佐藤心「少女の夢を応援していた一人の男の話」back

佐藤心「少女の夢を応援していた一人の男の話」


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アイドルマスターシンデレラガールズです。
佐藤心さんのお話ですが、あまり出てきません。
2:
 容赦という言葉を忘れてしまったかのように照り付ける太陽の下、俺はヘルメットを脱ぎ頭を豪快にタオルで拭った。
「あっちぃ……」
 もう何年もこの仕事をしていると言うのに、いつまで経っても夏の暑さに慣れる事は無いようだ。
 バイクの後ろに取り付けられた箱から水筒を取り出し、冷たく澄んだ水を一口。汗を拭き、水を一口飲むだけでほんのわずかな間ではあるが暑さを忘れられる。
「……行くか」
 これ以上バイクを停めていてはサボっていると勘違いされかねない。
 暑さに辟易としながらも、ヘルメットを被り、再びバイクに跨って走り出した。左手には郵便を持って。
「夏になると思い出しちまうな」
 もう10年近く前になるだろうか。あの夏、俺は一人の少女と出会った。長い髪のとても綺麗な少女の事を。
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3:

「なぁ、お前のとこの配達先にめっちゃ美人が居るんだって?」
「あー。居るらしいっすね。俺はまだ見た事ないんですけど」
 俺が郵便局で働きだして間もない頃、やっと配達先を覚えたあたりで同じ班の同僚から美人の噂を聞いた事があった。
「見た事ないのかよ、じゃあどれくらい美人かわかんねぇな」
 俺にそう声をかけてきたのは他班の先輩社員だった。彼と俺は歳が近い事もあって、昼休憩にはこういう世田話をしているのだ。
「そっすね。でもみんな美人って言うんでたぶん相当なんじゃないかなって思ってます」
 噂なんてものは尾ひれがつくものだから、同じ班の同僚がなんと言おうが実際はそうでもないだろうってのが俺の見立てだ。それでも周りに合わせておくに限る。その方が楽だしな。
「めっちゃ羨ましいわ。俺のとこなんてそもそも若い子が居ねぇし」
「まぁ、田舎っすからねぇ……」
「もし見かけたら絶対に教えろよ。マジで美人だったらメアド聞いといてくれ」
 冗談半分、本気半分ってとこだろうか。この仕事をしていると女性との出会いはそうそう無いから彼の言葉は案外本気なのかも知れない。
「うっす。善処します」
「それやんねぇ奴だよな」
「かもしれないっすね」
 どうせ彼も俺も昼の配達に出るころには忘れている。確かに配達先で美人を見かけるとその日一日が得した気分になるのは間違いないが、わざわざ探すほど俺達は暇ではない。
 顔をあげて壁にかかった時計を見て時間を確認する。昼休憩が残りわずかな事を彼にも伝えると彼は慌てて手にしていたおにぎりを口の中に放り込んでいた。
4:

 そろそろ配達も終盤、あとはこの通りを配れば郵便局に戻れると言う時だった。とある家の前に人影が、一人の女性が立っているのが遠目に見えたのだ。
 遠目からでも女性だとわかったのはその人影が長い髪をしていたからだった。
 この時、俺は内心めんどくさいなと思っていた。郵便はポストに入れた方が早いのだが、大事なお客様と顔を合わせたなら名前を確認して手渡ししないと、やれ態度が悪いだのやれ雑だだのとのありがたいお言葉を頂戴するハメになるからだ。
 バイクで近づくにつれ、件の女性が思ったよりも若い、というか制服を着ている事から学生さんであることが分かった。そして、この学生さんが同僚が噂していた美人だという事も分かった。
「こんにちはー、郵便局です。佐藤さんでお間違いないですか?」
「はい! 佐藤です!」
 彼女はどうやら郵便を待っていたのだろう。俺が来ると彼女は食い気味に手を差し出してきた。
「えっと……今日はこちらですね」
「ありがとうございます!」
