【デレマス近代劇】クラリス「怨霊血染めの十字架」back

【デレマス近代劇】クラリス「怨霊血染めの十字架」


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フランス革命って、あまり近代ってかんじしない不思議
歴史改変注意
2: 以下、
 フランス王政が国民に豊かな生活を保障できなくなり、
 革命が決行された頃。
 はじめはただの不満によって突発的に起こったはずの蜂起は
 次第に組織化され、秩序づけられ、
 善良なはずの市民達は、
 デマゴーグによって制御される暴力装置と化していた。
----------------------------------------------------------------------------
3: 以下、
カトリックの教会は暴動の対象にはならなかった。
実のところ搾取の半分は教会によってなされていたのだが、
敬虔な獣達の心の中には、やはり神が必要だったのである。
人命の価値が限りなく下がって行く社会では、
人は生を営むための祈りではなく、
苦痛とその先にある死を受け入れるために教会へ行く。
4: 以下、
 シスターであるクラリスは多忙であった。
 毎日ひっきりなしに行われる死刑に、神父の代わりに駆り出されている。
 
 刑に処される人々は、刑を下す人々ほど罪深くなかった。
 「王族・貴族の側につきフランスを堕落させた」などと糾弾されていたが、
 実のところ処刑の実態は、ジャコバン派による内部粛清であった。
 権威への叛逆を掲げる組織の中で行われる権力争い。
 この内状を知ったクラリスは、ただ心が痛むばかりだった。
5: 以下、
 クラリスが教会に戻ると、懺悔室に人の気配があった。
 神父にそのことを伝えたが、彼は首を振った。
 クラリスは察した。
 懺悔室にいるのは現ムッシュ・ド・パリ(最高の死刑執行人)、
 宮本フレデリカその人であると。
 先代のムッシュ・ド・パリ、つまりサンソン家は、
 王族の処刑を断固拒否したため、その座から追われた。
 しかし人々は、自身の手を汚すことは嫌がった。
 そこで、フレデリカに白羽の矢が立った。
 彼女は外見ではわからないが、半分日本人の血が入っていて、
 パリの中では鼻つまみ者だった。
 
 嫌なことは嫌いなやつにやらせよう。
 その凶悪的なまでに短絡的な思考が、フレデリカを死刑執行人にした。
 性急な配役であったが、フレデリカは見事に処刑をこなしていった。
 特に斬首の技量は、かのシャルル=アンリ・サンソンと
 肩を並べるとも称された。
 とはいえ人々がフレデリカを尊敬するようになるわけでもなく、
 彼女は以前よりいっそうの差別を受けた。
 教会へ行っても、神父に懺悔を聞いてもらえないほどの。
6: 以下、
クラリスは懺悔室へ入った。
 相手の顔が見えないように構造的な工夫がされており、
 かつ室内は薄暗くなっている。
 それでもクラリスは、部屋に入った途端濃厚な死臭を感じ取った。
 恐怖は感じなかった。
 相手のことを思うと、ただ胸が締め付けられた。
7: 以下、
 フレデリカは何も言わず、ただそこに佇んでいた。
 
 本当は彼女も、神を信じていないのだ。
 信じろという方が無理がある。
 懺悔室にやってくるのは、許しを乞うのではなく、
 ただそうせずにはいられなかったから。
 クラリスは、そっとフレデリカの側に手を差し出した。
 しばらくすると、その手が力無く握られた。
 そしてクラリスは、むこうで、
 熱い雫がぽたぽたと落ちるのを感じた。
8: 以下、
 死刑を執行している時のフレデリカは、
 観衆の背筋が冷たくなるほど陽気だった。
 陽気なまま、笑ったまま、無罪の罪人の首を落とす。
 人々は自身の罪を顧みることもせず、彼女を蔑視し憎悪する。
 まさしく、この世に神はないない。
 いたとして、このパリにはいない。
9: 以下、
 クラリスは教会の連絡網を用いて、ひそかに各国の
 王族達に革命の征圧を要請した。
 おびただしい犠牲が出るだろう。
 しかし教会が権威の保持および拡大のために民衆を欺き、
 搾取してきた過去を思えば、クラリスの行為はまだ人肌の温かみがあった。
 彼女は結局、フレデリカ1人を救いたいのだ。
 いや厳密には、彼女以外の市民全てに罰が下ればいいと考えている。
 自由と引き換えに、王族に責任を譲渡し、
 安楽な生活を貪ってきた市民。
 その生活が失われてようやく行動を起こしたが、
 責任を取ることは忌避し、安易に革命派の言説に従う。
 処刑の際は好奇心の赴くままに押し寄せ、
 罪人や死刑執行人にやじを投げる。
 
