ある門番たちの日常のようですback

ある門番たちの日常のようです


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1:
コトリと音を立てて執務机に何かが置かれた。
書類から顔を上れば、目の前にはほんのりと熱を発する缶コーヒー。更に視線を上に転ずると、見知った顔が二つコンビニ袋をぶら下げて立っている。
( ´_ゝ`)「提督殿、秘書艦殿、朝食をお持ちしました」
(´<_` )「上司への気遣いを忘れない俺達、流石だよな。返礼は叙○苑の焼き肉で結構ですよ」
「………何倍返しだそりゃ」
「えっ、何々朝食!?差し入れ?!」
それまでウンウン唸って別の机に突っ伏していた秘書艦の鈴谷が、兄の方が口にした台詞に反応して飛び起きる。
もしコイツが犬だったなら、千切れんばかりに振られる尻尾が俺の眼に映ったことだろう。
「いやー、大義であるぞ!秘書艦として褒めて遣わす!
それでそれで?何を買ってきてくれたのかな〜?」
( ´_ゝ`)「うむ、ほれ軍手」
(´<_` )「付け合わせに、はい軍手」
「それを鈴谷にどうしろって!?」
どちらかが鏡の像なんじゃないかってぐらい似てる兄弟が掛け合い、それに巻き込まれた俺や艦娘の誰かがからかわれる。
この大洗第七警備府では、見慣れた光景。
少しずつだが確実に変わっていく世界の中で、その光景は幸いにもまだ“いつも通り”だった。
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2:
〜ある門番たちの日常のようです〜
3:
( ´_ゝ`)「ま、冗談はさておき………ほれ」
兄の方がガサガサと袋の中を漁り、何かを此方に投げてくる。かざした左手に収まったそれは、トイレが異様に綺麗な店舗が多いことに定評がある某コンビニチェーン店のサンドイッチだ。
(´<_` )「こっちは鈴谷の分だ。今時女子にはちと味気ないかも知れないがな」
「そんなこと全然無いよ!買ってきてくれただけでもすっごい助かるもん!」
鈴谷はそう言って手渡されたサンドイッチの包装を引っ?がすとノンストップで三口ほど齧りつき、それからペットボトルの紅茶の蓋を外し唇を付ける。くぴり、くぴりと可愛らしい音と共に、彼女の喉が何度か脈打った。
「───ぷっへぇ〜〜〜………あ゛ー、生き返ったわぁ〜〜〜」
ペットボトルの方も半分ほどを一息で空けて、それを勢いよく机の上に置きながら鈴谷が叫ぶ。
「いやー、9時間ぶりの飲食は染みるねぇ〜〜。この一食のために生きているって感じ!」
( ´_ゝ`)「言動が完全におっさんのそれだな」
(´<_` )「今時女子(52)だったか………」
「二人は鈴谷をからかわないと死んじゃう病気か何かなの?!」
どったんばったん大騒ぎを尻目に、サンドイッチを手に取り包装を破る。
一口かじると、たちまち甘い生クリームの味と果実の酸味が舌の上に広がった。
空腹は最高の調味料とはよく言ったもので、いざ飢えを自覚するとただのコンビニプレミアムでしかない筈のフルーツサンドが不覚にも涙が出るほど美味い。
( ´_ゝ`)「しっかしまぁとてつもない量の書類だな」
手に持っていた残骸を麦茶で流し込んだ俺が早々に二つ目を頬張る横で、兄の方が机の上にうずたかく積まれた紙束の内一つを手に取った。
ぱらぱらと捲りながら、弟より少しだけ高い鼻をふんっと鳴らす。何かに驚いたときのコイツの癖だ。
( ´_ゝ`)「そりゃ司令府も重要視するか。ドイツの一件は」
4:
兄の方の口調はいつもと変わらないように聞こえるが、紙上の文字を追う目付きはいつもの何十倍も鋭い。弟も、どことなく表情が硬くなる。
………当たり前の話だが、この件は鎮守府や艦娘に限らず自衛隊にとってもかなりの重大事だ。興味や関心を持つなと言う方が無理だろう。
「提督、いいの〜?アレ、横須賀総司令府から直送されてきた奴でしょ?」
「あとで共有することになる内容だったから構わないさ。それに、場末警備府のしかも民間公募出身の提督に門外不出の重大情報を共有させるとも思えないしな」
「………それ、自分で言ってて悲しくならない?」
「………やかましい」
悲しいが事実だから仕方ない。
それにしても、読むさに舌を巻く。40P以上ある筈の資料が、二分も経っていないのにもう残り1/4程に差し掛かっている。
( ´_ゝ`)「太平洋側全域の沿岸防衛強化に伴う、野分、木曾、那智、羽黒の配備か」
(´<_` )「未改装とはいえ警備府に重巡2隻配備とは横須賀の元帥殿も思い切ったもんだ」
「ま、この辺りは“艦娘先進国”の強みってところだ。戦艦も重巡も空母も潤沢に揃って日本中に配備され続けてるからな」
最後のページを読み終えた兄の方から資料を手渡され、俺はそれを“処理済み”の山の方に戻す。
因みに“未処理”の山はまだ処理済みの1.5倍ほどの規模がある。軽く死にたい。
( ´_ゝ`)「その“潤沢な戦力”を持ってしても今回の再編は勝手が違うようだが」
「規模が規模だ、仕方ないさ」
資料によると、竹島、尖閣、対馬の鎮守府から艦娘戦力を一部転用している。ウチに来る那智も尖閣諸島鎮守府からの転属だ。兄の方が指摘したのはこの事だろう。
7:
日本海側、特に竹島と尖閣諸島に築かれた鎮守府は名目上“深海棲艦が日本海側に出現した際の予備防衛戦力”とされているが、それが“建前”に過ぎないことは国内外の誰もが知っている。
要は、この二島に対して深海棲艦の出現前から“領土的野心”満々の某国とか某国への楔だ。
そして、深海棲艦に対するものとは別方向で国防の要だった拠点から戦力を動かさなければいけないほど、事態はこれまでになく逼迫しているとも言える。
「日本には及ばないとはいえドイツは欧州最大の艦娘保有国だったんだ。その国が艦娘戦力のほぼ九割と国土の半分を失ったわけだからな。
俺たちは末端だから又聞きの又聞きだけど、司令府の方じゃいつ日本が“第二のドイツ”になりゃしないかと戦々恐々らしい……ん゛ん゛っ!!」
本格的に一息入れるべく伸びをしながら俺は門番の兄の方を見上げた。
「海上自衛隊本体の方はどうなんだ?この分だと相当大きく動いてそうだが」
( ´_ゝ`)「動かなかったら頭おかしいだろ常考」
(´<_` )「海自だけじゃなくて陸自、空自もかなりピリピリしてるぞ。在日米軍も見てる限りだと戦力移動が頻繁だ」
肩を竦める兄の後を、即座に弟の方が受ける。甘党の彼は胸ポケットからいつも持ち歩いている老舗菓子メーカーの飴を取り出すと、それを一粒口に放り込んだ。
(´<_` )「身近なところで言えばお宅にももう連絡が行ってるだろうが猫山と椎名の北部方面への転属、それから艦娘寮の守衛だった清水一曹も原隊復帰。あとデカいところだと、防空艦隊のヨーロッパ派遣に伴う艦隊再編だな」
8:
「えっ!?しぃさんとギコさん異動しちゃったの!?」
サンドイッチを食べ終え、残りの紅茶をちびちびと堪能していた鈴谷が目を丸くして机から立ち上がる。相当ショックだったようで、ばさばさと書類が床に落ちたが反応さえしない。
因みにギコとしぃは、それぞれ猫山義古一曹と椎名美子一曹に対する艦娘達の渾名だ。
(´<_` )「先週には決まってたんだが………言ってなかったのか?」
「あー………こっちも辞令は受け取ってたが言うのは忘れてたな。鈴谷、すまん」
丁度その頃に書類地獄が始まったので、完全に頭から抜け落ちていた。鈴谷はしばらくぱくぱくと酸素不足の金魚みたいに口を開閉させた後、がっくりうなだれて机に突っ伏す。
「最近二人とも来ないな〜って思ってたけど、そういうことだったんだね………はぁ〜〜、風邪とか出張で一時的なもんだと思ってたんだけどなぁ………」
( ´_ゝ`)「そんな露骨にガッカリすると松本と羽瀬川が泣くぞ」
「いやいや、あの人たちも優しかったり面白かったりで鈴谷も皆も仲良くやってるよ?ただほら、ギコさんたちとはここが設立された頃から一緒にやってたからさぁ」
鈴谷は未だに二人の異動が受け入れられないらしく、重ねた手の甲に顎を乗せて唇を不満げに尖らせている。
………まぁ、俺もあの二人にはかなりお世話になったので気持ちとしては同じなのだが、ここまで慕われている様を見ると提督として少し悔しいものがあるな。
16:
胸の内に沸いたやや黒い感情を自己嫌悪と共に咳払いで吐き出す。世話になっただけでなく、立場は違えど艦娘と共に国防を担ってくれている人々に嫉妬とは我ながらあまりにも見苦しい。
( ´_ゝ`)「野分たちの着任は三日後、と。一応羽瀬川たちにも共有しておくか?」
「あぁ、頼む。どのみち今日にも共有する予定だった情報だしな……っと、入っていいぞ」
「提督、失礼するわ」
乾いた音が二度響き、双子が入ってきた後も半開きのままだった戸を押し開けて加賀が入ってくる。
(´<_`;)「おぉう………」
我が警備府最強の艦娘である一航戦の両手には、新たな書類の山が溢れかえっていた。その内1/3程が自分の目の前に上乗せされたのを見て、鈴谷の表情がこの世の終わりを迎えたように絶望的なものに変わる。
残り2/3が追加された俺の表情?
ははは、言うまでも無いから割愛しよう。
「横須賀総司令府から防衛計画の更新と、それに伴う新規任務の関連書類が送られてきたわ。あと、学園艦の航行制限令に関連した文部科学省からの依頼その他諸々、こっちは海上自衛隊の人員募集協力に関する書類、在日米軍との連携手順、深海棲艦上陸阻止失敗時の避難計画にその時の私達の役割、今後のマスコミ対応に関するマニュアルも───」
(;´_ゝ`)「加賀さん、加賀さん、ストップ。提督も鈴谷もフリーズしてるから。少し落ち着かせてあげてくれ」
「……あら、流石一曹。いらっしゃったのね。
何か差し入れ?いいけれど」
(´<_` )「いやまぁ加賀さんの分もあるけど目ざとい涎拭け一航戦。
あんたも日向さんに負けず劣らずフリーダムだな」
17:
「………もぉ〜〜〜!!片付けても片付けても減らないじゃん!!!」
たっぷり20秒ほどのフリーズを経て──この間に加賀は双子が買ってきた一リットルの御茶のボトルを空にしてサンドイッチ二つを一口で平らげた──ようやく蘇生した鈴谷が悲鳴を上げる。彼女は丸一晩の格闘で減らした分より更に増えた書類を見て、半ば本気度の高い涙を浮かべていた。
鈴谷の名誉のために断っておくと、彼女の事務処理能力は決して低くない。寧ろこの警備府では加賀に次いで高く、活字を読んでいると3分おきに睡魔に襲われる体質の金剛と比べると10倍ぐらいの度で仕事を片付けてくれる。まぁ「得意と好きはイコールでは結ばれない」とは本人談だが、普段の言動に反して「好きじゃないから雑にやる」という性格でもない。
早い話、鈴谷が音を上げてしまうほど作業量が膨大で処理が追いつかないというのが現実だ。
「最近は一束書類を片付けたと思ったら二束追加されるって感じでキリが無いよ、ほんっと勘弁して!!」
「こういった裏方の仕事も立派な艦娘としての努めよ。ましてや、今週は貴女が秘書艦なのだからこういうこともしっかりやって貰わないと」
「でも一番の役割は深海棲艦をやっつけることっしょ?やっぱこんなに書類仕事ばっかりなのはおかしいよ〜〜……」
「それだけ世界が大変ということね。口を動かす前に手を動かさないと、益々仕事が溜まるんじゃないかしら」
「……加賀さんの意地悪!」
むくれ面になりながらも、再びペンを取り膨大な机仕事との格闘を再開する鈴谷。加賀はしばらくその姿を見つめていたが、やがて一つため息をつくと一束の書類をボールペンと共に手に取る。
「提督、他の業務ができるまで私も此方を手伝うわ。……貴方も鈴谷も昨日から働き詰めだし、肝心なときに倒れられても困るもの」
「いっええい!加賀さん最高、流石一航戦!よっ、鎮守府一のいい女!!」
「貴女調子がよすぎないかしら。……まぁ、いいけれど」
18:
少し大袈裟に囃し立てる鈴谷を呆れた風で、しかしまんざらでも無い様子でいなしながら仕事へと取りかかり始める加賀。
まるで仲の良い姉妹か十年来の友人のように気心の知れたやりとりを交わす2人を横目に、俺の視線は再び机の上に積もる紙の山へと戻っていた。
胸の内に渦巻く暗い気持ちは、単に一向に片付かない仕事に絶望していた先程までのものと少し毛並みが違う。
「…………」
手にとって開いた資料の一冊。世界の………もう少し厳密に言うならヨーロッパの「大変な情況」を記したそれのページを捲っていく。
(………酷い有様だな)
ほんの少し紙上に視線を滑らせるだけで、次々と目に入ってくる惨状、悲報、そして東欧連合軍の苦境を示す数々の文章。陥落、敗退、壊滅といった陰気な単語がそこかしこに並び、死者や負傷者を示す数字は3桁で済んでいれば奇跡と言っていいほど常に大きい。ヨーロッパ全体を撮した地図は、中央のフランスとドイツに跨がる地域の広い範囲とスウェーデン、フィンランドの一部が黒く塗りつぶされている。
リスボン沖事変、その後に激増した小規模な襲撃、そして今回の北欧大規模強襲。
たった一ヶ月で、欧州方面における戦況は激変した。
ドイツとフランスは保有艦娘の九割を失い首都を追われた。ルクセンブルク、ベルギー、デンマークは国土全域と通信が途絶し、奇跡的にアムステルダムとの通信が回復したオランダも戦況は絶望的で風前の灯火だ。スウェーデンとノルウェーにも深海棲艦が上陸し、フィンランド等を加えた北欧連合軍もじりじりと後退を繰り返している。
経済面での損失は天文学的な数値に昇り、在留邦人を含む犠牲者の数は二千万人を下らない。独ソ戦におけるナチス・ドイツ側の死傷者が1000万人強と言われているが、その倍以上の人間がたった2週間でヨーロッパの大地から消えた。
そして、ベルリンにおける戦いでの「軽巡棲姫の撃沈」と、直後に発生した深海棲艦の全体的な攻勢の鈍化がなければこの被害は更に甚大なものになっていたという。
19:
資料の最後のページに挟まっていた、画質の荒い一枚の写真をクリップから取り外して近くで眺める。
写っているのは一人の男の上半身。気怠げな目付きでカメラのレンズを見つめる顔立ちから察するに俺や双子より一、二歳若いか同じくらいの年齢だろう。胸から下げた黒色の逆さ十字のペンダントが重たげに見えてしまうほど身体の線が細く、軍人と言われても俄には信じがたいぐらい写真を見る限りでは「華奢」だ。
( ´_ゝ`)「人は見かけによらないとはよく言ったもんだな」
「全く」
いつの間にやら背後に回り資料を覗き込んできていた兄の方の言葉に、頷いてしまう。実際この写真を第三者に見せつけても、写っている陸軍少尉が生身で深海棲艦の【姫級】を撃沈した英雄だなんてきっと誰も信じられない。
「軽巡棲姫を“白兵戦で斃した”ってだけでもとんでもないが、別の資料によるとリスボン沖の時に艦娘の到着まで陸軍戦力のみで深海棲艦を食い止めた経験もあるらしい。ポーランド軍の介入までベルリンが陥落せず持ち堪えたのも、この陸軍少尉の指揮が大きな要因だって話だ」
( ´_ゝ`)「………」
「………」
( ´_ゝ`)「盛られてるだろ。流石に」
「だわな」
一瞬顔を見合わせた俺達は、同じ結論に行き着いて頷き合う。某小説サイトのチート転生軍師系主人公じゃあるまいし、それほどの大戦果を挙げられる人間がそうそうこの世にいてたまるものか。
しかも当時ベルリンに展開していた戦力は、10台未満の第3世代戦車と大半が警官で構成されたイベント警備のための人員だったという。そんな戦力、深海棲艦どころかそれなりに武装が整っていれば同じ人類の軍隊が相手だったとしても30分と保たずに壊滅する。
( ´_ゝ`)「妥当なところで言えば情報が錯綜する中で尾鰭が付いた都市伝説ならぬ戦場伝説、か」
「夢のない結論だけどな。本当にそんな変態がいたら俺は密室で【八仙飯店の人肉饅頭】10時間ループ耐久やってやるよ」
(;´_ゝ`)「…………なんてもん見てんだよ」
「正直二度と見たくない」
サスペンス映画としては普通に面白かったのが悔しい。
アンソニー=ウォンって凄い役者なんだな。
20:
「だいたいな、そんな人外じみた軍人が本当に居たとして………」
喉まで出かかった台詞の最後の部分を飲み込む。例え言葉にしようがしまいが変わらない現実だと解っていても、やはりそれを「自分の声で」形にすることは躊躇われた。
そう、認めたくない。
もし演義版三国志の諸葛亮孔明やキングダム版李牧が裸足で逃げ出すような、或いはF○Oで英霊として出てきかねないようなレベルの軍人が遠く離れたヨーロッパに実在したとして。
そんな化け物じみた存在を持ってしても、なおこれほど途方もない損害に「留める」事が限界だったなんて、それこそ夢も希望もない。
「………」
人類が滅亡する────子供の頃にやたら話題になっていた【ノストラダムスの大予言】に始まり、そんな話は何度も耳にしてきた。科学的根拠のない戯れ言として、或いは友人たちとの交流を盛り上がる余興として笑っていたそれが、まさか“本当に起こりえる情況”になるとは一度だって想像したことはなかった。
今はまだ、この日本からは遠く離れた地での出来事ではある。だけど今回の事例を見れば解るとおり、ここに積み上げられた書類の中に記された諸々が10分後の日本で起きないという保証は全くない。横須賀が、沖縄が、東京が、そしてこの大洗が、瞬き一つの間を置いて戦場になったとしても何の不思議もない。
「……っ」
瞼の裏に、次々と光景が浮かぶ。燃え盛る警備府の建物が、崩壊した大洗の街並みが、瓦礫の山の中で倒れて動かない門番二人の姿が。
そして、敵の砲撃を四方八方から浴びて沈んでいく、加賀や鈴谷や、他の艦娘達の姿が。
今、当たり前として過ごしている日々が突然炎に飲み込まれる有様。その光景は寝不足からくる白昼夢とするにはあまりにも生々しすぎて、背筋に巨大な氷柱を押し当てられたような寒気が全身を包み込んだ。
21:
( ´_ゝ`)「………指揮官ともあろうものが部下の前でそんなツラするのはいただけんぞ」
「いっつ!?」
叩きつけられた掌が、背中でバシリと小気味の良い打撃音を響かせた。現役海上自衛隊員の平手打ちは骨まで染みるような衝撃を残し、俺の脳と視界が痛みによってたちまち現実に引き戻される。
( ´_ゝ`)「不安に思うのは解るさ。俺も、ついでに言うと弟者だってぶっちゃけた話最近はいつ深海棲艦が日本に現れるかって想像しちまって不安で仕方ない。ましてやあんたは民間上がりだからな、俺達自衛隊や艦娘ほどみっちり奴等と戦うための訓練を受けたわけじゃない」
兄の方はそう言って、コンビニ袋から缶コーヒーを取り出して手早くあげる。二口ほどを喉を鳴らして飲んだ後、彼は書類の山をガサガサと引っかき回し始めた。
( ´_ゝ`)「とはいえ、いつ起こるか解らないことに対して常に気張ってちゃどっかでパンクするぜ。
あんたは提督、この大洗第七警備府の頭脳であり心臓だ。肝心要の時に動けなくなれば、それこそこの警備府は“死ぬ”ことになる。そうならないために、適度に気を抜くのも立派な提督としての勤めだ………おっ、あったあった」
幾つかの紙束を床に落としながら引き抜かれた手に握られるのは、執務室備え付けのTVリモコン。赤いスイッチが押し込まれ、低い電子音と共に画面を一筋の白い光が横切った後真っ暗だった画面に映像が映し出される。
22:
《貸本屋始めました。見てくださいこの新鮮な生肉》
《色々と突拍子が無いなお前》
21inchの液晶画面一杯にデカデカと現れる、二人のアニメキャラクター。一方は珍妙な形の口元を、もう一方は超絶ブs……奇妙な顔立ちをしたなんともインパクト絶大な絵面で、二人ともちょっとキモいレベルで全身の筋肉が鍛え上げられている。
更に言うと奇妙な顔立ちの方の筋肉は何故か手に生肉を抱えており、ブヨブヨといじられる弾力満点のそれをもう一人は呆れた風で眺めている。
゚∴・(´<_` )「グボホゥ」
「フッヒヘヘヘヘ」
「……ッ、……ッッ」
100%カルピス原液にテキーラと青汁をぶち込んだような濃い画面の出現に弟の方と鈴谷が盛大に吹きだして崩れ落ちる。加賀は辛うじて崩壊を免れたようだが、それでも普段無表情な彼女が耳まで真っ赤にしながら顔を伏せて笑いを堪える様はかなり新鮮なものだった。
( ´_ゝ`)「うむ、流石だなこのテレビ局は。相変わらずぶれない」
「………視聴開始から20秒で理解できたこととしては、このアニメの脚本考えた奴は絶対頭おかしいわ」
国営放送も民放も雁首揃えて今でもヨーロッパ関連の情報発信に全力を注ぐ中、このテレビ局だけは僅か四日でアニメ放送を再開しており当時はネットで賛否両方面から大きな話題となった。ここのところは流石に他局もニュース番組以外の内容をぼちぼち復活させつつあるが、この局については既に完全な通常運営に移行している。
……いや、冒頭部分だけで「常軌を逸した内容だ」と理解できるこんなアニメを放映している辺りこれは通常運営と呼べるのか俺としては疑問だが。これの前にやっていたアニメが、ある宇宙人を助けた純真な少年と彼に恩を返したい宇宙人との心温まるふれあいを描いて大ヒットしたハートフルストーリーなだけにギャップが凄まじい。
例えるなら、【のび○のおばあちゃん】を見てその余韻に浸っていたところで間髪を入れず【ムカデ人間】が始まったような感覚とでも言えばいいだろうか。
23:
( ´_ゝ`)「………そう言うわけで、だ。
ここが通常運営な内はまだ日本は大丈夫さ、だから少し肩の力を抜くようにしたほうがいいと思うぜ?提督殿」
「………ネットのネタじゃねえかそれ」
まさかテ○東伝説で励ましてくるとは思いもしなかったが、言ってしまうならただのジョークのようなものだ。本気にするべきでもないし、身も蓋もないことを言えば仮にアレを真実と捉えるとしても既にこの件で四日も特集が組まれている時点で結局「日本や人類が存亡の危機に直面している」という点は動かしようがなくなる。
それでも、少し悔しいが肩の力はばっちり抜けた。
「まぁ、“本職”殿のアドバイスはありがたく受け取っとくよ」
( ´_ゝ`)「そうしてもらえるとアドバイスした側としても嬉しいね」
口ではあえて軽く、胸の内では深く気遣いに感謝しながら突き出された拳に自分の拳を併せる。コツンと、互いの骨がぶつかり小さな音を上げた。
「いやー、すっごいアニメやってるね〜」
「………脚本家の方は大丈夫なのでしょうか」
(´<_` )「そもそもゴーサイン出した奴もイカレてると思う」
画面内では、珍妙な口元の筋肉が奇妙な顔の筋肉から女の内蔵がぶちまけられる漫画の紹介を受ける面に変わっていた。鈴谷たちは、次々と現れる濃厚で汗臭い絵面を前にやいのやいの言葉を交わしながらもしっかりと楽しんでいる様子だ。加賀と鈴谷は仕事の手こそ止めていないものの、視線が向く割合は圧倒的にテレビに割かれる時間の方が長い。
「…………なぁ、あの調子で定期視聴が始まったりしないだろうな」
( ´_ゝ`)「……………ドンマイ」
少なくとも“今のところ”は、俺達の日常はいつも通りに流れていく。
ただ、その中にあの強烈な絵面が定期的に挟まれることにならないよう俺と兄の方は密かに神への祈りを捧げた。
25:
『本日、この記念すべき日に、私はある悲劇について国民の皆様に告げなければなりません。
現地時間8/14、PM 19:00、ハワイ島において、我がアメリカ合衆国は謎の勢力によって攻撃を受けました』
『海上保安庁、並びに日本政府はここ数カ月相次いでいた遠洋漁業船の行方不明事故と今回のハワイ海軍基地攻撃に何らかの関係性がないか調査中であると───』
『世界各国は学園艦の外洋航海に大きな制限を設け、アメリカ合衆国による調査結果を待つ姿勢で───』
『これは合衆国政府が公開した写真ですが、見ての通り何か魚のような形のものが────』
『各国の生物学者たちは貴重な新生物であるとしてアメリカを始め各国に捕獲を要請しており───』
『KGUMから緊急放送をお送り致します。
現在グアム島は海上からの激しい攻撃に晒されています。民間人の皆様は至急屋内に退避し、軍の救助を待って下さい』
『Astro-Awaniからマレーシア国民の皆様にお伝えします、至急沿岸部から離れて下さい!海の近くは大変危険です、“敵”の攻撃を受ける可能性があります!』
『フィリピン政府は先程、我が国の海軍部隊が洋上で謎の敵と交戦状態に突入したと発表致しました』
『択捉島の海上自衛隊基地付近で不審な艦影が捕捉され、現在海上保安庁並びに海上自衛隊が厳戒態勢を取っています』
26:
『アメリカ合衆国政府は、六月から頻発していた一連の海洋事故の多くがこの謎の生物が引き起こしたと推測、各国のシーレーンを脅かすために明白な意志を持っている可能性が高いと談話を出しました』
『学園艦【ジークフリート】のネイヤン=アレンス生物学教授は、この生物群が人類への強い敵意を持つ種族である可能性を指摘しています』
『イギリス政府はこの新生物による上陸の脅威を取り除くべく近隣海域の封鎖を宣言。EU各国は事前通告が一切無いこの宣言に身勝手が過ぎると反発を強めています』
『ポルトガル政府はスペイン、フランスに協力を要請していますが、両国は自国防衛の観点から増援の派遣には難色を示しているようです』
『日本政府はこの新生物を“深海棲艦”、“しんかいせいかん”と非公式に呼称する旨を発表しました』
『ただいま入ったニュースです。オーストラリア海軍艦隊がソロモン諸島沖にて“深海棲艦”との戦闘によって壊滅したと発表がありました。オーストラリア政府によれば、我々人間の形に酷似した新種の深海棲艦が確認されたとのことです』
27:
『アメリカ合衆国政府は先程、第六艦隊が大西洋上で新種の“ヒト型”と交戦したと発表。映像を公開しました。
日本政府は火力などから戦艦級と推測されるこの新型を、【ル級】と非公式に呼称する模様です』
『学園艦の沈没は今月だけで実に9件に上り、既に100を越える国と地域で学園艦活動の無期限凍結が発表されています』
『空母型の深海棲艦が艦載機として利用するドローンは極めて小さく、各国空軍機は空対空ミサイルでの迎撃ができず対応に苦慮しています』
『南首相は本日、自衛隊に深海棲艦と接触した場合の無条件即時応戦許可を九月には出していたと記者会見で発表。野党四党は強烈な反発を露わにしました』
『深海棲艦の攻撃が激化しつつあります。世界各国の海軍はそれぞれ近隣諸国と独自に連携を取っていますが、未だ有効な対応はできていません』
『我々人類は世界規模で制海権、制空権を損失しつつあります』
『オーストラリアはティモール海海戦で95%の艦艇を損失、複数箇所での上陸を敢行した深海棲艦に対して陸軍が絶望的な反撃を行っています』
『EU連合艦隊は大西洋に全戦力を上げて展開していますが、深海棲艦の物量に推されてじりじりと後退することを余儀なくされています』
『中国海軍が空母【遼寧】の損失を国民に隠していたことについて、幾つかの地域で抗議デモが発生しましたが中国政府は陸軍を動員しこれの武力鎮圧に当たっています』
『日本政府は本日、本州への北上が確認された深海棲艦の大艦隊を硫黄島で迎撃する旨を発表。陸海空三自衛隊の最大戦力を用いたこの作戦によって、南首相は本州の絶対防衛を宣言しました』
28:
『────70年前、俺達の爺さん婆さんはこの島にいた!強大な敵を迎え撃ち、日本を守るために!』
『70年前、俺達の爺さん婆さんはこの地で戦い抜いた!自分たちの後ろに居る国民を、友を、家族を守るために!!』
『70年が経ち、時代は変わった!そして、敵も変わった!兵器も、戦術も、何もかもが変わった!!
だが、俺達の任務は変わらない!!俺達もまた、強大な敵を倒すために、“日本”を守るためにここにいる!!!』
『難しいことは考えなくていい、要は我らが先輩方の真似をすればいいだけだ!
再びこの地で、俺達は戦う!
再びこの地を、俺達は護る!!