 なるほど。これは確かにかなりの美人だ。でも、このくらいの歳なら美人よりも美少女だろうか。髪はサラサラのストレートで、顔つきは年相応に可愛らしい。しかもスタイルも抜群だ。これなら遠目からはかなり大人びて見えるだろう。
5:
「あの……」
「あ、はい。なんでしょうか?」
 どうやら俺がジロジロ見ていたのが気になったようだ。確かに見ず知らずの男に頭の上からつま先まで見られて気分の良い物ではないな。
「これだけ、ですか……? 書留とかって……」
 しかし、彼女の口から発せられたのは、俺が勝手に反省していたのとはまったく違う問いかけだった。
「え? すみません、ちょっとお待ちください」
 佐藤さんの家の郵便物は渡したもので全てだった気がするが、念のため俺はバイクを降りて後ろの箱と腰にぶら下げた鞄の中も確認してみた。
「えー……。いや、今日はそれで全部だと思うんですけど……」
「そう……ですか……」
 これは嫌な予感がする。どうやら彼女はただ郵便を待っているだけではなさそうだ。もしかしたら郵便が届かないなんて話かも知れない。
 郵便が届かないって話であれば、その郵便がどこにあるのか一応調べなくてはならない。これが結構めんどくさいので、出来るなら避けたいとこではあるが。
「えっと、もしかして郵便が届かない、とかですか? その郵便がいつ出されたとかってわかりますか?」
 仕事を真面目にこなしている俺としてはこの場で出来る事はやっておくべきなのだろう。
「あ、いえ! すみません。そうじゃなくて、結果が届くのを待ってて……」
 なるほど。大体の予想はついた。夏休み前のこの時期だ。模試の結果とかそういうのを待っているのだろう。
6:
「あー、なるほど。いつ頃届くとかって聞いてますか?」
 俺が尋ねると彼女は首を左右に振った。サラサラの長い髪が首に合わせて動くのに思わず見惚れてしまいそうになってしまった。
「えーっと……。すみません、今日は佐藤さんのところの郵便は渡したそれで全部です」
「そうですか……。ありがとうございます。引き留めちゃってごめんなさい」
「いえ、気にしないでください。何かあればまたお声かけください」
 きっとその結果とやらは彼女にとって非常に大切なものなのだろう。だからわざわざ俺に声をかけてまで確認をしたかったんだろうな、などと考えつつバイクに跨った時だった。
「あの! 明日っていつ頃来ますか?」
「えーっと……確実な事は言えないんですけど、大体このくらいの時間には回らせてもらってます」
「わかりました。お仕事頑張ってください、郵便屋さん」
「はい! ありがとうございます!」
 アクセルを回しバイクを動かすと、彼女が家の中へ入っていく所がミラー越しに見えた。どことなく落ち込んだような表情をしていた気もするが、きっと俺の気のせいだろう。
7:

「ん……。これか?」
 彼女と会った翌日、俺が書留を確認していると彼女の家に一通来ているのを発見した。ひっくり返して差出人を見てみるとなんとかって事務所からだった。
「結果って言ってたし、これ……ではないか。ま、持って行けばわかるだろ」
 確認を終えた書留を鞄にしまい、配達へと出発する。この時間に出発できればきっと昨日と同じくらいの時間に彼女の家まで行けるだろう。
 なんて安易に考えていたのだが、この日は思ったよりも配達に手こずってしまった。途中、顔なじみのばあさんに声をかけられて世間話にも付き合わされてしまったし。
「ん?」
 昨日よりも30分ほど遅れて彼女の家の付近に辿り着くと、彼女の家の前にジャージ姿の誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。きっと暑かったのだろう。昨日はおろしていた髪が今日はポニーテールになっていた。
「こんにちは、郵便局です。遅くなって申し訳ありません」
「お疲れ様です!」
