【前編】高3の時に起きた夏の一週間の出来事を聞いてくれback

【前編】高3の時に起きた夏の一週間の出来事を聞いてくれ


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1:
俺が高3だった頃に起きた夏の一週間のこと、良かったら聞いてくれ。
ちょうど先週、高校のクラス会があってさ、色々思い出したんだ。
付き合ってくれたら嬉しい。
3:
俺の高校は、夏になると決まって勉強合宿があった。
都内にある高校を離れて、山奥にある民宿に籠ってクラスみんなで勉強するんだ。
期間は一週間なんだけど、
一日10時間は絶対勉強しなくちゃいけないから、確かにしんどい。
だけど、それ以上に楽しみな行事でもあった。
クラスのみんなと一週間もお泊りできる行事だからね。
第二の修学旅行みたいな感じで、否応無しにテンションが上がるんだ。
5:
一週間分の大荷物を持ってこなきゃいけないから、
みんな大きなカバンにキャリーバッグを引いて来たり、それは大層な荷物になるんだ。
沢山の期待や不安を大きなバスに突っ込んで、都会にある高校から山奥を目指す。
毎年のことだったから、3年目にもなると、みんな淡々とこなしていたよなw
それでも、やっぱりワクワクしちゃう気持ちがあってさ、
民宿に向かう朝のバスは変な昂揚感があったっけ。
7:
俺の高校は、都内の外れににあるそれなりの進学校だった。
ちなみに俺のクラスは35人くらい。
文系の進学クラスとされていて、男女比は、男子1:女子1って感じだったかな?
3時間もバスに乗っていれば、目的地である民宿近辺まで来る。
途中で長いトンネルを越えるんだけど、そこで景色が一変して、
もう視界には青々とした森や畑しかなくなる。
そこで俺たちはやっと「今年も勉強合宿が始まるんだ」って実感が湧くんだ。
8:
山奥にあるちっぽけな民宿の、舗装もされてない駐車場にバスが停まって、次々と大荷物を降ろしていく。
乗務員は一人しかいないから、各自が放り出された荷物の中から自分のものを見つける。
これも毎年のことなんだが、ここで必ずトラブルが起こるんだ……
吉谷「先生ー! 俺のベースがねえんすけど!」
先生「はー? お前勉強合宿になんでベース持ってきたんだ!」
このように、誰かが必ず自分の荷物を見失うww
吉谷っていうのは軽音部のやつで、学校にいる時も四六時中ベースを担いでるようなやつだ。
9:
ふーん、ちょっと
名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/13(火) 23:28:19.78 ID:MBkufoH5.net
俺が高3だった頃に起きた夏の一週間のこと、良かったら聞いてくれ。
ちょうど先週、高校のクラス会があってさ、色々思い出したんだ。
付き合ってくれたら嬉しい。
" class="anchor" style="color:mediumblue;display: inline;text-decoration: underline;">>>1
に付き合ってみるかねぇ
10:
先生「なんでそんなもん持ってきたんだ! よく探せ」
吉谷「あーい……」
怒られて当然なのに、何故だか不服そうに返事をする。
俺「お前、なんでベースなんか持ってきたんだよ」
吉谷「だっていつも触ってないと勘が鈍るだろ」
俺「つっても俺たち受験生だぞ……」
吉谷「バカ、一週間だぞ。めっちゃなげえじゃねーか」
俺「一週間なんて、本当にあっという間だぞ」
11:
俺はまだこれから起こることを知らなかったから、
本当にあっという間の一週間だろうなと思っていた。
受験生にとっての一週間なんてあっという間で、それでいてとても大切な時間だ。
だから、この合宿でもひたすらに勉強だけしようと思っていた。
「ありましたよ! これのことですよね?」
しばらくすると、乗務員のおっさんの呼ぶ声がして、
吉谷のベースは見つかり、事なきを得た。
12:
先生「みんな準備いいか?こっちこーい」
担任の一声でクラス全員が宿の前に集まる。
そこには、これからお世話になる民宿の老夫婦が立っていた。
委員長の号令に従い、みんなで挨拶する。
この挨拶のためもあってか、初日はクラス全員が制服を着用していた。
それが済むと、一斉に部屋に向かうわけだが、ここでおかしな事に気付く。
俺「あれ、武智がいなくね?」
吉谷「あ、ほんとだ」
武智とはクラス1の落ち着きのない気分屋なんだが、
やっぱりこの挨拶の時にも姿をくらましていた。
13:
重い荷物を引きずりながら部屋に向かうと、やっぱりそこには武智がいた。
俺「お前さ、挨拶ぐらいしろよ……」
武智「えーなんかめんどくさくってさぁ」
元ラグビー部の体育会系のくせに、こういう儀礼を面倒臭がるんだ。
武智は部屋の真ん中で寝そべってくつろいでいたが、
吉谷はそんな武智を気にも留めず、荷物の整理を始めていた。
武智「でも、部屋結構広くてよくねー?」
俺「確かに去年当たった部屋より広いな」
広々とした2階の和室で、
窓からはさっき降り立った駐車場(ただの広場)が見渡せた。
14:
酉つけた方がいいんじゃね?
15:
吉谷「なあ、すぐに勉強会始まるぞ?準備しろよ」
しばらく窓から外を見てぼーっとしていると、吉谷に注意された。
俺「あ、そうだな。武智も急げよ」
武智「あーーい……」
そんなこんなで俺たちも準備を始めていると、遅れて元気が入ってきた。
吉谷「お前、おっそいなぁ……何してたん?」
元気「いやぁ、荷物が重くてさ」
16:
名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/12/13(火) 23:38:50.74 ID:DWoD00fs.net
酉つけた方がいいんじゃね?
" class="anchor" style="color:mediumblue;display: inline;text-decoration: underline;">>>14
ありがとう、そうする
元気は結構な漫画オタクで、今回も相当な漫画本をカバンに詰め込んできたようだ。
ただ、外見には気を使っているようで、オシャレな黒縁眼鏡をかけている。
俺「お前、今年も漫画なんかもってきたのか」
元気「いやいや、今年はそれにプラスして……」
元気はにやけながら、カバンからゲームキューブを取り出した。
武智「うわ! いいぞ元気ww」
俺「なつかしいww」
突然のゲーム機登場に、俺たちは一気にテンションが上がってしまう。
17:
武智「おいww元気ーwww」
テンションの上がった武智が元気にプロレス技のようなものをかけ始める。
元気「ちょwwやめろってwww」
俺もそれに乗じて「うぉーーいwww」とか言いながら変なノリを始めるw
合宿初日でテンションが上がりすぎていたんだ。
(ちなみに、このテンションは3日ともたない……)
部屋でもみくちゃになる俺たちを、半笑いで見つめながら、
「俺、先行ってるからなw」
と言い残して、吉谷は先に部屋から出ていった。
18:
大作の予感
19:
俺たちもなんとかその場のテンションを抑え込んで、勉強場へと向かう準備を進める。
武智「しかしさぁ、吉谷もあれだよなぁ」
俺「何が?」
武智「いや、真面目で頭いいけど、アイツもベースなんか持ってきちゃってw」
俺「あー、そうだね。なんだかんだ、そういうとこあるよねw」
武智「むかつく時もあるけど、俺は好きだわw アイツのそういうところ」
俺も部屋の片隅に置かれた吉谷のベースを見つめて
「そうだな」って軽くつぶやいた。
20:
こういうテンションは分かるわww
意味もなく暴れたりはしゃいだり、あの頃は何がそんなに楽しかったんだろうな…
22:
