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ブーンは歩くようです1『かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話』


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プロローグ
超繊維のマントを風に翻し、茫洋と続く大地の上を男は歩いていた。
空は一面、どんよりとした灰色の雲。
荒れた大地に吹く風は強く、つられて舞い上がる砂埃に顔をしかめた彼だったけれど、
南から吹いてきた風がむき出しの頬を撫でると、その暖かみに強張った表情をわずかに緩めた。
そしてもうひとつ。男の後ろをトボトボとついてくる小さな影。
ボロボロの、ポンチョにも似た布切れを頭から被ったその影の正体は、
背丈や体の大きさから察するに子供、もしくは女なのだろう。
影は男に引き連れられているというよりはむしろ無理やりついてきているといった風情で、
正面から吹き付ける風を前かがみになってしのぎながら、絶対に離されまいと必死に男の背中に喰らいついていた。
草も木も無い赤茶けた色の大地の上で動くものは、その二人以外に存在しなかった。
( ^ω^)ブーンは歩くようです
【第一部】『かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873972.html
【第二部】『世界の終わりと、それでも足掻いた人間たちの話』
http://world-fusigi.net/archives/8873974.html
【第三部】( ^ω^)ブーンは歩くようです3『世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873975.html
管理人です!
今回のスレは「放課後のジョーカーだけど、この夏“レディ”に再会してしまった」のコメント欄にて教えていただきました。
前記事※39さん、ありがとうございました!
4: 以下、
一応wktkしといてやんよ
5: 以下、
こんな時間に…支援
6: 以下、
それから二人はどれくらい歩き続けたのだろう?
いつしか空を覆っていた灰雲は晴れ、乾いた地面には太陽の光が差し込みはじめていた。
地平線の先は空の青に溶けていて、荒野は彩りを取り戻していた。
そしてその青の先に男は、一本の立木を見つけ出す。
「あ、木の実が生ってる!」
嬉しそうな声を上げた後ろの影――女は、頭を覆っていた布を取ると、
前を歩いていた男を追い越し、茶色の髪をたゆらせながら一目散に立木へと駆け出していった。
遅れて男が到着した頃には彼女は枝の上にのぼっていて、たわわに実った赤い実をせっせと胸に集めていた。
その姿を見上げながら男は木陰の下に入り、立木の太い幹に背を預けて瞼を閉じた。
木漏れ日の心地よさに彼がうとうとしていると、その頭の上に何かが落ちてくる。
軽い衝撃に瞼を開くと、赤い木の実が一つ、彼の目の前に転がっていた。
7: 以下、
「おいしいよ! 食べなよ!」
「いただくお」
頭上から響いた女の明るい声に応えて拾い上げた実を口に含めば、
シャキっとした歯ごたえとともに、甘くみずみずしい果汁が男の口の中に広がった。
それは千と数十年前に食べたリンゴという果物の味と良く似ていて、
それから懐かしいことを思い出したらしい彼は、年甲斐もなく口元を緩めた。
大地と一本の実のなる木。かつての世界の書物の中に、そんな話があったっけ。
禁断の実を食べたアダムとイブが楽園を追放される話。今の僕たちと良く似ている。
それならば、僕がアダムで彼女がイブで、この実を口にした僕たちは楽園を追放されるのだろうか?
