかにやばいだろ。」
だが、Bは強気な姿勢を崩さなかった。
B「別に悪いもんとは限らねえだろ。とりあえずあの箱見て見ようぜ!宝でも入ってっかもな。」
Bは縄をくぐって六角形の中に入り、箱に近づいてった。
オレとAは箱よりもBが何をしでかすかが不安だったが、とりあえずBに続いた。
野晒しで雨とかにやられたせいか、箱はサビだらけだった。
上部は蓋になってて、網目で中が見える。だが、蓋の下にまた板が敷かれていて結局見れない。
33:
さらに箱にはチョークか何かで凄いのが書いてあった。
たぶん家紋?的な意味合いのものだと思うんだが、前後左右それぞれの面に
いくつも紋所みたいなのが書き込まれてて、しかも全部違うやつ。
ダブってるのは一個もなかった。
オレとAは極力触らないようにし、構わず触るBにも乱暴にはしないよう
注意させながら箱を調べてみた。
どうやら地面に底を直接固定してあるらしく、大して重さは感じないのに持ち上がらなかった。
中身をどうやって見るのかと隅々までチェックすると、
後ろの面だけ外れるようになってるのに気付いた。
B「おっ、ここだけ外れるぞ!中見れるぜ!」
Bが箱の一面を取り外し、オレとAもBの後ろから中を覗き込んだ。
箱の中には四隅にペットボトルのような形の壺?が置かれてて、その中には何か液体が入ってた。
箱の中央に、先端が赤く塗られた五センチぐらいの楊枝みたいなのが、変な形で置かれてた。
/\/\>
こんな形で六本。接する四ヶ所だけ赤く塗られてる。
オレ「なんだこれ?爪楊枝か?」
A「おい、ペットボトルみてえなの中に何か入ってるぜ。気持ちわりいな。」
B「ここまで来てペットボトルと爪楊枝かよ。意味わかんねえ。」
オレとAはぺットボトルみたいな壺を少し触ってみたぐらいだったが、
Bは手に取って匂いを嗅いだりした。
元に戻すと今度は/\/\>を触ろうと手を伸ばす。
ところが、汗をかいていたのか指先に一瞬くっつき、そのせいで離すときに形がずれてしまった。
34:
その一瞬
チリンチリリン!!チリンチリン!!
オレ達が来た方とは反対、六角形地点のさらに奧にうっすらと見えている柵の方から、
物凄い勢いで鈴の音が鳴った。さすがに三人ともうわっと声を上げてビビり、一斉に顔を見合わせた。
B「誰だちくしょう!ふざけんなよ!」
Bはその方向へ走りだした。
オレ「バカ、そっち行くな!」
A「おいB!やばいって!」
慌てて後を追おうと身構えると、Bは突然立ち止まり、前方に懐中電灯を向けたまま動かなくなった。
「何だよ、フリかよ?」とオレとAがホッとして急いで近付いてくと、Bの体が小刻みに震えだした。
「お、おい、どうした…?」言いながら無意識に照らされた先を見た。
35:
Bの懐中電灯は、立ち並ぶ木々の中の一本、その根元のあたりを照らしていた。
その陰から、女の顔がこちらを覗いていた。
ひょこっと顔半分だけ出して、眩しがる様子もなくオレ達を眺めていた。
上下の歯をむき出しにするようにい?っと口を開け、目は据わっていた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
誰のものかわからない悲鳴と同時に、オレ達は一斉に振り返り走った。
頭は真っ白で、体が勝手に最善の行動をとったような感じだった。
互いを見合わす余裕もなく、それぞれが必死で柵へ向かった。
柵が見えると一気に飛び掛かり、急いでよじのぼる。
上まで来たらまた一気に飛び降り、すぐに入り口へ戻ろうとした。
だが、混乱しているのかAが上手く柵を上れずなかなかこっちに来ない。
オレ「A!早く!!」
B「おい!早くしろ!!」
Aを待ちながらオレとBはどうすりゃいいかわからなかった。
オレ「何だよあれ!?何なんだよ!?」
B「知らねえよ黙れ!!」
完全にパニック状態だった。
37:
その時
チリリン!!チリンチリン!!
凄まじい大音量で鈴の音が鳴り響き、柵が揺れだした。
何だ…!?どこからだ…!?オレとBはパニック状態になりながらも周囲を確認した。
入り口とは逆、山へ向かう方角から鳴り響き、近づいているのか
音と柵の揺れがどんどん激しくなってくる。
オレ「やばいやばい!」
B「まだかよ!早くしろ!!」
オレ達の言葉が余計にAを混乱させていたのはわかってたが、急かさないわけにはいかなかった。
Aは無我夢中に必死で柵をよじのぼった。
Aがようやく上りきろうかというその時、オレとBの視線はそこになかった。
がたがたと震え、体中から汗が噴き出し、声を出せなくなった。
それに気付いたAも、柵の上からオレ達が見ている方向を見た。
山への方角にずらっと続く柵を伝った先、しかもこっち側にあいつが張りついていた。
顔だけかと思ったそれは、裸で上半身のみ、右腕左腕が三本ずつあった。
それらで器用に綱と有刺鉄線を掴んでい?っと口を開けたまま、
巣を渡る蜘蛛のようにこちらへ向かってきていた。
とてつもない恐怖
「うわぁぁぁぁ!!」
Aがとっさに上から飛び降り、オレとBに倒れこんできた。
それではっとしたオレ達はすぐにAを起こし、一気に入り口へ走った。
後ろは見れない。前だけを見据え、ひたすら必死で走った。
全力で走れば三十分もかからないだろうに、何時間も走ったような気分だった。
38:
入り口が見えてくると、何やら人影も見えた。
おい、まさか…三人とも急停止し、息を呑んで人影を確認した。
誰だかわからないが何人かが集まってる。あいつじゃない。
そう確認できた途端に再び走りだし、その人達の中に飛び込んだ。
「おい!出てきたぞ!」
「まさか…本当にあの柵の先に行ってたのか!?」
「おーい!急いで奥さんに知らせろ!」
集まっていた人達はざわざわとした様子で、オレ達に駆け寄ってきた。
何て話しかけられたか、すぐにはわからないぐらい、三人とも頭が真っ白で放心状態だった。
そのままオレ達は車に乗せられ、すでに三時をまわっていたにも関わらず、
行事の時とかに使われる集会所に連れてかれた。
中に入ると、うちは母親と姉貴が、Aは親父、Bはお母さんが来ていた。
Bのお母さんはともかく、ろくに会話した事すらなかったうちの母親まで泣いてて、
Aもこの時の親父の表情は普段見た事ないようなもんだったらしい。
B母「みんな無事だったんだね…!よかった…!」
Bのお母さんとは違い、オレは母親に殴られAも親父に殴られた。
だが、今まで聞いた事ない暖かい言葉をかけられた。
しばらくそれぞれが家族と接したところで、Bのお母さんが話した。
B母「ごめんなさい。今回の事はうちの主人、ひいては私の責任です。
 本当に申し訳ありませんでした…!本当に…」と何度も頭を下げた。
よその家とはいえ、子供の前で親がそんな姿をさらしているのは、やっぱり嫌な気分だった。
A父「もういいだろう奥さん。こうしてみんな無事だったんだから。」
オレ母「そうよ。あなたのせいじゃない。」
この後ほとんど親同士で話が進められ、オレ達はぽかんとしてた。
時間が遅かったのもあって、無事を確認しあって終わり…って感じだった。
この時は何の説明もないまま解散したわ。
後編もありまする
42:
後編
一夜明けた次の日の昼頃、オレは姉貴に叩き起こされた。
目を覚ますと、昨夜の続きかというぐらい姉貴の表情が強ばっていた。
オレ「なんだよ?」
姉貴「Bのお母さんから電話。やばい事になってるよ。」
受話器を受け取り電話に出ると、凄い剣幕で叫んできた。
B母「Bが…Bがおかしいのよ!昨夜あそこで何したの!?
