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(デレマス百合SS)的場理沙「さよならツインテール」
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1 :
注意点
2年経過設定(例:的場理沙は14歳の設定)
百合注意
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514008884
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514008884/
2 :
●アイツの答え
「ねぇ、アタシのパパ嫌いが治らなかったら、責任取ってくれる?」
夕日に照らされて、頬の赤さをごまかしながら、目の前に居る人に告げる。
潮風、波の音、自分の髪が揺れる音がしないから、余計に大きく聞こえてくる。
答えがほしくて耳を澄ましているのに、
私の耳を叩くのは、アタシの後ろに広がる海の音
大きくて、広くて……目の前の人と同じ漢字が入っているのに……今のアタシには邪魔にしか思えない。
目の前の人はニヤっとした笑顔をして、『バーカ』と声に出さず唇だけを動かす。
それが、なんか悔しくて、キスを無理やりした。
不意打ちだけの口付け。
離した唇、見つめた目、くちびるに残る温かさ、少し大人な気分になるコーヒーの味。
レモンだとか甘いだとか誰かが言っていたけど、アタシのは違った。
アタシの気持ちは、まだ不安定。
だけど、今は心地いい感じもする。
少しだけ、前より自分らしく過ごせそう。
戸惑った表情の目の前の人に今日一番の笑顔を見せつけながら、そう思った。
3 :
1、理不尽
理不尽だ。
何もかも。
ここ数ヶ月、そんな気持ちだけに支配されている。
最初はちょっとした不快感だった。
いつもそれくらいのはあったし、
アタシのファンにそういう気持ちにさせるヤツだっていたし、
気にしていなかった。
でも、気付いたらそんなレベルじゃ収まらなくなった。
大好きだったものが嫌いになる。
好きだったものも楽しめない。
自分に向けられた言葉がすべて不愉快に思えてしまう。
鏡に映る自分が不完全だって思えて不安になる。
たしか少し前に清良が何人か不安定になるだろうし、そのときの心構えが……とか言っていた。
ハンコー期だっけ……
アタシには関係ないと思っていたから中途半端にしてか聞いていなかった。
そんな中で覚えていたリフレッシュ方法とか真似してみてもそんなに効果を感じない。
そんな効果の無いことが、余計にイライラを助長させてる気がする……。
イライラは消えない……
仕事、レッスン、学校、家
どこでも求められているのが、完璧な自分で、息も抜けない。
そんな日々がどんどんイライラを加させてる気がする。
アイツはそれを分かってない。
ソイツもそれを分かってくれない。
そして何より……
パパが嫌いになっている自分がとても嫌で、泣きそう……
4 :
2、パパ
気付いたらパパが嫌いになっていた。
パパの声が嫌、パパがアタシに触れるの嫌、パパがアタシを褒めるのが嫌
本当にキライなタイプのファンになめるように見られてるのが分かったときと同じ
ううん。
今までの14年間、そういう声や目で見られていたと思うと背筋が凍って、
本当に嫌な気分になる。
ちょっと前までは、それが幸せの元だったはずなのに……
ママにはそんなこと言えない。
アタシはパパと一緒だと幸せだと信じてくれているのが分かるから……
でも、耐えられない……
アタシは、どうしたらいいんだろう……
言えない言葉をダムに溜めているような日々……
いつまで耐えればいいんだろう……
5 :
3、暴発
ダムの決壊は、意外とすぐに訪れてしまった。
決め手になったのは、握手会の最中と後にロリコンたちに言われた言葉。
「梨沙ちゃんは親孝行だね。パパさんも自慢の娘って誇ってるでしょ」
「梨沙ちゃんは変わらないね」
「ツインテールいいよね。梨沙ちゃんって感じがするよ」
相手はファンだから、表情は崩さず、感謝の言葉を伝えて握手する。
その手の温度、汗、息遣い、全部が不潔に思えた。
午前に短い握手会が終わって、その日は握手会の会場が近いからお昼からレッスンが入っていた。
レッスンの前にPに握手会の感想を聞かれた。
「まぁ、プロだしこんなもんでしょ」
と、いつも通りアイツに返事をする。
「さすが梨沙、パパさんも鼻高々だな」
その言葉が、とどめになった。
でも、上手く言葉にできなくて……
「アンタ、誰のプロデューサーなの?」
とだけ俯いて小さい声で呟いた。
アイツは聞こえなかったのか、不思議な顔で首をかしげていた。
6 :
アタシは逃げるようにレッスンに向かう。
更衣室で鏡を見たとき、びっくりした。
鏡に映った自分がひどい顔をしている……
ねぇ、これがプロのアイドルの顔?
