勇者「遊び人と大罪の勇者達」【その1】back

勇者「遊び人と大罪の勇者達」【その1】


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遊び人「良いニュースと悪いニュースがあるの」
勇者「良いニュースから話してくれ」
遊び人「1試合目の賭けには勝って全所持金200Gが400Gになりました」
勇者「もう悪いニュースは話すな」
遊び人「……では、もう一つ良いニュースがあります」
勇者「なんだ」
遊び人「雨風を凌げそうな良い洞穴を見つけたの!」
勇者「でかした」
遊び人「えへへ」
勇者「えへへじゃねえ!!何全所持金使って遊んでるんだ!!今夜も野宿じゃねえか!!」
遊び人「ずびばぜん!!」
3:以下、
勇者「今度こそ財布係は俺がやるからな」
遊び人「そしたらギャンブルができなくなっちゃうよ!!」
勇者「だからだろうが!」
遊び人「財布なんて持ってたら戦闘に集中出来ないよ?」
男「関係ないだろ」
遊び人「敵にジャンプして斬りかかろうとしてる時に」
遊び人「『やべ、財布落としちゃうかも……』」
遊び人「って心配になっちゃって空中で後ろ振り返ってる間に返り討ちにされちゃうかもしれないんだよ?」
勇者「混乱呪文もかけられてないのにわけわからないことを言うのはやめてくれないか」
4:以下、
勇者「もう俺が管理するからな」
遊び人「ええー!!」
勇者「しつこいな!」
遊び人「勇者が管理することになって、勇者が寝てるスキに私がこっそりお財布取ってギャンブルしに行ったら本当に信頼関係終わるじゃん?」
遊び人「私が管理してれば、ギャンブルに行ってもまぁ私の管理の元だからセーフじゃん?」
勇者「それもはや管理してないからな。あとその発言でもはや信頼関係終わりかけてるからな」
遊び人「だ、大丈夫だって。次こそは必ず倍にして信頼を取り戻すから……」
勇者「ちっとも懲りてねえな!!」
5:以下、
?ほらあな?
遊び人「ふぅー、よっこいしょっと」
勇者「確かに寝心地はよさそうだ。町からそう離れてもいないし。魔物には気をつけないといけないが」
遊び人「町の片隅で寝た方がよかったかなぁ」
勇者「盗人の多い街だ。治安も悪い。ここの方が一夜を凌ぐには安全かもしれない」
遊び人「たしかに。お財布の中身もすっかりスラれてしまったし……」
勇者「お前がギャンブルでスッたんだろうが!!」
遊び人「ひぃっ!」
6:以下、
遊び人「洞窟の中は暗いね。身体も寒いなぁ。特に懐が寒いなぁ」
勇者「こっちのセリフだ」
遊び人「どうにかならないかなぁ」
勇者「ったく、しょうがねえな」
勇者は立ち上がり剣を構えた。
遊び人「勇者様、何を」
勇者「『太陽を追い求めし夜の女王よ。その黄金の輝きの一部を我が剣に授けよ!!』」
勇者「『アカリン』!!」
勇者は洞窟照らしの呪文を唱えた!
遊び人「…………」
勇者「しかし全く明かりは伴わなかった」
勇者「こんなの子供でも使えんのに。これだから呪文は嫌なんだよ」
遊び人「いや、ちゃんと発動しているみたいだよ。剣の先を見て」
勇者「ほんとだ。蛍光性の昆虫並に微かに光ってる」
遊び人「暗いだなんてわがまま言ってごめんね。勇者の気持ちだけで太陽に照らされたような気分だよ」
勇者「そういうやさしさは心が曇るからやめて」
7:以下、
遊び人「洞窟の中に魔物はいないようだけど、草原からは生き物の気配がするね」
勇者「交代で見張りをするか?」
遊び人「私は多分寝ちゃうよ」
勇者「俺も多分寝ちゃうと思う」
遊び人「詰んだね。全滅だ。タラララタラララタラララタララターラララー」
勇者「まあそんなに危険な魔物もいないだろ。どこぞの勇者様が魔王を葬ったこのご時世だしな」
遊び人「誰も魔王の亡骸を見ていないそうだけど」
勇者「亡骸よりも生体だよ。人間の住むどの場所にも現れなくなったし、実際瘴気も随分晴れたじゃないか。魔物の数もずっと少なくなった」
遊び人「そうだけど……」
勇者「死んでるかニートしてるかわからん魔王の話より、今は目下の心配をしよう。小さな魔物でも寝込みを襲われたらどうしようもない」
勇者「なんなら、今日いた町で俺に声をかけた商人の女の子が寝込みを襲ってくるかもしれん。やくそう買った時にめっちゃ俺の手握ってお釣り返してきてたもん」
遊び人「うわっ……男性って常に惑わしの呪文をくらってるの?というか、やくそう余ってるのに買ったのはそういうわけだったのね!」
勇者「なんだよ。やきもちかよ」
遊び人「はぁ……感心するわ」
勇者「なんだよ。お前こそどうなんだよ」
遊び人「私こそ心配が付き物ですよ。私の魅力にあてられた男性が、夜の魔物となって襲ってこないか心配で心配で。たった今もそばにお釣りニギニギ男Aがあらわれていますし」
おつりニギニギ男Aがあらわれた!
しかし、かんちがいをしている!
勇者「何エンカウントした風にしてるんだよ。かんちがいってどんな異常状態だよ」
遊び人「商人の女の子はにげだした!」
8:以下、
勇者「何言ってんだ。俺はその辺は紳士だからな、大人なバニーガール様にしか手を出さないと決めてるんだ」
遊び人「ふーん」
勇者「お前もどうしても俺に身も心もニギニギされたくなったら、バニースーツを着るんだな」
遊び人「絶対着ないし!!」
勇者「いつも思うんだが、どうして村娘みたいな格好をしてるんだ!!」
遊び人「恥ずかしいから着ないって出会った時に言ったじゃない」
勇者「どうして遊び人という職業でありながら、バニーガールの格好をしないんだぁあああああ!!!!」ドン!!
遊び人「いきなり激昂しないでよ!!」
勇者「一度でいいからバニーガールの格好をしてくれ!!頼むぅううう!!!」
遊び人「懇願に変わってるじゃない!!」
勇者「拝むだけ!!拝むだけだから!!さきっちょ拝むだけだから!!」
遊び人「とかいって全部拝む気でしょう!!絶対イヤ!!恥ずかしい!!」
勇者「恥じらいがあるバニーガールは加点だぞ!!」
遊び人「そんなに好きなら勇者が着ればいいじゃない!!」
勇者「……ハッ!」
遊び人「なに気づいたみたいな顔してんのよ!!それこそ絶対やめてよね!!」
9:以下、
遊び人「はぁ…はぁ…」
勇者「バニースーツ論争の続きはまた明日だな……」
遊び人「もうしません」
勇者「疲れたし俺は寝る。見張りは頼んだ。そして明日論争の続きをしよう」
遊び人「そしたら私は意地でも二度寝するからね」
勇者「だったら俺は三度寝してやるよ」
遊び人「じゃあ私は四度寝するよ」
勇者「どうぞどうぞ!!」
遊び人「本当にするよ?」
勇者「言ったからにはやるんだからな」
遊び人「わかった」
勇者「まあ四度寝してる間にバニースーツを着せるけどな」
遊び人「…………」
勇者「おやすみ」
遊び人「…………」
勇者「…………」
遊び人「…………」
勇者「いや、着せないよ?」
勇者「冗談だって!!ごめんって」
遊び人「…………」
勇者「わかった!着せないし二度寝していいから!!」
勇者「だからそんなに怒らなくても……」
遊び人「……zzz」
勇者「もう寝てんのか!」
10:以下、
勇者は見張りをした。
勇者は眠気をこらようとふんばっている。
勇者は考えた。
この眠気で魔物に襲われたら、どうせまともに戦えまい。
だったら寝ても変わらない。
寝てしまおう。
いや、寝ては駄目だ。
仲間を守る使命がある。
しかし、眠るのは気持ちがいい。
寝て体力を休めて、全力で魔物と戦おう。
そうしよう。
勇者「……zzz」
魔物の群れがあらわれた!
遊び人はのどをくいちぎられた!
勇者ははらをひきさかれた!
パーティは全滅してしまった!
11:以下、
遊び人「ぶはっ!!」
遊び人「はぁ……はぁ……」
勇者「生き返ったか」
神官「お目覚めですね」
遊び人「あれ、昨日たしか洞窟で寝て……」
遊び人「うわっ!この神官めちゃ身体でかい!!」
神官「ふふふ」
遊び人「昨日寝て、そして、たしか、ええと……」
勇者「いったん外に出るぞ。遊び人が死んでいた3日間について話す」
遊び人「3日間!?」
12:以下、
TIPS
精霊の加護。
勇者の身体の中には精霊が宿っている。
勇者一行のパーティメンバー(4人まで)は、戦闘・事故などで死んだ瞬間、身体が棺桶の中に即座に保管される。
その間、パーティの魂が現世を離れぬよう、精霊が魂を勇者(生体・死体問わず)の近くに束縛し続けてくれる。
パーティーメンバーが全員死亡した際には、魂は神官のもとに届けられ、精霊の宿りし肉体を持つ勇者のみ肉体を再生、魂と肉体の結合をさせられ蘇る。
蘇った勇者は、金銭を神官に支払い、仲間の蘇生を依頼する。
13:以下、
勇者「俺が見張りをしていたあの夜、見たこともないほどの巨大な魔物が現れた。必死で戦ったんだが、あらゆる剣技も呪文も通用しなかった」
勇者「もしかしたら、あれが行方をくらませた魔王だったのかもしれない……」
遊び人「勇者……」
勇者「俺だけ教会で復活し、遊び人の蘇生代金を貯めながら旅を続けた。目的の村にたどり着き、またこうやってお前と無事再会できた。これからもよろしくな!」
遊び人「……そうだったのね。ごめんね、勇者」
勇者「気にすんなって。失敗や寝落ちは誰にでもあるさ」
遊び人「ありがとう。勇者、やさしいね」
勇者「へへ、まぁな」
遊び人「ところでさ、どうしてさっきから目を合わせないの?」
勇者「へへ、まぁな」
遊び人「…………」
14:以下、
遊び人「それにしても、この村すごいね!!」
遊び人「巨漢しかいないよ!!」
勇者「ああ。あそこの武器屋の前でケバブを食ってる商人もデブ、宿屋の前で飯食ってる魔法使いもデブ、飯屋に並んでる間に飯を食ってる村人もデブだ」
遊び人「そしてここで寝転びながら話を聞くナイスバディなレディ」ゴロン
勇者「そして逞しいボディで寝転ぶダンディーな勇者」ゴロン
遊び人「もう一度聞いていい?私が死んでる間に何があったの?」
勇者「一緒に洞窟で死んで、教会で俺だけ蘇ったあと、たまたまこの村に向かう商隊を見つけたんだ」
勇者「夜で暗かったのもあって、最後尾の馬車に遊び人の棺桶をくくりつけてな。俺もその上に座って、優雅に星空を眺めながら」
勇者「いや、その商隊のあとを見失わまいとお前を必死で引きずりながらこの村に向かったんだよ」
遊び人「今の言い直しは聞き逃せないんだけど?」
勇者「なんにせよ、よかったな。早最初の目的地について」
遊び人「なんだかモヤモヤするけど……」
遊び人「あのさ、勇者。もしかしなくても、この村って」
勇者「ああ。俺達が目指していた最初の地」
勇者「『暴食の村』だ!!」
15:以下、
お斎(オトキ)。
ある東洋の国では、僧侶は飲食を謹んで心身を清め、神事を行っていた。
口にするのは精進料理という、殺生や煩悩への刺激を割けることを目的とした質素な食事であった。
七七日(なななぬか)法要の際の食事においても、お斎が振る舞われる。
亡くなった者は七日ごとに閻魔大王の裁きを受け、四十九日目に極楽浄土に行けるかどうかの判決がくだされる。
法要終了後、遺族は僧侶や参列者に対する感謝を示し、また故人を偲ぶ目的をもって、お斎を振る舞う。
生死・宗教を象徴する場においても、食事は重要な意味を持つ。
食すだけが食事ではない。
食事を控えることでしか、避けられない罪があるのは、この国だけの話ではない。
【第一章 暴食の村 『胃袋を開く鎧』】
いただきますと、ごちそうさまを、忘れない。
16:以下、
遊び人「ここはなんて名前の村ですか?」
案内人「ここは…モグモグ……ムシャムシャ…」
案内人「このお肉は……ラム肉!!」
遊び人「あの、この村はなんて名前の村ですか?」
案内人「このラム肉は……モグモグ……ゴクリ……」
案内人「この肉は、ラム肉!!」
遊び人「ラム肉じゃなくて!この村の名前は!?」
案内人「このラム肉の名前は……」
遊び人「だーかーら!」
勇者「おう、遊び人。道具買っておいたぞ」
遊び人「ねえ勇者。この村の人常に何かしら食べ物口にしてない?あの道具屋も、武器屋も、宿屋の店主も何か頬張ってたし」
勇者「そうだなぁ」ムシャムシャ
遊び人「勇者もじゃないの!なんなのよ!」
勇者「この豚肉はハムといってな……」
遊び人「もうその下りいらない!!」
17:以下、
遊び人「ここは今では暴食の村よ呼ばれる場所でしょ!自分が何を口にしてるかわかってるの!?」
遊び人「7つの大罪の一つ『暴食』に関わる大罪の装備によってこの村の食物に影響が起きたのよ」
遊び人「この村の人を見てよ。みんなぶくぶくぶくぶく不健康に肥ってる。数年前まではこんなんじゃなかったって聞いたよ?寿命に影響をあたえるほど不健康なものが生み出されてるに違いないわ!」
勇者「まあまあ。お前にはこれやるから」
勇者は乾いたパンを手渡した。
勇者「大罪の力は寿命を削る。忘れちゃいねーさ。だから、お前は安心してこれを食え。3つ前に寄った村で買ったものだ」
ボロボロ…
遊び人「…………」
遊び人「……勇者はどうすんのよ」
勇者「この村の飯は、美味いくせにかなり安いんだ。普通にここのを買って食うよ」
遊び人「どれだけ身体に作用を及ぼすかも知らずに?」
勇者「俺は酒も飲まないし、葉巻っていうやつも吸わない。あれだって健康に悪影響与えるって話だぜ?」
勇者「それらをやってないんだから、ちょこっと飯食うのも変わりないだろ」
遊び人「駄目よ!!」
勇者「食料だって限られてるんだ。以前の村で入手した食料は全部お前にやる。俺の分はない」
勇者「俺がここで飲まず食わずで餓死して死んだらそれこそ意味ないだろ?空気を吸って死ぬより毒を食らって生きるさ」
遊び人「でも……」
勇者「話してたらまた腹減ってきた。あの飯屋に入るぞ」
遊び人「ちょっと!!」
18:以下、
勇者「うわぁ、うまそう!!なんだよこのコッテリと乗った油は!この肉たったの30Gだぜ?」
遊び人「…………」ゴクリ
勇者「そんじゃ、いただきまーす!」
遊び人「いただきます……」
勇者「う、う、うめぇ!!!」モグモグ
遊び人「…………」パサパサ
勇者「こりゃあ。こりゃあ酒とか葉巻がやめらんないやつの気持ちもわかるぜ!!やめたくてもやめられねーんだな!」
遊び人「…………」パサパサ…
勇者「くぅー!!最高!!大罪の力バンザイ!!!」
遊び人「…………」
勇者「わ、わりぃ。今のは、不謹慎だったな。わりぃ……」
遊び人「一口」
勇者「えっ?」
遊び人「ひとくち!」
勇者「あー、どうぞ?」
19:以下、
遊び人「う、うう!?」
勇者「うう?」
遊び人「うっ!!」
遊び人「うんまいぃいいいい!!!なんじゃこりゃ!!」
勇者「だろ?」
遊び人「うう……おいしいよお……」モグモグ…
勇者「旅の時はひどいもん食ってたからな」
遊び人「こんな美味しい食事食べたのいつぶりだろう」
勇者「ああ。俺も2日ぶりくらいかもしれん」ムシャムシャ
遊び人「めっちゃ近いじゃん……何私が死んでる時にうまい飯食べてるの……」ムシャムシャ
勇者「…………」ムシャムシャ
遊び人「蘇生代金たまるの遅れたのって……」
勇者「マスター、こんばんは。ここのご飯最高ですね」
遊び人「話を逸らすな!」
20:以下、
店長「へへっ、どうも。あんたら冒険者か。この村に来るのは初めてか?」
勇者「はい。商人の見習いとして今は色んな街を巡っています」
店長「へー、珍しいね。だったらこの村に来たのは幸いかもな、食料ビジネスならすぐに手をつけられるぞ」
勇者「こんな美味しいご飯を食べたのは初めてかもしれません」
店長「しばらく前まではこの村も普通の質素な飯しかない街だったよ」
遊び人「食物が異常に成長をし始めたとお聞きしました」
店長「そうなんだよ。みんな不思議がってたな。魔王がいなくなって瘴気が薄れたからだってみんなは信じてる」
店長「でも俺は変だと思うんだよな。この村以外じゃそんな話聞かないからな」
店員「タイミングとしても、魔王が姿を消す前から飯は異常に美味く、育つようになりはじめていた。家畜も野菜もな。人間もぶくぶく肥えてきはじめてた。俺自身野菜を栽培してるからわかるんだ」
店員「俺は思うんだ。あいつらが来てから、この村に変化が起き始めたって……」
21:以下、
遊び人「あいつら?」
店員「窓の外を見てみろよ。あそこに豪邸があるだろう?」
勇者「富豪が住んでるんですか?」
店員「農家の家だよ」
遊び人「農家ってそんなに儲かるんですか」
店員「実は、元商人の旅人だったんだ。数年前にこの村にやってきたんだ」
店員「肥沃とはいえないこの土地で、やつらが食物を育て始めた時はみんなが笑ったよ。けれど、この村で育てたものは途端にぶくぶくと育ちはじめた」
店員「ガリガリのあばらの浮いたやつばかりだったこの村も、今じゃぶくぶくの人間ばかりだ。これじゃあどっちが家畜かわからんね」
店員「今では冒険者もよく訪れるようになった。そしてみんなここが気にいって居座っちまう。本来の旅の目的も後回しにしてな」
店員「生きるために食べるか、食べるために生きるか、それが問題だ。って話だよ」
22:以下、
遊び人「勇者、間違いないね」
勇者「ああ」
遊び人「この村が7つの大罪の地の1つ『暴食の村』と化してしまったのは、富豪が持つ大罪の装備による影響のせい」ムシャムシャ
遊び人「暴食の装備を持つ者があの屋敷にいる。そして、装備はこの村の食料に影響を与え始めた」ムシャムシャ
勇者「ああ。そしてこの村の食べ物をたべた者は飯中毒になる」ムシャムシャ
勇者「自分の食欲もコントロールできず豚となり下がる」ムシャムシャ
遊び人「哀れな末路だね」ムシャムシャ
勇者「自分が食べているものが麻薬だとも知らずに」ムシャムシャ
遊び人「寿命を減らすような危険なものだとも知らずに」ムシャムシャ
勇者「きっと知っても尚やめられないほどに中毒になってるのだろう」ゴクリ
遊び人「胃袋に理性を支配されてしまうのね」ゴクリ
勇者・遊び人「おかわり!」
23:以下、
勇者「今すぐにでもあの屋敷に行こう」
遊び人「なんて言って入れてもらうの?」
勇者「大罪の装備をください」
遊び人「私なら断る」
勇者「それじゃあどうすりゃいんだよ」
遊び人「記事書きのふりをして、商売成功までの道のりをインタビューするとか?」
勇者「本人たちは、自分が持つ装備がどんな影響を与えるか知っていて商売をはじめたに違いない。聞かれたくないんじゃないか」
遊び人「こっそり屋敷に入って、盗むしかないのかなぁ」
遊び人「それにしても、どうして食料ビジネスなんか始めたんだろうな。金持ちになりたかったのかな」
24:以下、
勇者「わかった!」ポロ
遊び人「ご飯が口からこぼれてるよ」
勇者「富豪は、世界征服を目論んでいるんだ。暴食の装備の強大な力を使って食物を育て、人々の胃袋から支配し始めたんだ」
遊び人「嫁志願者みたい」
勇者「それか、極度の肥え専で、痩せてる人を根こそぎ世界から消すつもりなんだ」ポロ
遊び人「また食べ物こぼしてるよ」
勇者「目的は何にしろ、まずはストーキングをして正体を見極めないとな」
遊び人「それしかないかぁ」
勇者「ああ。やっと冒険らしくなってきたな」ムシャムシャ
遊び人「うーん?」ムシャムシャ
25:以下、
勇者「飯を食い終わったらさっそく行こう」
遊び人「えー、いきなり?」
勇者「いや、食べたあと動くのはきつい。食べて寝たあとに出発するぞ」ムシャムシャ
遊び人「それには賛成!」ムシャムシャ
?数日後?
遊び人「ムシャムシャ」ムシャムシャ
遊び人「ムシャムシャ」ムシャムシャ
遊び人「ムシャムシャ」ムシャムシャ
勇者「よお、交代の時間だ。調子はどうだ?」
遊び人「やっぱり森の奥に行ってるみたい。ところでさ」ムシャムシャ
勇者「ん?」
遊び人「これ見張りっていうのかな?屋敷の近くに寝転んでご飯食べながら眺めてるだけじゃん」
勇者「まあまあ、事前調査が何より大事だ」
遊び人「確かに行動パターンは読めてきたね。屋敷に住むのは召使を除いて、男二人と女一人」
遊び人「あいつらの向かっている森の奥に行ってみましょ。農園や牧場以外に、何かあるかもしれない」
26:以下、
勇者「ああ、出発の時だな!!」
勇者「よいこらしょっと!」ドデン!
勇者「うう、きつい……」
遊び人「勇者、ちょっと肥った?」
勇者「なんだよ。そういうお前こそふと」
遊び人「なんですってえええ!!!」
遊び人「今なんて言おうとしましたぁあああ!!!?」
勇者「えっと、ふとっ……」
遊び人「言っちゃダメでしょおおおお!!!!」
勇者「理不尽!!」
遊び人「3大女性に言っちゃだめワードがなんですからね!!」
勇者「覚えておくよ……」
遊び人「さ、出発するよ!!」ドデン
遊び人「うぐっ……」
遊び人「な、なんのこれしき!」
27:以下、
勇者「あっ、その前に、準備を整えないと」
遊び人「準備?もう道具もってるじゃん」
勇者「お前の装備がもうぼろぼろだろ。ずっと同じのを着まわしてる。これじゃ貧しき村娘Aにしか見えん。新しい防具を買ってこい」
遊び人「でも、私の蘇生にも使ってもうほとんどお金ないんじゃ」
勇者「飯屋の手伝いを少ししてたんだ。だから手持ちにちょっと余裕ができた」
遊び人「えっ……うそ……」
勇者「さあ、行ってこい」
遊び人「勇者……」ジーン…
遊び人「本当にありがとう!!」
勇者「いいってことよ」
遊び人「行ってくる!!」タッタッタ…
勇者「さっき見つけた防具屋に、格安のバニースーツが売っててな。値段の割に艶がいい感じで……おーい!!そっちじゃない!!そっちは普通の防具屋だ!!おーい!!」
28:以下、
遊び人「見張りの交代をしてる時に、そんなことしてたんだね。情報収集だけじゃなかったんだね。まぁ私も薬草とか拾い集めたりしてたけど」
遊び人「ふふっ、うれしいなぁ。おじゃましまーす」
防具屋「いらっしゃい」
遊び人「(……巨漢の女主人だ)」
遊び人「どうしようかな。安くて、頑丈で、ちょっとおしゃれなのがいいな」
遊び人「うーん、迷うなぁ」
遊び人「…………」
遊び人「よし。この皮のドレスください」
防具屋「あいよ」
遊び人はお金を支払った。
防具屋「さっそく装備していくかい?」
遊び人「はい!」
遊び人は皮のドレスをそうびすることができない!
