【ミリマス】育「戦いの終わり」back

【ミリマス】育「戦いの終わり」


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たたかいのはじまり | サイトロ #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7583500
この作品に敬意を込めて
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513351782
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513351782/
2 :以下、
まるでわたしのことを避けるように、ブーケが私の頭を駆け抜けていく。
「育?」
もちろんブーケに意思なんかない。
白いアネモネと水色のスカサビオのシルクフラワーをまるく組み合わせたブーケは、わたしの親友の桃子ちゃんの手の中におさまっていた。
「どうかした?」
「育、どんな顔してるかなって」
「趣味わるいなー」
そう言ってブーケと桃子ちゃん、そして投げた花嫁さんとを見比べてみる。
さっきまでちょっと泣きそうだったんけれども、アイドルとして、いや女性としてどうなのよと言いたくなるほど泣いている恵美さんとエレナさんのお世話で、すっかりひいちゃったみたい。
もったいない。二人とも気合入れてメイクしてたのに……。
3 :以下、
「写真撮りに行かなくていいの、桃子ちゃんは?」
「後で行くよ。今はみんなごっちゃになってるから、私は後でゆっくり撮るの」
わたしは、そうやってあまり素直ではないことを言う親友の顔をまじまじと見つめてみる。
綺麗な鼻から唇へのライン、ガラスから刻みだしたみたいに繊細すぎる薄い目蓋、しっとりと濡れたみたいな漆黒の睫毛、白よりももっと透明な肌、薔薇色の頬、血色の唇。
そして二人していつもよりちょっぴり気合を入ったメイク。
わたしは普段から結構ガッツリメイクをする派だけれども、桃子ちゃんは普段は薄く薄くのナチュラルメイク派。
余談だけれども環ちゃんはスッピンで、メイクするのはお仕事の時と、それこそ環ちゃんのプロデューサーさんとお出かけする時くらいじゃないかな、はい余談おしまい。
4 :以下、
なんでこんなに気合が入っているかというと、
今日は結婚式だから。
琴葉さんとプロデューサーとの。
5 :以下、
琴葉さんとプロデューサーさんはみんなに囲まれている。
二人の写真はあらかたみんな撮り終わったのか、次は自分と琴葉さんとのツーショットを撮りに行っている。
プロデューサーさんは、同僚のプロデューサーさん達に胴上げされて、……あっ、落っこちた。
わたしと桃子ちゃんは少し離れたところから、その光景をぼうっと見ている。
別に琴葉さんのことが嫌いなわけじゃない、むしろ事務所でも大好きなほうだ。
なんたって“ライバル”だったんだから。
ただ今はなんとなくその輪に加わることができなかった。
隣の親友はそんなわたしに付き合ってくれている。
6 :以下、
「そういえばさ」
「うん」
「アレ、どうするの?」
アレとは半年前に生まれた海美さんの双子兄妹の愛くるしさに悶えて泣き始めた亜利沙さんのことではない。
いくつになってもまっすぐだなー、あの人は。
「アレねー、どうしよっか」
アレ。
おおよそ10年前のクリスマスに、目の前で腰をさすりながら抗議活動をしているあの人から貰ったアレ。
ほんとはずっと嵌めていたかったけれども、ファンへのあれだったり、世間体的なこれだったりで普段はチェーンを通してネックレスにしてたアレ。
さすがに今日ここにはめてくる勇気はなかった、さりとてどうしても置いてくることのできなかったアレは、わたしのバングルクラッチのバッグの中にある。
そんな金色に輝く指輪。
7 :以下、
どうして、わたしに、指輪を。
そう聞けないまま、10年間過ぎた指輪。
右の指先が、何にもはまっていない左の薬指をなぞった。
「もう持っとくわけにはいかないでしょ」
と桃子ちゃんが言う。
ナイス親友。言いにくいことをズバッと言ってくれる。
そうなのだ。
だってもう一度、今度は本物の指輪をはめてくれるはず相手は、“ライバル”と結婚したのだから。
「琴葉さんが相手なんだから、わたしも早くおとなにならなきゃ」
なんてことを言ったっけかな。
8 :以下、
あの日から十年経ったけれども、果たしてわたしは『おとな』になれたのだろうか。
身長は160センチを越した、あの日から覚えたメイクはそこそこ様になってると思う。
小学生だったわたしは、大学生になって。
今はアイドルと並行してモデルの仕事もこなしている。
誕生日は最近迎えた。
お酒だって飲めるようになった。
だってのに!あの頃の琴葉さんとより、全然子供なままな気がする。
唯一勝ってるかなってのは環ちゃん以下、桃子ちゃん以上のこの胸くらいなもんだ。
9 :以下、
「なんか失礼なこと考えなかった、今」
ジロッとこっちを睨むマイフレンド。
エスパーだったりするのマイフレンド?
「わたしねー」
「……誤魔化したでしょ。うん?」
「『油断してたら危ないよ?わたし、2号さんからの逆転狙ってるからね』って言ったんだ、琴葉さんに」
隣を見ると、このみさんや莉緒さん、時たま千鶴さんがする通称「いやーんな感じ」のポーズをする親友の姿があった。
10 :以下、
「いつ言ったのさ」
「卒業会で」
卒業会。
このみさんが結婚した時に、莉緒さんが立ち上げた会。会の目的は極めて簡単。
独身の人たちが結婚する人を全力でお祝いする以上!そんな飲み会のことである。
立ち上げた本人が、その次すぐに卒業にして、今の会長はまつりさんだ。
