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モバP「眼下の世界」


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事務所
ちひろ「本当にやるんですか……?」
P「マズイですかね?」
ちひろ「いや、どうなんでしょうか。二人共私は嫌いじゃないですけど」
P「俺もです」
ちひろ「そりゃそうでしょうけど」
ちひろ「例えば美味しい物と美味しい物を混ぜたとしても美味しくなるとは限らないですから…」
ちひろ「ケーキとカレーを混ぜても美味しくはないですよね?」
P「まぁ、そうですが。案外カレーとカツだったりしませんかね?」
ちひろ「どっちがカツですか?」
P「……さぁ?」
----------------------------------------------------------------------------
3: 以下、
ガチャ
時子「私を呼び出すとはいい度胸してるわね」
P「いや、事務所に顔くらい出してくれよ」
時子「私に口答えするなんてまだ鞭が足りないのかしら」
P「いやいや、流石に鞭を受けなきゃならないほど無知ではないと思ってる」
時子「ふん。まぁいいわ。レッスンまでの時間潰し。付き合いなさい」
P「構わないが先にこっちの話だ」
時子「そうだったわね。一体どういうことかしらユニットを組めだなんて」
時子「この私が誰かと組んでテレビに出ろと?日頃の恨みを晴らしているのかしら?」
ちひろ「まぁまぁ……」
時子「……貴方が相手ならそれはそれで面白いわね」
ちひろ「いえいえ。私では無理ですって」
ちひろ(なんか怒られちゃいそうだし)
時子「それで私を待たせる愚鈍な豚はどこにいるのかしら?」
4: 以下、
ガチャ
つかさ「お疲れ様……ん?」
時子「……」
つかさ「おい」グイ
P「ん?」
つかさ「お前、説明しろ」
時子「私のPに命令しないで貰えるかしら?」
つかさ「とりあえず説明してくれ」
P「そうだな。つまりだな――」
つかさ「なるほどな。アタシはコイツとユニット組むってか」
時子「私にこの小娘とユニットを組め。そう言ってるのね」
P「言い方に棘があるがそういう感じだな」
つかさ「お前はさ、アタシがコイツと組んだらアタシが輝けると思って選んだんだよな?」
P「勿論」
5: 以下、
つかさ「お前がアタシのことを24時間考えた結果がこれなら文句は言わな――」
時子「ダウト」
つかさ「ん?」
時子「24時間貴女のことを考えている筈はないわ。P、昨日の予定を答えなさい」
P「事務処理をしてから時子の仕事に付き合って終わりだな」
時子「そうだったわね。私の元に跪く姿は滑稽だったわね」
P(あぁ、移動中に時子の足元に何か落ちてたのを拾った時か)
つかさ「お前、そっちの趣味があったのか……」
P「いや――」
時子「いずれにせよ。24時間小娘のことを考えているなんてあり得ないわ。こんな年端もいかない小娘のことなんて」
つかさ「喧嘩を売ってるってのは十分分かったよ。歳取ると喧嘩っぱやくて敵わないね」ヤレヤレ
つかさ「てかお前もしっかり連れてくる人は選べよ?」
6: 以下、
P「俺はどっちも活躍出来ると思って組んで貰おうと思ったんだがな」
時子「……甚だ理解に困るわ」
つかさ「気が合うね。こっちもそれには同感」
ちひろ「お二人とも喧嘩せずに……」
時子「あら、喧嘩しているつもりはないわ」
ちひろ「へ?そうなんですか?」
時子「争いは同じレベルでしか起こらないものだから」クスッ
つかさ「口だけは達者になるんだな。これだから社会経験のないお嬢様は」
時子「生憎、経歴で、肩書で食べていきたいのならばワイドショーのコメンテーターにでもなったら良いんじゃない?」
つかさ「……」
つかさ「お前さ」グイッ
P「ん?」
つかさ「流石にこの人選は間違いだと思うわ」ハァ
時子「奇遇ね。Pにしてはらしくないボーンヘッドだわ。今度から鳥と呼べばいいかしら」
7: 以下、
事務所
ちひろ「だから言ったじゃないですか!」
P「うーん……」
ちひろ「今からでも遅くないですから言わないと!」
P「お互いを知らないからだと思うんですよ。あいつらはきっと合う筈です」
ちひろ「根拠は?」
P「一目置く人には素直な所ですかね」
ちひろ「お互いがお互いに尊敬すると?」
P「そう思ってます」
ちひろ「なるほど。それなら信じますよ」
ちひろ「ただ、あんな風にピリピリされると私の胃が持ちません」
P「確かに。すみません」
ちひろ「いえいえ。ただ、そこまで言うなら私も楽しみにしてますよ」
P「何をですか?」
ちひろ「カツカレーを」クスッ
8: 以下、
レッスン室
時子「……」
つかさ「……」
志希「何があったか知ってるー?」
蓮実「聞いたところによるとユニットを組むとのことです」
志希「組む前から破綻してそうだけど?」
蓮実「組んでないから辛うじて破綻してないのかなって感じですね」
志希「にゃはは。蓮実ちゃん面白いこと言うね」
蓮実「いえいえ」
時子「そこ。煩い」
つかさ「ごめん。今はちょっと集中したいんだわ。雑談だけするなら外で頼む」
志希「はーい」
蓮実「あ、ごめんなさい」
志希(似た者同士かな?)
