【後編】高3の時に起きた夏の一週間の出来事を聞いてくれback

【後編】高3の時に起きた夏の一週間の出来事を聞いてくれ


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8:
帰り道で、俺はがっくりうなだれていた。
うそだろ? そうだったのか? そんなアホな。
そんな考えがとりとめもなくグルグルと頭を回っていた。
武智「おい、お前変だぞ。何かあっただろ?」
委員長「そうだよ、1何かあったの?」
武智にだけ聞こえるように、「吉谷と渚が……」と話した。
259:
武智「えー!? うっそだろマジで!?」
武智は驚きを隠しきれないようだった。
揺るがない現実を突きつけられた俺は、
情けないことにポロポロと泣き出す始末だった。
委員長「泣くほど怖かったの?」
武智「馬鹿言えw」
260:
委員長「じゃあ、どうしたの? 普通に心配なんだけど……」
そう言われて、武智が俺の顔を見た。
武智「別に、委員長なら大丈夫だろ。言わないのも逆に悪いし」
俺はそれに、黙って頷いた。
武智「吉谷と渚が、あの商店の裏でキスしてたらしいんだ」
委員長「あ、そうなんだ」
261:
その反応は意外なものだった。
武智「あれ、驚かないね」
委員長「まあ、だって私は渚と吉谷君が付き合ってるの知ってたし」
委員長「むしろ、それで1が落ち込むのがびっくりなんだけど……」
武智は、また黙って俺の方を見た。
俺「俺、渚のこと好きだったからね。それでだよ……」
262:
委員長「うっそー! そうなんだ知らなかった」
委員長「ってか二人とも吉谷君と渚が付き合ってること知らなかったの?」
そう質問されて、俺も武智も「知らなかったけど」と答えた。
委員長「えー! じゃあ吉谷君は1にも武智にも付き合ってること言ってなかったの?」
武智「聞いた覚えはねえよな?」
そう振られて、俺も大きく頷いた。
263:
武智「少なくとも、男子で知ってる奴はいないんじゃねえの」
委員長「うわー、そうなんだ……」
暗がりで委員長の表情はよく見えなかったが、声色が呆れていることは分かった。
委員長「吉谷君は、1が渚のこと好きだってことは……」
俺「知ってるね。前に話したことあったし」
武智「そうだよな、前に言ってたもんな」
それを聞いて委員長は「やばいことになったねぇ」と苦笑いしていた。
264:
武智「いやー別に付き合うのはしょうがないかもしれないけどさ」
武智「隠してたってのが、やっぱりショックだよな?」
本当にそうだった。
俺は渚の気持ちだって最初から知っていたし、
ハッキリ言ってくれれば諦めだってついたのに。
今まで吉谷と仲良くしていた時間、あの全てが偽りだったように思えた。
アイツは、俺や武智や元気と遊んでいる時、笑っている時、
一体何を思っていたんだろうか?
265:
吉谷は、俺の渚への想いを知っていた上で、秘密にしていたのか?
武智「まあでも、アイツにも何か事情があったかもしれんし」
委員長「うん、吉谷君もきっと悪気はないと思う……」
それはそうだけど。そんな事言っても、気持ちに整理はつけられなかった。
なぜ隠していた。なぜ黙っていた。
そんな想いが黒く燃え上がって、俺の心が荒んでいくのが分かった。
266:
肝試しが終わり、へとへとになって部屋に戻って、
元気や武智たちと何を話すでもなくゲームをして遊んでいた。
すると、そこに吉谷が何も言わずに帰ってきた。
俺たちには話しかけず、布団を敷いて先に寝るようだ。
もしかしたら俺は、吉谷を睨んでしまっていたかもしれない。
武智「なあ、吉谷」
武智が声をかけると、横になった吉谷はだるそうに、「なに」と答えた。
268:
なんだか一波乱ありそうな予感がぷんぷん…
何にせよ続きが気になる
269:
大人なら消化できることが思春期ってできねーんだよなぁ
274:
高校時代に戻りたくなってきたわ…
どうしてくれる
282:
武智「お前、渚と付き合ってたのか」
吉谷「なんだ、もう武智にまでまわったのか」
吉谷は、こちらを向くこともなく、淡々と話した。
武智「俺たちに隠してたのかよ」
吉谷「別に隠してはいねえよ。元気には言ってあったしな」
元気は状況を飲み込めていないようで、「何かあった?」と混乱している。
283:
武智「何も。ただ、吉谷が付き合ってるのが分かったんだよ」
武智「んで、俺と1には秘密にしてたのか?」
武智がグイグイと突っ込んでいくので、俺は心配になった。
俺「おい武智、もういいって……」
吉谷「ああ、隠してたさ。だって、何て言えばいいんだよ?」
吉谷「1、お前の気持ちだって俺は知ってんのに」
284:
武智「そんなもん! 素直に言えばそれで済んだことだろ!」
吉谷「できるか!!」
吉谷が、大声をあげた。
あと一歩で、担任が部屋に来そうなくらい、大きな声だった。
吉谷「そんな簡単に、できるか!」
吉谷「俺だってどれだけ悩んだと思ってる」
吉谷がそう言い切って、部屋の中はしんとした。
285:
俺も武智も元気も、誰も何も言えずにいた。
吉谷「隠してたつもりはない。いつかは言おうと思ってた」
吉谷「そこは……悪かったって思ってる」
それだけ言うと、吉谷は布団に潜り込んでしまった。
それはそうだ。
吉谷だって悪気があったわけじゃないだろうし、悩んだはずだ。
でも、俺だってそんな簡単には割り切れなかった。
286:
吉谷…
287:
次の日、4日目は何もかも手がつかなかった。
まったくと言っていいほど、集中できない。
何をする気も起きなかった。
武智も、元気も、吉谷も、みんな様子がおかしい。
仲の良かった俺たち4人の関係が、壊れかけていた。
いがみ合ったり、言い合ったりはしないが、
今までのような自然さや、気軽さがない。
それに、吉谷は目に見えて俺たちを避けているようだった。
288:
しかも、俺は失恋をした。
元々諦めかけていた渚への想いだが、
それが完全に打ち砕かれた。
渚という俺の好きな人は、目の前から消えた。
むしろ、これで良かったのかもしれないが、
どうしようもない虚しさと、やりきれない悲しさだけが心に残った。
そんな、様々なしこりを残したまま、4日目は終わった。
289:
翌日の5日目、この日はとても暑く朝からみんなへばっていた。
俺たちを灼き殺しそうなほどの太陽が、カンカンに照っていた。
例のごとく、午後の休憩時間に担任が「お菓子の買い出し頼む?!」と呼びかけた。
武智もその場にいなかったので、俺は一人で名乗り出て、買い出しに行くことにした。
正直、もうあの神社に向かうつもりもなかったのだが、
俺は気づけばふらっとあの神社に立ち寄っていた。
290:
階段を登るのは大変なのに、俺はまたあの鳥居の前に自転車を止めて、
神社へと向かっていった。
白い日光が広場を一杯にして、その中で小学生が駆け回っていた。
その様子に少しだけ嬉しくなって、俺は境内を目指した。
拝殿には、やっぱりヒロコが座っていて、ギターを弾いていた。
あ、いるじゃないか。
それは安心なのか、ときめきなのか、自分でも分からなかった。
291:
ヒロコ「あ、1だ! 来てくれたんだね」
俺「うん、なんか久しぶりだね」
ヒロコ「昨日も一昨日も来なかったから、もう来ないかと思ってた」
そう言うと、ヒロコは「ひひ」と笑った。
その表情は汗ばんでいて、少しだけ火照っていた。
俺「ごめんね。ちょっと大変だったんだ」
ヒロコ「もう、明後日には帰っちゃうんでしょ?」
俺「そうだね……」
そう呟くと、ツクツクボウシの声がどこからともなく聴こえた。
292:
俺「またブルーハーツ弾いているの?」
そう聞くとヒロコはニコッと笑った。
ヒロコ「うん、終わらない歌。この前弾いた時、すごく楽しくて」
ヒロコ「だから、完璧にしたいなって」
この前弾いた時。あの時は、楽しかったな。
そんなことを思ってしまった。
293:
俺「こんな日は、『青空』なんかもいいよね」
ヒロコ「いいね! でも、青空はまだ練習中だから?」
俺「そっかw」
ヒロコと話していると、自然と笑顔になっている自分がいることに気づいた。
どうしてだろうか?
