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【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」


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次は宇宙だッ!
他のシリーズを読んでなくても大丈夫。
第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」
読み切り 
【デレマス時代劇】水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
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2: 以下、
 人類が宇宙に進出し、地球が御伽噺の中の存在になった頃。
 銀河は3つに別れていた。
 最大の版図と人口を誇る帝政国家、『リューザキ』。
 重工業系企業が国家運営を行う、『櫻井クラスタ』。
 社会主義による宇宙統一を目指す、『Новый советский(新ソビエト連邦)』。
 この3者による睨み合いは、すでに数世紀にも及んでおり、
 現在は一応のデタント期に入っていた。
3: 以下、
 ある時、櫻井クラスタ領の惑星に1人のアイドルが現れた。
 現れた、といってもモニター越しであったが。
 そのアイドルの名は、安部菜々。
 『ウサミン星』なる星からやってきた17歳という設定で、愛らしい見た目と
 甘い歌声、そして弾けるようなダンスで、住民達を魅了した。
 しばらくすると、菜々は他の惑星にも現れるようになった。
そこでも大変な人気を博した。
さらにリューザキ、連邦内にも活躍の場を広げ、
 銀河中が安部菜々に夢中になった。
4: 以下、
 異変が起こったのは、彼女が現れて二年ほど経った頃。
 リューザキ領の惑星の住民が、
「ウサミン星に行きたい」と呟いて、行方不明になった。
 そのニュースは、初めはジョークとしてお茶の間に流れた。
 熱狂的なアイドルファンが失踪、あるいは焼身自殺(バーベキュー)、
 などという出来事は、宇宙でもままあることだった。
5: 以下、
 しかしその後、行方不明者が3カ国総計で5万人に達した。
 皆いずれも「ウサミン星に行きたい」と周りに
 話してから、いなくなったという。
 行方不明者の行き先を第一に発見したのは、連邦だった。
 その捜査官達は、歪な楽園を目にした。
 労働や家事、社会インフラの維持、そして政治に至るまで、
 ウサギ型のロボットが行なっていた。
 納税も兵役もなく、人々は“好きなように”生きていた。
 安部菜々の歌を聞き、安部菜々のダンスを見る。
 安部菜々の絵を描き、安部菜々が主役のドラマを視聴する。
 安部菜々の自伝小説を本が擦り切れるまで熟読する。
 日曜日は教会に集まり、安部菜々の像に向かって皆がお祈りする。
 毎日起きてから眠るまで、安部菜々にどっぷり漬かった生活。
 住民達はそれを満喫していた。
6: 以下、
 捜査官達は一抹の羨望を抱きながらも、楽園の存在を公表した。
 すぐに住民の奪還が試みられた。
 しかし、当の本人達がウサミン星から離れようとしない。
 無理やり連れて行こうとすると、ロボ達の妨害にあった。
 そこでリューザキは一個艦隊を派遣し、ウサミン星を制圧した上で、
 住民達を連れて帰った。
 これで事態は終結するかと思われた。
7: 以下、
 だが、行方不明者は増え続けた。
 ウサミン星は1つではなかったのだ。
 3カ国が共同で艦隊を組織し、銀河中をくまなく探し回った。
 第二、第三のウサミン星が続々と見つかった。
 無論、住民達の回収が行われた。
 そしてまた、ロボ達の妨害にあった。
 いや、今度は妨害というよりは、蹂躙といって差し支えなかった。
 彼、あるいは彼女らは、最新技術を搭載した戦艦で、
 回収用の艦隊を全て撃沈したのである。
8: 以下、
損害比2:7という圧倒的な差をつけて。 
9: 以下、
ウサミン母星攻略作戦。
3カ国は宇宙世紀で初めて手を取り合い、
協同での軍事作戦を練った。
リューザキからは艦隊40万隻。
櫻井クラスタからは18万。
新ソビエト連邦からは15万、
計73万の戦艦がウサミン母星のある宙域へ向かった。
10: 以下、
勝てない。
リューザキ旗下、指揮艦『サーベルタイガー』のブリッジで、
艦長の三船美優は思った。
現在、母星を取り囲むように展開している敵艦隊と交戦しているが、
“前線の位置が全く前に進まない”。
こちらが数で優っているのに、完全に勢いを殺されてしまっている。
宇宙空間における艦隊戦のノウハウは、3カ国側に利があるはず。
それなのになぜ、抑えられるのか?