そんなはずはないか。だって僕は、とうの昔に楽園を追放されているのだから。
8: 以下、
自嘲して笑った男が手にした木の実から顔を上げると、
彼の目の前には不思議そうな顔をした先ほどの女が立っていて、彼に向かってこう尋ねた。
「ねぇ、ブーン? あなたはいったい、どこまで歩くの?」
9: 以下、
wktk
10: 以下、
第一部 かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話
― 1 ―
八歳で学士を取った。十歳で博士号を取った。
僕はいわゆる、天才と呼ばれる人種だった。
いや、それは正しくない。
正確に言うのなら、天才の中でも最も秀でた天才中の天才だった。
二倍以上歳の離れた天才ばかりの世界の最高学府で、僕は誰よりも優秀だった。
言うまでも無く主席で卒業し、優秀な頭脳ばかりが集められる研究所に入ってすぐに頭角を現した僕。
十代半ばで、世界の主要言語を完璧にマスターした。
十代後半で、当時不可能だと言われていたバルキスの定理の証明を成し遂げ、世界にその名を轟かせた。
二十代前半には、文明の未来を担う急先鋒として天才たちをあごで使い、寒さも暑さも防げる夢の繊維、
一粒で三日間腹が満たされる夢の食料、冷凍睡眠などの基本理論を構築し、様々な発明の基を築いた。
そして二十代も半ばに差し掛かった僕は、それらの実用化を他者へと引継ぎ、
この時代の文明の明日に必要不可欠であったエネルギー問題の解決に動き出すことになる。
11: 以下、
( ^ω^)「プロジェクトチーフの内藤だお。よろしく頼むお」
川 ゚ -゚)「サブチーフのクーだ。事務統括、その他現場の指揮は私が担当する。
  このプロジェクトには人類の未来がかかっているといっても過言ではない。
  つまり、君たちの双肩に人類発展の如何がかかっているのだ。
  それ故、プロジェクトにかかわる人材は厳選させてもらった。
  君たちには精鋭としての自覚をもち、ぜひとも研究に全力を注いでいただきたい。以上」
プロジェクトチームの顔合わせの日。サブチーフのクーが、口下手な僕の言いたいことを代弁してくれた。
自室に戻って「ありがとう」と告げると、
僕と同期の天才である彼女は腰まで伸びた黒髪を揺らしながら、小さく肩をすくめた。
川 ゚ー゚)「演説もどきのセリフを口にするのは疲れるよ。慣れないことはするもんじゃないな」
常に僕の傍らを歩いてきた天才は、小さく弱音を吐いて、笑った。
12: 以下、
プロジェクトチームは行政関係を除けばごく少数の人員で構成されていた。
僕とクー以外のメンバーは天才でもなんでもない凡人の集まり。
僕が頭脳でクーが神経、そして他の凡人たちが手足として実際に動く。
人体の構造を模したチーム構成。だから、頭脳たる天才は僕一人で十分のはずだった。
そこになぜもう一人クーという天才を加えたかというと、理由は単純だ。
優秀だから。
彼女がいなければ、これまでの僕の発見は数年遅れていたことだろう。だからクーを加えた。それだけの話。
特別な感情なんて何もない。事実と過去の功績だけを重視したドライな人事。
そこに感情を持ち込むことはタブーだと、この時の僕は信じていた。
13: 以下、
支援えん
14: 以下、
完璧に思われた布陣。
しかし、完璧なものなど存在しないのがこの世の常。
不具合はすぐに生まれた。それも、思っても見ないところから。
( ^ω^)「クー。作業工程がだいぶ遅れているお。どういうことだお?」
プロジェクトがスタートして三ヶ月ほど経ったある日、僕は自室にクーを呼び出した。
まだ三ヶ月しか経っていないというのに、プロジェクトはすでに予定より大幅な遅れをきたしていたからだ。
その件について僕が問いただすと、彼女はいつもどおりの無表情で一言。
川 ゚ -゚)「……すまん。すぐに挽回してみせる」
そう残して僕に背を向けると、彼女はすぐに部屋から立ち去った。
白衣にかかった黒髪が、艶やかに翻っていた。
15: 以下、
普段、僕は新エネルギーシステムについての理論を構築するため一人で自室にこもっており、
理論の真偽を確認するための実験等実証作業、いわゆる現場作業はクーと凡人たちに任せていた。
クーに任せていればうまくいくと妄信していた。そのため、現場の様子を一切把握していなかった僕。
しかし、依然としてプロジェクトの進行状況は遅れたまま。
痺れを切らした僕が抜き打ちで現場に赴いたところ、広めの実験室にあったのは、
思い思いに固まった凡人たちのグループが数個と、窓際の席に独りたたずむクーの姿。
無機質な顔で机上に置いたコンピュータのブラウザと向き合う彼女は、まるで機械のように感じられた。
( ^ω^)「なるほど。そういうことかお」
川 ゚ -゚)「……すまん。どうも凡人たちとうまくいかんのだ」
後日、自室に呼び出した彼女がポツリと漏らした。
顔は無表情のままだったけれど、わずかにその肩は落ちていた。
彼女の弁解はそれ以降一言もなかった。
潔さだけは褒められものだが、だからといってそれが何の役にたつ?
