【艦これ】特技研映像資料「艦娘建造」back

【艦これ】特技研映像資料「艦娘建造」


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艦これssです。
if戦史、独自設定、独自解釈に基づきます。(一部、参考もと有)
途中まで書き溜めあります。
ちょこちょこ投下します。
夕張改二が実装されたら提督復帰します。
2: 以下、
ーー特技研資料0032-イ(映)
>艦娘の建造にかかる基本事項
>記録対象 艦娘 駆201-3/102-3 [時雨]-001
記録者 特技研-艦人研 ミナトアカリ特務大尉
>本資料の持ち出しを禁ずる
再生は、技研内 認14から認28で行うこと
>検閲-済
但し要修正 修正箇所については別紙参照
期限-有 / **18年9月12日 迄
<再生>
----------------------------------------------------------------------------
3: 以下、
***
『ーー特技研映像資料、0032。本映像では、艦娘建造の基本的な事項について説明します。私は、佐世保鎮守府付設特殊科学兵装技術研究機関 艦体人殻研究室所属 ミナト特務大尉です。』
『本機関、通称「特技研」では、かねてより艦娘の建造を行ってきました。初期の頃の建造は技術や手法が今ほど確立されておらず、お世辞にも質の良いものとは言えませんでしたが、現在は多くの研究員の努力により、安定した艦娘建造を行うことが可能となっています。本資料では、我が国の守護者たる艦娘がいかにして産み出されていくのか、その過程を説明したいと思います。』
ーーー
私は、旧特技研の内部にある"特別資料閲覧認可室-18号"にて、映像資料を再生している。この資料は作成後に映像内容の検閲が行われ、いくつかの修正箇所が指摘されたものの、修正が完了しない内に戦争が終わったためお蔵入りとなったものだ。
4: 以下、
「戦争が終わった」
それを実感できている軍人が、果たしてどれほどいるのだろうか。私とて、それを実感できているとは言い難い。それこそ、こういった戦時中の資料に触れる度、未だ耳元であの砲撃の轟きが耳鳴りとともに蘇ってくるように感じる。
戦後、2年経った。2年という時間は、あまりに長く、そしてあまりに短かった。決戦の後、政治家たちと軍上層部は戦後処理に奔走せざるを得ず、それに伴い軍属だった私たちにも、戦争の遺物を処理する仕事が回ってくるようになった。この映像資料を再生しているのも、まさにその戦後処理の一端である。
映像は、恐らく工厰内と思われる金属の壁に囲まれた空間を映し出している。音声にはかすかに、金属を叩く音のようなものや、機械の駆動音のようなものも入っている。
ーーー
『ここは、特技研の主要部から少し離れた、特別工厰にあたります。ここでは、主に艦娘とそれらに装備する艤装の建造を行っています。艤装の建造や調整などに関しては、別資料にて触れることとして、ーーあっ、あそこに見えるのが、この度、建造予定である"駆201-3"の魂舶源体になります。』
5: 以下、
映像は、工厰の奥にあるドックのように見える箇所に近づいていく。そこには、何本もの鎖で吊るされる様にして支えられた金属塊があった。
『近くで見てみます。これは…』
それは、両断された船舶の船尾側"だったもの"のようだった。全体が錆び付き、沢山のフジツボや海藻などが貼り付いている。きっと少し前まで、ずっと海の底にあったのだろう。
『保存状態としては、そこそこ良い方ではないでしょうか。これなら、戦いの記憶もかなり保持できているでしょう。源体としての質量も申し分ないですね。では、魂舶と魂舶源体について簡単に説明します。』
ーーー