防具屋「おっと、装備できないようだね」
遊び人「えっ」
29:以下、
防具屋「Sサイズじゃ入らない。Mサイズ買いな」
遊び人「えっ!!サイズの概念なんて意識したことなかったんですけど!!」
防具屋「返品はきかないよ。売却はできるけど」
遊び人「まだ着てもいないじゃないですか!!手持ちももうないんですよ!!」
防具屋:いらっしゃい。なにをかいますか?
遊び人「急にテンプレモードで喋りだした!会話を放棄した!」
30:以下、
遊び人「なんとか着れないかな」
遊び人「うう…」ギチチチ…
遊び人「うう!!!きつい!!!しぬ!!はく!!」
遊び人「だめだ……」
遊び人「せっかく勇者がお金まで貯めてくれたのに……。サイズが小さすぎて入らないなんて言えないよ」
遊び人「決して私が大きいんじゃなくて、この村のサイズの規格が異なってたせいで小さくて着れないなんて言えないよ」
防具屋:サイズの規格は どのムラもおなじだよ
遊び人「テンプレモードで独り言につっこまないでよ!!」
31:以下、
勇者「あれ、買ったんじゃなかったのか?」
遊び人「まだしばらく泥臭い冒険が続くだろうと思ってさ。森の中への侵入が終わったら着ようかなって。汚したくないの」
勇者「森の侵入にそなえての防具購入のつもりだったんだが。まあ好きにしていいが」
遊び人「それじゃあ、出陣しましょう!」
勇者「ああ」
勇者「ひぃ、ひぃ、ふぅ……生まれる」
遊び人「や、やっと着いた。歩くだけで精一杯」
勇者「この森か」
遊び人「『私有地につき立ち入り禁止。野獣殺し・盗人殺しの罠多数有り』って書いてある」
遊び人「この先には農園や牧場なんかがあって、そこの食料を奪う魔物がいるんだろうね。富豪は罠の場所を把握しているのよきっと」
勇者「人間様の森に私有地も何もあるか!いくぞ!」カチ
ビュン!!
ザクリ!
勇者「 」
勇者はちからつきた。
勇者の身体をどこからともなく現れた棺桶が包み込んだ。
遊び人「…………」
遊び人「勇気と無謀を履き違えるべからずよ!!」
32:以下、
遊び人「うう、どうしよう。せっかくここまで登ってきたのに」
遊び人「勇者様を蘇らせるために、街に戻るのしんどいなぁ。移動の翼もこの街には売ってないし、手持ちもないし」
遊び人「それとも、この棺桶を引きずって街に戻るか」
遊び人「…………」
遊び人「勇者を蘇らせたところでまたすぐやられそうだし、ちょっと私だけで様子を見てみますか。よし、棺桶を引きずって……」
遊び人「うげ!?重っ!!なにこのかつてない重さ!!」
遊び人「うぐぅう……明日にでも痩せられそう……」ズリズリ…
遊び人「勇者はすぐに特攻するからなぁ。精霊の加護があるからって平気で死にすぎなのよ」
遊び人「蘇生代が安いのは助かるけど。もっといのちだいじにしてほしいなぁ」
遊び人「って、私も人のこと言えないか。この前だって三日間も棺桶にいたんだから」
遊び人「勇者は私の身を守るために防具まで買ってくれたんだ。私もここで頑張らなくちゃ」
遊び人「おっ、なんか人が通った形跡がある。この茂みの中を通っていくのか。ちょっとでも踏み外すと罠にひっかかりそうで怖いなぁ」
遊び人「見ててね、勇者。そして、見守っててね」
遊び人「私、進むから!!」
33:以下、
ヒュン!
カン!
ヒュン!
カン!
遊び人 E かんおけのたて
罠A、罠B、罠C、罠D、罠Eは勇者の棺桶に刺さった!
遊び人「最悪に不謹慎ですが、この盾便利です」
遊び人「罠がありそうな場所に押し出せば身代わりになってくれる。矢が刺さりまくっちゃうけど」
遊び人「勇者様、死後もお守り頂きありがとうございます」
遊び人「決して、私の死んでる間に美味しいものを食べてたことを思い出したわけではないですからね」
40:以下、
遊び人「ん、あそこ。通路が整備されてる。それに、見張りもいる。この先に農園があるのかな」
遊び人「見張りの数は、1人。他にもまだいるのかな。そして、やっぱり巨漢だなぁ」
遊び人「勇者、ちょっと離れるね」
遊び人は棺桶を茂みの中に置いた。
遊び人「見張りのいる場所の奥まで行ってみたいけど、どうしたらいいかなぁ……」
ガヤガヤ……
遊び人「なにかしら、近くが騒がしい」
41:以下、
盗賊A「ここだな。噂の場所は」
盗賊B「食料を荷車に詰めて持ってくぞ。詰めるだけ詰めたら移動の翼で他の場所に逃げるんだ」
盗賊C「以前の街で盗んだ防具が役に立ちましたね。全身を覆う鎧なんてそうそう買えないので」
盗賊D「そろそろ女の一人でも盗んでいきたいところですがね」
盗賊E「ハハ!この村の女はごめんだがな!」
遊び人「(盗賊!!5,6,7……8人くらいいる。今時めずらしいくらい多いな)」
盗賊A「というわけでだ」
盗賊A「そこを通せ。でなければ力づくで通るぞ」
見張人の前に、盗賊A、B、C、D、E、F、G、Hが現れた!!
見張り「通せば命は助けてくれるのか?」
遊び人「(見張りさん一人じゃ勝てないよ!!盗賊はみんな痩せてるしはやそうだよ!!)」
盗賊A「盗賊が皆、人を殺すものだと思ってたら大違いさ。俺たちみたいに捕まりやすい職業こそ、大罪は犯さないものなんだよ」
見張り「そうであればこそ通さん。お前たちは大罪を犯せないのだろう?」
盗賊B「ああ。身ぐるみ剥がして、骨を折って、見つかりやすい場所に置いておくだけさ!!」
盗賊たちがかまえた!
遊び人「(やばいよ!!見張りさん逃げて!!)」
42:以下、
盗賊A「お前ら、殺さない程度にやれよ」
盗賊たちは剣を構えた。
見張人「大丈夫だ。俺も生きるつもりだからな」
見張人は食料を取り出した。
見張人「食事中の運動にちょうどいい」ムシャムシャ
盗賊「くそが!!食事中に戦うなんてマナーのなってねぇ野郎だ!!かかれ!」
盗賊たちは襲いかかった!
見張人「知るか。ここは暴食の村と化した」
見張人「今では、食べ物に、最も礼儀のない村だ」
見張人は剣を抜いた。
43:以下、
盗賊「ぐああああ!!」
遊び人「な、なにあの動き!」
遊び人「巨漢なのに、蛇のように盗賊たちの間をすり抜けて動いてる」
遊び人「間合いを取るのが上手いんだわ。1対多数でしかできない戦い方をしてる」
見張人「お前らの骨を全員折って、裸で道端に置いておけばいいんだったか?」
盗賊「な、なんだよこいつ!!!」
見張人「安心しろ。命だけは助けてやる」
盗賊A「お、お前ら!逃げるぞ!!」
盗賊たちはにげだした!
しかしまわりこまれてしまった!
見張り「逃げていいとは言ってないだろ」
盗賊Aは頭を掴まれ、茂みに顔を突き出された。
44:以下、
盗賊A「グヘッ!!」
見張人「食え」
盗賊A「や、やめてくれ……」
見張人「少し冒険していればわかるだろう。毒草だ」
盗賊A「こ、こいつぁちょっときついんじゃねぇか……」
見張り「食え。食っても死なないものだ」
盗賊A「…………」
盗賊Aは毒草を咀嚼しはじめた。
盗賊A「……うへぇ!!おぇええ!!!」
見張人「食え。もっとだ。残さず食べろよ。食べ物を盗もうとしてたんだろ」
見張人「食べても死にはしない。それどころか気付け薬にもなる代物だ」
見張人「ただ、おそろしく不味いだけさ」
見張人「わがまま言わず、食え。お前もだ」
見張人は倒れている盗賊Bの口に毒草を突っ込んだ。
盗賊B「おぇええ!!!ぐほぉっ!!!」
見張り「ほら。もっと食え」
見張り「ほら、お前も。お前もだ。食え、食うんだよ」
見張り「死にたくても、食え。それこそ、生きるためにもな」
見張り「俺も、かつて、そうしていたんだ……」
45:以下、
遊び人「(……なにあの見張人。ただの見張人じゃない)」
遊び人「(強さも異常だけど。あの感じ。あの禍々しさ)」
遊び人「(まるで、世界の残酷さを見てきたような……)」
見張り「さて、食後のデザートでも取るかな」ムシャムシャ
遊び人「(肉の挟まったパンでしょ!というかそれさっきも食べてたし!)」
遊び人「(よし、持ち場から少し離れたし、油断してる今の隙きに森の奥まで……)」
見張り「うまい、戦闘後の食事は最高だ……んっ?」
見張り「なんだあれは。戦闘中は気づかなかったが、近づいてみるか」
ザッザッ……
遊び人「(やばい!!勇者の棺桶!!)」
46:以下、
見張り「…………」
見張り「なんだこの棺桶は。おびただしい数の矢が刺さってるが……」
見張り「おい、お前ら!!これはお前らのものか!!」
盗賊C「ごほっ!!ごほごほっ!!おぇえ!!!」
見張り「答えろ!!」
盗賊C「し、しらねえよ……うぉえええ!!」ゴボゴボ…
盗賊Cは毒草の不味さに気絶した。
見張り「ああ。そうだろうな。棺桶を引きずって冒険する者なんか、この世界で数百人しかいないだろう。そしてお前らのような5人以上で群れるような蛮族とは無縁のものだ」
見張り「勇者よ!!隠れているんだろう!出てこい!さもなくば貴様の仲間の棺桶を八つ裂きにするぞ!!」
遊び人「(やばい!!ていうか、それが勇者の棺桶だからね!)」
47:以下、
?「騒がしいなあ。どうしたの剣士」
?「たまには森の様子も見ようかと思って一人で散歩してたけど」
?「あれ、盗賊倒れてんじゃん。やばっ。勇者呼んできたほうがいい?」
遊び人「(えっ、勇者!?)」
戦士(見張り)「魔法使い。外では軽々しく勇者の名前を呼ぶなと言ってるだろ」
魔法使い「いいじゃんここくらい」
見張り(戦士)「まずいことが起きている。ここに別の勇者の一行がいる」
魔法使い「えっ!?本当!?」
見張り(戦士)「王国の手先かもしれない。生け捕りにするぞ!」
魔法使い「勇者なら私達の味方じゃないの?」
戦士「過去に勇者殺しの事件があっただろう。勇者を捕らえる力を持つのは勇者と魔王くらいのものだ。警戒するに越したことはない」
魔法使い「なるほどね。それに、この街の秘密を知りうるものの可能性もあるかもしれないしね」
戦士「その通り」
魔法使い「知られたら困るわね」
魔法使い「暴食の勇者は、私達が守るんだから」
48:以下、
TIPS
“魔王は討ち取られた。勇者の手によって”
「勇者」とは、魔王を討ち滅ぼすための呪文・戦闘センスを持って生まれしものである。
勇者として生まれたものは、幼き頃から勇者のみにしか使えない雷撃の呪文等を使用し、周囲に認められ始める。
そして、成長した勇者に天から青白い光が降り注ぐ日が訪れる。
これが精霊の降臨である。
精霊が勇者の肉体の中に入り込み、精霊の加護を与える。
勇者と冒険の契を結んだ仲間3人までは、戦闘によって肉体が滅ぼうとも神官の元で復活することができる。
この10年の間、精霊の加護を受けた勇者は数百人いたとされる。
そして、現在残っている勇者は半数未満だと言われている。
1つの原因としては、魔王が精霊を断ち切る術を身に着けたからであろう。
精霊を失って死亡した勇者は復活することができなくなってしまった。
もう1つの原因としては、魔王が討伐された後、処刑の王国が生き残った勇者達を呼び寄せたことと関係があるかもしれない。
初めは、戦い続けた勇者に栄誉を授けたいという理由で、世界中から勇者を集めた。
処刑の王国に不信感を持つ勇者は多く、呼びかけに応じないものも多数いた。
処刑の王国に入城した勇者は、二度と出てくることはなかった。
やがて、処刑の王国は、呼びかけに応じぬ勇者を罪人扱いし、賞金をかけて探し出した。
元勇者達は、処刑の王国に脅かされながら生きることを余儀なくされた。
処刑の王国の目的は、明かされていない。
49:以下、
魔法使い「捕らえて吐かせればいいんでしょ!ひとまず私に任せなさいな!」
ブツブツ……
遊び人「(やばい、巨漢の女性が詠唱し始めた!あの唱え方は……)」
キィイイン!
遊び人「うぅ、耳がキーンと……」
魔法使い「感知したわ。あの草陰の中よ。逃げる前に捕まえましょ」
遊び人「(もう逃げてるよ)」タッタッタ!!
魔法使い「なに、女じゃん。しかもちょっとしかふとってない」
遊び人「(ちょっとしかって何よ!ちょっとはふとってるってこと!?)」
50:以下、
遊び人「門の奥、小屋がある!」
遊び人「入るよ!!」
ガチャガチャ!!
遊び人「って、鍵がかかってるし!!」
遊び人「窓も割ったところで人が入れる大きさじゃない。でも中くらいは見れるかな」
遊び人「倉庫みたいに色んなものが置かれてる」
遊び人「そして……鎧のレプリカがある。お城の中に並べられてるような」
遊び人「分かる人には分かるよ。剣と、兜は安物のレプリカでも、この鎧は本物」
遊び人「これが、『大罪の鎧!!』」
遊び人「木を隠すなら森の中より、土の中に埋めればいいのに」
魔法使い「……これは困ったわ。よくご存知で」
遊び人「追いつかれた!?」
魔法使い「見た目で……はやさを……判断しないでほしいわね……」
遊び人「(凄い汗だくだけど)」
遊び人「あなた達は何者なの?元勇者なの?」
魔法使い「こちらこそ聞きたいわね。その鎧について知っているものが私達パーティメンバー以外にいるとは驚いたわ」
51:以下、
遊び人「やはり大罪の装備の所有者はあなた達なのね」
魔法使い「その装備についてどこまで知ってるの?」
遊び人「私のお父さんがその装備をつくったの。だから返しに貰いに来たの」
魔法使い「それは変ね。この装備はある夜、突然空から降ってきたものなんだってうちの持ち主から聞いたよ。それも、魔域にいる時にね」
遊び人「…………」
魔法使い「あなたのお父さんは魔域までものを飛ばすほどにこの鎧に移動の翼でもくくりつけたの?道具屋にある翼を全部買い集めても不可能だと思うけど」
魔法使い「あんた、どちら側の人間なの?」
魔法使い「”魔王を倒せなかった勇者を捕らえる側の人間”なのか、”魔王を倒せなかった勇者として身分を隠して生きる側の人間なのか”」
遊び人「どちらでもないわよ」
遊び人「世界に散らばった大罪の装備を集めて、ウハウハな老後を過ごす。それを目的に旅をしているだけよ」
魔法使い「まだ何か隠してるわね。隠してるもの全部吐き出させてやりましょ。幸い、そういう気にさせる毒草もあるしね」
魔法使い「さっさと気絶させてやるわ!!」
52:以下、
戦士「落ち着け、魔法使い」
戦士が遅れて現れた。
棺桶を引きずっていた。
遊び人「(人質に取られた……)」
魔法使い「こんな女さっさとふっ飛ばしちゃいましょうよ」
戦士「相手の実力もわからないし、他の二人のメンバーも見つからない。勇者のパーティなら4人である可能性が高い」
魔法使い「だから感知呪文を使ったけど一人だったって!」
戦士「用心するに越したことはない。お前の感知呪文の射程範囲は小さな町一つ分の距離だろう?」
魔法使い「じゅ、充分だと思うけど!普通の魔法使いなら小さな建物一つ分の距離なんだからね!ほとんど意味がないんだから!」
戦士「わるいわるい。実力は充分知ってるつもりだ。だから命を預けてきた」
魔法使い「……うっさいなー。包容力だけは認めてあげるわよ」
戦士「肥ってるからか?」
魔法使い「一言多いっての!」
遊び人「(なんか痴話喧嘩してるけど……)」
遊び人「(こういう追い詰められた時の作戦はもう決めてある。ポケットに入れてある羊皮紙とと羽ペンを取り出して……ぎゃ、インク瓶が零れた感触が……)」カキカキ…
53:以下、
戦士「この棺桶の中に貴様の仲間が入っているんだろ?」
遊び人「ぐぬぬ……」
戦士「他のパーティーメンバーはどうした?」
遊び人「さてね」
戦士「手を動かすな。道具袋から移動の翼でも使用する気か?」
遊び人「そんなことしないわよ。あんた達にも使用されたらいたちごっこだもの」
暴食「わかっているなら大人しく地面に伏せろ。そうすれば尋問もやさしくしてやる。この棺桶も破壊しないでおいてやろう。肉体の損傷が激しいほど魂との結合が困難になり、蘇生後の副作用も大きくなる」
遊び人「……わかった。言うとおりにするわ!」
ガサゴソ!
魔法使い「動くなって言って……!?」
魔法使い「あはは!!短剣を取り出したわ!!そんなんで戦うつもり?」
遊び人「戦わないつもり」
魔法使い「はぁ?」
54:以下、
戦士「まずい!!魔法使い、あの武器を取り上げろ!!」
魔法使い「えっ?」
戦士「急げ!!」
戦士「こうなりゃ俺も!!」
戦士はかんおけに肘を全力でたたきつけた!
棺桶の上部にダメージを与えた!
魔法使い「えーと!」
魔法使い「『所有されし装備よ!鈍重なる持ち主に汝のおもいの主張をせよ!』」
魔法使い「『オモリン』!!」
魔法使いの杖から空気の波が伝わり始めた。
遊び人「勇者、書くことは書いたからね!!」
遊び人 E 短剣
遊び人「あとは頼んだ!」
遊び人:こうげき ▽戦士
 ▽暴食の勇者
   ▽魔法使い
   ▼遊び人
遊び人はじぶんのくびに短剣を刺した!
パーティは全滅してしまった……。
55:以下、
魔法使い「間に合わなかった!」
戦士「俺もだ。亡骸を確認しようとしたが、あの女の方が早かった」
魔法使い「してやられたわ。勇者一行のパーティが全滅した場合、今まで寄った中で最も近い街の教会に精霊によって瞬時に運ばれる。そして勇者だけが蘇る」
戦士「急いで教会に飛ぼう。移動の翼を使うんだ」
戦士「……勇者か。うちのリーダー以外を見たのは初めてだよ。勇者の特性を活かした戦いをしてくれるじゃないか」
戦士「精霊の加護が、いかなる時も守ってくれると思うなよ」
巨漢の2人は、移動の翼を大量にくくりつけて飛んだ。
56:以下、
神官:おお 精霊よ このものたちに 加護があらんことを!
勇者「はっ!!ここは教会!!」
勇者「ということは、あいつも矢のトラップにかかって死んだのか。おお、遊び人よ、死んでしまうとは情けない……」
勇者「遊び人を蘇らせられるお金もねえぞ」
勇者「あれ。赤色のメモ帳に書き込みがしてある。何かあったのか」
勇者「これは……」
ふごうはゆうしゃいっこう
つよすぎ きけん
いますぐにげて
57:以下、
勇者「…………」
勇者「なっ……なんだと……」
勇者「……///」ポッ
勇者「『ふごうはゆうしゃいっこう』」
勇者「俺があっという間に生涯賃金を稼ぐ男だっていう意味だろ?まいったなー、そりゃあ教会代金も気にせず死んでまうわな」
勇者「『つよすぎ きけん』」
勇者「……はぁー」
勇者「はぁー。はぁー」
勇者「あいつもついに俺のポテンシャルに気づいてしまったか。隠しても気づかれてしまうか」
勇者「『いますぐにげて』か」
勇者「……まぁな。そうだよ。俺も、この稀有な宿命を背負ってしまったことを呪いたくなる毎日だぜ」
勇者「でもお前を見捨てて逃げたりはしねーよ」
勇者「さて。また復活の銭稼ぎに出かけるとするか」
勇者「その前に。宿に棺桶おいて、腹ごしらえだな」
58:以下、
?屋敷?
