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【バンドリ】湊友希那「動物園へ行こう」


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※一部キャラ崩壊してます
 友希那パパに勝手な設定を盛っています
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2: 以下、
――湊家 友希那の部屋――
湊友希那(8月の初頭。夏の朝。昨日に続いて、今日も気温は35℃を超える猛暑日だとテレビで言っていた)
友希那(暑い。汗をあまりかかない私でも外を歩いているだけで汗ばむ陽気だ)
友希那(学校は夏休み。そして今日はロゼリアの練習も何もない、まっさらな休日だ)
友希那(特にやることは何もなかった。最近は練習に熱を入れすぎてオーバーワーク気味なこともあるから、歌を歌う訳にもいかない)
友希那(喉を休めることもまた歌の練習になるのだ)
友希那(さて、では何をしようか)
友希那(寝起きのぼんやりとした頭でそんなことを考えつつ、朝日を浴びようとカーテンを開けたら、隣の家の部屋の窓からこちらへ向かってカメラを構えている幼馴染の姿が目に映った)
友希那「おはよう、リサ」
友希那(窓を開けてそう声をかけると、彼女は嬉しそうな笑顔で「おはよー、友希那」と言い、カメラのシャッターを切った)
友希那(それを見て、私はなんとなく思い立った)
友希那(そうだ。動物園へ行こう)
3: 以下、
友希那(そうと決めたら準備は念入りに、かつ無駄なく素早く整えよう)
友希那(たかが動物園、されど動物園)
友希那(この暑さでは外を歩くだけで熱中症になる人もいるだろう)
友希那(動物園は広大な敷地内を歩くのだから、まず帽子は欠かせない)
友希那(いつぞやかにお父さんが買ってくれた……いや、正確に言うと押し付けてきた某プロ野球チームの帽子)
友希那(部屋の隅で埃かぶったそれが目に付き、供養の意味も込めてそれを被っていくことにした)
友希那(一度使えばこれがこの先押し入れの肥やしになっていても、お父さんだって納得してくれるでしょう)
友希那(そう思い、白文字で“L”と大きくマークが刺繍された紺色の帽子を手に取ってリビングへ行くと、スポーツニュースを見ていたお父さんが何か期待するような目を私に向けてきた)
友希那(私はそれに対して「暑いから被るだけよ」と言った)
友希那(『そうか……』と想像以上に落胆した様子のお父さんに申し訳ない気がしないでもない)
友希那(だけど何度も『一緒に野球を見に行かないか』と誘ってくるのには正直うんざりしているので、そのまま放っておくことにした)
友希那(白にゃんこ打線と言われれば見に行きたい気持ちがないでもないけど、山賊打線なんて名称のものを好き好んで見に行くほど、私は野球に興味はない)
友希那(8月16日に埼玉県所沢市にある某野球場へ野球を見に行こうと何度も誘われているが、それも正直鬱陶しい)
4: 以下、
友希那(『春と秋は隙間風が吹き込んできて極寒だし、夏は蒸し風呂サウナと評判の球場』)
友希那(『税金対策をしたら全てが裏目に出た球場』)
友希那(『駅から歩いて10秒、だけどその駅まで行くのに乗り換えが多い』)
友希那(『ボールパーク化の工事を進めているから今は駐車場の一部が使えないし、試合前は球場前の道が渋滞する』)
友希那(『でもドームなのに料理に火が使えるからご飯は美味しいし、自然豊かでいいところだよ』)
友希那(お父さんが語ってくれたその球場の特徴だった)
友希那(そう言われて『行きたい』と思う人が果たしてどれだけいるだろうか)
友希那(紗夜くらいだろう、そんなことを思うのは)
友希那(彼女にそのことを話したら『そこまで言われるのであれば逆に行ってみたい』と言っていた)
友希那(8月16日に父に野球を見に行かないかと誘われていてうんざりしている、と言ったら『では私と行きませんか』とも言われた)
友希那(まぁ……紗夜とだったら音楽に関して何か新しい発見があるかもしれないからやぶさかではないのだけど)
友希那(ただこのことが万が一にでもお父さんに漏れれば100%三塁側外野芝生席に案内されるのは目に見えていた)
友希那(応援歌を一通り覚えさせられて『親子デュエットだな』などと寝ぼけたことを言うのも目に見えていた)
友希那(『ミスターレオ、好きだろ?』とわざわざ私用に背番号7のレプリカユニフォームを新調するところまで容易に想像できた)
友希那(行くなら行くで私は内野指定席でのんびり座って試合観戦したいのだ。紗夜と一緒に行くことになっても絶対にお父さんにバレる訳にはいかない)
友希那(リサにもバレる訳にはいかないだろう。リサにバレる=湊家に筒抜けになるということだから)
5: 以下、
友希那(8月16日のことはさておいて、今は動物園の準備だ)
友希那(何度も繰り返すが今年の夏は猛暑だ)
友希那(服装もいつものものではなく、動きやすい格好の方がいい)
友希那(ジーンズに、長袖のシャツ)
友希那(野球帽を被るのだからそういった服装の方が合うでしょう)
友希那(それから荷物もしっかり準備しなければならない)
友希那(まず汗を拭くためのタオルは欠かせない)
友希那(予備のものも含めて2枚あると便利だろう)
友希那(あとはティッシュやハンカチなんかの普段持ち歩くもの)
友希那(水筒……は嵩張るから必要ないわね。自販機で飲み物は買えばいいし、それ用に保冷効果のあるカバーを持っていけば事足りる)
友希那(荷物が重くなって、そのせいで疲れて熱中症になるのでは意味がないわ)
友希那(カバンはリュックがいいわね)
友希那(両手が使える、少し動いてもずり落ちる心配がない、収納能力も申し分なし)
友希那(身支度も済ませて、髪の毛は帽子の邪魔にならないようにまとめて……よし、こんなものね)
友希那(さて、残った問題はどこの動物園へ行くか、ということ)