ふと、ギターを弾くヒロコの二の腕あたりに、あざがあるのを見つけた。
313:
俺「ちょっと……そのあざは何?」
しばらくヒロコは黙っていた。
俺「何かあったの?」
ヒロコ「ちょっと、殴られた。この前のあいつらに」
俺「え? マジで?」
ヒロコは黙って頷いた。
314:
俺「それ、大丈夫なの?」
ヒロコ「これは別に大丈夫だけど、さすがにちょっと面倒くさいかな」
そう話すヒロコは笑顔をなくし、無表情だった。
俺「なんであんな奴らと一緒にいるんだよ?」
ヒロコ「本当はもう、一緒にいたくないよ。でも、ギターを貰ったし」
俺「ギターを?」
316:
ヒロコ「あたしの家ね、ママが離婚してさ、すっごいお金ないの」
ヒロコ「だから、ギター欲しくても買えなくてさ」
ヒロコ「そしたらあいつらが、ギターを安く譲ってくれるって言うから」
淡々と、それでいて噛みしめるように語り続ける。
ヒロコは、あのMDウォークマンを取り出した。
ヒロコ「これで音楽聴いてるのも、パパが置いてったやつで」
ヒロコ「これしか、音楽聴くものないんだよ」
317:
今までの出来事全てに、合点がいった。
なぜMDウォークマンを使っているかも、ヒロコが古臭い音楽を聴いているかも。
俺「そっか。ブルーハーツもミッシェルも……そのMDがあったからってことか」
ヒロコ「そうそう。偶然それがあって、聴いたら大好きになった」
ヒロコは、またうっすらと笑みを浮かべた。
ヒロコ「ママは忙しくて家にあんまりいないから、そんな時これを聴いたら、励まされた」
318:
俺「でも、ギターを貰ったならもういいじゃん」
ヒロコは「ううん」とかぶりを振った。
ヒロコ「あいつら、ああ見えても楽器するからさ」
ヒロコ「一緒にいたら、演奏してくれるかなって思ってた」
俺はなるほどな、と思った。
ヒロコは学校でもバンドが組めなくて、ずっと一緒にできる人を探していた。
あのヤンキーたちも、そうだったということだ。
319:
ヒロコ「でも、あたし気づいちゃったんだよね」
俺「なに?」
ヒロコ「あいつらは、あたしから金を取ることしか考えてないし、一緒に音楽もやってくれない」
ヒロコ「あたしはただ、バンドがしたかった。ギターがしたかっただけなのに」
ヒロコ「もう、こんなの嫌だ……」
ヒロコは、目に涙を浮かべていた。
壊れそうだったものが、ついに音を立てて崩れた、そんな気がした。
320:
そんなに最低の連中だったのか。
ヒロコが人を寄せ付けない風貌をしているのも、煙草を吸って強がるのも、
全ては、自分の弱さを隠したかったからなのか?
許せないと思った。
俺「そんな奴ら、もう縁を切っちゃえよ」
ヒロコ「そんなことしたら、後で何されるか分かんないし……」
ヒロコ「あたし一人で抵抗するのは、怖い」
321:
俺「そいつらは、今日の夜も来るのか?」
ヒロコ「来ると思うけど……」
俺「俺に考えがある。だから、今夜いつも通りここに来て」
俺一人じゃ無理だ。
あいつらの助けがいる……
322:
俺は買い出しをテキトーに済ませ、一目散で勉強小屋に戻った。
すぐに席に座っていた武智、吉谷、元気を外に連れ出し事情を話す。
この前来たヒロコが、追い詰められていることを赤裸々に語った。
俺「だからさ、頼む。今夜、力を貸してくれないか?」
3人は、しばらく黙って見合っていた。
俺「こんなことにいきなり巻き込むのは本当に悪いけど……」
俺「お前らしかいないから」
すると、武智が口を開いた。
武智「タッパのある奴がいた方が相手もビビるだろうしな。俺は行くよ」
323:
俺「マジか! ありがとう」
喜んだのも束の間、吉谷が口を開く。
吉谷「そんな得体の知れない連中に巻き込まれたくねえよ」
吉谷の目はいつになく真剣だった。
俺「吉谷、頼むよ。お前だってヒロコの事は一生懸命だって言ってたじゃねえか」
吉谷は首を横に振った。
吉谷「別にあの子は悪くないし、気持ちもわかる」
吉谷「でも、もしバレたらどうなる? ただ事じゃねえぞ、分かってんのか?」
吉谷「俺は勉強をしにここに来たワケで、ケンカをしに来たわけじゃない」
324:
吉谷の言うことはもっともだった。
俺たちは勉強をしに来たんであって、そんな地元の中学生のいざこざに、
足を突っ込みに来たわけじゃない。
武智「お前、びびってんだろ? それにケンカになるって決まったわけじゃあるまいし」
吉谷「別になんでもいいよ。俺には関係のない話だ」
俺は諦められなかった。
自分でも勝手なことを言ってるのは分かっていたが、それでも。
325:
俺「吉谷、お前ヒロコと一緒にギター弾いて何も思わなかったのか?」
俺「あの子はただギターが弾きたかっただけなんだよ」
俺「俺はその気持ちを、尊重してやりたいんだよ」
ここまで言っても吉谷は首を振って、「わり、分かんねえわ」としか言わなかった。
武智「1、もういいよほっとけ。俺らでどうにかしようぜ」
326:
吉谷…
327:
武智「元気、お前は危ないしケガしそうだから来るな」
武智「俺らがいない間、先生へのごまかしと偽装工作を頼むわ」
元気「おう、分かった……」
吉谷は、無言で自分の席へと戻っていった。
俺と武智の二人で、ヒロコを守ることになる。
大丈夫だろうか?