そして、70年前のようにもう一度─────』
(# ω )『暁の水平線に、勝利を刻め!!』
31:
実際のそれとしても比喩的な表現としても、「夢」を見なくなって長くなる。だから最初に目を覚ましたときに、自分が一瞬前まで何を見ていたのかを脳が理解するのに酷く時間がかかった。
「…………また懐かしい夢だなおい」
よりによって“六年前”とは。正直言って寝覚めとしては最悪の部類だ。
「だからヒコーキは嫌いなんだよ………」
背もたれに身を預け、寝ぼけ眼を擦りながら独りごちる。仕事柄“空の旅”で目的地に向かうことも多いが、昔から石油を餌にしてジェットエンジンで飛び回る機械の鳥にはあまりいい思い出がない。
久しぶりの夢見が最低クラスになったのも、きっとこのクソ堅い座席にシートベルトで縛り付けられながら雲の上を飛ばされているせいだろう。
32:
「あ゛ー、機内サービスの一つも欲しいもんだ……いっつ!?」
「いいご身分じゃないか。こんな時まで居眠りだなんて」
突然臑の辺りに激痛が走り、いまいち安定しなかった意識が瞬く間に覚醒する。涙で僅かに霞む視界を衝撃が襲ってきた方に向けると、小柄な“同僚”が仏頂面で此方を見上げてきていた。
「それで、機内サービスのお味はどうだい?大層おねむだったみたいだから少し強めのを入れてみたけれど」
「……素敵なモーニングコールに感謝感激だよチクショウめ。あんまり最高のサービスだから帰りのフライトでは是非五倍返しさせていただきたいね」
「は?やれるもんならやってみな」
………どうにも世間では、美少女による「ジト目」とやらが一部の上級性癖所持者から絶大な支持を集めているらしい。そして目の前の“同僚”は若干幼さが過ぎるきらいもあるが、一般的な感性で言えば概ね美少女といっていい容姿の持ち主だ。
だが、俺の言葉を鼻先で笑いつつ向けられる湿気を多分に含んだ視線に対して、胸の内には微塵も萌えなど生まれはしない。
寧ろ、腹の底ではふつふつと怒りが“燃え”ている。
「ご機嫌斜めな理由は大方察しがつくが、俺に八つ当たりするのはやめてくれやお嬢さん」
「ご機嫌斜め?誰が?蹴るよ?」
「言いながら蹴ってくんじゃねえyいってぇええ!!!?」
まさに、「骨身に染みる」痛みに悶絶する。流石に“指導”がいいらしく、単に威力が強いだけじゃなくて実に的確に相手へダメージを与える蹴り方だ。
33:
「っつ……やっぱ八つ当たりじゃねーかクソガキ」
「だから八つ当たりじゃなくてモーニングサービスだって。親切心だよ、親切心」
「減らず口まで似てきたな。
待て、もう蹴りはやめろ」
大の男が涙目になりながら臑をさすり、外見だけで言えば14、5歳の子供の蹴りを必死に制止する様───傍目から見ればどれほど情けない光景かは努めて考えないようにしながら身体を起こす。
「………やっぱ空なんて飛ぶもんじゃねえな」
本当に、碌な目に合わない。やはり人間は地に足を付けて生活するべきだという認識を新たにしつつ、俺はため息と共に首を捻り丸窓から外に視線を向けた。
《Mayday, Mayday, Mayday, Chariot-13 One Hit!!》
丁度目の前を、片翼から火を噴きながら友軍機が墜落していくところだった。
34:
地響きを連想させる重く低い爆発音と共に、周囲では次々と爆炎が咲き乱れる。大層ど派手な、死路への旅立ちに対する祝砲も兼ねた歓迎の打ち上げ花火は“今日の仕事場”が近づくにつれて数も激しさも増していく。
《Chariot-04、被弾した。高度を保てない!》
《此方Cartwright-11、敵の攻撃が激しい。これより回避運動に移る》
《Taxi-02より全乗員、回避運動に移る。揺れるぞ!》
味方の通信が飛び交う中、俺達が乗っているヒコーキ────MV-22B オスプレイが大きく機体を傾ける。全身に一際強いGがかかり、左に旋回した直後幾つもの砲弾が俺達の周囲で炸裂したのを音や震動で感じ取る。
《11時方向、機影多数接近!》
《クソッタレ【Black Bird】だ、数は20〜30!!》
《Albatross-01よりチーム各機、迎撃するぞ!
Follow me!!》
途切れる気配がまるでない対空砲火の嵐と砲声に混じり飛び交う味方の通信が、今回の“仕事場”もなかなかに地獄だと教えてくれる。
尤も、この三年間で“地獄じゃなかった仕事場”なんて記憶にないが。
35:
《目標地点まであと30秒!》
《OK Guys, It's about time to War!!》
「こっちは一応女なんだけど」
「今そこはツッコむところじゃねえだろ」
威勢のいいかけ声が機内に流れ、それを合図に的外れな呟きを漏らす“同僚”と共に席を立つ。空を焦がす銃火や砲撃の最中を擦り抜けるようにして飛びつつ、MV-22Bの後部ハッチがゆっくりと開く。
「うおっ………」
途端、真後ろを飛んでいた別のMV-22Bが下から砲弾に撃ち抜かれて火達磨になる。吹き付けてきた熱風に、俺を含めた何人かが僅かに顔をしかめた。
だが、それ以上の反応は誰も示さない。そんなものは、疾うの昔に見慣れて久しい俺達にとっての「いつも通り」の光景に過ぎない。
《目標地点に到達!!総員順次降下開始!》
《砲火が激しい、長くは留まれない!飛べ、飛べ!!》
操縦席から急かされるのと同時に、先頭の何人かが飛び出していく。それを皮切りに、MV-22Bの後部から次々と人影が空に舞う。
(,,゚Д゚)「────【Wild cat】、降下する!!」
列の中程に居た俺────“海軍”少尉、猫山義古もまた跳躍し、空中に身を躍らせた。
こうして、今日もまた俺にとっての“日常”が幕を開ける。
36:
〜(,,゚Д゚)ある門番たちの(非)日常のようです(゚ー゚*)〜
変態マッチョ・地獄の血みどろ風トマトソース和え
39:
おつおつ
やっぱ過酷だなあ…と思っていたらどえらい物がぶち込まれたw
41:
高度7000M。翼を持たず、跳躍能力も低く、耐久力も脆弱な人間がこの高みまで到達するということは、考えようによってはとてつもない偉業かも知れない。単体の動物としては割と貧弱な部類に入る人間が技術の革新を経て文字通りの意味で「雲の上の世界」に辿り着く、世間一般で言うところの“豊かな感性”の持ち主なら、人類の叡智の歩みとか科学の進歩の軌跡とかそんなものに気づいて感動の涙を滝のように流したりするのだろう。
残念ながら俺は学も感性も無いので、雲の上にいようが地面にいようが考えることは変わらない。
《Mayday, Mayday, Mayday!!》
《Chariot-51 one hit!!》
《Shit, I'm hit!!》
なにとぞ今日も生きて帰れますように、だ。
《ヨシフル、Chariot-51がこっちに落ちてくるぞ!!》
(,,;゚Д゚)「散開運動、回避しろ!!」
対空砲火の直撃で火達磨になったMV-22Bが、くるくるとオレンジの曲線を描きながら落下する。夜空に逆巻く炎は荒々しくもどこか幻想的で、機体のパイロットたちには悪いが見とれてしまいそうな光景だ。
米軍開発のウィングスーツを滑空するムササビのように広げて時200KM/hオーバーで急降下中の、俺達を追うような軌道じゃなければの話だが。
(,,;゚Д゚)「火の粉にウィングを焼かれるなよ、Break!!」
無線機に向かって叫びながら、僅かに身を捩り降下軌道と度を調整する。熱を帯びた巨大な塊がほんの一メートルと離れていない位置を落下していく様がちらりと視界の端に移った。
飛び交う無線の中にどうも聞き覚えのある悲鳴が混じり、通過した塊に人影と思わしきものが張り付いていた気がするが見なかったことにする。
第1、集中を切らせば次にああなるのは俺だ。
42:
《1名が墜落機に巻き込まれた!》
(,,#゚Д゚)「構うな、隊形維持しろ!」
高度7000Mとはいっても、地面に到達するまでに有する時間はたった2分間に過ぎない。だが逆に、張り巡らされる弾幕の中を滑空する時間が2分もあるともいえる。
敵の───地上に蠢く深海棲艦の群れは、その2分間で俺達を殲滅するべく膨大な量の火線を空に向かって吐き出してきた。
《Ups...》
《Ahhhhhh!?》
《Break, Bre》
呻き声が、悲鳴が次々と上がり、味方への指示や注意を促す叫びが爆発音や肉の断裂音と共に途切れていく。真っ暗な街並みを照らし出す無数の対空砲火の光が瞬く様はまるで満天の星空をそのまま地面に映したかのようで、はっきりいって美しい。
まぁ正体は、深海魚の出来損ないみたいな怪物共が放った光でかつ俺達への殺意に溢れているわけだが。
《高度3500!!》
(,,#゚Д゚)「地表到達まで一分!総員隊形維持しつつ着陸姿勢への移行を開始しろ!!」
夜空を焦がす無数の砲火を潜り抜けながら、急に迫ってくる地面に対して平行になるよう少しずつ降下軌道を変えていく。それはとりもなおさず地表の敵に対して砲撃を当てやすい軌道をとることになり、艦隊戦で例えるならわざわざT字不利になるよう舵を切るようなものだ。一言で言えば手の込んだ自殺と同じ意味になる。
43:
飛んで火に入る夏の虫、なんて言葉が日本にはある。この地は日本じゃない上奴等に諺が通じるとも思わないが、ミニチュアサイズの大きさで時600km前後を出して飛び回る空母艦娘の艦載機すら撃墜する能力を持つ深海棲艦からすればきっと俺達は夏の虫か、さもなきゃ「肥え太った七面鳥」と同じだったに違いない。
『オォオオオオオオッ!!!』
『アァアアアアア……ッ!』
黒を基調とした体色の個体が多いせいで、奴らの姿をはっきりとは識別できない。それでも、風切り音と砲声に混じって微かに聞こえてくる奴等の独特の鳴き声は、歓喜と嘲りに満ちているように聞こえた。
《【Wild?cat】、目標地点に接近!》
《CAS開始。Warthog,?全機攻撃を開始せよ》
《Roger.
Warthog-01,?engage》
《Warthog-02,?engage!!》
だが、嬉々として俺達に狙いを定めていたであろう奴等は、間抜けなことに真上から突っ込んでくる機影に気づけなかった。
『オォアアアッ!!?』
『グゥアッ!?』
GAU-8アヴェンジャーガトリング砲が4門、一斉に火を噴く。30mm機関砲弾が降り注ぎ、攻撃を受けた何体かの非ヒト型が耳障りな呻き声を上げた。残りの火線も突如現れた新たな敵に混乱してか大きく乱れる。
動揺したであろう奴等の頭上を、双発エンジンの騒音を撒き散らしながら四つの直線翼を持つ機体が駆け抜けていく。
《Enemy?have?damage》
《All?unit,?Keep?fire!!》
「空の魔王」の血を引く、フェアチャイルド・リパブリック社が生み出した近接航空支援専用機───A-10戦闘機。4機の「イボイノシシ」が、鼻息荒く深海棲艦に襲いかかる。
44:
詳細な理由は未だに不明だが、奴等はヒト型、非ヒト型を問わず種をあげて「人類」を憎悪している傾向がある。本来俺達は(一部「そうじゃない奴」も混じっていたとはいえ)人間と奴等との力の差を考えれば優先して撃破すべき存在ではないはずだが、その習性故奴等はわざわざいつでも嬲り殺しにできる筈の俺達に火力を集中しようとした。
結果、4機のA-10は疎かになった防空網を突っ切って奴等の頭上に無傷で到達する。要は、「本命」である俺達を同時に「囮」としても活用したというわけだ。
『オォオアアッ!?』
『ガッ───ゴァアッ!?』
アヴェンジャーガトリング砲が咆哮し、太い火線が街並みを照らして地を駈ける。放たれたハイドラ71ロケット弾が街の彼方此方で炸裂し、表皮を砕かれた非ヒト型の個体が悶え苦しみ怒りと苦悶の声を上げる。
乱れ、崩れ、穴だらけになった防空網。大きく開いた火線の隙間に、俺達を始め次々と“ムササビ”の群れが飛び込んでいく。
《着陸20秒前だぜ!》
(,,#゚Д゚)「ポイントに障害物、敵影共になし!総員減用意!!」
45:
凄まじい勢いで地面や家屋が後ろに流れていく中、彼方に見えた街並みの切れ目。直径20M程の広場が視界に映った瞬間、右手で胸元のトリガーを握る。
《着地まで10秒だよ》
(,,#゚Д゚)「急減開始!!パラシュート、射出!!」
トリガーを引き抜く。
(,,; Д )「ゴァハッ………!?」
途端に、全身の骨を軋ませるような衝撃を感じた。パラシュートが風圧を受けて背後で一気に広がり、物理法則に従って滑空を続けようとする俺の身体を起点に慣性と壮絶な綱引きを開始した。
(,,;゚Д゚)「………っはぁ」
幸いにして慣性はあまり執着心が大きいタイプではなかったようで、綱引きの軍配は早々にパラシュートと風圧に上がる。景色が流れていく度は見る見るうちに落ちて、崩れ落ちた瓦礫の山や原型をギリギリ残している家屋の屋根を掠めるようにして俺の身体はパラシュートの下にぶら下がったままゆっくりと広場に降りていく。
やがて俺の足は、トンッという軽い靴音と共に地面の感触を取り戻す。
(,,゚Д゚)「【Wild cat】、空挺成功。これより作戦行動に移る」
( ゚∋゚)「【Ostrich】、降下完了。情況開始」
「降りた。報告終わり」
「いや、もうちょいやる気出せよ姉貴……駆逐艦江風、降下完了。これより駆逐艦時雨と共に【Wild cat】並びに【Ostrich】の援護に回る!」
俺達は、ロシアの大地に降り立った。
46:
着地報告を無線で飛ばしてパラシュートの紐をとっとと切断しながら、俺達はサブマシンガンを、時雨と江風は現状唯一の艤装である25mm連装対空機銃を構えて周囲を警戒する。
飛び込む瞬間は確かに敵影がないことを確認しているが、あくまでも時200?で滑空しながらの視認に過ぎず万全のチェックとは言い難い。周辺の戦闘音の動きから「大物」による襲撃はなさそうだが、油断は禁物だ。
幅10M程の道路を四方向に延ばし、コンクリート製の古びたアパートや家に囲まれた円形の広場。とどまればわざわざ集中砲火の的になるようなものなので、Ostrich側と時雨、江風も含めて22名全員の用意が整ったのを確認して直ぐに北側の通路へと移動する。
張り詰める空気。四方八方から砲声や爆発音、そして深海棲艦共の呻き声や怒号が聞こえてくる中、この広場だけは不気味なくらいに静まり返っている。
⊂( ゚∋゚)∂「………」
(,,゚Д゚)b「………」
Ostrichの指揮官と思われる、優に190cmは越えるであろう巨体の男とハンドサインを交わし、先に進むよう促す。俺はしんがりとしてなおも広場を警戒して、北通路に向かいながらも丹念にそこかしこに銃口を向けてにらみを利かせていく。
土だけが盛られた花壇、ひっくり返った木製の荷車、今し方俺達が取り外したパラシュートの下、家々の窓や柱の陰─────
(,,゚Д゚)「…………」
敵の爆撃にでも吹き飛ばされたのか、屋根が崩れ落ちている正面の古びたアパートのような建物。
その二階で、窓越しに何かが動いた。
(,,#゚Д゚)「Enemy!!」
叫ぶよりも先に、指が4.6mm短機関銃の引き金を引く。
乾いた銃声が響く。AK-47を構えた“人影”が、鮮血を吹きだして窓から転がり落ちてきた。
47:
ソヴィエト連邦時代にミハエル=カラシニコフによって生み出された、「世界で最も使われた軍用銃」を抱えながら広場に転げ落ちてきた男。茶色の草臥れたハンチング帽を被りロシア人のステレオタイプをそのまま3Dプリンター辺りで実体化したんじゃないかと疑いたくなるような体格をしたその男は、武器こそ持っていたものの遠目に見る限りは明らかに“ただの人間”だった。
だが、それがまるで合図だったかのように、広場のそこかしこで「気配」が動く。建物の二階から、柱の陰から、家々の隙間から、何挺、何十挺という数の銃口が突き出され俺達に向けられる。
(,,;゚Д゚)そ「うぉおおおおおっ!!?」
銃口が向けられたとはいってもほとんどはめくら撃ち状態のようで、弾丸自体は手ぶれ等の影響もありあらぬ方向へと飛び散っていく。だがまさに「下手な鉄砲も数打てば当たる」という奴で、たまたま正確な位置に飛んできた弾丸を通路脇の横倒しになっている乗用車の影に転がり込んで避ける。
(,,゚Д゚)「ちいっ!」
「※※※………」
すぐさま身を起こし、応射。右手50M程先の細い路地から銃撃を加えてきた、青いパーカーを着た男が額の風穴から血を吹きだして前のめりに倒れ込む。
更に照準を左に向け、射撃。ショートカットに金髪のやせた女が一人突っ込んでこようとしていたが、弾丸がめり込んだ喉をかきむしりながら痛々しい呼吸を数秒繰り返した後膝から崩れ落ちて事切れた。
「アウッ!?」
「───Enemy down!!」
(,,゚Д゚)「Good job」
リロードしようとした俺の横で、別の銃声。UZIが火を噴いて、連射を受けた小太りの男が血だるまになって広場に転がる。
装填を終え、車の上側から顔を出して撃つ。今し方撃たれた小太りの男を助けようとしたらしい人影の頭蓋を、何発かの弾丸が鈍く生々しい音を立てて貫く。
50:
それは、信じられないほど稚拙な待ち伏せだった。
せっかく包囲下にあった俺達にわざわざ脱出寸前まで手を出さず、いざ戦闘が始まれば銃火を隠す努力すらせず隠れている位置を教えてくる。肝心の射撃もろくに狙いが定まっていないため、弾丸の大半は的外れな場所に突き刺さる。味方が倒れれば、相互の連携も取らずに助けようと射線に身を晒して結果屍体を増やすだけ。
(,,゚Д゚)「……江風、路地に伏兵は?」
《いんや、居ないね。ビビって出てこれない可能性も0じゃないけどさ。
一応確認するかい?》
(,,゚Д゚)「いや、弾と時間の無駄だ。いい」
あまりにもお粗末な有様に罠の可能性を考えたが、通信を飛せば拍子抜けするような返答。
疑念は、確信に変わる。
こいつらは市民を装ったりしているわけではない。正真正銘、ずぶの素人だ。
(,,゚Д゚)「2、3人負傷させて退くぞ。殲滅するだけ弾の無駄だ」
「Aye sir」
援護に戻ってきた兵士の肩を叩いて合図を出し、幾つかの暗がりや物陰に弾丸を叩き込む。肩や足を抑えた人影が呻き声を上げて地面に転がるのを目にすると、俺たちは一応後方に注意を向けながらもとっととその場を去る。
案の定、申し訳程度の当てる気すらない銃弾が何発か撥ねただけで追撃の気配は全くなかった。
《どうだった?》
(,,゚Д゚)「追撃の心配は無い。前方への警戒だけで十分だ、このまま進め」
《解った。こっちは4ブロック先まで行ってるからとっとと追いついてね。あんまり待たせると鼻に練りからしねじ込むから》
(,,゚Д゚)「エグすぎるだろ……」
中東の過激派辺りが正式に尋問の手法として採用しそうな内容に身震いしながら、もう一人を促して足をめる。
(,,゚Д゚)「どういう教育してんだよあの筋肉野郎……」
子は親に似るとはよく言ったものだが、艦娘と提督にも同じことが言えるらしい。
白露型駆逐艦2番艦の言動には、英才教育の成果がしっかりと窺えた。
51:
「はい練り辛子」
(,,;゚Д゚)「ふざけんnなんで持ってるんだよお前馬鹿かやめろ近づけんな!!」
通信が来てから一分と経っていないはずなのだが、駆け足で追いついた俺の顔面めがけて早2番艦が右手を突き出してくる。握られたチューブからひり出された黄色い香辛料が、鼻先でツンとした刺激臭を撒き散らした。
ホントに何で辛子持ってんのコイツ?それ艤装?艤装なの?
「62秒も部隊を待たせたじゃ無いか。無駄にできる時間はないって身体に教えなきゃ」
(,,゚Д゚)「この攻防戦の時間が一番の無駄だよ阿呆」
いやもう「蛙の子は蛙」っていうけど筋肉提督の艦娘は筋肉だね。教育って大事。
「……つーか時雨姉貴、なんで練り辛子持ってんだよ」
「提督の口にねじ込もうと思って」
なんでコイツいきなりクーデター実行宣言してんの?
「あー、そう……まぁいいけどさ」
仮にも艦隊司令官の扱い雑すぎだろこいつら。
(,,゚Д゚)<敵の気配は?>
<今のとコロ近くニイル様子はありまセん>
ツッコみどころはまだまだ山とありそうだが、これ以上“無駄な時間”を過ごしても益はないのでとっとと次の行動に移る。
近くで周囲の様子をうかがっていた兵士の一人に声を掛けると、少しフランス訛りが入った英語で返事があった。
<たダし、ムルマンスク全体の戦キョウはよくありまセん。
A-10が一機深海棲艦の攻撃デ撃墜されまシた>
(,,゚Д゚)<それは今し方俺も聞いてたさ。……まぁ、そう上手くはいかねえわな>
52:
思わず、声と表情が固くなる。
A-10は空対空戦闘の性能は絶望的だが、頑丈さと圧倒的な対地攻撃能力の高さから深海棲艦相手にもかなりの打撃能力を誇る。条件や武装次第ではル級すら単機で中破に追い込めるほどのポテンシャルがあるため、A-10部隊の損失が増えればそれだけこの作戦の成功率は下がっていく。
「少尉、その人何て言ってんだい?」
(,,゚Д゚)「A-10【Warthog】が一機やられたそうだ。航空隊の損耗が増えるとこっちにも深海棲艦がくる可能性が─────」
右手、100M程の位置で粉塵が舞い上がる。飛んできた直径10M程の瓦礫が目の前の電信柱を一本叩き折った。
『────ァアアアァアアアアッ!!』
家々の隙間から、家屋を幾つか吹き飛ばして耳障りな咆哮と共に軽巡ホ級が顔を出す。
周囲の建造物と大きさを比較する限り、最低でもeliteの個体であることは間違いない。
( ゚∋゚)「…………もう遅かったみたいだな」
(,,゚Д゚)「やかましい」
【Ostrich】指揮官(?)の大男が呟く。口元をカラスの嘴を思わせる黒いマスクで覆っているため、声は少しくぐもっていて聞き取りづらい。
つーか喋れるのかよ意外にいい声しやがって。なんだよそのマスク嘗めてんのかかっこいいじゃねえかクソが。
53:
『ァアアアアァアアアッ!!!!』
たまたま近くに出現しただけということを願ったが、残念ながら神様はなかなかのクソ野郎らしい。善良極まりない人生を送ってきた俺の祈りはあっさりと無視され、ホ級はそこかしこの建物を薙ぎ倒しながらゆっくりと方向転換した。
眼に相当する器官がない、人間の上顎だけ切り取って顔の位置に据えたような気色の悪い頭部が砲塔と共に此方に向けられる。明らかに狙いは俺達だ。
早々に着いてないもんだと、思わず深いため息が口から漏れた。
「少尉、戦うかい?」
(,,゚Д゚)「バカ言え────Wild cat, Ostrich両隊並びに時雨、江風に通達。さっきも言ったとおり、俺達には今時間が無い」
とはいえ、一つだけ幸運と言えそうなこともある。それは現れたのがホ級一隻だけだという点。
(,,゚Д゚)「戦うな、“処理”しろ。30秒で片付けるぞ」
「ナメてるの?20秒余裕だよ」
これなら、“無駄にする時間”は最小限で済む。
54:
音がして、新たな粉塵が衝撃で舞う。背負われた三段重ねの砲塔が同時に火を噴き、六発の弾丸が夜気を切り裂いて飛んでくる。
(,,#゚Д゚)「─────Attack!!」
『アァッ!?』
尤も、その時には既に俺達は砲撃された場所から消えている。やや前のめりになり、サブマシンガンを抱えバラバラの路地に飛び込みつつ低い姿勢でそのままホ級めがけて突っ込んでいく。
(#゚∋゚)「Go go go!!」
深海棲艦は、ヒト型と非ヒト型双方に(ついでに言うと通常の場合は艦娘にも)当てはまることだが「接近戦・白兵戦」を大半の個体が想定していない。従来軍艦とはアウトレンジから大威力の砲撃を撃ち合うために設計された兵器であり、「生ける軍艦」である奴等の高火力もそういった戦闘を前提としているためのものだ。
眼前のホ級は、幸い「一般的」な思考ルーチンの個体だったようだ。反撃を全くせず即座に自身への突貫を開始した俺達に明らかに戸惑っており、2、3人の組に細かく分かれて散開した俺達のどれを照準するべきか迷って背中の砲を右往左往と揺らしている。
混乱した様子のホ級の眼前に、道路に面する路地の一つから時雨と江風が飛び出した。
55:
もう一度言うが、深海棲艦同様艦娘も「本来は」白兵戦を想定していない。暴徒鎮圧や避難民の制御を目的とした護身格闘術程度は各国で教えられることが多いが、あえて無機質的に言ってしまえば艦娘とはあくまで「人型の戦艦兵器」だ。無論艤装から得られる圧倒的な膂力やそもそもの身体能力の高さなどポテンシャルは秘めているが、極めて常識的な思考から「艦娘の白兵戦強化は不要・少なくとも優先順位は極めて低い」という見方が世間一般の考え方になる。
ただし、こいつらは存在自体が“非常識”だ。
「───っふ!!」
「あぁらよぉっとぉおお!!」
『ォオオオオアアアアアアアアッ!!!?』
時雨が横手投げで放った棒状の何かが、ホ級の首元に突き刺さる。仰け反り露わになったその腹に、江風が背中から抜き放った小ぶりな斧を思わせる形状の刃が叩き込まれる。
(,,#゚Д゚)「Flag out!!」
悶絶し、蹲るホ級。下がった砲口に、俺は腰から手榴弾を手にとってピンを外して投げ込む。
『アァッ─────』
背中から白い光が迸る。身体の内側から爆光に引き裂かれて、ホ級の身体が破裂した風船のように飛び散った。
57:
ビシャビシャと湿気た音を立てて、ブヨブヨした白い脂肪の塊が路上のあちこちに落下する。薄らと降り積もりコンクリートを美しく塗装していた雪が、同じ白でも腐ったぞうきんに近い色の肉片に踏み荒らされて無惨に調和を崩していく。
砲塔部分で起きた大爆発に巻き込まれて、ホ級eliteの巨体はおおよそ7割程度が消し飛ばされた。
「……」
江風が顔をしかめながら俺達を振り返る。咄嗟に得物を回収した上で飛び下がっていたので爆発に巻き込まれた様子はないが、強烈な異臭を放つホ級の肉片と体液を頭から浴びる羽目になった彼女は不愉快げな表情を隠そうともしない。
「少尉、ギコさンさ、それ既製品?」
(,,゚Д゚)「……いや、技研から“プレゼント”された新兵器だな。しかも事前通告無しで」
確かに内蔵弾薬への誘爆を狙って砲塔に投げ込んだが、幾ら何でも爆発が大きすぎる。此方としては江風と時雨がトドメを刺すのを援護するつもりで投げ込んだため、面食らったのは俺も同じだ。
「最低でも携行ミサイルぐらいの威力はありましたよね、あの爆発から察するに……」
(,,゚Д゚)「なんつー危険物持たせてんだあのマッドサイエンティスト共」
移動を再開しつつ、残り二つになった手榴弾の内一つをベルトから取り外して眺める。
姿形はM26手榴弾と殆ど変わらないのだが、よく見ると表面に何か描いてあることに気がついた。
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「えっ、なにこれ」
廃村間近の村の役場が血迷って出した、ローカルゆるキャラの失敗作みたいな絵だった。
マジでなんだコイツ。何で跳んでるの?何で満面の笑顔なの?技研マジで何考えてんの?
何が治るんだよお前破砕手榴弾だろうが。対極の存在じゃねーか。
58:
「………アレ?」
大本営に“海軍”技研全員の精神鑑定実施を上申すべきか本気で悩んでいると、併走する江風が俺の手元を覗き込んでハテと首を傾げた。
「なぁギコさン、アタシそれ見たことあるかも」
 _,
(,,゚Д゚)「……この絵をか?」
「うン。どこで見たンだっけかなー、思い出せないけどそう昔のことでもなかった気がすンな」
「あっ、僕も見たよソレ」
反対側で(何故かまだ練り辛子を手放さずに)並んで走る時雨が、俺の手元に視線を向け少し驚いた顔を見せる。
「鎮守府にすっっごい綺麗なセールスのお姉さんが来たんだけどさ、青葉がその絵に似た形の水筒?を買ってたと思う。提督のお金で」
(,,゚Д゚)「……お前らの鎮守府ってあのホーンテッドマンションの事だよな」
「そこ以外あるわけないじゃん、仕えない脳みそだね」
「つーかホーンテッドマンションって……」
なんだ?もうちょいドストレートに「化け物屋敷」とでも呼んだ方が良かったか?
