ブーンは歩くようです3『世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話』back

ブーンは歩くようです3『世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話』


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立つかな?
( ^ω^)ブーンは歩くようです
【第一部】『かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873972.html
【第二部】『世界の終わりと、それでも足掻いた人間たちの話』
http://world-fusigi.net/archives/8873974.html
【第三部】( ^ω^)ブーンは歩くようです3『世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873975.html
3: 以下、
キターーーーー
4: 以下、
ギヤヤ!何故この時間に……!
6: 以下、
kたな
5: 以下、
第三部 世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話
― 1 ― 
夢は見なかった。
気がつけば僕は目を開けていて、気がつけば目の前にはクーの顔があった。
それだけが僕の目覚めの話。
重い上半身をゆっくりと起き上がらせれば、
頭に溜まっていた血が一気に下半身へと落ち込んだようで、
一瞬、僕は強烈なめまいに襲われた。
額に手を当ててめまいに耐え、それから視線を戻せば、やっぱり目の前には彼女がいた。
7: 以下、
川 ; -;)「……よかった」
何が良かったのだろうか? 
寝過ぎた寝起きのように頭が働かないまま、
とりあえず涙を流すクーの顔をぼんやりと眺め、肩近くまで伸びた自分の髪をかきむしり、
それから辺りをキョロキョロと見渡して、見慣れない幾何学的な風景を前にようやく合点がいった。
僕は冷凍睡眠に入っていた。
その認識がトリガーとなったらしく、これまでの記憶が酔いから醒めた様に一気によみがえってくる。
8: 以下、
(; ゚ω゚)「今はいつだお!?」
川 う -;)「……二千年後。西暦四〇四五年だ」
(; ゚ω゚)「本当なのかお!? 間違いないのかお!?」
川 う -;)「ああ、間違いない」
涙をぬぐうクーの肩に手をやって、何度も揺さぶって問いかけたが、
まっすぐ見つめる僕の視線から目を逸らしたまま、彼女は否定の言葉をついぞ口にしなかった。
嫌な予感が当たったとき特有の、なんとも言いがたい締め付けるような不快感が僕の胸を襲う。
不意に、涙が零れ落ちてきた。
二千年。あまりにも永い。あまりにも遠い。
9: 以下、
( ;ω;)「じゃ、じゃあ外は……世界はどうなっているんだお!?」
川 ゚ -゚)「落ち着いてくれ。一気に質問されても答えられん。それに……」
( うω;)「それに、何だお!?」
一旦会話を打ち切ったクーの顔は、心なしか赤らんで見えた。
それから彼女は自分が羽織っているマントと同じような布切れを僕の前に差し出して、短く。
川 ゚ -゚)「その格好じゃ話すに話せん。とりあえず、服を着てくれ」
(;^ω^)「……お!?」
僕は全裸だった。
ひったくるようにして布切れを受け取ると、冷凍カプセルの陰に隠れていそいそとそれをまとった。
10: 以下、
これは……! 支援
11: 以下、
川 ゚ -゚)「私は一足早く冷凍睡眠から目覚めてな。
   私なりにいろいろと現状を調べていたのだ」
布切れ――かつて僕が作り出した超繊維の布で体を覆った後、
しばらくのやり取りを経て、僕たちは地上へと向かっていた。
クーのアルトボイスが暗く細い穴倉のような階段通路に響く。
彼女によれば、今足を踏みしめている通路は、
地上へ出るために用意されていた数ある階段の中の、出口が塞がれていない数少ないものの一つなのだそうだ。
通路に常備灯などあるはずもなく、存在する光といえば僕を先導するクーの握る懐中電灯のそれだけで、
通路内の空気はしんと冷えこんでおり、そしてしんと静まり返っている。
13: 以下、
( ^ω^)「それで、調査の結果はどうなんだお?」
川 ゚ -゚)「私もそれほど調べられたわけじゃない。
  ここは冷凍睡眠装置の他はたいした設備もないし、やることも限られていたしな。
  とりあえず、放射線反応はすでに消えている。
  気温もかつての平均よりわずかに低いが生存するに支障はない。
  しかし大地の様子は大きく変わっているし、人の姿も獣の影も見えない。
  もっともこの近辺にいないだけで、もしかしたら別の場所には生息しているのかもしれんがな」
そこまで言ったところで、先導していた光の動きが止まった。どうやらクーが立ち止まったようである。
彼女の手にした懐中電灯が照らし出すのは、
前方斜め上に設えられた、取っ手の付いた重そうなコンクリート製の正方形。
どうやらそれは、地上と通路を分け隔てている扉らしい。
川 ゚ー゚)「さあ、世界の現状を直にその目で確かめてくれ。内藤博士」
クーの声が通路内に響き渡り、それから重そうな正方形がいとも簡単に彼女によって押し開けられた。
妙に手馴れているなと少し不審に思ったが、言葉には出さないでおいた。
いや、出すことなど出来なかった。
14: 以下、
支援
15: 以下、
支援
16: 以下、
川 ゚ー゚)「ほら、これが二千年後の世界だ」
(; ゚ω゚)「……」
地上に出た僕が見たのは、強烈な日の光と、照らし出された広大な荒野。
赤茶けた大地の上には、僕の背丈ほどの高さの横に広い、
ブロッコリーを巨大化させたような樹木が転々と生えている。
かつて山奥であったはずの大地にあるのはわずかな起伏だけで、
地平線の見える大地には山の存在した名残すら感じられない。
文字通り目を見開いて、呆然と二千年後の世界を眺めることしか出来ない僕。
声など発せられるはずがなかった。
立ち尽くして。力なく空を見上げて。
ただ、地獄のように赤い色をした大地の土とは対照的に、
見上げた日の光と空の青だけはかつての世界よりも深く澄んで感じられた。
18: 以下、
川 ゚ -゚)「おい、内藤」
( ω )「お?」
川 ゚ー゚)「食え。うまいぞ」
ボーっと空を見上げていた僕。突然のクーの声に顔を向ければ、
彼女は手にした二つの黄色い物体のうち一つを僕に差し出していた。
( ^ω^)「これは……トウモロコシかお?」
川 ゚ー゚)「ああ。大地に生きろ」
19: 以下、
おまwwwwwwwwwww
21: 以下、
(;^ω^)「はい?」
川 ゚ー゚)「いや、失敬。戯言だ。気にせんでくれ。
   研究所内に種があってな。遊びついでに栽培してみたのさ」
受け取って不思議そうにトウモロコシを眺める僕に笑いかけ、
続けてクーは僕の見ていた反対側の大地を指差す。
そこには赤茶けた大地の中に不自然に浮いた黄緑色の植物群の一画があり、
植えられていたトウモロコシの苗が、単子葉植物特有の直ぐった葉を悠々と風になびかせていた。
川 ゚ー゚)「ほかにも、栽培のしやすいミニトマトなんかも育ててみた。意外にこれが面白くてな」
みずみずしいトウモロコシの粒を噛みながら、クーの言葉に反応して辺りをもう一度見渡してみる。
なるほど、ところどころに小さな菜園のようなものが周囲に浮いて点在している。
しかし彼女はこんなことをやって、いったい何をしたいのだろうか?
22: 以下、
支援
24: 以下、
川 ゚ー゚)「ん? 何ってお前、食うものが無ければ生きていけんだろうが。違うか?」
(;^ω^)「いや、それはそうだけど……」
仮にも僕たちは、二千年前の人々の
――ツンの願いを込められて、時間を越えてこの大地に立っているのだ。
それなのに農業なんて地味なことをやっていていいのかと、
もっと他にすべきことがあるのではないかと、僕はクーに問いかけた。
川 ゚ー゚)「確かにその気持ちはわからんでもない。だがな、植物の生育だって大切なことだぞ?