329:
夜、夕食までの自由時間になった。
空は藍色が燃え、不気味に日が沈みかけていた。
ヒロコを助けようと思って言い出したことだが、
やっぱりその時が迫ってくると、怖かった。
武智と二人で自転車置き場に向かうと、そこには吉谷の姿があった。
俺「お前、なんで?」
吉谷「相手は2人だろ? それなら、3人いた方がいいじゃねえか」
俺と武智は見合って笑ってしまった。
俺「俺が2ケツしてやるから、乗れよ」
3人で、あの神社を目指すことにした。
331:
薄暗くなった鳥居にたどり着くと、俺はなんだか怖気づいてしまった。
俺「でも、マジでケンカになったらどうしよう」
それを聞いて武智が笑った。
武智「もうここまで来たら、どうなってもいいじゃねえかw」
吉谷は黙っていたが、別にもう言葉なんていらないと思った。
一緒に来てくれた。
ただ、それだけが全てだと思った。
俺は一人じゃない、そう思えることが心強かった。
どうなったって大丈夫、こいつらがいるんだ。
332:
進んでいくと、境内の灯りの下でヒロコとあの2人のヤンキーが話していた。
この前の短髪と、赤髪の奴だ。
緊張と不安でバクバクと鳴る心臓を抑えつけ、
俺は正面きって言い放った。
俺「ヒロコ、来たぞ」
俺の声を聞いて、ヤンキー2人もこちらを睨みつけた。
333:
ヒロコは、すぐにこちらに駆け寄って来た。
短髪「なんだお前ら?」
俺「ヒロコがお前らに言いたいことがあるって言うから、来たんだよ」
するとヒロコは、何度も頷いた。
短髪「はあ? 意味が分からねえんだけど」
ヒロコ「もうあたしに一切関わらないで」
恐怖なのか、ヒロコの声は震えていた。
334:
ヒロコの言葉を聞いて、赤髪の方が笑いだした。
赤髪「言いたいことって、それぇ?」
赤髪「マジで、馬鹿か?」
赤髪の目つきが強張り、俺たちの方へと歩み寄ってきた。
赤髪「ヒロコと俺らは友達なんだよ? 分かるかぁ?」
赤髪「お前らが何か吹き込んだんだろ? あぁ?」
335:
こっちまで緊張してきた
336:
俺「友達なわけねえだろ、お前らヒロコから金取ってるくせに」
そう言うと、赤髪はまた不気味な笑みを浮かべた。
赤髪「意味分かんねえw あれはギター代だから」
赤髪「てめえこそ何も知らねえくせに調子乗んなよ?」
赤髪はそう言って、どんどん俺たちに近づいてくる。
俺「お前らと縁を切ることは、ヒロコの意志だ。もう関わるな」
たじろぎながらそう言うと、赤髪がこちらに飛びかかってきた。
337:
かと思うと、武智が低い姿勢で思い切りタックルし、赤髪を倒した。
赤髪は倒れ込んで咳き込むと、「ぐぅぅ!」とうめき声をあげた。
武智は「動くな!」と大声を出して赤髪を必死に押さえつける。
元々ラグビー部で、体格も良い武智がいて助かった。
すると短髪の方が勢い良く俺に近づいて、胸ぐらを掴んだ。
短髪「おい? どういうつもりなんだよ?」
俺は抵抗することもなく、「ヒロコにもう関わるな」と言った。
338:
武智が仕事した!
イケメン
339:
不意に、髪を掴まれたかと思うと、俺は思い切り腹に膝蹴りを受けた。
激痛が走って、その場に沈み込んでしまう。
後ろに回り込んでいた吉谷が「てめえ!」と言って短髪を押し倒した。
痛みを堪えて起き上がり、すぐに吉谷を加勢する。
吉谷と短髪が倒れ込んでもみくちゃになっていたので、二人がかりで短髪を押さえつけた。
腹のみぞおちあたりが、すこぶる痛い。
どうやら、もろにもらってしまったらしい。
340:
痛みで朦朧とし、額にはじっとりと嫌な汗をかいていた。
俺は必死に短髪の首根っこを押さえつけ、
「もう、ヒロコに関わるんじゃねえよ! こんな子いじめて何が楽しいんだよ!?」
と、体の底から叫んだ。
短髪はこの状況でもなお不敵な笑みを崩さず、
「じゃあ金だ。金さえ出したらもうほっといてやるよ……」
としゃがれた声でのたまうのだった。
341:
俺「てめえ、ふざけんなよ!!」
俺がそう叫んだ瞬間だった。
ヒロコが短髪に近づいてきて、「ほらよ」と一万円札を差し出した。
短髪「あ?」
ヒロコ「もう、これで終わりにしてよ」
ヒロコ「言われた通りあげるから、もう関わらないで」
342:
短髪はその一万円をむしるように受け取ると、
「最初から出せや」と悪態をついた。
俺たちが押さえていた手を緩めると、短髪は「離せクソ」と立ち上がった。
短髪「あー、もう来ねえよ。金さえパクれりゃこんな神社に用があるかよ」
短髪「もう二度と来るかっての」
赤髪も立ち上がり、「一生ギター遊びでもなんでもしてろ」と言い捨て、
ヤンキー2人はバイクにまたがり、けたたましい音と共に神社から去っていった。
バイクの音が遠ざかるまで、俺たちは黙ったままだった。
363:
俺「なんで、お金を?」
ヒロコ「あいつらの目的は、あたしから金を取ることだったしね」
ヒロコ「何もかも片付けるには、結局はこうするしかなかったと思う」
俺「そっか……」
なんだか悲しくなった。これは成功といえるのだろうか?
ヒロコ「それでも、みんながいなきゃあんなに強く言えなかったから」
ヒロコ「今日きっぱり縁が切れたのは、来てくれたおかげだよ」
弱々しい笑顔だった。無理してるんだろうな、と思った。
364:
ヒロコ「本当にありがとう。1と……」
武智がぶっきらぼうに「武智」と言った。
続いて、吉谷も苦笑いで「吉谷」とだけ言った。
ヒロコは小さく微笑んで、「武智と吉谷も、ありがとう」とお礼を言った。
ヒロコ「1は蹴られたけど、大丈夫……?」
俺「蹴られた瞬間はやばかったけど、今はなんともないよ」
そう答えると、ヒロコは「よかった、みんな怪我しなくて」と安堵の表情を浮かべた。
365:
武智「でもそれ、訴えたら暴行罪で勝てるよな?w」
吉谷「そういう発想が、お坊ちゃんって感じだよな俺ら。情けない」
武智「別にいいだろww」
緊張が緩んで、次第に和やかな雰囲気になっていく。
良かった。とりあえず俺たちは、あのヤンキーに勝ったんだ。
俺「でも、1万円なんて大金、大丈夫だったの?」
ヒロコは黙ってかぶりを振った。
366:
ヒロコ「ほんとはね、あれでアンプを買いたくてずっと貯めてたんだけど……」
ヒロコ「でも……」
そう言うと、ヒロコはぽろぽろと涙を流した。
吉谷「え、ヒロコちゃんアンプ持ってなかったの?」
ヒロコ「ううん、持ってるけど、すごくボロボロだから」
ヒロコ「あたし、バンドしたかった。本当に、ただそれだけだった」
ヒロコは鼻をすすって泣き始めた。
367:
ヒロコ「明日ね、夏祭りでステージがあるんだけど」
ヒロコ「そこで演奏したくて、あたし勝手に申し込んでたの」
それを聞いて俺たちは顔を見合わせた。
俺「え? 夏祭りって、ふもとの夏祭りだよね?」
ヒロコは目に涙を浮かべたまま、「そうだよ」と答えた。
俺たちが担任に「遊びに行ってもいい」と言われていたお祭りのことだ。
無論、俺たちはみんな行く気でいた。
