ゆき「私ね、めぐねえみたいになりたい」【がっこうぐらし】back

ゆき「私ね、めぐねえみたいになりたい」【がっこうぐらし】


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がっこうぐらし!のSSを今さら書きます。
佐倉 慈に優しい世界が足りないと思ったので、彼女が生きている世界です。
ゾンビは出ませんが、解釈違いおばけが出てしまうかもしれないのでご注意ください。
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2: 以下、
「困るんですよ、佐倉先生」
 職員会議の終わり、静まった職員室に、冷たく声が響いた。
 どこか痛い視線が背筋に伝わる。
「友達じゃないんですから。いつまでも学生気分じゃ」
「……はい」
 決まりの悪そうな顔をして教頭先生は去っていった。
 
 周りで立っていた教職員たちも、我関せずと、続々出席簿を持って職員室を出ていく。
 ああ、ここは地獄か。
3: 以下、
学校は好きだ。
そう言うと変に思われるかもしれない。
だけど考えてみて欲しい、ここは凄いところだ。
物理化学室には変な機械がたくさん。
音楽室、綺麗な楽器に怖い肖像。
放送室なんて、学校全体がステージ。
何でもあって、まるで一つの王国みたいで。
こんな素敵な建物、他にはない!
4: 以下、
そう思っていた。だから教師になった。
しかし、学生と先生では話が違う。
楽しい遊園地にも労働する作業員がいるように、美しい夜景を彩るのは夜勤で働く人々のように、優しいだけの社会なんて存在するはずがなかった。
今更そんなことに気付いた私は、今日も身丈に合わない責任を背負って働くのであった。
5: 以下、
私は佐倉 慈。
ここ私立巡ヶ丘学院高校の国語教師だ。
生徒たちからはめぐねえの愛称で親しまれている、と思う。
6: 以下、
「めぐねえ」
それはまだ入って間もない頃に、不意に生徒から呼ばれたのがきっかけだった。
もちろんそこまでフランクに名前を呼ばれている教職員は校内にほとんどいないため、当初は揶揄われているかと戸惑いもした。
だが、そこからじわじわと生徒間に浸透するにつれ、生徒たちは気さくに話しかけてくれるようになっていったのだ。
いま思えば、きっと新任で緊張をしていた私に、生徒たちが気を遣ってくれたのだと思う。
だから、もう初めに呼んだのかはもう分からないが、この愛称は非常に気に入っていた。
7: 以下、
「あっ、めぐねえおはよー」
「おはようございます。あと、めぐねえじゃなくてね……」
「サクラ先生、でしょ」
そして、この決まったやりとりも、そんな生徒達との暮らしで生まれた大切なものだ。
8: 以下、
しかし、通りすがりの別の学年の子にさえ知れ渡っているこの名前は、上の人達からは好まれていないらしい。
なんでも同年代の友人のような距離感は、教師と学生の関係として望ましくないとか。
「放課後に友達と映画見に行くんですけど、先生も一緒にどう?」
「ごめんね、お仕事があるから……」
「あはは、だよね」
そんなこと、私だって分かっている。
自分はもう大人で、この子達を導かないとならない立場だってことくらい。
友達ではなく、手本にならないといけないことくらい。
だけど、いまさら彼女たちを強く拒絶することも難しくて、現状は軽く注意するくらいに留まっていた。
ダメだとは、分かっているんだけどな。
9: 以下、
「あの、めぐねえ、遅刻してない?」
「えっ、あ、ありがとう祠堂さん!」
「じゃあねー」
 
時計を見ると、ただでさえ短いホームルームの、もう三割くらいを過ぎた時間になっていた。
急いで教室に向かう最中、少しだけ後ろを振り向いてみる。
別れ際に手を振ってくれた彼女。
あんな笑顔を見せてくれるなら、このままでも良いかも、なんて思ってしまって――。
10: 以下、
その後、結局ホームルームに遅れてしまい、みんなには散々弄られてしまった。