   植物が生育するからこそ土壌が生きていると確認できるし、植物が腐り落ちればそれがまた土壌を豊かにする。
   この世界をかつての世界のように繁栄させたいと願うならば、これこそが原点たりえるとは思わんか?」
( ^ω^)「……まあ、確かにそうだお」
川 ゚ー゚)「だろう? それにな、内藤。私たちの置かれた状況を考えてみろ」
そう言ってクーは僕の肩に右手を置くと、
トウモロコシを握った左手を赤茶けた地平線に沿うようにスッとなぞっていく。
28: 以下、
川 ゚ー゚)「車もない。設備もない。おおよそ近代的なものはほとんどない。
   あるものといえば、地下施設に残された冷凍カプセルの電力を供給するためだけの発電機と演算装置、
   橋の架け方、家の建て方、鉄の精製法や植物の育て方、コンピュータなど機械の設計図を記した書物。
   あとはお前の発明した暑さも寒さも防げるこの超繊維のマント、
   一粒で空腹を満たせる食料の試作品、ほかには拳銃とその弾くらいなものだ。
   人がいない。住居がない。町がない。食物の供給手段がない。
   文明の根底たるものがまったく存在しないこの世界では、どんな高次の技術も実現する術はない。
   宝の持ち腐れだよ」
悟りきったかのごとく訥々と語るクー。
風に舞った砂埃が、まるで彼女の言葉のようにさらさらと彼方へ流れていく。
ふと視線を戻せば、クーの腰辺りに不自然な膨らみを見つけた。
衣服に包まれているので定かではないが、おそらく銃だろう。
何のために身に着けているのだろうか。襲い掛かってくるかもしれない獣から身を守るため?
しかし彼女は、先ほどこの近辺に人はおろか獣の姿さえ見えないと言っていた。それなのになぜ?
そして彼女は僕を見る。
一見すると世捨て人の表情にも感じられる彼女の顔は、けれども。
29: 以下、
川 ゚ー゚)「内藤。たとえ天才だとしても、私たちに出来ることなんてほとんど無いんだよ。
  出来ることといえば、原始的に作物や子を育て、人類を一から繁栄させること。
  もしくは、あるかもしれない文明が一歩一歩順を追って発展していくよう手助けをする。
  それくらいさ」
言葉とは裏腹に、僕の傍らに立ち語り続ける彼女の目は、
「私はこの状況を待ち望んでいた」と、そう語っているように思えてならなかった。
30: 以下、
支援
31: 以下、
確かに支援
33: 以下、
― 2 ―
何をすればいいのかわからなかった。
地下ではなく地上に住居を作る。作物を育てる。
生き残っているかもしれない人々や集落を探す。
するべきことはたくさん挙げられた。けれども、有りすぎるからこそ何も手をつけられなかった。
僕の周りには何も無くて、あるのは現在の世界から浮いたかつての文明の残りカスだけ。
数十基の冷凍カプセルが墓のように陳列する地下の施設で、僕は一週間近くぼんやりとしているだけだった。
川 ゚ -゚)「内藤。こんなところにこもっていても何も始まらんぞ?」
日が沈んだ頃になって
――といっても僕は地下施設から外に出なかったため、あくまでこれはコンピュータの表示する時計からの判断だが
――農作業を終えたらしいクーが地上から降りてきて僕を諭す。
超繊維の布切れをはるか昔のローマ人のように袈裟型に着込んだ彼女は、
すっかりこの世界の生活にも慣れたようで、施設内のシャワーで泥の付いた体を洗い流したあと、僕に語る。
34: 以下、
川 ゚ -゚)「確かに、私も独り目覚めたときは似たような状態に陥った。
   しかしな、それじゃ何も始まらんのだよ。どんな地味なことでもいい。小さな一歩で十分だ。
   何か行動せんと、ツンやかつての世界のみなに申し訳がたたんとは思わんか?」
まったくもって正論だ。語るクーの顔が二千年前より老けて見えるほどに。
しかし正論だからこそ、僕は反発して彼女の言葉に耳を貸さなかった。
ぼんやりとしていたこの一週間で唯一考えていたことといえば、ツンのことだけ。
彼女は何をもって僕を二千年後まで生き延びさせたのだろうと、そればかりを僕は考え続けていた。
36: 以下、
ツンは言っていた。
僕たちが生き延びれば人類は再興できる。
そして彼女が生きた証が二千年後まで残る気がする、と。
けれど、それに何の意味があるのだろう? 
人間は死んだら忘れ去られる。それだけだ。
史実に名が残る人間はほんの一握りで、そんな彼らの多くは幸せな生を生きておらず、
むしろ死んで評価が上がったり、生前より美化されて語られたりする者たちの方が多い。
結局名も残さずに死んでいった者たちのほうが実は幸せで、
幸せだからこそ名が残らなかったと考えることさえできる。
僕もそうだ。稀代の天才として名を残した僕の生は、密かに思いを寄せていた人を失って二千年後を生きるというもの。
そこにかつての平凡な幸せは無く、予想されるのは文明のかけらもない大地を生きねばならないという困難な人生だけ。
冷凍睡眠から目覚めて現実に直面してみれば、あの時ツンのあとを追って死んでいた方が幸せだと思えた。
「なぜあの時君は、僕も一緒に死んでくれと言ってくれなかったんだい?」
そんな恨み言さえ頭に浮かんでくる。
39: 以下、
施設に備え付けられていた倉庫から一丁の拳銃を取り出した。
適当に的を置き、離れたところから照準を合わせて撃ってみる。
パンと差し金が薬きょうを撃つ音がこだまして、的の真ん中に小さな丸い穴が開いた。
( ω )「ツン。僕の銃の腕はここまで上がったお」
君にこれを見せたかった。
あのときのような屈託のない笑顔で「すごい」と褒めて貰いたかった。
そのためだけに銃の腕を磨いてきたのに、君はもう、ここにはいない。
( ;ω;)「ツン……僕は何をすればいいんだお……」
暗い倉庫の床に膝を付いた。右手に握った銃がとても重くて。
その重みにひきずられるように床へうつぶせに倒れこみ、気が付けば僕は眠ってしまっていた。
40: 以下、
翌日、僕は施設を出て地上へと上がった。
理由は特にない。考えることに疲れ果ててなんとなく足が向いた、それだけだ。
重い正方形の扉をこじ開けて外に出れば、
時刻は昼らしく、南中した太陽がさんさんと赤い大地を照らしていた。
ブロッコリーを巨大化させたような丈の低い広葉樹の幹に背を預け、木陰でぼんやりとした。
風の吹く音に混じって鳥のさえずりが小さく耳に響いてきた。
耳を澄ませば虫のものらしき羽音も聞こえてくる。
( ^ω^)「……生き物がいるのかお」
素直に驚いた。
荒れ果てた赤い大地を前に気づかなかったが、しかしよくよく考えてみればあり得ることだった。
少ないながら植物が生育している。クーが農作物を育てている。
それは大地が生きている証拠であり、そこに生き物が生息していてもなんらおかしくはない。
かつて人間が汚した世界は、ゆっくりではあるものの二千年後の今確実に戻りつつあるのだ。
41: 以下、
支援
42: 以下、
川 ゚ー゚)「ようやく出てきたか」
気が付けば隣にクーがいた。
彼女はいつも、気配を感じさせること無くいつの間にかそばに立っている。
長い黒髪の美しい彼女は、確か東洋の島国の出身だった。
もしかしたらニンジャとかいう一族の末裔なのかもしれない。
僕の冗談を裏付けるように、
超繊維の布をまとって木製の農具を手にした彼女の姿は不思議なまでにさまになっていた。
知らず見惚れていたらしい僕に笑いかけると、彼女は木製の農具を差し出して僕に言う。
川 ゚ー゚)「どうだ、やってみんか? 
  頭脳労働一筋だったお前には抵抗があるかもしれんが、
  やってみるととてもいいものだぞ? 気分も晴れるしな」
44: 以下、
川 ゚ー゚)「どうだ? 農作業もなかなか気持ちのいいものだろう?」
( ^ω^)「……お」
手渡された木製の鍬を握り、袖で汗をぬぐう。
外気温は二十度弱といったところだろうか。日差しがあるためさらに熱く感じられる。
しかしまとった超繊維は発汗性にも優れており、ファッション性を除けばとても機能的なものとなっている。
それも手伝ってか、初めての農作業にいそしんでいた僕は、暑さを差し引いてもすこぶる気分が良かった。
46: 以下、
川 ゚ー゚)「こうやって体を動かせば土がこなれる。いずれはここに農作物が育つ。
  一つ一つの作業は小さな一歩に過ぎないが、積み重なれば大きな前進となるんだ。
  頭の中でグダグダ考えるより、よほど素晴らしいことだとは思わんか?」
( ^ω^)「お。その通りだお」
川 ゚ー゚)「だろう?」
赤土を頬につけたクーが満足げに笑う。
もともと感情を表に出すことが少なかったクー。
しかし二千年後の今、僕は彼女の笑顔ばかりを見ている気がする。
彼女にはよほどこの生活が水に合っているのだろうか?
