少女「コミケ行くので泊めてください!」男「は……?」【後編】back

少女「コミケ行くので泊めてください!」男「は……?」【後編】


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ふと、目が覚めた。
あけぼのというには深すぎる、大都市の外れの、住宅街を包む夏の宵闇。
壁時計の針がさすのは丑三つ時。
ふと、窓から吹き込む夜の風に、目が覚めた。
なんとなく二度寝するのもきまりが悪いような気がして、
冷たい床から体を起こす。
だが。そこまで脳が覚醒して、……引っかかった。
この二日は、たしかに深夜に早く起きていた。
だが、早すぎる。
早く目覚めすぎるのも体に悪い、起きるのはせいぜい午前3時ごろ。
誤差といってしまえばそれまでかもしれない。
だが、今の時刻は、午前2時を少し過ぎたあたり。
なぜ俺は、今日に限って、少し早く目が覚めた?
447: 以下、
そこまで頭を巡らせて。
俺は、自分を眠りから揺り起こした要因に気付く。
風。
ベッドのそばにある窓から吹き込む、間近の秋を思わせるほのかに冷たい風。
しかし俺は、この風をしばらく肌で感じてはいなかった。
記憶が確かならばおよそ二日間ほど。
昨日までは何か、窓の風を、さえぎるモノがあって――――
いない。
この二日、いつのまにか見慣れた姿になっていた、彼女。
少女の姿が、そこには無かった。
448: 以下、
男「…………」
男「そうか」
男「…………」
男「アイツは、行ったか」
449: 以下、
男「キレイに自分の荷物だけ無くなっていやがる」
男「干しといた、昨日の服も……」
男「見事に無いな」
男「……ふう」
男「そりゃあ、もともと一人暮らしだし」
男「寂しいってこたぁ無いが……」
男「……ちょっと、薄情なモンだな」
450: 以下、
男「…………」
男「……となると、今日の予定も、変更か」
男「今日の天気は、一日を通しての晴れ」
男「予想最高気温は30度。べらぼうに暑くはないが……」
男「それでも進んで外に出たくはないな」
男「加えてビッグサイトなら。人々の熱気で、気温はマシマシだ」
男「そんなところに、好きこのんで行く理由は……」
男「もう、無いな」
451: 以下、
男「やれやれ」
男「…………」
男「……いや、ないな」
男「目当ても無いのに行っても、疲れるだけだ」
男「が、目が覚めちまったモンは、仕方がない」
男「どうしようかね」
男「…………明るいな」
452: 以下、
男「……月か」
男「満月とはいかないが、たいした光だな」
男「それでも、夏は空気中の水分が多いから」
男「さほどクッキリ見えているワケじゃないんだろうが」
男「でも、たとえば冬なら、空気が澄んで」
男「星も瞬いて……」
男「…………」
453: 以下、
男「……やめだ、やめだ」
男「アイツは、自分の意思で、行った」
男「ソレを俺がああだこうだ考えてどうする」
男「こんな時は月見酒だ」
ガサゴソ
男「一杯いくらの安物の酒でも」
男「気晴らしくらいにはなりますよってね」
454: 以下、
トクトク
男「…………」
ズズッ
男「…………」
男「まっず」
455: 以下、
ケータイ「プルルル! プルルル! プルプルプル!」
男「ん……?」
男「こんな時間に誰だ。メイワク電話か?」
男「…………」
男「友人か」
男「真夜中にいったい何なんだ。ったく……」ピッ
456: 以下、
男「はい、もしもし。俺だが」
友人『んんwww男氏wwwヤケモーニンwwwwwwぺゃっwww』
男「おはようという時間でもないだろう」
友人『それはwwwたしかにwww』
友人『しかし業界のアイサツは、すべてヤケモーニンですなwwwぴゃっwwwwww』
男「そんなコンビニか何かみたいな……」
男「いや、そんなコトはどうでもいい。こんな時間に何の用だ」
友人『んんwww男氏、黒ずくめ氏から聞きましたぞwww』
友人『三日目の今日はコスプレで参加する予定だとwww』
457: 以下、
男「…………」
男「いや、その予定だが」
男「申し訳ないが取りやめるコトになった」
友人『んん!?www何故ですかなwww』
友人『少女氏は乗り気であったと聞いているwwwwww』
男「その少女がいないんだ」
友人『…………んん?www』
友人『それはwwwいったいwwwどういうコトですかなwwwwww』
458: 以下、
男「だから、少女は、もう俺の家にいないんだよ」
男「昨日は、昼は俺のメシ食って、夜は出前で寿司とって」
男「それでさっさと寝たんだが」
男「いま起きたら、少女の姿が消えていた」
男「荷物も無い。自分の家に帰ったんだろう」
友人『……んんwwwだからソレはどういうコトですかなwww』
友人『我、まったく状況がつかめないwww』
友人『少女氏は、ザシキワラシか何かであったとwwwwww』
男「どうしてそうなる」
459: 以下、
友人『男氏、少女氏とケンカでもしたのですかなwww』
男「あいにく、一切断じて何も無い」
友人『では、何故wwwwww』
男「俺にもわからんよ」
男「ただ……」
友人『ただ?www』
男「アイツはどうも、満足したみたいだ」
男「この街に来た目的を終わらせてな」
460: 以下、
友人『んんwwwそのような抽象的なコトを言われても、まったくワケがわからないwww』
友人『我にもわかるよう説明するべきwww』
男「そう言われても、俺もこうとしか説明しようがない」
男「少なくとも、目的の一つはCOMIKEみたいだったが……」
男「それも、昨日、ああだったしな」
友人『…………』
男「そういうコトだ」
男「で、お前、結局何の用だったんだ?」
461: 以下、
友人『……いや、我、今日の朝はちと所用がありますのでwww』
友人『今のうちに、コスプレに関して、何か手伝えるコトがないかとwwwwww』
男「お前、コスプレの用意まであるのか……。ホント全方位だな」
男「だが。ソレも必要無くなった」
男「コスプレする当人がいないんだからな」
友人『…………』
男「本来なら俺から断りを入れるべきだが」
男「お前さえ良ければ、黒ずくめさんに伝えてくれないか」
462: 以下、
男「少女がいなくなったから、コスプレは出来ない」
男「俺も、三日目は、行く気は無い」
男「……って」
友人『…………』
男「理にかなってはいないんだろうが」
男「……それだけのために会うのも、バツが悪くてな」
友人『……わかりましたぞ』
友人『ですがwww男氏はソレで、いいのですかなwww』
463: 以下、
男「……? どういう意味だ」
友人『んんwww文字通りの意味www』
友人『男氏はソレで後悔は無いのですかなwwwwww』
男「…………」
友人『……んん、では我はまだ今日のサークルチェックが終わっていないwww』
友人『それではこれにてwwwぺゃっwwwwww』
プチ
ツー ツー ツー…
464: 以下、
男「…………」
男「言いたい放題、言いやがって……」
男「…………」
男「だけど俺は、アイツの保護者でも何でもないんだぞ……」
男「何の権利があって、何の責任がある……」
男「…………」
465: 以下、
男「…………」
男「……ちょっと、外の空気でも吸うか」
ガチャ
――アパートの外廊下
ヒュウウウウウウ…
カタカタカタ
男「…………」
466: 以下、
男「……月がまぶしいな」
男「相変わらず、ボロっちいアパートだ」ギシ
男「風呂設置する余裕があるなら」
男「リフォームの一つでもしやがれっての」
大家「いやー、すみませんね。そんなお金無くって……」
男「……!」
男「な……。……、な……」
大家「私が出店した稼いだお金で、少しでも男さんたちに還元できればいいんですけどね」
467: 以下、
大家「というのは冗談ですが」
男「冗談なんですか。断固リフォームする気は無いというコトですね」
大家「ええ。そんなコトしても、私に一銭のトクもありませんので」
男「コッチはコッチで、現金なヒトだ」
大家「……で。男さん」
大家「こんな朝早く、いや夜遅くに、いったいどうしました?」
男「…………」
男「……それは、コチラのセリフですよ」
468: 以下、
大家「え? 私ですか?」
大家「私はホラ、大家として、アパートの掃除なんかもしなきゃいけないのでー」サッサッ
男「…………」
大家「で、どうしましたか」
大家「もしやとは思いますが、……少女ちゃん案件ですか?」
男「……!」
男「…………」
大家「ふふっ、その顔は、アタリって顔ですねー」
469: 以下、
男「……どうして」
大家「え? だって私、会いましたもん」
大家「少し前、男さんの部屋を出ていく、少女ちゃんと」
男「……!!」
男「お、おい! アイツは! アイツはどこへ行った!?」
大家「…………」クス
大家「気になりますか?」
470: 以下、
男「……!」
男「……いや。べ、別に」
大家「ふっ、ふっ、ふっ。男さん、面白いなあ」
大家「そこまで取り乱しておいて、真逆のウソつくんですか?」
男「……ちっ」
大家「もう。オトコのヒトって、ほんとメンドクサイですねえ」
大家「心配だから、行き先を知りたい」
大家「気になるから、追いかける」
大家「それでいいじゃないですか」
471: 以下、
男「…………」
大家「…………」
大家「だーっ、もう。ホントにスナオじゃないんだから……」
大家「……じゃあ。コレは私のヒトリゴトです」
大家「聞くも聞かないも、動くも動かないも、男さんの自由です」
大家「それに関して私は何も思いませんし、何も言いません」
大家「ソレでいいですね?」
男「…………」
472: 以下、
大家「ヘンジが無いってコトは、承諾と捉えますよ」
大家「……そうですね。少女ちゃん、荷物を持って向こうの道に走っていきました」
大家「方角でいえば西。ちょうど太陽の沈む、夜明けとは逆の方向ですね」
大家「もっとも、今はまだ、朝焼けの時間には早いですが」
大家「あと少女ちゃん、なんでどこか行くのかって私が尋ねたら、こうも言ってました」
大家「『私はもう、ココにいちゃいけないから。ココにいる資格は無いから』」
大家「『男さんのメイワクになりますから』……」
大家「って」
473: 以下、
男「…………」
男「……アイツめ」
男「勝手なコトを……!!」ダッ
大家「ちょ、ちょっと! どこへ行くんですか!!」
大家「まさか本当に少女ちゃんを追いかけるつもりですか!?」
大家「西ってコト以外何もわからないんですよっ!?」
男「そんなコト、知ったことか!!」
474: 以下、
男「ココにいる資格は無い? 俺のメイワクになる!?」
男「そんなコト、一方的に聞かされて、黙ってられるかっ!!」
大家「…………」
男「……大家さん。情報ありがとう」
男「アテはある。だから、あとは俺一人で探します」
男「それでは」ダッ
大家「……待ってください」
475: 以下、
男「……?」
大家「…………」キュポ
無線『……繰り返します。お嬢、目的の少女、発見しました』
無線『どうやら高雄山に向かっているもよう。タクシーを使用しています……』
男「……、そ、それは……」
大家「もしかするとこういう事態になるかと思って、組のヒトに尾行してもらっていました」
大家「私のこまやかな心遣いに感謝してくださいね?」
男「…………」
476: 以下、
大家「さて、高雄山といいましたか」
大家「けっして近くはない場所ですが、クルマかっ飛ばせば、まだ間に合います」
大家「さすがに朝のタクシーは巡回していない時間帯ですので」
大家「深夜勤務のタクシーのケツを叩く、というコトになりそうですが」
大家「……どうしますか?」
男「そんなの、考えるまでもない」
男「少女を追います」
大家「…………」フフ
男「ありがとう、大家さん。やっぱり優しいですね」
477: 以下、
大家「ふふ。カタギのヒトに良い印象与えるのも、大切なシゴトなのでー」
大家「あんまりカン違いしないでくださいねー?」
男「わかってますよ」
男「それでは、俺はこれで……!」ダッ
大家「ええ! 思う存分、やっちゃってきてくださーい!!」
大家「……さて」
大家「組員さん。高雄山に向かうとおぼしきヒトは、本当に少女ちゃんだけですか?」
478: 以下、
無線『いえ。少女さんと同時に、いえ、少女さんを追うようにして……』
無線『数台のナンバープレートの無い車も高雄山に向かっています』
大家「……なるほど。私の直感も、捨てたモンじゃないですね」
大家「コチラ側ではないにしろ、尋常ではないのも確かでしたか」
大家「―――では皆さん。この夏、大一番のシノギです」
大家「組長には私から伝えます。組員の皆さんは、いつでも“動ける”態勢で、山へ」
大家「有事の場合は、現場判断での介入も許可します」
無線『了解です。お嬢』
479: 以下、
大家「ええ。お互い、頑張りましょう」ピッ
大家「……今日はCOMIKEの、三日目でしたか」
大家「まったく。どこのシマの人間だか知りませんが」
大家「カタギのヒトが楽しむお祭の日をジャマするのは、いただけませんね」
大家「さーてと。東狂、救っちゃいますか!」
 
480: ◆mclKiA7ceM 2017/08/29(火) 18:20:12.36 ID:IiVBuModo
最終章 前編は以上になります。
最終章 中編は、明日18時ごろの開始を予定しています。
481: 以下、
おつ
483: 以下、

486: ◆mclKiA7ceM 2017/08/30(水) 18:00:12.28 ID:d5mh3pIZo
それでは、最終章 中編を開始します。
今回は100レスほどの予定です。
487: 以下、
――高雄山 頂上
ヒュウウウウウウ…
少女「…………」
少女「さすがに、夏でも、晴れてても」