11: 以下、
さきほど、三ヶ国側は防衛陣を突破するために
紡錘陣形を取り、
前方に火力を集中させようとした。
すると、攻撃をする前に敵側は
艦隊の両翼に展開し、こちらを挟撃してきた。
教科書(セオリー)通りの反撃。
しかし、その反応度が凄まじかった。
ウサミン星側の戦艦は、全艦が
電子制御され、互いにリンクしている。
いうなれば全てが目であり、手であり、頭脳でもある。
よって、指揮艦がちまちまと
連絡をするような時間的ロスはなく、
瞬発的な艦隊運用が可能となっている。
また、人間が乗っていないという利点から、
無茶苦茶かつ合理的な度で移動する。
よって、3カ国側がどのような戦術を取ろうとも、
相手に決定的な打撃を与えることはできない。
即座に対応されてしまうからだ。
12: 以下、
“通常の艦隊では”、敵の防衛陣を突破することはできない。
実は三ヵ国側は、戦局が開く前から、そう結論づけていた。
第一陣の戦艦を突破しても、次には、
デブリ回収用のウサギ型の作業ボットが、
空間を埋め尽くすように陣取っている。
数はおそらく数百億。
超長距離からのレーザーやミサイルは、
そのボットの壁によって防がれる。
接近すれば、おそらく特攻するように
艦隊にとりつき、航行を妨げるだろう。
であれば、敵戦艦および、そのボット達の
隙間をかいくぐるような存在が必要だ。
軍艦よりもずっと小さく、すばしっこく、
敵の懐に潜り込めるような。
13: 以下、
両艦隊による攻防が繰り広げられる中、
その反対側から母星に迫る影があった。
真っ白に塗装された高巡航艦7基。
3カ国側の戦力である。
大規模な艦隊戦は陽動であった。
敵を引きつけ、防衛網の網目を、
少しだけ大きくするための。
巡航艦は直線的に、宙を切り裂くように進む。
その前に、ウサミン星側の艦隊および戦闘機が立ちはだかった。
巡航艦は怯まずに突っ込んだ。
無人で、電子制御されていたのだ。
二基が、敵を巻き込んで大破。
残りも苛烈な攻撃を受け、爆散した。
その余波によって、ウサミン星側のレーダーに微かな乱れが生じた。
『敵艦撃破』『敵艦…』『……!』
14: 以下、
爆炎の中から、小型の戦闘機が飛び出した。
宇宙に融けるような、漆黒の機体。
ウサミン星側は即座に分析を始めた。
フレームは前川製『シャルトリュー』。
重槍のような形状で、高加時に独特の音を立てる。
二世代ほど前の型落ち機だが、
頑強さと動作の滑らかさに定評があり、
いまだに根強い人気がある機体。
航行度から、エンジンと推進装置は櫻井製の『CHA-MA07』。
ロールアウトされたばかりの最新式。
加性能で数世紀分のブレイクスルーをしたと言われている。
通常の戦艦、戦闘機では到底追いつけない。
15: 以下、
だが、ウサミン星側の戦闘機は並ではない。
殺人的な加と機動を、
燃料が尽きるまで行うことができる。
2機が後方、3機が追い越して前方に出た。
16: 以下、
「やっぱり反応がいですね…」
漆黒の機体の中で、岡崎泰葉は低く呻いた。
限界まで加を行なっているので、臓腑がぎりぎりと絞られている。
口笛混じりに操縦などできない。
17: 以下、
おでこを出し、両側に垂らすようにカットした、紺の短髪。
あまり動かない瞳。小さい鼻。
閉じればどこにあるのかわからない、薄い唇。
生気のない、人形のような少女だった。
18: 以下、
“岡崎泰葉”は、1人のための名ではなく、超絶的な腕前を持つ
戦闘機乗りに与えられる名前だった。
彼女はちょうど13番目の岡崎泰葉で、最年少である。
彼女はパイロットの養成施設で生まれ、はじめは番号で呼ばれていた。
名前を手に入れたのは、ごく最近のことだ。
「さて、“岡崎泰葉”に恥じない戦いをしないと」
拡散ミサイルを前方へ3発。1機に直撃。
