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【SF】少女「あなた誰?」 宇宙人「えっ宇宙人ですけど」


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少女「なんか表面もヌルヌルしてるし」
宇宙人「す、すいません……緊張して汗が」
少女「えっそれ汗なの?」
宇宙人「えっなに? なんですか? おかしいですかわたし」
少女「……」
宇宙人「あ……あの……。急に黙られると不安になります」
少女「これ耳?」
宇宙人「あっあっダメですそこはひっぱらないで! 気持ちよくなっちゃいますから! あッ!」
少女「えっごめん」ビクッ
宇宙人「ふー……ふー……。び、びっくりしました」
宇宙人「……もう、気をつけてくださいね。同族同士だったら攻撃と見なされて裁判モノですよ」
3: 以下、
しえん
6: 以下、
少女「……なんだか表現に困るというか、説明するのが難しい姿ね、あなた」
少女「このぷらんぷらんしてる変なのは……一応、手足なのかしら。だとしても本数がおかしなことになってるし」
少女「ほんとに宇宙人ってこと?」
宇宙人「いえ、自分のことを宇宙人だとは特に思ってないんですが……あなたからすればそうでしょう」
少女「宇宙から来たの?」
宇宙人「そうですよ」
少女「……」
少女「宇宙人は宇宙人語をしゃべるんじゃないの?」
宇宙人「あーそれは私たちの言語とあなたたちの言語を同時に相互翻訳する機械を使ってるからですよ」
少女「?」
宇宙人「えっと……と、とにかくお互いの言葉が通じるようになる特殊な技術を使ってるんです」
少女「ふーん」
8: 以下、
ほう
9: 以下、
少女「よく分からないけどすごいんだね」
宇宙人「それはもちろん! あなた方の現在の科学技術レベルは、我々が4万年ほど前に通り過ぎた地点ですね」
少女「……」
少女「えい」ツン
宇宙人「あっ! 痛いです! ツンツンしないで!」
少女「いばらないでよ」ツンツン
宇宙人「ごめんなさい! もういばらないですから! いばらないって約束します!」
少女「……そう」
少女「でもツンツンする」ツンツン
宇宙人「あっ! ダメです! そこはダメ!」
10: 以下、
宇宙人「うぅ……いじめっ子ですねあなた」
少女「……」
宇宙人「まぁ、多少不安はありますが……選り好みできる立場でもありませんし、あなたで我慢します」
宇宙人「すみませんが、しばらくここに置いてもらえませんか?」
少女「どうして?」
宇宙人「先程も簡単に説明しましたが、私の生体維持と宇宙船稼働のための動力源を確保する必要があるんです」
宇宙人「当面は母船と短時間の通信を可能とするだけのエネルギー採取で何とかなりますから、そんなに大量でなくてもよいのですが」
少女「動力源……石油とか?」
宇宙人「いえ、私たちが動力源とするのは生物の『感情』です」
少女「……意味がわからないわ」
宇宙人「えっ」
11: 以下、
宇宙人「あ、あぁ……すみません」
宇宙人「我々にとってはもはや当たり前のことなのですが、あなたの星の科学レベルでは意味不明なのも無理はないです」
少女「えい」ツン
宇宙人「えっ! いや、今のは別にいばったわけじゃ! すみません!」
少女「……続けて」
宇宙人「と……とにかくですね、我々は生物の『感情』を動力源に変換する技術をもってるんです」
宇宙人「それも知性の高い生命体の感情ほど純質で、エネルギー変換効率も高いのです」
少女「よく分からないけど、わたしが怒ったり笑ったり泣いたりすればいいの?」
宇宙人「そうです! 理解してくださって嬉しいです!」
12: 以下、
少女「でもそれだとわたし、感情がなくならない?」
宇宙人「大丈夫です。そんな心配はいりません」
宇宙人「感情を生み出す能力を奪うわけではなく、生み出された結果としての感情を利用するだけですから」
少女「じゃあいいけど」
宇宙人「ありがとうございます。それでは感情採取装置を身体にとりつけさせて下さいね」
少女「……いいけど」
宇宙人「しからば……よいしょっと」ペタペタ
少女「あっ! エッチ!」
宇宙人「えっ」
少女「……エッチぃ」
宇宙人「い、いえわざとじゃありません。というかそもそも種が違うのでやましい気持ちとかないですから」
13: 以下、
しえーん
14: 以下、
宇宙人「これで準備は終わりました」
少女「ふーん」
宇宙人「とりあえず笑ってみて下さい」
少女「……」
少女「う……うふふ?」
宇宙人「ダメですね。全然ダメダメです。気持ちがこもってません」
少女「……」
少女「えい」ツン
宇宙人「あっ! 痛い! なんでですか!? すみません!」
15: 以下、
びみょうにおもろい
16: 以下、
どこをつついてるのか知りたい
17: 以下、
少女「文句があるなら自分に装置をつければいいと思うわ」
宇宙人「そうしたいのは山々なのですが、我々は半分生物じゃないので、感情の変換効率が悪すぎるのです」
少女「えっ」
宇宙人「えっ何ですか? 驚くところですか?」
少女「驚くところだと思う。半分は生き物じゃないの?」
宇宙人「そうですよ。宇宙では半生命体は珍しくもありません」
少女「生命以外のもう半分はなんなの?」
宇宙人「色々な場合がありますが違いますが、我々の種族の場合には『情報体』ですね」
少女「じょうほうたい?」
宇宙人「情報体というのは一種の物理的存在です。しかしあなた方の知性では正確には理解できないでしょう」
宇宙人「……そうですね、お化けみたいなものだと考えて下さい」
18: 以下、
しえん
19: 以下、
少女「なにそれ」
宇宙人「粗雑な説明にならざるを得ませんが……我々も大昔の祖先は、宇宙の何処にでもいるようなごく普通の生物だったのです」
宇宙人「しかし、生命力や身体能力、情報伝達や情報蓄積などの様々な点で純粋な生命体は効率が悪いということになりまして」
宇宙人「遠い過去に身体の機械化が始まり、やがては機械化から情報体化へとトレンドが移行しました」
宇宙人「その結果『肉体の檻』は突破しましたが、生命体は生命体の限界を超え出られないため、完全な情報体にもなれなかったのです」
宇宙人「そのような経緯で、現在の半情報体・半生命体に落ち着いたわけですね」
少女「??」
宇宙人「いえ、分からないなら無理に理解しなくていいです」
宇宙人「ともかくこの情報体という身は色々と便利ではあるのですが……」
宇宙人「生体維持に生物の感情が必要となり、にもかかわらず自分たち自身の感情のエネルギー変換効率は純粋な生命体よりも劣化してしまった、と」
宇宙人「結果論ではありますが、何事も完璧にうまくいくということはないという良い教訓ですね」
少女「ふーん……。やっぱりよく分からないや」
22: 以下、
少女「あなたがほしいのはどんな感情なの?」
宇宙人「基本的には生物の感情なら何でもよいのですが、高出力のものほどありがたいです」
少女「たとえば?」
宇宙人「たとえば……オルガスムスなどはその代表例でしょうか」
少女「おるがす……??」
宇宙人「性的絶頂時の感情、つまり極限的な快感の情動です。たいていの生物にとってこの類の感情は爆発的エネルギーを内在させていますから」
宇宙人「あなた方の種の交配方法は確か……最もノーマルな二者間交配でしたよね」
宇宙人「私としては、あなたがガツンガツン交配に励んでくれれば嬉しい限りです」
少女「……」
少女「…………」
少女「………………」ツンツンツンツンツンツンツンツン!!!!
宇宙人「痛い! っていうか強い! 何ですか! 何でそんな急に!! あッ! すみませんすみません!!」
24: 以下、
少女「そういうこと言わないで」
宇宙人「いてて……『そういうこと』って何ですか?」
少女「……」スッ
宇宙人「あっすみません! よく分かりませんが分わかりました!」
宇宙人「……って、あ!」
少女「?」
宇宙人「今しがた、強い感情が生じたようですね。この色と形は……羞恥心?」
少女「……」
宇宙人「あぁ……なるほど! そういえば交配事情に羞恥を感じる文化が稀にあると聞いたことがあります。特に未開文明に散見されるとか」
宇宙人「へぇ?実際に遭遇したのは初めてです。へぇ?」
少女「……」
少女「…………」ツンツンツンツン!!!
宇宙人「痛ッ! すみません! あっこれはどうやら怒りの感情ですね! ありがたいです! あっでも痛い!」
25: 以下、
少女「それじゃあ私は学校に行ってくるから、部屋で大人しくしててね」
宇宙人「学校ですか。何を学ぶので?」
少女「いろいろよ。文字とか数とか……地理とか歴史とか、生き物のこととか」
宇宙人「なるほど。どのような仕方で学ぶのですか?」
少女「どのようにって……。先生が前に立って説明して、みんながそれを聞いて学ぶの。当たり前でしょ?」
宇宙人「……」
少女「なに?」
宇宙人「いえ……やはり随分と非効率的だなと思っただけです」
少女「?」
少女「……わたしはもう行くから、いい子でお留守番しててよね」
宇宙人「はい。いってらっしゃい」
26: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……ただいま」
宇宙人「学校はそんなにイヤな所なのですか?」
少女「……えっ」
宇宙人「この部屋であなたの感情をモニタリングしていましたが、継続的に強い感情が生起していました」
少女「……」
宇宙人「『恐怖』という感情です。それほどまでにあなたを怯えさせる要因が学校にはあるんですか?」
27: 以下、
えっ・・・・・
28: 以下、
なんやて
29: 以下、
少女「……」
少女「別にいいでしょ。あなたは私の『怖い』って感情を手に入れられて満足じゃないの?」
宇宙人「ええまぁそうなんですが……恐怖という感情は生命力を鈍らせる働きがあります」
宇宙人「私としては感情採取が順調で喜ばしい反面、寄生先のあなたに死なれても困るので、やや複雑な気持ちです」
少女「……」
少女「……ふん。相手の気持ちを汲んで、言葉を選ぶことすらできないのね」
少女「そんな気持ちわるい容姿でも『私たちと同じように感情豊かなんだ』って驚いたけれど、やっぱり別の生き物ってことかしら」
少女「満足がいくまでいくらでも感情を提供してあげるわ。だから……もう黙ってて」
宇宙人「……」
宇宙人「……意外に饒舌な方だったんですね。少し驚きました」
少女「……もう寝る」
宇宙人「……」
30: 以下、
いいよいいよ
32: 以下、
少女「……あッ!?」
宇宙人「どうしました急に?」
少女「!! ……パパが呼んでるッ!」ガバッ
少女「ッ!」ダッ
宇宙人「??」
宇宙人「……」
宇宙人「……」
宇宙人「……」
宇宙人「……」
宇宙人「また……『恐怖』の色と形。それに『悲しみ』の色と形も」
35: 以下、
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……」
宇宙人「また何か辛いことがあったようですね」
少女「……」
少女「……私たちの種族は、あなたたち宇宙人とは違って何でもないことに恐怖を感じるようにできてるだけよ」
少女「みんなそうなの。私だけじゃなくて」
宇宙人「……」
宇宙人「こめかみの所……アザになってますよ」
少女「……」
少女「……おやすみ」
36: 以下、
そのまま宇宙に連れてってやれよ
37: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……ただいま」
宇宙人「今日も学校は辛かったのですか?」
少女「……」
宇宙人「いじめですね?」
少女「……」
宇宙人「いじめは生物にとってある程度普遍的です。知能の低い生物種にすらいじめはあります」
宇宙人「ましてあなた方のようにある程度発達した知性をもつ種族にいじめがあるのは自然なことです。想像に難くありません」
39: 以下、
少女「……」
宇宙人「学校の級友たちばかりではない。お父様やお母様にもいじめられているのでは?」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「………………殺してあげましょうか?」
少女「……えっ?」
40: 以下、
え?
