真姫「冷たい雪と温かい穂乃果」back

真姫「冷たい雪と温かい穂乃果」


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穂乃果「おー!積もってる!真姫ちゃん真姫ちゃん、積もってるよ!」
真姫「そう」
穂乃果「もうね、多分5cmくらい積もってるよ!」
真姫「良かったわね」
穂乃果「雪だー!」
引用元:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1516983070/
2 :
穂乃果はこの寒い中わざわざ窓まで開けて外を確認するなり、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを体で表現した。
子供か。
いえ子供だわ。
間違いなく。
3 :
穂乃果「真っ白!真っ暗でもまぶしー」
楽しそうで何より。
ただ鳥肌が立ちそうなほど冷えた冷気が流れてきるから窓は閉めてほしい。
4 :
穂乃果「ねー、真姫ちゃんもぼんやりテレビなんて見てないで雪見ようよー」
真姫「ニュース番組も雪一色で雪景色は見飽きた。興味ないし」
ぼんやりテレビ視聴してるよりもはしゃぎながら雪見てる方が絶対色々と低い。
精神年齢とか精神レベルとか精神的成熟度とか。
あと温度。早く閉めてほしい。
6 :
穂乃果「えー、すごいのにぃー。生で見たほうが絶対すごいのにー」
真姫「寒いから動きたくない」
穂乃果「ちぇー」
穂乃果は不満そうな横顔で外を眺めた。
かと思うとにこにこ顔でこちらを向いた。
穂乃果「ね、真」
真姫「寒いから絶対に嫌」
穂乃果「まだ名前も言い切ってないのに断られた!?」
誰だって外に出ようって言い出すのは目に見えるわよ。
穂乃果だし。
7 :
穂乃果「真姫ちゃんお外行こうよー。絶対楽しいって」
真姫「無理。一人で駆け回ってくればいいでしょ」
正真正銘の犬。
犬系女子。でもなくただの犬。
猫は部屋でぬくぬくしているの。
寒い。無理。ゼッタイ。
最悪多分凍死とかする。
8 :
穂乃果「真姫ちゃーん」
はうーと近寄ってきて上目遣いで訴えてきた。
真姫「…一人で行ってよ。この気温の中自分から外出るとか意味分かんないから」
私は穂乃果から目を逸らした。
すると穂乃果は、無意識に髪の毛を触っていた私の右手を両手で握ると、体ごとを私の体にくっつけて、うるうるした悲しそうな上目遣いでくぅんとおねだりしてきた。
9 :
穂乃果「…穂乃果、真姫ちゃんと一緒にお外行きたい。…そんなに嫌、だったかな」
真姫「…あー」
うるうる。
穂乃果「真姫ちゃん…」
真姫「…私の分のコートも持ってきなさいよ」
穂乃果「真姫ちゃーん!」
10 :
思いっきり抱きついてきた。
尻尾とか振りまくってるに違いない。
犬か。
あとチョロくない。
私は、猫のように鬱陶しそうに鼻で溜息をついてされるがままになった。
11 :
穂乃果「3,2,1,せーの、だよ?」
真姫「分かった分かった」
玄関くらい早く開ければいいのに。
玄関は暖房が効いてないからじっとしているのが辛い。
さっさと見て部屋に戻りたい。
12 :
穂乃果「…」
二人で玄関の縦に長いドアノブを握った体制のまま、穂乃果は急に黙った。
真姫「…穂乃果?」
忘れ物か何かだろうか。
13 :
乃果「…あのさ」
高いテンションとはうってかわって落ち着いた声色でつぶやいた。
真姫「何よ」
穂乃果「…真姫ちゃんの体、あったかいね」
真姫「…なっ、ばっ」
14 :
不意打ち。まさに。
意図せずにしていた後ろから抱き締めるような体制に、思わず慌てる。