少女「標高の高いところの夜は、寒いなあ」
ヒュウウウウウウ…
488: 以下、
489: 以下、
少女「…………」
少女「真夜中なのに、あんなに煌々とネオンが輝いている」
少女「この世界は、あんなにもたくさんの人が暮らしてて……」
少女「そして、その人々には」
少女「それぞれ一人一人に、目的が、嗜好が、人生がある……」
少女「かぁ」
少女「…………」グス
490: 以下、
少女「あはは、なんで泣いてるんだろ」
少女「おじいちゃんにはたくさんメイワクかけちゃったなあ……」
少女「でも」
少女「ホテルのバイキングで、魚のカブトやお肉ばっか取って怒られたり」
少女「カップ麺に一緒にお湯をそそいだり」
少女「スーパーで食材買ってきて、一緒に料理作ったり」
少女「お寿司の出前でイチバン高いヤツ頼んじゃったり……」
少女「小っちゃいころみたいで、楽しかったなぁ」
491: 以下、
少女「って、食べるコトばっかりだ」
少女「あはは。他には……」
少女「…………」
少女「COMIKEかぁ」
少女「ありえないくらい、いっぱい人がいて……」
少女「ふふ。えっちな本やアクセサリーなんかも、いっぱい買って」
少女「……タイヘンなコトもいっぱいあったけど」
少女「想像通りの。いや、想像以上のお祭だった」
492: 以下、
少女「でも」
少女「あのお祭は、集まった数十万人という人々が」
少女「あんなに色んなヒトがいるのに」
少女「皆。少しずつルールを守って」
少女「絶妙な自由と秩序のバランスの上で成り立っている」
少女「だから」
少女「私みたいなヤツが、いちゃいけないんだ……」
493: 以下、
少女「私みたいな、心の汚れたヤツが……」
少女「…………」グス
少女「おじいちゃん。ごめんね……」
男「ココにいたか」ザッ
少女「……!」
少女「……お。…………男、さん……」
494: 以下、
男「…………」
少女「…………」
男「…………」
男「……まあ、その、なんだ」
男「別れのアイサツのヒトコトくらい、しておくべきかと思ってな」
少女「…………」
少女「……どうして、ココがわかったんですか?」
男「あー……」
495: 以下、
男「一つは、情報のタレコミ」
男「プライバシーに配慮して名前は伏せるが。お前を心配してくれている、ヒトがいた」
少女「…………」
男「そして、高雄山でも、頂上にいると思ったのは」
男「東狂の海のハナシしてたろう。眩い海、瞬く星……」
男「海でも空でもないが、山でそれらにイチバン近い場所といえば」
男「この頂上だと思ってな」
少女「…………」
496: 以下、
男「俺の推理は以上だ」
男「だけど、なんでお前がココに来たのか、そんなコトはセンサクせん」
少女「…………」
男「…………」
男「だけど、ゴカイは解いておきたい」
少女「……?」
男「お前、俺のメイワクになるから帰る、とか言ったらしいな」
少女「え……!」
497: 以下、
男「あー。タレコミ元、バレちまったか……」
男「まあいいや。大家さんも共犯ってコトだ」
男「あのヒトも、あのヒトなりにお前のコト、心配してたぞ」
少女「……そうですか」
男「とにかく。お前が自分のコト、俺のメイワクになるとか思ってるなら」
男「ソレはマチガイだ」
男「お前のコトをメイワクだなんて、一度も思ったコトは無い」
少女「男さん……」
498: 以下、
男「それよりもな。この二日間……。いや、出会った日も含めれば、三日間か」
男「俺はお前と一緒にいて、楽しかった」
男「そりゃあ人の多いCOMIKEは苦行のヒトコトだったが……」
男「それでも、お前と行くCOMIKEは、楽しかった」
男「ガラにもなく、今日も行ってやろうか、なんて一瞬思ったくらいだ」
男「お前がいないんなら、行く意味も無いけどな」
少女「…………」グス
男「少なくとも、この三日間、俺は娘が出来たみたいで楽しかった」
男「だから……」
499: 以下、
男「俺のメイワクになるとか、言わないでくれよ」
ギュッ
少女「……!」
男「こんな明るい子に、そんな風に自分を責められたら……」
男「哀しくなるだろ……」
少女「……男さん…………」
500: 以下、
男「お前はメイワクなんかじゃない。俺が断言する」
男「お前さえ良ければ、来週も、来月も、いつまでも……」
男「俺と一緒にいてほしい」
少女「男さん……」
少女「……うぅ。私も、私だって……」
少女「男さんと一緒にいたいですよぉ……!!」
男「…………」
少女「うっうっ。うぅ、うわぁぁぁ――――ん…………」
 
501: 以下、
男「……落ち着いたか?」
少女「……ハイ」
男「なら、戻ろう」グッ
少女「…………」
少女「それは、出来ないんです」
男「どうして」
少女「…………」
502: 以下、
少女「……私が、この街にいられるのは、あと一日」
少女「今日にはもう、帰らなくちゃいけませんから」
男「だったら、今日一日だけでも」
男「今日一日だけでも、一緒にいるコトは出来るだろう」
少女「…………」
少女「だけど」
少女「私なんかが、戻っていいんでしょうか」
少女「戦士の戦利品を盗もうとした、私なんかが……」
503: 以下、
男「…………」
男「……そうだな」
男「窃盗未遂でも、窃盗は窃盗」
男「見つかれば許されるハナシじゃあないだろう」
少女「…………」
男「でも」
男「集まった数十万人だって、全員が全員根っからの善人じゃない」
男「ちょっとくらい心に後ろ暗いところだってある。人間なんだから」
504: 以下、
少女「…………」
男「……ナットクいかないって顔だな」
男「…………上を見ろ」
少女「上……?」
男「夏の夜明けは早いが、まだ日は昇っていない」
男「空を見てみろ。黒い夜の空を」
少女「空……」
505: 以下、
506: 以下、
少女「…………」
少女「きれい」
男「だろう。ココは、東狂で最も空に近い場所の一つ」
男「最も星がよく見える場所の一つだ」
少女「こんな星空が、本当にあるなんて……」
少女「まるで天然のプラネタリウムだなぁ」
男「なんじゃそりゃ」
507: 以下、
男「……これでも、夏は空気中の水分が多いから、冬のほうがよく見える」
男「街の光が届くこんなところより、内陸の山のほうが、もっと星はよく見えるぞ」
男「自然は限りなく広い」
男「お前の目に見えている部分なんて、ほんの一部なんだ」
少女「…………」
男「って、大学生風情が何を、ってハナシだがな」
男「だけど。ヒトも、同じコトだ」
男「見てみろ、星を」
508: 以下、
男「様々な大きさ、様々な色、様々な輝きをする星が、無数にある」
男「俺たちの目に見える太陽系の星から、銀河の果てまで、限りなく」
男「そして、無窮に瞬く星々……」
男「とはいうが、永遠に輝きつづける星なんて、この世には存在しない」
男「すべてが等しく有限で。すべてには等しく終わりがあり」
男「だからこそ、こうして今を、きらめくんだ」
少女「…………」
男「人間だって、色んなヤツがたくさんいて、色んな考えを持ち、ソレを表現している」
509: 以下、
男「だからこそ。俺も、お前も」
男「COMIKEっていう、デカいお祭に、心惹かれるんじゃないか?」
少女「…………」
男「そして、俺もお前も、その一員だ」
男「スタッフも、サークル参加者も、一般参加者も」
男「それは店と客の関係じゃなく、等しく皆が同じ“参加者”」
男「……それが、COMIKEの理念の一つだ」
少女「参加者……、ですか」
510: 以下、
男「そうだ。だから、悔やむ意味はあっても、恥じる必要はない」
男「幸いにも、表現する手段は、黒ずくめさんや友人が用意してくれている」
男「だから」
男「あと一日だけ、COMIKEに戻って、悔いの無いように参加しても」
男「いいんじゃないかと、俺は思うがな」
少女「…………」
少女「ふふっ」
男「む。何がおかしい」
511: 以下、
少女「いえ。オカシクはありませんが」
少女「男さんは、いつでも、同じコトを言うんだなって」
男「はぁ? こんな……、ハズカシイことっ、言ったのはコレが初めてだと思うが」
少女「ふふ。目は口程に物を言う」
少女「というワケではありませんが、いつも心に思ってるコトは」
少女「ふとした時に口をついて出るモノですよ」
男「そうか。……用心しなければな」ムム
少女「ふふふ」
512: 以下、
男「で、どうする。それでもなお行くというのであれば、止めはしないが」
少女「……いいえ。戻りますよ、私は」
少女「今年の夏のCOMIKEの、最終日」
少女「二人で。いや、みんなで」
少女「悔いの無いように楽しみましょう」
男「…………」
男「そうだな」
ザワ…
513: 以下、
少女「あ……」
男「朝日が……」
514: 以下、
少女「きれいですね……」
サワ…
少女「朝日とともに、光も、風も、鳥も、一緒に動き出して……」
男「…………」
男「太陽が昇れば、小さな光は消えていく」
男「いや……。太陽という大きな光に、集まっていく」
男「行こう。俺たちも、俺たちの場所に集まっていく時間だ」
少女「はい!!」
ザッ
515: 以下、
男「……?」
チャキ チャキ チャキ チャキ
特殊部隊「動くな!!」
男「……!!」
少女「……、……」
ザッザッザッザッ ザッザッザッザッ
チャキ チャキ チャキ
516: 以下、
男「……おい。何のマネだ、これは?」
特殊部隊「動くなと言っている」チャキ
特殊部隊「…………」チャキ
特殊部隊「…………」チャキ
特殊部隊「…………」チャキ
男(拳銃を構えた迷彩服が、6,7……、およそ十人足らず)
男(COMIKEのコスプレ……、というワケではなさそうだな)
男「おい、少女」
517: 以下、
少女「…………」
男「なんだ、コレは。お前の友達か?」
少女「……いえ」
少女「こんな悪そうな友達がいたら、怒られちゃいますから」
男「…………」タラ
男(……サッパリ意味がわからんが)
男(ヘタに動けば、明日のお天道様は拝めないコトはわかる)
男(まずはコイツらの目的がハッキリしないと……)
518: 以下、
少女「わかっているぞ。目的は私だろう?」
男「……!」
特殊部隊「そうだ。スナオじゃないか」
少女「いやー、見慣れた顔だからな」
少女「おおかた。私がココに戻るのを、この数日、ずっと待ってたんだろう」
少女「暑い中、雨の降る中。ご苦労ってモンだ」
特殊部隊「それ以上喋るな」チャキ
519: 以下、
特殊部隊「“ブツ”のある場所に、案内してもらおうか」
少女「…………」
男「…………」
少女「……すいません、男さん」
男「……?」
少女「残念ですけど、ココでお別れみたいです」
男「な……!」
520: 以下、
少女「さすがに。一人、二人ならまだしも」
少女「十人近くが相手では、さしもの私も、手も足も出ません」
少女「おい! このヒトは関係無い。解放してやれ」
特殊部隊「ふん……。いいだろう」
男「…………」
少女「男さん。少しの間だったけど、楽しかったです」
少女「この数日間は、私の短い人生の中でも、イチバン輝いていたと思います」
男「おい! そんな言い方……」
521: 以下、
少女「行ってください」
少女「これは、私の戦い」
少女「あなたを巻き込むワケには、いきませんから」
男「…………」
特殊部隊「……ハナシは決まったようだな」
特殊部隊「それでは、“ブツ”を見せてもらおうか」
少女「ええ。それなら、こ……」
ヒュルルルルルル…
522: 以下、
男「……ん?」
男「なんだ、この音…………」
523: 以下、
ズガァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!
特殊部隊「ッ!!?」
特殊部隊「総員、伏せろォォォッッ!!!!」
男「な……、な……!?」
少女「なんですか、コレ……!」
ヒュルルルルルル…
524: 以下、
525: 以下、
特殊部隊「ぐわああああああッッッ!!!」
特殊部隊「敵襲、敵襲! いったいどこに……!?」
男「おい、少女! お前の手引きか!?」
少女「知りませんよ! こんな超火力出せる重火器持ち込んでませんし!!」
組員「男さん、少女さんですね」ヌッ
男「……!? どうおわぁぁぁぁっっっ!!!」
少女「黒服のヒトたち……。いったいどちら様です?」
526: 以下、
組員「私どもは貴方がたの味方です」
組員「それとも……。お嬢の部下、と申し上げたほうが通りが良いでしょうか」
男「ああ、大家さんの……!」
少女「えぇ? 大家さんがお嬢で、部下って……、えぇ!?」
組員「細かい説明は後で」
組員「あの特殊部隊は、我が組の精鋭が抑えています」
組員「お二人はコチラへ」
組員「友人さんから連絡を受けたという“有志”の方が、お待ちです」
527: 以下、
男「え、友人の奴が……? いったい誰を……」
528: 以下、
少女「く、クルマ!?」
男「……ちょっと待て。このタクシーは……!!」
運転手「ええ。お久しぶりです」パカッ
運転手「およそ半日ぶりですな」
男「う、運転手さん……!」
少女「あなたが、一体どうして……」
運転手「いや。今日もいつも通り、日が昇ってから動き出す予定だったのですが」
運転手「息子に呼び出されましてな」
529: 以下、
男「え……? 息子って、いったい誰」
運転手「さあ、ウカウカしてるヒマはありませんぞ!」
運転手「この山を脱出します。はやく後部座席に!!」
男「わ。わかりましたけど……」パタン
少女「……そ、その口調。まさか……」
組員「それでは、運転手さん。お二人をお願いします」
運転手「任されましたぞ。走り屋の誇りにかけて」
運転手「目指すは、朝日をその逆三角形に浴びる、ビッグサイト!!」
530: 以下、
運転手「んん、久方ぶりの全力全開!!」
ギュルルン!! ギュルルン!!