友希那(…………)
友希那(唐突に思い立ったわけだから1人で動物園に行くことになる)
友希那(東京都内にも動物園は数あるが、あまり近いと知り合いに会う可能性も高くなるだろう)
友希那(休みの日に1人で動物園に足を運ぶほどの動物好き、ないしは可愛いもの好き)
友希那(もし知り合いに出会い、そんなことを思われると『実力主義のロゼリアのカリスマボーカル、孤高の歌姫<ディーヴァ>』というみんなが持っているであろう私の印象が脆くも崩れ去るわ)
友希那(だから少し離れた県外の動物園まで足を運びましょう)
友希那「……よし」
友希那(そう思い、スマートフォンで場所を決めると私は家を出た)
……………………
6: 以下、
友希那(最寄駅から池袋駅まで出て、そこから乗り換えた電車に揺られること約50分)
友希那(車窓の風景に田園、山、川といった緑ばかりになった駅で私は降車した)
友希那(そして駅のロータリーからバスに乗り継ぎ約10分)
友希那(目的地とした動物園に私は到着した)
友希那(今日は8月の初頭の平日)
友希那(生徒や学生は夏休みだけど、働いている人にとっては平日の朝10時前)
友希那(茹だる炎天下ということもあるからだろうか、駐車場に停められた車も券売所に並ぶ人の数もまばらだった)
友希那(その方が私としてはありがたい)
友希那(こうして動物園に1人でやってきたのは、のんびりと動物を見て回りたいからだ)
友希那(混雑している中で慌ただしく動物を眺めるのでは疲れてしまう)
友希那(そう思いながら、券売所の女性スタッフに「大人1枚、お願いします」と私は声をかける)
友希那(世間一般ではおひとり様ブームというものもあるからだろう)
友希那(営業スマイルを浮かべたスタッフの方は「行ってらっしゃいませ」と何ともないようにチケットと園内マップを私に渡してくれた)
友希那(マップを開きながら入り口のゲートをくぐる)
友希那(入ってすぐのところに階段に沿った水場があって、その水が流れる音を聞きながら、どういうルートで園内を歩こうかルート構築をする)
友希那「やっぱり最初は……マヌルネコね」
友希那(2018年現在、国内でマヌルネコを飼育しているのはここを含めて5件だけ)
友希那(それを見ないなんて選択肢はないわ)
友希那(マヌルネコは階段を上って、広場の道を右へ入って歩いて行ったところにいる)
友希那(そのまままっすぐ進んでいくと西の端にペンギンヒルズなるものがあるようね)
友希那(よし、それならまず右回りで園内を一周しましょう)
……………………
7: 以下、
――マヌルネコ舎――
友希那(マヌルネコ)
友希那(マヌルはモンゴル語で『小さいヤマネコ』という意味)
友希那(ということはマヌルネコは『小さいヤマネコネコ』ということ)
友希那(ネコが2つも付いているなんてお得ね)
友希那(そんなどうでもいいことを考えながら、私は飼育舎の中のマヌルネコを眺める)
友希那(飼育舎は左右でメスとオスに分かたれていて、オスの方にはその姿が見当たらなかった)
友希那(メスの飼育舎には2匹のマヌルネコがいて、1匹は土管のようなものの中でゴロンと寝転がっていて、もう1匹は高いところに登って辺りをキョロキョロと見回していた)
友希那「はぁ……可愛い」
友希那(その姿を目に焼き付けつつ呟く)
友希那(ずんぐりむっくりとした身体。日本の一般的なイエネコと違って短い足がなんともキュートだわ)
友希那(寒い地域に住んでいるから、体毛もフワフワと長い。そして耳が顔の両端、離れたところに小さくチョコンとあるのもまた可愛い)
友希那(そして何より、思っていたよりも小さい体躯がたまらないわ)
友希那(テレビやインターネットで見ると分からないけど、こうして目の前にすると……ふふ)
友希那(子猫と成猫の中間くらいの大きさなのがとても愛らしい)
友希那「にゃーん、にゃーん……」
友希那(なんとなく鳴いてみる)
友希那(もしも隣にリサや誰かがいたらこんな真似は出来ないけど、今の私は遠くまでやってきたおひとり様)
友希那(遠慮も気兼ねもなくにゃーんちゃんの鳴き真似が出来るわ)
8: 以下、
マヌルネコ「ナゥー?」
友希那「……! こっちを見て鳴き返してくれた……」
友希那「ふふ……サービス精神旺盛ないい子ね」
友希那「ちょっと写真を撮らせて貰えるかしら?」
マヌルネコ「ナー」
友希那「それは肯定と取らせてもらうわよ、ふふふ……」
友希那「にゃーんちゃん、はいポーズ」カシャ
友希那(朝に何故かリサが構えていたようなちゃんとしたカメラではなく、スマートフォンでの撮影だ)
友希那(それでも必要十分な画質で撮れるから、最近の電子機器というのはすごいわ)
友希那(もちろんフラッシュは切ってある。動物あっての動物園なのだから、彼らにストレスを与えるようなことはもってのほかだ)
友希那「とてもいい写真が撮れたわ」
友希那「これだけでもここへ来た甲斐があったわね。ふふっ」
……………………
9: 以下、
――ペンギンヒルズ――
友希那(マヌルネコとしばらくガラス越しに戯れてから、私はさらに西へ足を進めてペンギンヒルズへやってきた)
友希那(ここはフンボルトペンギンの生態系の中に入れる、という施設のようで、家族連れの人たちがそこそこいるようだった)
友希那(そんな中に私は混じって、プールを泳ぐペンギンと、ポケーっと日向ぼっこをするペンギンを眺める)
友希那(暑くないのかしら、と思うけれど、エサやりを始めた飼育員さんの説明によると元々フンボルトペンギンは温かな気候の場所に生息しているようだ)
友希那(なるほど、それならお日様に当たるのも好きなんでしょうね)
友希那(しかし……ペンギンね……)
友希那(どうしてかこの子たちを見ていると、何か胸の内がざわつくのよね)
友希那(少しロックな気分になるというか、おもむろにギターをかき鳴らしたくなるというか、飛べないけど大空に羽ばたきたくなるというか……)
友希那(何故かしら……?)