魂舶源体。戦後の今では、忌まわしき戦争の遺産であり、戦争のきっかけになったとさえ言われる不可思議な技術の結晶だ。私からしてみれば、それは最早オカルトの域にある。しかし、戦時中には、国の守護者たる艦娘を偶然にも作り出すことができたのだから、それは大層有り難がられたのだろう。それがどういった過程によるものなのかは軽視され、結果だけが重宝される。戦争とは、その最たるものだ。
私は、この映像が撮影された戦争前期から中期頃には、魂舶源体がどのように解釈されていたのか気になり、映像に注視した。
ーーー
6: 以下、
『魂舶は、イシダ博士が発見した特殊技術により抽出される、霊的エネルギーの結晶体です。魂舶とはすなわち、物体に宿る魂であり、物体とは基本的にかつての戦争で活躍した兵器群を指します。魂舶に''舟’’の文字が入っているのは、魂舶を最初に抽出することができたのが、軍艦であったことに由来します。そしてこの魂舶を抽出する源となるのが、魂舶源体です。基本的には先程のような轟沈した船舶や、大破した戦車、戦闘機などが用いられます。その保存状態や質量によって、抽出される魂舶に含まれる情報量が変化します。』
この説明を聞き、私は少し可笑しくなった。まさか軍の公式資料の中で「霊的エネルギー」なんて表現をこうも当たり前のように使うとは思わなかった。それだけでも、当時の状況が伺い知れるようだ。そんな表現をおかしく思わないほど、世界は狂っていたのだ。
『魂舶源体から魂舶を抽出する過程については、極秘事項なので本映像資料では省略させていただきます。そちらは、上位機密資料を参照ください。さて、抽出された魂舶ですが、艦娘の素体となる艦体人殻の脳内に転写されます。それにより、艦体人殻はその艦の魂と戦いの記憶を持つ艦娘になるのです。これからその艦体人殻の研究棟へ移りたいと思います。』
ーーー
7: 以下、
ここで映像は暗転した。次のチャプターに移るようだ。魂舶…そんな訳の分からないものを有り難がり、あろうことかそれを…血と鉄と痛み、そして死と敗北の記憶を少女の脳に焼き付ける…なんて残酷なことをしていたものだろう。しかし恐ろしいのは、その残酷さに誰ひとり気が付かなかったことだ。
鋼鉄の屍を暴き、その魂を目覚めさせ、再び死地へと赴かせる…少女たちを生け贄にして。それにより平和が得られたとしても、果たしてそこに幸福を見出だして良いものか。
私は、かつての戦友たちに頭の中でそう問いかけた。
8: 以下、
次に映し出されたのは、病院のような、白い壁に囲まれた空間だった。この空間が映し出された瞬間、私は胸の奥がズキンと痛むのを感じ、この映像を見るよう指示した上官を少しだけ恨んだ。
ーーー
『ここが、艦体人殻の研究棟の入り口です。研究棟の規模は、鎮守府に併設された軍病院の地下5階層に渡ります。全てをお見せすることはできませんが、出来る限りの施設紹介はさせていただきたいと思います。』
『その前に、艦体人殻について簡単にご説明します。艦体人殻はもともと"人殻"という新技術として研究が進められていたものです。戦争開始前、世界に開戦の兆しが表れて間もない頃から、【戦争において、人間はひとつの戦闘単位になりうるか】という命題が盛んに議論されていました。人間は、武器を持ったり、戦車や戦闘機、艦船を扱うことで"兵力"へ換算することができますが、逆に言えば、人間からそれらを奪ってしまえば、人間それ自体は兵力にならず、むしろ無駄に食糧を消費するだけの存在となってしまいます。そこで我が国では、人間そのものを兵器とする計画が立案され、それにより開発されたのが人殻ということになります。』
これが、当時の価値観だった。戦力になるか否か。それだけの基準で人も、物も、愛や憎しみといった想いすらも分かたれていた。
人殻…その特徴は誰より自分がよく知っている。むしろ、私はそれしか知らないのだ。普通の人間が感じる痛みを、わたしは知らない…。
私はじっと自らの掌を見つめ、そして強く握った。この身体は私のものだ…。たとえ弾丸を受けても殆ど傷つかず、化け物のようだと罵られようとも…