 柵の先へ行っただけじゃなかったの!?」
とても会話になるような雰囲気じゃなく、いったん電話を切ってオレはBの家へ向かった。
同じ電話を受けたらしくAも来ていて、二人でBのお母さんに話を聞いた。
話によると、Bは昨夜家に帰ってから急に両手両足が痛いと叫びだした。
痛くて動かせないという事なのか、両手両足をぴんと伸ばした状態で倒れ、
その体勢で痛い痛いとのたうちまわったらしい。
お母さんが何とか対応しようとするも、いてぇよぉと叫ぶばかりで意味がわからない。
必死で部屋までは運べたが、ずっとそれが続いてるので
オレ達はどうなのかと思い電話してきたという事だった。
話を聞いてすぐBの部屋へ向かうと、階段からでも叫んでいるのが聞こえた。
いてぇいてぇよぉ!と繰り返している。
部屋に入ると、やはり手足はぴんと伸びたまま、のたうちまわっていた。
オレ「おい!どうした!」
A「しっかりしろ!どうしたんだよ!」
オレ達が呼び掛けてもいてぇよぉと叫ぶだけで目線すら合わせない。
どうなってんだ…オレとAは何が何だかさっぱりわからなかった。
一度お母さんのとこに戻ると、さっきとはうってかわって静かな口調で聞かれた。
B母「あそこで何をしたのか話してちょうだい。それで全部わかるの。昨夜あそこで何をしたの?」
43:
何を聞きたがっているのかはもちろんわかってたが、答えるためにあれをまた
思い出さなきゃいけないのが苦痛となり、うまく伝えられなかった。
というか、あれを見たっていうのが大部分を占めてしまってたせいで、
何が原因かってのがすっかり置いてきぼりになってしまっていた。
何を見たかでなく何をしたかと尋ねるBのお母さんは、それを指摘しているようだった。
Bのお母さんに言われ、オレ達は何とか昨夜の事を思い出し、原因を探った。
何を見たか?なら、オレ達も今のBと同じ目にあってるはず。
だが何をしたか?でも、あれに対してほとんど同じ行動だったはずだ。
箱だってオレ達も触ったし、ペットボトルみたいなのも一応オレ達も触わってる。後は…楊枝…
二人とも気付いた。楊枝だ。あれにはBしか触ってないし、形もずらしちゃってる。
しかも元に戻してない。オレ達はそれをBのお母さんに伝えた。
すると、みるみる表情が変わり震えだした。そしてすぐさま棚の引き出しから何かの紙を取出し、
それを見ながらどこかに電話をかけた。
オレとAは様子を見守るしかなかった。
しばらくどこかと電話で話した後、戻ってきたBのお母さんは震える声でオレ達に言った。
B母「あちらに伺う形ならすぐにお会いしてくださるそうだから、今すぐ帰って用意しておいてちょうだい。
 あなた達のご両親には私から話しておくわ。何も言わなくても準備してくれると思うから。
 明後日またうちに来てちょうだい。」
意味不明だった。誰に会いにどこへ行くって?説明を求めてもはぐらかされ、すぐに帰らされた。
一応二人とも真っすぐ家に帰ってみると、何を聞かれるでもなく「必ず行ってきなさい」とだけ言われた。
46:
意味がまったくわからんまま、二日後にオレとAはBのお母さんと三人で、ある場所へ向かった。
Bは前日にすでに連れていかれたらしい。
ちょっと遠いのかな…ぐらいだと思ってたが、町どころか県さえ違う。
新幹線で数時間かけて、さらに駅から車で数時間。絵に書いたような深い山奥の村まで連れてかれた。
その村のまたさらに外れの方、ある屋敷にオレ達は案内された。
でかくて古いお屋敷で、離れや蔵なんかもあるすごい立派なもんだった。
Bのお母さんが呼び鈴を鳴らすと、おっさんと女の子がオレ達を出迎えた。
おっさんの方はその筋みたいなガラ悪い感じで、スーツ姿。
女の子はオレ達より少し年上ぐらいで、白装束に赤い袴、いわゆる巫女さんの姿だった。
挨拶では、どうやら巫女さんの伯父らしいおっさんは普通によくある名字を名乗ったんだが、
巫女さんは「あおいかんじょ」?(オレはこう聞こえた)とかいうよくわからない名を名乗ってた。
名乗ると言っても、一般的な認識とは全く違うものらしい。
よくわからんが、ようするに彼女の家の素性は一切知る事が出来ないって事みたい。
実際オレ達はその家や彼女達について何も知らないけど、
とりあえずここでは見やすいように葵って書くわ。
だだっ広い座敷に案内され、わけもわからんまま、ものものしい雰囲気で話が始まった。
伯父「息子さんは今安静にさせてますわ。この子らが一緒にいた子ですか?」
B母「はい。この三人であの場所へ行ったようなんです。」
伯父「そうですか。君ら、わしらに話してもらえるか?どこに行った、何をした、何を見た、
 出来るだけ詳しくな。」
47:
突然話を振られて戸惑ったが、オレとAは何とか詳しくその夜の出来事をおっさん達に話した。
ところが、楊枝のくだりで
「コラ、今何つった?」といきなりドスの効いた声で言われ、
オレ達はますます状況が飲み込めず混乱してしまった。
A「は、はい?」
伯父「おめぇら、まさかあれを動かしたんじゃねえだろうな!?」
身を乗り出し今にも掴み掛かってきそうな勢いで怒鳴られた。
すると葵がそれを制止し、蚊の泣くようなか細い声で話しだした。
葵「箱の中央…小さな棒のようなものが、ある形を表すように置かれていたはずです。
 それに触れましたか?触れた事によって、少しでも形を変えてしまいましたか?」
オレ「はぁあの、動かしてしまいました。形もずれちゃってたと思います。」
葵「形を変えてしまったのはどなたか、覚えてらっしゃいますか?触ったかどうかではありません。
 形を変えたかどうかです。」
オレとAは顔を見合わせ、Bだと告げた。
すると、おっさんは身を引いてため息をつき、Bのお母さんに言った。
伯父「お母さん、残念ですがね、息子さんはもうどうにもならんでしょう。わしは詳しく聞いてなかったが、
 あの症状なら他の原因も考えられる。まさかあれを動かしてたとは思わなかったんでね。」
「そんな…」
それ以上の言葉もあったんだろうが、Bのお母さんは言葉を飲み込んだような感じで、しばらく俯いてた。
口には出せなかったが、オレ達も同じ気持ちだった。
Bはもうどうにもならんってどういう意味だ?一体何の話をしてんだ?