41: 以下、
マジでぇ?
42: 以下、
えっ??
44: 以下、
ほほう
45: 以下、
宇宙人「あなたをいじめる者達を、皆殺しにしてあげましょうか?」
少女「……なにそれ」
宇宙人「あなたには一宿一飯どころではない恩義がありますから」
宇宙人「一切の痕跡を残さず消滅させることも可能ですし……」
宇宙人「お望みならば、苦しませながら相手の生命を断つこともできますよ?」
少女「……」
少女「……ダメだよ、そんなの」
宇宙人「どうしてですか?」
少女「だって……」
少女「だって、悪いのは私だもの」
47: 以下、
そうだよな
安心した
48: 以下、
少女「オウやっちまえwwwww」
宇宙人「了解っすwwww」
みたいなノリになると思った
49: 以下、
宇宙人「どういうことですか?」
少女「……わたしはもらわれっ子で、パパとママは嫌々わたしを養ってくれてるの」
少女「ママは『親戚の子だからって貧乏クジ引かされてこっちは散々よ』って言って、怒ったり、叩いたりするの……」
少女「パパはわたしのこと、その…………身体を撫でてきたりとか……」
少女「でも、わたしはパパとママのおかげで生きていられるんだから、多少のことは我慢しないといけないの」
宇宙人「……」
宇宙人「学校のことは?」
少女「……」
少女「……お風呂にはたまにしか入れないし、お洋服もほとんど持ってないから、みんなに『臭い』とか『汚い』って言われてるの」
少女「仕方ないよ……自分でも汚いって思うもん」
宇宙人「……」
50: 以下、
少女「パパとママはわたしを養ってくれてるから……仕方ないし」
少女「学校のみんなも……私が汚いから仕方ないんだよ」
宇宙人「……」
宇宙人「あなたはとても賢いのですね」
少女「えっ?」
宇宙人「あなたの種族の同年代の個体と比較すると、随分と聡明のようです」
宇宙人「自分を取りまく環境を正確に理解しており、その上で自分の感情を抑制する術を心得ています」
少女「……」
少女「なにそれ……変なの」
宇宙人「……ただ、これは私があなた方の種族の『責任』の概念をきちんと理解していないだけなのかもしれませんが……」
宇宙人「私には、あなたが『責任』と『原因』とを混同しているように見えます」
少女「??」
51: 以下、
宇宙人「今となっては『責任』も『原因』も我々の頻用語彙ではないので、私には説明が難しいのですが……」
宇宙人「いじめの原因は、確かにあなた自身にもあるのでしょう」
宇宙人「もらわれっ子であるという事実や清潔感がないという印象はあなた自身に付与される属性であって、確かにこれらはいじめの一因となっていると推察されます」
少女「……」
宇宙人「しかし、そういった事実や印象によって、あなたのお父様やお母様に対して、またあなたの学校の級友に対して、あなたをいじめることの免罪符が与えられるわけではありません」
宇宙人「他方でまた、彼ら彼女らのいじめという行為の『責任』は、本来的にその行為遂行者である彼ら彼女ら自身が引き受けるものでしょう」
宇宙人「にもかかわらず、そのいじめという行為の責任があなたにまで分与されると考えてしまうのは、あなたが『原因』の帰属先と『責任』の帰属先とを混同しているからです」
少女「……」
少女「……ごめんなさい。難しくてよく分からないわ」
宇宙人「……つまり簡単に言うとですね、仮にいじめの原因があなたにあったとしても、いじめの責任はあなたにはないということです」
宇宙人「あなたは、悪くないのですよ」
52: 以下、
支援
53: 以下、
少女「……」
宇宙人「あなたにも色々な事情があって、それ故にいじめられているのでしょう」
宇宙人「しかしだからといって、それは『あなたが悪い』わけではないですし、まして『仕方のない』ことでもありません」
宇宙人「あなたが望むならば、あなたをいじめる存在を皆殺しにしてみせましょう。それで問題解決です」
少女「……」
少女「ありがとう。少し驚いたけど……あなた、慰めてくれてたのね」
宇宙人「いえ、というよりも『いじめっ子排除プラン』の採用を説得していたつもりだったのですが……」
少女「でも、ダメよやっぱり」
少女「学校のみんなが死んだら、その子たちのパパやママはとても悲しいだろうし」
少女「今のパパやママを死なせちゃったら、天国にいる本当のパパとママはきっとわたしを叱るもの……」
宇宙人「……」
少女「でもありがとね。何だか少しスッキリしちゃった」
54: 以下、
少女「それと……」
少女「昨夜のこと……悪かったわ」
宇宙人「え?」
少女「ほら、あなたのこと『気持ちわるい』って言ったでしょ」
少女「言ってからずっと……後悔してたの」
宇宙人「ああそんなことですか。気にする必要ないですよ。私から見ればあなたの姿形もそうとう変ですし」
少女「そ、そう……。まぁいいわ。だったらお互い様ね」
少女「でも、あなたは……そうね、鼻はぷっくりとしてて可愛いと思わないでもないわよ」
宇宙人「そうですか? あなたの鼻は、私にはあまり可愛いとは思えないのですが……」
少女「ちょーしにのるなッ!」ツンツン
宇宙人「あっ! 痛い! やめてください! えへへ!」
少女「……もうッ! なんでちょっと嬉しそうなのよ……バカ」
55: 以下、
なんかいいね
56: 以下、
宇宙人「さて、排除プランの棄却は残念ではありますが……そうなると次善策ですね」
宇宙人「これを身につけて下さい」
少女「? なにこれ」
宇宙人「携帯型の防犯装置です。今日あなたがいないうちに作っておきました」
少女「……危ないものじゃないの?」
宇宙人「他人に危害を加えるものではありませんので心配しないでください。外部から強制的に他者の自律神経系に作用する微弱な電流を放出します」
少女「??」
宇宙人「その装置から出る電流にはリラックス効果がある、とでも思って下さい」
宇宙人「怒りっぽい人が少しだけ怒りっぽくなくなる程度の影響力ですし、後遺症などの心配も必要ありません」
宇宙人「いじめの根絶はできませんが、緩和効果くらいはあるはずです」
少女「……ありがとう」
宇宙人「……おや。暖かい色と形ですね。喜んでもらえたようで何よりです」
57: 以下、
シリアスだったのか しえん
58: 以下、
***
宇宙人「おかえりなさい」
少女「ただいま! ねぇ聞いて、今日お友達ができたの!」
宇宙人「おやそうなんですか」
少女「うん! きっとあなたがくれたお守りのおかげね」
宇宙人「それはよかったですね。男の子ですか、女の子ですか?」
少女「女の子よ。……男の子は、ちょっと怖いわ」
宇宙人「……」
少女「そういえば、あなたって男の子? それとも女の子?」
宇宙人「私ですか? その分類で言うならば、一応『女の子』ですね」
59: 以下、
少女「へー」
宇宙人「なんですか?」
少女「てっきりあなたのことだから、『我々には性別などない』って言うのかと」
宇宙人「いえ、そんなことはありません。ただこの性別にはもはや高次の社会的意味合いは薄いでしょうね。種の存続という点に限った生物学的特色に過ぎないものです」
宇宙人「とはいえ、その交配についてもあなたが想像する営みとは食い違っているかもしれません」
少女「こ、こうはいって……」
宇宙人「ああ、すみません。性事情に羞恥を感じる文化をお持ちでしたよね」
少女「別にいいけど……それじゃあ、あなた達の場合どうやって子どもができるの?」
宇宙人「生命情報の直截的な連結と分裂です」
少女「?」
60: 以下、
この空気感いいなぁ
62: 以下、
宇宙人「以前にも言いましたが、我々は半分が生命体で、半分が情報体です」
宇宙人「この『半分』というのは文字通り身体の半分ずつがそうなっているという意味ではありません」
宇宙人「『生命』という事象を科学的に解析することに成功した我々の祖先は、さらに続けてその生命現象を情報体として存続させる技術を確立させたのです」
宇宙人「つまり、我々は『生命と情報体』の二つで出来ているのではなく……正確に言えば『生命としての情報体』なのです」
少女「……」
少女「……あいかわらずよく分からないわ」
宇宙人「たとえば私が子どもを作ろうとしたら、自分の生命情報の一部と他者の生命情報の一部を直截的に繋ぎあわせた後、分離させます」
宇宙人「そうすると新たな生命情報が誕生するわけです。言うなればそれが、私の子どもですね」
少女「はぁ……なんだかすごいのね」
宇宙人「いえ、むしろある意味では原始的とさえ言うべきかもしれませんよ」
63: 以下、
宇宙人「付言すれば、我々は情報体ですから本来的には身体も必要ありません」
宇宙人「しかし、この情報体というやつも一長一短でして」
宇宙人「同種間での情報伝達・情報蓄積・情報処理といった点では素晴らしい効率性をもつのですが、いかんせん情報体化していない種族とのコミュニケーションをはかるのが不得手なのです」
宇宙人「この点については現在も改良が続いているので、時間が解決してくれる問題だとは思いますが……」
宇宙人「現時点では非情報体の他種族とコミュニケーションをとる場合、『肉人形』を情報伝達の媒体として使うという何とも原始的方法をとっているんです」
少女「肉人形?」
宇宙人「今あなたの目の前にある私の身体のことです」
少女「えっなにそれ」
宇宙人「私にとってこの身体は借り物です。別の身体を用意すればそちらに移ることもできますし、この身体が損傷しても私自身が死ぬことはありません」
宇宙人「とはいえ、我々にも個体ごとの趣味嗜好というものがあります。この肉人形も私の趣味で選びました」
宇宙人「どうでしょう? 人気モデルの女型なんですが……少しくらいは、かわいいと思いませんか?」
少女「えっ」
宇宙人「えっ」
64: 以下、
えっ
65: 以下、
***
少女「ただいま! 今日はお友達と一緒にお昼ごはんを食べたのよ!」
宇宙人「おかえりなさい。それはとてもよかったですね」
宇宙人「感情モニタリングでも、『喜び』や『楽しみ』といった暖かい色や形が続いていましたよ」
少女「うふふ。あなたが来てからなんだか幸せよ」
宇宙人「でもそれだけではなく『緊張』……いえ、『戸惑い』といった感情も継続的に観測されましたが」
少女「あ……」
少女「実はね……男の子に告白されたの」
宇宙人「ほほぅ」
少女「こんなこと初めてだから、どうすればいいか分からなくって……」
66: 以下、
宇宙人「どうすればって、気に入った相手なら交配すればいいんじゃないですか?」
少女「へっ?」
宇宙人「できればズッコンバッコン励んで頂きたいですね」
宇宙人「彼氏が床上手であることを祈ります。あなたも幸せですし、私も感情採取ができて嬉しいです」
少女「……」
宇宙人「……あ」
少女「だーかーらー」
宇宙人「あっ、ちょっまっ」
少女「そーゆーこと言わないでって言ってるでしょ!」ツンツンツンツンツンツン!!!