( ^ω^)「わかったお。もういいお」
それだけを残して、僕は彼女をすぐに部屋から退出させた。僕の肩も落ちていた。
16: 以下、
生来のものなのか成長の過程でそうなったのかは定かではないが、
クーは感情を表に出さない人物だった。よく言えばクール。悪く言えば鉄面皮。
彼女深く付き合わない限り、その印象は決して良いものにはならないだろう。
確かに僕は、彼女に人と人との緩衝役を担う適性がなさそうなことにはじめから気づいていた。
僕も人のことを言えるような明るい性格ではなかったが、過去の実績や経験から見るに、
それでも彼女ならうまくやってくれると信じていた。事実、彼女はこれまではうまくやってくれていたのだ。
それがこのざまだ。期待はずれもいいところだった。
( ^ω^)「使えない女だお」
閉じられた扉に向けて呟いて、僕はすぐに打開策を練り始めた。
合間に口に含んだコーヒーの味が、妙に苦々しく感じられた。
17: 以下、
打開策は日を待たずして見つかった。支持系統にワンクッション入れればよかったのだ。
これまでの支持系統は「僕→クー→凡人たち」となっていた。問題、歯車の歪みはクーと秀才たちの間にある。
それならば、その間にクーとも凡人ともうまくやれる人物を仲介役として挟めばよいのだ。
別にクーをはずしても良かったのだが、口下手な僕の意思を正確に汲んでくれるのはクーだけだったので、
あくまで僕のスポークスマンという形で僕は彼女をチームに残留させることにした。
「もう一度、結果を出して見せろ」 今にして思えば、それは僕なりのクーに対する温情だったのかもしれない。
( ^ω^)「さて、問題はその人物の選定だけど……まあ見つかるだろうお」
天才と凡人は相容れない人種だというのが、当時の僕の持論だった。
凡人は天才に嫉妬し、天才は凡人を見下す。これはどうしようもない自然の摂理だ。
しかし僕ほどの天才はこの世に二人といないが、天才への嫉妬を隠しつつうまく付き合うことが出来て、
それでいて物事を滞りなく運べる優秀な凡人は希少とはいえ見つかるだろうと、僕は楽観的に考えていた。
18: 以下、
( ^ω^)「というわけで、人物を一人よこしてくれお」
( ´∀`)『了解しましたモナ』
行政部に連絡を入れてまもなく、僕の予想に違わずとある人物が派遣されてきた。
騒々しく、部屋の扉をバタンと開けて。
ξ゚ー゚)ξ「よっ! はじめまして! あんたが内藤博士ね? お噂はかねがね耳に入れているわ!」
痩身にスーツのよく似合う、巻いたブロンドの髪が印象的な女性だった。
19: 以下、
― 2 ―
(;^ω^)「そ、そうだお。まあ座ってくれお」
僕がそう口にしたときには、すでに彼女は応接用のソファにどっかりと腰を下ろしていた。
無礼千万な女。それが彼女に対する第一印象。
( ^ω^)「それで、あっーと、ツンさんかお? 年齢は二十八……」
ξ゚?゚)ξ「二十五です」
(;^ω^)「お? 資料では二十八歳ってなってるんだけど……」
ξ#゚?゚)ξ「二十五です! 大体、女性を前にしてその年齢を言うだなんて失礼だとは思わないわけ!?」
(;^ω^)「す、すまんかったお」
ξ゚ー゚)ξ「ふふ。わかればいいのよ」
怒り、笑いと、数秒の間にコロコロと表情を変えていく。やりにくい女だと思った。
20: 以下、
しかし、この奇妙な明るさは使えるかもしれない。
資料によると、難関である行政部のキャリア試験を現役主席で突破。
スポーツの面でも、学生時代にクレー射撃でオリンピック候補にまで上り詰めている。
特にスポーツ経験があるというのは、これから人と人との緩衝役を頼む上でこの上なく魅力的だった。
( ^ω^)「君の役目は以上だけど、出来るかお?」
ξ゚?゚)ξ「出来るんじゃなくてやってみせるわ! 任せてちょうだい!