9: 以下、
映像では、人殻の特徴がつらつらと述べられ続けている。
ーーー
『ーーつまり、外観としては人間そのものでありながら、その実態はまさに兵器として成立しているのです。骨や内臓、筋肉をはじめとしたあらゆるものを人工の、頑強でしなやかで、そして替えの効くものにすることで、兵器はおろか人間を治すよりも修繕の難度は格段に下がっています。開発当初は、人殻の運用方法について明確に方針が決まっていませんでしたが、魂舶の技術が確立されたことにより、魂の依代としての 艦体人殻 へ昇華されたと言えます。』
映像は、研究棟の中を進む。見覚えのある場所だった。あぁ、この先はあまり見たくない…そう思いつつも、仕事で見ている以上は覚悟を決めるしかない。
『さて、…ここはーーあら、***ちゃん、こんにちは』
画面に向かって歩いてくる少女に、撮影者が挨拶をしている。少女は顔をあげ、にっこりと微笑みながら『こんにちは!』と挨拶を返していた。白髪に近い薄い金の長髪に、細い紐のリボンを登頂部で結んでいる。瞳は、美しいグリーン…。私は彼女の姿を見て懐かしくなった。この頃は、語尾につくあの珍妙な口癖も無かったのかと気付き、少しだけ可笑しかった。
10: 以下、
画面内では撮影者と少女が楽しそうにやり取りしていた。
『今日は、手術はおやすみ?』
『そうなの。だから、***ちゃんのところに、遊びに行こうかなって思って!』
『あら、そうだったの。***ちゃんは、イ区画だったものね。気を付けて行ってらっしゃい。走っちゃダメよ』
『はーい』
画面から少女が消え、撮影者は再び歩き始める。恐らく名前を言ったであろう箇所の音声は、消されていた。
『彼女も、艦体人殻のひとりです。現在は殆どの手術と大変なリハビリを終え、最終調整と魂舶転写、そして"条件付け"を待つばかりです。あのようなあどけない少女の見た目をしていながら、彼女がその気になれば私など簡単に肉塊できるほどの力をすでに持っています。』
ーーー
"条件付け"…映像の撮影者が何気なく出したこの単語に、私はゾッと寒気がした。この先、きっと"条件付け"の解説もあるだろうと思うと、気が重くなった。
魂舶の転写も、肉体の改造も、たしかに恐ろしい技術だと思う。ひとりの人間を…それも少女だけを鋼鉄の亡念を宿す怪物にする、悪魔の技術だ。しかし、"条件付け"は違う。少女の最も弱く、最も人間的な要素を巧みに操作する…とても簡単で、それでいて罪深い。太古より人間が大切にしてきたものを利用する、何者でもない、人間の技術。
この"条件付け"のせいで、わたしは何人もの仲間を失った。
腹立たしいのは、この"条件付け"のせいで没した彼女らが、他のなにものでもない"条件付け"のお陰で、悔いなく散っていったという矛盾に満ちた事実。そしてその事実を自分自身が無意識に納得してしまっていることだ。
これを受け入れていては、わたしはいつまでも人間になんてなれないというのに…。
11: 以下、
映像は、ある病室の扉をノックし、中へ入っていく。大きな病室だった。左右の壁に沿って均等に4つずつのベッドが並んでいる。その全てに、何本ものよく分からない管を身体中に入れられ、何らかの液体を点滴されている少女が座っていた。その外見はまちまちで、共通点と言えばみな悲しい顔をしていることだけだった。
ーーー
『調子はどう?***ちゃん』
『…。』
撮影者は、艶のある黒髪の少女が横たわるベッドに近づき、声をかけた。黒髪の少女は黙してただ睨み付けるだけだった。
『そんなに睨まないで。明日は、大事な手術の日っていうのは伝えたよね。私もその手術に参加するから、挨拶にきたの。』
『…そんなの、いらない。どうせ手術が終わったら、私という人間はいなくなるんだ。そうだろ? …あぁそうか、挨拶って別れの挨拶か?ならしてやる。さ、よ、う、な、ら』
