発明家「お、やっと来たか被検体。遅いぞ全く」back

発明家「お、やっと来たか被検体。遅いぞ全く」


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1:
幼馴染「あんたと違って部活やってんだから仕方ないでしょーが。……いや待て、あんた今あたしのこと被検体って」
発明家「とりあえずそこに座れ。今から今回の実験について説明する」
幼馴染「おい、実験ってなんだ! あたしは面白いゲーム買ったって聞いたから来たんだぞ!」
発明家「すまんな、あれはお前をここに呼ぶための嘘だ」
幼馴染「は?!」
発明家「今回お前には俺が発明したこの機械の性能を確かめるべく……こらこらどこに行く気だ」
幼馴染「帰るんだよ。あんたのくだらん発明なんかに付き合ってられっか!」
発明家「くだらんとは何だ。この前俺の発明品がお前を酷い便秘から救ったのを忘れたのか?」
幼馴染「あれのせいであたしは1週間おなら止まらなかったんだぞ! 史上初だ、おならで出席停止扱いになったのは!」
発明家「音と臭いで授業にならなかったからな。でも便は下ったんだからくだらなくはないだろ?」フフフ
幼馴染「かーっ、くだらねっ!」
2:
発明家「まぁ確かにあれには問題もあった。クレームの電話が鳴りやまなかったからな。だが今回はちゃんと人体実験をしてから世に出すつもりだから大丈夫だ」
幼馴染「その人体実験をあたしでやるつもりなんだろ?! 絶対に協力しないからな!」
発明家「今回は絶対に屁など出ない。絶対に安全だからとにかく説明だけでも聞いてくれ。こんなことを頼めるのはお前しかいないんだ!」
幼馴染「あんた友達いないもんな、性格最悪で」
発明家「そうだ。お前だけなんだ。それに協力してくれたらお前が未だに親と一緒じゃないと眠れないのだって黙っといてやるから」
幼馴染「そういうとこが性格最悪だって言ってんだ! ってか何で知ってんだ!」
発明家「この前おばさんに自白機を使ったら簡単にゲロってくれた」
幼馴染「他人の母親にてめえ!」
3:
発明家「……む、もうこんな時間か。早く実験を始めたいから手短に説明するぞ。今回お前には、クモの遺伝子を組み込む実験に協力してもらう」
幼馴染「クモ……? クモって虫の……?」
発明家「そう、スパイダーだ。あそこに二つの大きなガラスのシリンダーが並んでいる機械があるだろう?」
幼馴染「お、おう……」
発明家「あの内の一つにお前が入り、もう一つにクモを入れる。すると溶解液が流れ込み、二つをシリンダーの中でドロドロに溶かす。それから真ん中の装置で混ぜ合わせると、クモの能力を手に入れたお前の出来上がりというわけだ」
幼馴染「どこが安全だ馬鹿! なに恐ろしいもの作ってんだ!」
発明家「クモの能力はいいぞ。スパイダーマンみたいになれるぞ」
幼馴染「溶解液で溶かすって! 死んじゃうでしょーが!」
発明家「説明は以上だ。早実験を開始する」ピッ
機械「オートモード……サドウ。……ミックススル……ザイリョウヲ……イレテクダサイ。……ハイリシダイ……ミックスヲカイシシマス」
幼馴染「材料て!」
発明家「クモ投入」ポイ
幼馴染「うわ……思ってたクモと違う! 黄色くてデカッ! キモッ!」
発明家「幼馴染投入」グイッ
幼馴染「わあああああ! やめろ! 押すな馬鹿!」
発明家「観念しろ。今日からお前はスパイダーガールだ」
4:
幼馴染「そんなに実験したきゃあんたが入れ!」ガッ
発明家「痛っ! アッ!」ガチャン
幼馴染「あ……」
機械「ミックス……カイシ」
発明家「うわああああああああ! やめろ! 出せ!」ドンドン
機械「ヨウカイエキヲ……トウニュウシマス」
発明家「万が一にも死んだらどうする! おい、止めてくれ!」ドンドン
幼馴染「死ぬかも知れないもんにあたしを入れる気だったのかよ……」
発明家「頼む、緊急停止スイッチを押してくれ!」
幼馴染「ちょっ……どれよそのスイッチって! いっぱいあって分かんないんだけど!」
発明家「右から4列目の……ぎゃああああああああああ!」ジュワアアアアア
機械「トウニュウ」
幼馴染「ああ! 一瞬で溶けた!」ヒイ
機械「ミックスシマス」ゴウンゴウン
8:
幼馴染「い、生きてるかぁ……?」ビクビク
機械「ミックスカンリョウ」チーン
発明家「……」モクモク
幼馴染「あ、出てきた……。良かった……」ホッ
発明家「ほらな? 何も問題なかっただろう?」
幼馴染「あんだけ騒いどいて何言ってんだ……ってか前! あんたすっぽんぽんだぞ! ///」キャアア
発明家「服はミックスの過程で排除されるようにできている。それよりも見ろ! クモの糸が手首から出るぞ!」ビュルビュル
幼馴染「いいから服着ろ! ///」
発明家「これくらいで恥ずかしがりやがって、このおませさんめ」スルスル
幼馴染「何で上着から着るんだよ! パンツから履けよ! ///」
9:
***
1時間後
発明家「ほら見ろ! 壁だって登れちゃうぞ! 死ぬほど疲れるけど!」プルプル
幼馴染「そりゃ全体重を指先と足で支えてんもんな……。でも今回の発明にはホントに驚いた」
発明家「そうだろう? クモだけじゃなく、色々な生き物でも試せるぞ。これがそのリストだ」
幼馴染「どれどれ……クマムシ人間。……劣悪な環境でも生き残れます?」
発明家「大量の放射線を浴びてもビクともしない、サバイバル特化の超人になる」