運転手「―――フルスロットル以外はあり得ない!!!」
ブオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!
531: 以下、
――首都高道路
ブオオオオオオオ
少女「……高雄山が、みるみる遠ざかっていく」
男「い、いったいこのクルマ、何キロ出てるんですか!?」
運転手「今、120キロになりましたな」ブオオオオオ
男「ブッ壊れますよ!?」
運転手「私の運転に耐え得る程度の改造は施していますので」
532: 以下、
男「だいたい、何もこんなに急がなくても……」
男「謎の特殊部隊は、組員のヒトたちが止めてくれてるし……」
ドォォン!!!!!!
少女「あ。また、山のほうで爆発が」
少女「アイツら、ホンモノの仕事人ですよ。大丈夫かな……」
運転手「ほっほ。ご安心を」
運転手「仮に相手がホンモノだとしても」
運転手「彼らもまた、“ホンモノ”なので」
533: 以下、
プァンプァンプァンプァン!! プァンプァンプァンプァン!!
男「……!?」
パトカー『そこの暴走タクシー!! 今すぐ止まれぇぇぇ!!!』プァンプァンプァンプァン
運転手「おっと……。サツの小僧の群れが、何か言っていますな」
男「う、運転手さん? ココの高道路の制限度は!?」
運転手「ん……。たしか、通常は60キロでしたかな」
男「ダブルスコア!!」
534: 以下、
男「俺たち、そこまで急いでませんから! 法定度内で走りましょう!?」
運転手「残念ながら、一度動き出した“相棒”は」
運転手「私にも止められないのです」
男「うっそだー!!!」
少女「でも……、男さん! 私、燃えてきましたよ!!」
少女「不肖私。カーチェイスは何度か経験がありますが」
少女「こんなにアツい逃走劇は、コレが初めてです!!」
男「君も君で何でカーチェイスの経験なんてあるのかな!」
535: 以下、
パトカー『そこの……、暴走タクシー……。今すぐ……、止ま……』プァンプァン…
少女「……みるみる、遠ざかっていきますね」
運転手「既に老いぼれた身ですが、ぺーぺーの若造どもには負けませんぞ」ブオオオオオ
運転手「というか量産型の白黒パンダごときの出力に」
運転手「我が“相棒”が、遅れをとる道理がありませんな」
運転手「なあ、相棒!!」
タクシー「…………」
536: 以下、
男「…………」ハハッ
少女「ちょ、ちょっと待ってください!!」
少女「進行方向にETCのレーンが!」
537: 以下、
運転手「―――む」キキッ
ギュリルルルルララララララララララララ!!!!!!!!!!!!
男「ちょ、ちょっと! 車体がイケナイ声あげてますよ!!」
運転手「―――奔れ! 天馬の如く!!」
ヒヒイイイイイインンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!
少女「ま……、まるで! クルマから出る摩擦音が、馬のいななきのようです!!」
538: 以下、
男「というか奇蹄目の鳴き声そのものではァ!!?」
運転手「久方のエキサイトに相棒も悦んでおりますな」
運転手「さあ、ここからですぞ!!」バッ
シュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!
少女「車体が、空気の層を破って……! いや、走りながら取り込んで!!」
少女「いわば風の結界!! インビジブル・アーマーを作りだしています!!」
運転手「数多のライバルと渡り合うためには……。こういった技術も必要だったのですよ」
男「いったいナニと戦ってたんですかぁぁぁ!!?」
539: 以下、
ETC係員「ん……? なんだありゃ…………」
ETC係員「ってぇ!? う、うおああああああああああああ!!! 轢かれるぅぅぅ!!!!!!」
540: 以下、
パラパラ…
ETC係員「あ〜〜〜れぇ〜〜〜!!!」ジャポン
男「……い。ETCが、木端微塵に……」ダラダラ
少女「係員のヒトは海に投げ出されました! いちおう無事です!」
運転手「避けられるか、避けられないかを考える必要は無い……」
運転手「ジャマだと思ったら、とりあえずぶち破ってみる」
運転手「それが、ハードボイルド……」
少女「か、カッコイイ……!!」
541: 以下、
運転手「タバコ。よろしいですかな」
男「え、ええ……」
運転手「かたじけない」
シュポ
運転手「ふぅー…………っ」
運転手「やはり走りの最中に吸うシガレットは格別ですな」
男「……あ、あの。あなたは、以前からこんなコトを?」
運転手「東狂という街の日常ですな」
542: 以下、
男「本当に、この運転手さん。いったい何者なんだ……」
ギャルルルルルルルルルルルル…
男「……? 今、何か……」
少女「あれは……? 後ろから、何か白いのが……」
少女「このクルマに、超スピードで猛追してきます」
運転手「――――……!!」
運転手「……あ。アレは……」
543: 以下、
544: 以下、
少女「し、白バイです!! しかも改造車!!」
少女「ば、バイクなのにスゴいスピードですよ! このままじゃ追いつかれる!!」
男「チョーシ乗ってるから何かトンデモナイのが出てきちゃったじゃないですかぁぁ!!?」
運転手「……単車で、私の相棒に追いつく警察……」
運転手「まさか……」
運転手「ちょっと、揺れますぞ。どこかに掴まってください」
男「へ!? 揺れるって……」
545: 以下、
少女「そういえば、今日もある、サイドブレーキ脇のコップ……」
少女「いまだに中身の水が、一滴もこぼれていません」
チャポン
少女「ソレがこぼれるほどの。“何か”を、すると……!?」
男「何かってナニ!!?」
運転手「どうやら、“重り”を外す時が来たようですな……」
運転手「バックタイヤ!! パージ!!」
ポチ
バカァン!!!!!!
546: 以下、
少女「ああっ、車体の後ろについていたタイヤが外れました!!」
男「そ、そのままバイクのほうに飛んで……!」
白バイ「――――!!」
547: 以下、
男「起爆したぁ!? ちょっ、なんてモノ載せてるんですか!!」
男「ていうか何で爆弾なんて使ってるんですかァ!?」
少女「あーあ。ありゃ、あの白バイ、運転手もろとも爆発四散ですねぇ……」
運転手「―――いや」
548: 以下、
男「……!!」
少女「爆発の中から、人影が……!?」
549: 以下、
ギャルルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!!
少女「あの白バイ!! 爆発をモノともせず、追いかけてきます!!」
運転手「やはりか」
男「……ちょっと、あの白バイ、なんか構えてますよ!!」
550: 以下、
少女「……!! マシンガンです、あれは!!」
少女「当たったらいくら改造車でもハチの巣ですよぉ!?」
男「なんで今日は機関銃とか爆弾とか改造車とかが出てくるんだァ!!?」
運転手「……ふ」
運転手「どうやら相手は、本気で私たちを仕留める気のようですな」
運転手「掴まって! ドリフト旋回のち、防護シールドを展開し、迎撃します!!」キキッ
男「迎撃!!? 何なの、このクルマ!!!」
シュゴオオオオオオオオ!!
551: 以下、
白バイ「――――」ニヤ
カシャァン!!
少女「……? 白バイ、マシンガンを捨てました……!」
運転手「なんだと、重火器はフェイク!!」キキキキィ
運転手「では、本命は……!」
白バイ「――――」チャキ
  ライフル
運転手「小銃!! 止まったところで、タイヤを撃ち抜く気か……!」
552: 以下、
男「もぉ〜〜〜ダメだぁ〜〜〜!」
運転手(読まれた? この私が……)
運転手「だが、ならば!!」パカッ
少女「や、屋根を開けて何をする気ですか!?」
運転手「その素顔、見せてもらおう……!!」スチャ
男「バズーカ!?!!??!??!?! 今あなたコレどっから出したんですか!!?!?」
運転手「深く追究してはいけませんぞ!」
白バイ「――――!!」
553: 以下、
554: 以下、
555: 以下、
ブアァァァァァァァァッ
少女「ぐ……。トンデモナイ爆風です……」
運転手「すぐに再発進しますぞ! 掴まって!!」
ブオオオオオオオ
男「こ。公道でコレはイカンでしょ……」
男「はっ、それよりも、あの白バイは!?」
運転手「…………」
556: 以下、
カラァン
少女「……あ」
男「ヘルメットが、外れて……!」
運転手「…………」
運転手「お前しかいないと思っていたよ」
運転手「署長」
署長「…………」
557: 以下、
署長「……久しぶりだな。運転手」
署長「オレも、朝から首都高を爆走するようなバカは」
署長「お前しかいないと思っていた」
運転手「ふ。署長になっても、真っ先に現場に出るのは変わりなし、か」
署長「否定はせんがな。そのパトロールで、昨日、お前の息子にも会ったぞ」
運転手「……!」
署長「COMIKEで無線傍受をしていたが。……いい面構えをしていた。懐かしいな」
運転手「血は争えんというコトか。ならば代わりに、親の私をナワにかけるか?」
署長「……望むところだ。決着をつけよう。いつかの因縁、いつかの勝負に」
558: 以下、
少女「しょ、署長? 署長さんって、あの!?」
男「昨日、COMIKE会場で、出会った……!」
運転手「奴とは、若い頃、ちと因縁がありましてな」
運転手「今はこの付近の警察署の署長なんかに収まっていますが……」
運転手「当時は、それはそれは、激しくぶつかり合ったものです」
署長「……いくぞ!!」
ギャルルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!!
少女「白バイ、再発進します!!」
559: 以下、
運転手「ならば我らも逃げるまで」
運転手「……しかし、どうやら、タイムアップが近いようですな」
男「え……? それは、どういう……」
運転手「見てくだされ。左手を」
560: 以下、
男「あれは……、虹の大橋……!! いかにも封鎖されそうな……」
運転手「橋を抜ければ、ビッグサイトはもう間近」
運転手「ココで振り切れなければ、我らの敗北です」
少女「でも、振り切るって、どうやって!?」
少女「初手の分離爆弾はかわされ!」
少女「ドリフトと防護シールドは見切られ!!」
少女「バズーカの砲撃を受けても、なお走り続ける!!!」
少女「あの署長さん、尋常な警察官ではありません!」
少女「そんな相手を……、止めるスベがあるというのですか!?」
561: 以下、
運転手「…………」
運転手「モチロン、今までに使用した武器の他にも、このクルマには」
運転手「対戦車用も含めていくつかの弾薬を積んでいます」
運転手「だが、ソレではおそらく奴には通用しない」
運転手「奴を倒すには、焦土兵器でもなければ……」
少女「……。さすがに、東狂の街を荒野には出来ませんね」
男「焦土兵器が無いと倒せない警察官って何なんだ……」
男「だいたい、荒野にはならなければ、重火器使ってもいいのか……」
562: 以下、
運転手「ともかく、大橋に入ります。直進!」キキ
ブオオオオオオオ
少女「……あ」
少女「左手。東の海から、日が昇って……」
563: 以下、
男「…………」
男「暁の水平線か。眩く照らされる海……」
少女「ミナモに朝日がきらめいて。……美しいです」
男「――――!?」
男「ちょっと待て。太陽を背にして飛んでいる、アレは……!!」
564: 以下、
運転手「―――ま、さか」
運転手「署長のバイク……!?」
少女「え……!?」
少女「……あ! 本当だ、バイクがコッチに向かって飛んでる!!」
男「そ、そこの埠頭を踏み台に飛び上がったのか!? そんなムチャな……!」
運転手「マズい、追いつかれる……!!」
ピー ピー ピー
565: 以下、
運転手「……? こんな時に無線通信!?」
ピッ
運転手「誰だ! 何の用か知らないが、今は取り込み中だ!!」
無線『―――、一日遅れの“雨”が降る。傘が無いなら、左にかわせ』
運転手「……!!」
男「な……?」
少女「こ。この声は……!!」
566: 以下、
運転手「……そうか。そういうコトか」
キキ!!
署長「とらえた――――!」
少女「白バイ……。上から来ます!!」
男「つ。潰される……!」
運転手「―――急発進。フルスロットルゥゥ!!」
567: 以下、
――虹の大橋 ビッグサイト側
自転車「フーン、フーン♪」チリンチリン
パトカー「ちょっと、ソコのキミ!!」プァンプァン
自転車「げ……!」
パトカー「こんな時間に自転車で出歩いて」キキッ
パカッ
警察官「いったい何してるんだ?」
自転車「ええ……、と、ですね。実はCOMIKEに行くために」
568: 以下、
警察官「ふぅん。COMIKEに、ね……」
警察官「いったいどこから来たの?」
自転車「愛智県の小牧t……」
パトカー「バキバキバキバキ!!!!!! メキメキメキメキメキメキ!!!!」
警察官「えっ!!?」
トラック「お……? あ。悪いな! パトロールの兄ちゃん!」
トラック「トラックでパトカー、ぺしゃんこにしちまったわぁ!!」
569: 以下、
トラック「ガッハッハッハ!!!」バンバン
警察官「えっ? えっ!!?」
自転車「うわあ……。これはヒドい」
トラック「そんなコトより、おとーさん! もう無線入れたんでしょ、ジュンビするよ!」
トラック「おうよ。コロンビア・AAモデル、装填! 発射よーい!!」
トラック「撃ェェェェェェェェェェェェいッッッ!!!!!!」
シュボボボボボボボボ!!!!!!!!!!!!
570: 以下、
――虹の大橋 中央部
運転手「―――急発進。フルスロットルゥゥ!!」
ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!!!!!!!!!