時子「全くPは……」
つかさ「ちょい待ち」
時子「あ?」
9: 以下、
つかさ「そもそもさ、そこが気に入らないんだわ」
つかさ「さっきから、アタシのプロデューサーを馬鹿にしてる感じがすんだけど」
時子「簡単なことね。事実をそのまま述べただけ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
つかさ「ま。なんにせよ。アンタだけのアイツじゃないからな」
時子「その言い草。まるで恋する乙女みたいね」
つかさ「なっ……」
志希「修羅場?修羅場?」ワクワク
蓮実「いや、流石にそんなことは……」ヒソヒソ
つかさ「アイツはそういうのじゃなくて、アタシのパートナーってだけだ」
つかさ「流石にこれ以上アイツに恥?かせる訳にもいかねぇからまず自己紹介からするか」
時子「先に任せるわ」
つかさ「桐生つかさ。歳は18。社長兼アイドル。嫌いなものは偉そうな奴以上」
10: 以下、
蓮実(結構ドストレートですね…)
時子「財前時子。歳は21。アイドルをやっているわ。嫌いなものはそうね……肩書にこだわる人かしらね」
時子「以上」
志希(わーお。クロスカウンター)
つかさ「オッケー。嫌いなものが似てると短期的には仲良く出来るらしいってさ。よろしくな」
時子「そうね。よろしく」
蓮実「流石に出てましょうか」
志希「そーだね」
11: 以下、
廊下
志希「そーいえば蓮実センセー!」
蓮実「えっと…先生?」
志希「質問があります!」
蓮実「どうしたんですか?急に」
志希「さっきつかさちゃんがさ、『嫌いなものが似てると短期的には仲良く出来るらしい』って言ってたけど」
蓮実「長期的に仲良くするには?ですか?」
志希「そそ。蓮実ちゃんエスパー?」
蓮実「えぇ。エスパーです。アイドルはエスパーなんです」ドヤ
蓮実「というのは置いておいて……その答えは反対ですよ」
志希「反対?」
蓮実「えぇ。つまり――」
12: 以下、
レッスン室
時子「……」
つかさ「……」
時子「一ついいかしら」
つかさ「あん?どうした?ステップか?」
時子「少なくとも踊りに関しては貴女よりマシだわ」
時子「社長の席から見た景色はどうだったかしら」
つかさ「どうって……」
時子「やはり爽快なものなのかしら。全ての人が傅く世界というのは」
つかさ「あー……アタシはそういうのじゃなかったから」
時子「仲良しこよしだったのね」
つかさ「違うっての」
13: 以下、
時子「どう違うのかしら?」
つかさ「さぁね。女王様がビジネスの世界に興味を持つなんて意外だな」
時子「人の上に立ちたがるのが貴方。人が見上げるのが私。構図以上に埋められない差があるのは間違いないわ」
つかさ「皆に求められて立つのは気分的には悪くないけどな。アイドルに少しだけ似てるかもな」
時子「……物は言い様ね」
つかさ「まーな。それよりさっきからアタシら口しか動いてねぇじゃん。体動かさねぇとな」
つかさ「それこそ豚になる」
時子「それだけは死んでもゴメンね」
14: 以下、
時子「チッ」
つかさ「ぷはぁ」
時子「疲れたなら、動きが鈍ったと感じるならそこで休んでれば?私のレッスンの邪魔よ」
つかさ「はいはい。女王様の言うことは聞きますよ」
つかさ(元気だな……アタシも体力には自信あったんだけど)
つかさ「休憩も大事な練習だぜ?」
時子「それは疲れた時の理屈ね。今の私に当てはまらなくて、貴女に当てはまることよ」
つかさ「そりゃその通りだ」
時子「この事務所に居る貴女の本分はなんなのかしら?」
つかさ「ん?」
時子「戯言よ。気にしないでいいわ」
15: 以下、
レッスン室
P「そろそろ締めるぞー」
時子「あら殊勝な心がけね」
つかさ「お、もうそんな時間か」
P「そうそう。よろしくなー」
つかさ「あ、待った。そういやお前アレはどうなった?」
