ダイヤ「──とある寶石の誕生日。」back

ダイヤ「──とある寶石の誕生日。」


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2 :
私、黒澤ルビィはお姉ちゃん──ダイヤお姉ちゃんが大好きです。
お姉ちゃんは、おっちょこちょいでちんちくりんなルビィと違って、いっつも背筋を伸ばしてキリっとしていて。
元網元である黒澤家の跡継ぎに相応しくて、ルビィにはよくわかんない行事とか会合にも顔を出していて。
更に学校では生徒会長もやっています。
昔から、皆に頼られている、もちろんルビィも頼りにしている、誰よりもかっこいい自慢のお姉ちゃんなんだぁ。
だからね、出来ないルビィもルビィなりに思うところがあって……。
 * * *
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1505918912/
3 :
花丸「ルビィちゃん、明後日のことなんだけど……」
梨子ちゃんのお誕生会の帰り道、花丸ちゃんが声を掛けてきた。
ルビィ「明後日?」
花丸「えーっと……その」
明後日って何かあったっけ……? えーっと……
ルビィ「あ」
そっか、明後日って
ルビィ「明後日は……ルビィも何かしようかな」
花丸「え?」
ルビィ「だって、お姉ちゃんだって、この日は毎年忙しそうにしてるし……」
花丸「い、いや、そうじゃなくてね」
ルビィ「うぅん、いいの、花丸ちゃん」
我が家では
ルビィ「──そういうものだから。」
 * * *
網元──昔、漁師町には漁師さんたちの道具を管理する、漁師さんたちの……元締め? リーダーみたいなお家がありました。
それが網元です。
今でこそルビィのお家の前には駐車場があったり、観光案内所があったりするけど、本当に網元さんが漁師さんたちを取り仕切っていた時代には、ここ内浦では
このお家──黒澤家から、皆で地引網を持って漁に繰り出していたそうです。
えーっと……前お姉ちゃんから聞いたんだけど……朱印状?
たぶん、そんな感じの賞状……なのかな? 徳川幕府からのお墨付きでここ漁師町を任されていた、貴族……? あ、日本だと豪族……だっけ?
って言われるほど、すごい家系みたいで。
その名残で網元制度がなくなった今でも、大きな影響力を持ったお家の一つとして、ここ内浦を取り仕切っています。
そういう歴史を踏まえた上で、子供の頃からお姉ちゃんから言われてきたこと
ダイヤ『黒澤の娘たるもの、いつも毅然と振舞うのですよ、ルビィ』
毅然と振舞う……って言われてもピンと来ないけど、要はお姉ちゃんみたいにしっかりしていなさいってことだよね。
だから、ルビィは尊敬するお姉ちゃんに追いつこうといつも必死です。……必死にやっても、要領の悪いルビィには全然追いつけそうにないんだけど。
でも、だからこそ、ルビィに出来る範囲のことはちゃんとやらなきゃって思うんだ。
お姉ちゃんにばっかり、大変な思いさせて、ルビィだけが楽しいのは……ちょっと気が引けちゃう。
だから、毎年、この日は……ルビィは何かを頑張ろうとするんだ。
4 :
 * * *
善子「……」
自宅に帰ってから、シャワーを浴びて、自室に戻るとスマホの履歴に見慣れない着信履歴が大量にあった。
──いや、見慣れないってのは少し語弊があるんだけど……
善子「ついに近代化の波がここまで……? いや、これは罠と見た方が……」
私がそんなことを呟きながら携帯の画面をスクロールしていると
その着信履歴と同じ発信先が表示されると共に、好きなロックバンドのデスボイスが耳を劈いた。
善子「──!?!!? うっさいわよ!!?」
自分で設定した着信音に逆ギレしながら、電話に出る。
花丸『ずらー?! ご、ごめんなさい!?』
すると開幕、発信先のずら丸から謝罪された。
善子「何よ今さっき会ってたのに、この着信履歴……。ヤンデレにでも目覚めたの?」
花丸『やんでれ……?』
善子「……なんでもない。……それでどうしたのよ? あんたが自分から電話掛けてくるなんて、珍しいじゃない」
花丸『あ、うん……えっと、らいん? ってやつでいつも善子ちゃんがやってるみたいに、皆でお話するやつがよくわからなくて……』
善子「……? 普通にAqoursのグループ画面に無料通話って──」