そこで、ステージがあったなんて。
368:
ヒロコ「だから、さっきのあいつらに一緒に出ようって言ってたんだけど」
ヒロコ「全然ダメだった」
ヒロコ「もう、諦めるしかないかな……」
涙を腕でこすり、ヒロコは俯いた。
この前何か揉めていたのも、きっとこの夏祭りのステージのことだったんだ。
ヒロコは本当にステージに立って演奏がしたくて、それで……
369:
俺は吉谷の顔を見た。
吉谷は黙って頷いた。
俺「ヒロコ、ステージに立ちたいか?」
ヒロコ「え、どういうこと?」
俺「バンド組もうぜ、俺たちで。一夜限りのバンド」
瞬間、ヒロコの顔に光が溢れ、笑顔が咲いた。
ヒロコ「え、うそ!? いいの?!」
370:
俺「ああ。ギターがヒロコ、ベースが吉谷、そんでボーカルが俺」
吉谷は、「ドラムがいないのがちと難点だなw」と苦笑いした。
ヒロコは興奮を抑えきれないでようで、何度も頷いてみせた。
ヒロコ「いいよそれ! 最高! 最高のバンドじゃん!!」
目に涙を溜めたまま、思い切り笑顔になった。
俺「だろ? 俺もそう思うw」
武智「俺、エアドラムで入っちゃダメか?」
吉谷「それはいらねえだろww」
371:
俺「バンド名は、そうだな……」
すると、ヒロコが何か言いたげにこちらを見た。
俺「何かあるの?」
ヒロコ「『THE SUMMER HEARTS』ってどうかな…?」
吉谷「お、いいねぇ」
俺「俺たちっぽくていいと思う!」
ヒロコは歯を見せてキラキラと笑い、「やったぁ、これでいこ!」とはしゃいだ。
武智のやつが後ろの方で、
「かー! サマーハーツ最高だねぇ?!」などと騒いでいたw
372:
この3人でバンド結成か
サマーハーツ、いいじゃん
373:
俺「そのステージって、明日の何時から?」
ヒロコ「集合は、確か夜の6時だったと思う」
吉谷「それなら、すぐに戻って練習だな!」
そうして俺たちは、ヒロコを連れてそのまま宿に向かうことにした。
明日の夏祭りのステージに向けて、動き出した。
374:
宿に帰ると、すでに勉強小屋で夜の勉強時間が始まっているようだった。
武智「見てきたけど、もうあっちで勉強会始まってるわ」
俺「元気は、上手くごまかしてくれたのかな?」
吉谷「俺たちは一旦部屋に戻るから、元気呼んできて」
そう言うと、武智は「ほいさ」と言って勉強小屋へと向かっていった。
俺とヒロコと吉谷はバレないように部屋へと急いだ。
375:
部屋に着くとすぐに、吉谷はベースを手にとって喋り始めた。
吉谷「ステージって、何曲できるんだ?」
ヒロコ「多分、一曲だと思う」
吉谷「それなら、曲目は『終わらない歌』でいいよな? 簡単だし」
俺「いいと思う。それを完璧にしよう」
ヒロコも同調して頷いた。
吉谷「ドラムがいないっていうのは厳しいけど、俺がヒロコちゃんのギターに合わせるから」
吉谷「失敗してもいいし、この前みたいに思いっきりやろうせ」
ヒロコは「うん!」と元気よく返事をした。
376:
吉谷「1、お前の歌もかなり重要だぞ? 歌詞は頭に入ってるか?」
俺「任せろって。カラオケで何万回歌ったと思ってるw」
調子に乗ってそう言うと、吉谷もヒロコも笑みを見せた。
吉谷「じゃあアンプもないけど、一回BGMナシで合わせてみよう」
そして、俺とヒロコと吉谷の三人の練習が始まった。
377:
俺たちが部屋で練習をしていると、武智と元気と、委員長が来た。
武智が、「だめだめ! 委員長はもういいよ!」などと言っていたが、
元気と一緒に委員長も部屋に入ってきてしまった。
委員長「え、アンタたちお腹壊して寝込んでるんじゃなかったの?」
俺「あ……」
吉谷「……」
吉谷も俺も、言葉をなくしてしまった。
378:
バレたかwww
379:
元気「と、いう風に俺が先生に話しておいたんだけど」
委員長「心配だから私が見に来たの」
そう言うと、委員長はヒロコをまじまじと眺めた。
委員長「で……この子誰?」
ヒロコは、委員長に対しても律儀に頭を下げた。
仕方がないので、俺たちは委員長にもこれまでの経緯を洗いざらい教えることにした。
俺「話せば長くなるんだけど……」
380:
委員長「えー! それでアンタたち明日のお祭りで演奏するってこと?」
俺も吉谷も「まあ……」ときまりの悪い様子で返事をするw
武智「演奏じゃねえ、ライブだぞ」
委員長「そんなのどっちでもいいよ」
委員長に一喝されて、武智は変な顔をしていたw
委員長は、ヒロコに優しい視線を向け、「そんなに出たかったの」と質問した。
するとヒロコは「もちろんです!」と答えた。
委員長には、なぜだか敬語だった。
381:
武智と委員長ww
382:
委員長「はあ、なんでアンタたちってこう危ないことするかなぁ……」
委員長は額に手を当て、がっくりとうなだれた。
俺「ごめん、委員長」
委員長「いいけど、今だって先生止めて私が代わりに来たんだからね」
委員長「正直、かなり危なかったよ」
そう言われて、ぐうの音も出ない俺たち。
383:
委員長「もう分かったから、一曲やってよ」
その発言に、俺たちは呆気にとられた。
吉谷「え? なんて?」
委員長「せっかくここに来たんだから、聴きたいじゃんw」
武智は「マジかwwww」と笑っていた。
意外だったが、さすが委員長だと思えた。
「じゃあいくよ」と始めようとすると、「待って」と止められた。
委員長「やっぱり、明日の楽しみにしとく」
384:
委員長「明日、私も聴きに行くから」
そう言うと委員長はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
俺「マジで? 来てくれるの」
委員長「そんな面白そうなの、見に行くに決まってんじゃんw」
委員長「クラスの皆にも、先生にバレないように水面下で広めとくから」
吉谷「委員長、本当にありがとう」
吉谷がそう言うと、委員長は「別に」と首を振った。
委員長「みんな、楽しそうで良かったよ」
385:
委員長は素っ気なくそう言ったが、
もしかしたら俺と吉谷のことだったのかもしれない。
「THE SUMMER HEARTS」を組んでステージに立つことが決まってから、
俺と吉谷はすっかり自然体に戻っている気がした。
委員長「夜の勉強時間が終わるまでは、ここで練習するんでしょ?」
俺「まあ、そうだね」
委員長「先生は、戻ったらまた私と元気君でごまかしとくから」
委員長「あんまり遅くならないようにね」
386:
そう言い残すと、委員長と元気は部屋から出ていこうとした。
武智が「じゃあな?」と見送ろうとすると、
「アンタも行くの!」と委員長に引っ張って行かれたw
武智は、「俺も混ざりたかったぁ?」などと喚きながら拉致されていった。
3人になった俺たちは、すぐに練習を再開した。
本番は明日。
「とにかくミスってもいいから、思い切りやろうぜ」
それが合言葉だった。
389:
夏祭りで思いきりライブできたらそりゃあ一生の思い出になるだろうな