宇宙人「あっ! 痛い! 痛いです! うっかりです! うっかりですってば!」
70: 以下、
少女「あなた、情報体とか何とか偉そうに言ってるけど……けっこうバカ?」
宇宙人「今は生体維持を可能にするだけの最小限のエネルギーしか使ってないので仕方ないんですよ」
少女「ふーん」
宇宙人「そんな疑いの眼差しを向けないでください」
宇宙人「そもそも我々の種族は、個体ごとの嗜好の違いはあっても、情報蓄積や情報処理は共有化できるため、賢さという点での個体差はあってないようなものなんです」
宇宙人「もっとも、知識の均質化は嗜好の方向性さえも限定してしまうので、趣味・嗜好の個体差も些細なものだったりするのですが」
宇宙人「このような個体間の多様性欠如というのも、情報体化のデメリットかもしれませんね」
少女「へぇ?。趣味や嗜好が限定されるって、例えば好きな男の子が被ったりとか大変じゃない?」
宇宙人「いえ、性愛などの感情は退化しています。我々の仲間内でもごく一部の者たちが趣味的に娯しむものでしかありません」
宇宙人「以前にも説明しましたが我々の生殖活動は肉体を必要としませんので、性欲などの低次欲求も退化してしまっているのです」
宇宙人「性欲が退化すれば、愛情も退化するものです。ついでに言えば、食欲や睡眠欲なども退化していますね」
71: 以下、
少女「そうなんだ……それじゃあ他にどんな欲求が残ったの?」
宇宙人「色々ありますが、大部分は……生存欲と知識欲ですね」
少女「へぇ?不思議。『食べたい』って欲求は消えたのに、『生きたい』なんて基本的な欲求は残ったんだ」
宇宙人「それが生命体としての限界というやつです」
宇宙人「生命体である以上、自己の生命の存続を求めずにはいられない」
宇宙人「生命現象の知的解析に成功してなお、我々は『自らが生命体である』というその事実を乗り越えることはできなかったのです」
少女「ふぅん。でも何だかつまらないわ。あなた女の子よね? それなのに、これまでもこれからも……好きな男の子はいないってこと?」
宇宙人「ええ。しかし別段そのことを不満にも思いません」
宇宙人「自分の子孫を残すのも、情報体コミュニティを存続させるための義務程度に考えています。他の仲間の多くもきっとそうでしょう」
73: 以下、
支援
74: 以下、
宇宙人「ですから、あなたの恋愛相談には乗ってあげられません。すみませんが」
少女「別にあなたにそんなこと期待してないわ」
宇宙人「十分なエネルギーさえあれば、仲間と共有しているデータベースを参照することで適切なアドバイスを引き出すこともできるのですが、残念です」
少女「いいって言ってるでしょ別に」
少女「どっちにしろ……男の子は少し怖いもの。お付き合いはお断りするわ」
宇宙人「そうですか。残念です」
少女「なんであなたが残念がるのよ……って、いいわ答えなくて」
宇宙人「いえ、別に交配のことだけではありません」
宇宙人「恋愛を楽しんでくだされば『喜び』や『楽しみ』などの様々な感情採取が効率的に行えそうなので、残念だと思ったのです」
少女「それは申し訳ないわね。でも、一朝一夕に性格なんて変えられないもの」
宇宙人「ええ、まぁ先を急ぐ旅でもありませんので、気長に待たせて頂きます」
75: 以下、
***
宇宙人「今日はどうされたんですか」
少女「……」
宇宙人「お父様やお母様と、何かあったので?」
少女「……」
宇宙人「これまでにない『恐怖』の感情が観測されました」
宇宙人「長時間続けばあなたの生命活動に支障を来たしかねない程の強さです」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
少女「…………パパ、が」
少女「…………パパが、『一緒にお風呂に入ろう』って」
76: 以下、
ごくり・・・
77: 以下、
宇宙人「お風呂ですか? 何か問題でも……」
少女「……」
少女「……」
少女「……さ」ジワ…
宇宙人「さ?」
少女「……さ、さわ、られたの」ポロポロ…
宇宙人「……」
少女「……色々な、ところ……さわられた、の……」ポロポロ…
宇宙人「……」
78: 以下、
・・・・・・・
80: 以下、
しえん
81: 以下、
少女「……ぅっ、……うっ……」ポロポロ…
宇宙人「…………やはり、排除しましょう」
少女「……だ、だめだよ。それはだめ……」
宇宙人「……」
少女「天国のパパとママが……許してくれないもん……」グス…
宇宙人「手を下すのは私ですし、あなたの意向によって行うわけでもありません。前にも説明したでしょう? 行為の責任は行為遂行者にあるものです」
宇宙人「もちろんこの原則にも例外はあり得ます」
宇宙人「行為を遂行した者と責任を負う者が必ずしも一対一対応するとは限りませんし、積極的に行為を為さなかったとしても消極的な関与によって責任が生じることもある」
宇宙人「しかし今回の件は、私があなたの意向を無視して勝手に行うことです。私の行為を生じさせた淵源があなたにあったとしても、その行為の責任はあなたにはない」
宇宙人「私があなたを悩ませる存在を排除したとしても、あなた自身がそのことで苦しむ必要はありません」
83: 以下、
少女「……」ポロ…
少女「やっぱり、それはだめだよ」グシグシ…
宇宙人「……」
少女「その話を聞いた上で頷いてしまったら、私にも責任があると思うし……」
少女「仮にあなたが私の意思とは無関係にやったとしても、それでも私は責任を感じちゃうよ」
宇宙人「それは……」
少女「理屈じゃないの。……そういうものなの」
宇宙人「……しかしそれではどうすれば」
少女「どうしようもないんだよ。言ったでしょ。……『仕方ない』んだって」
宇宙人「……」
84: 以下、
むむ・・・
86: 以下、
***
少女「……」
少女「……ただいま」
宇宙人「ここ最近、学校では穏やかな感情の色と形が続いていましたが、今日はどうされたんですか」
少女「……」
宇宙人「また以前のような『恐怖』や『悲しみ』の色と形で揺れていました」
少女「……」
少女「友達がね、私のこと……裏切り者だって」
宇宙人「……どういうことですか?」
87: 以下、
少女「この前言ってた、私に告白してきた男の子のことで……」
宇宙人「確かお付き合いを断ったのですよね」
少女「……うん」
少女「私の友達がね、その男の子のことが好きだったんだって」
宇宙人「ふむ」
少女「それで、私がその男の子に告白されたことが、友達にばれちゃって」
少女「『裏切り者だ』って」
宇宙人「?? よく分かりませんね」
宇宙人「あなたがその友達の好きな男の子が誰かを知っていて、その上で、友達に断りなく男の子とお付き合いをしたならば、裏切り者となじられるのも無理はないと思いますが」
少女「……」
少女「……『可哀想だからお友達になってあげたのに、私の好きな男の子に告白されるなんて最低』って言われたわ」
88: 以下、
宇宙人「……なるほど。なるほど」
少女「わたし……裏切り者なのかな」
宇宙人「……」
宇宙人「……あなたは彼女に対して、その男の子のことで偽りを働いたわけではありません」
宇宙人「しかし、彼女はあなたに期待を裏切られたと感じたのでしょう」
少女「期待、を?」
宇宙人「ええ。僅かな情報からの推測ですが、彼女はあなたを見下していたのです」
少女「……」
宇宙人「彼女はあなたに、『自分よりも可哀想な子』『自分よりも不幸な子』であることを望み、期待していたのです」
宇宙人「しかし、彼女が好意を向ける男の子は、自分にではなく、よりにもよって『自分よりも可哀想な子』であるはずのあなたを選んだ」
宇宙人「そのとき、彼女にとってあなたは『自分よりも可哀想な子』ではなくなってしまった。彼女の期待が裏切られてしまったのです」
89: 以下、
つらい
しえん
91: 以下、
少女「……そう」
宇宙人「そのような期待を抱いていた彼女があなたのことを裏切り者だと感じてしまうのは仕方のないことかもしれません」
宇宙人「しかし、だからといってあなたが裏切り者だという評価は、客観的に見て妥当なものだとは言い難い」
少女「……どうして?」
宇宙人「彼女はあなたと友好関係をもつに当たり、『常に自分よりも可哀想な子であれ』という契約を結んだわけではありません」
少女「……」
宇宙人「そしてまた、彼女のあなたに対する『常に自分よりも可哀想な子であってほしい』という期待も、あなたの種族の価値観に鑑みるに、正当な期待であるとは言い難い」
宇宙人「『無闇矢鱈に暴力を振るわないでほしい』という期待や、『私の陰口を叩かないでほしい』といった期待は、あなた方の文化では種族間関係における正当な期待と言えるでしょうが、彼女の期待についてはそうは言えないということです」
少女「……」
宇宙人「……分かりにくければ、はっきりと言いましょう」
宇宙人「あなたは、悪くない」
92: 以下、
おお
93: 以下、
少女「でも……彼女を、傷つけたわ」
宇宙人「……」
宇宙人「彼女はあなたに身勝手な期待を抱いた」
宇宙人「そして、その身勝手な期待が叶わないことを嘆いているだけです」
宇宙人「期待も落胆も自分の世界の中で自己完結しているのですから、これは全き自己責任と言えるでしょう」
少女「……」
宇宙人「あなたに責任はない。あなたは悪くないのです」
少女「……」
少女「……『責任』ってね、突然誰かのもとに生まれたり、いつの間にかなくなったりするものじゃないと私は思うの」
宇宙人「え?」
94: 以下、
少女「何かをしたから、その行為に応じて自動的に責任が生じるとか、対価として何かをしたら責任が消えるとか……そういうものじゃないと思うわ」
少女「たぶん、責任って、自分のものとして引き受けるものなんじゃないのかな」
宇宙人「引き受ける、ですか」
少女「うん……うまく説明できないんだけど。きっとね……覚悟が、必要なの」
宇宙人「……」
少女「どんな悪い事をしたって、その行為の結果を受け止める覚悟がないなら、それは自分自身に責任を引き受けてないってことなの」
少女「誰かの悪口を言ったって、誰かを殺したって……、その事実から目を背けているなら、そこには『覚悟』が……『責任』がないんじゃないかな。『無責任』なまま……じゃないのかなって」