辺りを見渡せば、赤い大地には十個近くの農作物の区画が点在している。
それらはすべて彼女が一人で作ったのだろう。僕が手にしている木製の農具も。
いったい彼女は、目覚めてどのくらいになるのだろうか?
48: 以下、
川 ゚ー゚)「たいした時間じゃないよ。
  それにこのくらい、他にすることが無いのだから短期間で作れる。
  農業のいろはを記した書物も施設内にいくつか残されていたしな」
( ^ω^)「じゃあ、この水はどこから調達してきたんだお?」
僕は地面に座り込むと、傍らに置かれた木製の桶と、そこに満たされた透明な水を指差して尋ねる。
川 ゚ー゚)「ここからしばらく歩いたところに河が流れていてな。そこから汲んできた」
( ^ω^)「河が流れているのかお?」
川 ゚ー゚)「ああ。あまり大きくは無い。が、深いから向こう岸に渡ったことはない。
  赤い大地に流れる河だからレッドリバーなんて呼んだりしている。
  飲んでも大丈夫だぞ。私は一度も腹を下したことが無いからな」
ちょうどのどがカラカラだったので、手ですくって飲んでみた。
水は冷たくて、喉を優しくなでるように通っていく。あまりの美味さに、僕は夢中で口に含んだ。
49: 以下、
支援
50: 以下、
川 ゚ー゚)「あと、定期的に雨が降る。不純物など何も無い綺麗な雨だ。
  かつての酸性雨など微塵も感じさせない。文明や人が存在しないだけで、
  むしろここは楽園と呼ぶべき住みやすさを私たちに保証してくれている」
またクーは僕に笑いかけた。
それから僕の隣に腰を下ろして、桶の水をそっと手ですくう。
そのまま水の満たされた手を顔へと近づけ、泥の付いた頬を洗う。
無駄のない手馴れた手つき。
それを不審に思うことなく、滑らかな彼女のしぐさを僕は純粋に優雅だとさえ感じてしまった。
顔に水滴を滴らせたまま、クーは僕へと振り向いて笑う。
51: 以下、
川 ゚ー゚)「内藤。お願いがあるのだが」
( ^ω^)「お?」
川 ゚ー゚)「家を作らないか? さすがに女手ひとつでは地上に住居は作れなくてな。
  寝るのは毎日地下施設内。正直、毎日地上と地下を往復するのは疲れるんだ」
( ^ω^)「お。そのくらい構わないお。でも、みんなが起きてからのほうがいいんじゃないかお?」
川 ゚ー゚)「どうやら冷凍睡眠から起きる時刻には個人差があるようでな。
  いつ誰が起きるのか予想が付かんのだ。
  それまで待つのはしんどいし、それに善は急げというだろう? 
  住居を作ったところで損になることはあるまい?」
( ^ω^)「……それもそうだお。じゃあ、明日から作ることにするかお」
52: 以下、
川 ゚ー゚)「ふふふ。そうだな。
  ああ、とても楽しみだ。何だか童心にかえったような気分だ」
( ^ω^)「……」
不思議だった。
わずか半日体を動かし自然とふれあっただけで、沈んでいた僕の気持ちはここまで浮き上がっていた。
そしてそれ以上に、かつての無愛想さなど微塵も感じさせない笑顔を見せ続けるクーの変化が、僕には不思議だった。
でもそんな不思議さも、彼女の笑顔を見ればすぐに霧散した。
疑問も、あれほど地下施設内で悩んでいたことも、何もかもがどうでもよく思えていた。
とりあえず、今は生活の基盤を確保しよう。考えるのはそれからでいい。
これまでに無いくらいに楽観的で前向きな自分がそこにはいた。
そして隣には笑顔を絶やさない、常に僕の傍らを歩いてきた彼女がいた。
55: 以下、
― 3 ―
僕が目覚めてから三ヶ月ほどが経過した。
その間、冷凍睡眠から誰も目覚めなかった。
しかし僕はそれを疑問に思うことなく、充実した日々の生活にただただ流され続けていた。
この三ヶ月で家を作った。それは家と呼ぶにはあまりにも粗末な、
子どもが秘密基地だといって喜ぶ程度の造りだったけど、僕とクーの家に間違いは無かった。
朝日とともに目覚め、河に水を汲みに行き、午前中は農作業にいそしみ、
気温の上がる午後には木陰に腰掛け、超繊維の布のストックを使って服や袋、タオルなどを作る。
日が沈む頃には心地よい疲労感に包まれていて、食事を取ったら間もなく眠りの底に落ちる。
それはかつての生活に比べれば地味以外の何物でもなかったけれど、
かつての生活では決して得ることの出来なかった充足感に満たされていた。
自然と一体化して日々を過ごし、だからこそ生きていることを実感できる、そんな充足感。
56: 以下、
かなりの大作っつか長さに成りそうなんだよな支援
57: 以下、
それでも俺は読むぞ支援
58: 以下、
( ^ω^)「心地いいお」
川 ゚ー゚)「ああ。そうだな」
南中する太陽を見上げ、手作りの超繊維タオルで汗を拭きながら呟いた言葉に、
嘘偽りはまったくといってなかった。
横に立つクーも同じようで、二千年前の彼女なら考えられないような微笑を終始顔に浮かべている。
白状すると、このときすでに僕はクーに惹かれていた。素敵な女性だと胸の内で想っていた。
それは僕の周りにはクーしかいないからとかそういう理由ではなくて、
これまで出会った女性と比較して純粋に魅力的だと感じていたのだ。
けれど僕の中でそれを口に出すことはどうにもはばかられていた。
例えば夜、二人で地上の住居で眠りに付いたとき、
僕は隣で眠る彼女を思い切り抱きしめたいという衝動に何度も駆られた。
健康な若い男女
――といっても僕たちの肉体年齢はすでに二十代後半だったが
――が一つ屋根の下にいれば当然のことだろう。
しかしいざ抱きしめようとすると、頭の片隅に決まってツンの顔が現れるのだ。
そのたびに僕は思う。
59: 以下、
( ^ω^)「……ツンを忘れられないままでクーを抱くわけにはいかないお」
思春期か! そう突っ込まれても反論出来ないほどにウブで幼稚な考え方。
けれども実際の思春期を勉学と研究一筋に過ごしてきた僕にとっては、
二千年後のこのときがまさしく遅まきの思春期だった。
だから僕は自分の考えに何の疑問も抱いていなくて、それを正しいことだと信じきっていた。
そして共に過ごすクーの笑顔の裏には、醜いものなど何も存在しないのだと信じていた。信じていたのだ。
しかし、僕は気づいてしまう。
女の恐ろしさに。
――いや、人間誰しもが持ちうるであろう恐ろしさに。
60: 以下、
しえを
61: 以下、
wktk
63: 以下、
その日、僕は深夜に目が覚めた。
むくりと寝床から起き上がって、隣にはクーがいて、
僕はいつものように彼女を抱きたい衝動に駆られる。
それをなんとか冷静と情熱の間に押しのけて、彼女を起こさないよう静かに家屋から外へ出た。
赤い大地がほとんどの、植物の姿があまり見えないこの世界では、季節の移ろいを視覚では認識しづらかったが、
肌寒い風の匂いと夜空の隅に浮かぶオリオン座の輝きが、季節が秋から冬に向かっているのだと僕に教えてくれていた。
( ^ω^)「よっこらセックス」
眠れそうに無かったので、大地のど真ん中に寝そべって夜空を眺めることにした。
二千年前とは比較にならないほど無数の星々が輝く夜空は、筆舌しがたいほどに明るく美しい。
( ^ω^)「ツン、この空を君にも見せたかったお」
そう呟ける自分が、少しうれしかった。 
64: 以下、
支援
65: 以下、
「見せたかった」 
こんな風にツンに対して過去形の言葉を紡げるということは、
少なくとも以前よりは彼女の面影を思い出の向こう側へと押しのけることが出来ているのだろうから。
もう少しでクーに想いを伝える資格が得られる。
自己満足に夜空へと微笑んで、なんとなく北極星を探してみた。
北斗七星のひしゃくの先端と先端からふたつ目の位置にあるドゥーベとメラク。
メラクからドゥーベまでの距離を五倍すると、そこが北極星――ポラリスの位置になる。
見つけ出した僕は、それから飽きることなくポラリスを眺め続けた。
ポラリスの位置は何時間経っても変わることなくそこにあった。
――そう。そこにあったのだ。
68: 以下、
やがて、うとうとしてきた。
意識がゆるりと緩んでいって、眠りが僕の前に姿を現す。
そのとき、僕の脳の片隅にしまいこまれていた知識のふたが気まぐれに開いた。
思えばこの気まぐれが、僕のこれからを大きく左右することになった。
もちろんこの時の僕はそれに気づくわけがない。