俺も学生時代の学祭ライブ思い出したわ…
あと関係ないけど、武智と委員長好き
390:
後 のいきものがかり である
407:
翌日、合宿6日目。夏祭りの当日である。
この日も太陽は絶好調で、容赦のない暑さでいっぱいだった。
俺たち「THE SUMMER HEARTS」が今夜の夏祭りでステージに上がることは、
ひっそりとクラス内に広まりつつあった。
顔を合わせると色んな人に「頑張ってな!」と声をかけられた。
きっと、委員長のおかげだ。
408:
夕方、勉強時間にかぶる時刻に、ヒロコを宿に呼んだ。
敷地の入口でヒロコを迎え入れると、ヒロコの髪が黒に染まっていた。
俺「髪、黒くしたんだ」
ヒロコ「うん、ステージに立つし。…どうかな?」
ヒロコは落ち着かない様子で、照れているようだった。
それがまた可愛らしくて、俺は「よく似合ってるよ」と言った。
ヒロコは「ひひっ」とはにかんで、「ありがと」と呟いた。
409:
こっそりとヒロコを部屋へと案内し、吉谷と3人で直前の確認を行なっていた。
すると、見計らったかのように委員長と渚が部屋へとやって来た。
なんだかばつが悪く、俺は渚を直視することができなかった。
俺「何か用? 先生にバレた?」
委員長「いや、違うよ。今から少し練習するんでしょ?」
委員長「先生の方は、私の方でごまかしてるから」
俺「それはありがとう、助かるよ」
委員長は、ヒロコをまじまじと眺めた。
410:
委員長「それはいいんだけど、今日ライブだよね?」
委員長「あんたらの恰好はそれでも制服でもなんでもいいけど……」
委員長「ヒロコちゃんはそのまま?」
委員長はヒロコを指差した。
ヒロコの服装はTシャツにショートパンツという味気ないもので、
確かにライブでステージに上がるには向いていないように見えた。
委員長「夏祭りなんだし、浴衣でも着ればいいのに」
委員長「浴衣とか、ないの?」
そう質問すると、ヒロコは首を横に振った。
411:
委員長「そっかぁ、でも私は浴衣持ってきてないからなぁ」
すると、委員長の後ろから渚が声を出した。
渚「それなら、私の浴衣着てみる? きっと着られると思う」
確かに渚とヒロコの背丈は似たようなものだった。
その提案に、俺も委員長も「いいね!」と賛同した。
吉谷だけが若干苦い顔をしていたが、渋々賛成してくれたw
(多分、自分の彼女の浴衣姿が見たかったんだろう…)
412:
委員長「それならもう時間もないし、すぐ着せてあげるから、うちらの部屋おいで」
渚「うん、早く着替えちゃお」
言われるまま、ヒロコは二人に背中を押されて部屋へと連れて行かれてしまったw
ヒロコは戸惑いながらも嬉しそうで、委員長にライブのことを話して良かったなと思った。
413:
三人が去ってから、吉谷にそれとなく聞いてみた。
俺「浴衣、よかったの?」
吉谷「アイツが貸すって言うなら、それでいいよ」
吉谷「それに、やっぱりライブに衣装は必要だろ」
吉谷はほんの少しだけ笑みを浮かべて、ベースの練習を再開した。
それを聞いて安心し、俺も歌詞の確認を始めた。
414:
しばらくすると、部屋から三人が戻ってきた。
ヒロコは、鮮やかな青色の浴衣を身にまとい、髪を後ろで結っていた。
はっきり言って、とても綺麗だ。
渚「サイズがちょうどで良かった」
委員長「ね、よく似合うでしょ。下駄とかは、向こうで履き替えればいいから」
委員長は嬉しそうに下駄の入った袋をヒロコに手渡した。
ヒロコははにかみながら、恐る恐るこちらを見た。
415:
俺「いいじゃん、ほんとによく似合ってるよ。髪の毛もいいね」
吉谷も「いいね」と笑顔で頷いている。
ヒロコはぱあっと明るい笑顔になり、「ありがとう」と遠慮がちに言った。
ヒロコは嬉しさを抑えきれないようで、「夢みたい!」と呟いて浴衣を愛おしそうに眺めた。
その笑顔はまるでプリズムのように瞬き、キラキラと光を放った。
これで、衣装はバッチリだ。
416:
俺「ってか、委員長たちも戻らなくて大丈夫?」
委員長「そうだ、そろそろ戻らないとさすがに……」
委員長がそう言ったのと同時に、吉谷が「やべえ!」と声をあげた。
吉谷「出演者の集合時間って6時だよな? あと30分くらいしかねえぞ」
俺「え、マジで!?」
ふもとの町までは、自転車で飛ばしてギリギリで30分くらいだ。
今すぐ行かないと、間に合わない。
417:
やばいやばい、と焦りながら急いで外へと飛び出す。
本当ならバスで行くつもりだったので、何の準備もしていなかった。
委員長「じゃあ私たちは戻るから、またあとでね!」
俺「ああ、みんなによろしくね」
委員長と渚を見送り、俺たちは自転車置き場を目指した。
俺「バスの時間、ちゃんと考えとくんだった」
吉谷「まあ、色々あったししょうがねえ」
自転車にまたがり、ギターを背負ったヒロコを後ろの荷台に促した。
ヒロコは荷台を指差して「ここ?」と首を傾げた。
引用元: ・忘れられない夏がある
2:
俺「あ、浴衣で二人乗りはさすがに危ないかな」
吉谷「いまさら何言ってんだww」
吉谷に、大げさに笑われた。
荷台によろよろと腰掛けたヒロコは、やっぱり少しおぼつかなかった。
吉谷「そんなに怖かったら、ヒロコちゃん1にしっかりつかまってな」
吉谷がそうアドバイスすると、ヒロコは俺の腰あたりに思い切りつかまった。
3:
俺「マジかwwwwww」
びっくりして、変な声が出てしまった。
さすがに照れくさくてしょうがないので、すぐに「急ぐよ!」と言ってペダルを踏んだ。
すっかり日が暮れて、橙に溶け込んだ町の中を思い切り走った。
二台の自転車の影が、ぼんやりと長く伸びる。
どこからともなく、寂しげにヒグラシの鳴く声が聞こえた。
しばらく走ると、あのひらけた県道にぶつかり、下り坂になった。
4:
吉谷「一気にいくぞ」
吉谷は、立ち乗りになり思い切り度を上げた。
ヒロコに、「飛ばすよ!」と一言声をかけ、俺もそれに続いた。
広い県道の下り坂を、一気に駆け下りていく。
途中、何台かの車にもすれ違ったが、そんなのお構いなしに、
俺たちは全力で走り続けた。
しばらくすると山道の雰囲気は薄れ、遠くにふもとの町が見え始めた。
遥か彼方には、橙黄色に光を放つ太陽も見えた。
そのせいもあってか、町のすべてが夕暮れに呑み込まれていた。
5:
信号機、街路樹、すれ違う車、目に映る全てがオレンジで、
町中まるごと影が伸びていくような気がした。
俺「もうすぐ、着きそうだな」
走りっぱなしで、全身から汗が吹き出していた。
吉谷「まだ時間的には大丈夫だ、急ごう!」
吉谷も息を切らして自転車をこいでいた。
吉谷「お祭りって、確かお寺の近くだよね」
ヒロコ「うん。駅に近いから、看板の駅方面に向かえばいいと思う」
7:
それを聞いて「よっしゃ!」ともう一度思い切りペダルを踏んだ。
ひたすら道を下っていると、次第に町並みが変わっていき、
市街地のような場所に出てきた。