泰葉はそれを喜ばなかった。
19: 以下、
相手が、こちらの武装を知るために
わざと避けなかったことに気づいたためである。
後方からのレーザーを直感で躱すと、前方でまた一機墜ちた。
これには、泰葉も唇を舐めた。
とはいえ、実際はかなり苦しい状況だった。
捕捉から逃れるために度を
上げると操縦が追いつかなくなる。
下げると、背後からの攻撃を避けられなくなる。
左右に動いても、相手はぴったりとついてくる。
20: 以下、
どうやら撃墜ではなく、こちらの消耗を狙っているようだ。
相手はエースパイロットの技術を、徹底的に盗むつもりらしい。
こちらの武装はすでに分析済みとみてよいだろう。
つまり、ここから通常の攻撃は絶対に当たらない。
だがウサミン星側の行動を見るに、
戦闘機の運用データは
まだ蓄積されていないらしい。
そこに付け入る隙がある。
21: 以下、
泰葉は電磁ジャミング装置を起動させた。
敵機の電子回路を破壊する武器である。
ウサミン側は、生身の人間達が
機器を狙ってくるのを予想していた。
対策は織り込み済みである。
ジャミングを感知、電磁遮断器を展開し、無効化した。
この間に要した時間はコンマ数秒。
その数秒が、戦闘機での格闘戦においては致命的な隙であった。
泰葉は推進装置を巧みに操作し、その場で急旋回した。
本当に“ほっぺたがこぼれる”のではないかと思うくらい、
身体が横方向に引きずられる。
そして、ぴったりとくっついていた敵機に接触。
表面の装甲がいくつか剥がれはしたが、代わりに
前後方の2機を食いちぎるように破壊した。
機体の頑丈さが功を奏した。
おいしい成果だ。
23: 以下、
残りと一機とはすれちがいに、泰葉は反対方向へ出た。
相手は猛烈な加で振り返り、漆黒の機体に迫る
今度は本気で沈めにきている。
泰葉は先ほど抜き去ったウサミン星の艦隊に、再び接近した。
そして、レーザーとミサイルを全弾発射。
泰葉を感知、および接近可能な戦艦を全て撃破。
そこで、発生したデブリの荒波に機体を滑り込ませた。
致命的になるものは全てかわしながら。
操縦室のガラスに大きな罅が入ったが、泰葉に動揺はなかった。
後方から加していた敵機は、破片に機体を斬り裂かれ、大破した。
割に合わないような、
教科書から外れた戦闘技術。
それが彼女を、岡崎泰葉たらしめていた。
24: 以下、
第一陣を突破した泰葉は、第二陣に接近した。
星のように、ぽつぽつと光る無数の作業ボット達。
泰葉は、大きな熱源となるエンジンと
武装を機体から切り離した。
システムもシャットダウンする。
機体はゆっくりと減する。
ボットが数機、近づいてくる。
しかしその動きは緩慢。
どうやら、機体をデブリだと誤認したようだ。
泰葉は耐圧服を装着し、機外に出る。
そこで、機体を調べ始めたボットに取りついた。
その装甲を手際よく一枚剥がし、中の回路を破壊。
別の回路に入れ替えた。
これでボットは識別番号を持ったまま、
泰葉を母星に連れて行ってくれる。
25: 以下、
母星に侵入した泰葉は、防衛用のロボット達を
蹴散らしながら進んだ。
ここまで人が入ってくることは予想していなかったのか、
抵抗は弱々しかった。
そして機関室、システムの冷却装置、
マザーコンピューターを順繰りに破壊した。
あっけない。
そう泰葉が肩をすくめた時、母星内でアラートが響き渡った。
二時間以内に自爆するという。
どこの悪の秘密基地、と泰葉が思ったとき、
白衣を着た少女が現れた。
26: 以下、
しかし人間ではないのは明白だった。
宇宙用の防護服を、まったく着ていなかったのだから。
「君。ここにいると危ないぞ」
彼女は、泰葉を見て驚くでもなくそう言った。
「帰り道がわからないのか?」
「帰るつもり、ありませんでしたから」