 バイクの音が聞こえたのだろう。俺が佐藤さんの家の前に着く時には彼女は立ち上がって飛び切りの笑顔を浮かべてくれた。こんな笑顔を向けられたら大抵の男はコロッといってしまうだろうな。
「えーっと、今日は書留が届いてるんですが、ハンコかサインお願い出来ますか?」
「はい。サインで良いですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
8:
 腰につけた鞄から例の書留を取り出しつつ、気付かれないように彼女を観察していると彼女の額に汗が浮かんでいるのが見て取れた。もしかすると俺を……いやこの場合は郵便か。郵便を待っていたのかも知れない。
「すみません、ちょっとお名前確認お願いします。えーっと、さとうこころさんでお間違いないですか?」
 待たせてしまったことに若干の罪悪感を覚えながら、書留を取り出し名前を読み上げる。こころなんて可愛らしい名前だな。
「『しん』です」
 書留を彼女に差し出すと、彼女は少し困ったような顔をしながらそう言った。
「はい? しん?」
「はい。『心』って書いて『しん』って読むんです。変わってますよね」
「いえ、そんな事ないですよ」
 この仕事をしていると色々な名前を目にするのだが、『心』と書いて『しん』と読ませる名前は確かに珍しい。まだ浅い仕事歴だからかも知れないが、少なくとも俺は見た事がなかった。
 でも、この子には『こころ』よりも『しん』の方が合っている気がする。いや、根拠はないのだが。なんとなく。
「すみません。では改めて、佐藤心さんでお間違いないですか?」
「はい。大丈夫です」
「ではこちらにフルネームでお名前をお願いします」
 書留の上に配達証を乗せ、ボールペンを彼女に手渡してサインを促す。
9:
 白く美しい手でボールペンを掴むと、彼女はサラサラと配達証にサインをしてくれた。ちょっと丸っこい字を見ると、どんなに大人びて見えても年相応なのだなと思えて微笑ましくなる。
「はい。ありがとうございます」
「ありがと☆」
 書留を渡した時、彼女の顔には先ほど見かけた以上の笑顔が咲いていた。さっき見た笑顔も飛び切りだと思ったが、今はまるで花が咲いたみたいになんて表現したくなる、ひまわりのような笑顔だった。
「あの、どうかしました?」
「い、いえ! あ。昨日言ってた郵便ってこれで良かったですか?」
 彼女の笑顔に見惚れてしまった俺を不審に思ったのだろう。ひまわりのような笑顔は鳴りを潜め今度は訝しむような表情に変わっていた。
「うん♪ これを待ってたんです☆」
「……それは良かったです」
 彼女は先ほど見せてくれたひまわりのような笑顔をして、手渡した郵便を大事そうに胸に抱えていた。
「では、これで失礼します。ありがとうございました」
「頑張ってください!」
「はい! ありがとうございます!」
 綺麗な人に『頑張れ』なんて言われると嬉しくなってしまうあたり俺も単純な男だ。
 昨日と同じようにミラー越しに彼女の姿を確認すると、昨日とは打って変わって今日は今にもスキップしそうなほど上機嫌に家へと入っていくのが見えた。
「……明日も頑張るか!」
10:

「暑い……」
 正午を少し過ぎた頃。俺はこの時間が一番辛かった。午前の配達を終え、あとは郵便局に戻るだけなのだが、あと少しで休憩だと思うとドッと疲れが出てきてしまう。セミがミンミンジージーとうるさいのも疲れを加させている気がする。
 いつものように顔に当たる熱風の暑さに文句を言いながらバイクを走らせていると、少し遠くに彼女の姿を見つけた。
「あ、そっか。学校はもう夏休みになるのか」
 暑くて真剣に聞いてなかったが、朝礼でそんな事を言っていた気がする。終業式だから子供に気を付けて運転しろよとかなんとか。
 子供は夏休みがあっていいななどと呑気な事を考えていると、彼女の様子がなんとなくおかしい気がした。もしかするとこの暑さで熱中症にでもなっているのかも知れない。
 ……一応、顔見知りだし、もしも彼女の体調が悪いのであれば手助けが必要かも知れない。うん。