 彼女ら、彼らには隣人愛を与えるべきでない。
 人ではない、けだものなのだから。
 かつての十字軍遠征がしのばれるほどの狂熱さで、
 クラリスは書状をしたため、連絡網に流した。
10: 以下、
 だが、その行動が実を結び、
 各国軍がパリを包囲した頃には、革命派は内紛で死に体となっていた。
 指導者・幹部らは軒並み死亡し、手足となっていた市民は狼狽えた。
 投降するとして、すでにいない指導者を差し出せねばならない。
 誰がふさわしい?
 お前か。お前か。それとも…。
 市民達は、自分達の行為の重大さを、ここにきてようやく理解した。
 それでもなお、責任を取ることを拒んだ。
 そして誰かが思いついた。
 嫌なことは、嫌いなやつにやらせよう。
12: 以下、
クラリスは呆然とした。
 
民衆の悪意を、あまりにも過小評価していた。
 
フレデリカは革命の指導者として
各国軍に引き渡され、処刑されることになった。
クラリスは市民達を、それ以上に己を呪った。
彼女はフレデリカのいる牢獄へ駆けた。
途中で靴が脱げて、それでも走って、
細くて美しい脚は土に汚れ、潰れ、血塗れになった。
その時クラリスが感じた苦痛は、フレデリカの苦痛であった。
抗うことさえ許されない状況で、最悪の現実と向き合うこと。
その現実から逃れるために、いとも簡単に他者を利用する
人間がいるということ。
だがクラリスがフレデリカと決定的に異なるのは、
彼女もまた、その無責任な人間の1人であるということだ。
それを自覚したからこそ、クラリスは牢獄へ向かった。
許されるつもりはない。ただ、そうしたかった。
13: 以下、
「?a va ?」
 クラリスを見たフレデリカは、陽気に挨拶をした。
 しかし、厳しい拘束生活のせいか、目の下は隈ができ、
 美しかったはずの金髪は、見る影もなくやつれていた。
 クラリスは冷たい格子を握りしめた。
 どんなに力を込めても、なにも変わらない。
 ついには指から血が流れて、ぽたぽたと音を立てた。
 フレデリカは、自分の手をそこに重ねた。
 クラリスの涙が、2人分の手のひらの上に降り注いだ。
 クラリスは各国軍に対して、フレデリカの助命を乞うた。
 彼女は民衆によって、指導者に仕立て上げられただけに過ぎないのだと。
 
