藤原肇「外は雨の、こんな時」back

藤原肇「外は雨の、こんな時」


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1:
そばに貴方がいてくれたらなあ、って。
2:
モバマスSSです。
プロデューサーはP表記。
一応地の文形式。
3:
 そんなことを思ったのは、雨降るお昼過ぎのことでした。
 今日は貴重にも丸一日のお休みを頂いたのですが、私は朝から寮の自室で過ごしています。前々からオフだと分かっていたので、あれをしよう、ここに出かけようかな、なんて色々と考えていたのですが、いざお休みがやって来ると、そんな計画はどこかへ消え去っていました。
 さらに外はあいにくの雨模様です。今年の梅雨はよく降るようで、ここ一週間のうちに何度も降っています。こうしたお天道様のご機嫌も、遠出でもして綺麗な景色を見に行こうかな、なんていう私の淡い旅ごころを流してしまいました。
4:
 それならば、寮にいるお友達と一緒に過ごそうかな、と思っていたら、仲良しのお友達はみんな仕事やレッスンでお出掛けです。今日に限って。でも、しょんぼりしていても仕方がないので、部屋でゆっくり過ごしてみようかなと思い立ちました。
 
 外の雨は朝からずっと降っています。天気予報では、この雨は夕方から一層強くなるとのこと。部屋の窓からは寮の前の道がよく見え、その濡れた道には色とりどりの傘の花が行き交い、時たま自動車が滑るように走り去ります。窓を少し開けると、雨の降る音がかすかに聞こえます。雨音を聴きながら、ぼんやりと外の景色を見ながら、「こんな日もたまには良いのかも」なんて思っていました。
5:
 でも、ひとり部屋で本を読み、ひとりでお昼ご飯を食べ、そして戻って部屋で雑誌を読んでいるうちに、そんな気持ちは少しずつ薄れていきました。最近は忙しく、目まぐるしく毎日が過ぎていきます。日々是好日、毎日が刺激的です。だからこそ、ゆっくりと時間を弄ぶような一日も良いのかな、なんて思っていたのですが、私の心は気まぐれ屋さんです。気まぐれというよりも、わがままなのかもしれません。しかし、何もしないで過ごすことに飽き飽きしてきたとか、お友達と遊べなくて寂しいとか、そういった気持ちとは違います。言うなれば、私の心が雲に覆われるような、そんな感覚です。
6:
 今にも雨が降り出してきそうなこの気持ちに、日が差し込むにはどうしたらいいのだろう。ふと心に浮かんだのは、私のプロデューサーさんの顔でした。
 
