狐神「お主はお人好しじゃのう」【その3】back

狐神「お主はお人好しじゃのう」【その3】


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2:

お祓い師「だから式神の術を使いこなせていないのは、お互いに悪いところがあると思うんだ」
お祓い師「俺はお前を戦いの駒として見れていなかった。戦闘の上で信頼していなかったんだろうな。だからこそ制御ができなかった」
狐神「そしてわしはおぬしを信用する余り、わしから流れ出す力を制御できていなかったということじゃな」
お祓い師「そうだ。俺たちは二人で戦ってんだ。どっちが主体とか、そういうんじゃなかったんだ」
お祓い師「信頼をしないってのはもってのほかだし、信頼のし過ぎは自身の思考の放棄と同じだ」
お祓い師「それじゃあ駄目ってことだ」
4:
お祓い師「そういう気持ちに切り替えるために、さっきの話をさせもらった」
狐神「なるほど、のう……」
狐神「少し心臓に悪かったわい……」
狐神「いまもちょっと泣いとるわい……」
お祓い師「おうおう、泣き顔は可愛いなお前」
狐神「…………」
狐神「……いま何と?」
お祓い師「いやあ、普段生意気なお前が涙目になってるのは新鮮でいいなあと」
狐神「ど、どうしたのじゃおぬし……? 湯あたりで頭をやられてしまったのかの……?」
お祓い師「なに、心機一転ってことでな。少し素直になってやろうかと」
6:
狐神「じゃ、じゃからと言って可愛いなどとたわけたことを……!」
お祓い師「慌てた顔もいいな。うん、お前と一緒に旅を出来る俺は幸せ者だよ」
狐神「〜〜〜〜っ! いい加減にせい! ほんとに!」
お祓い師「ははっ、いま最高に面白い顔してるぜ、お前」
狐神「ば、馬鹿にするのもほどほどにせんかい……!」
お祓い師「悪い悪い」
狐神「まったく……おぬしは……」
狐神(そういう言葉は、真面目な時に言ってほしいものじゃな……)
7:

山間の集落の村長「……で、結局昨日はお祓い師が湯あたりして、狐のお嬢さんが脱衣所まで運んだはいいが……」
山間の集落の村長「自分で歩けるように回復した頃には次は体を冷やしてしまい風邪を引いた、と……」
山間の集落の村長「お前さんたち、馬鹿なの?」
お祓い師「ハックシュン! ……返す言葉もない……」
狐神「本当に大馬鹿者じゃ……」
山間の集落の村長「仕方がない……。今日のところは特訓は無しに……」
8:
お祓い師「……いや、問題ない。今日もやらせてくれ」
山間の集落の村長「しかしだねえ……」
小柄な祓師「……それは万全でなくても俺の相手は務まるという意味か?」
お祓い師「ハックシュン! ……いや、そういうことじゃねえって。ただちょっとな。昨日あの後色々と掴めたんだよ」
小柄な祓師「掴めた、だと?」
狐神「うむ。色々とじゃ」
小柄な祓師「……まあ、お前たちが良いと言うならばいかせてもらおう。村長もそれで構いませんね?」
山間の集落の村長「し、しかしね……」
小柄な祓師「……どうかしたのですか? あまり貴女らしくないですよ」
山間の集落の村長「……いえ、なんでもないわ。始めなさい」
9:
お祓い師「よし、いくぜ」
狐神「うむ」
小柄な祓師(果たして何を掴んだというのか……)
小柄な祓師「……用心するにこしたことは無い。手は抜かずにやらせてもらうぞ」
小柄な祓師「いくぞ」
野衾「…………」
小柄な祓師「ふっ!」
お祓い師「あれは……!」
お祓い師(発火の御札……。そして……)
小柄な祓師「……油の入った容器を投げ込み、立ち上がった火柱を、食う」
10:
野衾「…………!」
小柄な祓師「……さあ、昨日のような無様な姿は見せるなよ……!」
お祓い師(地中からツタが……! そして……!)
狐神「おぬしよ! 炎が来る!」
お祓い師「分かっている!」
お祓い師「狐神!」
狐神「うむ!」
小柄な祓師「まだだ……!」
お祓い師「くらうかよ!」
小柄な祓師「…………」
11:
小柄な祓師(避けたか……)
小柄な祓師「……しかし何だ。避けるだけでは昨日と変らないぞ。一体何が変わったと言うんだ?」
小柄な祓師「拍子抜けだな」
お祓い師「まあそう急ぐなよ。俺たちはまだ攻撃すらしていないんだからよ」
小柄な祓師「……ならば一撃でもいいから当ててみるんだな……!」
お祓い師「ご希望通り行かせてもらうぜ!」
小柄な祓師「……! 食え!」
野衾「…………」
小柄な祓師「正面からとは安直な……」
小柄な祓師「だが……」
12:
お祓い師「平気か?」
狐神「……ふう、大丈夫じゃ。問題あらん」
小柄な祓師(狐が昨日ほどバテている様子がない……)
小柄な祓師「ある程度制御ができるようになったか」
山間の集落の村長「…………」
お祓い師「まあ、そんなところだ」
小柄な祓師「……なるほど、面白い」
小柄な祓師「ならばこれでどうだ……!」
お祓い師「……! これは……!」
狐神「ツタで出来た檻……。閉じ込められてしまったのう……」
13:
小柄な祓師「ツタを燃やして出ようとすれば、たちまちお前たちは炎に包まれてしまうぞ。さあどうする」
お祓い師「こいつは厄介だな……だが……」
お祓い師「燃やすのではなく、吹き飛ばしてしまえばいい」
お祓い師「やれるか?」
狐神「言ったであろう。心配は要らん」
お祓い師「よし、やるぞ」
狐神「うむ」
狐神(……力を此奴に預けるのではない……共有するのじゃ……)
狐神(此奴一人が戦うのではなく、二人で共に戦う……!)
狐神(独り善がりな考えはもう捨てねばならぬ……!)
14:
狐神(わしの狐火を、此奴の炎へ……!!)
お祓い師「…………! いける……!」
お祓い師「はああああっ!!!!」
山間の集落の村長「……やるじゃない……」
小柄な祓師「……! この威力は……!」
野衾「…………!」
小柄な祓師「無理はするな! 食いきれそうにないなら避けることを考えろ!」
山間の集落の村長「……はい、そこまで!!」
お祓い師「なっ…………」
狐神「炎がかき消された……」
15:
お祓い師(俺たちの全力を片手で……)
狐神(やはりこの者、規格外じゃな……)
小柄な祓師(……た、助かった……)
山間の集落の村長「……なるほど。この一晩で何があったのかは分からないけれども、ちゃんと使いこなせるようになったのね」
山間の集落の村長「これならもう、今日で終わりで良さそうね」
お祓い師「そうなのか?」
山間の集落の村長「最後に仕上げがあるから、このまま私の家について来なさい」
20:

お祓い師「それで、仕上げというのは?」
山間の集落の村長「お前さん、式神の契約の時に書いた印を見せてご覧なさい」
お祓い師「ああ。この腕のやつだ」
山間の集落の村長「……うんうん。……なるほど、やはりね……」
お祓い師「なんだ? まさか印が間違っているとかか?」
山間の集落の村長「その通りよ」
21:
お祓い師「なっ」
狐神「えっ」
お祓い師「狐神……?」
狐神「い、いや。わしは書物通り正確に書いたつもりじゃが……!」
狐神「じゃが、あの時は緊急時だった故……もしかしたら間違えもあったかもしれんが……」
狐神「……のう?」
お祓い師「はあーっ、お前ってやつは……」
山間の集落の村長「この間違いは、ある意味お前さん方にとっては良かったのかもしれないけど」
お祓い師「と、言うと?」
山間の集落の村長「印の書き間違いで起きている弊害は、出力の低下」
22:
山間の集落の村長「つまり正確な印だったら、狐のお嬢さんはもっと苦しいことになっていたかもしれないわね」
お祓い師「な、なるほど……」
山間の集落の村長「でももう二人共ちゃんと術を制御できるようになったみたいだから、正確な印に書きなおしても問題無いわ」
山間の集落の村長「今から書き直してあげる」
お祓い師「ああ、お願いする」
小柄な祓師「道具です」
山間の集落の村長「ありがとう。さて……」
山間の集落の村長「…………」
お祓い師「…………」
狐神「…………」
23:
山間の集落の村長「……よし。できたわ」
お祓い師「……ああ、ありがとうございます」
山間の集落の村長「さてさて。お前さん達の目的は達せたれたわけだけど、この先はどうする?」
お祓い師「目的……か。確かに一番の目的はいま達成されたが……」
お祓い師(やはり親父の所在が気になるな……)
山間の集落の村長「…………」
お祓い師「な、なあ……もう一度だけ聞くんだが……」
山間の集落の村長「……ん?」
お祓い師「ええとだな……」
お祓い師(答えたくないって顔してんなあ……)
24:
お祓い師「俺のおや────」
???「今日こそは口を利いてくれよなあ!? なあ!?」
狐神「む……?」
山間の集落の村長「ふん……」
小柄な祓師「またか……」
お祓い師「なっ……!」
お祓い師「……お、親父……!?」
狐神「なんじゃと!? この者が……」
狐神(伝説とも言われる氷使いの退魔師じゃというのか……)
???→氷の退魔師「……お? なんでお前がこんな所にいるんだ?」
25:

氷の退魔師「……なるほど。つまりは修行の旅の片手間に俺を探していたということか」
お祓い師「概ねそんなもんだよ」
氷の退魔師「いやあ、お前とこんな所で出会うとはなあ。世界ってのは案外狭いな」
お祓い師「俺が親父を探していたんだから出会うのは当然だろうが……。世界は十分広かったよ……それこそうんざりするほどな」
氷の退魔師「そうか、世界を見てきたか。それはいいことだな」
お祓い師「まだ一部だけどな」
氷の退魔師「なるほどなるほど……」
山間の集落の村長「……感動的な再開は結構だが、別の場所でやってもらっても構わないかしら?」
山間の集落の村長「あなたがここに入ることを許可した記憶はないわ」
氷の退魔師「まあまあ、そう言わず……」
26:
山間の集落の村長「……は、や、く、出、て、行、け」
氷の退魔師「わ、わかった。わかったからその物騒な術を解いて。な?」
氷の退魔師「じゃ、俺はお暇させてもらうぜー」
お祓い師「あ、おい! ちょっと待てよ!」
お祓い師「……いない……」
山間の集落の村長「ふん……」
お祓い師(何があったのか、はとても聞ける雰囲気じゃねえな……)
お祓い師「じゃ、じゃあ俺たちもこの辺りで……」
山間の集落の村長「……明日」
お祓い師「お、おう」
27:
山間の集落の村長「明日、その完成した印の出力の確認をするからいつもの所に集合しなさい」
お祓い師「わ、わかった」
お祓い師(なんか知らんけど滅茶苦茶怒ってんな……)
狐神「(おぬしのお父上は一体何をやらかしたのかのう……)」
お祓い師「(知るかよそんなこと……)」
山間の集落の村長「……何か?」
お祓い師「い、いや。また明日……」
山間の集落の村長「…………」
山間の集落の村長「……はぁー……」
小柄な祓師「お疲れ様です」
28:
山間の集落の村長「お前も下がっていいわよ」
小柄な祓師「はい」
小柄な祓師(……しかし、あの二人が親子となると……)
小柄な祓師(なるほど……。そういうことか……)
29:

山間の集落の村長「……さて。昨日言った通り、完成した印の出力の確認をするのだけど……」
氷の退魔師「おう」
山間の集落の村長「お帰り願うわ」
氷の退魔師「いやいや。俺にも手伝いをさせてくれよ」
山間の集落の村長「お断りよ」
氷の退魔師「そう冷たくすんなよー。俺とお前の仲だろ?」
30:
山間の集落の村長「私とお前の間に特別な間柄があったとは初耳ね」
氷の退魔師「ひっでえ」
氷の退魔師「……が、まあいいか。とにかく手伝ってやるよ」
氷の退魔師「ほら、かかって来いよ。久しぶりに稽古をつけてやる」
お祓い師「な……」
氷の退魔師「今のお前の全力を見てみたい。特に深い意味はないさ」
氷の退魔師「おっ、それとも怖気づいたか? お前は昔からそうだなあ」
お祓い師「何だと……」
氷の退魔師「待て待て。怒らせるつもりはなかった」
山間の集落の村長(本気で言っているのか……?)
31:
狐神「……おぬし。やれるかの?」
お祓い師「……ここで引き下がれるかよ」
狐神(ここで全力でぶつかることで、此奴のお父上に対する劣等感が少しでも拭えればよいのじゃが……)
狐神(悪化しても困るのう……)
狐神「……よし。全力じゃ。ありったけをぶつけるんじゃ」
お祓い師「ああ、わかってる」
お祓い師「いくぜ、親父……」
氷の退魔師「よし来い」
山間の集落の村長「…………」
小柄な祓師(今日は仕事なしか……)
32:
氷の退魔師「出力を見るのが目的だから俺は動かない。目掛けて全力で撃ってこい」
お祓い師「わかってるよ……!」
お祓い師「はああああぁぁぁぁ…………」
狐神「……!」
狐神「こ、これは……!」
お祓い師「流れ込んでくる力の量が昨日よりも多い……!」
狐神「じゃが以前のように無理に流れ出ているような感覚はない……」
狐神「きちんと制御できておる……」
お祓い師「ああ、これなら……!」
山間の集落の村長「取りあえずは平気そうね」
33:
小柄な祓師「ええ」
山間の集落の村長「後はどれほどの力が出るか……」
お祓い師「…………」
お祓い師「狐神、よく聞けよ」
狐神「うむ?」
お祓い師「闇雲に術を出しても親父には絶対届かない」
お祓い師「一点に集中していく」
狐神「一点に?」
お祓い師「ああ。術をを一点に凝縮させて放つ。お前はその瞬間に力を全力で開放してくれ」
狐神「うむ、わかった」
34:
お祓い師「はあああ…………」
氷の退魔師「……ほーう?」
お祓い師「ああああ…………!」
狐神「くっ……」
狐神(流石にちときつくなってきたのう……)
お祓い師「…………よし! やるぞ!」
狐神「う、うむ!」
お祓い師「死ねえっ! 親父ィッ!!」
氷の退魔師「ええっ!? 酷くない!?」
小柄な祓師(昨日よりも格段に術の威力が上がっている……)
35:
小柄な祓師(うちの野衾じゃ食いきれないな……)
お祓い師「一点集中型の炎の術だ! 防いでみろよ!」
氷の退魔師「そりゃあ防がんと死ぬわ!!」
氷の退魔師(しっかしこいつは……本気でやらんとな……)
氷の退魔師「はああっ!!!!」
狐神「氷の壁じゃ……!」
お祓い師「そんな薄いので防げるかよ! 溶かし尽くせ!」
氷の退魔師「おっとやべえな……」
氷の退魔師「だがな、確かに一枚じゃ防げないけどなあ……」
氷の退魔師「────何十枚も出せば、どうだろうな?」
お祓い師「ばっ……」
36:
氷の退魔師「はい、防ぎましたー」
狐神「な、なんという量の氷じゃ……。あれほどの力を所持し、制御しきれるとは……」
狐神(それに全力を出しているようには到底見えぬ……。軽くあしらわれた、という表現が正しいかのう……)
小柄な祓師「こ、これがSランクの力か……」
山間の集落の村長「はあ……。まあ仕方がないでしょう」
氷の退魔師「ちょっとばかし焦ったが……今回も俺の勝ちだな」
お祓い師「くっ……!」
氷の退魔師「しかしなんだお前。大分炎の術も様になってきたんじゃないのか?」
氷の退魔師「術の基礎を学び終えたぐらいの時に突然、俺の反対を押し切って習得し始めた時はどうなるかと思ったが……」
お祓い師「……親父には関係ないだろう」
37:
氷の退魔師「いや、まあ。お前がどんな道を選んで、どう生きていくかなんて俺が口をだすことじゃないが……」
氷の退魔師「ただし、うちの家系は代々氷の術との相性がいい。わざわざ相性の悪い炎を選択したのは賢いとは言えんが……」
お祓い師「どうだっていいだろうが。俺の勝手だろ」
氷の退魔師「……もしかして、嫉妬か?」
お祓い師「…………ああ?」
氷の退魔師「謙遜しないで言うけどな、俺はうちの家系の退魔師の中でも稀代の天才だ。自覚あり」
狐神(自分で言いおった……)
山間の集落の村長(これだからこの人は……)
氷の退魔師「確かにあのまま氷の術の習得の道を選んでいても、俺は越えられなかったろうな」
氷の退魔師「悔しかったのかあ? 俺と比べられるのが」
38:
お祓い師「なっ……! そんなこと……!」
氷の退魔師「なるほどなるほど……。そいつは悪かったな」
お祓い師「からかってんのか!? ふざけんな!!」
狐神「お、おぬし……。少し落ち着かぬか……」
狐神(なるほど……。天邪鬼が言っていたことは、やはり間違っていなかったか……)
狐神(確かに身近にいると、素直に尊敬するというのは難しそうな男じゃのう……)
狐神(じゃが………)
お祓い師「くっ…………」
お祓い師「気分が悪い……帰らせてもらう……!」
氷の退魔師「……まあ待てよ」
39:
お祓い師「……なんだよ。俺にはもう話すことはない」
氷の退魔師「俺にはある」
氷の退魔師「いやまあ……こんな事もあるんだなって思ってな」
お祓い師「……何がだよ」
氷の退魔師「お前も式神の術に辿り着くとはな」
お祓い師「待て。お前“も”だと……?」
お祓い師「やはり親父も……」
氷の退魔師「まあ、そういうことだ」
お祓い師「……んだよ。結局親父の後追いをしてるでも言いてえのか?」
狐神「いくら何でもひねくれ過ぎじゃぞ、おぬし……」
40:
氷の退魔師「俺が式神の術というものに出会ったのは今のお前と同じぐらいの歳の頃だ」
山間の集落の村長「…………」
氷の退魔師「お前もここに至るとは、な……」
お祓い師「親父……?」
氷の退魔師「ここから先は俺自身の話にもなる。聞いてくれんなら場所を移そうや」
山間の集落の村長「……私の家に来るか?」
氷の退魔師「昨日とは打って変わってだな」
山間の集落の村長「嫌なら別の場所に行けばいい」
氷の退魔師「まさか。ありがたく行かせてもらうぜ」
氷の退魔師「……で、お前はどうするんだ?」
お祓い師「…………」
49:

氷の退魔師「さっき言った通り俺が式神の術というものに興味を示したのは、二十半ばぐらいの時だ」
氷の退魔師「当時の俺は、そりゃあ優秀な退魔師だったぜ。丁度Sランクの称号を得た頃だったからな。絶好調だった」
氷の退魔師「各地で人外を滅して回っていたな……」
お祓い師「…………」
氷の退魔師「そんなある日、俺が帝国の協会支部を回っていた時だ。でかい案件が転がり込んできた」
氷の退魔師「何だと思う?」
50:
お祓い師「突然言われたって思いつかねえよ。親父がそこまで言うなら相当な事態だったんだろうけどな」
氷の退魔師「聞いて驚くなよ?」
氷の退魔師「俺に舞い込んできた仕事の依頼は、“九尾”の討伐だ」
狐神「きゅ、九尾じゃと……!?」
お祓い師「魔王配下の四天王だったっていう、あの九尾か……!?」
狐神「かつて三国の王を惑わし、滅亡させたという逸話も残っておるのう……」
お祓い師「だが、魔王軍は何百年も前に勇者によって……」
氷の退魔師「敗北はしたが、討ち取られてはいない。魔王を含めて幹部格は全員逃げ延びている」
小柄な祓師「…………」
お祓い師「なんでそんなことを知っている……」
51:
氷の退魔師「教会も、軍も、俺たち退魔師協会の人間も、上層の人間やSランクともなれば皆知っている」
氷の退魔師「何百年も音沙汰がなかったからデマだたという説も浮上していたが、九尾の出現で皆確信した」
氷の退魔師「魔王を含めて、全員が未だに何処かに潜んでいるってな」
氷の退魔師「お前も知っているだろう、勇者の末裔が招集されたって」
お祓い師「そういえば道具師がそんな記事があったって言ってたな……」
氷の退魔師「また何か進展があったのかもしれないな」
氷の退魔師「……でだ、俺の話に戻そう」
氷の退魔師「俺はその時、皇国の支部から派遣されたっていう退魔師、いや陰陽師の奴らと隊を組んで九尾討伐に乗り出した」
お祓い師「陰陽師……」
狐神「皇国で古来から続く祓師の専門家の家系じゃな」
狐神「あやつらの扱う術は非常に強いものだと聞いておる」
52:
氷の退魔師「そう、そのとおりだぜ」
氷の退魔師「各国の王を誘惑しては滅ぼして回っていたという九尾だが、その生まれは皇国みたいでな」
氷の退魔師「皇国の物の怪の専門家を呼んだっていうことだ」
氷の退魔師「そんで俺たちは見事九尾と遭遇し、戦闘になったんだが……」
氷の退魔師「途中で俺たちは作戦を中止した」
お祓い師「力が及ばなかったのか?」
氷の退魔師「いや。凄まじく強かったが、こっちには俺以外にもSランクの陰陽師がいてな。あのままやっていれば勝っていただろうな」
山間の集落の村長「…………」
山間の集落の村長「……ほーう? 随分と言ってくれるじゃないの……」
氷の退魔師「怒んなって。可愛い顔が台無しだぜ」
53:
お祓い師「ん…………?」
お祓い師「いや、待て……」
氷の退魔師「おっ、どうした?」
お祓い師「いや。その口ぶり、まさか……」
氷の退魔師「やっぱり言ってなかったんだな」
氷の退魔師「そう。こいつが元魔王軍四天王にして、伝説の物の怪の王が一人、九尾サマってことだ」
お祓い師「なっ……」
狐神「狐の臭いと、力の強大さからまさかとは思っておったのじゃが、やはりか……」
山間の集落の村長→九尾「……まあ、そゆこと」
お祓い師「お、お前は知ってたのかよ」
54:
小柄な祓師「……無論」
お祓い師「きゅ、九尾ねえ……」
九尾「私のことはいいから、話を続けたらどう?」
氷の退魔師「照れんなよ」
九尾「照れてない」
氷の退魔師「ま、じゃあ続けますか?」
氷の退魔師「作戦を中止を進言したのは俺じゃなくて、その同行していた陰陽師だ。俺は大反対したけどな」
氷の退魔師「『こんな最高の獲物を前に引き下がれるかよ』ってな」
お祓い師「…………」
氷の退魔師「そしたらさ、ぶん殴られたんだよ。その陰陽師に」
55:
氷の退魔師「『人外退治を愉しむな。あいつには敵意が無いのがわからないのか』ってな」
氷の退魔師「最初はぽかんとしたね。人外を前に何を言ってんだか、ってな」
氷の退魔師「ただ、あいつがあんまりうるさいから、指示通り言葉を交わすことを試みたんだよ」
氷の退魔師「正直なところ、伝説の物の怪を前に正気じゃねえと思ったぜ」
氷の退魔師「だが、驚いたねえ。ちゃんと会話ができるんだよ」
氷の退魔師「そして言葉を重ねる内に気がついた。俺は今まで、人外に言葉でアプローチをして、理解をしようと思ったことがなかったってな」
狐神「…………」
氷の退魔師「同時に自分の愚かさにも気が付いていった。種族だけを見て、区別をして、差別をする。その愚かしさにな……」
お祓い師「…………」
氷の退魔師「そうして、俺は……」
56:
九尾「そこまで」
九尾「それ以上は話さなくていい。まとめなさい」
氷の退魔師「な、なんだよ」
九尾「…………」
氷の退魔師「……はいはい、わかりましたとも」
氷の退魔師「そんで俺は最終的にこいつと式神契約を結ぶまでになった」
お祓い師「お、親父の式は九尾なのかよ!?」
氷の退魔師「ああ、そうだぞ」
九尾「心外ながらね」
氷の退魔師「おいおい、ひっでえなあ……」
57:
お祓い師「お、鬼に金棒じゃねえか……」
小柄な祓師「……まったく、恐ろしいものだ」
氷の退魔師「人と人外は、分かり合える場合だってある。そりゃあ、全部が全部とは言わない」
氷の退魔師「悪意の集合体みたいな奴だっているからな。あれとは対話は無理だ」
氷の退魔師「そいつらに対抗するために俺たち退魔師はいる」
氷の退魔師「まあ、全部が全部が人間の敵であるわけじゃない。あの陰陽師に諭されてようやく気がつけた」
氷の退魔師「だが……」
狐神「じゃが、此奴は自らそれに気がつくことが出来た」
氷の退魔師「……その通りだ」
狐神「だからわしはこやつと共におるのじゃ」
58:
氷の退魔師「……だろうな」
氷の退魔師「おい」
お祓い師「な、なんだよ……」
氷の退魔師「お前は俺には勝てねえ。絶対だ」
お祓い師「うっせえな」
氷の退魔師「だが、お前は俺には出来なかったことをやってのけた」
お祓い師「それは…………」
お祓い師「だけどそんなことは……」
氷の退魔師「大事なんだよ」
氷の退魔師「お前みたいな奴が、この先は必要になってくる。俺じゃあねえんだ」
59:
氷の退魔師「退魔師っていう、人外と関わりまくり仕事をやっているとな、お前みたいに気がつく奴らが出てくんだよ」
氷の退魔師「分かっている奴らは沢山いる。俺たちが目指すべきなのは共生だ」
お祓い師「共生…………」
氷の退魔師「……この先、時代は動くぜ。その予兆は既にあちこちで出ている」
氷の退魔師「俺も俺で動いている。お前はお前が思う通りに足掻いてみろ」
お祓い師「……んだよ、急に親を気取りやがって」
氷の退魔師「こんなんでも、一応親だからな」
お祓い師「チッ……」
氷の退魔師「炎の術と狐火、心の相性……。そして……」
九尾「…………」
60:
氷の退魔師「……まあ、お前の術はまだまだ伸びるぜ。俺が保証する」
狐神「おぬしのお墨付きとは心強いのう」
氷の退魔師「おう、馬鹿みたいに価値が有るぜ?」
九尾「自分で言うなと」
氷の退魔師「いいじゃねえかよ別にー」
氷の退魔師「あと一つアドバイスだ」
お祓い師「アドバイス?」
氷の退魔師「術の威力自体は限界がある。特にお前はな」
お祓い師「…………」
氷の退魔師「ただしお前は器用だ。さっきみたいに工夫を凝らせ」
61:
氷の退魔師「その器用さがお前の武器だ」
お祓い師「……わかった」
狐神「……のう、ぬしよ。今から氷の術を習得し直すというのはやはり不可能なのかのう?」
お祓い師「氷の術、か……」
氷の退魔師「まあ使えないわけじゃないんだろうが……」
お祓い師「精々できてコップの水を凍らせるぐらいだろうな」
お祓い師「この体はもう、炎を扱うことに慣れてしまった」
氷の退魔師「俺でも複数系統の術を完全に習得するのは無理だ」
氷の退魔師「そういうのはまた別の才能がいる」
氷の退魔師「所謂、魔女と呼ばれる奴らだな」
62:
お祓い師「魔女……」
氷の退魔師「今となっては教会に因縁をつけられた奴らの呼び方になっているが、元は優秀な術者の集団のことを指した」
氷の退魔師「体に染み付いた力の使い方ってのは、中々変えられるもんじゃねえ」
狐神「……うむ、それは身をもってわかっておる」
お祓い師「…………」
氷の退魔師「……さて、お前はいいのか?」
お祓い師「いいのか、ってのは?」
氷の退魔師「お前にはまだやることが有るんじゃねえのか? こんな所にいつまでもいてもいいのかよ」
お祓い師「やること、か……」
氷の退魔師「ほらほら。わかったならとっとと荷物まとめて出て行くんだな」
63:
お祓い師「言われなくても、お前の前からはすぐに消えてやるよ」
狐神「おぬし、仮にも親であろう……。別れの挨拶ぐらいせんのか?」
氷の退魔師「いいっていいって。まだ反抗期なんだよ」
お祓い師「あ?」
氷の退魔師「お、再戦するか?」
お祓い師「…………はあ…………」
お祓い師「……なんだ、その。得られるものはあった。そこだけは礼を言っておくよ」
お祓い師「じゃあな」
氷の退魔師「……おう。元気でやってれば、またすぐに会えると思うぜ」
お祓い師「……ああ、親父。最後に言うことがあるんだが」
64:
氷の退魔師「お、なんだ?」
お祓い師「金や屋敷の管理、従兄弟家族が困ってるから手紙を出しておけよ。無言で立ち去るな」
氷の退魔師「あ、ああ。なるほどね……。了解」
氷の退魔師「ああそうだ。協会支部からこの陰陽師の名前を通せば、俺に連絡が繋がる」
お祓い師「これは……、さっき言っていた陰陽師か?」
氷の退魔師「ああ、あの時以来の付き合いでな」
氷の退魔師「何かあったら連絡よこしな。気分で」
お祓い師「……わかった」
お祓い師「じゃ、俺は部屋の荷物まとめたら行くわ」
お祓い師「九尾の村長やお前にも世話になったな」
65:
九尾「えっと、その……」
お祓い師「ん……?」
九尾「……いえ、なんでもないわ。困ったらまた来なさい」
小柄な祓師「……ああ」
狐神「世話になったの」
お祓い師「……よし、行くか」
狐神「うむ」
66:

狐神「……長いこと探していたお父上との再開の感想は?」
お祓い師「……相変わらずあの調子で、ある意味安心したぜ」
狐神「もっと嫌っているかと思ったがの」
お祓い師「嫌いだよ! あの態度! むかつくわクソが!!」
狐神「ふ、ふむ……。そうかの……」
お祓い師「……だけどやっぱ、すげえとは思う」
67:
狐神「ふむ」
お祓い師「雲の上の人だから、嫉妬はするけどよ……」
お祓い師「だからこそ、見習うべきところばっかりでさ」
お祓い師「まあ、今回も勉強にはなったな」
狐神「……なんだかんだ、ということかの」
お祓い師「うるせ。そういうことじゃねえよ」
狐神「まあまあ」
お祓い師「うるせえな……」
お祓い師「…………あっ…………」
狐神「む?」
68:
お祓い師「……結局、母さんのことは聞きそびれちまったな」
狐神「……ふむ」
お祓い師「……まあ、次の機会に聞けばいいか」
狐神「次とは何時になるのかのう」
お祓い師「連絡手段は手に入れたし、会おうと思えば会えるだろう」
狐神「ま、確かにの」
狐神「して、おぬしよ。この村を出た後はどうするつもりじゃ?」
お祓い師「一旦はあの町に戻る。荷物をまとめ直したいからな」
狐神「ふむ」
お祓い師「その後は、行こうと思うんだ。いい加減な」
69:
狐神「ふん。じゃろうと思ったわい」
お祓い師「ああ。目指すは西人街だ」
70:

九尾「で、お前さんはいつまでここにいるつもり?」
氷の退魔師「いや、お前がここで話そうって」
九尾「お祓い師との話はもう終わったでしょう。だから出て行ってくれないかしら」
氷の退魔師「いやいや、俺の目的はまだ果たされちゃいないんだが」
九尾「…………」
氷の退魔師「いい加減機嫌を直してくれよー」
71:
九尾「ふん」
九尾「……しかし、お前さんよ。なぜあんなことを?」
氷の退魔師「あんなこと、とは?」
九尾「あの子は血統に逆らって、相性の悪い炎の術を選択したわ。いくら頑張っても、限界がある……」
氷の退魔師「まあ確かに、あいつ自身の術には限界がある」
氷の退魔師「ぶっちゃけた話、氷の術を収めたとしても……あいつにはうちの家系の才能がないからな」
氷の退魔師「限界にぶち当たるのは遅かれ早かれだったと思うぜ」
九尾「…………」
氷の退魔師「ただな、式神の術に関しては別だ」
氷の退魔師「ありゃあ面白いじゃねえか。何が起こるかわからない」
72:
氷の退魔師「炎というお互いの術の相性に加えてよ……」
氷の退魔師「────狐の血も引いてるあいつなら、何が起こるかわからないぜ?」
九尾「……そうね」
氷の退魔師「それよりお前は良かったのか? もう少し話すこともあったんじゃないか?」
九尾「……会おうと思うえば何時でも会えるから」
氷の退魔師「ま、お前がそれでいいなら咎めないけどな」
氷の退魔師「俺はまだやることがあるからな、直ぐに会うことになりそうだ」
73:
《野衾》編はここまでです。
次回からは《悪魔》編に移ります。
77:
ランクを載せ忘れていました。
《現状のランク》
S3 氷の退魔師
A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神)
B1 狼男
B2 お祓い師
B3 フードの侍 小柄な祓師
C1 
C2 マタギの老人
C3 河童
D1 若い道具師
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊
不明 九尾
※1 お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。
※2 九尾は詳しくは不明。お祓い師(式神)よりは上。
79:
《悪魔》
お祓い師「よう」
狐神「ただいま、じゃな」
若い道具師「ああっ、お久しぶりですね! 一週間ぶりぐらいでしょうか」
お祓い師「そんなもんだな」
若い道具師「どうでしたか? 式神について詳しく知ることが出来ましたか?」
お祓い師「お前の研究に役立つかは分からないが、収穫はあった」
80:
若い道具師「時間がある時に聞かせてください」
お祓い師「ああ。またしばらく町を離れるから、帰ってきたらな」
若い道具師「またどこかに行くんですか?」
お祓い師「……西人街に、忘れ物を取りにな」
若い道具師「ああ、なるほど……」
お祓い師「荷物をまとめ直して、明日の朝には出発するつもりだ」
若い道具師「わかりました。くれぐれも無茶はしないでくださいね」
若い道具師「俺としても顔見知りの同業者が死刑台、なんて嫌ですからね」
お祓い師「大丈夫だっての。心配はいらねえよ」
若い道具師「そうですねえ。一週間ぶりの再開を祝うのとこの先の無事を祈るために、今晩夕食でもどうですか?」
81:
お祓い師「お、いいな」
狐神「賛成じゃ」
若い道具師「じゃあ今晩、日が沈んだ頃に協会の窓口のところで集合しましょう」
お祓い師「了解だ」
82:

お祓い師「貴女も来るとは……」
蛇目の受付嬢「どうもどうも」
狐神「一緒に宅を囲むの初めてじゃのう」
蛇目の受付嬢「確かにそうですね」
若い道具師「いつも俺が一人で相手して悲惨な目を見ているんですからね……」
狐神「大酒豪との噂じゃからのう……」
83:
蛇目の受付嬢「いやだあ、そんなことないですよ」
お祓い師「まあ、俺達は明日が旅立ちだから少し抑えないとな」
狐神「じゃな」
蛇目の受付嬢「あら残念……。あっ、麦酒おかわりお願いしまーす」
蛇目の受付嬢「……で、西人街に行くんですって?」
お祓い師「ああ。事が済んだらここに戻ってくるつもりだが……」
蛇目の受付嬢「大丈夫なの? 言ってしまえば犯罪者の逃亡幇助でしょう?」
蛇目の受付嬢「西人街から大して離れていないこの町に戻って来ちゃっても、すぐに見つかっちゃうんじゃないの?」
お祓い師「もちろん、あいつらはもっと遠く逃げた方がいいとは思うが……」
お祓い師「向こうでは見つからないようにするさ。万が一顔を見られちまったら、その時はその時さ」
84:
お祓い師「こいつを連れて、俺たちもどこか遠い地に引っ越すよ」
狐神「ふふっ。どこへ行くにしても一緒じゃな」
若い道具師「お熱いですねえ」
蛇目の受付嬢「もうくっついてしまえばいいじゃないの」
お祓い師「貴女まで何を言ってるんだ」
狐神「おや、ぬしがよいならわしは構わぬが?」
お祓い師「おっ、じゃあそうするか?」
若い道具師「おや」
蛇目の受付嬢「まあ」
狐神「なっ、何を言っておるのじゃ……?」
85:
お祓い師「この間言っただろう? 心機一転で素直になると」
お祓い師「こんなに可愛いおキツネ様に言い寄られて断るわけがないだろう?」
狐神「ぐぬぬ……そのニヤニヤをよさぬか……!」
お祓い師「もうお前にからかわれる俺じゃねえからな」
狐神「ふん、この程度でわしに勝ったと思うでないぞ」
お祓い師「ほーう、それではもっと凄い事を期待してもいいのかな?」
狐神「当たり前じゃ! 今晩部屋で楽しみにしておくのじゃな!」
若い道具師「(茶番、ですね……)」
蛇目の受付嬢「(お互いに素直な心が読めていないのがもどかしいわ……)」
若い道具師「(素直になれない人には……)」
蛇目の受付嬢「(酒を注げばいいのよねえ)」
86:

お祓い師「ほーう、じゃああのマタギのじいさんは西人街の出身なのか!」
若い道具師「みたいですよ! まあ、どうでもいいことですけどねえ!」
お祓い師「だな!」
若い道具師「あっ、おかわり! おかわりお願いします!」
狐神「あやつはな……わしをからかってばかりなのじゃ……」
蛇目の受付嬢「うんうん」
87:
狐神「素直になるとか言っておったが、あんなの嘘じゃ……。もっと素直にわしに向き合って欲しいのう……」
蛇目の受付嬢「うんうん、そうねえ」
蛇目の受付嬢「でも貴女も素直になるべきだと思うわ」
狐神「わしも、じゃとお?」
蛇目の受付嬢「ええ、そうよ」
狐神「そうかのう……」
お祓い師「おおい、そっちは何を話してるんだよ」
若い道具師「俺らも混ぜてくださいよお」
蛇目の受付嬢「なんでもないわよー」
若い道具師「えー、絶対なんか面白そうな話をしていましたよね?」
88:
蛇目の受付嬢「あら、そんなことないわよ」
お祓い師「いーや、なんか隠していいるね。俺にはわかる」
蛇目の受付嬢「貴方にはもっと気が付くべきことがあると思うの」
お祓い師「あー? なんだ?」
狐神「なんでもあらんわ!」
お祓い師「なんでお前が慌てるんだよバカが」
狐神「馬鹿じゃああらんわ!」
蛇目の受付嬢「うふふ」
お祓い師「うっせえなあ、大声出すんじゃねえよ」
狐神「おぬしらのほうが声が大きいわい。店中におぬしらの声が響いておる」
89:
お祓い師「んなこたねえよ」
狐神「客観的意見じゃ阿呆め」
お祓い師「おうおう、今日は随分と喧嘩腰だな?」
蛇目の受付嬢「はいはーい、二人共落ち着いてねー。あ、店員さん。私にももう一杯追加でー」
狐神「……わしの分も追加で頼む」
お祓い師「お前はそろそろ抑えておかないとまずいんじゃないか?」
狐神「今日は飲むと始めに言ったであろう」
お祓い師「そりゃそうだけどよ……。もう顔が限界だぜ?」
狐神「ふん。なんならおぬしも今までに見たことがないほど真っ赤な顔をしておるわい」
狐神「自分の心配をしたらどうじゃ?」
90:
お祓い師「俺はお前みたいに酔いつぶれたりは、しねえんだよ」
若い道具師「酔っぱらいはみんなそう言いますよねー?」
狐神「そうじゃそうじゃ」
お祓い師「そういうお前のほうがやばそうに見えるが?」
若い道具師「彼女と一対一の時よりはマシですよ……」
蛇目の受付嬢「四人分追加でー」
お祓い師「ああ……」
狐神「ご愁傷さま、じゃなあ……」
蛇目の受付嬢「何かしらー?」
若い道具師「いいえ、なんでも……」
91:
蛇目の受付嬢「さ、さ。ちょっと私から質問したいことがあったのだけど、いいかしら?」
お祓い師「お、俺にか?」
蛇目の受付嬢「ええそうよ」
蛇目の受付嬢「まず一つ目として、貴方のお父様にはお会いできたのかしら?」
お祓い師「ああ、そのことか……。向こうで会えたよ」
蛇目の受付嬢「あら、お元気そうでした?」
お祓い師「ああ、昔と変わらずだったよ……。知り合いなのか?」
蛇目の受付嬢「ええ。以前にちょっとね。少し話した程度だけれども」
蛇目の受付嬢「まあ、有名人ですしね」
お祓い師「なるほどな……」
92:
蛇目の受付嬢「で、もう一つだけど。もちろん向こうの村長さんにも会ったわよね?」
お祓い師「ああ。あの人とも知り合いなのか?」
蛇目の受付嬢「ええ。それはそれは、大昔からの付き合いよ」
お祓い師「大昔、ね……」
お祓い師(一体何年前の話なんだ……)
蛇目の受付嬢「彼女も元気そうだったかしら?」
お祓い師「まあ、見たところは……」
蛇目の受付嬢「……ふうん。その感じだと、聞いてないのね?」
お祓い師「どういうことだ?」
蛇目の受付嬢「いいえ。なんでもないわ」
93:
蛇目の受付嬢「うんうん。みんな元気そうで良かったわ」
若い道具師「その村長さんってどんな方なんですか」
若い道具師「蛇の姐さんと昔からの知り合いとなると……」
狐神「狐、じゃったよ……」
若い道具師「狐、ですか。それは貴女と同じような?」
狐神「ヒック……いやいやまさか。わしとは比べ物にならん」
狐神「伝説の狐じゃよ」
若い道具師「伝説の……?」
狐神「うむ。あの集落の長は、魔王配下の四天王、九尾であった」
若い道具師「きゅ、九尾ですか……!?」
94:
若い道具師「そんな超大物が近くにいたなんて!」
蛇目の受付嬢「珍しい物見たさであそこに行くなら、おすすめしないわよー」
蛇目の受付嬢「彼女の機嫌を損なうと……どうなるかわからないでしょう?」
若い道具師「そ、それはわかってますよ……」
若い道具師「ただいずれ、自分の研究のために訪れたいとは思っているんですけれどもね……」
蛇目の受付嬢「まあ……その時はお休みをもらって付いて行ってあげるわ」
若い道具師「あ、ありがとうございますっ!!」
蛇目の受付嬢「こらこら抱きつかないの!」
狐神「ヒック……ありゃあもう限界じゃのう……」
お祓い師「お前の言えたセリフじゃないぞ……」
95:
狐神「ああん? わしはまだまだいけるわい」
お祓い師「目の焦点が合ってないぞ……。今日は俺でもだいぶ限界なんだ。あんまり無理はするなよ」
狐神「大丈夫じゃと……ヒック……言っておろうが……」
お祓い師「狐神、近い近い」
狐神「ヒック……向こうではもっといちゃついておるのじゃ。この程度良かろう」
お祓い師「あれはいちゃついているというより……ついに限界を迎えた道具師が倒れ込んでいるようにしか見えんな……」
狐神「いーや、あれはいちゃついておる」
お祓い師「そ、そうか?」
お祓い師(道具師の方は完全に白目を剥いているが……)
狐神「それに……それに比べておぬしは!」
96:
お祓い師「え、俺?」
狐神「毎晩毎晩、毎晩同じ部屋で夜を明かしておるというのに……」
狐神「手も出せぬとは本当に雄かおぬしは!」
お祓い師「待て待て、落ち着け」
狐神「付いておるのかと聞いておるのじゃ!」
お祓い師「おいやめろっ! どこ触ろうとしてる!」
狐神「ぐぬぬ……離さぬか……!」
お祓い師「落ち着け馬鹿が……! 面倒な酔い方しやがって」
狐神「うるさい! この不能者が!」
お祓い師「不能じゃねえよ馬鹿が!」
97:
狐神「離さぬかこの不能! 短小!」
お祓い師「ああもう、うるさいな! 店に迷惑がかかるだろう!」
狐神「うるさいうるさい!」
お祓い師「悪い! こいつ連れて先に帰るわ。お代はここに」
蛇目の受付嬢「いえいえ。こちらこそ、付きあわせてしまって申し訳なかったわ」
お祓い師「ほら、背中」
狐神「ううむ……」
蛇目の受付嬢「ふふ、慣れてるのね」
お祓い師「ああ。いつもこんな感じだ……」
お祓い師「じゃあ、また」
98:
蛇目の受付嬢「……ええ、また会いましょうね」
狐神「…………」
狐神「のーう、ぬしよー……」
お祓い師「あんまり動くな。背中から落ちるぞ」
お祓い師「俺の足取りも怪しいんだからな……」
狐神「ぬうううう……」
お祓い師「唸るな唸るな。野生に帰っているぞ」
狐神「……おぬしはこの間言っておったよな……。対等な立場で一からやり直すと……」
お祓い師「ああ、言ったな」
狐神「ふうむ……」
99:
お祓い師「なんだよ」
狐神「わしはなあ、おぬしよ」
狐神「もっと、仲良くしたいと思っておるぞ」
お祓い師「今も十分仲が良い自信はあるがな」
狐神「そうではなくてのう……」
狐神「もっとじゃなあ、こう……」
お祓い師「…………」
狐神「好きじゃよ……おぬしよ……」
お祓い師「…………」
お祓い師「……はあ……」
お祓い師「耳元で愛を囁かれるってのは良いが、こうも泥酔した奴が相手だとなあ……」
狐神「……すうすう……」
105:

狐神「……頭が、痛い」
お祓い師「今日出発だぞ。わかっているな?」
狐神「わ、わかっておるわ! ……じゃが少し休ませておくれ……」
お祓い師「大丈夫かよ……。今回は馬車じゃなくて馬に跨っていくからな。相当揺れるぞ」
狐神「うっ……頭に響きうそうじゃな……」
お祓い師「だからあれほど飲み過ぎるなと……」
106:
狐神「もう昨日の記憶は、飲み始め以外はあらんわ……」
お祓い師「……そうか。そりゃあ良かった」
狐神「良かった? なぜじゃ?」
お祓い師「さてな。なんでだと思う?」
狐神「さては、おぬし何か隠しておるな……?」
お祓い師「いーや。何も?」
狐神「絶対隠しておるわ! その顔!」
お祓い師「大声出すと頭に響くんじゃないか?」
狐神「ぐ……痛い……」
お祓い師「まったく……ほら水だ」
107:
狐神「む……すまぬ……」
お祓い師「お前の体調が整い次第、出発するぞ」
狐神「わかっておる」
狐神「……いよいよじゃな」
お祓い師「……ああ」
お祓い師「目的はあの二人を牢から逃がしてやることだ。それ以外に余計なことはしないつもりだ」
狐神「うむ」
お祓い師(教会はあれ以上は手を出せないはずだが……)
お祓い師(それでも、揉め事が起こっている今ではどうなるかわからない……)
お祓い師「無事でいてくれよ……」
108:

お祓い師「馬はこの辺りで置いて行こう」
狐神「大丈夫かのう?」
お祓い師「水も草も十分にある。人目につく場所でもないし問題ないだろう」
狐神「まあそうじゃの」
お祓い師「さて……」
狐神「本当にここから入るのかの……」
109:
お祓い師「そりゃあ、西人街には顔見知りもいるんだから、正面切って街に入るのは無理だぜ」
お祓い師「マタギのじいさんが教えてくれた地下水路の出口。ここから入って行くしかない」
狐神「うう……ジメジメした所は苦手なんじゃ……」
お祓い師「泣き言言ったってどうしようもないだろう」
狐神「それはそうじゃが……」
お祓い師「ほら、行くぞ。この先はお前の力が頼りなんだからな」
お祓い師「一応地図は貰ったが、土地勘のない俺達の手には余る……」
狐神「う、うむ……」
お祓い師「しかし、暗くて何も見えないな……」
お祓い師「炎を出すか……」
110:
狐神「む、待つのじゃおぬしよ」
お祓い師「どうした?」
狐神「わしの力を試したい」
お祓い師「お前の力を?」
狐神「うむ」
狐神「…………」
狐神(あの九尾が言うには、わしの力の正体は狐火……)
狐神(時に人を惑わし、時に人を導く炎……)
狐神(狐火よ、わしらを導いておくれ……!)
お祓い師「おっ……おお……!?」
111:
狐神「でき、た……」
お祓い師「火の玉が列を作っている……」
狐神「これが狐火じゃな。わしらはこの通り進めば良い」
狐神「ついでに灯りも得られて一石二鳥じゃ」
お祓い師「これは便利だな……」
狐神「うむ。では行くとするかの」
お祓い師「おうよ」
112:

お祓い師「しかし入り組んだ水路だな……」
狐神「のうぬしよ。なぜあのマタギはこのような抜け道を知っておったのかのう……」
お祓い師「昨晩の宴会で西人街の出身だったとは聞いたが……。確かにこんな場所は普通知らないよな……」
狐神「ううむ……」
お祓い師「まあ、いま考えても仕方がないか……」
狐神「じゃな……」
113:
お祓い師「それで、あとどれぐらいで着きそうだ?」
狐神「そうじゃなあ……。あと少しではあるのう……」
狐神「それこそ、その角を曲がればすぐ……」
お祓い師「あの、階段か……?」
狐神「炎が二手に分かれておる……。二人は別の場所におるようじゃな」
狐神「どちらがおるのかはわからぬが、とりあえずはあの階段の上を調べたほうが良さそうじゃな」
お祓い師「…………」
狐神「どうしたのじゃおぬしよ?」
お祓い師「いや……これはおかしくないか?」
狐神「む、何がじゃ?」
114:
お祓い師「この上は牢屋じゃないんじゃないかってな」
狐神「ふむ?」
お祓い師「普通に考えればあいつら二人は牢屋の中だ……」
お祓い師「だが牢屋の下にあんな階段があるか? わざわざ逃げ道になるようなものを用意すると思うか?」
狐神「それは、確かに……」
お祓い師「この間あった暴動に乗じて逃げた可能性はあるが……」
お祓い師「そうだとすれば、あの二人はまだこの街に留まって何かをしているということになる……」
狐神「なんにせよ、上がってみないとわからんのう」
お祓い師「……ああ」
お祓い師「気をつけろよ。何があるかわからん」
115:
狐神「うむ」
お祓い師「扉を開けるぞ……」
狐神「…………」
お祓い師「……ここは……」
狐神「川……いや、地上の水路じゃな」
お祓い師「ちょうど橋の下に出たのか……」
お祓い師(ということは、やはりあの二人は牢屋からは出られたのか……)
狐神「この感じは……おぬしよ、近くにおるのは狼男の方じゃ……!」
狐神「じゃが離れていっておる。合流するなら今しかあらん……!」
お祓い師「今しかないって言ってもな……!」
116:
お祓い師(橋の上の状況が掴めない……。白昼堂々と往来に出るのは危険過ぎる……)
狐神「しかしこのままでは……」
お祓い師「……わかった。俺が様子を見るからお前は顔を出すなよ……」
狐神「う、うむ」
お祓い師(……あれは、教会の連中か……? 聖騎士もいる……)
お祓い師(だが狼男の姿が見当たらない……)
狐神「どうじゃ?」
お祓い師「……聖騎士が沢山いるが、ここからじゃ狼男の姿が確認できない」
お祓い師「もう少し近づかないと……」
狐神「……待て。おぬし、何者かがこちらへ……!」
117:
西人街の聖騎士長「──よお、久しぶりだな」
お祓い師「なっ……!」
西人街の聖騎士長「妙な気配がすると思ったら、あんたらか」
狐神(こやつ……!)
西人街の聖騎士長「ここに何しに……っていうのは、まあ大方予想がつくんだが」
西人街の聖騎士長「あの時拾った命をわざわざ捨てに来たのか?」
お祓い師「悪いがそういう訳じゃない……」
西人街の聖騎士長「……しかし、よくここまで来られたな。そのお嬢さんの力なのか?」
西人街の聖騎士長「そしてその右腕の印……前に会った時はなかったな……」
お祓い師(そこまで見られていたか……!)
118:
西人街の聖騎士長「なんとなくだが、あんたら二人を一緒にしておくと面倒な気がするな」
西人街の聖騎士長(なによりもお嬢さんの力……。“今は”邪魔になる、そんな予感がするぜ)
お祓い師「……! 狐神、構えろ!」
狐神「う、うむ……!」
西人街の聖騎士長「よーし、捕らえろ」
聖騎士I「暴れないでくれよ」
狐神「もがっ……!?」
お祓い師「狐神!?」
お祓い師「その手を離しやがれクソ野郎がっ!!」
西人街の聖騎士長「あんたも余所見してんじゃないぜ」
お祓い師「しまっ……」
125:

お祓い師「…………」
お祓い師(……ここは……?)
お祓い師(牢……か……?)
お祓い師(あの時俺は聖騎士長のやつにやられて……)
お祓い師(狐神は……)
お祓い師「き、狐神はどこだ……!?」
126:
西人街の聖騎士長「よっ、起きたか?」
お祓い師「お前……!」
西人街の聖騎士長「そんな怖い顔するなよ」
お祓い師「狐神は、狐神はどうした……!」
お祓い師「返答によってはただじゃおかねえぞ!」
西人街の聖騎士長「落ち着けって。お嬢さんは無事だ」
西人街の聖騎士長「俺は女性には手は上げらんないよ」
お祓い師「じゃあ、あいつは……」
西人街の聖騎士長「こことは別の場所にいるよ。二人を同じ場所にはいさせたくなかったからな」
お祓い師「どういう意味だ」
127:
西人街の聖騎士長「その印……お嬢さんとの新しい契約のものだろ?」
西人街の聖騎士長「術を発動されちゃ、困るからね」
お祓い師「…………」
お祓い師(お見通し、か……)
お祓い師「それで、俺たちをどうするつもりだ? 死刑台の上にでも乗せるのか?」
西人街の聖騎士長「おいおい。俺たちにはそこまでの権限はないことを知ってて言ってるだろ?」
西人街の聖騎士長「まあ、立場上捕らえないわけにはいかないしな」
西人街の聖騎士長「……あの近くには大神官サマもいたし」
お祓い師「大神官って、あの……」
西人街の聖騎士長「おう。あの豚のことだ」
128:
お祓い師「ああ、あのぶ……豚って言ったか?」
西人街の聖騎士長「おうよ。あいつを一言で形容するなら豚が一番だろう?」
お祓い師「お、お前。あの大神官の、いわば部下だろ? そんな呼び方でいいのかよ」
西人街の聖騎士長「もちろん本人の前じゃ言わないぜ。首が飛んじまうからな」
西人街の聖騎士長「影では、うちの騎士団員はみんな豚と呼んでいる」
お祓い師「そ、そうか……」
お祓い師(こいつ、一体……)
お祓い師「……それよりも、あの二人はどうしている。無事なのはわかっているが姿が見当たらない……」
西人街の聖騎士長「ああ、あの二人か」
西人街の聖騎士長「無事なのはわかっているって、やっぱり何らかの方法であいつらの気配を辿って来ていたんだな」
129:
西人街の聖騎士長「あのお嬢さんとあんたを離して正解だったな」
お祓い師「…………」
西人街の聖騎士長「そのことに関しては、まだ答えられないな」
お祓い師「どういう意味だ……」
西人街の聖騎士長「それよりも聞いて欲しいことがあるんだ。この街の現状についてだ」
お祓い師「待て、俺の質問に」
西人街の聖騎士長「俺の話を聞いてくれれば、場合によっては答える」
お祓い師「…………」
西人街の聖騎士長「よし、じゃあ話すぜ」
西人街の聖騎士長「この間、この街で起きた暴動に乗じて囚人が脱走したのは知っているな?」
お祓い師「ああ」
130:
西人街の聖騎士長「あれは国の軍が捕らえた囚人ではなく、うちの管轄の牢屋から逃げ出したってのも知っているはずだ」
西人街の聖騎士長「この街の教会はお隣の共和国の管轄だ。当然、共和国は今回の件への介入をしようとしたが、ここ皇国はそれを良しとしなかった」
お祓い師「共和国軍、の介入だからな。意図が見え見えだぜ」
西人街の聖騎士長「そう。今の時代、皇国にあるような巨大な石炭の採掘場は喉から手が出るほど欲しい」
西人街の聖騎士長「犬猿の仲の帝国への牽制にもなるからな。いま共和国軍は皇国に攻め込む口実を作ろうとしている」
西人街の聖騎士長「そこで共和国は、軍ではなく聖騎士団の派遣をするという計画に変更した」
お祓い師「なるほど。そうすれば皇国が強く拒否することはできなくなる……」
お祓い師「最悪“皇国が事件の隠蔽をしようとしている”なんて難癖をつけられてしまうからな……」
お祓い師「しかし、こういった面倒事がいずれ起こる事は容易に予想できたはずだ」
お祓い師「なぜ皇家は教会を皇国に招き入れ、放置したんだ」
131:
西人街の聖騎士長「皇国は来たる神は拒まない。昔からずっとそうだ」
西人街の聖騎士長「教会に関しては、世界を牛耳る大きな組織との衝突を避けるためという名目が大きいが……」
西人街の聖騎士長「それにしても簡単に受け入れられたのは、皇国のそういった背景があるからだろうな」
西人街の聖騎士長「……で、話を戻すが……そういうわけで、いまこの街には共和国首都の聖騎士団の方々がいらっしゃっている、という状況だ」
お祓い師「それで、それがお前にとってなにか問題なのか?」
西人街の聖騎士長「問題? いやむしろこれは好機だ」
お祓い師「好機?」
西人街の聖騎士長「ああ。共和国からは教会のかなりお偉いさんが来ている。当然教会周りの警備はガチガチだ」
西人街の聖騎士長「ここで一悶着あれば共和国側にとっていいきっかけにしかならない」
西人街の聖騎士長「それはうちの上としても望んでいないだろう」
132:
西人街の聖騎士長「だから警備も“表側”に集中してある」
西人街の聖騎士長「逆に“裏側”が普段と比べてかなり手薄だ」
お祓い師「裏側……?」
お祓い師「お前は一体何をするつもりなんだ……」
西人街の聖騎士長「……掃除だ……」
西人街の聖騎士長「俺は、この街の教会を作り変える」
お祓い師「作り変えるだと……?」
西人街の聖騎士長「お前だってわかっているだろう? この街の教会の上の連中は腐っている」
西人街の聖騎士長「あんな腐敗した連中に神の道など説かせてはいられない」
お祓い師「…………」
133:
西人街の聖騎士長「あの豚野郎を失脚させるのに必要な材料が手に入るかもしれない」
西人街の聖騎士長「あと少しなんだ。それまで邪魔はしないで欲しい」
西人街の聖騎士長「だがもし……」
西人街の聖騎士長「もしも俺に協力をしてくれるというなら、ここから出してやるし、あいつらにも会わせてやる」
西人街の聖騎士長「どうだ?」
お祓い師「…………」
お祓い師「俺は……俺は人間同士の争いはしたくない……」
西人街の聖騎士長「そうならないために、血を流さないために先手を打つんだ」
お祓い師「それは理想通りに進んだ際の話だろう? 実際には、色々と綻びが生まれるものだ……」
西人街の聖騎士長「……では、仮に争いになったとして、お前は何が嫌なんだ?」
134:
お祓い師「…………」
西人街の聖騎士長「まさか、人を傷つけるのは嫌だ、なんて言うんじゃないよなあ?」
お祓い師「それは……」
西人街の聖騎士長「確かに、お前は退魔師だ。軍人でも何でもない……」
西人街の聖騎士長「だが、命を奪うという点では何が違う?」
西人街の聖騎士長「人外ならいくらでも殺していいのか?」
お祓い師「それは違う!」
西人街の聖騎士長「だよなあ。俺もそう思う」
西人街の聖騎士長「……まあ、無理強いはしないぜ。事が済めば二人共出してやる」
西人街の聖騎士長「気が向いたら、俺が見回りに来た時にでも話しかけてくれ」
お祓い師「…………」
135:

お祓い師「…………」
???「お祓い師様……」
お祓い師「ん……?」
???「お祓い師様……上です……」
お祓い師(天井の穴からロープが降りてきた……)
お祓い師(これで上がれってことか)
136:
お祓い師「……よっと……」
???「さ、こちらです」
お祓い師「お前は聖騎士長が手引したやつだな?」
???「ええ。我々は『自由の団』と名乗っています」
???→自由の団団員A「教会の人間の全てが協力者というわけではないので、このような手段で牢屋を出ていただくことになりました」
自由の団団員A「しかしすぐに発覚するでしょうし、この間の件のこともありますので……」
自由の団団員A「おそらく聖騎士長様が真っ先に疑われてしまうでしょう」
自由の団団員A「短期決戦です。明日から行動が開始されます」
自由の団団員A「あ、足元に注意してくださいね」
お祓い師「……ここは、地下水路か……」
137:
自由の団団員A「ええ。我々の本拠地へは、この地下水路を使わないと辿りつけないようになっています」
お祓い師(教会を作り変える、か……)
お祓い師(あの大神官を失脚させるための材料ってのは一体何なんだ……)
自由の団団員A「さあ、ここです」
お祓い師(この扉の向こうに……)
自由の団団員A「お祓い師様を連れてまいりました」
自由の団団員B「……よし、入れ」
お祓い師「……これは……」
西人街の聖騎士長「よう、来たな」
お祓い師(聖騎士や、退魔師のような連中……更にはただの街の人に見える集団もいる……)
138:
お祓い師(あそこには人外も……よくこれだけの数が……)
西人街の聖騎士長「ようこそ、ここが自由の団の本拠地だ」
お祓い師「あ、お前……」
黒髪の修道女「ど、どうも。お久しぶりです……」
お祓い師「無事だったか……良かった」
黒髪の修道女「心配をお掛けしてしまったようで申し訳ないです……」
黒髪の修道女「本来ならばあの場で大丈夫と言えればよかったのですが……」
お祓い師「と、言うと……?」
黒髪の修道女「実はあの場で、私の力……『相手の心を読む力』が発動していまして……」
黒髪の修道女「この人に敵意がないことはわかってたんです。他の団員さんの目があったので、もちろん口には出せませんでしたが……」
139:
お祓い師「ということは、この間の暴動と囚人の脱獄騒ぎも……」
黒髪の修道女「ええ、この人の手引です。暴動に乗じて私達が逃げた、ように見せかけたのです」
西人街の聖騎士長「ま、そういこうとだ」
役所の快活な受付嬢「そうならそうと、初めから言って欲しかったわ」
お祓い師「おっと、あんたもここにいたのか」
役所の快活な受付嬢「ついこの間からね。ここの団員さんに連れて来てもらったの」
役所の快活な受付嬢「できることは少ないけれども、ここに協力することにしたの」
西人街の聖騎士長「全く、俺が昔馴染みに手をかけるわけがないのになあ」
西人街の聖騎士長「あの時の顔は殺意がこもっていて怖かったぞ?」
役所の快活な受付嬢「そ、それは仕方がないじゃない!」
140:
黒髪の修道女「て、敵を欺くには味方から……ってことだったんじゃないかな……?」
黒髪の修道女「わたしもあの時心を読むまでは本当に何も知らなかったから……」
役所の快活な受付嬢「はあ……あの時は本当に心配したんだからね……」
黒髪の修道女「……ごめんね」
役所の快活な受付嬢「ううん、無事でいてくれてよかった」
役所の快活な受付嬢「それよりもあんたよ。あんたが初めから話してくれれば……」
西人街の聖騎士長「こいつが言った通りだ。敵を欺くには味方から、だろ」
西人街の聖騎士長「それにお前は何かと突っ走りそうだからな。なるべく内緒にしておきたかったんだよ」
役所の快活な受付嬢「どういう意味よ!」
西人街の聖騎士長「そのままの意味だ」
141:
役所の快活な受付嬢「一発ひっぱたいてもいい?」
黒髪の修道女「まあまあ……。本当は彼が敵じゃなくて安心しているんでしょ? だって本当は……」
役所の快活な受付嬢「そこまで! 心を読まないで!」
黒髪の修道女「ふふっ。彼に手解きを受けて、だいぶ力の制御ができるようになったの」
黒髪の修道女「今なら読みたい時にだけ心を読む事ができるわ」
役所の快活な受付嬢「や、厄介な……」
お祓い師「力の制御か……」
お祓い師「おい。そういえば、狐神と狼男の姿が見当たらないが……」
西人街の聖騎士長「ああ、彼は今はここにはいないよ。ちょっと別に動いてもらっていてね」
西人街の聖騎士長「お嬢さんの方は……」
142:
狐神「ここにおるわい」
お祓い師「い、いつの間に」
狐神「ずっとおったわ馬鹿者が」
お祓い師「気が付かなくて悪かった。だからそんな怒った顔しないでくれ」
狐神「ふん。怒っておらんわい」
黒髪の修道女「ご機嫌斜めのようですね」
お祓い師「はあ、参ったな……」
お祓い師「で、なんで俺と狐神を別々の場所の牢屋に?」
西人街の聖騎士長「いやあ。もしも俺たちに協力してくれないっていうんだったら、あんたらの能力は邪魔になっちまうからね」
西人街の聖騎士長「大方、望んだ人間の場所がわかるとか、そういう能力だろう?」
143:
お祓い師「当たらずといえども遠からず、だな」
西人街の聖騎士長「あのまま放っておいて狼男君を探し出されると、こちらとしては困っちまうんだよな」
西人街の聖騎士長「今、計画は大詰めなんだ」
お祓い師「と、言うと?」
西人街の聖騎士長「彼は今、こちらの切り札の総索にあたっている」
西人街の聖騎士長「その場所を完全に探し出すまでは、他の人間の介入があると困る」
西人街の聖騎士長「……とまあ、そんな感じだ」
西人街の聖騎士長「そしてついさっき、事態が動いたみたいでな。急遽、予定よりも早くお前たちに出てきてもらうことになった」
お祓い師「事態が動いたということは……」
西人街の聖騎士長「ああ。狼男君は目的の在り処を突き止めたらしい」
144:
お祓い師「そのまま対象の確保、という訳にはいかないのか?」
西人街の聖騎士長「それがな……。場所がわかっても簡単には手に入らない状況にある、ってことだ」
西人街の聖騎士長「そこであんたらの協力を仰ぎたい」
西人街の聖騎士長「決行は明日の昼。俺が共和国からの聖騎士団や神官たちとの会合に参加している時だ」
西人街の聖騎士長「ちょうど、お前たちが向かう場所は手薄になるだろうからな……」
お祓い師「なるほど……。場所は?」
西人街の聖騎士長「……ここまであっさりと協力してくれるとはな」
お祓い師「乗り気ではねえよ。何度も言うが俺は退魔師。人間同士の諍いになんか首は突っ込みたくねえ……」
お祓い師「だが、協力することが、牢屋から出してくれることの条件だっただろう?」
お祓い師「術師は契約を守るんだよ」
145:
お祓い師「……じゃないと痛い目に遭うからな」
狐神「くくっ……じゃな」
西人街の聖騎士長「……なるほど。まあ、協力してくれるというならば助かる」
西人街の聖騎士長「では明日の朝、指定する場所に向かってくれ。そこからは内通者が手引する」
狐神「しかし、おぬしらはずっと探しものをしておったわけか……」
狐神「くっくっく……」
西人街の聖騎士長「どうしたんだいお嬢さん?」
お祓い師「……ああ、なるほど」
狐神「いやなに、わしの力があれば一瞬で見つけられたものを」
お祓い師「だな」
146:
西人街の聖騎士長「げっ、そうなのか……!」
西人街の聖騎士長「やっぱりあの時に逃がすべきじゃなかったかな……」
お祓い師「おい」
西人街の聖騎士長「いや、冗談冗談……」
お祓い師「まあ、あの時の俺達じゃ、あんまり力になれ無かっただろうよ」
西人街の聖騎士長「……確かに、感じる力が変わったな。何かあったのか?」
お祓い師「色々とな……」
お祓い師「……とにかく、狼男に会えるって言うなら今回だけは協力してやる」
西人街の聖騎士長「ああ、助かる」
西人街の聖騎士長「仮眠程度になるとは思うが、ここで休憩してから向かってくれ」
147:
お祓い師「そうさせてもらう」
狐神「お腹が空いたんじゃが」
黒髪の修道女「ふふっ、こちらに用意してありますよ」
狐神「おおっ!」
お祓い師「お前は食うことばかりか……」
黒髪の修道女「お祓い師さんもどうぞ」
お祓い師「……じゃあ、頂くとするよ」
お祓い師「しかし、教会の力の象徴が反教会団体の長とはな」
西人街の聖騎士長「世界にはいろんな反教会団体があるが、他のところも同じようなものさ」
西人街の聖騎士長「内情を知っているからこそ、な」
お祓い師「なるほどな……」
151:

お祓い師「……ここか」
狐神「うむ。あやつが言っていたのはこの場所じゃが……」
お祓い師「なんだ?」
狐神「いや。よく協力する気になったのう、と思っての」
お祓い師「昨晩も言っただろう? 牢屋から出してくれる条件だったからな」
お祓い師「別の場所にいるお前のことも心配だったしな……。なるべく早く出たかった」
152:
狐神「わ、わしのことが……。そ、そうか……」
お祓い師「……さて、お前か」
聖騎士F「ええ」
聖騎士F「間もなく会合が始まります」
聖騎士F「目的地に行く前にお召し物をこちらに着替えてもらえますか?」
お祓い師「これは……」
狐神「ふむ……」
153:

聖騎士G「これはこれは隊長殿。どういったご用件で?」
聖騎士F「要件も何も、いつも通り書類の整理だよ……」
聖騎士G「ははっ、机と向き合う仕事は自分ならばできませんね」
聖騎士F「全く、嫌になるよ」
聖騎士G「それで……後ろのお二方は? 見ない顔ですが……」
お祓い師「…………」
154:
狐神「…………」
聖騎士F「共和国から来られた“神官と修道女”だ。奥の書庫へ案内を頼まれてね」
聖騎士G「そうでしたか。では、どうぞお通りください」
聖騎士F「引き続き頑張ってくれ」
聖騎士G「はい!」
聖騎士F「…………」
お祓い師「……ふう。無事通れたな」
狐神「少しどきどきしたわい」
聖騎士F「それでは行きますよ」
お祓い師「その書庫ってところにか?」
155:
聖騎士F「いえ。我々が向かうのはもっと奥です」
聖騎士F「普通ならば立ち入れない……そもそも存在も知られていない場所です」
お祓い師「そんな場所に一体何があるっていうんだ……?」
お祓い師「聖騎士長の奴は特に何も言っていなかったが……」
聖騎士F「……悪魔、ですよ」
お祓い師「悪魔だと? あの悪魔か?」
聖騎士F「ええ、そうです。あの悪魔です」
狐神「悪魔……?」
お祓い師「ああ……こっちではあまり聞かない名前か」
お祓い師「簡単に言うと、何らかの対価の代わりに人とと契約を結ぶ人外だ」
156:
狐神「わしとおぬしの契約と同じようなものかの?」
お祓い師「いや、奴らの契約は力のやり取りをするようなものじゃない。契約が成立している間は契約者の言うとおりに振る舞い……」
お祓い師「目的が達成された瞬間に、対価を支払って契約は終了するらしい」
お祓い師「対価は契約によって様々だと聞くが、よく魂を対価にするなんて話は聞くな」
狐神「た、魂じゃと……!?」
聖騎士F「真偽は定かではないですけれどもね」
聖騎士F「大神官は悪魔との契約によって様々な悪事を揉み消しているんです」
お祓い師「じゃあその悪魔を証拠として確保することで……」
聖騎士F「ええ。大神官を失脚させるのが目的です」
聖騎士F「この先でもう一度門番を抜ければ、目的地への隠し通路がある場所へ行くことができます」
157:
お祓い師「ん……?」
聖騎士F「……あれは」
聖騎士F「ちょっとまずいですね……」
お祓い師「どうした?」
聖騎士F「そこの見張りの二人の内、片方は我々の協力者なんですが……」
聖騎士F「もう片方はそうでない上に、お二人の顔を見たことがあります」
お祓い師「なっ……」
狐神「ふむ……」
お祓い師(た、確かに……以前聖騎士長と戦った時にいた奴かもしれん……)
聖騎士F「……仕方がないですね……ここに隠れていてください。何とかしてきます」
158:
お祓い師「わかった。任せたぞ」
聖騎士F「……二人共お疲れ」
聖騎士C「た、隊長! お疲れ様です!」
聖騎士H「……こんな所へどのような用で?」
聖騎士F「いや、なに。最近お前は働き詰めだろう?」
聖騎士F「ちょうど昼時だし代わってやろうと思ってな」
聖騎士C「そ、そんな。わざわざ隊長に代わっていただくなんて……」
聖騎士F「遠慮すんなよ。飯ぐらいゆっくり食ってこい」
聖騎士F「今は大事な時期だ。根を詰め過ぎるといざって時に良くない」
聖騎士C「……で、ではお言葉に甘えて……」
159:
聖騎士F「…………」
聖騎士F「よし、出てきていいぞ」
狐神「……上手くやったのう」
聖騎士H「そちらのお二人が……」
聖騎士F「協力者だ」
聖騎士H「そうでしたか。……では行くのですね」
聖騎士F「ああ、任せてくれ」
聖騎士F「……さあ行きましょう」
聖騎士H「お二人様もお気をつけて」
お祓い師「おう」
160:
狐神「悪魔というのがどのような者なのかは知らぬが、まあ任せておくれ」
聖騎士F「……さて、この先の……」
聖騎士F「ここです」
お祓い師「壁、だが?」
狐神「……ふむ、この先に空間があるのう。壁の隙間から空気の流れを感じる」
お祓い師「よく気がつくな」
狐神「当然じゃ」
聖騎士F「隠し扉にはとある封印が施されているのですが……」
聖騎士F『────』
お祓い師「お、隠し扉が開いたな」
161:
聖騎士F「大神官の心を読んで術解除の詠唱を手に入れたのですよ」
お祓い師「心を読んで、ってことはあの黒髪の修道女か……」
聖騎士F「ええ。どうやら解除の詠唱は定期的に変えられているようですが、先日入手したものがまだ有効でよかったです」
聖騎士F「此処から先がどうなっているのかは自分もわかりません。注意してください」
お祓い師「ああ」
狐神「…………」
お祓い師(あれは……?)
お祓い師「待て、何かいる……」
聖騎士F「……!」
狐神「この感じ……人ではあらんな……」
162:
お祓い師「あれが目標の悪魔か……」
???「お、そこの人たち。いるのは分かっているから出ておいでよ」
お祓い師「バレバレ、か」
聖騎士F「まあ、隠し扉を開けましたしね」
狐神「馬鹿正直に出て行っても大丈夫かのう……」
???「大丈夫大丈夫。俺には敵意はないからね」
???「戦ったって三人相手じゃ勝てないよ。そもそも戦闘は専門外だし」
聖騎士F「どうしましょうか?」
お祓い師「…………」
お祓い師「……わかった。一旦はお互いに攻撃はなしだ」
163:
???「お、やっと出てきてくれたか」
???→下級悪魔「自分は悪魔ってやつさ。まあ見当はついているんだろうけど」
お祓い師「単刀直入に聞くが、お前はあの大神官と魂の契約をしているのか?」
下級悪魔「いやいや。みんながみんな魂を要求するわけじゃないよ。もちろん、そういう場合もあるけど」
下級悪魔「仮に魂を取ったとしても、契約主との同意の上だし」
下級悪魔「あと誰が契約主かなんて言えるわけ無いでしょ、流石に」
聖騎士F「まあ間違ってはいないだろ? 俺たちは見当をつけてきたんだ」
下級悪魔「さてどうだろうね……」
下級悪魔「それで、ここにはどんな用が? 自分とお話しに来てくれたのかい?」
聖騎士F「……悪いがお前と話している時間はないんだ。黙って俺たちに従ってもらえるか?」
164:
下級悪魔「ほうほう。一体どんな急ぎの用事が?」
聖騎士F「黙って従うなら従うなら痛くはしない。従わないと言うならば……実力行使でいかせてもらう」
下級悪魔「うう〜ん、会話にならないなあ」
お祓い師(どっちが悪人だかわからないな……)
下級悪魔「ああはい、わかりました……なんて言うわけないよね」
聖騎士F「…………」
下級悪魔「黙秘さ黙秘」
下級悪魔「そういう契約だからさ」
下級悪魔「こちらとしては引き返してくれるとありがたいんだけど……」
お祓い師「そういうわけにはいかねえんだ」
165:
お祓い師「そういうわけにはいかねえんだ」
下級悪魔「あらら……背中からグッサリといかせてもらえると助かったんだけどなあ」
下級悪魔「……ここを見られた以上、生きて返すわけにはいかない……」
下級悪魔「それが契約だからさ……!」
お祓い師「……! くるぞ!」
狐神「うむ……!」
聖騎士F「自分が出ます!」
聖騎士F「ハァッ!」
下級悪魔「おっとっと……キミは騎士なのに拳を使うんだね」
聖騎士F「この方が性に合っているんでな」
166:
聖騎士F「時間がない……いかせてもらうぞ!」
下級悪魔「っ……!」
下級悪魔「これはお返しだ!」
聖騎士F「ぐっ……!」
お祓い師「巻き込まれるなよ! ハァァッ!!」
下級悪魔「うわっ!? アチチッ!」
下級悪魔「そっちは炎使いかあ……」
下級悪魔「多勢に無勢だなあ」
聖騎士F「……この悪魔……」
お祓い師「ああ。さっきよりも感じる力が増大している……」
167:
下級悪魔「ん、まあそりゃあね……」
下級悪魔「自分に課せられた契約は“知られないこと”……もしくは“知ってしまった者を消す”こと」
下級悪魔「悪魔は契約を遂行するために、必要な分の力が増大するからね」
下級悪魔(とは言っても限りがあるんだけどさ)
お祓い師「“倒してでも連れて行く”、と言ったら?」
下級悪魔「“死んでも”従わない。それが契約ってもんさ」
お祓い師「……なるほど」
お祓い師(さて、どうするか……)
狐神「……おぬしよ」
お祓い師「どうした?」
168:
狐神「今ならば、いける」
お祓い師「……! ……よし」
お祓い師「……おい、少しいいか?」
聖騎士F「“わかってます”。自分がうまく引き付けますよ」
狐神「ふむ……?」
聖騎士F「……もう一度だ……!」
聖騎士F「ッ……!」
下級悪魔「だからこの場では簡単には勝ってこないってば……!」
下級悪魔「ふんっ!」
聖騎士F「くっ……!」
169:
狐神「今じゃ!」
お祓い師「よおし!」
下級悪魔「しまった! いつの間に後ろに!?」
お祓い師「くらえっ!!」
下級悪魔「…………なあんてね」
お祓い師「……な……!?」
お祓い師「ぐはあっ!?」
狐神「おぬしよっ!?」
狐神(確かに不意をつくための道筋は見えた……! しかしその道筋が直前で消えた……!?)
狐神(この場ではあやつの術のほうが優先されるというわけか……!)
170:
下級悪魔「キミたちが桁外れに強い人じゃなくてよかったよ。この程度なら契約を履行できる」
下級悪魔「……さて終わらせようか。どうやらお隣の国からコワーイ人たちが来ているみたいだしね」
下級悪魔「あまり騒ぎ過ぎたくないんだ……」
お祓い師「くっ……!」
177:

西人街の聖騎士長(あいつらは上手くやっているだろうか……)
西人街の聖騎士長(そうであると願うしかできないがな)
西人街の聖騎士長(俺は自分のやるべきことのために心の準備をしておく。それが今できる最善のことだ……)
共和国首都の聖騎士長「それでは、今回の件は悪魔信仰の者の犯行であるとみてよいということですか?」
西人街の聖騎士長(首都の聖騎士長……流石に感じる力は格上だ……)
西人街の聖騎士長(一度手合わせ願いたいものだ)
178:
肥えた大神官「ええ、ええ。私はそうだとみています」
共和国首都の聖騎士長「そちらの騎士長は?」
西人街の聖騎士長「同意見ですね。脱獄したものの中には人外も多く、中には悪魔信仰をしている者もいましたから」
共和国首都の聖騎士長「なるほど……確かに最近、悪魔信仰の者の活動が目立ってきました」
西人街の聖騎士長「なんでも、勇者の末裔が招集されたとか?」
共和国首都の聖騎士長「ええ。王国の方はそのことで色々と大変なようですね」
共和国首都の聖騎士長「それで、なんですが……」
西人街の聖騎士長(本題が来るか……)
共和国首都の聖騎士長「今回の件もそうですが、こちらの教会にいらっしゃる人員だけでは人手不足ではないでしょうか?」
西人街の聖騎士長「…………」
179:
共和国首都の聖騎士長「相手は教会には劣るとはいえ、国家をまたぐ大きな組織です」
共和国首都の聖騎士長「ですから今回の件も“仕方のない事”です。貴方方には非はない」
共和国首都の聖騎士長「人手不足であった、その隙を突かれたにすぎないのです」
西人街の聖騎士長(悪魔信仰者を逃がしたことは咎めない。だから黙って本国の増員を受け入れろ、か……)
西人街の聖騎士長(だが……)
肥えた大神官「お言葉ですが、この教会が人員不足であるということはありません」
西人街の聖騎士長(この豚は、せっかく手に入れた自分の城を手放したくない)
西人街の聖騎士長(共和国からの介入があれば、こいつも今まで通りの好き勝手な振る舞いはできなくなるからな……)
肥えた大神官「今回は内通者が手引をしていたがために、残念ながら逃げられてしまったのです」
共和国首都の聖騎士長「内通者、ですか」
180:
肥えた大神官「ええ。その点に関しては、我々に落ち度があります」
西人街の聖騎士長(もちろんこいつの言う内通者など存在しない。名簿上で存在するかのようにでっち上げただけだ)
西人街の聖騎士長(本当の内通者は、俺たち自由の団だからな)
共和国首都の聖騎士長「こちらの教会の中での、意識の低下がみられると捉えてよろしいですか?」
肥えた大神官「意識の低下……とは言葉が厳しいですが、油断があったことは事実です」
共和国首都の聖騎士長「でしたら、それこそ……」
肥えた大神官(……フン、言わせないですよ)
肥えた大神官「だからこそ、増員は受け入れられません」
共和国首都の聖騎士長「ふむ……」
肥えた大神官「すでに内通者はすべて洗い出しており、また神官及び聖騎士のみなの意識の入れ替えをさせました」
181:
肥えた大神官「しかし、自分たちの中に“敵”がいたという事実は少なからずみなの気持ちに衝撃を与えています」
肥えた大神官「そこに外部からの、見ず知らずの人間が沢山混ざってきては、どうなるでしょうか?」
肥えた大神官「心からの信用ができず、うまく連携もできず、あらぬ誤解を互いに生んでしまうこともあるでしょう……」
肥えた大神官「不安定な今だからこそ、これ以上不安要素を増やしたくないのです……」
共和国首都の聖騎士長「…………」
共和国首都の聖騎士長(心にもないことを……)
共和国首都の聖騎士長(上からは『必ず首を縦に振らせよ』とのお達しだ……。いくら粘られても、こちらに従ってもらう……)
西人街の聖騎士長(……まあ、この程度じゃ向こうも諦めてはくれないだろうな)
西人街の聖騎士長(せいぜい頑張れよ)
肥えた大神官(フン、この程度で終わるとは思ってない)
肥えた大神官(ここからが会議の本番だ……)
182:

聖騎士F「……これは……」
下級悪魔「……ば、馬鹿な……」
下級悪魔(氷の……壁……)
お祓い師「この術は……!」
下級悪魔「キミは……一体……」
狐神「い、命拾いしたわい……」
183:
お祓い師「…………」
お祓い師「なんで親父がここにいるんだよ!」
氷の退魔師「なんでって、そりゃあ……お前を助けに来たんだろうが」
お祓い師「嘘だな」
氷の退魔師「相変わらず可愛げのない息子だ」
お祓い師「フン……」
お祓い師「しかし、一体どうやってここまで?」
氷の退魔師「ん? 協会の会員証を見せたら快く通してくれたぞ」
お祓い師「ぐ……Sランクのネームバリューか……」
氷の退魔師「僻むな僻むな」
184:
下級悪魔「……なるほど、かの有名な氷の退魔師なのか……。俺の技なんか簡単に止められるわけだ……」
下級悪魔「これは弱ったな……」
氷の退魔師「弱ったついでに降参してくんないかな?」
下級悪魔「それはできないなあ」
氷の退魔師「だよなー、そういうもんだもんなー」
氷の退魔師「──じゃあ悪いけど、死んでくれ」
下級悪魔「がっ」
下級悪魔「…………」
聖騎士F(うへえ……生首……)
狐神「お、おぬし……」
185:
お祓い師「大丈夫だ……そんな顔すんな」
氷の退魔師「さっき、なんでここにいるのかって聞いたよな」
お祓い師「……ああ」
氷の退魔師「詳しくは言えないが、ちょっとした捜し物をしていてな」
お祓い師「捜し物、だと?」
氷の退魔師「ああ。まあ今回は空振りだったがな」
氷の退魔師「こいつはお前にやるよ」
お祓い師「……生け捕りのほうが助かったんだが」
氷の退魔師「そ、そうなのか? いやあ、悪い悪い」
お祓い師「まあ、首だけでも何とかなるか……」
186:
氷の退魔師「その悪魔、一体何に必要だったんだ?」
お祓い師「……この悪魔の契約主はここの大神官をやっている奴なんだが」
お祓い師「今回俺にこの仕事を依頼してきた奴……この街の聖騎士長はその大神官を失脚させるのが目的らしい」
お祓い師「なんでもその大神官は悪魔の力でやりたい放題しているみたいでな」
氷の退魔師「なるほどな……」
氷の退魔師「そういうことなら今行っちゃえばいいんじゃねえか?」
お祓い師「今……?」
氷の退魔師「おう、上で何やら話し込んでいるらしいじゃねえか。あっちに行っちまおうぜ」
187:

肥えた大神官「────という風にわたくしは考えているのですがね?」
共和国首都の聖騎士長「なるほど……確かにそれは仰るとおりです」
共和国首都の聖騎士長(この大神官、中々やりますね……)
西人街の聖騎士長(大した力もカリスマ性も無いくせに、今のポジションを得ただけはあるな……)
西人街の聖騎士長(言葉で丸め込むのは十八番か……)
西人街の聖騎士長(会議が長引いてくれるのは助かる。その方が向こうが手薄になる時間も長くなる)
188:
西人街の聖騎士長(上手くいていれば、流石に手に入った頃だとは思うが……)
聖騎士B「か、会議中失礼します!」
肥えた大神官「どうした騒々しい」
聖騎士B「申し訳ありません。どうしても伝えねばならない事があるという者がおりまして……」
肥えた大神官「見ての通り忙しいのだ。後にさせろ」
西人街の聖騎士長(あいつらか……?)
聖騎士B「で、ですが……」
氷の退魔師「よお、通させてもらうぜ」
西人街の聖騎士長(お祓い師と狐のお嬢さんとあいつの三人は無事だったか……)
西人街の聖騎士長(だが、先頭のあの男は一体……)
189:
肥えた大神官「なんだね君は……」
共和国首都の聖騎士長「……これはこれは氷の退魔師殿。どうしてこんな場所へ?」
肥えた大神官「なっ……!」
西人街の聖騎士長(この男があの氷の退魔師だというのか……!?)
氷の退魔師「んー、確かお前は共和国の教会の……」
共和国首都の聖騎士長「ええ。一度だけお会いしたことがありましたね」
氷の退魔師「知り合いがいてよかったぜ。話が早く進みそうだ」
共和国首都の聖騎士長「話、とは?」
氷の退魔師「こいつだ」
共和国首都の聖騎士長「首、ですか……? 耳の形を見る限り人外のもののようですが……」
190:
肥えた大神官「なっ……!?」
氷の退魔師「そっちの太ったおっさんがよく知ってそうだな」
肥えた大神官「い、言いがかりはやめてもらおうか……!」
共和国首都の聖騎士長「……それで、その首は一体?」
氷の退魔師「ここの教会の、地下の隠し部屋にいた」
氷の退魔師「誰かさんがこいつと契約をして、色々と悪さをしていたみたいだなあ」
氷の退魔師「聖職者ともあろうものが悪魔契約とは……許されんよなあ?」
共和国首都の聖騎士長「……大神官殿?」
肥えた大神官「言いがかりだといっているだろう!!」
肥えた大神官「だいたい私が! その腐れ悪魔と契約したなどという証拠があるのかね!?」
191:
肥えた大神官「無いのであれば……!」
氷の退魔師「あるぜ。証拠」
肥えた大神官「な……!」
氷の退魔師「俺が契約術について専門的に研究をしていることは知っているよな?」
共和国首都の聖騎士長「勿論。そちらに打ち込み過ぎて王国にいられなくなったことも存じています」
氷の退魔師「いや、俺が王国を出た話とは関係ねえよ! そっちはもっと、こう……愛の話だ」
お祓い師「愛の……?」
氷の退魔師「まあ、その話はなんだっていいだろう!」
氷の退魔師「で、本題だが……今俺の手元にはこんな魔方陣が描かれた紙がある」
共和国首都の聖騎士長「見たことが無い陣ですね……」
192:
氷の退魔師「こいつは血の契約の主を示す陣だ」
氷の退魔師「もうこの悪魔は死んでいるが、額の契約印は残っている。死んだからといって自動的に消滅するわけではないからな」
氷の退魔師「この印が残っている限り契約主を探し出すことができる」
肥えた大神官「そ、そんな術は聞いたこともない! インチキだ!」
氷の退魔師「そりゃあ、そうでしょうよ」
氷の退魔師「新しく開発したんだからな。俺と妻の二人でな」
お祓い師(妻……俺の母とだと……!?)
お祓い師(まだ生きているのか……!? それとも……)
共和国首都の聖騎士長「退魔師界の大権威の開発した術の信憑性を議論することは、この場にいる人間では無理ですよ」
共和国首都の聖騎士長「どうぞ、使ってください」
193:
肥えた大神官「ぐっ……!!」
氷の退魔師「生首から血を少々……」
氷の退魔師「さあ、示してくれ! お前の契約主は誰だ!」
肥えた大神官「やめろォォォッ!!」
お祓い師「大神官の腕のあたりが光っている……」
西人街の聖騎士長「……事態が事態ですので、失礼します」
肥えた大神官「ぐっ! 貴様っ!」
西人街の聖騎士長「これは……契約印……」
氷の退魔師「……決まりだな」
肥えた大神官「く……そお……」
194:
西人街の聖騎士長「これは……言い逃れできないな」
西人街の聖騎士長「一教会を任せられた大神官が悪魔契約とは……まったく……」
氷の退魔師「それで、だが」
氷の退魔師「この大神官の処理は勿論お前たちに任せるとして……」
氷の退魔師「共和国の教会の大神官が悪魔契約をしていた、なんていう一大スキャンダルを知っている人間の処理はどうするつもりだ?」
氷の退魔師「この場には十人近くいるみたいだが……力づくで消すか?」
共和国首都の聖騎士長「…………」
共和国首都の聖騎士長「……ご冗談を。いえ、力づくでなど冗談にもなりませんね、氷の退魔師殿」
共和国首都の聖騎士長「しかし少々話が飛躍していますね」
氷の退魔師「何……?」
195:
共和国首都の聖騎士長「この大神官が悪魔と契約をしていたからといって、それの何が問題なんです?」
西人街の聖騎士長「何を言っている。聖職者が悪魔と契約をしていたんだぞ。問題以外の何物でもないだろうが」
共和国首都の聖騎士長「いえいえ。聖職者が悪魔と契約をしてはいけない、なんて決まりはどこにもありません」
西人街の聖騎士長「何……!?」
氷の退魔師「…………」
共和国首都の聖騎士長「貴方がた退魔師の皆さんのほうが詳しい話だとは思いますが……」
共和国首都の聖騎士長「今や人外の力を借りることは、時には必要な事として認知されてきています」
共和国首都の聖騎士長「この国で見られるような土着神のような考え方は、聖書の教えとは異なりますが……」
共和国首都の聖騎士長「人外全般に関して、害すべきものであるという記述はどこにもありません」
氷の退魔師「まあ、確かにな」
196:
お祓い師「そうなのか……」
共和国首都の聖騎士長「ええ」
共和国首都の聖騎士長「人外の多くが迫害されてしまっている現状は、千年前に勃発した魔王との戦争時に付け加えられた文の拡大解釈によるものです」
共和国首都の聖騎士長「その追加文でも悪魔信仰については書かれていますが、原典を含めて人外全般への記載は有りません」
共和国首都の聖騎士長「聖書の拡大解釈による人外への差別は、法国の本部でも問題視されてきたようでして……」
西人街の聖騎士長「だが、悪魔に関して言及されているんだろう? 今回は見過ごすっていうのかよ」
共和国首都の聖騎士長「いえ、悪魔についてはなにも記述されていませんよ」
西人街の聖騎士長「……はあ?」
共和国首都の聖騎士長「いいですか。聖書で問われているのは、その者が“悪魔信仰者”かどうかです」
お祓い師「……なるほど。悪魔信仰者とは、奴らの総本山にあるという魔王の血との契約を行った者……」
197:
聖騎士F「…………」
西人街の聖騎士長「ただの悪魔との契約は、咎める必要がないってか」
共和国首都の聖騎士長「そういうことです。彼が悪魔とてただの人外ですから。“差別はいけません”よね?」
西人街の聖騎士長「だが、そこの大神官は契約によって様々な不正を……!」
共和国首都の聖騎士長「証拠は?」
西人街の聖騎士長「っ……!」
共和国首都の聖騎士長「この大神官が、不正を行っていたという物的証拠はあるのでしょうか?」
氷の退魔師「……それは、ねえな。困ったことに」
氷の退魔師「しかしここ数年で教会ってのも変わったもんだな」
氷の退魔師「俺が若い時は使い魔や式神ですら白い目で見られたのに、今となっては悪魔契約も良いってか」
198:
氷の退魔師「これはあれか? 最近話題の魔王軍復活の噂に対して、少しでも戦力を増強できるような図らいなのか?」
共和国首都の聖騎士長「さあ、どうなんでしょうね」
共和国首都の聖騎士長「何にせよ、彼を咎めることは誰にもできませんね」
肥えた大神官「……!!」
肥えた大神官「くっ……くくくっ……」
肥えた大神官「はははッ! 見たか無礼者共めッ!」
肥えた大神官「下級悪魔の首を持ってきた程度で浮かれおって!」
肥えた大神官「私が! 仮に何か不正をしていたって言うならば! もっとちゃんとした証拠でも用意してくるんだなァ!」
肥えた大神官「くっははは……はっはっはっは!!」
氷の退魔師「──ところで、あんたのもう片方の腕も見せてくれよ」
肥えた大神官「はっはっは……あ?」
199:
共和国首都の聖騎士長「……ふむ?」
氷の退魔師「あるんだろ? もう一つの印が」
肥えた大神官「な……何を……」
氷の退魔師「いいから見せな」
肥えた大神官「ぐっ……離せっ……!」
氷の退魔師「やっぱりあるじゃねえか、もう一つの印が」
肥えた大神官「だったら何だって言うのかね! 悪魔と契約していようが、私をこの座から下ろすことはできないと……!」
氷の退魔師「これはまだ生きた印だ。どこかに契約した悪魔がいる」
氷の退魔師「他人の契約を俺が解除することは出来ないが……」
氷の退魔師「一時的に無効化することは、この程度ならば容易い」
200:
氷の退魔師「さて、何が起こるかな……」
西人街の聖騎士長「ぐっ……!?」
お祓い師「どうした!?」
西人街の聖騎士長「頭が……痛い……」
聖騎士C「ほ、報告します……!」
聖騎士C「突如頭痛などを訴える者が多数……! 中には気絶をした者もいます……!」
西人街の聖騎士長「なに……!?」
氷の退魔師「おそらく教会中の人間に、別の悪魔を使った催眠か何かが施されていたんだろう」
氷の退魔師「今俺が無理やり妨害したから、ちょっと負荷がかかってしまったのかもしれないな」
肥えた大神官「ぐぅぅ……!」
201:
氷の退魔師「これは証拠としてどうよ、聖騎士長殿?」
共和国首都の聖騎士長「…………」
共和国首都の聖騎士長「……ふう、これは降参ですね」
共和国首都の聖騎士長「催眠術を以って組織を意のままに操るなど、言語道断です」
共和国首都の聖騎士長「我々を導けるのは絶対神のみ。貴方ではないのですよ」
共和国首都の聖騎士長「さあ、その背信者を捉えなさい」
共和国の聖騎士A「はっ!」
肥えた大神官「クソッ! クソォッ!!」
肥えた大神官「許さんぞ貴様ら!」
氷の退魔師「おお、怖いねえ」
202:
狐神「……これは一件落着、なのかの?」
お祓い師「さあな。俺はあいつら……自由の団の狙いには興味ないからな」
お祓い師「あとは狼男の無事さえ確認できればいいんだが……」
西人街の聖騎士長「ああそれなら、もう会っているだろう」
お祓い師「何……?」
西人街の聖騎士長「ここでは少し面倒なことになりそうだから、表に出てみろ」
西人街の聖騎士長「そうすればすぐに会える」
210:

お祓い師「表に出てみろとは言われたが……」
狐神「ううむ?」
お祓い師「誰もいないな」
お祓い師「あいつの臭いや気配は?」
狐神「そのことなんじゃが……」
狐神「実はずっと違和感を感じておるのじゃ」
211:
お祓い師「違和感?」
狐神「うむ……」
狐神「何かが近くにいるような、いないような気配じゃ……」
お祓い師「どういうことだ?」
狐神「わしにもよくわからぬ。初めての感覚なんじゃ……」
聖騎士F「お二人共ここにいましたか」
お祓い師「なんだお前か」
狐神「何用じゃ?」
聖騎士F「いえ、団長……もとい聖騎士長に会ってこいと言われたので」
お祓い師「会ってこい?」
212:
聖騎士F「ええ」
聖騎士F→狼男「どうもお久しぶりです。狼男ですよ、お二方」
お祓い師「なっ……」
狐神「おぬしが……!?」
お祓い師「どういうことだ……!? ずっと顔も見えていたし、声も聞こえていたのに……」
お祓い師「今の今までお前だと認識できなかった……!?」
狼男「これが俺の、真の力なんですよ」
お祓い師「真の力?」
狼男「ええ。俺の真の力は、狼の姿になって力が増すというものではなく……」
狼男「『人の中に違和感なく溶け込める力』だったんです」
213:
狼男「狼男は村人の中にいつの間にか入り込み、気付かれないまま村人を一人一人襲っていく……」
狼男「そんな話は旦那も聞いたことがありますよね」
お祓い師「あ、ああ」
狼男「俺もそうやって、いつの間にか色々な人の輪に入り込むことができるんですよ」
狐神「じゃからわしの嗅覚を以てしても、おぬしがおぬしだとわからなかったのか……」
お祓い師「以前にお前の顔を目撃していたはずの聖騎士が、お前を仲間として受け入れているのもそのためか」
狼男「自由の団にも属している人には、もちろん正体を明かしていますけれどもね」
狐神「ずっと感じていた違和感は、知っているはずの相手を認識できなかったためというわけじゃな」
狼男「事が済むまではお二方には正体を隠せと言われていたもので……」
お祓い師「何にせよ、無事でよかった」
214:
狼男「お二方も無事で安心しました」
お祓い師「ああ」
狐神「うむ」
お祓い師「しかし、真の力だと……」
狼男「そのことですが……」
狼男「この力を目覚めさせてくれたのは団長でした」
お祓い師「あの聖騎士長が?」
狼男「はい」
狼男「団長は俺に言ったんです。『力を最大限に活用するためには、自分自身をより理解することだ』って」
狼男「狼男という人外が、一体どんな人外なのか」
215:
狼男「それを理解することが大事だったんです」
お祓い師「自分自身を理解する、か……」
狼男「あの修道女さんも、団長のアドバイスのお陰で力を制御できるようになったんです」
お祓い師「心を読み取る力だったか……。以前、狐神が言っていた“覚”という物の怪のような力だが……」
狼男「あれ、ご存知だったんですか?」
お祓い師「え?」
狐神「ふむ?」
狼男「彼女、実は覚そのものだったみたいなんですよ」
狐神「なんと」
狼男「ですが、その自覚が無かったが故に、力が発現し切っていなかったようです」
216:
お祓い師「なるほど……」
狐神「…………」
狐神(わしも自分自身を理解すれば、あるいは……)
お祓い師「どうした?」
狐神「いや、なんでもあらん」
狐神「それよりも、先ほどの悪魔のことじゃ。教会関係者の多くが術に侵されていたようじゃが……」
狼男「ええ、自分でもまったく気が付きませんでした」
狼男「無意識の内に大神官の言いなりになるように仕向けられていたのかもしれません」
狐神「ふむ」
狼男「今思えば実際にこのように行動に移せたのはお二方がこの街に戻ってきてから」
217:
狼男「術にかかっていない外部因子が必要だったのかもしれませんね」
お祓い師「その術を親父が一時的に無効化したおかげでようやく解決ってことか……」
狼男「ええ」
お祓い師「いや、待てよ……」
狐神「どうしたのじゃ?」
お祓い師「親父が無効化した印は、あの地下室にいた悪魔のものとは違っていた……」
お祓い師「ならばあの印の契約悪魔は一体どこにいる」
狼男「たしかにそれは早急に片付けないといけない案件ですが……」
お祓い師「そのもう一体が催眠術をかけていたのならば、親父が倒した悪魔は何をしていたんだ……?」
狼男「それは……」
218:
狐神「ふむ……もしかすると、じゃが」
狐神「隠していた、のではないのかの?」
お祓い師「隠していた?」
狐神「うむ。あの巧妙に隠された地下室もそうじゃが、あの大神官の腕の印じゃ」
狐神「何かの拍子に誰かに見られてもおかしくないのじゃろう」
お祓い師「確かにな……」
狐神「つまりおぬしのお父上が倒した悪魔は、自身やもう一体の悪魔との契約を他人の目から遠ざけたり……」
狐神「もう一体の悪魔を隠す役割を持っていたのではないのかの?」
お祓い師「……つまり、今ならばもう一体の悪魔も探し出しやすいということか」
狼男「なるほど、それでは早……」
219:
聖騎士C「た、隊長! 一大事です!!」
狼男「どうした」
聖騎士C「と、突如共和国からの使者が教会へ向けて発砲!」
聖騎士C「戦闘が開始した模様です!!」
狼男「何だと!?」
お祓い師「一体何故……!!」
狐神「おぬしよ、先ほどの会議室の中の様子がおかしい」
お祓い師「なに……!」
狼男「入りましょう!」
お祓い師「ああ!」
お祓い師(まさか共和国の聖騎士達は力づくでこの街の利権を手に入れるつもりか……!?)
220:

お祓い師「親父ィ! 何があった!」
氷の退魔師「やられた! こいつ、悪魔に対して何らかの命令を送りやがった!」
肥えた大神官「ク……クククククッ……!」
肥えた大神官「まだ妨害の術は未完成だったようだな! すぐに契約印の力が元に戻ったわ!」
肥えた大神官「終わりだ! どう転んでもこれで貴様らはお終いだ!! ざまあみやがれッ!!」
氷の退魔師「おいお前……何をやったか言え……!」
221:
肥えた大神官「ぐえっ……ゲホッ……!」
肥えた大神官「ク……ククク……」
肥えた大神官「何って……簡単なことだ……」
肥えた大神官「教会の外の聖騎士を操ってこの教会を襲わせたのさ!」
西人街の聖騎士長「何だと……!?」
狼男「事実です。たった今、部下から報告を受けました」
氷の退魔師「チッ! 油断した……!」
肥えた大神官「正に『悪魔の囁き』! よそからは共和国とこの街の聖騎士が結託して反乱を起こしたように見えるだろう」
肥えた大神官「仲良く共倒れするんだな!」
共和国の聖騎士A「……報告します! 聖騎士だけではなく市民も暴動を起こし始めた模様です!」
222:
共和国首都の聖騎士長「そうか……報告ご苦労」
氷の退魔師「おい、今すぐ止めさせろ」
肥えた大神官「それは出来ない……既にやつはここから離れてしまったからな……!」
肥えた大神官「だから私の命令はもう届かない……ククッ……」
氷の退魔師「この野郎……」
共和国首都の聖騎士長「まずいことになりましたね……」
共和国首都の聖騎士長「これはどのみち本国に帰ったら大目玉ですね」
共和国首都の聖騎士長「まあここで全員名誉の負傷……いえ、名誉の戦死でもしていただければうまく事が運べるのですが……」
共和国首都の聖騎士長「真実を知っているのはこの場にいる者だけなんですから」
お祓い師「なっ……」
223:
西人街の聖騎士長「貴様……」
氷の退魔師「お前で俺の相手が務まるとでも?」
共和国首都の聖騎士長「そこまで自惚れていませんよ」
共和国首都の聖騎士長「ですがこちらも、それなりの人員を固めて来ているんです……」
共和国首都の聖騎士長「一人なら無理ですが……」
謎の覆面たち「「…………」」
狐神「か、囲まれておる……!」
狼男「いつの間に……!」
氷の退魔師「……なるほど? 少しは骨の有りそうな奴らだな」
氷の退魔師「おい、街の方へはお前たちだけで行け」
224:
お祓い師「あ、ああ……!」
共和国首都の聖騎士長「ここから出すとでも?」
氷の退魔師「出させるんだよ」
氷の退魔師「……こうやってな」
共和国首都の聖騎士長「……! 一瞬でそれほどの氷の壁を……!」
お祓い師「……助かったぜ親父」
氷の退魔師「……ふん……いいから早く行きやがれ!」
お祓い師「ああ!」
狐神「よし!」
西人街の聖騎士長「行くか!」
225:
狼男「ええ!」
共和国首都の聖騎士長「行かれてしまいましたか……」
氷の退魔師「…………」
氷の退魔師「……さて」
氷の退魔師「お前、今わざと行かせただろう?」
共和国首都の聖騎士長「……世の中建前ってのは必要なんですよ」
共和国首都の聖騎士長「どこで誰が見ているのかわからないですから」
氷の退魔師「立場がある人間ってのも楽じゃねえな」
共和国首都の聖騎士長「仕方のないことですけれどもね」
共和国首都の聖騎士長「とは言ってもこの先、手を抜くつもりはありません」
226:
共和国首都の聖騎士長「彼らが元凶を倒すのが先か、我々が全員片付けるのが先か……」
氷の退魔師「……なるほど?」
氷の退魔師「悪いがかわいいかわいい一人息子が頑張っているんだ……」
氷の退魔師「邪魔はさせないぜ」
共和国首都の聖騎士長「…………」
氷の退魔師「──ここで片付けてやる。かかってきな」
227:
《現状のランク》
S3 氷の退魔師
A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神)
B1 狼男
B2 お祓い師
B3 フードの侍 小柄な祓師
C1 下級悪魔
C2 マタギの老人
C3 河童
D1 若い道具師
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊
不明 九尾
※1 お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。
※2 九尾は詳しくは不明。お祓い師(式神)よりは上。
228:
《悪魔・其ノ貮》
狼男「こ、これは……」
狐神「酷い有様じゃのう」
西人街の聖騎士長「これはもう、既に戦争だと変わらねえな……」
お祓い師「聖騎士や市民がもう一体の悪魔に催眠をかけられた、ということだったが……」
お祓い師「自由の団の団員にも術がかけられているとみていいだろう」
西人街の聖騎士長「ただし平気な奴もいるはずだ」
229:
狐神「ふむ?」
西人街の聖騎士長「とあるルートで手に入れた護符を隊長格には持たせている」
お祓い師「護符だと?」
西人街の聖騎士長「なんでも催眠系統の術にある程度ならば耐えられるらしい」
西人街の聖騎士長「大神官が悪魔と契約しているとわかった時点で、相手が催眠系であることは候補の一つとして挙げられたからな」
お祓い師「しかしそんな護符は聞いたことがないぞ」
西人街の聖騎士長「最近開発されたものらしくてな」
西人街の聖騎士長「とある異国の技術者が試作品を横流ししてくれたものだ」
お祓い師(異国の技術者……まさかな……)
西人街の聖騎士長「どうした?」
230:
お祓い師「……いや」
西人街の聖騎士長「そうか……しかし困ったな」
西人街の聖騎士長「相手が聖騎士だけならばまだ良いんだが……一般市民もいるとなると」
お祓い師「事態を収束させるには、戦闘をなるべく避けて術の解除を行わないとならないてことか……」
お祓い師「これは一筋縄ではいかないな……」
西人街の聖騎士長「……あんた」
お祓い師「ん?」
西人街の聖騎士長「あんたらはここで降りても良いんだぜ?」
西人街の聖騎士長「人間同士の諍いは嫌いなんだろ?」
お祓い師「…………」
231:
お祓い師「いや、今回は最後まで見届けさせてもう」
お祓い師「今の事の中心にいるのは悪魔だ。見過ごすわけにも行かないだろう」
西人街の聖騎士長「それもそうか……よろしく頼むぜ」
お祓い師「ああ」
西人街の聖騎士長「よし」
西人街の聖騎士長「今の俺達がやるべきことは三つ」
西人街の聖騎士長「一つは術にかかっていない住民が戦闘に巻き込まれないように避難させること」
西人街の聖騎士長「二つ目は戦闘の鎮圧」
西人街の聖騎士長「三つ目は原因の悪魔を探しだして倒すことだ」
西人街の聖騎士長「三つ目をお前たちに任せてもいいか」
232:
お祓い師「勿論だ。各々の専門を担当したほうが良いだろう」
西人街の聖騎士長「よし。俺は術にかかっていない騎士団員と自由の団団員を率いて住民避難と戦闘の鎮圧に取り掛かる」
狐神「大人数に対して強力な催眠を施せるほどの悪魔とあの大神官が契約したとは思えん」
狐神「解呪できる者が居ればなんとかなるはずじゃ」
西人街の聖騎士長「そうか……わかった」
狼男「えっと、俺はどうすればいいですかね……」
西人街の聖騎士長「そうだな……」
西人街の聖騎士長「お前はそっちに付いて行け。元々はそっちの仲間だろ?」
狼男「……そうですね。俺は旦那に同行させてもらいます」
西人街の聖騎士長「決まりだな。健闘を祈るぜ」
233:
お祓い師「ああ。任せておけ」
お祓い師「それじゃあ、お願いしていいか」
狐神「うむ、任せておけ」
狼男「そうか……姐さんにはその力が……!」
狐神「さて、わしらの探す悪魔はどこにいるのかのう……?」
247:

お祓い師「……で、任せておけと意気込んでいたはいいが……」
狐神「ち、力切れじゃあ……」
狼男「先ほどの戦闘に続いての力の行使ですからね……仕方がないでしょう」
狐神「はあはあ……こんなはずでは……」
お祓い師「無理はするな……と言いたいところだが、俺たちが急がないとこの騒ぎは何時まで経っても解決しない」
狐神「その通りじゃ」
248:
狐神「どこかでおぬしからの供物を補給したいところなんじゃが……」
お祓い師「前にこの街で狼男を探した時みたいに、俺の血じゃ駄目なのか?」
狐神「別に血でも構わぬのじゃが……前の感じからすると、血では食べ物や酒を貢いでもらった時よりも得られる力が少ない……」
狐神「目標を捉えるまで力を使うためには、かなりの量の血液が必要となるかもしれぬ……」
お祓い師「お前は血よりも食い物かよ! 普通こういうのは血の方が良かったりするもんだろ!?」
狼男「何というか、姐さんらしいですね……」
狐神「どういう意味じゃ!」
お祓い師「つくずく“らしく”ない奴だ……」
狐神「ふん、勝手に言っておれ。それよりも早く何か……」
お祓い師「それが困ったことに、手元に飯がない」
249:
狐神「なっ、なんと使えんやつじゃ……!」
お祓い師「常に食い物を携行しているわけ無いだろうが! 旅路じゃないんだぞ!」
狐神「ふう……やれやれじゃのう」
お祓い師「何だその目のは……」
狐神「わしのこと、なーんもわかっておらんな」
お祓い師「お前のために常に菓子でも持ち歩いてろってか? ガキじゃあるまい……」
狐神「がっ、ガキじゃと!? これでもわしはおぬしよりもずっと生きておってじゃなあ……!」
お祓い師「それなら歳相応の落ち着きを見せてくれ……」
狐神「ぐぬぬ……」
聖騎士D「そこにいるのは誰かっ!」
250:
お祓い師「おっと、まずい……」
聖騎士D「待て貴様……その顔見覚えがあるぞ……! 確かあの時……」
お祓い師(さっき事が済んだと思って変装を解いちまったからな……)
狼男「ちょっと眠ってろ」
聖騎士D「がっ……!」
聖騎士D「…………」
お祓い師「手荒だな」
狼男「言っている場合じゃないでしょう」
狼男「それに俺の姿を見られる訳にはいかなかったので」
お祓い師「どういう意味だ?」
251:
狼男「敵であるはずの旦那と、味方であるはずの自分が一緒にいたら変に思ってしまうでしょう?」
狼男「その疑いの心を俺の術で無理やり押し込め続けると、精神的なダメージを負わせてしまう恐れが有るんです」
お祓い師「なるほど……」
お祓い師「それじゃあなるべくバレないようにしないとな……」
狐神「……それにはちょっと遅かったようじゃぞ」
聖騎士E「貴様ら動くな!」
お祓い師「……小道の両端を塞がれたか……」
狼男「まずいですね……強行突破しますか?」
お祓い師「致し方なしか……」
???「……皆さん、こっちこっち」
252:
お祓い師「建物の中から……! 誰だ……!?」
狼男「この声は……」
狼男「お二人とも、ついて行きましょう」
聖騎士E「ま、待てっ!」
???「さあさあ、追いつかれる前に急いで」
???「ええっと……そうそうここだ。みんなここに入って」
お祓い師「これは……地下に続く階段……」
お祓い師「地下水路への入り口か……」
???「そうだよー。頭ぶつけないようにね」
???「あっ、いけない。ランプはあるけど火の元が無い……」
253:
狐神「……ちょっと貸してみい」
???「あ、どうぞどうぞ」
狐神「狐火」
お祓い師「使い方が違うんじゃないのか?」
狐神「中々器用に使えるもんじゃろう?」
狐神「まあ、力の残りカスを使って発動したもんじゃから立っているのもやっとなんじゃがな……」
お祓い師「お、おい……! ほら、背中に乗れ」
狐神「かたじけない……」
???「ありがとうー。いやあ、流石に灯り無しで地下水路を進むのはきついからねー。助かったよ」
???「あの人達が地下水路を把握しているとは思えないけど、一応急ごうか」
254:
お祓い師「そのローブ……お前も自由の団の団員か?」
???「……うん、そうだよ」
???「ね? 隊長さん?」
狼男「……そうですね」
???「気が付かないもんだね」
狼男「まあ、会っていた時間も短かったですから」
???「ひどいなあ。同じ卓を囲んだ仲だって言うのに」
お祓い師「同じ卓を……?」
狐神「ふうむ……?」
???「まあ、いいんだけどね。そんなに何度も会ったわけじゃないし」
255:
???「ええっと、確かこっちを曲がって……」
???「きゃっ……!」
お祓い師「うわっ!?」
狼男「大丈夫ですか?」
???「……うん、ちょっと蝙蝠が。なんともないよ」
お祓い師「驚いたな……」
???「それでここは真っすぐで……」
お祓い師「それは地下水路の地図か?」
???「うん。団員には必要に応じて支給されてるの」
お祓い師(マタギのじいさんがくれたものと同じ……)
256:
お祓い師(さっきの護符の件といい、一体どういう事だ……?)
???「……うん、ここだ」
???「段差に気をつけてね」
狐神「む……ここは……」
お祓い師「あの時の酒場……ということは……」
???→路地裏の酒場の娘「やあお二人さん。お久しぶり」
お祓い師「お前だったのか……」
路地裏の酒場の娘「顔は覚えてくれていたみたいだね」
お祓い師「さすがに声だけじゃわからなかったぜ」
路地裏の酒場の娘「まあ、あの子ほどあなた達と関わっていなかったから仕方がないでしょ」
257:
狐神「あの子、とは受付のじゃな?」
路地裏の酒場の娘「うん、そうよ」
お祓い師「お前はずっと自由の団の団員だったのか?」
路地裏の酒場の娘「そう。あなた達とあったあの日だって、ちょっとした仕事の後だったんだから」
お祓い師「じゃあ俺たちが聖騎士長と闘っている時も……」
路地裏の酒場の娘「無駄に白熱しすぎないように監視役。主にあの子が暴走しないようにね」
お祓い師「その割にはあの野郎、随分と容赦が無かったが……?」
路地裏の酒場の娘「まあ彼は……女性“には”優しい人だから」
狼男「俺も随分と痛い思いをした……」
路地裏の酒場の娘「まあまあ、今となっては」
258:
お祓い師「いい思い出にはならねえよ」
路地裏の酒場の娘「あはは、だよね?」
お祓い師「まあいい……それよりも今の状況だが」
路地裏の酒場の娘「うん。既にこっちにも情報は入ってきている」
路地裏の酒場の娘「聖騎士や街の人に催眠術らしきものがかけられているみたいだね」
お祓い師「ああ。俺たち四人はその元凶の悪魔を探している」
路地裏の酒場の娘「元凶の悪魔、か……」
お祓い師「何か目撃情報は?」
路地裏の酒場の娘「無いね。相手もそこまで間抜けでは無いでしょう」
お祓い師「まあ俺たちにはそいつを見つけ出す手立てがある」
259:
路地裏の酒場の娘「へえ?」
お祓い師「それじゃあ」
狐神「一品お願いするとするかのう!」
260:

お祓い師「……やはり全員が催眠術にかかっている訳ではないってことだな」
路地裏の酒場の娘「うん。実際に私みたいに平気な団員も沢山いる」
路地裏の酒場の娘「ここに報告に来てくれた団員も大丈夫だったしね」
狼男「しかし、全員が術中に堕ちていなくとも戦闘は開始されてしまった」
狼男「こうなると沈静化は難しい」
路地裏の酒場の娘「その場で誰が術にかけられているかわからないしね」
261:
お祓い師「やはり俺たちが先に元凶を叩く必要があるな」
お祓い師「……腹の具合は?」
狐神「完璧じゃ」
狐神「今のわしなら何処までも獲物を追える……」
お祓い師「いつもその調子で頼むぜ……」
狐神「いつもわしは完璧じゃ」
お祓い師「はいはい。よろしく頼むぜ」
狐神「なんじゃあその言い方は……まあよい」
狐神「…………」
狐神「……ふむ、それほど遠くではない」
262:
狐神「いや、すぐ近くという表現の方が正しいかもしれん」
お祓い師「すぐ近くだと?」
路地裏の酒場の娘「一体どこに……」
狼男「…………」
狼男「さっきの地下水道への階段の方が怪しい……」
路地裏の酒場の娘「ま、待って……!」
狼男「どうかしましたか?」
路地裏の酒場の娘「──いま動かれたら、ナイフが上手く刺さらないじゃないの」
狼男「ぐっ……!?」
お祓い師「まさかこいつ……!?」
263:
狐神「いや、元凶の方ではあらん! おそらく催眠術にかかっておる!」
お祓い師「いつの間に……!」
お祓い師(術の発動条件は一体……!?)
路地裏の酒場の娘「もーう、避けちゃ駄目だってば」
お祓い師「お前、怪我は?」
狼男「大したことはありません……」
狼男「それよりも、この中で解呪の術を扱える人は……」
お祓い師「無理だ……」
狐神「言わずもがなじゃ」
狼男「……では無力化するしか無いですね……」
264:
お祓い師「まさか……」
狼男「いやいや。押さえつけて縛り上げるだけです」
狼男「術についてはその後調べましょう」
路地裏の酒場の娘「何々、相談事? 私も混ぜて──よっ!」
狼男「狭い所で刃物を振り回さないでくださいよ!」
狼男「ちょっと痛いかもしれませんけど、許して下さいね!」
路地裏の酒場の娘「ぐっ!」
狼男「……このロープで縛れば……」
狼男「……ふう……」
お祓い師「なんとかなったな」
265:
狼男「ええ……」
狐神「ふむ……一体どういうことじゃ?」
お祓い師「初めから術にかかっていたのかそれとも……」
お祓い師「きっかけがあるとすれば……」
狐神「っ……! おぬしよ危ない!」
お祓い師「何っ……!?」
お祓い師「ぐはっ!」
狼男「…………」
狐神「おぬしよっ……! 大丈夫かの!?」
お祓い師「ぐ……」
266:
狐神(これは……大事ではないが、一応治療ができる者に見せた方が良さそうじゃな……)
狐神(しかしその前に……)
狐神「次は狼男にも術が発動したようじゃな……」
狼男「あ、姐さん……俺は……」
狐神「喋るな狼。おぬしが敵の術中にあることはわかっておる」
狐神(しかしわしの力ではこやつと渡り合うことは難しい……)
狐神(このような室内では不意打ちも難しい)
狐神(どうにか脱出せねば……)
お祓い師「げほっげほっ……」
狐神(しかしこやつがこの調子では……)
267:
路地裏の酒場の娘「……違う……」
狐神「何……?」
路地裏の酒場の娘「今術にかかっているのはおそらく私でも、狼男でもない……!」
路地裏の酒場の娘「気を付けて後ろよ……!」
狐神「なっ……!」
狐神(わしがさっき自分で言った通り、相手が強力な悪魔である可能性は低い)
狐神(相手は無闇やたらに術をかけていくことは不可能なはずじゃ……)
狐神(つまり術は大人数に拡散されたと言うよりは……!)
狐神「人から人へ……! まさかおぬし……!」
お祓い師「…………」
268:
お祓い師「……狐神」
狐神「ぐっ……」
お祓い師「俺は平気だぞ……術にかかった感じはしない」
狼男「お、俺は今ので目が覚めました。姐さん、恐らく旦那は……」
路地裏の酒場の娘「一旦そこから離れて……!」
お祓い師「待て待て俺は……!」
狐神(誰を信用すれば…………)
狐神「…………」
狐神「……いや、大丈夫じゃ」
狼男「姐さん……!?」
269:
狐神「おぬしが術中に無いことを証明するのは難しい……じゃが」
路地裏の酒場の娘「ナ、ナイフ!?」
狼男「姐さん何を!?」
狐神「これならばどうじゃ?」
お祓い師「…………ぐっ…………」
狐神「…………」
狼男(……あ、姉さんが自分の喉にナイフ突きつけようとしたのを……)
路地裏の酒場の娘(お祓い師が止めた……)
狐神「は、刃の部分を素手でつかむ者があるか!」
お祓い師「それどころじゃねえよ馬鹿! 何やってんだよお前!」
270:
狐神「こ、これならばおぬしの身の潔白を証明するのは容易いと思っての」
狐神「おぬしが術中にあるならば、わしを止めはしなかったじゃろう」
路地裏の酒場の娘「そ、それはそうだけど……」
狐神「それにわしには、こやつが術にかかっておらんと思った理由が……」
お祓い師「馬鹿野郎!」
狐神「いっ!!」
狐神「何をするのじゃ!? 突然げんこつで叩きおって!!」
お祓い師「根拠があったのかなんだか知らないけどな、こんな危ない真似は二度とするな!」
狐神「じゃ、じゃが……」
お祓い師「二度とするな! いいな?」
271:
狐神「う、うむ……」
お祓い師「……はあ。それで、理由っていうのは?」
狐神「うむ。以前おぬしが青女房と対峙した時、おぬしだけが相手の術にかからなかったことがあったのは覚えておるかの?」
お祓い師「あ、ああ。あの時は確か、他に強い幻惑の術にかかっている可能性があるって言っていなかったか?」
狐神「うむ、じゃがそれは的外れな推理だったようじゃな」
狐神「これは完全にわしの推測なのじゃが……幻惑の術にかからなかったのは恐らくおぬし自身の力によるものじゃ」
お祓い師「俺自身の力だと……? 全く身に覚えがないんだが」
狐神「今まで幻惑系の術をかけられた事は?」
お祓い師「以前に一度あるが……」
狐神「ふむ……おそらくおぬしには術への耐性がある。これがわしの考えじゃ」
272:
狐神「そしてその力が覚醒したのはそう昔の事ではない」
狐神「そのきっかけとなったのが、強力な幻惑の術をかけられた事なんじゃとわしは思う」
お祓い師「だからその強力な幻惑の術ってやつは何なんだよ。一体いつやられたって言うんだ?」
狐神「それは以前にこの西人街に訪れた時……正確にはこの街を離れることになった時じゃ」
狼男「あの日、ですか……」
狐神「うむ。狼男を連れての離脱に失敗したわしらじゃが、こやつは頑なに狼男と黒髪の修道女を助けに戻ると聞かなくての」
狐神「事情を知った今となっては考え方も変わるが、あの時は戻った所で勝ち目はないという考えじゃった」
狐神「じゃからこやつをどう説得しようか困っておった……その時じゃ」
狐神「わしの説得の必要が無くなったのじゃよ」
路地裏の酒場の娘「一体何が……」
273:
狐神「こやつはコロリと意見を変えて、この街を出るように言ったのじゃ」
狐神「『もう自分たちには関係ない』とな」
お祓い師「そういえば俺はそんなことを……」
狐神「あれは不気味じゃった……まるで別人になったようじゃったぞ」
お祓い師「じゃあその時に……」
狐神「うむ。おそらく何者かに“街を出るように促された”のじゃろうな」
狐神「そうであればあの時のおぬしの異常な発言にも納得がいく」
狐神「そしてその強力な術にかかったことによって、おぬしの先天的な術への耐性が目覚めたのじゃ」
狐神「雨女の術が効かなかったのはそのせいじゃな」
お祓い師「待て待て。それだけじゃ俺が術への耐性があるという根拠にはならない」
274:
狐神「蝙蝠じゃ」
お祓い師「あ?」
狐神「先ほど、おぬしと酒場の娘は蝙蝠に触れたじゃろう?」
路地裏の酒場の娘「う、うん」
お祓い師「触れたというよりは顔面に当たった、って感じだが……」
狐神「おそらくあれが目標の悪魔じゃと思う」
路地裏の酒場の娘「だから蝙蝠に触れられた私が術に……確かに言われてみればあの時から私は少し変だったかもしれない……」
狐神「しかし、おぬしはこやつと違っておかしな行動には出なかった」
狐神「まあ根拠としてはまだ足りぬ気もするがの」
お祓い師「なるほど、な……」
275:
お祓い師「だが、あの日俺にこの街から離れるように促した奴っていうのは一体……」
狐神「…………」
狐神「……さあ、の。それよりも現状の整理をし直したほうが良い」
狼男「敵の術は触れた相手に移っていく、ということでいいんでしょうかね」
狐神「うむ」
お祓い師「移る、と断定した理由は? 触れた元の奴にもまだ術が残っているかもしれないだろう?」
狐神「先ほどわしがナイフを喉元に突き立てた時に、狼男も身を乗り出して止めようとしておったからの」
お祓い師「なるほど……」
狐神「狼男がおぬしを殴った際に、移るはずの術がおぬしの耐性によって行き場をなくして消滅したと考えるのが妥当じゃ」
狼男「触れることで人から人へ術が移動していって、今の大混乱を巻き起こしているということですね」
276:
狐神「うむ。火種は小さいが、その場所が移動していくのは厄介じゃぞ……」
お祓い師「やはり俺たちがすべき事は」
狼男「元凶を潰すって事ですね」
狐神「うむ。あの蝙蝠を探すのが近道じゃろうな」
狐神「急ぐとしよう。わしに付いてくるのじゃ」
お祓い師「ああ」
路地裏の酒場の娘「私は敵の術についての情報を団の本部へ持ち帰るかな」
狼男「ああ、気をつけてくれ」
狼男「あと、“あいつ”が出られないか確認してくれないか?」
狼男「術にかかった人間を見分けるのに役立つはずだ」
277:
路地裏の酒場の娘「……なるほど、了解」
路地裏の酒場の娘「よし、それじゃあお互い怪我しないようにね」
お祓い師「ああ」
狐神「では行くかの」
狐神「目標はやはり地下水路を移動しておるようじゃの」
281:

狐神「ううむ、ちょこまかと……!」
お祓い師「中々目標に追いつけないな」
狐神「まるでこの真っ暗な地下水道の中で、わしらの位置を正確に把握しているような動きじゃ……」
狐神「とてもではないがわしらの足では追いつけぬ……」
狼男「そういえば聞いたことがあります」
狼男「蝙蝠は特殊な音の反射で自分や獲物の位置を把握できる、と」
282:
狼男「ある程度距離を詰めてしまうと、奴にとって暗闇は何の意味も持たないのかもしれません」
狐神「ぐぬぬ、厄介な……」
お祓い師「おそらくこのまま追いかけ続けても埒が明かないだろう」
お祓い師「何か対策を講じないとな」
狼男「そうですね……」
狐神「しかしどうするのじゃ。わしらには相手の位置はわかるが、それは向こうも同じのようじゃ」
狐神「別の者に強襲でもしてもらうのか?」
お祓い師「いや、遠く離れた仲間に指示を飛ばせるような設備も術も持ち合わせていない」
お祓い師「そんな高度な連携は無理だ」
狐神「ならばどうすれば……」
283:
お祓い師「挟み撃ち、とかな」
狐神「ふむ?」
お祓い師「ちょっとしんどいとは思うが、お前が術を使うのと同時に俺もお前の術を借りて目標を探し出す」
お祓い師「そうして地図を参考に挟み撃ちをかけるんだ」
狐神「なるほど……」
狼男「術を借りる、なんてできるんですか?」
お祓い師「ああ。式神の術の恩恵ってやつだ」
狼男「それなら、戦力的に俺は姐さんと行動したほうが良さそうですね」
お祓い師「ああ、そうだな」
お祓い師「狐神、行けそうか?」
284:
狐神「体力の面で心配はあるが……他に手立てがない以上仕方があるまい、やるとしよう」
狐神「ではゆくぞ」
お祓い師「ああ頼む」
お祓い師「…………よし、俺にも進むべき方向が感じられるようになった」
お祓い師「方向的には向こう側だが、地図を見るとこっちの道でも行けそうだ」
狐神「ならばそちらをおぬしに任せて、この辺りで挟撃としよう」
狼男「それが良さそうですね」
お祓い師「じゃあ行くぜ」
狐神「気を付けての」
お祓い師「お互いにな」
狼男「では姐さん、行きましょう」
狐神「うむ」
285:

お祓い師(狐神の力のお陰で、どの方向へ進めば目標にたどり着けるかわかる……)
お祓い師(だが二人同時に術を使用した時にあいつがいつまで持つかはわからない……急がねえとな)
お祓い師(街の方も心配だし……親父も……)
お祓い師(いや、親父に限っては心配いらねえか……)
お祓い師(あいつが負ける姿なんて想像できねえからな……)
お祓い師(あのヤバそうな連中は任せたんだ……こっちは俺たちで解決しないとな)
286:
お祓い師「……!」
お祓い師(目標が近い……!)
お祓い師(おそらく狐神たちに近づかれてこっちへ逃げて来ている)
お祓い師(だがそれは思う壺だ……!)
蝙蝠の悪魔「ギギッ……!?」
お祓い師「気がついたか! だがもう遅い!」
お祓い師「くらえっ!!」
蝙蝠の悪魔「ッ!!」
お祓い師「クソッ! 避けやがった!」
蝙蝠の悪魔「ギギッ……!」
287:
お祓い師(なんだ……? 突然動きが鈍くなったぞ……)
お祓い師「何にしても好機だ……次こそ当てる!」
お祓い師「燃えろ!」
蝙蝠の悪魔「ギッ、ギァァァァッ!!」
蝙蝠の悪魔「アアァァ…………」
お祓い師「……ふう……」
お祓い師「随分とあっけなかったな……」
お祓い師「あとはあいつらが来るのを待てば……」
お祓い師「……!?」
お祓い師「…………」
288:
お祓い師(なんだ……いま一瞬……?)
狼男「あ、いましたね」
狐神「おぬし、やったのかの?」
お祓い師「おう、来たな。ちゃんと逃さず滅し切ったぜ」
狐神「ふむ、完璧じゃな」
狼男「少し天井が崩れちゃってるじゃないですか……」
お祓い師「ああ、一発外しちまってな」
お祓い師(さっき悪魔の動きが鈍った時……崩れた天井から漏れた陽の光を嫌がっていたような……)
お祓い師(攻略の糸口になりそうだな……覚えておこう)
お祓い師「よし、一度地上に戻ろう。自由の団の人と合流した方がいいだろう」
289:
狼男「ええ、そうしましょう」
狼男「地図からすると、こちらの方に水路のほとりに出るための通路があるみたいですよ」
お祓い師「よし行こうか」
290:

狐神「ふむ、ここが出口じゃな」
お祓い師「ああ」
狼男「扉が錆びついてしまっていますね。俺が開けます」
お祓い師「すまない、頼む」
狼男「よ……っと、開きましたよ」
お祓い師「さて、ここからどうやって合流するかだが……」
291:
お祓い師(狐神の力を使用してもいいが、消耗した直後だ……あまり安易には使いたくない)
狐神「心配せずともわしの耳で聞こえる範囲で戦闘が起きておる」
お祓い師「本当か!」
狼男「ええ、俺にも聞こえます。急ぎましょう」
お祓い師「ああ」
狐神「臭いからするとおそらくその角を曲がった先じゃ」
狼男「万が一に備えて気を付けてくださいね」
お祓い師「わかっている」
お祓い師「もし敵だとしたら、場合によっては一旦引くぞ」
お祓い師「聖騎士長のような、強力な相手の可能性もあるからな」
292:
狐神「ふうむ……」
狐神(しかしそのような気配は感じられぬが、さて……)
狼男「……これは……」
狼男「皆さん伏せてください。巻き込まれるかもしれません」
お祓い師「自由の団の団員と共和国の聖騎士たちが戦っているな……」
狐神「本体を倒したのに術が解けていないということかの」
お祓い師「その可能性はあまり考えたくないな」
お祓い師「術が解けた所で一度始まってしまった戦闘は自然には収まらないだろう」
狼男「その為にうちの団長……西人街の聖騎士長がいま走り回っているところですからね」
狐神「わしらの目的は達せられたのじゃから、こちらも争いを止めるのを手伝ったほうが良いのではないかの?」
293:
お祓い師「ああ行こう!」
狼男「相手の無力化が目的ですが、気を付けてください」
狼男「下手に使者を出すと面倒なことになりますよ……!」
お祓い師「初めから人殺しなんかするつもりはねえよ!」
自由の団団員B「あ、あなた方は……!」
狼男「一段落付いたんで助太刀に来た」
自由の団団員B「助かります!」
お祓い師「よし、まだ行けるな狐神」
狐神「うむ、任せるのじゃ」
お祓い師「それじゃあもう一仕事と行くか……!」
294:

狐神「ふう……」
お祓い師「なんとか、なったな……」
狼男「殺しに来ている相手を殺さずに無力化するっていうのは本当に難しいことですね……」
自由の団団員B「皆さんが来てくださって本当に助かりました……」
お祓い師「こっちはちょうど一段落ついたところだったからな」
お祓い師(街全体の戦闘の規模が把握できていないが、これは相当骨が折れるぞ……)
295:
自由の団団員C「各自欠員はいないか確認してくれ」
自由の団団員D「軽傷が三名、重症、死亡は無しだ」
自由の団団員C「わかった。手当を急いでやってくれ」
自由の団団員D「了解」
狼男「他の隊の状況はわかるか?」
自由の団団員C「全然駄目だ。一向に争いが収まる気配がない」
自由の団団員C「あの子に手伝ってもらいながら術の解除にあたっているんだが……」
お祓い師「あの子……?」
黒髪の修道女「えっと、報告しますね」
お祓い師「なるほど……あんたか……」
296:
黒髪の修道女「あ、昨晩ぶりです」
お祓い師「おう」
お祓い師(相手の心を読めるという力、精神を術に支配された人間を見分けるのには役立つわけだ)
お祓い師(酒場で狼男が言っていたのはこの子のことだったんだな)
黒髪の修道女「向こうの聖騎士さん、まだ術にかかっている方がこの場だけで三名ほどいました」
狐神「なっ……」
お祓い師「どういうことだ……確かに悪魔自体は滅したはずだ……」
狼男「さっきおっしゃっていた通り、本体が倒されても解除されない術だという可能性が出てきましたね」
狐神「…………」
お祓い師「そうだとすると随分と厄介だぞ……」
297:
狐神「……いや」
狐神「もう一つ、見落としていた事がある」
お祓い師「……なんだ?」
狐神「本体が一体ではなかったという可能性じゃ……!」
狼男「まさか……!」
狐神「いま少なくとも二体はおる……。そう道が示されておる」
狐神「他にもこの街に潜んでおるかもしれん……相手は蝙蝠型の悪魔の群れだったのじゃ……!」
お祓い師(さっき地下水道で感じた別の気配はそれだったのか……!)
お祓い師「クソッ! すぐに残りのやつを滅しに行かねえと!」
黒髪の修道女「あと一つ報告が」
298:
狼男「何でしょうか」
黒髪の修道女「それが……地下の本拠地にいた団員が全員敵の術に堕ちてしまったようです」
狼男「地下の本隊が全員……!?」
黒髪の修道女「はい……」
お祓い師(地下の本隊……さっきやつと遭遇したのも地下水路だ……)
お祓い師「……もしかして……」
狐神「何かわかったのかの?」
お祓い師「あの蝙蝠型の悪魔、なんで教会の会議室にいる重鎮を真っ先に狙わなかったと思う」
お祓い師「その方が楽に事が運べただろうに」
狐神「それは……」
299:
お祓い師「……陽の光だ。あの部屋は大きな硝子窓から陽の光が差し込んでいた」
お祓い師「おそらくあの悪魔は陽の光の下では行動できないんだと思う」
お祓い師「実際、さっき倒した一体も陽の光を浴びて急に動きが鈍くなったからな」
お祓い師「地上にいた人員の多くが無事で、地下の本隊が全滅したのは相手が動き出したのが昼間だったからだ」
お祓い師(親父が生首にしたあの悪魔、行動に制限がある蝙蝠型の悪魔を『対象を隠す力』で匿っていたんだな……)
狐神「……しかし厄介じゃな……」
お祓い師「厄介とは?」
狐神「さっきの通り、暗闇ではあやつらのほうが上手」
狐神「ほれ、空を見てみるのじゃ」
お祓い師「日が……沈みかけている……」
300:
狐神「次は地下水道には収まらん……街全体があやつらの陣地じゃ……!」
お祓い師「くっ……それじゃあさっきみたいに挟み撃ちをやるなんてのは無理だ……!」
お祓い師「何か手は……」
狼男「何にしても、自由の団の方は一旦撤退させた方が良いですね」
狼男「現在西人街と共和国の聖騎士同士が争っている状態で、我々がそれ鎮圧しようとしている状況です」
狼男「ここで我々も悪魔の術にはまってしまっては元も子もありません」
狼男「敵方に利がある夜間は下手に動かず、侵入経路のない屋内に篭もる他ありません」
狐神「それは、そうじゃな……」
自由の団団員B「戦闘の中心である教会周辺の住民は既に避難していると報告が入っています」
狼男「よし! 団員は聞いてくれ!」
301:
狼男「敵の悪魔は蝙蝠型だ。触れられると術にかかってしまうから注意をしてくれ!」
狼男「お前たちは捕らえた聖騎士たちを連れて地上の隠れ家へ避難してくれ」
自由の団団員B「はっ」
狼男「俺たちは敵の居場所を察知できますから、引き続き悪魔を探しましょう」
狐神「うむ」
狼男「しかし参りましたね……」
狼男「事態の収束のためとはいえ、他国の聖騎士を我々反乱分子が捕らえたとなると……」
狼男「覚悟が必要かもしれません」
お祓い師「……覚悟、か……」
狼男「ええ。今起きている都市規模での混乱ではなく」
302:
狼男「……国と国の争いが起こってしまうかもしれません」
狐神「ふむ……」
お祓い師「…………」
お祓い師「クソッ……! あの豚野郎、面倒なことにしやがって……!」
狐神「落ち着くのじゃおぬしよ。まだ決まったわけではあらん」
狐神「わしらに出来るのは残った悪魔を掃討することじゃ」
お祓い師「だがどうする。相手も馬鹿じゃない」
お祓い師「夜の街で奴らを追い詰める方法が思いつかねえ」
狼男「それは……」
狐神「…………」
30

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