そう問いたくても、声に出来なかった。
オレ達三人の様子を見て、おっさんはため息混じりに話しだした。
ここでようやく、オレ達が見たものに関する話がされた。
49:
俗称は「生離蛇螺」/「生離唾螺」
古くは「姦姦蛇螺」/「姦姦唾螺」
なりじゃら、なりだら、かんかんじゃら、かんかんだらなど、
知っている人の年代や家柄によって呼び方はいろいろあるらしい。
現在では一番多い呼び方は単に「だら」、おっさん達みたいな特殊な家柄では
「かんかんだら」の呼び方が使われるらしい。
もはや神話や伝説に近い話。
人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、
神の子として様々な力を代々受け継いでいたある巫女の家に退治を依頼した。
依頼を受けたその家は、特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。
村人達が陰から見守る中、巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。
しかし、わずかな隙をつかれ、大蛇に下半身を食われてしまった。
それでも巫女は村人達を守ろうと様々な術を使い、必死で立ち向かった。
ところが、下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、
巫女を生け贄にする代わりに村の安全を保障してほしいと大蛇に持ちかけた。
強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを承諾、
食べやすいようにと村人達に腕を切り落とさせ、達磨状態の巫女を食らった。
そうして、村人達は一時の平穏を得た。
後になって、巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。
この時の巫女の家族は六人。
異変はすぐに起きた。
大蛇がある日から姿を見せなくなり、襲うものがいなくなったはずの村で次々と人が死んでいった。
村の中で、山の中で、森の中で。
死んだ者達はみな、右腕・左腕のどちらかが無くなっていた。
50:
十八人が死亡。(巫女の家族六人を含む)
生き残ったのは四人だった。
おっさんと葵が交互に説明した。
伯父「これがいつからどこで伝わってたのかはわからんが、あの箱は一定の周期で
 場所を移して供養されてきた。その時々によって、管理者は違う。
 箱に家紋みたいのがあったろ?ありゃ今まで供養の場所を提供してきた家々だ。
 うちみたいな家柄のもんでそれを審査する集まりがあってな、そこで決められてる。
 まれに自ら志願してくるバカもいるがな。
 管理者以外にゃかんかんだらに関する話は一切知らされない。
 付近の住民には、いわくがあるって事と万が一の時の相談先だけが管理者から伝えられる。
 伝える際には相談役、つまりわしらみたいな家柄のもんが立ち合うから、
 それだけでいわくの意味を理解するわけだ。今の相談役はうちじゃねえが、
 至急って事で昨日うちに連絡がまわってきた。」
どうやら一昨日Bのお母さんが電話していたのは別のとこらしく、
話を聞いた先方はBを連れてこの家を尋ね、話し合った結果こっちに任せたらしい。
Bのお母さんはオレ達があそこに行っていた間に、すでにそこに電話してて
ある程度詳細を聞かされていたようだ。
葵「基本的に、山もしくは森に移されます。御覧になられたと思いますが、
 六本の木と六本の縄は村人達を、六本の棒は巫女の家族を、四隅に置かれた壺は
 生き残られた四人を表しています。
 そして、六本の棒が成している形こそが、巫女を表しているのです。
 なぜこのような形式がとられるようになったか。
 箱自体に関しましても、いつからあのようなものだったか。
 私の家を含め、今現在では伝わっている以上の詳細を知る者はいないでしょう。」
52:
ただ、最も語られてる説としては、生き残った四人が巫女の家で怨念を鎮めるための
ありとあらゆる事柄を調べ、その結果生まれた独自の形式ではないか…という事らしい。
柵に関しては鈴だけが形式に従ったもので、綱とかはこの時の管理者によるものだったらしい。
伯父「うちの者でかんかんだらを祓ったのは過去に何人かいるがな、
 その全員が二、三年以内に死んでんだ。ある日突然な。
 事を起こした当事者もほとんど助かってない。それだけ難しいんだよ。」
ここまで話を聞いても、オレ達三人は完全に置いてかれてた。
きょとんとするしかなかったわ。
だが、事態はまた一変した。
伯父「お母さん、どれだけやばいものかは何となくわかったでしょう。さっきも言いましたが、
 棒を動かしてさえいなければ何とかなりました。しかし、今回はだめでしょうな。」
B母「お願いします。何とかしてやれないでしょうか。私の責任なんです。どうかお願いします。」
Bのお母さんは引かなかった。一片たりともお母さんのせいだとは思えないのに、
自分の責任にしてまで頭を下げ、必死で頼み続けてた。
でも泣きながらとかじゃなくて、何か覚悟したような表情だった。
伯父「何とかしてやりたいのはわしらも同じです。
 しかし、棒を動かしたうえであれを見ちまったんなら……
 お前らも見たんだろう。お前らが見たのが大蛇に食われたっつう巫女だ。
 下半身も見たろ?それであの形の意味がわかっただろ?」
「…えっ?」
オレとAは言葉の意味がわからなかった。下半身?オレ達が見たのは上半身だけのはずだ。
A「あの、下半身っていうのは…?上半身なら見ましたけど…」
54:
それを聞いておっさんと葵が驚いた。
伯父「おいおい何言ってんだ?お前らあの棒を動かしたんだろ?
 だったら下半身を見てるはずだ。」
葵「あなた方の前に現われた彼女は、下半身がなかったのですか?では、腕は何本でしたか?」
「腕は六本でした。左右三本ずつです。でも、下半身はありませんでした。」
オレとAは互いに確認しながらそう答えた。
すると急におっさんがまた身を乗り出し、オレ達に詰め寄ってきた。
伯父「間違いねえのか?ほんとに下半身を見てねえんだな?」
オレ「は、はい…」
おっさんは再びBのお母さんに顔を向け、ニコッとして言った。
伯父「お母さん、何とかなるかもしれん。」
おっさんの言葉にBのお母さんもオレ達も、息を呑んで注目した。
二人は言葉の意味を説明してくれた。
葵「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、二つあります。
 やってはならないのは、巫女を表すあの形を変えてしまう事。
 見てはならないのは、その形が表している巫女の姿です。」
伯父「実際には棒を動かした時点で終わりだ。必然的に巫女の姿を見ちまう事になるからな。
 だが、どういうわけかお前らはそれを見てない。動かした本人以外も同じ姿で見える
 はずだから、お前らが見てないならあの子も見てないだろう。」
オレ「見てない、っていうのはどういう意味なんですか?オレ達が見たのは…」
葵「巫女本人である事には変わりありません。ですが、かんかんだらではないのです。
 あなた方の命を奪う意志がなかったのでしょうね。
 かんかんだらではなく、巫女として現われた。