言われていた駅の前を過ぎ、ヒロコに促されるままお寺方面を目指した。
寺に近づいてくると人々の往来も増え、浴衣を着ている人や、
子どもの姿も目立ってきた。
お祭りの、浮かれた雰囲気が広がっていた。
交通整備の人が誘導灯を振って、人や車を捌いている。
8:
吉谷「よし、着いた!」
俺「間に合った間に合った!」
俺たちは息も切れ切れに、自転車置き場に自転車をぶち込んだ。
ヒロコが駆け出し「早く早く!」と急かしている。
すっかりバテバテの足を引っ張って、それに付いて行く。
俺「受付って、どこでできるのさ」
ヒロコ「多分、奥に運営のテントがあるから、そこ」
10:
寺の敷地内に入ると、そこら中に屋台が立っていた。
焼きとうもろこしやたこ焼きだの、醤油を焼いたような香ばしい匂いともに、
「いかがっすかー」という威勢のいい声が四方から響いている。
人の数も多く、走って進んでいくには、少し厳しかった。
それでもヒロコは、人混みをかき分けどんどん進んでいった。
はぐれたらヤバイと思い、俺も吉谷もヒロコを必死に追いかけた。
11:
進んでいくと広場に行き着き、寺の本堂のようなものが目の前に見えた。
横には、派手に電飾の飾りが施されたお手製ステージのようなものがあり、
見上げると、「夏祭りフェスステージ」と看板が掲げられていた。
ヒロコはそれに構うこともなく、本堂の脇にあったテントへと、
一直線に向かっていった。
思った以上にしっかりとしたステージに少々驚いてると、
「二人ともこっちだよ!」と、ヒロコに呼ばれた。
12:
運営テントの中では、ハッピを着たスタッフが慌ただしく動き回っている。
何人かのスタッフと会話をし、受付の手続きを済ませる。
「ぎりぎりでしたね」と笑われてしまった。
スタッフ「グループ名が無しになっていますが、このままでいいですか?」
それを聞いてヒロコが俺と吉谷の方を見たので、「あれでしょ」と助言した。
ヒロコ「バンド名は、『THE SUMMER HEARTS』でお願いします」
13:
スタッフは「いい名前ですね」と笑って書面を訂正していた。
その後、どういう編成でどんな曲をやるかの説明を行った。
俺「あ、そうだ。マイクを2本用意してもらってもいいですか」
出し抜けに言ったので、吉谷が不思議そうに俺の方を見た。
吉谷「なんで2本?」
吉谷の質問に答えず、俺は「ヒロコ、いい?」と、ヒロコの顔を見つめた。
14:
俺「マイク用意するから、歌いたくなったら歌いな」
俺「ハモリとかコーラスとか、そんなんじゃない。歌いたいとこで歌えばいい」
俺「言ってたろ? ブルーハーツを聴いてると元気になるって」
吉谷は「なるほどね」と納得した様子で頷いていた。
俺「だから、ヒロコも思い切り歌うんだよ。ステージの上で」
俺「それって、楽しそうだろ?」
ヒロコ「ほんとうに? あたし歌ってもいいの?」
ヒロコの顔に、笑顔が訪れた。
15:
俺「もちろんだよ。俺と一緒に歌おう」
俺「ギター弾きながらだと難しいと思うけど、歌いたいとこだけでいい」
そう言うと、「あたし、頑張るね!」と両手を元気に振り回した。
その表情は嬉々として、まるで夏休み前の小学生みたいだった。
そんな無邪気な顔が、青色の鮮やかな浴衣にぴったりだった。
期待とワクワクと、ほんの少しの緊張。
そんなものが入り混じっていたんだと思う。
16:
スタッフ「リハーサルはないので、直前に簡単に調整を行います」
スタッフ「7時にはステージが始まりますので、出番は多分7時半過ぎくらいかと思います」
その後、俺たちは運営テントを後にし、広場の隅のベンチに腰掛けた。
広場を囲うように、周辺には無数の出店があり、
頭上にはいくつもの提灯が揺れていた。
日はすっかり落ち、それらの賑やかな灯りでお寺の中は彩られていた。
17:
暗い世界に、楽しげな灯りがいくつも揺れている。
どこからともなく、子どものはしゃぐ声が聞こえた。
まさしく、夏祭りが始まったんだな、と実感した。
ヒロコは出店を見てくると言って、一人で入口通りの方に行ってしまった。
ベンチには、俺と吉谷の二人だけが座っていた。
吉谷「なあ、一ついいか」
俺「なんだ?」
18:
吉谷「渚のこと、黙ってて悪かったな」
「ああ……」と中途半端なニュアンスで返事をしてしまう。
吉谷「隠してるとか、そんなつもりじゃなかった」
吉谷「でも、俺も好きで……どうしようもなくなって」
吉谷「もっと早く、勇気を持って言えばよかった。ごめん」
通り過ぎる人の笑い声とか、出店で焼きそばを焼く景気の良い音とか、
なんだか色んな音が聞こえた気がした。
19:
俺「別に、俺も怒ってるとかじゃない。吉谷がそう言ってくれてよかった」
俺「これで、きっぱり諦めがつくし。俺も次へ踏み出すだけだよ」
吉谷「…そうか」
しばらく会話が途切れて黙っていると、ヒロコがはしゃいだ様子で戻ってきた。
傍目から見ても、浮かれているのがすぐに分かる。
嬉しくて仕方ないのか、その表情は屈託のない笑顔だ。
20:
ヒロコ「ねえねえ!すごいよ! なんか色々あった!」
落ち着かない様子で、通りの方を指差す。
俺「まあ、お祭りだからねぇ」
ヒロコ「すごいねすごいね!」
ヒロコの楽しさが伝わってきて、こっちまで笑顔になってしまう。
俺「何か買ってくればよかったのにww」
ヒロコは唇を噛み、首を横に振った。
ヒロコ「お金ないし、我慢だよ」
21:
吉谷が、小声で(行って来い)と俺の背中を叩いた。
「ええ?」と戸惑っていると、(いいから)と釘をさされた。
俺「ヒロコ、おごってやるから一緒に行こうぜ」
ヒロコ「え、いいの?」
ヒロコはそう言うと、吉谷の方を見た。
吉谷「俺はここにいるから。二人で見てきな」
22:
ヒロコと二人で、寺の入口通りを歩いた。
道の両側を埋め尽くすように出店が立ち並び、
慌ただしく人々が往来していた。
俺「そうだ、下駄履かなくていいの?」
ヒロコ「あ、そうだったね」
ヒロコはその場で袋から下駄を取り出し、履き替えた。
その際、背負っていた重そうなギターは俺が引き受けた。
23:
「下駄なんて初めて履く!」と興奮しながら、
ヒロコは俺の数歩先を元気よく歩いて行く。
その度にカランカラン、と小気味良い音が響き、
一歩、また一歩と夏の終わりに近づいていくような気がした。
「へいお兄ちゃん、見てってね!」
焼きとうもろこし屋のおっちゃんに、声をかけられた。
24:
醤油を焼いた、食欲をそそる香りが伝わってきた。
食べたい。正直腹が減った。
ヒロコも並べてあるとうもろこしを見て、「うまそ……」と声を漏らした。
その様子に笑って、「買う?ww」と聞くとヒロコは何度も頷いた。
でもすぐに、「我慢する。悪いし……」なんて言うもんだから、
「食べたいなら我慢すんな」と、ヒロコの分も一緒に買ってあげた。
25:
二人して焼きとうもろこしにかじりつくと、
醤油の香ばしさともろこしの甘さが口の中に広がって、