敵陣のど真ん中に単独で潜入。自爆装置などがなくても、
泰葉は生きて帰るつもりはなかった。
27: 以下、
「そうか…ところで、ナナさんを殺したのは君か」
少女の見た目をした何かが尋ねた。
まったく感情のない声だった。
「機械に生命が宿るなら、そういうことになりますね」
泰葉はまったく悪びれるでもなく答えた。
死ぬ覚悟が決まると、余計な感傷は削ぎ落とされていく。
「…せっかく来たんだ。
ちょいと、年寄りの昔話に付き合ってくれないか」
“何か”は、生気のない瞳で泰葉を見つめた。
28: 以下、
彼女は、“池袋晶葉”と名乗った。
生まれは連邦領の辺鄙な惑星で、
もう忘れてしまうほど昔に生まれたそうだ。
今の身体は、脳を含めて完全な機械だという。
だというのに、晶葉の研究室には重力と空気があって、
椅子とベッドまで用意されていた。
29: 以下、
「ナナさんは、姉のような存在だった」
 仇の泰葉に向けて、晶葉は微笑んだ。
 現在のサイボーグ工学では、ありえないはずの表情だった。
「周囲から孤立していた私に、何かと世話を焼いてくれた。
 はじめは鬱陶しく思ったが、
 そのうち側にいないと不安になるくらい、
 私はナナさんのことが大好きになった」
 本当に懐かしく、楽しそうに彼女は語る。
 泰葉は黙って話を聞いた。どうせ死ぬまでの退屈潰しだ。
30: 以下、
「しかし、ナナさんの両親は私を遠ざけようとした。
 彼らは、超自然主義に傾倒していたんだ」
超自然主義。
かつての合衆国のヒッピーを源流とする、ある種の宗教。
宇宙世紀にあって機械文明を忌避し、
科学技術による医療行為さえも否定する。
「娘を悪しき道に引き摺り込む、
 マッドサイエンティストという扱いだったのさ。
 私はね。」
 晶葉は肩をすくめた。
 おかしくてしょうがないだろう、そんな風に。
 
31: 以下、
「ある時、ナナさんの身体が癌に冒されていることがわかった。
 初期の状態で見つかったから、完治が可能だった。
 しかし…」
 菜々の両親は、娘を“人間らしく死なせるために”癌の進行を放置した。
 死にたくない。もっと生きていたい、
 そう叫ぶ娘を部屋に閉じ込めて。
「私がナナさんを連れ出した時には、全身に転移していた。
 まだ17…これからもっと綺麗になる、そんな年齢で、
 彼女の身体はもう死の瀬戸際にあった」
 晶葉は淡々と話した。
 もし肉の声帯があれば、その言葉は震えていただろうか。
32: 以下、
「脳もすでにやられていてね…ナナさんは私に言った。
 このまま何も感じられなくなる前に、機械に身体を移したいと」
 意識の電子化。
 これは、科学技術が進んだ宇宙世紀でも禁忌だった。
 “魂の容れ物”、という倫理的な問題と、
 間接的な不死の実現による法経済の
 深刻な混乱が、目に見えていたためである。
「私達は躊躇なくやった。
 ナナさんは、なんとしても生きたかった。
 私はどんなことをしても、彼女に生きていて欲しかった」
33: 以下、
 そして2人は、人目のつかない鉱山惑星に身を潜めていたという。
 そこは朝と夜で気温差が300度もある過酷な惑星だった。 
 しかし晶葉も機械の身体になり、
 そのような環境での生活も可能であった。
「それで、まあまあ楽しく300年ぐらい生きた頃だったか…。
 ナナさんが苦しみだしたんだ」
 機械の身体に痛みはない。蝕まれるのは精神、心である。
34: 以下、
「“我思う。ゆえに我あり”
 高名な哲学者の言だが、ナナさんは自身の思考に
 全く自信を持てなくなってしまったんだ。
 今の自分は果たして、生身の人間だった頃の
 安部菜々と同一だと言えるのか。
 そんな風にな」
 回路を流れる電流は、ニューロンを走るそれと同等か。
 記録と思い出はどこで区別する?