飼育員「では、これからペンギンのエサやり体験を始めます」
友希那(そんなことを考えて首を傾げていると、飼育員のお姉さんの声が聞こえる)
飼育員「お魚は1カップ300円です。エサやり場での写真撮影はご遠慮ください」
友希那(エサやり体験……ちょっとやってみたい)
友希那(けど、流石に子連れの人たちが優先ね。もしも参加枠に余りがあるようなら……まぁ、せっかくだし参加をするのもやぶさかでは――)
飼育員「まだお魚は残ってますので、参加したい方はいらっしゃいませんか?」
友希那「……1回、お願いします」
友希那(そう思った矢先にそんなアナウンスがされたので、私は飼育員さんに声をかけるのだった)
10: 以下、
友希那(そのあと、結局ペンギンヒルズでは2回もエサやり体験に参加してしまった)
友希那(平日朝で人も少なかったからだろう。だだ余りしている魚を見るのは忍びなかったし、魚を持った私にワラワラと寄ってくるペンギンたちが可愛かったから仕方なかった)
友希那(飼育員のお姉さんの生温かな視線が少し気恥しかったけれど、旅の恥はかき捨てという言葉もある)
友希那(もうあのお姉さんと会うこともないだろうし、こういう時はやったもの勝ちなのだ)
友希那(……だけど、意外とフンボルトペンギンってエサにがっついてくるのね。私があげた魚を3匹で取り合ったりしていたし……)
友希那(ものすごくぼんやりとしたのんびり屋さんだと勝手に思っていたから、そこはかなとなく裏切られた気持ちだわ)
友希那(やっぱりペンギンの中ではイワトビペンギンが一番ね。凛々しい眉毛がカッコイイし、ぴょんと岩場を跳ねる姿が可愛らしいわ)
友希那(そんなことを思いながら、私はペンギンヒルズを後にするのだった)
……………………
11: 以下、
友希那(それから私は園内を反時計回りに動物たちを見て回った)
友希那(途中にシカとカモシカの谷、という道を通ったが、ペンギンヒルズ側から入ると本来の順路と逆走になってしまうようだった)
友希那(そういえば道中の看板が全て私に背を向けていたな、とその道を踏破してから気付いた)
友希那(これは埼玉県の陰謀なのかしら)
友希那(園内マップには『コバトンロード』と書いてあったし、シラコバトを県公認マスコットにしている以上その線が濃厚ね)
友希那(……なんて猫のエサにもならない下らないことを考えながら、私は園内を大まかに一周して、再び入り口の近くまで戻ってきた)
友希那(それなりの距離を歩いたから、額に僅かな汗が滲んでいた。先ほど自販機で買った天然水も半分近く飲み終わってしまっていた)
友希那「さて、これからどうしましょうか」
友希那(噴水のある広場の傍ら、マップを広げて次はどこへ行こうかと思索する)
友希那(気になるのは……モルモットとのふれあいコーナー。しかし流石にそこへ1人で行くのには少しばかりの勇気が必要だ)
友希那(これがおひとり様の弊害ね)
友希那(それに流石に見ず知らずの子供たちに混ざってモルモットと戯れるのは私のイメージと大きくかけ離れている行動だわ)
友希那(そんなところをもしも知り合いに見られたら私の沽券に関わる)
友希那(ロゼリアのリーダーとして、ボーカルとして、最低限の世間体は保たなければいけないわ)
12: 以下、
友希那「…………」
友希那「……だけど、果たして都内からは程遠く離れたここへ知り合いが来るかしら」
友希那(そうだ。何のために私はこの動物園まで片道90分もかけてやってきたのだ)
友希那(おひとり様で、ゆっくりと動物園の動物に癒されるためだ)
友希那(この前学んだばかりじゃない)
友希那(つまらないプライドを守るために意地を張ってばかりいては、大切なものを失ってしまうと)
友希那(それに何事にも全力で挑んでこそのロゼリア)
友希那(つまり、今この一瞬を全力で楽しむことはロゼリアのリーダーとしてあるべき姿だ)
友希那(極限を辿りながらも その時々の熱を持って)
友希那(望んだ場所へ進むだけ 道は既に開かれてる)
友希那(“R”でそう歌っていた通りね……やっぱりロゼリアの皆が私の背を押してくれる)
友希那「そうと決まれば――」
戸山香澄「あれ? 友希那先輩?」
北沢はぐみ「え? あ、ほんとだ!」
友希那「え゛っ」
友希那(マップから顔を上げた私の耳に聞き覚えのある声が届く)
友希那(声のした方へ顔を動かすと、あろうことか、とてもお喋り、且つ、交友関係のものすごく広そうな戸山さんと北沢さんが仲良く並んで立っていた)
13: 以下、
友希那「……ど、どうも」
友希那(流石にこの情況で『人違いです』と言う訳にもいかない。私は2人に曖昧な挨拶をする)