勉強会の場所は、寝泊りする宿の真裏にある小さなプレハブ小屋だった。
俺たちが「勉強小屋」と呼んでいる、宿の離れである。
そのため、勉強会に向かうには一旦外に出ないといけない。
武智「あっついなーー」
俺「確かに……」
いくら山奥とは言え、8月ど真ん中の直射日光はしんどかった。
遠くから蝉がミンミンと鳴く声が聞こえて、間違いなく「夏本番」という感じだった。
23:
元気「待ってくれよー」
俺「元気、なんでそんなに荷物多いの?」
元気は汗だくになって、明らかに異常な量の本を抱えていた。
武智「いや、それ半分以上漫画とかじゃねーの?ww」
武智がそう言うと、元気は強張った顔で「シッ!」と言った。
それを見て俺と武智は大笑いしてしまう。
「ここに何しに来てんだよーww」
24:
元気はさも「お前らに言われたくねえ」」みたいな顔をしていたけど、
俺たちは堪えきれずに大笑いしてしまった。
どうしてなのか、やることなすこと全てに、「楽しさ」が滲んでいた。
そんなこんなで、「勉強小屋」に辿り着いた俺たちは、勉強合宿をスタートさせる。
クーラーもついてない35人がぎりぎり収まるプレハブ小屋で、
扇風機の風だけを頼りに、一週間勉強に没頭するんだ。
そんな風に考えていたけど、
これがまったく勉強どころじゃなくなっていくんだよな。
25:
昼過ぎに始めた勉強は、夕方前には一旦休憩時間となる。
初日はまだまだ体力が残っているので、みんな元気である。
俺「かぁー!! この調子でいけば一週間で数チャート一冊終わるわww」
元気「それ、毎年言ってない?w」
俺の隣に座った元気が煎餅を食べながら突っ込んでくる。
俺「いや、今年は本気だよ? だって受験生だからねw」
26:
そんなくだらないやりとりをしていると、担任が遠くで声を上げた。
先生「お菓子なくなったなー誰か近くまで買い出しいってくれないかー?」
これを聞いていた武智が勢いよく、
「あ、俺行きますよ!」と高々と手を挙げた
(アイツサボりたいだけだろ……)
なんて心の中で思っていたら、俺と元気の席に近づいてきた。
27:
武智「なあなあ、1か元気、一緒に買い出しに行こうぜ」
元気「俺は絶対に行かねえよ」
元気は煎餅を食いながら即答した。
武智「お前が沢山食うからお菓子なくなったんだからなwww」
と冗談交じりに文句を言ったが、その矛先はすぐに俺に向いた。
武智「なあ、1は行くだろ? 買い出し。一人じゃつまらんからさ?」
俺「えー、ちょうど集中してたところなのに」
28:
武智「いいじゃねえかよ。気晴らししに行こうぜ」
俺「だー、分かったよ」
武智の押しに負けて、諦めて了承してしまう俺。
武智「せんせー! お菓子だけでいいんすかー!?」
先生「あー、みんなで分けられそうなものを頼む」
プレハブ小屋のたてつけの悪いガラス戸を開けながら、
武智はこちらを向いてニヤニヤしだした。
武智「ひひひ、早抜け出せたな」
29:
不思議と、その武智の顔を見て、ちょっとだけ嬉しくなってしまう。
「ああ、今年もまた、あの濃い一週間が始まるんだなぁ……」
って心のどこかで思ってしまって、ワクワクが止まらなかった。
二人でプレハブ小屋を出て、西日の突き刺す駐車場の脇に止まった自転車を見つける。
武智「おー、まだあるじゃんこれ」
俺「ほんとだ、去年もこれに乗って遊んだなぁ」
30:
武智「この自転車、去年川に落としそうになってめっちゃ笑ったよなww」
俺「あー、あれは焦ったよなwww」
なんて言いながら、二人して古びた2台の自転車にまたがる。
夕方近くになったとはいえ、8月の日光は容赦なく俺らを照りつけるから、
すぐに汗だくになってしまった。
至る所から蝉の声がこだまして、なんだか朦朧としてくる。
しばらく山道を下っていると、少しひらけた県道に出た。
武智「なあ、どうする? セブンに行くか? それとも」
俺「うーん、ちょっと遠いんだよなぁ確か」
32:
この県道を下って15分位で、セブン-イレブンにたどり着くが、
帰り道は上りでとてもしんどい。
一方、脇道に入れば地元の駄菓子屋のようなものがあり、すぐに事足りるのだ。
俺「とりあえず今日は駄菓子屋でいいんじゃね?」
武智「うっし、そうしよか」
そう言って武智は立ち乗りをして勢いよく県道を横断していく。
33:
しばらく走れば、赤いひさしを構えた古ぼけた商店が見えてくる。
武智「あったあったww 良かったなまだあって」
俺「毎年ハラハラするよな?ww」
古びた駄菓子屋だが、お菓子やアイスなどひと通り揃っていて、
贅沢を言わなければ十分買い物できる場所なんだ。
よせと言ったのに、武智はひたすらアイスを買い始めた。
俺「お前が急いで持って帰れよなww溶けても知らねえぞ!」
武智「任せろって! 超特急で持って帰るからww」
なんてやり取りをしてしまった。
34:
駄菓子屋のおばちゃんに「気をつけて持って帰れしね?」
なんて言われながらそそくさと店を出て、自転車にまたがる。
俺「お前本当ににそんなに買って……ちゃんと持って帰れよ」
武智「わーかってるよ」
武智「そんなことよりさ、あれ、楽しみだよな」
俺「ん? あれって何のこと?」
武智「ばっかお前! 縁日だよ縁日!」
俺「あー、夏祭りのことか」
35:
この年の勉強合宿では偶然日程が重なり、
最終日の前日にふもとの町で夏祭りが予定されていた。
そして、担任からも「その日まで勉強を頑張れば、夏祭りに遊びに行っていい」
という許可が降りていたのだ。
そのためクラスは一気に盛り上がり、女子には浴衣を持参した子もいるらしい。
最後の最後にそういう楽しみがあると、やはり心が躍るというものだ。
それに後々、この夏祭りが俺たちにとって凄く大切なものになる。
36:
何か重要な伏線ぽいな
37:
武智「お前さ、夏祭り、渚を誘って行けよ」
俺「はあ? 何言ってんだよ」
渚というのは同じクラスの女子で、
俺が1年以上好きなのに、何も出来ずにいた子の事だ。
武智「だってチャンスじゃねえか! こんな機会滅多にないだろ」
俺「まあ、そうかもしれんけどさ……」
俺たちは自転車をこぎながら淡々と話し続ける。
39:
俺「でも、武智だって分かってんだろ? 渚は無理だって」
武智「いや、そんなん分かんねーじゃん。だってまだ決まったわけじゃないし」
そう言うと武智は、憎たらしい笑みを浮かべた。
俺「そうやって俺に発破かけないでくれよ……」
俺も武智も、渚には他に好きな人がいると、知っていたんだ。
40:
俺のテンションが落ちたのが分かってか、
武智も喋るのをやめて、しばらく無言で走る時間が続いた。
夏の午後の、傾きかけた太陽が道を照らしている。
武智「あ、そういや飲み物買ってくるの忘れてたな」
俺「そんなん頼まれてなかったじゃん?」
武智「あーいや、なんか女子たちが飲み物が無くなったって言ってたんだよ」
俺「ふーん……」
武智「買ってったら、お前渚とも話せるかもよ」
武智が思いついたように、俺に向かって言った。
41:
武智にそう言われて、「うーん」と悩んでしまう。
武智「考えてないで買ってけばいいんだよ、その辺で」
俺「その辺って言っても、もう店なんかないぞ」
武智「自販機か何か探せばいいだろ」
武智「俺はアイスがあるから先行くからさ! じゃあな!」
そう言うと、武智は俺を置いて一人で突っ走っていってしまった。
「無責任なやつめ……」
と思ったけど、とりあえずどこかに自販機がないか、
道草を食って探してみる事にしたんだ。
42:
少し走ると、道の脇にくすんだ赤色の鳥居を見つけた。
神社だよな? と思って自転車を止めて立ち止まると、何やら音が聞こえた。
「キィィィン」という気持ちの良い金属音と、少年たちの歓声のような声。
この奥で野球でもしてるんだろうか?