   それで、そのクーさんって人と会わせてもらえるかしら??」
( ^ω^)「お安い御用だお」
内線でクーを呼び出せば、すぐに彼女は部屋を訪れてくれた。その迅さに少しだけ彼女を見直した。
慇懃にノックをして入ってきたクーを見るやすぐに、ツンは立ち上がって大声を上げた。
22: 以下、
ξ゚?゚)ξ「すごい美人じゃない! おまけに天才なんでしょ? 
   むかつくわ?! 嫉妬しちゃうわ?!」
川;゚ -゚)「む? むぅ……」
ξ゚ー゚)ξ「あはは! 冗談よ冗談! 私はツン! これから仲良くしましょうね!!」
川;゚ -゚)「よ、よろしく……」
初対面で突拍子も無いことを口走るツンにたじろいだのだろう。
普段滅多に感情を表に出さないクーも、あからさまに困惑していた。
それでも、にこりと笑ってクーに手を差し出したツンを見て、その手を恐る恐る握り返したクーを見て、
予感という曖昧なものを信じていなかった僕だけれど、ことがうまく運んでくれる気がした。
23: 以下、
実際、彼女がチームに加わってくれたことでプロジェクトは予想以上に円滑に進んでくれるようになった。
ツンは持ち前の明るさですぐにチームになじみ、あのクーとさえも打ち解けてくれていた。
ξ゚ー゚)ξ「はいはーい。次はこれよー。
   まーたチーフがややこしい理論を押し付けてきたけど、なんとかうまくこなしてちょうだい! 
   うまくいったらいった分だけ、私もあんたたちの評価を上げるよう人事局に提言しやすいんだからね!」
何気なく実験室を覗いてみれば、これまでバラバラで思い思いに行動していた凡人たちのグループが、
各々熱心な様子で指示された仕事に取り組んでいた。
ツンは各グループ間をせわしなく動き回り、真剣な顔で論議しあったり、時には笑いを誘ったり。
24: 以下、
ξ゚ー゚)ξ「はい。ご注文のデータ、一丁上がりよ。
   まだまだバンバン入ってくるからへばらないでよ?」
川 ゚ー゚)「ああ。データの整理、解析は得意分野だ。任せてくれ」
問題のクーも、窓際でなく室内の中のほうに席を陣取り、
凡人たちから渡されるデータ等を黙々と裁いていた。
彼女にも少しは居場所が出来たようで、会話の相手はほとんどツンばかりに見えたけれど、
それでも以前に比べてのびのびと自分の仕事に全力を注げているようだ。
( ^ω^)「これも一種の天才だお」
動き回るツンを見て、僕の部屋を訪れては
現場からの質問、注文を忌憚なく告げていく彼女を見て、僕はしみじみとそう思った。
何より彼女の明るさの恩恵を受けていたのは、ほかならぬ僕自身だったからだ。
25: 以下、
公休日の時の話。
特にすることもなく暇をもてあましていた僕。
休息の大切さについては理解していたのでのんびり頭でも休ませようかと思っていたのだが、
そこに突然クーが訪ねてきて新エネルギーシステムについて議論を持ちかけてくるものだから、
もううんざりしていた。
川 ゚ -゚)「Fateは文学。CLANADは人生。鳥の詩は国歌」
(;^ω^)「あー、はいはい! そうですおね!」
日ごろうっぷんが溜まってるんじゃないかと疑わせるほどに話しまくるクー。
研究熱心なのは結構だし喜ばしいことが、たまの休みくらいゆっくり休ませてほしかった。
しかし静かに目を輝かせて話すクーに帰れとも言えないわけで、僕はほとほと困り果てていた。
そしていい加減クーの話に辟易していた僕に助け舟を出してくれたのが、
ノックもせずに部屋に飛び込んできた彼女だった。
26: 以下、
ξ゚?゚)ξ「ハロー! 何やってるの?」
川 ゚ -゚)「内藤と新エネルギーシステム理論について話し合っていたところだ。
  すまんが席を外してくれんか?」
ξ゚?゚)ξ「あー、ダメダメ。せっかくの休日に何やってるのよ?