ただバッと飛び起きて、もう一度ポラリスを確認して、驚くことしか出来なかった。
70: 以下、
(; ゚ω゚)「おかしいお……そんなのあり得ないお!」
夜空に向かって叫んだ僕は、それからクーの眠っている家屋へと走った。
扉を開ければ彼女はすやすやと眠っていて、
まだそれを疑惑程度にしか認識していなかった僕には、結局彼女を起こすことは出来なかった。
代わり懐中電灯を手に取ると、一目散に地下施設へと走った。
眠気はとうに消えていた。
71: 以下、
しえん
72: 以下、
そういうことか
2000年経ってたら北極星の位置ずれるな
73: 以下、
何度も通った地下への階段を下り、施設のメインルーム、
冷凍睡眠装置の設置室へと飛び込んだ僕はすぐさまコンピュータにかじりついた。
コンピュータが示す「今」は間違いなく「今」のまま。
しかし、理論上それはあり得ないことなのだ。
それから時間を忘れてコンピュータ内部を調べまくった僕。
眠っていた天才の才覚がようやく目覚めだしていた。
頭が冴え、手が自動的に動き始める。
そして完全に時間の感覚を失った頃になってようやく、僕はその痕跡を見つけ出した。
75: 以下、
(; ゚ω゚)「ふざけるなお……これはいったいどういうことだお!」
正しい『今』を認識したコンピュータが映し出した数字。
三○四五
倉庫から拳銃を取り出して握り締めると、僕は地上へと駆け出した。
4: 以下、
― 4 ―
( ω )「さて、答えてもらうお」
川  - )「何をかな? とりあえず銃はしまってくれ。物騒なことこの上ない」
地上に上がれば、すでに空は真っ赤に染まっていた。
どうやら僕は半日以上も地下施設にこもっていたらしい。
空も大地も、何もかもが血のように赤い世界。
その上にたたずんでいたクーに銃を突きつけて、僕は言う。
( ω )「お前にそれを言う資格は無いお。
  知ってるお。お前がいつも服の下に銃を忍ばせていることくらい」
川  - )「……やれやれ。大した観察力だな」
首を左右に振りつつ衣服の下から銃を取り出したクーは、
両手を上にあげて、握っていた銃をぽとりと地面に落とした。
カチャリと、黒鉄が赤土と衝突して音を立てた。
それを確認した僕は親指で差し金を引き、銃口を彼女に向けて尋ねた。
6: 以下、
wktk支援
7: 以下、
支援
8: 以下、
( ω )「なぜ、僕たちは『今』にいる?」
川  - )「『今』? なんのことかな? 言いたいことがさっぱり見えんが?」
(  ゚ω゚)「とぼけるなお! 二千年後に目覚めるはずだった僕たちが、
  なぜ『今』……三○四五年の世界にいるんだお!!」
知らず震えた僕の怒鳴り声にクーはたじろぎもしなかった。
西日を背にした彼女の顔は、姿は黒に染まっていて、表情をまったく判別できない。
ただ欠片も動揺していないらしいことだけは、彼女の声色から察しがついた。
9: 以下、
川  - )「勘違いじゃないか? 『今』は四○四五年。
  紛れも無い二千年後の世界だぞ? 施設内のコンピュータもそう表示していただろう?」
(   ω )「そうだお。おかげでまんまと騙されていたお。
  あまりにも巧妙な手口だったから、改ざんの痕跡を探し出すのに天才の僕でも丸一日かかったお。
  だけどさすがのお前も、『星』を改ざんすることまでは出来なかったみたいだお」
川  - )「……星? 申し訳ないが、星については専門外でね。詳しく聞かせてもらえんか?」
(  ω )「構わんお。尻の穴かっぽじってよーく聞けお」
影のような姿のクーが顔を空に向けた。茜色の空には未だ星はひとつも出ていない。
10: 以下、
この急展開にwktk
13: 以下、
待ってたぜ!wktk
14: 以下、
(  ω )「昨日、北極星を見ていて気づいたんだお。
  この空では、北極星はほとんど動かず北極星たりえていたお」
川  - )「当たり前だろう? 
  地軸の延長線上にあるから北極星は動かず、だからこそ北極星と呼ばれているのだ。
  そのくらい星に造詣の深くない私ですら知っている。常識中の常識だ」
(  ω )「ところがどっこい。違うんだお。
  今が仮に二千年後だとすると、北極星は北極星では無くなっているんだお」
銃の照門と照星を結ぶ直線の延長線上にクーの姿を捉える。
未だ彼女の表情は影となって判別がつかない。僕は続ける。
(  ω )「僕たちが冷凍睡眠に入る前の世界では、ポラリスという星が北極星の役割を担っていたお。
  でも、地球の自転には僅かな揺れがあるお。この影響から北極星は周期的に代わっていくんだお。
  今を二千年後と仮定した場合、北極星はケフィス座のエライになっているはずなんだお。
  だけど昨日見た空ではエライはまだ天球を回っていて、ポラリスは同じ位置にずっとたたずんでいたお」
ジッと見つめて、照準の先にクーを見る。
西日を背負って影絵となっていた彼女は、依然として動かないまま。
18: 以下、
(  ω )「僕も星が専門だったわけじゃないお。かじった程度の知識しかなかったお。
  だけど、『今』を疑うにはそれくらいの根拠で十分だったお。
  一日をかけてコンピュータを調べたお。
  生半可な調査では一切痕跡が見つけられないほど巧妙に改ざんされていて驚いたお。
  星の位置に疑問を持っていなかったら、僕はきっとそこまでしなかった。
  多分僕は、一生騙され続けていただろうお。
  見事だったお。さすがはクーとでも言っておくべきかお?」
川  ー )「……お褒めに預かり光栄だよ。内藤博士」
ようやく動きを見せた影絵は、けれど相変わらず平時の声色で僕に言葉を投げかけるだけ。
僕は引き金を引いた。パンと乾いた音が響いて、弾丸がクーの足元をえぐる。彼女の動きが止まった。
(# ゚ω゚)「ふざけるなお! 今度ふざけたことをぬかしたら脳天に風穴が開くと思えお! 僕は怒っているんだお!」
19: 以下、
支援するしかねえ
21: 以下、
そういや作者、めちゃくちゃ頭良くない?
23: 以下、
ささやかながら支援
25: 以下、
間違いなく僕は怒っていた。
あと一歩で我を忘れるほど、ギリギリの状態で理性を保っていた。
(# ゚ω゚)「二千年後の世界を復興させる。それがツンやみんなの願いだったんだお。
 それなのになぜ僕は千年後にいる? なぜお前は千年後の『今』に立っている!?
 ……もしやと思ってコンピュータの表示を是正したあと、冷凍睡眠装置のタイマーも調べてみたお。
 案の定、彼らが目覚めるのは『今』から千年後だったお。
 そう仕向けたのもお前なのかお? なあ、クー!?」
言葉を声に出せば出すほど怒りがこみ上げてきた。
握り締めた銃がプルプルと震える。
つい一日前まで好意を寄せていた目の前の影絵。
それが今は、どんなものよりも憎らしくてたまらなかった。
27: 以下、
二千年後。
状態がかつての世界まで回復すると見込まれるそのときまで眠り、
託された人類の復興という仕事を他の天才たちと共に遂行する。
それが生き延びる代わりに僕に課せられた使命。
ところが僕は千年後の三〇四五年にいる。
いや、僕たちが眠りについたのは二〇四〇年だから正確には千五年後か。
そんな端数はどうでもいい。
なぜこうなったのか。
なぜ他の天才は眠り続けているのか。
なぜみんなの――ツンの想いとは別の時間に、僕は目覚めているのか。
その答えを知っているのは一人しかいない。
誰よりも先に目覚め、僕が目を覚ましたとき目の前で泣いていた人物。
(  ゚ω゚)「クー。お前しかいないんだお」
引き金をギリギリまで絞った。
――そして、僕は震えた。
32: 以下、
なぜ僕の方が震えたのか。答えは簡単だ。
銃口の先のクーが、影絵同然で表情の判別が付かないはずのクーが、
それでも笑っていると確かに感じられたからだ。
銃を向けている僕の方が動揺する。
それほどまでに、彼女の雰囲気の変化はうすら寒いものだった。
クーはすっと右足を前に出して、ゆっくりと僕に近づいてくる。
西日を背負った彼女の表情が、徐々にわかるようになる。
川 ゚ー゚)「ご名答。すべては私がしたことだ。
 千年という数字は、単に縁起を担いで決めただけ。
 ほら、かつて十七世紀にはやった終末論の一派に千年王国論というものがあっただろう?