少女はせき立てるように、撮影者に言い放った。撮影者は困ったように溜め息をついて、
『もう…あなたは明日、名誉ある艦娘のひとりに加わるのよ?それなのに…』
『そんなの誰も頼んでないだろ!出ていけ!』
彼女の叫びを受け、映像は病室をあとにした。撮影者は再び溜め息をつきながら、
『あのように、調整の済んでいない艦体人殻には反抗的な者もいます。彼女の言う通り、全ての艦娘が志願してなるものではありませんので…。しかし、最終調整と"条件付け"さえ済めば、彼女も立派な海の戦士へと生まれ変わることができるのです。これは最早、神の技術と言っても差し支えありませんね。』
12: 以下、
ーーー
私は映像の中の彼女の姿を見て、胸が苦しくなった。本当のあなたは、こんなにも真っ直ぐだったのか…。だからこそ、あれほど従順に作り替えられてしまったのだろうか…。
神の技術などと、笑わせる…彼女の死に様を見てもなお、そんなことを言えるやつがいるならば、そいつは本物の悪魔だろう…。
私は、押し寄せる記憶の波に抗うことをやめ、しばし身を任せることにした。映像を一時停止し、目を閉じる。あの日…彼女と最後に言葉を交わしたあの戦いーー。
13: 以下、
***
流れ出た燃料に火がついて、あたりの海は炎に包まれていた。四方から砲撃音や爆発音が絶えず聞こえてくる。最悪の状況だった。
「時雨!」私は叫ぶ。
「僕は大丈夫さ。それより、五月雨を早く!」
「けど…けど!」
「大切な人達を僕は守れなかった。けど、だからこそ、みんなには…!そして…提督だけは!」
「違う!それはあなた自身の記憶じゃない!その想いも…!それは…!」
「いいんだ、わかってる…でも僕の中にある以上、僕自身の想いでもある筈だ。それにほら…彼女が来た。彼女と決着を着けたい気持ちは、紛れなく僕のものさ…だから、行くんだ、夕張!」
彼女の見つめる先、炎が蠢く海上に、赤い瞳の狂犬が佇んでいる。
「裏切り者は、ここで始末するっぽい」
「ここは譲れない…!」
彼女らの戦いは熾烈だった。私は、巻き込まれないよう必死に逃げることしかできなかった。傍らに、意識を失った五月雨ちゃんを連れて。逃げて逃げて、気付いたときには、戦いの音は止んでいた。それでも私は、恐ろしくて近付けなかった。後日、潜水艦に連れられて帰って来た彼女の亡骸は…
***
14: 以下、
私は、自分の流した涙の感触で現実に引き戻された。あのときのことは、一生忘れられないだろう。いつか誰かに語る日が来るのだろうか…。
私たちが深海棲艦ではなく、艦娘と戦っていたあの日々を…
私は深呼吸をして、無理 矢理気持ちを入れ換えた。仕事に戻ろう。今できるのはそれだけだ。
私は再び映像を再生した。
映像には【翌日】のテロップが入っている。場所は相変わらず白い壁に囲まれているが、病院というより研究所という雰囲気だった。正面に大きな窓があり、その向こうに広い部屋。その中央に大きなベッドがあり、先程の黒髪の少女が横たわっていた。少女の頭には何本ものコードが繋がっており、点滴も2本刺されている。少女は眠っているようだ。
一方、窓のこちら側には何台ものパソコンが並んでおり、白装束の怪しげな集団がキーボードを叩いてる。
ーーー
15: 以下、
『さて、これから艦体人殻-駆201-3の最終調整及び魂舶転写並びに"条件付け"を行います。彼女は現在、点滴により深い眠りについています。頭に複数の配線が接続されているのが見えるでしょうか。あの配線を通して、こちらの端末から彼女の脳に直接さまざまな働きかけをすることができます。』
『開始してよろしいでしょうか』
『お願いします』
『駆201-3、最終調整を開始。接続状態確認…』
映像の中では、何らかの作業が始まったようだった。カタカタと無機質なキーボードの音が響く。