   休むときは羽目を外して休む! そうじゃなきゃ脳みそパンクしちゃうわよ?
   あんたら天才はただでさえ四六時中考えている人種なんだからなおさらよ。
  さあ、いくわよ!」
そう言って僕とクーの手を無理やりつかんだツンは、僕たちを引っ張って部屋の外へと連れて出していく。
ツンに手を引かれ本気で困っている様子のクーをよそに、
「柔らかい手だなぁ」と、僕は場違いな感想を抱いていたり。
27: 以下、
wktk
28: 以下、
川;゚ -゚)「お、おい! 手を離せ! どこに行くつもりなんだ!?」
ξ゚ー゚)ξ「研究所内をうろついてたらクレー射撃場見つけちゃってさ!
  射撃はストレス発散にうってつけよ? パーッと一発騒ごうよ!」
( ^ω^)「おお! それはいいお!」
川;゚ -゚)「私は銃弾より理論をつめたいんだが……」
ξ゚ー゚)ξ「いいからいいから! レッツゴー!!」
うまいことを言ってしぶとくクーは抵抗したが、
満面の笑みで自分を引っ張っていくツンに折れたのか、射撃場に着くころには何も言わなくなっていた。
広々とした射撃場。すでに銃や的の手配をしていたらしいツンは、
着くとすぐに僕たちへ銃を手渡し、甲高い発砲音を周囲に響かせ始めた。
クレー射撃にはそれなりに心得のあった僕は、数十分腕を慣らした後、
思い切って元オリンピック候補だったツンに挑んでみた。しかし案の定、大差で負けた。
けれどもツンの言ったように気分も頭もすっきりしていた。
例えば何かを成し遂げたときのように、僕の気分は高揚していた。
29: 以下、
ξ゚ー゚)ξ「へへーん! 私の勝ちね! 天才に勝っちゃった! 今夜の晩飯もいただき!」
川 ゚ -゚)「たいしたものだ」
( ^ω^)「本当だお。ぜひとも手ほどき願いたいもんだお」
ξ゚?゚)ξ「いいわよ? まずあんたは精神的にダメ!
   つめが甘いっていうのかな? まるであんたの顔みたい」
(;^ω^)「ちょwwwww顔は関係ないおwwwwwww」
ξ゚ー゚)ξ「あはは! でも筋はいいわよ? 