男「左に発進したはいいけど……。白バイにすぐに追いつかれますよ!?」
少女「待って……。何かが、飛んでくる!!」
ヒュルルルルルル…
運転手「……なるほど」
571: 以下、
運転手「これは、たしかに“雨”ですな」
男「え……?」
少女「あ……、“雨”って。もしかして……」
少女「あのデタラメに飛んでくるミサイルのコトですかぁぁぁ!!!?」
ヒュルルルルルル…
署長「なん―――、だと―――!!!」
572: 以下、
573: 以下、
574: 以下、
署長「ぐわああああああああああああ!!!!!!」
運転手「ぐぅ……っ!」
少女「ミサイル、数十発……。虹の大橋の中心をぶち抜きました!」
少女「大橋の中心部は完全に崩落。私たちのいるほうと、向こうで分かれています」
少女「そして、私たちのいる反対側、崩れた橋の向こう岸にいるのは……」
署長「ぐっ……」
少女「署長の姿です! 完全に署長の追跡を止めました!!」
575: 以下、
男「は……、はは。やったのか……」
男「今日だけで、いったい何回、爆発が起こったんだ……?」
少女「しかし。この数十発のミサイルの主は、いったい?」
少女「見たところ、発射角がデタラメ過ぎて、橋の架かっている湾内はおろか……」
少女「都心のほうまでミサイルが飛んでいますが……」
トラック「はっはっはァ!! それなら大丈夫だ!!」
トラック「ミサイルはヒトの住んでる地域に飛ばないようセッティングしてるんでなぁ!!」
576: 以下、
男「お、大型トラックから声が……!?」
少女「この声……。さっきの、無線の!!」
運転手「……まさか、お前たちまで現れるとはな」
トラック「よう」ガバッ
組長「愛と正義の救援隊、到着だァ!!」
大家「あ、私もいますよー」
男「お。大家さん……!」
少女「それに大家さんのお父さんも!!」
577: 以下、
組長「おお、おお! バカ娘のタナコども! 一昨日のケバブ屋以来だな!」
組長「謎の特殊部隊に襲われたってのに、元気そうで何よりだ!!」バンバン
大家「ぐふっ……」
少女「な、謎の特殊部隊って……」
少女「大家さんのお父さん、高雄山の特殊部隊のコトを!?」
組長「ああ、モチロン知ってるぜ。なにしろ」
組長「特殊部隊をハデに爆撃したのは、ウチの組のモンだからな!!」
少女「え。く、“組”って……?」
578: 以下、
男「ああ……。さすがに説明しなきゃならないか」
男「大家さんの家は、このへん一帯の地主なんだ」
男「そしてお祭に出店なんかもよくする」
男「……ここまで聞いて、何か思い当たる職業は無いか?」
少女「そ……。それは、ウワサに聞く、アレですか」
少女「大好きなモノは、金、女、暴力」
少女「失くした小指は忠誠のアカシ」
少女「恐怖を恐怖で支配する、ヤのつく自営業そのヒトであるとっ!!」
579: 以下、
組長「はっはっはァ! そりゃまあ言いすぎだがよォ!!」
組長「場合によっては、そういうコトもある」
男「ひえッ……」
少女「おトナリさんが実は極道だった……」
少女「アパート暮らしとかは、かくも面白いモノなんですね!」
大家「はいはい。お喋りはそのへんで」
大家「まずは男さん。目的を達成できたようで何よりです」
男「あ……」
580: 以下、
大家「次に少女ちゃん。勝手なコトして、男さん困らせたらダメですよ?」
少女「……はい。スミマセン」
大家「うん。わかればいいんです」
大家「そして運転手さん!!」
運転手「何ですかな。組長のお嬢どの」
大家「……あ、あなたが。伝説の?」
運転手「いかにも。もっとも、伝説かどうかは、私には判断しかねますが」
組長「はっはっはァ! まあ、イカれた暴走伝説ってやつだ!!」
581: 以下、
大家「友人さんのコトも含めて、色々と問い詰めたいコトはありますが」
大家「まあ、今はそれどころではないようですね」
プァンプァンプァンプァン!! プァンプァンプァンプァン!!
少女「げ、このサイレンは……」
少女「向こう岸にパトカーの大軍が!!」
男「今はまだ向こうにいるが、コッチに周ってくるのも時間の問題だな」
大家「はい。ですからお三方は、今すぐCOMIKE会場に直行してください」
582: 以下、
少女「え……」
大家「どうせ行くんでしょう? COMIKE」
男「…………」
少女「……ええ。モチロンですとも!!」
少女「だって私は、そのためにこの街に来たんですから!」
男「…………」フッ
運転手「良いカノジョさんですな」
男「さて。何のコトだか」
583: 以下、
大家「良いヘンジです。そうこなくっちゃ」
大家「それと、男さん! コレを」ポイッ
男「……ん? おとと、ウワァ!!」ドカッ
大家「忘れ物ですよ」
大家「COMIKEに向かう戦士には必需品じゃないんですか、そのバッグは」
男「持ってきてくれたんですね……。昨日の装備を入れっぱなしにしておいて良かった」
男「ありがとう」
大家「いいってコトですよ」
584: 以下、
大家「では、この場は私たちに任せてください!」
大家「さあ。パトカーの集まっていない、今のうちに!!」
運転手「……かたじけない!」ブオオオオオオオ
少女「大家さーん! ありがとうございましたー!!」
男「このお礼は、必ず!!」
シュゴオオオオオオオオ!!
大家「……行きましたか」
組長「やれやれ。ハデにやってくれたモンだぜ」
585: 以下、
組長「山ン中での撃ち合いくらいならともかくよォ」
組長「橋の真ん中がゴッソリいっちまったとか、どうすんだ?」
大家「私としては、都心のほうに飛んでいったミサイルも気になるんですが……」
大家「……あ。山毛線、全線運行見合わせみたいです」テロテロリン♪
大家「車線に爆発物落下とかで」
組長「はっはっはァ! こりゃあ大事故だなァ!!!」
大家「笑ってる場合じゃないですから……」
組長「だが、あの嬢ちゃんは帰ってきて、全員無事で、万事うまくいった」
586: 以下、
組長「そうだろう?」
大家「…………」
大家「まあ、たしかに?」
大家「終わり良ければすべて良し、といいますか。当初の目的はすべて達成できましたね」
組長「そうそう! あとは自分で自分のケツを拭くだけだ!!」
大家「といっても、高雄山での爆発事件隠蔽、首都高のETC破壊の損害賠償支払い」
大家「タクシー度超過事件の揉み消し、それにこの虹の大橋の崩落事件弁明……」
大家「ああ、そういやさっき、なんかパトカー一台も潰してましたっけ」
587: 以下、
組長「はっはっはァ! そのへんの事後処理はお前に任せるぜ!!」バンバン
大家「ぐふ。ホント、都合いいんだから……」
プァンプァンプァンプァン!! プァンプァンプァンプァン!!
署長『そこのトラックの持ち主!! 組長だな、動くな!!!』
大家「あ。署長さんの白バイ来ちゃいましたよ。どうやって逃げるんですか?」
組長「ん? 今回はヘリも出してないし、逃げ場無えなあ」
大家「……え。それって……」
588: 以下、
組長「そう! 夏の海なら安心だァ!!」
組長「飛び込めェェェ!!!!!!」
大家「ウソだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
ドボーン
ドボーン
 
589: 以下、
最終章 中編は以上になります。
最終章 後編は、無事に完成した場合は、明日18時ごろの開始を予定しています。
599: ◆mclKiA7ceM 2017/08/31(木) 18:00:34.81 ID:YzE8DNDmo
それでは、無事に完成しましたので、最終章 後編を開始します。
最後は150レスほどの予定です。
600: 以下、
――鷲ントンホテル前
キキッ
運転手「ひとまずココでよろしいですかな」
男「あ……、ありがとうございます」
男「なんかとんでもないコトになっちゃったんですけど……」
運転手「いやいや。年甲斐もなく私も、楽しませてもらいましたぞ」
少女「アレで、まだ余裕があったと……? このヒトの本気とはいったい……」
601: 以下、
運転手「おそらく私のクルマは、既にマークされているハズ」
運転手「このままココにいてはメイワクがかかるので……」
運転手「ホトボリが冷めるまでは、どこかに身を潜めていますかな」
運転手「それでは、私はこれで」
運転手「お二人とも。三日目、楽しんでくだされ!」
ブロロロロロ…
男「ええ! 運転手さんも、お元気でー!」
少女「捕まらないよう、頑張ってくださいねー!!」
602: 以下、
男「…………」
少女「…………」
男「行っちゃったな」
少女「ええ。トンデモナイおじいさん……、いやおじさんでしょうか」
少女「とにかく常軌を逸したアラフィフの方でした」
男「常軌を逸したといえば……。お前」
男「あの特殊部隊は、いったい何だったんだ?」
少女「…………」
603: 以下、
少女「平たくいえば、私の敵のようなモノです」
少女「私たちは普段、彼らを相手に戦っています」
男「……冗談じゃないんだな」
少女「ええ」
少女「でも、今日だけは、今だけは、ソレを忘れたいと思います」
少女「こんな爆で走ってきたなら、ヤツらも捕捉できていないでしょうから」
少女「……いいですよね?」
男「……ああ。モチロンだ」
604: 以下、
男「ちょうど、もうすぐ始発の時間だな」
少女「最終日の今日も、やっぱり始発ダッシュって、やってるんでしょうか?」
男「そりゃ、まあ……。やらない理由が無いしな」
男「むしろ、基本的に来場者は三日目がイチバン多い」
男「今日が最も激しい始発ダッシュになるんじゃないか?」
少女「おお。それは……」
少女「この目で確かめるしかありませんね!!」
男「言うと思ったよ」
605: 以下、
――シーサイド線 国際展覧場駅
アナウンス『走らないでくださーい。走らな……』
始発組「「「「「「始発からきますた!!!!!!」」」」」」ドドドドドドドド
606: 以下、
少女「うわキモ! ……いえ、失礼」
男「失礼しなくていいぞ。実際ここまで数が多いと、さすがにキモい」
男「……と、いうか、目の焦点の合ってないヤツらが」
男「もう数人じゃ、きかないんだが……」
少女「なのにこの数。彼らはいったい、何故、そこまでして……?」
少女「COMIKEへの情熱というだけでは、もはや割り切れないと思うのですが」
男「ああ。それは、今日が三日目だからだろう」
少女「三日目……? たしか男性向けの日だっけ」
607: 以下、
男「そうだ。…………男性向けだ」
少女「……。ああ……」
少女「そういうコトですか……」
男「元来、COMIKEというのは、女性の参加者が中心となって始まったと聞く」
男「現在でも基本的にCOMIKE以外の同人誌即売会といえば、女性が中心らしい」
男「だが……。COMIKEだけは特別だ」
男「参加者の比率も男が多く、男性向けの頒布物も多く出展される」
男「つまり、日本中の、その、愛好家が……。今日、この日に集まる」
608: 以下、
少女「……。なんとも、原始的なハナシに聞こえますが……」
少女「いえ。だからこそ、生きようとする意志! あふれんばかりの生命力!」
少女「底無しのバイタリティー!! まさしく崇高なリビドーを感じます!!」
男「言いつくろってるけどコイツら全員変態ってコトだからな」
少女「いえいえ。ソレ言っちゃオシマイですよ」
少女「私たちだって立場は同じですし」
男「ぐ……。まあ、俺だって気にならないといえばウソになるし」
男「否定は出来んな」
少女「それも含めて、情熱的なこのお祭が、私は好きですよ!」
609: 以下、
男「いちおうフォローしておくと、健全な頒布物と、健全じゃない頒布物の種類の割合は」
男「一説によると、およそ7対3だという。CDや雑貨もあるからな」
男「まあ、出回ってる数となると、結局逆転するんだが……」
「「「「「「ウオオオオオオラッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァイイイイイイ!!!!!!」」」」」」
ザワザワ
少女「こ……。この、叫び声は……!」
男「来たか……!!」
610: 以下、
スタッフ長「ぬかせぃ始発組!」
スタッフ長「力を以て事を成すなど徹夜組だけで十分!」
スタッフ長「苦情、主張があるのならまず話し合い!」
スタッフ長「その為ならば我ら三百兵、一丸となって機を刻もう!」
スタッフ長「行くぞ友よ、魂(いのち)を此処に―――!」
  テルモピュライィ・エノモタイア
スタッフ長「駅前門のぉ、守護者ァァァア!」
611: 以下、
612: 以下、
少女「ぐっ。すさまじい、火柱……!!」
男「スタッフ兵たちの気迫がカタチとなり、炎となって燃え上がっているのか!?」
少女「人間聖火というワケですね。私も燃えてきました……!」
野次馬「今年もスタッフ長がついに点火したぞ!!」