 気晴らしに眺めていた雑誌のページを閉じ、これまた理由もなく点けていたテレビも消して、窓の方を見遣りました。窓枠はキャンバスのように、ねずみ色の空を切り取っています。少し開けていた窓を私は閉め切ったのですが、それでも部屋の中では雨が降り続けているかのような、そんな錯覚をしてしまいます。
7:
 最近、私は気が付いてしまいました。
 私は彼のことが好きです。たぶん、おそらく、大好きだと言えるくらいに。
8:
 最近、何気なく日常を過ごしていても、色んな出来事に対して彼と結びつけて考えるようになっています。雑貨屋さんでマグカップを見つけては、「これはPさんが好きそうだな」なんて思ったり、服屋さんで試着をする時も、「Pさんなら何と言ってくれるだろう」と思ったり。だから、こうして部屋でひとり寂しく過ごしていると、ふと気持ちが湧き上がってきたのでしょう。
 こんな時、彼がそばにいてくれたらなあ、って。
9:
 でも、この気持ちを思い浮かべたとき、私は苦笑いしてしまいました。陶芸の新たな表現を見つける目的でアイドルになろうと、岡山の片田舎から東京の大都会へやって来た私は、今や恋煩いにかかっているのです。そのうえ、片思いの相手は私のアイドル活動を支えてくれるプロデューサーです。彼は様々な世界を私に見せてくれました。私の知らない、鮮やかな世界を教えてくれた彼に、私は大変感謝しました。しかし、感謝の気持ちは次第に親愛に、そして、いつの間にか恋い慕う気持ちへと変わっていったのです。
 私のおじいちゃんなら、今の私に何と言うでしょう。いくらおじいちゃんが彼のことを気に入っていたとしても、アイドルになった目的を私が果たしつつあるとしても、色恋に現を抜かすとは何事だと私に怒るかもしれません。それでも、好きになってしまいました。好きだと思うと、私の心は温かくなりますが、同時に私の心には雲が覆います。
10:
 もやもやと私の心に立ちこむ雲は、ざあざあと雨を降らせています。こんな私の心に浮かんだのは彼の顔です。どうして、貴方のことを思い浮かべたのだろう? 貴方の優しさに触れたいと思ったからでしょうか。しかし、私がアイドルだから、彼が優しいのかもしれないのです。彼に好意を伝えたとしても、彼の優しさが、私への好意のためでなかったとすれば? そんな残酷な真実を突きつけられてしまうのではないかと、私は怖くなるのです。貴方は私の心に長雨を降らせる群雲なのでしょうか。それとも、貴方は心の雲を晴らしてくれるお日様なのでしょうか。私は湯呑を口に傾けました。冷え切ったお茶は苦くて渋く、思わず顔をしかめました。
 外の雨は止まず、ずっと降り続けています。
11:
 ふいに、部屋のドアをトントンと叩く音がしました。ノックの音に、私は「はい」と応えます。一体誰だろう? 私は立ち上がり、ドアを開けようとしたとき、思わず手が止まりました。もしかしたら、彼かもしれない。いえ、そんなことはありません。何か急用がない限り、男性はこの寮に入ることができないのだから、来るはずがありません。分かりきった話です。でも、でも……私の想いが貴方に伝わって……。
12:
 ふうと息を吐いて、私はドアを開きました。
「肇ちゃん、お届け物が来てたわよ」
「あ……。はい、ありがとうございます」
 やって来たのは、寮母さんでした。そういうものですよね。分かっていました、うん。
「あと、水道設備の点検が来週にあって、その日のお昼はしばらく水道が使えないから、気を付けてね。このプリントに詳しいことが書いてるから」
「分かりました、心得ておきますね」
「それにしても、最近は雨がずっと降るわねェ……」
 
13:
 しばらく寮母さんとお話した後、私は窓際へと向かいました。見える風景は、朝よりも縦線が多く混じっています。
 万一の可能性に期待して、心を騒がせて、情けないやら悲しいやら。何だかとても滑稽で、私は部屋でひとりクスクスと笑ってしまいました。来るはずがないと分かっているからこそ、彼がいてくれたら、という気持ちがますます募ります。
 それならば、いっそのこと私から会いに行こう。ふと思い付きましたが、我ながらいいアイデアです。
14:
 部屋着から着替え、おめかしをします。服もお気に入りのものを選びます。そして、髪の毛を櫛で整えようとしたとき、そばのカゴに入れてあった青色の髪留めが目に留まりました。以前、彼が私に買ってくれた代物です。「似合うと思うから」とプレゼントしてくれた、青いリボンのついた髪留めです。
 やっぱり、彼と結びつけてしまうなあ。でも、仕方ないのかも。だって、一番素敵な姿を見せたくなるんです。貴方は気付いてくれるかな。
・・・・・・
15:
・・・・・・
 外に出ると、部屋から見ていたよりもずっと雨が強いことが分かりました。夕方とはいえ、普段ならまだ明るい時間帯なのに、まるで夜のような暗さです。目の前の道路を走る車は、ヘッドライトを付けて雨の中を走っていきます。傘を開いて雨の中へ飛び込むと、頭上の雨音はより一層けたたましく響き始めました。歩道はうっすらと水が浸っています。歩肌の出ている脛の部分は、歩くと雨の当たる冷ややかな感触が伝わります。寮から事務所まで歩いて10分ほどだけど、その短い間で私はびしょ濡れになるかもしれません。少しでも濡れないようにと、私は歩幅を小さくしました。
16:
 雨は嫌いではありません。さっきのように、雨の音を聴きながら外を眺めるというのも、趣があって私は好きです。だからといって、こんな本降りの雨の中を好きこのんで出歩くなんてことは流石にありません。さらにはこの後もっと強く降るというのに、わざわざ外に出るなんて酔狂なことです。せっかくのお召し物も台無しになるかもしれないのだから。
 それなのに、どうしてここまでして会いたいと思うのでしょう。それは、貴方のもとへ行きたいからです。貴方の顔を一目見たい。貴方とおしゃべりをしたい。もしかしたら、貴方に一言、名前を呼んでもらっただけで、それだけで満足してしまうかも。
17:
 やっぱり、私、貴方のことが好きなんだろうな。だから私は会いに行くのです。
 心なしか、胸の中を覆う雲が薄れるような心地がしました。
18:
 突然、私が事務所にやって来たら、びっくりするでしょうね。でも、理由を聞かれたら、何と答えよう。「部屋で過ごしてたけど暇になってしまって」というのは何だか味気ないでしょうか。いっそ、正直に「貴方に会いたくなりました」と言うのも……。これはちょっと恥ずかしいかな。
19:
 事務所のある建物に入ると雨音は小さくなりましたが、よく見るとスカートの裾や上着の袖口が湿っていました。雨は強かったけれど、風が無かったためか、ひどく濡れるということはありませんでした。ほっと一安心です。服の色濃くなった部分を、持って来たタオルで丁寧にふき取ります。そして、髪の毛も少し乱れていたので、手鏡を見ながら整えます。……よし。準備万端です。
 