P「アレ?あぁ、この間の話か?」
つかさ「そうそう。アタシも言った手前気になってな」
P「問題なく進んでるぞありがとな」
つかさ「まぁ、アタシが噛んでる時点で失敗はあり得ねぇわ」
P「そうだな」
時子「先に上がるわ。戸締り頼んだわよ」
つかさ「ん。お疲れー」
P「お疲れ様」
時子「そうだ。一つ言い忘れてたわ」クルッ
P「どうした?」
時子「堕落を覚えた貴方はただの豚よ。ゆめ覚えておきなさい」
P「あぁ…?お疲れ」
16: 以下、
事務所
つかさ「アタシが思うに――」
P「いや、つかさ。ストップ。ありがたいんだが、つかさはそろそろ帰らないと――」
つかさ「いや、この件はしっかり今日の内に詰めときたい」
つかさ「信頼してるしてないじゃなくて、お前見てると燃えてくるんだよ」
P「それはありがたい話だが」
つかさ「まぁ、でも、アタシも流石に眠くなってきたしそろそろ纏めるか」
ちひろ「無理はしないで下さいね」
つかさ「ん。分かってるって」
P「レッスンは順調か?」
つかさ「アタシにその質問は愚問だぜ?お前らしくもない」
P「ならいいが」
つかさ「あぁ。大舟に乗ったつもりでいいぜ」
17: 以下、
ちひろ「時子さんとは仲良くなれましたか?」
つかさ「あー……それはまだだな」
ちひろ「そうでしたか」
ちひろ(やっぱり、無理だったんじゃないかな……)
つかさ「ま。でも悪い奴じゃねぇと思うけどな」
つかさ「だって、お前が選んだんだろ?」
P「まぁな」
つかさ「アタシが信頼してるお前が選んだなら文句なんてねぇよ」
ちひろ「仲良いですね。お二人とも」
つかさ「そういう訳じゃなくて。アタシとコイツはパートナーってだけだ」
ちひろ「仲良いじゃないですか」フフ
18: 以下、
翌日
レッスン室
つかさ「くぁ……」
つかさ(昨日話纏めてたせいで睡眠足りてねぇなコレ…)
時子「随分と間抜けな顔を晒してるわね。額にでも入れて廃品回収に出すべきかしら」
つかさ「額に入れたのに捨てるなよ」
時子「夜な夜な物思いに耽ているのかしら」
つかさ「んあ?あぁ、昨日ちょっとな。アイツもアタシがいないとダメだからさ」
時子「そう。遅くまでご苦労なことね」
つかさ「ん。時子に労われると変な感じだな」
時子「労ってるつもりはないわ」
つかさ「素直じゃねぇな」ケラケラ
時子「話すだけ無駄なようね」ハァ
時子「下らない。他のレッスンをしてくるわ」
バタン
19: 以下、
事務所
時子「Pはいるかしら?」
志希「ふふーん。志希プロデューサーならここにいるよー」
時子「そのスーツの中身はどこに行ったのかしら?」
志希「ここで問題!」
時子「答えは知らない。ね」
志希「わぉ。エスパー?」
時子「そもそも知ってたら、そんな受け答えしないわよね」
志希「なるほどなるほど。あたしのこと分かってるねー」
時子「Pが良く話してるからかしらね。随分お気に入りみたいね?」
志希「それはあたしが?プロデューサーが?」
時子「どちらもよ」
20: 以下、
志希「わぉ。相思相愛。ヤキモチ……妬く?」
時子「そんな冗談、分かっていても寒気がするわ」
志希「そっかー。まぁ、時子さんには一杯下僕いるもんね」
時子「有象無象に見上げられても退屈なだけだわ」
志希「そーいえば。問題の答えはね」
時子「ちょっと待った。さっき言ったでしょ?」
志希「んー。あれ嘘」
志希「正解は仮眠室で寝てる。でした?」
時子「……そう」
志希「流石に入っちゃダメだからね」
時子「話す気も失せたわ。貴女がココで大人しくしてる時点で野暮なことはしないわよ志希」
志希「ふーん」
21: 以下、
時子「一つ聞かせなさい」
志希「うん?」
時子「アイドルに敢闘賞はないわよね」
志希「そーだね。化学とかだったらその過程で何か生まれるかもしれないけど」