 その夜の事は、彼女にとってはお遊戯だったのでしょう。」
56:
巫女とかんかんだらは同一の存在であり、別々の存在でもある…?という事らしい。
伯父「かんかんだらが出てきてないなら、今あの子を襲ってるのは葵が言うようにお遊び程度の
 もんだろうな。わしらに任せてもらえれば、長期間にはなるが何とかしてやれるだろう。」
緊迫していた空気が初めて和らいだ気がした。
Bが助かるとわかっただけで充分だったし、この時のBのお母さんの表情は本当に凄かった。
この何日かでどれだけBを心配していたか、その不安とかが一気にほぐれたような、そういう笑顔だった。
それを見ておっさんと葵も雰囲気が和らぎ、急に普通の人みたいになった。
伯父「あの子は正式にわしらで引き受けますわ。お母さんには後で説明させてもらいます。
 お前ら二人は、一応葵に祓ってもらってから帰れ。今後は怖いもの知らずもほどほどにしとけよ。」
この後Bに関して少し話したのち、お母さんは残り、オレ達はお祓いしてもらってから帰った。
この家の決まりだそうで、Bには会わせてもらえず、どんな事をしたのかもわからなかった。
転校扱いだったのか在籍してたのかは知らんが、これ以来一度も見てない。
まぁ死んだとか言うことはなく、すっかり更正して今はちゃんとどこかで生活してるそうだ。
ちなみにBの親父は一連の騒動に一度たりとも顔を出してこなかった。
どういうつもりか知らんが。オレとAもわりとすぐ落ち着いた。
理由はいろいろあったが、一番大きかったのはやっぱりBのお母さんの姿だった。
ちょっとした後日談もあって、たぶん一番大変だったはずだ。
母親ってのがどんなもんか、考えさせられた気がした。
それにこれ以来うちもAんとこも、親の方から少しづつ接してくれるようになった。
そういうのもあって、自然とバカはやらなくなったな。
58:
一応他にわかった事としては、
特定の日に集まってた巫女さんは相談役になった家の人。
かんかんだらは、危険だと重々認識されていながらある種の神に似た存在にされてる。
大蛇が山だか森だかの神だったらしい。
それで年に一回、神楽を舞ったり祝詞を奏上したりするんだと。
あと、オレ達が森に入ってから音が聞こえてたのは、かんかんだらは
柵の中で放し飼いみたいになってるかららしい。
でも六角形と箱のあれが封印みたいになってるらしく、
棒の形や六角形を崩したりしなければ姿を見せる事はほとんどないそうだ。
供養場所は何らかの法則によって、山や森の中の限定された一部分が指定されるらしく、
入念に細かい数字まで出して範囲を決めるらしい。
基本的にその区域からは出られないらしいが、柵などで囲んでる場合は
オレ達が見たみたいに外側に張りついてくる事もある。
わかったのはこれぐらい。
オレ達の住んでるとこからはもう移されたっぽい。二度と行きたくないから確かめてないけど、
一年近く経ってから柵の撤去が始まったから、たぶん今は別の場所にいるんだろな。
おしり
39:
姦姦蛇螺は、忘れたころによく読むが
なんか凄く悲しくなると言うか、巫女さんが可哀想過ぎる
売った村人に怒りを覚えるし、不思議と怖くはないんだよなぁ
163:
今さらだがカンカンダラの話で
『付きまとってた音が、策を越えてからパッタリ聞こえなくなった。』
→「もしかしてさぁ、そいつ…ずっとここに? それで近づけなかったんじゃ…」
の意味が分からないんだが
183:
>>163
図に書いて整理してみろ
188:
>>183
出来た
音が外でするのっておかしくね?
189:
>>188
なんか萌えた
36:
ヤマノケ
一週間前の話。
娘を連れて、ドライブに行った。
なんてことない山道を進んでいって、途中のドライブインで飯食って。
で、娘を脅かそうと思って舗装されてない脇道に入り込んだ。
娘の制止が逆に面白くって、どんどん進んでいったんだ。
そしたら、急にエンジンが停まってしまった。
山奥だからケータイもつながらないし、車の知識もないから
娘と途方に暮れてしまった。飯食ったドライブインも歩いたら何時間かかるか。
で、しょうがないからその日は車中泊して、次の日の朝から歩いてドライブインに行くことにしたんだ。
41:
車内で寒さをしのいでるうち、夜になった。
夜の山って何も音がしないのな。たまに風が吹いて木がザワザワ言うぐらいで。
で、どんどん時間が過ぎてって、娘は助手席で寝てしまった。
俺も寝るか、と思って目を閉じてたら、何か聞こえてきた。
今思い出しても気味悪い、声だか音だかわからん感じで
「テン(ケン?)・・・ソウ・・・メツ・・・」って何度も繰り返してるんだ。
最初は聞き間違いだと思い込もうとして目を閉じたままにしてたんだけど、
音がどんどん近づいてきてる気がして、たまらなくなって目を開けたんだ。
45:
そしたら、白いのっぺりした何かが、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいてくるのが見えた。
形は「ウルトラマン」のジャミラみたいな、頭がないシルエットで足は一本に見えた。
そいつが、例えるなら「ケンケンしながら両手をめちゃくちゃに振り回して
身体全体をぶれさせながら」向かってくる。
めちゃくちゃ怖くて、叫びそうになったけど、なぜかそのときは
「隣で寝てる娘がおきないように」って変なとこに気が回って、叫ぶことも逃げることもできないでいた。
そいつはどんどん車に近づいてきたんだけど、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった。
通り過ぎる間も、「テン・・・ソウ・・・メツ・・・」って音がずっと聞こえてた。
48:
音が遠ざかっていって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったから、ほっとして
娘の方を向き直ったら、そいつが助手席の窓の外にいた。
近くでみたら、頭がないと思ってたのに胸のあたりに顔がついてる。
思い出したくもない恐ろしい顔でニタニタ笑ってる。
俺は怖いを通り越して、娘に近づかれたって怒りが沸いてきて、「この野郎!!」って 叫んだんだ。
叫んだとたん、そいつは消えて、娘が跳ね起きた。
俺の怒鳴り声にびっくりして起きたのかと思って娘にあやまろうと思ったら、
娘が「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」
ってぶつぶつ言ってる。
51:
やばいと思って、何とかこの場を離れようとエンジンをダメ元でかけてみた。そしたらかかった。
急いで来た道を戻っていった。娘はとなりでまだつぶやいている。
早く人がいるとこに行きたくて、車を飛ばした。ようやく街の明かりが見えてきて、
ちょっと安心したが、娘のつぶやきが「はいれたはいれた」から「テン・・ソウ・・メツ・・」に
いつの間にか変わってて、顔も娘の顔じゃないみたいになってた。
家に帰るにも娘がこんな状態じゃ、って思って、目についた寺に駆け込んだ。
夜中だったが、寺の隣の住職が住んでるとこ?には明かりがついてて、
娘を引きずりながらチャイムを押した。
57:
住職らしき人が出てきて娘を見るなり、俺に向かって「何をやった!」って言ってきた。
山に入って、変な奴を見たことを言うと、残念そうな顔をして、気休めにしかならないだろうが、
と言いながらお経をあげて娘の肩と背中をバンバン叩き出した。
住職が泊まってけというので、娘が心配だったこともあって、泊めてもらうことにした。
娘は「ヤマノケ」(住職はそう呼んでた)に憑かれたらしく、
49日経ってもこの状態が続くなら一生このまま、正気に戻ることはないらしい。
住職はそうならないように、娘を預かって、何とかヤマノケを追い出す努力はしてみると言ってくれた。
妻にも俺と住職から電話して、なんとか信じてもらった。
住職が言うには、あのまま家に帰っていたら、妻にもヤマノケが憑いてしまっただろうと。
ヤマノケは女に憑くらしく、完全にヤマノケを抜くまでは、妻も娘に会えないらしい。
60:
一週間たったが、娘はまだ住職のとこにいる。
毎日様子を見に行ってるが、もう娘じゃないみたいだ。
ニタニタ笑って、なんともいえない目つきで俺を見てくる。
早くもとの娘に戻って欲しい。
遊び半分で山には行くな。
63:
俺の地元に子供(10歳未満?)専用の墓地がある。
子供の日にはお菓子やジュースを地元の人達がお供えするんだけど
何故か子供の家族はいないと言うか誰の子供か皆知らない。
何故子供の墓だけなのか何故地元の人達がお供えするのか不思議
別に怖い話じゃないけどなwwww
今でも年に2?3人ずつ増えてるらしい
65:
>>63
そういう奇妙な話ってビクッとするよね、ありがとう
70:
>>65
ちょっとつけたすと地元(200件位の集落?村?)は
座敷わらしがよくでるって昔テレビでやってた。
その墓地の話は一切ふれてないけどwwww
61:
邪視
これは俺が14歳の時の話だ。
冬休みに、N県にある叔父(と言ってもまだ当時30代)の別荘に遊びに行く事になった。
本当は彼女と行きたかったらしいが、最近別れたので俺を誘ったらしい。
小さい頃から仲良くしてもらっていたので、俺は喜んで遊びに行く事になった。
叔父も俺と同じ街に住んでおり、早朝に叔父が家まで車で迎えに来てくれて、そのまま車で出発した。
叔父は中々お洒落な人で、昔から色んな遊びやアウトドア、音楽、
等等教えてもらっており、尊敬していた。
車で片道8時間はかかる長旅だったが、車内で話をしたり音楽を聞いたり、
途中で休憩がてら寄り道したり、本当に楽しかった。
やがて目的地近辺に到着し、スーパーで夕食の食材を買った。
そして、かなりの山道を登り、別荘へ。
それほど大きくはないが、木造ロッジのお洒落な隠れ家的な印象だった。
少し下がった土地の所に、2?3他の別荘が見える。人は来ていない様子だった。
夕食は庭でバーベキューだった。普通に安い肉だったが、やっぱり炭火で焼くと美味く感じる。
ホルモンとか魚介類・野菜も焼き、ホントにたらふく食べた。
白飯も飯盒で炊き、最高の夕食だった。
食後は、暖炉のある部屋に行き、TVを見たりプレステ・スーファミ・ファミコンで遊んだり。
裏ビデオなんかも見せてもらって、当時童貞だったので衝撃を受けたもんだった。
深夜になると、怖い話でも盛り上がった。叔父はこういう方面も得意で、本当に怖かった。
機会があればその話も書きたいが…
ふと、叔父が思い出した様に「裏山には絶対に入るなよ」と呟いた。
何でも、地元の人でも滅多に入らないらしい。マツタケとか取れるらしいが。
関係ないかもしれないが、近くの別荘の社長も、昔、裏山で首吊ってる、と言った。
いや、そんな気味悪い事聞いたら絶対入らないし、とその時は思った。
そんなこんなで、早朝の5時ごろまで遊び倒して、やっとそれぞれ寝ることになった。
67:
部屋に差し込む日光で目が覚めた。時刻はもう12時を回っている。
喉の渇きを覚え、1階に水を飲みに行く。
途中で叔父の部屋を覗くと、イビキをかいてまだ寝ている。
寒いが、本当に気持ちの良い朝だ。
やはり山の空気は都会と全然違う。自分の部屋に戻り、ベランダに出て、椅子に座る。
景色は、丁度裏山に面していた。別になんて事はない普通の山に見えた。
ふと、部屋の中に望遠鏡がある事を思い出した。
自然の景色が見たくなり、望遠鏡をベランダに持ってくる。
高性能で高い物だけあって、ホントに遠くの景色でも綺麗に見える。
町ははるか遠くに見えるが、周囲の山は木に留ってる鳥まで見えて感動した。
30分くらい夢中で覗いていただろうか?丁度裏山の木々を見ている時、視界に動くものが入った。
人?の様に見えた。背中が見える。頭はツルツルだ。
しきりに全身を揺らしている。地元の人?踊り?
手には鎌を持っている。だが異様なのは、この真冬なのに真っ裸と言う事。
そういう祭り?だが、1人しかいない。
思考が混乱して、様々な事が頭に浮かんだ。背中をこちらに向けているので、顔は見えない。
その動きを見て、何故か山海塾を思い出した。
「これ以上見てはいけない」
と本能的にそう感じた。人間だろうけど、ちょっとオカシな人だろう。
気持ち悪い。 だが、好奇心が勝ってしまった。望遠鏡のズームを最大にする。
ツルツルの後頭部。色が白い。
ゾクッ、としたその時、ソイツが踊りながらゆっくりと振り向いた。
恐らくは、人間と思える顔の造形はしていた。鼻も口もある。
ただ、眉毛がなく、目が眉間の所に1つだけついている。縦に。
体が震えた。1つ目。奇形のアブナイ人。ソイツと、望遠鏡のレンズ越しに目が合った。
口を歪ませている。笑っている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目が合った瞬間、叫んでいた。涙が止まらない。
とにかく、死にたい。異常なまでの鬱の様な感情が襲ってきた。
死にたい死にたい…半狂乱で部屋を駆け回っていると、叔父が飛び込んで来た。
74:
「どうした!?」
「バケモン!!」
「は?」
「望遠鏡!!裏山!!」
叔父が望遠鏡を覗きこむ。
「??????ッ」
声にならない唸りを上げ、頭を抱え込む。鼻水を垂らしながら泣いている。
さっきよりは、少し気持ちの落ち着いた俺が聞いた。
「アレ何だよ!!」
「00子? 00子?」
別れた彼女の名前を叫びながら、泣きじゃくる叔父。
流石にヤバイと思い、生まれて初めて平手で思いっきり、人の顔をはたいた。
体を小刻みに揺らす叔父。10秒、20秒…叔父が俺を見つめてきた。
「邪視」
「じゃし?」
「いいか、俺の部屋の机の引き出しに、サングラスがあるから持ってこい。お前の分も」
「なんで(ry」
「いいから持ってこい!!」
俺は言われるままに、サングラスを叔父に渡した。
震える手で叔父はサングラスをかけ、望遠鏡を覗く。
しばらく、望遠鏡を動かしている。
「ウッ」と呻き、俺に手招きをする。「グラサンかけて見てみろ」。
恐る恐る、サングラスをかけ、覗き込む。
グラサン越しにぼやけてはいるが、木々の中のソイツと目が合った。
言い様の無い不安がまた襲ってきたが、さっきほどでは無い。
だが心臓の鼓動が異常に早い。と言うか、さっきの場所では無い…
ソイツはふにゃふにゃと奇妙な踊り?をしながら動いている。
目線だけはしっかりこちらに向けたまま…山を降りている!?まさかこっちに来ている…!?