香澄「こんにちは!」
はぐみ「こんにちは?!」
香澄「珍しい場所で会いましたね!」
友希那「そ……そう、ね。こんなところで会うなんて、本当に思いもよらなかったわ……」
友希那「戸山さんたちはどうしてここへ……?」
香澄「えへへ、はぐとどこか行きたいねって話してて、そしたら動物園に行こうって話になったんです!」
香澄「せっかくだから少し遠めな場所にって思ってここにしたんだよね!」
はぐみ「ねー! 友希那さんはロゼリアのみんなと来たの?」
友希那「私は……」
友希那(純粋な4つの瞳が私を射抜いてくる)
友希那(彼女たちになんの悪気もないこと、ただ純然たる興味でそういうことを聞いてきたということは分かっている)
友希那(しかし時としてその無邪気さが人を傷付けるのだ)
友希那(1人で動物園に来たのよ、と言えなくなってしまうのだ)
友希那(だけど私とて、伊達に彼女たちよりも1つ歳を取っていない)
友希那(こんな時のために、不自然に思われないための嘘……いや、言い訳をキチンと用意してある)
友希那(本当はこれを使わずに過ごしたかったけれど背に腹は代えられない)
14: 以下、
友希那「私は、1人よ」
友希那(事実を話して、そして間髪入れずに言葉を続ける)
友希那「私のクラスには夏休みの宿題に自由研究があるのよ。あなたたち、アニマルセラピーって知ってるかしら?」
香澄「アニマルセラピー?」
はぐみ「あ、はぐみ聞いたことあるよ! 動物を触ったり見てたりすると癒されるっていうやつだよね!」
友希那「ええ、その通りよ。紗夜ともこう言ったことで話すことがあってね。アニマルセラピーと音楽との親和性を私は自由研究の議題に掲げているの。それ以上でもそれ以下でもないのよ。だからリサたちの手を煩わせるのも悪いと思うしそれにこういったことは早めに片付けて音楽に集中したいの。だからこれは勉強の為に来ている訳であって、勉強なんてみんなでワイワイ騒ぎながらやらないでしょう? つまりこれは1人じゃないと出来ないことなのよ。だから私は今ここに1人で来ている訳なの」
香澄「へーそうなんですね! やっぱり2年生になると難しい宿題とかってあるんですね!」
友希那「……ええ、まぁ」
香澄「その宿題はもう終わりそうなんですか?」
友希那「……そうね」
はぐみ「おおっ、さすが友希那さん!」
友希那「……それほどでもないわ」
友希那(純粋な2人の尊敬に近い色の視線が容赦なく私を貫く。虚言を吐いている手前、心が痛い。けど言ってしまった以上、もうこれで押し通すしかなかった)
香澄「あ、それだったら私たちと一緒に回りませんか?」
はぐみ「だね! 2人よりも3人の方がきっと楽しいよ!」
友希那「……ええ、そうね。ご一緒させてもらおうかしら」
香澄「わーい!」
はぐみ「わーい!」
友希那(断っても絶対に園内で鉢合わせることがあるだろう。ならここで誘いに乗ってしまった方が、色々とボロを出さないで済みそうだった)
友希那(私は観念したように一度ため息を吐いて、やたらとテンションの高い2人の後に続くのだった)
……………………
15: 以下、
―― ふれあいコーナー ――
はぐみ「わー、モルモットがたくさんいるね!」
香澄「ねー! かわいい?!」
友希那(戸山さんと北沢さんは真っ先にふれあいコーナーを目指していたようだった)
友希那(ここへたどり着いてから、モルモットと触れ合える、人が座れる四角い囲いに囲まれた一角へ走り寄る)
友希那(そしてすぐに飼育員さんに声をかけ、モルモットを抱かせてもらっていた)
友希那「……すごいわね、あの2人は」
友希那(流れるような一連の動作に感嘆の声が出た。これが無邪気さのなせる業なのだろう)
友希那(2人は並んで座って膝にモルモットを抱き、勢いに任せるのではなく優しい手つきでその体毛を撫でている)
友希那(意外、と言っては失礼だけど、誰にでも優しい子よね、戸山さんと北沢さんって)
香澄「友希那先輩も一緒に撫でましょうよ!」
友希那「そうね」
友希那(その言葉に頷いて、私は戸山さんの隣に腰かけた)
友希那(こうして自然な流れでふれあいコーナーにも参加できるのだから、戸山さんたちと鉢合わせたのも結果オーライと言えなくもない)
友希那(そんなことを考える私の元に、飼育員さんがモフモフとした手触りの生き物を手渡してくれた)
友希那(垂れた長い耳につぶらな目をしていて、こころなし戸山さんと北沢さんが膝に抱くモルモットより二回りほど大きいモフモフが私の膝に……)
16: 以下、
友希那「……って、これウサギじゃない」