時子「それこそ無駄な仮定ね」
志希「そーだね」アハハ
志希「いきなりそんな質問してどしたの?」
時子「理由はないわ。最近勘違いしている輩が多いと思っただけ」
志希「辛辣だねー。プロデューサーが聞いたら苦笑いしそう」
時子「その時はどちらが上か今一度理解させるしかないわね」
志希「あはは。ほどほどにねー」
時子「時に志希。いつまで上着を着てるのかしら?」
志希「んー……満足するまでかな」
志希「時子さんがプロデューサーに絡むと同じ感じかな」
22: 以下、
レッスン室
つかさ「あー……気合い入れてかねぇと!」
蓮実「え、えっと私もいいですか?」
つかさ「ん?あぁ、勿論。レッスンはしっかりやらねぇとな」
蓮実「そうですね」
つかさ「時子もやってるみたいだし、私も……くぁ」
蓮実「寝不足ですか?」
つかさ「ちょっとね」
蓮実「ダメですよ!寝不足は肌の、アイドルの大敵です」
つかさ「まぁ、そうだよなぁ」
蓮実「無理に動かしても怪我のリスクが増えるだけですし」
蓮実「でも、つかささん何をされてたんですか?」
つかさ「んー、ちょっとな。アイツの手伝いとか」
蓮実「プロデューサーさんのですか?」
つかさ「まぁ、そんな感じかな。今度のライブの打ち合わせとか」
23: 以下、
蓮実「なんだか、プロデューサーみたいですね」
つかさ「ま。アタシも社長とかやっててそういう感じのことやってたからつい…ね」
つかさ「折角ならアタシもスタッフもアイツも三方好しって感じにしたいじゃんか」
つかさ「頑張ってる奴ら見たら、アタシも燃えてくるし」
蓮実「熱いですね。見てるこっちも頑張らなきゃって思います」
つかさ「熱は伝染するよな。本気の奴には惹かれるし」
蓮実「そうですね。私もそう思います。本気じゃないと伝わらないですよね」
つかさ「お、分かってるね。時子もこれくらい素直だったらなぁ」
蓮実「あはは……」
つかさ「うーん。やっぱりコンディション上がらねぇから早目にあがることにするわ」
蓮実「あ、お疲れ様です」
つかさ「そっちもほどほどになー」
24: 以下、
事務所
P「時子、何かあったか?」
時子「随分と遅い目覚めね」
P「あぁ、待っててくれたのか…なんかいい匂いするなこのスーツ」
時子「さっきまで志希が着て遊んでたわ」
P「なるほどな。それでか」
時子「自分の体臭を忘れるような愚図でなければそうじゃないかしら」
P「確かにその通りだな。それでどうした?」
P「何もなきゃわざわざ事務所のソファで待ってる理由もないだろ?」
時子「貴方にとってつかさはなんなのかしら?」
P「ん?俺のスカウトしてきたアイドルだぞ」
時子「そう。貴方が選んだアイドルね」
P「不満でもあったか?」
時子「不満……ね」
ガチャ
つかさ「あ、取り込み中?」
25: 以下、
P「いや、大丈夫だが」
つかさ「ちょっと、昨日の疲れが残ってるみたいでさ。かみ――」
時子「帰りなさい」
つかさ「え?」
時子「聞こえなかったの?顔の両側に付いてる耳は飾りだったようね」
つかさ「いや、帰るほどじゃ……」
時子「レッスンを途中で切り上げる貴方が惰眠を貪って何をすると言うの?」
つかさ「そりゃ、今度の打ち合わせを――」
時子「一度しか言わないから良く聞きなさい」グイッ
P「ん?」
時子「早くこの子を家に届けなさい。口答えも反論も聞く気はないわ」
P「分かった」
26: 以下、
つかさ「お、おい。勝手に決めんなって」
P「今日は帰ろう。送るよ」
つかさ「……それがお前の気持ちかよ」
P「今日はほら、無理しないでな」
つかさ「…分かった」
時子「それとつかさ」
つかさ「あん?」
時子「今の貴女じゃ私の隣に立つ資格はないわ」
つかさ「なっ……!」
時子「早く帰ることね」
27: 以下、
事務所
時子「ったく」ハァ