14: 以下、
 しかし軍人達はこう言った。
 すでにいない指導者のために民衆を突き回すのは“酷”だ。
 酷…? 残酷…?
15: 以下、
フレデリカが処刑された時、クラリスは発狂した。
神はいない。罰はない。地獄もない。
ならば、自分がこの世に地獄を作ってみせよう。
彼女は憎悪する民衆を煽動し、フランスに新たな軍隊を作り出した。
そして自由、平等、博愛を掲げて、欧州の国々を蹂躙した。
おびただしい量の犠牲者が双方に出た。
それでもクラリスは走り続けた。
16: 以下、
世界全てを、灰にするために。
17: 以下、
【デレマス現代劇】大和亜季「私の戦場」
18: 以下、
大和亜季には自信があった。
アイドルとして成功する自信が。
しかし、いざ飛び込んだアイドル業界は、まさに戦場であった。
亜季や他のアイドルは、プロダクションの兵士に過ぎなかった。
予め緻密に組み上げられたレッスン、
バラエティでの立ち振る舞い、ファンへのサービス。
それらの履行は、軍隊における命令系統の遵守と同義であった。
19: 以下、
しかしだからこそ、大和亜季はアイドルとして相応しかった。
彼女は日常の曖昧さにうんざりしていた。
ウケる。たのしい。
すごい。ヤバイ。
よかったね。がんばって。
意味消失した言葉の群。
その中で生きるのは、亜季にとって堪え難い苦痛だった。
それに対して、アイドルはなんと明確なことだろうか。
踊れ。歌え。
こうやって話せ。ここは黙れ。
ファンの数はこうだ。CDやライブの売り上げはこれくらいだ。
甘えや馴れ合い、解釈の違いなどは一切存在しない。
必要なのは、規律を守るか、守れるだけの努力をすることだけ。
大和亜季にとって天職であるといっても過言ではなかった。
20: 以下、
だが現在の彼女は控えめに言って、弱小の、色物だった。
容姿は良い方だ。体力もある。根性もある。
歌はまだ改善の必要があるが、それは時間が解決してくれる。
キャッチーな特徴もある。
それなのに、何故彼女は成功できないのか?
私の訓練不足。
彼女ははじめそう考えたが、
オーバーワークはむしろ逆効果だと、すぐに否定した。
本当に亜季を覆い隠してしまうのは、美城プロダクション、
およびアイドル業界という同じブタイ(部隊/舞台)にいる人間。
仲間であるようで、不倶戴天の敵。
亜季は1人のアイドルを思い浮かべた。
21: 以下、
宮本フレデリカ。
大和亜季とは真逆の性格で、成功を掴んだ少女だ。
22: 以下、
遅刻。無断欠勤。指示の無視。
突発的に始まるアドリブ。
本物の軍隊であれば、除隊どころか銃殺刑に処されてもおかしくない。
フレデリカの勝手が罷り通るのは、
一重に、彼女が成功しているからだ。
しかしその成功が、いかなるプロセスに基づいて起こったのか、
亜季には皆目検討もつかなかった。
美城プロダクションが作り上げてたマニュアルは、
芸能界における成功の鍵とほぼ同等である。
その証拠に、多数の美城アイドルが業界を席巻している。
所属しているプロデューサー、トレーナーも、
アイドル達の信用を得た上で、彼女達を成功させる傑物ばかり。
これらを踏み散らして、
なぜ宮本フレデリカはアイドルとして勲章を得るのか?
23: 以下、
たしかに、セオリーは成功を確約するものではない。
それは亜季が知る軍人達が証明している。
バグパイプと長剣、それから弓矢で第二次世界大戦を駆け抜けた男。
銃弾飛び交う中ロッキングチェアでくつろぎながら、ソビエトの大軍を抑えた指揮官。
上官に噛み付き、敵の戦闘機だけでなく自身の乗機も破壊して、
それでも英雄と呼ばれたパイロット。
彼らを、亜季は尊敬している。
だが彼らとて、あくまで軍規の範疇でスタンドプレーをしたに過ぎない。
亜季は、自分が大和亜季というアイドルであることを懸けて、
宮本フレデリカを認めるわけにはいかなかった。
24: 以下、
「敵地に侵入…斥候を開始するであります」
そう呟いたあと、亜季は苦笑した。
場所は、美城プロダクションが所有するライブハウス。
今日の主役は宮本フレデリカを擁するLiPPSだ。
リーダーは水奏。
戦略的にはともかくとして、
戦術的に見て相応な人選だと、亜季は考える。
まずフレデリカは論外。
城ヶ崎美嘉は、個人としてユニット内では最高の成功を収めているが、
他のアイドル達を牽引しうる強引さがない。
塩見周子はバランスが取れているように見えて、
実のところ他人に干渉するほどの積極性、あるいは余裕がない。
一ノ瀬志希は、カリキュラムこそ要領よく消費するが、本質的にはフレデリカの同類。
彼女達に染められないほどの個性があり、かつ彼女達を率いるだけの
成熟した精神を持っているのが、水奏というアイドルだ。
25: 以下、
だが、目の前で起こっているフレデリカと志希の暴走を見ていると、
亜季は彼女に同情しか湧いてこなかった。
奏は、チームプレイ上では自分の役割を全うしている。
それゆえ、完全に他のメンバーに、
特にフレデリカや志希の影に隠れてしまっている。
本来プロデューサーや演出監督が裏でやるべき仕事を、
奏が代行しているからだ。
ステージ上での暴走を止められるのは、彼女だけ。
一方のファンは、むしろ暴走を望み、楽しんでいる節がある。
「間違っているであります…」