(,,゚Д゚)「とりあえず“コレ”の出所がまともじゃないつまてことは音で理解した。なら俺はもうこの件については触れん」
一説には「アフリカの奥地よりも行き着くことが難しい」(要出展)とされるあの鎮守府にわざわざセールスに出向く時点でその女は明らかにまともではない。というより、“あの鎮守府”にまつわる話で何か一つでもまともだった例しがない。
………そう考えると、その事をよく知っているだけじゃなくそんな鎮守府の提督や艦娘と面識、交流がある俺もまともじゃ無いな。
「顔に書いてあるから言うけどね、この中に“まとも”な奴なんか一人も居ないよ。今更何言ってんのさ」
正論だが一番まともじゃない奴に言われたのが滅茶苦茶腹立つ。
「………」
(,,; Д )「やめr練り辛子ァアアアアァアアアッ!!!!」
鼻に黄色い危険物をねじ込まれ、走る度を落とさないため多大な精神力を消費する羽目になった。
59:
かつて、“大祖国戦争”と呼ばれた戦いがあった。
今から70年前、世界中の人類が二度目の“国家総力戦”を経験していた時代。
太平洋の島々で、アフリカの砂漠で、グレートブリテン島の空で、凍てつく北欧の大地で、東南アジアのジャングルの中で、あらゆる国が途方もない数の屍を積み重ねていた時代。
死と荒廃と破壊だけが全てだった当時において、中でも壮絶に憎み合い、互いを絶滅させるべく戦った二つの国家────ナチス・ドイツとソヴィエト連邦によって引き起こされた最も激しく最も愚かな戦い。東欧の大地で、両陣営併せて小国一つが丸々消し飛ぶほどの人命が消耗された。
大祖国戦争、我が輩たちにとってよりなじみ深い名で呼ぶなら“独ソ戦”。
人類同士の殺し合いとしては今なお空前絶後の規模であるこの戦いは、序盤の劣勢を覆してソヴィエト赤軍が勝利を収めた。戦後、ヨシフ=スターリンをはじめとするソヴィエト首脳部はナチス・ドイツに対して激烈な抵抗を見せ国威高揚に貢献した12の都市を表彰、【英雄都市】の名誉称号を贈り、これらの街の名を冠した学園艦を新たに建設するなど大いに讃えた。
ムルマンスクは、そんな【英雄都市】の一つだ。
60:
61:
( ФωФ)「────そして、滅びの危機に直面していた祖国を救うべく全てをなげうって戦った街が、今度は自ら滅びの危機を招くか」
我が輩は戦闘指揮所を兼任する輸送機────マクドネル・ダグラス社製軍用機C-17の中で、モニターに表示される数々の数値を眺めつつ小さく息をついた。
飛び交う通信の断片的な内容とモニター上を流れていくデータを結びつけ、処理し、整理する。そうして見えてきた現状だが、まぁ、我が輩たちからすれば「いつも通り」と言わざるを得ないものだ。
('、`*川「ムルマンスク、危機的な状況です」
( ФωФ)「だろうな」
オペレーターの一人がインカムのマイク部分を押さえながら報告してくるが、その声は至極冷静。彼女からその報告を投げられた我が輩も、特になにか感じるわけでもなくただ頷く。
疾うの昔に、聞き慣れた報告だ。彼女も、我が輩も。
諸々の紆余曲折を経てこの“海軍”が発足された頃より、我が輩たちに楽だった戦場など存在しない。
そして、いかなる情況においても我が輩たちの役割は常に同じ────“深海棲艦の根絶”だ。
( ФωФ)「………とはいえ、なぁ」
ここに至る経緯を思い出して、再び口からため息が漏れた。
( ФωФ)「本当に、自称“平和主義者”はろくなことをしない」
62:
ロシア連邦ムルマンスク州・州都ムルマンスクは、単に“英雄都市”として壮絶な歴史を持っているだけではない。北極圏の港町としては最も大規模で、北欧に至る海上輸送路の重要な拠点の一つでもある。“最北の学園都市母港”という一面も持ち、戦後もロシアの繁栄に常に貢献してきた町といえる。
深海棲艦の出現によって世界中のシーレーンが破滅の危機に陥った際は、ロシアはこのムルマンスクを不楽の要塞とするべく徹底的に強化した。艦娘実装時には真っ先に鎮守府が置かれ、以後も戦力の増強は定期的に続いている。今回の深海棲艦による欧州大規模襲撃に際しても、ムルマンスクがある限り北方からの深海棲艦の侵入はあり得ないと誰もが確信していた。
だが、ムルマンスクは陥落した。ただし、深海棲艦ではなく人間の手によって陸から───内側から制圧された。
('、`*川「このタイミングで武装蜂起って、何考えてるんでしょうね本気で」
( ФωФ)「馬鹿の考えなど理解しようとするだけ無駄だ。少なくとも我が輩はそんなことに時間を割くつもりはない」
ベルリンの陥落確定から間を置かずロシア軍によって行われたルール地方に対する核兵器の使用は、国内外で様々な批判が噴出した。ロシア政府も批判自体は覚悟の上での攻撃実行だったのだろうが、彼らにとっての誤算はこれが独立運動家のプロパガンダに利用された際、煽動に乗ってしまった民衆の数が思いの外膨大だったことである。
ムルマンスクに住民の手引きで侵入した反政府組織の集団が住民の一部と共に武装蜂起を開始したとき、ムルマンスクの主力部隊並びにヴェールヌイが東欧・北欧への対応のため移動中だったことも災いした。
基地からの通信が途絶えたのが17時間前、ロシア政府が事態を把握し、かつ国内外に漏れぬよう徹底的な箝口令を敷いたのが14時間前。
そして、日米政府を通じて“海軍”に出撃命令が下ったのが12時間前。
無論、ムルマンスクに到達するまでに事態が悪化することは十二分に予測していた。単に、予想していた中でも最悪の部類だったというだけで。
65:
( ФωФ)「反政府軍との交戦は?」
「市街地各所で発生しています。【Warthog】が引きつけているからと言うのもありそうですが、寧ろ深海棲艦と交戦した記録の方が少ないですね」
別のオペレーターが、計器を操作してモニターに新たなデータを出力する。
ムルマンスク市全体の簡易地図が映し出される。地図の幾つかの箇所には、赤色や緑色の光点が点滅していた。
それぞれ赤が深海棲艦と、緑が反政府軍と空挺部隊による交戦が発生した点になる。なるほど、ざっと見ただけでも7:3で緑色のマーカーの方が多い。
( ФωФ)「着陸時までに発生した空挺部隊の損耗は………2割程度か」
脳内で真っ先に「思ったより軽微な損害だな」という感想が、口元にそのことを自嘲する苦笑いが浮かぶ。
昔と……六年前と比べて、我ながらイヤな人間になったものだ。
( ФωФ)「“ヒト型”との交戦報告はあるか?」
「今のところ市内では確認できません。ただ、今回の“暴動”のせいで州全体の防衛網に多大な混乱が生じているため奴等の侵入を防げる状態じゃありませんでした。
まだ到着していないだけでここに出現する可能性は極めて高いかと」
「コラ湾はパラオ鎮守府艦隊を主力とする別働隊が封鎖を完了、深海棲艦を迎撃中。
現状は優勢ですが物量差がかなりあるため、持ち堪えられる時間は長くないですね」
「航空隊より報告。軍港施設にて人間と深海棲艦の交戦が確認されました。武装から推測するに正規ロシア軍のものではありません。案の定といいますか、おそらく鎮守府・港湾施設は反政府軍の手に落ちています」
('、`*川「准将、大本営より通信。ロシア連邦軍より本格的な増援部隊が編成・派遣されたとのこと。現時刻より1時間程度で到着する見込みです」
優秀なオペレーターたちが矢継ぎ早にあげてくる情報に眼を通し、耳を傾け、まとめ、整理していく。
……状況は例え世辞でも良いとは言えない。だが、少なくとも予想の範疇からそう大きく外れたものではなかった。
作戦を変更する必要は“まだ”ない。そう確信した我が輩は、次の段階に進むべく通信機を手に取る。
66:
('、`*川「……どうかしましたか?」
( ФωФ)「……いや、大丈夫である」
通信を繋げる間際の一瞬、我が輩が少し躊躇したのを見抜かれたらしい。訝しげに首を傾げる彼女に手を上げて、何でも無いことを示す。
無論、本当に「何でもない」なら例え僅かでも通信を繋げることを逡巡しないわけだが。
( ФωФ)「【Caesar】より【Fighter】、応答せよ」
《此方【Muscle】、聞こえないぞ》
………
( ФωФ)「………【Caesar】より【Fighter】、応答せよ」
《此方【Muscle】、聞こえないぞ。繰り返せハゲ》
………………………
( ФωФ)「………………【Caesar】より【クソボケ脳筋提督】、応答せよ」
(#T)《誰がクソボケ脳筋提督じゃあオルァアーーーーーーーーっ!!!》
(#ФωФ)「完璧聞こえておるだろうがボケェエエエエエエエエエエ!!!!!」
('、`;川「!?」
通信相手の大音声が鼓膜を揺らし、応ずる我が輩の怒声にオペレーターの何人かがびくりと身を竦ませた。
………だから気が進まないのだ。この、脳細胞の一片から足の指先に至るまで筋肉で構成したような「昔馴染み」と会話をするのは。
67:
のっけから悪い意味でいつも通りのノリを繰り出してきた通信相手に、思わず我が輩の肩ががっくりと落ちる。
この6年間で我が輩も、他の多くの同胞たちも色々と変わった。なのに、何故かコイツだけ頑なに変わらない。特に内面はこれっぽっちも進歩がない。これには安西先生も絶望のあまりバスケットボールを顔面に叩きつけることだろう……それが奴に効くかどうかは別の話だが。
( ФωФ)(効かねえな)
多分ぶつけたバスケットボールの方が破裂して終了であろう。
まぁ、コイツ相手に遠慮や気遣いは微塵も必要ない。こちらも「“海軍”准将」並びに「当作戦指揮官」の仮面をとっとと脱ぎ捨てて無線機に向かって捲し立てる。
( ФωФ)「テメェ何勝手にコールサイン変えようとしてんだ。作戦が混乱するだろうがアホか」
( T)《いやいやいやお前がアホか。だって俺だよ?俺のコールサインだよ?マッスル以外の何があるんだよ。百億歩譲っても【Leonidas】か【Sparta】だろ。
【Fighter】とかなんかクソ雑魚っぽい。ヤダ》
( ФωФ)「ヤダじゃねーよ脳みそ五歳児か。文句は大本営に言え決めたの大本営なんだから」
( T)《はーーーー、つっかえ。上層部もお前もマジつっかえ。そんなんだから禿げんだよ》
( ФωФ)「まだフッサフサだし百歩譲って禿げたとしててめえのせいだよどんだけてめえら関連の始末書来てると思ってんだ」
( T)《関係ないけど【Caesar】ってコールサインとしてどうなん?なんかチョイスがダサくね?》
( ФωФ)「世界的な偉人の名前つかまえてお前……」
尤も、それをコールサインとして採用されるといまいちしっくりこないというかあまりセンスを感じられないのは同意するが。
あとその論理で行くと【Leonidas】も割と選択としては微妙ではないかと思ったが、言うとまたいらぬ方向に話が脱線すること請け合いだったのでぐっと腹の中に飲み込んだ。
( ФωФ)「とにかくだ、コールサインは今更変えられん。次回で貴様の希望が通ることを祈るんだな、【Fighter】」
( T)《だから【Muscle】だっつってんだrドゥフボゥッ!!?》
68:
《───どうも〜〜ロマさん!ウチの司令官が大変失礼しました〜!》
“昔馴染み”が突然奇天烈な断末魔をあげ、一瞬向こう側で静寂が訪れる。瞬き二回ほどの間を置いて応答したのは、少し幼い響きが残るもののはきはきとして耳障りの良い少女の声だった。
( ФωФ)「青葉か」
《はい、青葉ですよ!あ、司令官には後でよく叢雲さんと共に言い聞かせておきますのでここはご容赦下さい!》
( ФωФ)「うむ……時に、奴は今どのような状態だ?」
《股ぐら抑えて蹲ってます!!》
(;ФωФ)「お、おう」
基本的にこの鎮守府の艦娘達は提督である奴に対して容赦が全くない。間違いなく慕われてもいるのだが、時折奴の身分が海軍提督だということを忘れるぐらい扱いが雑だ。
( ФωФ)「あー……可能ならもう一度奴に無線を戻してくれ。間もなく作戦空域だ、齟齬があっても困る」
《了解しました!
…………ところで青葉としては、さっきロマさんも司令官のノリに併せて大騒ぎしてたのはいただけないと思いますよ〜〜?》
(;ФωФ)「………」
耳朶に染みる声色から、夏の向日葵を思わせるあの笑顔とその笑顔の奥に輝く凍てつく氷の如き目付きが容易に想起される。空調がよく効いているはずの機内なのに、我が輩の背筋は裸でロシアの大地に放り込まれたかのような凍えぶりだ。
《次同じことが起きたら司令官と一緒に叢雲さんのお説教受けて下さいね……?》
(;ФωФ)「二度としません勘弁して下さい」
かつて一度だけ、様々な偶然の果てに我が輩はあの叢雲の「説教」の対象になったことがある。
あそこから生きて帰れたことは、我が輩の人生でも五指に入る奇跡だ。
70:
(;T)《ってぇ〜〜、お前アレ半ば本気の蹴り………はいすみませんもうふざけないですもう一発はやめて下さい死んでしまいます》
通信に復帰した奴の声はまさに「震え声」であり、額に脂汗を浮かべて青葉の追撃に身構える姿が目に浮かぶようだ。我が輩は心の底からの感情を込めて、そんな“昔馴染み”に声をかける。
( ФωФ)「ざまぁwwwwww」
( T)《てめぇ今度あったら絶対アロガント・スパーク決めてやるからな》
( ФωФ)「それこないだ貴様が例のノロマス系女にぶちかました奴だろうが」
《………ロマサーン?シレイカーン?》
(;ФωФ)「《申し訳ございません!!!!》」(T;)
薄ら聞こえてきた青葉の声に直立不動になる。なんだこの威圧感こっわ。睨んだだけで深海棲艦沈められそう。
( ФωФ)「で、作戦の話に戻るが変更は一切無い。我が輩たちはこのままトゥロマ川からムルマンスクへの上陸を計る深海棲艦を迎撃。奴等の上陸地点を封鎖して市内への流入を止める。
港湾部の掌握後は維持戦力を残して市内に反転。先遣降下した部隊やロシア正規軍と合流して反政府軍並びに深海棲艦残党の殲滅に移行する」
( T)《………俺が言うのもなんだけどお前も切り替え凄いな》
本当にお前に言われる筋合い無いなこの日本版デッドプールが。
( T)《“泊地”はもうどっかに築かれてるのか?》
( ФωФ)「少なくとも現段階では報告はない。だが、奴等が築くつもりでここを攻撃している可能性は極めて高い。
そしてもしこの近辺に泊地ができた場合、ヨーロッパ全域の失陥は確定的になる」
ドイツ、フランス、デンマーク、そしてノルウェー。実に4箇所で深海棲艦は内陸浸透の橋頭堡を手に入れ、東欧連合軍や米仏軍は質量双方で圧倒されつつある。
仮にここでムルマンスクに深海棲艦の拠点が築かれれば、ロシア軍はモスクワ防衛のために膨大な戦力を割く必要ができる。そうなれば東欧の支援をまともに行えない。加えてスウェーデン、ノルウェー、フィンランドの北欧3ケ国も東西から挟撃される形になり、既にノルウェー海とデンマーク方面から雪崩れ込んでくる敵艦隊に青息吐息の三国がそれに耐えられるわけがない。
言ってしまうなら、ムルマンスクを襲撃した反政府軍と彼らを安易に迎え入れ同調した相当数の市民は、その考えなしの行動の結果人類全体を本格的な滅亡の危機に追いやったと言っても過言ではない。
71:
( ФωФ)「まぁ、御託を並べはしたが貴様が、そして我が輩たちがやるべき事は変わらん。要は────」
( T)《────クソ雑魚ナメクジ深海魚を皆殺しにしろって事だろ?初めからそう言えば一回で済むっての》
( ФωФ)「ああ言えばこう言う奴だ」
………本当に、こいつは昔から変わらない。我が輩の所属する組織がまだ自衛隊“だけ”だった頃から、一貫して馬鹿で単純で筋肉教徒でB級(クソ)映画フリークでムカデ人間をこよなく愛するという致命的な欠陥嗜好を抱える社会不適合者だ。
だが一方で、小指の爪の先程だが「変わらない」事を尊敬する。
例え国から捨て駒のように扱われても、例え騙された挙げ句──騙され方は間抜けの一言に尽きるが──得体の知れない実験のモルモットにされても、例えそれらを全て背負った上で更に「提督」として艦娘達を率いることになっても。
奴は頑なに変わらない。変わろうともしない。
今まさに、「世界の命運」がかかっているような状況下においてすら、奴は相変わらずいつも通りだ。
('、`*川「准将。目標ポイント上空まで後15秒です」
( ФωФ)「────【Fighter】、時間である!!」
その真っ直ぐさが。迷いのなさが。
我が輩は、本当に極稀にだが羨ましくなる。
( T)《だから【Muscle】だっつってんだろ死ね》
( ФωФ)「なんでそこまで頑ななんだよてめえが死ね」
………いや、これ単に事の重大性が解ってないだけか?
75:
('、`*;川「目標地点に到達────っと!?」
( ФωФ)「っ……」
グラリ。津波に正面から突っ込んだ小舟のように、C-17の巨体が傾いだ。
低く、だがはっきりと機内に届いた砲弾の爆発音。何発か連続したそれらはよほど近くで炸裂していたのか、床や壁を通して震動が我が輩たちにも伝わってきた。
《Enemy shoot incoming!!》
《Evade, Evade!!》
《Shit, I'm hit!! Going down Going down!!》
《All unit, Break!! Pull up!!》
《Alcatraz-06 one hit……Noooooo!?》
阿鼻叫喚と言っていいだろう。友軍の輸送機や護衛の戦闘機隊による悲鳴にも似た通信が入り乱れ、悲鳴や爆発音を残してその内の幾つかが途切れていく。
('、`;川「深海棲艦の対空砲火です!!港湾部より凄まじい量の弾幕が展開されています!!」
「前衛のMV-22Bに被撃墜機多数、護衛のF-35にも損害有り!!」
「敵の総数は不明です、少なくとも100隻は優に超えているかと……」
( ФωФ)「映像出せ」
('、`*川「了解!映像、モニターに出します!!」
オペレーターの一人が機器を操作し、メインモニターの画面を切り替える。
真夜中の暗闇に包まれる港湾部が、赤外線カメラによって映し出される。
深海棲艦は体表から放出する特殊な電磁波によってロックオンを受け付けないが、体内器官の一部が第二次世界大戦期の軍艦のタービンのような構造をしておりこれらは特に奴等の戦闘時は常時強い熱を発している。
そのため、奴らの体色も相まって有視界戦が難しい夜間は熱源感知による捕捉が非常に有用な手段となるのだが────
( ФωФ)「………なるほど、これはなかなか大量であるな」
やや画質の荒い、緑がかった白と黒を基調とする画面の中に蠢く異質な明色の群れ。様々な形状をしたそれらは時折一際強く発光するが、恐らく砲撃によるものだろう。
100……いや、そんな数ではすむまい。やや離れた位置からこのムルマンスクへと向かってくる新たな群れも加えれば、200は優に越えているだろうか。
“昔馴染み”にこの映像を見せてやれば、さぞやげんなりした表情を浮かべたことだろう。
76:
「トゥロマ川より深海棲艦が上陸を開始!上陸箇所は確認できる限りでは5箇所、判別はできませんがヒト型も複数体含まれます!!」
「対空砲火、更に激化!Alcatraz-02、05もロスト!
攻撃、全て“前衛部隊”に集中!」
( ФωФ)「………ふむ」
機内の揺れが更に激しさを増していく中で、我が輩はオペレーターの新たな報告に思わず眼を見開いた。
( ФωФ)「存外上手く“釣れる”ものであるな」
艤装を装備した艦娘の、関係者の間ではその特性上“船体殻”と呼ばれる不可視の防壁。高い対爆・対貫通防御能力を持つが、この防壁の内側に存在する艦娘達の“本体”は人類とそう耐久力は変わらない。
加えて、彼女達の防壁はあくまでも深海棲艦や通常兵器の砲撃・爆撃・銃撃に対する防御力しか持っていない。例えば、高度100Mからでも転落すれば極めて高い確率で彼女達は死ぬ。MV-22Bが撃墜された瞬間の爆発などで死ぬことは免れても、そのまま地上に叩きつけられれば何の意味も為さない。
【ヒト型】という利点を活かして、彼女達は空輸によって瞬く間に前線に展開させることができる。だが機体が撃墜された事による“落下死”という危険性も併せ持つこの輸送方法は、一種の諸刃の剣なのだ。深海棲艦もその事を理解している以上、上陸の邪魔をさせないためになるべく艦娘が空にいる内に撃墜してやろうという魂胆なのだろう。
奴等がある程度の戦略性を持って人類に相対する存在であるなら、それは「当然」辿り着く解。
( ФωФ)「後衛のMV-22B全機に通達。低空域にて加突入用意。合図があり次第順次突撃を開始せよ、と」
('、`*川「了解!」
故に我が輩は、あの全身筋肉を含む艦娘部隊をあえて大きく遅らせて進ませていたわけだが。
77:
https://m.youtube.com/watch?v=NC8BeRFuUm4
78:
拍子抜けするほど敵はあっさりと此方の策にかかったが、気を抜けるような状況では未だにない。
いかにも指揮官機然とした存在感があるC-17を前に出して囮の効果を強めた結果我が輩自身が吹き飛ばされかねないという事もあるが、それ以上にせっかく艦娘の損失が未だ0なのだ。
地上に彼女達が完全に展開しきるまでは、その状態を維持したい。
( ФωФ)「対地射撃開始!」
「Yes sir!!」
通常輸送機は武装がなく、せいぜいミサイル攻撃を回避するためのフレアや最低限度の自衛用に機首や後部に小口径の機銃が配備されているものがある程度だ。
ただし、“海軍”仕様かつ管制機用の改造モデルであるこのC-17は少々事情が異なる。
オペレーターが端末を操作する。それに伴い両翼に装備されたM61 20mmバルカン砲塔と機体下部に格納されていたボフォース L60 40mm機関砲が起動し、港に蠢く深海棲艦の群れをにらみ据えた。
「Open fire!!」
『ウォアッ!?』
『ガァッ!?』
『ォオオオオォオオオッ!!!!』
撃ち下ろされる弾丸。三条の火線が群れの直中に突き刺さる。
無論ヒト型はおろか駆逐イ級にすら効果的なダメージを与えられる攻撃ではないが、知能が低い非ヒト型なら挑発効果は十分だ。
尋常ならざる肺活量を持って吐き出された咆哮が、入り乱れる砲声とジェット音を容易く切り裂いてここまで届いた。
一拍遅れて、声の主が放ったと思われる砲弾が機体の間近で炸裂する。
79:
「敵群体、当機並びに前衛部隊への砲火更に激化!」
('、`*川「港湾部に殺到している個体はほぼ全て此方に射線を向けています。接近する後衛部隊に攻撃が向く様子はありません!」
( ФωФ)「よし、そのまま引きつけ続けろ。とにかく銃火をばらまき一瞬でも長く奴等の眼を此方に引きつけるのである」
「「「了解!!」」」
1秒後には至近弾や直撃弾によって痛みを感じる間もなくこの世から消えたとしても不思議ではない砲火の中を、パイロットの文字通り命懸けの努力と奇跡に等しい幸運によって辛うじて無事でいる状況下。
臆病なものなら戦意を失い泣き叫んでいるような有様の中で、オペレーターたちは全員自らの職務を全うし続けている。
そんな彼らの姿を見てばかりいるわけには行かない。
我が輩もまた、職務を全うすべくクリスヴェクターを胸に抱えウィングスーツの下にしまい込む。
('、`*;川「…………本気で行く気ですか?」
( ФωФ)「当然だ。百聞は一見にしかずと言うであろう。
前線の状況を我が輩自身が肌で感じなければ、的確な指示など出せん」
自衛隊の一員として作戦を立案した青ヶ島の一件のように、ぬくぬくとした後方で戦闘の指揮を執るのはどうにも性に合わない。
戦国時代の名将、朝倉宗滴公のような「常在戦場」こそ指揮官としての理想であるべきだ。
どれほど腐った人間になろうとも、机上の数字だけ眺めて戦争をした気になれるほど腐りきった存在には、我が輩はなりたくない。
80:
( ФωФ)「────ハッチを開けろ!!」
我が輩の叫びに応じて、C-17の後部ハッチがゆっくりと開いていく。強烈な寒気が機内に吹き込み、先日の降雪から一転して雲一つ無い夜空とその中に咲き乱れる無数の爆炎が視界に映し出された。
( ФωФ)「これよりムルマンスク港湾部の深海棲艦を迎撃、敵艦隊の浸透を防ぐ!
総員、着地と同時にやかに行動を開始せよ!」
後ろに続く、20名ほどの護衛兵士を振り返る。風と爆発音に負けないよう声を張り上げれば、全員が同時に頷く。
(*゚ー゚)「了解です、准将」
その先頭に立つもう一人の“昔馴染み”は、場違いな程朗らかな笑みを浮かべていた。
81:
(#ФωФ)「用意、用意、用意…………降下、降下、降下!!!」
対空砲火が途切れた刹那の隙を突き、空中に身を躍らせる。そのまま体を下に向け、僅かに四肢を広げて滑空の姿勢を作りながら地面に向かって加していく。
ヘルメットと薄いながらも防寒性能に優れるウィングスーツのおかげで寒さや風圧を殆ど感じることはないが、弾丸の如き度で街並みが迫ってくる視覚的な圧迫感からは逃れられない。しかも空に舞う“餌”を撃墜すべく、地表やトゥロマ川から撃ち上げられる嵐の如き対空砲火の直中に突っ込んでいくわけだ。
ともすれば細めそうになってしまう眼を意識して見開き、視界を狭めぬよう尽力する。
《Albatross-Team,?Engage!!》
眼下を、機影が駆け抜ける。プラット・アンド・ホイットニー?F135エンジンの稼働音で冷え切った夜気を震わせ、F-35ライトニングが港湾部に乗り上げ市内への侵入を開始した深海棲艦に向かって突っ込んでいく。
《Albatross-01,?Fire!!》
《Albatross-02,?Fire!!》
『ォオァアアアアアアアアッ!!!?』
両翼下部から切り離される、計4発のMk84爆弾。
『───ァアッ……』
火柱が上がり、直撃を受けた駆逐ロ級と思わしき“艦影”が仰け反る。上陸したばかりだったロ級はよたよたと後ろに向かって数歩蹌踉めき、弱々しい鳴き声を──実際に聞こえたわけではないが──天に向かって上げた後仰向けにトゥロマ川に転落した。
82:
『────ォアッ!?』
『アァアッ!?グゥアッ!?』
『ォオオォ………』
《Enemy down!!》
《Bombs away》
《Don't stop!! Pull up Pull up!!》
【Albatross】の突入によって、奴等はようやく低空で突入してきた後衛部隊の───我が輩たちの「本命」の存在に気づいたらしい。慌てて迎撃すべく新たな火線を貼るが、時既に遅くAlbatrossに後続したF-35部隊による攻撃が始まった。
Mk84を用いた、それもJDAMを装着していない完全な無誘導爆撃。深海棲艦の出現前にはもう見ることは無いと思われた光景だが、まともに最先端技術が通用しない奴等には却って此方の方が効果的だ。
そして彼らはアメリカ軍から選抜された“海軍”航空隊である。元々対深海棲艦を想定した訓練を受けてきた彼らにとって、この程度はこなせなければ恥になる。
『ォオオオオオッ!!?グォッ、オォォォ……』
《Enemy kill》
《Good job!!》
寸分違わぬ精度で次々と叩き込まれる爆撃に、損害が瞬く間に増える。身体から濛々と黒煙を吹き出して物言わぬ骸となった個体もおり、爆撃が川辺の上陸中、或いは上陸直後の艦に集中されたこともあってその隊列は大きく乱れていた。
【Warthog】や第1波空挺部隊、そして反政府軍との交戦に夢中になって奴ら先遣隊がムルマンスク内陸に集結してしまっていたこともこの有様に拍車を掛ける。
背後から撃たれる心配が極めて薄いF-35部隊は、基本正面の群体からの砲火にさえ気を配っていればいい。彼らの研ぎ澄まされた集中力と鍛え上げられた操縦技術の前には、隊列が乱れ大きく隙間が空いた火線など児戯に等しい。
83:
最新鋭の音戦闘機群による猛爆撃で奴等が足止めを食らう中、我が輩は高度200m程に達したところで悠々とパラシュートを開く。C-17から飛び出す直前はあれほど濃密だった弾幕は今や見る影もなく、明らかに統率を失った様子で散発的に撒き散らされているだけだ。
《Lightning-01 Engage!!》
《Lightning-03 Engage!! Attack!!》
『『『ォオアァアアアアアッ!!!?』』』
丁度我が輩の足が地に着いたところで、前衛の護衛機たちも攻撃に移る。高高度から猛然と迫ってきたF-35の新手に爆弾と機銃掃射を浴びせられ、一挙に10隻近い軽巡・駆逐が断末魔を残して沈黙した。
(*゚ー゚)「准将、総員無事着陸に成功しました」
( ФωФ)「うむ」
航空隊の高い練度に感心しながら反復爆撃の様子を眺めていると、兵を纏めた椎名が此方に駆け寄ってくる。あくまでもざっと見た限りだが、欠員はいない。
( ФωФ)「前衛部隊全体での損耗は」
(*゚ー゚)「降下前の時点でMV-22Bが何機か撃墜されていますが、空挺に成功した部隊の損害は極めて軽微だと思います」
「………でも、そもそも俺達や艦娘部隊が降下する意味ってあったんですか?」
少々困惑した様子で、護衛兵の一人が首を傾げる。彼の視線の先にあるのは、殆ど一方的に深海棲艦を叩きのめしている航空隊の姿。
「この調子だと、少なくとも正面の敵艦隊については空軍だけで処理できそうですが」
確かに、あの光景だけを見れば艦娘に出る幕など無いと感じてしまう。そして実際に世界中の人類の多くは、ああいった光景を何度か目にして開戦当初致命的な誤認をしたのだ。
“深海棲艦は大した敵ではない”と。
84:
undefined
85:
疑問の声を挙げた兵士を改めて眺めてみると、かなり年若い。あまり白人の顔立ちや年齢の見分けに自信があるわけではないが、せいぜい20になるかならないかといったところではないだろうか。
幾ら“海軍”出身でもこの若さだと深海棲艦との戦闘経験が乏しいか、場合によってはコレが初陣の可能性もある。……そういった若者を入隊させる余裕がまだあることを喜ぶべきか、仮にも海軍にいながら深海棲艦への理解がその程度でしかない人間がいることを嘆くべきかは議論の余地がありそうだが。
( ФωФ)「名は?」
「……? ロナルド=ウィリアムズですが」
( ФωФ)「なるほど、ではウィリアムズ。結論から先に言うが、“あの程度”の爆撃で斃しきれるほど深海棲艦は甘い存在ではない。貴様は少々不勉強が過ぎる」
「し、しかし、現に空軍は圧倒を─────!?」
彼がそんな台詞を口に仕掛けた瞬間から、F-35の編隊が徐々に戦場から離脱を開始していた。彼は眼を丸くしているが、少し考えればそれは至極当然の行動だと解る。
( ФωФ)「某フライトシミュレーションじゃあるまいし、戦闘機には60何発もミサイルを積むことも燃料を無視して無限に飛び続けることもできん。奴等の物量の前に、“あの程度”の爆撃はただの足止めだ」
個体一つ辺りが第二次世界大戦基準とはいえ軍艦の耐久力を持ち、しかもそれが多くの場合複数体───最悪数百体単位で押し寄せてくるという悪夢。しかも高い戦闘力を誇るこの種族は、とにかく近代兵器との相性がとことん悪い。
イージス艦ではまともにロックオンができず、戦車や自走砲では単純な火力差、耐久力差が大きい。唯一高い火力と誘導兵器に頼らずとも攻撃を当てる力が両立している空に活路を見いだそうとも、底が全く見えない敵の物量の前ではどうしても焼け石に水となる。ましてやヒト型の存在や空母型が用いる艦載機との相性を考えると空の優位性も決して絶対的ではない。
ドイツ・ベルリンでの一件も、あれほど奇跡的な勝利を収めながら結果から見れば“甚大な損害の末に拾った局所的な勝利”に過ぎなかった。
要はベルリンで示されたのは人類の「可能性」ではなく、深海棲艦に相対する人類の「限界」だと言えよう。
86:
( ФωФ)「根本的な話をするとだな、本当に通常兵器だけで勝てるような相手ならこれほどの犠牲が払われるものか。世界共通の脅威が現れてなお内輪揉めに興じていた人類の愚かさを差し引いたとて、六年前の様なていたらくが起こるわけがない」
だが実際には、人類は世界規模で制海権と制空権を喪失しあらゆる国が本土上陸の危機に晒された。実際に蹂躙された国も少なくない。
断言しよう。あの時間違いなく、我が輩たち人類は滅びへの道を着実に歩んでいた。
( ФωФ)「人類には必要だった。深海棲艦の脅威に抗える存在が。劣勢から挽回し、人々を勇気づける英雄が。既存のものとは全く指向が異なる兵器が。
故に人類は、生み出した」
(#T)「行くぞオラァアーーーーーー!!!!」
「「「オォーーーーーッ!!」」」
「艦娘という、【兵器】を」
89:
爆弾を使い切り、補給のために離脱を開始するF-35の編隊。波状攻撃による妨害から解放されて、残った深海棲艦が進撃を再開した。
『ォォォアアアォアアッ!!!』
『ァア、アアアアアアッ!!!!』
散々上陸を妨害されたことに対する怒りか、幾多の同胞を沈められたことへの嘆きか。より強く、より長く、奴等が口々に上げる耳障りな咆哮が空気を振動させる。
度重なる爆撃によって更地と瓦礫の山しか残っていない川辺は、化け物共が群れなし陸へと上がってくる様がよく見えた。最低でも5Mを越える巨体の持ち主たちが横隊を組み、瓦礫の山を蹴散らしながらムルマンスクの街を蹂躙すべく進撃する。
だがその進路には、既に奴等の天敵が展開を終えていた。
(#T)「武蔵ぃ、ぶちかませ!!!」
「おう!