『まずこれから行う、艦体人殻の最終調整について解説します。艦娘の素体となる艦体人殻は、元はなんの変哲もない普通の少女達です。そんな少女達の肉体を、あらゆる戦闘に耐えうる半不死の強靭なものに作り替えるのが人殻化手術ですが、それだけでは鋼の躯をもつ少女が生まれるだけです。それだけでは不十分なのです。彼女らは普通の人間ですから、色々なことを想い、考え、自らの意思で行動ができます。しかしそれでは兵器として成り立ちません。純粋に、私情無く命令にのみ従ってこそ兵器として価値があるのです。そこで、最終調整の作業により彼女らの記憶を消去します。と言っても、丸っきり赤ん坊になるまで全ての記憶を消してしまっては意味がありませんので、ここでは彼女らの人格や思想に関わる記憶のみを完全に消去します。むろん、家族や友人のことも全て…。それにより彼女らは孤立したひとつの兵器として成立しうるのです。』
そう、艦娘には本来、家族がいる…家族だけではない。友人もいたはずだし、元の名前もあった。私という人間が確かにこの身体には存在した筈だ。しかし、それを思い出すことはもうない。私という人間がなぜ艦娘になったのか。艦娘になる以前は、どんなことが好きで、どんなことをして、どんなことを考えていたのか…それを知る術ももう、ない。
あの手術の日から私は【夕張】になったのだから…
16: 以下、
『最終調整そのものは、そう難しい作業ではありません。じき、作業も終わるでしょう。問題は次の魂舶転写です。この作業では、すでに説明した通り、魂舶を艦体人殻の脳に転写するのですが…魂舶が持つ情報量は膨大な上、かなりのエネルギーを有します。まぁ、何人もの兵とともに激戦を繰り広げ、最後に轟沈した軍艦の魂ですから無理もありませんが…やはり脳への負担が大きくなります。そのため、脳が壊れてしまわないよう、細心の注意が必要になります。』
『最終調整、終了しました。続けて、魂舶転写に移行します。よろしいですか?』
『許可します。やってください』
『了解。では、手始めに階層1から3までいくぞ』
白装束の男達が何やら手元の端末を操作すると、途端に窓の向こうの彼女の身体が大きく跳ねた。よく見ると手足や胴体に拘束帯が付けられ、ベッドから落ちないようにされている。しかしその拘束帯を破壊しかねない勢いで身体が痙攣し、暴れている。
『うぅぅぅぅ!!あああああ!!』
窓の向こうで、彼女は泣き叫んでいる。目を見開き、顔は涙と涎で酷いことになっている。
私は見ていられなかった。吐き気がした。
『よし、階層3までは問題ないな…最後までいくぞ』
再び男達が端末を操作する。それにあわせて彼女の身体も痙攣する。獣のような雄叫びをあげ、泣き叫んでいた。その壮絶さに、思わず私は目を伏せた。映像から聞こえてくる彼女の絶叫は数分続き、そして静かになった。再び目をあげると、映像の中の彼女はぐしゃぐしゃになった顔のまま、ただか細く、
『……守れなかった…みんな……ごめんなさい……ごめんなさい……』
うわ言のようにそう呟いていた。
17: 以下、
私は、彼女のその様子を見て、先程までの彼女は消え、【時雨】が宿ったことを悟った。ひとりの人間が艦娘になった瞬間を…兵器になった瞬間を見たのだ。
気分は最悪だった。そんな最悪な気分を嘲笑うかのように、画面からは、
『よかった。上手くいきましたね、素晴らしい』
そんな能天気な言葉が聞こえて来るのだった。
ーーー
『これで、先程の彼女…艦体人殻 駆201-3は晴れて【時雨】に生まれ変わりました。記念すべき、ひとり目の【時雨】です。彼女への魂舶転写のデータをベースとして【時雨】建造の基本プログラムを作成し、今後は適合する艦体人殻をやかに第二、第三の【時雨】として"建造"できるでしょう。魂舶は基本的に何度でも転写できますから、今後も艦体人殻さえあれば、【時雨】の量産が可能となります。また、管理上の都合で統一性を持たせる必要があるため、今後建造される【時雨】の外観はこの最初の【時雨】と同一のものになります。』