少し気になって、その場に自転車を止めて鳥居をくぐってみる。
両脇に木々が生い茂る階段を登ると、そこには大きな広場があって、
近所の小学生だろうか、10人ほどがわあわあ言いながら野球をしていた。
43:
とても楽しそうに駆け回っていたので、
それを遠くから眺めて、「宿に戻ったら俺もあいつらと野球しようかな」
なんて考えてニヤついてしまった。
やろうと思えばクラスのみんなと何だってできる。
そんな時だったんだよな。
すぐに我に返って、自販機は置いてないかと探してみる。
広場の方にはないようなので、俺は奥にある境内の方へと向かった。
44:
境内の方へと歩いて行くと、少し様子が変だった。
何故か妙に煙草臭い。
まずいなぁ、地元のヤンキーのたまり場にでも来ちゃったかな、と少し不安を覚える。
しかしそこにいたのは、俺の想像とは違うものだった。
髪を明るい茶髪に染め上げた女の子が、拝殿の階段に腰掛けている。
白のカットソーにショートパンツというラフな格好で、
歳は俺と同じくらいか年下か……
そして、煙草をくわながら俺のことを睨んでいた。
45:
思わず目が合ってしまい、たじろぐ。
時間が止まったように、周りの木が風に揺れてカサカサ…と鳴る音が聞こえた。
茶髪の子「何?」
俺「いや、別に」
女の子はフゥ、と煙を吐くと俺の方を見て続けた。
茶髪の子「見たことないんだけど。この辺の学校の人じゃないっしょ?」
俺「ああ、まあそうだね。東京の高校から来たから……」
茶髪の子「え、東京! じゃあもしかしてめっちゃ頭良いとか?」
46:
神社が出てきたから、清楚な女の子が出てくると思ってたのに裏切られた
やられた…
47:
茶髪の子「え、すごくない? あたし東京の人と話すの初めてかもww」
俺「いや、そんなことないけど……」
女の子が、思いのほか可愛い笑顔を見せたので、少しドキッとした。
茶髪の子「東京の人がこんなとこに何しに来たの?」
俺「えっと、受験勉強の合宿というか……そんな感じ」
茶髪の子「勉強の合宿? なにそれ。意味わかんないね」
俺「うん、俺も意味分かんないんだよww」
雰囲気が壊れないように、俺は話を合わせてみた。
48:
茶髪の子「意味分かってないの? ウケるんだけどww」
俺「マジ意味分かんないよww」
笑いが起きて、少しだけ打ち解けてきている気がした。
俺「そっちこそ、こんな所で何してるの?」
茶髪の子「うーん、別に何って……」
俺「一人でここに来たの?」
茶髪の子「そうだけど」
答えると、女の子はまた遠くを見つめて煙草を吸い始めた。
49:
変な間ができてしまって、俺はその場で黙って女の子を見つめるだけだった。
何を話そうにも、何も浮かんで来なかった。
茶髪の子「そういえば聞いてなかったけど」
俺「なに?」
茶髪の子「何年生なの?」
俺「俺は高3だけど」
茶髪の子「ふーん、高校3年か……」
茶髪の子「じゃ、受験生だ。あたしと一緒だね」
そう言って女の子はフウ、と煙を吐く。
50:
俺「あれ、君も高3なの?じゃあタメだね」
そう言うと、女の子は笑ってかぶりを振った。
茶髪の子「違うよ。あたしは中3だから」
その言葉を聞いて、心底驚く。
俺「え、マジ!? じゃあ俺の3つも下じゃん」
女の子はいたずらそうに笑って煙草をくわえる。
茶髪の子「はは、そうなるね。ごめんねガキで」
51:
その笑顔が妙に印象的で、初対面だったのにも関わらず、
俺はその子に惹かれるような、でもそうじゃないような、不思議な感覚だった。
俺「いや、別に歳とか関係ないでしょ」
茶髪の子「え、良いこと言うじゃん。やっぱ頭の良い人は違うねー」
そう言ってまた笑うから、俺も一緒に笑ってしまった。
今までの人生で、話したことのないタイプの女の子だった。
52:
彼女の後ろに目をやると、何やらギターケースのような物が置かれていた。
俺「それは、ギター?」
茶髪の子「そうだけど」
その答えに少しだけ気分が高まった俺は、
「何か弾かないの?」と水を向けてみた。
女の子は「うーん」とひとしきり悩んだ後、
「恥ずかしいからな」と言って開きかけたギターケースを閉じてしまった。
「何か聴かせてよ。お願い!」と頼み込むものの、
女の子は「でもなぁ」と困惑の表情を浮かべるだけだった。
53:
俺が引き下がって、「それなら仕方ない」と諦めると、
気が変わったのか、「一曲だけなら……」と了承してくれた。
茶髪の子「ほんと下手だから、そこは期待しないで」
と俺に念を押し、ケースからギターを取り出した。
ケースから鮮やかな青色のギターが出てきた。
楽器に疎い俺にはそれが安いのか高いのかも分からなかったが、
ボディに「THE BLUE HEARTS」というステッカーが貼ってあるのは分かった。
54:
女の子は一回深呼吸をすると、勢い良く演奏を始めた。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
俺「終わらない歌?」
アンプにも繋がっていない渇いた音だったけど、「THE BLUE HEARTS」のステッカーも相まってか、
俺はすぐにピンときた。
茶髪の子「すごいすごい! よく分かったね!」
女の子は演奏を中断し、瞳を輝かせて俺を見た。
55:
俺「うん、そのステッカーも貼ってあったし、俺もブルーハーツ好きだからさ」
茶髪の子「うっそー! マジで!」
嬉しくて仕方ないとばかりに、女の子は体を上下に揺らした。
俺「いや、意外だったわw まさかブルーハーツを弾くなんて」
俺「俺も大好き。最高にカッコイイよな」
そう言うと、女の子は「うんうん」と何度も頷き、
「マジでカッコいいよね! こんなバンド他にいないよ」と上機嫌に言った。
俺「ふふふ」
茶髪の子「どうしたの?」
俺「いや、なんでもない」
ブルーハーツの話題になってから、女の子の表情が瞬く間にカラフルになった気がして、
俺は思わず笑ってしまった。
56:
ブルーハーツかよww
懐かしいなぁ?名曲多いよな
59:
甘酸っぱい
いいね?
67:
茶髪の子「周りにブルーハーツなんて言っても、知ってる子ほとんどいないんだよ」
茶髪の子「だから超嬉しい!」
興奮を抑えきれないようで、身振り手振りで自分の感情を表す女の子。
俺はやっぱりそれがどうも微笑ましくて、くすっと笑ってしまう。
俺「まあ、中3の女の子で聴いてるのは珍しいかもねぇ。友達が知らなくても無理ないよ」
茶髪の子「まあ、友達なんて……」
俺「ん、なんて?」
女の子がぼそっと囁いたが、よく分からなかった。
茶髪の子「ううん、別になんでもない」
69:
俺「ねえ、もう一度『終わらない歌』弾いてくれない?」
そうリクエストすると、女の子は「いいよ」と笑って快諾してくれた。
ジャジャ!ジャジャ!ジャージャージャーン!というあのイントロから始まり、
女の子は体を揺らしながら夢中で演奏を始めた。
女の子の演奏は、お世辞にも上手いわけではなかった。
けど、すごく気持ちが込もっているというか、その演奏には妙に鬼気迫るものがあった。
71:
中盤まで弾き終わったところで、女の子はピタリと演奏をやめ、
顔を上げて俺の方を見据えた。
茶髪の子「ねえ、歌ってみる?」
俺「え? どういうこと?」
俺の質問に対し、女の子はにやりと笑みを浮かべ、
「やっぱりボーカルが必要だと思うの。ヒロトだってギター持たないで歌ってるし」
その主張に、「なんだその理論は」と思ったが、俺もまんざらではなかった。
そもそも俺の方からギターを弾くことを頼んだんだし、断りづらい。
72:
茶髪の子「ね、途中まででいいからさ」
女の子の期待の眼差しが俺に向けられる。
過去に一度ギターに挑戦したが上手く行かず挫折した俺は、歌うことなら好きだった。
それに、ブルーハーツならカラオケの自信曲である。
俺「いいよ、歌う」
俺「ヒロトほどにはいかないと思うけどね」
そう言うと女の子は、「当たり前じゃん」と吹き出して笑い、
「じゃあ、いくよ?」と首を振って拍子をとった。
73:
あの聞き慣れたイントロのメロディーが、渇いたギターで奏でられる。
歌うとなると緊張して、その音色はか細く、遠いものに感じられた。
でも、染み付いたものは裏切らなかった。
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