────遠慮はしない、撃てェ!!!!!」
口火を切ったのは、やはりあの男が率いる艦隊だった。
大日本帝国が世界に誇る、46cm三連装砲が轟音を奏で、それを放った褐色の肌を持つ大柄な艦娘───大和型戦艦2番艦・武蔵の大音声と共に大地を揺らす。
砲弾は膨大な熱と運動エネルギーを撒き散らしながら敵の戦列に向かい、その先頭を進んでいた軽巡ト級に直撃する。
『ァグァッ』
断末魔を上げる暇すらなく、ト級の巨体は爆発音と共に細かな破片と化して飛び散った。
90:
『………ア?』
『ゥッ、アァ?』
非ヒト型の深海棲艦は知能がヒト型に比べて極めて低く、罠や欺瞞にかかりやすい上自身がよほど致命的なダメージを受けるまで“退却”というものを知らない。リ級やル級のように戦況を読んで軽微な損害でも撤退するといった知性的な行動は上位種からの命令が無い限りほぼ見られず、しかしながらそれ故に損害を顧みずに前進してくるため物量を用いた浸透強襲を迎撃することは困難を極める。
だがそんな非ヒト型でも、武蔵による規格外の一撃には知能云々を越えた生存本能を大いに揺さぶられたようだ。
飛散したト級の体液や肉片を頭から浴びて、奴等の進軍が困惑し躊躇するかのように止まる。
尤も、それは寧ろ最悪手に近いわけだが。
「武蔵さん、奴等ビビって棒立ちになりました!構わず続けて撃って下さい!」
「わかりやした姐さん!!」
「俺達は敵左翼に火力を集中する!陸奥、羽黒、撃て!!」
「此方も攻撃を開始します!山城、扶桑、主砲斉射!!」
居並ぶ戦艦部隊の砲撃が、唸りを上げて殺到する。
非ヒト型種は姫級などの随伴個体を除いて、現状確認されているほとんどが所謂軽巡クラス、駆逐艦クラスの下級艦だ。通常兵器から見れば十分な難敵でも、ある程度の練度を積んだ艦娘達からすればよほど物量差が無ければそう脅威となる相手ではない。
ましてや、“海軍”所属の艦娘部隊。練度は一般的な鎮守府に配属されているそれらと比較してまさしく次元が違う。
寸分違わぬ精度での砲火に的確に急所を射抜かれて、圧倒的な火力の炸裂に容易く甲殻を砕かれて、次々と薙ぎ倒されていく。
特に、あの男が率いる武蔵の練度は群を抜いていた。もともと“艦娘・武蔵”の性能は高いが、奴はそれを更に極限まで鍛え上げたらしい。
奴の砲が一つ吠える度に、確実に一隻、敵が地に屍を晒した。
まさに、一撃必殺と呼ぶに相応しい。
91:
艦娘部隊との砲撃戦(というより一方的な虐殺)によって、深海棲艦側の対空砲火は今や殆どなくなっている。空母型がまだ到着していないのか、艦載機が上がる気配も無い。
無防備になった港の空に、新たなMV-22Bの編隊が乗り込んできた。
《降下しろ、Go??go?go!!》
《着陸完了!総員、展開急げ!》
「先行部隊の援護に回る!足柄、行け!!」
「鳳翔さん、いつでも艦載機を上げられるよう準備を。比叡以下各艦、砲撃開始!!」
ホバリングする機体からスリングロープを伝って、或いは着陸した地点で後部ハッチから飛び出して、そこかしこで提督と艦娘達が路上に展開する。凄まじい度で屍が増えていく深海棲艦に対して、此方は機銃弾一発の被弾報告すら届かない。
だが、油断はしないし攻撃の手も緩めない。
息継ぐ間もなく攻め立てて、全て鏖殺するまで此方が気を抜ける瞬間は訪れない。
( ФωФ)「対地攻撃機隊、第2波突入せよ。全火力を上陸中の深海棲艦に集中!」
《了解。これより支援攻撃を開始する》
(#ФωФ)「艦隊各位、航空支援間もなくくるぞ!衝撃に備えるのである!」
程なくして、魔王の申し子が爆音を響かせて我が輩の頭上を飛び過ぎた。
92:
《Targets affirm. Guns,Guns,Guns》
《Guns, Guns, Guns》
『ォオゥオオオッ!!?』
『グゥガッ……』
4機のA-10は、射程に捕らえた深海棲艦の群体をありったけの火力で打撃した。ロケット弾と機関砲の火線を雨のように浴びせかけられ、正面に加えて上空からの火力も加わったことで奴等の戦列は更に乱れる。機銃掃射と砲撃で全身に大小様々な弾痕を穿たれて、一番大きな個体だったホ級flagshipがぐたりと前のめりに倒れた。
《Enemy down!!》
《Scorpio-01より【Caesar】、対地掃射完了。再d
上空を通過し、再度攻撃に移ろうと反転していたA-10の編隊。その先頭を行く機隊が、正確無比な地上からの砲火によって吹き飛ばされる。
《!? Scorpio-01 Down!!
I repeat, Scorpio-01 Down!!》
「空軍機が───っ!?」
次に狙われたのは、一際派手に艦隊を蹂躙していた武蔵だった。
立て続けに二度、砲が唸る。弾丸は寸分違わぬ見事な照準で、回避の間を与えず彼女に迫る。
「むんっ!!!!!」
また二回、音が鳴る。
( ФωФ)「えぇ〜〜………(困惑)」
直撃コースだった砲弾は、彼女の拳によって何れも粉砕される。
「………くっ」
煙が上がっている拳を突き出した体勢のまま、顔を伏せて武蔵は笑う。最初は肩を震わせる程度だったそれは、やがて高らかな哄笑に変わった。
「………くくっ、ははははははは!!いいぞ!当ててこい!!!
私は、ここだぁ!!!!!!」
完全に、世紀末覇者とかその辺りの貫禄だった、
93:
『────!? ─────!!!?』
『───ッ』
Scorpio-01と武蔵に対する砲撃の実行者である戦艦ル級は、明らかに動揺していた。その随伴艦としてともに前衛まで進出してきた重巡リ級もまた、隣に立ちながら表情を強張らせる。
当たり前だ。砲撃を躱される、耐えられるまでなら此方が艦娘であることも含めて十分に想像できよう。だが、徒手空拳で砲弾が撃墜されるなど例え眼前で見せられたとしても俄には信じられまい。なにせ味方の側であり、しかもあやつらの練度をよく知っているはずの我が輩ですら未だ目の錯覚だった可能性を捨てきれないのだから。
『────ッ!!!!』
場合によっては恐怖すら抱いていたかも知れない。ル級は明らかに冷静さを欠いた動きで、両手の艤装を武蔵に向けて構える。
故に奴は、既に間近に迫っていた“より危険な存在”を感知できなかった。
『……………ア?』
巨大な盾を思わせる艤装が、持っていた両手ごと落下する。一拍遅れて吹き出した自分の青い血液を、ル級は半ば呆けた表情で眺める。
「────ども〜♪」
『ゥア゛ッ!?』
掛けられた声に顔を上げた瞬間、視界が誰かの掌によって覆い尽くされる。
「ぃよいしょぉっ!!」
『!!!?!?!?』
青葉型重巡洋艦、1番艦青葉。
彼女は、そんなどこか気が抜けるような気合いと共に、鷲掴みにしたル級の頭を地面に勢いよく叩きつけた。
97:
音が鳴った。
中身が入ったビール缶を握りつぶしたような、水風船を満身の力を込めて地面に叩きつけたような、そんな大きく響きはするが軽い音。
例えその光景を目の前で見たとしても、重巡洋艦娘が戦艦ル級の頭を地に打ち付けて叩き潰したときに“それ”が鳴ったのだと俄に信じられる者はこの世にどれだけいるだろうか。
( ФωФ)「………のっけから全力全開であるな」
( T)《※このゲームには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています》
( ФωФ)「は?」
誰だこのふざけた男を1大国の命運がかかった作戦に連れてきた奴。
我が輩か。
「─────あはっ♪」
彼女は───重巡洋艦・青葉は止まらない。
ビクビクと震える首無しル級を放り捨て、更に踏み込む。
『…………ッ』
事態を飲み込めずにいたのだろう、随伴艦であるリ級の動きはあまりにも緩慢だった。
残り五歩になったところで、ようやく肉薄する青葉に気づく。
四歩。驚愕からか、或いはもっと別の感情からか、あからさまに表情を歪める。
三歩。右手に展開した艤装を、弾丸のような度で接近してくる青葉に向ける。
二歩。既に間近に迫った青葉から逃れようとしたか、砲を向けながらも仰け反るようにして身体が後ろに流れた。
一歩。
『────?』
ぷつり。
古びたゴムが千切れるような、ビニールテープをハサミで裁断したような、そんな妙に無機質に感じる音を残して。
リ級の右手が、消える。
零歩。
「ハイっ、おしまいっと!」
『………? ───……?』
状況を飲み込めぬまま呆然と眼を見開いていたリ級の首筋を、先程右腕を切り落としたばかりの青葉の手刀が撫でる。
青色の体液を鮮やかにまき散らしながら、リ級の首が宙を舞った。
98:
( T)《引くわ》
( ФωФ)「………とんでもないの育て上げたな貴様」
( T)《アレに毎日オモチャ扱いされる俺の気持ちがわかるか?》
( ФωФ)「知るかよ死ね」
( T)《お前が死ね》
(*゚ー゚)「青葉さんに通信繋ぎますか?」
(;ФωФ)「《すみませんでした!!!》」(T;)
アレと叢雲のダブル説教とか考えただけでも全身が震える。実現すればそれが今度こそ我が輩最期の時になることは間違いない。
『オォガァアッ!?』
「っふぅ……!」
さて、我が輩たちが阿呆のような会話を交わす間にも戦況は刻々と変化する。
『ォアアアッアッ!?』
『ガグッ………』
「っぷぅ! いやぁ、楽でいいですねぇ!」
やはり、先程青葉が斃したル級は前衛艦隊の指揮“艦”だったらしい。元々の旗艦か前線の混乱ぶりを治めるために進み出てきたのかは定かではないが、どちらにせよ残された非ヒト型達はますます統率を失って“海軍”屈指の──一説には最強の──力を持つ重巡洋艦に蹂躙されていた。
回し蹴りを受けたイ級が下顎を粉砕されて横倒しになる。ホ級の腕が斬り落とされ、体勢を崩した直後に腹を切り裂かれて絶命する。そのままホ級の首を引きちぎって投げつければ、今まさに砲撃を放とうとしたロ級の砲口にその首が詰まり、弾薬の誘爆でロ級が木っ端微塵になる。飛んできたロ級の破片を横殴りで吹き飛ばせば、武蔵の砲撃に負けず劣らずの度で飛翔したそれが別のホ級の胸を射抜く。
艤装は装備されている。だが青葉は、それらの蹂躙を全て徒手空拳で行っていた。
日本人女性の平均身長よりやや低い、150cmになるかどうかの小柄な身体で躍動し、大きいものなら20Mに達するような化け物を格闘戦で薙ぎ倒す。
さながら一昔前の、ヒーローアニメのような光景には最早衝撃を通り越して笑い出してしまいそうだ。
99:
( T)《ガル=ガドット主演の世界的大ヒット作品【ワンダーウーマン】、8/25から日本公開》
( ФωФ)「何言ってんのお前」
( T)《ノルマ達成》
( ФωФ)「何言ってんのお前」
8/25なんて疾うの昔に過ぎてるだろ怖っ。
《タウイタウイ泊地【Hound-Dog】より、軽巡一隻突撃する!援護頼むぜ!!》
《【Ghost】より【Caesar】。我が艦隊から前衛に白兵戦力を増強、【Fighter】青葉を支援する。……まぁ、正直なところ支援が必要そうには見えないが》
二つの“艦影”が後衛から飛び出し、青葉と深海棲艦共の乱戦の直中へと突っ込む。片方は刀を、片方は槍を脇に構え、それぞれ低い姿勢で弾丸のごとく敵艦との間合いを詰める。
「おらぁっ!!!!」
『ヴァッ………』
裂帛の気合いと共に振り切られた軽巡・天龍の刀が、ホ級を袈裟懸けに斬って落とした。
「────っふ!」
『コクァッ!?』
鋭い呼気と共に突き出された特型駆逐艦・叢雲の槍が、ヘ級ののど笛を貫き通す。
「やぁこれは……っと!!」
新たに乱入してきた二人の鮮やかな手並みを目の当たりにし、青葉も負けじと拳を突き出す。
正拳突きによって声もなく撃ち倒されたイ級は、しばらくぴくぴくと痙攣した後完全に沈黙した。
すると天龍と叢雲も、すかさずそれぞれの得物を振るい敵艦を撃ち倒す。そのまま三人は草でも薙ぎ払うかのように、周囲の非ヒト型を物言わぬ骸に変えていく。
100:
「いやぁ、まさか青葉達の鎮守府の天龍さん以外にもこれほど鋭い剣技を持つ方がいらっしゃるとは。この世界は広いですねぇ」
「お宅の天龍と比べてもらえるとは光栄だな。まっ、追いつくのはまだまだ先の話だろうが!」
「其方の叢雲さんは、もしやこの間ウチの司令官がお邪魔した………」
「えぇ、あのノロマス女の騒ぎの時に世話になったからちょっとした恩返しにね………あんたには必要なかった見たいだけ、どっ!!」
たまたま散歩道で会った少女達の挨拶のような朗らかな会話。ただしそれは、この三者による殺戮の中で交わされている。
互いに、特に連携は取っていない。ただそれぞれの武器を振るい、目の前の敵に当てる。
その単純な動作が、しかしながら確実かつ簡単に周囲の敵を絶命させていく。
《此方那智、敵艦隊へ突入する!!》
《加古、白兵艤装展開!突貫開始!!》
《雷、司令官のために頑張るわ!………ムラクモニマケナイムラクモニマケナイムラクモニマケナイ》
青葉達の戦いぶりにあてられたのだろうか。無線機から次々と“名乗り”が聞こえ、艤装を構えた艦娘達が敵陣へと斬り込んでいく。
(*゚ー゚)「なんか戦国時代の侍が名乗りを上げてるみたいですね」
( ФωФ)「言い得て妙だな」
確かに、それはなかなか時代錯誤な光景に思えた。初めて「鉄砲」という近代の開幕を告げる兵器を手に入れてから数百年、我が輩たち人類は常に「いかに遠くから、リスク無く敵を倒すか」に重点を置き戦争技術を進歩させてきた。銃の射程が伸び、大砲が、戦艦が、空母が生まれ、やがて地球の裏側さえ狙えるミサイルの開発にまでこぎ着けた。
そんな中にあって「進歩」の系譜に組み込まれていた兵器の生まれ変わりである少女達が、槍や刀を模した武器を構えて人類の敵を打ち倒していく。
見ようによっては、何と皮肉な光景だろうか。
101:
青葉ら10隻ほどの艦娘達による白兵突撃で、遂に深海棲艦側の前線は完全に決壊した。
非ヒト型の物量と浸透能力を持ってしても、キチg………ゴホン、斬獲部隊の攻勢の勢いを相殺することはできなかった。後に膨大な数の屍と豪雪のごとく降り積もった肉片や甲殻片を残して、旗艦の命令を受けたらしい前衛部隊がトゥロマ川へと戻っていく。
勝ち鬨の一つも上げたくなるような快勝だが、当然誰もそんな愚かな真似はしない。
《統合管制機より港湾部全部隊に通達!トゥロマ川よりヒト型深海棲艦多数接近!》
《レーダーに反応あり、市街北より機影多数!敵空母機動部隊より艦載機が出撃した模様!》
《トゥロマ川南下中の第2波艦隊、間もなく当区域に到達します!》
我が輩たちの仕事は、まだ終わりからはほど遠い。
( ФωФ)「我が輩たちももうサボれんぞ。気を引き締めろ」
(*゚ー゚)「了解です!」
( ФωФ)「艦隊各位、命令は先程までと変わらん。貴様等の、我が輩たちの任務は深海棲艦による市街地浸透の完全な阻止と上陸部隊の殲滅だ。
“海軍”の誇りにかけて、絶対にここを通すな!!」
《《《了解!!》》》
( T)《【Musc( ФωФ)「【Fighter】どうした」
( T)《死ね》
( ФωФ)「お前が死ね」
この後めちゃくちゃ青葉に怒られた。
105:
ムルマンスク鎮守府並びに同海軍基地は、ロシアのみならず欧州諸国───特に、ドイツ、ポーランド、スイス等を中核とした東欧連合軍にとっても極めて重要な拠点だった。
前面の敵を抑えるのに手一杯な連合軍の背後に敵が浸透することを妨げる防御の要であり、学園艦や民間人の疎開・避難に際してその中継点として機能する交通の要衝でもある。艦娘戦力とそれらの整備施設、そして巨大な陸海戦力を擁するため連携すれば攻勢作戦の軸にもなり得る。
単に艦娘戦力の物量だけで見ればイタリアが現状は欧州筆頭だが、内陸深くへの侵入と橋頭堡の確保を許し日本に次ぐ艦娘先進国だったドイツが半壊している現在は圧倒的に欧州全体で陸戦兵力と艦娘を補充・整備する環境が足りていない。
元々ウクライナ問題を始めEU各国はロシアと大小様々な外交問題を抱えており、ことにドイツは第二次大戦での因縁や先日のルール地方に対する核兵器投射など並々ならぬ確執がある。しかしそれらを抱えてなおロシアと連携し、かの大国とその要衝ムルマンスクに縋らねばならない程度には、東欧連合軍は困窮を極めていた。
故に、ムルマンスクが反政府勢力と彼らに同調した相当数の市民によるクーデターで制圧された挙げ句正規軍の支援が途切れた状態で深海棲艦の襲撃をうけているという報せが入ったとき、東欧連合加盟各国首脳は一様に顔色を失った。
107:
ドイツ連邦共和国首相、ダイオード=リーンウッドも顔色を失った国家元首の一人だ。
以前よりアメリカのマスコミに“アイアン・マスク”なんて渾名を付けられる程度には顔のパーツを動かさないことで知られる彼女だが、ムルマンスクの一件が持ち込まれた直後は顔から血の気が文字通り失せて完全な土気色と化していた。表情は【オペラ座の怪人】が身につける仮面のように完全な無となり呼吸すらたっぷり一分ほど止まっていたため、ショック死したと勘違いし恐慌状態に陥った側近の一人が救急車を呼びかけるほどの騒ぎになった。
/*゚、。 /「────なるほど、なるほど。えぇ、それは当然助かります。私だけでなく、欧州に住まう全ての人間がその善意に感謝することでしょう」
(#゚;;-゚)「………おや」
そんな一悶着があってからまだ2時間と経っていないため、彼女を勇気づけようと入れ立てのココアを持ってきた首相秘書のデイ=ヒルトマンはやや面食らって立ち尽くすこととなった。
つい117分前まではそのまま棺桶に入れても葬儀屋が気づかずに蓋をして埋めてしまいそうなほど悲惨な状態だったが、今誰かと通話をしている彼女は幾分かの回復どころかほぼいつも通りの様子に戻っている。
たった今、創設されたてホヤホヤの機動迎撃大隊をムルマンスクに投下できるかどうかを東欧連合軍の陸軍総司令官に確認してきたばかりのデイは、どうも自分の仕事が無駄足に終わったようだと悟った。
/*゚、。 /「えぇ……えぇ……改めて感謝致します。Premierminister Minami」
ダイオードは更に一分少々の談笑の後、最後にそう言って受話器を電話機の上に戻す。
カチャリと音が鳴り、彼女はそれを合図としたかのように息をゆっくりと吐き出しながら椅子に深く腰掛けた。
/;*-、- /「ふぃ〜〜〜〜…………」
ダイオードにしては珍しく弛緩しきった顔。例えるならひいきのサッカーチームが絶体絶命のピンチに陥っていたところ、キーパーのスーパーセーブによって失点を免れた直後のサポーターのような表情だ。
聡明なデイは、その様子を眺めただけでだいたい何が起きたのかを察した。
108:
(#゚;;-゚)「支援の申し出ですか」
/ ゚、。 /「あぁ、それも遠回しなレンドリースや経済連携じゃない。直接的なムルマンスクへの軍事攻撃だ」
(#゚;;-゚)「おぉ、それは」
確かに今までとは毛並みが違う、とデイは思った。
アメリカはフランス、スペインには積極的に軍事介入をしているものの、フランス東部の陥落によって東側への陸海空路全てが寸断され戦力を派遣する場合北アフリカ経由というとてつもない迂回を強いられる東欧・北欧へは経済支援の表明にとどまっている。
東欧連合に参加していない一部ヨーロッパや中東各国、肝心要のロシアも支援こそ表明したものの動きは鈍く、中国は軍事支援を表明したもののあからさまな口約束でしかも暗に東欧連合各国に対する見返りまで求めていた。イギリスに至っては最早支援の表明すらしていない。
頼みの綱の艦娘先進国・日本は自国の空母機動艦隊をアメリカ軍と合流させて艦娘共々実際に派遣してくれたが、この連合艦隊はノロノロとインド洋を経由して向かってくるため到着は少なくとももう半月以上先になる。
まぁこれらの国々の戸惑いや沈黙には──クソッタレのチャイナ野郎は別として──それぞれ理由や立場がある。結局のところ、他国の前に自国を護りたいというのは為政者として当然の感情だ。 
勿論深海棲艦が人類の絶滅を目論んでいることは明白なので、本来ならそういうことを言っている暇はない。だが、それが解っていたとしても今の欧州に手を突っ込むのはかなりの度胸を要する決断だろう。
因みに北朝鮮も何故かヨーロッパに哀悼と支援の意を表明したが、【Fall's Full(秋の馬鹿)】とメディアに酷評され一部SNSやコミュニティサイトで話題を提供した後ひっそりと忘れ去られた。
109:
(#゚;;-゚)「それで、電話のお相手は?」
/ ゚、。 /「あぁ、ミナミだよ」
(;#゚;;-゚)「ミナミ……あぁ………」
デイの脳裏に、一度見たら二度と忘れられない日本国総理大臣の顔がデンッ!と勢いよく現れた。
彡(゚)(゚)
かつて外交会談の席で一度目にしただけだが、未だに(悪い意味で)鮮烈に記憶している。
ギョロリとした大きな眼に、縦長の細い顔と顔の面積の半分ほどを占める蛙のように巨大な口。日本人は「黄色人種」に分類されるそうだが、彼の肌は実際に黄ばんでおりさながらシーシーレモンのイメージキャラクターがそのまま現実に抜け出してきたような印象を受ける。
ヨシヒデ=ミナミ(南慈英)。クトゥルフ神話のディープワンも裸足で逃げ出す異様な風貌を持った男が日本の国政の長であると知ったとき、デイは強烈な目眩に苛まれた。
/ ゚、。 /「そうイヤそうな顔をするもんでもないよ。彼は風貌は完全にダゴンの眷属だが優秀な男だ」
(#゚;;-゚)「それは知っておりますが……あの、首相私より酷くないですか」
Premierminister Minamiの辣腕は、デイもよく知っている。
山ほどの失言ととても一国の代表とは思えない粗野な所作で国内外で痛烈な批判を受ける一方、今までの日本なら口を濁していた外交問題にずけずけと踏み込み正論をぶちかます姿は「お嬢さんをあやすようなもの」と嘲笑された日本の外交姿勢を激変させた。
就任当初から「どうも今回の日本国首相はひと味違う」と噂に上っていた南の言動は、深海棲艦の出現と艦娘の実装を機に切れ味を増していく。
今や艦娘先進国として、日本の立ち位置は国際社会で押しも押されもせぬ物になった。そしてその艦娘技術、特に改二技術を事実上独占状態にできているのは間違いなく南慈英の外交手腕に寄るものだ。
(;#゚;;-゚)「………解ってはあるんですが」
デイ=ヒルトマンはタンク・ブンデス・リーガの伝説の操縦手として名誉の負傷がそこかしこに刻まれた顔を思い切りしかめる。
どれだけ有能だろうが、とにかくあの不気味な容貌だけは受け付けられない。
110:
(#゚;;-゚)「……って、あれ?首相、ということは今の電話は日本からの?」
/ ゚、。 /「あぁ、支援の申し出だ」
(#゚;;-゚)「既に空母艦隊を派遣しているのに、更にですか?」
日本は以前からポルトガルとの相互援助協定を結んでおり、今回の欧州への空母機動艦隊派遣もその協定に基づいた行動だ。
それとは別に、ムルマンスクへの攻撃部隊も派遣したということなのか。
/ ゚、。 /「明確にいうと表面上は日本からの派兵じゃないよ。
“海軍”からだ」
(#゚;;-゚)「“海軍”………」
デイも、その組織の存在は知っていた。
艦娘実装当初、まだ彼女達に関連した国際法も殆ど作られておらず戦線の穴を埋めるために猫も杓子もの勢いで彼女達を指揮する提督が粗製乱造の如く生み出されていた頃。
戦線が急に押し返されていく一方で質の低い提督達による艦娘への傍若無人な行動が問題化し、また艦娘の価値に気づいた主要国による利権の奪い合いも頻発。仮初めの団結が崩壊し、再び人類同士が銃を向け合う寸前までいった時に日本とアメリカ合衆国によって生み出された、利権争いからも国際法からも外れた人類と艦娘の共同組織。
あらゆる国家のあらゆる指揮系統から、そして当時既に形骸化しつつあった国連からさえ事実上独立し、ただ深海棲艦を撃滅するためだけに編成された部隊。
その後も自在な展開能力を持つことから日米によって管理され、常任理事国と艦娘保有国以外には存在すら知らされていない超法規的軍事組織。
存在を知る一部国家の首脳や軍事関係者は、彼女達のことをただ単純にこう呼ぶ。
“海軍”と。
111:
/ ゚、。 /「君も知っているだろう、“海軍”に所属する戦力は艦娘も人間もこの戦争の初期を生き延び、膨大な数の深海棲艦を暗い海の底に葬り去ってきた古強者がほとんどだ。
たまに動員される新規戦力も、アメリカ海兵隊を初めとする各国の特殊部隊や日本の艦娘の中でもとびきりの戦功を上げた猛者揃い。
今世界で一番強い軍隊は、間違いなくこの“海軍”だ」
それは確かだとデイも頷く。
世界一位と世界三位の経済大国が、しかも人類面、艦娘面それぞれの最強戦力を誇る国家が手を組んだ事実上の連合軍だ。そこに豊富な経験まで加わってしまえば、何をどうしようとも正面戦闘となれば勝ち目は一粒の麦ほども存在しない。
加えて、一応は“あらゆる国家から独立した完全中立組織”となっているがその実情は日本とアメリカが指揮権をがっつり握っている。兵力こそ決して潤沢とは言えないが、アメリカ軍から譲渡された豊富な輸送機のおかげで展開能力も随一だ。米軍基地に隠蔽される形で東南アジアの各諸島に泊地・基地を持つなど活動範囲も広い。
だが、デイの脳裏に今度は別の疑問が引っかかった。
(#゚;;-゚)「………ムルマンスクは深海棲艦だけでなく、反政府組織に協力し共に立てこもっている市民もいるはずです。
そこに、艦娘を主力とする“海軍”を投入するのですか?」
112:
第一条。艦娘は人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条。艦娘は人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条。艦娘は、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
希代のSF作家、アイザック=アシモフのロボット三原則に着想を得た【艦娘三原則】は単に国際法で定められているだけではなく、艤装のシステムに組み込まれて艦娘がこれを護るよう様々な防護機能が設定されるほどの徹底ぶりだ。
無論艦娘側へ提督から理不尽な命令が出て貴重な艦娘資源を浪費することを避ける、或いは単に性暴行事件の発生を防ぐために艦娘側の人間に対する殺さない程度の“正当防衛・抗命権利”も法的・システム的両面で明確に認められてはいる。
だが、今回の武装しているとはいえ「人間・市民」に対し艦娘側から攻撃を加えるとなれば恐らく相当なグレーゾーンだ。
(#゚;;-゚)「艦娘は確かに非常に強力な戦力ですが、今回のムルマンスクは事情が複雑です。時期尚早というか、このタイミングでの投入だと“艦娘三原則”に違反する可能性も高いのでは」
/ ゚、。 /「まさしくその通りだ、デイ君」
ダイオードはそう言って、椅子の背もたれから身体を起こしてデイを見る。
その眼の奥から安堵が消え、どこか仄暗いものを灯していることにデイは気づいた。
/ ゚、。 /「だから、“海軍”が投入されたんだ」
114:
鍋一杯に詰め込んだポップコーンが弾けるような軽快な音と共に、手元の4.6mm短機関銃が火を噴く。足下で吐き出された空薬莢が散らばった。
弾丸をぶち込んだ建物の暗がりで呻き声が上がり、骨董品物の猟銃を構えていた爺さんが一人道路に転がり出る。
「た……助けt」
(,,゚Д゚)「Clear」
まだ息があるようだったが、弾が勿体ないので思い切り首の辺りを踏みつけて骨を折る。そのまま爺さんが隠れていた路地を覗き込んでみたが後続はなく、俺は後ろに続く時雨達に前進を合図した。
やけに古びた、木造の家が建ち並ぶ通りを静かに進んでいく。静かにといってもそこかしこを飛び回る味方空軍機のジェット音や砲声、深海棲艦の咆哮。
<ラァアアアアアアアアアイ!!!!!