少女「逆にね、仮にそれが自分に非のないことだとしても……」
少女「そのことを自分自身の問題として受け止めてしまったなら、それはもう、その問題を自分の『責任』として引き受けたってことになるんじゃないかと思うの」
少女「責任って、覚悟の形なんだと思うわ……」
宇宙人「……」
95: 以下、
こんな深い話になると誰が予想しただろうか
96: 以下、
宇宙人「あなたが言っているのは『責任』ではなく、『責任感』のことなのでは?」
少女「……」
少女「ううん……違うの。そういうことじゃなくて……」
少女「たとえばね、ある人が悪い事をして、それを他の誰かが『悪いことだ』って指摘して、強制的に罰を与えたとするでしょ」
少女「でもその罰を受けた当人が、自分の行為の結果や、受けた罰について何処吹く風な態度だったら、やっぱりその人は『責任』を果たしていないんだと思う」
宇宙人「……」
少女「周りの人は、その人は『罰を受けた』んだから立派に『責任を果たした』んだって考えるかもしれないけど」
少女「私は……その人は責任を果たしてないと思う」
少女「だってその人は、最初から最後まで、自らが負うべき責任を自分のものとして引き受けていなかったんだもの」
少女「自分の責任なんて無関係に、ただ罰を受けただけに過ぎないわ」
宇宙人「……ふむ」
97: 以下、
少女「あなたの言うことも頭では分かってるの。彼女のことで私に非はないんだって」
少女「でも理屈じゃなくて……彼女を傷つけてしまった事実を、私はもう既に自分のものとして引き受けてしまっているの」
少女「自分の意思とは無関係に、彼女の言葉を引き受けてしまっているから……」
少女「だから、私には彼女を裏切ったんだっていう責任が、やっぱりあるんだと思う」
宇宙人「……」
宇宙人「あなたがそう言うなら、これ以上は何も言いません」
宇宙人「しかし、それは辛い生き方ですよ?」
少女「……そう、かな」
宇宙人「あなたの考え方は、自分自身に過失がない場合ですら、本来負う必要のない責任を無理に背負いこむ者の思考です」
宇宙人「それは自身に対して一点の曇りすら看過すまいという狭量な態度であり、また柔軟性のない思考であると言えます」
少女「……」
少女「…………もう、寝るわ」
宇宙人「……はい。おやすみなさい」
98: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……」
宇宙人「日に日に『恐怖』の色は濃く、形は激しくなっています」
少女「……」
宇宙人「そんなに辛いなら、学校になど行かなければよいのでは?」
少女「……」
少女「……友達が、ほしいの」
宇宙人「……」
少女「……」
99: 以下、
?
100: 以下、
少女「ねえ」
宇宙人「何ですか?」
少女「あなたには、お友達、いるの?」
宇宙人「……ふむ」
宇宙人「情報交換を頻繁に行う個体はいますが……それはきっと、あなた方が言うところの『友達』ではないでしょうね」
少女「……そう」
少女「あなたも……友達いないんだ」
宇宙人「……」
少女「ふふ……ふ……」
宇宙人「どうして嬉しそうなんですか?」
少女「……別に」
101: 以下、
すごく雰囲気が好きだから支援
102: 以下、
少女「はぁ……」
宇宙人「……わたしは、あなたの生命の弱まりが心配です」
少女「……」
少女「『感情』の供給源がなくなるのが心配なだけじゃないの」
宇宙人「……」
少女「……ごめんなさい」
宇宙人「……」
少女「ママが呼んでるわ」
宇宙人「はい。いってらっしゃい」
少女「……」
103: 以下、
***
宇宙人「学校に行かないのですか?」
少女「……今日は休みなの」
宇宙人「ああ……そうでしたか。何を読んでいるので?」
少女「小説よ。SF小説」
宇宙人「へぇ。小説を読むのがお好きなんですか」
少女「ええ。ここ最近は余り読んでなかったけど、小説に限らず本を読むのは好きなのよ」
宇宙人「なるほどなるほど。年齢のわりに語彙が豊富なわけがわかりました」
少女「本を読んでいるときだけはね……なんだか心が落ち着くの」
少女「想像の世界で活躍する主人公たちに感情移入している間は、嫌なことを忘れられるもの」
104: 以下、
宇宙人「いま読んでいるのは、どんなお話なのですか?」
少女「いま読んでるのは……宇宙人と出会った女の子のお話なの」
宇宙人「え?」
少女「ある日突然、一人の女の子のもとに宇宙人がやってくるの」
少女「宇宙人は変な姿形をしているんだけど、なぜだか憎めないヤツで……」
少女「次第にね、女の子と宇宙人は心を通わせて、仲良くなっていくの」
宇宙人「……」
少女「ふふ。まるで、今の私たちみたいでしょう?」
宇宙人「……」
少女「本当に、まるで……まるで、私たちのことを描いたみたいなお話……」
宇宙人「……」
105: 以下、
少女「……」
宇宙人「……」
少女「そういえば、あなたはどうしてこの星にやってきたの?」
宇宙人「……」
宇宙人「我々の種族の生体維持には、他の生命体の『感情』が不可欠であることは何度もお話ししたと思いますが」
宇宙人「これは必然的に、生命体、それも高次の知性をもつ生命体の存在が、我々の種族の存亡の鍵になるということです」
少女「あぁ、つまり……」
宇宙人「はい。我々は常に感情エネルギー採集地の開拓を行なっているのです」
宇宙人「私はこの星に現地調査として赴いた開拓員の一人です。私以外にも、何人かの仲間がこの星に降り立っています」
宇宙人「しかし、思いがけない事故で宇宙船の一部機能が壊れてしまったため、こうしてあなたにお世話になっているわけですね」
少女「……なるほど。そういうことだったのね」
106: 以下、
しえんage
107: 以下、
しえん
108: 以下、
宇宙人「あなたは……」
少女「ん?」
宇宙人「私たちが、どのような経緯で出会ったか覚えていますか?」
少女「……」
少女「……え?」
宇宙人「……なぜ、宇宙人の私が、あなたのもとに来たのか。私たちの出会いの記憶が、あなたにはありますか?」
少女「……えっ、え?」
少女「あ……」
宇宙人「……」
少女「……お、覚えてるわ。それはもう、も、もちろん!」
宇宙人「……」
宇宙人「……そうですか。それならばいいのです」
109: 以下、
***
少女「……ヒック…………ヒック……」
宇宙人「……どうしたのですか」
少女「……ヒック……もぅやだぁ……」ポロポロ
宇宙人「……」
宇宙人「また、お父様に悪戯をされたのですか?」
少女「……ヒック……グス……………」ポロポロ
宇宙人「……」
少女「……ヒック……」ポロポロ…
宇宙人「……」
113: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
少女「…………今日、『二度と学校に来るな』って言われたわ」
少女「……何度も、何度も」
宇宙人「……」
少女「……」
119: 以下、
***
宇宙人「……血が、出ています」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……ママが投げつけた物が、ぶつかったのよ」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「手当てした方がよいと思います。手伝いますよ」
少女「……」
少女「……ありがとう」
123: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「……」
少女「今日は、友達だったあの娘に叩かれたわ」
宇宙人「……」
少女「靴を隠されて、教科書に落書きをされて、下着を脱がされて教室の前に貼り出されたの」
宇宙人「……」
少女「貼り出された下着の前で膝をつかされて、『ごめんなさい』って言えって、言われたわ」
少女「『生まれてきてごめんなさい』って言えって」
少女「わたし、ごめんなさいって言ったわ。そしたら次は……」
少女「『こんな私が生きていることを許してくれてありがとう』って言えって」
宇宙人「……」
少女「『私たちに感謝しなさい』って言うの……」
124: 以下、
***
宇宙人「……」
少女「……」
少女「パパが」
宇宙人「え?」
少女「パパが……最近エスカレートしてるの……」
宇宙人「……」
少女「きっと、もう時間がないと思う……」
少女「取り返しのつかないことが起こってしまうまで、もう、ほとんど時間が残ってないと思うの……」
宇宙人「……」
126: 以下、
***
少女「ねぇ……」
宇宙人「なんですか?」
少女「私たちは……どうして、他の誰かをいじめるのかな」
宇宙人「……」
少女「……あなた、物知りだから分かるでしょ?」
少女「どうして弱いものいじめなんて起こるの?」
宇宙人「……」
少女「どうして、みんな、お互いに優しくなれないんだろう」
127: 以下、
どうか間違いがおこりませんように
128: 以下、
もう最悪の展開しか思いつかない
どうなるんだ
129: 以下、
宇宙人「欲求があるからです」
少女「欲求?」
宇宙人「奪い、殺して、食べる……生命の営みの基本です」
宇宙人「攻撃欲求、征服欲求、生命の根底にはこれらの欲求が横たわっています」
宇宙人「ある程度知性を発達させたあなた方のような種族にもなお、これらの欲求は根強く存在している」
少女「……」
宇宙人「承認されたい、権威を誇りたい……社会性の獲得によってこのような欲求も生じます」
宇宙人「攻撃欲求、征服欲求、示威欲求、あなたのお父様の場合は性的欲求ですが……いずれにせよ、欲求を満たすことで快感が得られます」
少女「……」
宇宙人「あなたのお母様は、あなたを養っている現況に不満をもっておられます」
宇宙人「不満の解消は、これもまた消極的ながら気持ちのよいものです」
少女「……」
132: 以下、
宇宙人「それらの欲求や欲求不満は、いずれも他者の存在と密接に結びついたものです」
宇宙人「他人との関わりの中で満たされ、解消されることで、快感が得られる類のものだと言えます」
宇宙人「気持ちがよいのです」