「こんにちはー。暑いですねー」
 言い訳を用意して、停まりはせずに歩く度くらいでバイクを走らせながら声をかける。
「あ……郵便屋さん。確かに暑いですね」
 俺が声をかけると、彼女は愛想笑いを浮かべて俺に挨拶を返してくれた。
「あの、体調悪かったりします?」
 後ろ姿でも調子が悪そうと言うか、元気がなさそうだったのだが、彼女の顔を見て確信した。昨日見かけた時はあんなの上機嫌だったのに、今は落ち込んでいるように見える。
11:
「あはは……。いえ、体調は良いですよ。どっちかって言うと気持ちの問題、かな」
「……何かありました?」
 踏み込んで聞いていいのか少しばかり迷ったのだが、戻らなければならない時間まであと少し猶予があったのと、彼女に元気が無いのはなんとなく嫌だった。
「昨日届いた手紙あったじゃないですか」
「君宛の書留?」
 バイクのエンジンを切って、バイクを押して歩く事にする。エンジンをかけたままだと彼女の声が聞きづらかったのだ。
「それです。待ってた結果だったんですけど……ダメでした」
 そう言う彼女の顔には作り笑いが浮かんでいて、あのひまわりのような笑顔を見せてくれた彼女とまるで別人のようにも思えてしまう、そんな悲しい笑顔だった。
「えっと……。なんの結果だったか聞いても大丈夫?」
 あの書留の差出人はなんとかって事務所からだったはずだ。あれを見てダメだったと言うのならば模試とかそういうのではないのだろう。
「笑いませんか?」
 彼女は足を止めると真剣な顔でそう問いかけて来た。
「笑わないと思うけど……」
 正直、こんな問いかけをされるなんて思ってもいなかったから絶対に笑わないと言い切れるかは怪しい。人様の事を笑って楽しむような人間ではないつもりだけど、絶対とは言えない。
12:
 彼女からの無言のプレッシャーに耐えかねた俺が口を開こうとした時、先ほどまでうるさかったセミ達が一斉に鳴くのを止めた。
「……アイドルになりたかったんです」
 彼女はこのタイミングを待っていたかのように、か細く弱々しく呟いたのだ。『アイドルになりたかった』と。
 しばらく互いに無言のままだった。と言うよりも世界そのものから音が無くなってしまったようにも感じた。
「アイドルって、あの? 歌って踊ってる?」
 どれほどの時間が無音だったかはわからないが、自分の仕事を思い出したかのようにセミ達が大合唱を再開してようやく俺は間抜けな疑問を口にする事が出来た。
「そうです。そのアイドルです」
 確かに彼女ほどの美少女ならアイドルとしてやっていける気がする。でも、先ほどの彼女の言葉通りならダメだったのだろう。
「……そっか。アイドルか」
「はい」
 俺の呟きに返事をした彼女はトボトボと歩きだした。どうやらこれは相当堪えているらしい。なんと言ったら良いものか。言葉を探しているうちに彼女が曲がるだろう交差点が見えてきてしまった。
「じゃあ、私こっちなんで。お仕事頑張ってください」
「あぁ、うん。ありがと……」
 彼女が軽く会釈して、交差点で左に曲がろうとしているのを見送るしかなかった。見送るしかなかったのだが……。
13:
「あのさっ!」
「はい?」
 なんとなくこのまま彼女を見送っちゃいけない気がして、つい引き留めてしまった。何か言えるわけでもないのに。
「あー……。えっと、その……」
 必死に頭を回転させる。何か言わなきゃいけない気がするけど、この馬鹿な頭では良い言葉が何も出て来やしない。
「夢があるって、素敵な事だと俺は思うんだ」
「……はい?」
 無い頭で必死に考えてやっと出てきたのはそんな台詞だった。そりゃ彼女もそんな反応になってしまうのも頷ける。
「えっと……。俺の事なんだけどさ。夢とかやりたい事がなくて、なんとなく大学に行ったんだけど、結局中退しちゃって」
 きっと彼女はちんぷんかんぷんだろう。表情からも戸惑いみたいなのを感じ取れる。でも、暑さでおかしくなった頭と口はどうやら止まらないらしい。