はぐい「わー! 友希那さんだけウサギさんだね!」
香澄「おたえが喜びそう! 友希那先輩、はいチーズ!」
友希那「え、ちょっと……」
友希那(困惑する私にスマートフォンを向けて戸山さんが笑う。カシャリ、という軽い音が響いた)
香澄「えーっと、友希那先輩とウサギ……送信!」
友希那「と、戸山さん? 一体何を……」
香澄「えへへ、可愛かったからポピパのグループトークに写真送りました!」
友希那「ええ……?」
はぐみ「あ、かーくんかーくん! はぐみも撮って!」
香澄「いいよ?! はい、チーズ!」
はぐみ「いぇーい!」
香澄「うん、良く撮れた。はぐに送っておくね!」
はぐみ「ありがとー!」
友希那「あの、戸山さん」
香澄「大丈夫ですよ! ちゃんと友希那先輩にも写真送りますから!」
友希那「いえ……そういうことじゃなくて……」
17: 以下、
はぐみ「次はかーくんを撮ってあげるね!」
香澄「あ、それじゃあ3人で撮ろうよ! 彩先輩に自撮りのコツ、教えてもらったんだ!」
はぐみ「あ、いいね、そうしよっか! じゃあかーくんにくっつくね!」
友希那「あの……」
香澄「友希那先輩ももっとこっちに寄ってくださいよ?!」
友希那「…………」
友希那(まぁ……写真くらいいいかしらね)
友希那(この子たちが楽しんでいるところに水を差すのも可哀想だし、さっきの写真だってロゼリアのメンバーに知れ渡ることは……多分ないだろう)
友希那「……ええ、分かったわ」
香澄「それじゃあ3人で……はい、チーズ!」
はぐみ「ピース! 友希那さんも一緒にやろ!」
友希那「ええっと……ピース?」
香澄「……よし、っと! うん、ちゃんと撮れてるね。この写真もはぐと友希那先輩に送りますね?!」
友希那(言いつつ、戸山さんがスマートフォンを操作する)
友希那(すると私のスマートフォンに通知がやってくる。メッセージアプリの一番上に戸山さんの名前が出てきた)
友希那(ロゼリア以外……というか、リサ以外の名前が一番上に来ているところをかなり久しぶりに見たような気がした)
友希那(トークを開くと、送られてきた画像が表示される)
友希那(弾ける笑顔でピースサインをする戸山さんと北沢さん)
友希那(それと遠慮がちに笑い、曖昧なピースサインをしている私がいた)
友希那(……あまりこういうことには興味がないけれど、まぁ、今日くらいはいいでしょう)
……………………
18: 以下、
――水辺の広場――
友希那(ふれあいコーナーでモルモットとずっと私の膝の上にいたウサギと遊んだあと、私たちは水辺の広場に来ていた)
友希那(ここは水深がすね辺りまでの浅く広いプールのようなものがあって、小さな子供と付き添いの親たちが足を水に浸して遊んでいた)
友希那(私たちもその水辺に佇み、揺れる水面を眺める)
友希那「涼しげなところね」
香澄「ですね?。あーでも、子供たちはいいなぁー。足だけのプールでもこれだけ暑いと気持ちよさそうだなぁ……」
はぐみ「ねー……泳ぎたいなぁ……」
友希那「流石にあそこで泳ごうとするのは全力で止めるわよ?」
はぐみ「やっぱりダメだよね……」
友希那(止められなかったら泳ぐ気だったの……?)
友希那「……そんなに気になるのなら、2人とも遊んでくればいいんじゃないかしら」
友希那「足を水に浸けるだけでも涼しくなれるわよ」
香澄「うー、そうしたいのはヤマヤマなんですけど……」
はぐみ「タオルとか持ってきてないもんね……」
友希那「この炎天下でタオルを持ってこなかったの?」
香澄「ハンカチなら持ってますよ?」
はぐみ「はぐみもティッシュならたくさん持ってるよ?」
友希那「はぁ……あなたたち、ただでさえ今年の夏は猛暑なんだから、こういうたくさん歩く場所に来るならタオルくらいは持っておかないとダメよ」
香澄「はーい……」
はぐみ「はーい……」
友希那(私の言葉に肩を落とす2人を見て、少し口うるさくなってしまったと思う。私は小さく咳ばらいをして言葉を続ける)
友希那「私は予備のタオルを持ってきてあるわ。それを貸してあげるから、気になるなら遊んできなさい」
香澄「ホントですか!?」
はぐみ「借りてもいいの、友希那さん!?」
友希那「ええ。確かリュックの中に入れたはずだから……あら?」
19: 以下、
友希那(打って変わって元気になった2人に苦笑しつつ、私は背負ったリュックをアスファルトに下ろす)
友希那(そしてリュックの一番下に詰めたタオルを引っ張り出すと、どうしてか2枚のタオルが出てきた)
友希那(私は予備のタオルを1枚だけしか入れてなかったはずだ。なのに何故2枚もタオルが……?)