ばちーんと出だしが噛み合って、俺も女の子も驚いて顔を見合わせた。
途中で何度かテンポが合わず手こずる部分もあったが、
止まることなく2回目のサビまで歌いきったところで、女の子は演奏を止めた。
75:
演奏を止めるやいなや、女の子は立ち上がった。
茶髪の子「すごい! 上手いじゃん!!」
俺を捉えた彼女の瞳には、無数の光芒が宿り、輝いていた。
そんな純粋な賞賛をもらって、思わず照れてしまう。
俺「よく歌うってだけ。慣れてるんだよw」
茶髪の子「そうは言っても!」
女の子は、俺の話を遮って一生懸命に主張した。
茶髪の子「あたしの下手な演奏でここまで歌えるなんて、すごいよ!」
76:
茶髪の子「それに」
茶髪の子「あたしの演奏で誰かに歌ってもらったの初めてだから」
茶髪の子「すっげー嬉しかった」
女の子はそう呟くと、「ひっひひ」と笑った。
その笑顔は可愛かったが、とてもあどけなくて、今にも壊れそうな危うさも感じた。
彼女と会ってから初めて「やっぱり中3の女の子なんだ」と実感した。
それに立ち上がった女の子は俺よりも一回り小さく、
ゴツいギターが妙にアンバランスに見えた。
77:
そんなことを思って少し戸惑いながらも、
俺は「ありがとう」と丁寧にお礼を言った。
女の子の興奮は収まらないようで、「ねえねえ」と食い気味に話しかけてきた。
茶髪の子「ロマンチックは? ロマンチックも歌える?」
俺「うっわ! 渋いね!」
予想外の曲目が出てきて、少々面食らった。
でも、本当に好きなんだって思って、嬉しくもなった。
俺「でも、あの曲はリズム隊がないとさすがに難しいんじゃないかなぁ」
茶髪の子「一回! 一回だけ……」
上目遣いでせがまれて、俺もひくにひけなくなった。
78:
俺「分かった。じゃあ一回だけ」
そう言うと、女の子は「やった!」と笑顔になり、
立ったままギターを構えた。
二人で呼吸を合わせて、「いっせーの!」の掛け声と共に、
「シャラララ…」と歌い始めた。
意外にも調子が良く、俺が指で拍子をとると、
女の子は笑ってそれに合わせてくれた。
楽しくて、俺も思わずのめり込んで歌ってしまった。
79:
途中でリズムが合わなくなり、「ごめん」と歌を中断すると、
「良かったのに!」と地団駄を踏まれた。
茶髪の子「それにしてもやっぱり上手い! 練習してるの?」
俺を捉える彼女の瞳は、瑞々しい光で満ちていた。
俺「いやぁ、好きでよく歌うだけだから。そんな練習なんてw」
茶髪の子「途中、ちょっとヒロトっぽかった!」
俺「そんなわけないだろーw」
なんてくだらないやり取りをして、二人で笑ってしまった。
82:
二人とも楽しそうで可愛いなww
83:
夢中になって読んだわ
青臭くてむずむずするが、ぜひとも完走してくれよな
90:
俺「でも、よく知ってるよね。ブルハのCDは全部持ってるとか?」
そう問うと、女の子は下を向いて「んーん」と首を横に振った。
俺「じゃあ、レンタルしてiPodとかに入れてる?」
茶髪の子「持ってないよ、そんなの」
俺は不思議に思って、首を傾げた。
茶髪の子「これで、聴いてる」
女の子はそう言うと、何やら音楽プレイヤーを取り出した。
91:
俺「MDウォークマン?」
俺がそう呟くと、女の子は恥ずかしそうに頷いた。
MDって! このご時世に、今だに使っている人がいたとは。
どうしてこんなものを使っているんだ。
茶髪の子「やっぱり変でしょ? キモいよね、こんなの」
茶髪の子「今時こんなの誰も使ってないって知ってるし」
茶髪の子「知ってるし……」
先ほどまでカラフルに色づいていた女の子の表情が、
たちまち曇っていくのが分かった。
92:
俺「別に全然キモくないよ」
俺「俺だって昔はよくMD使ってたし、お気に入りのは今でもとってあるしw」
そう言うと、女の子は安心したのか「ほんと?」と顔を上げた。
俺「それにMDって味があって良いと思うよ、俺は」
自分でも苦し紛れな事を言ってるな、と思った。
でも、そうでもしないと。余計なことで落ち込ませたくない。
なんでMDなんか? という疑問は心に残ったが、
俺はそれを一旦忘れることにした。
95:
それに、そのMDウォークマンは妙に使い込まれているようで、
普段これで擦り切れるほど音楽を聴いてるんだろうな、と思うと、
そんな疑問はどうでもいいように思えた。
俺「それにしてもブルーハーツがすごく好きなんだね」
茶髪の子「うん、大好き! 全部弾いてみたいなって思ってる」
俺は笑って「それはすげえな」と言ってしまった。
96:
俺「他には、どんなのを聴くの?」
そう質問すると、女の子は「ほかぁ?」と言ってしばらく考えた。
茶髪の子「ミッシェルとか、ブランキージェットシティーとか?」
俺「うっそマジ! 超いいじゃん!」
いずれも90年台の遠い昔のバンドだが、俺も大好きだったので驚いた。
茶髪の子「え、知ってるの? 分からないかと思った!」
俺「そりゃ、かなり昔のバンドだけどさ。俺も大好きだよ!」
茶髪の子「でもやっぱり、ブルーハーツが断トツで一番好きだけどね」
俺「それも分かるわぁ」
俺とこの女の子、なぜか妙に波長が合った。
97:
俺「でも、なんでそんなに昔の音楽ばっかり聴いてるの?」
中3の女の子の趣味にしては、あまりに違和感があるように思えた。
俺の問いに、女の子は少し苦笑いして答えた。
茶髪の子「家に、そういうMDしかないんだよ」
茶髪の子「だから古い音楽しか聴かないの」
俺「なるほどね、そういうことか」
納得してそう答えると、彼女はすぐに続けた。
茶髪の子「でも、それでも良かったと思ってるよ」
茶髪の子「じゃなきゃ、ブルーハーツにも出会えなかったし」
そう言うと、俺の方を見てにっこりと笑った。
98:
茶髪の子「ブルーハーツの歌を聴いてると、なんか元気が出てこない?」
茶髪の子「こんな自分でも頑張ろうって、なんかそんな感じにさ」
女の子の言葉に、俺は大きく頷いた。
俺「うん、分かる。かっこ悪くてもいいよ! ダメでもいいんだよ! みたいなw」
そう言うと、女の子は「そうそうw」と嬉しそうに何度も頷いた。
そんな風にブルーハーツ談義に花を咲かせていたが、
腕時計に目をやると、相当な時間が経っていたことに気づいた。
99:
俺「まずい、さすがにもう行かないとな」
茶髪の子「そっか、勉強に来たんだもんね」
女の子は、寂しそうに呟いた。
茶髪の子「ねえ、勉強って楽しい?」
そう聞かれて、俺は返事に困った。
そりゃあ、決して楽しいものではないけど……
俺が答えられずにいると、女の子は「ごめん、急いでるのに」と言った。
100:
茶髪の子「そういえば、名前聞いてなかった。聞いてもい?」
俺「ああ、そうだね! 俺は1だよ。そっちは?」
そう問いかけると、女の子は仄かに笑みを浮かべて、
「ヒロコ」でいいよ、と言った。(もちろんブルハの甲本ヒロトから)
ヒロコ「いつまでここにいるの?」
俺「一週間だから、来週の土曜日には帰るよ」
そう答えると、ヒロコは「そっかぁ」とだけ返事をした。
101:
俺が「じゃあね!」と言ってその場から去ろうとすると、ヒロコが「待って」と呼び止めた。
ヒロコ「あたし、大体いつもここにいるから」
ヒロコ「明日も、明後日も、雨さえ降ってなければいつも」
俺はそれに、「うん、わかったよ」と答え、小走りで境内を出て行った。
多分あれは、「また来てね」という事なんだろうか。
そう考えると、ちょっと嬉しくなった。
こんな見知らぬ田舎の山奥で、気心の知れた友達ができたように思えた。
102:
鬱蒼とした階段を降りて古ぼけた鳥居を抜けると、来た時よりも若干日が傾いていた。
神社の境内は木陰で風も通っていたので涼しかったが、
自転車で走り始めると、やっぱり焦れったい西日が身体に纏わりついて、死ぬほど暑い。
それでも見上げれば、頭上には青々とした空がどこまでも広がっていた。
「ブラウン管の向こう側?♪」
俺は思わずブルーハーツの「青空」を口ずさんでしまった。
ヒロコも、「青空」は好きだろうか?
103:
その後、大急ぎで宿に戻った俺だったが、
担任には怒られ、ジュースを忘れたことで女子からもブーイングを受け、散々だったw
でも、俺の心にはヒロコのことが焼き付いていた。
他人を寄せ付けないような明るい茶髪、煙草、最初は明らかにやばいと思ったが、
話してみればなんと気の合う子だったことか。
一体あの子は何なんだろう?