(,,;゚Д゚)「………」
あと、こんな遠くなのに何故か聞こえてくる変態約1名の雄叫びのせいで周囲は十二分に騒がしいのだが。
「………ウチの提督ほンとに人間なンかな?」
(,,゚Д゚)「断言するがアレが人類にカテゴライズされるならプレデターとエイリアンは立派な人間だ」
「それもそっか」
俺としては地球外生命体説かハイター博士に生み出された人造人間説を推したい。或いは筋肉の神様。
 彡⌒ミ
(´・_ゝ・`)
なんだ今脳裏に浮かんだ禿げたおっさん。怖っ。
119:
銃声が響き、何メートルも離れた場所で雪交じりの土煙が上がる。火花が見えた路地脇の木の上に連射を浴びせると、ドラグノフ狙撃銃を抱えた人影が紅い軌道を残して地面に落下してきた。
(,,゚Д゚)「っふ」
駆け寄ってみると即死して居らず、一瞬腕が動いたのでナイフで胸をついておく。
「へたくそ……痛っ!?」
(,,゚Д゚)「喧しい、サブマシンガンで精密射撃なんかできるかっつの」
無意味に煽ってきた白露型2番艦の頭をひっぱたきながら、屍体を改めてじっくりと観察する。
この街に来てから初めて目にした、「軍服」を着た人間(だったもの)だ。白を基調にした厚手の迷彩服を着たそいつの、口元を覆っていたスカーフのような布を無造作に引きはがす。
(,,゚Д゚)「………チッ」
浅黒い肌に、掘りが深い目元や口元、クシャクシャの黒い髪。胸元に見えるのはアラビア文字を刻印したと思わしき入れ墨だ。
あまり外国人の年齢や顔立ちの区分に詳しいわけではないが、少なくともこの年若い男のルックスや出で立ちが平均的なロシア人のものであるとは到底思えない。
続けて右手の軍用グローブを脱がすと、手の甲にも胸元の入れ墨とよく似た造形の文字が刻まれていた。
( ゚∋゚)「………確定か」
(,,゚Д゚)「クソッタレ」
悪態を漏らしながら、俺は無線を繋ぐ。
“海軍”として必須の英語はともかく、アラビア語なんてちんぷんかんぷんだ。この言語を用いた文章が右から左に書かれているということさえ、つい最近知った。
だが、屍体の手の甲に刻まれたこの単語の意味だけは解る。ニュースで、新聞で、海軍の資料で、そして戦場で。幾度となく、それこそ脳裏に刻み込まれるほど繰り返し目にしてきたのだから。
(,,゚Д゚)「Wild-CatよりCaesar、敵兵の射殺体に“アッラーフ”の刻印を確認した。
この武装蜂起、イスラムが関係してやがる」
122:
《…………………………ハァアアア〜〜〜〜〜〜》
たっぷり15秒にわたる沈黙の後、無線機からはクソデカくクソ長いため息が聞こえてくる。込められた落胆と嫌悪の量はさながら夕飯がハンバーグだといわれてウキウキしていた子供が目の前にそうめんを出されたときのそれに匹敵し、そんな声を通信相手────ロマさんが出すことはかなり珍しい。
( ФωФ)《……それ本当か?見間違いとかじゃなくて?》
(,,゚Д゚)「ここでんな嘘つく意味も時間もないっすよ。なんなら写真送りますか?」
( ФωФ)《まぁそうだよな……………ッハァ〜〜〜〜〜》
もう一度、ため息。因みに向こう側では砲声や銃声、深海棲艦共の雄叫びなんかが飛び交っているのだが、その直中でも落胆することをやめられないほどこの報せはロマさんにとってキツかったらしい。
( ФωФ)《このタイミングでなんちゅー余計な真似かましてるんだあのクソ狂信者共………全員身体にC-4巻き付けてルール地方で“ジハード”してくんねえかな》
(,,゚Д゚)「ロマさん、色々その発言はマズい」
( ФωФ)《知ったことか、どうせ誰が聞くわけでもあるまい》
(,,゚Д゚)「いや、それはそうだがなぁ……」
ロマさんはよほど腹に据えかねたのかその後も二言三言罵詈雑言を吐いた後、ようやく少し声に冷静さを取り戻して話を進めにかかる。
( ФωФ)《それで、イスラムのどの組織が絡んでいるかは解るか?》
(,,゚Д゚)「いや、残念ながら“アッラーフ”の文字以外にこれといって目立つ情報はない」
建物の陰に運んで俺ともう二人ほどで屍体を更に漁ってみたが、解ったのは胴に刻まれた入れ墨がどうやら聖典の一部を引用した物らしいということぐらいだ。
持ち物もサバイバルナイフや手榴弾、旧式の拳銃に小瓶に入った飲料水、後はクルアーンの小冊子と煙草だけで眼を引く物はない。
(,,゚Д゚)「強いていうならこの射殺体は若い。あと、俺を狙ったと思われる狙撃がざっと七メートルは外れた位置に着弾したことから考えて相当なへたくそだったはずだ」
123:
( ФωФ)《貴様がそいつを屍にした位置は?》
(,,゚Д゚)「ゲネラロヴァ通り六番地、道脇に潜んでいたところを木から撃ち落とした」
( ФωФ)《………ハァ〜〜》
三度目のため息。時間は短かったが、込められた落胆の量は寧ろ今までより多く思えた。
 _,
(,,゚Д゚)「今の内容にそんなにガッカリすること含まれてたか??」
( ФωФ)《武装ゲリラとはいえ仮にも軍事組織の“軍服”組が、それも若年とは言え狙撃手がその程度の質という時点で恐らく輪を掛けて碌な集団ではない。ましてやゲネラロヴァ通りは鎮守府から三キロと離れておらん、重要地点に配置される戦力としてはあまりに粗末に過ぎる。
せいぜい下請けの下請けの下請けだろう。そんな泡沫組織潰したところで、奴等全体からすれば爪の先程の痛手にもならんのである》
(,,゚Д゚)「……あぁ」
この人の頭の回転のさは尋常じゃない。1の情報から10を知り、10の材料で100を作るだけの力を杉浦六真は持っている。
だからこそ自衛隊の方ではその能力を危険視され、疎まれてあの地位に留められたのだが。各国の常備軍と“海軍”の両方に属している人間は上層部を中心に結構な数が居るが、表の軍階級と“海軍”での階級がこれほど乖離しているのは恐らくロマさんぐらいだろう。
( ФωФ)《まぁ、その泡沫組織にムルマンスクが制圧されたのは事実である。引き続き鎮守府の奪還と──…………》
124:
訪れた沈黙は、コレで4回目。
だが、今回は今までの物とやや毛並みが違う。
(,,゚Д゚)「……准将殿、何か気になることでも?」
( ФωФ)《あり得ん》
静寂を終わらせた呟きは、さっきまでとは比べものにならないほど暗く鋭い。
( ФωФ)《その程度の力しか無い低質なテロリスト集団が、そもそもロシア連邦海軍の最重要拠点を襲撃できるなど本来あり得ん。そしてそんな集団に、深海棲艦の脅威に今この瞬間晒されているムルマンスクの住民達が同調して手引きするなどなおのこと不可解である》
(,,;゚Д゚)「………!」
額に、温度の低い汗が浮かぶのを感じた。
確かに、不自然だ。もともとムルマンスクの陥落自体、ロシアのみならず世界中のあらゆる国家にとって寝耳に水だった。普通に陥落させられたというだけでも信じがたいのに、こんな素人同然の三流ゲリラにあっさり、それも周辺に碌な連絡も取れないまま制圧されるなど本来起こり得るはずがない。
(,,;゚Д゚)「………土地柄でたまたまイスラム教徒が多く集まっていたという可能性は」
( ФωФ)《ロシア全体でイスラム教徒の流入が増えつつあるのは事実だが、わざわざ関連の宗教施設もろくに無い僻地の最前線に彼らが来る理由はない》
無理やり捻り出した理由は我ながらなんとも現実味がなく、案の定一刀両断された。
( ФωФ)《…………よし、ギコ》
(,,;-Д-)「………ウッス」
ロマさんは、他人を基本的に名字で呼び比較的長い付き合いの俺やしぃに対してもそのスタンスは崩さない。
そして、彼が名前や愛称で呼んできたときは面倒事が降ってくると相場が決まっている。
( ФωФ)《貴様ら先遣空挺部隊の主任務を一つ追加する。
ムルマンスク鎮守府の主要施設の奪還、ロシア連邦海軍の新型艦娘の救出、そして新たに、今回の襲撃を行った【武装集団指導者の生け捕り】である》
そして残念ながら、今回もその法則は健在だった。
127:
やりがい満点の任務を新たに追加してくださった“海軍”准将殿は、「以上である」と慈愛に満ちたお言葉を残して通信を終えた。
椅子に座りすぎてイボ痔になれ。
( ゚∋゚)「………【Caesar】はなんと?」
(,,゚Д゚)「今回の事件の首謀者を生け捕りにしろってよ。あっちは大層な乱痴気騒ぎの真っ最中だったし急いだ方が良さそうだな」
「うぇ〜〜〜〜〜………」
傍で俺とOstrichの会話を聞いていた2番艦が舌を突き出し、あからさまにイヤそうな声を出す。
「面倒だなぁ…………殺さないように手加減しなきゃいけないってことじゃん」
(,,゚Д゚)「生け捕りは俺とOstrichでやるから安心しろ。お前みたいなアホに手加減なんて高等技術最初なら求めてねぇ」
「金剛扱いかい?後で工廠裏に来なよ」
「時雨姉貴金剛さンに対して酷すぎねぇ────!」
江風が唐突に台詞を切り身構える。
微かに聞こえてきた、車のエンジン音数台分。何れも、確実に此方へ近づいてくる。
( ゚∋゚)「……散開。隠れろ」
Ostrichの合図に、全員がその場から散開し木の上や建物の中、車の陰などに身を隠す。
「────※※※※!」
「※※、※※※!!」
正面100M程先、突き当たりに立つ青い屋根の4階建ての家の手前に四台の軍用トラックが止まる。口ひげを蓄えた指揮官と思われる男の叫び声に応じて、荷台から兵士達が一斉に路上へ飛び出し武器を構えた。
128:
身を伏せた薪の山の陰から、僅かに顔を出してじっくりと現れた部隊を観察する。服装は全員先程射殺した狙撃手(笑)と同じ白を基調とした迷彩服で、口元をスカーフやターバンで隠しているという点も一致する。唯一指揮官と思われる男だけは首から上にベレー帽以外の物を身につけておらず、聞こえてくる言葉の意味は解らないものの見るからに尊大な態度で唾を飛ばしながら尊大に周囲の兵士達を怒鳴り散らしていた。
(,,゚Д゚)(見れば見るほどひでぇな)
武装兵の数はおよそ60人前後と言ったところか。荷台から路上に降りたのはいいが動作は一人残らず酷く緩慢で、AK47を主力とした火器も構えているのではなくただ持っていると言った方がただしい。
奴等はいつまで経ってもトラックの周りからほとんど動かず、互いにおどおどと視線を交わしながらボールに盛られたジャガイモのように狭い空間にひしめき合っている。周囲では深海棲艦と此方の空軍による攻防戦も未だ激しく続いていて、駆逐艦の砲撃一発でも流れ弾で跳んでくれば十中八九全滅だ。
予想が正しければ恐らく先程の狙撃手との通信が切れたから駆けつけた部隊のはずなのだが、60人強という兵力の誰一人として周囲の偵察や安全確保に向かわない。指揮官もそれをさせようとする気配すら見られず、ふんぞり返って自分の周りに心持ち多くの兵力を集めている。
そも、最初からこれだけ拠点となり得るポイントがありながらそれを全部放置して狙撃手一人と民兵一人だけの配置という時点であり得なさすぎて罠を疑うレベルだ。というか実際直前まで伏兵や奇襲を展開していたのだが、のこのこやって来た増援の動きがあの有様ではおそらくこれがこの組織の“素”なのだろう。
130:
「うっわぁ………」
「アレ酷いね、ウチの提督なら単騎2秒で制圧できそう」
俺と同じ場所に隠れた江風と2番艦も、呆れた様子を隠さずに武装(しただけの)兵の集団を眺めている。ほかの場所で待機するやつらの様子を横目で確認してみたが、見れば見るほど寧ろ“油断をしない”ことが一番困難な敵の様子にほぼ全員失笑一歩手前だ。
(,,゚Д゚)「……いっそあの有様こそ俺達の油断を誘うための罠だと思いたいぐらいだな」
敵の手応えがないというのはまぁ喜ばしいのかも知れないが、流石にここまでされると最早馬鹿にされているようで不愉快ですらある。
同時に、益々疑念が深くなる。例えとち狂ったムルマンスク市民のほぼ全てがこいつらを引き込むための手引きに参加していたとしても、そしてロシア連邦の駐屯軍側がどれほど直前の直前までその動きを把握していなかったとしても、艦娘込みのムルマンスク駐屯軍が易々と施設その他をこの軍から奪われる姿が想像できない。例えロシア側の兵力が10人だったとしても、最低限市外へ連絡を飛ばす時間は十二分に確保できたはずだ。
「それで、どうするの?一人でアホみたいに突撃して白兵戦縛りで殲滅してみる?」
(,,゚Д゚)「金剛扱いかこのガキ、後で工廠裏来い」
「なぁ、二人は金剛さンに借金でも踏み倒されてンの?」
別にそんなことは無いし、金剛のことがきらいというわけでもない。ただ、俺にとっての一番身近な金剛も負けず劣らずのアホなので、俺の中で金剛=アホという図式が固まってしまっただけだ。
(,,゚Д゚)「……さて。2番艦、江風、制圧が終わったら出てこい」
「おっと、行くンかい?!」
「了解。それで、何秒待ってればいい?」
観察を十分に終えて、こいつらの底は見切った。後は迅に“処理”をし、とっとと親玉を縛り上げてこの“人類史上最大の奇跡”のタネを吐かせるだけだ。
(,,゚Д゚)「15秒でケリを付ける。
各位攻撃準備、やかに殲滅しろ………あぁ、注意点が一つだけ」
とはいえ、俺はあの無能な部隊は俺たちにとって悪いばかりでもない。
(,,゚Д゚)「どんな殺し片をしても構わんが、トラックには傷つけるなよ」
移動の足をわざわざ自らの死とひき替えに提供してくれたことについては、俺は心の底から感謝している。
131:
(,,゚Д゚)「……っと」
狙撃手(笑)から奪っておいたドラグノフを構え、一応目立たないよう若干の気を遣いながら積み重なった薪束の上に据える。
まぁ、多少は慎重にはなっているが少しでも心得があるまともな軍隊の前でやればたちまち蜂の巣にされる粗い動きだった。だが、案の定奴等は気づかない。
スコープを覗き込む。ど真ん中にしっかりとひげ面が映り込んでいるのを確認し、風向きとその強さに併せて少しずつ狙いを修正していく。
とはいえ、彼我の距離は300Mにあるかないか。風も微風で、弾道に大きな影響はない。
これで外せと言われる方が、難しい話だ。
(,,゚Д゚)「ハァッ───!」
目一杯吸い込み止めていた息を、鋭く吐き出して引き金を引く。
「─────?」
「※※※!!!?」
「※※、※※※!!!!!」
寸分違わぬ狙いで飛翔した7.62×54mmR弾は指揮官の額、そのど真ん中にめり込みそのまま頭蓋を貫通する。眼を見開く奴の頭部、その前後から脳漿と骨片、赤い血液が噴き出し辺りに飛び散った。
「お見事!」
(,,゚Д゚)「そりゃどうもっと!!」
「カッ────」
後ろで江風がからかい半分に飛ばしてきたやんやの声に投げやりに返しながら、二人目を照準。突然絶命した指揮官の様子を覗き込もうとした護衛の一人が、側頭部から弾丸をぶち込まれて力士の張り手でも食らったように吹っ飛びトラックの荷台に激突する。鈍い衝突音がして、血痕を残しながら護衛はずるずると地面に崩れ落ちていった。
「カハァッ……」
(#゚∋゚)「─────Go go go!!!」
「「「Yes sir!!」」」
三人目がのど笛を撃ち抜かれたところで、【Ostrich】の号令が響く。俺達三人以外の全員が一斉に立ち上がり、物陰から飛び出して敵との距離を一気に詰める。
134:
どんなにあからさまに無能でも、指揮官は指揮官。部隊の中枢であり、沈黙すれば統率は大幅に失われる。
そして練度の低い兵士ほど、“上”に依存する割合は強い。場慣れしていないため自分の考えを持っての行動ができず、上からの指示がなければだいたいはただの木偶の坊と化す。
それでも、Ostrich達が早々に弾丸の一発も追撃で撃ち込んでいれば、例え碌な連携が取れずとも反撃なり逃走なりを我に返って行えた奴がいたかも知れない。人数“だけ”はそれなりにいる手前、少なく見積もっても10や20の銃撃はとんできたはずだ。
「※※※………」
「※※※※※!!?」
( ゚∋゚)「────」
だが、Ostrich達は最初の合図以降無言のまま100Mばかり駆け、一度も、一人として引き金を引くことなく距離を詰める。奴等はその行動を戸惑い気味に見つめるばかりで“我に返る”機を逸し、最後まで木偶の坊のまま敵の肉薄を許した。
( ゚∋゚)「Fire」
響く銃声。火線が迸り、唸る弾丸に肉が裂かれていく。
血が通った射撃の的が、身じろぎ一つ出来ず薙ぎ倒されていく。
( ゚∋゚)「Clear」
虐殺は、4秒で終わった。
「狙撃と接近の時間併せたら20秒かかってるね。コレだから頭金剛は」
(,,゚Д゚)「あの瞬間から計測開始だなんて俺一言でも言いましたっけ?流石記憶力金剛だな2番艦」
「は?」
(,,゚Д゚)「あ?」
「………二人とも後で金剛さンに謝りなよ」
135:
2番艦との不毛な口論を最終的にげんこつで早々に切り上げ、ドラグノフを担いでOstrichの下へと駆ける。奴さん達は「二度撃ち」による入念なチェックも終わらせ、早くも移動の準備に取りかかっていた。
( ゚∋゚)「………注文通り、トラックは無傷だ」
俺達に気づいたOstrichは、そう言って部下が乗り込んでいるトラックの荷台を拳で叩く。
エンジンがかかった車体が一度震え、後部の排気口からガスが吹き出した。
( ゚∋゚)「………パンクや破損も見当たらない。後は乗り込めばいつでも動ける」
「勿論僕と江風は車内だよね?か弱い少女を寒空の下揺れる荷台に乗せるとか間違いなく鬼畜の所行だよ」
(,,゚Д゚)「江風、助手席乗れ。Ostrich、こっちのクソガキ簀巻きにして荷台に乗せるから手伝ってくれ」
「鬼畜!」
“か弱い”と言う単語から最も遠い存在が何か騒いでいるが無視だ。
安心しろ、お前はこの季節間違いなく風邪を引かない。夏だったら危なかったが。
(,,゚Д゚)「せっかくだから奴等の武装もいただいてくぞ!30秒で準備を済ませてトラックに乗り込め!それとどうせだから、一番近くにいる部隊にも残りのトラックを────」
指示を途中で切り、耳を澄ます。
「……どうしたい、ギコさン」
(,,゚Д゚)「来客だ」
うっすら聞こえてきた音が、新たに近づいてくるトラックのエンジン音だと確信し俺は再びドラグノフを身体の前で構えた。
(,,゚Д゚)「車両接近!総員戦闘用意!」
136:
ゲネラロヴァ通りから目の前の大通り────キロヴァ通りへと躍り出て、ドラグノフを改めて膝撃ちの姿勢で音が近づいてくる方角に構える。
丁度左手、郵便局と思われる建物の手前にある路地を三台のトラックが曲がってくるところだった。
(,,゚Д゚)「っ」
スコープを覗き込み、鋭く息を吐き、引き金を引く。銃声が家々の合間を木霊し、弾丸が勢いよく銃口から飛び出す。
先頭を行くトラックのフロントガラスに蜘蛛の巣のようなひび割れが走り、内側で飛び散った赤い液体が付着する。
そのままコントロールを失った先頭車両が独楽のように回転し、避けきれず荷台部分に衝突した後続車諸共横転した。
更に3台目も無理やり迂回して追突から逃れようとしたが、此方も急ハンドルが祟ってバランスを崩しもの凄い音と共に郵便局に激突する。
(,,゚Д゚)「………チッ」
ここで誘爆でも起きてくれれば儲けものと微かに期待していたが、およそ200m先で横転・追突した3両は何れもウンともスンとも言わない。
まぁ、さしたる期待ではなかったが。軍用車両はバイクを例外として、殆どの場合燃えにくいディーゼルエンジンを採用している。欠陥品やガソリンエンジンが主である民間車両ならともかく、爆発物を直接ぶち込んだわけでもないのに派手に吹き飛ぶ軍用車両というのはほぼフィクション世界の出来事だ。
……序でに言うと人体というのも脆いようで意外と強靱なところがある。
「※※………ア゛っ!?」
「ガハッ……」
(,,#゚Д゚)「Enemy contact!!」
郵便局に突っ込んだ方の荷台から這い出てきた敵兵二人の頭を立て続けに吹き飛ばす。アレだけの大事故なら結構な数を戦わずして潰せただろうが、原形を留めないほどの大破をしているわけではない。現に、他の二台からも何人かの敵兵がふらつきつつも銃を片手に道路に姿を現している。
(,,#゚Д゚)「車両撃破も敵兵なお多数健在!なお、まだ後続兵力が来る可能性がある、各位警戒を厳にしろ!」
「アァッ………」
後ろの味方に声をかけながら、また弾丸を放つ。
胸の辺りを抑えた敵兵が、AK-47を取り落として前のめりに崩れ落ちる。
137:
カチンッと間抜けな音が鳴り、恐ろしく抵抗が少ない引き金と共に弾倉が空になったことを伝える。新たな弾倉を銃の下部に差し込み、再びスコープを除きながら敵兵一人一人の頭や胸に丹念に銃弾を撃ち込んでいく。
………単純で手慣れた作業だが、それを同じ“人間”相手にやっている奴が今の世界にどれだけいるかと言うことを想像するとなんとも複雑な気分だ。
( ゚∋゚)《OstrichよりWild-Cat、此方は出発準備がほぼ完了した。助けはいるか?》
(,,゚Д゚)「いや、援護は不要だ。ほぼ処理は終わった」
15人目の頭蓋骨が半分吹き飛んだところで、3両それぞれから出てくる人影が無くなった。乗っているであろう人数からして全滅とは考えがたいが、少なくとも元より少なかった戦意が空っぽに近くなっているのは間違いない。
(,,゚Д゚)「後続も、今のところはまだ来ていない。移動を………嗚呼クソッタレ」
まだ、戦場の“音”は止まない。
次は、空から。風切り音が、徐々に高く、大きくなりながら此方へと迫ってくる。
(;゚∋゚)《………移動を急ぐぞ!!早く乗れ!!》
(,,;゚Д゚)「言われなくとも!!」
1秒ごとに鮮明さを増していくレシプロエンジン音の源から逃れるべく、俺は踵を返して一目散にトラックへ駆けだした。
138:
「【Helm】 incoming!!」
「江風!!」
「了解!!」
俺がトラックの荷台に飛び乗ると同時に、空を見上げていた一人が指さし叫ぶ。直後に時雨と江風の構えた25mm連装対空機銃が起動、弾丸が軽快な発射音を残して空に駆け上がる。
『────!?』
『─────!!!』
上空に接近してきていた深海棲艦の戦闘機、【Helm】の群れが駆逐艦二人の対空弾幕を受けて次々と蜂の巣になり墜落していく。
「ちぃっ、時雨姉貴!こりゃ数が多すぎだ!」
「車両出して!早く!」
正確無比な狙いで今のところは敵機を寄せ付けていないが、およそ数百機に上ろうかという大群相手に機銃二丁で何とかできるはずも無い。早々に限界を察した時雨が運転手に向かって叫び、計22人を乗せたトラック二台が雪煙を蹴立てながら急発進した。
「クソッ、追ってくるぞ!」
(,,#゚Д゚)「俺達も撃て!“ワンショットライター”ならAK-47でも十分対抗できる、残弾気にせずばらまけ!!」
幸い、このトラックは幌が着いていないタイプの物だ。寒風を諸に受けることを喜ばしいとは言い難いが、上への銃撃を遮る物は何もない。
加えて先程の敵部隊を処理したおかげで、AK-47の弾薬は相当余分にある。
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
『!?』
俺自身も、ドラグノフから持ち替えて真上に迫ってきた【Helm】の内一機に弾丸を浴びせる。
「ギコさン、ナイスショット!!」
後部エンジンを撃ち抜かれた敵機が火を噴き、瞬く間に弾薬に引火。墜落を待たずに空中で爆散。その様子を見た江風がやんやの歓声を送ってくる。
「ウィリアム=テルかシモ=ヘイヘか、流石の腕前!よっ、世界一!」
(,,#゚Д゚)「お褒めいただきありがとよ!光栄だが気ィ抜くなよ!!」
「あいよ!!」
言葉を交わしながら、俺は一瞬だけ後方に視線をやる。路上に転がる60数個の屍が、みるみるうちに遠ざかり──────
139:
『─────キャハハハハハハ!!!』
.