ちひろ「時子ちゃんって優しいですね」
時子「時子様」
ちひろ「はいはい。時子様は優しいですよね」
時子「どこが?」
ちひろ「全部ですかね」
時子「目がどうかしてるわね。かかりつけの医者に行くことはオススメするわ」
時子「さもなくば、抉ってやろうかしら?」
ちひろ「いえいえ。そんなことはないと思いますけどね」
時子「……たまに、大成功の舞台裏なんて言う裏方メインの番組があるわよね」
ちひろ「ありますね」
28: 以下、
時子「大失敗の舞台裏なんて番組聞いたことないわ」
ちひろ「言われてみればそうですね」
時子「物事は成功して初めて価値を持つの。アイドルのライブも一緒ね」
ちひろ「そうかもしれませんね」
時子「演者は自らに価値を持たせるべきね。無価値の存在などステージの上で見る価値もないわ」
時子「恐れられ、讃えられ、崇められてこそのアイドルよ」
ちひろ「意外に熱いんですね。もっと冷めてるのかと思ってました」
時子「アァン?いつの時代も冷たさの中には熱さがあるものよ。知らないの?無知ね」
ちひろ「それは失礼しました。私はただの事務員なもので♪」
29: 以下、
車内
つかさ「……」
P「寝ててもいいぞ」
つかさ「いや、眠気はぶっ飛んだ」
P(そらそうか)
つかさ「時子はなんであんなこと言ったんだろうな」
P「単純に心配してってことじゃないのか」
つかさ「資格がないとか何様のつもりだっての」ブツブツ
P「時子様だな」
つかさ「女王様かよ……」
つかさ「アタシが言えた柄じゃないが、あんな風だと敵作るぞ」
P「まぁ、そこらへんは上手くやってるんじゃないか」
つかさ「どうだか。いい年なんだからもっと大人な対応を……」
P「最近無理してるって見えたんじゃないのか?」
30: 以下、
つかさ「お前はどう見るよ」
P「正直、オーバーワークかと」
P「ユニットのレッスンに加えて、普通のレッスン、その後にこっち来て――」
つかさ「アタシが頑張るのは迷惑か?」
P「そんな訳があるか」
つかさ「そんな風にしか聞こえねぇな。お前もあっちの味方かよ」
P「敵とか味方とかじゃなくてな」
つかさ「分かってる。分かってるけど!」
つかさ「見える物全部拾ってやりてぇし、頑張ってるの見たら手差し伸べたくなるんだよ…!」
つかさ「間違ってるか?間違ってねぇだろ?」
P「間違ってないよ」
P(社長やったりしてたけど、考えてみたらまだ二十歳にもなってないんだよなぁ)
31: 以下、
P「そういや、時子のライブとかって見たことあるのか?」
つかさ「いや、ねぇな。あんまり関わり合いなかったし」
P「一度見てみたら時子の言葉の意味が分かるかもしれないな」
つかさ「そんなもんか?」
P「つかさともあろうものが、これから組むパートナーのことを知らないなんてな」
つかさ「……今夜中に見る。大方DVDか何か持ってるんだろ?」
P「流石に持ってないな。あとで送るよ」
つかさ「ん。ASAPで頼んだ」
32: 以下、
つかさ宅
つかさ「おー、来た来た」
つかさ「相変わらず仕事早いなアイツ」
つかさ「しっかし、時子ってどんなライブやってるんだろうな」
つかさ(下僕とか言ってるしなんとなく想像が付くけどな……)
つかさ「……」
つかさ「――なるほどな」
つかさ(こりゃ資格ないって言われるわ)
つかさ「……ちくしょう」
33: 以下、
翌日
レッスン室
つかさ「時子。おつかれ」
時子「あぁ、いたの?」
つかさ「おかげ様で早く帰れたからな」
時子「そう」
つかさ「それで聞いて貰っていいか?」
時子「生憎、貴女に割く時間はないわ」
つかさ「アタシはさ、JKで社長でアイドルなんだよな」
つかさ「どれが本業かって言ったら全部なんだけど」
時子「……」
つかさ「少なくとも。ここでレッスンしてる間はアタシはアイドルが本業だ」