82:
「00、お前しょんべん出るか?」
「は?こんな時に何を…」
「出るなら、食堂に空きのペットボトルあるから、それにしょんべん入れて来い」
そう言うと、叔父は1階に降りていった。こんな時に出るわけないので、呆然としていたら
数分後、叔父がペットボトルに黄色のしょんべんを入れて戻ってきた。
「したくなったら、これに入れろ」
と言い、叔父がもう1つの空のペットボトルを俺に差し出した。
「いや、だからアイツ何?」
「山の物…山子…分からん。ただ、俺がガキの頃、よく親父と山にキャンプとか行ってたが、
 あぁ、あそこの裏山じゃないぞ?山は色んな奇妙な事が起こるからな…
 夜でも、テントの外で人の話し声がするが、誰もいない。
 そんな時に、しょんべんとか撒いたら、不思議にピタッと止んだもんさ…」
そう言うと叔父は、もう一度望遠鏡を覗き込んだ。
「グウッ」と苦しそうに呻きながらも、アイツを観察している様子だ。
「アイツな。時何Kmか知らんが、本当にゆっくりゆっくり移動している。
 途中で見えなくなったが… 間違いなく、このロッジに向かってるんじゃないのか」
「じゃあ、早く車で戻ろうよ」
「多分、無駄だ…アイツの興味を俺たちから逸らさない限りは…多分どこまでも追ってくる。
 これは一種の呪いだ。邪悪な視線、と書いて邪視と読むんだが…」
「さっき言ってたヤツか…でも何でそんなに詳しいの?」
「俺が仕事で北欧のある街に一時滞在してた時…イヤ、俺らが助かったら話そう」
「助かったらって…アイツが来るまでここにいるの?」
「いいや、迎え撃つんだよ」
90:
俺は絶対にここに篭っていた方が良いと思ったが、
叔父の意見はロッジに来られる前に、どうにかした方が良い、と言う物だった。
あんな恐ろしいヤツの所にいくなら、よっぽど逃げた方がマシだと思ったが、
叔父さんは昔からいつだって頼りになる人だった。
俺は叔父を尊敬しているし、従う事に決めた。
それぞれ、グラサン・ペットボトル・軽目の食料が入ったリュック
手持ちの双眼鏡・木製のバット・懐中電灯等を持って、裏山に入っていった。
暗くなる前にどうにかしたい、と言う叔父の考えだった。
果たしてアイツの視線に耐えられるのか?
望遠鏡越しではなく、グラサンがあるとはいえ、間近でアイツに耐えられるのか?
様々な不安が頭の中を駆け巡った。
裏山と言っても、結構広大だ。双眼鏡を駆使しながら、アイツを探しまわった。
叔父いわく、アイツは俺らを目標に移動しているはずだから、いつか鉢合わせになると言う考えだ。
あまり深入りして日が暮れるのは危険なので、ロッジから500mほど進んだ、
やや開けた場所で待ち伏せする事になった。
「興味さえ逸らせば良いんだよ。興味さえ…」
「どうやって?」
「俺の考えでは、まずどうしてもアイツに近づかなければならない。だが直視は絶対にするな。
 斜めに見ろ。言ってる事分かるな?目線を外し、視線の外で場所を捉えろ。
 そして、溜めたしょんべんをぶっかける。それでもダメなら…
 良いか?真面目な話だぞ?俺らの股間を見せる」
「はぁ?」
「邪視ってのはな、不浄な物を嫌うんだよ。糞尿だったり…
 だから、殺せはしないが、それでアイツを逃げされる事が出来たのなら、俺らは助かると思う」
「…それでもダメなら?」
「…逃げるしかない。とっとと車で」
俺と叔父さんは、言い様のない恐怖と不安の中、ジッと岩に座って待っていた。
交代で双眼鏡を見ながら。時刻は4時を回っていた。
96:
「兄ちゃん、起きろ」
俺が10歳の時に事故で亡くなった、1歳下の弟の声が聞こえる。
「兄ちゃん、起きろ。学校遅刻するぞ」
うるさい。あと3分寝かせろ。
「兄ちゃん、起きないと 死 ん じ ゃ う ぞ ! !」
ハッ、とした。寝てた??あり得ない、あの恐怖と緊張感の中で。眠らされた??
横の叔父を見る。寝ている。急いで起こす。叔父、飛び起きる。
腕時計を見る、5時半。辺りはほとんど闇になりかけている。冷汗が流れる。
「00、聴こえるか?」
「え?」
「声…歌?」
神経を集中させて耳をすますと、右前方数m?の茂みから、声が聞こえる。
だんだんこっちに近づいて来る。民謡の様な歌い回し、何言ってるかは分からないが不気味で高い声。
恐怖感で頭がどうにかなりそうだった。声を聞いただけで世の中の、何もかもが嫌になってくる。
「いいか!足元だけを照らせ!!」
叔父が叫び、俺はヤツが出てこようとする、茂みの下方を懐中電灯で照らした。
足が見えた。毛一つ無く、異様に白い。体全体をくねらせながら、近づいてくる。
その歌のなんと不気味な事!!一瞬、思考が途切れた。
99:
「あぁぁっ!!」
「ひっ!!」
ヤツが腰を落とし、四つんばいになり、足を照らす懐中電灯の明かりの位置に、顔を持ってきた。
直視してしまった。
昼間と同じ感情が襲ってきた。死にたい死にたい死にたい!
こんな顔を見るくらいなら、死んだ方がマシ!!
叔父もペットボトルをひっくり返し、号泣している。
落ちたライトがヤツの体を照らす。意味の分からないおぞましい歌を歌いながら、
四つんばいで、生まれたての子馬の様な動きで近づいてくる。
右手には錆びた鎌。よっぽど舌でも噛んで死のうか、と思ったその時、
「プルルルルッ」
叔父の携帯が鳴った。号泣していた叔父は、何故か放心状態の様になり、
ダウンのポケットから携帯を取り出し、見る。
こんな時に何してんだ…もうすぐ死ぬのに…と思い、薄闇の中、呆然と叔父を見つめていた。
まだ携帯は鳴っている。プルルッ。
叔父は携帯を見つめたまま。ヤツが俺の方に来た。恐怖で失禁していた。死ぬ。
その時、叔父が凄まじい咆哮をあげて、地面に落ちた懐中電灯を取り上げ、
素早く俺の元にかけより、俺のペットボトルを手に取った。
「こっちを見るなよ!!ヤツの顔を照らすから目を瞑れ!!」
俺は夢中で地面を転がり、グラサンもずり落ち、頭をかかえて目をつぶった。
ここからは後で叔父に聞いた話。まずヤツの顔を照らし、視線の外で位置を見る。
少々汚い話だが、俺のペットボトルに口をつけ、しょんべんを口に含み、
ライトでヤツの顔を照らしたまま、しゃがんでヤツの顔にしょんべんを吹きかける瞬間、目を瞑る。
霧の様に吹く。
ヤツの馬の嘶きの様な悲鳴が聞こえた。
さらに口に含み、吹く。吹く。ヤツの目に。目に。
106:
さっきのとはまた一段と高い、ヤツの悲鳴が聞こえる。だが、まだそこにいる!!
焦った叔父は、ズボンも下着も脱ぎ、自分の股間をライトで照らしたらしい。
恐らく、ヤツはそれを見たのだろう。
言葉は分からないが、凄まじい呪詛の様な恨みの言葉を吐き、くるっと背中を向けたのだ。
俺は、そこから顔を上げていた。叔父のライトがヤツの背中を照らす。
何が恐ろしかったかと言うと、ヤツは退散する時までも、不気味な歌を歌い、
体をくねらせ、ゆっくりゆっくりと移動していた!!
それこそ杖をついた、高齢の老人の歩行度の如く!!