幼馴染「うわ……ハエ人間とかもあるのか……。誰が試すんだこんな気持ち悪いの」
発明家「ハエを見くびってはいけない。ハエはあらゆる昆虫の中でも飛行能力においては最高峰なんだぞ」
幼馴染「でもハエの羽が生えちゃうのはなあ……。お! この猫人間ってのは?」
発明家「猫のように軽やかな身のこなしができるようになる。それから猫のかわいらしさもプラスされるぞ」
幼馴染「何?! かわいくなるのか?!」
発明家「興味津々だな。試してみるか?」
幼馴染「あんたを見る限り安全そうだし、可愛くなれるんなら試す」
発明家「そうこなくてはな」ククク
10:
***
幼馴染「絶対に出てきたとき見るなよ。もし見たら引っ叩くからな」
発明家「安心しろ。俺は人間の裸には全く興味がないんだ」ピッ
機械「ミックススル……ザイリョウヲ……イレテクダサイ」
幼馴染「ホントかよ……。てっきりあたしはあんたがそのクモの力で女湯でも覗くつもりなのかとばかり……」
発明家「俺はそんなねじ曲がった性癖など持っとらん。それ、猫投入」ポイ
猫「にゃー!」ガチャン
幼馴染「あ、あと溶解液で溶かされても痛くないんだよな? 安全でも痛いのは嫌だからな?」ガチャン
発明家「……」ピッピッ
幼馴染「お、おい! 何とか言え! 痛くないんだよな?! な?!」ガンガン
発明家「……」ニコッ
幼馴染「なんだその笑顔は! やめろ! 一旦出せ!」
発明家「実験開始!」ピッ
機械「ヨウカイエキヲ……トウニュウシマス」
幼馴染「うわああああああ! やめろおおおおおお! ぎゃあああああああああああああ」ジュワアアアアア
機械「トウニュウ」
発明家「おお、溶ける溶ける」ホオ
機械「ミックスシマス」ゴウンゴウン
11:
発明家「さて、目隠しでもしといてやるか」ギュッ
機械「ミックスカンリョウ」チーン
幼馴染「……」モクモク
発明家「生きてるか? 今目隠ししてるから、服着たら教えてくれ」
幼馴染「……うん」スルスル
発明家「いやー、それにしても今回の発明は凄いな。もうこれノーベル賞貰えるんじゃないだろうか」ワクワク
幼馴染「……」スルスル
発明家「この機械に名前も付けとかないとな。何がいいだろうか? ゲノムミキサー? いや違うな……」
幼馴染「……着替えたぞ」
発明家「そうか。じゃあ目隠し取るぞ」シュルッ
幼馴染「滅茶苦茶痛ェじゃねえかてめええええええ!」バキッ
発明家「げええええっ!」ドガシャアアアアアアン
12:
幼馴染「痛いなら痛いって言えよ馬鹿! 全身を切り刻まれてんのかと思ったわ!」バキッバキッ
発明家「つ、痛覚なんて人それぞれだ! 俺は全然痛く感じなかったけど、たまたまお前は痛がりだっただけだ! だから殴るのをやめてくれ! 痛い痛い!」ヒイイ
幼馴染「さっきの痛さはこんなもんじゃなかったぞてめえ!」ガンガン
発明家「そ、それよりもせっかく猫とミックスしたんだから鏡見てみろ! 凄く可愛くなってるぞ!」
幼馴染「あ、そうだ! あたし可愛くなってるんだった! 痛すぎてそれどこじゃなかった……」ハッ
発明家「きっと驚くぞ。目なんかクリンクリンだぞ」
幼馴染「そ、そんなに可愛いのか……?」ドキドキ
発明家「研究室を出てすぐ右に洗面台があるからな」
幼馴染「ちょ、ちょっと見てくる……///」
13:
***
5分後
幼馴染「……」スタスタ
発明家「遅かったな。そんなに可愛くなった自分をまじまじと見つめていたのか、このナルシストめ」ハハハ
幼馴染「……」タッタッタ
発明家「な、何だ? 怒ってるのか……? 可愛くなっただろう?」ビクビク
幼馴染「猫じゃねえええかああああああああああああッ!」バキッ
発明家「げええええっ!」ドガシャアアアアアアン
幼馴染「まんま猫じゃねえか! 巨大化して二足歩行してる猫じゃねえかあああああ!」バキッバキッ
発明家「大丈夫! さっきの数十倍可愛い! だから殴るのをやめてくれ!」ヒイイ
幼馴染「戻せ! 今すぐ戻せ!」ガンガン
14:
***
10分後
発明家「すまなかった。どうやら俺とお前の間で美的感覚に差異があったようだ。先に俺が生粋のケモナーだということを伝えておくべきだったな。俺は動物のキャラクターを見ると興奮を覚えるんだ」ズタボロ
幼馴染「ねじ曲がった性癖しやがって……」チッ
発明家「……それでさっき説明した通り、元に戻す機械を作るのにだいたい1か月くらいかかる。だからしばらくはそのままの格好でいてほしい」
幼馴染「ふざけんな! こんな姿でどうやって学校行けってのよ!」
発明家「大丈夫だ。担任には俺の方からお前が人体実験で少し猫っぽくなったと伝えてある」
幼馴染「少しどころじゃないっての! 学校行く途中で猟友会に撃ち殺されたらどうすんだ!」
発明家「安心しろ。そのときは俺のクモの糸で……」ビュルビュル
幼馴染「くっそ頼り無え! もっと映画みたいにシュパーって出せよ! せめて2メートルくらい飛ばせ!」
発明家「勢いよく出そうとすると何故か下腹部に鈍い痛みが走るのだ。これ、ホントに出しても大丈夫なんだろうか……?」
幼馴染「あたしに訊くな馬鹿!」
15:
発明家「とにかく俺は今から機械の制作に取りかかる。お前の家はすぐ隣だから、誰かに見られる心配もないだろう」
幼馴染「一体家族にニャンて言えば……」アアア
発明家「かわいい……///」ポッ