宇宙人「いじめは気持ちが良い」
宇宙人「だからなくなりません。気持ちのよいことは誰もがしたいと思うことですから」
少女「……」
宇宙人「あなたは、彼らにとって悦楽の遊具に過ぎません」
宇宙人「……それが、あなたの知りたがっている答えです」
少女「……」
少女「……そう」
宇宙人「……」
少女「……そう、なんだ」
133: 以下、
話に引き込まれる
しえん
134: 以下、
深いな
135: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「……」
少女「ねえ」
宇宙人「なんですか?」
少女「私も連れていってくれない?」
宇宙人「連れていってとは……宇宙に、ですか?」
少女「……うん」
宇宙人「無理です」
少女「……」
少女「……どうして?」
137: 以下、
宇宙人「あなたを連れ出せない理由は色々とありますが、主要なものは二つです」
宇宙人「第一に、私には感情エネルギー採集地を開拓する開拓員としての役目があります」
宇宙人「こうして協力してくれているあなたには感謝していますが、だからといって自分の任務を疎かにすることはできません」
宇宙人「そして、そもそも、現地民をこの星の外に連れ出せるだけの権限は、一開拓員の私にはありません」
少女「……」
宇宙人「第二に、私が利用する宇宙船には、肉体そのままではなく……情報体の形でしか乗船できません」
宇宙人「この肉人形……私の身体も、この星への下船時に構築したものであって、もともとこの姿形のまま宇宙船に乗っていたわけではありません」
宇宙人「つまり宇宙船に搭乗させるにはあなたを情報体化させねばならないわけですが、そもそも異種族の情報体化は、我々の種族の法では禁止されています」
宇宙人「以上より、その提案に頷くことはできません」
少女「……そう」
宇宙人「はい。……申し訳ありませんが、諦めて下さい」
138: 以下、
少女「あの小説……」
宇宙人「え?」
少女「あのSF小説の主人公の女の子、ね……」
少女「最後の結末で、宇宙人と共に宇宙に旅立つの」
宇宙人「……」
少女「幸せそうな顔で、弾む足取りで、胸を夢一杯の期待でふくらませて……」
少女「宇宙人と手をとり合って……宇宙にね、飛び立つのよ……」
宇宙人「……」
少女「とても……幸せな結末でしょう?」
少女「……幸せな、……とても幸せな結末なの……」
少女「私もね、この星を飛び出せたら、きっと幸せな未来が待っているんじゃないかって……そう思うの……」
宇宙人「……」
139: 以下、
引き込まれる支援
140: 以下、
宇宙人「もし……」
少女「え?」
宇宙人「もし、すべてが解決して幸せになれたなら……何をしたいですか?」
少女「……」
少女「そうだね……」
少女「あなたの生まれた星に行ってみたいかな」
宇宙人「……」
少女「って、あなたには生まれ故郷なんてないんだっけ?」
宇宙人「……そうですね」
少女「ふふ……でもいい。決めたの。それを私の夢ってことにするわ」
少女「全部うまくいくようなことがあったら、あなたの生まれ故郷でね、変な姿をした変な宇宙人たちに囲まれて……幸せに暮らすの」
宇宙人「……」
141: 以下、
***
宇宙人「今日は、どうされたんですか?」
少女「……」
宇宙人「ひどい顔色ですよ」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……何でもないわ」
宇宙人「……」
少女「……何でもない」
少女「……いつものことだもの」
142: 以下、
・・・
143: 以下、
***
少女「……」
宇宙人「……」
少女「最近なんだか身体が重いの……」
宇宙人「あなたの生命力の薄弱化は把握しています」
少女「……ねえ。私を連れて行くことができないなら……優しく殺してくれない?」
宇宙人「え?」
少女「あなた、前に言っていたでしょう。『一切の痕跡を残さず消滅させる』ことができるって」
宇宙人「……ええ」
少女「だったら、私を殺して? 痛みを感じる間もなく、一瞬で……」
宇宙人「……」
144: 以下、
少女ェ...
146: 以下、
やめろ・・・
やめてくれ・・・
147: 以下、
宇宙人「……それは、できません」
少女「……」
少女「……どうして」
宇宙人「……」
少女「どうしてよ……」
少女「どうしてよぉッッ!!!」
少女「あなた、私の友達でしょう!?」
宇宙人「……」
少女「ね? ねぇ? 友達だよね私たちッ!」
少女「お願いだから『そうだ』と言って! あなただけが友達なの! あなただけが優しくしてくれるの!」
宇宙人「……」
149: 以下、
少女「なにか言ってよ! 答えてよぉッ!!」
宇宙人「……」
少女「友達だって言って! 『あなたの友達だよ』って!!」
宇宙人「……」
少女「みんな、私をいじめるのッ! この世界には幸せなことなんて一つもないッ!!」
少女「でも、あなたは違うでしょう!? あなたはいつも私に優しくしてくれたもの! この広い宇宙の中で、あなただけがッ!!」
宇宙人「……」
少女「あなただけが私を見てくれたのッ!! だからッ……だから、お願いだからぁッ!! 『友達だ』って言ってよぉッッ!!!」
宇宙人「……」
宇宙人「……あなたは」
宇宙人「……」
宇宙人「……あなたは、私の……友達です」
150: 以下、
ほう
152: 以下、
少女「あ、ははっ、は……」
少女「……そう」
少女「だったら、私のお願いを聞いてくれるよね?」
宇宙人「……」
少女「……お願い。本当に……本当に辛いの……」
少女「身体が引き千切られそうで……魂が散り散りになりそうなの……」
宇宙人「……」
少女「……お願い。わたしを、殺して」
宇宙人「……」
宇宙人「……それは、できません」
少女「……」
154: 以下、
少女「……そう」
宇宙人「……」
少女「だったら……もう何もいらない」
少女「もう、どうでもいい」
宇宙人「……」
少女「みんな、互いに優しくなることができずに……」
少女「私も、この地獄から逃げることすらできないなら……」
少女「こんな世界……」
少女「こんな、世界……」
──────もう、なくなっちゃえばいい
155: 以下、
宇宙人「……」
宇宙人「では、なくしてしまいましょう」
少女「……え?」
宇宙人「……」
少女「だ、だめだよ! や……やっぱり今のはなし! みんなを殺すなんて……ッ!!」
宇宙人「……いいえ」
宇宙人「違います。そんなことをする必要はないんです」
宇宙人「世界を……『あなたの世界』をなくしてしまうには、たった一言で十分ですから」
少女「……」
少女「……な……なにを、言って……?」
159: 以下、
宇宙人「ずっと黙っていたことをお詫びします」
少女「え?」
宇宙人「いえ、以前に一度言ったことがあるのですが、あなたの反応が劇的だったので、以後そのことは禁句としていたのです」
少女「……なんの、こと?」
少女「あなた……一体、なにを言っているのよッ!?」
宇宙人「あなたも、薄々気づいているんじゃないですか?」
宇宙人「世界は……」
少女「……や、」
宇宙人「あなたの『その世界』は……」
少女「……や、やめてッ!」
宇宙人「────すべて、あなたの妄想なんです」
163: 以下、
( ゚д゚)
164: 以下、
どういうことなの…
165: 以下、
きたかっ
167: 以下、
少女「──────あ」
宇宙人「あなたを虐待する両親は存在していません」
宇宙人「あなたは学校にも行っていませんし、級友からいじめを受けてもいません」
宇宙人「……すべて、あなたの妄想です」
少女「…………は、」
少女「……は、はは。なに言ってるの……」
少女「そんなの嘘よ。だって、私には記憶があるもの」
少女「友達に罵倒された、ママに叩かれた、パパに身体を触られたッ……生々しい記憶があるものッ!」
宇宙人「……」
宇宙人「……ええ。確かにそれらの記憶はすべて本物です」
宇宙人「紛うことなき、あなた自身の本当の記憶ですよ」
少女「え?? さっき、……から、一体何を……? 意味がわからないんだけど」
170: 以下、
宇宙人「あなたが目を背けた……本当に目を背けたかった事実は一つだけです」
少女「……それ、は」
宇宙人「あなたは……」
宇宙人「…………────自分の、実の両親を殺したんですよね」
少女「………………ぇ」
宇宙人「あなたと出会ってすぐに、異常には気が付きました」
宇宙人「そこで、悪いとは思いましたが、あなたの睡眠中に記憶を探らせてもらったのです」
少女「………………」
宇宙人「あなたが受けていた虐待は、養父母によるものではありません」
宇宙人「あなたを本当に虐待していたのは……実の両親でした」
宇宙人「あなたの存在を疎んじ、罵倒し、暴力を振るっていたのは実の母親」
宇宙人「そして、あなたに性的虐待を行なっていたのは、実の父親です」
171: 以下、
うぁぁ・・・
保守
うぁぁ・・・
172: 以下、
スレタイからは予想のできない展開になってきたな
173: 以下、
宇宙人「お父様の死は、半ば事故でした」
宇宙人「浴室にてあなたに乱暴を働こうとした父親を、あなたは突き飛ばしてしまい……」
宇宙人「足を滑らした彼は転んで、……打ち所が悪かったのですね」
宇宙人「あっけなく、死んでしまいました」
少女「……ぅ…………ぁ」
宇宙人「父親の死が露見すれば、どのような仕打ちを母親から受けるか……」
宇宙人「場合によっては殺されるか……、そうでなくても死ぬほどの折檻を受けることは容易に想像できたのでしょう」
宇宙人「あなたは、母親を手にかけた」
少女「……ぅ、グッ……やめ……て……」ブルブル
宇宙人「刃物で一突きです。父親の場合とは違って、こちらは明確な殺意をもって行った殺害でした」
宇宙人「いえ、お父様の殺害についても過失というより……やはり多少なりとも殺意があったのではないですか」
174: 以下、
ああ
175: 以下、
はやく
176: 以下、
しえ
177: 以下、
宇宙人「実の両親を手にかけたあなたは、……心が半分、壊れてしまったのですね。夢と現をさまよいました」
宇宙人「一面では非常に理性的であり、他方では全く逃避的でした」