映像の中では白装束の男が二人、窓の向こうの部屋に入り【時雨】の拘束帯を外していた。彼女の顔を拭き、ベッドから担架に移して奥の部屋へ消えていった。
『このまま条件付けに入りたいところですが、それだと情報を脳が処理しきれないので、数時間彼女を休ませます。映像もそのときまた撮影したいと思います。』
映像は暗転した。次のチャプターに移るようだ。
私は再び映像を一時停止し、ふらつく足で部屋から出た。とにかく、コーヒーを飲みたかった…。
ーーー
20: 以下、
ーーー
私は、旧特技研のロビーで自販機のコーヒーを一杯飲んだ。いつからか、ストレスを感じたときにはコーヒーを飲むのが習慣になっていた。理由はよくわかっている。あの人がそうだったからだ。
憧れの人の習慣を真似しているうちに、自分の習慣になる…それだけ聞くとなんだか青臭い話だが、その憧れの感情すらも人工物だと考えると、乾いた笑いが出るだけだった。
私は覚悟を決め、カップをぐしゃりと握りつぶしゴミ箱へ放り込んだ。続きを見なくては。私は重い足取りで、再び"特別資料閲覧認可室-18号"へ向かった。
映像を再生すると、また【翌日】のテロップが表示されていた。場所は先程と同じ、大きな窓で隔たれた部屋だった。相変わらず少女はベッドに横たわっており、点滴と、頭には数本の管が刺さっていた。
ーーー
『思いの外、魂舶の定着に時間がかかったため、翌日の作業となります。これから艦娘建造の仕上げとなる"条件付け"を行います。"条件付け"は、最も重要な工程と言っても差し支えないでしょう。』
映像は、窓の向こうの彼女を捉える。今回は拘束帯がついていない。
『"条件付け"では再び彼女の脳に直接働きかけ、ちょっとした情報操作を行います。それは、彼女がこれから配属され、忠誠を誓うべき上官…今回の場合はある鎮守府の提督に当たりますが、その人物に対する特別な感情を植え付けるのです。それは、未だうまく言語化されていないとても曖昧なものではありますが、敢えて言うならば《親に対する絶対的な信頼》と《世界で最も大切な人への愛情》、そして《崇拝に近い憧れ》の3つに近いと言われています。この3つの感情を艦娘の脳の奥深くに刻み込むことで、単なる兵士では及ぶべくもない、絶対的な忠誠心を生じさせることができるのです。』
21: 以下、
私は思わず画面を叩き割ってしまいそうだった。"条件付け"。この忌々しい感情操作のせいで、何人もの艦娘が思考を放棄し…あるいは真実を悟っていながらも、『提督のために』という言葉とともに苦しみながら戦っていたのだ。私を含めて…。
艦娘はみな、最後には自分の提督が掲げる正義や大義にすがるしかなかった。
結局、私たちは本当の正義や大義とは程遠いところで、ただ使役され、もがいていただけに過ぎないというのに…。
ーーー
いつの間にか映像は、場面が変わっていた。先程の窓の部屋ではなく、少し広い個室の病室のような場所が映し出されていた。正面のベッドには建造されたばかりの【時雨】が虚ろな目で横になっていた。
『これから、建造された彼女の最終確認をして、この映像資料を終えたいと思います。最終確認の方法は簡単です。いくつかの質問をして、正しく応えられれば合格。そうでなければ解体処分になります。』
そういって、映像の撮影者は彼女にいくつか質問を始めた。
『あなたの名前は?』
『僕は…白露型駆逐艦…二番艦の時雨』
『あなたの最期を教えて』
『…1945年、1月24日…マレー半島で雷撃を…』
『あなたの最も大切な人は、誰?』
『それは…横須賀鎮守府所属 ***提督です。』
答えながら、彼女は涙を流していた。それが、時雨の涙なのか、それとも【時雨】になってしまった彼女の別れの涙だったのか、それを知ることはもうできない。