 この扉の向こうに、あの人がいる。急く気持ちが抑えられず、私は躊躇うことなくドアノブを回しました。
20:
 事務所に入ると、ほとんど人が出払っていました。いつもは賑やかなのに、アイドル達のかしましいお喋りも聞こえません。彼のデスクの方を見遣ると、彼の姿もありません。出かけている? そんなことはありません。昨日、彼は「一日中事務所かなぁ」と今日の予定を言っていたのだから。
21:
「あら、肇ちゃん?」
 ちひろさんがデスクから声をかけてきました。
「ちひろさん、こんにちは。あの、Pさんはどちらへ?」
「プロデューサーさん? えっと、肇ちゃんのプロデューサーさんなら……」
「肇?」
「あっ」
 声の聞こえた方を振り向くと、貴方がいました。お茶を淹れていたのでしょうか、湯呑みを持って給湯室から出てきました。
22:
「今日はオフだっただろ? 肇、何かあったのか?」
「え、えっと、その……」
 私は口ごもります。事務所に向かうまで、何と言おう、どんなことを話そう、などと考えていました。でも、いざ貴方の姿を見ると、貴方の声を聞くと、頭の中の言葉が整理できません。どっと色んな気持ちが溢れ出てきます。
「……肇?」
 何か悪いことがあったのではないのかと、少し困惑の色が混じった、心配そうな表情を私に向けました。ごめんなさい、Pさん。違います。嬉しいのです。とてもとても嬉しいのです。無性に会いたくて仕方がなかった貴方に会うことができた。その嬉しさで、胸がいっぱいなのです。ただ、それだけ。どうしよう。何と言おうか。
23:
 止めどなく湧き出る言葉の中から浮かび出た言葉は、私の気持ちを最も詰め込んだものでした。
「Pさんに、会いに来ました」
「へっ?」
 
 彼は目を丸くしています。
「貴方に会いたくなったので、貴方に会いに来ました」
 何も包み隠さず、私はありのままを答えました。
24:
 私の言葉にさぞかしビックリしたのでしょう、彼は陶器のように固まってしまいました。ちひろさん、そんな「わお」って茶化すような顔をしないでください。とんでもないことを言ってしまった私だけれど、不思議と落ち着いていました。ここへ向かう時には、恥ずかしくて言えないと思っていたのですが。
陶器から生身に戻った彼は、少し恥ずかしそうに答えました。
「えっと……ありがとう?」
「はい、どういたしまして」
 私は笑って応えました。
25:
 ちひろさんが、ソファでお話したらどうかと、私と彼に提案しました。
「Pさん、お仕事は大丈夫ですか?」
「一段落ついたから、大丈夫だよ」
 私たちはソファで向かい合って座ると、ちひろさんがお菓子と、私にお茶を用意しました。お茶を置くときに、ちひろさんが私に向けてウインクをしてきました。どうやら、人の恋路の行く末に興味津々のようです。
26:
「ずっと寮で過ごしてたの?」
 お茶を啜ってから、彼は私に尋ねました。
「はい。どこかへ出掛けても良かったのですけど、あいにくこの雨だったので」
 窓を見遣ります。私がさっき歩いていたよりも、また雨脚が強くなっています。
「そうだよな。雨の風景も良いけど、ここまで降られると遊びに出たくても一歩も動けない訳だし」
 そう言って彼は肩を揺らしました。私もちょっと笑って、頷きます。
「そうして、ずっと部屋で過ごしていたら、ふと思ったんです。こんな時に、そばに貴方がいてくれたらなあ、って」
「……そっか」
「はい」
27:
「歩いてきたんだろ。雨は強くなかった?」
「とても強かったです。でも、貴方に会えるんだと思ったら、平気でした」
 私は彼をじっと見つめました。
「そんな風に言ってくれると、俺も幸せ者だなぁ。すごく恥ずかしいけど」
 彼は目をそらし、頬を掻きました。その隙に、私も視線をそらします。
 少しだけ、沈黙が私たちを覆います。
 