 あれをモチーフにしただけさ。
 それに千年も経てば、生きるに支障の無い状態に世界が戻っていると思っていた。
 事実、千年後の『今』は生きるになんら支障は無い。むしろ心地よさすら感じる。
 さしずめ今は、千年王国論で言う千年後の神の国といったところかな?」
(; ゚ω゚)「ち、近づくなお! 止まれお!!」
川 ゚ー゚)「どうして私とお前が千年後に目覚めたか。理由は簡単さ。
 私はな、お前と二人っきりになりたかったんだよ。内藤ホライゾン」
34: 以下、
(; ゚ω゚)「来るな……来るなお!!」
思わず引き金を絞っていた。
再びパンと音が鳴って、表情が見え始めていたクーの頬を銃弾がかすめていく。
それでも彼女はひるむことなく、この世界の大地同じように赤い血を頬から滴らせながら、
妖艶な笑みでこちらへと近づいてくる。
川 ゚ー゚)「内藤。私はお前が好きだった。ずっとずっと、好きだったんだよ」
(; ゚ω゚)「な、何を言ってるんだお! 僕の質問に答えるんだお!」
川 ゚ー゚)「答えているさ。一言一句漏らさず、はっきりとな」
目の前まで歩んできたクーは、動揺する僕の手から銃を奪い取った。
それからもう片方の手で僕の右手をつかむと、それを彼女の左胸へと押しやる。
38: 以下、
これが文才というやつか
マジうまいな
40: 以下、
川 ゚ー゚)「内藤。私は女だ。わかるだろう?」
超繊維の生地の上からもわかるほどに柔らかい乳房の感触。
その下に、わずかな胸の鼓動も感じ取れる。
見たことが無いほど艶かしい笑みを浮かべたクーは、
顔には表さないものの、僕と同じように動揺しているようだ。
川 ゚ー゚)「ずっと好きだった。けれどもお前は私など見向きもしなかった。
  しかし、私はそれで良かった。ずっとお前の傍らにい続け、共に研究していられれば十分だった。
  お前がツンに想いを寄せていても一向に構わなかった。
  だってそうだろう? 私とお前の間には、ツンとの間にはないたくさんの子どもたちがいたのだから」
(; ゚ω゚)「……子ども? な、何を言ってるんだお!?」
川 ゚ー゚)「わからないのか? 今お前が触れているだろう?
  私が手助けし、お前が作りだしたこの超繊維だよ」
43: 以下、
女は怖いな支援
45: 以下、
>>43
ある意味必然だよ
44: 以下、
その一言で、クーの乳房ではなく超繊維の硬い生地の感触が僕の手のひらを支配する。
僕はあわててクーの乳房から手を引いた。それからバッと飛びのいて彼女との距離を作る。
クーは少し残念そうに僕を見たあと、再び笑みを浮かべて続けた。
川 ゚ー゚)「他にもたくさんある。
  一粒で腹の満たされる食料。冷凍睡眠装置。新エネルギーシステム稼動基地。
  みんなみんな、私が手伝いお前が作り上げたものだ。
  紛れも無い、私と大切なお前の子どもたちだ」
(; ゚ω゚)「ま、まさか……」
彼女の言葉にハッと気づいて、僕は何も持っていない右手を彼女に向けた。
だが銃が彼女に奪われていたことを思い出して舌打ちし、奪い返そうと無我夢中で駆け出した。
しかし足を絡ませたらしく、僕は彼女を押し倒す形で地面へとうつむけに倒れてしまう。
反射的に起き上がろうとした。
けれどそれは適わず、代わりに僕の手を握った、
僕に覆いかぶさられる形で仰向けに倒れたクーの言葉が、至近距離から僕へと迫る。
川 ゚ー゚)「ああ、そのとおりだ。
  新エネルギーシステム理論を某国に流出させたのは他でもない。この私だ」
47: 以下、
(# ゚ω゚)「ふざけるなお!!」
無理やり彼女の手を振り払い殴りかかかろうとした僕の右腕。
しかし、それは止まる。
こめかみに押し付けられた銃口の無機質な冷たさに、僕は微動だに出来なくなる。
川 ゚ー゚)「まあ聞け。内藤」
(; ゚ω゚)「……」
冷たい。押し付けられた固い銃口が。
怖い。至近距離から見つめてくるクーの瞳が。
川 ゚ー゚)「お前と私が苦心して構築した新エネルギーシステム理論。
  さながら腹を痛めて生み出した我が子だよ。
  それを現物として見たい願う親心くらい、同じ研究者のお前なら理解できるだろう?
  幸い、研究所の監視システムは凡人どもが作ったものだった。
  その目を盗んで情報を流すことくらい、仮にも天才である私には赤子の手をひねるようなものだったよ」
49: 以下、
愛ゆえに人は苦しまねばならんということか…
51: 以下、
支援
52: 以下、
( ω )「……出来ないお。
  世界を崩壊させてまで見たいなんて、そんな狂った考えは理解できないお」
川 ゚ー゚)「おいおい。それは誤解だよ。
  さすがの私も世界を崩壊させようなんて微塵も思わなかったさ。
  単なる過失だよ。世界の崩壊はな。
  それにお前は私が狂っているといったが、それはあの世界の方じゃないのか?」
(# ゚ω゚)「……どういうことだお!」
川 ゚ー゚)「だってそうだろう? 新エネルギーシステム理論という素晴らしいものを、
  こともあろうに戦争の引き金にしてしまったんだぞ?
  自らの利権ばかりを重視し、大局に目を向けられない。
  おまけに世界を自分たちの手で崩壊させてしまった。ああ、なんと愚かだろう。なんと狂っているのだろう」
(# ゚ω゚)「……貴様!!」
川 ゚ー゚)「まあ聞けって。短気は損だぞ?」
こめかみに当てられていた銃がカチャリと声を鳴らした。
引き金が僅かに絞られたらしい。
また僕は動けなくなる。
まるで「いい子だ」と言わんばかりに、クーは三日月形に目を細める。
56: 以下、
川 ゚ー゚)「そんなときだ。ツンが現れたのは。お前をたらし込んだ憎らしい女。
  しかしあいつは素晴らしい情報を私たちにもたらしてくれた。冷凍睡眠の話だよ」
(; ゚ω゚)「……」
川 ゚ー゚)「あの車の中で、私はすぐに妙案を思いついたよ。
  ずっと手に入れられないと諦めていたお前が、私のものになる素晴らしいアイデアをな。
  それが、『今』だ」
(; ゚ω゚)「……」
川 ゚ー゚)「冷凍睡眠装置に細工をして、お前と私だけを千年後に目覚めさせる。
  天才であり生みの親でもある私には簡単なことさ。実際、その細工はすぐに終わったがな。
  そうすれば嫌がおうにも私とお前は二人っきり。あとはお前と結ばれるだけ。
  私が思いついた生涯最高の理論だ。そう思わないか?」
58: 以下、
狂ってやがる・・・っ
61: 以下、
まあ、、、、、当然の心理展開か
63: 以下、
僕の体に覆いつくされたまま地面を背にして、クーは僕の顔を見上げ、笑う。
見覚えのある笑顔。そう、確かあの時。
理論の流出とその対処のための会議の後に見せた、不覚にも美しいと感じてしまったあの時の笑顔。
そして今も僕は、それを美しいと感じてしまっている。
理性が否定しているのに本能が肯定している。そんな感じだ。
苦し紛れに僕は言う。
(; ゚ω゚)「……くだらない理論だお」
川 ゚ー゚)「くだらない? 何を言ってるんだ? 現にお前は私に惹かれていたではないか。
  知っているぞ? 毎夜、お前が私を抱こうと煩悶していたことをな。
  いったい何を迷っていたんだか。いつでも私はお前に抱かれる準備は出来ていたのに。
  そして……今もな」
こめかみの冷たい感触が消え、代わりに僕の首元に暖かい何かが触れた。
クーが銃を離し、両手を僕の首根っこに回したのだ。
そのまま彼女は僕の顔を引き寄せていく。
なぜか僕は逆らえず、引き寄せられた僕の頬が彼女の頬に強く触れた。
熱い。理性が崩れそうだ。
64: 以下、
支援
65: 以下、
川 ゚ー゚)「さあ、私を抱け、内藤。
  恥ずかしくなどないさ。ここには私とお前以外にいないのだから。
  どんなことをしてもいい。私はお前のすべてを受け入れる。
  だから情熱の赴くままに私を抱け。内藤」
僕の名を呼ぶ、耳元でささやかれる甘い声。
抱きしめてくる熱く柔らかい体。
体が芯から溶けてしまいそうな錯覚に陥る。
地面についていた両腕が無意識に彼女の体へと動いていく。
彼女の腕が首元から解かれた。
代わりに、その腕が僕の下半身へと向かう。甘美な吐息が耳をかすめる。
川  ー )「……さあ、内藤」
それはこれまで一度も女性経験のなかった僕には、逆らえるはずのない強烈な誘惑だった。
理性が言うことを聞かず、意識が混濁する。
本能が主導権を握り、抱いてしまえと僕にささやく。
もうダメだと、両腕に力を込めてクーを抱こうとした。そのときだった。
68: 以下、
ξ゚ー゚)ξ「バイバイ。内藤」
あの時の、今と同じように混濁した意識の中で耳にしたツンの声が頭の中に響いて、
あの時の、去り際のツンの寂しそうな笑顔が僕の目の前を覆い尽くした。
それはきっと、ここでクーを抱いてしまえば一生ツンに顔向けできない、彼女の願いを叶えられない、
千年の眠りの中で脳に本能として焼きついてしまった、そんな想いが生じさせた幻覚に過ぎなかったのだろう。
けれど、目覚めるにはそれで十分だった。
そしてツンの面影は消え、代わりにクーの吐息が僕の耳を撫ぜる。
その吐息がいつかと同じように、僕にこう語っていた。
「私はこの状況を待ち望んでいた」
僕は跳ね起きると、仰向けに横たわるクーと距離を取り、叫んだ。
70: 以下、
(# ゚ω゚)「ふざけるなお! 