野次馬「いったいどっちが勝つんだ……!?」
スタッフ「スタッフ長。今年の夏、最後の戦いです! 頑張りましょう!」
スタッフ長「…………」
スタッフ長「退くなら今のうちだぞ」
613: 以下、
スタッフ「……!」
スタッフ長「この戦いは、三日間で最も激しいモノになる」
スタッフ長「加えてこの天候。昨日までの鬱憤を晴らすような、快晴……」
スタッフ長「撤退は負けではない。逃走は恥ではない」
スタッフ長「退き際を見極められるのも、また一流の戦士だ」
スタッフ「……いえ、スタッフ長」
スタッフ「我らスタッフ一同。夏のCOMIKEも、冬のCOMIKEも、スタッフ長についてきました」
スタッフ「かつてのジェノサイドCOMIKEを経て、紡いだこの絆」ゴオオオオオ
614: 以下、
スタッフ「生半なコトでは燃えつきません!!」ゴオオオオオ
男「300人のスタッフ兵からも、炎が……!」
少女「暑苦しい……。だけど、コレがスタッフたちの絆!!」
野次馬「そうか、あのジェノサイドCOMIKEの時も……」
野次馬「COMIKE雲は別にスタッフ兵関係無いのがスゴいよな」
スタッフ長「…………」フッ
スタッフ長「そうか」
スタッフ長「カクゴは出来ているんだな」
615: 以下、
スタッフ「ええ」
スタッフ長「ならば、行くぞ」スッ
スタッフ長「これが最後の戦いの始まりだ!!」
スタッフ長「ここから先は! 始発組も! 野次馬も! 一歩も通すな!!!」
スタッフ長「駅前門を守れ!! 安全な来場のために!! 参加者を誘導しろ!!」
スタッフ長「行くぞ……、選ばれし300のスタッフ兵たち!!!」
    コ ミ  ケ ッ ト
スタッフ長「 C o m e G e t (来たりて取れ) !!!!!!」
 
616: 以下、
スタッフ「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお…………!」」」」」」
 
617: 以下、
――シーサイド線 国際展覧場駅前
ミーンミンミン ミーンミンミン
少女「最後まで、アツい……。方たちでしたね……」
男「ああ……」
スタッフ長「今年も良い勝負だった。次は冬コミで会おう」ガシッ
始発組「ああ……! 始発組の新たな団結力、見せてやるぜ」ガシッ
スタッフ長「でも駅のホームで走るのは危ないからやめろよ」
始発組「ふひ、サーセン」
618: 以下、
少女「それにしても……。今日は、暑いですね……」
男「ああ。一昨日、昨日と、曇ってたり雨だったからな」
男「晴れてる今日が夏コミ本来の姿というべきか」
男「いや、この暑さでも、じゅうぶん涼しいほうなんだが……」
少女「朝でコレですよね。昼にかけて、もっと気温が上がるのかと思うと」
少女「…………」
男「……帰るか?」
少女「いいえぇ? 帰りませんとも!!」
少女「私は黒ずくめさんとの約束を果たさなければなりませんからァァ!!」
619: 以下、
男「そうだな。コスプレの約束を……」
男「あっ」
少女「……なんですか、そのやべーコト思い出したみたいな『あっ』は」
男「……いや。今朝、お前がいなかったからさ」
男「今日は参加しないって、友人通して黒ずくめさんに伝えちゃったんだよね」
少女「ハァァ!!? なに勝手なコトを……!!」
少女「……って、私のせいですよね。ほんと勝手なコトしてスミマセン……」
男「い、いや。謝るな。早とちりした俺も悪いし」
620: 以下、
男「……となると、どうしたモノか」
少女「黒ずくめさん、今日は一般参加だから、早ければ」
少女「もうこの待機列のどこかにいるんじゃないですか?」
男「ううん……。とりあえず、電話してみるか」プルルル
黒ずくめ『はい、もしもし』ムシャムシャ
黒ずくめ『……あっ、男さんですか!?』
男「ああ、そうだ」
男「その……、友人の奴から連絡は、いってるか?」
621: 以下、
黒ずくめ『はい。今日は参加なされないと……』
男「ええと、そのハズだったんだが」
男「少女の奴が見つかったんで、良ければ、今から参加したいなー、と……」
黒ずくめ『えっ? 本当ですか!?』
男「ああ。ムシの良いハナシだとは思うが……」
黒ずくめ『いや、いや! 大歓迎ですよ!! 少女ちゃんいます!?』
男「うん、ココにいる。おい、少女……?」
少女「…………」コク
少女「お電話代わりました。少女です」
622: 以下、
黒ずくめ『少女ちゃん……』
少女「……スミマセン、私のせいで色々振り回しちゃって」
少女「男さんにも、友人さんにも、黒ずくめさんにもメイワクかけちゃって」
男「…………」
少女「でも。そんな私を許してもらえるのなら」
少女「もう一度だけ! COMIKEに参加したいんです!!」
黒ずくめ『…………』
少女「…………」
623: 以下、
黒ずくめ『少女ちゃん』
少女「はい」
黒ずくめ『僕は、君が今までどんな人生を送ってきて、何を考えているのかは、わからない』
黒ずくめ『昨日なにがあったのかも、僕は知らない』
黒ずくめ『でも。ビッグサイトの前では、誰でも、等しく参加者の一人だ』
黒ずくめ『君にはCOMIKEに参加する資格がある』
少女「……!」
黒ずくめ『君さえ良ければ。ゼヒ、このお祭に参加してほしい』
624: 以下、
少女「……は! ハイ!!」
少女「聴きましたか、今の声……!」
少女「ああ、もう。トロけちゃいそうです……」
男「…………」ボリボリ
男「……もう一回、代わってもらっていいか?」
少女「え。男さんも、黒ずくめさんの声聴きたいんですか?」
男「いやそうじゃなくて。訊かなきゃいけないコトがあるから」
少女「……? はーい」
625: 以下、
男「すまん、もう一度俺だ。一つ訊きたいコトがある」
黒ずくめ『はい? なんでしょうか?』
男「黒ずくめさん、今どこにいる?」
男「ビッグサイトの近くにいるなら、合流したいんだが……」
黒ずくめ『ああ、それなら。近くにいますよ……!』
黒ずくめ『有開パークビルってわかります?』
男「ああ。たしか、鷲ントンホテルのすぐトナリの……。そこに?」
黒ずくめ『はい。一階のマグロナルドで、朝食中です』
626: 以下、
男「わかった。今すぐ行って構わないか?」
黒ずくめ『ええ。朝食がまだでしたら、一緒に食べましょう』
男「そうするよ。じゃあ」ピッ
男「黒ずくめさん、鷲のトナリのマグロナルドで朝飯中だそうだ」
少女「マグロナルド……? って、ハンバーガーのチェーン店ですよね?」
男「ああ、そうだが。ソレがどうした?」
少女「いや。黒ずくめさんも、ハンバーガーとか、食べるんだなって」
少女「てっきりケーキと紅茶しか食べないようなヒトだと……」
男「そんなヤツはCOMIKEではとっくに死んでるな」
627: 以下、
――有開パークビル 1F マグロナルド
黒ずくめ「あ。男さーん、少女ちゃーん! コッチですよー」
男「どうも。今日は私服から黒ずくめなんですね」
黒ずくめ「ええ。もっとも、コスプレ用の衣装ではありませんが」
少女「くくく、黒ずくめさん!! ここここんにちは!!」
黒ずくめ「昨日ぶりだね、少女ちゃん。でもこの時間帯なら、おはようかな」
少女「そそそそうですね! おはようございますですともっ!!」
男「キンチョーしすぎだろ……」
628: 以下、
男「もう注文は済ませてきた。相席、良いか?」
黒ずくめ「ええ、構いませんよ。少女ちゃんも、どうぞ」
少女「え? 私なんかが黒ずくめさんの前の席で、良いんですか!?」
黒ずくめ「モチロンだよ」ニコ
少女「わっはー、エスコートする姿もイケメン……!」
少女「立てばイーグル、座ればオパール、歩く姿はクロスイレンというやつですね!!」
男「テキトーに黒っぽいモノ挙げてみました感ありがとう」
黒ずくめ「フフ。二人とも面白いなあ」
629: 以下、
黒ずくめ「まるで、長年連れそった夫婦……」
黒ずくめ「いや、違うか。でもとにかく、そんなカンジがする」
男「いちおう三日前に会ったばかりなんだぞ?」
少女「夫婦……、ですか。たしかにそのくらい一緒にいたかもしれませんね」
男「あーコイツついに壊れやがった」
黒ずくめ「くっ、くっ、くっ。本当、面白いよ」
男「そういや黒ずくめさん、今日は一人なのか?」
黒ずくめ「いや。昨日と同じ連れが二人、いたんだけどね」
630: 以下、
黒ずくめ「あ、コーヒー飲ませてもらうね」ズズッ
少女「連れのお二人さん……?」
黒ずくめ「ほら昨日、列を誘導していた係員のオトコが、いただろう」
男「ああ……」
黒ずくめ「それと後ろで本を出してくれていたオトコもね」
男「案外、オトコと一緒にCOMIKEに来てたんだな」
男「てっきり女の子でも、はべらせてるモノかと」
黒ずくめ「くっ、くっ。ヘンな言い方はよしてくださいよ」
黒ずくめ「二人は大学の時のサークル仲間なんです。あと数人、いますが」
631: 以下、
黒ずくめ「ああ、そうだ。昨日の同人誌は、読んでくれたかな?」
少女「えっ? あっ、ハイ! モチロン読みましたとも!」
少女「なんというか……。打算の無い、とってもキレイな、愛の物語でした」
少女「プラトニックラブといいますか!!」
男「…………」ハハッ
黒ずくめ「うん。以前のモノとはいえ、たしかに精魂込めて描いたモノだからね」
黒ずくめ「楽しんでくれたなら幸いだ」
黒ずくめ「……で。実は、その同人誌のモデルなんだが……」
少女「は? モデル?」
632: 以下、
黒ずくめ「うん。実は、あの一連の同人誌の登場人物には」
黒ずくめ「モデルにさせてもらった友達がいてね……」
黒ずくめ「それが、サークルを手伝ってくれた、彼らなんだ」
少女「まじですか!」
男「……。そういえば、ちょっと、似てたかも……」
黒ずくめ「ふふっ。さすがに本人たちに教えたら、顔を赤くしてたけどね」
少女「現実世界から着想を得る、というコトですか……。ナルホド」
男「いやナルホドじゃないからな。コワいな、COMIKE……」
633: 以下、
黒ずくめ「…………」ジー
男「……?」
男「……あの、俺が何か?」
黒ずくめ「ああ。いや、その……」
黒ずくめ「ふふ」
男「何だその意味深な笑いは!!」
黒ずくめ「ふふふっ」
634: 以下、
黒ずくめ「いや、男さんはノーマルのほうが合っている気がします」
黒ずくめ「ああ。僕の個人的な見解ですよ?」
黒ずくめ「男さんは、男さんの思うように、生きていただければと」
男「コワい。コワいなぁ、ホント、COMIKE……」
少女「……? それで、黒ずくめさん」
少女「昨日のお二人はどうされたんですか?」
黒ずくめ「ああ……。その二人なんだけどね」
黒ずくめ「さっきの山毛線運行見合わせだかなんだかで、足止め食らってるんだ」
635: 以下、
男「山毛線が運行見合わせ……?」
男「いったいどういうコトだ?」
黒ずくめ「うん。なんでも、山毛線の線路で事故があったとか」
黒ずくめ「たしか……。爆発物が落下、だったかな?」
男「爆発物が……」
少女「落下……?」
男&少女「「…………」」
黒ずくめ「……?」ズズッ
636: 以下、
黒ずくめ「どうしたんだい二人とも、アイマイな表情で沈黙して」
男「いやぁ……。なんでもナイデス」
黒ずくめ「そうかい? ならいいんだけどね」
少女「ちょっと、ヤバいですよ男さん!」ヒソヒソ
少女「あのミサイル、モロ都市部に着弾しちゃってるじゃないですか!!」
男「ううん。でも爆発物が落下ってだけで」ヒソヒソ
男「人身事故にはなってないみたいだし……」
男「いちおう組長さんは有言実行したのか。セッティングのやつ」
少女「でも山毛線って数百万人に影響あるんですよね? 泣き出すヒトいますよ……」
637: 以下、
黒ずくめ「……で。なら、タクシーで来ればいいじゃん、って言ったんだけど……」
黒ずくめ「片方が、何万人が詰めかけてる駅のホームに閉じ込められてるうちに気分悪くなったらしくて」
黒ずくめ「今、二人して自分のホテルの部屋に、こもってるんだ」
少女「そうだったんですか……」
黒ずくめ「一昨日に昨日と、COMIKEに連れ回した僕も悪いんだけどね」
黒ずくめ「オトコならもうちょっと根性見せてくれないかなー」
男「ははは……。まあ、COMIKEは普通のヒトにはキツいからな」
黒ずくめ「まったく。だけど、それで困ってたんだ」
638: 以下、
少女「困ってた……? お二人と合流できないコトですか?」
黒ずくめ「モチロンそれも困るんだけどね」
黒ずくめ「コスプレ先行入場の通行証が余ってしまうから」
少女「コスプレの。先行入場……?」
黒ずくめ「あ。そうだ!」
黒ずくめ「なら、先行入場の通行証がもったいないし」
黒ずくめ「二人も僕と一緒に会場に入るというのはどうかな?」
男「は……?」
639: 以下、
少女「コスプレの、先行入場。そんなコトが、出来るんですか?」
男「聞いたコトがある……。コスプレイヤー限定のサービスだが」