本人はすごく不本意そうであったが、それをネタに自分のとこプロデューサーに甘えてるので、むしろ得してるんじゃないかな。
「琴葉さん、なんて?」
「『せいぜい気をつけるわ』だって」
「大人って感じだね」
「うん」
「で?」
11 :以下、
顔をこっちにむけて桃子ちゃんは、わたしに答えを促す。グロスを塗ったリップが何か言いたげに開き、結局閉じた。
口にしたかったのは「どうするの?」かな、多分。
「今日まではさ、本気だったよ。本気で狙うつもりだった。でもさ……」
何もはまっていない左の薬指をぎゅっと、握った。
「わたしが入り込む余地なんて、これっぽちも無いんだなって……。今日あらためて思い知らされたよ」
12 :以下、
そうだったのだ。
わたしが琴葉さんにライバル宣言をしたあの日から、じゃあ何か変わったかと聞かれたらなーんにも、これっぽちも変わらなかった。
琴葉さんはちゃんとお化粧することが増えたし、お料理だって美奈子さんに教わって、あの人にお弁当だったりを作ってたりしてた。
『渡すからには完璧なのじゃないと!』という琴葉さんに付き合わされて、恵美さんとエレナさんが試食でお腹パンパンにしてたこともあったし。
どんどん琴葉さんが魅力的になっていくその一方で、じゃあわたしはどうだっただろうか?
別にただそれを見ていたわけじゃあない。
わたしだってお料理頑張ったし、もっともっとプロデューサーさんにとって魅力的になろうとした。
13 :以下、
けれども、そんなわたしの姿はもしかしたらプロデューサーさんの目には入ってなかったかもしれない。
いや入っていても、それを琴葉さんと張り合って、とは思わなかったんじゃないかな。
ただの子供の背伸び。そう思われていたのなら心外である。
実際のところはどうなのか、分からない。
ただプロデューサーさんと琴葉さんと、わたしの三角関係は生まれなかった。
結局のところ、琴葉さんがプロデューサーさんのこと好きだったように、プロデューサーさんも琴葉さんのことが好きだったのだ。
そりゃわたしの入る余地なんかないよねっと。
14 :以下、
「桃子ちゃんはさ」
「うん」
「この指輪、どうしたらいいと思う?」
あの時も思ったけれども、今になってより思う。
これ、小学生に贈るようなものじゃない。
そりゃ琴葉さんの指に嵌っているのと比べたら見劣りしちゃうけれども、それでもだ。お母さんに「小道具で貰ったのー」と誤魔化したぐらいだ。
理由なんか分からない、もしかしたら聞く機会はもう無いのかもしれない。
10年の想いがこもったそんな指輪。
どうしたらいいんだろうね。
「……そうだね」
と桃子ちゃんは思案顔。
わたしは桃子ちゃんの持ってるブーケに目をやる。
案外この親友が先に結婚するのかもな、と思ったが、あの二人じゃまだ先の話だよねっと。
最近ようやく手を繋いだ話を3時間されたことを思い出した。
くぐってきた修羅場もそうなら、あの時勢いでキスだってしてるのに。
莉緒さんの言うとおり、桃子ちゃんはネンネだなぁ。
15 :以下、
「やっぱり失礼なこと考えてない?」
親友はまたわたしの心をお見通しのようだった。
「ちがうよー。それでどうしたらいいと思う?」
「……育はさ、どうしたの?」
まさかの質問返しである。
そういうことはしちゃいけないって小学校で教わらなかったのかな。
「それが分からないから桃子ちゃんに聞いたのに」
「そう?私には育がどうしたいかって、もう決めてるような気がするけれども」
「もしかして桃子ちゃんってわたしの心読める?」
「読めないよ。ただ何となくこうかなーってわかる」
16 :以下、
何たって私の方がお姉ちゃんなんだから、とイタズラっぽくわたしの頭をくしゃくしゃにした。
もーせっかくセットしたのにー、と思う気持ちが3割。
後の7割は、桃子ちゃん、自分とこのプロデューサーさんと同じことしてるって微笑ましい気持ち。
17 :以下、
「……わたしね、失恋旅行に行こうと思うの」
「失恋旅行?」
ゆっくりと、わたしの言葉を繰り返す桃子ちゃん。
「そっ。 失恋旅行。 お腹いっぱい美味しいもの食べて、気持ちいい温泉に入って、そして最後に海にこの指輪を投げるの」
「……捨てちゃうんだ」
「違うよ。 投げるの」
「同じことじゃない?」
「同じじゃないんだなー、それが」
「そっか」
18 :以下、
言葉にしづらい微妙なニュアンスも親友は感じ取ってくれた。
そう捨てるんじゃない、プロデューサーさんを好きだったわたしをどっかに置いていったりはしない。
それがわたしだから。それも含めてわたしだから。
「桃子ちゃんも行こうよ、失恋旅行」
「なんで私がそんな辛気臭い旅行に……」
「桃子ちゃんだって行くかもしれないじゃん。このみさんも莉緒さんも、のり子さん、綺麗だからなぁー」
「……負けないもん」
そう言って頬を膨らませた桃子ちゃんの顔はどこか子供っぽくて、そして綺麗だった。
わたしもあんな顔してたのかなって思った。
19 :以下、
次の恋なんてどこにあるか分からない。
もしかしたらわたしの小指にあった運命の赤い糸は、どこにも繋がってないのかもしれない。
でもそれをクヨクヨ悩むのは、もうやめよう。
とりあえず今は……。
「そろそろ琴葉さんのとこ、行く?」
「そうだね」
プロデューサーさんと琴葉さんに、おめでとうって伝えに行かなきゃ!
おめでとう、琴葉さん!
幸せにならなきゃ許さないんだから!
そしてプロデューサーさん?
琴葉さん、泣かせたりしたら怒るからね!
……なーんてね♪
20 :以下、

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