宇宙人「両親の遺体を風呂場に突っ込んで隠したかと思えば、隠蔽工作もせずに放置しておいた」
宇宙人「実の両親の死を受け入れているように見えて、養父母の存在を盲信しつつ自傷行為によって過去の虐待を自ら再現した」
宇宙人「また、学校に行くように見せかけておいて、周りの目も気にせず日がな一日公園でぼんやりして過ごしていました」
少女「……やめ、て……もう…………やめて……」ブルブル
宇宙人「いいえ……やめません。あなたはもう限界です」
178: 以下、
がんばれ
保守
179: 以下、
宇宙人「あなたは現実に脚をつけているようで、妄想の世界に耽溺していた」
宇宙人「死んだ両親の代わりとなる優しい養父母の存在を夢想し、学校の級友たちとの暖かな交流を空想しようとした」
宇宙人「妄想の世界で偽りの温もりに包まれていられるならば、その先に果てるとしてもきっと幸せだったことでしょう」
少女「……ウップ………はぁ……はぁ……」ブルブル
宇宙人「しかし、生まれてこの方『幸せな自分』を一度も経験したことがなく、不幸な体験しか知らなかったあなたは……」
宇宙人「妄想の中でさえ、幸せな自分を思い描くことができなかったんです」
少女「……あぁ……ああ"あ"ぁ"…………」ブルブル
183: 以下、
宇宙人「妄想の中の級友のいじめは、かつてあなたの級友が、実際にあなたに体験させたいじめそのものです」
宇宙人「妄想の中の養父母の虐待は、かつてあなたの実の両親が、実際にあなたに体験させた虐待そのままに他ならない」
宇宙人「現実で不幸だったあなたは、思い通りになるはずの妄想の中ですら……不幸だったのです」
少女「……はぁー……はぁー……」ポロポロ…
宇宙人「この地域の官憲組織の整備が不充分であったことは不幸中の幸いでしたね」
宇宙人「もし充分な機構が整っていれば、数日と経たずに捕まっていたことでしょう」
宇宙人「あなたの身体には……屍臭が染み付いていますから」
宇宙人「……以上が、あなたの『本当の世界』です」
少女「……………ッ……」ポロポロ…
185: 以下、
少女「……ど……」
少女「……どう、して……」
宇宙人「……」
少女「どうして……話したの?」
宇宙人「……あなたは、妄想に憑き殺されそうになっていた」
宇宙人「黙っておくのはこれが限界だと感じました」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……そ、う」
宇宙人「……はい」
187: 以下、
少女「……それじゃあ……最後に、もう一つだけ聞かせて」
宇宙人「……何でしょうか」
少女「あなたも……」
少女「あなたも……私の妄想の産物なの?」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「……はい、そうです」
少女「………………そっか」
少女「……やっぱり……そうよね。当たり前だよね。だって、この世に宇宙人なんているはずないもん、ね……」
少女「あなたと私の関係……あのSF小説の内容にそっくり、だったもの……」
少女「妄想相手に『お友達』なんて……みじめを通り越して、滑稽ッ……で……」グスッ
少女「皆……みんな……みーーーんなッ! 私の……一人遊び、だったんだぁッッ……あははっ」ポロ…
少女「あはは……あはははっ…………」ポロポロ…
189: 以下、
はよ
190: 以下、
少女「あはははははっ…………」ポロポロ…
少女「どうして……私は、パパを……殺しちゃったんだろう……」
少女「どう、じでっ……ママを"……こ、殺しちゃっだん、だろうッ……」グスッ
少女「あ、あはははははっ……あははは………」ポロポロ…
少女「あは……あぁぁ……あ”あ”あ”あぁぁぁ…………」ポロポロポロ…
少女「……ぅう"う"、ぁ"あ"……う"わあ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁぁぁぁんッッ!!!」ポロポロポロ…
少女「ごめん、なさい……ごめん"な"ざい……ごめん"な"さいごめんなざいごめんなさいッッッ!!!」ポロポロポロ…
少女「パパぁ……ママぁ……」ポロポロポロ…
少女「パパぁッ! ママぁッ! ごめんな"ざい"! ごめんなざい"ぃッ! う"あ"あ"あぁぁぁ……」ポロポロポロポロ…
宇宙人「……」
191: 以下、
救いはないのか・・・
192: 以下、
***
宇宙人「……」
宇宙人「……落ち着きましたか」
少女「……」
少女「……」
少女「…………うん、少しだけ」グスッ
宇宙人「……」
少女「……もう、私のそばにいなくてもいいんだよ」
少女「これ以上妄想にしがみついて逃避を続けてたら、死んじゃったパパとママに申し訳ないもの」
宇宙人「……そうですか」
宇宙人「確かに。もう既に十分な量の感情採取が行えましたから。これ以上ここに留まる理由もありませんね」
少女「そう、なんだ」
宇宙人「あなたの茶番につき合う必要ももうない。わたしは、あなたの世界から退散しましょう」
少女「うん……それが、いいよ」
195: 以下、
宇宙人「しかし、あなたはこれからどうするのですか?」
少女「……」
少女「前に私が言ったこと……覚えてる?」
宇宙人「……」
少女「『どんな悪い事をしたって、その行為の結果を受け止める覚悟がないなら、それは自分自身に責任を引き受けてないってこと』だ」
少女「『誰かの悪口を言ったって、誰かを殺したって……、その事実から目を背けているなら、そこには覚悟が……責任がない』んだって」
少女「……偉そうなこと言って、自分の責任から逃げていたのは私だったね」
宇宙人「……」
少女「今度ばかりは『あなたは悪くない』だなんて言わないでね」
少女「私は、殺したの」
少女「自分の意志で、……殺したのよ」
200: 以下、
少女「私、もう逃げないわ」
宇宙人「責任は覚悟の形……でしたね」
少女「ふふ。なんだ……ちゃんと覚えてるじゃない」
少女「……なんて、私が覚えてることだもの。私の妄想のあなたが、覚えてないはずないものね」
宇宙人「……」
少女「わたしは自分の行為の責任を、自分自身で引き受けなきゃいけない」
少女「だからね、死のうと思うの……わたし」
宇宙人「……」
少女「ひょっとすると他に、もっときちんとした責任の取り方があるのかもしれない」
少女「でも、これが……私の、私なりの責任の取り方よ」
少女「私が自分自身に引き受けた……『覚悟の形』なの」
201: 以下、
よしなさい・・・
202: 以下、
はよしなさい・・・
203: 以下、
宇宙人「そう……ですか」
少女「……うん」
宇宙人「わたしには、あなたの覚悟を否定する権利はありません」
少女「……うん」
宇宙人「ですから、ここであなたのもとを去ろうと思います」
少女「……」
少女「そっか」
宇宙人「はい。通信を回復させられる程度には動力源も回復しましたし、母船と通信が可能になれば向こう側でこちらを引っ張ってくれます」
少女「それじゃ、これでお別れ……だね」
宇宙人「……はい」
206: 以下、
しえん
207: 以下、
少女「短い間だったけど……」
少女「私の妄想に過ぎないとしても……、あなたと過ごした時間は楽しかったわ」
宇宙人「……はい」
少女「ありがとう。本当に感謝してるの」
宇宙人「いえ……こちらこそ、私の生体維持および宇宙船の動力源供給の協力、感謝します」
少女「ふふ。最後の最後まで……そのキャラは崩さないんだ。私の妄想もなかなかのものね」
宇宙人「……もう会うことはないでしょう。これでお別れです」
少女「うん。ばいばい……妄想世界の宇宙人さん……」
宇宙人「さようなら。……薄幸の少女さん」
209: 以下、
哀しい
211: 以下、
少女「……」
少女「……」
少女「……ほんとうに、一瞬にして消えてしまうのね」
少女「跡形もなく……まるで蜃気楼のように」
少女「……」
少女「……さよなら」
少女「結局わたしは、最初から最後まで、一人ぼっちだったんだね……」
少女「……」
少女「パパ、ママ……」
少女「パパとママは……私のこと、愛してなかったのかなぁ……」
212: 以下、
少女「ママは、……私のこと嫌ってた」
少女「パパの愛情は、ふつうの父親の愛情とは違ってたもんね……」
少女「でも、私は……」
少女「……」
少女「私は、二人のことが大好きだよ」
少女「……今でも、二人のこと、だ、大好き、だよ」グスッ
少女「だから、ね」ポロ…
少女「もし天国にいけたら、三人で仲良くできるかなぁ……」ポロポロ…
少女「また三人で、一から、やり直せるかな……」ポロポロ…
少女「……」
少女「……無理、か。私はきっと、地獄行きだよね……」ポロポロ…
213: 以下、
頼むぞ
214: 以下、
────ああ、世界は優しくない
…………こんなにも、こんなにも、辛いことばかりで
…………せめて
…………せめてこの眠りだけでも
…………安らかなものでありますように
…………さようなら
…………ばいばい、宇宙人さん
216: 以下、
──────…………
────…………
───………
──さい
少女「……」
──して下さい
少女「……ぅ……」
──目を覚まして下さい!
少女「…………ぇ?」
宇宙人「目を覚まして下さい! お願いしますから!」
少女「…………」
少女「…………どう、して?」
217: 以下、
よし!いいぞ!
218: 以下、
少女「……どうして、戻ってきたの?」
宇宙人「……ッ」
少女「わたし、……覚悟したつもり、だったのになぁ……まだ、妄想を見続けてるなんて……覚悟、足りなかったのかな……」
宇宙人「しゃべらないでください!」
宇宙人「腹部を刃物で刺したのですね……」
少女「……ぅ……ゴフッ…………」
宇宙人「わたしは……あなたに謝らねばならないことがあります」
宇宙人「自分の任務を優先しようとする余り、……あなたに嘘をついたんです」
少女「……」
219: 忍法帖【Lv=7,xxxP】 2012/02/28(火) 02:28:55.71 ID:/CpYauEU0
追いついた
いい展開
支援
221: 以下、
ずっと読み続けてよかった 宇宙人さん…!!