「うまーー!!」と自然に声が出てしまった。
それがおかしくて俺もヒロコも笑いが止まらなかった。
ヒロコ「これがお祭りの味! すご!!」
ヒロコのリアクションは本当にオーバーで、
それが本当に可愛いと思ってしまった。
26:
ヒロコは焼きとうもろこしも食べ終わらないうちに歩きだして、
「ねえねえあっちも!」と俺を急かした。
ついて行った先の出店には小さな子どもが群がっていた。
ヒロコ「ねえねえ、わたあめだよ!」
ヒロコは興奮した様子で、わたあめを作る機械を食い入るように見つめていた。
俺は「はいはい」と笑いながら、わたあめを二つ買った。
27:
わたあめ屋のオヤジが気さくな人で、
「浴衣似合ってるじゃん」なんて調子良く言ってきて、
ヒロコは照れながらも「どうも」と嬉しそうだった。
ヒロコ「わ、なんか今あたしやばいかも」
両手にとうもろこしとわたあめを持って、にやつく。
俺「なんか、めっちゃはしゃいでる人みたいだww」
28:
ヒロコ「ま、はしゃいでるけどね」
ヒロコはうっとりと両手のもろこしとわたあめを見つめたあと、
俺の方を見て意味もなくにこりと笑った。
その笑顔が、俺の心臓を叩いた気がした。
ヒロコが楽しんでいることが嬉しくて、
でもこの気持ちは、きっとそれだけじゃないんだろうなと思った。
29:
夏祭り、いいなぁ…
すごく夏に戻りたくなってきた。
30:
吉谷のために焼きそばを買って、広場に向かって二人で歩いていると、ヒロコが話し始めた。
ヒロコ「あたしね、お祭りって嫌いだったの」
俺「どうして?」
ヒロコは一口とうもろこしに噛み付いたあと、続ける。
ヒロコ「だって、みんなすごく楽しそうだから」
ヒロコ「そういうのって、なんて言うんだろう……すごく嫌いだった」
31:
ヒロコ「変だよね。……ごめん」
しばらく考えて、優しく答えた。
俺「ううん、なんか分かる気がする。謝ることないよ」
ヒロコ「そう言ってくれると思ったけど」
ヒロコの表情に笑顔が戻った。
ヒロコ「でもね、今日はすっごい楽しい。だからね、お祭り好きになったかも」
俺「おお! それなら良かった」
32:
しばらくして広場にたどり着くと、
ヒロコは「焼きそば!」と声をあげ吉谷のもとへ走っていった。
広場には、先ほどより随分人が集まってきていた。
「夏祭りフェス」の始まりが迫っていたのだ。
このお祭りのステージでは、バンドや楽器だけではなく、
ダンスや漫才、歌など、舞台上で出来ることならばなんでもOKだった。
その物珍しさに、地元の人がそれなりに集まってきているようだった。
33:
広場のベンチに腰掛け、三人で駄弁って物を食べていると、
「夏祭りフェス」が始まった。
「みなさん、今年も始まりました!」
意気揚々と司会のお兄さんが口火を切り、広場内に拍手が巻き起こった。
ステージ上で歌を歌う女子高生や、ダンスを踊る大学生、
おじさんだらけのバンドなど、色んな人が思い思いのパフォーマンスをする。
34:
しばらくすると、勉強を終えてバスでこちらに来たクラスメイトたちが、
続々と広場内に姿を現した。
武智と元気が寄ってきて、「かなり盛り上がってるじゃねえか!」と話しかけてきた。
委員長と渚も近づいてきて、ヒロコの浴衣の乱れを直していた。
それだけではない、クラスの半数以上の人が見に来てくれているようだった。
ステージ上の人が目まぐるしく入れ替わっていき、どんどん俺たちの出番が迫ってくる。
35:
武智「あとどれくらいでお前たちの出番?」
吉谷がプログラムらしき紙を見て、「次の次……だな」と言った。
それを聞いて、緊張がピークに達した。
胸の鼓動は破裂しそうなほどに音を立て、手が小刻みに震える。
それは俺だけではないようで、ステージを見つめる吉谷の表情も強張っていた。
でも、ヒロコだけは違った。
37:
ヒロコ「ね、いい感じ?」
立ち上がって、両手を広げて浴衣を見せてきた。
近くにいた渚が「可愛いよ」と言った。
ヒロコは満足そうに「ありがとう」とお礼を言うと、
「二人とも、なに緊張してんの」とはつらつとした態度で笑みを浮かべた。
ヒロコ「あたし、今すごく嬉しい」
38:
ヒロコ「だって、こんな素敵なステージでライブができるんだもん」
ヒロコ「ずっとずっと思ってた夢だから、嬉しい」
ヒロコ「だからさ、今日は三人で、夢を叶えよう」
ヒロコはそう言うと、少しもったいぶるように笑顔を見せた。
吉谷「よーーっしゃあああ!!」
突然吉谷が大声を出した。
39:
委員長「うわ、どうしたの」
武智「気合が入ったかwwww」
吉谷がここまで感情を表に出すのは珍しいので、周りにいた人も驚いた。
吉谷「そうだよな! 思いっきりやって、夢を叶えよう!」
どうやら、吉谷は吹っ切れたようだ。
俺も真似して、「うおおおおお!!」と叫んだ。
するとヒロコも、「わああああああ!」と続けて叫んだ。
40:
元気「気合入ったねぇww」
武智「なんだか青春って感じだな」
大声で叫んだら気持ちのモヤモヤが吹っ飛んで、少し落ち着いた。
その直後、運営テントから「THE SUMMER HEARTSの皆さん来てください?」と集合がかかった。
クラスメイトたちが、「頑張ってね!」「盛り上げるからなー」と手を振って見送ってくれた。
41:
スタッフ「それでは、今ステージに上がっている人たちが終わったら、皆さんの出番ですので」
ドクン、ドクン、と鼓動の音が何度も響いた。
来る。もうすぐ出番が来る。
吉谷「大丈夫。土台は俺が固める。二人は好きにやれ」
吉谷は笑顔混じりで言った。
俺とヒロコは黙って頷いた。
42:
前の人たちの出番が終わり、司会の男性が、俺たちの名を呼んだ。
「それでは次は…バンドですね!『THE SUMMER HEARTS』の皆さんです!」
ステージに上がる直前、ヒロコが俺の肩を叩いた。
ヒロコ「一緒に歌おうね」
ヒロコ「終わらない歌」
43:
ステージに上がると、ヒロコと吉谷は楽器のセッティングを始めた。
俺も、二本用意されたマイクの確認を行う。
ステージ上から広場を見下ろすと、思っていた以上に多くの観客がいることに気付いた。
何人もの人の目が、自分たちに向けられていることが不思議だった。
目の前には、クラスメイトが何人も陣取っていた。
何やら歓声を送ってくれていた気がするが、それも定かではない。
44:
どきどき
45:
楽器やマイクの調整が終わり、三人で顔を見合わせた。
「1、2、1、2、3!」
吉谷の合図とともに、演奏が始まった。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
出だしがガツンと噛み合って、俺は思い切り声を絞り出した。
46:
「世の中に冷たくされて 一人ボッチで泣いた夜」
「「もうだめだと思うことは 今まで何度でもあった!」」
声が重なった気がして、瞬間的にヒロコの方を見た。
すると、ヒロコもマイクに向かって声を出していた!