男「サークル参加者と同じ7時半から、先に入場できるシステムがあると」
黒ずくめ「うん。COMIKEの開催前に、ネット上で申し込めるんだけどね」
黒ずくめ「当選すると、通行証が発行されて、当日早く更衣室を使えるんだ」
少女「……。それは、良いシステムだと思いますが……」
男「…………」
少女「単刀直入におうかがいします」
640: 以下、
黒ずくめ「……? 何かな」
少女「そのコスプレ通行証を使って、早くにサークルの列に並んだり」
少女「……というコトは、可能なんですか?」
男「…………」
黒ずくめ「…………」
黒ずくめ「いや、それは不可能だ」ニコ
少女「え……?」
黒ずくめ「先行入場できるといっても、更衣室からの移動には制限があるからね」
641: 以下、
黒ずくめ「……チケットと同じような使い方は出来ないよ?」
少女「……!!」ギク
黒ずくめ「ふふ。期待した?」
少女「い、いえ。そういうワケでは、ないのですが……」
黒ずくめ「準備会もソコはちゃんと考えているね」
黒ずくめ「僕としても、コスプレを利用して、チケット組まがいのコトをされるのは」
黒ずくめ「とうてい承服できるコトじゃない」
男「…………」
642: 以下、
黒ずくめ「まあ、気にするコトは無いさ」
黒ずくめ「元はベンリなアイテムなんだから、正しく使えば、正しいアイテムになる」
黒ずくめ「そうだろう?」
少女「……!」
少女「はいっ!!」
黒ずくめ「うん、うん。やっぱり君は、暗い顔より、元気な顔がイチバンだ」スッ
少女「ひゃあっ! ほ、ホッペタ撫でないでくださいよぅ……!」テレテレ
男「…………」ヤレヤレ
643: 以下、
男「……ちょ。ちょっと待ってくれ……」
男「それは俺もコスプレをするというコトか?」
少女「……! 男さんのコスプレ姿!」
少女「見たい! ゼヒ見てみたいです!!」
男「えぇー……。俺、別に興味無いんだが」
黒ずくめ「くっ、くっ。ムリにする必要は無いと思いますけどね」
黒ずくめ「せっかくコスプレ先行入場するんだし、少しはどうですか?」
男「えぇー」
644: 以下、
黒ずくめ「といっても、凝ったコトをする必要はありません」
黒ずくめ「ザンネンながら僕は女モノのサイズの服しか持ち合わせていないですし」
黒ずくめ「でも、ほら、今年はアレが流行ってるじゃないですか」
男「アレ?」
黒ずくめ「あの、FG○にも登場してる。エジプトの……」
男「ああ。メジェド様か」
黒ずくめ「そう。白い布に目を描いて被るだけのやつ」
黒ずくめ「アレならカンタンに出来るんじゃないですか?」
645: 以下、
男「……コスプレ。やる、のか……」
少女「男さん。チャレンジ、チャレンジ! ですよ!」
男「はあ……。わかったよ」
男「コスプレ先行入場して、コスプレしないのもマナー違反だろうしな」
少女「やったー!!」
黒ずくめ「それじゃあ、キマリというコトで」
店員「失礼します。コチラ、ご注文の朝マッグとハンバーガーになります」
少女「おっ、やったー! ありがとうございます!!」
646: 以下、
少女「いっただっきまーす!!」パクパク
黒ずくめ「何を注文したんですか?」
男「朝マッグを、俺とコイツの分、2つと……。ハンバーガー数個だ」
黒ずくめ「ハンバーガー数個? ソレは……」
男「コイツが食べる」
黒ずくめ「え? 少女ちゃんが?」
男「ああ。こう見えて、けっこう大食いなんでな。コイツ」
少女「んぐっ。ばばば、バラさないでくださいよー!!」
647: 以下、
黒ずくめ「あはは……。よく食べるのは、イイコトだよ」
男「朝マッグとかせっかく量少ないのに、追加注文してちゃ意味無いと思うんだがな」
黒ずくめ「でも、これからCOMIKEに臨むのなら、エネルギーは蓄えたほうがいいですよ」
男「たしかに。待機列に並ぶワケでもないし、まあ、いいか……」
少女「んー、これがあの、有名なマッグのハンバーガーかぁ!!」モグモグ
少女「この安っぽさが良い!!」バーンッ
男「こら、デカい声でそういうコト言うな……!」
黒ずくめ「あはは」
648: 以下、
――有開パークビル前
少女「ごちそうさまでしたー!!」
黒ずくめ「さあ、そろそろ時間だ。ビッグサイトに行こうか」
男「ああ。その前に、LAMSONに寄らせてくれないか?」
黒ずくめ「国際展覧場駅前の?」
男「実は、昨日の着の身着のままで来ててな……。いや、服は着替えてるが」
男「装備の食糧の備蓄が心もとないんだ」
黒ずくめ「わかりました。そういうコトでしたら、まず寄りましょう」
649: 以下、
黒ずくめ「あっ……」
男「どうかしたか?」
黒ずくめ「いや、さっきおハナシしてた、コスプレ先行入場通行証ですが……」
黒ずくめ「本来なら、申請した本人しか使えないんです」
男「まあ、それこそ転売して使われたりしたらマズいからな」
黒ずくめ「まあ。サークル入場と同じで、厳しく取り締まってはいないと思いますが」
黒ずくめ「万が一、目をつけられた場合は引き下がるので、そのつもりで」
黒ずくめ「その時は僕も一般入場の入口から入りますよ」
男「……。できるだけ、この待機列に、並びたくはないんだけどな……」
650: 以下、
少女「うひゃあ……。もう、パークビルのすぐ近くまで」
少女「みんなカラーコーンの内側に座ってますね」
男「昨日の同じ時間でも列はここまで来てなかったぞ……。やはりコレが三日目か」
651: 以下、
黒ずくめ「晴れだから人が集まったのか、人が集まったから晴れたのか」
黒ずくめ「三日目の参加者が晴れ男、晴れ女説。あるね」
男「集まってる人間の性質からして、あまり前向きに考えたくはないが……」
少女「ああ。でも、おぼろげな白い雲がまばらにかかった、朝の青い空を背にした」
少女「ビッグサイトの前に、色んな格好をした人々が集まって……」
少女「いよいよCOMIKEの最終日が。はじまるんですね!!」
男「……。そうだな」
黒ずくめ「ふふ。本当にCOMIKEをイチバン楽しんでいるのは、彼女のようなヒトなのかもしれないね」
652: 以下、
スタッフ「東待機列は既に封鎖されました。西待機列に回ってくださーい」
スタッフ「Hey, you! I said that you can not enter the east!」
スタッフ「不要打入列! 子曰! 學而時習之! 不亦説乎!!」
待機列「おぉー……」パチパチパチ
男「今のは……。日本語の後のやつは、英語か?」
黒ずくめ「そして最後は中国語ですね。ウワサのトリリンガルスタッフかもしれない」
男「さ、三か国語……? スゴいヒトがスタッフにいるんだな……」
653: 以下、
――LAMSON 国際展覧場駅前店
店員「ラー…」
店員「ラーシャッセー…」
少女「て。店員さんも、息絶え絶えです……」
男「コンビニもついに三日目だからな」
男「しかしこのヤツれよう。まさかワンオペ? まさかな……」
黒ずくめ「あ。男さん、この白い透明なゴミ袋でいいですか?」
男「ああ……。うん。いいよ」
654: 以下、
少女「……!」
少女「み、見てください男さん!!」
男「……? どうした」
少女「あ、あれだけ食べ物が詰まっていた商品棚が!」
少女「まるで虫に食い荒らされたかのように、穴だらけになっています!!」
男「本当だ、品揃えがまばらになっている……」
男「いよいよ佳境というワケか……」
655: 以下、
店員「……!!」ガタッ
シュババババババ
少女「うっ……。店員さん、ものすごいさで商品を補充していきます!」
男「寸分の狂いも無い手つき……。コンビニ店員も極めればアレほどか」
黒ずくめ「コンビニ店員ってたまにとんでもないヒトいるよね」
黒ずくめ「でも、僕の売り子も負けていない」
黒ずくめ「もし僕のところの金髪が太陽の下であれば、通常の三倍のさで品出しを……」
男「黒ずくめさんの売り子はサンフラワーか何かか……?」
656: 以下、
――LAMSON 国際展覧場駅前店 前
男「梅おにぎりは買ったな。それじゃあ、そろそろビッグサイトに行くぞ」
少女「ま、また梅おにぎりですかぁ……?」
黒ずくめ「くっ、くっ。梅干しは、腐りにくいからね」
男「そういうコトだ。おにぎりの具の定番なだけはある」
少女「ツナマヨが食べたいですよぅ」
男「さっきハンバーガー食ったろう、まだ味の濃いモノ食い足りないのか」
黒ずくめ「それじゃあ行こう。待機列を尻目にビッグサイトに入るのは、ちょっと気が引けるけどね」
657: 以下、
――ビッグサイト コスプレ参加者 先行入場入口
黒ずくめ「3人。登録料、3000円です」
スタッフ「はい、確認しました。更衣室は男性女性ともに会議棟ですが」
スタッフ「女性は東8ホールも使えます。混雑の分散にご協力ください」
黒ずくめ「ありがとうございます」ニコ
男「ふぅーっ。怪しまれずに通れたな」
黒ずくめ「オドオドしてたら当然怪しまれます。こういうのは思い切りがダイジですよ」ニコ
男「営業スマイルとか、トクイそうだもんな……。ハハハ」
658: 以下、
少女「…………」
男「……? どうした、少女」
少女「……本当に、これで良かったんでしょうか」
黒ずくめ「…………」
少女「黒ずくめさんのお連れさんが、間に合わなかったのは、仕方ないとしても」
少女「ルールを破って、私たちが入っちゃって……」
男「…………」
黒ずくめ「……そうだね」
659: 以下、
黒ずくめ「これは人間の集まりだ」
黒ずくめ「当然ルールは守るべきだが、バカ正直でいては痛い目を見るコトもある」
黒ずくめ「……昨日の、君たちのようにね」
少女「…………」
黒ずくめ「いや。ソレに関しては、僕にも責任があるんだが」
男「黒ずくめさん。アレは……」
黒ずくめ「わかっています。友人さんや死神から聞いている」
黒ずくめ「昨日はイレギュラーな事態があったと」
男「……。そういえば、今日は、友人たちは……?」
660: 以下、
黒ずくめ「さあ。朝に所用があるとは聞いていますが」
黒ずくめ「……もしかしたら、その“後始末”に動いているのかもしれませんね」
男「アイツら……」
黒ずくめ「とにかく。色んな人が集まる大きなイベントである以上、臨機応変な対応が必要だ」
黒ずくめ「モチロン、ルールを破るコトを正当化してるワケじゃない」
黒ずくめ「でも、少しずつ助け合い、少しずつ出し抜き合う」
黒ずくめ「それがCOMIKEというイベントの実情なのかもしれない」
少女「…………」
661: 以下、
黒ずくめ「だけど。他人の裏をかいて、出し抜き合うのが人間であれば」
黒ずくめ「他人を慮り、支え合って助け合うコトが出来るのも」
黒ずくめ「また人間だ」
黒ずくめ「僕がこんなコトを言うのも、おこがましいかもしれないが」
黒ずくめ「どうか、COMIKEを嫌いにならないでほしい」
少女「…………」
少女「……はい。わかっていますよ」
黒ずくめ「…………」ニコ
黒ずくめ「少なくとも、僕は今日、ココでソレを表現したいと思う」
662: 以下、
黒ずくめ「さて。女子更衣室はコチラ、男子更衣室はアチラだ」
男「ひとまずココでお別れだな。着替え終わったら、またこの逆三角形の下に集まろう」
黒ずくめ「ええ」
少女「……あれ。そういえば、私、どんなコスプレをするんですか……?」
黒ずくめ「そうだね。いくつか衣装はあるんだが、どれにする?」
男「ああ……。それなら」
男「俺に一つ、アイデアがある」
少女「……?」
663: 以下、
――数十分後 ビッグサイト 逆三角形下
参加者「……?」
ザワザワ
男「…………」
参加者「メジェド…?」
参加者「デマセイ」
参加者「フケイデアルゾ」
ザワザワ
664: 以下、
男「…………」
男(この、ビニール袋に目を書いて、足から上を覆っただけのコスプレ……)
男(本当にこれでいいのか?)
男(他の、クオリティの高いコスプレとは、比べるべくもない……)
男(穴があったら入りたい……)
メジェド「…………」ゾロゾロ
メジェド「…………」ゾロゾロ
665: 以下、
男(……あ)
男(でも、他にもメジェド様のレイヤー、いっぱいいるな)
男(ちょっと安心した)ホッ
参加者「……う、うう……」ボロボロ
男(う。あれは、浮浪者……!!)
男(の、ようなコスプレか。『無人島で100年生きたのび太』って書いたスケッチブック持ってる)
男(COMIKEに来るのは友人について回ってだから)
男(コスプレはさほど詳しくはないが、スゴいな……)
666: 以下、
参加者「…………」スタスタ
男(ん? スーツのヒトだ。日曜出勤の社畜がCOMIKEにまぎれこんで……)
男(なワケ無いか。となると、アレも何かのコスプレ……)
男(……待てよ。あの髪型。最近、どこかで見たコトがある)
キラン☆
男(あ。あの、小脇に抱えているのは……。将棋ゴマ!!)
男(まさかこのまえ公式戦で29万連勝を果たした、あの四段のコスプレか!?)