友希那「これは……」
友希那(入れた覚えのない紺色のタオル。それには大きな白い刺繍で『L』のマークが入っていた)
友希那(どこからどう見ても某プロ野球チームのタオルだった)
友希那「…………」
友希那(間違いない。これはお父さんが知らない間に勝手に私のリュックに突っ込んだものだ)
友希那(何を考えているんだろうか、あの人は。何を思って娘のリュックにこのタオルを入れたんだろうか。暑さで頭がやられてしまったんだろうか)
友希那(帽子に加えてタオルがこれって、まるで私があの球団の熱烈なファンみたいじゃない)
香澄「どうしたんですか、友希那先輩?」
友希那「……いえ、私の父がいらぬ気遣いをしてくれたみたいで」
はぐみ「あれ、そのタオル……それに帽子もそうだよね? 友希那さんって、野球好きなの?」
友希那「別に好きではないわ。これは私の父が自分の趣味を娘に押し付けてきているだけだから気にしないで頂戴」
はぐみ「そっかぁ……野球好きな人が増えたのかと思ったのになぁ……」
友希那「……まぁ、でも、別段好きという訳ではないけど、まったく興味がないという訳でもないわよ」
友希那(そういえばあこが言っていたわね。北沢さんはソフトボールをやっていると)
友希那(そんなことを思い出して、シュンとしてしまった北沢さんに少し申し訳ない気持ちになり、私はそんなフォローともつかない言葉をかける)
20: 以下、
友希那「現に、今度紗夜と一緒に球場に行ってみようかという話もしているの。8月16日に埼玉の球場へ」
はぐみ「そうなの? 8月16日っていうと……牛さんのチームとだね!」
友希那「ええ」
はぐみ「へぇー、そうなんだ! えへへ、なんだか友希那先輩が野球にも興味持ってるって思うと、もっと仲良くなれそうな気がして嬉しいな!」
友希那「そう、ね」
友希那(まっすぐな言葉になんて返事をしようか迷ってしまい、私は曖昧な相づち打つ)
友希那(……実際に行くかどうかはまだ決めていないけれど、こう言ってしまったからには絶対に行かないといけなくなってしまった)
友希那(北沢さん、あことはまた違った純真さがあるからどうにもやり辛いわ……)
香澄「へぇー、これってプロ野球チームのタオルなんだ!」
はぐみ「そうだよ! 今年は打線が絶好調でね、リーグ1位なんだよ!」
はぐみ「かーくんは野球とかってあんまり見ない?」
香澄「うーん、私はあんまり見ないなぁ。あ、でも球場には行ってみたいかも!」
香澄「たまにテレビでチラっと見た時とかね、お祭りみたいで楽しそうだな?って思うんだ!」
友希那「そう。そうしたら、戸山さんと北沢さんも一緒にどうかしら、8月16日」
香澄「行きます!」
はぐみ「はぐみも!」
友希那「じゃあ4人分のチケット、用意しておくわね」
香澄「はい!」
はぐみ「わーい、みんなで野球観戦、楽しみだなぁ!」
21: 以下、
友希那(……なんとなく流れで決めてしまったけど、紗夜は了承してくれるかしら)
友希那(まぁ……多分大丈夫でしょう。口では色々言うけど、なんだかんだで付き合いの良さはロゼリアでも指折りだし)
友希那(あとはリサとお父さんにこのことがバレないようにすれば万事問題なし、ね)
友希那「さぁ、この某球団のタオルならどれだけ使ってもいいから、なんなら持って帰ってもいいから、2人で水に入って遊んできなさい」
香澄「あれ? 友希那先輩は行かないんですか?」
友希那「私は遠慮しておくわ。木陰で休んでいるから気にしないで」
香澄「そんなこと言わずに一緒に遊びましょうよ?!」ガシッ
はぐみ「そうだよー! 3人の方が絶対楽しいよ!」ガシッ
友希那「ちょっ、あなたたち……」
香澄「友希那せんぱ?い!」グイ
はぐみ「友希那さ?ん!」グイグイ
友希那「わ、分かったからそんなに引っ張らないで――きゃっ!」バシャン
友希那(座っている状態から腕を引っ張られ、立ち上がって踏ん張ろうとしたけれど、この暑さで予想以上に体力が減っていたのか、私の足は言うことを聞いてくれなかった)
友希那(2人に手を引かれるままバランスを崩した私は、浅い水の中に思いっきり右足を踏み込んでしまった)
友希那(当然靴は履いたままだし靴下も履いたままで、裾を上げていないジーンズまでもがビショビショになった)
22: 以下、
友希那「…………」
香澄「…………」
はぐみ「…………」
友希那「……あなたたち」
香澄「そ、その、ごめんなさい」
はぐみ「ごめんなさい、友希那さん……」
友希那「そっちがその気なら、私も全力で相手をするまでよ」
香澄「え?」
はぐみ「へ?」
友希那「ロゼリアは何事にも全力。その意味をカラダに教えてあげるわ……!」
友希那(半ばやけくそだった。ずぶ濡れの靴下の感触が気持ち悪くて、もうどうにでもなれというような気持ちだった)
友希那(というかこの2人にも同じ目に遭って貰わないと気が済まなかった)
友希那(右足を水に突っ込んだまま、戸山さんと北沢さんの身体を掴もうと両手を伸ばす)
香澄「きゃーっ、友希那先輩、せめて靴と靴下は脱がせてください!」