ねぇ、こんなのがアタシの素顔?
ねぇ、何で醜いの?
声にならない言葉と、ぐちゃぐちゃに腐っている心が目の前の鏡に映っている気がする。
鏡を見たくなくて、俯くと……隣の撮影ルームで仕事をしているのか、メイクさんたちの道具が置かれている。
こんなものにも気付けないの……もっともっと嫌になっていく……
化粧品、ブロー……それから……ハサミ
「ツインテールいいよね。梨沙ちゃんって感じがするよ」
言われた言葉の一つがリフレインする。
ねぇ、ツインテールじゃなきゃアタシじゃない?
鏡の前の自分に問いかけた。
じゃあ、この髪が無くなったらアタシじゃなくなるの?
答えは返ってこない。
「梨沙ちゃんは変わらないね」
頭の中でリフレインしたのは、聞きたくない声。
アタシは、ツインテールのアタシしか認められていないの?
そんな気持ちに、怒りが沸いてくる。
ジャキッ
掴んだツインテールの根元から決別の音が鳴る
ジャキッジャキッジャキッ
最初に掴んだ位置からだんだんと離れていく手が、アタシに何か訴えている。
パサリとリボンごと床に落ちて、片方の荷物が無くなった。
やっと何かに開放される気がして、涙が出てきた。
もう片方も……
ジャキッジャキッジャキッ……ガチャッ
「オイ、梨沙、まだ準備……って、オマエ! 何やってんだ!!」
新しいアタシを最初に見つけたのは、拓海だった。
7 :
4、焼け石
新しいアタシに待っていたのは、怒りだった。
もちろん、アタシのレッスンは中止。
最初はヘアメイクを受ける。
何でこんな雑な切り方を……とか、いろいろ言われた。
バランスを取るにはベリーショートしかないと言われながら髪を整えられる。
今までに感じたことのない軽さが新鮮で心が少し軽くなった気分になっている。
今なら、思っている言葉も言えそうな気がする。
「アタシの髪だし自由でしょ」と勢いで言ってみたけど、通じない。
「その件についてはプロデューサーさんから言われるはずです」
メイクさんはかなり怒っているらしく、そうぶっきらぼうに言われた。
そして、プロデューサー
最初は何でこんなことをしたのかとか、そんな質問ばっかりだった。
メンドクサくて、答える気になれない。
ずっと誰も居ない方を眺めて黙っていたら、
違約だとか、イメージだとか、いろんなことを言ってきた。
「それって、ツインテールのアタシにしか存在価値は無いってこと?」
その言葉がどうしても引っかかって、プロデューサーを睨みながら言ってみた。
「そういうことじゃない!」
アイツにしては珍しい大声が響く
事務所の全員が静かになって、こっちを見る。
刺さる視線が痛い。
こんな場所に今は居たくない。
「でも、言ってるのはそういうことじゃない! もういい!!」
居た堪れなくなったアタシは事務所を飛び出した。
結局、髪を切っても変わらないか……
そんな気分で事務所の入り口に着くと、
ブロロロロ……とうるさい音が待ち構えていた。
そこに居たのも拓海だった。
8 :
5、逃避行
拓海はヘルメットを差し出しながらアタシを睨んでいる。
「なによ」
「それ被って後ろに乗れ」
「なんでそんな……」
「いいから、乗れ」
最後の一言は、今日聞いてきた言葉の中で、一番優しい気がした。
気付いたらヘルメットを手にとって被ってみていた。
「ほら、こっちだ」
そう言いながら、今度は親指で後ろの座席を指差す。
何でか分からないけど、従ってしまう。
「よし、乗ったな。ちゃんと掴まってろよ」
拓海の背中に抱きつく。
やわらかくて、温かくて、大きい背中……
心が少し落ち着くような気がする。
そして、動き出すバイク
体が風をすり抜けるような感覚が気持ちいい……
どこに行くのかとか、他のことも何にも考えず、
抱きついた感触と、風、音、振動に身を任せていた。
気付いたら周りの風景が変わっていた。
少し太陽が傾き始めた時間。
ふと、感じた潮の香り……
バイクが減しはじめる……
たどり着いたのは、誰も居ない海だった。
9 :
6、潮と夕日と……
渡されたのは、よく見る炭酸飲料だった。
ビニールシートも何も無いけど、気にせずに砂浜に座る。