幼馴染「やめろ! あたしを変な目で見るな!」
発明家「ちょっとハグしていいか? いや、ハグだけと言わずもっとこう……///」ハアハア
幼馴染「ち、近寄るとグーでいくからな! 脅しじゃないぞ!」ビクビク
発明家「ふふふ、今の俺はスパイダーマンだぞ? 本気を出せばお前なんてなぁ……///」グイッ
幼馴染「ニャあああ! やめてえええええええ!」
16:
***
発明家「ちょっとふざけただけなのに……本気で殴りやがって……」ウウウ
幼馴染「機械は2週間で完成させろ……。完成しなければお前を殺す……」
発明家「すいませんでした……。殺さないでください……」ビクビク
幼馴染「じゃああたしは帰るからな」バタン
17:
***
幼馴染宅
幼馴染「た、ただいまー……」ガチャ
弟「あ、お姉ちゃんお帰ぎぃいいいいやあああああああああ!」
幼馴染「あ、違うの! 違うんだよコタローちゃん! これには深ーいわけがあって!」
弟「おがあざあああああん! おがあああああああああざああああああああああん!」ビヤアアアアアアア
母「ちょっとどうしたの? 玄関先で大声出したらご近所にぴいいいいいいいいいいい?!」ガタガタ
幼馴染「あの、今から説明するから落ち着いて! 気持ちは分かるけども! 気持ちは分かるけども一旦落ち着いて!」
母「そ、その声は夕子……? 夕子がどうして化け猫に……?」ブクブク
幼馴染「ああ……! 気絶しちゃった……!」
弟「お姉ぢゃんをがえぜえええええええ! びやあああああああああああ!」ポカポカポカポカ
幼馴染「違う違う! お姉ちゃんはあたし! ってか勇気あるなコタローちゃん! あたしならこんな状況、ソッコーで逃げるんだけど!」イタイイタイ
18:
***
その晩
父「そ、そうか……お隣で人体実験してて……」
母「何でそんなに軽々しく人体実験なんかしちゃったの! タバコやタトゥーとは次元が違うのよ!」ポロポロ
幼馴染「あいつが猫みたいに可愛くなれるっていうから……。まさかそのまんま猫になるとは……」
弟「でも慣れてきたら可愛いよ」
幼馴染「……コタローちゃん、もしかして動物のキャラクターに興奮したりする?」
弟「別にしないけど……」
幼馴染「よかった……」ホッ
父「それよりも今後どうするんだ? 元に戻れるまで学校を休むのか?」
幼馴染「この前おならで学校休んじゃったし……更に休むと授業についていけなくなる……」ウウン
母「一応学校側に事情は説明してあるらしいけど……。でもこんな格好で電車なんか乗ったら大騒ぎよ?」
父「おならで学校休むって……やめて、腹痛い……」プクク
幼馴染「お父さん! 笑い事じゃない!」
母「そうよ! それよりも今後どうするかを真剣に考えて!」
父「すまんすまん。まぁ通学のことなら気にするな。父さんが車で送り迎えしてやるから」
弟「いいなぁ、お姉ちゃんばっかり!」
父「ほんとにお姉ちゃんが羨ましいか?」
弟「……。やっぱり羨ましくない」
父「だろ?」プクク
幼馴染「笑うな!」
19:
***
翌朝
母「ほら、早くしないと学校遅れちゃうじゃないの」
幼馴染「うう……学校行きたくないよぉ……」
母「ちょうど猫耳のニットがあって良かったわ」スポッ
幼馴染「別に普通のニットでいいじゃん……」ブスー
父「おーい、準備できたかー?」
幼馴染「ごめーん今行くー」
母「はい、こうやってマフラー巻いたらぱっと見分からない! 完璧!」グルグル
幼馴染「完璧じゃないよぉ……。行ってきまぁす……」トボトボ
母「くれぐれも学校以外で見られないようにね!」
父「お、来た来た」
発明家「遅いぞ全く。何してた」カタカタ
幼馴染「あんたが何してんだ! 降りろてめえ!」
父「こら夕子。ケンちゃんはお前を元に戻すためにこうやって1分1秒を惜しんで頑張ってくれているんだぞ」
幼馴染「お父さん! 原因コイツ! 娘を異形の姿に変えた悪魔をニャンで乗せんのよ!」
父「例えケンちゃんが原因だろうが、今のお前を救えるのはケンちゃんだけなんだぞ?」
発明家「そういうわけだ。さっさと車に乗れ」カタカタ
幼馴染「きいいい! ムカつく!」
20:
***
父「じゃあ仕事終わったら迎えに来るから、それまで学校に残って勉強でもしててくれ」フワアア
発明家「ありがとうございました。おじさん眠そうですね」
父「隣に巨大な猫が寝てんだもん。眠れるわけないよ……」
発明家「だそうだ。そろそろ一人で眠れるようになってやれ。おじさんがかわいそうだ」
幼馴染「うるさいな! そもそもあんたのせいでこうなってんでしょうが! ///」ゲシッ
父「前は隣で延々と寝っ屁嗅がされたし……」ハァ
発明家「どうしようもないやつだなお前」
幼馴染「それもあんただ! 全部あんたのせいなんだよコノッ! ///」ゲシッゲシッ
父「喧嘩するほど仲が良いってね」ハハハ
幼馴染「良い訳あるか! さっさと仕事行け! ///」ガンガン
父「おお怖」ブロロロロロ
幼馴染「ったく……///」
発明家「さあて、どうやって教室に入ったものか……」
幼馴染「どうやったってパニックになる未来しか見えニャいっつの……」ハァ
21:
***
教室
担任「皆席に着いたかー?」
生徒「先生、呉羽さんがいませーん」
担任「大丈夫だ。いや、まぁ全然大丈夫じゃないんだが。今日のHRを前倒しでやってんのは呉羽についてお前らに説明しとかなきゃならんからだ」