222: 以下、
宇宙人「……私は、あなたの妄想ではありません」
少女「……ぇ?」
宇宙人「偽りの家族も、偽りの級友も、確かにすべてあなたの妄想でした」
宇宙人「それは、……否定しようもない事実です」
宇宙人「しかし私は実在します」
少女「……」
宇宙人「あなたの世界はあべこべだったんです」
宇宙人「事実と思えることが実は妄想で、……逆に妄想としか考えられない私の存在は事実でした」
宇宙人「……そのことを伝えなかった私を、どうか許してください」
少女「……」
宇宙人「一見すると荒唐無稽に思える私の存在こそが、あなたにとっては────ただ一つの真実だったのです」
223: 以下、
少女「……」
少女「……ほんと、に? ほんとにあなた、は……存在するの?」
宇宙人「はい」
少女「……妄想じゃ、なくて?」
宇宙人「妄想ではありません。ここに、きちんと実在しています」
少女「でも……コフッ……なん、で?」
少女「どうして……戻って、きたの?」
宇宙人「……」
宇宙人「私がここに来たのは、自分の『責任』を果たすためです」
少女「……せき、にん?」
224: 以下、
宇宙人「責任というのは、自らの意志で引き受けようとする覚悟の形なんでしょう?」
宇宙人「私にはあなたの覚悟を否定することはできません」
少女「……」
宇宙人「あなたが見せた高潔なその意思を否定することなど、私にはできない」
宇宙人「……ですから」
宇宙人「ですから、私は私なりに、私の覚悟をあなたに示すことにしました」
少女「……」
宇宙人「私は、己の全身全霊をささげて……あなたを救ってみせる」
宇宙人「あなたを苦しめる全ての障害から、あなたを守ってみせます」
宇宙人「それが……私の『覚悟の形』です」
少女「……」
少女「…………わたし、を?」
225: 以下、
宇宙人すごいやばい
226: 以下、
やっと追いついた
227: 以下、
少女「……はぁ……はぁ……ぐッ!!」
宇宙人「ッ!? しっかりしてください!!」
少女「…………して」
宇宙人「え?」
少女「…………どう、して、……わたしなんか、を?」
宇宙人「……」
宇宙人「……そんな。いまさら何を言っているんです」
少女「ぇ?」
宇宙人「そんなの決まっているじゃないですか」
少女「……」
宇宙人「あなたは……」
宇宙人「あなたは、この広い宇宙の中で、たった一人の────」
宇宙人「──────私の、お友達でしょう?」
233: 以下、
少女「────…………ぁ」
宇宙人「友達のためなら、いくらでも『覚悟』をもつことができます」
宇宙人「私はあなたの全存在を……自らの果たすべき『責任』として、引き受けることを誓います」
少女「……あ、……あぁ────」ジワ
宇宙人「待って下さい、今処方をしますから!」
少女「……もう、────いいわ」ポロ……
少女「……死ぬ間際に、こんな……素敵な、友達が……できたんだもの」ポロポロ…
宇宙人「……あなたを死なせたりしません!」
少女「あなたが妄想でも、……ゴフッ……実在、していても、……もう、どちらでもいい」ポロポロポロ…
少女「ありがと、ね……」ポロ…
少女「私を、友達だと言ってくれ、て……ありが、とう……」
宇宙人「ちょっと! しっかり────」
────その瞬間、彼女は……事切れた
234: 以下、
おい・・・
266: 以下、
──エピローグ
私は星を去った
しかし、調査任務を無事に遂行し終えたとは言い難い
母船に通信して向こうに引っ張ってもらってもらい、帰還して動力源を確保したのも束の間、先程発ったばかりの星へと無断で取って返したのだ
……しかし、彼女の死は避けようがなかった
私の躊躇いが、運命を分けたのだろうか
後悔が鈍い想念となってかけ巡る
確かに……母船に戻る前の段階で彼女を無理やり情報体化して連れだしたところで、
動力源を確保するために母船に帰還すれば即お縄だっただろう
結局は、こうするしかなかったのだと自分自身を無理やり納得させるしかない
過去へは……戻れないからだ
269: 以下、
これからどうすべきか
情報体同士の情報共有化はできない
そんなことをすれば、第三者に自分の位置をあからさまに教えるようなものだ
いずれ何らかの策を講じる必要があるが、当面はローカルな情報に頼らざるを得ない
──故郷にでも帰ろうか
そんなことを考えつつ舵を取る
……宇宙船の航行度はとてつもなくい
というか宇宙船と言っても、そもそも物理的形状をもった船に乗っているわけではないのだ
この宇宙船もまた一種の情報体に過ぎない
無形飛行の中で……私は今、前に進んでいるのだろうか、それとも逃げているのだろうか
「責任……か」
ぼんやりと意識を宙に浮かべて、独りごちる
今更になって何故か…………彼女との出会いが脳裏をめぐった
272: 以下、
────……
──……
─…
──通信機のトラブルで母船に帰還することができなくなり、動力源も底をついてしまったものの、
とりあえず目的の星に辿りつくことができたため、私はその段階でも比較的状況を楽観視していた
あまり物事を深刻に考えすぎないのは、他の個体とは異なる、私という個体の特性だろうか
「とは言え、気軽に出歩くのはマズイですよね?」
本来であれば、この星で接触をとる種族の姿に似せた肉人形を用意すべきところなのだが、その程度の動力源すら残っていなかったのだ
仕方なく私は現状ですぐに作ることのできる肉人形────我々の種族の祖先の姿形を模したものだ────を用意することにした
こうなると軽々には行動できない
こんな姿で街を悠々と闊歩しようものなら、たちまち衆目を集め、捉えられたり解剖されちゃったりするだろう
いや、この身体を解剖されたからといって死にはしないのだが
273: 以下、
当面、感情採取に協力してくれる現地民を探す必要があった
「あなた誰?」
──探すまでもなく見つかってしまった
「えっ宇宙人ですけど」
つい本当のことを答えてしまう自分の馬鹿正直さが憎らしい
「へぇ?」
なんだか目をキラキラさせていらっしゃる
「私ね、宇宙人とお友達になるのが夢だったの!」
──ほほぅ
「私も寄生さk……ゲフンゲフン……現地民のお友達ができるのは嬉しいです!」
そんな風に、無邪気な生き物ですよ?という感じのアピールをして彼女に近づいた
274: 以下、
おいやめろ・・・
275: 以下、
「ねえねえ……宇宙人ってどんな生活してるの?」
──異変は彼女の家に入った瞬間に気づいた
腐臭……いや、屍臭だこれは
「さあ、あなたが思っているものとは随分違うと思いますが……」
臭いの出所は……1階……バスルームだろうか
「それにしてもあなた……変な姿してるのね。宇宙人ってみんなこんななの?」
「いえ、そうとも限りません。そもそもこの形は借り物で、私にとっての定型ではないので」
「ん? どういうこと?」
──彼女はこの臭いに気づいていないのか?
…………いや、気付かないはずはない
気づいている上で、『気にしていない』のだ……
彼女と会話しつつも、私は臭いの元が気になって仕方なく、どこか上の空だった
276: 以下、
「ちょっとトイレ借りてもいいですか?」
「えっ!? いいけど……宇宙人もトイレ行くの?」
「ええ……そんなもんです」
──もちろん嘘だ
1階に降りてバスルームを確認する
腐った死体を二体発見した
「──ふむ」
この種族には同族の死体をバスルームに放置する文化でもあっただろうか?
「いや、ないですないです」
自分のとぼけた発想に自分で突っ込むという何だかのんべりとした情報処理を行った後、2階の彼女の部屋に戻った
277: 以下、
「おかえりなさい」
「あぁ、ただいまです」
少女は自室でくつろいでいた
「あの……一つ聞きたいことがあるのですが」
「なに?」
「バスルームの死体は何ですか?」
「……」
「?」
「……」
「あのぉ?」
──き、気絶してる
なんだこの子……
278: 以下、
「あなた誰?」
目を覚ました一言目がそれだった
「えっ宇宙人ですけど」
それに馬鹿正直に返す私も私だが……って、何だか既視感
「ウチュージン?」
「そうですよ」
──ああ、なるほど
この子、イカレてるんだな
そう判断した私は、同時に、『むしろこれは好都合なんじゃないか?』……そう考えた
宇宙人の存在を何の躊躇もなく受け入れている時点でかなり頭がおかしいが、
感情採取を目的としている私にとっては、過剰に警戒されない分やりやすいと言える
そんなこんなで、私は彼女を寄生先に選ぶことにしたのだった
────……
──……
─…
279: 以下、
最初は利用しようとしただけだった
彼女の不幸な境遇や、その不幸な妄想の内容を悟った後も、特別、同情心は生じなかった
『いじめっ子排除プラン』も、彼女の生命力を弱らせないようにする方便でしかなかったし、
実際にその排除プランが彼女の賛同を得たとしても、適当に振舞って妄想の方向性を変えてやればいい程度に考えていたのだ
とは言えその妄想の方向性を変えてやるには、何らかの方法で『両親や級友が死んだ』と彼女に誤認させねばならなかった
もし虐待が妄想ではなく、現実に起こっていることであれば彼女の意向を無視してさっさと殺害を遂行していただろうが……
妄想の中の相手となるとそうすることもできず、彼女の動向に多少ヤキモキしていたのも確かだ
……そう、彼女には本当にヤキモキさせられた
それはひとえに、彼女のその偏向した考え方によるも所が大きい
280: 以下、
────責任は覚悟の形
小娘の戯れ言でしかなく、一笑に付してしかるべき妄言のはずだ
それなのに私の内なる変化をもたらしたのもまた……彼女のその言葉だった
妄想の友人に傷つけられた彼女が、友人の告発を自らの責任として受け止めようとする姿は滑稽でもあり、何故か美しくもあった
『生命の有り様』を美しいと感じる
これは我々の種族にとって退化した感情のはずだ
それなのに彼女の『覚悟』は……何故か私の琴線に触れ、私の魂を揺さぶった
そして、自身の両親を殺めた罪を引き受け、終には自らの命に幕を引こうと決意したその『覚悟』を見るに至って──
私は、彼女を、この美しいものを守らねばならないという強烈な衝動に襲われたのだ
283: 以下、
我々は岐路に立たされたとき、『その先で何を得るか』という基準をもって選択肢を選ぶ傾向がある
その際、往々にして『選んだその先で何を失うか』という視点は忘れられがちだ
そして、一度選択して先に進んでしまえばもはや失われたものに気など払わず、やがて、『自分が失ったのだ』という事実すら忘却の彼方へ追いやってしまう
その無数の忘却の果てに今の我々の姿があるとすれば、果たして、これまでの選択が正しかったのだろうかと、自分たちの道程に対する懸念が生じるだろう
疑い始めては前に進めない
だから私の仲間たちは疑念を抱かず、立ち止まることなく、忘却を恐れず、勇敢に前を向いて進んでいくのだ
────そう
ただ私は、そんな彼らと道を違えたに過ぎない
根底的な断絶でもって、彼らと訣別したのだ
284: 以下、
何故だろう涙が
285: 以下、
彼らがかつて有し、今や遠い過去に置き忘れた、あの神聖感
私が彼女に対して抱いた、心を震わせつつ胸の奥からこみ上げてくるあの内なる情動
私は自分の仲間たちがかつて忘却したものに固執し、取り残される側に自らも残留することを、あえて選んだのだ
────そこまでする価値があるというのか?