隣の拓海も同じように座って、コーヒーを飲んでいる。
少し青に赤が混ざりだす時間。
「コーヒーって体に悪いんじゃないの?」
「適度な刺激はいいんだよ」
「そういうもの?」
「梨沙でもすぐ分かるんじゃねぇかな」
「ふーん……ねぇ、アンタは怒らないの?」
「怒られてぇのか?」
「ううん」
「じゃあ、いいじゃねぇか」
「……うん」
どんどん赤く染まる海を見つめてみる……
なんでアタシは拓海とここに居るんだろう……今更ながら思う。
「梨沙」
ふと、拓海に呼ばれる。
横を向いてみたけど、拓海はずっと海を見ている。
アタシも海を見ながら返事をすることにした。
10 :
「なに?」
「バイク乗った気分はどうだ?」
「……風とか気持ちよかった……そればっかで景色とか見てなかった」
「そっか」
「ねぇ」
「ん?」
「何でアタシをここにつれてきたの?」
「う〜ん……何でだろうな」
「ハァ?」
「あれだ、きっと……」
「きっと?」
「髪を切ったオマエなら、ヘルメットをすぐ被れると思ったから」
「へ?」
「髪が長いとメット被るの大変なんだよな」
「……拓海、ウソが下手って言われない?」
「……」
「ま、そういうことにしといてもいいけど……」
「あの時、髪を切り落としたオマエの目が寂しそうだったんだよ」
アタシの言葉はそこで止まった。
「……」
「アタシは同じ時期に周りを傷つけまくって過ごした……けど、オマエにはその道に踏み込んでほしくなかったのも……ある」
拓海の言葉が続く。
アタシが荒れていることは、何となく気付いていたらしい。
でも、それを上手くカバーできる方法は分からなかったし、
同世代の晴やありす、桃華もそれぞれでいろいろ起きているらしい。
11 :
「アタシができるのは、オマエに一瞬でも『今』を忘れさせることくれぇだと思ったんだよ」
「ありがと……」
「どういたしまして」
「ねぇ、拓海」
「どうした?」
「悪いことしたくなる気分ってさ、それを怒られたかったから?」
「それだけじゃないかもな……アタシは怒られても悪化したしな」
「じゃあ、認められたいから?」
「それは……あるかもな」
「……そうなんだ」
「オマエはどうされたい?」
「分からない……パパが嫌いな自分が、とっても嫌になっているし、それに……なんか……」
「なんか?」
「髪を切ったら、ちょっと軽くなった気がしたから」
「そっか……じゃあ……」
「あと、アタシをここに連れてきた人の背中が大きくて温かくて、泣きそうなくらい……安心した」
「……」
そこまで言って、自分が軽く大きなことを口走ったことに気付いて、俯いてしまう。
ジャリッ……という音が隣から聞こえてきて、
気付いたら、温かい感触がアタシの背中を抱きしめていた。
12 :
「こんくらいで梨沙が安心できるなら、いくらでもやってやるよ」
「なんで……そこまで?」
「一つは、昔のアタシを少し重ねたから」
「……」
「それから、的場理沙ってヤツがやるアイドルが自分の筋を通している姿はアタシにとって大好きだから」
アイドルとしてのアタシではなく、『アタシを見ている』という言葉が刺さる。
自分が認められたことが嬉しくて、今度はまぶたが熱くなる。
我慢できなかった声が漏れて、拓海がさっきより強く抱きしめてくる。
「……ありがと」
「これくらいなら安いもんだ」
「……そうやって、女の子ファンを増やしてるの?」
「なんでそうなるんだよ!」
耳元で少し怒られる。
このぬくもりをくれる人に心が惹かれていくが分かる……。
今だけかもしれないけど、一番が入れ替わった気がする。
少し、勇気を出して、拓海の腕をつかんで、抱きしめる強さを少し緩めさせる。
ひざ立ちで向かい合う。
夕日に照らされて、少し顔をしかめているけど、キレイでカッコいい顔が目の前にある。
少し勇気を出して意地悪な言葉を拓海にかけよう。
気の迷いだといわれてもかまわない。
今の正直な気持ちだから……
「ねぇ、アタシのパパ嫌いが治らなかったら、責任取ってくれる?」
終わり
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