魔法使い「教会への転送目的に自殺するなんて!!自分達以外の勇者に会ったことがなかったから、咄嗟に気が回らなかったわよ!!」
魔法使い「他に隠れていると思われたパーティメンバー二人も死んでいたの!?それともたった二人のパーティメンバーだったというの!?」
魔法使い「あーもう!!教会に急いで行ってもいなくなった後だったし!!はやく見つけないと!!」ムシャムシャ
戦士「鎧も無事、この館の地下室にしまいこんだし大丈夫だろ。そうムシャクシャすんなって」ムシャムシャ
魔法使い「してないわよ!やけ食いしてるだけよ!」ムシャムシャ
戦士「ムシャクシャしてんじゃねか。ムシャクシャしてムシャムシャしてんじゃねえか」
59:以下、
「転送目的で自殺なんて。命を粗末にする勇者か。食べ物を粗末にする僕らといい勝負だ」ムシャムシャ
戦士「勇者。お前は残さず食べているだろう」
暴食の勇者は食べ物を頬張りながら首を横にふった。
暴食「過剰と不足は同じだよ。時に、過剰のほうが罪が重い」
魔法使い「ねーねー。あいつらはどっち側の勇者なのかな」
戦士「捕まえて確かめるしか無い。やつらの目的は確実に例の鎧か俺達の捕縛にある」
暴食「……暴食の鎧か」
戦士「どうした?」
暴食「その勇者達がそんな風にあの鎧を呼んでたんだろう?でも、まさにそんな名前がふさわしい気がした」
暴食「戦士、無駄に食べ物を貪るこの村の住民を見て、醜いと言ったことがあったね。食べ物を粗末にしていると」
戦士「今でもそうだ。俺も同じだけどな。それがどうした?」ムシャムシャ
暴食「食べ物を食べてるのを見て食べ物を粗末にしているなんて、おかしいなと思ったんだ」
魔法使い「そんなお腹が減るようなこと考えてる暇があったら食べなさいよ」ムシャムシャ
戦士「ああ。食に対する倫理観など、冒険の終わった今となってはどうでもいい。うまいかうまくないか、量は多いのか少ないのかだ。俺はいつ死んでも悔いのないようにうまいものを食い続けてやる」
60:以下、
暴食「冒険してる時に倫理観はあったのかい?」
戦士「ああ、あったさ。腹が減って死にかけ、餓死のラインを超えたら精霊の加護で復活した瞬間にも即死してしまうんじゃないと精神的に追い込まれた頃はな。食べ物のために罪なき人々を襲うことを躊躇していた頃はな」
魔法使い「ちょっと、もういいでしょその話は!」
戦士「感謝の気持ち以上に感じていたさ」
戦士「食べることは、罪を伴う行為であるとな!!」
勇者「…………」
戦士「ふぅー、食った食った。もう満足だ。寝る。明日もたらふく食うぞ」
魔法使い「私ももう寝るわ。勇者もつまんないこと考えるのはやめなさい」
暴食「わるかったね。食事中に暗い話を持ち込んで」
魔法使い「前も聞いたと思うんだけどさ。なんで森奥の小屋に鎧を置くのさ。農園までの道に罠がしかけてあるから確かに安全だけど。私達のそばほど安全な場所はないわよ?」
暴食「……襲われるからだよ」
魔法使い「鎧目当ての侵入者に?今日みたいなやつらが他にもいるかしら……」
暴食「あの鎧にだよ」
魔法使い「へっ?」
暴食「僕も寝るよ。寝る子は育つと言うからね。食べた後に寝れるのは幸せだ」
暴食「寝食ともにする、という言葉は、仲間と四六時中一緒にいることを意味するんじゃない。本当の使い方は、寝ることと食べることは2つで1つだということだ」
魔法使い「アカデミーではそんな嘘を習わなかったんですけど?寝ぼけてるなら寝なさい。おやすみ」
暴食「ああ、おやすみ」
61:以下、
勇者「今日は村の付近に生えてる毒草を摘むだけの簡単なお仕事です」
勇者「僧侶の復活代金高いからなぁ」
勇者「それにしても、今朝の朝食もうまかったぁ。大罪で呪われた食物とは思えない。身体はすげえ重いけど、力がみなぎる。身体から溢れる栄養感が半端ない」
勇者「もしも魔王を倒した勇者が、巨漢だったら、世界は英雄と讃えてくれるんだろうか」
勇者「巨漢の勇者の冒険譚ってなんだかなぁ。銅像は痩せた形でつくられちゃうのだろうか」
勇者「やっぱり世界は痩せてる者を求めるんだろうな。痩せてる人は、あまり食料を必要としないイメージがあるからな。冒険には食糧不足が付き物だし」
戦士「それは違うぞ。肥っているものこそ食料は必要ないだろう。身体の中に蓄えているんだからな。肥っているレディを求める国もあると聞いた」
勇者「こんにちは。あなたも毒草詰みの日銭稼ぎですか?気が合いますね。僕もこういった楽なクエストが大好きでね。魔王のいなくなった最近じゃ魔物の残党狩りなんてのも流行ってるらしいんですが、私はにわかじゃないんでね、一貫して楽して稼ぎたいわけで」
戦士「俺はそのようなクエストの帰りだ。この村の食料を食べては肥大化したトカゲの魔物を倒してきた。臆病ではあったが、宿屋くらいの大きさになっていた。村から頼まれたので引き受けた」
戦士「毒草を詰みながら独り言をいってる怪しいやつがいたから気になっただけだ」
勇者「…………」
勇者「僕も毒草を集めて、僕の祖国を困らせている城くらいの大きさのドラゴンを毒草中毒で倒そうとしていましてね。ええ。毒草しか効かない魔物でしてね。お互い困ったもんですな」
64:以下、
登場人物の名前がこんがらがってないか?
見張り(戦士)、戦士(見張り)とかさそしたら次は戦士になってるしさ暴食や戦士が会話してるところで勇者いるし…
65:以下、
>>64
確かにややこしかったですね。
[主人公側]
勇者
遊び人
[暴食の勇者側]
暴食
魔法使い
戦士=見張り
>>60の勇者「…………」も誤記入です。表記に気を付けます。
66:以下、
戦士「身体を見る限り、この街の住民ではないようだな。まだまだ痩せている」
勇者「この街に来て少し肥っちゃいましたけどね」
戦士「何を目的にこの街へ?」
勇者「魔王のいなくなった今の世界でこそ、冒険家はかなりの勢いで増えつつありますよ」
勇者「私は探し物をして色んな場所をまわっているんですが。来たこともない場所に来るのは、それだけで目的になりますよ。ほら、こうして美味しいご飯にも出会えた」
戦士「…………」
戦士「不健康な人間が増えた。この街で、異様な食料成長が始まってからだ。他の王国から研究者がやってきては、土だの、水だの勝手に持ってきているが、原因を特定できていないと聞く。魔王がいなくなったから土地の性質が変わったんじゃないかと結論づけたらしいがな」
戦士「ところで」
勇者「あい?」
戦士「棺桶を引きずって宿屋に入る、不審者の目撃情報があった」
67:以下、
キン!!
戦士「お前、勇者の仲間だな!昨日はこそこそ隠れていたようだが!!」
勇者「なっ!!」
戦士「どうなんだ!!」
勇者「ええ!!?」
戦士「勇者の自殺にあわせてお前も短剣を自分の首に刺したのか!?」
戦士「それとも棺桶の中に入ってたのはお前か?だとしたらあの勇者はどこにいる?教会ですぐに蘇生させなかった理由はなんだ?」
戦士「さては!!ダミーか!!昨日の棺桶はトラップか!!」ムシャムシャ
戦士「中に誰も入っていなかったのか?それとも誰か生きている仲間が入っているのか?」ムシャムシャ
勇者「ふぁ、ふぁ!!?」
勇者「このひと、食べ物を頬張りながら、わけわかんないこといってるアル」
ゆうしゃはこんらんした!
勇者「アカデミーで呪文の授業についていけなくなった頃のことおもいだして、つらいアル」
ゆうしゃはにげだした!!
戦士「くそ!待て!」
ゆうしゃのばらまいた毒草が戦士の口の中にはいった!
戦士は思わず飲み込んでしまった!
戦士「うぼぉおおえええ!!!!」
68:以下、
勇者「くう、持ってたアイテムも道具屋でほとんど売っちまった」
勇者「神官さん!遊び人を蘇らせてくれ!」
神官「2000G頂きますがよろしいですか」
勇者「相変わらずたけぇなおい!!でもお願いします!!」
神官は祈りを唱えた!
神官「遊び人の御霊を肉体と結合したまえ!!」
神官は祈りを唱えた。
棺桶は消え去り、遊び人は復活した。
遊び人「……ゆ、ゆうしゃ」
遊び人「勇者!!」
69:以下、
遊び人「勇者!!あのね!!」
勇者「何も言わなくてもわかってる。お前が俺のことをどう慕っていたのか」
遊び人「へっ?」
勇者「それよりも、自分は大きな魔物を倒したという妄想に駆られ、わけわかんないことを口走ってる日銭稼ぎに追われてる。逃げるぞ!」
魔法使い「『呪力を放ちし掌よ。主の唇と仲違いせよ』」
魔法使い「『マフウジ!』」
勇者は呪文をつかえなくなった。
勇者「誰だお前は!」
遊び人「あなたはこの前の!!」
魔法使い「追い詰めたわ。移動の翼も使わずに走って逃げるなんて」
遊び人「勇者ちゃんとメモ書き読んだんだよね!?なんで追い詰められてるの!?」
勇者「////」
遊び人「なんで照れてんの!?」
戦士「お前らを生け捕りにする。じきに俺らのリーダーも来るだろう」
神官「戦闘は外でしてくだされ!」
魔法使い「万が一にも移動の翼を持ってるかもしれないからね。ここで捕まえて連れてくよ!」
70:以下、
【TIPS】
呪文。
呪文は大気に満ちる精霊の力を借りて発動する。
精霊が信頼を置いたものは、幼子から老人までだれでも呪文を発動することができる。
古来より口承されている言葉としての呪文「マフウジ」「マハンシャ」「ネムリン」などの略称はあるが、魔力の低いもの、精霊の信頼が低い者はより丁寧に呪文の発動を依頼する必要がある。
精霊は人を選ぶ生き物であるからだ。
最たる象徴として、勇者という職業のみに限り、1体の精霊が宿り、精霊の加護を授ける。
信頼は職業だけではなく、その者の実力によっても積み重ねられる。
精霊から絶大な信頼を勝ち取った者は、念じるだけで精霊の力を最大限にまで引き出すことができる。
精霊は善悪で判断しない。
精霊から絶大な信頼を置かれたものは、言葉を発さずとも呪文を唱えることが可能となる。
「無口詠唱」が可能な者はこの世に僅かであるが存在する。
その代表格が、魔王であった。
71:以下、
勇者「……ふん」
勇者「その程度の呪文制御で、何かが変わる勇者様かよ!!」
魔法使い「なんですって!?」
勇者「『地獄にて罪人を引きずりし鬼々よ。その地獄車を以て、汝の敵を破滅たらしめよ』」
勇者「『鬼想ウ日ノ終焉ノ始マリノ終ワリ(ファイヤー・デ・ファンファーレ)!!!』」
勇者の血気が上昇した。
勇者「くらええええ!!!」
戦士は勇者を切りつけた。
勇者「ゴボェォオェ……」
勇者は力尽きた。
遊び人「呪文なんてろくに使えないのに……」
72:以下、
遊び人「神官様。勇者を蘇らせて下さい」
神官「はい。3Gね」
魔法使い「えっ!?何よその値段!!!」
神官「はい、蘇ったよ」
勇者はよみがえった!
戦士「はやい!!」
勇者「ぷは!よくもやってくれたな。本当の特技を見せるときが来たようだ」
勇者「くらえ!!『すてみ』!!」
勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!
戦士は勇者を切りつけた!
勇者は力尽きた。
遊び人「蘇らせて下さい」
神官「3Gね。はい、蘇ったよ」
勇者「ぷはっ!」
勇者「うおらああああ!!!」
勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!
戦士「またっ!」
戦士は思わずたじろいだ!
勇者は戦士に全力でぶつかった!
戦士「ぐほおお!!!」
戦士に大きなダメージ。
勇者は棺桶に入った。
遊び人「はい、3G」
神官「あいよ」
勇者「ぷは!」
勇者「うおらあああああ!!!!」
勇者はすてみで戦士にぶつかった!!
戦士「ぐおお!!?」
73:以下、
魔法使い「なにあの命の安っぽさ!!」
戦士「魔法使い……あいつ中々に強いぞ」
遊び人「はい、3G」
勇者はよみがえった!
戦士「まずい、次が来る!」
魔法使い「ちょっとまって!!防御力を今上昇させ……」
遊び人「相手も勇者一行よ!!気にせず突っ込んで!!」
勇者「おらぁああああ!!!」
勇者は戦士にぶつかった!!
戦士「ぐはぁ!!」
勇者「 」ポクリ
勇者は力尽きた。
遊び人「はい、3G!」
勇者「ぷは!」
魔法使い「まずい!回復を優先しないと!」
勇者「うおらあああ!!!!」
勇者は戦士にすてみでぶつかった!
戦士「ぐぉお!!!」
勇者は力尽きた。
戦士「はぁ……はぁ……」
74:以下、
遊び人「そこの戦士はなかなかレベルが高いようだからね!蘇生にも数千Gはくだらないでしょうね!!」
遊び人「私みたいに半永久的にお金を払い続けることなんてできないわ!!オホホホオホ!!」
遊び人は神官に3G払った。
勇者はよみがえった!
遊び人「さあ、やっておしまい!!」
勇者「ううぉおおおお!!!!」
勇者は戦士にすてみでぶつかった!
勇者は力尽きた。
戦士「ぐぁああああ!!!」
戦士に大きなダメージをあたえた!
遊び人「はい、3G!」
神官「はいはい」
勇者はよみがえった!
戦士「はぁ…!はぁ…!くそっ!!」
勇者「うおらあああああああああああ!!!!」
魔法使い「や、やめて!!!」
魔法使い「私たちは、精霊の加護を壊されているの!!」
遊び人「えっ」
75:以下、
ブオン――
勇者ははじかれた。
勇者は力尽きた。
「俺の仲間を傷つけないでくれ」
遊び人「(ブオン、って聞こえて剣を振りかざす効果音だと思ったけど)」
遊び人「(巨漢の人がお腹で弾いただけだった。それで私のパーティのリーダーは力尽きた)」
遊び人「あなたは……」
「大人しくついてきてくれ。さもなくば、蘇生後も苦しむほどに君の仲間を黒焦げにするよ」
遊び人「まさか」
「そう。元々は魔王討伐を目指して旅立った」
暴食「元、勇者だ」
暴食の勇者があらわれた!
76:以下、
暴食「僕らのことをこそこそ嗅ぎ回っていたようだね」
遊び人「(食べ物の臭いを嗅ぎながら寝転んで監視していただけだけど)」
遊び人「あの、私のパーティの勇者も蘇らせていいですか?」
戦士「さっきの男が勇者だったのか!どおりで勇敢な攻撃を!」
魔法使い「無謀というんじゃ……」
遊び人「はい、3G」
神官「おわりました」
勇者はよみがえった。
勇者「うおらあああ!!!」
勇者はすてみで走りだした!
遊び人「止まれ!!止まりなさい!!ドウ!!ドウドウ!!」
77:以下、
?富豪の館?
遊び人「本当だよ!この人には精霊が宿っていない!」
暴食「君は、精霊が見えるのか?」
遊び人「うん。精霊は勇者という職業の者に宿るでしょ。宿っている精霊を私は目視することができるの。その精霊の加護が及ぶパーティメンバーまではわからないけど」
勇者「精霊がいないのに、本当に勇者なのか?」
暴食「それを証明するのは簡単だ」
暴食の勇者は手をかざし、呪文を唱えた。
遊び人「おっ!」
小さな雷が宙に舞った。
暴食「勇者にしか使えない雷の呪文だ。ご存知だろう。今のは威力を弱めたが」
暴食「俺らの命は一度きり。死んだら終わりだ」
勇者「…………」
遊び人「…………」
勇者「あばばば」ジョボボボボ…
遊び人「おろろろ」ビチャビチャ…
勇者「さ、殺人者になるところだった……」
遊び人「殺人教唆の罪に問われるところだった……」
戦士「あれくらいで死にはせん!」
78:以下、
遊び人「あのぉ……」
勇者「これ、全部無料ですか?」
勇者達の前のテーブルには豪勢な食事が並べられていた。
遊び人「そこじゃないでしょ!」
暴食「気にせず食べてくれ。せっかくこうして出会った勇者仲間だ。君たちが処刑の王国の追手には見えないしね」
遊び人「でも……」
暴食「食べられることは、幸せだ。魔王を倒すことなんかどうでもいいと思えるくらいにね」ムシャムシャ
勇者「わかります。動物型の魔物を焼いて食ったことありますもん」
遊び人「うへぇ、あったね」
魔法使い「……まだいいわよ」
戦士「おい、魔法使い」
遊び人「?」
79:以下、
暴食「冒険者に食糧問題は付き物だ」
暴食「僕らも一度餓死して全滅したことがある。魔王城の近く、魔域の手前まで行き着いたときだった。近くに人間の住む町なんかなくて、ひたすら消耗に耐えるだけの日が続いた。その時は死の恐怖に怯えたよ」
遊び人「精霊の加護があるのに?」
暴食「肉体の損傷が激しいほど魂と肉体の結合が困難になり、復活後のペナルティーも大きくなるのは知ってるだろう?」
遊び人「ええ」
暴食「魔物に焼き殺されたり、体を粉微塵に吹き飛ばされて死んだことは無数にある。ただ、餓死して死んだことはなかった」
暴食「焼き殺された場合は、焼かれる前の身体で復活させてもらえる。ただ、餓死はどうなのかわからなかった。餓死する直前の身体で蘇らせられたところで、また数秒もしないうちに餓死してしまうんじゃないかと気が気でなかった」
暴食「そして、実際に餓死して全滅してしまったことがある。植物の魔物に身体を拘束されて、自殺すらできない状態で数日間も過ぎたんだ」
遊び人「でもあなた達は生きている」
暴食「蘇ったさ。でも、餓死からの復活による副作用は最悪だった」
暴食「肉体が復活するのは、餓死一歩手前の状態だ。骨と皮みたいな状態だった。そのまま復活してはまた即死してしまう。だから、精霊は俺が死なないように工夫をした」
遊び人「工夫?」
暴食「肉体にふさわしい大きさに魂を削ったんだ」
遊び人「どういうことですか?」
暴食「余裕がなくなるということだ。この贅肉みたいなものがなくなる」ブヨン
暴食「余裕がなくなると、荒むだろ?金があるものが盗人になんかなるものか。腕力があるものが子供を刺殺したりするものか。賢さを認められてきたものが人を騙したりするものか」
暴食「人間の心が少し失われた。以前ではためらっていたことも、平気で行えるようになった」
80:以下、
暴食「こんな冒険譚を小さい頃に読まされたことはなかったか?」
暴食「魔王を倒そうと旅している勇者の苦悩の物語。飢えに喘いでも食料を住民から分けて貰えない。魔物を倒しても魔物からの報復を恐れられ町を守り続けるよう拘束される。その特殊な力を調べようとする者達から人体実験をさせられる。旅が進むにつれて人間に対して憎悪を募らせていく話だ」
暴食「魔王城にたどり着いた勇者は、魔王を切りつける。人間の感情をほとんど失いながらも、勝利を噛み締めている時に、赤い返り血を浴びているのが目に入る。そして気づいた。魔王もかつては人間で、勇者と呼ばれる存在であったと。そして今や自分が人間への恨みを持つ、魔王となったのだと」
暴食「魔物を見て魔物に近づくんじゃない。人間を嫌って魔物に近づくんだ」
勇者「作り話じゃないのか?勇者だったら精霊の加護で蘇る。その元魔王も勇者だったのなら、近くの教会で復活したら騒ぎになるよ」
暴食「おとぎ話だからな。でもな、これらが全部創作であると思うか?」
勇者「何が言いたい」
暴食「大罪の装備で不健康な食料を提供しようが、俺らの心は痛まないってことだ」
勇者「…………」
81:以下、
暴食「ところで、さっきから食事に手をつけていないようだが。やはり気にめさんか」
遊び人「大罪の装備の影響がなくとも、敵の陣地に入り込んで安心して食べ物なんか食べられないわよ。何が入ってるかわからないわ」
暴食「まだ信用していないか。でも大皿だ。俺たちも同じ皿から飯を取って食っている。見た目で毒があるかわかるような食事でもあるまい」
暴食「お前らのそういう警戒心を読んで、席も先に自由に座らせた。食器に毒が入れてあると思われるかもしれないと思ってな」
魔法使い「そういうと余計怪しいと思われちゃうわよ」
暴食「怪しいと思われて良いだろ。実際、後ろめたいことばかり俺達は抱えているんだから」
暴食「だがな、うまいぞ?それに、食べてくれたら信頼してくれたとわかる。お互い口も軽くなると思うが」
遊び人「……でも」
暴食「毒が入っていると思ってるのか?だったらともに死ぬまでだ。はっはっは!」
魔法使い「相変わらずでしょ、うちのリーダー」
勇者「話題変わるんだけどさ」
遊び人「どうしたの?」
勇者「さっきのおとぎ話の魂の話聞いてたら怖くなっちゃって。俺の命の使い方大丈夫かな?人間の心失われたりしないかな?」
魔法使い「さっきの戦闘はやばい」
戦士「あれは問題だろ。というか切られる時痛いだろ」
勇者「それがさ、あんまり死の恐怖とか痛みの感覚がないんだよ」
暴食「それは精霊の加護のおかげだ。特にお前の場合、全然信頼がないんだろう。多少の痛手を負うだけですぐに棺桶に移される。すてみのとっしんだけで普通あの世行きになるものか。過保護なんだ」
勇者「過度に保護されてる結果すぐに死にまくってるってこと?」
勇者はこんらんした!
勇者「タベル!!」バクバク!!
遊び人「食の楽しみに逃避すな!」
82:以下、
暴食「ふはは。いいよな、食べ物は。忘却、逃避、そんなことにも使える」
暴食「暴食をして肥えてしまった人間は後ろ指をさされるが。暴食の代わりに自分を癒す方法がなかっただけなんだ。その者から暴食を取り払ったら、痛みを浴び続けるだけだ」
暴食「生きるために食べるという意味では、生きていくために必要最小限の食事を摂ることと、悲しみを誤魔化すために無駄に油の乗った食事を食べることは同じだろう?」
暴食「みんな忘れたがってるんだよ。食べたがってるんじゃない。食べるという生きていくために必要な正義の行為をしていることで、目を背けたい問題を先延ばしにすることを自分に許しているんだ」
暴食「自分には今色んなものがつきまとっているけれど、自分は今食事をしている。食事は絶対に必要な行為だ。そして幸せな行為だ。だから今、食べているこの時間は正しい。この時間だけは、あらゆる立ち向かうべき困難から目を背けても許される、とな」
暴食「そんなことを続けても、魂は全く肥っちゃくれないんだがね」
勇者「うめぇ!うめえなあこれ!」ハフハフ!
遊び人「(勇者も何かから逃避したがってるのかな……)」
83:以下、
魔法使い「はあ、また食事中に小難しい話してるよ」
暴食「食事の場でしか腹を割って話せないことがあるだろう」
魔法使い「腹を割ってくれるといいんだけどね」
勇者「うめぇ!!これもうめぇ!!」ガツガツ!
魔法使い「その前に腹を下しそうね」
遊び人「あなた達の目的は何?勇者として冒険していたはずなのに、この村に住んで、大罪の装備を利用して食料を作り出して」
魔法使い「聞き方が悪いわね。勇者として冒険していたけれど、魔王も無事他の勇者によって倒され、パーティメンバーと安住の地を見つけ美味しい食料を提供している、と考えてよ。もう充分な理由じゃない?」
遊び人「大罪の装備には代償が伴います」
暴食「寿命が縮むのだろう」
遊び人「それを知ってて!」
暴食「一度だけ、装備を身に着けたことがある。魔域にいた時だ。強大な魔物を一人で倒す時に、使用した」
暴食「一回の戦闘で寿命がごりごりと削られていく感触を味わったよ。この装備は寿命を食い物にしているんだとね」
魔法使い「ねえ、やっぱりあなたあの鎧を恐れているのね。近くに置いておきたくないのね」
暴食「…………」
戦士「僧侶殿のことと関係が……」
遊び人「僧侶?」
魔法使い「私は!!私はあの子の死を彼がいつまでも悼むのはおかしいと思うわ!!あの子が自ら生きることを拒否したんじゃない!!」
戦士「僧侶殿の信仰の問題だ!!生を放棄したかったわけではない!!」
魔法使い「何が違うのよ!!」
魔法使い「私達が、私達が生きるために……食べたのに……あの子は最後まで魔物を食べることを拒否して、餓死したのよ!!」
魔法使い「精霊の加護が破壊されていたというのに!!」
89:以下、
【TIPS?】
精霊の加護。
その存在に、魔王は頭を悩ませていたという。
人間最強の生物――勇者――であっても、戦闘能力は魔王に圧倒的に劣っていた。
形態変化を使うまでもなく、魔王は数々の勇者を蹴散らしていった。
しかし、勇者という職業の恐ろしさは、やり直しがきくことにあった。
勇者は学習する。
魔王の行動パターンを知り、対抗策を広大な人間の土地から集めてから何度も挑んでくる。
初期の魔王は単純な対応策しか持たなかった。
勇者を捕縛し、自殺を封じ、復活を阻止する。
しかし勇者はその対策も練った。
特殊な魔力を込められた毒薬を飲んでから戦いを挑み、魔王に監禁された場合に供え自動的に死ぬように備えた。
魔王が更なる対抗策を練っても、精霊の加護を持つ勇者一行(通常4人)は、繰り返しを基本に置いた戦略で戦いを挑んでくるため、為す術がなかった。
さらに、勇者のパーティー同士が繋がり、12人の勇者一行が魔王に立ちはだかったことまである。
その時、魔王は寿命を対価に第二形態にまで変身を遂げたという。
(勇者殺しの勇者、が現れたという噂が広まってからは、徒党を組むということもなくなってはいったが)。
繰り返しという勇者の特権に危機を覚えていた魔王は、本格的な対策を練り始めた。
90:以下、
【TIPS?】
魔王と四天王の協議の結果、3つの案に絞られた。
?魔王城の牢獄内に神官を置く。
?人間界にいる神官を殺害する。
?精霊を破壊する。
?のアイデアは最適に思えた。
勇者の復活時点は、死んだ瞬間から遡り、一度訪れたことがある居住地の中で最も距離の近い場所に存在する教会内の神官の目の前である。
魔王は、牢獄の中に勇者の復活地点をつくり、自殺を図ったとしても牢獄の中で復活するよう企てた。
しかし、これはできなかった。
神官という職業を侮っていた。
人間の神官そのものは、決して高尚な存在ではない。
盗みを働くこともあるし、貧しき女性を金で揺さぶることもある。
しかし、こと勇者復活に関しては、別の人格が宿るようだった。
神官は魔域の中のエリアを決して勇者復活の時点としてふさわしいと認めることはしなかった。
虫の息の勇者と神官に洗脳の呪文をかけても、無意味だった。
魔域は魔物の領域であり、人間の領域ではない。
人間の領域でしか神官の役目を果たすことはできない。
結局、魔王城から最も近い距離にある町の神官の前で復活してしまうのであった。
91:以下、
【TIPS?】
では、その町を攻略するのはどうか?