友希那「ダメよ、それでは意味がないわ!」
はぐみ「か、かーくんっ、はぐみを盾にしないでよ?!」
友希那「この苦しみ、あなたたちも味わいなさいっ!」
……………………
23: 以下、
友希那(……結局あの後、水辺の広場で3人ともズボンどころか洋服の至るところがビショビショになるまで遊んだ)
友希那(戸山さんと北沢さんはもちろん楽しそうにずっと笑っていたし、なんだかかんだで気付いたら私も楽しんでいた)
友希那(それから木陰のベンチで休みながら濡れたものを乾かし、園内のレストランでお昼ご飯を食べて、また動物を見て回った)
友希那(二度目の来訪となったマヌルネコのケージでは猫とは何ぞかを2人に話し、気ままに眠っている姿こそが猫としてのあるべき姿でもあるということを力説した)
友希那(戸山さんと北沢さんがそれを真面目に聞いてくれるものだから興が乗って少し喋り過ぎてしまったけど、それでも楽しそうな顔をしてくれていたことが嬉しかった)
友希那(それから再びペンギンヒルズに足を運ぶと、またエサやり体験が開催されていた)
友希那(『ペンギンさんって可愛いよね!』と笑う北沢さんに連れられて、私は今日3回目のエサやりをすることになった)
友希那(二度と会うこともないだろうと思っていた飼育員のお姉さんとも三度目の逢瀬になってしまった)
友希那(北沢さんに手を引かれてエサやり場へ向かう様子にとても温かな笑みを向けられたことが非常に照れくさかった)
友希那(その様子を戸山さんに写真に収められた)
友希那(そして北沢さんとのエサやりを終えると、今度は戸山さんにエサ場まで手を引かれて、北沢さんに写真を撮られた)
友希那(それから最後は戸山さんと北沢さんがエサをやっているところを私が撮影することになった)
友希那(スマートフォンを2人に向けて構えつつ、考えていたことはペンギンに使ったエサ代のこと)
友希那(1回300円×4=1200円。私が今日自分に使った飲食代よりも高価だった)
友希那(何かに負けたような気がしてならなかった)
友希那(そんなペンギンヒルズをあとにしてからも、私たちは園内を回り、多くの動物たちが暑さでだらけている様子を眺めた)
友希那(元気よく遊んでいたのはコツメカワウソくらいだった。飼育舎のプールでわちゃもちゃと泳ぎ回っている姿が戸山さんと北沢さんに被って見えていたのは秘密だ)
友希那(そんな風に3人で過ごしていると、気付いたら閉園間際の時間になっていた)
友希那(午後5時になろうかという時間だけど、夏の日はまだまだ高い)
友希那(カーテンコールの途中で劇場を去るのに似た寂しさを覚えつつ、私たちは動物園を後にするのだった)
……………………
24: 以下、
友希那「で、こうなるのね」
香澄「すー……すー……」
はぐみ「むにゃむにゃ……」
友希那(バスで駅まで向かい、乗り継いだ帰りの電車の車内)
友希那(午後5時過ぎの上り電車の中は人もまばらで、3人並んで席に座ることが出来た)
友希那(ほどよく冷房が効いた弱冷房車の車内で、どうしてか私を挟んで椅子に腰かけた2人が元気よく話をしていたのは小江戸の街を通り過ぎる辺りまで)
友希那(そこから段々と無言になっていった戸山さんと北沢さん)
友希那(そして埼玉から東京に入り、3駅ほど進んだ今は、2人仲良く私の肩にもたれて夢の世界へ旅立っているようだった)
友希那「よく遊んでよく眠って……本当に忙しない子たちね」
友希那(呆れたような口調で呟くけど、自分の口角が少し上がっているのを自覚できる)
友希那(朝にリサがカメラを構えていた姿を見てなんとなく思い付いた『1人でのんびりと動物園』)
友希那(最初に思い描いていたものとは大きくかけ離れた1日だった)
友希那(だけど、まぁ、悪くはない)
友希那(まだ若干右足の靴が湿っているけれど、その不快さも楽しかった時間の名残のように思えるくらいには、悪くないと思える1日だった)
25: 以下、
友希那「あまりこうやって過ごすことはないものね……」
友希那(どこかへ遊びに行った時の記憶のほぼ全てにリサがいた。ロゼリアを結成してからは紗夜やあこ、燐子と何かをすることもあったけど、年下の子だけとこうして過ごした記憶はゼロに等しい)
友希那(一番付き合いのある年下の子があこだけど、あこがいる場面では大抵他のロゼリアのメンバーもいて、私が直接あこの面倒を見るということは少ない)
友希那「新鮮、というのかしら」
友希那(リサはよく私を子供扱いするし、最近はなんだか燐子もそういう感じで私を見ているような気がしていた)
友希那(だからこうして戸山さんと北沢さんの……言葉を選ばないなら、手がかかりそうな後輩2人の面倒を見るというのは、どこか真新しい経験をしているように感じられた)
友希那(ロゼリアの孤高のカリスマボーカル。これは、そういうみんなが持っているだろう印象からは少しかけ離れた行動かもしれない)
友希那(でも、それも唾棄すべきものではない)
友希那「……そうだわ」
友希那(と、そこでふと悪戯心が胸中に湧きおこる)