そんな気持ちが俺の心を占めつつあった。
106:
あ?ブルーハーツの青空は良い曲だよな
俺もよく口ずさんじまう
おっさんだからかもしれんがw
105:
夕食の時間、食堂で隣に座った武智に話しかけられた。
武智「なあ1、お前買い出し行った時何してたんだよ?」
俺「何って? 別に何も」
とぼけようとしたが、武智には効果がなかった。
武智「馬鹿言うなよ。お前随分戻って来なかったじゃねえか」
言うべきかどうか悩んだが、隠すのもおかしいかと思い、言うことにした。
俺「それが近くの神社でさ、地元の女子中学生と知り合って……」
武智「え、お前! ナンパ?ナンパしてたのか?!w」
俺「お前、やめろ! うるせえよ!」
武智の声が配慮の無い声量で、俺は思わず武智の頭をはたいた。
107:
俺「それがさ、その子何か変なんだよな」
首を傾げてそう言うと、武智に「何が?」と聞かれた。
俺「いや、明るい茶髪でさ、そんで煙草吸ってたんだよ」
武智「うわ、ごっついヤンキーじゃねえか」
俺「うん、そうなんだよ。俺もそう思ったんだけど」
武智「何かあったのかよ」
俺「まあねぇ」
108:
武智ww
109:
俺「俺って、ブルーハーツ好きだろ?」
唐突な質問に武智は戸惑ったようだけど、
「まあカラオケでもしょっちゅう歌うもんな」と答えてくれた。
俺はそんな武智に、あの神社で起きたヒロコとの一部始終を伝えた。
武智は疑いの視線で、「ええーそれマジかよww」と笑っていた。
俺「まあいいよ、信じてくれなくても」
なんだか馬鹿にされた気がして、俺はちょっと嫌な気分になった。
武智「ごめんごめん、まあそう怒んなよw」
武智「それにしても、その子は一人でそこにいたんだろ?」
110:
俺「うん、そうだよ」
武智「なんで神社なんかに一人でいるんだろうな?」
言われてみれば確かにそうだけど……
そんなこと、分かるわけがなかった。
俺「とにかく、この話は誰にも言わないでくれよ」
俺「変に噂にされんのも、嫌だからさ」
武智「おう、分かった」
武智はお調子者だったが、約束した事は守ってくれる。
だから俺も信頼して話をしたのだった。
111:
夕食後、そのまま部屋で休憩時間となった。
一日で、一番羽を伸ばせる時間である。
武智「お前! やめろ! ホームランバットは卑怯だろwww」
元気「アイテムを使いこなしてこそ真の強者だからwww」
武智「殺されるぅぅwww」
武智と元気が、大騒ぎしながらスマブラで遊んでいた。
吉谷はその様子を笑いながら、部屋の片隅でベースを弾いていた。
112:
俺「何弾いてんだ」
吉谷「お? ミッシェルだけど」
吉谷はイヤホンを外しながら答えた。
「そっか」と答えて、しばらく吉谷の奏でるベースの音に耳を傾けていた。
そもそも俺がブルーハーツを好きなのも、
ミッシェルやブランキーといった往年のバンドが好きなのも、
全てはこの吉谷の影響だった。
吉谷は軽音部で、好んでそういうミュージシャンの曲を演奏していたのだ。
113:
吉谷の演奏が一息ついたところで、俺は切り出した。
俺「なあ、『終わらない歌』弾いてくれてない?」
吉谷「いいけど、急にどうしたw」
俺「別に、なんとなく聴きたくなっただけ」
そう言うと吉谷は頷いて、「OK」と言って俺にイヤホンの片方を差し出した。
そして曲をかけると、吉谷は無造作にベースを奏で始めた。
114:
吉谷のベースは安定していて、俺の耳にしっかりと届いてくる。
俺はそれを聴きながら、ヒロコの弾いていたギターを思い出した。
演奏が終わって、「うんうん、これだ」と言うと、
吉谷は笑って「何がだよw」と腑に落ちない様子だった。
俺「いや、なんでもない。ちょっと聴いてみたくなったんだよな」
そう言うと吉谷は所在なげに、「ま、いい曲だよな」とだけ言った。
俺は頭の中で何度も「終わらない歌」のメロディーをリピートさせていた。
妙に心に残って、離れなくなっていた。
しばらくするとまた夜の勉強時間となり、粛々と合宿の1日目は終わった。
115:
翌日の2日目、再び勉強の一日が始まったが、
外は見事に晴れていて、気持ちいいほどの夏模様だった。
午後の休憩時間、俺は武智や吉谷、数人の女子とバドミントンをして遊んでいた。
元気のやつは、てこでも外に出ようとはしなかった。
遊びながら、俺はやっぱり昨日の事がどうしても忘れられずにいた。
だらだら考えるのも嫌で、俺は決心してみんなに告げた。
俺「ちょっとジュース買いに行ってくるわ」
吉谷は「おお、気をつけろよー」と至って普通な返事だったが、
武智は妙にニヤついていた。
118:
夏に心をえぐられる、、
懐かしいなぁ…
122:
冬になると夏に戻りたくなる
おっさんになると昔の夏に戻りたくなる
どうしてだろうな
133:
俺はそんなことにも構わず、自転車に乗ってあの神社を目指した。
正直、自分がどんな感情で動いているのかも分からなかった。
ただ行って、もう一度ヒロコと話してみたい気がした。
真っ白な光が降り注ぐ田舎道を飛ばして、あの鳥居へ向かう。
階段を登ると、小学生たちがサッカーをしていた。
「今日はサッカーかよ」
なんてぼんやりと考えながら、一直線にあの境内へと進んだ。
134:
しかし、そこにはヒロコの姿はなかった。
「いないのか」と肩を落とし、境内の周辺を見回すがやはり人影はなかった。
昨日よりも少し早い時間帯だからだろうか、それとも今日は来ないんだろうか?
拝殿の脇にあった缶からには無数の吸い殻があったが、それでは判別がつかない。
何にせよ目的を失った俺は、そのまま宿に引き返すことにした。
136:
勉強小屋に戻ると、早武智に話しかけられた。
武智「え、なんか早くない?」
俺「いなかったわ」
武智「そっか、そりゃ残念だな。さすがに、この暑いのに毎日は来ないんだろ」
そう言われたものの、やっぱり何か腑に落ちなかった。
昨日は、明日も明後日もいるって、自信満々に言ってたのになぁ。
武智「そんなことより、朗報だぜ」
俺「なにが?」
137:
武智「明日、女子たちが肝試しを企画してるらしい」
俺「え、マジで?」
急に舞い降りた夏らしいイベントに、少し心が惹かれた。
武智「これはきっと楽しいことが起きるぞ?w」
武智のやつは妙に浮かれているようだったけど、
それでも俺は、そこまで色めき立つことはなかった。
肝試しがあるからって、渚との距離が縮まるわけでもないし。
138:
武智「この肝試しで渚となんかあるかもしれないじゃん」
俺「まあ、ありゃいいけどね」
そう言われたものの、やっぱりどこか上の空で、
俺は残りの午後からの勉強時間、まったく集中できずにいた。
進めようと思っていたチャート式も、完全に手が止まっていた。
139:
夕食前の休憩時間に、俺は再び神社へ行くことにした。
夕食後は担任も宿舎を巡回するし、抜け出すならこのタイミングが一番だった。
太陽はほとんど沈みかけて薄暗く、空はオレンジと藍色が混ざり合っていた。
一番気持ちが浮つく時間で、みんな外で洗濯やら鬼ごっこをして騒がしかった。
俺はしれっと自転車に乗って、またあの神社を目指した。
もう日も暮れるけど、もしかしたらいるかもしれない。
それだけを確かめたかったんだ。
140:
宵闇が迫った神社の入口は、昼間の雰囲気とは様子が違った。
あの古ぼけた鳥居も、なんだか不気味に見えた。
広場まで来ると、小学生の姿もなくひっそりとしていた。
数個の電灯がぽつぽつと点いているだけだった。
風が吹くと、そこら中の木々がカサカサと音を立て、少し虚しくなった。
141:
「やっぱり今日は来てないのかもしれない」
そんなことを考えながら奥の境内のほうへ進むと、灯りの下に数人の人影が見えた。
驚いて、思わず拝殿の影に隠れてしまった。
ヒロコと、他に二人の男が煙草を吸っているように見えた。
こんな日も暮れてから、一体何をしてるんだ?
すると、何やら会話が聞こえてきた。
142:
ヒロコ「ねえ、なんで一緒に出てくれないの?」
その口調はキツイものだった。何か怒っているのか?
男A「お前さぁ、そんなもん無理に決まってんだろ」
ヒロコ「じゃあもういいから! 練習の邪魔だからどっか行けよ!」
男A「はあ? お前口のきき方気をつけろって言っただろ」
どう聞いても穏やかじゃない。
何かでケンカしているのだろうか?
144:
男B「それよりヒロコ、お前1万持ってきたのかよ」
ヒロコ「はあ? またそれ? ギター代はもう払っただろ」
男B「ははは、言ってなかったけぇ? 2回払いだって言ったじゃん」
男は、何やら気味の悪い笑い声をあげた。
というか、ヒロコは金を取られている?
カツアゲってやつか? それとも嵌められてるのか?
そんなことを頭の中でグルグルと考えていると、
「おい、てめえ誰だよ?」
見つかってしまった。
145:
一人は短髪に剃り込み、もう一人は赤っぽい髪に尖った目つき、
ぱっと見で二人ともゴリゴリのヤンキーだと分かった。
これは、まずいぞ。殺されるかもしらん。
体が縮み上がって、心臓から全身に冷水が染み出していくような感覚に襲われた。
正直何も言えず、微動だにできなかった。
ヒロコ「ちょっと! この人は関係ないじゃん!」
ギターを背負ったヒロコが、俺の前に駆け寄ってきた。
146:
男A「あ? お前の知り合いかよ」
ヒロコ「関係ないでしょ!」
男B「おい、てめえなんで見てたんだよ? 殺すぞおい」
俺「あ、その……」
恐怖と混乱で、まったく口がまわらない。
ヒロコ「1! 行こ!!」
ヒロコはそう言うと、俺の手を思い切り引っ張って、全力で駆け出した。
147:
遠くから、「ヒロコてめえバックレても無駄だからなぁ!」
という怒声が聞こえた。
二人で夢中で走って、境内の裏側の出口から外へ出た。
肩で息をしながら、「こっちにも出口があるのか」と囁くと、
ヒロコは少しだけ笑みを見せて「知らなかったのかよ」と言った。
148:
俺「自転車、鳥居の方にとめてあるんだよ」
ヒロコ「じゃあ、そっちまで行こうよ」
そう言って、二人で息を整えながら鳥居側の入口を目指した。
俺「ヒロコは、歩きなの?」
ヒロコ「うん。中学は歩きでも行けるし、自転車ないから」
俺「そっか。でも、歩きでギターを背負ってるのは大変じゃない?」
ヒロコ「別に平気だよ」
そんなやり取りをして、すっかり薄暗くなった道を二人で歩いた。
162:
幽霊じゃなかったんだ。
良かった!