俺たちは、ヤツが見えなくなるまでじっとライトで背中を照らし、見つめていた。
いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら…
永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。
俺たちはロッジに戻るまで何も会話を交わさず、黙々と歩いた。
中に入ると、叔父は全てのドアの戸締りを確認し、コーヒーを入れた。飲みながら、やっと口を開く。
「あれで叔父さんの言う、興味はそれた、って事?」
「うぅん…恐らくな。さすがに、股間は惨めなほど縮み上がってたけどな」
苦笑する叔父。やがて、ぽつりぽつりと、邪視の事について語り始めてくれた…
109:
叔父は、仕事柄、船で海外に行く事が多い。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
叔父が北欧のとある街に滞在していた、ある日の事。
現地で仲良くなった、通訳も出来る技術仲間の男が、面白い物を見せてくれると言う。
叔父は人気の無い路地に連れて行かれた。ショーとかの類かな、と思っていると、
路地裏の薄汚い、小さな家に通された。叔父は中に入って驚いた。
外見はみすぼらしいが、家の中はまるで違った。
一目で高級品と分かる絨毯。壺。貴金属の類…香の良い香りも漂っている。
わけが分からないまま、叔父が目を奪われていると、奥の小部屋に通された。
そこには、蝋燭が灯る中、見た目は60代くらいの男が座っていた。
ただ異様なのは、夜で家の中なのにサングラスをかけていた。
現地の男によれば「邪視」の持ち主だと言う。
邪視(じゃし)とは、世界の広範囲に分布する民間伝承、迷信の一つで、
悪意を持って相手を睨みつける事によって、対象となった被害者に呪いを掛ける事が出来るという。
イビルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。
邪視の力によっては、人が病気になり衰弱していき、ついには死に至る事さえあるという。
叔父は、からかい半分で説明を聞いていた。この男も、そういう奇術・手品師の類であろうと。
座っていた男が、現地の男に耳打ちした。
男曰く、信じていない様子だから、少しだけ力を体験させてあげよう、と。
叔父は、これも一興、と思い、承諾した。また男が現地の男に耳打ちする。
男曰く、
「今から貴方を縛りあげる。誤解しないでもらいたいのは、それだけ私の力が強いからである。
 貴方は暴れ回るだろう。私は、ほんの一瞬だけ、私の目で貴方の目を見つめる。
 やる事は、ただそれだけだ」
120:
叔父は、恐らく何か目に恐ろしげな細工でもしているのだろう、と思ったという。
本当に目が醜く潰れているのかもしれないし、カラーコンタクトかもしれない。
もしくは、香に何か幻惑剤の様な効果が…と。縛られるのは抵抗があったが、
友人の現地の男も、本当に信頼出来る人物だったので、応じた。
椅子に縛られた叔父に、男が近づく。友人は後ろを向いている。
静かに、サングラスを外す。叔父を見下ろす。
「ホントにな、今日のアイツを見た時の様になったんだ」
コーヒーをテーブルに置いて、叔父は呟いた。
「見た瞬間、死にたくなるんだよ。瞳はなんてことない普通の瞳なのにな。
 とにかく、世の中の全てが嫌になる。見つめられたのはほんの、1?2秒だったけどな。
 何かの暗示とか、催眠とか、そういうレベルの話じゃないと思う」
友人が言うには、その邪視の男は、金さえ積まれれば殺しもやるという。
現地のマフィア達の抗争にも利用されている、とも聞いた。
叔父が帰国する事になった1週間ほど前、邪視の男が死んだ、という。
所属する組織のメンツを潰して仕事をしたとかで、抹殺されたのだという。
男は娼婦小屋で椅子に縛りつけれれて死んでいた。床には糞尿がバラ巻かれていたと言う。
男は、凄まじい力で縄を引きちぎり、自分の両眼球をくり抜いて死んでいたという。
122:
「さっきも言った様に、邪視は不浄な物を嫌う。
 汚物にまみれながら、不浄な物でも見せられたのかね」
俺は、一言も発する気力もなく、話を聞いていた。
さっきの化け物も、邪視の持ち主だっという事だろうか。
俺の考えを読み取ったかのように、叔父は続けた。
「アイツが本当に化け物だったのか、ああいう風に育てられた人間なのかは分からない。
 ただ、アイツは逃げるだけじゃダメな気がしてな…だから死ぬ気で立ち向かった。
 カッパも、人間の唾が嫌いとか言うじゃないか。案外、お経やお守りなんかよりも、
 人間の体の方がああいうモノに有効なのかもしれないな」
俺は、話を聞きながら弟の夢の事を思い出して、話した。
弟が助けてくれたんじゃないだろうか…と。
俺は泣いていた。叔父は神妙に聞き、1分くらい無言のまま、やがて口を開いた。
「そういう事もあるかもしれないな…00はお前よりしっかりしてたしな。
 俺の鳴った携帯の事、覚えてるか?あれな、別れた彼女からなんだよ。
 でもな、この山の周辺で、携帯通じるわけねぇんだよ。見ろよ。今、アンテナ一本も立ってないだろ?
 だから、そういう事もあるのかも知れないな…今すぐ、山下りて帰ろう。
 このロッジも売るわ。早く彼女にも電話したいしな」
叔父は照れくさそうに笑うと、コーヒーを飲み干し立ち上がった。
邪視 終わり
137:
巣くうもの
128 1/5 sage 2009/02/28(土) 22:08:06 ID:+BuEMFrL0
洒落コワはここでいいのか?
何年か前にあった怖い話を投下する。
そん時は俺は地方大学の学生で、同じ科の連中とグループでよく遊んでた。
たまに混ざる奴もいて、男4?6人で女4人。
一人暮らしの奴の部屋で集まって飲んでると、よく怪談したがる女の子がいた。
決まって嫌な顔する子も居て、Aとする。
こっちの子が俺とかなり仲良かった。
怪談好きな方をBとするが、Bも別に電波とかじゃなくて、
怪談も体験談はなくて、それこそこのスレで面白い話を仕込んできてんじゃないか、
みたいな怖い話をする子で、本当は幽霊とか信じてなさそうだった。
むしろAの方が「見えるんだ」と言ってて、AはいつもBを避けてる感じだった。
2人で遊ぶとかは絶対ないし、グループでも距離を開けたがってる雰囲気で、
俺とあと一人、Aの「見える」を聞いて信じてる奴(Cとする)は、
本当に霊感があったら遊びで怪談するなんて嫌なのかもしれない、と思ってた。
ある日、Bと仲のいい男の一人が、恐怖スポットの話を仕入れてきてた。
車で30分くらいで行ける場所にあるそうで、Bも他の連中も面白がって、
その場で肝だめしツアー決定。
来てない他の連中も呼び出そうってことになって、俺はAに電話した。
俺自身は行く気だったけどAは来ないだろうな、と思い、
「これから??の辺りに行くってことになったんだ。ただ、肝試しだし他にも来ない奴いると思うし」
と言った。そしたら、Aは遮るように
「それって、何か大きな空き家のこと?その辺りで肝試しって」
「あ、そう。その家の裏に何かあるらしいから」
「………よした方が良くない?ってか、やめなよ。誰かの家で飲んで怪談したらいいじゃん、
 わざわざ行かなくても」
よりによってAに怪談話を進められて少し驚いたが、仲間たちは既にノリノリで準備中。
「いや……みんな行く気だし。Aは気が進まないなら、今回は外していいと思うけど」
するとAは少し黙って、
「………Bは行くの?」
「行くよ。一番、やる気満々だし」
「……そうなんだ……じゃ、私も行くから、ちょっと待ってて」