140:
(,,;゚Д゚)「……………は?」
あまりにもあり得なさすぎる“それ”を耳にした瞬間、俺の思考は一瞬完全に停止した。視線は遠ざかっていく屍の山を凝視し続けるが、新たに見えるものなど当然無い。
「猫山少尉!!」
(,,;゚Д゚)「───うおっ!?」
“表”では自衛隊の同僚である軍曹の声で我に返り、視線を上に戻して銃撃。降下してきていた【Helm】を撃墜するが、反動で蹌踉めき危うく荷台から転落しかける羽目になった。
「ちょいちょいちょい!?大丈夫かいギコさン!?さっきの今でどうしたってンだい!?」
「何?まさかもう疲れたの?仮にも“海軍”所属の人間があんなクソ雑魚軍団相手にしたぐらいで疲労困憊とか、ウチの提督に鍛えて貰った方がいいんじゃない?」
(,,;゚Д゚)「………バカ言え、ちょっと足滑らせただけだ。まさかこんだけ人間からハンディ貰った挙げ句俺に撃墜機数負けるとかやめてくれよな?」
「言ったね?十倍差で勝った後口の中に練り辛子と練りわさびとハバネロねじ込むから覚悟しろ」
「それ下手したら致死量じゃねえかな?」
2番艦の煽りに何とかいつもの調子で返しはしたが、それでも胸の内では未だに動揺が拭えずにいた。
何故、あんなものがここで聞こえたのか。
(,,;゚Д゚)(………気のせいだ、そうに決まってる)
自分に言い聞かせ、改めて迫り来る艦載機の群れに銃口を向ける。流石に航空戦力相手に気を抜く余裕はない、幾ら生々しく聞こえてきたからと言っていつまでも“空耳”に集中力をかき乱されていては致命的なミスに繋がる。
(,,;゚Д゚)「……深海棲艦機は殲滅は無理だ!牽制で攻撃させないようにしながら鎮守府施設に向かえ、急げ!!」
《Yes sir!!》
そうだ、空耳に決まっている。
でなければ、こんなところで赤ん坊の笑い声など聞こえてくるものか。
141:
「何度も言っている、僕は正気だ。正気だからこそこの提案をしている」
「君の言うとおり、今人類は団結して戦わなければならない時なのだろう、私もそのこと自体には賛成するさ。そして恐らく、僕ほど熱心に“人類の勝利”を信じて疑わない者はこの世界に二人といない。断言する」
「だがだからこそ、だからこそ僕は“戦後”についてを考えているんだ。
人類が初めて共通の脅威を撃ち倒したとき、人類がこの危機を乗り越えて復興へと向かうとき、その世界をどこが導いていくのか?これは非常に大きな問題なんだ。せっかく敵を撃ち倒しても、戦後秩序を形成できなければ僕らは第一次世界大戦直後と全く同じ過ちを繰り返すことになる」
「人類が勝利した後の世界を守るための戦いも、同時に始まっている。
そして、だ。アメリカや日本では新たな世界秩序を作ることはまちがいなく難しい。だからこそ、僕たちが先んじて動かなければならないんだよ」
(´・ω・`)「大英帝国を中心とした戦後世界の形成、これこそが最も理想的な世界なんだ。
故に僕らは、この先“この戦争”に対する関わり方をよく考えなくちゃ行けない。
全ては英国の利益のために、だよ」
144:
子供の頃、ヒーローに憧れた。光の巨人が巨大怪獣を薙ぎ倒し正義の五人組が悪の組織を粉砕する姿をテレビで見ては歓声を上げ、世間に正体をひた隠しつつ世界の平和を守る彼らの高潔な姿に平らな胸を震わせた。
別に「悪役を一撃でぶっ飛ばす」ほどの力は無くてもいいから、彼らのように大切なものを守れる存在になりたい。彼らのように悪を挫き正義を貫ける人間でありたい。当時心の底から私はそう思っていたし、記憶する限り小学校高学年辺りまでは本気で彼らのように成れると信じてもいた。
10何年かが経って、私もまたこの戦争のせいで色んなものを失った。代わりに、今の私はかつて憧れた「正義のヒーロー」になっている。
普段は仲間にも正体を隠し、人類を滅ぼそうとする得体の知れない怪物を打ち倒す────かつて「夢」であり「憧れ」だった生き様は今、私の「現実」であり「日常」だ。
正確に言うと科学戦隊や光の巨人を援護する特殊部隊の立ち位置だけれど、サッカー選手を夢見てコンビニでレジ打ちをしている人が大半であることを考えるとこれ以上を望むのはいささか贅沢が過ぎるだろう。
145:
……まぁ、基本的に子供の頃の夢なんてのは「綺麗なところ」にしか眼がいなかないまま抱かれる。私がその夢を抱いた時も、憧れたのはあくまでもヒーローが活躍して鮮やかに敵を倒す姿にであって「その裏側」にあるものをかんがえようともしなかった。
当時は丁度もしもヒーローが普通の営業マンのように活動していたらというコンセプトで描かれた、所謂「現実的なヒーロー」にスポットを当てたアニメが(主に大きなお友達に)ウケていた。けれど私はそのアニメを「自分の夢を穢す存在」として毛嫌いし、近くでその事に関する話が出たときは露骨に耳を塞いだりしたものだ。
大人になった今では、あのアニメがそれなりに正しかったと解る。現にこの世界に現れた“艦娘”というヒーローや彼女達と共に戦う組織・部隊を取り巻く環境は、決して子供の頃夢見たようなものではなかったから。
勿論、私も今では世界が理想論や綺麗事では動かせないと知っている。今の自分を取り巻く環境についても、それらを知ってなお踏み込んだ世界なので後悔はちっともしていないし誇りにも思っている。
ただ、それでも子供の頃の、純粋無垢に「ヒーロー」を夢見ていた自分にはもしもタイムスリップが出来るならあらかじめ伝えておきたい。
実際の「正義」は、思ったほど世の中では必要とされていなくて────
「───敵艦隊第三波、ムルマンスクに接近!間もなく射程圏内です!!」
「ヌ級より艦載機更に発艦!パラオ鎮守府艦隊からも、外洋より敵の航空隊が防衛ラインを突破し接近中と報告あり!」
(#ФωФ)「対空警戒を厳と為せ!総員、前進するのである!!」
「「「Yes sir!!」」」
(*゚ー゚)「了解!!」
────実際の「ヒーロー」は、思っているよりも遙かに命懸けだって。
146:
《Cargo-01 Landing!!》
《Cargo-02 Landing!!》
《総員展開しろ、急げ!!》
新たに6機のMV-22Bが私達の後ろで着陸し、機内から何人もの援軍が地面に降り立つ。
だけど、その中で艦娘戦力を含んだ部隊は一個だけ。他は全員が陸戦隊の歩兵だ。
《リンガ泊地艦隊、旗艦伊勢!【Caesar】の指揮下に入る!》
( ФωФ)「【Caesar】より伊勢、増援を感謝する!」
《どういたしまして!なお、“海軍”からムルマンスクに投入できる艦娘戦力はあたしらで打ち止めだとさ、後はあんたの采配に託すよ准将殿!》
( ФωФ)「そこは貴様らの働き次第であるな!」
ほぼ全世界という広大な活動範囲に対して、私達“海軍”の規模は決して大きくない。秋津洲ちゃんから大和さんまで所属艦娘は常に全てが戦力として計算されていて、提督だって最前線で武器を持って戦う。鎮守府の整備士を武装させて戦場に連れて行った艦隊があるなんて話も一つや二つではすまない。
ものすごーーーーーーーーーーーーーーーーーく好意的に言えば、全員が一丸となって戦っていて部署や兵科ごとの垣根がない。
何一つ嘘を挟まない正直な話をすれば、根こそぎ動員しないと兵力が足りない。
私達は、そんな不格好な“ヒーローとその仲間達”だ。
147:
それでも、日本とアメリカが主導した世界規模での反攻作戦を経て深海棲艦は殆どの領海から駆逐され、近海なら学園艦が護衛無しで航行できる程度まで奴等の脅威は低下した。“海軍”も一応残ってはいたけれど、ここ三年は稀に深海棲艦の大きな群れが見付かったときに駆り出されるぐらいで出撃頻度は激減した。……一部幽霊騒ぎだのなんだので、深海棲艦とは無関係のところで忙しかった“海軍”所属鎮守府もあるようだけど。
退屈で喜ばしいことに、“海軍”の必要性は少しずつ、確実に減っていっていた。
一ヶ月前、【リスボン沖事変】が起こるまでは。
《【Ghost】摩耶より【Caesar】、艦娘部隊の投入が打ち止めってのはマジか!?》
( ФωФ)「こんなところで嘘をついて我が輩たちになんの益がある。これがムルマンスに投入可能な艦娘戦力の最大値である!」
《クソがっ!!!》
摩耶ちゃんの叫び声を最後に無線が途切れる。
別に彼女がやられたわけではない。その証拠に、間を置かず前方で凄まじい量の対空砲火が空にばらまかれ出した。
恐らく、摩耶ちゃんの八つ当たりによるものだろう。
(*゚ー゚)「キツいですね」
( ФωФ)「ここだけじゃなくて世界中がな。見ようによっては六年前より深刻な事態と言えなくも無い」
まぁ、六年前はどの国も基本的には水際で敵の浸透を押し返していたし、陸上に深海棲艦の生産拠点なんてものも造られてはいなかった。
“艦娘”の数は、今や全世界を合計すると4万隻を越えたという。だが、深海棲艦の総戦力は底が見えない。奴等の数も、それを支える生産力も、恐らく人類の何倍も高い。
“有限”と、“限りなく無限に近い有限”の戦い。
物量差なんて言葉じゃ生易しすぎる。例え“善戦しているように見せかける”ことができたとしても、経過が違うだけでどんな筋道であっても結末は決まった戦い。
154:
《砲撃、来ます!!!》
誰かが叫び、暗い空を幾つもの閃光が駆け抜ける。古めかしい造形の家が多いムルマンスクに弧を描いて降り注いだ砲弾の雨は、人間の歴史など知ったこっちゃないとばかりに容赦なく吹き飛ばしていった。
《シュミッタ通りに砲撃多数着弾、艦隊に損害無しも建造物倒壊多数!》
《ブイン基地艦隊神通より【Caesar】、至近弾多数を確認!護衛陸戦隊に負傷者数名!》
《山城、被弾小破しました………不幸だわ…………》
《ブルネイ第2艦隊、五月雨が被弾小破。損害軽微だが比叡も被弾した!》
交わされる無線から窺える、状況の厳しさ。随一の練度を誇る“海軍”所属の艦娘の皆でも損傷を免れぬほどの、深海棲艦による激烈な攻勢。
('、`*川《統合管制機より全艦隊・全陸戦隊に伝達。敵第三波艦隊、射程圏到達に付き全艦が攻撃を開始!》
《ロシア連邦軍より入電、ベロカメンカに新たに敵艦隊の上陸を確認!空母多数を保有、敵艦載機の出所は恐らくここです!》
《コラ湾封鎖部隊、敵艦隊と交戦中。損害未だ軽微も弾薬が欠乏しつつあるとのことです》
《ロシア軍の増援部隊、各所で深海棲艦側の艦載機による妨害に遭い進軍が遅滞しています》
崩れた家が燃え盛り、夜陰の街並みをオレンジの明かりで照らし出す。深海棲艦たちが上げる、あの鉄の板を力一杯摺り合わせているような特徴的な鳴き声が無数の砲声と共に夜気を揺るがした。
凄絶だけど、私達はそれこそ数え切れないほど目にしてきた光景。今更感じることは何も無いはずなのに、それでも、私の身体は芯から震える。
::(* ー )::「ッ、ハァ………!」
歓喜に悶える身体を押さえながら、私は小さく吐息を漏らす。
嗚呼────本当に、この有様は何度見ても美しい。
155:
( ФωФ)「おい、本性出てるぞ」
(*゚¬゚)そ「は!」
慌てて身体を起こして姿勢を正し、口の端から垂れていた涎を袖で拭う。ロマさんと部隊の皆は少し湿気た視線を私に送ってきたけれど、もう“慣れたもの”なので騒ぐ人はいなかった。
( ФωФ)「いい加減に何とかするのであるその嗜好。作戦行動の度にトリップされてはたまったものではない」
(*;゚ー゚)「いやぁ申し訳ありません。なかなかご無沙汰だったもので」
( ФωФ)「どうせこの先また山ほど見ることになる、今からそれでは身が保たんぞ」
(*゚¬゚)「………」
いけない、また涎が。
《AlbatrossよりCaesar、空域に【Helm】と【Ball】が多すぎて航空支援ができない。至急の排除を求む》
( ФωФ)「CaesarよりAlbatross、了解した。
艦隊各位、制空権の確保はできるか?」
《摩耶よりCaesar、無理だ!こっちが3機落としても4機が別の方角から足される始末だぞ!》
《此方皐月、全艤装火力を空に向けてるけど足りない!後10隻は追加しないと!》
《リンガ泊地、矢引よりCaesar。既に撃ち漏らした敵機が多数市内に侵入していきます、現在投入されている対空火力では完全阻止どころか進軍遅滞もままなりません》
《鳳翔より総司令殿、私達空母艦隊も対空射撃に加わってはいますけれど、焼け石に水です。この数を完璧に封殺するとなると、航空隊の発艦が必要かと》
('、`*川《統合管制機よりCaesar、市内の先遣空挺部隊からも百〜数百機単位の敵航空隊による襲撃の報告が複数上がっています。おそらく敵戦力の流入地点は港湾部だけではありません》
(*゚ー゚)「……」
先遣空挺部隊という単語に、本当に一瞬だけ心配が過ぎったけれどそれは直ぐに掻き消えた。
彼一人でもたかが艦載機にやられる姿が全く思い浮かばないが、今回の作戦では彼の元にしぐちゃんとえっちゃんも加わっている。
どちらかというと、あのチームに襲撃をかけてしまった反政府軍の部隊や深海棲艦に同情する案件だよね。
156:
それよりも、今はこの港湾部の戦況だ。流石に私も、待ち望んでいた闘争に対する歓喜とは別の意味でも口元が引きつるようになってきた。
《ロシア軍より新情報が入電しました。ヴァイダ=グバ北部の海域にてヲ級flagship2隻を中核とした10隻を越える敵空母艦隊の“浮上”を確認。600機規模の艦載機が新たに此方へ向かっているとのこと》
《ノルウェー領ベルゲンの【泊地】からも深海棲艦航空機が大規模出撃、ムルマンスクに接近!ノルウェー、スウェーデン、フィンランドは空軍が壊滅しており迎撃不能!》
( ФωФ)「………この期に及んでは前倒しも必要か。Caesarより艦隊各空母戦力に通達、航空戦力の全投入を用意。指示があり次第一機余さず空に上げろ」
《《《了解!!》》》
と言っても、通信を聞く限り押し寄せてくる敵機の規模はきっと比喩抜きに空を埋め尽くす。幾らまだ温存されている此方の航空隊が圧倒的な練度を誇るとしても、対応できる物量には限度がある。
( ФωФ)「前衛白兵部隊、並びに砲撃戦中の各艦。対空射撃に戦力は回せるか?」
《【Fighter】青葉、それはち『グギャアアアアンッ!!?』しい注文ですね!》
青葉ちゃんから返ってきた通信には、生々しい断裂音と駆逐級のどれかが上げた断末魔が混じっていた。その後も、彼女を囲う敵艦たちの雄叫びや戦闘音が続く。
《前衛に殺到する非ヒト型の動きが変わりましたねぇ。……っ、かなり組織的に動いてます》
交戦の只中で通信をしてきているにもかかわらず、彼女の声には些かの乱れも、息切れ一つすらない。
ただ、端々から若干の苛立ちは感じ取れた。
《青葉たちの連携を分断しようとしたり、動きを止める役と攻撃を加える役で分かれて突っ込んできたり、戦略性が見られる。恐らく後衛にいるヒト型共から指示が出てるんでしょうねぇ。
とりあえず、この状況下で前衛から戦力割いたら大群に浸透される可能性がありますよ》
《同じく【Fighter】武蔵、砲撃戦も似たような状況だ。威力は此方が圧倒しているが手数は向こうに分がある、加えて前衛の低級艦部隊と上空に侵入し続ける航空隊に射線が半ば塞がれているのもキツい。
ただでさえ少ない手数を更に減らすわけには行かない、確実に飲み込まれる》
武蔵さんの通信は、聞く限り彼女達の苦戦、そして私達“海軍”の苦境をより明確にするもの。
その筈なのに、武蔵さんの声ははしゃいでいる子供のように明るい。
《いやぁ、久しぶりになかなか厳しい局面だな。この私達に、この武蔵に相応しい戦場だ!!
世界に冠たる大和型2番艦の底力を、火力を、存分に振るえることがこうも楽しいとは思わなかった!!》
157:
( ФωФ)「………おい、クソ筋肉」
( T)《なんだイボ痔禿げ野郎》
( ФωФ)「おかげさまでなりそうだけどまだどっちもなってねえよ。ほんっっっっとよくもこんな性能性格両方吹っ飛んだの多数育て上げやがったな」
( T)《我ながらそう思う》
《それまさか青葉も含まれてます?》
( T)《筆頭が何言ってんの?》
( ФωФ)「筆頭が何言ってんの?」
《手酷い》
(*゚ー゚)「いつも通りのノリやめません?」
一応ここは人類の命運を握る重要拠点の一つであって、私達は今現在苦戦しているはず。なのに、彼らときたらそれぞれその実績からは到底考えられないほど低レベルな会話を交わしている。
( ФωФ)「………さて。ムルマンスク港湾部に展開する、全艦隊・全部隊に通達。
我が輩たちは現在制空権を奪われ、別働隊も敵航空隊に捕捉されている。退路は断たれ、敵の数は今なお増える一方である」
まるで、最初から私達の敗北は有り得ないと知っているかのように。
( ФωФ)「状況は最高、これより敵艦隊を殲滅する」
《《《了解》》》
158:
深海棲艦たちはその“憎悪”と高い戦闘能力故、とにかく私達人類を1人でも多く殺害する傾向がヒト型・非ヒト型を問わず強い。例外は奴等にとって唯一の深刻な脅威となる艦娘と交戦するときで、喩え駆逐艦娘単艦であっても奴等はあらゆる戦力を尽くして艦娘を“撃沈”しようとする。
眼前の前段艦隊も、それは同じだった。
知能の高いヒト型による指示があり、しかも私達の動きはきっと見えていたはず。にもかかわらず、前段艦隊は引き続き青葉ちゃんたちとの交戦に全戦力を注いだ。
或いは、天敵である艦娘の皆が格闘戦や近接装備を用いた「白兵戦」を仕掛けてきたことへの動揺もあったのだろう。殲滅対象でも戦力としては基本的に取るに足らない存在である私達に注意を向ける余裕が、奴等に残っていなかったとしても不思議ではない。
或いはヒト型種のどれか一隻でも冷静な思考を保っていたなら、その光景に違和感を持つことができたかも知れない。
(#ФωФ)「……総員、着剣!!」
────“取るに足らない存在”の私達が、碌な重火器も所持していないのに乱戦の只中へ突撃してくることに対する、違和感を。
『………ァア?』
(#ФωФ)「ぬんっ!!」
前段艦隊の内一隻が、駆逐ハ級がようやっと私達の方を向いたのは、十分に此方が肉薄しきってから。
事態を飲み込めていないのか棒立ちしているその個体との距離を一気に詰め、先陣を切ったロマさんが勢いよく右腕を振るう。
『────ッッギィアアアアアアアアアッ!!!!?』
ロマさんの“刃”に貫かれ、ハ級の口からおぞましい悲鳴が飛び出した。
159:
『グァッ……ウゥアアアアアッ!!!!』
( ФωФ)「ふんっ……!」
“刃”が突き刺さった位置から青くヌラヌラとした奴等特有の体液を吹き出しつつ、ハ級が激しくのたうつ。ロマさんの方も巻き込まれないようにと素早く右腕を引きながら飛び下がり、暴れるハ級から距離を取った。
( ФωФ)「ちっ、相変わらず気色の悪い感触である」
そう言って付着した体液を落とすために振られる彼の右手首からは、長さ30cm、幅15cm程度の西洋剣みたいな形状をしたプレートが伸びている。勿論手から直接生えているわけではなく、剣道の籠手にそのまま剣をくっつけたような感じだと言えば通じるかな?
ただし、色感や質感は明らかに鉄ではない。光沢はあるけれど夜間ということを差し引いても放たれる輝きは鈍く、なんとも不気味だ。今は青い粘着質な液体が付着しているけど“刀身”の色は黒を基調としていて、すぐにも夜の闇に溶け出して消えてしまうのではないかというほど深い。
少し臭い表現を使えば、まるで仄暗い海の底から闇を切り出して象ったような禍々しい“剣”だ。
『────ォアアアアッ!!!』
ハ級の鼻面に出来た裂傷からは相変わらず青い血が噴き出ている。ただそれは決してハ級にとって深刻なものではないようで、怒りに満ちた目付きで私達を睨みながら一声吠えた。
( ФωФ)「椎名、援護せよ!2名わが輩に続け!!」
「了解ぃ!」
「Yes sir」
(*゚ー゚)「了解!!」
ロマさんが再び“剣”を構えて突進し、もう2人同じ装備を腕に付けた隊員が後続する。
私も3人を射線から外すよう横っ飛びしつつ、右腕に嵌めた“それ”をハ級に向けた。
160:
(*゚ー゚)「Shoot!!」
『ギィイイッ!!!?』
私の右腕から“矢”が一本放たれる。
時200km程度、銃弾はおろかテニスプレイヤーのサーブより遅いそれは照準レーザーで定められた赤い軌道に沿って飛翔し、そのままハ級の左眼をビー玉が割れるような破砕音を残して射抜いた。
激痛と、失われた視界にパニックを起こしたか再び悶えぐらりと仰け反るハ級。巨体に似合わない貧弱な両足が剥き出しになり、そこに人影二つが走り寄る。
(・∀ ・)「あらよっと!」
大柄な男が刃を振るう。轟音が私の鼓膜を揺らし、ハ級の右足が骨ごと切断された。
川 ゚々゚)「キヒッ」
小柄な女性が剣を振るう。破裂音のようなものが響いて、人間で言う脹ら脛に当たる部位の肉がごっそりとハ級の左足から削ぎ落とされた。
『アァアアアアアアアアアッ!!!?』
( ФωФ)「っ!!」
両足を失い、当然の帰結として前のめりに転倒するハ級。その右眼に、ロマさんが剣を渾身の力で突きたてる。
(#ФωФ)「ぬぉおおおおああっ!!!」
『ギィアアアエアアッ!!!?───ァア……アアアァ……』
動けないハ級に対して、何度も何度も刃が突き刺さり、振り下ろされ、肉片と体液が悪臭を伴ってそこら中に撒き散らされる。
『ウゥア………アァ………』
ハ級の断末魔が見る間にか細くなっていき、やがて完全に沈黙した。
161:
(*;゚ー゚)「敵艦沈黙………っ!!」
川 ゚々゚)「イヒッ」
勿論、そこで戦闘は止まらない。なんせ、ここは両軍による白兵戦の真っ只中だ。
ゲームならきっと「Now Loading」の文字でも流れそうな場面で、代わりに飛んできたのは機銃の弾丸。私と、さっきハ級の攻撃に加わった栗色髪の女の人が火線から逃れて地面を転がる。
『────ィイアアアアアアアアッ!!!!』
右腕に展開した艤装を此方に向けた軽巡ホ級が、眼のない顔で私達をにらみ据えていた。
『…………ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
(・∀ ・)「ヒュー♪お怒りだぁね!!」
( ФωФ)「五月蠅いな」
ハ級の屍を目にしたせいだろうか、二度目の咆哮は先程より長く、大きなものだった。続けて火を噴いた機銃に、今度は男とロマさんが打ち倒したばかりのハ級の死骸の陰に飛び込む。
『ガァッ!!!』
「クソッ、主砲かよ!?」
「散開ぃ!!」
その隙に別方向から白兵装備で斬り込もうとした4人には、背中の連装主砲が唸る。ギリギリで全員が四方に散って避けたけど、砲撃で揺らぐ地面や砂煙に他の人達も身動きが阻害され反撃に移れない。
(;*゚ー゚)「………っ!」
『アァアアアアアアアアアッ!!』
近くの崩れた家の中に隠れた私は、窓辺から外の様子を伺う。ホ級はなおも弾丸を周囲にばらまきながら、私達を威圧するように三度吠える。
『オァアアアアアアア────ア?』
「────っは、ほっ!」
荒れ狂うホ級の背後から迫る影。小柄な影はサーカスの軽業師のような身軽さでホ級の巨体を駆け上がり、その肩口へと飛び乗った。
「はい、じゃあ静かにして下さいね〜」
『ィギッ』
影────青葉ちゃんが無造作に足を振る。
ホ級の頭がぐるりと一回転し、そのままねじ切れて地面に落下した。
162:
( ФωФ)「全く頼もしい戦いぶりであるな、青葉よ」
「…………ロマさん、前線にいるだけでも貴方の階級だと割とマズいのにまた白兵戦に参加してるんですか」
頭部を失い、ぐらりと傾いで倒れていくホ級の肩から重力を感じさせない動きで飛び降りた青葉ちゃん。彼女はハ級の影から顔を覗かせたロマさんの姿を見て、眉根を寄せてじっとりとした視線を彼に送った。
「貴方といい司令官といい、指揮官が一番戦死率が高い場所で戦うのは如何なものでしょうかね。ましてや今回はこの作戦の総指揮官じゃありませんでしたか准将殿………おっと」
青葉ちゃんがホ級の死骸を持ち上げ、自分の上に傘のように翳す。
爆炎を背に急降下してきた【Helm】の爆弾数発が、ホ級の首無し屍体に炸裂して火を噴いた。
( ФωФ)「あやつと一緒にするでない───斎藤、走れ!!」
(・∀ ・)「あいあいさー!」
ロマさんともう一人────斎藤と呼ばれた大男さんがハ級の影から同時に走り出る。
(*;゚ー゚)「わっ」
川 ゚々゚)「キヒィッ!!」
ほぼ水平射撃で飛来した砲弾が、ハ級の屍に直撃する。はじけ飛んだ胴体部分の大きな塊が、半壊した家屋の一つを薙ぎ倒す。
『ルァアアアアアアッ!!!』
直線距離で100M程向こう、此方に向けてイ級がゆっくりと身体を揺らし艤装を展開しながら近づいてきている。大きさはかなりあり、少なくともelite以上の等級であることは間違いない。
('、`*川《統合管制機より【Caesar】、敵第三波艦隊の非ヒト型も港湾部に上陸を開始。また、主力であるヒト型も一部が上陸の構えを見せています》
( ФωФ)「統合管制機、その角度からだと難しかろうが何とか対地射撃を────否」
『…………ガブァッ!?』
要請を出そうとしたロマさんの言葉は、断末魔を残して血反吐を撒き散らしながら倒れたイ級eliteの姿を見て中断される。
( ФωФ)「すまん、たった今必要なくなった」
「────ふんっ」
私達の視線の先では、さっき青葉ちゃんに続いて敵の群れの中に斬り込んでいった銀髪の駆逐艦娘がイ級の屍に足を掛けながらつまらなそうに鼻を鳴らしていた。
「その程度の力でこの叢雲様の前に立ち塞がろうなんてお笑いぐさね。消えなさい!」
163:
( ФωФ)「総員、イ級の屍の位置まで前進!【Ghost】叢雲と合流せよ!!」
「「「了解!」」」
青葉ちゃんも加えて、全員が一斉に叢雲ちゃんの元へ駆け出す。「戦争の音」は今や街中を満たし、私達の突入を機にそれらはいよいよ激しさを増していた。
「あぁ、青葉さん、こっちは概ね片付いたわよ────って、確かあんたこの作戦の司令官じゃなかったっけ?」
先頭を行く青葉ちゃんに気づいた叢雲ちゃん(といっても、“この”叢雲ちゃんとは面識がないから気安くちゃん付けすべきじゃ無いかも知れないけど)がにこやかに手を振り上げ、そしてその隣にいるロマさんの姿にすぐ怪訝そうに眉が寄った。
( ФωФ)「一応は海軍准将、貴様の提督の上官でもあるのだぞ。もう少し敬意を払ったらどうだ?」
「ならもうちょっと敬意を取れる行動してちょうだい。あんた自分が死んだら作戦が丸ごと瓦解しかねないって自覚あるの?」
「青葉もそう言ったんですけど、この人ウチの司令官となんだかんだ思考回路が似てますからねぇ。よく言えば現場主義、悪く言えば脳筋ですから」
( ФωФ)「繰り返すが正真正銘の脳筋と一緒にするでない。だいたい、我が輩がたかが深海棲艦如きに殺されるタマではないことは貴様もよく知っているはずだが?」
「あ、それ司令官の口癖です」
( ФωФ)「」
珍しく、ロマさんが本気でショックを受けた表情で黙り込んだ。とはいえ、私も“あの人”とロマさんは根源的なところで似た者同士だと思う。
ロマさんも向こうも、頑なに認めないだろうけど。
「……幾つかの上陸ポイントで敵艦隊が少しずつ下がり始めたと報告が来てるわ。損害が続出しつつあるとはいえあの物量キチガイ共がこの程度で下がるとは意外ね」
「向こうも、まさか人間の歩兵部隊まで白兵突撃しかけてくるとは思ってなかったんでしょうねぇ。しかもかなりの戦果を挙げているとなれば尚更に警戒しているのでしょう」
164:
最も射程が短い駆逐艦の主砲でも18km前後の距離から撃ち合うことが前提であり、“軍艦”という兵器は基本的に「いかに遠距離から敵を撃てるか」がコンセプトだ。
生ける軍艦である艦娘も、そして深海棲艦も同じことだ。彼女達は──前者に関しては“海軍”に所属する子を除いて──真っ向からの白兵戦闘なんて想定していない。非ヒト型はおろか、ヒト型ですら“人間の武器”には効果的でも“人間それ自体”の透過は防げずにいる。
艦娘の戦闘面での練度・質は圧倒的で制約も少ない“海軍”は、ただ国際的な組織でありながら保有する艦娘の数も相応に少なかった。艦娘には遠く及ばないにしろ深海棲艦にダメージを与えることが可能な戦車や戦闘機といった兵器も、組織の特性上おおっぴらに買い揃えるわけにもいかない。
そのため大本営────私達の上層部が目を付けたのが、“とある場所”で歴史的な戦果を挙げたこの白兵戦術だった。
目には目を、歯には歯を。特に甲殻それ自体が戦艦の装甲的な役割となるためまともな金属では貫けない非ヒト型にダメージを通すため、採取された奴等の甲殻片を加工して造られた剣や槍、クロスボウなどが艦娘・人間を問わず配られた。
戦車を複数台纏めて粉砕できるレベルの砲火と音の戦闘機も撃墜できる機銃掃射の中を突っ切り、敵に肉薄して斬りつける───時代錯誤も甚だしい、長篠に散った武田軍も真っ青な戦い方。
でもこの戦い方こそが、私達“海軍”の最大の武器でもあり深海棲艦たちに対する隠し球でもある。
そして“隠し球”は、今回もまた深海棲艦たちに大きな混乱を与えることに成功していた。
165:
('、`*川《統合管制機よりCaesar、市街地中央や鎮守府施設近郊、更に市郊外からも深海棲艦が港湾部へ進撃を開始。航空隊は相変わらず先遣空挺部隊への攻撃を継続していますが、彼らへのマークはコレでかなり外れた筈です》
( ФωФ)「了解した────港湾部制圧部隊全体に通達。市内の敵艦隊が反転、我々の後方に迫りつつある」
『『………!?』』
『『!?!!!?』』
頭上まで迫ってきたHelmに向かって、ロマさんを始め何人かがサブマシンガンを構え弾幕を上げる。爆弾は既に落とした後なのか機銃による攻撃を余儀なくされた敵機は私達の射程圏まで何とか近づいてきたものの、正確無比な射撃を躱すほどの余力が残っていなかったのかあっさりと撃ち抜かれ落ちていった。
( ФωФ)「流石に挟撃はマズい、やかに正面戦力を────」
(#T)《オアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!》
(;ФωФ)そ「ぬぅおおおおおおおおおおおっ!!!!?」
“あの人”の雄叫びが無線から聞こえて、巨大な塊がこっちに飛んできた。気配を感じてロマさん他数名が散開し、そこに軽巡ト級の頭部が隕石みたいな勢いで落下して地面に突き刺さる。
(#ФωФ)「てめっ、何してんだ殺す気かボケェエエエエエ!!!!」
(#T)《うるっせぇまたてめえのせいで仕事増えてんじゃねえかボケナスイボ痔が!!!!!何体クソ雑魚ナメクジ呼び寄せりゃ気が済むんだよ死ね!!!!!蒙武に側頭部抉られた汗明みたいに死ね!!!!!!》
(#ФωФ)「仕方ねえだろそういう作戦なんだからてめえが死ね!!!!!【Re:kill】で目玉引きちぎられてゾンビにムシャムシャされるモブ特殊部隊員みたいに死に腐れ!!!!」
( T)《てめえはもっと死nンンンンンンン!!!!》
( ФωФ)
(*゚ー゚)
《…………不知火です。司令官には少し“静か”にしていただきました。
敵艦隊殲滅、確認致しました》
(;ФωФ)「アッハイ」
《……………不知火に落ち度でも?》
( ФωФ)「滅相もありません落ち度は全てそこの筋肉にあります貴様がナンバーワンだ」
………声だけなのに、相変わらず凄い迫力だなぁぬいちゃん。
166:
「………いやはや、ウチの司令官と准将殿はやはり仲が悪いですねぇ」
(*;゚ー゚)「あ、あはは……喧嘩するほど仲がいいとも…………うーーん?」
「………というか、この准将本当に自衛隊の方で“天才”なんて呼ばれてた人なの?なんか青葉さんのところの司令官との会話聞いてると順当に馬鹿すぎて干されたように見えてくるんだけど」
うぅ、叢雲ちゃんの言い分に反論のしようが無い………。青葉ちゃんも苦笑いを浮かべて頬をポリポリと掻いている。
「あっはっはっ、まぁ少なくともこんな作戦立てられる程度には優秀な人ですよ?後、ウチの司令官もあんなんですけどすっごく優秀です。………本当に“色んな意味で”いい司令官ですよ」
そう言う青葉ちゃんの横顔は、いつもよりほんの少し真剣な色が混じった笑顔だった。
言葉だけは軽く、でも心の底から“あの人”を信頼しているんだと解る表情。
「すんごいはっきり言っちゃいますと、多分青葉たちの鎮守府で人類のため、世界のためなんて考えて戦ってる子はいないんじゃないですかね?多分殆ど全員が、第1に自分のため、そして第2に司令官のために戦ってるんだと思います」
「あら、随分モテモテなのねあの筋肉男」
「あー……恋愛感情についてはどうなんですかね。抱いてる人いるのかなぁ。どっちかというと悪友感覚というか、腐れ縁に近いから」
( ФωФ)「だいたいからしてあの男もそう言ったものを心底から嫌うからな。あの鎮守府には基本胃痛事案が山ほどあるが、そう言った意味での“健全性”は我が輩としても助かる限りだ」
無線で部隊に幾つかの指示を出し終えたロマさんが、そう言って肩を竦める。ちらりと青葉ちゃんの方に向けられた視線は、どこか複雑そうだ。
(′ФωФ)「にしても、最も世界のことを考えていない鎮守府の艦娘達が、最も世界を救うに足る力を持っていると来た。つくづく、“海軍”准将としては頭が痛い事態である」
「まぁまぁ、そこはご安心を。青葉たちも司令官も、今のところは世界に反旗を翻そうなんて思ってないので!」
( ФωФ)「にこやかにメッチャ不安募ること言われた────さて、次が来るぞ貴様ら!」
167:
『『『『ァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』』
ロマさんの檄に応じるように、トゥロマ川から“奴等”の上げる雄叫びがここまで届いた。ズンッ、ズンッと一定のリズムを刻みながら、巨大な何かが戦列を組んで此方へ向かってくるのが見なくても解る。
破壊された港湾施設から吹き出す炎や両艦隊の砲弾による爆光で、まるでカメラのフラッシュを炊いているように時折十数メートルを越す“影”が群れを成している様が夜陰に写し出された。
('、`;川《管制機より港湾部全部隊に通達、深海棲艦第三波艦隊が上陸を開始!ほぼ全艦がelite或いはflagship、注意されたし!》
《退却中だった一部艦隊も第三波の攻勢に伴い反転、合流し再度攻撃に映る構え!またトゥロマ川上に空母ヲ級も一隻視認、敵航空隊も更に増えるぞ!!》
( ФωФ)「Caesarより各位、どんな状況下でも作戦は変わらん。やかに正面艦隊に致命的な打撃を与え、挟撃を何としても防げ!」
「言われなくても!