呉羽FC「ま、まさか呉羽さんが転校するんじゃ……!」
呉羽FC「そ、そんな……! まさかこの前のおなら事件を気に病んで……!」
担任「転校じゃない。ただなんというかその、外見がえらく変わってしまったというかその、つまりあれだ。いきなり見たらびっくりしてしまうからな」
呉羽FC「外見が……?! まさか事故で顔がぐちゃぐちゃに……?!」
呉羽FC「そんな! 嫌だ! 僕らの呉羽さんが!」
担任「事故でもない。まぁこれについてはまたもや山田が関わっているから、山田に説明してもらう。山田、前に出て来い」
発明家「はい」ガタッ
呉羽FC「山田……またてめえか……!」ギリギリ
呉羽FC「呉羽さんに何しやがった……! 場合によっちゃぶち殺すからなてめえ……!」ギリギリ
発明家「おそらく口で言ってもお前らのような凡人には到底理解ができんだろう。とりあえずこれを見ろ」ビュルビュル
生徒「うわ! 山田君の手首からなんか白い変なのが!」キャアアアア
発明家「な?」
生徒「『な?』じゃねえよ! 何を見せられてんだよ俺たちは!」
発明家「今出したのはクモの糸だ。つまり俺はスパイダーマンなんだ」
生徒「……?」
担任「……山田、何言ってるかさっぱり分からんからもう少し分かりやすく頼む」
発明家「分かりました。俺は昨日、遂に他の生物の遺伝子を体内に組み込む機械を完成させた。その第一実験として俺はクモの遺伝子を体内に組み込み、クモ人間になったのだ。ここまではお前らでも理解できるな?」
生徒「怖! 何してんだおめえ!」
発明家「次にこの機械の安全性を確認した呉羽夕子が、猫の遺伝子を体内に組み込む実験に志願してくれた。実験は成功し、彼女は猫の身体能力と猫のかわいらしさの両方を手に入れたのだ」
呉羽FC「何?! 呉羽さんがさらに可愛くなったとでも言うのか?!」
呉羽FC「ふざけんなてめえ! キングオブかわいいの呉羽さんがあれ以上可愛くなるわけねーだろボケ!」
呉羽FC「あと幼馴染だかなんだか知らんが、呉羽さんを呼び捨てにしてんじゃねえぞこのタコ!」
発明家「俺の目から見れば、彼女は確かに可愛くなった。ただし、彼女自身は残念ながらその外見の変化に戸惑いを隠せないでいる。もしかするとお前らも戸惑うかもしれない、とこういうわけだ」
呉羽FC「ええい、てめえの説明分かりづれえよ! とにかく早く呉羽さんのかわいい顔を見せてくれ!」
呉羽FC「そうだ! 僕らの呉羽さんを早く!」
発明家「……確かに一度見た方が早いな。先生」
担任「こ、これで大丈夫か……? ま、まぁいいや……。呉羽、入ってこい」
幼馴染「み、みんニャおはよー……」ガラガラ
生徒「」
呉羽FC「」
22:
担任「……HRは以上だ。多分この後大騒ぎになると思うが、他の教室は授業してるから極力静かにな」
日直「きりーつ。れーい」
全員「「ありがとうございましたー」」
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
発明家「な、なんだお前ら。離せ! どこに連れてく気だ!」
呉羽FC「……ちょっとトイレ行こうぜ山田」プルプル
呉羽FC「どうしても我慢できなくてよお……」プルプル
23:
***
生徒「夕子! あんたホントに猫になっちゃってんじゃない!」キャアアア
生徒「うっそこの耳本物?!」ヒイイイ
幼馴染「うん……それより男子トイレの方から怒号と悲鳴が聞こえるんだけど……」
生徒「それどころじゃないって! うわあ目なんかクリンクリンになっちゃって!」
生徒「これホントに元にもどるんだよね?」
幼馴染「一応あいつが元に戻す機械を作ってるけど……1か月くらいかかるって……」ハア
生徒「困ったことがあったら何でも言ってくれ。腹が減るならネズミも捕ってきてやるから」
幼馴染「き、気持ちだけ頂いとく……」ハハ
25:
***
発明家「ひ、酷い目に遭った……。あいつら他人の尻の穴を何だと思っているんだ……」ヨロヨロ
幼馴染「あ、戻って来た。痣だらけだけど大丈夫か? 何されたんだ?」
発明家「聞かない方がいい。まだお前には早い」ウウウ
幼馴染「よくわからんけど、まあいいや」
呉羽FC「呉羽さん……。ああ、こんな姿になって……!」
呉羽FC「随分と変わっちゃったけど、体は大丈夫ですか? 吐き気がするとか、お腹が痛いとか……」
発明家「糸を勢いよく出すと下腹部が痛む」
呉羽FC「てめえには訊いてねえ!」
呉羽FC「すっこんでろハゲ!」
幼馴染「うーん……体は問題ないんだけど、鉛筆がうまく持てニャ……あ、持てないのが難点かな」
呉羽FC「……///」ポッ
呉羽FC「……///」ポッ
呉羽FC「……///」ポッ
呉羽FC「……///」ポッ
呉羽FC「……やっべ、メチャクチャ可愛い///」ポッ
幼馴染「ちょ、ちょっと……皆どうしたの? 目が怖いんだけど……」ビクッ
26:
***
19:00
父「おまたせ。随分待ったか?」ガチャ
幼馴染「ううん、ちょうど部活が終わったとこだし」
発明家「お願いします」ヨッコイセ
父「で、どうだった? 学校では何も問題はなかったか?」
幼馴染「全っ然! むしろ絶好調なくらい! 体育ではスーパーヒーローだし、授業で寝ちゃっても猫だからで許してくれるし」ニャハハハハ
発明家「ただし周りはそうでもなさそうだ。呉羽FCの中では人間派と猫派で内部抗争が勃発している。俺としてはケモナー仲間が見つかって嬉しい限りだが」