穂乃果「3,2,1,」
真姫「ぅえ、は、早いってば」
穂乃果「せーのっ!」
半ば穂乃果に引きずられるようにドアが開かれる。
15 :
真姫「……」
その向こうに描かれた真っ白な世界が、視界いっぱいに広がった。
見慣れたはずのそこは、見慣れない雪によって、ありとあらゆるところが白く装飾され、その非現実感には不覚にも息を呑む。
穂乃果「雪ー!雪だよー!別世界だよー!」
玄関を飛び出していった穂乃果には気付かれていないはず。
平然をすぐに取り戻して、私も次いで外に出る。
本当に眩しい。
蛍雪の功って言いたくなるのも納得するわ。
16 :
穂乃果「ふわふわでふっかふかだー!真姫ちゃん足跡がすごいよー!」
穂乃果は白い息を吐きながら新雪をぼふぼふと踏みつぶしながら駆け回る。
穂乃果「真姫ちゃんもー!こっち!大の字つくろー?」
そんな穂乃果を、子供っぱいとも、犬っぽいとも思った。
17 :
ただ、それ以外の感情も、穂乃果の表情を見て芽生えた気がした。
いや、正しくはあるものに気付いただけ。
自分にちょっと素直になっただけだけと。
真姫「寒いって」
穂乃果「真姫ちゃんとなら楽しいもん」
真姫「一人で十分はしゃいでるじゃないの」
穂乃果「そ、そうかなー。えへへ」
18 :
愛おしい。
彼女が。
頬と鼻をあかくして、なおも降り続ける雪を髪と睫毛に飾って、無邪気で嬉しそうな笑顔を振りまく穂乃果が。
普段着の上にベージュのコートを羽織って、茶色の丸いフワフワした丸いのがついたクリーム色の手袋をして、赤チェックの長いマフラーを巻いた穂乃果が。
たまらなくすべてが愛おしい。
19 :
5mくらい先で照れ笑いをして私に背を向けていた穂乃果が、私の方にくるりと振り向く。
勢いで、マフラーが宙を遊んで、栗色の髪がふわりと風に靡いて雪をキラキラと反射させた。
穂乃果「でもね、二人一緒のほうが、もっと楽しいんだよ?」
その光景は、あまりにも美しくて、絵になっていて、一瞬、視界や意識、聴覚や嗅覚までも、自分を忘れてその世界に奪われた。
真姫「なっ、ばっ」
そんな自分が恥ずかしくなって、冷静さを取り戻すこともできずに、口先でこんな言い訳をする。
真姫「あ、あたり前でしょ、この真姫ちゃんと一緒なんだから」
穂乃果「うん!だから、一緒に遊ぼ?」
20 :
それから、沢山遊んだ。
足跡から始まって、結局やらされた大文字の跡、いやいや作らされた雪だるまに、ほとんど諦観に似た気持ちで作り上げたかまくら。
気が付けば、11時過ぎ。1時間以上が経過していた。
最後にもう一度とせがまれて再び大の文字のポーズで仰向けになって、ため息を吐きながらそれらを眺めていると、私の右側に寝そべっていた穂乃果が私の顔をじっと見つめていることに気が付く。
21 :
穂乃果「…楽しかった?」
真姫「…疲れた」
穂乃果「酷いよー」
頬をぷくっと膨らませて怒るような表情をすると、ぷいと空の方に向いてしまった。
外れた視線に、私の心の中の躊躇いが一つ外れて、恥ずかしい言葉が外に流れ出てくる。
きっと私の平常心をかき乱したこの例外的な雪のせい。
22 :
真姫「…雪で遊ぶこと自体は、楽しくなかった。冷たいし、疲れるし」
穂乃果「…」
真姫「穂乃果がいたから、私も、その、それなりに楽しめたのよ」
自分で言っててものすごく恥ずかしくなる。
穂乃果に言われたことをそのまま返しただけ。そんな風に誤魔化しても、顔の発熱はおさまらない。
23 :
穂乃果「…へへ。えへへへ」
真姫「な、何よ!何もおかしくないでしょっ」
穂乃果「なんでもなーい」
真姫「…」
24 :
穂乃果「…ねえ」
真姫「…なに」