  ツンの想いを踏みにじったお前の思い通りになってたまるかお!」
気がつけば、真っ赤に染まっていた空はどす黒い色に姿を変えはじめていた。
沈んだ太陽の代わりに昇った月が僕たちを静かに照らしている。
沈黙。
クーは仰向けに寝転がったまま、星の出始めていた夜空をジッと眺めているだけ。
僕も冷静さを取り戻すため、荒れていた息を必死に整えていた。
72: 以下、
川  - )「それは、変わることはないのか?」
ようやく息が整ったころになって聞こえてきたクーの声。
それは本当に小さな声だったけれど、気味が悪いくらいにはっきりと聞こえた。
(; ゚ω゚)「……何がだお」
川  - )「お前が私を好きにならないというのは、決して変わることはないのか?」
(# ゚ω゚)「……当たり前だお」
川  - )「それは、あの女に縛られているからなのか? ツンを忘れられないからなのか?」
(; ゚ω゚)「……お前に話す必要はないお」
川  - )「ああ、そうか。千年経っても……私はあいつには勝てなかったのか……」
73: 以下、
ドキドキクマクマ
74: 以下、
支援
75: 以下、
川 ゚∀゚)「ははは……あははははははははははは! ひひ……ひゃははははははははははは!」
76: 以下、
しえ…
77: 以下、
ぎゃー
78: 以下、
愛故に人を殺すのかはたまた自分が死ぬのか
79: 以下、
支援
81: 以下、
何が起こったのかわからなかった。
すっかり暗くなった世界に、狂ったようなクーの笑い声が響いたからだ。
いや、狂ったようなではない。このときすでに、クーは狂っていた。
彼女はゆらりと起き上がると、地面に転がっていた銃を拾い上げ、
こともあろうにそれを自分のこめかみに押し付けて、叫んだ。
川 ゚∀゚)「五年……お前は五年の孤独を考えたことがあるか!?」
(;゚ω゚)「な、何を……」
川 ゚∀゚)「五年! 実に長かったよ! 孤独にすごした五年間は気が狂いそうなほどに長かった!」
叫ぶ彼女は先ほどまでの笑みとはまったく異なった、まるでピエロのような笑みを浮かべていた。
「私は道化師だ」と、声に出すことはなかったが、彼女の表情は確かにそう言っていた。
86: 以下、
川 ゚∀゚)「私は確かに千年後貴様が目覚めるよう細工した!
  それなのになぜか貴様は目覚めず、タイマーを見ればあと五年眠り続けるようになっていた!」
(; ゚ω゚)「……五年!? まさかお前、五年も前に目覚めていたのかお!?」
川 ゚∀゚)「ああ! そうさ!!」
驚いた。そんな表現が陳腐に感じてしまうほどに僕は驚いていた。
そしてその事実を聞いた今となってようやく、彼女の顔がかつてより老いていることに僕は気がついた。
いつだったか、地下にこもり悩んでいた僕。諭してきた彼女の顔を、僕は老けていると感じてしまった。
それは錯覚ではなかったのだ。
川 ゚∀゚)「まさか本当に気づかなかったのか!? 天才の名が聞いてあきれるな!
  何の経験もない私が、一朝一夕でこれほどの作物を育てられるわけがなかろうが!
  私はな、試行錯誤を繰り返して、施設内の味気ない食料で空腹を満たして、
  ようやく今に至るまでになったのだ!」
88: 以下、
なんという伏線回収
うまうま
89: 以下、
支援
90: 以下、
それからまたクーは大声で笑う。
己のこめかみに当てた彼女の銃がプルプルと震える。
川 ゚∀゚)「五年……寂しかった! ああ寂しかったさ!
  一日は長く、夜の闇は自分が消えていくと錯覚させるほどに恐ろしかった!
  孤独に耐えかねて人の姿を探しにこの地を離れたことも何度もあったさ!
  しかしな、ここには貴様が眠っている! そして五年後に貴様は確実に目覚めるんだ!
  だからこそ私はここに縛られたまま遠くへ行けず、
  誰とも会うことがないままにここへ舞い戻ってきたのさ!」
なるほど。そのときにクーは護身用にと銃を持ち歩いていたのだ。
だからここに定住する今も名残で銃を腰に忍ばせ続けていたのだろう。
どうでもいいことに納得して、僕は彼女に叫ぶ。
(; ゚ω゚)「それなら起こせばよかったんだお! 
  僕でもいい! 誰でもいい! 寂しかったなら起こせば良かっただろうがお!」
川 ゚∀゚)「おいおい、貴様の脳みそはそこまで腐ってしまったのか!?
  起こせるわけなかろうが! 冷凍睡眠装置にそんな機能などはじめから存在しない!
  そのように理論を構築したのはほかならぬ貴様だろうが!」
93: 以下、
wkwk
94: 以下、
支援
96: 以下、
その言葉にハッと気づく。
そうだった。確実に目的の時間まで眠られるように、
誤作動の要因となる途中解除の要素を僕はあえて理論から排除していたのだ。
はじめから存在しない解除機能など、出口のない迷路みたいなものだ。
どんなに奇知を巡らせようと、あるはずもないゴールを見つけ出すことは限りなく不可能に近い。
それが複雑に複雑を極めた冷凍睡眠装置ならなおのこと。
下手にいじくれば眠る人物を永眠させることにもなりかねない。
つまり、クーには逃げ場がなかった。
たとえそれが彼女自身の招いた結果だとしても、五年間の孤独を想像して僕は同情を感じられずにはいられなかった。
哀れみのまなざしを向ける僕の前でクーは、依然として狂った笑みを浮かべたまま、叫び続ける。
102: 以下、
川 ゚∀゚)「あれから五年! 私はひたすらに耐え続けた!
  そして貴様が目覚めたとき、私は涙を流すほど嬉しかったよ!
  これでようやく孤独から開放されると! 貴様と結ばれるときが来たのだと!
  しかしこの様だ! 貴様は私を選ぶことなく、千年も前に死んだ女を思い返すだけ!
  まったくもって傑作だよ! ここまで哀れな人間はどこにもいないだろうな! 