最前席で双眼鏡を覗き込みながら、亜季は呟いた。
26: 以下、
ある時、亜季は奏とトレーニングルームで出会った。
同じ時間に基礎体力訓練が入ったのだ。
「あ、あのぅ・・・」
亜季は、おずおずと奏に声をかけた。
相手は飛ぶ鳥落とす勢いのアイドルだ。
亜季は権威というものに対して、滅法気が弱かった。
27: 以下、
「あら、亜季じゃない」
「わ、私の名前をご存知で!?」
「当然よ。同じプロダクションの仲間だもの」
「身に余る光栄であります・・・」
小さく小さく縮こまる亜季に、奏は苦笑した。
「それで、私に何か用?」
「あ! えっと……
 水さんは、フレデリカ殿についてどう思われますか」
“殿”に若干のアクセント付けながら、亜季は言った。
 奏は即答した。
28: 以下、
「問題児よ。
レッスンはサボタージュするし、
進行は守らないし、
何を考えてるのか、時々分からないし。
志希の方がまだ大人しく見えるわ」
奏はくすりと笑った。
彼女はLiPPSでの活動を純粋に楽しんでいるようだった。
亜季は、そのフレデリカ殿のせいで、とは言えなかった。
代わりに、フレデリカの魅力について、奏に尋ねた。
「フレデリカの魅力…うーん…そうねえ」
奏は、濡れるように艶めいた唇に指を当てた。
「強さ、かな」
「強さ?」
「それ以外に、彼女に似合う言葉は見つからないわ」
亜季個人の印象としては、フレデリカは軟派で軽薄。
奏の言葉は理解しかねた。
「それは、フレデリカ殿がアイドルとして、ということでありますか」
「アイドルとして…たしかにそうなんだけど、そこを区別するのは、
私にはちょっと難しいかな」
29: 以下、
奏はにっこりと、亜季に微笑みかけた。
亜季は、被弾した、被弾した、と内心で呟いた。
その動揺のせいか、彼女は三度目の質問を、
随分露骨なものにしてしまった。
だが、それにも奏の表情は変わらなかった。
「他の子の輝きで水奏が見失われてしまうなら、そこが私の限界よ」
あなただって十分強い。
そう伝える勇気が、この時の亜季にはなかった。
30: 以下、
数ヶ月後、亜季にとって転機が訪れた。
美城アイドルの頂点に君臨する、高垣楓のビッグライブ。
そこで公開されるのは、
今までの、おっとりとしたイメージを打ち破る激しい曲。
旧来のサポートメンバーは、
高垣楓と同じようなイメージを持つアイドルで構成されていた。
新曲で全員入れ替えるという意見が出たが、
それは各々のプロデューサーの尽力によって回避された。
しかし、舵取りの激しさに投げ出されるアイドルが数名出た。
その穴は、入れ替えで予定されていたメンバーによって埋められた。
31: 以下、
たった1つの席を残して。
32: 以下、
ライブでは、高垣楓というアイドルの多様さを、
歌とダンスで表現するのだという。
イントロは穏やかなジャズ調。
ここだけは、エレクトリック・アコースティックギターが主役だ。
サポートの動きは、ゆったりとしたウォークで
中心からサイド・バックに移動。
しかしAメロで歌が始まるのと同時に、ベースとアップテンポかつ
変則的なシンセサイザーが滑り込んでくる。
ここでサイドダンスが急変。ツーステップで静寂を断ち切り、
Bメロからはストップ&ゴーとパドブレに別れる。
ここまでは、バックは目立った動きはしない。
33: 以下、
しかしサビに入ると、弾丸のように位置を入れ替え、
バックメンバーがサイドでブレイク、
サイドメンバーがバックで
ゆったりと泳ぐようなウォークを行う。
1番と2番の間奏は全体をチャールストンで統一。
2番ではドラムがパートに入り、Bメロから開始。
今度はサイドの動きが落ち着き、バックが激しくなる。
サビでは再びメンバーの位置を変えて、
一番のイントロおよびA・Bメロと同じ場所に戻らせる。
Cメロからはサポートメンバーが2人1組で
放射状に舞台に広がり、ギター以外はフェードアウト。
最後のアウトロでメンバーが抱き合う。
34: 以下、
ダンスの作案者の1人である小松伊吹が、
候補達に一連の流れを説明した後、手本を見せた。
皆が絶句した。レベルが違いすぎる。
しかもオーディションでは、全てパートにおける動きを見るために、
曲を4回ほど繰り返す。
休憩は短く、全体時間は20分。
ほとんど休むことなく踊り続けることになる。
このような過酷な調整の理由を、亜季は知らない。
知ろうとも思わない。
だが、さすがに通常のレッスンで消化できる課題ではなく、
掟破りのオーバーワークに手を染めることになった。
幸いにして体力は有り余るほどある。
そして、皮肉なことに習得にかける時間もたっぷりあった。
35: 以下、
亜季は、レッスンルームでフレデリカと鉢合わせた。
彼女、あるいは彼女のプロデューサーも、
楓のサポートを狙っているらしい。
しかしフレデリカはダンスの練習をするでもなく、
床に寝っ転がっていた。
「フレデリカ殿。
 練習をしないなら出て行って欲しいであります」
亜季は冷然と、そう告げた。
フレデリカはエメラルドブルーの瞳で、
じいーっと亜季を見た。
36: 以下、
「亜季ちゃんだよね?」
「私が亜季ちゃんであります」
 フレデリカは立ち上がって、伸びをした。
「いつもの亜季ちゃんじゃな〜い」
その言葉を聞いて、亜季のこめかみがひくついた。
「いつもの私?
 