164:
俺「ねえ、あの人たちは誰なの?」
聞いたらまずいかもと思ったが、聞かずにはいられなかった。
ヒロコ「先輩だよ。友達、なのかな」
俺「本当に友達なの?」
さっきの剣幕は、どう見ても友達のそれには思えなかったが。
ヒロコ「そうだよ……」
そう言ったものの、ヒロコの表情は険しい。
165:
ヒロコ「って言うか、今日も来てくれたんだね」
俺「まあ、ちょっと暇だったしね」
素っ気なくそう言うと、ヒロコは「ひひひ」と笑った。
その笑顔はやっぱりあどけなさが残っていて、
すぐに壊れそうな、頼りなさや儚さを感じてしまった。
でも、俺が来たことを喜んでくれるなら、それでいいと思えた。
166:
俺「いつも、あそこでギターの練習をしてるの?」
ヒロコ「なんで?」
俺「だって、さっき練習とか言ってたから」
ヒロコ「まあ、あそこで弾いてることは多いよ」
話しているうちにT字路にぶつかって、「ここは左」とヒロコに促された。
「本当に?」と聞くと「馬鹿でも道くらい分かる!」と怒られたw
167:
俺「でも、学校でバンドとか組んでるんでしょ?」
ヒロコ「そんなことやってないよ」
そう言うとヒロコは俯いてしまった。
ヒロコ「誰も、あたしとなんかバンドやってくれないよ」
ヒロコ「ギターは、一人でしか弾いたことない」
俺「そっか……なんかごめん」
申し訳ないことを聞いてしまったな、と思った。
無神経な質問だったかもしれない。
168:
ヒロコは「ううん、いいよ」と言って顔を上げた。
ヒロコ「でも、あたしはバンドを組んでステージに立ちたかった」
ヒロコ「ステージに、立ちたかったなぁ……」
そう言ったヒロコの横顔は、宵闇の中でもはっきりと浮かび上がって見えた。
その瞬間、どうにかしてあげたい、という想いが湧き上がった。
ヒロコ「鳥居も見えてきたし、あたしはこの辺で」
そのまま踵を返し、来た道を戻ろうとする。
170:
俺「帰るの?」
そう尋ねると、ヒロコは黙ってかぶりを振った。
さっきのヤンキーのところに戻るのだろうか?
だめだ。そんなんじゃだめだ。
そう思うと次の瞬間、こんなことを言っていた。
「今から、俺の合宿所に来なよ。『バンド』ができるかもしれない」
172:
ヒロコ「どういうこと? あたし、行っても平気なの?」
俺「いや、まずいかもしれないけどw バレなきゃどうってことはないよ」
俺「俺の友達に、ベースを弾くやつがいるんだ。そいつと一緒に演奏したらきっと面白い」
俺「だから、来てみない?」
そう誘いかけると、ヒロコは「そうなの!?」と目を輝かせた。
ヒロコ「行きたい行きたい!」
ヒロコは両手を振ってはしゃぎ始めた。
俺は笑って、「よし、じゃあ行こうぜ」とヒロコを呼んだ。
173:
ヒロコを連れて宿に戻ると外に人影はなく、
食堂で夕飯が始まっているようだった。
ヒロコ「こんな所で勉強してんだ?」
俺「そうだよ、ちょっと待っててくれる」
そう言って、ヒロコを宿舎の裏側で待たせて、俺は食堂に向かった。
174:
離れにある古びた食堂に入ると、クラスメイトが全員集まって夕飯を食べていた。
案の定、担任に「遅いぞ!」と怒られた。
「すいませんちょっと色々あってw」と流し、すぐに吉谷を探した。
端っこに座っていた吉谷を見つけるやいなや、「すぐ部屋に戻れない?」とけしかけた。
吉谷「今? まだ食ってる途中なんだけど」
俺「頼む! すぐに来て欲しいんだよ」
俺が懇願すると、吉谷は「まあいいけどさ……」と渋々立ち上がった。
担任に、「ちょっと探し物があって、部屋戻ります!」と告げて食堂を後にした。
175:
宿舎の裏側に、吉谷を急かしながら連れて行く。
そこには、ギターを背負ったまま佇んでいるヒロコがいた。
吉谷「え? 誰……?」
吉谷は目をぱちくりさせ、混乱している様子だった。
ヒロコは、「あ、こんにちは……」と小声で会釈をした。
ちゃんと挨拶をしたことに、少々驚いた。
俺「地元の中学生で、ヒロコ…ちゃん」
吉谷「それはどうも……で、なんで中学生がここに?」
吉谷の疑問はもっともだったし、俺は順序立てて説明することにした。
176:
俺「近所の神社にいて、偶然会ったんだけど」
俺「話してみたら案外仲良くなってさ……」
ヒロコも俺に合わせて、コクコクと何度も頷いた。
吉谷「ふーん……」
吉谷の、疑念に満ちた視線はそのままだった。
俺「それで、彼女はギターを弾くんだけど」
吉谷「おお、背負ってるもんね」
吉谷の表情が少しだけ緩んだ。
俺「中でも特に、ブルーハーツが好きなんだよ!」
それを聞いて、吉谷は「え、マジ!」と声を出して驚いた。
177:
吉谷「中学生の女の子で、そりゃまた珍しいな」
吉谷が食いついたところで、俺は続けた。
俺「だから、この子と一緒に『終わらない歌』演奏してくれないか?」
俺「頼む!」
そう言うと、吉谷は「うーーん」と唸って悩み始めた。
吉谷「バレたら、とんでもねえことになるぞ……」
吉谷はそう呟くと、首をひねった。
178:
俺「この子、バンドも組んだことないし、誰かと一緒に弾いたこともないんだよ」
俺「だから、なんとか」
俺が必死にそう言うと、ヒロコも「お願いします」と頭を下げた。
さすがの吉谷も押し負けたのか、
「じゃあ、いいけどさ……」と承諾してくれた。
それを聞いてヒロコが「ありがとう!」と飛び跳ねた。
吉谷「とりあえず部屋に来なよ」
吉谷「ここだと誰かに見られちまう」
吉谷は俺たちを宿の裏口へと先導した。
179:
歩きながら吉谷に、「詳しいことは後でちゃんと教えるから」と話した。
吉谷は「絶対だからな」と口をとがらせた。
吉谷「えーと、ヒロコちゃん? 靴は持って中に入ってな」
宿舎に入ると、吉谷は念入りに中を見回した。
吉谷「夕飯中で良かったな。まだ誰もいない」
吉谷は小声でそう言うと、俺とヒロコに「入れ」と手で促した。
三人で素早く2階の俺たちの部屋へと向かった。
180:
なんだかハラハラするなぁ…
181:
吉谷「仕方ないとは言え、中学生の女子を部屋に入れるのは罪悪感がすげえよw」
吉谷はそう苦笑いしたが、俺も散らかっていた私物をすぐに片付けたw
吉谷が部屋の隅に立てかけてあったベースを構えて「よし」と言うと、
それを見てヒロコも急いでギターを構えた。
ヒロコはあからさまに緊張していて、動きがぎこちなかったw
俺が「そんなに緊張しなくてもw」と語りかけると、
「でも……」とあたふたしていたw
182:
吉谷「ちょっと、軽く弾いてみてよ」
ヒロコ「わ、分かった」
ヒロコはカチコチになりながら、終わらない歌の出だしをさらった。
吉谷「おお、思ったより弾けるじゃん!」
そう言うと吉谷は、嬉しそうにカバンから何か取り出した。
吉谷「アンプとかはさすがにないけど、コイツで合わせよう」
取り出したのは、ミニスピーカーだった。
そして自らの音楽プレイヤーをつなげた。
183:
吉谷「別にミスったっていいし、気楽にいこう」
吉谷は「よっしゃやろか」と言って、俺に音楽プレイヤーを差し出した。
ヒロコに「準備はいい?」と聞くと頷いたので、再生ボタンを押す。
スピーカーから「終わらない歌」が流れて、二人の表情が変わった。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
あの聴き親しんだイントロが流れて、すぐに「終わらない歌を歌おう!」と曲が走り始める。
184:
あたふたしながら弾くヒロコに、
吉谷はさも楽しそうに笑顔で「自信持って弾けばいいんだよ!」と呼びかけた。
2回目のサビが来る頃にはヒロコも固さが取れて、
楽しそうに笑顔混じりで演奏を始めた。
二人とも体を上下に揺らして、ノリノリである。
俺も楽しくなって、ついつい歌を口ずさんでしまう。
185:
一通り演奏し終わると、吉谷は「上出来だよ!」と言って楽しそうに笑みをこぼした。
ヒロコ「やった! 全部やりきれたー!」
盛り上がって、三人で思わずハイタッチしてしまった。
俺「二人とも、すごいね!w」
興奮してそう言うと、二人は恥ずかしそうに笑った。