男(は? まるで将棋だな……)
667: 以下、
少女「……男さーん!!」
男「おお。来たか」
少女「どうですか!? この、応援団コス!!」
男「ああ。とても似合ってるぞ。黒い服と白いハチマキが良いカンジだ」
少女「〜♪♪」
黒ずくめ「男さん、お待たせしました」
男「黒ずくめさんも。今日も黒ずくめ、キマってるな」
668: 以下、
黒ずくめ「いえいえ。男さんも」
黒ずくめ「メジェド様でしたっけ? よく似合っていますよ」
男「絶対できる誰でもコスプレナンバーワンだと思うがな」
黒ずくめ「ふふ。たしかに」
少女「え? 絶対できる!!?」ガタタッ
男「なんでお前は特定のワードに反応してるんだ。スクリプトか?」
少女「いえ、そういうワケじゃないんですが」
少女「どうも、この格好だと、絶対に諦めないという情熱が湧き出てきまして!!」ゴオオオオオ
669: 以下、
男「アツい……。暑苦しい」
黒ずくめ「でも、ホント似合っていますね。少女ちゃん」
黒ずくめ「僕は普通にカワイイコスプレをしてもらおうかと思ってましたが」
黒ずくめ「まさかの応援団長風のコスプレとは。たしかに、アツい彼女にピッタリだ」
黒ずくめ「前から似合いそうだなー、とか思ってたんですか?」
男「そうだな……。昨日、待機列中で、ちょっとした事件があったんだが」
男「着想はソレだ」
男「どうもアイツには、とにかく頭カラッポにして燃え上がるような」
男「そんな格好が似合うような気がしてな」
670: 以下、
黒ずくめ「…………」クス
黒ずくめ「ずいぶん、彼女のコト、わかっちゃってるんですね」
男「そうか? ただの第一印象だがな」
黒ずくめ「ご謙遜を。繰り返しになりますが、長年連れそった……」
黒ずくめ「そんなカンジがしますよ」
男「だとしたら、アイツがヤケに馴れ馴れしくしてくるからだな」
男「でも……」
男「なんだか俺も、そんなカンジがしてきたよ」
671: 以下、
――ビッグサイト 某所
男「…………」チク タク
男「あれから数時間が経った」
男「ついにこの時が来たな」
少女「ええ! 最後まで、張り切っていきますとも!!」
黒ずくめ「そうだね。きっと、悔いの無いように」
ピンポンパンポーン
アナウンス『みなさん、長らくお待たせしました』
672: 以下、
アナウンス『ただいまより、COMIKE 92――――』
アナウンス『三日目を、開催します!!』
ババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
待機列「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
ババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
673: 以下、
ドドドドドドドドドドドド…
ウオオオオオオラッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァイイイイイイ!!!!!!
少女「ど。どこからか鳴り響く、この叫び声は……」
男「向こうも向こうで戦いが始まったらしいな」
黒ずくめ「スタッフ長さんたち、今年もやってるんだ? 懲りないなぁ〜」
黒ずくめ「さて。じゃあ僕たちも、行動を開始しようか」
674: 以下、
少女「そうですね!!」
少女「……って、コスプレをするヒトは、どこに行ったらいいんですか?」
男「そうだな。基本的に、ビッグサイトの会場内なら」
男「どこでコスプレをしていてもいいんだが……」
黒ずくめ「コスプレをするならココがオススメですよ、と」
黒ずくめ「コスプレエリアといってね。準備会に推奨されている場所もある」
少女「ほう。それはいったい、どこに?」
黒ずくめ「うーん。毎年コロコロ変わって、ややこしいんだけど……」
黒ずくめ「今年は逆三角形付近や、屋上、あとは東館のトラックヤードかな」
675: 以下、
男「じゃあ、トラックヤードにするか。人は多いが、行列も見れるし」
黒ずくめ「え……。行列を見に行くんですか? 変わってますね」
男「ははは……」
少女「……黒ずくめさん」
黒ずくめ「うん? どうしたの?」
少女「やっぱりこれだけ晴れてると、倒れるヒトとかも出ますよね?」
黒ずくめ「そうだね。そりゃ、まあ」
少女「……そうですか」
黒ずくめ「……?」
676: 以下、
――ビッグサイト 東館外 トラックヤード
 ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
  ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ
 ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
少女「……う、ウワァ――――!!!」
少女「こ。こここ、この黒いの。全部ヒトですか……!?」
黒ずくめ「あはは。もしかしたら、ヒトじゃないのも、混じってるかもね」
677: 以下、
男「まあ、チミモーリョーが一匹や二匹混じってても、わからんかもな……」
少女「す、スゴい人の量ですよ」
少女「長い行列がいくつも出来ていた一日目も、私も並んだ二日目をも、しのぎます」
少女「本当に、スゴい、スゴい人の量です!!」
少女「ボキャブラリーが不足しててバカみたいですが、そうとしか言えません!!」
男「昨日はこんな列の中に並んでたのかと思うと、ゲッソリするな」
黒ずくめ「といっても、列の勢い自体は、昨日よりかはマシのようだけど」
男「ちなみに今日の大手は、どんなカンジなんだろう?」
黒ずくめ「そうですね。Eマンガ先生のヒトをはじめとして、常連大手サークルが多いようです」
678: 以下、
参加者「おい、三日目もサーキットが始まるらしいぞ!」
参加者「見に行こうぜ!!」
男「……はは」
黒ずくめ「サーキットをやるのは大手のアカシですね」
黒ずくめ「あとは、FG○島と、その関連の商業作家の列が延びるのではないかと」
男「FG○って今日だったか。こりゃあ、人も多くなるぞ……。いや、もう多いか」
少女「これは、男さんじゃないですが、まるで。人がゴミのよ……」
レイヤー「人がゴミのようだ!!!」
679: 以下、
少女「!?」クルッ
レイヤー「目が、目がァァァァァァ」
カメコ「「「パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!!」」」
レイヤー「三分間待ってやる……」
カメコ「「「パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!!」」」
男「スゴいな。大佐のコスプレもいるのか」
黒ずくめ「あのヒト毎年いますよ」
680: 以下、
少女「うわぁ……」
少女「人がゴミのようだ、とか、本当に言うヒトいたんですね」
男「いやそういうネタだからな?」
少女「そ、そーなんですか。変わってますね……」
カメコ「バルス!!」
レイヤー「あァァ、目がぁ、目がァ、っ……ああああアアアア〜〜〜!!!」
カメコ「「「パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!!」」」
男「しかし……。大佐のあの作品って、いったい何十年前の作品だっけ?」
681: 以下、
黒ずくめ「うーん。二十年……、いや、それ以上前かと」
黒ずくめ「僕や男さんが生まれる前からあるのはマチガイないですね」
男「そんな前の作品だったか……」
男「なのに、発表から数十年経った今でも、こうしてコスプレするヒトがいる」
男「あらためてスゴい場所だよな。COMIKEは」
黒ずくめ「好きなら何でもアリ、の精神ですからね」
レイヤー「いいこと? 暁の水平線に勝利を刻みなさい!」
レイヤー「問おう。あなたがわたしのマスターか」
682: 以下、
男「……っと。とは言っても、やっぱりコスプレの中心、ハナガタは」
男「最近のアニメやゲームのキャラクターのようだが」
黒ずくめ「美人なレイヤーさんのほうが、人目も引きますからね」
黒ずくめ「ていうか男さん、ああいうのが最近のアニメやゲームのキャラとか、わかるんですか?」
黒ずくめ「なんだかオタクじゃない風を装っていたように見えますが」
男「……ん? ふふーん、さて何のコトだか」
男「それに。ニワカがソレを名乗っちゃ、ホンモノに失礼だよ」
少女「あの。男さん、男さん」
男「ん……?」
683: 以下、
少女「あの、レイヤーさんの周りで、カメラ持ってるヒトたち……」
少女「アレはいったい、何なんですか?」
男「ああ。アレは、“カメコ”といってだな」
男「カメラ小僧の略で。COMIKEで、レイヤーを撮影するヒトたちだ」
黒ずくめ「カメラマンさんだね。レイヤーは撮影に快く応じるモノさ」
少女「へえ……。うーん、撮ってるヒトもスゴい情熱だなあ」
黒ずくめ「まあ、マナーの悪いカメコだって、いるにはいるんだけど……」
ドローン「バラバラバラバラバラバラ!!!」
684: 以下、
少女「……?」
少女「お、男さん。なんですかアレは」
少女「上を飛んでる、ちっさいヘリコプターみたいなのは……」
男「ん? アレはドローンだな」
男「最近流行りの、上等なラジコンみたいなモンだ」
黒ずくめ「アレでレイヤーを撮影してるのかな」
黒ずくめ「でも、ソレはさすがに……」
ヒュルルルル…
685: 以下、
ドローン「チュドオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!!」
映画泥棒「ド、ドローン!!?」
自宅警備隊「ドローンでのコスプレイヤーの撮影はマナー違反だ!!」
自宅警備隊「おとなしくナワにつけ! 映画泥棒!!」
少女「……!?」
映画泥棒「へっ、こんなところで捕まってたまるかよってんだ……!」
映画泥棒「あばよ! パトランプのとっつぁ〜ん!!」ダダダッ
686: 以下、
自宅警備隊「待てー! 映画泥棒!!」
ダダダダダダダダ
黒ずくめ「うわー、彼らも彼らで、今年もやってるなー」
少女「……黒ずくめさん。今のは?」
黒ずくめ「ん? ああ、今のコントかい?」
黒ずくめ「特殊部隊みたいなほうは、非労働武装集団、自宅警備隊 M.E.E.T.」
黒ずくめ「絶対に働かないコトにイノチをかける集団だ」
少女「……は?」
687: 以下、
黒ずくめ「普段は自宅だけを警備しているんだが、この期間はCOMIKEにも出張しているという設定らしい」
黒ずくめ「そして逃げていったビデオカメラ頭が、映画館のCMでオナジミの映画泥棒だね」
黒ずくめ「あはは。ビックリした? 面白いでしょ」
少女「…………」
男「……安心しろ。アレもコスプレの一つだ」
男「今朝の特殊部隊に姿は似ているが、別に関係は無い」
少女「……そうですか。なら良いんですが……」
黒ずくめ「…………」
688: 以下、
黒ずくめ「……少女ちゃん!!」
少女「はいっ!?」
黒ずくめ「それじゃあ、僕たちも。そろそろ、コスプレ、始めようか」
少女「は……、ハイ……」
黒ずくめ「カラーコーン置いて。仮の設営して……、と」
カメコ「あの、撮影、いいですか?」
少女「えっ……」
黒ずくめ「はい、モチロンですよ。何かご要望はありますか?」
カメコ「それじゃあ、ソッチの応援団の女の子に、何かセリフを!」
689: 以下、
少女「え……」
少女「お。男さん……。どうしましょう」
男「ん? 何か好きにソレっぽいコト、言えばいいじゃないか」
少女「そんなコト言われたって思いつきませんよ!!」
男「……うーん。そうだな……」
男「あっ。ほら、“アレ”があるだろう」
少女「“アレ”……?」
男「昨日待機列でやっていた……」
690: 以下、
少女「え。あんなので、良いんですか?」
男「良いんだ。思いっきり、やってやれ」
カメコ「お願いします!!」
少女「…………」
少女「それじゃあ、失礼して」スゥゥ…
黒ずくめ「え? 何が始まるんです?」
男「まあ見てロッテ銘治ブルガリアヨーグルト」
691: 以下、
少女「ガンバれガンバれ出来る出来るゼッタイ出来るガンバれもっとやれるってェェッ!!!」
黒ずくめ「!?」
参加者「!?」
少女「やれる!! 気持ちの問題だっ、ガンバれガンバれ、そこだァ!! そこで諦めんなァァ!!!」
参加者「シュウゾウ?」
参加者「イワナ?」
参加者「ザワザワ」
692: 以下、
少女「ゼッタイにガンバる積極的にポジティブにガンバるガンバるゥッ!!」
少女「―――ペキンだって、ガンバってるんだからァァァァァァッッッ!!!!!!」
参加者「……おおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!」パチパチパチ
参加者「昨日の娘じゃん!」
参加者「この夏に、あえて応援団の服とは……」
参加者「正直に言おう、俺も水着は好きだ」
参加者「熱くなれよぉぉ!!」
693: 以下、
少女「はぁ、はぁ、はぁ……」
パチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチ
少女「え……? ……あっ」
カメコ「いいね、今の叫び! コッチ向いて!」
少女「あっ……。ハイ!!」
パシャッ
694: 以下、
黒ずくめ「…………」アングリ
男「どうだ。驚いたか?」
黒ずくめ「ええ。そりゃ、驚きますよ……」
黒ずくめ「なんですか、今の?」
男「知らないか? ほら、いるだろう。よくテレビに出てる、日本一アツい元テニヌプレイヤーが」
黒ずくめ「……ああ。その、彼が、……え?」
男「彼が出てる動画を編集して、既存の音楽に乗せた、MAD動画群があってな」
男「今のは、その動画群の中でも、トップクラスに有名なセリフだ」
男「昨日、友人の奴がな。朝の待機列で教えやがったんだよ」
695: 以下、
男「ほら。これが、その時の動画だ」スイッ スイ
男「ハシッコで俺が見切れてるのは気にしないでくれ」
黒ずくめ「……うわぁ。本当だ……」
黒ずくめ「なるほど。それで、あの衣装を……?」
男「ああ。でも、事前には何も言わなかったけど、黒ずくめさんがピッタリの服持ってて良かった」