叢雲、出るわ!見てらっしゃい!」
「よーし、じゃ!青葉も頑張っちゃいますか!」
新たに来着した敵の大群を目前にして、戦場の空気が、張り詰めていく。一人、青葉ちゃんだけがいつもの調子でいつも通りの笑顔を浮かべて敵艦隊を見据えていた。
……ただし、笑顔だったのは眼を除いての話だけど。
「────青葉取材、…いえ出撃しまーす!!」
168:
<近年の深海棲艦の脅威について、私自身もよく理解しております。硫黄島における“二度目の奇跡”がなければ、我が日本国も大きな損害を受けていた可能性がある、多くの人命を失っていた可能性がある、それは私も十分承知しているんですよ。ですから私も、【艦娘】の存在の必要性というのは十二分に理解しているのです。
しかし、しかしですね総理、深海棲艦を殺せると言うことは、艦娘は人間も殺せるということなんです。当たり前の話だ、深海棲艦は人類よりよっぽど強靱な生物なんですから>
<艦娘の皆様の人権という点もそうですが、それ以上に艦娘が“人類に牙をむく”という可能性は全くないのか、またもし深海棲艦を倒すことが出来たとして、今度は艦娘を用いて人類同士の戦争が起こるんじゃないのか、そういった不安を、ね?そういった不安を!市民の皆さんは抱いているんですよ!>
<こうした、市民の皆様や、第二次世界大戦で日本が侵略を────この際正当性の話はどうでもよろしい!ね?侵略を行った、アジアの国々の不安を取り除く必要が…………艦娘の存在に感謝している国もあるかも知れないけれど不安だと思っている国もあるんですよ!仰るとおり全部ではないですけど!
君、失礼じゃないか!誰が売国奴だ!取り消しなさい!>
<とにかくです、“艦娘という【兵器】が人類同士の戦争に使われないようにする”取り組みを、再び過ちを繰り返さない取り組みを、過去に“過ち”を犯した日本が積極的にやっていかなきゃ行けないんです!
だから我々の手で、この“艦娘三原則”を国際社会で制定されるようリードしていかなければならないのです!>
〜2012年、艦娘関連法案制定に基づく臨時国会・宝木蕗也共栄党議員の発言を抜粋〜
170:
“艦娘”は、自身が本来の軍艦として活躍していた頃の名残なのか古い───具体的に言えば1930〜50年代頃に各国で主流だった造形の建物に強い関心を示す傾向がある。特に主だった活動拠点になる鎮守府や艦娘寮ではそれが顕著で、艦娘達のストレスを緩和するためにこの二つは各国ともあえて(規模が許す限りだが)外観に関してはこの年代を元にする場合が多い。
これは余談だが、例えば横須賀司令府に努める海自の艦娘達は旧江田島海軍兵学校並びに寮を忠実に再現した艦娘寮に寝泊まりしており、日本国が保有する艦娘の間ではここに配属されることが一種のステータスとなる。
ロシア海軍の“鎮守府”もまた、それらの例に漏れなかった。見えてきた門もその向こう側に垣間見える建物も、「えっ?何、教会?サンクトペテルブルク?」と一瞬身構えてしまうほど(古くさく)荘厳な佇まいをしていた。
ただし、古いのはあくまでも見た目や基本的な内装。艦娘とは最新の軍事技術の塊であり、深海棲艦に対する対抗策として以上に外交のカードとして全ての国が喉から手が出るほど欲する歩く最重要機密事項とも言える。
だからどの国にある鎮守府も、当然セキュリティは21世紀の最新技術の詰め合わせだ。
《─────全員伏せろ!!!》
(,,;゚Д゚)「うぉっ!!」
門が見えた瞬間、トラックの運転手が叫ぶ。門柱の中程から顔を出した自動機銃が2門火を噴き、弾丸が前を走っていた俺達のトラックに襲いかかる。
《RPG!!》
(,,;゚Д゚)「お約束かクソがっ!!」
弾幕で動きが鈍った車両に、両脇に立つ監視塔からロケット弾が飛来。ドリフトしながら横向きで停車したトラックの荷台から、俺達は一斉に飛び降りる。
「……っ、ああもう砂が服に入った!」
RPG-7は世界中のゲリラ御用達のお手軽携行砲だが、命中精度は笑えないほど低い。螺旋軌道を描いて着弾した砲弾はどちらも至近弾ではあったがトラックに直撃はせず、降りかかってきた砂利に2番艦が愚痴をこぼすだけの結果に終わった。
(#゚∋゚)「Go go go!!」
30M程後方で、Ostrich達が乗る二台目も停車。飛び降りた部隊はそのまま門や監視塔、塀上に向かって応射しつつ俺達の元まで前進してくる。
171:
( ゚∋゚)「………敵の状況は?」
(,,゚Д゚)「人数は不明だが少なくとも監視塔に二人ずつ、塀の上も両翼に十人前後だ。それと此方に向けられているサーチライトが合計八つ。
門の後ろに待機している奴や他所からの援軍もあるだろうからこの先もう幾らか増えるだろうな……おっと」
立ち上がってトラックの荷台から僅かに顔を覗かせてみるが、弾丸が飛んできたのですぐに身を伏せる。
流石に、“鎮守府”を守備するとなれば五流の武装集団でもそれなりの人員を揃えるらしい。射線はかなり統率が取れている方で、狙いもある程度正確。
少なくとも今まで処理してきた市街地の“戦争ごっこ組”や“革命ごっこ組”に比べれば遙かにマシな戦い方をしていた(比較対象があまりにもアレだが)。
(,,゚Д゚)「一つ情報追加。右手監視塔にスナイパーが1名追加だ。腕の程は解らんがまぁ油断はしないに越したことはない………んぁ?」
袖口を引っ張られたので振り返ると、江風が怪訝な表情で親指を空に向けていた。
「………なぁギコさン、なンで艦載機の奴等追撃やめたンだろう?」
(,,゚Д゚)「……」
江風の言うとおり、あの後も空襲を続けてきていた【Helm】の群れは此方が強引に鎮守府に向かい始めると途端に攻め手が鈍り、ものの数分で攻撃は完全に止んでいる。
確かにこっちの対空射撃で向こうも結構な数の撃墜機を出していたが、奴等の物量からすれば恐らく毛ほどの痛手にもなっていない。鎮守府からの迎撃を警戒するとしても、街全体が丸ごと機能停止し外界との連絡も遮断されている状況下で向こうがそこまで出し惜しみする必要性も見当たらない。
……いや、そもそも航空隊はおろか低級とはいえ深海棲艦それ自体が市内に浸透している状況で、最優先で潰されている筈の鎮守府が何故見た限りとはいえほぼ無傷に近いんだ?
(,,゚Д゚)「………そっちについて考えるのは後だ、まずは鎮守府の奪還を急ぐ」
「了解っと!」
ロマさん辺りが考えればもう少し正解も見えてくるのだろうが、あいにく俺の脳味噌じゃ碌な答えを導き出せそうもない。
難しい考察は頭のいい奴らに任せて俺は目の前の事柄に集中する。餅は餅屋、だ。
172:
(,,゚Д゚)「………」
弾幕に晒されない程度にトラックの影から顔を覗かせ、改めて門までの状況を確認する。
距離およそ150M程度、遮蔽物無し。鎮守府内の敵総兵力は不明ながら、自動機銃が機能している点から考えて武装勢力の中にハッカーが最低1名は存在……もう一つ可能性は考えられたが其方は正直あり得て欲しくない。
(,,゚Д゚)(遮蔽物なしのところに自動機銃ってのがキツいな………)
人間の射撃については暗闇さえ作り出せればかなりの制限を加えられるが、機械制御の機銃はそうはいかない。恐らく熱感知式だろうし、狙いも比べものにならないほど正確なはずだ。
真正面から突っ込めば、米帝の濃密な阻止火線の只中に銃剣突撃を敢行した大和魂旺盛な英霊の方々の苦闘を身を以て体験できるだろう。
(,,゚Д゚)「正直深海棲艦一、二隻のほうがなんぼかマシだな………時雨、江風、門柱の自動機銃と奴等のサーチライトを破壊、序でに一応スナイパーも潰せ。
OstrichとWild-Catは掃射完了次第前進を開始、敵を処理しつつ門を破壊して鎮守府内部に突入する。暗視スコープは忘れるな」
「あいよっ」
「りょーかい」
「「「Yes sir!!」」」
(,,#゚Д゚)「よし────Go!!」
全員の了解が取れたところで、合図を出す。途端、江風と時雨が25mm連装機銃を構えながらトラックの荷台に跳び上がった。
「江風は右手の機銃とサーチライトを!僕は狙撃手と壁の上の奴等をやる!!」
「解ったぜ時雨姉貴!
────食らいなぁ!!」
「※※※!!?」
「※※※………」
重厚な発射音が鳴り響く。門柱のコンクリートが砕け、中に埋め込まれていた収納式の自動機銃が火花を吹いて沈黙する。AK47を大きく上回る威力の弾丸が人体を粉砕し骨肉を引き千切る音が銃声の中に混じり、頭上からはアラブ語の悲鳴や断末魔が事切れた人体と共に降ってくる。
ガラスの割れる音や小さな爆発音が連続し、トラックの前を照らしていた明かりが消えていく。
173:
(,,#゚Д゚)「Move up! Move up!!」
(#゚∋゚)「Keep low!!」
暗闇が門へと至る空間を再び包み始めた辺りで、俺はOstrich達と共に門への前進を開始する。
「※※※※※!!」
「※※※、※※※※!!!」
サーチライトを破壊され混乱の極みに達した敵は、誰1人此方に気づくことなく半狂乱で弾丸をばらまいている。
加えて言えばトラックの上でど派手に攻撃を加えている江風と時雨が眼を引いているのもあるだろう。艦娘には何の意味も為さないか細い射線が、2人の障壁上で虚しく弾けていた。
(,,゚Д゚)「〜♪」
「ゥア………」
塀上の足場で間抜けに“軍艦”へ攻撃を続ける覆面の1人に狙いをつけ、鼻歌と共にAK47の引き金を引く。
乾いた銃声の後、胸から額に掛けて穴を空けたそいつが此方側に落下する。
「Shoot, Shoot, Shoot!!」
「Enemy down!!」
他の面々も随時攻撃を開始し、味方の銃声が一つ鳴る度に敵が1人確実に沈黙していく。
門まで到達した頃には、敵の抵抗は皆無に等しくなっていた。
(,,゚Д゚)d
( ゚∋゚) ))
門を挟んで俺と反対側の壁に身を寄せたOstrichに、腰の辺りを叩いてからハンドサインを送る。向こうが頷いたのを確認して、俺は例のクソ間抜けな絵が刻印された手榴弾を手に取る。
(,,゚Д゚)「っ」
( ゚∋゚)「っ」
馬鹿げた外見と馬鹿げた威力のグレネードからピンを外す。俺は門の手前に、奴さんは壁を越えて門の内側にそれぞれ同時に投げ込む。
(,,#゚Д゚)「伏せ!!」
轟音。
内外で起きた大爆発によって、ムルマンスク鎮守府の門が吹き飛ばされた。
174:
(#゚∋゚)「Breaching, Breaching!!」
(,,#゚Д゚)「時雨、江風!後続しろ!!」
「めんどい、さっき仕事したし待ってちゃダメ?」
「何言ってンだよ時雨姉貴、ほら行くぞ!!」
「むぅ……」
爆熱で拉げ、上空に舞い上がった扉の残骸が地面に落下してドデカイ音を立てる。俺とOstrichは同時に門の内側に踏み込み、後に2番艦と自身の姉を引きずる江風が続く。
最初に、飛び散った肉片やら炭化した手足やらが散乱している有様が眼に入る。ついで、人体が焼けるあの独特の臭いが鼻を突く。
やはり敵は門の内側で此方を待ち構えていたらしく、少なく見積もっても14、5人分の「残骸」が辺りには散らばっていた。
そして当然、敵の抵抗はまだ打ち止めに程遠い。
「※※※※※!!」
「※※!?」
「Enemy contact!!」
「Fire……ぐぁっ!?」
門から100Mほど奥で、トラック三台を横付けする形で築かれた簡易なバリケード。その向こう側や荷台の上には、およそ50人前後の武装兵が展開する。
たちまち双方でマズルフラッシュが瞬き、銃弾が夜気を切り裂いて交錯する。敵方で何人かがもんどり打って倒れたが、此方でも1人が左肩の付け根辺りを抑えて地面に倒れた。
「猫山一曹、猪野が撃たれました!!」
(,,#゚Д゚)「海自階級で呼ぶなアホ!!物陰に運ぶ、援護しろ!!」
「「了解!!」」
呻き声を上げている顔なじみを引きずり、監視塔の柱まで運ぶ。
「っ……すみません少尉」
(,,゚Д゚)「なぁに生きてりゃ御の字だ。弾は抜けてるから安心しろ」
猪野の傷口を確認しながら、バリケードの様子にも目をこらす。
(,,゚Д゚)「……ッチ」
忌ま忌ましさに思わず舌が鳴った。幾らかの損害は出ているようだが、弾幕はまだ勢いを衰えさせていない。此方側の損害も猪野以降出てはいないようだが、なるべく弾幕を寸断するための牽制が精一杯でまともな反撃が出来ているとは言い難い。
175:
敵はお粗末とはいえバリケードを構築しているのに対してこっちは再び遮蔽物無しでの戦闘、しかも数的不利まで抱えている。
練度に雲泥の差があるとはいえこのまま馬鹿正直に銃撃戦を繰り広げれば損害が更に増える。
……まぁこっちは、数だのバリケードだのが馬鹿らしくなるチートを随伴しているわけだが。
(,,゚Д゚)「時雨、江風」
追いついてきた白露型駆逐艦二隻を顧みる。2人も一応柱の陰に隠れているが、あくまで“一応”。この程度の弾幕なら24時間受け続けても艦娘の船体障壁にはカスダメすら入りやしない。
(,,゚Д゚)「立て続けにすまんがもう一仕事頼む。正面の奴等をすぐに黙らせてきてくれ」
「………めんどい」
「だから時雨姉貴は………ンで、また機銃をぶっ放す感じかい?」
(,,゚Д゚)「いや、さっきの対空戦や門の制圧戦で消耗も割としてるからな。今回は節約する」
それを聞いて、江風と2番艦は同時に顔を見合わせ───。
(,,゚Д゚)「近接戦闘を許可する」
続けた言葉に、2人は同時に満面の笑みを浮かべた。
(,,゚Д゚)「白兵戦だ。奴等をやかに殲滅してくれ」
「了解、1分で片して来てやンぜ!!」
「何言ってんのさ、30秒余裕だよ」
176:
「─────※※※!!?」
「※※※※、※※!?!?」
小気味よくなるほどの敵の動揺ぶりが、夜風に乗って此方に伝わってくる。
監視塔の影から飛び出し、Ostrich達と敵との間を遮るようにして駆けていく時雨と江風。弾幕を集中してきた敵の感情が、戸惑いから驚愕へ、そして恐怖へ移り変わるのに時間は殆ど必要なかった。
「無駄だね」
「はっ、効かねぇッつの!!」
そりゃそうだ。2人ともパッと見た限りは年頃の少女二人。それもどう見ても戦闘向きとは言いがたい服装の二人組が何百、何千という弾丸を浴びても顔色一つ変えずに突っ込んでくるのだから。きっとT-1000に追われているときのジョン=コナーも、奴等と似たような気持ちだったに違いない。
「カ、カンムs」
「っと」
「ウァッ────!?」
最初に二人の正体に気づいたらしい敵兵の1人が舌っ足らずな発音で叫ぼうとしたが、それより先に額を時雨が投擲した棒状の何かが深々と額に突き刺さる。
「ほいっと!」
崩れ落ちたその屍体を踏み抜いて、赤い髪を靡かせた改白露型が中央のトラックに飛び乗った。
「そおら!!」
「※────」
無造作に振るわれる右手の斧。咄嗟にAK47を掲げたその敵は、銃身ごと身体を縦に両断されて両側に倒れ込む。
「………きひひッ♪」
足下と顔の右半分を自身の髪の色と同じ真紅の血で染め、別のトラックのフロントライトにまるで舞台の演出のように照らされて。
周囲で、逃げることすら適わず呆然と凍り付く敵を見回しながら、江風は嗤った。
……以前ロマさんから教わった話だが、イスラム教にはイブリースという悪魔がいるらしい。
今のあいつらにとって、イブリースと眼前の悪魔、どちらが恐ろしいかはおそらく議論の余地があるだろう。
「ふふン、いいねいいね!やっぱ駆逐艦の本懐は戦闘だよなー…………いっくぜー!」
「ヒッ─────」
歓喜の声を高らかに上げて、赤い髪の悪魔は再び斧を振りかぶる。
177:
「ぃよいしょおおおっ!!」
「「「ガッ………」」」
横に一閃された斧。軌道上にあった三つの首が、一撃で骨ごと断ち切られて宙を舞う。
「ほいさっ!!」
「オグゥッ!?」
思わず直前に「ぬるぽ」と付けてやれば良かったと本気で後悔するような見事な断末魔を残して出来上がった三つの生首、その内一つを鷲掴みにし江風が隣のトラックに投げつけると、顔面に直撃を受けた兵士は首があらぬ方向に曲がって事切れた。
「※※※────※!!」
「邪魔」
唯一損害がなかった向かって左手のトラックで、ようやく恐怖による金縛りが溶けたらしい1人が江風に銃を向ける。………が、胴を横から突き出された時雨の腕が貫通し弾は放たれぬまま終わる。
「江風ずるいよ、1人でこんなに狩っちゃって」
「悪ィな時雨姉貴、でも提督もいつも言ってンじゃん!獲物は早い者勝ちッてさ!
それに時雨姉貴の仕事も減るぜ!?」
「アガァッ!?」
江風はそう叫ぶと、今度はアッパースイングで斧を下から上へと振り上げた。
股ぐらから文字通り「割られた」その男の断面図から、噴水のように美しく血が空へと迸る。
「……全く、姉想いの妹に恵まれて幸運だね」
少しふてくされてそう言う時雨は別の敵の頭を鷲掴みにして、そのまま首をねじ切りつつため息をついた。
「そう言うからには、僕の方がここから多く狩っても文句は言いっこなしだよ?」
「ハイハイ、解ってますって!」
178:
時雨と江風による“虐殺”は続く。単純な膂力や身体能力において人間を圧倒的に上回り、船体障壁によって多くの陸戦火器は効果無しか極めて薄い。そして何よりも、2人は“提督”によって対人(並びに対深海棲艦)格闘戦の技術を徹底的に叩き込まれている。
真正面からまともに戦った場合、人間が勝てる要素は無い。
「ほいっ、そいっ!!」
「────ふっ!!」
江風が斧を振るう度、時雨が四肢を動かす度、二人の周囲には屍が増える。
打撃、斬撃、どちらもまさに一撃必殺。食らった敵は、例外なく無惨な死を迎えていく。
「────ふぃ〜、一丁上がりッと!」
「結局江風の方が多く狩ってるじゃん……まぁいいけどさ」
俺達がトラックまで辿り着いた頃には、動く敵は周囲に1人もいなくなっていた。
「よっ、ギコさン!見てくれよ、宣言したとおり一分かからず終わらせてやったぜ!」
(,,゚Д゚)「そーだな、見てたよ。お前さんの提督にもしっかりその暴れっぷり伝えてやるから安心しろ」
「やったぜ!!!」
「………あのさ」
(,,゚Д゚)「………あぁ、解ってる」
あの変態きんに君のもとで鍛え上げられた精鋭の1人とは言え、“海軍”としての作戦参加は初めてである江風はいささかワーキングハイというか特殊な作戦状況にテンションが振り切れてしまっている。だが、江風の補佐・目付役として(半ば無理やり)連れてこられた2番艦の方は、どうやら“違和感”に気づいたらしい。
(,,゚Д゚)「静かすぎる」
正面にある鎮守府本舎を始め10棟以上の関連施設に、増設に次ぐ増設で今やムルマンスク市全体の15%近い面積を占める広大な敷地。そのどこからも、ここに増援が派遣されたり攻撃が下される兆候が一向に無い。
(?゚∋゚)「………幾ら何でもこれで抵抗打ち止めというのはあり得んな」
「なンでだい?あんだけ山ほどやっつけてりゃ全滅だってそろそろあり得ンだろ?」
(,,゚Д゚)「だとしたら向こうのアホさ加減を差し引いても敵の戦力配置がおかしすぎる」
179:
江風の言うとおり、総発狂状態のムルマンスク市民を除けば既に中核の武装集団は200人近く────通信で聞こえてくる他の先遣部隊の撃破報告も併せれば確実に300人以上俺達で処理している。
こいつらの実際の組織規模は不明とはいえ、中規模程度の組織なら全滅も十分あり得るレベルの大損害だ。
だが、そうなるとまずこの戦力配分が不可解極まりない。ただでさえ質の低い戦力をわざわざ各個撃破されるためだけに市街地にばらまき消耗した挙げ句肝心の鎮守府付近には元より碌な防衛線が引かれておらず、いざ鎮守府内への侵入を許せば今度は防御拠点として優秀な施設建造物を放棄してわざわざ屋外で決戦と来た。
はっきり言って、ウォッカを直接脳に注射されて錯乱しているとしか思えない。特にもし今し方時雨達が殲滅した敵が本当に最後の戦力だったのだとしたら、最早この程度の組織に基地を奪われたロシア軍全体の質が疑わしくなってくる。
勿論、その可能性も捨てるわけには行かない。だが、俺達の中に江風ほど事態を楽観視できる度胸がある奴はいなかった。
( ゚∋゚)σ「………」
(,,゚Д゚)(………クソッ)
それでも、希望的観測が全く芽生えていなかったワケじゃない。本当に今のが最後だとしたら(ロマさんからの一番新しい任務はしくじっていることになるので大目玉確定だが)こっちとしては楽だ。敵は弱い方が楽に決まっている。
だが、Ostrichが指さした先─────立ち並ぶ施設の隙間から見える、港に浮かぶ“艦影”。それを目にした瞬間、うっすらと抱いていた疑念が確信へと変わる。
アドミラル・ゴルシコフ級。ロシア海軍が深海棲艦の攻勢激化に対抗して僅か三週間前に進水させたばかりのフリゲート艦が、“全くの無傷”で水面に浮かんでいた。
「………あのさ、なんで最新鋭艦が深海棲艦からもテロリストの奴等からもなんの攻撃も受けずまだ停泊してるんだろうね」
(,,;゚Д゚)「…………決まってんだろんなもん」
頬を伝う冷や汗。同じような水滴を額に浮かべた2番艦の問いに答えつつ、俺は手元のAK47をゆっくりと胸元まで持ち上げる。
「罠だ」
正面の鎮守府本舎窓から、無数の銃口が此方に向けて突き出された。
180:
「………へ?って、うぉおおおおっ!!?」
「わっ……」
(,,;゚Д゚)「Get down!!」
(;゚∋゚)「っ」
弾雨。それはまさしく“弾丸の雨”だった。
俺達の隠れたトラックに殺到する無数の銃火。軍用に強化された防弾装甲が瞬く間に火花を散らしながら穴だらけになっていく。ガラスが割れ、削れた塗装が裏側の俺達に降り注ぐ。トラックの周囲でも銃弾が撥ね、雪と土が混ざり合って舞い上がる。
「正面鎮守府本舎、敵影多数!」
(;゚∋゚)「敵の規模は何人だ!?武装は!?所属は!?」
「解りません!とにかく一階から六階まで全ての階から攻撃が来ています!」
(,,;゚Д゚)(身動きが取れねぇ………!)
単に銃火の数が多いだけじゃない。六階建てという比較的高所からも攻撃できる利点を活かして、上階からの射撃は最初からトラックを狙わず俺達の退路を塞ぐようにして放たれている。
攻撃の質があまりにも違う。少なくとも、さっきまで戦っていた奴等とは明らかに別格の集団だ。
「ねぇ、どうすんのさ」
(,,;゚Д゚)「どうするもクソも………つーかテメェ余裕だな!!」
「この程度じゃどうせダメージなんて受けないし」
(,,;゚Д゚)「そういやそうだった畜生!」
余裕の表情な2番艦にちょっとイラッときたが、おかげで此方も動揺が治まったので文句は引っ込めておく。
181:
「それで、どうすんの?また僕らが行こうか?」
「あたしと時雨姉貴ならこンな弾幕屁でも無いしな!ご要望があればいつでも突っ込むぜ!」
(,,゚Д゚)「………いや、そっちはまだ保留だ」
確かに江風の言うとおり、さっきと同様に2人を突っ込ませれば状況を打開できる可能性は高い。艤装弾薬を節約したいという問題にしても、ついさっき殲滅された部隊の銃火器を鹵獲して使わせれば対人相手なら十分。
予備弾倉もそれなりにあるので、25mm連装機銃の使用機会は大いに減らせるはずだ。二人の後に続けば、俺達も大した損害を受けずに本舎まで突入できる公算も立てられる。
だが俺は、正面から攻撃を掛けてくる正体不明の敵部隊に対して得体の知れない不気味さを感じていた。
奴等は今、確かに俺達をバリケードに拘束することに成功している。ただその過程で、奴等は数十人規模の友軍部隊を全滅の瞬間まで眉一つ動かさず眺め続けていたことになる。
味方部隊を囮にしての作戦行動なんてものは古今東西常套手段だし、俺達だってごく普通に使う手だ。だが、その囮が“必要性は全くないのに”全滅するまで放置しておくというのは明らかに感覚として度しがたい。
何かが、“普通じゃない”相手だ。その懐にあまり情報を持たないまま飛び込む勇気を、俺は持てなかった。
182:
(,,゚Д゚)「………急いては事をし損じるってな。本舎に真っ向からの突入はしない。
まず反撃で奴等を牽制しつつ、本舎右手の倉庫群に向かえ。時雨と江風はアサルトライフルを使ってしんがりを頼む。村田、俺と残ってこの二人を援護だ」
「解った」
「おうよ!」
「了解しました!」
( ゚∋゚)「………待ち伏せされている可能性は?」
(,,゚Д゚)「勿論0じゃないが建造物が少ない方向に向かえば自然待ち伏せ部隊の戦力も限られるからな、少なくとも備え無しで南に向かうよりはマシなはずだ。
逆に南は陸上警備隊の格納庫まである、この装備で迂回路として選ぶのは避けた方がいい」
包囲殲滅には絶好の機会となるこのタイミングでジープの一台すら来ていない以上あまり大規模な戦力が残っているとは思えない。
だが、過ぎたるは及ばざるが如しは“戦場での用心”には適用されない諺だ。
(,,#゚Д゚)「─────よし、行くぞ!Go go go!!」
「江風、撃って!!」
「わかってら!!」
白露型2人がズタボロになったトラックの荷台にひらりと飛び乗り、膝立ちでAK47を構えた。
たちまち弾雨が襲いかかる。だが、本舎全体から降り注いでくる無数の火線も【船体殻】を傷つけるだけのダメージには程遠い。2人は殺到する弾丸に眉一つ動かさず、マズルフラッシュが見えた窓を──といってもそれはほぼ全ての窓が該当するが──丹念に狙い撃っていく。
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
「Ostrichは倉庫の制圧を急いで!手筈通り我々で食い止めます!!」
( ゚∋゚)「解った、任せる!!