言いかけて思い出す。そういえばずら丸の携帯ガラケーだった。
善子「あんたの携帯じゃ出来ないわ」
花丸『え!? そ、そこをなんとかお願いずら!!』
善子「いや、私に言われても困るんだけど……。何か皆と相談したいことでもあるの?」
花丸『あ、うん……えっとね。誕生日会の相談なんだけど……』
ずら丸の言葉に私は顔を顰めた。
善子「誕生日会って今終わったところじゃないの」
花丸『あ、いや……梨子さんの誕生日会の話じゃなくてね』
善子「……? じゃあ、誰のよ」
花丸『えっと、ルビィちゃんの』
善子「いつ?」
花丸『明後日』
善子「……」
花丸『……』
善子「……は?」
ルビィ、アサッテ、タンジョウビ
そんなカタコトな単語が脳内を流れていく。
5 :
善子「……ルビィアサッテタンジョウビ?」
というか思わず、そのままカタコトで電話口に問い掛けてしまった。
花丸『うん』
善子「……初めて聞いたんだけど」
花丸『マルも善子ちゃんに言ったのは初めてだよ』
善子「……」
花丸『……?』
善子「ずら丸」
花丸『なに?』
善子「──どうして、そういうこともっと早くに言わないのよっっっ!!!!!」
思わず電話に向かって叫んでしまった。
花丸『ずらぁっ!!? ご、ごめんなさいっ!!?』
善子「って言うか、そんなに直近なら今日一緒に祝えばよかったじゃない!? Aqoursのメンバー誰も知らなかったの!?」
花丸『あ、えっとね……相談したかったのは、そのことで……』
善子「……そのこと? どういう意味よ」
花丸『……あのね──』
私はここでずら丸が言った言葉に耳を疑った。
花丸『──マル、ルビィちゃんのお誕生日……お祝いできたことないんだ。』
 * * *
私はさっきまでしていた、ずら丸との通話を反芻しながら、考える。
あのずら丸がルビィの誕生日を祝ったことがない。
そんなシチュエーション、逆に考えたことがなかった。
……というか。
善子「何で誰も知らないのよ?」
自分で言っていて、それが疑問だった。
そもそも、スクールが頭に付くとは言え私たちはアイドルなのだ。
誕生日くらいプロフィールに書くし、そのプロフィールもスクールが頭に付くからこそ自分たちで作る。
もちろんAqoursにも公式プロフィールというものが存在するし、それに関するHP上での大半の作業をやっているのは他でもない私だ。
善子「……そういえば、プロフィールのページって大半はルビィが編集してたっけ」
あとはマリーも自分のページは自分で更新してたけど……
なんか、ダイヤに注意されて、直されてたっけ。
善子「……ああ、思い出した」
6 :
私がPV編集作業に追われてるときに
────────
──────
────
──
ルビィ『善子ちゃん、手伝えることってある?』
善子『え? あーうん、ルビィってパソコン結構使えるわよね』
ルビィ『あ、うん、たぶん』
善子『なら、AqoursのHPの編集とか出来る? ある程度はもうヨハネのプロフィールでテンプレート組んであるから……それ真似て出来る?』
ルビィ『うん、わかった! やってみる』
──
────
──────
────────
善子「なんか、その流れでHP作るのは任せちゃったんだっけ……」
カチカチとPCをいじりながら、Aqoursのルビィのプロフィールページを開く。
……確かに誕生日欄には9月21日。明後日の日付が書いてあった。
善子「確認は……したけど、徹夜でPV仕上げてほぼ死に体だったから、最終確認はダイヤにお願いしたような……」
どうせ、一番最後に文句付けてくるのもダイヤだし……。
そんなことを考えていたら、LINEの通話が飛んで来た。
Aqoursからガラケー組をマイナスしたメンバーLINEからだ。
善子「はい、こちらヨハネ」
千歌『あ、善子ちゃん?』
善子「ヨハネ」
花丸『あ、善子ちゃん、聞こえてるー?』
善子「……」
果南『緊急会議って何?』
鞠莉『今日はもう、マリー疲れちゃったんだけど……』
曜『鞠莉ちゃん、結構はしゃいでたもんね……』
梨子『大事な用事……なのかな? 花丸ちゃんがそこにいるし』
千歌『あ、梨子ちゃん手振ってる! おーい!』
花丸『電話しながら手を振るなんて未来ずらー!』
果南『どっちかというと未来感、減ってるような……』