それこそ、聞くまでもないことだ
……暖かく
……穏やかで
……勇気を湧かせ
……胸を熱くする
……何よりも尊い──────
少女「────ねえ。むっつりと思索にふけってないで、私とおしゃべりしなさいよ」
宇宙人「えっ……あぁ、すみません。さて、どんなお話をしましょうか?」
────元気な笑顔を見せてくれる彼女を守ること以上に、大切なものなどないのだから
286: 以下、
うん。
287: 以下、
よし。
288: 以下、
***
少女「ん????ッッ!!」
少女「……ッ、はぁ??!! 久しぶりの地面ね!」
宇宙人「長旅お疲れ様でした」
少女「本当よ! 宇宙船の中つまんないんだもの。歩けないし、食事もできないし」
宇宙人「あなたは情報体になったんですから、運動する必要も食事する必要もないんですよ?」
宇宙人「その代わりに、我々と同じく感情エネルギーが必要な存在になってしまいましたが」
少女「……まぁ、それはまだいいんだけど。この身体はなに?」
宇宙人「我々の種族の祖先の形を模した肉人形ですね。私がこれまでに使っていたのと同タイプのやつですよ」
少女「……元の身体がいい」
宇宙人「そこは我慢してくださいよ。あなたは……あなたの肉体は間違いなく死んだんですから」
293: 以下、
少女「それ、何度聞いてもよく分からないんだけど……私って死んだの?」
宇宙人「一般的な生物種としての死を迎えたことは間違いないでしょうね」
宇宙人「ただ、肉体の死と生命の死とは本来、別の現象なんです」
宇宙人「生命が肉体と不可離に結びついてる状態で肉体が滅びると、生命も肉体の死に引きずられて死んでしまいますが」
宇宙人「私や、今のあなたのように、生命を情報体の形で単独で存在させられるならば、肉体が死んでも生命は滅びません」
宇宙人「もっとも、肉体の寿命とは別に生命それ自体にも寿命がありますから、情報体になったからといって永遠に生きられるということではないんですが」
294: 以下、
少女「……相変わらずよく分からないんだけど。つまりどういうこと?」
宇宙人「ふむ。簡潔に言えば……」
宇宙人「あなたが肉体的な死を迎えた後、時間的猶予は全くありませんでしたが、何とかあなたの生命の情報体化に成功したので、あなたの生命それ自体は死なずにすんだんです」
宇宙人「とはいえ、あなたの肉体が失われたことは残念に思っています」
宇宙人「もっとどうにかできなかったものかと、後悔していますよ」
少女「それは……まぁ仕方がなかったから、別にいいんだけど」
宇宙人「……で、情報体になったあなたを宇宙船に乗せて、逃亡航行の果て、私の故郷にたどり着いた……というわけですね」
少女「……」
少女「やっぱりよく分からない」
296: 以下、
少女「……でも、この星は気に入ったわ」
少女「緑も多いし、水も多い。空気は……少し淀んでいるけど、そのうち馴染むと思うし」
宇宙人「気に入っていただけて何よりです」
宇宙人「一時期は地殻変動や気候変動、我々自身による森林伐採や資源採掘とかでひどい有り様だったんですが、長年の努力によってずいぶん改善しました」
宇宙人「今や異星人も少なくないので、歓迎……とまでいかないでしょうが、邪険に扱われることもないはずです」
少女「へぇ?。……ここ、あなたの故郷って言ってたけど、別にここで生まれたわけではないんでしょう?」
宇宙人「ええもちろん。正確に言えば、私の種族の祖先たちが住んでいた星ですね」
宇宙人「いま私やあなたが使っているこの肉人形ですが、これが私の祖先の姿形だったようですよ」
少女「ふーん。変なの……」
宇宙人「まぁまぁ、ほとぼりが冷めたらあなたの種族用の肉人形を用意してあげますから。今しばらくは我慢してくださいよ」
少女「……わかった。我慢する」
297: 以下、
少女「ま、まぁ……何にせよ? 私を連れだしたのはあなたなんだからね……」
宇宙人「? ええ、そうですね」
少女「だ、だからぁ……ちゃんと『責任』とってってことよ!」
少女「こんな星で、一人っきりでほっぽり出されたらたまったものじゃないし」
宇宙人「ああなるほど。大丈夫ですよ、きちんと面倒見ますから」
宇宙人「……しかし今の文脈、今の言葉の意趣、そしてあなたの種族の文化的背景から考えるに、この『責任とって』という台詞は……」
宇宙人「結婚の申し込み? プロポーズというやつでしょうか」
少女「……え? なに言ってるの?」
宇宙人「ふむ。まぁ一生連れ添うくらいの覚悟は元よりありますが、あなたに『そういう意図』があるとなると……」
宇宙人「性別の壁……、いえ……そもそも種族という大きな壁が……」ブツブツ
298: 以下、
少女「ちょっと、なにブツブツ言ってるのよ。……何か不穏なんだけど」
宇宙人「……ええ。分かりました。大丈夫です」
少女「え、何が?」
宇宙人「種族の違いがあるので子どもを作ることは不可能ですが、性生活で欲求不満にはさせません」
少女「はぁ?」
宇宙人「なに、不安になることはありません。性愛欲は我々にとって退化した欲求にすぎませんが、私の仲間でもエクスタシーを娯楽的に楽しむ者たちはいます」
宇宙人「その手の営みも研究し尽くされ、膨大な知識の蓄積があるのですよ。数万年にわたって発展してきた禁断の性技を披露致しましょう」
少女「……」
少女「……ほんッッとに」プルプル…
宇宙人「?」
少女「学ばないわねあなたはッッ!!!」ツンツンツンツンツンツン!!!
宇宙人「あっ! 痛い! 痛いです! でもなんか懐かしい! でも痛い!」
少女「だからなんで少し嬉しそうなのよ! このバカ!」
304: 以下、
少女「もう。ほんと懲りないんだから」
宇宙人「えへへ、すみません」
少女「……ほら、当面の亡命先に行くんでしょ?」
宇宙人「ええ、参りましょう」
少女「……って、ああもう歩きにくい!!」
宇宙人「申し訳ないですが、こればっかりは慣れてもらうしかないですね?」
少女「どうしてあなたはこんな身体でひょいひょいと歩けるの!?」
宇宙人「慣れですよ、慣れ」
少女「だいたいね……」
少女「そもそも、────なんだって脚が二本しかないわけ!? おかしいじゃない常識的に考えて!」
305: 以下、
えっ
307: 以下、
え?
308: 以下、
なん、だと
309: 以下、
ここにきて急展開?
311: 以下、
宇宙人「それが私たちの祖先の身体だったんだから、仕方ないじゃないですか」
少女「脚も二本なら腕も二本! 不便ったらないわ!」
少女「それに身体全体もなんか縦にひょろっと長くて重心が安定しないし!」
少女「だいたいこのてっぺんについてるサワサワしたやつ何なの!?」
宇宙人「『髪』って言うんですよ。黒髪サラサラのロングストレートです。とってもお似合いですよ」
宇宙人「目もクリクリとしてて、鼻筋が通っていて、とても美人さんな顔立ちです」
宇宙人「体型はあなたの年代に合わせた小柄なものですが…………我々の種族の肉人形愛好家の間では、人気の高いモデルなんですよその身体」
少女「そんなこと言われても、おかしいものはおかしいって感じるんだからしょうがないじゃない!」
少女「…………はぁ。元の身体が恋しいわ」
宇宙人「ふふ。少しの間の我慢ですってば。ね?」
313: 以下、
えwwwww
314: 以下、
元の体が気になるわ
316: 以下、
少女「……ねぇ、それはそうと肝心なことを聞き忘れていたんだけど」
──彼女が長い髪をたなびかせて振り返る
宇宙人「何ですか?」
少女「この星のことよ。なんていう名前なの?」
姿形がどのようであれ、彼女の強さとその煌めきには何の変わりもなく
宇宙人「あれ? 最初に言いませんでしたっけ?」
少女「聞いたかどうかも忘れちゃったわ」
その傍らに立ち、共に『覚悟』を持って未来を見据えられるならば、そこにあるのは希望だけで────
宇宙人「ふふ。そうですか」
宇宙人「私の故郷である、この星は────」
宇宙人「──────『地球』っていうんです。素敵な名前でしょ?」
317: 以下、
なんと
319: 以下、
──── 少女「あなた誰?」 宇宙人「えっ宇宙人ですけど」 fin.
320: 以下、

良い話だった
321: 以下、
すっげええええええええええおもしれえええええええええええええええええええええええええええ
>>1乙
以外だったわ・・・・・・・・・・・・・・・・
323: 以下、
最後まで読んでくれた人、ありがとう
全編を通した叙述トリックについては,勘のよい人なら >>1, >>2, >>6 当たりの表現で早々に疑いを抱くはず
宇宙人は4万年後の人間で、少女こそが(人間側から見れば)宇宙人だった
過去作は「男と少女」のイチャイチャSSと見せかけて、実は『利他主義』をテーマとした物語
今回は「少女と宇宙人」のほのぼのSSと見せかけて、実は『責任』をテーマとした物語
もし次回作があれば『教育』か『宗教』か……あるいは他に気に入ったテーマがあればそれで書くかもしれない
もしまたSSを書く機会があれば読んでくれ!
325: 以下、
少女は
犬型かなぁ・・・それとも火星人みたいにタコ型かなぁ・・・
327: 以下、
これはいい宇宙人
おつかれさん
330: 忍法帖【Lv=9,xxxP】 2012/02/28(火) 12:23:19.29 ID:B8kxnAN5Q
大層乙であった
334: 以下、
>>1乙
エピローグまで読んで本当に良かった!
336: 以下、
しかし、タコみたいな宇宙人が
娘さわさわしてる映像はかなりシュール
344: 以下、
おっつおっつ
面白かったよ
345: 以下、
まるでキャビアみたいな珍しくて面白い話でした
347: 以下、
すごく面白かった>>1乙
ぜひまた書いてください
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情報量の少ないssならではって感じで好きだわ
13 不思議な
ちくしょう最後の展開は読めなかった
14 不思議な
SSで面白くて続き気になったのはじめて。
世知辛いこの世に生きる人間はみんな、こんな風に違う世界に連れ出して守ってもらう願望持ってるよね。
まとめてくれてありがとうございます
15 不思議な
なかなか読ませる
16 ライムソーダ :2018年08月31日 09:45 ID:GV.vB1Vf0*
面白かった
17 不思議な
最初の宇宙人と少女ってタイトルでトリックに引っかかる、必ず。人の固定観念がそうさせる。構成も言い回しも面白かった。出来るならこの人の過去作も読んでみたいと素直に思う。
18 不思議な
宇宙人かわいい
少女の性格がうざい
19 不思議な
面白かった。
最初の「なんでそんなところに目がついてるの」て少女が言った時に「あ、宇宙人が多分普通の人間型で少女が宇宙人てどんでん返しあるかも」てのはピンと予想ついたが、そのあとの情報体うんぬんの話で「あ、やっぱ違うのか、宇宙人は宇宙人か」と予想の線を捨ててしまった。。
思いがけない展開だったが話がよくまとまってて面白かった
20 不思議な

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