黒ずくめ「いえいえ。黒い服なら、なんなと、ありますからね」
黒ずくめ「……そっか」
男「…………」
696: 以下、
黒ずくめ「……いや、ね。実は気にしてたんですよ」
黒ずくめ「朝、電話もらった時から、少女ちゃんの声が暗くて」
黒ずくめ「だからあんなコト言ったんだけど」
男「…………」
黒ずくめ「でも、安心しました」
黒ずくめ「少女ちゃんは、一昨日に友人さんからおハナシを聞いたのと同じ、少女ちゃんだって」
黒ずくめ「僕が知ってる中で、最も“COMIKEを楽しもうとする”、女の子なんだって」
男「……そうだな。俺も、そう思う」
697: 以下、
黒ずくめ「ふふ。いや、昨日会ったとき少女ちゃん、グッタリしてたじゃないですか」
黒ずくめ「だから、一昨日は、あんなにCOMIKEを楽しもうとしてたのに……」
黒ずくめ「もしかしたら、COMIKEのコト、嫌いになっちゃったのかなって」
男「……それは」
黒ずくめ「でも、杞憂だったようですね」
黒ずくめ「僕は、少女ちゃんにこのまま帰ってほしくないと思って、コスプレに誘ったんですが」
黒ずくめ「そもそも。COMIKEのコトが嫌いなら、今日は来てくれなかったろうし」
黒ずくめ「COMIKEのコトが好きだから、あんな元気いっぱいに、楽しめるんだろうなあ」
男「…………」
698: 以下、
黒ずくめ「まあ、人間がいっぱい集まるんですし、色々ありますが」
黒ずくめ「……少なくとも、僕は。色んなヒトの全力が見れる」
黒ずくめ「COMIKEのコトが大好きですから」
黒ずくめ「少女ちゃんが楽しんでくれるのは、スナオに嬉しいです」
男「……ああ。俺も楽しいよ」
男「全力で楽しんでるヤツってのは、見てるだけで、コッチも楽しくなってくる」
カメコ爺「ふおおお! 貴女が黒ずくめさんですな!?」
黒ずくめ「え……? あ、ハイ」
699: 以下、
カメコ爺「やはり。タクシーでお見かけした時から」
カメコ爺「すばらしいコスプレイヤーだとお見受けしていましたぞ」
カメコ爺「はい! 目線をコッチに! 心底見下したカンジで!!」パシャパシャ
黒ずくめ「ハァ……?」
カメコ爺「んん、その冷ややかな目線がたまらない!!」パシャパシャ
男「……って、ちょっとちょっと! ソコのカメコさん! あんた!!」
カメコ爺「おや、どうしましたかな。メジェドどの」
男「あんたタクシーの運転手さんでしょう!!? 今朝の!!」
700: 以下、
カメコ爺「おや。バレましたかな」
男「バレましたかなじゃないですよココで何やってるんですか!!」
カメコ爺「見てのとおり、カメコですが」
男「カメラ……。……小僧?」
カメコ爺「ほっほ」
カメコ爺「たんパンこぞうは、いくつになっても、たんパンこぞう」
カメコ爺「カメラ小僧は、いくつになっても、カメコですぞ」
男「いや意味がわかりませんから」
701: 以下、
男「それより、タクシーはどうしたんですか!」
カメコ爺「普通にパーキングに預けてきましたな」
カメコ爺「いや。もうCOMIKEは、若者たちの催しであると、一線を退いていたのですが」
カメコ爺「今朝がたの走りで“コチラ”のほうも、血が騒ぎましてな」カチャ
カメコ爺「老骨にムチ打って。最後の一日だけでもと、馳せ参じたのですぞ」
男「え……。って、コトは……」
カメコ爺「ほっほ」
カメコ爺「会場が有開に移って、ベンリになりました」
カメコ爺「今のビッグサイトでCOMIKEを出来る参加者は幸せですなwww」
702: 以下、
男「……って! そ、その口調……!!」
カメコ爺「んん、それでは私はこれで」
カメコ爺「星の数ほどのコスプレイヤーが私を呼んでいますぞー!!」ダダダッ
男「…………」
男「はぁ」
男「血は争えない。という、コトか……」
黒ずくめ「男さん? 今のおじいさんは……。一昨日のタクシーの?」
男「ああ。ヒトに歴史あり……、だな」
703: 以下、
黒ずくめ「さて。COMIKEは、ここからが本番です!」
黒ずくめ「僕たちも張り切っていきましょう!」
男「ああ。そうだな……」
男「って、俺も?」
黒ずくめ「そうですよ。男さん、見たところ僕と同じくらいの歳だと思いますが」
黒ずくめ「ちょっと落ち着きすぎだと思います」ドンッ
男「そ。そんなコト言われても、生まれつきで……、うわっ!」バタタッ
少女「うわっと! 男さんも叫ぶんですか? ええ、一緒に頑張りましょう……!!」
704: 以下、
――ビッグサイト 東館外 トラックヤード
少女「はぁー……っ。疲れましたー!! 海風がキモチイイー」
黒ずくめ「カメコたちもハケたね。そろそろ、終わりにしようか」
男「もう昼前か……。よくこの炎天下の中で、突っ立ってたよ」
黒ずくめ「本当なら、もっと館内を動き回ってもいいんだけどね」
黒ずくめ「まあ。行列を眺めながらのコスプレというのも、案外悪くない」
ザワザワ ザワザワ ガヤガヤ ガヤガヤ
黒ずくめ「もっとも、その行列は。まだ解消されていないようだけど……」
705: 以下、
黒ずくめ「さて。このあと、君たちはどうする?」
男「ん? そうだな。……どうする、少女?」
少女「そうですね! せっかくまたCOMIKEに来たんだし、島の頒布物とか、見てみたいです!!」
黒ずくめ「そうか。なら、僕は……」
金髪「おーい、黒ずくめ〜……!!」
紫髪「ココにいたかー……!」
黒ずくめ「おや。騎士は遅れてやってくる、というやつかな」
男「……? あの二人は……」
706: 以下、
黒ずくめ「今朝、話していただろう?」
黒ずくめ「ほら。本当なら今朝一緒に入る予定だった、連れの二人だよ」
男「ああ。昨日の売り子の……!」
紫髪「探したぞ!!」
黒ずくめ「そうかい? 悪いね。でも、なら連絡くれれば良かったのに」
金髪「COMIKEで電話が繋がるワケがないだろう……!」
黒ずくめ「あはは。それもそうか」
黒ずくめ「それで金髪。体調は大丈夫なのかい?」
707: 以下、
金髪「ご安心を!! 太陽の下であれば、元気三倍なので」
紫髪「まったく。駅の屋根の下ではヘナチョコになる、金髪にも困ったモノだ……」
金髪「ぐ。あの人の量では、仕方ないだろう!」
黒ずくめ「あはは。ケンカしないで」
黒ずくめ「それよりも、せっかくコスプレ衣装を持ってきたんだろう」
黒ずくめ「昼からの立ちシゴトは、いささかキツいが。頑張るかい?」
金髪「ゼヒとも!!」
紫髪「そのために来たんだからな!!」
708: 以下、
黒ずくめ「というコトだ。僕たちは、もう少しコスプレしていく」
黒ずくめ「男さんと少女ちゃんは、二人でも大丈夫?」
男「モチロンだ。一日目は二人だけで行動してたからな」
少女「黒ずくめさんも! あと数時間、頑張りましょう!!」
黒ずくめ「うん。思う存分、COMIKEを楽しんでね」
金髪「あの……。お二人?」
男「は?」
紫髪「状況を鑑みるに。黒ずくめと一緒にコスプレをしていてくれたのですか?」
709: 以下、
少女「ええ! 黒ずくめさんのおかげで、コスプレ、めっちゃ楽しめました!!」
金髪「そうですか。それは良かった」
紫髪「黒ずくめの奴、ごメイワクをおかけしませんでしたか?」
紫髪「……たとえば、薄い本のネタにしようとするとか」
男「あ。あはは。アハハ……」
金髪「まったく。今日も我々を置いて、勝手に行ってしまうし」
金髪「まあ。我々が足カセになって、COMIKEを楽しめないよりは、よほど良いですが」
紫髪「世話の焼けるヒトだ……。だが、それがいい」
710: 以下、
少女「お二人も、コスプレを?」
金髪「ええ。今日は、西洋騎士の衣装ですね」ガサゴソ
少女「おわ。カタそうなメタルプレートだ……!」
金髪「見た目だけですよ。実際は利便性を考え、軽い素材を使って作っています」
少女「自作なんですか! スゴい……!!」
紫髪「今日はお二人とも、ありがとうございました。まったく、金髪が倒れなければ……」
男「あ……。いえいえ、良いんですよ。ソレ、俺たちにも責任ありますし」
紫髪「……?」
711: 以下、
男「とにかく。黒ずくめさんをお願いしますね」
金髪「ええ、もとより」
紫髪「ところで、お嬢さん。なかなか良い腕の筋肉をしていますね。普段の運動は何を?」
少女「へ? 私ですか……?」
金髪「おい、紫髪!!」
紫髪「痛い痛い痛い。エリを引っ張るコトはないだろう!」
男「ははは……。それじゃあ、お元気で!」
金髪「ええ。お二人も、ご武運を!!」
712: 以下、
少女「ふう……。ホントCOMIKEには、色んなヒトが参加してるんですね〜」
男「ああ。俺たちの知ってるヒトでも、全然知らないヒトと友達だったりする」
男「そんなヒトの考えてるコトが見られるのも。COMIKEの良いところだ」
男「さて。このあとは、島の頒布物を見に行くんだったか?」
少女「ハイ! そうだ、たしかコスプレのままでも歩いていいんでしたよね!?」
男「いやいや、着替えていくぞ。俺の格好を見ろ……」
少女「あ。たしかに、ビニール袋かぶったままじゃ、キツそうですもんね……」
男「まずは逆三角形のところで着替えよう。そのあとは、東館の島めぐりだな」
713: 以下、
――東館 ホール内
ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ
少女「うう……。もうお昼だというのに、スゴい人ですね!!」
男「そうだな。むろん、大手の行列が、いまだに生き残っているのもあるが……」
男「……ん? 大手の行列が、いまだに生き残ってる?」
少女「どうかしましたか?」
男「……いや、なんでもない。本来なら、コレが正常なんだが……」
714: 以下、
男「とにかく。スゴいな、今年のFG○の勢いは……」
男「外も行列が長いが。アレは島か、島だよな? トンデモナイ量の血栓だ」
友人「FG○は去年の年末がキッカケで大ブレイクしましたからなwww」
男「そうそう。あの時の採集決戦の盛り上がりといったら……」
男「ってぇ、友人!!?」
友人「男氏wwwヤケモーニンwwwwwwぺゃっwwwwww」
白い死神「おっと。俺もいるぜぇ」
少女「友人さんに、死神さん……!」
715: 以下、
男「お前ら、今日は何して……。というか、なんで島の内側に座ってるんだ?」
男「まるでサークルみたいに」
友人「んんwwwそれはwww死神氏の本を売っているからですなwww」
少女「し、死神さんの本!? サークル参加してたんですか!?」
白い死神「そんな驚くコトか? 俺だってファンネルばっかやってるワケじゃない」
白い死神「せっかくCOMIKEに参加するんだ。同人誌の一冊くらい書くさ」
少女「で、でも……。今日って三日目。男性向けの日でしたよね」
少女「その、死神さんも、やっぱり?」
716: 以下、
白い死神「ん……? ……いや、違う。違う!」
白い死神「嬢ちゃん、三日目はエロ同人ばかりだと思ってないか?」
白い死神「三日目は評論、解説本の日でもある。俺が出してるのは、コレだよ」ピラッ
少女「……? コレは……」
少女「『白い死神の絶対失敗しないファンネル術』?」
白い死神「そうだ。俺が教えられるコト、っていったら、やっぱコレしかないからな」
白い死神「あの白い死神がレクチャーするファンネル術。キョーミあるだろ?」
男「なるほど……。たしかに、白い死神のネームバリューは、強いな」ペラッ ペラッ
717: 以下、
参加者「あっ、死神さんですよね? 新刊1部ください!!」
白い死神「はいよー。良いファンネルライフを、心がけてな」ポンッ
男「死神……。お前、考えたな」
白い死神「おうともよ! おかげで本はバカ売れ!」
白い死神「いやー、来年もサークル参加しちゃおっかなー!!」
男「だけど。お前、ファンネル術なんか教えちゃっていいのか?」
男「他のヤツにも知れ渡ったら、これから動きにくくなるんじゃないのか?」
白い死神「ちっちっち。俺がテクニックのすべてを書いたと思ってるのか?」
718: 以下、
白い死神「こんなのは、俺の108あるファンネル技術の、序ノ口に過ぎん!」
白い死神「それに、知れ渡ったら知れ渡ったらで、ソレを逆用する手段もある」
白い死神「そう。たとえどんな状況であろうとも。俺は頒布物を、迅、かつカクジツに……」
白い死神「狙い撃つ!!」
少女「うーん、カッコイイなあ……!」
白い死神「おや嬢ちゃん。俺はチケット組だぜ? 本当に尊敬しちゃっていいのかい?」
少女「ええ。死神さんはチケット組ですが、転売しないだけ、志の高いヒトだと思います」
少女「……それに。出し抜き合うのが人間ならば。助け合えるのも、また人間だと思うので」
719: 以下、
白い死神「……嬢ちゃん。ちょっと、成長したな」
少女「えへへ……」
友人「こうして少年は大人への階段を上っていくのですなwww」
男「少女だけどな。で、お前たち。今朝は何をしていたんだ?」
少女「やっぱり、今日の頒布物のファンネルですか?」
白い死神「んー? まあ、そんなところだな」
友人「そんなところですなwwwwww」
男「…………」
720: 以下、
男「……おい、友人」
友人「んん?wwwなんですかなwwwwww」
男「今日は行列が正常に伸びているな」
男「三日目だから比較的多いとはいえ、少なくとも、すぐに消滅しているなんてコトは無い」
男「……何をした?」
友人「んんwwwそれはwwwちょっとwww」
友人「お花を摘みにいっただけですなwwwwww」
男「そりゃトイレだ」
721: 以下、
白い死神「まあ、俺たちには俺たちの戦いがあったのさ。深く追究せんでくれ」
男「……そうか。まあ、そう言われちゃ、引き下がるしかないが……」
少女「死神さーん! それじゃあ、新刊1部、くださいなー!!」
白い死神「おうよ。良いファンネルライフを心がけてな」
男「え。ファンネル、するのか……?」
少女「いえ、する機会があるかはわかりませんが。後学のため、というやつです!」
白い死神「まあ、そういう目的で買ってるヤツが一番多いだろうな」
男「やっぱりキョーミあるよな。そういう、裏の部分みたいなの」
722: 以下、

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