とりあえず、さっきのずら丸との通話をしているときに、一番近くの会議通話が使える人の家に行ってもらった方が早いと思って、千歌の家に向かって貰った。
千歌に簡単な事情は私から予め話しておいたから、千歌の家にずら丸が今さっき到着したから、通話がかかってきたのだろう。
7 :
鞠莉『それで? なんの用事かしら』
善子「ああ、えっと……ルビィの誕生日って、誰か知ってる?」
果南『えーっと……あ、言われてみれば明後日じゃん』
梨子『え!? ルビィちゃんと私ってそんなに誕生日近かったの?』
千歌『私はさっき善子ちゃんから聞いたんだけど……そうらしいね』
曜『……私も初耳かな』
鞠莉『ははーん……なんとなーく話が見えてきたかな……』
どうやらこの口振りからすると、果南とマリーは知っていたらしい。
善子「単刀直入に言うと、ルビィのお祝いをしたいみたいなんだけど……ずら丸が」
なんとなく、自分もと言うのは恥ずかしかったのでずら丸に擦り付けておく。
鞠莉『なるほどねぇー……』
果南『黒澤家はちょっと特殊なんだよね……』
曜『特殊?』
千歌『すぺしゃる!』
鞠莉『No! 発音が違いマース! Specialよ!』
梨子『話戻して貰っていいかな……?』
リリーがツッコミを入れる。いちいち、脱線しないと喋れないのかしら?
善子「何が特殊なの?」
鞠莉『そもそもダイヤもなんだけど……あの家は誕生日にお祝いする習慣がないのよ』
曜『……そんな家あるの?』
ある意味、一般家庭の曜らしい反応。反面千歌は
千歌『あーまあ……大々的にお祝いは出来ない家とかはあるよね』
そう言って言葉を濁している。
果南『千歌の家なんかはまさしくそうだしね。丁度繁忙期にぶつかるし。』
千歌『うん。おめでとうくらいは言ってくれるけどね。』
果南『私も鞠莉が来るまではお祝いこそしてもらっても、パーティみたいなことはなかったかな。島暮らしで他に友達も住んでなかったし。』
なるほど。誕生日に祝うと言っても家庭によって、それぞれ違う。
言われてみれば確かにそりゃそうか、とも思う。
花丸『その中でも黒澤家は特に異質ずら……』
梨子『異質って……どれくらい?』
鞠莉『そもそも誕生日がメデタイことだって、知らなかったレベルよ』
善子「……は?」
思わず、ポカンとする。
8 :
果南『……まあ、善子の反応は正常だと思う』
花丸『むしろ、ダイヤさんに関してはかなり忙しいタイミングだから……』
善子「……ちなみにダイヤの誕生日っていつなの?」
鞠莉『1月1日よ』
曜『元日じゃん!』
千歌『ダイヤさんの元日……絶対忙しい……』
鞠莉『家庭のホーシン? ……みたいなのもあるんだろうけど、そのせいでVery Hardな日ってイメージがダイヤの中で強いみたいなのよね……』
果南『最近になってようやく、世間とのズレがわかってきたみたいで、他の人のお祝いとかは真面目に祝ってくれるようになったんだけど……』
梨子『……あれ? じゃあ、ダイヤさんのお誕生日も』
果南『まあ、お祝いらしいお祝いをしてあげられたことはないかな。どっちにしろ三箇日どころか、冬休み中はほとんど時間取れないし、メールするくらいだよ』
善子「参考までに、ダイヤはそのメールにどんな反応してくるの?」
果南『ありがとうございます。ってメールが返って来る』
……うわ、ダイヤっぽい。
鞠莉『わたしがいない間もダイヤ、そんな感じだったのね』
果南『どこかの誰かのお陰で自然と話す機会もなかったしね』
鞠莉『む……それはその……Sorry...』
果南『冗談だって』
鞠莉『もう! 果南!』
とにかく、状況はわかった。
……あれ? でも
善子「なら、普通に祝えばよくない?」
千歌『……どゆこと?』
曜『いや、私もそう思ったかな。家の方針はどうあれ、誕生日のお祝いは普通にしてくれるってことは、世間一般では誕生日はめでたいことだって言うのは今はわかってるんでしょ?』
梨子『……千歌ちゃん、花丸ちゃん、どうしたの?』
リリーが突然、千歌と花丸を名指しする。……ああ、そういえばベランダ越しに見てるんだっけ。
花丸『特殊なお家だと、それがためらわれる気持ちはわからなくもないずら……』
千歌『めでたいなーって思っても、祝われて嬉しいなーって思っても、家族が忙しそうにしてるとなんか申し訳なくなっちゃうんだよね……』
二人して、そんな心中を吐露する。頭でも抱えながら言ってたのかしら?