?人間界にいる神官を皆殺しにする、に絡めて検討をした。
勇者ほどではないにしろ、神官も選ばれたもののみなれる職業であった。
神官を皆殺しにすれば、精霊は神官を仲介にした勇者の蘇生ができなくなる。
少なくとも魔王城付近の神官だけでも殺すべきだと言われた。
しかし、人間も巧妙だった。
魔王の領域「魔域」があるように、人間にも人間の領域がある。
「町」「村」「里」「城下町」などである。
中でも、魔王城から最も近い距離でありながら、滅ぼされずに生き残り続けている町の守護は強力で、魔王でも攻略することが容易ではなかった。
感知呪文を使っても感知できない。
目の前にあっても気づかない。
気づくには「人間の心を得る」ことが必要だが、それは魔族としての誇りを捨てることであった。
魔王は当然これをよしとしなかった。
人間の領域を破壊することはできても、創造することは極めて困難であった。
92:以下、
結局、実際に実行され、劇的な効果を示したのが
?精霊を破壊する。であった。
精霊の加護に悩まされているのであれば、その精霊を殺してしまうという取り組みだった。
魔王は勇者との戦闘を通じてデータを蓄積した。
繰り返しによって成長していたのは勇者だけではなかった。
勇者が訪れる度に様々な魔法陣を敷き、精霊が救済に来た時の反応を確認した。
精霊の加護の流れは大まかにこのようなっている。
精霊は勇者の魂の中に宿っている
→精霊はパーティメンバーの魂を勇者の魂に常につなぎとめている
→パーティメンバーが死んだ場合、精霊は棺桶を放り投げる(肉体の保護)
→パーティメンバーが全滅した際、精霊は勇者の魂から飛び出し、メンバーを神官の元まで瞬時に運ぶ。
→神官は勇者の肉体を修復し、魂と結合させる
→勇者復活
パーティメンバーが全滅した瞬間、精霊は飛び出す。
その瞬間に精霊を殺害する魔法陣を、魔王は創り出した。
魔王に十数回目の勝負を挑んできた勇者がいた。
魔王は勇者を呪文で焼き尽くした後、目に見えない存在――精霊――がいつものように出現したのを感じた。
勇者の魂から飛び出し、塵となった勇者と、その仲間の遺体を神官の元に届けようとしたのだろう。
瞬時に移動する精霊よりも早く、魔法陣は発動した。
 「バリンィイインン!!」 
ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。
そして、勇者は蘇ることはなかった。
勇者の肉体から飛び出た精霊を破壊することを可能にしたのだった。
さらに、砕けた精霊の魔力をもとに、「魔剣」という1つの武器を創り出した。
これは、精霊を斬りつけることのできる武器である。
魔王は勇者を殺害できるようになった。
魔王軍は全盛を誇った。
魔王軍は世界を支配しつつあった。
しかし。
大罪の装備が世界に散らばった数ヶ月後に魔王は力を失った。
93:以下、
口論する戦士と魔法使いを遮り、暴食の勇者が僧侶の過去について語りだした。
暴食「魔王城の内部に侵入したことがあった。そして魔王の側近の一人と戦闘状態に入った」
暴食「側近は不自然に逃げ始めた。追いかけると、大きな広間におびき寄せられた。おそらく、魔法陣が見えないように敷いてあったのだろう」
暴食「本領を発揮した側近の呪文にやられ、僕らは全滅した。そして、通常通り教会で目覚めた。ところが、いつもと違う感触があった」
暴食「死の感触だ。日常だった『生』が突然日常ではないことに気付かされた」
暴食「恐怖で震えたよ。そして、初めて精霊を目撃した」
暴食「真っ白に輝く、ガラスのような生き物だった。眩しくて輪郭を捉えきれなかったけれど、羽根のようなものをパタパタと力なく羽ばたかせていた。俺は危機感を覚えて、急いで仲間を全員復活させた」
暴食「直後だった。ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。後に、魔族が敷いた魔法陣によって精霊が殺されたとわかった」
暴食「敵の魔法陣も完全には発動しなかった。おそらく、魔法使いが放った自己犠牲呪文によって、魔法陣が損傷していたのだろう。精霊は即死せず、僕らを神官の元に運んでから力尽きた」
暴食「何もかもが狂った気がしたよ。勇者としての特権を失い、勇者ではなくなった気がした」
暴食「呪文の威力も著しく落ちたし、意思の疎通も以前のようにうまくいかなくなった。精霊の恩恵は思ったよりも多かったことに失ってから気付かされた」
暴食「精神的にも、死んだら蘇れはしないだろうという確信が自分たちを臆病にさせた」
暴食「それでも僕らは魔域に再び進んだ。怯んでいる暇はなかった」
94:以下、
暴食「魔族が人間の町になかなか侵入できないように、僕ら人間が魔域、とりわけ魔王城に侵入することも困難なんだ」
暴食「どうしても進むのが無駄に思える道があるだろ?道と認識するのもバカバカしいと感じるような」
暴食「魔王城の入り口には同じ守護がが、とりわけ強力な力でかけられている。魔族の魂を持つものにしか関心が向けられないような工夫がね。魔王城が目と鼻の先にあっても、古びた井戸並の興味しかそそられない」
暴食「しかし僕は奇跡的に認知することができた。どうしてだと思う?」
勇者「……人間としての魂が、削られていたから」
暴食「そう。肉体の激しい損傷や餓死によるペナルティで魂が削られ、少しだけ魔族に近い人間になっていた。よく刑務所にいる罪人が魔域に迷い込んだことがあるとうそぶくことがあるみたいだけど、それはほら話ではないと思うよ」
暴食「側近は精霊の加護の破壊に失敗したとわかっていただろう。そして、大広間までおびき寄せて僕達と戦ったということは、魔法陣はそんなに容易につくれるものではないはずだ。だから僕達が再び侵入するまでに、魔法陣の修正を行う必要がある」
暴食「死の恐怖に怯えながらも、相手の準備が終わる前に魔王城への侵入を再度試みた」
暴食「魔王と戦闘する気など失せていた。だが、魔王が所持しているという精霊殺しの剣だけでも手に入れようとしたんだ。魔王だって、肌身離さず持ち歩いているわけじゃないからね」
暴食「けれど、手に入れることはできなかった。魔族の会話から知ったのは、既に精霊殺しの魔剣は何者かが魔王から奪っていたということだけであった」
暴食「魔王城から出ることを決めた時、側近と再び遭遇してしまい、退却。命からがら逃げ延びた」
95:以下、
暴食「困ったのが帰り道だった。これは浅はかだったんだが、魔王城の外側だけじゃなく、内側からも認知に対する防衛を施したようだった」
暴食「出口がわからなくなった。そして魔王城の中を歩き回っていると、入ってきたときとは異なる場所に出る扉を見つけた」
暴食「紫色の空に覆われた、砂漠のような場所だった。振り返ると魔王城は消滅していた」
暴食「人間の街に行こうと、移動の翼に念じても、効力がなかった。なんというか、空を飛ぶ想像を頭の中で虚しくしているだけという感触だけしかなかった」
暴食「食料も尽きかけていた。そこで僕たちは殺した魔物を食した」
暴食「ひどいものだった。魔域に巣食う魔物の味は生まれてから口に入れたもののなかで最悪だった。人間界にいる魔物とは比較にならない。吐き気を抑えて飲み込んだ。味こそ最悪だったが、空腹は満たされた」
暴食「人の形をした魔物もいたよ。他の魔物と違って、緑色の血液を有していた。僕と、戦士と、魔法使いは食した」
暴食「しかし、僧侶だけは食べようとはしなかったんだ」
96:以下、
暴食「ある日、魔法使いが倒れた。魔法使いを背負って歩いていた、戦士も倒れた。僧侶は不思議と、体力が残っているみたいだった」
暴食「僕は仮死草を二人に飲ませた。このまま2人を引きずって歩き続けるか、僕と僧侶だけ人間界に戻り、王国の力を借りて再度侵入するかどうか迷った」
暴食「だが、二人を置いて、僕と僧侶で王国に戻ってから、またそのエリアを探し出すのは不可能に思えた。それに、王国はどこも勇者に請求することが多すぎる。あの頃はとくにそうだった」
暴食「結局、僧侶が魔法使いを、僕が戦士をひきずっていくことにした」
暴食「装備も全て砂漠に捨てた。背負うのに重りは少しでも減らしたかった。魔物が現れたら一発でおしまいだ」
暴食「僕らが持ったのは、魔物の死骸と、毒草だけだ」
暴食「特殊な毒草で、口に含むと一時的に疲れを忘れさせてくれた。時間が経った後の疲労感は酷いものだったけどね」
97:以下、
魔法使いは泣いていた。
戦士は泣いている魔法使いをなだめた。
暴食「僕は最後の力を振り絞って、魔法使いと戦士をおぶってあるき続けた」
暴食「幸運なことに、青みががった人間界の空が見えてきた。その付近にまでいけば、移動の翼を使用できるはずだった」
暴食「しかし、最悪なことに、巨大な砂の魔物が現れた」
暴食「終わりだと思った。装備も全て置いてまるはだか。仮死状態の仲間が二人と、少し空腹の満たされた勇者が一人。勝ち目はなかった」
暴食「絶望していたその時、空から青白い光がそばに落ちてきた」
暴食「精霊を失った俺が、今度は何に選ばれたのかと思ったよ。最後の晩餐でも降ってきたのかとな」
暴食「ところがそれは、鎧だった」
暴食「俺は導かれるがままに鎧を身に着けた。そして、かつてないほどの食欲が沸いた。目の前の砂の魔物が、砂漠に埋まる魔物の骨が、地面に広がる砂までがごちそうに見えた」
98:以下、
暴食「気づいた時には、俺は巨大な砂の魔物を食していた。見上げるほど巨大だった化け物は、俺の胃袋の中に収まった」
暴食「魔物を食した俺は腹が満たされ、力がみなぎるのを感じた。同時に、命がすり減った気がした」
暴食「力の対価だったのだろう。鎧がまるで、俺の寿命を食ったとでもいわんばかりに喜んでいたように感じた」
暴食「魔物を食べ尽くした俺は、一瞬、二人の仲間を見た」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
暴食「恐ろしい考えに囚われたが、微かに取り戻した理性に従い鎧を脱ぎ捨てた」
暴食「魔物を倒した後、移動の翼を使用できる境界に入ることができた。そして高度な文明を持つ都に飛び、二人を無事復活させることができた」
暴食「そして、俺達は冒険を辞めた。使命感を失った」
冒険「かつて餓死しかけた時に寄り、ろくに助けてくれなかったこの村に居住をかまえた。大罪の装備の影響力を利用し、俺らは食物を育て、金持ちになり、空腹とは無縁の生活をおくることができるようになった」
冒険「これが俺たちの物語だ。魔王ではなく胃袋に負かされた惨めな旅だった」
遊び人「…………」
99:以下、
暴食「さあ、次はお前らの番だ」
暴食「大罪の装備とはなんだ?お前らの冒険の目的はなんだ?」
遊び人「それは……」
勇者「大罪の装備とは、人間の7つの欲望に基づく装備だ。大罪の賢者の一族が儀式によって創り出した、」
遊び人「勇者、話すつもり!?」
魔法使い「私達だって話したんだからいいじゃん!ねえねえ、7つの欲望って何?大罪の賢者って何よ?」
勇者「暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬の7つの欲望だ。それぞれの欲望に基づく装備品が世界各国に散らばり、その欲望にふさわしいとされる者に届くと言われている」
勇者「暴食の鎧は、あんたを持ち主に選んだんだ。もともと大食らいのやつに届くと思ったが、そうではないらしい。大罪の装備には何かしらの基準があるようだ」
勇者「大罪の賢者とは、非常に強力な呪力を持つ代償に、短命な寿命しか持たぬ一族だ。里の者は生まれながらにして賢者の職業であり、強力な呪力と引き換えに常に寿命を身体から漏らしている状態にある」
勇者「その一族が行おうとした儀式は、寿命の転移だった。ある者が持つ寿命を、他の者に移すものだ。ところがその儀式は何者かの手によって巧妙にねじまげられ、大罪の装備製作の儀式にとってかわられていた」
遊び人「勇者、駄目よ。話しすぎよ」
魔法使い「それでそれで?」
勇者「寿命の転移呪文の魔法陣は完全に書き換えられていたわけではなかった。より高度で、禁忌の領域に踏み込むものに書き換えられていた」
勇者「7つの大罪の装備は1つでも強力な力を持つ。けれど、それら全てを身に着けることで……」
遊び人「もうダメだってば!!」ガバ!
勇者「ぐむむ……」
遊び人「まさか、あんたたち!!」
暴食「毒を飲むなら一緒に飲むと言っただろう。食事の中に判断力を鈍らせる、真実草と呼ばれる毒草を入れさせてもらった」
100:以下、
遊び人「卑怯よ!!」
暴食「僕らも食したのだから同じだろう。それに、何もかも話すほど強烈なものではない。本来ならば泡を吹きながらでも舌の呂律だけをまわしつづけて、自分の出生から話すような強力なものだ。実際、俺も一箇所だけ嘘をつかせてもらった」
暴食「大罪の装備は7つ集めると何かが起きるのだな。そして、魔王を倒したものがいるとされる処刑の王国の者は大罪の装備を集めている」
暴食「処刑の王国の動きは確かに妙だ。魔王討伐後に、なぜか全国各地にいる勇者を呼び集めた。そして、王国に向かった勇者は二度と姿を現していない」
暴食「さあ、7つの装備を身につけると何が起こるのだ。答えろ」
暴食は勇者に迫った。
遊び人「駄目よ!!」
戦士は立ち上がり、遊び人を勇者から引き剥がした。
101:以下、
暴食「話せ。もう隠す必要はない」
暴食「全てを話せ」
勇者「大罪の装備は……」
遊び人「勇者、だめ!!」
勇者「大罪の装備は……どんなことがあっても……」
勇者「お前らから、奪い取るつもりだ」
勇者は思っていたことをそのまま口に出してしまった。
魔法使い「……そんなことばかり考えながら今日はここにいたってことね」
遊び人「勇者……」
暴食「あの鎧は渡さない。俺たちはこの村で、それなりの権力を手にしながら、今後も一生生きていくつもりだ」
遊び人「この村への食べ物の恨みを晴らしながら?」
暴食「食べ物の恨みは恐ろしいというだろう」
遊び人「…………」
暴食「だが、そうだな」
暴食「お前が俺より暴食にふさわしいことを証明できたら、大罪の装備を渡してもいい」
103:以下、
>>102
抜けてました。おみそれしました。
>>96と>>97の間
暴食「やがて、最後の食料も尽きた。魔物を食べないと言っていた僧侶用の食料も尽きた」
暴食「僧侶の体力も尽きた。魔法使いをおぶってあるくどころか、自分一人でもまともに歩けなくなっていた」
暴食「僧侶は、俺が戦士と魔法使いを背負って、歩き続けるように言った」
暴食「最後に彼女は、隠し持っていた食料を俺に差し出した。俺はそれを食し、いくらかの体力を取り戻し、2人を背負って歩き続けた」
暴食「僧侶は姿を消していた。最期の体力を振り絞って、俺から姿を隠したんだ」
104:以下、
魔法使い「何言ってんのよ!」
遊び人「勝敗はどう決めるの?」
暴食「断食で対決するんだ。より長い間食べ物の摂取を拒んだほうが勝ちだ。真実薬を飲めば、どれだけ断食できたか嘘は言えない」
暴食「君たちが勝利したら暴食の鎧をくれてやろう」
遊び人「私達が負けたら?」
暴食「真実薬を吐くまで飲んで貰う」
暴食「大罪の装備に、少し興味がわいたからね」
105:以下、
?二組のパーティが別れた後?
魔法使い「どういうつもりなのよ!!ただでさえ中毒性の高い食べ物をずっと食べてきたのよ?あいつらのほうがずっと有利よ!」
戦士「悪い冗談だと思ったぞ」
暴食「今日はたくさん真実薬を飲み込んだ。冗談で言っているわけではない」
暴食「俺は死なない。敵と毒を飲む覚悟で挑んだ。なんなら、餓死するまで耐えてやるさ」
魔法使い「本当に、何を考えてるのよ……」
暴食「僕が負けると思う?」
魔法使い「…………」
魔法使い「信じてるから、私たちは今日までついてきたのよ」
暴食「勝利を信じてもらえて何よりだ」
魔法使い「勝つかはわからないわよ」
暴食「えっ」
魔法使い「あなたが負けるならしょうがない。私にとっての信頼はそういうものなの」
暴食「そうか。そっちのほうが嬉しいよ。でも大丈夫だ。食に関して、僕は誰にも価値を譲るつもりはない。それが、食をしないということであっても」
戦士「話は戻るが、一つ聞きたいことがある」
戦士「あの勇者たちに嘘をついたといっていたが、どこだったんだ?全部真実を話していたように聞こえたが」
暴食「…………」
暴食「君たちにも内緒だ」
106:以下、
遊び人「どういうつもりなのかしら!断食で勝負だなんて。あんなこと言って、私たちを弱らせて自分たちだけはご飯を食べるつもりじゃないかしら」
勇者「やつらのほうが圧倒的に戦闘能力が高い。まともに剣技で対決したほうが明らかにこちらに分が悪いのに、あえてあんな勝負をもちかけてきたんだ。何か意味があるんだ」
遊び人「そうはいっても、勇者もどうして乗ったのよ!!負けたらあいつらに大罪の装備の在り処を全て吐いてしまうのよ!」
勇者「食べてはいけないものを食べたら吐いてしまうのは真実草を食べているときに限らない」
遊び人「本当に、何考えてるのよ」
遊び人「本当に……」
遊び人「…………」
遊び人「真実草、まだ利いてるのよね?」
勇者「そうだと思う。自分に実感はないけど」
遊び人「あのさ。私が死んでた三日間、どんな贅沢したの」
勇者「霜降り肉を食べてた。バニーガールのダンスを見ながらね。いやぁ、復活させるのが遅くなってわるかった」
遊び人「…………」
遊び人「そう。よかったわね。おやすみなさい」
109:以下、
?断食1日目?
暴食「あそこの区域にいる家畜は隣の村に出荷してくれ。移動のための魔物使いを一人手配しておいた。それから……」
…………
戦士「勇者、仕事をして無駄な体力を使うと賭けに不利になるぞ」
暴食「食を欲する気持ちという点では巨漢はふりだけど、生き延びるという点では圧倒的に有利だよ」
暴食「より食事の必要ないものに食欲があり、より食事が必要あるものに食欲がないのはなんとも皮肉なことだと思わないか」
戦士「そういうことにも頭を使うと余計エネルギーがなくなるぞ」
暴食「食べるということについて考えるのが好きだ。そのために食べているといっても過言ではない」
110:以下、
勇者「……zzz」
勇者「……zzz」
勇者「……zzz」
遊び人「全力でエネルギーを節約する気だよこの人。朝から晩まで宿屋で寝る世にも珍しい冒険者だよ」
遊び人「食べて寝ると牛になるっていうけど、牛のように寝て食べないつもりだよ」
遊び人「ううー、宿代稼ぐために働かなくちゃ!!遊び人なのに?!!」
111:以下、
?断食2日目?
暴食「ふぅー、今日も一仕事した」
戦士「勇者、仕事は休めといっただろ」
暴食「気が紛らわせるからかえっていいんだ」
戦士「手が震えてるな。ただの食欲だけでなく、大罪の装備の影響を受けた食料を食べられなくなって、禁断症状がでているんだろう」
暴食「一度悪事に染まった男が正義に寝返ると死ぬのと似ているな」
戦士「またわけのわからんことを。無理してると身体を壊すぞ」
暴食「なぁに。魔王の手下と戦うわけでもない。こんな勝負朝飯前だ」
戦士「朝飯すら食べることのできない勝負なわけだが」
暴食「無理をするなというならこっちのセリフだ。戦士も俺にあわせて断食してるだろ」
戦士「……お見通しであったか」
暴食「その気持だけで胸がいっぱいだ」
戦士「でも腹は空っぽか」
暴食「はは、よしてくれ」
112:以下、
遊び人「やばいこのアイスクリーム!!口の中でパチッシュワって!!はじけるうまさ!!」
遊び人「野菜も、その野菜を食べた牛もめっちゃうまい!!」
勇者「…………」グゥ~…
遊び人「あっ、起きてたんですか勇者様。お見苦しい所お見せしました」モグモグ
遊び人「ううー、ほっぺが落ちるうぅううう!!」
勇者「…………」グゥ…
勇者「あのさ……」
遊び人「はい」
勇者「なんか頭の中がお祭り騒ぎみたいな感覚であんまり記憶ないんだけど。あの日の夜の俺って、変なこと言ってなかった?なんか、贅沢してたとかなんとか……」
遊び人「自分の腹に手をあてて聞いてみればどうですか?」
勇者「…………」プヨン
勇者「ちょっと肥ったかも」
遊び人「これから痩せるといいですね」
勇者「どうしてさっきから敬語なの?ちょっと怖いんですけど」
遊び人「心配ご無用。大丈夫、あなたは賭けに勝ちますよ」
勇者「うん……応援してくれるんだ……うれしいなぁ……」
遊び人「私が食べさせませんもの」
勇者「…………」
113:以下、
?3日目?