 感情は、この苦しいという感情さえも、
 
 果たして本物だと言えるのか。
「私はナナさんの苦悩を取り除くことができなかった。
 人の心は、まったくの専門外だったからな。
 だから私達は、第三者による観測で
 “安部菜々”を定義しようとした」
35: 以下、
「“我思う。ゆえに我あり”
 高名な哲学者の言だが、ナナさんは自身の思考に
 全く自信を持てなくなってしまったんだ。
 今の自分は果たして、生身の人間だった頃の
 安部菜々と同一だと言えるのか。
 そんな風にな」
 回路を流れる電流は、ニューロンを走るそれと同等か。
 記録と思い出はどこで区別する?
 感情は、この苦しいという感情さえも、
 
 果たして本物だと言えるのか。
「私はナナさんの苦悩を取り除くことができなかった。
 人の心は、まったくの専門外だったからな。
 だから私達は、第三者による観測で
 “安部菜々”を定義しようとした」
36: 以下、
「それが、アイドル“安部菜々”の誕生」
泰葉は、人々が行方不明になった原因を知った。
「歌や映像に何か細工がしてあったんですか?」
「いや、そんな工夫はできなかった。
 そんなことをすれば、観測結果が歪められてしまうからな」
 つまるところ、人々がウサミン星に集まるのは、
 全く自発的な反応だったらしい。
 泰葉は苦笑した。
37: 以下、
「君は、どうやって“岡崎泰葉”を定義する?」
 晶葉が尋ねた。
 子どもらしい個性を鏖殺してしまうような
 過酷な訓練の中成長した少女。
 彼女は、どうやって自身を定義するのか。
 泰葉は、まったく考えることなく返答した。
「最強の戦闘機乗りです」
「それだけか」
「それだけで十分ですよ。
 だって、最強は1人しかいないんですから、
 いちいち悩む必要がないでしょう?」
38: 以下、
一見単純なようで、実は強烈かつ尊大な自負心。
 それは、“岡崎泰葉”に必要な資質なのかもしれなかった。
「…君に殺されるのが、運命だったのかもしれんな」
 晶葉は静かに呟いた。
「なんだか、ナナさんに申し訳ないんだが、
 肩の荷が下りた気分だよ。
 
 いや、あるいは彼女も……」
 数百年生きた者の情緒は、泰葉にはわからない。
 ただ、晶葉の表情はふっと力が抜けたようだった。
39: 以下、
「君、今年でいくつだ?」
孫に尋ねるような声で、晶葉が再び尋ねた。
「もうすぐ17になります」
泰葉の返事を聞くと、晶葉はくっくと笑った。
子どもっぽい、いたずらな笑顔だった。
40: 以下、
彼女は、泰葉を母星内のドックまで案内した。
そこには真新しい、どこの企業の
カタログにも載っていない戦闘機が鎮座していた。
三又の矛のような形状で、
装飾は目に痛いくらいのポップな桃色だった。
「これに乗って脱出しろ。
その後は味方艦と合流してもいいし、
13番目の岡崎泰葉は死んだことにして、身を隠してもいいだろう」
晶葉の説明によれば、機体には高度な
ステルス機能が搭載されていて、
存在をまったく感知されない航行が可能だという。
これを戦場に出されていたら厄介だった。
41: 以下、
「ところで、なぜ自爆機能を?」
戦闘機に乗り込む前、泰葉は尋ねた。
こんな大味で非効率的な機能を、
目の前の天才科学者がつけたのが不思議だった。
晶葉は胸を張って答えた。
「悪の組織の浪漫だよ」
「浪漫って、科学者らしくないですね」
「何を言う。浪漫を忘れた科学者など、ただの電卓だ。
 人間だってそうだぞ。
 浪漫があるから、前に進む。
 もっとも、良い方向にとは限らないが!」
晶葉はまた、くっくと笑った。
目に、涙が浮かんでいた
42: 以下、
「戦闘機乗りなどやめて、
 普通の女の子として生きてみたらどうだ?