曜『……そういうものなのかな』
鞠莉『さぁ? マリーは毎年パパがダイダイテキにお祝いしてくれるし♪』
善子「スケールでかそうね……」
客船貸しきってパーティとかしてそう……。
9 :
善子「……ちょっと待って、これ話まとめるとルビィは別に誕生日にお祝いされたくないってだけじゃないの?」
千歌『いや、そういう家の子でも、お祝いしてもらったら普通に嬉しいよ?』
果南『ダイヤも別にお祝いされたくないみたいじゃないしね。前に聞いたら、時間があるならやってくれたら嬉しいとは思う、って言ってたよ』
鞠莉『へぇー……あのダイヤが……。人間変われば変わるものね。』
善子「いや、だからそれなら普通にお祝いすればいいじゃない」
花丸『問題はそこずら!』
善子「……どこ?」
全く話が見えない。
花丸『問題は……ルビィちゃん自身が、誕生日にお祝いされちゃいけないって思ってることなんだよ……』
……なるほど。
やっとピンと来た。
梨子『ダイヤさんが毎年誕生日は忙しく動き回ってるのに、自分だけ祝われるのはよくないって思ってるってこと?』
リリーが代弁してくれた。
曜『でも、内心誕生日にお祝いして貰える人を羨ましいと思ってるんじゃないか……と』
善子「……まあ、確かにルビィは自分からそういうこと言い出せないタイプかもしれないわね。」
花丸『マルの目から見たらだけど……そうなのかなって……。今日のパーティもルビィちゃん少し羨ましそうだった。』
梨子『こんなに直近だったら……尚更かもね。……悪いことしちゃったかな。』
善子「リリーの問題じゃなくて、ルビィの問題だから、リリーが気にすることじゃないわよ」
梨子『よっちゃん……ありがと』
善子「べ、別に……事実を言っただけだし……」
ただ、自分で言ったとおり、これはルビィの問題だ。ルビィの気持ちの問題。
周りがどうこう出来る話なんだろうか?
花丸『……マルはお祝いしてあげたい。マルの我侭なのかもしれないけど……』
千歌『花丸ちゃん……』
花丸『ルビィちゃんは自分のこと過小評価しすぎだよ……。ダイヤさんがお祝い出来ないから、ルビィちゃんはお祝いされちゃいけないなんて、変だと思う。』
鞠莉『まあ、確かにちょっと極端よねぇ……』
状況を整理してみる。
・ダイヤとルビィは祝われることに慣れていない。
・ダイヤとルビィは祝われたいとは思っている。
・現実的な忙しさの問題でダイヤが祝えないため、ルビィは祝われるのが後ろめたい。
・でも、私たちは出来ることならルビィをお祝いしたい。
曜『ねぇ、一つ思ったんだけどさ』
一人、頭の中で状況を整理していたが、曜の声に思考を引き戻された。
10 :
善子「なにかしら?」
曜『ルビィちゃんの性格だと、パーティをするよって予め言ったら、絶対構えちゃうからさ。その場に引きずり込んじゃった方がいいんじゃないの?』
梨子『あはは、引きずり込むって……』
千歌『あ、でも、私もそう思うかな。ルビィちゃん推しに弱いから、引きずりこんじゃえば、そのままパーティ楽しんでくれると思うよ。』
なるほど……一理あるかもしれない。
花丸『でも、問題はそのあとずら……』
果南『ダイヤのことが解決しない以上……ルビィの性格だったら、楽しんじゃったことを後悔するよね』
善子「めんどくさい姉妹ね……」
思わず頭を抱える。
…………。
……あれ?
善子「ちょっと待って、それって……」
花丸『……どれずら?』
善子「……ルビィが後ろめたく思う必要がなくなればいいのよね」
梨子『そういうことになるのかな……?』
善子「なら、いい方法があるじゃない!」
花丸『いい方法? あるずら?』
善子「ええ、最良の方法よ」
全く、考えてみれば最初から解決方法はこれだったわ。
ルビィをお祝いしたい人は私たちだけじゃない。
いや、私たちよりも、もっとルビィが生まれてきたことを祝福したいはずの人がいるじゃない……!!
 * * *
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