たまげたことに、Aは本当に来てBと一緒に車に乗った。
結局これない奴も居て、総勢6人で、一台(ワゴン)に乗って出発した。
Bは少しKYなとこがあって、Aに距離置かれてるのもあんまり解ってないっぽく、
車中で初めは面白そうにお喋りし続けてたが、すぐに欠伸をし始めた。
「バイトとかで疲れてんのかなー。眠い?」
眠そうに呟くBに、Aが
「寝てなよ。着いたら起こしたげる」
「ありがと。ごめん、少しだけ寝る」
Bは運転してる奴に断ってうとうとし始め、Aは黙って窓の外を見てた。
154:
で。着いたときもBは起きなくて、もはや完全に熟睡。
てか爆睡、「寝かしとく?」って俺らが顔を見合わせたら、
Aが「連れてくね。後で怒るよ、置いてったら」
ってBを担ぎ起こして、強引に車から出したんだよ。
仕方ないからCが背負ってやったんだけど、AはBの手を掴んでて、
他の車の奴らが降りてきたら、一番先頭に立って歩いてった。
そこにあった古い家は、普通に不気味な空き家で、皆は結構もりあがって、
「うわー」とか言ってた。Bは起きないまま。 AはBの手を掴んだまま。
いよいよ本番で、家の後ろに回ったら、何かぽつんと古井戸みたいなもんがあった。
近寄ってのぞいて見ると、乾いた井戸の中に、ちっちゃな和式の人形の家みたいなもんが見えた。
「何だー?」って一人が身を乗り出したのと、
Aが「さがってっ!」て叫んだのが同時だった。
覗いた奴がびびって身体ひっこめた、
そのすぐ後に、「カシャ……」だか「ズシャ……」だか、何か金属っぽいような小さな音がした。
「下がって!下がって!こっち来てっ!」
Aが喚き出すまでもなく、もう何か、すごい嫌な感じが一杯だった。
カシャカシャ、ガシャズシャ、て変なジャリジャリした音が、
しかもどんどん増えながら来るんだよ。
その訳解らん井戸の中から、こ っ ち に む か っ て 。
もう逃げたいのに身体が動かなくて、横見たらやっぱり仲間がへたってるし、
音は近づいてきて、姿は見えないけど絶対に何か居たと思う。
「俺君、もっとこっち来て!!!!」
Aが怒鳴りながら俺の手を掴んで、何かを掴ませた。
俺が掴んだのを見たAは、今度は少し横でヘタってる奴を必死で引っ張って、
また何かをつかませてる。
てか、よく見たら、俺が掴んでるのはBの右足。さっきの奴が掴んだのはBの左手。
Bの右手はAが掴んでる。Cは相変わらずBをおぶってる。
AはBから手を離さずに必死に他の仲間を引っ張り寄せてた。
165:
その後のことは、色々とよく解らなかった。
ただハッキリ覚えてるのは、気がついたら、目の前に何かがいたこと。
白いんだかグレーなんだか透明なんだか、煙なんだか人影なんだか、
何か良く解らない「何か」が俺らの前に居た。
ちょうどその辺りから、ガシャガシャガシャガシャガシャ、ズシャズシャズシャズシャズシャ、
みたいな金属音が耳一杯に響いてきてた。
いや、こう書くとその煙みたいなもんが金属音立ててたみたいだけど、そうじゃなかった。
俺らは「煙か人影みたいなもん」の背中を見てて、
それが「見えない金属音の奴」とぶつかり合って止めてるんだって、そういう光景だった。
「俺君、C君、動ける?逃げよ!!く逃げようよ!」
Aが叫んで、俺らは必死で身体を動かして車へ向かって、何とか乗り込んで逃げ出した。
Cがハンドルを握る車の中で俺が振り返ったとき、もう何も見えなかったけど、
金属音だけは結構長いこと耳に残ってた。
その後。結局帰り着くまで熟睡こいてたBに「何も出なかったから起こさなかった」と
説明して帰らせた後、皆で震えながら明け方まで飲んだ。
数日後にAを捕まえて経緯を聞いたら、げんなりした顔でいろいろ教えてくれた。
あの古井戸がマジで危ない本物だったのは予想通り。
「家の正面に居る分には大丈夫だけど、裏に回って井戸まで見たらダメ」だそうだった。
問題は俺らを助けてくれた妙な影なんだけど、Aは凄い嫌な顔で、
「あれはBの……何ていうか、ついてるものなの」と言った。
AがBを避けてたのは、嫌いだからじゃないそうだった。
ただ、Bに纏わりついてるものがいて、それが凄く強くて薄気味悪いものだったんだと。
で、初めはBに取りついてる霊か、と考えたがどうしても違和感があって。
ある日、Bから出てくる『それ』を見て、不意に気づいたんだそうだ。
『それ』は『Bの中』にいるんだと。
「……Bがあれのいる世界に繋がってて出入り口になってるのか、
 それともB自体があれの棲む場所なのか、どっちかだと思う」
Aもよくは解らないようで、とにかくそれはBから出てきてまた戻っていくんだと言っていた。
他の霊的なものは全部Bを避けるそうで、多分あれのせいで近寄れないんだとも。
180:
「あれは私たちを守ったんじゃないし、Bのことも大事だとかじゃないと思う。
 ただ、ドアとか家が壊れたら困るでしょ。だから」
何とかした方がいいのか、と思っても、Bは本気では霊を信じていないようだったし、
普通の霊じゃないから払えるとも思えなかった。
だから放っておいたけど、自分は近寄りたくなかったんだ、とAは言った。
ただ、『それ』がBを深刻な危険から守っているのは知っていた。
そして、あの日俺らが本当に危ない場所に行くと感じて、
止められないならBの中に居る『それ』に守ってもらうしかない、と考えてついてきたのだという。
「あれが守るのはBだけだからね。少しでも離れたら、
 井戸から来てた方に憑かれて人生終わってたよ。俺君も、他の皆も」
言われて背筋が寒くなったのを紛らそうとして、
「……でも、何だろうな?Bについてるのって。結構よくないか?結局守ってくれるんなら」
そう言ったら、Aは羨むような蔑むような複雑な眼を向けてきた。
「あのね俺君。お腹に住みついた寄生虫が孵化するまでは守ってくれるって言ったら、それって嬉しい?」
「……」
……何となく、言いたいことが解った。
Bに巣くってるモノは、とにかく自分だけの都合でBの中に居座ったり顔を出したり
するわけで、ひょっとしたらBから何かを奪ってるのかもしれないわけで。
いつか自分の都合でBをぶち破って出て行ったりするかもしれないわけで、
その時には周りにも影響するかもしれないわけで、
しかもBは本気で何ひとつ全く気づいていないわけで。
「放っとくしかないんだよね」
そう言ってAはため息をついた。
「井戸から出てきた方も、凄かった。神様が最悪の状態になったみたいな感じだった。
並みの霊能者とかじゃ負けちゃうだろうって思うくらいの奴だった。
あんなのと渡り合える、Bの『あれ』も、どうせ何やってもどうもできない」
133 6/5 sage 2009/02/28(土) 22:19:22 ID:+BuEMFrL0
収まりきらなかったorz
それから時間が経って、俺もAもBも社会人。
ふと思い出したんで、投下しました。
ちなみに、理由はBから連絡あったから。
結婚した上に子供も生まれて元気にやってるそうです。
Aに電話してそう言ったら、
「Bが寿命になるまで、あれが大人しくしててくれたら、それが一番いいよね」
と言ってたところからして、Aは、Bが今もあれを背負ってると確信してるようです。
普通の霊と違う、そして人間の『中』に居る『何か』って、何なんでしょうね?
いや、井戸の底のミニハウスから来た金属音も気になりますが。
どっちでもいいんで、誰か心当たりでもあったら、教えて下さい。
長文すみません。以上です。
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