遊び人「暴食の勇者も外であまりみかけなくなったな。つらいんだろうか」
遊び人「勇者のこともさすがに心配だな」
コンコン
遊び人「入るよ?」
勇者「…………」
遊び人「寝てる?」
勇者「起きてる」
遊び人「体調、大丈夫?」
勇者「わからない。でも、なんていうかな」
勇者「懐かしいんだ、この感覚。遊び人と出会う前、一人で冒険してた時に俺も飢えてた時期があったんだけど」
勇者「何も食べないと、俺の場合は足が痺れるんだった。身体の中で生まれ変わるべきものが生まれ変わっていないというかさ。蓄積した痛みが流れてくれないというか」
勇者「お腹が空いたら、お腹が苦しいんじゃないんだな。空腹なのに食べ物がないと思う、心が苦しいんだな」
遊び人「勇者……」
114:以下、
?6日目 夜?
遊び人「もうだめ!もうだめよ!いつまで二人とも続ける気よ!!」
遊び人「勇者の胃袋にご飯を詰め込まないと!」
遊び人「こんな賭け事おかしいわよ!!魂が削れるとか削れないとか以前に、こんなの生きた拷問よ!!」
遊び人「暴食の鎧は頑張って盗めばいい!!」
遊び人「勇者、入るからね!!」
ガチャ!
遊び人「…………」
遊び人「いなくなってる」
遊び人「夜食でも、こっそり食べに行ったのかな。私も小さい頃によくやったなぁ」
遊び人「…………」
遊び人「いいのよ、それで」
遊び人「生きるために食べるか、食べるために生きるか、か」
遊び人「食べるために生きてると思う瞬間が、生きてる中にはきっとあるよね」
遊び人「私もお腹空いたな。甘いものでも食べに行こっと」
115:以下、
痩せた勇者と、痩せた暴食は森のなかで遭遇した。
暴食「こんな夜中にわざわざここまでくるとは。こっそりきのみでも食べに来たのかな。それとも、鎧を盗みに来たのか。残念ながら、もうここにはないぞ」
勇者「…………」
勇者は首を横に振った。
暴食「そういうことを疑って、俺が待ち伏せてるんじゃないかと思って会いにきた、というように解釈してやろう」
勇者は首を動かさなかった。
暴食「いずれにせよ真実草が真実を吐くさ」
116:以下、
暴食「思い出話をしてもいいか」
暴食「俺は子供の頃、腹が減るということがどういうことかわからなかったんだ」
暴食「食欲、という感覚がまったくわからなかった。恵まれた地域で生まれて当たり前のように3食食べてきたというのもあるが、俺の体質の問題でもあったのだろう。勇者に生まれついたこととは全く関係なしに、俺固有の体質だ」
暴食「周囲の子供がお腹が空いたと言っていることの意味がわからなかった。どういうことか聞いてみても、お腹が痛いという精一杯の答えしか返ってこなかった。それから俺はお腹が痛くなると、お腹が減ったと親に言うようになって、飯を出されるという笑い話のようなことがあった」
暴食「お腹が空くという感覚を徐々に理解しはじめ、勇者として旅立ってからも、時々わからなくなった。戦士や魔法使いが文句を言う中、俺は空腹を多少感じながらも飯を食べたいという気持ちにはあまりならないことがあった。僧侶も、一度も不平を言ったことはなかったがな」
暴食「食べてる間にはわからない食べるということの意味を、食べない今になって思い出したよ」
暴食「いつもあって当たり前だったものがなくなってから理解できるのが人だ」
暴食「食事はまだいい。いただきます、ごちそうさま、という呪文があるから人は食事のありがたみを日頃から忘れないでいられる」
暴食「いつもいて当たり前の存在にはなんと言えばよかったのだ。おはようも、おやすみも、とても足りる言葉じゃない」
暴食「俺は、愛しているなんていう言葉を、最期の時まで使う勇気が出なかった。勇者と呼べる男では、なかったんだ……」ポロポロ…
暴食「僧侶……あと1日だけ……違っていたら……。お前はどうなっていた……二人とも生きていたのか、それとも死んでいたのか……。その死は、今の俺の命より劣る価値のものなのか……」
暴食「俺は、何のためにこれからも食べ続けなければならないのだ……」
117:以下、
暴食は涙を流した。
勇者は乾いた手を肩に置いた。
痩せた顔をあげた暴食の勇者に言った。
“はら へったな”
そして、ひどく咳き込んだ。
暴食の勇者は、勇者の酷いかすれ声にほとんど聞き取ることができなかった。
暴食「お、お前!!」
暴食「水すら、飲んでいなかったというのか!!」
118:以下、
?暴食の勇者の館?
戦士「ひとまず水を飲ませて寝かせておいた」
遊び人「勇者!!」
勇者「……よっす」
遊び人「ほら、支えてあげるから起き上がって」
遊び人「スープにパンをひたした食べ物だよ。よその国の素材を取ってきたの」
勇者「…………」
遊び人「食べて」
勇者「…………」
遊び人「食べなさい」
勇者「…………うん」
勇者「……いただきます」
119:以下、
勇者「…………」ゴックン
勇者「……ああ」ポロポロ……
勇者「……あぁ……あぁ……」
勇者「なんだよ、なんだよこれ……」
勇者「うめぇ……」ポロポロ…
遊び人「よかったね」
勇者「ううう……ひぐっ……うめぇよお……」
勇者「うわぁあああんん……」ポロポロポロ……
120:以下、
魔法使い「ほら、勝負はあなたの勝ちよ。よく耐えたわね。食べなさい」
暴食「…………」ゴクリ…
暴食「うぅ……あぁ……」
暴食「うぐ……」ポロポロポロ……
魔法使い「あれだけ暴食の装備の影響を受けた食物を食べてた男が、よその村の普通の食事を摂りたがるなんてね」
暴食「あぁ…あぁ……」モグモグ
魔法使い「そして、魔物に八つ裂きにされても泣かなかった男が、ご飯を食べて泣くなんて」
魔法使い「僧侶。あなたの勇者は、今も勇者のままでいるわよ」ボソ
121:以下、
勇者「……よし。もう行こう」カチャリ
遊び人「どうしたの?まだ全部食べてないじゃない。ゆっくりでいいよ」
勇者「勝負に負けたんだ。大罪の秘密を全て話すわけにはいかない。館の外に出て移動の翼を使用するんだ」
サッ…
暴食「空から降り注ぐ雷撃の呪文を使用する勇者を相手に、そんな愚かな逃亡を図ろうとする勇者がいるとはな」
遊び人「暴食の勇者!」
暴食「同じ釜の飯を、拒んだ者同士」
暴食「腹を割って、話をする時が来た」
122:以下、
?数日後?
魔法使い「ああーおながずいだよぉ……」ブルブル…
戦士「まったくだ」
暴食「清き泉の里がこの森の奥にあるという。もう少し探索してみよう」
魔法使い「もう近くの町に戻ってご飯食べようよ?。暴食を楽しもうよ?」
暴食「それでもいいが。せっかく昔みたいに痩せてスリムになったのに、もったいないなぁ」ボソ…
魔法使い「…………」
魔法使い「も、もう少し探索をがんばりましょうか」
123:以下、
戦士「なあ勇者」
暴食「何だ」
戦士「どうしてあいつらに大罪の装備を渡してしまったのだ」
暴食「これで聞かれるのは10度目くらいじゃないか。言っただろう」
暴食「あんな危険なものを持ち歩きながら旅には出たくない。装備の魅力に取りつかれ、いつ身に付けてしまうかもわからない」
戦士「それは奴らも同じでは」
暴食「あいつらは大罪の装備を封印する壺を持っている。壺の中にある物は魔力を外に漏らさない。俺も目の前で確認した。明らかに壺より大きい装備が中に吸い込まれ、存在を一切消したかのように収まった」
戦士「だったらあの村のどこかに隠しておけばよかっただろう」
暴食「俺はもう、あの装備の影響で、人の寿命を食らう食物が出ることを望まなくなったんだ」
戦士「…………」
暴食「削れた魂の欠片を、今回の1件で少し取り戻すことができたらしい」
暴食「それに、あいつらも言っていただろう。あの村から今すぐ逃げ出せと。大罪の装備を目当てに必ず処刑の王国の者が訪れると」
暴食「縁を切ったほうがいいものなのだ。俺達は空腹に喘ぎながら、こうして旅をするのがお似合いなんだ」
暴食「そうさ。俺はもう一度、こうやって、お前らと冒険がしたかったんだ」
124:以下、
魔法使い「……くくっ」
魔法使い「……ぷはっ!」
戦士「……くく。はは!」
魔法使い「あははは!!!」
暴食「な、なにがおかしい!」
魔法使い「こんな巨体の勇者一行なんている!?」
戦士「以前、例の勇者が面白い独り言を言っていた。世界を救った勇者が巨漢でも、世界は讃えてくれるのかと。石像は痩せた形でつくられるんじゃないかと」
暴食「あいつもよくわからないことを考える」
魔法使い「でも気になるんでしょう?私達さ、あいつらの冒険についていかなくてよかったのかな。それなりに戦力にはなれたと思うけど」
暴食「あの者たちは二人でパーティを組んでいる。4人まで精霊の加護を受けられるというのに」
暴食「俺達のように、何かしら事情があるのだろう」
125:以下、
暴食「そんなことを話している間にだ」
魔法使い「わぁ!!泉がある!!喉乾いた!!」
戦士「俺もだ」
ゴクゴクゴク……
戦士「あー、生き返る」
暴食「戦士。俺がどうしてあいつらに大罪の装備をわたしたか、別の方法で説明できそうだ」
戦士「どういうことだ?」
暴食「水を飲んでくれ。飲める限界まで」
戦士「まあいいが」ゴクゴク…
126:以下、
戦士「……ふぅ。もう飲めん」
暴食「よし、ではもう一口飲んでみろ」
戦士「馬鹿にしてるのか!」
暴食「いいから、飲んでみろ」
戦士「まあ飲めんこともないが……よし」
ゴクゴク…
戦士「うう……」
暴食「もう一口だ」
戦士「……吐く時は勇者の頭から吐いてやるからな」ゴクゴク…
戦士「ぷはぁ、もう無理だ……」
暴食「もう一口」
戦士「今度こそ本当に無理だ!」
暴食「そうか。悲しみを受け入れている状態もそれと似ている」
戦士「はあ?」
暴食「最期の一口の前に、たまたまあの勇者が訪れただけだ」
暴食「俺はあの勇者と遊び人に救われたんじゃない。あの二人が訪れた時、たまたま俺は時の流れによって救われつつあった。そして最期のひとくちを飲み終わり、大罪の装備を手放した」
暴食「時は最良の薬。良薬は口に苦し。と、言うだろう」
暴食「冒険に挫折した時から流れていた時間は苦く苦しいものであったが、俺の乾きもいつのまにか救われていたということだ。まさに最期の5日間、俺は最良の薬を食べ続けていたわけだ」
戦士「勇者、お前は僧侶のことを、やはり……」
魔法使い「ねえねえ!あっちに木の実が生えてるよ!!食べてみようよ!!」
暴食「痩せるんじゃなかったのか」
魔法使い「一口だけ!」
暴食「本当に一口でやめられたら、俺は奇跡を信じるぞ」
キィィイイイン――――
暴食「うぐっ……!」
127:以下、
戦士「大丈夫か勇者!」
魔法使い「どうしたの!?」
暴食「今、耳鳴りが聞こえたような……」
戦士「耳鳴り?」
魔法使い「感知呪文?でも私たちには何も…」
ヒューーーーーー……
魔法使い「……なに、この森がざわつく感じは」
戦士「構えろ。何かが来るぞ!」
「こんな森の奥にいるなんて。おかげで見つけるのにだいぶ手間がかかったよ」
「感知呪文の対象を勇者に絞った。だからお前らのような、選ばれなかった存在には当然ひっかからない」
戦士「誰だ貴様は!」
「醜かったなぁ。あの村の連中は、どいつも、こいつも、醜い身体をしていた。全員殺してやろうかと思うほどにね」
「君達もだ。君も、君も、君も。全員、肥えた豚みたいな身体で生きている。そんな身体で勇者を名乗るのは、他の勇者に対する侮辱だ」
魔法使い「な、なによこいつ……!!」
戦士「貴様は誰だと聞いている」
「今は、こう名乗っておこう」
「勇者を、殺す者だと」
戦士「勇者、下がっていろ!!」
戦士「処刑の王国の手先め!!!」
戦士が切りかかった。
「手先じゃないんだけどなぁ」
謎の男は手の平をかざした。
戦士「うぉおお!!!」
魔法使い「戦士、気をつけて!!」
男はため息をついた。
男の手の平から、風の刃が飛び出した。
戦士「ぐぁあああああ!!?」
「剣を抜くのもめんどうだ」
魔法使い「今のは!!呪文の詠唱に唇を動かしていないわ!!」
魔法使い「無口詠唱(むこうえいしょう)!超上級魔術よ!」
128:以下、
魔法使い「戦士、私の後ろに下がって!!」
魔法使い「『火の中で踊りし精霊よ。冷たき魂の持ち主を焼き付く……』」
魔法使いが詠唱を始めると、男が杖を振った。
魔法使い「んー!んー!」
「口も開かなければ少しは痩せるだろ」
暴食「目的はなんだ」
「心当たりがあるだろう」
暴食「腹を探るのはやめてくれないか」
「そんな醜い腹、探りたくもないね」
「裂いてやる」
129:以下、
戦士が蛇のような動きで近づいた。
戦士「喰らえ!」
男は魔法使いに手をかざした。
魔法使い「『焼き尽くし給へ!!』」
魔法使い「!?」
中断していた呪文が強制的に発動され、火の玉が戦士に浴びせられた。
戦士「ぐぉおお!!!!!!」
魔法使い「戦士!!!」
処刑人「ははは。仲間割れでも起こしたのかな?」
130:以下、
また誤字…謎の男は処刑人(仮)という認識で。
131:以下、
数分の後。
あたり一面の木は倒れ、焼け焦げていた。
戦士と魔法使いは倒れ、暴食の勇者がぼろぼろの姿で立っていた。
暴食「なんてやつだ……最大雷撃呪文が効かないなんて……」
「噂には聞いていたけど、精霊の加護を壊されているんだろう。勇者としての特権をほとんど失ったようなものじゃないか」
「俺がそこにいる仲間を殺してしまうかもしれないよ?そろそろ装備したらどうだ?」
「選ばれたんだろ。暴食の鎧に」
暴食「なるほど、それが目当てか」
「どこにある?」
暴食「……食べちまったよ。デブだからな」
「だったら、全部吐き出しやがれ!!」
男は暴食の勇者を戦闘不能にさせた。
処刑の王国に連れ去り、拷問を加えた。
暴食の勇者達は、全滅してしまった。
132:以下、
遊び人「どう、かな?」
勇者「おお」
勇者「おお、おお!」
遊び人「なによ」
勇者「おお、おお」
遊び人「おおってなによ!はいかいいえでいいから答えてよ!」
勇者「はい!はいはい!!」
勇者「似合うじゃん!!」
遊び人「えへへ、どうも」
遊び人 E 皮のドレス(Sサイズ)
133:以下、
遊び人「ふんふーん。こんなおしゃれな装備着て冒険できるのいいなぁ」
遊び人「ふふふんふーん」
勇者「楽しそうで何よりだ」
遊び人「あのさ、勇者」
勇者「ん?」
遊び人「今回さ、ご飯我慢してまで戦ってくれてさ……」
遊び人「その、あ……」
勇者「あ?」
遊び人「あ、えーと」
遊び人「あ……」グゥ?
勇者「ぐふっ!」
遊び人「…………」
遊び人のこうげき
勇者に5のダメージ
勇者「いって!!」
遊び人「お腹鳴ったくらいで笑わないでよ!」
勇者「だからって殴るこたぁないだろ!」
遊び人「虫の居所も悪くなるわよ!」
勇者「それは腹の虫かな?」
遊び人「……こんの馬鹿勇者!!!」
あ、から始まる言葉は、いつも言いづらい。
134:以下、
【暴食の勇者の思い出】
?旅の途中の思い出?
戦士「またこの乾いたパンもどきか」
暴食「値段が安い。腹にもたまる」
魔法使い「テンションあがんないわー。あんたも抗議しなさいよ」
僧侶「ふふ、私はこれでかまいません。修道院にいた頃も、食事は質素でしたから」
魔法使い「僧侶がそんなんだから、うちらの勇者は食費を全部武器と防具にまわすんだよ」
暴食「必要最低限に全てを振り分けてるだけだ」
暴食「宿も道具も武具も食事も、全て生きるために必要なものだ。それ自体が目的となってはいけない」
魔法使い「はいはい。大人しく食べるわよ」ボリボリ…
僧侶「いただきます」モグモグ
135:以下、
?魔域の思い出??
暴食「戦士と魔法使いに仮死草を飲ませた。俺が戦士を背負うから、僧侶は魔法使いを背負ってくれ」
僧侶「わかりました」ニコ
暴食「…………」
暴食「お前はいつもそうだな」
僧侶「なんでしょう?」
暴食「何も文句を言わない。黙って受け入れる。腹が減ったとすら言わない」
136:以下、
暴食「お前は不思議な存在だ」
僧侶「天然ですか?天然って言われるのは僧侶の宿命です」
暴食「まぁそれもあるんだが」
僧侶「やっぱりありますか」
暴食「お前は不満を言うべきところで言わない。僧侶という職業のものはみんな、不満を吐くべきところで吐かず、悲しむところで何ともないような表情をする義務でもあるのか」
僧侶「人それぞれだと思いますが。あっ、あの紫色の雲、鳥の形みたいですね」
暴食「そういうところだ。わざとらしい。人間らしくしてみろ」
僧侶「人間らしくですか」
暴食「何でも言ってみろ」
僧侶「お腹がすきました」
暴食「焼き焦げたからすの死骸ならある」
僧侶「食べていいんですか」
暴食「魔物の肉もあるが、魔物は食べないんだろ」
僧侶「食べますよ」
暴食「なんだと?」
僧侶「戦士さんと魔法使いさんの体力の減りのほうが早かったものですから。私が食べる分を少し減らそうと思ったんです。魔物の肉はそれなりのエネルギーをたくわえていますし」
暴食「僧侶という職業だから、魔物を入れることに信念上の抵抗があったのかと……」
僧侶「前線で戦う仲間を後ろからただ癒やすだけ。それが僧侶の務めで、できることの限界ですから」
137:以下、
暴食「魔物の肉だ。魔法使いの火で炙ってあるから、食べても腹はくださない。多分」
僧侶「では、ありがたく」
僧侶「いただきます」
僧侶は魔物の肉片を口にした。
暴食「どうだ感想は」
僧侶「…………」
暴食「はは、なんだその苦そうな顔は」
僧侶「私は我慢して動物の死骸を食べていたつもりでしたが、みなさんも中々魔物を食すのに我慢されていたようですね。戦士さんの表情を見てある程度察していたつもりでしたが」
暴食「やっぱり我慢してたんじゃないか」
僧侶「食べられるだけでありがたいことです」
暴食「俺はくそまずいと思うだけだがな」
僧侶「そうですか」
138:以下、
暴食「まずいって言ってみろって」
僧侶「言いたくないことはいえません」
暴食「僧侶だからか?」
僧侶「私だからです」
暴食「死ぬまで不満を言わないつもりか?こんな勇者について来たくなかったって言ってみろ」
僧侶「今日は一段と機嫌がわるそうですね」
暴食「そうだね。でも安心していい。間もなく僕も餓死するだろう。だから、僕への恨みを言うんだ」
僧侶「思ってもないことは、なおのこと言えません」
暴食「本心をさらけ出す相手がいないことは不幸な人生だと思わないか」
僧侶「本心をさらけ出してまで嫌われたくない相手がいる人生は幸せだと思いますよ。本心をさらけ出せることが幸せなことであればこそ」
暴食「……説教がましい僧侶だ」
僧侶「それも僧侶の務めです」
139:以下、
理解してくれる人がいるのなら、他(タ)の人にはむしろ誤解された方がいい。
?魔域の思い出??
僧侶「……勇者様」
暴食「喋るな。酷い掠れ声だ。無駄な体力と水分を使うな」
僧侶「ついに、立てなくなりました。私を置いていってください」
暴食「それはできない」
僧侶「かっこうつけないでください」
暴食「違う。俺も立てなくなったんだ。戦士のやつ、装備を外しても重すぎる。これならもっと飯を節約したほうがよかったくらいだ」
僧侶「そうですか。それじゃあ戦士さんに加えて魔法使いさんを背負っていくことはなおのこと無理ですね」
暴食「ああ」
僧侶「だったら、一人であるき続けて下さい。4人がいなくなるより、1人が生き残るほうが良いでしょう」
暴食「無慈悲な僧侶だ」
僧侶「悲劇が起こった際に『神などいない』と言う者が多くいます。しかし、これはおかしな話です。もしも慈愛や道理や成就した願いで満ちたこの世界であったなら、人が神を信仰することはなかったと思うのです」
暴食「……以前のお前なら決して言わなかったような言葉だな。信仰を捨てたか」
僧侶「いえ、布教活動です。神などいないと嘆きたくなる世界だからこそ、人は神を信仰するのです」
暴食「俺は改宗する気はない」
僧侶「そうですか。嫌なら1人で去ってください」
暴食「無理だ」
僧侶「もしかして、一人でも立てませんか」
暴食「それくらいの体力は残ってる。だが、お前と二人じゃなきゃ立てないんだ」
僧侶「…………」
暴食「勇者という職業の信仰上の問題でな」
140:以下、
暴食「俺の両親を殺した恨みを糧に、今まで魔王討伐の冒険をしてきたが」
暴食「糧にするものを間違えたな。こんなことなら、お前らと、もっと美味いものでも食べておけばよかった」
僧侶「魔族に大切な存在を殺されたのはあなただけではないですよ。ここまでたどり着けたのも、あなたが必要なことだけを選んでくれたからです」
暴食の勇者は短剣を腰から抜いた。
暴食「こんな食えないものなんかに金を使うんじゃなかった」
暴食「俺らは、空腹に殺されるんだ」
暴食は諦めたように目を瞑った。
僧侶「…………」
僧侶「……私は、食料をずっと持っていました」
暴食は起き上がった。
暴食「なんだと!?」
僧侶「みなさんの命を救ってまで、私はこの食料を差し出すつもりはありませんでした」
暴食「自分のために隠し持っていたのか?」
暴食は裏切られた思いがした。
僧侶「でも、あなたは無意味なことをしてくれました。自分だけなら助かるかもしれないのに、一緒に残るという、愚かな選択をしました。あなたは命を差し出してくれたんです」
暴食「さっきから何をぶつぶつ言っている!早く出すんだ!」
暴食の勇者は僧侶を見た。
ぼろぼろの服に、痩せた身体に、ペラペラの道具袋がひとつ。
暴食「……僧侶、気でも触れたか」
隠し持つことなど、できるわけがなかった。
暴食は絶望し、再び横になり目を閉じた。
僧侶「喉とお腹を満たしたあなたは力を取り戻し、2人を背負って外まで再び歩き出すのです」
僧侶は1人、語り続けた。
確信した目を以て。
141:以下、
?魔域の思い出??
暴食「…………」
僧侶「…………」
暴食「…………」
僧侶「…………」
暴食「…………」
僧侶「…………」
暴食「…………」
僧侶「…………」
僧侶は何か言いたげに、力なき手を動かした。
暴食「……どうした」
僧侶は掠れた声で言った。
“い き て”
指先で暴食の勇者の唇にそっと触れた後、自身の身体を指差した。
そして、力尽きた。
暴食は、妄言だと思っていた僧侶の言葉の全てを理解した。
これから引きずっていかなければいけない仮死状態の仲間が二人。
命絶えた仲間が一人。
喉の渇きと空腹に飢え動くことのできない自分。
喉の渇きと空腹さえ満たせば動き出すことのできる自分。
一人の勇者はこの日、勇者であることを辞め。
人間であることを辞めた。
暴食の勇者の前に大罪の装備が現れるのは、それから1日後のことだった。
142:以下、
暴食の勇者達 ?fin?