めぐねえしっかりしなよ。
そう生徒にまで言われてしまったのは、流石に少し凹んだ。
それと朝寝坊のせいで髪が撥ねていること、次の時間の教材をデスクに置いてきたと気付いたのも、この時だったっけ。
11: 以下、
それから一日は、時間ごとにクラスを変えて国語の授業。
最近少しは慣れてきた教壇に立って、学校指定の進行とクラスの理解度を照らし合わせてどうにか作った計画に合わせ、今日の授業を進める。
12: 以下、
深呼吸を一つ。
今朝は大失敗をしてしまったけど、授業は気を引き締めていれば大丈夫だ。
頼れる先生として、いつも通り、みんなに分かり易く。
「めぐねえ、プリント足りないよー」
スムーズに。
「せんせー、漢字間違ってない?」
 みんなが、楽しめて……。
「恵飛須沢が早弁してまーす」「ちょ、なんで言うの」
 集中して……勉学に励める……ように……。
13: 以下、
「はあ……」
昔から器量のいいタイプではなかったけれど、今日はまた一段と上手くいかない。
黒板に字を書きながら授業のことを思い返して、後悔と一緒に深いため息が出る。
「先生、か」
「めぐねえどうしたの? 具合悪い?」
「あっごめんなさい、大丈夫よ」
授業は終わって放課後の教室、今日はいつものように補修。
二人きりで残された丈槍さんは、机に突っ伏してうんうんと唸っている。
14: 以下、
「それで、どうかしら、解けそう?」
「うーん、あああー」
丈槍由紀さん、私の指導する生徒の一人だ。
特別素行の悪い生徒ではないのだが、あまり成績は伸びやかでない。
それもまた学校側としては望ましくないため、こうして週数回の補修でどうにか保っている次第だ。
15: 以下、
しかし普段の様子を見ていると、子供っぽい言動も多いものの、場の雰囲気を読んで巧みに動いている節がある。
恐らく、とても賢い子なのだ。少しだけ勉強が苦手なだけで。
「やっぱり、私のせいかな」
私の指導が甘いから、本来もっと伸びるはずだった人たちまで成績を落としているのかもしれない。
私の態度が生易しいから、生徒たちが甘えて気が弛んでしまうのかも。
そう考えれば考えるほど、いまの自分が如何に足りていないかが解る。
子供が好きなだけじゃ、ただ優しいだけじゃ、人を教える立場にはなれないんだ。
やっぱり向いてないのかな、こういうの――。
16: 以下、
「……ねえ、めぐねえ」
「っあ、ごめんね」
ふと気付いたら、空白の埋まったプリント持って、丈槍さんがすぐ隣に立っていた。
慌てて黒板から背中を離す。
考えすぎると手が止まってしまうのも、私の悪い癖かもしれない。
ああ、こういう時って嫌なことばかり考えてしまう。
せめて学校では、しっかりしなきゃ。
17: 以下、
改めて丈槍さんの方に向き直し、手に持っていたプリントを受け取ろうと手を伸ばす。
だが、その手は空を切り、プリントは丈槍さんの後ろに隠されてしまった。
「えっと、丈槍さん……?」
「めぐねえ、隠し事は良くないと思います」
 丈槍さんの頬は、漫画みたいにわざとらしく膨れている。
思いがけない行動にしばらく戸惑っていると、丈槍さんは心配そうに顔を覗いてきた。
「今日、ちょっと元気ないよね。朝からため息ばっかだし」
「……そうかな」
まずいな、生徒まで心配させてしまったのか。これじゃあ本当に――。
18: 以下、
「ごめんね、ダメな先生で」
「また謝った。どうしたの、話してよ。私、めぐねえが辛そうなのは嫌だよ」
無理やり笑って誤魔化そうとしたら、今度は本当に悲しそうな目をされてしまった。
息が詰まる。
まるで自分のことのように、辛そうに、痛そうに、その双眸は私を捉えている。
19: 以下、
――あーあ、何してるんだろう。
しばらく天井を眺めて、ゆっくり深呼吸をする。
それから一度目を瞑ってみると、今日一日の喧騒が落ち着くような気がした。
20: 以下、
「ねえ、丈槍さん。あなたは大人になったら何したい?」