  さすがは天才って所かな! まあ、まだまだだけどね!」
川 ゚ -゚)「……」
そう言って笑う彼女の言葉を聞いて、姿を見て、僕は頬が緩んでいくのを止められなかった。
30: 以下、
ツンは平然と人をけなす。例えそれが天才の僕やクーであろうと誰であろうと、
悪いところは悪いと言い切るし、合点のいかないことは納得するまで話をする。
しかしそこに禍根を残さないところが、彼女の素晴らしいところだった。
そして何より、そんな裏表のない彼女だからこそ、
たまに発する賛辞の言葉には真実性が込められていて、その言葉が聞きたいがため、
クレー射撃にもプロジェクトの使命たる新エネルギーシステムの開発にも、
僕はこれまでないほどに没頭することが出来た。
ξ;゚?゚)ξ「顔は饅頭みたいなのに、あんた本当に天才なのね。こんな理論、私じゃ思い付きもしないわ」
( ^ω^)「おっおっお。それほどでも無いお」
ξ゚ー゚)ξ「それほどでもあるわよ。ホント、たいしたもんだわ」
天才天才ともてはやされ、周囲からのありていな薄っぺらい賛辞の言葉ばかりを浴び続けてきた僕にとって、
ツンの毒舌も、笑って放つ褒め言葉も、何もかもが新鮮だった。
31: 以下、
人類の明日のため。
そんな取ってつけたような大義名分のためでなく、
ツンに褒められたいから、思いっきり笑う彼女の笑顔を見たいから、だから研究に没頭するのだという経験は、
あまりにも単純な動機付けではあるけれど、しかしだからこそ人は動けるのだということを僕に教えてくれた。
感情が人の大きな原動力となる。当たり前だからこそ中々気づくことのできなかった大きな発見。
ツンが僕のそばにいたのは、僕の人生の中のほんの一瞬に過ぎないわずかな時間。
けれども彼女が僕の人生に与えた影響は、ほかのどんなものよりも多大だった。
ツンと会うだけで楽しかった。心が躍った。
ツンと話がしたいがために、クーを介して伝えるべき事項をわざわざ直接ツンに伝えたことも多々あった。
今にして思えば、多分僕はツンに好意を抱いていたのだろう。性的な意味で。
しかし幼い頃から勉強一筋でほかのものに見向きもしなかった僕は、
そんな愛だの恋だのといった定義づけできないあいまいな感情に耐性を持っていなかった。
結局、そのときの僕はツンに対する特別な感情に気づくこともそれを彼女に告げることもできないままで、
まるで小学生の恋愛ごっこのような日々は着々と流れていった。
32: 以下、
やがて、次世代のエネルギーシステム理論が僕により構築される。
この理論の稼動基地一基で原発数個分のエネルギーを一挙にまかなえる。
申し分ない出来だった。
実験による実証工程もまもなくクリアし、すぐにでも開発に着手できる段階になった。
しかし、その内容を詳しくは話せない。
――いや、話したくない。
なぜなら僕のこの理論こそが、文明を土に還すきっかけとなったのだから。
33: 以下、
― 3 ―
世の中、苦労が報われるようには出来ていない。報われる苦労などむしろ希少だといって差し支えない。
理論の完成を行政部に報告し終え、晴れ晴れとした気分に浸っていた僕のもとへ、残念な知らせは容赦なく届く。
(;´∀`)『内藤博士。大変申し訳にくいのですが、あなたの提唱してくださった
  新エネルギーシステム理論の無期限凍結が幹部会議で決定しましたモナ……』
(  ω )「……了解したお」
ご丁寧にも極秘回線で告げてくれた行政部の役人にそう残して、僕は回線を切った。
大きく深呼吸をして、沈んでいく気分を落ち着けた。
しかし傍らにいたクーは、珍しく憤りを前面に押し出して叫ぶ。
川#゚ -゚)「上は何を考えているんだ! この理論を凍結して何の得になる!?」
( ^ω^)「……まあ、今の世界情勢を考えればしょうがないことだお」
激昂するクーをなだめた。いや、きっと僕は、彼女を通じて自分自身をなだめていたのだろう。
本音を言うとガックリと肩が落ちる思いだったけれど、「仕方の無いことだ」と、表情だけは繕って見せた。
35: 以下、
当時、世界はまだ平和だった。あくまで表面上は、の話なのだが。
枯渇し始めていた化石燃料。
その代替エネルギーもしくはシステムの開発は急務とされていたのだが、
そこには複雑な事情が絡んでいたのだ。
例えば、原油の産出国の問題。彼らは原油を一番の稼ぎとしていた。
そこに新エネルギーシステムの開発が告げられればどうなるであろうか? 