143:以下、
『英雄色を好む』
性欲のことを”色欲”という言葉で表すこともあるように、性は色で表現できる。
例えば
「愛する者との性の営みは神様からのプレゼント」
ということを表現したければ、2つの色を混ぜれば良い。
1つの色ともう1つの色が混じり合うことで、新たな色が生まれる現象は、2人の男女が重なることで新しい世界が開けるのに似ている。
ヴァージンロードで花嫁が着ているのは、純白のドレスだ。
自分の色を1つの色と混ぜる覚悟の表現だ。
1人と1人が出会うことで、新しい快楽や幸福感が生まれるだけでなく、それこそ、子供が誕生する。
「不特定多数との乱れた性欲は邪(よこしま)だ」
ということを表現したいなら、多数の色を混ぜればいい。
摩擦を繰り返した性器のように色は黒く染まるだろう。
恋愛が桃色で。
愛情が薔薇色ならば。
性欲は、何色か。
一つだけ、わかることは。
どうやら英雄は、邪な色であるということだ。
【第2章:色欲の谷 『快楽を刺激する鞭』】
とある勇者は、モテたくて、強くなった。
144:以下、
遊び人「キャー!!!なに脱衣場に来てるのよ!!覗き!!最低!!!」
遊び人「しかも私の脱いだ服持ってるじゃない!!服泥棒!!変態!!」
勇者「ち、ちがうんだ!!さっき買ってきたバニースーツを置いただけなんだ!」
勇者「強制的にバニースーツしか着れない状況を生み出そうとしただけで、覗きでも服泥棒でも……」
つうこんのいちげき!
勇者に45のダメージ!
勇者「かはっ……」
遊び人「世界を救う勇者を名乗る者が、こんな変態で許されると思ってるの!」
勇者「英雄色を好むというだろ?これは俺の英雄である証明でもあるわけで……」
遊び人「だったら絵の具でも食べてなさい!!」
遊び人は化粧用の染料を勇者の口に突っ込んだ。
勇者「もががが……」
遊び人「そんなにバニーガールが好きなら、そういうお店でもなんでも行けばいいじゃない!!」
145:以下、
勇者「お、おはよう」
遊び人「…………」
勇者「街の人に聞いたら、目的の谷は近いそうだ。今日一日歩けばたどり着くって」
遊び人「…………」
勇者「き、昨日は俺もどうかしてたんだって。ちょっと夜外を歩いてたら、旅の商人がいたものだから。気になってみてみたら、それはそれは艶やかな……」
遊び人「…………」
勇者「冒険に出発しようか!!」
勇者と遊び人は途中で立ち寄った町を後にし、谷を登り始めた。
1日中無言であるき続け、日も傾いた時。
谷の中にある、歓楽名所にたどり着いた。
146:以下、
案内人「あおっ///あおんっ!!よ、ようこそ///」
案内人「ここは、おおん!今では///『色欲の谷』と呼ばれているほど、おませな場所だよ///おおん!!!」
案内人「ここでは他人に危害を加えない変態行為や、お互いの合意に基づくありとあらゆる性的な行為が許されているよ!!おんっ!!」
案内人「男だけのパーティや、変態的な欲求を持つ金持ちが、最近ではよく訪れるよ!!オオン!!////」
勇者「……三角木馬に座ってる案内人は初めて見た」
遊び人「ここは無関係そうね。次の街いきましょう」
勇者「いやいや。どう考えても大罪の1つ『色欲』に関係してるだろ!」
147:以下、
勇者「ムッチムチの肉体をひけらかすかのように歩く女武道家。透き通るような衣装を着てほほえむ踊り子」
勇者「普通の街では見かけないような大人な店がいっぱいありやがる」
勇者「股間への誘惑が凄過ぎ……。ごほん。性器への刺激が強すぎる谷だぜ」
遊び人「今何を言い直したつもりだったの?前後で発言の酷さが変わってないんだけど?」
勇者「まあ俺は全然女子なんかにキョーミねーけどな」
遊び人「うわっ、出た。童貞呪文『ジョシキョーミネーシ、ダチトイルホウガタノシーシ』」
勇者「わ、わりいかよ。それにドウなんちゃらなんて言ったことないだろ!」
遊び人「ぷぷ。そうでしたね、魔法使い様」
勇者「転職した覚えもねーよ!」
遊び人「勇者も初めて私とあった時はかわいかったなー。ろくに目も合わせてくれなかったし」
遊び人「それが今では……」
勇者「目以外も合わせる仲になるとは」サワ
遊び人「髪の毛一本触れるな変態」ドム
勇者「うごお……」
148:以下、
宿屋「2名ですか?」
勇者「はい。同じ部屋で」
宿屋「あいよ。今夜はお楽しみだね」
勇者「はい!!」
遊び人のこうげき!
勇者「ぐはっ!何すんだ!」
遊び人「どうせこのあと回復すんでしょ」
勇者「ドSか」
149:以下、
?夜?
遊び人「ぎゃあ!!」
半裸の勇者があらわれた!
遊び人「半裸で風呂から出てくるなっていっつも言ってるでしょ!!」
勇者「やべやべ、ついな。でもよく考えてみろよ。服を脱いでわざわざ裸になったってのに、お湯を浴びて出たらまた服を着るってどういうことだよ?せめて半分は裸でいさせてくれよ」
遊び人「わけのわからないことを」
勇者「気持ちいいぞ!!お前にもオススメ……ぐは!!」
遊び人「そんなに半裸でいたいなら、半裸で冒険してなさいよ」
勇者「それは……いいかもなぁ///」
遊び人「教会の神官様にお金渡したら、この人にかけられてる呪いでも落としてくれるのかしら……」
150:以下、
遊び人「この余りものの布のシーツで部屋仕切るから。こっから先には立入禁止ね」
勇者「毎度のことながらうるさいな」
遊び人「私は勇者様の中に巣食う魔物が覚醒しないか心配で心配で」
勇者「まぁ夜の街に繰り出すかもしんないけどな」
遊び人「勝手にすれば」
勇者「やきもちやくなって。安心しろ。俺は一人でしかしないよ」
遊び人「キモいから!なにやさしい口調で言ってんのよ!夜の街に出ていっていいから!」
遊び人「はぁ、最初の頃の勇者はかわいげがあったんだけどなぁ」
勇者「またその話かよ」
遊び人「はじめて二人で宿に泊まる時に、部屋を別々にするかどうか聞かれたときよ」
遊び人「顔を真っ赤にして、別々って言おうとしてるあんたを遮って、同じ部屋にしてくださいって言ったらきょどりまくってて」
遊び人「お金の心配のことを話したら、あんた頭下げて、外で寝るなんて言い出して」
遊び人「純朴な勇者様はいずこへ……」
勇者「あの頃と何も変わってねえよ」
遊び人「少しも大きくならないまま?」
勇者「心はな。心の話だから、下半身を見て言うな」
151:以下、
勇者「おはようございます」
宿屋「きのうは おあずけでしたね」
遊び人「何聞き耳立ててんのよ!!変態宿屋!!」
宿屋「ううっ///」
勇者「昨日はちょっと。仕事で疲れてるんだって言って背を向けて拒んでしまったんです」
遊び人「あんたも何いってんの?」
遊び人「今日も凄い景色ね。お店から連れ出してきた女性と手をつなぎながら、半裸で外をスキップしてる住人がたくさんいるわ」
勇者「住人じゃないんじゃないかな。きっと他の街に住んでいる人が多いよ。僧侶とか神官なんか特に、普段自分たちの街で抑えてる分ここで激しくやってるんだろう」
遊び人「失礼よ。あなたみたいな変態とは違うんです」
勇者「俺は大した変態じゃないさ。この谷のお店に入るとしても、普通のバニーガールのいるお店にしか……」
遊び人「あっ、戦士がおもてなししてくれる店があるみたいよ。男性限定で。行ってくれば?行きなさいよ。行きなさいってば」
勇者「押さないで!!押さないで!!」
152:以下、
遊び人「もう。何しにこの谷に来たんだか。これからどうするの」
勇者「大罪の装備について情報を集めながら、日銭を稼ごう。ほとんど手持ちもなくなっちまったからな」
遊び人「冒険者用のクエスト依頼が掲示板に張り出されているわね。どれどれ」
【指名手配犯】
・キラーパンツァー:下着どろぼう。四足歩行で人の敷地に入り、干してある下着を口に咥えて去っていくのが特徴。猫型の魔物の被り物をしている
・オナミック:宝箱の中に入り込み、下腹部を露出させた状態で自慰行為をしている。宝箱を開ける冒険者は基本的に男性なため、男色の可能性が高い。宝箱の底に穴を開けており、被ったまま高で逃げる。
・パンチラの翼:天井の下でスカートを履いた女性に話しかけ、移動の翼を持たせるのが反抗手口。パンチラ目的と思われる。
<解決済>
ヤマタノオロチ?:近隣の街にて村娘が攫われる事案が発生。村娘が定期的に1人いなくなることから、古より伝わる伝説の竜の仕業だと村人は叫んでいる。
結果:近隣の街に済む富豪の息子の色男が女性をはべらせて囲っていただけであった。その人数は8人。八股の愚か者であった。
153:以下、
遊び人「性にまつわる案件ばかりじゃない!」
勇者「他人への迷惑がかかる変態行為は禁止されてるからな。度を越したプレイに手を出してしまったんだな」
遊び人「案内人なんて変な椅子に座ってたけど、あれはいいの?」
勇者「仕事だからしょうがないだろ。痴漢も覗きも関係性によって罪かどうか決まる。夫が妻の尻を揉んでも痴漢にはならない。お客が嬢のエッチな姿を見ても覗きにはならない。だが、通行人が通行人に手を出したら変態行為だ」
遊び人「いつになく真面目に語るわね」
勇者「さて、変態を成敗して、稼いだお金でキャッキャウフフなお店にでも……」
「キャー!!どろぼう!!」
勇者・遊び人「!?」
154:以下、
「ハフハフ!ハフハフ!アオーン!!!」
勇者「全裸の男が下着を咥えて四足歩行で走ってるぞ!!」
遊び人「ギャー!あれどろぼうなの!?それ以上の何かでしょ!!」
勇者「あいつがキラーパンツァーだな!!よし、捕まえるぞ!!」
勇者「止まれ!!」
キラーパンツァー「ガルルルル……」
キラーパンツァーがあらわれた!
遊び人「うう、直視できない……」
勇者「その下着を俺に返してもらおうか!!」
遊び人「あんたのじゃないでしょ!!」
キラーパンツァー「ジュルルルル……」
遊び人「ただの中年のおっさんじゃん……なんでこんなことしてんのよ……」
155:以下、
キラーパンツァー「オハエラハオレノハマヲフルトイフノハ……」
遊び人「下着咥えて喋ってるから何言ってるかわかんないわよ」
勇者「お前らは俺の邪魔をするというのか」
キラーパンツァー「ウハレハハハノフハハヘイヒルノヲホヒトヘフ、オノヘホヒフヲヘイヘヘントシタハホデハフフホノイヒハア」
遊び人「勇者!!こんなわけわかんない変態さっさと倒すわよ!!」
勇者「生まれたままの姿で生きるのをよしとせず、己の恥部を平然とした顔で隠すその生き方」
キラーパンツァー「ヘオホホヒホオホフ。イハホホヒンノフハハヲホヒホホヘ。イヒハイホウヒイヒフホヒハヒハ」
遊び人「露出狂をやめて囚人服でも着るがいいわ!!」
勇者「獣にも劣る。今こそ真の姿を取り戻せ。生きたいように生きる時は来た」
遊び人「なんで下着咥え語がわかるのよ!!」
勇者「読める…読めるぞ!!」
遊び人「誰にも読めない石版を自分だけ何故か解読できるようなかっこよさはないからね!!しかも言ってる内容かなり真面目なんだけど!!」
勇者「ほひふほひはひひひょうひははふは?(こいつの下着に興味はあるか?)」
キラーパンツァー「ハァ、フヘフハハヒハハホウ(まぁ、くれるならいただこう)」
勇者・キラーパンツァー「ふぁっふぁつふぁっ!」ケタケタ!
遊び人「何であんたも話してるのよ!てかこっちなんで見て笑ってんの!?なんて言ったのよ!!」
156:以下、
遊び人「くっ、見ながら戦いたくないという点で幻術魔法をかけられているようなものね……」
勇者「変態同士仲良くしたいが、こっちも日銭を稼ぐ運命を背負ってるんでね!」
ゆうしゃのこうげき!
すてみでたいあたりをした
しかし身をかわされた
遊び人「動きがはやいわね!」
キラーパンツァー「がるるる!!」
キラーパンツァーのこうげき
四足歩行をやめ、遊び人の前で仁王立ちをした。
遊び人「ぎゃぁっ!」
遊び人は咄嗟に目を瞑った!
遊び人「こ、殺すしかない!!殺すしかないわこいつ!!」
勇者「お、落ち着け!!てめぇ、女性の前で裸をさらけ出すなんてゆるさねえ!!」
157:以下、
勇者の攻撃!
勇者「れろれろれろれろくちゅくちゅくちゅ……」チュパチュパ…
勇者はキラーパンツァーのブツを直視しながら、口でいやらしい音をたてた。
キラーパンツァー「…………オェエエェエエエエエ!!!」
キラーパンツァーの口から下着がこぼれ落ちた。
キラーパンツァーのブツが縮んだ。
勇者「今だ!!」
勇者はすてみでキラーパンツァーにぶつかった!
キラーパンツァー「ぐぬぬ……!!」
キラーパンツァーは倒れた。
勇者「やっ……たぜ」
勇者「これが新技『精神的すてみ』だ……」
勇者は力尽きた。
遊び人「な、なにが起こったの!?さっきの音は何!?」
遊び人はおそるおそる目を開けた。
遊び人「なにこの惨状……」
158:以下、
?翌日?
遊び人「勇者、昨日はすごかったね!!谷中の女性から感謝されてたじゃない」
勇者「ふはは。くるしゅうない」
遊び人「下着なんて自分の分身みたいなものよね。それを盗まれたらたまったもんじゃないわ」
勇者「下着は分身か。いいこというなぁ……」
遊び人「そういう言葉でしみじみされても困ります」
勇者「はは、別にいいじゃねえか……!」
ピキン!
勇者「!?」
遊び人「どうしたの?」
勇者「感知した。指名手配犯が近くにいる」
遊び人「えっ?」
勇者「あの洞窟の入り口にある宝箱。人間が入ってる。オナミックってやつだ」
遊び人「凄い!!感知呪文覚えたの!?」
勇者「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……」
勇者は顔を物憂げに伏せ、過去を眺めるような面持ちでつぶやいた。
勇者「俺と同じ、変態のにおいがするんだ……」
遊び人「シリアスな感じで言うのやめてくれる?」
159:以下、
勇者「宝箱を上から抑えろ!!」
ガシ!
遊び人「どうすんの!?」
勇者「街まで引きずれ!!」
バタバタ!!
遊び人「ぎゃあー!宝箱が暴れだした!!」
勇者「地面と擦れて痛いんだろう!!だが、こんな変態なやつだ!!じきにその痛みに病みつきになるはずだ!!」
勇者と遊び人は宝箱を上からおさえながら街まで引きずり続けた。
砂利道の上を通った時の阿鼻叫喚は凄かったが、段々喘ぎ超えにかわっていった。
160:以下、
?さらに翌日?
「いだぁああいいい!!!」
石でできた架け橋の近くを歩いている時のことだった。
勇者「どうされました!?」
町娘「うう……頭が架け橋の天井にぶつかって……」
町娘「お財布を落とされましたよって、男性に手渡されて。よく見たら羽根みたいなもので。そしたら風が巻き起こって身体が飛んで」
町娘「架け橋の下にいたもので、天井に頭がぶつかっちゃって……いたた……」
町娘「天井にぶつかった時、狂喜している声が聞こえました。痛みを堪えながら、犯人をひと目見ようと必死に目を開けると、一瞬のうちにいなくなっていたんです」
遊び人「パンチラの翼事件よ!!被害者は全員スカートを履いた女性で、渡されるのはいつも天井の下!この人もスカートを履いてる!!」
遊び人「天井に頭をぶつけさせることでパンチラの時間を増やし、ダメージも与えてすぐに追われないようにしているんだわ!」
勇者「…………」
勇者「失礼ですが、そのスカートの中身を拝見できますか」
161:以下、
遊び人「何言ってんのよ!」
町娘「いいですよ」バサリ!
遊び人「ちょっと!なにして!」
勇者「やはりな。見せパンだ。少し短いスカートだと、逆に履いている。俺も何度裏切られたことか」
遊び人「はぁ?」
町娘「ええ。見られるのは恥ずかしいもので……短パンを履いています」
勇者「犯人は彼女が天井にぶつかった時点で狂喜の声をあげていた」
勇者「つまりだ。普通なら舌打ちをするような場面で、相手の目的は達成されていたってことだ」
遊び人「どういうことよ」
勇者「考えろ……そして気づけ……共感しろ……全てを見落とすな」
勇者「移動の翼……スカート……天井……見せパン……」
勇者「…………!」
ピキン!
162:以下、
勇者「感知した。そして、真実を捕まえた!」
勇者「そこだ!!!」
勇者は近くでSMプレイに興じていたカップルの鞭を奪い取り、架け橋に向かって叩きつけた。
オナミック「ぎゃあ!!!」
フックのようなものを使い天井に張り付いていた男が落ちてきた。
勇者「お前は、スカートの中身を見たかったんじゃない!!」
勇者「天井に激突し、痛みに悶える女の子を見たかったんだ!!特にスカートの中身が下着の女の子は、手でスカートを抑えるために頭は無防備になるからな!」
勇者「この外道が!!変態紳士の楽園から追放されろ!!」
勇者は青年のふくろから落ちた翼を大量に取り出し、移動の念を込め、青年の腕に抱えさせた。
勇者「翼をもがれた堕天使と成り果てろ!!」
青年は石橋に全身をうち、気絶した。
163:以下、
?さらに翌日?
勇者「…………!」ピキン!
勇者「100m先、屋根の上。張り付いている男がいる。やつの狙いはなんだろうか」
勇者「考えろ……考えるんだ。」
勇者「……今日の天気は曇り。そういうことか!!」
遊び人「今ので何がわかったの!?」
勇者「雨の中に紛れて放尿するつもりだ!!きっと好きな女が家の中にいて、家を出た時に傘にかけるつもりなんだ!!現行犯で捕まえるぞ!!」
遊び人「何バカなこと言って……」
捉えられた犯人は、勇者の予測通りの犯行動機を述べた。
勇者「…………!」ピキン!
勇者「変態を感知した。相手は……旅の商人!!」
勇者「若い女性に渡す薬草だけ、脇に挟んでから渡してるに違いない!!」
勇者「……感知した!」ピキン!
勇者「……まただ!」ピキン!
勇者「……また変態がいる!」ピキン!
勇者は今までにないほどの恐るべき観察、想像、気付き、あらゆる力を総動員して輝かしい検挙をあげた。
勇者はこの谷の、英雄となりつつあった。
164:以下、
勇者「…………!」ピキン!
勇者「この近くに変態がいる!!」
勇者「どこだ……どこに……。半歩分以内の距離に……」
勇者「なんだ、俺か」
勇者「わっはっは!!」
遊び人「…………」
「キャー!冒険者さまぁ!!」
「この間はありがとうございます!!」
「よかったら、今度私のお店にきてください!!無料でおもてなししますわ!!」
勇者「くるしゅうない!くるしゅうない!!ふっはは!!」
遊び人「さぞおもてのようですね。変態が許されるこの町で、変態を取り締まることで人気者になるなんて」
勇者「何日でも住んでいたい気分だ」
遊び人「ふーん……」
勇者「お金もだいぶたまったな。ちょっとした小金持ちだ」
遊び人「……何に使うの?」
勇者「そりゃあ、新しい装備買って、道具も揃えて、余った分は……」
勇者「…………」ニンマリ
遊び人「なによ今の顔!!」
勇者「ち、ちげーし!!」
遊び人「何が違うのよ!!」
勇者「じょじょじょ、女子なんてキョーミねーし!!」ドバドバドバ…
遊び人「凄い汗かいてるけど!!目が泳いでるけど!!」
165:以下、
?夜?
勇者「ふぅー、今日も1仕事終わった。宿に帰って飯でも……」
「勇者様よ!!」
「キャー!!素敵!!」
遊び人「…………」
「私達のお店にいらっしゃらない?」
勇者「で、でも」
「今夜はバニーガールのダンスショーもあるの。せっかくだから観に来てくださいよ!」
勇者「なっ!!?」
遊び人「…………」
遊び人「行ってくれば。私眠いから先に帰る」
勇者「遊び人?」
「ささ、行きましょ!!」
勇者「ちょ、ちょっと!!」
166:以下、
?宿屋?
勇者「遊び人が心配で途中で抜けてきちった。普通の病気は神官でも治せないからな」
ガチャ
勇者「遊び人、具合は大丈夫か?飯も食べなかったって宿屋のおっちゃんから聞いたけど」
勇者「おーい」
勇者「…………」
スースー…
勇者「寝息が聞こえる。もう寝てるのか。まだけっこう早い時間だけどな」
勇者「それにしても、いい夜だったなぁ。ご飯もスパイシーでうまかったし、バニーガールのダンスショーもすごかったなぁ」ポワーン
勇者「自分でも、いつからバニースーツ姿のとりこになっていたか思い出せないな。俺の故郷の連中は、みんな僧侶だの賢者だの、真面目な職業の女の子にばかりエ口イ妄想ぶつけてたし」
勇者「明日もやるから来てねって言われちゃったよ。困ったな。大罪の装備も探さなくちゃいけないのに」
勇者「まあ、あしたのことはあした考えればいいか」
勇者「風呂入ってこようっと」
遊び人「…………」
遊び人「馬鹿勇者」
167:以下、
?数時間後?
コンコン
勇者「んっ?ノックされてる。こんな時間に誰だ?」
「宿屋の店主です。勇者様にお見えになりたいという方が来ています」
勇者「わかりました!今でます!」
イソイソ…
ハキハキ…
ガチャリ!