父「もし人間に戻れない場合は夕子を嫁に貰ってくれ、ケンちゃん」ハハハ
発明家「喜んで貰います。ただし人間に戻ったら死んでも御免蒙りますが」ハハハ
幼馴染「何あんたら失礼なジョークで親睦を深めてんだ! こっちから願い下げだ馬鹿野郎! ///」ガンガン
父「ちょ! 父さん今運転中だって!」ウワア
発明家「まったく。車内くらいは落ち着いたらどうだ」フウ
幼馴染「あんたは何落ち着き払って座ってんだよ……。さっさと作業続けなさいよ……」ギュウウウウウ
発明家「痛だだだだだ! 今やるから脇腹をつねるな!」カタカタ
27:
***
22:00
幼馴染「待てえ?コタロ?!」バタバタ
弟「きゃああ!」バタバタ
幼馴染「捕まえた! がぶっ!」
弟「うわあああああ!」ジタバタ
母「はいはい、リアルライオン狩りはお終い。コタローちゃんはもう寝なさい」
弟「えー……」シブシブ
幼馴染「さーてあたしもお風呂入って寝るかな」
母「あ、夕子は最後に入ってね。あなた入った後、湯船の毛がすごいし」
幼馴染「ストレートに言ってくれるなぁもう……。好きでこうなったんじゃないのに……」
母「なっちゃったものは仕方ないでしょ。なった以上はどうやれば皆が気持ちよく過ごせるかに全力を尽くすのよ」
幼馴染「ちぇー。ならコタツでテレビでも見てよっと」
母「お待ち。お母さん、夕子が帰ってから宿題とか予習してるとこ見てないんだけど」グイッ
幼馴染「ひえっ?! 何この感覚?!」
母「猫は襟首掴まれるとそうなんのよ。ほらお隣の研究室なんか煌々と灯りがついてるじゃないの。これも全部あなたを元に戻すために……」
幼馴染「えぇ?……。だってこれはあのバカが撒いた種だし……」
母「実験を承諾したのはあなたでしょうが。ケンちゃんも頑張ってるんだから、あなたも頑張んなさい」
幼馴染「うう……わかったよぉ……」
28:
***
24:00
幼馴染「ふぃ?いい湯だった?……。あ、もうこんな時間か……」
母「ちょっと夕子。寝る前にこれ、ケンちゃんとこに持ってってあげなさい」
幼馴染「ココアとクッキー? こんなの持ってったら絶対勘違いされるじゃん」
母「大丈夫よ。ケンちゃんこの前、夕子にはピクリともこないって言ってたし」
幼馴染「今はやばいんだって。あいつケモナーだから」
母「そのケモナーってのがなんなのかよく分かんないんだけど」
幼馴染「大丈夫、お母さんは知らなくていい世界の話だから」
母「そう?」
幼馴染「だいたいお母さん、自白機使われときながらあいつに優しすぎんのよ……」
母「自白機……? うう! 頭痛が……!」
幼馴染「き、記憶障害を起こしてる……! ……あの野郎!」
母「と、とりあえずこれを……お願い……!」!フラフラ
幼馴染「分かった分かった! 持ってくからお母さんはもう休んでて!」アアモウ
29:
***
幼馴染「おーい、夜食持ってきてやったぞ。起きてんだろー?」ゴンゴン
幼馴染(……。返事がないな……。電気つけっぱで寝ちゃったか?)ガチャガチャ
幼馴染(鍵かかってるもんな……。あそこの窓からなら入れるかな?)ピョン
幼馴染(おお! さすが猫……! どこまで通れるかがヒゲで分かる!)スルッ
発明家「……」ブツブツ
幼馴染「なんだ、ヘッドホンつけてたのかよ……。ほら、休憩だ。夜食持ってきたぞ」ガポッ
発明家「!」ハッ
PC「はぁ?ん?」
幼馴染「」
発明家「……」ブチッ
PC「はぁ?……」ブッ
幼馴染「」
発明家「……」スッ つパンツ
発明家「……」スッ つズボン
幼馴染「」
発明家「……なんだお前か。こんな時間にどうした?」
幼馴染「『どうした?』じゃねええええ!」バキッ
発明家「ぎえっ!」ドガシャアアアアアアン
30:
幼馴染「一生懸命機械作ってるかと思えばてめえ……。なにのんびり楽しんでやがんだ……」
発明家「ご、誤解だ! 何故か俺のPCにウイルスが入ってしまったからその原因を探っていたらだな……!」アセアセ
幼馴染「原因はてめえの覗いてたサイトだろうが……!」ギリギリ
発明家「ぎいいい! 首はやめろ! 死ぬ!」ジタバタ
幼馴染「とりあえず今日、作業がどこまで進んだかを説明しろ……!」
発明家「……」ハハハ
幼馴染「……」ギリギリ
発明家「する! 説明するからとりあえずその手を離してくれ!」ジタバタ
幼馴染「……どこまで進んだんだ」パッ
発明家「え、えっと……まずここにデータの打ち込みをした……」
幼馴染「……。それから?」
発明家「……。以上です」ガクガク
幼馴染「……」ギリギリ
発明家「ひいいいい! 今から頑張るから! 俺はエンジンかかるのが遅いタイプだから!」ジタバタ
31:
***
幼馴染「……」ガチャッ
発明家「い、椅子なんか出してどうする気だ……?」
幼馴染「これからあんたを見張るんだよ……。このまま自由にやらせてたらいつ元に戻れるのか分からん」ギイッ
発明家「お、俺は一人の方がはかどるタイプなんだが……」
幼馴染「何がはかどるんだ……? 一人遊びがか……?」ギロッ
発明家「な、何でもない……」カチャカチャ
幼馴染「……ったく」ズズ
幼馴染「熱ちゃちゃちゃちゃ!」
発明家「ププ……。猫舌……」ククク
幼馴染「何見てんだ……。殺すぞ……」
33:
***
2:00
発明家「うう……眠い……。眠りたい……」カチャカチャ
幼馴染「……」