答えは火を見るより明らかだ。
利権を失ってしまう彼らは、自国の存亡を賭けて何ふりかまわず抵抗してくるであろう。
それだけでなく、世界から孤立していた独裁国家や
世界一の人口を有する社会主義国家など、危険の火種は無数にあった。
36: 以下、
面白い
37: 以下、
このように、複雑な事情の絡み合った世界に
新エネルギーシステムの話を持ち出すことはあまりにも危険なことだった。
しかしそんなことなど、システムの構想が頭に浮かんだ時点で気付いていた。
けれど僕は理論を構築せずにはいられなかった。
そして心血を注ぎ込んだ我が子とでもいうべき理論が凍結されると聞いて、落胆せずにはいられなかった。
凡人が大多数を占める世界の愚かさはよく理解していたつもりだった。
それでも自分が生み出した理論を世に出せないのは、悔しくて悔しくて仕方がなかった。
ξ゚ー゚)ξ「大丈夫。今は時期が悪いだけよ。あんたの発明したこのシステムは間違いなく世界を救う。
   今はまだ私たちごく少数の人物しか知らないけど、いずれ世界に認められるときが必ず来るわ。
   だから元気を出して? そしてお疲れ様、内藤博士!」
ポンポンと肩を叩く、いつか握ったことのある柔らかいツンの手のひら。そして言葉。
一人落ち込んでいた僕には、それだけが何よりの救いだった。
38: 以下、
支援
39: 以下、
日々は流転し、時代は流れていく。
出会いはいつしか別れに帰着する。
凍結という形で一段落したプロジェクトチームは解散され、
ツンとの別れの日はいやがおうにも訪れる。
ξ゚?゚)ξ「私は行政部に戻らなきゃいけない。寂しいけどね。
   しばらくは外国回りで会えそうも無いけど、いつか絶対に遊びに来るから。
   そのときまでに射撃の腕、少しでも上げておきなさいよ?」
( ^ω^)「わかったお。今度こそ君に勝ってみせるお」
ξ゚ー゚)ξ「あはは! 楽しみにしておくわ! 
  内藤、クー、しばらくの間お別れね! 元気でやんなさいよ!?」
川 ゚ー゚)「ああ。君との日々は楽しかった。必ずまた来いよ」
40: 以下、
( ^ω^)「……そうだお。必ず来るんだお」
僕のつぶやきに笑って返し、ツンを乗せた高級車は研究所から去っていった。
傍らでクーがすがすがしい顔をして見送っていたけれど、僕の表情は沈んでいたに違いない。
けれど僕は、気持ちが沈んでようやく、その底に横たわっていた恋心に気づくことが出来た。
沈没船やその中に眠る財宝は、海の底へと赴かなければ見つけ出すことは出来ない。
同様に日々の雑事やよしなし事に埋もれた感情もまた、気持ちが沈まなければ見つけることは不可能なのだ。
サルベージした恋心を胸にもてあまして、日々は流れた。
ツンの面影が少しずつ遠ざかっていく。
そしてその後、僕の気持ちはますます沈んでいくことになる。
――笑い方など、忘れてしまうことになる。
41: 以下、
ツンが去った後も、凍結された新エネルギーシステム理論を知る僕たちは
依然として研究所内に隔離されていた。外界との通信も監視の対象となる。
特別にすることない、出来ることも限られた、平和だけれど退屈な年月。
そんな日々の中での唯一の楽しみは、ツンに手ほどきを受けた射撃の腕を上げることくらい。
そしてある日。
いつものように自室で何でもない書類にサインをしていた僕のもとへ、信じられない一報は届く。
42: 以下、
文章うめえな
43: 以下、
(;´∀`)『凍結されていた新エネルギーシステム理論の詳細が……某国に流出しましたモナ』
自室の回線を通じて発せられた、行政部役人の血の気のない冷たい声。
握り締めていたペンが、僕の手のひらからするりとすべり落ちていった。
第一部 かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話 ― 了 ―
44: 以下、
とりあえず乙
45: 以下、
ほぅほぅ乙
46: 以下、
よかったよ
むしろ良すぎて不気味だ
49: 以下、
面白い。期待乙
51: 以下、
乙。期待してるから逃亡だけはするな
( ^ω^)ブーンは歩くようです
【第一部】『かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873972.html
【第二部】『世界の終わりと、それでも足掻いた人間たちの話』
http://world-fusigi.net/archives/8873974.html
【第三部】( ^ω^)ブーンは歩くようです3『世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話』
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