友希那(楽しかったは楽しかったけれど、私はまだ水辺の広場でのことを忘れていない)
友希那(水に足を突っ込んだだけならまだしも、それから2人がかりで私に水をかけてきたことを決して忘れていない)
友希那(こうして無防備に私の前に寝顔を晒しているということは、つまり復讐の機会を神様が与えてくれたということだろう)
友希那「そうと決まれば……」
友希那(私に寄りかかって眠っている2人を起こさないように、ゆっくりとした動きでスマートフォンをリュックから取り出す)
友希那(そして右肩にもたれる戸山さんの寝顔を撮影した)
友希那「……よく撮れたわ。次は北沢さんね」
友希那(反対の肩にもたれている北沢さんにも同じようにスマートフォンを向け、撮影ボタンをタップした)
友希那「ふふ……知らない間に寝顔を撮られているだなんて、恥ずかしいでしょうね」
26: 以下、
友希那「…………」
友希那「でも、なんというか……」
友希那(呟いて、今しがた自分の胸中に浮き上がってきた感情の名前を考えてみる)
友希那(ステレオで聞こえてくる穏やかな寝息。冷房が効いた、人も多くない車内では心地よく感じられる2人の体温)
友希那(そして、スマートフォンの画面に別々に映る寝顔と、そもそも写真に収められていない私)
友希那(現実の私たちとスマートフォンの中の私たちのギャップ)
友希那(それに感じる気持ちの名前は……素直に表現すれば『寂しい』かしらね)
友希那「それなら……」
友希那(……戸山さんと北沢さんは眠っているし、今の私は実質的におひとり様のようなものだろう)
友希那(旅の恥はかき捨て。こんな平日の夕方に電車の中で知り合いに会うこともないはずだ。だから、私は私の思うように行動しよう)
友希那(そんな言い訳を自分自身に聞かせて、スマートフォンのカメラをインカメラに切り替える)
友希那(そしてそれを持った右手を前に伸ばす。いわゆる自撮りというものだ)
友希那(丸山さんの様にその道のプロではないし、戸山さんの様にこういうことをする機会もないから、見様見真似の初めての試みだった)
友希那(画面中央に、少しだけ笑っている私の顔)
友希那(右側には穏やかな寝顔でいる戸山さん)
友希那(左側にはどこか緩んだ寝顔でいる北沢さん)
友希那(3人をディスプレイに収め、私は撮影ボタンをタップした)
友希那(カシャリ、という小さな音と共に、今日この一瞬が切り取られ、スマートフォンに保存される)
友希那(それを両手に収めると、先ほどの寂しさも不思議と感じなくなっていた)
27: 以下、
『次は、終点池袋です』
友希那(撮った写真をしばらく眺めていたら、気の抜けた車掌さんのアナウンスが車内に響いた)
友希那(この写真は私だけの秘密の写真にしておこう、なんてことを考えながら、私はスマートフォンをリュックにしまう)
友希那「戸山さん、北沢さん。そろそろ乗り換えよ」
香澄「うぅん……」
はぐみ「んにゃ……」
友希那(それから2人に声をかけるけど、寝言のようなものを口から出して、少し身じろぎをするだけだった)
友希那「まったく……仕方ないわね」
友希那(呆れたように呟きつつ、駅に着いてから起こせばいいか、と2人を起こすのを諦める)
友希那(終点まではもうほんの僅かな距離だったけど、気にしないことにした)
友希那(私は力を抜いて、ただ両肩にもたれる後輩たちの温みを受け止めることに専念する)
友希那(こんな1日の終わりも、こんな私も、たまには良いでしょう。そんなことを思いながら)
……後日、リサ姉に8月16日のことが露見して友希那パパがすこぶる張り切ってしまい、それに友希那さんが流石にキレるのはまた別の話。
おわり
28: 以下、
埼玉西武ライオンズのファンの方、誠に申し訳ありませんでした。
個人的にミスターレオと言えば松井稼頭央選手という印象があります。
8月16日に行われるメットライフドームでの埼玉西武ライオンズ対オリックス・バファローズの公式戦は『ガルパタイアップ試合』となっています。
チケットにはまだ余裕があるようですので、興味があればこの機会に球場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
参加予定のキャストは
相羽あいなさん (湊友希那役)
工藤晴香さん (氷川紗夜役)
愛美さん (戸山香澄役)
となっています。吉田有里さん (北沢はぐみ役)はいらっしゃいません。
詳しくは公式ホームページをどうぞ。
29: 以下、
なんか色々ごちゃごちゃ長々とすみませんでした。
HTML化依頼出してきます。
31: 以下、
乙でした
リサがどこかから情報を嗅ぎ付けて付いてきそう…今回も面白かったです!
33: 以下、

数少ないかすゆき書いてくれてありがとう
32: 以下、
乙!
よかった!
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1533352911/
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