勇者「今下着姿だったので、ズボン履いてました!!それで時間がかかったんです!!」
宿屋「はて?それはさておき、お客様がお見えです」
勇者「お客様?」
宿屋「この谷の警護を司る方です。最近の勇者殿の活躍に、褒美を与えたいという人がおるんです」
勇者「クエスト報酬なら既に受け取ってるけど?」
宿屋「直々にとのことで……」
「まだか。あがらせてもらうぞ」
宿屋「す、すみません!勇者殿が一人で営み中だったようで……」
勇者「ほらーやっぱり!内心そう思ってたんじゃん!わざわざ予防線はったのに!!」
168:以下、
遊び人「んもう……なんなのよ。こんな遅くに」
「冒険者殿。ここのところの活躍ぶりは王宮にも知れ渡っている。よくぞこの街に住む変態を成敗してくれた」
遊び人「ぎゃあー!!!変態がいる!!兜と軽装の鎧身に付けてるけど絶対中身全裸の変態がいる!!裸メイルよ!!」
「変態とは失敬な。鎧を身に着けてる時点で全裸ではあるまい」
宿屋「失礼ですぞ、遊び人殿。この方は元々この国の罪人だったが、改心されて、今ではこの谷を魔物の残党から守ってくださっている」
「そういうことだ。人をみかけで判断するとは」
遊び人「……そうね、ちゃんと中身まで見なきゃ……!?」
遊び人は裸メイルの男をしっかりと見た。
遊び人「見える!!勇者、この人付いてるわ!!」
勇者「馬鹿!!何言ってんだよ!!」
遊び人「勇者にも付いてるものよ!!」
勇者「や、やめろって!!///」
宿屋「私にもついているものかな?」ニヤニヤ
遊び人「いや、あんたには付いてない」
宿屋「 」
宿屋の主は黙って部屋を去った。
勇者「おい、いくらなんでも暴言過ぎるぞ」
遊び人「何言ってんのよ。私には見えるって言ったじゃない!」
遊び人「あなた!!精霊を宿しているわね!!」
「ほほう、変わった能力の持ち主だな」
遊び人「ということは……」
色欲「ご明察の通り。元勇者だ」
色欲の勇者があらわれた。
169:以下、
【TIPS】
処刑の王国は、他国から嫌われている。
勇者の通報に賞金がかけられた後になっても、勇者を処刑の王国に差し出そうというものは現れなかった。
世界を救うために人生を犠牲にしていた勇者を差し出したことが知れたら、裏切り者のレッテルを貼られることになり、処刑の王国以外では生きられなくなってしまう。
富豪の家に侵入して金品を奪う盗賊も、勇者を捕まえて大量の賞金を得ようなどと、割に合わないことは考えることもなかった。
勇者は、魔王の支配無きあとも世界の役に立つ、
元々戦闘能力が高いため、警護の仕事につく。
冒険で得た人脈や知識やルートを利用し、店を開く者もいる。
処刑の王国に正体を知られぬよう、勇者は己の身分を隠しながら生きるが、周囲の者は只者ではないと薄々気づくことになるのだった。
身を隠しながら生きる勇者もいれば、勇者であることを親しい住人に認めながら生きる勇者もいる。
いかなる場所においても、勇者が勇者であると、真に正体を知る存在は1人。
教会の神官である。
170:以下、
暴食の勇者達を襲った男を、処刑人(仮)としばらく呼びます。
171:以下、
?とある町にて?
処刑人「ここに勇者は運び込まれていませんか」
神官「…………」
処刑人「僕の友人がこの付近でなくなったと聞いていて。死体を蘇らせたいのです」
神官:ようけんはなんですか。どくをちりょうしますか。のろわれたそうびをかいじょしますか。
処刑人「聞き飽きたよそのセリフは。勇者に関することを聞くと途端に目が虚ろになりやがる」
処刑人は神官の頭を掴んだ。
神官の頭は混乱した。
処刑人を仲間だと思い込んだ。
処刑人「話せ。精霊の加護で復活させたものはいるか」
神官「御霊を身体に呼び戻したものはおります。勇者と、踊り子と、魔法使いと、僧侶のパーティです」
処刑人「いつだ」
神官「4年前です」
処刑人「くそが」
神官は気絶して倒れた。
処刑人「俺はな、お前ら神官を皆殺しにしたってかまわないんだぜ」
処刑人「お前らは無知だ。神官という職業に選ばれながら、神官のことを何も知らない。精霊殺しの陣を敷かれている魔王城であろうが、神官の元で復活できる方法さえある。お前らは死んだ勇者とメンバーをを蘇らせることしか考えようとしない」
処刑人は教会を去った。
処刑人「王国の魔術師どももまるで使い物にならん。対人間用の洗脳呪文を覚えてるやつなどろくにいない。勇者に限定した感知呪文ともなると、家ひとつ分の距離しか測れないやつもいるざまだ」
処刑人「この俺様が、いつまでこんなことを続ける必要がある」
172:以下、
色欲「さぁ。好きなだけ食事を取ってくれ」
色欲「それとも、あっちのほうがお好きかな?」
長テーブルには、大勢の美女が座っていた。
遊び人「…………」
勇者「こ、これは一体」
色欲「君たちの活躍ぶりは有名だよ。お礼をしないといけないとみんな思っていてね。特に僕達防衛師は、谷の近くに住む危険な魔物の残党処理に手がいっぱいで、町中の治安まで守りきれないのさ。谷の魔物はめんどうくさいのが多いんだ」
色欲「僕個人も興味がある。君たちの話を聞きたい。何のために冒険していて、どうしてこの谷にたどり着いたのか」
勇者「なるほど」
遊び人「この女性の方々は?」
色欲「3人だけというのも味気ないだろう。みんな勇者様をひと目みたいと言っていた」
「勇者さまぁ!!」
「本物に会えるなんて!!」
勇者「えへ、えへへ」
遊び人「…………」ゴホン
勇者「…………」
色欲「さあ、宴のはじまりだ!!今夜は誰も寝かさないぞ!!」
裸メイルの元勇者は立ち上がり、乾杯をした。
173:以下、
遊び人「裸メイルやめてほしいなぁ。目のやり場に困るよ。バニーガールもきわどいかっこうしてるし」
勇者「まったくだ。命を守る装備を舐めてるのか。ムカムカして腹がタちそうだ」ムラムラ…ムクムク…
遊び人「(どうして道具袋をひざの上に置いてるのかしら)」
踊り子「勇者者さまぁ!お話を聞かせて!」
勇者「ええー!聞きたい!?」
踊り子「やーん、こっちの女の子もかわいー!」
遊び人「ど、どうも……」
色欲「女ばかりで退屈か?呼べば男もいるぞ。屈強な男、細身の男、肥えた親父。どれがお好みかな」
勇者「こいつは脂ぎった肥えた親父が好みでしてね」
遊び人「何言ってんのよ!!けっこうです!!」
174:以下、
バニーガール「ちょっといい?おとなり失礼しまーす!」
勇者「バ、バ、バババ!!」
勇者「バー!!!!」
勇者「バニーガールだぁああ!!!!」
バニーガールA、B、C、D、Eがあらわれた!
バニーガール「お飲み物お注ぎしますわ」
バニーガールのこうげき!
勇者は胸元に見惚れている。
勇者「すぅううーーーーー」
勇者は大きく息を吸い込んだ。
甘い香りが体内に入っていくのを感じた。
体力が15回復した!
遊び人「あ、あのやろう……」
175:以下、
踊り子「今夜はありがとう。またお話しましょうね」
遊び人「うん。またね」
バニーガール「おやすみ、勇者様」
勇者「にへ……にへへ……」
遊び人「こいつは」
色欲「満足いただけたようで何よりだ。僕も君たちの話が聞けて楽しかった。君たちの馴れ初めの話なんか特にね」
遊び人「馴れ初めというか!!腐れ縁のはじまりといいますか」
色欲「もう夜も遅い。君たちもここに泊まっていったらどうだい?部屋もあいてるよ」
遊び人「宿屋に大事な荷物とかもあるので。今日は帰ります」
色欲「そうか。それじゃあ、手短に。最後に本題に入ろう」
遊び人「本題?」
色欲「優秀な君たちに、頼みがあるんだ」
色欲「大罪の装備というものが盗まれた。君たちに、それを見つけて欲しい」
色欲「褒美として、その『色欲の鞭』をそのままわたそう」
176:以下、
遊び人「色欲の鞭、というものに選ばれたあの色欲の勇者様だったのね」
遊び人「それを信頼できる神官に預けていたけど、盗まれたとのことだった」
遊び人「こんな簡単に大罪の装備にたどり着くとはね」
勇者「ああ。でも、元勇者が見つけられないとなると、どうやって探せば良いのか」
遊び人「この谷が性欲に溢れるようになったのは、大罪の装備の影響からだと聞いたわ。元々は戒律の厳しい谷だったって」
遊び人「まだ影響が色濃く残っているということは、この谷に住む誰かがずっと所持しているのよ」
遊び人「色欲の勇者様はその鞭を神官様に預けていたというわ。でも、神官様がある日倉庫の中に入ったら、鞭はなくなっていたそう」
遊び人「鞭は高級な装備の1つだからね。大罪の装備と知らずに盗んだ住民がいるのかもしれないわ」
勇者「どうして色欲の勇者は神官に預けたんだ?暴食の勇者だって大罪の装備との出会いは餓死寸前の時だった。きっと印象深い出会いがあったであろうものを、そう簡単に他人に預けるのか」
遊び人「きっと、遠ざけたかったのよ。それも、色欲とは1番無縁そうな神官様にね。邪な心に溢れてるものは神官という職業につけないもの」
勇者「それは世界のイメージにすぎないと思うけどな」
遊び人「そうかしらね。なんにせよ、色欲の勇者が鞭を手元に置かなかったのは、装備の誘惑に駆られないようにするためだったに違いないわ」
177:以下、
遊び人「暴食の鎧はあらゆるものを飲み込み自分の糧とする力を備えていた。色欲の鞭は……」
勇者「色欲の鞭は?どんな効果がある?」
遊び人「なんだろう。色欲を司るくらいだから……」
遊び人「…………」
遊び人「…………」カァァ///
勇者「どうした?今何を想像した?」
遊び人「し、してないわよ!!この変態!!」
勇者「変態?腰を打ったら子宝に恵まれるんだろうなとか、そんな想像をした俺が変態?」
遊び人「あんたにしてはまともな想像を……」
勇者「君は何を想像したんだい!?色欲の鞭は何の効果をもたらすと思ったんだい!?」
遊び人「うるさいなぁ!!もう寝る!!」
178:以下、
勇者「それにしてもさ、今回はすぐに手に入りそうでよかった」
遊び人「そうね」
勇者「探すのに10年もかかっちゃったら、この冒険の意味がなくなってしまうからな」
遊び人「…………」
勇者「俺も世界各地の異変を自分の冒険で味わって。冒険譚を自分で書いて。故郷のやつらから尊敬の眼差しを集められる日が待ち遠しいよ」
勇者「この谷に隠れている色欲の鞭を隠し持った犯人を、明日にでも暴いてやらないとな」
遊び人「勇者……」
勇者「ということで、明日もお互い元気に張り切っていこう!おやすみ!」
遊び人「うん!おやすみ、勇者」
179:以下、
アン…
アンアン!
アンアンアン!
勇者「…………」
遊び人「…………」
勇者「(気まずい)」
勇者「(両隣の部屋からすごい音が……)」
勇者「(遊び人、起きてんのかな。寝てたらいいんだけど)」
遊び人「…………」
遊び人「…………」グゥ?…
遊び人「あっ…」ボソ
勇者「(なんでお腹鳴ってんだよ。絶対起きてるじゃん。お腹空いちゃってんじゃん。あっ、とか言っちゃってんじゃん!)」
遊び人「…………」
遊び人「グ、グゴ?」
勇者「(うわっ!!いびきのモノマネへたくそ!!)」
勇者「(自分が寝ていることをアピールすることと同時に、さっきの腹の音はあくまでもいびきの音だと誤魔化そうとしはじめた!!いびきの音もたいがい恥ずかしいからな!!)」
180:以下、
?翌朝?
宿主「きのうは おたのしみでしたね」
冒険者カップル「えへへ///」
宿主「きのうは おたのしみでしたね」
街人カップル「どうも///」
宿主「きのうも おあずけでしたね」
遊び人「…………」
勇者「…………」
181:以下、
勇者、遊び人、色欲、踊り子の四人は広場を歩いていた。
勇者「……だめだ」
遊び人「鞭の持ち主は見つかりそう?」
勇者「変態感知にひっかからない。いつもなら『ピキン!』っていう音が脳内に響くのに」
遊び人「持ち主はただの鞭目当てで、変態な人ではなかったりして」
色欲「そんなことはない。どんなものでもあんな鞭をそばにおいておけば性欲をコントロールされる」イチャイチャ
色欲「やたらと急に人気が出ている店を中心に見張りを送っている。女性がSMプレイに使っているのであれば、必ず男はその女性のとりこになる。女性があくまで仕事のために使用しているのならば、勇者殿の変態感知には引っかからないかもしれない」イチャイチャ
勇者「その場合はお役にたてなさそうだ」
色欲「消去法の手がかりになるだけでも大いに助かっているよ」イチャイチャ
勇者「どういたしまして」
遊び人「…………」
色欲「今日はここまでだ。明日また捜索を手伝ってくれ」イチャイチャ
踊り子「うふふ、またね」イチャイチャ
遊び人「ずっと踊り子さんのお尻触ってたわね」
勇者「ここにいると性の倫理観がおかしくなりそうだ」
182:以下、
?宿屋?
勇者「提案。俺もたまには窓際で寝たい」
遊び人「そうしたら夜トイレで起きたときなんか私のスペース通るじゃん」
勇者「通って悪いかよ」
遊び人「寝顔とか寝相見られるじゃん」
勇者「俺もたまには物憂げに夜の窓の外の景色を見たりしたいよ」
遊び人「まあ、たまにはいいけど。じゃあ今日はチェンジで」
勇者「やったー!」
遊び人「子供じゃないんだから。私お風呂行ってくるわね」
183:以下、
遊び人「はぁー。浴槽が修理中だなんて。身体だけ洗ってはやくでてきちゃったよ」
ガチャリ
遊び人「ねえー、聞いてよ。お風呂がさ……」
勇者「……くっ」
勇者「んっ…はぁ、はぁ…」
遊び人「(えっ、えっ?)」
遊び人「(勇者、何してるの?)」
勇者「はあ!……んあ!」
勇者「くっ!!!」
勇者「はぁ……!!はぁ……!!」
勇者「ふぅ……」
バタン
勇者「ん?今ドアの音が聞こえたような。気のせいか」
勇者「最近魔物と戦ってなかったし。鞭の持ち主と戦うことになったときに体力切れはまずいからな。気持ちだけでも身体を鍛えておかないとな」
勇者「さて、俺も風呂に入ってくるか」
184:以下、
?翌朝?
遊び人「昨晩はお楽しみでしたね」ニヤニヤ
勇者「ん?」
遊び人「精気も養ったし出発しますか。それとも失ったのかな?」
勇者「何のはなしだ?」
遊び人「ささ、今日も張り切っていきましょ!」
?街中?
勇者「怪しいやつもいない。今日も見つからなかったな」
遊び人「怪しいやつがいすぎてわからなかったわ」
勇者「こんなに目を凝らして探してるのに」
遊び人「勇者はバニーガールのお尻ばっかり見てたじゃない」
勇者「なっ!!尻じゃねえ!!俺は網タイツをだな……」
遊び人「…………」
勇者「いや、これは男の性というか」
遊び人「本能っていう言葉で何でも許されると世の殿方はみんなお思いのようですね」
遊び人「まったく。どうして男性はこうも……」
遊び人「…………」
遊び人「…………」
勇者「ん?どうした?」
遊び人「え、いや、べつに」
勇者「今通り過ぎた書店に見入ってたよな?なんか欲しい書物でもあったのか?」トコトコ
遊び人「いや、ちょ!べつに!」
勇者「…………」
勇者「ガチムチの戦士(♂)と武道家(♂)がいちゃついてる表紙の娯楽書があるんだが」
勇者「えっ?今まで散々まともなキャラでこちらの批判をしてきてたのに?ええー、そうなんですかー」
遊び人「ち、ちがうって!!」
遊び人「な、なんだろ。ちょっと気になっただけよ!魔が差したというか!今までの街にはなかったじゃない!」
勇者「こんやはおたのしみですね」
遊び人「買わないわよ!!」
185:以下、
?宿屋?
遊び人「お風呂入ってさっぱりしたぁ。今日は勇者にいじられて散々だったからなぁ」
遊び人「勇者だってチラチラ大人の書物を見てたくせに。私が気を遣って黙ってあげてたっていうのに」
遊び人「バニーガールがそんなに好きなのか」
遊び人「…………」
遊び人「やっぱり勇者も男の子だし、いろいろ我慢してるのかなぁ」
遊び人「この谷にいる時くらいは、お風呂上がりに半裸でいることくらい多めに見てあげようかな」
ガチャ
遊び人「おまたせ。浴槽の修理も終わってていい湯だったわ」
勇者「えっ……」
遊び人「勇者もお風呂入ってきなよ。なんだかスースーして涼しくて気持ちいいよ」
勇者「あの……」
勇者「その姿……」ボッ///
遊び人「えっ?」
遊び人「べつに、ただの下着姿じゃない」
遊び人「…………」
遊び人「えっ!!!??」
遊び人「わたし!!なんで!!!?」
186:以下、
勇者「おーい。布団にくるまって、大防御のつもりか」
遊び人「……ほっといて」
勇者「混浴に入ったものだと思えばいいだろ。薄手のタオル一枚よりはよっぽど厚着だ」
遊び人「女心も知らないで!!」
勇者「だったら水着だと思えばいいだろ」
遊び人「水着でも恥ずかしいのよ!!」
勇者「じゃあバニースーツを着れば……」
遊び人「なんで慰めに乗じてバニースーツ着せようとしてんのよ!!」
勇者「まあまあ。俺の半裸姿もあとで見せてやるから」
遊び人「それでおあいこみたいな雰囲気ださないでよ!!はやくお風呂でもいってきて!!」
勇者「そう怒るなって。俺もわるかったよ。じゃあ行ってくる」
ガチャ…
勇者「…………」
勇者「俺は悪くないよな……」
勇者「…………」
勇者「あいつ、あんな下着身に付けてたのか……」
ゆうしゃは レベルアップ した!
187:以下、
?翌日?
勇者「今日も色欲の勇者は魔物狩りで来れないらしい」
遊び人「また?大罪の装備が盗まれてるのよ?何が起きるかわからないわよ。わたしだってこの場所の影響を色濃く受けちゃってるみたいだし……」
勇者「元からそうしたかったとかではなく?」
遊び人「…………」ギロ
勇者「なんでもないです」
2人は捜査のためにあるき出した。
勇者「大罪の装備は持ち主を選ぶんだよな」
勇者「その持ち主以外が使用したら、どうなるんだ?」
遊び人「ふさわしいと思う持ち主の場所に飛んでいくだけみたいなの。使用は誰にでもできるわ」
勇者「そうだよな。だとしたら、新しく手に入れた者こそ、持ち主としてふさわしいとも言えるのかもな」
遊び人「どういうこと?」
勇者「本当に大事なものだったら最初の持ち主は手放さないし」
勇者「それを奪うってことは、最初の持ち主よりもそれを必要としてるってことだから」
勇者「人間でいう、略奪愛みたいなもんじゃないか」
遊び人「勇者の口からそんな言葉が出る日が来るとは思わなかった」
勇者「ふさわしいものはふさわしいところへたどり着く。運命の人は最初じゃなくて最後に出会う。これが俺が、過去の恋愛経験から学んだことだ」
遊び人「なにそれ、初耳なんだけど。どんな恋愛経験したのよ」
勇者「俺だって色々あるぜ。気になってた女の子から、回復呪文をかけて貰ったり。落とした短剣を拾って貰ったり」
遊び人「あちゃー……」
勇者「そんな哀れんだ目で見るなよ!」
188:以下、
?宿屋?
遊び人「今日も成果なしだったね」
勇者「ああ」
勇者「そろそろ日にちが経ちすぎてるな。遊び人、俺達の他に大罪の装備を探しているやつは、この谷に近づいてるか?」
遊び人「……まだ大丈夫みたい。全然検討違いの場所を探していると思う」
勇者「そっか。よかった」
勇者「いつまでもってわけにはいかないからな。その特殊な呪いの正体もいつ相手にばれるかわからないんだろ」
遊び人「うん」
勇者「大丈夫。明日こそ、俺が探し出してやるから。今日はもう寝よう」
遊び人「勇者、ありがとう」
勇者「気にすんなって。おやすみ」
遊び人「おやすみなさい」
189:以下、
勇者「…………」
遊び人「…………」
勇者「あのさ、質問があるんだけど」
遊び人「私もあるんだけど」
勇者「なんで俺の布団の中に入ってんの?」
遊び人「あんたこそなんで私の布団の中にはいってんのよ!!」
勇者「俺が窓際で寝ていいってことになってたじゃん!」
遊び人「それはあんたが寝たいって言った日限定でしょ!!」
勇者「しかも!!」
遊び人「なによ!!」
勇者「お前、また下着姿なのな」
遊び人「…………えっ」カァァ///
遊び人「ギャー!!」
勇者「ふ、服着ろって!」カァァ///
遊び人「あんたに言われたくないわよ!!」
勇者「じゃあ着ないのかよ!」
遊び人「着るわよ!!てかあんたも半裸じゃない!!」
勇者「えっ?」
勇者「あっ、まじだ。でも俺はいいだろ」
遊び人「よくないわよ!!」
勇者「俺は遊び人がどうしてもと言うならそのままでもいいけど」
遊び人「よくないわよ!!!」
アンアン!!ギシギシ!!アンアン!!
勇者・遊び人「(しかも今日も隣の部屋がうるさい!!)」
190:以下、
?隣の部屋?
色欲「ふふっ、結局勇者の皮をかぶってもただの雄じゃないか」
色欲「精霊の加護なんてものに守られて、命を永遠に感じているから異性に手を出さないだけだ」
色欲「男が死の際で考えることなんか、性のことだけだ」
色欲「なのに、普段からそうやって、性に無頓着なふりをしていると、今はの際でも自分の性欲に忠実になれない」
色欲「純情なんかを守って。純愛なんかを崇拝して。そうして、肉欲に塗れることを選ばなかった過去を後悔すればいいのさ」
色欲「かつての、僕のように」
「はぁ…色欲さまぁ……もっとご褒美を……」
「わたしもいじめてくださいませぇ……」
色欲「ああ。抱いてやるさ。とことんな」
色欲の勇者は腰を振り続けた。
191:以下、
遊び人「えっ!?見つかった!?」
色欲「ああ。冒険者から情報を集めた。まだ回収はしていないが、持ち主は確実に特定した」モミモミ
踊り子「ああん///」
遊び人「(また踊り子さんのお尻を……)」
勇者「(色欲の勇者さん。今は真剣な話し合いの場ですよ。謹んでください)僕も先日遊んでくれたバニーガールさんのお尻を拝借してもよろしいですか?」
遊び人「はっ?」
勇者「えっ?」
勇者に30のダメージ
192:以下、
遊び人「誰が持ち主だったんですか?」
色欲「それは教えられない」
勇者「俺たちに色欲の鞭をくれる約束じゃ?」
色欲「君たちが色欲の鞭にふさわしい存在ならと言ったはずだ。」
色欲「探す猶予期間を与えたのに、君たちは僕より早く見つけることができなかった」
色欲「そんな者達が、色欲の鞭の誘惑に耐えられるとは思えない」
遊び人「耐えられますよ。大罪の装備の力を封じ込める壺があるんです。それに入れれば……」
色欲「そこの勇者が、その壺を割る可能性は本当にないのか?」
勇者「俺が?なんで?」
色欲「色欲の鞭で叩かれた人間は、性の喜びに忠実となる」
色欲「現在の持ち主も随分楽しんでいるようだよ。自分に忠実な女性を増やしてね」
勇者「!?」
193:以下、
遊び人「い、一刻もはやくとめないと!!女性がそんな目に遭ってるのに放置できないわ!!」
色欲「大丈夫だ。相手は老人だ。女性を従えるのに夢中になっているが、直接触れたりはしていない。全く新しい形の、性欲に塗れたプラトニックラブだ」
遊び人「だからって許されるわけないでしょ!!」
勇者「そうか!!」
遊び人「何かわかったの?」
勇者「俺の感知の『ピキン!!』という感覚だが」
勇者「何が『ピキン!!』となっていたか、今わかった気がする」
勇者「その犯人の息子は、もう引退をしていたんだ!!」
勇者「だから俺の感知が反応しなかったんだ!!」
遊び人「…………」
遊び人「あんた確か街中歩いてる時に自分に対して……」
194:以下、
勇者「心配なのは女性だけじゃない」
勇者「大罪の装備は使用者の寿命を削る。それは持ち主ならわかってるはずだ」
色欲「寿命を……削る?」
勇者「他に使用したことがある者も言っていた。そんな感覚を覚えなかったのか?」
色欲「鞭を初めて振るった時のあの消え行く命の感覚は、そういうことだったのか……。てっきり、過去を思い出しただけかと……」
勇者「今の持ち主はそのことに気づいていないかもしれない。一刻もはやくとめないと」
色欲「…………」
色欲「俺が一人で取りに行く」
勇者「なんでだよ!!」
色欲「色欲の鞭に選ばれたのは俺だからだ」
195:以下、
遊び人「あなた、何が目的なのよ。やってることがいったりきたり」
色欲「質問は終わりだ。教えてほしかったら持ち主としてふさわしいことを示してくれ」
勇者「どうやって」
色欲「禁欲で勝負をするんだ」
色欲「より長い時間、射精を堪えた者が勝利とする」
遊び人「 」
勇者「なんだよそれ……」
踊り子「んふふ///」
196:以下、
?怪しい大人のお店?