  ひひひ……ひゃはははははははははははははははははははははははは!!」
クーの高笑いが夜に響く。
月明かりに照らされた彼女は存分に狂っていた。
その笑いは僕と彼女、いったいどっちに向けられているのだろうか?
カタカタとゆれる彼女の銃。今の彼女なら撃ちかねないと、近づこうとした僕を彼女が制した。
103: 以下、
川 ゚∀゚)「近寄るな! 寄ればすぐにでも死んでやる!」
(; ゚ω゚)「馬鹿な真似はよすんだお! 銃をおろすんだお!!」
川 ゚∀゚)「馬鹿な真似!? ふざけるな! 私は五年の孤独を味わった!
  しかしな、その孤独にも救いはあった! それが貴様だ! 
  貴様が目覚めるという救いがあったからこそ、私は長すぎる孤独にも耐えてこられたのだ!
  そして今、貴様に拒まれた私に救いなど存在しない!
  今私を襲うのはあの時以上の孤独! それに襲われるくらいなら死んだ方がマシだ!」
(; ゚ω゚)「ま、待つんだお!!」
足が踏み出せないまま、手だけをクーに伸ばした。
引き金をギリギリまで縛った彼女は、それを見てニヤリと笑う。
川 ゚∀゚)「……ならば、最後のチャンスをやろう」
(; ゚ω゚)「なんだお!?」
川 ゚∀゚)「簡単なことさ! 私を好きだと言え! 叫べ! 私と子をなすと誓え! そして私を抱け! 
  それが偽りでも構わない! 私は貴様が口にした言葉だけを信じよう! さあ! 内藤ホライゾン!!」
106: 以下、
こええええええええええええ
109: 以下、
>>それが偽りでも構わない! 私は貴様が口にした言葉だけを信じよう!
こうは言ってても、ブーンがどうやったってもはやクーが報われることはないな
110: 以下、
これは多分今期No.1かな支援
112: 以下、
やべーおもしれー
108: 以下、
(; ゚ω゚)「!!」
叫んだクーの剣幕に、体がグッと押されるのを感じた。
汗がドッと噴出してくる。差し出した右手を戻し、こぶしをギュッと握り締めて考える。
ここでクーが好きだと言ってしまうことは簡単だ。そうすれば彼女は生きるだろう。
けれどもそれを口にしてしまえば、ツンの面影が取り返しのつかないところに消えてしまうような気がした。
僕が僕で無くなってしまうような気がした。
僕の脳にはすでに、ツンの願いを成し遂げなければならないという想いが本能と呼んで差し支えないほどに刻まれていた。
それを否定することは本能を失うと同じこと。本能を失った時点で生き物は生き物でなくなるし、僕は僕でなくなる。
だから僕は何も言えない。自分を失うのは怖いことだから。
そしてそれは、クーの言葉を否定したのと同じことだ。
無言で立ち尽くすだけの僕から、彼女もそれを察しとったのだろう。諦めたような声でつぶやく。
114: 以下、
川 ゚ー゚)「……そうか。もういい」
力なく声を漏らしたクーの顔に、さきほどまでの狂った笑みは存在していなかった。
その代わり、すべてを諦めたような悲しい笑みをこちらに向けている。
ああ、彼女は死ぬつもりなのだ。
確信すると同時に、僕の体が震えた。
得体の知れない恐怖が突然僕を襲ってきて、僕は我知らず叫んでいた。
(; ゚ω゚)「す、好きだお! 僕はお前が好きだお! だから死ぬなお! 頼むから死ぬなお!」
119: 以下、
川 ゚ー゚)「もう遅い。遅いんだよ。
  私はもう生きることに疲れた。そしてお前が嫌いになったんだ。内藤」
虚脱した笑み作ったクーの顔は、哀れんだ視線を僕によこした。
そしていつものような静かな調子で、こう遺す。
川 ゚ー゚)「内藤。後悔するがいい。
  私を失ったお前は、私の感じた以上の孤独に襲われて生き続けるのだ」
そう。それだ。
僕の感じた得体の知れない恐怖とはそれだったのだ。
彼女がここで死んでしまえば、この千年後の世界に僕は独り残されることになる。
顔面が蒼白になっていく僕。
それを見たクーは、最期に憎らしいほどの素敵な笑みを作り、涙を流して吐き捨てた。
川 ;ー;) 「お前は死ねない。あの女の怨念がお前の脳に刻み付けられているからだ。
  死ぬことも出来ず、お前はこの世界に永遠に一人ぼっち。
  人のいない、比べるものの存在しない世界では、天才というお前の自我に何の意味もない。
  何もかも失ったお前は後悔するだろう。『あの時素直に私を抱いていればよかった』とな」
120: 以下、
あの究極生物のカーズですら、考える事を止めるほどだからな。永遠に一人きり、という状況は
123: 以下、
>>120
考えるのを止められない人間は、もっと苦痛だぜ
天才だとなおさらな
121: 以下、
これは面白い
122: 以下、
(; ゚ω゚)「馬鹿! 止めるんだお!」
クーが引き金をわずかに引いたのがはっきりとわかった。
恐ろしいまでにゆっくりと移ろう世界の中で、僕は腰を下ろし、右足に力を込める。
泣き笑いの表情で自分のこめかみに銃を突きつけているクーを止めるため、駆け出そうとする。
川 ;ー;)「ああ、そうだ。最後に教えてやろう」
でも、その足も止まる。
彼女の終わりの言葉に打ちのめされて、僕は動けなくなる。
川 ;ー;)「お前が最後まで想い続けたツン。あいつには恋人がいた」
124: 以下、
最期とかいうなぁぁぁっぁ
125: 以下、
支援
130: 以下、
孤独か…なんか僕の地球を守ってを思い出した
131: 以下、
(; ゚ω゚)「……う、嘘だお! 絶対に嘘だお!」
川 ;ー;)「嘘じゃないさ。私たちと知り合う前からいたそうだ。
  相手は確か……幼馴染と言っていたな」
(; ゚ω゚)「そんな……そんな……」
踏みしめた右足から力が抜けた。
落とした腰が深く沈み、カクンと膝が折れた。
頭の中が真っ白になる。
あのツンに恋人がいた? 
僕の前で楽しそうに笑っていた彼女に? 
自分の存在の証を僕に刻み付けた彼女に? 
人類の未来を僕に託してくれた彼女に?
川 ;ー;)「それともうひとつ。あの女は世界を救いたいと言っていたが、あれは嘘だったはずさ。
  あの女は凡人ながら、それなりに頭が良かった。
  あの状況が絶望的だったことはとうに知っていたはずさ。
  だからきっと、あいつはあのあと恋人の元に帰り、世界の終わりをそいつの腕の中で迎えたに違いない」
( ;ω;)「ちがうお! ……ツンは……そんなこと……」
川 ;ー;)「哀れだな、内藤ホライゾン。
  お前は現実でも独り。思い出の中でも独り。永遠に……独り」
にじむ視界の中。クーは笑ったまま哀れんだ視線を僕によこし、ゆっくりと引き金を引いた。
133: 以下、
乾いた音が夜に響いて。
血と脳しょうが地面に飛び散って。
息絶えた肉塊がガクリとひざを突いて。
月明かりの下、地面に倒れた。
呆然と死体を見下ろしていた僕。
焦点の定まらない視線を夜空に向けて、意味のない言葉をつぶやいた。
( ω )「ああ、今夜は満月なのかお」
137: 以下、
― 5 ―
どのくらいそうしていたのだろう。
いくつかの太陽が昇り、いくつかの月が昇っても僕は、死体の傍らに座り続けていた。
やがて飛び散った脳しょうと鮮血が地面になじみ、死体から腐臭が発せられ、
蛆が湧き出したころになってようやく、僕はフラフラと立ち上がった。
おぼつかない足取りで地下施設へと足を踏み入れ、コンピュータのキーに指を叩きつけた僕。
( ;ω;)「誰か起きてくれお! 一人なんて嫌だお!」
しかし施設内は墓地のように静まり返ったまま。
半狂乱に陥った僕は、最寄りのカプセルにかじりつき拳を打ちつける。
141: 以下、
( ;ω;)「起きてくれお! 頼むから起きてくれお!」
けれどカプセルのふたは開かず、
拳からにじんだ僕の血液がその表面に付着するだけ。
今度は倉庫から銃を持ってきて銃身をカプセルに叩きつける。
最後には弾が切れるまで弾丸を撃ち続けた。
すると、カプセルのふたがパカリと開いた。
僕はその中に眠る人物を抱き起こして、叫ぶ。
( ;ω;)「起きてくれお! 僕を助けてくれお! 僕と一緒にいてくれお!」
しかし抱えた体は凍えるほどに冷たいまま、ついに目覚めることはなかった。
144: 以下、
こえええええ・・・
145: 以下、
ブーン(´・ω・`)カワイソス
146: 以下、
支援
147: 以下、
ボーっと床にへたり込んでいた。
考えることもやめて、屍のように僕はたたずんでいた。
無意識のうちに手が動いて、銃を握り締めて、こめかみに当てて、
気づけば僕は引き金を引いていた。
けれどカチッと情けない音が響いただけで、僕は死なない。
当たり前だ。撃ちつくしていたその銃には、もう弾は入っていないのだから。
その代わり、僕の中の何かが死んだ。
それは多分、天才という名の僕の一部なのだろう。
世界を終わらせる原因を作り、半ば無理やり千年の冷凍睡眠に入らされ、
一人の女にいいように人生を弄ばれて、孤独に狂い、誰かを起こそうと必死にあがいて、
自分が作り出した理論にそれを阻まれた。
結局誰一人、自分さえも救えなかった天才内藤ホライゾンという理性が、きっと今、ここで死んだのだ。
その証拠に今の僕はなんら絶望を感じていない。
何かが欠落したかのように残された意識は軽く、頭の中をめぐる過去の光景はまるで他人ごとのようにしか感じられない。
僕はもう内藤ホライゾンではないのだ。
では、ここにいる僕は誰なんだろう? 