「えっ、私? えーっと、総理大臣、とかかな?」
大きすぎて想像もつかない夢。
でも、いいな、そういうの。
「あのね、私は先生になりたかったの」
21: 以下、
目をぱちくりさせて首を傾げた丈槍さん。
それもそうだ、自分でも言っておいて、良く分からないなって思う。
教師が先生になりたいって、明らかに矛盾している。
でも、何となく、何となくだけど、私は先生にはなれていないなって、今日の一日で思わされた。
22: 以下、
「未来の子供達のために知恵を振り絞って、それって格好いいと思ったの」
いつからか抱えていた夢の話。
生徒にこんな弱音を吐いてはいけないと、聞かれちゃだめだと分かっているのに、つい口が動いてしまう。
「大好きな学校で、元気な生徒たちに囲まれて、そこでみんなに尊敬される素敵な先生になりたいって」
思った。いまでも思っている。
そう、思うだけなら簡単なのだ。
23: 以下、
だけど、いざ行動に移してみると出来ないことばかりだった。
思春期の生徒たちは気難しくて、宿題やテストを作るのは大変で、楽しい授業はおろか、普通の業務さえままならない。
言っていて、なんだか悲しくなってくる。
きっと、自分には、遠い場所だったのだ。
「やっぱり、私には向いてなかったのかもね……」
ほら、また。
散々後悔して抑えようとするくせに、気を抜くと弱音を吐いてしまう。
ダメだって、生徒の前なのに。
丈槍さんは、私の独り言にも近い独白を聞いて、眉をいっそう顰めていた。
24: 以下、
「なーんて、そろそろ帰りましょうか」
せめて今だけでも取り繕って、帰宅を促す。
ダメダメな先生が、何を熱く語っているのだろう。
帰って頭を冷やそう。
こんなことに付き合わせて、可哀そうじゃないか。
25: 以下、
そう思った、矢先だった。
「めぐねえは、学校が嫌いなの?」
26: 以下、
――無言で首を振った。そんな筈ない。
「ならいいじゃん。私はめぐねえも学校も好きだよ?」
そうだ、私だって大好きだ。
ちょっと大変な授業も、肉体労働なイベントも、放課後の教室も、子供たちの笑顔も、ぜんぶ、ぜんぶ。
でも――。
27: 以下、
「でもじゃないよ!」
丈槍さんは、強く裾を掴んで私の顔を見つめていた。
びっくりするくらい、真剣な目で。
28: 以下、
「めぐねえは誰が何と言おうと私たちの先生なの、そうでしょ?」
――その時、なんだか肩の力が抜けたような気がした。
それから、少しだけ勇気を貰えた気がした。
だから丈槍さんに何かお礼を言おうとしたのだけど、言葉が出てこなかった。
ずっと大人なのに、国語の先生なのに。
29: 以下、
「……先生、頑張るね」
頑張って捻りだした言葉は、なんだか的外れだったと思う。
30: 以下、
「実はね、ずっと考えてたの」
いつもより遅くなって校門まで送っていった帰り道、靴を整えながら丈槍さんが呟く。
「将来は何になりたいかなって。それで思ったんだ」
靴の爪先を整えた流れでそのまま翻った丈槍さんの笑顔。
きっと私は忘れられない。
「私ね、めぐねえみたいになりたい」
31: 以下、
一瞬、彼女の言っていることが上手く掴めなかった。
脳がようやく意味を理解し始めてじわじわと咀嚼しているうちに、彼女はどんどんと話を進めて行ってしまう。
「優しくて、頑張り屋で、いつも親身になってくれる、そんな学園の……」
「が、学園の」
32: 以下、
「……マスコット?」
「マスコット」
マスコット。なんだか期待していたところからかなりズレた回答を得て、思わず笑ってしまった。
「それは嬉しいのかしら?」
「いいじゃんマスコット、私も愛される存在になるよ!」
大きく意気揚々と胸を張る丈槍さん、そうね、マスコットも良いかもしれないわ。
マスコットなんて言われるのは変な気持ちだけど、この子に言われるのは不思議と悪くはない気がする。
33: 以下、
「あっでもそれじゃあ被っちゃうか……そうだ!」