 フレデリカ殿と私は、
 そこまで親密な間柄ではなかったと記憶しておりますが」
「プロダクションのみんなのことなら、大体わかるよ〜♪」
 くりくりと瞳を動かしながら、フレデリカが言った。
 彼女はやはり、亜季には苦手にとって人間だった。
 要領を得ない。何が言いたいのかはっきりわからない。
「それでは、今の私がいつもの私とどう違うのでありますか?」
 語気を強めて亜季は尋ねた。
「ん〜、亜季ちゃんきっと怒るから言わな〜い♪」
 後ろ手を組んで、フレデリカが笑う。
 悪意もごまかしもない、愛らしい笑顔だった。
 亜季は何も返さず、ダンスの練習を始めた。
 
37: 以下、
 オーディションは一回きり。
 候補達が20人ごとのグループで、一斉にダンスを始める。
 亜季は最終グループ。
 フレデリカは、最初のグループにいた。
 
 候補達はミスを連発した。
 無理もない。
 技術面でも駆け出しアイドルには似つかわしくないのに、
 それが4回。初めに余裕を見せていた候補生も、最後で心が折れる。
 20分が終わった時、静かに泣き出す者もいた。
 しかし亜季は、フレデリカだけを見ていた。
 彼女は奥歯を噛み締めた。フレデリカのダンスは完璧だった。
 圧倒的な才能。一重にそれだ。
 才能が全てをひっくり返す。
 他のアイドル達の、懸命な努力でさえも。
 引き摺り下ろしてやる。
 亜季は殺意にも似た決意を持って、立ち上がった。
38: 以下、
 不安はなかった。
 亜季はプロダクション内で、日野茜と肩を並べる体力馬鹿だ。
 その体力で、技術不足を塗りつぶすハードワークを行った。
 だが、3回目のダンスが終わった時、
 亜季の両足は痺れた。
 高垣楓のダイナミクスの表現が、足さばきに集中している。
 くわえ、フレデリカに対する対抗心、
 さらに無意識下での緊張が、亜季の身体を蝕んだのだ。
 それでも亜季は棒のようになった足を、
 ただの道具として無理 矢理動作させた。
 身体の頑丈さと強固な精神力で、彼女はやり遂げた。
 力技に頼ったがミスはない。完璧だった。
 亜季は、大和亜季史上最高の大和亜季になれたと、そう思った。
39: 以下、
 「………」
 数日後、亜季は自身のプロデューサーを睨みつけた。
 