 学校に通ったり…友達と放課後にアイスを食べたり、
 休日は恋人と遊びに行ったりするのもいいだろう。
 それで、時々はアイドルに憧れて…
 こっそり歌やダンスの練習をするのさ。
 そんな教科書のような青春を、
 いまから取り返すのもよかろう」
晶葉の言葉を聞いて、泰葉はふっと遠い目をした。
だがすぐに、首を振って答えた。
「“岡崎泰葉”は次の人間に引き継ぎますが…
 “私”はずっと戦闘機に乗り続けますよ。
 私の浪漫も青春も、この狭いコクピットの中にあるんですから」
そう言って笑う彼女の表情は、
ひどく人間臭く、魅力的だった。
43: 以下、
母星から脱出した戦闘機は、3カ国の艦隊をまっすぐにすり抜けた。
光学迷彩と、レーダー電波を吸収するフレーム。
熱感知を避けるために、機体温度も低くされている。
識別コードは『N/A』。
彼女は、どこにもいない戦闘機乗りとして宙域を離脱した。 
機関や軍に縛られない、自由な生き方をするために。
44: 以下、
艦隊が追ってこれないほど遠ざかった時、
機内に軽快なポップミュージックが流れた。
安部菜々の曲だった。
「私、結構好きかも…」
アイドルソングなど初めて聞いたが、彼女の耳によく馴染んだ。
岡崎泰葉をやめた何者かは、音楽に合わせて口笛を吹いた。
45: 以下、
おしまい。
46: 以下、
宇宙はいいぞ

元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497236923/
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美琴「週末は アイツの部屋で しっぽりと」超かみことを見てみんなで悶えましょう
ミサカ「たまにはMNWを使って親孝行しようぜ」御坂美琴のDNAは究極に可愛くて凄い
番外個体「  」番外通行SSの原点かな?
佐天「対象のアナルを敏感にする能力か……」ス、スタイリッシュアクションだった!
麦野「どうにかして浜面と付き合いたい」レベル5で楽しくやっていく
ミサカ「俺らのこと見分けつく奴なんていんの?」蒼の伝道師によるドタバタラブコメディ
一方通行「あァ!? 意味分からねェことほざいてンじゃねェ!!」黄泉川ァアアアアアアアアアア!!
さやか「さやかちゃんイージーモード」オナ禁中のリビドーで書かれた傑作
まどかパパ「百合少女はいいものだ……」君の心は百合ントロピーを凌駕した!
澪「徘徊後ティータイム」静かな夜の雰囲気が癖になるよね
とある暗部の軽音少女(バンドガールズ)【禁書×けいおん!】舞台は禁書、主役は放課後ティータイム
ルカ子「きょ、凶真さん……白いおしっこが出たんです」岡部「」これは無理だろ(抗う事が)
岡部「フゥーハッハッハッハ!」 しんのすけ「わっはっはっはっは!」ゲェーッハッハッハッハ!
紅莉栖「とある助手の1日ヽ(*゚д゚)ノ 」全編AAで構成。か、可愛い……
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
遊星「またD-ホイールでオナニーしてしまった」……サティスファクション!!
遊星「どんなカードにも使い方はあるんだ」龍亞「本当に?」パワーカードだけがデュエルじゃないさ
ヲタ「初音ミクを嫁にしてみた」ただでさえ天使のミクが感情という翼を
アカギ「ククク・・・残念、きあいパンチだ」小僧・・・!
クラウド「……臭かったんだ」ライトニングさんのことかああああ!!
ハーマイオニー「大理石で柔道はマジやばい」ビターンビターン!wwwww
僧侶「ひのきのぼう……?」話題作
勇者「旅の間の性欲処理ってどうしたらいいんだろ……」いつまでも 使える 読めるSS
肛門「あの子だけずるい・・・・・・・・・・」まさにVIPの天才って感じだった
男「男同士の語らいでもしようじゃないか」女「何故私とするのだ」壁ドンが木霊するSS
ゾンビ「おおおおお・・・お?あれ?アレ?人間いなくね?」読み返したくなるほどの良作
犬「やべえwwwwwwなにあいつwwww」ライオン「……」面白いしかっこいいし可愛いし!
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