マシンガンのように立て続けに言葉を発する丈槍さんは、今度は腕を斜め上に張った。
いつか見た戦隊ヒーローのような仕草だ。
「じゃあ学園のヒーローになるよ! みんなを支えるヒーローだ!」
それから何かを考えるように腕を組み、ひとつ、ふたつ、指を畳んで何かの算段を立て始める。
「まずは学園の物で装備を整えないとね。えっと、武器は……野球部のバットで、それから仮面の代わりに陸上部のハチマキとかいろいろ」
「あ、あんまりバイオレンスなのは……」
「ダイジョーブ!」
武器が金属バット、そんなヒーローを私が生んでしまったら、今度こそ教頭先生にきつく叱られてしまう。
しかし私の忠告空しく、未来のヒーローはあまり大丈夫そうじゃない返事を返してくれた。
34: 以下、
「それから、学校に住んじゃう! 屋上の菜園も借りて、私だけのお城だ!」
「お城か。楽しそうね、そういうの」
お城。まあ先程から少し暴走気味の丈槍さんの空想も、そこは少し同意しちゃったかもしれない。
人が集まって、みんなで協力して暮らす城、意外と楽しそうだったり。
35: 以下、
だけど、私の仕事も忘れちゃいけない。
学校には素敵な夢を持った生徒がたくさん集まる。
だから、その夢を尊重しつつ、少しだけ苦い現実も混ぜ込んであげなければ。
「それなら学校の代表として、たくさん勉強しないとね」
「えー」
丈槍さんはすっごく嫌そうな顔をして、勉強とヒーローを天秤に掛けているようだった。
やっぱり不思議な子だ。
何故か、一緒にいるとすっかり元気になってしまう。
36: 以下、
こうやって生徒と話してみると、以前誰かが言っていたことを思い出す。
生徒に学ぶことのほうが多い、か。
ちゃんと理解していなかったけれど、何となく意味は知れた気がした。
この学園に、きっと成長し切った人間は一人もいないのだろう。
学生も、教師も、この学び舎で育ち、いつか夢見た大人へと歩みを進めていくのだ。
37: 以下、
いつしか私の中に、一つだけ目標が芽生えていた。
私は絶対に、頼れる先生になろう。
そしていつか、学び舎を捨て社会に飛び立つこの子達を、どうか元気に送り出そう。
そう思うと、胸が高鳴った。
38: 以下、
「あっ、そろそろ時間だから帰るね。ばいばい、めぐねえ先生!」
「佐倉先生、でしょ。気を付けて帰るのよ」
丈槍さんを見送ってから、まだ残っていた小テストの採点作業だけ済ませ、その日は私も家に帰った。
39: 以下、
最近、学校が好きだ。
そう言うと変に思われるかもしれない。
だけど考えてみて欲しい、ここは凄いところだ。
物理化学室には変な機械がたくさん。
音楽室、綺麗な楽器に怖い肖像。
放送室なんて、学校全体がステージ。
何でもあって、まるで一つの王国みたいで。
こんな素敵な建物、他にはない!
そんな中でも、私は一番好きな場所がある。
40: 以下、
「おはようございます」
「おお、めぐねえが時間通りに来た」
「めぐねえじゃなくて、佐倉先生でしょ。それにいつも遅刻してるみたいな言い方!」
いつもの教室、ここからすべてが始まる。
日が昇って、また暮れて。
そしていつか、ここからヒーローが生まれるかもしれない。
そんな場所。
41: 以下、
「最近ここの近くで暴行事件が多発してるみたいなの。みんな気を付けてね」
私は佐倉慈。
まだまだ覚えることは多くて、立派な先生にはなれていないけど。
「それじゃあ出席取ります、席に座ってー」
ここ巡ヶ丘学院高校の、国語教師だ。
42: 以下、
完です。ここまで読んでいる方がいれば幸いです。
HTML化をお願いしてきます。
アニメも漫画も最高なので、いまからでも読みましょう。
そしてまた流行ると最高ですね。
おやすみなさい。
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521737865/
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