Move up!!」
幾つかの銃火が沈黙して出来た隙。すかさず俺と村田が立ち上がり、更に三つ四つと敵の銃声を消していく。
Ostrichもまたバリケードから飛び出して、幾らか乱れを見せつつなお押し寄せてくる弾幕の中を倉庫に向けて駆けだした。
183:
Ostrichが姿を現した途端、それまで江風と時雨に集中していた火線が半分近くもあいつらに狙いを変えた。艦娘への攻撃は無駄だと気づいたのか倉庫に向かわれたくないのかは定かではないが、とにかく百数十条もの銃火が走るOstrichの周囲で土煙と火花を撒き散らす。
(#゚∋゚)「撃ちながら走れ、足は止めるな!!」
「「「Yes sir!!」」」
Ostrichの方も応射しているが、何分走り撃ちの上AK47は弾の拡散率が高く精密射撃に向かない。遮蔽物越しかつ高所に向けて撃ち上げていることも考えれば、牽制としての効果もあまり得られない。
(,,#゚Д゚)「村田、射撃ペース上げろ!時雨、3階向かって右手側窓に弾幕集中!
機銃掃射許可だ、一連射!!」
「うん!!」
「了解です一そ………少尉!」
(,,#゚Д゚)「村田お前飯抜きだな!」
「そんな!?」
となると、あいつらが無事に倉庫まで辿り着くために重要なのは俺達からの“横槍”だ。
Ostrichへの射撃を少しでも緩和させるため、此方も切り札を少しだけ切る。時雨が25mm連装機銃を起動させ指示された場所を掃射すると、ほんの二秒ほどの銃撃でその辺りは完全に沈黙した。
(#゚∋゚)「───、───!!」
僅かな、だが確実に攻撃が大きく緩んだ微かな好機。コレを逃さずOstrichは加すると、一気に他の奴等と共に倉庫の影へと転がり込む。
「───!!」
d( ゚∋゚)ノシ「─────!」
一番手前、屋根に大きく「6」と書かれた倉庫の脇の扉を蹴破り3人が中に入る。数秒の間を置いて、Ostrichが「大丈夫だ」とハンドサインを出しながら俺達に向かって手招きを開始した。
184:
「少尉、合図が!」
(,,#゚Д゚)「見えてた!江風、お前も一連射頼む!!」
「りょーかいっとぉ!!」
機銃が唸り、壁が貫かれ、ガラスが砕ける。“軍艦”の機銃掃射を受けた2階が、無数の黒い煙を吐き出しながら沈黙する。
(,,#゚Д゚)「走るぞ!!行け行け行け!!!」
(#゚∋゚)「────、────!!!」
俺達が倉庫の方へ走り出すのと、Ostrich他10名ほどが本舎へ向けて銃撃を始めたのはほぼ同時だった。
倉庫までの距離は200M程度。全力疾走すれば24、5秒で辿り着く距離だが、弾丸飛び交う中を突っ走るとなるとこれが俺と村田にとってはまさに「死ぬほど」長い距離だ。
(,,;゚Д゚)「……………っぷはぁ!!?」
( ゚∋゚)「こっちだ!!」
江風と時雨の掃射による被害で大きく乱れつつも、本舎からの弾丸はなおも俺達に追い縋ってきた。呼吸すら忘れる命懸けの鬼ごっこは辛うじて俺と村田に軍配が上がり、足下で弾けた銃火につんのめりながらも何とか倉庫の影に転がり込む。
( ゚∋゚)「よう、無事なようで何よりだ!」
(,,;゚Д゚)「ゴホッ……あぁ、お陰様でな!倉庫の中の様子は!?」
( ゚∋゚)「確認したが異常は何も無い!尤も、使えるものも何一つ無いがな!」
188:
Ostrichから暗に倉庫が空っぽだと伝えられるが、俺は元より期待していない。入り口から数百メートルしか離れていない機密性皆無の倉庫に重要物が搬入されていた可能性は限りなく低く、おまけに現在は敵の制圧下。
仮に何らかの理由で特殊な物資が運び込まれていたとして、それがむざむざと残されているはずがない。
「うりゃりゃりゃりゃーーー!しつけえなチキショーめ!!」
(,,゚Д゚)「2人とももう十分だ、下がれ!!」
「了解!ほら、江風!」
「っと、あいよ!!」
武器を連装機銃から再びAK47に持ち替えて牽制を行っていた時雨達を呼ぶ。2人はそれぞれ鎮守府本舎に向かって最後の一連射を浴びせると、踵を返して此方へと駆けてくる。
「ギコさン、全員無事かい?!」
(,,゚Д゚)「お前らのおかげでな、AKと連装機銃の残弾は?」
「小銃の弾倉は僕も江風も五つずつ。連装機銃の方はあと半分ぐらいだね」
(,,゚Д゚)「OK上出来だ!入ってくれ!」
2人の背中を押して倉庫の中へと誘い、俺も「最後っ屁」としてAK47の引き金を引いた。
『…………っ!!?」
窓から突き出されていた銃口が一つ不自然に引っ込むのを視界の端に捉えつつ、俺は倉庫に入り扉を閉める。
189:
流石に北欧最大の軍港施設だけあって、倉庫一つとってもスケールがデカい。中は綺麗な長方形となっており、ざっと見たところ少なくとも日本の一般的な市民体育館と同程度の広さがある。
(,,゚Д゚)「村田、飯島、こっちの見張りを頼む」
「「了解」」
Ostrichの指示なのか対角線上にあるもう一つの入り口に見張りが2名ついていたので、此方も同じ人数を今入ってきた扉につける。他に入り口らしい箇所はないので、外に対する警戒はこれで十分なはずだ。
強いていうなら入ってきた側、つまり本舎側を向いている面に上下開閉式のシャッターが着いているが、倉庫の規模に併せて此方もかなり大きい。十中八九電動式なので外からも開けられるだろうが、この重量の扉が高で開閉できるとは思えないので万一敵が侵入目的で開放しても対処する時間は確保できる。
「………まぁしかし、本っ当になぁンにもねえ」
外の銃声も止んでようやく少し落ち着いたところで、江風が辺りを見回した後腰に手を当てて感心すら滲んだ声でぼやいた。
「こンだけデカいのにがらんどうだと、ちっとばかし落ち着かねえや」
“敵”がサーチライトや自動機銃を使ってきた時点で解っていたことではあるが、ムルマンスク鎮守府のインフラはかなりの部分が正常に機能しているようだ。倉庫内に関しても天井の電光パネルが煌煌と照らし出していて、中の様子は隅から隅までよく見える。
そして、本当に物らしい物が一つも置かれていない。脇の方に用途不明の鉄パイプが数束置かれている程度だ。
(?゚∋゚)「………使えるものも“何一つ”ないと言っただろ。アレは言葉通りの意味だ」
いっそ開放的なすがすがしさすら感じられる中で、Ostrichが低い声で答える。
(?゚∋゚)「元々何もないのか、占拠した奴等が根刮ぎ持って行ったのかは定かではない。………まぁ、ここがロシアであることを考えればウォッカは間違いなく含まれていただろうが」
“ダチョウ”のコールサインを与えられた身長190cm越えの大男は、ぼそぼそと台詞を続けて小さく肩を竦める。寡黙ではあるが、こんな状況下でもジョークを言える程度にはユーモアを持ち合わせているらしい。
190:
「………というかさ、本当にもしかしてお酒入れられてたのかなここ」
俺の直ぐ後ろに立つ2番艦が、鼻をすんすんと鳴らしながら怪訝な表情を見せる。その姿は夕立や白露と言ったこいつの姉妹艦達とはまた別ベクトルの犬っぽい仕草で、さながら不審物に気づいた警察犬のように見えてくる。
「なんか、アルコールの臭いがする。臭い自体はちょっと薄いけどさ」
「………いやいやいや時雨姉貴、ここ仮にも一国の最重要軍事施設なンだろ?ンな大量の酒なンざ置いてあったわけないだろ、気のせいだって」
(,,゚Д゚)「ロシアだからなぁここ。正直この倉庫が丸ごと酒蔵だったと言われても驚かないぜ俺は」
比喩表現ではなく、ロシア人の奴等はどうも酒の類いを水と同じ感覚で飲んでいる節はある。実際、奴さん達の魂と言っても過言ではない国民的酒の一つであるウォッカ(водка)は、日本語で直訳すると「お水ちゃん」だ。
因みにこの豆知識は中学の頃に知り合った友人から聞いた。あの妙ちきりんな語尾は相変わらずなのだろうかと一瞬だけ胸の内が懐かしい記憶に満たされる。
風の噂で聞いた話だと、今はどこかの学園艦に乗り込んでそこで教師をやっているらしい。かなり頭がいい奴だったので、なんか納得しちまう。まさに適材適所ってもんだ。
…………等と、がらにもなく“昔の思い出”なんてものにほんの数秒でも浸ったのは間違いだったと。
「Freeze」
(,,゚Д゚)「………クソッ」
脇腹の辺りに突きつけられた銃口の冷たい感触を味わいながら、今俺は心の底から後悔している。
191:
「動クナ、動クナヨ!!」
「Don't move!! Put youra hands!!」
いつの間にか、俺達は周囲を10人程の銃を持った人影に囲まれていた。全員が迷彩服に身を包んでおり、口元を布や防塵マスクのような物で覆っているため表情や各個人ごとの細かい情報を得ることは難しい。
それでも、最初の声が聞こえた位置から左手直ぐのところに立って俺に銃を突きつけている奴がかなり小柄な──せいぜい140cm程度か、もしくはギリ届かない可能性もある──ことは理解できた。
それと口にされる日本語、英語はどちらも訛りがキツくてやや聞き取りづらい。ただ、訛りの特徴には多少の聞き覚えがある。
(,,゚Д゚)(プット ユー“ラ”…………ロシア訛り、か)
そのように努めているのかロシア語自体は使われていないが、耳に入ってくるアクセントはほぼ一定。それに声を荒げてはいるものの、発声自体の起伏も平坦なものだ。
(,,゚Д゚)(かなり鍛えられた動きしてやがるな………)
まさか首をおおっぴらに動かして見て回るわけには行かないので、あくまで見える範囲の光景や周囲の物音から得られる限りの情報を搾り取る。
人が動く気配はあるが足音はほぼ聞こえず、隠密行動に長けていることが窺える。真っ先に俺とOstrichが指揮官だと当たりを付けて主力を割いて制圧しにかかっているあたり、指揮官も優秀だろう。
「お前達の指揮官は制圧した!銃を捨てろ!
Put down your Weapon!!」
敵は此方より人数が少ない──視界に映る人数と気配を併せても14、5人程度しかいない。加えてその内大半の人数を俺とOstrich、そして時雨と江風に割いている状況なのだが、それでも無駄なく全員を武装解除させていく。丁度俺の視線上にいる1人が手慣れた動きでクリアリングをしており、口にする英語と日本語もそれぞれ発音が他の奴等に比べてかなり洗練されている。ハンドサインで周りに細かく指示も出しているので、この部隊の指揮官と見て間違いなさそうだ。
192:
俺は、右隣で同じようにホールドアップする大男を横目で見る。自分の目付きを自分で見ることはできないが、きっと風一つ吹いていない梅雨時の昼下がりよりも湿気に満ちた視線になっていることだろう。
(∩゚Д゚)∩「アメリカじゃ中に1ダース以上人間が潜んでいる状態を“何もない”と表現するんだな、初めて知ったよ」
(∩;゚∋゚)∩「……すまん、まさか地下室があるとは思わなかった」
言われて、包囲網の隙間から奴等の背後に目を懲らす。倉庫内の端、転がっているパイプ束の向こう側で床が1メートル四方に渡って持ち上がっており、どうやらそこから這い出てきたらしい。
……相手の練度が低くないとはいえ、この明るさの中でこんなものに気づけなかった自分への自己嫌悪が益々強くなる。ロマさんやあの筋肉に伝われば、向こう一年は確実に煽られそうだ。
(∩;-Д-)∩「………これはあんたばかり責めるのはフェアじゃないな。俺も立派なクソポンコツだ」
「喋らない方が身のためだと思うよ。
Be quiet」
(∩;゚Д゚)∩「っと」
より強く、腰の辺りに銃口が押し当てられる。俺とOstrichにそれぞれ英語と日本語で注意が飛ぶが、何故か日本語の方には殆ど訛りがない。
そして、声は静かだが思いの外高く─────どう聞いても変声期を迎える前の少女(ガキ)のそれ。
「さっきから、あまりじろじろ辺りを見るのは感心しないよ」
(∩゚Д゚)∩「はいはい」
なるべくバレないように視線を動かしていたはずだが、目敏く指摘された。
視線を戻すついでに、正面に立つ敵兵の持っている銃がAK12であることを確認。
これで、この集団の正体は確定した。
(∩゚Д゚)∩「………Ostrich、時雨、江風」
「…………! だから静かn」
(,,゚Д゚)「1人も殺すなよ」
「「了解」」
( ゚∋゚)「Roger」
193:
「………っぐ!?」
掲げていた左手を握り込み、勢いよく振り下ろす。わき腹に密着していた銃口を叩き落としつつ姿勢をチビの顔面辺りまで落として肘打ちをかます。
(,,;゚Д゚)「って………」
咄嗟に奴が引っ込めた右腕でガードされる。チビの身体はびくともせず寧ろ殴りつけた俺の肘に岩をぶん殴ったような衝撃と痛みが走ったが、動き自体は牽制できた。
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
「ギッ……!?」
足下に落ちていたAK-47を動きの流れで鷲掴みにして、そのまま肘の激痛に堪えつつフェシング選手のように真っ正面に立っていた1人の腹の辺りに突き出す。ドクロマスクを被っていたそいつは車に挽きつぶされた蛙のような声を上げて、後ろに二、三メートルほど吹き飛んだ。
「っ、止まっ──!?」
「うん、止まれよ」
俺へ改めて向けようとした銃口を、2番艦の足が蹴り上げる。
「お前がね」
「ゲホッ………」
息継ぐ間もなく手刀の突き。胸を(物理的に)打たれたチビが酸素を肺から吐き出しつつ蹈鞴を踏んだ。
「………※※※!!?」
向かって右手にいた覆面は俺に銃口を突きつけようとしていたが、チビが吹っ飛んだのを見て何かを叫びながら俺とすれ違う形で駆け出す。AK12を放り投げて懐からコンバットナイフを抜き放ち、姿勢を低くして時雨に飛びかかる。
194:
(#゚∋゚)「────」
「グゥアッ!?!!?」
その横っ面に叩きつけられたのは“人影”。Ostrichの見た目に違わぬ筋力で投げ飛ばされた包囲網の1人が轟音と共に直撃し、そいつはナイフを取り落として床を滑る。
「ガフッ……」
「悪ィね、寝といてくんな!!」
Ostrichの背後で銃を撃とうとした1人が、江風に顎を指で弾かれる。
見た目は子供、肉体は軍艦な艦娘の一撃だ。軽く撫でられた程度にしか見えなくてもその威力は絶大で、脳を揺らされたそいつはたちまち気を失った。
「ほいっ、ほいっと!!」
「ゲフッ……」
「чeрт………」
そのままブレイクダンスのような動きで足を払われた1人が全身をコンクリートの床に打ち付けて沈黙し、更に伸び上がりながら打ち込まれた掌底に別の奴が悪態をつきながら膝を折る。
「чел!!」
「邪魔」
死角から江風に突っ込んできた大柄な兵士には、チビを片付けたらしい時雨の跳び蹴りが炸裂する。吹っ飛んでいったデカ物が壁に叩きつけられズルズルと床にずり落ちていく様は、まるでディズ○ーアニメの一コマのようにどこかコミカルだ。
( ゚∋゚)「────!」
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!!」
最後に残った2人を、俺とOstrichがそれぞれ顔面ストレートで黙らせる。
これで、包囲陣の全員が沈黙した。
ここまで9秒。
195:
「…………っ!? なっ(#゚∋゚)「OCTaHOBиTeCЬ!

「ぴっ!?」
此方を振り返り銃を向けようとした敵の部隊長(?)に向かって、Ostrichが大音声で何事か叫びながら先に敵から奪ったAK12を構えた。2番艦の奇声と“誰かさん”が跳び上がったような音が後ろで聞こえたので、某筋肉提督への土産話としてしっかり脳内に刻んでおく。
向こうの指揮官がかなり流暢に英語を使っていたのはOstrichにも見えていた筈なので、ロシア語と思わしき叫びは恐らく他の奴等を牽制するためだ。事実Ostrichの大音声に竦みあがって動きを止めた残りの三人は、自由を取り戻した俺達側の人員に瞬く間に逆包囲され無力化された。
( ゚∋゚)「形勢逆転だ、お前達は我々の制圧下に置かれた。まずは大人しく武器を捨てろ」
OstrichはなおもAK12でしっかりと狙いを定めつつ、“隊長”に向かって声を掛ける。その口ぶりは、諭すと言うより挑発に近い。
( ゚∋゚)「それとも、まだ隠し球がおありかな?もしそうならどうぞ気が済むまで投入してくれ。我々は全て真っ向から、迅に処理する用意がある」
「…………解った、此方にはもう奥の手も隠し球も切り札もない。武器を捨てて投降するので部下には手を出さないでくれ。意味があるかどうかはわからないが、最悪私の命とひき替えでもいい」
「っ、ダメだよ司令官!!」
時雨に押さえ込まれたチビが叫び、意識を失っていない何人かも“隊長”の……いや、司令官の言葉を聞いて口々にロシア語で嘆きの言葉を口にし始めた。
「ダメだ司令官!貴方だけは絶対に私が守る!!お願いだからそんなことを言わないでよ!!!」
「大層な慕われぶりは感心するけど、暴れすぎると寧ろ愛しの“司令官”の寿命は短くなると思うよ」
「……ッ、чёрт!!」
(,,゚Д゚)(あれ、これ悪役俺らじゃね?)
爽やかな笑みでゲスの極みな台詞を吐く2番艦の姿はまさに冷酷な悪の組織の幹部だ。正義と人類の味方・艦娘にはどうあがいても見えない。
改めて、教育の重要性を認識する。
196:
(,,゚Д゚)「………あー、あの馬鹿はあんなこと言っているが安心してくれ。俺達は決して敵じゃない。まぁこんな状況で言っても説得力なさ過ぎだけどな」
今にも地獄からの死者を名乗る蜘蛛男辺りが飛び込んできそうな空気を緩和させるためAK47を手放しながら、俺も“司令官”に声を掛ける。
元々、相手の正体が読めた時点で厳密には“敵”じゃないことは解っていた。上手く言いくるめる方法が思い付かず肉体言語で“説得”することになったのは反省材料だが、あの場で最優先すべきは熟慮ではなく一刻も早い状況の打開だったのでまぁ勘弁願おう。
(,,゚Д゚)「下手に話し合いを試みて拗れるよりはと実力行使を選んだが、この通り死者も重傷者も1人も出していない。俺達の敵はあくまで深海棲艦や………後は有り得ないと思いたいが、奴等に与する、利する存在だ。
一つだけ聞く、あんたはどっち側だ?」
「人間側だ」
“司令官”はそう言って、マスクを取り外すとそれを脇に投げ捨てた。
( ̄⊥ ̄)「私の名はファルロ。ファルロ=ボヤンリツェフ。
このムルマンスク鎮守府の、提督だ」
199:
他人の容姿をとやかくいう趣味はないが、ファルロと名乗ったその男は言ってしまえば醜男にカテゴリーされる外観の持ち主だった。
背はそこそこに高いがOstrichや周りで転がっているこいつの部下のように筋肉質ではなく、寧ろ少しやせ気味。少し上を向いた鼻の筋や目元に西洋人特有の掘りの深さがなく、顔全体が少しのっぺりとしている。
鼻孔と眼は細く、口も気むずかしげに結ばれているため顔のパーツ全体が定規で引いた線のような印象を受ける。声を聞く限り年齢は若いのだが、荒れた肌や口元に刻まれた皺は寧ろ老人のそれだ。
一言に纏めるなら猿と蛇を足して二で割ったような顔立ちとでも言おうか、少なくとも夜の街で呼び込みをかける娼婦達が取り合うような男振りではないだろう。
一方で部下からの人望は厚いようで、例のチビを筆頭に意識がある全員が何とか倉庫の中心でホールドアップする自分たちの上官殿を助けられないかと今なお全神経を集中させて機を伺っている。
“ただしイケメンに限る”の法則はどうもこの男には当てはまらないらしい。危機的な状況下でなお指揮下の全員がコイツの身を第1に考える辺り、大した慕われようだと素直な感心が沸いた。
しかし、“提督”ねぇ。
(,,゚Д゚)「………やっぱりヴェールヌイか、お前」
最初に銃を突きつけられた時点でほぼ当たりはつけていたが、答え合わせの意味合いもかねて改めて問いかける。
「だったらなんだい?」
チビ────ロシア海軍艦娘・Верныйは、時雨に踏み付けられ動けない状態にもかかわらず気丈に俺の視線を正面から受け止め見返してきた。
「言っておくけど、私たちの司令官に手を出そうものなら絶対に許さない。例え轟沈することになってもお前達全員を道連れにする」
(,,゚Д゚)「……こりゃまた大層な忠臣ぶりだ。ハリウッド映画化も近いな」
少しだけ茶々をいれつつも、俺は時雨達全員に見えるようハンドサインを出した。銃口は向けられたままだが、Верныйを始め全員の拘束が解かれていく。
201:
( ̄⊥ ̄)「話はまだ始まったばかりなのにあっさりと解放してくれるんだな」
(,,゚Д゚)「このまま無理やりあんたんとこの忠犬共を抑え付け続けた方が誤解が起きる可能性が高まるからな」
そう言ってあえて気軽げに肩を竦めて見せ、俺もまたファルロに向けていたAK47の銃口を下げる。
(,,゚Д゚)「一斉に暴れられた挙げ句こっちにまで損害が出たらそれこそ溜まったもんじゃない。こっちは銃をまだ持っているわけだから拘束解いたぐらいじゃお宅らより有利なのは変わらないしな」
それに、ファルロ側の人員は未だ1/3以上の人数が気絶した状態で使い物にはならない。人数としては2倍以上こちらが上回っていて、おまけに艦娘戦力も1vs2。
向こうには銃火器もまだ持たせていないため、万一暴れ出したとしても制圧は手早く終わらせられる。ファルロの方もそれは解っているのだろう、未だ敵意燻る部下達に鋭い視線で“動くな”と制止を加えていた。
(,,゚Д゚)「それに、さっきの繰り返しだが俺にとってあんたらは敵じゃないしあんたらにとっての俺達もその筈だ。“信頼”しろなんて贅沢は言わないが、“信用”はひとまずしてくれると助かる」
( ̄⊥ ̄)「解った、君達を“信用”する。どのみち我々に選択肢はないしな」
(,,゚Д゚)「ありがとさん。さて、時間がねえから手短に情報交換と行こうか提督殿。
先に一応の確認だが、あんたの所属と階級を頼む」
( ̄⊥ ̄)「ファルロ=ボヤンリツェフ。ロシア連邦海軍北方海軍所属、階級は少佐。
2013年からムルマンスク鎮守府の提督を拝命し防衛指揮の任に着いている。ここにいるВерныйを含め13名は全員私の部下だ」
(,,゚Д゚)「現状、あんたが指揮できるのはこの13人だけか?」
( ̄⊥ ̄)「基地内にいる戦力はこれだけだ。連絡が途絶えた市外への伝令のために、敵側の武装勢力に変装した一部隊が隙を突いて外に出たが………未だに、返って来る気配がない」
思い出すのは空挺完了直後、辺りで聞こえてきた「港湾施設付近」での謎の武装集団と深海棲艦との戦闘発生の報告。
敵の動きに対する違和感を覚えて以降もこの報告については結論を出せないでいたが、これで合点がいった。中身が違うだけで実際は正規軍だったということなら、深海棲艦側に襲われていたとしてもなんの不思議もない。
202:
(,,゚Д゚)「俺たちは“海軍”所属の部隊だ。一応自己紹介すると俺はヨシフル=ネコヤマ、階級は少尉。
慣れないもんでな、少尉風情がロシア連邦海軍少佐にこの言葉遣いという点は軍の違いということで妥協してくれ」
( ̄⊥ ̄)「気にしないさ、状況が状況だしな」
(,,゚Д゚)「物わかりのいい上司だね、こいつらが羨ましい。
で、あんたは“海軍”の存在については?」
( ̄⊥ ̄)「よく存じ上げているさ。なにせВерныйが元“海軍”所属の艦娘だ」
時雨、江風、Верныйの肩が巡にぴくりと震える。時雨と江風は少し驚いた様子で眼を見開きながらВерныйを見、見つめられた側はやや剣呑な目付きでチッと舌を小さく鳴らした。
( ̄⊥ ̄)「日本とアメリカを主力とし、色々と複雑な経緯を経て編成された“世界最強”の軍隊。その一方、徹底的な選抜が原因となり非常に精強な戦力を持つ一方で稼働できる戦力が少なく時期によってはワ○ミ並に厳しくなることもある労働体系が玉に瑕……こんなところか」
(,,゚Д゚)「よくご存じで………待ってなんでワ○ミ知ってるの?」
( ̄⊥ ̄)「寧ろ日本人なのに知らなかったのか?何年か前、夜間空襲警報が鳴っているのに香港のワ○ミが通常通り営業していた光景がSNSで拡散され一時世界的な話題になったんだぞ?」
(,,゚Д゚)「えぇ……」
( ̄⊥ ̄)「今やあの企業名は世界共通語に近いな」
(,,゚Д゚)「えぇぇ………」
日本の恥部が世界に露見してしまった………イヤ待て待て待て話が逸れた。
203:
(,,;゚Д゚)「ゴホンッ……ムルマンスク制圧に携わった、あの五流イスラム共の規模は?」
( ̄⊥ ̄)「正確なところは全く把握していない、なにせ気がついたら基地・鎮守府の機能ほぼ全てと市街地の大半が敵の手に落ちていたからな。
ただ、最序盤に交戦した限りでは大きな規模ではなかったはずだ。推測するに200から300程度かな?」
(,,゚Д゚)「ならイスラム共はもうこっちでほぼ殲滅した。次、民間人の暴動、並びにこの基地占拠への参加率は?」
(; ̄⊥ ̄)「…………イスラム共以上に、規模は解らん。ただ、推測だがムルマンスク市に住まうほぼ全員が参加しているのではとは思う」
「私達が市街地を経由して最初に脱出を計ったとき、既に鎮守府はムルマンスク市民多数に包囲されていた」
やや顔色が青くなったファルロの答えを、Верныйが補足する。
冷静な言葉遣いに勤めているが、コイツの表情も俺達の存在を差し引いてなお暗い。
「そのせいで脱出が出来なかったんだけど、まずあの人数は幾ら何でも常軌を逸している。何万人いたやら、一瞬で数える気が失せるレベルだったのは確かだよ。
………それで、印象に残ったのが街並みだ」
すうっと、Верныйの覆面の隙間から見える眼光が細められた。
「あれだけの規模、あれだけの人数がテロリスト集団まで引き込んで暴徒として押し寄せてきたって言うのに、少なくとも“あの段階での”ムルマンスクは街並みに煙り一つ上がっちゃいなかった。
百万歩譲って抵抗した市民や市警が一人として存在しなかったとしても、あんなに街並みが綺麗なのは幾ら何でも不自然すぎる」
(,,゚Д゚)「ってことは、ムルマンスクのほぼ全市民が敵であるという認識で間違いないか?」
「正直、“ほぼ”はいらないかもね」
204:
厄介な報せではあるが、“ムルマンスクが相当規模の市民暴動によって機能停止した”というのは既に大本営から降りていた情報。その中には全市民が暴動(というよりは武装蜂起)に参加している可能性も示唆されていたし、ロマさんは実際市を上げての武装蜂起だと前提して作戦を立てていた。
要は元々予測されていた規模にほんの少しの上積みがあったに過ぎない。
………ただ、次が「本題」であり「問題」だ。
(,,゚Д゚)「答えにくい問いかも知れんが………ここからは、絶対に隠し立て無しで答えてくれ。
この武装蜂起に、ムルマンスクの」
( ̄⊥ ̄)「ムルマンスク海軍基地並びに鎮守府防衛の任に着いていた当時の駐屯兵力、その90%近くが今回の武装蜂起に関与している」
即答。
( ̄⊥ ̄)「いや、“関与している”等という生易しい表現ではないな。イスラム武装組織の基地侵入の手引き、市民への武器配布、ムルマンスク市警との連携、周辺鎮守府、軍拠点間の連携の寸断、これらは全て、ムルマンスク守備隊が“主導”したものだ」
淡々と情報を述べる声に、感情はこもっていない。台詞の起伏、抑揚もほぼ見られず、まるで電話の音声案内のように血の通わない機械的な“報告”だった。
………ただそれは、俺には感情を実際に無くした結果ではないように思えた。嫌悪や怒り、困惑、悲哀、驚愕等の感情が一気に噴出した結果、表に出す感情として脳が“無”を選んだ、そんな響きの声。
( ̄⊥ ̄)「断言しよう。今回の武装蜂起、中核戦力並びに首謀者は部下や同僚達、ムルマンスク残存守備隊およそ700名によるものだ」
そしてその「声」によって語られた内容は、俺たちにとっても十分すぎるほど最悪な内容だった。
( ̄⊥ ̄)「我がロシア連邦海軍の新実装艦娘ガングート、並びに最新鋭フリゲート艦アドミラル・ゴルシコフ級、その他基地・鎮守府に配備されているあらゆる設備、機能、兵装は“元”守備隊の制圧下にある」
(,,;-Д-)「…………」
最悪を徹底的に塗り替えていくファルロの言葉。あまりの内容に激しい頭痛が訪れ、ぐらりと視界が歪む。
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