 サポートメンバーの決定方式は、職員達による投票制。
 結果、満場一致で宮本フレデリカが選ばれた。
 つまり、亜季のプロデューサーもフレデリカに票を入れたのだ。
 自分が選ばれなかったことは、決定だからしようがない。
 しかし、亜季を推すべきプロデューサーが、
 他のアイドル、よりによってフレデリカを。
40: 以下、
「納得のいく説明を要求します」
 亜季が冷たい声でそう言うと、プロデューサーは、
 オーディションの様子を収録したDVDを再生した。
 そこには亜季の完璧なダンスが映っていた。
 やはりミスは無かった。
 そう思ってプロデューサーを再び睨むと、
 彼はフレデリカの様子をよく見るように指示した。
 巻き戻し、最初のグループ。
41: 以下、
 崩れる候補達の中で、たった1人楽しげな顔で踊っている。
 ダンスが終わった後は、さすがに足が痺れたのか、
 舌をぺろりと出して、けんけん歩きをしていた。
 亜季は胸がぐるぐるした。
 オーディションの時に、どうして気づけなかったんだろう。
なぜ彼女が選ばれたのか、亜季は理解した。
過酷なダンスの間もフレデリカは、
フレデリカというアイドルであり続けた。
馬鹿みたいに陽気で、苦しげな表情を他人に見せない。
一方の亜季は、完全なダンサーだった。
だが、ダンサーが必要ならダンサーを雇う、それが美城だ。
42: 以下、
いつもの亜季ちゃんじゃな〜い。
フレデリカの言葉が思い返された。
結局のところ亜季は、練習段階で、美城やプロデューサーの立てた
カリキュラムを見限って、独自でのトレーニングを行った。
自分の組織を信じる。そのあり方を、亜季は捨てた。
その結果亜季は、大和亜季というアイドルですらなくなってしまった。
再びモニターを見ると、
彼女ではない、全く別の女が映っているように見えた。
43: 以下、
この瞬間、亜季はアイドルになって初めて、
そして久しぶりに、声を上げて泣いた。
44: 以下、
彼プロデューサーは黙って見守っていた。
彼は知っている。
大和亜季はアイドルという戦場を、彼女自身で選んだ。
45: 以下、
だからこそ、必ず戻ってくるのだと。
46: 以下、
おしまい
元スレ
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ルカ子「きょ、凶真さん……白いおしっこが出たんです」岡部「」これは無理だろ(抗う事が)
岡部「フゥーハッハッハッハ!」 しんのすけ「わっはっはっはっは!」ゲェーッハッハッハッハ!
紅莉栖「とある助手の1日ヽ(*゚д゚)ノ 」全編AAで構成。か、可愛い……
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
遊星「またD-ホイールでオナニーしてしまった」……サティスファクション!!
遊星「どんなカードにも使い方はあるんだ」龍亞「本当に?」パワーカードだけがデュエルじゃないさ
ヲタ「初音ミクを嫁にしてみた」ただでさえ天使のミクが感情という翼を
アカギ「ククク・・・残念、きあいパンチだ」小僧・・・!
クラウド「……臭かったんだ」ライトニングさんのことかああああ!!
ハーマイオニー「大理石で柔道はマジやばい」ビターンビターン!wwwww
僧侶「ひのきのぼう……?」話題作
勇者「旅の間の性欲処理ってどうしたらいいんだろ……」いつまでも 使える 読めるSS
肛門「あの子だけずるい・・・・・・・・・・」まさにVIPの天才って感じだった
男「男同士の語らいでもしようじゃないか」女「何故私とするのだ」壁ドンが木霊するSS
ゾンビ「おおおおお・・・お?あれ?アレ?人間いなくね?」読み返したくなるほどの良作
犬「やべえwwwwwwなにあいつwwww」ライオン「……」面白いしかっこいいし可愛いし!
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にゃん:【艦これ】提督「『シャブ乱交パーティ』だとォ!?」愛宕「はい♪」
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ジオングってかっけーよな…

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松居一代さんのが新作You Tube公開キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

子育ては地域で〜とか言うな!って主張するなら、人の躾に口挟んでくるなと思う

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