穂乃果「もっとそばに寄っていい?」
真姫「…好きにすれば」
穂乃果「うん」
25 :
穂乃果は一度立ち上がって、さらに近くに来て寝転がった。
ほとんど私の右側面は、穂乃果の体と触れていた。
穂乃果「えへへ」
嬉しそうに笑って、私の右手を握った。
26 :
穂乃果「真姫ちゃん、あったかい」
真姫「当たり前よ。恒温動物だもの」
さっき玄関で不意打ちされて、用意した台詞。
冷静な台詞のはずが、さらに私をおかしくする。
穂乃果「そっか。真姫ちゃんは、いつでも暖かいんだね」
真姫「…当たり前よ」
27 :
穂乃果「あのね、穂乃果も恒温動物だから…あったかいかな?雪の中だって、ちゃんとあったかい?」
真姫「…当たり前よ」
穂乃果が側にいるおかげで、この雪の中、コートに篭った熱は逃げてくれそうにない。
困ったものだと意識を空に向けた。
28 :
ふわりふわりと雪は空を舞いながら地に散り積もった。
美しく舞い、舞い降りて、二人の雪の跡を飾っていく。
新しい雪に塗り重ねられるのが先か、雨や太陽の熱に解かされるのが先かは誰も知らない。
誰かが故意に見えないものにしようとしなくとも、自然と消えていく。
だから、私は、足跡を付けようとは思わない
29 :
無駄だと思っているのかもしれないし、馬鹿馬鹿しいと感じているのかもしれないし、怖いだけなのかもしれない。
ただ、勇気が足りなくて、諦めていたのかもしれない。
30 :
現状にとどまろうとする私とは相対して、穂乃果は、何にでも踏み出していって。
何の崩壊も破綻も恐れず、何も疑わず、ただ一つの何かを目指して、歩み続ける。
周りを引き連れて。
私すら引き連れて、一緒に、足跡を残していく。
31 :
こんな些細な思い出は、いつまで残るんだろうか。
いい思い出として、いつまで残るんだろうか。
雪の跡のように、それは、形を変えて、次第に失われていくに違いないのではないだろうか。
睫毛に触れた雪が、水になった。
体温で、その姿を変えたんだ。
切なくなって、この存在がこの存在であれなくなることが怖くて、寂しくて、無意識に拳に力が入った。
32 :
穂乃果「…真姫ちゃん?」
真姫「…何でもない」
考えないこと、それしかない。
思考に蓋をする。
この雪に翻弄されて、柄にもなく随分とくさいポエムじみた妄想をしてしまった。
テンションが変なんだわ。
33 :
穂乃果「…寒いの?」
真姫「雪がね」
穂乃果「なら、穂乃果はずっとあったかいから、そばにいようね」
私の何かを察して、穂乃果はそう言ったんだろう。
冷え切った心が、その言葉の温かさに少しじんじんとした。
34 :
穂乃果「雪が溶けちゃっても、そばにいよ。ずっと」
思い出を忘れても、嫌な何かに変わっても、変わらずに彼女はそこにいる。
そう、口にしているのだろうか。
喋っているのか、告げているのか、訴えているのか、誓っているのか、私には分からない。
穂乃果「ずっと、一緒にね」
35 :
それでも、その言葉の優しさ、穂乃果の真っ直ぐな思いがあたたかくて、思わずにはいられなかった。
愛おしいと。
大好きだと。
愛していると。
右肩に触れる穂乃果の熱か、私を溶かしていく。
何もかも、忘れさせていく。
36 :
穂乃果「…ねえ」
真姫「…なに」
穂乃果「ちゅーしていい?」
真姫「…好きにすれば」
雪に包まれている今だけは、先のしがらみを忘れられるる気がした。
穂乃果がいればいい。
それだけでいい。
そう思えた。
 
 
 
end
39 :

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