「今はやりたい事がないからとりあえず働いてるけど、何も楽しくないんだ。だから……えっと……」
 ますます彼女の顔には疑問符が浮いているのだが、口を挟んでこないところを見るとどうやら最後まで聞いてくれるらしい。
14:
「俺は……夢のある君が羨ましいし、夢に向かって頑張れる君は素敵だと思う。俺が言えた事じゃないけど、夢があるなら諦めないで欲しい」
 終盤は早口でまくし立ててしまったけど、多分言いたい事は伝わったと思う。さっきまでは戸惑いで満ちていた彼女だったけど、今はあのひまわりのような笑顔を浮かべてくれていた。
「……ありがと☆ せっかくそう言ってもらえたし、もうちょっと頑張ってみるぞ☆」
「おう! 俺の分まで夢を叶えてくれ! 頼むぞ!」
「任せとけ☆」
 彼女に向かって拳を突き出すと、彼女も同じように拳を突き出してくれた。漫画でしか見た事なかったけど、どうやら理解してもらえたらしい。
 突き出した拳を軽くコツンとぶつけると、彼女は一言「ありがとね☆」と言って踵を返して走っていった。
 きっと、夢に向かって走っていったのだろう。そう思えるくらい力強い足取りだった。
 彼女の姿が見えなくなった頃、バイクに跨って再びエンジンをかけた。やはりうるさいエンジンだったけど、今はどことなく心地よく聞こえる気もする。走り出すと顔に熱風が叩きつけられるのも相変わらずなのだが、先ほどまでのような不快感は無かった。
 今ならどこまででも走れそうな気がする。止まる事のないエンジンを乗せた彼女のように。
 ちなみ休憩の時間は大幅に過ぎていて、郵便局に戻った時には課長にしこたま怒られたのだが、俺の選択は間違ってはいないかったと思う。
15:

 彼女と話したあの日から、俺は滅多に彼女と会わなくなってしまった。
 配達場所が変わったのもあるけど、他の同僚からも彼女の噂を聞かなくなったのできっと彼女は夢に向かって走るのに忙しいのだろう。
 俺達みたいに同じところをグルグルと走っているのではなく、先へ先へと走っているのだ。
 彼女と会わなくなって数年経った頃、一枚の転居届が郵便局に提出された。
 転居届には『佐藤心』と記されていた。転居先は東京。
「……まだ夢を追ってくれてるのかな」
 転居届だけではわからないが、この田舎から東京に行ったのだ。きっと夢を追ってくれているのだろう。いや、もう夢を叶えたかもしれない。
「いつかまた会えると良いな」
 俺は『いつか』に期待しながら転居届を処理したのだった。
16:

『せーのっ、スウィーティー☆』
 テレビから声が聞こえる。10年ほど前にこの耳で聞いたのと同じ声が。
「お。お前の好きなしゅがーはぁと出てるぞ」
「知ってますよ。しゅがはさん売れっ子アイドルですもん」
 今も俺は変わらず郵便配達をしている。昼休憩にはこうして先輩社員と世田話をしながら郵便を配っている。
「この子、長野出身なんだってよ。一度でいいから会ってみたかったなー」
「……そっすね」
 横目でテレビの中に居る彼女を確認する。そこにはあのひまわりのような笑顔が咲いていた。
「こんな田舎じゃ美人に会うとか無理だよなー。あー、夢のない仕事だ」
「そんな事ないっすよ。夢のある仕事ですって」
「お前……どうしたんだ。暑さにやられたのか」
「かもしんねっす」
 あの少女の夢がずっとずっと続くように応援するのが今の俺の夢だ。夢を持てなかった俺のささやかな夢。
「さて。もう休憩終わりますし、仕事に戻りましょっか」
 今日も俺は郵便を配る。彼女の背中を押してあげられた事を誇りに思いながら。
End
17:
以上です。
心さん、お誕生日おめでとうございます。今年も心さんを祝えて私は幸せです。
今年は心さんがもっともっと活躍できるよう祈りつつ。
では、お読み頂ければ幸いです。
元スレ
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