発明家「……少し仮眠を取りたいんだが」チラッ
幼馴染「……」スピースピー
発明家「……なんだ、寝てるのか」
幼馴染「……」ピクピク
発明家(……。痙攣している……かわいい……///)ポッ
発明家(ちょっとくらい触っても大丈夫だろう///)ソオー
幼馴染「……」スピースピー
発明家(わあお……///)サワサワ
34:
***
3:00
幼馴染(な、なんだ……? さっきから頭を撫でまわされてるような……)ウトウト
発明家「ハアハアハアハアハア……! ///」サワサワサワサワサワサワ
幼馴染「……」ハッ
発明家「ハアハアハアは……っ!」
幼馴染「」
発明家「……」ヨッコイセ
発明家「……さあて、続き続き」カチャカチャ
35:
***
翌朝
幼馴染「……」ムスッ
発明家「……」カタカタ
父「……ええと、何があったのか訊いてもいいのかい? ケンちゃんなんて顔面に包帯巻いてるし……」ブロロロロロ
幼馴染「なんでもない」
発明家「ちょっとした不注意で肉食動物に顔を爪で抉られただけです。お気になさらず」
父「そ、そう……」ブロロロロロ
36:
***
父「ちょっとそこの自販機でコーヒー買ってくるから待っててくれ」キキーッ
幼馴染「……あー眠い」フワア
発明家「お前は椅子に座って寝てただろ。俺なんか一睡もしてないんだぞ……」カタカタ
幼馴染「これでずっと真面目に取り組んでるんなら同情もしてやるっての……」フラフラ
銀行員「ご、強盗だーっ! 誰か捕まえてくれー!」
幼馴染「! 強盗?!」ハッ
発明家「あそこで覆面の男が走っているぞ! スパイダーマンの出番だ!」バン
強盗「ひいひい!」タッタッタ
発明家「食らえ、クモの糸!」ビュルビュルッ
発明家「痛たたた……下腹部が……」ウウウ
幼馴染「あたしにまかせろ!」シュタタタタタタ
37:
ドライバー「早く車に乗れ!」ガチャ
強盗「もうちょっと近いところに車つけとけよ!」ハアハア
幼馴染「おらっ!」ドカッ
強盗「ぎえっ!」ドシャアアアア
ドライバー「ひいい! 化け猫だあああああ!」ブロロロロロ
幼馴染「ええい、観念しろ!」ギュッ
強盗「うわあああああ! 喰われる! 誰か助けてくれえええええ!」ギャアギャア
通行人「虎が強盗を取り押さえたぞ!」
通行人「かしこい虎だ!」
通行人「すごいぞ!」ヒューッ
通行人「それより警察に連絡だ!」
通行人「猟友会にも連絡だ!」
幼馴染「待って待って! 猟友会はダメ! あたし殺される!」アワワワ
39:
***
――――――
【お手柄! 猫の女子高生!】
アナウンサー「次のニュースです。今朝、○○市の××銀行○○支店で強盗事件が発生しました。犯人はすぐに近くを通りかかった通行人に取り押さえられましたが、なんとその通行人、猫の女子高校生だったのです」
――――――
リポーター「お手柄でしたね! 現金を持った強盗にタックルをかましたということですが!」
幼馴染「なんというか無我夢中でした。気づいたら体が動いていたというか」
リポーター「ものすごいさで走ったそうですね!」
幼馴染「猫ですからね」
リポーター「ちなみに100Mを何秒くらいで走れるんでしょうか?」
幼馴染「7秒くらいです。猫になる前は13秒くらいでした」
リポーター「そもそも何故猫に?」
幼馴染「猫の遺伝子を体内に組み込んだらこうなりました」
――――――
アナウンサー「犯人は2人組の男で、逮捕されたのは35歳無職の川上康夫容疑者。警察によりますと、川上容疑者は容疑を認めているそうです。そしてもう一人の犯人は現在逃走中ということです」
――――――
――このニュースに街の反応は
会社員「びっくりしましたね。猫人間なんているんだって」
主婦「最初は怖かったんですが、段々かわいく見えてきました」
小学生「会ってみたい……」
ケモナー「嫁! 俺の嫁!」
――――――
アナウンサー「以上7時のニュースでした」ペコリ
40:
***
教室
生徒「夕子! 昨日のニュースで見たよ! すごいじゃん!」
生徒「今ネットでも検索ワードの1位が猫JKになってるぜ!」
幼馴染「にゃはは……それほどでも///」テレテレ
呉羽FC「だから猫の呉羽さんの方が最高だっつったろ!」バキッ
呉羽FC「うるせえ! それでも俺は人間の呉羽さん派だ!」ドカッ
担任「聞いたぞ呉羽。警察署から感謝状貰ったんだって?」
幼馴染「えへへへ……1日署長もやってくれないかって言われちゃいました///」
発明家「お前のおかげで俺の所にも世界中の研究所から相当な数のメールが来ている。できればもう少しそのままでいてほしいんだが」
幼馴染「ふざけんな。さっさと機械作って元に戻せ」
生徒「ねえ夕子! 部活終わったら一緒にプリクラ撮りに行かない?」
生徒「もう有名になっちゃったんだから、隠れてる必要もないでしょ?」
発明家「いや、まだ表を歩かない方がいいだろう。プリクラを撮りたいなら他を当たってくれ」
幼馴染「いちいちうるさいなあんたは。うん、いいよ! お父さんには迎えに来なくていいって電話しとくし」
発明家「しかしどこに危険なケモナーが潜んでいるか分からないんだぞ」
幼馴染「あんたほど危険なケモナーがどこにいるっての! 手ぇ出して来やがったくせに!」
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
呉羽FC「」ガタッ