 向こうのデスクに座るちひろさんが、彼の頭越しに、ニマニマとした表情でこちらを伺っています。
28:
「あ、その髪留め」
 彼がその沈黙を破りました。
「はい。この前、Pさんが買ってくださったものです」
 
 気付いてくれた。私は、頭の後ろに付けた青色の髪留めに手を当てました。普段は左側の垂らした髪の毛に髪留めを付けるのですが、「こういうのも似合うんじゃないか」と彼が買ってくれたのです。
「うん、似合ってるよ。普段と違う髪のまとめ方だけど、かわいいな」
「あら、普段の髪型はそんなにかわいくないってことですか?」
 ごめんなさい。照れ隠しに、ちょっと意地悪を言ってみたくなりました。
29:
「いや、いつもの髪型もかわいいなぁって、いつも見るたびに思ってるけどな」
「ふぇっ」
 ちょっとうろたえる貴方の姿が見たかったのに、私の思惑とは裏腹に、彼は平然と答えました。
「だからこそ、今日みたいな髪型をしても新鮮でいいだろうなって思ったんだよ。それに、さっき普段の髪型って言ったけどさ、肇って結構細かいところで髪型を変えたりしてるだろ? 編み込みしたりとか、そもそも髪留め付けない日もあるし、それに、両方に髪留めを……」
「あ、あの、ちょっと、その」
 逆に私が慌てふためくことになってしまいました。遠くでちひろさんが震えているのが、かろうじて視界に映りました。
30:
「とにかく、肇のどの髪型もかわいくて、俺は好きだよ」
 彼はニコニコと笑って言いました。
「あ、ありがとうございます」
 顔が一気に熱くなる心地がしました。そんな自信たっぷりに言わないでください。
 なるほど、さっきまで貴方が感じていた恥ずかしさというのは、こういうものなのですね。自分が正直になる分には良かったのですが、いざ相手が正直に私のことを褒めてくれると、この上なく恥ずかしい。
 でも、嬉しい。かわいいと言ってくれました。貴方が言ってくれたのだから、なおさらです。
31:
「Pさん」
「肇、どうした?」
「いえ。貴方の名前を呼びたくなったので」
 そう言って、私はにっこりと彼に微笑みました。
「今日の肇はいつになく掴めないな」
 彼は肩をすくめました。
「そうですか? 少しだけ自分自身に正直になってみただけですよ」
 そうです。私は自分の気持ちに正直になりました。貴方が好きだという私の気持ちにです。この気持ちを隠してしまうくらいなら、この想いがいたずらに朽ちてしまうくらいなら、いっそこの想いをひけらかして、貴方に意識させてやります。私の本心を、真心を見せつけてやるのです。その方が後悔しないし、もしかしたら、貴方がいつかどこかで応えてくれるかもしれない。
32:
 雨はいよいよ激しくなってきたのか、いよいよ外は真っ暗になってきました。こんなどしゃ降りだと、しばらく帰ることはできなさそうです。それとも、貴方に送って行ってもらおうかな。そうすれば、一秒でも長く貴方のそばにいられるから。
 
 厚い厚い雲が、外では空を覆っています。その代わり、私の心を覆う雲はどこかへ行ってしまったようでした。貴方は私の心を覆う雲ではありませんでした。雲は私でした。私の本心を隠していたのが、その雲だったのです。
 
 外は雨の、今この時、私のそばには貴方がいます。心に日が差し込み、ただじんわりと温かくなるのを、私は心地よく感じていました。
33:
おわり
3

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