「「ホントの瞬間はいつも 死ぬ程怖いものだから」」
「「逃げだしたくなったことは 今まで何度でもあった!」」
俺とヒロコの声が二重になって、広場に響き渡った。
47:
「「終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため」」
「「終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように」」
俺たち三人の演奏はあっという間に終わった。
目立った失敗はなく、大成功だった。
でもそれは、演奏というよりは「終わらない歌」という歌に合わせて、
それぞれの「想い」とか「迷い」とかをぶつけたような気がした。
48:
ヒロコと二人で歌った瞬間、俺はそんなことを思った。
ヒロコがあの一節を一緒に歌ったのも、きっとそういうことなんだ。
ステージから降りると、クラスメイトが集まってきて、
「良い演奏だったなぁー!」と俺たちを囃し立てた。
演奏に全てを出し切った俺たちは、それに対応する気力も残っていなかった。
ただただ、「ありがとう」と返すしかなかった。
49:
ステージでのライブを終えたヒロコは、いたって落ち着いた様子だった。
もっともっとはしゃいで喜びまわるかと思ったが、そうでもないようだった。
俺「ヒロコ、楽しかった?」
吉谷「演奏、完璧だったよ。本当にすげえ」
俺と吉谷が、ヒロコを労うように言葉をかけた。
ヒロコ「あたし、二人のこと大好き」
俺「え?」
あまりに予想外の返答に、どう反応したらいいか分からなかった。
50:
ヒロコ「大好きな人たちと一緒にバンド組めて、そんでこんないい場所でライブできて」
ヒロコ「こんなにいっぺんに夢がかなって……」
ヒロコ「あたし、どうしたらいいか分かんない」
ヒロコはそう言い終えると、ぼろぼろと涙をこぼし、
「うえええん」と声をあげて泣き始めてしまった。
51:
ヒロコ「ごめんね、こんなこと初めてだから」
ヒロコ「夢って、かなうんだって思って。それが信じられなくて、嬉しくて」
ヒロコ「ありがとう……」
ヒロコは鼻をすすり、涙目で俺たちを見た。
吉谷「まあ、そんな大した協力もできなかったけどさ…とりあえず、楽しかったよな?」
吉谷はそう言うと、俺を見た。
52:
ヒロコ、、
53:
俺「うん、ヒロコとバンドができて楽しかった」
俺「俺たちは、ただ楽しいと思ってやってただけだから」
俺「それでヒロコの夢を叶えられたなら、本当に良かった」
すると突然武智が近づいてきた。
武智「サマーハーツ最高だったわー!!」
俺の話を遮って、三人の輪に入り込んできた。
吉谷「お前、邪魔すんなよwwwwww」
武智「何が!?」
54:
ヒロコはそんな様子を眺めて、泣きながら笑っていた。
満面の笑顔だった。
夜も深まり、熱を増す夏祭りの喧騒の中で、
ヒロコは笑っていた。
本当に文句のない笑顔で、俺はきっと、その笑顔が好きだった。
55:
合宿7日目。東京に帰る日が来た。
この日もご多分にもれず、カンカン照りの暑い日だった。
ずっとここにいるような気がしていたけど、
やっぱり一週間なんて本当にあっという間だった。
バスが出発する少し前に、ヒロコが宿に訪れた。
宿舎の裏口から委員長が必死に俺を呼ぶので、
何事かと思ったらヒロコが来ていたのだ。
先生の目もあるし、と凄く急かされた。
56:
別れ際に会うと辛くなってしまうので、できれば会いたくなかったけど、
やっぱりそうもいかなかった。
ヒロコは、俺を見つけると柔らかな笑顔になった。
その笑顔を見ると、心がきゅっと締め付けられる気がした。
ヒロコ「東京、帰っちゃうんだね」
俺「そうだね。今日までだから……」
ヒロコ「これからも、ブルーハーツは聴くの?」
俺「うん、きっとね。好きだしさ」
57:
なんだろう、胸がムズムズする
58:
どうしてなのか、これまでのように会話が盛り上がらない。
どことなく、やるせなさを感じた。
俺「ヒロコは、これからどうするの?」
ヒロコ「これから? あたしの?」
俺「うん」
ヒロコ「実はあたし、中学卒業したらママの実家の方に転校するの」
宿舎の裏側は日陰になっていたものの、頭上には青々とした空が見えた。
遠くに、わずかだが雲が見えた。
59:
俺「そっか。ここからも離れちゃうんだね」
ヒロコ「そうなの。1は? 1はどうするの?」
そう訊かれて、ちょっと考えた。
何か取り繕うと思ったけど、今の自分をありのままに伝えることにした。
俺「俺はきっと、東京の大学に行くと思う。何になりたいかとか、全然分からないけど」
ヒロコ「そっかあ、やっぱり東京にいるんだよね」
60:
ヒロコ「それなら、あたしも東京の大学に行く」
ヒロコ「あたし馬鹿だけど、頑張って勉強して、東京の大学に行く」
俺「本当に?」
驚いてそう尋ねると、「これでも国語だけはなんとかなるんだから」と苦笑いした。
ヒロコ「もしそうなったらさ、その時1は大学4年であたしは大学1年だよね」
俺「ああ、全部上手く行けば……そうなるなぁ」
ヒロコは「だよねだよね!」と嬉しそうに体を揺らした。
61:
ヒロコ「ねえ、そこでまた『THE SUMMER HEARTS』作って、一緒にバンドしない?」
一瞬冗談のようにも聞こえる話だったが、ヒロコの表情は真剣そのものだ。
ヒロコ「あたしは、1の歌が好きなんだよ」
俺「またそれは、随分壮大な話だね……」
ヒロコ「あたしは絶対勉強して追いつくから!」
そう言って、ヒロコは俺にピックを差し出した。
俺「これ、なに?」
62:
ヒロコ「あたしが使ってたピック。あげたんじゃないよ、ただ貸してあげるだけ」
俺「え? 貸すって?」
そう尋ねると、ヒロコは「ふふ」と笑みをこぼした。
ヒロコ「あたしが東京の大学に行った時、返してもらうから。それまで持ってて」
ヒロコ「絶対なくしちゃダメだからね」
「そういうことかよ?」と笑ってしまった。
63:
ヒロコ「その時はまた、一緒にバンドしようね」
俺「分かったよ、きっとね」
ヒロコと俺は、そんなやり取りをして別れた。
実現するかも分からないような夢見がちな約束だったと思う。
でもこの時は、ヒロコも俺も、信じていればきっとそういう未来が訪れると思っていた。
64:
俺は今、大学4年の冬を迎えたが、あれからヒロコとは一度も会っていない。
あの子が今どこで、何をしているかも、正直知る術はない。
きっと、もう二度と会うこともないだろう。
願わくば、今もきっとどこかで、バンドをしていたらいいのになと思う。
あの時のまま、バンドに憧れて、大好きな仲間と一緒に楽しくギターを弾けていたらいいのになと思う。
変わらず、あの笑顔のままで。
65:
あの夏の一週間のことは、ずっと忘れられない。
ヒロコは、あの夏の記憶の片隅にいて、ずっと笑っている。
今も俺は、カラオケで『終わらない歌』を入れるたび、夏祭りの熱気と、あの女の子の笑顔を思い出す。
『THE SUMMER HEARTS』の思い出とともに。
66:
ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。
この話は私、富澤南の創作でした。
https://twitter.com/Tomizawa_2ch
スレはいつか落ちてしまうので、↑のTwiterにて、ご意見やご感想もお待ちしています。
ありがとうございました。
67:
偶然見つけて夢中で読んでたけどそうだったのか!!
めちゃくちゃ面白かったわ?
ありがとう!
68:
夏の話を書かせたらやっぱり上手いんだねぇ
前のバレーの話もすごく好きだった
感動したよ おつかれ
69:
おええええ
最後まで読んで良かった
ふざけんな!と言いたいが、、
正直心を洗われたよ
最近仕事で心が死んでたから創作でもこんな物語が読めて幸せだったよ
79:
風景がありありと浮かんできたわ
すげえいい話だった
82:
高校の時初めてバンド組んで最初に選んだ曲が終わらない歌だった俺の涙はここで枯れ果てた。
引用元: ・忘れられない人【前編】高3の時に起きた夏の一週間の出来事を聞いてくれ
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近藤健介 .407 3本 28打点 OPS1.127 (50試合)

古代都市パブロペトリ、ドッガーランドなど、海底に眠っていた驚異的な10の発見

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叔母に会うたびに、「目が二重になった!昔は一重だったよね?絶対一重だった! 」と言われる。

【正論】石破茂「北ミサイルは我が国の領空にも領土にも一切侵入してない。報道の混乱ぶり理解不能」

パチンカス「台風の日は出るぞ」

海外色々行くほど日本って良い国だと思うよな

【画像】スーツ姿がイケてるマンガ・アニメの男性キャラの画像を貼ってくwwwww

【画像】ナポリタン定食(800円)のクオリティwwwww

持ち家持ってても生活保護ってもらえるんだ?

【エロ注意】エッロいエッロい寝バックGIFを貼っていく

「 ホワイトロリータ 」 の対義語wwwwwwwww

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