つかさ「それと、アタシに価値がないって言ったのは訂正させる。これは決定事項」
34: 以下、
時子「勝手にしたらいいわ」
つかさ「言われないでも勝手にしてやるって」
つかさ「とりま、ボーカルのレッスン付き合ってくれねぇか?」
時子「それが人にお願いする態度かしら?違うでしょ?」
つかさ「……お願いします」ペコリ
時子「そう。分かればいいわ」
時子「つかさ」
つかさ「ん?」
時子「貴女の肩書になんて興味はないけれど、恥も外聞もなく頭を下げたアイドルの貴女は悪くないわ」
つかさ「アタシだってプロだ。恥ずかしいステージを見せるくらいなら頭一つ安いもんだろ」
時子「……フン」
35: 以下、
事務所
蓮実「何かあったんですかね?」ヒソヒソ
志希「シキちゃんにも分からないね」
P「俺も分からないな」
P(昨日、時子のライブ動画を見たからか?)
つかさ「アタシが思うに時子ってこういうのも似合う気がすんだけど」
時子「それはつかさのセンスを疑うわ」
つかさ「そうか?いいと思うんだけどな。一度着たりしてみない?」
時子「機会があればね」
つかさ「決まりだな。あとで持ってくる」
時子「そこの四人衆。なに見てるの?」
P「いや、仲良くなって良かったなと」
時子「勘違いもほどほどにしなさい」
ちひろ「仲良さそうに見えますけどね」
時子「……ふん」
36: 以下、
ライブ当日
つかさ「いよいよだなライブ」
時子「そうね」
つかさ「アタシ的には頑張ったつもりだ」
時子「努力するのは当たり前よ。敢闘賞はないのだから」
つかさ「そりゃ勿論そうだけどさ」アハハ
つかさ「ただ、時子がやってきたことを見て何かを思う人はいると思うぜ」
つかさ「何かの賞とかじゃなくても。憧れはまた次の憧れを生む訳だ」
時子「私に憧れを抱くなんて大それた下僕だこと」
つかさ「時子のファンが抱くのは憧れじゃなくて忠誠だよな」
時子「全くね」クスクス
時子「それに憧れというフィルターを通して見た世界は理解から最も遠いの」
時子「貴女に憧れている人がいたら今すぐそう忠告してやることをオススメするわ」
つかさ「まあ、いたら言っとくよ」
37: 以下、
時子「今の貴女なら、私の隣にいる資格があるわ」
時子「満員の観衆がいようとも、誰がいようとも今日のライブに置いては貴女以外私の隣に立つ資格があるものはいないわ」
時子「悦びなさい」
つかさ「ようやく認めてくれたって感じか?」
時子「勘違いしているようだけど、資格があるだけで認めてる訳じゃないわ」
つかさ「素直じゃないな」
時子「その良く回る口を削ぎ落とすわよ」
つかさ「せめて、ライブが終わるまで待ってくれると嬉しい」
時子「当たり前じゃない」
38: 以下、
時子「さて、そろそろ出番のようね」
つかさ「そうだな」
時子「恐れられ、讃えられ、崇められてこそのアイドルよ」
時子「私達の美声に酔う権利を得た選ばれし者に無上の幸福を」
つかさ「最高のライブにしてやろうぜ」
時子「締まらないわね……」ハァ
つかさ「そうか?」
39: 以下、
ワァァァァ トキコサマー
P「お疲れ様」
時子「愉快なステージだったわ。見たかしらあの景色」
時子「下僕どもが叫ぶ姿、滑稽でしょうがなかったわ」
P「あぁ、凄かったな」
時子「貴方もいつかあんな風に支配してみたいものよ」
P「それはまだ当分先の話だな」
時子「ふん。いずれにせよ、貴方が解き放った私の姿。網膜に焼き付けておきなさい」
時子「24時間365日思い出せるように」
つかさ「……」
P「つかさ?どうした?」
つかさ「やっべぇよお前……」
P「もしかして体調が」
つかさ「く、クセになりそう……」ゾクゾク
時子「素質がありそうねつかさ」クックックッ
40: 以下、
つかさ「時子が言ってたことは分からねぇけど、光るステージでファンの連中がこっちを惚けた顔で見つめてくるのは癖になりそうだわ」