気づくと、部屋のドアの前に武智と元気が立っていた。
武智はニヤニヤしていたが、元気は何とも複雑な表情をしている。
187:
段々ヒロコちゃんが好きになってきたわ
198:
武智「セッションなんて、楽しそうなことしてんじゃん」
俺「え?! もう夕飯終わった?」
慌ててそう聞くと、「大丈夫大丈夫、まだみんな食ってっから」と武智が答えた。
武智「なんかお前らが怪しかったからさww様子を見に来たんだよ」
俺「なんだよ……それなら良かった」
武智は俺を引き寄せ、小声で(これが、昨日言ってた子か?)と尋ねた。
俺が黙って頷くと、「やっぱり」とおちょくるような笑顔を作った。
199:
突然人数が増えたのでヒロコは驚いたのか、
俺のそばに寄ってきて武智と元気に軽い会釈をした。
元気だけが状況を理解しておらず、口を開けたままだった。
吉谷「ちゃんと先生はごまかして来たんだよな?」
武智「だーいじょぶだって。そこはマジで問題ないから」
武智「そんなことより、邪魔してごめんな」
武智「せっかくなんだし、もっと弾けよ」
200:
吉谷は、「他に何か弾きたいのある?」とヒロコに質問した。
ヒロコはこの状況に物怖じすることもなく、
「それならもっかい終わらない歌を弾きたい」と言った。
吉谷は「好きだねw」と笑いつつも、「いいよ」と準備態勢に入った。
すると武智が何を思ったのか、
「同じじゃつまんねえし、1が歌ったらどうなんだよ」と言い出した。
すると吉谷も「いいじゃんそれwお前歌えよww」と乗り気になった。
201:
さすがにみんなの前で歌うのは恥ずかしかった俺は、ヒロコの方を見た。
ヒロコ「すっごくいいと思う。歌ってよ!」
ヒロコも目をキラキラさせて、そう頼み込んできたのだった。
逃げ場がなくなった俺は、「それじゃ、一回だけね……」と泣く泣く了承した。
元気だけはやはり輪に入れず、呆然としたまま黙っていたw
もう半ばやけになっていた俺は「いくぞー!」と叫んで再生ボタンを押した。
202:
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
吉谷とヒロコの渇いた楽器の音が鳴り響く。
不思議と、さっきよりも大きく聴こえるような気がした。
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
歌い出すと、不思議とみんな笑顔になった。
歌っている俺自身も、なんだか楽しくて仕方がない!
203:
途中から、さもヒロトかのように部屋中を動き回って歌う俺に、
ノリノリで演奏を続ける吉谷とヒロコ。
武智と元気も楽しそうに体を揺らし、合いの手を入れる。
ただの寂れた和室に過ぎなかった場所が、
たちまちライブ会場になったような気がした。
とにかく楽しくて、俺は我を忘れて歌い続けた。
204:
最後まで演りきって曲が終わると、
みんなで「イエーーーー!!」と盛り上がってしまった。
そして意味もなく、またハイタッチ。
歌い終わった後も、なんだか胸のドキドキを抑えきれなかった。
なんなんだ、この気分は。
そしてヒロコが、「すっごく楽しい!!!」と叫んだ。
その笑顔は、まるで晴れ渡る夏空のようだった。
淀みがなく、真っ直ぐで、純真な笑顔。
この子、こんな顔で笑えたのか、と意表を突かれた。
205:
そんな風に盛り上がっていたのも束の間、
窓から外の様子を見ていた元気が、「あ、そろそろやばいかもよ」と言った。
武智「え、もうそんな時間か?」
俺「大声で歌いすぎたかな?」
吉谷「まずいね、帰ったほうがいいかも」
場の空気が一気に張り詰めた。
もちろん、合宿所に部外者の立入りは禁止だし、それが地元の女子中学生だなんてバレた暁には、
俺たち全員どうなるか分かったものじゃない。
206:
武智「様子見てくるわ!!」
そう言って、勢い良く武智が階段を降りていった。
元気「俺はこっから見てるよ。こっちに向かってきてる人はいないけど、すぐ来そうだわ」
ヒロコは眉をひそめて、「え、どうしたらいいの?」と困っているようだった。
俺「とりあえずギターをしまって、帰る準備! 靴も持ってね」
武智「おーい! 今ならまだ行けるぞ! 早く早く!」
一階から、武智の呼ぶ声がした。
207:
わくわくしてくるな
208:
元気も「今、今!」と俺たちを促した。
ヒロコと俺と吉谷の三人は、大急ぎで階段を降りた。
裏口の方で、武智が「こっちこっち」と手招きしていた。
裏口から勢い良く飛び出すと、吉谷と武智は食堂の方に向かおうとした。
吉谷「俺らが食堂の方に行って、こっちに人が来ないようにしとくから」
それを聞いてヒロコが、「あの、今日は本当にありがとうございました」とお礼を言った。
吉谷と武智は、振り向きながら手を振ってそれに応えた。
210:
俺とヒロコは猛スピードで走って宿舎から出て、近くの道路まで来た。
俺「ここまで来れば、さすがに大丈夫だろ」
ヒロコ「そうだね……」
俺たちは肩で息をしながら会話を続けた。
ヒロコ「1の友達に、ちゃんとお礼言いたかったな」
俺「気にしないでよ、俺から伝えとくからさ」
ヒロコは真剣な顔で「よろしく」と言った。
211:
ヒロコ「今日は、本当に楽しかった」
ヒロコ「人と弾いたの初めてで、なんだかライブしたみたい」
俺「そうだねw 俺もついつい乗りすぎちゃったw」
ヒロコ「誰かと一緒に弾くって、こんなに楽しいことだったんだ」
ヒロコは「ひひひ」と笑って、「ありがとね」と呟いた。
その笑顔はやっぱり、あのあどけないものだったけど、
どうしてか、俺の心にじーんと染み込んだ気がした。
212:
俺「いいって、気にしないでよ」
照れ隠しで、ついつい素っ気なく返事をしてしまう。
俺「それより、こっから家遠いの? 大丈夫?」
ヒロコ「ううん、そんなにだよ。だからここで大丈夫」
ヒロコは「じゃあね」と俺に手を振った。
俺も黙って振り返す。
ヒロコは最後に、「あの神社で、また弾いてるからね」と言い残していった。
その言葉とともに、暗がりの街灯の中、あの茶髪の後ろ姿が遠くなっていくのを目に焼き付けた。
213:
ヒロコのことを心配に思いつつも宿舎に戻ると、
外にはすでに夕飯終わりのクラスメイトが何人もいた。
危なかったな、と肝を冷やした。
食堂前に吉谷と武智がいて、「大丈夫だったか」と聞かれたので、
「なんも問題なかったよ」と答えて、
一人で食堂で軽くご飯を食べて、部屋に戻ることにした。
214:
部屋に戻ると、武智と元気は漫画を読み、吉谷はベースをいじっていた。
吉谷「で、あの子は一体なんだったんだ」
俺「ああ、それを話そうと思ってさ」
俺は腰を降ろし、3人を集めた。
武智「でも、かなり楽しかったよな」
元気「それはいいけど、俺が一番意味不明なんだよw」
俺は笑って、3人にもう一度ヒロコとのこれまでの出来事を話した。
215:
ヒロコが健気で素敵だな
216:
吉谷「お前、すげえもん拾ってきたなwww」
話し終えると、珍しく吉谷が大笑いして言うもんだから、意外だった。
俺「別に、拾ったわけじゃないけどな」
吉谷「ギター、あんまり上手くはなかったけど、一生懸命な気持ちはすごかったな」
吉谷「好きで仕方ないんだって気持ちが伝わってきたよ」
吉谷は笑顔混じりで話し続ける。
ヒロコの熱い想いみたいなものが、伝わったんだろうか。
217:
武智「まあでも、中学生の女子じゃ学校でバンドは組めんよな?」
吉谷「そうだよな、それなら一緒に弾いてあげれて良かったと思うわ」
いきなりあんな女の子を連れてきたら、みんなもっと混乱するかと思ったけど、
ヒロコのことを認めてもらえて良かった、と思った。
俺のやったことが間違いじゃなかったし、コイツらをまたちょっと好きになった。
元気「でもさ、1はこれからどうすんだ?」
元気の質問の意味が、俺にはよく分からなかった。
218:
俺「どうするって何がだ?」
元気「だってさ、聞いた話だとヒロコちゃんはその神社でまた待ってるんだろ?」
元気「お前、また行くの?」
そう言われて、すぐに言葉が出なかった。
あれ? 俺はどうしたいんだろう?