自分が自分では無くなった今、ここに存在している僕は何者なのだ?
そして、頭の中に浮かんでくる。不思議と消えることのなかったあの本能が。あの言葉が。
150: 以下、
「あなたは私たちからの大切な未来への贈り物。どうか無事に届きますように」
そうだ。僕は未来への贈り物。
集配場所は違ったけど、僕は過去の人々の想いを託された大切な贈り物なんだ。
僕にはもう名前なんて無い。けれど、贈り物という存在意義がある。
ならば僕は自分で自分を届けなければならない。
千年後の世界で生きる人々に、僕は僕を届けなければならない。
あの女は言っていた。人に出会わなかったと。
しかし、この世界に人がいないとは限らない。
草木は少なからず茂っており、清らかな河は流れていて、
空は青く澄んでおり、太陽と月は変わらず昇り続けているのだ。
この世界に人がいないはずが無い。
僕が動きさえすれば、いつか必ずどこかで出会える。
突き動かされるようにして立ち上がった。それから倉庫へと向かい、
たくさんの書物やありったけの銃弾、そしてこれからに必要であろうものをかき集める。
それらの荷物を抱え込んで、二度と歩くことの無いだろう地上への階段を、僕はゆっくりとのぼった。
153: 以下、
久方ぶりの日の光は実にまぶしかった。目を細め、しばらく空を眺め続けた。
それからかつて内藤ホライゾンとあの女の過ごした家へと足を踏み入れる。
中にあったのは、つかの間の幸せの中で二人が作った、超繊維の大きな袋。
そこに荷物を詰めるだけ詰め込んで、
同じくかつてここで作った超繊維のマントを頭から被り、戻ることのない家を後にした。
外に出れば、赤い大地のあちこちに農作物たちが青々と生い茂っていた。
主がいなくなることなど露知らず、彼らは今日ものん気に葉を風になびかせている。
その中に僕は見つけ出す。
腐り落ちた彼女の死体を。
162: 以下、
天才内藤ホライゾンを捨てた僕は、その死体にもう何の想いも抱かなくなっていた。
ただ、生前の美しさなど見る影もないほどに腐りきってしまった彼女を哀れだなと思い、
彼女の作った農具で穴を掘り、そこに遺体を埋葬した。
供え物として生っていた農作物を二つ置き、そっと手を合わせる。
二つ置いたのには理由がある。ここはきっと内藤ホライゾンの墓でもあるのだ。
そんな気が、このときの僕にはした。
( ^ω^)「ここで農作業をしていた君たちが、これまでで一番幸せそうだった気がするお。
  あとのことは僕に任せて、あっちでのんびり農作業にでもいそしむといいお」
163: 以下、
支援
164: 以下、
ふと視線を動かせば、赤土の上に拳銃が一丁転がっていた。
彼女が自ら命を絶ったときに使った、あの拳銃だ。
( ^ω^)「これは貰っていくお」
これから未開の地を歩くための護身用なのか。
それとも、消えていった内藤ホライゾンの残りカスが未練がましくそうさせたのか。
いや、理由なんてないのだろう。多分、なんとなくだ。
呟いて立ち上がった僕は、二度と後ろを振り返ることなく歩き出した。
174: 以下、
( ^ω^)「さて、これからどこに行くかお?」
風の吹くまま、気の向くまま。
風の行方に身を任せ、贈り物である僕は届け先を探す。
サラリと、マントが風に揺らいだ。その裾は西を指している。
( ^ω^)「西……河の上流かお」
ちょうどいい。人が住んでいるとしたら河の近くの方が可能性は高いし、
何より僕が水に困らなくてすむ。
食料も、かつての天才内藤ホライゾンが発明した一粒で空腹の満たされる錠剤をたんまり失敬してきた。
銃弾もたっぷり持ち出してきた。仮に獣に襲われたとしても、しばらくはこれで対抗できる。
当分の間、生きるに困ることは無いだろう。その間に、きっと誰かと出会えるさ。
177: 以下、
空を見上げた。
悠々と流れていく雲が、僕と同じ西のかなたを目指していた。
旅のお供にはちょうど良い。
いつか別れる日が来るとしても、また別の何かが一緒に西を目指してくれるだろう。
赤土の大地を踏みしめた僕は、ゆっくりと千年後の世界を歩き始めた。
第三部  世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話 ― 了 ―
183: 以下、
>>177
おつ
179: 以下、
乙ー
180: 以下、
乙!
182: 以下、
乙!
さらに乙!!
187: 以下、
支援ありがとうございました。諸事情により次回は来週以降になります。それでは
188: 以下、
すげぇ乙
今更だがサブタイもなかなか好きだぜ
198: 以下、
乙でした
ブーンには幸せになって欲しい
204: 以下、
お疲れ
続きを楽しみにしてるぜ
管理人です!
この話はまだ続くのですが、長いので一旦閉めたいと思います。
近日中に様子を見ながらアップしていきたいと思いますので、次回更新までしばらくお待ち下さい。。。。
( ^ω^)ブーンは歩くようです
【第一部】『かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873972.html
【第二部】『世界の終わりと、それでも足掻いた人間たちの話』
http://world-fusigi.net/archives/8873974.html
【第三部】( ^ω^)ブーンは歩くようです3『世界の始まりと、孤独に耐えられなかった男女の話』
http://world-fusigi.net/archives/8873975.html
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『謎のケン君と二階の秘密』俺が家庭教師で行ったヤバイ家の話
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コメント
1 不思議な
実際と違うのは、そんな冷凍睡眠技術や他の高度技術は現実には無いというあたりかな
しかしヒト後の新しい時代の始まりあるいは地球の終わりというのはその通りだ
また前者の場合、これまでのように前任者を必ず上回るものになる
人が心配しなくても“データバンク”はちゃんとあり、そして活用されるのだ
ただもし地球自体の終わりの場合は、地球ではそこまでとなるが
2 不思議な
面白くて管理人がまとめるの待ってられなかったからもう全話見てきた
めっちゃ面白い大作だった
3 不思議な
ゴミのようなスレ三連ちゃん
4 不思議な
SSスレとか厨二スレとか迷走してるぞ
知識欲が満たされるようなスレを頼む
5 不思議な
つまらない素人の小説をまとめなくていいのに…不思議なことが少ないのかな
6 不思議な
※2ど、どこで読めるか教えて下さい(哀願)
7 不思議な
つまんなかった
管理人に失望したわ
8 不思議な
管理人が趣味でやってるブログが自分の感性と合わない記事載せたぐらいでぐちぐちいうなよ
9 不思議な
文句言いたいがためにゴミスレを3つとも読んだのか?
アホか
10 不思議な
※6
オ ム ラ イ ス
ブーンは歩くようです
でけんさくぅ!
11 不思議な
ガキだった頃はこんなのでも面白いと思ってたんだけどなぁ
大人になってから読むと流石にね…
12 不思議な

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