つかさ「なんて言うんだろ、とにかくクセになるな。自分の体がこうカーって熱くなって顔がニヤケちまう」
時子「流石のプロデュース能力ね」
P「喜んでいいのやら……」
時子「アイドルの新たな才能を発掘したのよ。冥利に尽きるじゃない」
つかさ「また、アタシの魅力を見つけてくれた訳か……お前やるじゃん」
41: 以下、
車内
つかさ「それじゃ。お先」
P「お疲れ様」
時子「今回のユニット。意図はなんだったのかしら?」
P「意図か。二人なら上手く合うかなと」
時子「直感と言うわけね。経験に基づく何かかしら」
P「買い被りすぎだな」
時子「必要以上の謙遜は不快だわ」
P「悪い悪い」
42: 以下、
P「時子的にはライブどうだった?」
時子「答えるまでもないわ。あの歓声が聞こえなかったのかしら。豚共の、下僕どもの救いを求めるような声が」
P「聞こえたさ」
時子「それが貴方の血で作った舞台の結果よ」
P「それは良かった」
時子「えぇ。素晴らしい忠誠の誓い方ね。努力しましたとか、頑張りましたなんて戯言を吐くことなく結果のみを追う。最高の裏方ね」
時子「尤も、いくら動いたところで影は影なのだけれど」
P「俺が目立つ必要はないからな」
P「ただ、時子の光に負けないようにやるだけだ」
時子「憧れを抱く必要はないわ。本来の私が見えなくなるだけよ」
時子「胸を張りなさい。唯一私に仕えられるのだから」
P「分かった」
時子「そろそろね」
P「そうだな」
時子「耳を貸しなさい」
P「ん?」
43: 以下、
時子「――ぷは」
P「え?おい」
パチンッ
P「いたっ!え?」
時子「それじゃ。これからも私のために働くことね」
P(耳が熱い……)
44: 以下、
翌日
事務所
つかさ「おっす。お疲れ」
P「お疲れ様」
つかさ「耳どうした?蚊にでも刺されたか?」
P「赤いか?」
つかさ「ちょっとな」
P「まぁ、ちょっと色々あってな」
つかさ「薬でも塗っておけよ?悪くなってもアレだし」
P「そうだな」
つかさ「そういやさ」
P「ん?」
つかさ「昨日のライブどうだった?」
P「良かったよ」
45: 以下、
つかさ「ん。サイコーの答えサンキュ」
つかさ「お前も色々動いてくれたみたいじゃん」
P「そりゃ、それが仕事だからな」
つかさ「お前みたいな奴がいるからアタシらは頑張れるんだよな」
P「時子もそんなこと言ってたな」
つかさ「へぇ。そうなんだ」
つかさ「そうだ。昨日のライブの反省と今度の打ち合わせするか」
P「後でな」
つかさ「お、悪い悪い。それじゃ、今日の夜でいいか?」
P「何時になるか分からないぞ?」
つかさ「OKいつまでも待つわ。どうせ今のアタシは24時間アイドルのこと考えてるし」
P「まぁ、あまり遅くならないようには努力するさ」
つかさ「OK。それじゃ待ってるわ」
つかさ「あぁ、それとさ」
P「ん?」
つかさ「24時間アタシのコトを考えろ。とはもう言わない。だけど時子よりは私のこと考えてろ」
P「……」
つかさ「アタシの知ってるお前ならどう答えるか知ってるから答えは聞かねぇ」
つかさ「それじゃ、レッスン行ってくるわ」
46: 以下、
志希「そういや蓮実ちゃん」
蓮実「なんですか?」
志希「長期的に仲良くする秘訣ってなんだっけ?」
蓮実「長期的に……あぁ、この間の話ですか?」
志希「そそ」
蓮実「簡単ですよ。好きなモノが同じである方が長期的に仲良く出来ますね」
志希「アレは?」
蓮実「アレは……どう見えますか?」
志希「んー……二人共仲良く出来そうな気がするよねー」
蓮実「ですね」クスクス
47: 以下、
終わりです。
読んで下さった方ありがとうございます。
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