武智「そんなもん、別にまた行きゃいいじゃん」
武智「東京帰るまで時間もないし、暇な時に行ってちょっと話せばいいだろ」
219:
武智の言葉に、吉谷が反論した。
吉谷「そうかな? どうせすぐに俺らはいなくなっちゃうんだぜ」
吉谷「あんまり仲良くなりすぎたら、向こうも1も辛いだろ」
武智は、「そんなことないと思うけどねぇ」と納得していない様子だった。
元気「それもあるけどさ」
元気「また、そのヤンキー連中に絡まれたりしない?」
元気「だって今日も危なかったんだろ?」
220:
武智「それはヒロコちゃんの友達なんだろ?」
武智「事情を話したらどうってことないだろうよ」
吉谷がそれに笑って応戦する。
吉谷「それはないだろ。友達なら逃げたりしないと思うぜ?w」
吉谷「もしかしたら、複雑な事情を抱えてるかもしれん」
元気「俺もそんな感じはするね。あ、ヒロコちゃんは別に悪い子だとは思わないけどさ」
221:
3人の討論を聞きながら、俺は考え込んだ。
これ以上ヒロコのことに顔を突っ込んだら、まずいだろうか?
でも、今日演奏した時に見せたヒロコのあの夏空のような笑顔。
あの笑顔を俺は忘れられずにいた。
吉谷「まあ、俺らがこんなに言っても仕方ないし」
吉谷「どうしたいかは、1が決めればいいんだけどな」
そう言って3人は、俺の方を見た。
俺がしたいように。
222:
俺「俺、また行くわ。じゃないとなんかモヤモヤするっていうか」
俺「自分でも分かんないけど、そうしたい」
3人は笑って、「だと思ったww」と口を揃えて言った。
そして、「何かあったらすぐ報告してくれよな」と言ってくれた。
何か分からないけど、嬉しくて胸がじーんと熱くなった。
この3人が友達で良かったと、心の底から思った。
224:
この四人の関係性と若さがいいなぁ
俺も高校時代が恋しくなった
237:
翌日の3日目は、一日中課題確認テストだった。
ヒロコのことが気にかかるも、一日中勉強小屋から抜け出すことができなかった。
でも、昼間は雨模様の天気だったし、神社には明日行けばいいな、と思った。
テストの休憩時間、渚に少し話しかけられた。
渚「1君、もう知ってるかもしれないけど、今夜肝試しするの」
渚「参加するよね?」
俺「あ、行く行く!!」
即答だった。
昨日の武智の予告通り、今日は肝試しが行われるらしい。
238:
ヒロコのことが気にかかっていたけど、
やっぱり俺は渚のことが好きだったと思う。
話したらドキドキするし、やっぱり目で追ってしまう。
だから、渚から肝試しに誘われたのは、本当に嬉しかった。
俺は舞い上がったし、チャンスがあれば渚と組んで肝試しに行きたいと思った。
239:
夜、最後の勉強時間が終わって就寝までの自由時間、
ぞろぞろと宿舎の裏側に人が集合していた。
クラスの半分くらいだろうか?
昼間の雨のせいもあってか、空気はじっとりと湿っていた。
熱帯夜とは呼べない、涼しげな夜だった。
肝試しをするには、うってつけだと思った。
240:
担任は、テスト監督として訪れたOBと部屋で酒盛りをしているとのことで、
監視の目はかなり緩んでいた。
(というより、この肝試しは半公認だったのかもしれない)
やっぱり、肝試しをするとなると浮つくし、
集合している人はみんなソワソワして落ち着かない様子だったw
中心グループの女子が、「もう班は分けてあるからー」と声をあげた。
そして、手際よく班ごとに人を捌いていく。
241:
おー!!
肝試しキターー!
242:
俺の班は、俺と武智と委員長だった。
委員長は、眼鏡をかけた女の子で、
真面目だけれどノリはよく、周りからは好かれていた。
元気は女子ばかりの班に男子一人になり、
吉谷は渚と一緒になったようだった。
班分けに若干恣意的なものを感じた俺は、少し拗ねていた。
243:
俺「なあ、渚が吉谷と一緒になってるんだけど」
武智「たまたまじゃねえの?」
そう、俺の好きな人である渚は、
「吉谷のことが好きだ」という噂があり、それは結構有名だったのだ。
そして、クラスの女子がいらぬ気を利かせてこの班分けにしたんじゃないかと、
俺は邪推してむくれていた。
244:
この噂は、ある程度俺にダメージを与えていて、
渚の好きな人が吉谷、と知ってから吉谷と思い切り仲良くできなかった。
もちろん吉谷が悪いわけではないし、
吉谷も、俺の好きな人が渚であることは知っていた。
だから、誰も憎むことはできないし、仕方のないことだった。
人の気持ちなんてどうしようもないし、難しいものだ。
だからこそ俺は渚に対して大きく踏み出せずにいた。
245:
そんな事をぼやいているうちに肝試しは始まった。
先行隊がどんどん出発し、俺たちの班の番となった。
宿の敷地から伸びる農道を進んだ先に廃商店があり、
そこに「アイテム」があるので、拾ってくればいいというものだった。
農道は舗装されているもののガタガタで、雑草が生え放題だった。
その粗野な感じが、また不気味さを一段と強くする。
246:
道の左側は山の斜面で、右側は林になっており、その先には川があった。
俺たちが自転車を落としてしまったり、遊び場にしている川だが、
夜になるとやっぱり雰囲気が変わり、薄気味悪い。
後続の方から、女子の「きゃー!!」という悲鳴が聞こえてくる。
武智「やってるやってるww」
武智はとても楽しそうに、ニヤつきながら進んでいった。
247:
街灯の灯りはほぼなく、各々持たされた小さな懐中電灯だけが頼りだった。
灯りが少ないというのも、恐怖心を煽る原因だった。
委員長「ちょっと、いよ……もうちょっとゆっくり行こ」
俺と武智の後ろを歩く委員長が、恐怖に顔を歪め、話してきた。
武智「なんだ委員長怖いのかww」
委員長「そりゃ怖いよ。なんか武智信用できないし」
それを聞いて俺は吹き出してしまった。
248:
武智「なに言ってんだw 何か出たら俺がタックルして吹っ飛ばすよw」
委員長「タックルが通用する相手ならいいけど」
武智「幽霊か! そんなもんいねえよww」
委員長「え? さっきから武智の後ろにずっとなんかいるよ?」
武智「えええ! マジ!?」
この二人、面白すぎる。
二人のやり取りを聞いていると、恐怖心も和らいできたw
250:
夫婦漫才かよwwww
かわいいなw
251:
委員長「ちょっと、1だけが頼りなんだからね」
それでも委員長は怖いのか、俺の後ろを恐る恐る歩いていた。
武智「そんなにこええならさ、歌でも歌おうぜ」
委員長「やめようよ、変なの寄ってきちゃうよ」
武智「そんなわけあるかwww」
そして、武智は委員長の制止を振り切って思い切り歌い始めた。
252:
武智「夢で逢えたらいいな?! 君の笑顔にときめいて?!」
俺「なんで銀杏ボーイズなんだよwwww」
武智の思わぬ選曲に俺と委員長は大笑いしてしまった。
結局やけにハイになってしまって、嫌がっていた委員長もろとも、
三人で銀杏BOYZの「夢で逢えたら」を熱唱しながら進んだw
肝試しのテンションは、本当に恐ろしい。
253:
しばらく進んでいると、ミッションを終えてUターンしてくる班ともすれ違い、
目的地である廃商店が見えてきた。
ハイになっていた俺は「アイテム取ってくるぜ!」と言って、
一人で駆け出してその廃屋の近くに寄っていった。
建物の表側にそれらしきものが見当たらなかったので、
裏へ回ってみると思いもよらぬものが目に入った。
254:
武智の選曲センスに脱帽
お前はくりぃむしちゅーのオールナイトでも聞いてんのかw
255:
懐中電灯の微かな灯りの先に、吉谷と渚が抱き合ってキスをしていた。
俺「あ……」
俺は、思わず声を出してしまった。
すぐ引き返せばいいものを、固まってしまって動けない。
吉谷「1? 1か?」
吉谷に気づかれて、俺は一目散にその場から離れた。
256:
表側で武智と委員長が、「ここにあったよ?」と、
アクセサリーらしきものを手に取っていた。
俺「早く帰るぞ」
ぶしつけにそう言って、引き返そうとする。
武智「何かあったか?」
俺「いいから、早く来るんだよ!」
珍しく俺が声を荒げたので、武智も委員長も素直についてきた。
257:
これはきついね…
吉谷は隠してたのか?
引用元: ・忘れられない夏がある【後編】高3の時に起きた夏の一週間の出来事を聞いてくれ
※12:24 公開予定
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