発明家「……お、おい、誤解だ……。俺はただ一時間無許可で頭を撫で続けただけで……」ビクビク
呉羽FC「それでも十分な罪に当たると思わんか、山田……」プルプル
呉羽FC「ちょっとトイレ行こうぜ、山田……」プルプル
呉羽FC「どうしても我慢できなくてよお……」プルプル
41:
***
3週間後
女子高生「わー! 猫JKの呉羽さんだ! 一緒に写真いいですか!」
幼馴染「にゃはは、あたしなんかでよければ///」イチタスイチハー? ニャー! パシャッ
駄菓子屋「猫ちゃん、これ良かったら食べて」ハイ
幼馴染「どうもすみません///」
サラリーマン「よっ! 猫ちゃん! 今日もかわいいよ! ///」
幼馴染「ありがとうございます。今日も一日お疲れ様ですニャ?」
サラリーマン「くうううう! 明日も頑張れるううううう! さっさと帰って風呂入って寝よっ! ///」シュタタタタタ
生徒「……あいかわらずすごい人気ねー」
生徒「でも『お疲れ様ですニャ?』って何よ。ちょっとあざとすぎだっての」
幼馴染「いいのいいの。それで皆が幸せにニャれるんニャら」カカカ
生徒「くっそ……かわいいなコイツ……」
42:
幼馴染「あ、ごめん。メール来た」ピロリン
生徒「誰から?」
幼馴染「隣に住んでる馬鹿から。早く帰ってこいってさ」ピッ
生徒「山田君、お母さんかよ」
幼馴染「馬鹿のことはほっといて、次何処いく? カラオケでも行く?」
生徒「おお! いいね!」キャイキャイ
生徒「行こう行こう!」
43:
***
発明家「ふう、もう少しで完成だな……」カーンカーン
母「ケンちゃんいるー?」ゴンゴン
発明家「あ、おばさん。今開けます」ガチャッ
母「夜遅くまでお疲れ様。夜食にお好み焼き作ったんだけど」ハイコレ
発明家「いつもすみません。それより夕子はまだ帰ってませんか? 今夜中には元の姿に戻せそうなんですが」
母「それがあの子、まだ帰ってないのよ。ちょっと有名になったからってチヤホヤされに毎晩フラフラと……。帰って来たらキツく言っとかなきゃ」
発明家「……全部俺のせいです」
母「違うのよ。ただあの子が天狗になってるだけだもの」
発明家「……。あ、すみません。電話です」プルルルル
発明家「山田だ。名前と要件を言え」
母(なんて高圧的な電話受け……)
発明家「何?! 呉羽夕子が?! 警察にはもう連絡したのか?! してない?! さっさとしろ馬鹿たれ! 場所はどこだ?!」
母「ちょ、ちょっとどうしたの?」
発明家「……夕子が黒塗りのバンでさらわれました」
母「そ、そんな!」
44:
***
幼馴染「んむー! んむー!」ギニャニャニャニャニャ
人さらい「おら、大人しくしねーか!」
人さらい「痛え! 引っかかれた!」
ドライバー「おいおい、車内で暴れんなよ」ブロロロロロ
幼馴染「ぶはっ! あ、あんたこの前の!」
ドライバー「おー覚えててくれたか。この前は世話になったな。おかげで俺の仲間がムショにぶち込まれちまったよ」
幼馴染「あたしをさらってどうする気だ! うちは身代金を払えるほど金持ちじゃないぞ!」
人さらい「家に帰すわけねーだろ。海外に売り飛ばすんだよ」
人さらい「世の中にはお前みたいなやつが大好きなケモナーがごまんといるからな。かく言う俺もその一人だ」
幼馴染「へ、変態め! 寄るな! 触るな!」ジタバタ
ドライバー「おい、スタンガンか何かで静かにさせろ。うるさくて敵わん」
人さらい「おう」バチバチバチッ
幼馴染「?!」フギャッ
幼馴染「」クタッ
45:
***
警察「今警察が全力で捜査していますが、まだ何の手がかりもつかめていない状況でして……」
母「ああ……!」ポロポロ
弟「お姉ぢゃあああああん!」ビャアアアアアア
父「俺が送り迎えをしてやっていれば……!」クッ
生徒「うわあああああん! 夕子おおおお!」ウエエエエエエン
生徒「あたしらが夕子を連れ回したりしなければ!」ヒックヒック
呉羽FC「こうしちゃいられねえ! 学校中の呉羽FCに召集命令を出せ!」
呉羽FC「呉羽さんを捜しだすぞ!」
発明家「……。黒塗りのバンと言ったな。ナンバーは覚えていないのか?」
生徒「あたしら気が動転してて……」ヒックヒック
発明家「なら仲間の顔は見ていないか?」
生徒「覆面被ってたし……」ポロポロ
発明家「覆面……?」ハッ
警察「な、何か心当たりでも……?」
発明家「ああ。自白機の出番だ!」キリッ
46:
***
強盗「な、何なんだこの機械は?! ホントに安全なのかコレ!」ヒイイイ
発明家「お前の仲間とアジトを言え! どこにあるんだ!」ピッピッピッピ
強盗「それだけは言えね……オエエエエエエエ! 気持悪い!」ゲエエエエエ
生徒「なにあの機械……。頭にあんなにチューブ挿して大丈夫なの……?」ビクビク
警察「これ、法に触れるんじゃ……」アワアワ
母「ううっ! 何故かあの機械を見ると頭痛が……!」フラッ
父「大丈夫か母さん!」ガシッ
強盗「仲……間の……名前……は……矢沢……秀樹……溝内……誠……岸辺……徹……。アジ……ト……は……」アッアッ
生徒「白目剥いてるし……」ガタガタ
47:
***
アジト
人さらい「引き渡しは明け方だそうだ」ピッ
人さらい「てことはまだたっぷり時間があるな」
幼馴染「誰かー! 助けてー!」ジタバタ
ドライバー「この辺は夜になると人がいなくなるから、外に声なんか聞こえないぞ」