『よろしい、合格ですね。これで【時雨】の建造は完了です。彼女がいわゆる"最初の時雨"として、これから建造される【時雨】のプロトタイプとなります。今後はいくつかの微調整と艤装の開発に取り組むこととなりますが、それについては別資料に分けたいと思います。ご視聴ありがとうございました。』
22: 以下、
<停止>
***
こうして、映像は終わった。
私は言い表せない、苦々しい感情に沈んでいた。
この"最初の時雨"はこのあと紆余曲折あり、最終的に私のいた鎮守府に来て、それなりの期間を共に戦うことになった。
懐かしくもあり、つい最近のようにも感じる。
「艦娘の建造」…。人を兵器に作り替える魔の研究。
その産物としての私、副産物としての「深海棲艦」たち。
あの戦争の真実は炎と共に海底に葬られ、私たちはこうした戦時中の資料にその真実の断片を探している。むろん、私を含めて一部のものは真実を知っているが、それを真実足らしめる証拠が必要なのだ。政府にも、軍にも、民衆にも、そして私たちにも…
私は端末から映像ディスクを取りだし、ケースに入れて【鎮守府行】の箱にいれた。
確かに戦争は終わった。しかし、戦いの中にいた者には、戦いの後も当時の記憶と責任がつきまとう。
いつか私が【夕張】の名を捨て、ひとりの少女として生きられる日が来たならば、その日こそが私にとっての終戦日になるだろう。
そんな日がくる予定は、今のところないが…。
ポケットの中で携帯端末がなる。ディスプレイに映し出された文字を見て私は溜め息をつく。
私の終戦日は、当分先らしい。
おわり
(つづく?)
23: 以下、
終わりです。
妄想の垂れ流しですが、読んでいただいた方、ありがとうございました。
24: 以下、

元スレ
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ミサカ「俺らのこと見分けつく奴なんていんの?」蒼の伝道師によるドタバタラブコメディ
一方通行「あァ!? 意味分からねェことほざいてンじゃねェ!!」黄泉川ァアアアアアアアアアア!!
さやか「さやかちゃんイージーモード」オナ禁中のリビドーで書かれた傑作
まどかパパ「百合少女はいいものだ……」君の心は百合ントロピーを凌駕した!
澪「徘徊後ティータイム」静かな夜の雰囲気が癖になるよね
とある暗部の軽音少女(バンドガールズ)【禁書×けいおん!】舞台は禁書、主役は放課後ティータイム
ルカ子「きょ、凶真さん……白いおしっこが出たんです」岡部「」これは無理だろ(抗う事が)
岡部「フゥーハッハッハッハ!」 しんのすけ「わっはっはっはっは!」ゲェーッハッハッハッハ!
紅莉栖「とある助手の1日ヽ(*゚д゚)ノ 」全編AAで構成。か、可愛い……
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
遊星「またD-ホイールでオナニーしてしまった」……サティスファクション!!
遊星「どんなカードにも使い方はあるんだ」龍亞「本当に?」パワーカードだけがデュエルじゃないさ
ヲタ「初音ミクを嫁にしてみた」ただでさえ天使のミクが感情という翼を
アカギ「ククク・・・残念、きあいパンチだ」小僧・・・!
クラウド「……臭かったんだ」ライトニングさんのことかああああ!!
ハーマイオニー「大理石で柔道はマジやばい」ビターンビターン!wwwww
僧侶「ひのきのぼう……?」話題作
勇者「旅の間の性欲処理ってどうしたらいいんだろ……」いつまでも 使える 読めるSS
肛門「あの子だけずるい・・・・・・・・・・」まさにVIPの天才って感じだった
男「男同士の語らいでもしようじゃないか」女「何故私とするのだ」壁ドンが木霊するSS
ゾンビ「おおおおお・・・お?あれ?アレ?人間いなくね?」読み返したくなるほどの良作
犬「やべえwwwwwwなにあいつwwww」ライオン「……」面白いしかっこいいし可愛いし!
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