遊び人「…………」ソワソワ…
遊び人「……ああ!!」
遊び人「落ち着かない!!なによこの馬鹿げた勝負!!」
遊び人「いやらしい格好をした女性と密室で二人きりになって、性欲を呼び起こすやくそうを飲み込むなんて!!」
遊び人「暴食の勇者といい!!色欲の勇者といい!!自分たちが大好きなものを耐える勝負をどうして持ち出そうとするのかしら!!」
遊び人「この扉に入ってから8分……中はどうなってるんだろう」
遊び人「ああ!!やっぱりこんな谷に来るんじゃなかった!!」
遊び人「勇者は暴食の勇者との断食勝負に、水も飲まないで6日間も耐えたわ。精霊の棺桶に入れられるぎりぎりまで耐えた」
遊び人「一体、この部屋で何日間耐えられるのかしら」
遊び人「こんな気分でずっと勇者が耐えるのを待ってないといけないなんて!!」
遊び人「はやくこんな勝負終わればいいのに!!」
ガチャ…
勇者「…………」
遊び人「えっ?」
勇者「世界を、救えなかった」
勇者のせいしはぜんめつした。
197:以下、
遊び人「…………」
勇者「ごめん……」
遊び人「別にいいよ」
勇者「本当ごめん」
遊び人「怒ってないって」
勇者「媚薬の効き目がものすごくて」
遊び人「どうでもいいってば!!!」
勇者「…………ごめん」
遊び人「だから、謝らなくてもいいって」
勇者「殺してくれ……」
遊び人「蘇らせるのにお金かかるからいいよ」
勇者「……ごめん」
198:以下、
色欲「情けない勇者だ。10分経たずにでケリがつくとは思わなかった」
踊り子「私の魅力が凄かったことは疑わないのかしら?」
色欲「ふふ、それは言えるかもな」
色欲「シャワーを浴びてきてくれ。あんな雑魚に君を抱かれたかと思うと嫉妬で興奮が収まりそうにない」
色欲「勝つものが抱く。これが自然界の摂理だ。さあ、今日は存分に楽しもう」
踊り子「シャワーを浴びる必要はないですよ」
色欲「なんだって」
踊り子「あの人、私に指一本触れてませんもの」
色欲「触れてない?」
踊り子「私の誘惑も、全部拒絶したんですもの。おしゃべりをして、あの人が自分で自分の性欲を部屋の隅で処理しただけよ」
踊り子「私があの勇者に迫って、生まれてから守ってきたものを奪ってあげようとしたの。そしたら言われちゃったのよ」
色欲「なんて」
踊り子「それを すてるなんて とんでもない!」
199:以下、
踊り子「ねえ、勇者様。性欲って悪いことじゃないわよね」
色欲「当たり前だ。楽しむためだけの性欲が認められていいに決まってる」
踊り子「そうですよね。でも、その楽しむためだけの性欲以上に。大切なことが、まさか男性の中にもあったりするみたいです」
色欲「…………」
踊り子「際で見せるのがその人の真の姿なら」
踊り子「敗北を確信した時の姿と、勝利を確信した時の姿を比べてもいいのでは?」
踊り子「性欲に勝ち負けなんてないですけどね。それでも、禁欲という勝負においては。たとえあの勇者は勝利していたとしても、そのまま私のところに戻って身体を求めようとはしなかったでしょう」
踊り子「あの勇者にね、私の仕事を否定する気かって尋ねたの。そしたら首を振ってね」
踊り子「あの子に馬鹿にされる自分のままがいい、って言ってきたの」
踊り子「穢れなき性欲に対して、罪悪感を感じてしまうその心」
踊り子「戒律の厳しかったこの谷で、私の身体を買って捕まって、パーティメンバーに泣いて詫びていた」
踊り子「かつての色欲の勇者様、そっくりじゃないですか」
200:以下、
(宿屋)
勇者「ムラムラして、すみません」
遊び人「…………」
勇者「バニーガールならともかく、踊り子にムラムラして、冒険の目的を見失ってしまってすみませんでした」
遊び人「…………」カチン
遊び人「もう……ほんと馬鹿」
遊び人「そりゃあ、かなりかなり思うところがあるけどさ」
遊び人「しょうがないわよね。女だからよくわからないけどさ。男の子って大変なんでしょ?」
遊び人「他に手段を考えましょう。四六時中尾行するとか、私達も聞き込みするとかしてさ」
勇者「ごめん……」
コンコン
遊び人「ん、ノック?」
ガチャ
色欲「支度を整えろ」
遊び人「何の用よ!!」
色欲「色欲の鞭が欲しいんだろ。俺が預けた神官が所有している。あの神官が乱用しはじめただけで、誰からも盗まれちゃいなかったんだ」
勇者「えっ……」
色欲「奪いにいくぞ。よりふさわしい者が持つべきものだからな」
201:以下、
?外?
遊び人「しまった!部屋の中にやくそう袋忘れた!!ちょっと待ってて!」
トットット…
色欲「外で交尾が許される国を俺は知らない」
勇者「二人きりになった時の第一声がそれですか」
色欲「交尾は愛し合うパートナーがいるものであれば誰もがやっている。しかも開放的な場所でやりたいことだろう」
色欲「俺も色んな国をまわってきたが、そこまで性に開放的な国はなかった。獣が外で交尾をするこの世界で、人間が太陽の下で交尾をすることが許される場所は俺は見つけられなかった」
色欲「性欲は、どうして隠されてしまうのだろう。誰もが興味あることなのにもかかわらず、公では隠されてしまうのだろう」
色欲「好きな女の子のためにしか性欲を捧げたくないという気持ちや、好きな女の子だけには性欲を押し付けたくないという男もいる」
勇者「男は四六時中女性の裸を考えているだとか、息子を穴に挿れることばかり考えて生きているとか、それは辞めて欲しいですよね」
勇者「確かにそういうことだけを考えている男は多いし。いや、たしかに全ての男はそういうことを1日中考えているんだろうけど」
勇者「そういうことを考えている男でも、1日のうちのいくらかの時間は、性を完全に拒絶するような純愛を心の中であたためていたりしますからね」
勇者「性欲さえ拒絶する男の子の魂があることを、この世界はあまりにも知らなさすぎますよ。女も知らないし、そして、知らない男もいる」
202:以下、
色欲「俺は、純愛を諦めたつもりになっていた。いや、諦めたふりをしようとしていた」
色欲「かつて、パーティメンバーに愛している女がいた。踊り子だった」
色欲「俺はその踊り子に性欲を向けるようなことを決してしなかった」
色欲「ある時この谷にたどり着いて、女性を買ったことがあった。踊り子という職業だ。それがばれて、仲間の踊り子がどんなに悲しそうな顔で無理して笑ってきても、俺はこれが最善の選択だと思っていた」
色欲「性欲をぶつけないことで、性欲以上の美しい感情があることを示したかった」
色欲「その女を抱きたいと、心の奥底では思っていたさ。けれど決して認めなかった。拒絶されることを恐れたからかもしれないし。今楽しく笑っていられる美しい時間を壊すことを自分で許せなかったのかもしれない」
色欲「やがてこの谷に再び戻ってきた。そして、この谷を魔物から守った。そんな俺を慕う女はたくさん現れた。食事や睡眠を毎日とるように、俺は女を抱き続けた」
色欲「自分の性欲についてさえ、俺は、よくわかっていない。ましてや、女の性欲についてなどわからない。俺が惚れていた女は、どういう性欲を抱えていたのか。性欲をどう認識していたのか。美しい純情を求めすぎていたせいで、何もわからずじまいだった」
色欲「今も答えを探し続けているが、わかりそうにない。女に直接尋ねてみても。美しき女たちと身体を重ねて、何度腰を振っても。何度喘ぎ声を聴かされても。俺は、女を理解してやれない」
勇者「俺もだ」
童貞は頷いた。
色欲「冒険に性欲は付き物だ。なのに、誰も真摯に向き合おうとはしない」
色欲「俺は答えを出せそうにない。だから、勇者。お前がお前なりの答えを出してくれ」
色欲「まずは、色欲の鞭に打ち勝て」
203:以下、
?教会?
色欲「神官よ!!戻っているか!!」
信徒A「あぁん///神官様ぁ///」
信徒B「強く説教してくださいまし///」
信徒C「あの鞭でもっと強くおしかりになって///」
色欲「なんだこの有様は。ここまで洗脳が強いものだったのか」
遊び人「きっと、色欲の鞭の使い方に慣れてきたのよ。取り憑かれたというべきかもしれないけど」
色欲「神官だけは信じていた。教会に立ち寄った冒険者から噂を聞きつけた時はまさかと思ったが……」
色欲「今はどこにいるんだ……」
勇者「…………」
――ピキン。
ピキピキ……
バキバキバキバキ!!!!!
勇者「!!!!??」
遊び人「どうしたの!?」
勇者「ま、まずいぞこれは!!!」
勇者「神官の神官が蘇った!!!」
204:以下、
遊び人「はぁ!?」
勇者「最近まで教会の秩序が最低限保たれていたのは、モノがなかったからだ。だからこそ、女性は手出しをされずに、鞭で叩かれるだけで済んでいた」
勇者「これからは本当の大罪人になりかねないぞ!!こんなブツ、今まで感じたことがない!!!」
色欲「……非常事態だな。わかった。隣街から最強の魔術師と僧侶を連れてこよう」
?隣町?
魔法使い「なによ、今更呼び出して」
僧侶「はぁ。私達を側室にでもする気でしょうか」
色欲「突然すまない。でも、命がけのことなんだ」
魔法使い「命がけねぇ。それで、死んでも精霊の加護で蘇るパーティメンバーの私達を呼んだってわけ?」
205:以下、
【TIPS】
『パーティメンバー』
勇者と魔王撃退の契を結んだもの。
精霊が人間から勇者を選ぶように、勇者が人間から仲間を選ぶ。
勇者は、勇者が認めたものとパーティメンバーを組むことができる。
しかし、魔王が死したという噂が流れてからは、パーティメンバーを組むことができなくなった。
勇者という職業は、魔王撃退のために存在しているようなものだった。
魔王がいなくなったと知った勇者達は、『魔王を倒すために結束する』ことができなくなった。
救いは、契約の更新は効かなくなったが、魔王が消える以前に結んだ契であれば継続することであった。
206:以下、
僧侶「でもそれは、私達があなたをまだ勇者と認めている場合に限りますわ」
色欲「でも君らはこうして来てくれた」
僧侶「…………」
色欲「死んでも教会で復活するという理由だけで君たちを選んだんじゃない」
色欲「今の僕の乱れぶりに君たちがどんなに失望しているかはわかっているつもりだ。それでも、君たちの力が必要なんだ」
僧侶「…………」
僧侶「私は、いけないわ」
色欲「……そうか」
僧侶「あかちゃんが、できたの。」
色欲「なっ!」
僧侶「け、結婚したのは知ってたでしょ!」
僧侶「私自身に精霊の加護があるにしても、お腹の中の子供が刺されたら……」
色欲「おめでとう!!」
僧侶「あ、ありがとう」
色欲「幸せそうで何よりだ」
魔法使い「うう……かつての仲間に嫉妬しそうだわ。私もいい年なのに……」
僧侶「かつての仲間と結婚したらどう?」
魔法使い「やりちんはパス」
色欲「あはは……」
魔法使い「まあ、ちょっくら手伝ってやるくらいならいいけどね」
色欲「魔法使い……」
魔法使い「……あの子のためにもね」ボソ…
207:以下、
勇者「精霊の加護で蘇るかぁ」
遊び人「何か気になるの?」
勇者「今倒そうとしている神官は、まさにこの谷の神官なんだろ?俺達が死んで蘇生したら、どこで蘇るんだ?」
遊び人「あっ……」
遊び人「うーん、運が良ければ、谷からもっとも近い場所であるこの街の教会で蘇るわね」
魔法使い「運が悪ければ?」
遊び人「変態神官の目の前で蘇る」
魔法使い「嫌よ!!」
遊び人「全滅しても蘇るのは勇者だから大丈夫よ」
遊び人「色欲の鞭に支配されていたら、オスメス見境なく何をするかはわからないけど……」
勇者「…………」ゾワッ
遊び人「迷っている時間はないわ。早く捕まえに行きましょ」
208:以下、
――ピキン!!ビキビキ!!
勇者「こっちだ。この道を登りきった先にいる」
魔法使い「なんでわかるの?感知呪文も使ってないのに」
勇者「無口詠唱してるのさ」
魔法使い「本当に!?感知呪文ってかなり精神力と集中力を必要とする魔術よ!それを無口詠唱だなんて、あなたすごいのね」
勇者「おだててもポロリしかないぜ」
遊び人「嘘ばっか……」
魔法使い「私はすっかりできなくなっちゃったわよ。誰かさんのせいで」
色欲「…………」
魔法使い「魔王討伐を果たせず、この地にたどり着いて。魔王より遥かに弱い魔物倒して有名になって、モテたら女囲いまくって。まぁモテたのは、あの薄気味悪い鞭のせいだとは思ってたけど」
魔法使い「あんたへの信頼が薄れてから、無口詠唱できなくなっちゃったのよ。元々呪文は得意だったけど、やはり、精霊の加護の恩恵をかなり受けていたみたい。杖無しで呪文なんてもってのほか。右手だけで火炎の玉を出せてたあの頃が懐かしいわ」
色欲「何も言えない……」
勇者「静かに。近いぞ。すぐそこにいる」
谷を登ったさきにあったひらけた地の上に、一人の老人が鞭を持ちながら立っていた。
星明りの綺麗な夜だった。
209:以下、
魔法使い「作戦通り、いきなり仕留めるわよ」
魔法使いは精神を集中し始めた。
魔法使い「『夜の頂きで数えられし無数の羊達よ。朝日を疎いし人間をそのまどろみの誘惑の中に再び引きずり戻し給へ』」
魔法使い「『ネムリン』」
羊の形をした淡いピンク色のシャボン玉が現れ、神官に向かって進み始めた。
神官は気付かず、頬を赤らめながら上の空のままだった。
神官の背後から、泡の羊がぶつかる直前のことだった。
210:以下、
バチン!!
勇者「なっ!」
突如、鞭が勝手に動き出し、泡を弾いた。
勇者「弾かれた!」
魔法使い「その程度の防御、散々経験してきたわよ!」
割れた泡は無数に分裂し、無数の小さな羊の群れとなった。
眠りの泡は四方から神官に向かって進み出した。
魔法使い「エ口ジジイは大人しく寝てなさい!!」
しかし、鞭は物凄い勢いで動き回り、羊の群れをすべて撫でるようにさわった。
小さな無数の泡をつなぎ合わせ、1つの大きな泡の塊をつくりだした。
キノコの形をしていた。
遊び人「ぶふっ!!」
勇者「おい、なぜ笑った」
魔法使い「なによそれ!魔法をそんなに繊細に操れる武具なんて他にないわよ!!」
神官は振り返った。
目が血走っていた。
神官「俺ト……交ワレ!!」
キノコの泡がとんできた。
211:以下、
魔法使い「『マハンシャ!』」
魔法使いはバリアを張った。
神官「ハァ……ハァ……フン!!」
神官の振るった鞭が魔法の鏡の表面をなぞると、震えながらへなへなと崩れ落ちた。
魔法使い「な、なに感じてんのよ!!私のバリアは!」
神官が魔法使いに鞭を叩きつけた。
魔法使い「きゃっ!!」
遊び人「大丈夫ですか!!」
魔法使い「痛い……けど、ダメージは薄いわ」
色欲「次は俺達の番だ」
勇者「ああ!」
2人は飛び出した。
勇者が右足を出した時には、色欲の勇者は神官の目の前にまで迫っていた。
212:以下、
色欲「気絶させる!!」
鞭を払いのけようと、色欲の勇者が凄まじい度で剣を振るう。
神のような攻撃を、鞭は全て弾き返した。
色欲「持ち主の寿命を喰らって好き勝手に動いているのか」
魔法使い「準備できたわ!かけるわよ!」
色欲「頼む!!」
魔法使い「『オナモミン!!』」
色欲の勇者の剣に無数の毛が生えた。
勇者「戦いの最中になんつーシモネタを……」
遊び人「敵の装備を絡め取る効果付与呪文だってば!!」
色欲の勇者が剣を振るうと、色欲の鞭が絡みついた。
213:以下、
色欲「このまま鞭を奪い取る!!持ち主から離れれば動けまい!!」
しかし、鞭は必死で抵抗し、持ち主を色欲の勇者の攻撃から避けさせようと抵抗した。
色欲「しつこいやつだな。エ口オヤジというよりも、女王様のそれに近い」
色欲の鞭がぶるぶると身体を震わせると、くっついた魔法のトゲがばらばらと落ちだした。
色欲「魔法使い!!追加で呪文をかけてくれ!!もうひと押しだ!!」
魔法使い「…………」
魔法使い「……いや」
色欲「どうした?」
魔法使い「私、あの人攻撃できない……」
色欲「何を言ってる?」
魔法使い「恋の魔法にかかっちゃったみたい……」トロォン///
魔法使いの足には、さきほど鞭で叩かれた痣の跡が残っていた。
214:以下、
勇者「呪文を好きなようにあやつり、結合させたり、離したり」
勇者「鞭の攻撃をくらったものを虜にさせる」
勇者「なるほどな、”愛のムチ”ってわけか!!」
魔法使い「ねえねえ、あんたらもこっちおいでよ///」
魔法使い「『ヌメリン』」
魔法使いの杖の先から、ぬるぬるとした液体が流れ出した。
遊び人「キャー!!」
遊び人の全身と、術者の魔法使いの全身にぬめぬめとした液体がかかった。
勇者「いいぞ!もっとやれ!!」
遊び人「ぶっ飛ばすわよ!!」
勇者「はっ…!鞭の魔力に一瞬洗脳されてしまった!」
遊び人「そんくらいの煩悩いつも抱えてるくせに!」
液体は色欲の勇者のところまで飛び、足元を不安定にさせた。
色欲「くそ。魔法使い相手では分が悪い。一度退くぞ!」
遊び人「逃げるの!?」
色欲「魔法使いは俺がどうにかする!!」
色欲の勇者は神官から距離をおき、魔法使いのもとへと近づいた。
色欲「くそ、ぬめぬめしやがる……」
色欲「勇者!!移動呪文を唱えろ!!全員で谷に飛ぶぞ!!」
勇者「覚えてないけど?」
色欲「なんだと!?勇者の基本呪文だぞ!!」
勇者「移動の翼持ってるからいいだろ!!」
勇者はどうぐぶくろを取り出した。
ベチン!
勇者「いってぇ!!」
どうぐぶくろが地面に落ちた。
色欲の鞭が勇者の腕にあたった。
215:以下、
遊び人「勇者!!」
勇者「…………」
勇者「……あっ」
勇者「あっ、あっ、やばい。これはまずい」
勇者はだんだん前屈みになり、座り込んだ。
遊び人「何ふざけてんのよ!!はやく立ち上がって!!」
勇者「もうタってんだよ!!」
遊び人「いいからふくろを持ってこっちへ!!」
勇者「できないんだって!」
遊び人「なによ!!頭の堅いやつね!!」
勇者「硬いのは頭じゃねえんだよ!!」
216:以下、
勇者「確かに頭といえば頭だけどさ!!」
遊び人「何を言ってるのよ!!」
勇者「いいから俺のことは置いていけ!!3人で移動の翼を使え!!」
勇者は遊び人に道具袋を投げた。
勇者「エ口ジジイにドキドキする日が訪れるとはな!!」
勇者「どうせする恋なら、2人で添い遂げる恋だ!!心中しやがれ!!」
勇者はすてみで神官にとっしんした。
鞭で強烈に叩かれつつも、神官を転倒させた。
勇者「ぐはっ!」
勇者は力尽きた。
217:以下、
遊び人「いっつも無茶するんだから……」
遊び人「あんた蘇らせるために私は心中しないからね。あの神官が復活地点だったらまずそうだし」
魔法使い「キャー///何すんのよ///やっぱり昔から私の事そういう目で見てたのね」
色欲の勇者は魔法使いを後ろから羽交い締めにしていた。
色欲「早く飛べ!!この絵面はまずい!!」
遊び人「逃げるわよ!!!パーティ2つ分の翼よ!!」
遊び人達は道具袋から翼を取り出した。
神官「……マテ」
遊び人「えっ?」
鞭が遊び人の足首に絡まっていた。
神官「交ワレ……」
遊び人「うそでしょ!!」
遊び人「いやだ!!いやだ!!そんなの絶対イヤだ!!」
遊び人は混乱した。
遊び人はつばさをばらまいた。
色欲「落ち着け!!」
遊び人の周りにすさまじい風が起きた。
鞭はほどけた。
遊び人達は逃げ出した。
色欲の勇者と魔法使いは隣街に飛んでいった。
遊び人と勇者の棺桶は隣街に飛んでいった。
218:以下、
?隣町?
遊び人「うぇええん……怖かったよぉお……」ポロポロ
魔法使い「糞野郎!あのおっさんに捧げる羽目になりそうだったじゃんか!!」
魔法使い「変態どもに関わるんじゃなかったよ!!」
色欲「すまない……」
魔法使い「あとは谷の兵士にでも援軍を頼んで。命が関わるような危険はなかったし」
魔法使い「わたし、もう帰るから……」ウズウズ…
遊び人「?」
色欲「わるかった……」
魔法使い「でもまぁ」
魔法使い「最後は助けに来てくれてありがとう」
魔法使い「……じゃ」
魔法使い「さよなら、女性の目も見れなかったウブな勇者様」
ガチャン
色欲「なっ!!!!」
遊び人「えっ!?」
色欲「な、なんでもない!!今のは違う!!」
219:以下、

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