人さらい「こんなチャンス滅多にないんだ……。楽しまなきゃ損だぜ……」ハアハア
ドライバー「傷物にだけはするなよ? 大事な商品なんだからな」
幼馴染「な、何する気だ! やめろ!」ヒイイイイ
人さらい「くくく。決まってんだろが……」ソオーッ
幼馴染「ニャああああああ! やめてええええええええ!」ジタバタ
人さらい「……///」サワサワ
幼馴染「……?」
人さらい「頭モフモフだぁ?///」サワサワ
幼馴染(な、なんだこいつ……)
48:
警察「そこまでだー! モフモフするのをやめて出て来い! 貴様らは完全に包囲されている!」ガピーッ
ドライバー「何?! 何故警察がここに!」
幼馴染(……た、助かった!)ホッ
人さらい「まさか川上のやつが口を割って……」アワアワ
人さらい「いや、あいつに限ってそれはない! だ、だがどうする?!」アワアワ
ドライバー「落ち着け! こちらには人質がいるんだ!」グイッ
幼馴染「ニャッ?!」
警察「すぐに投降しなければこちらから突入する! 何事もあきらめが肝心だぞ!」ガピーッ
49:
***
警察「出て来ませんね……どうします?」
警察「仕方ない……突入だ!」
50:
***
警察「おらあああ! 降伏しろおおお!」ドガシャアアアン
警察「撃つぞこらあああああ!」
ドライバー「銃を捨てろ! この猫が死んでもいいのか!」ギュムッ
幼馴染「うう……こいつ猫の弱い部分を知ってやがる……」カチーン
人さらい「逃走用の車を用意しろ!」
人さらい「ちょっとでも近づいたら頭撃ち抜くぞコラ!」チャッ
警察「く、くそ! 卑怯者め……!」
警察「ど、どうします? このままでは……!」
ドライバー「ははは! どうだ、何もできないだろう!」
発明家「……」ツーッ
警察「」ビクッ
ドライバー「どうした? 声も出なくなっちまったか?」ヒャヒャヒャ
発明家「……」ゴキッ つ首
人さらい「オエッ?!」ドシャッ
ドライバー「ひっ?! いつの間に後ろに!」ビクッ
警察「今だ! 行け行け!」
警察「おらあッ!」バキッ
警察「この犯罪者どもめ!」ドカドカ
人さらい「ひいい! 参った参った!」
ドライバー「堪忍して!」
51:
***
警察「いやー! 君の勇気ある行動のおかげで無事に事件を解決できたよ! 天井から糸で下りてくるのを見たときは、こっちの心臓が止まるかと思ったけど!」
発明家「いや、幼馴染として当然のことをしたまでだ」
警察「後日、君には署から感謝状が贈られるだろう。あと君の発明した自白機とゲノムミキサー? あれについて訊きたいことが山ほどあるから、これから一緒に来てくれ」
発明家「……。あの、別にその……。悪いことに使おうと思って作ったわけでは……」
警察「いいから来い」グイッ
発明家「あ」ズルズル
幼馴染「あ、あの! ちょっと待って!」
発明家「夕子、お前が無事で安心した。さらわれたときは流石に肝を冷やしたぞ。これからは夜遊びなんかするんじゃないぞ?」
幼馴染「ごめん……。そしてありがとう」ギュッ
発明家「……! ///」
幼馴染「……ハグしてみたかったんでしょ? ……これは助けてくれたお礼///」
発明家「……いや、ハグだけと言わずもっとこう……///」ハアハア
警察「来い! 君からは何か危険な臭いがする!」グイッ
発明家「あ」ズルズル
52:
***
数日後
発明家「腐れポリ公どもめ……この俺を誰だと思ってやがる……」ピッピッ
幼馴染「そりゃあんだけ違法な物作ってたらそうなるっての。まだ厳重注意で済んでよかったじゃん」
発明家「……まぁこのことはもう忘れよう。よし、準備完了だ」
幼馴染「やっと人間に戻れる……」フウ
発明家「……ホントに戻るのか? そのままの方がずっとかわいいのだが……」
幼馴染「もう猫はこりごり。いくらチヤホヤされても、誘拐されてたんじゃ身がもたんわ」
発明家「せっかく理想の嫁が手に入るかと思ったのに、残念だ」ハア
幼馴染「……仕方ねーな。人間にもどったらあんたと付き合ってやるよ///」
発明家「結構だ」
幼馴染「そうかよ! ///」ケッ
発明家「元に戻るには真ん中のシリンダーに入るんだ。そうすると溶解液が流れ込み……」
幼馴染「ドロドロになって向こうの装置で猫と人間に分かれるんだろ? またあの激痛を味わうのか……」アーヤダヤダ
発明家「安心しろ。麻酔を打っておけば大丈夫だ」プスッ
幼馴染「ちょ! 打つなら打つって言ってから……!」フラッ
発明家「目が覚めた時にはすべて元通りだ」ガシッ
53:
***
――夕子! 夕子!
??(あ、お母さんの声がする……)パチッ
母「夕子! お母さんよ! 分かる?」
??「お母……さん」
母「よかった! 気がついた!」
父「なかなか目を覚まさないから心配したぞ!」
弟「お姉ちゃん!」
幼馴染「にゃー!」
??「お父さんに……コタローちゃん……それにあたし……」
??「……」
??「……あたし? なんであたしがそこに……?」
母「えっと……なんて言ったらいいのか……」
父「とりあえず鏡を見てみろ……」ハイ
猫「?!」
弟「だ、大丈夫だよお姉ちゃん! 今ケン兄ちゃんが死に物狂いで元に戻す機械を作ってるから!」
猫「あ……あ……」
猫「あんニャろおおおおおおおおおお!!!!!!」
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