青島「どうして署内でうんこが漏れるんだ!」back

青島「どうして署内でうんこが漏れるんだ!」


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タイトルの通り、踊る大走査線の糞SSです。
真下が湾岸署の新署長として登場しますが、和久さんが生存しているお話です。
Movie3からの新キャラは出てきません。
以上のことを踏まえてご覧下さいませ。
それでは、以下本編です。
2: 以下、
その日の朝。
湾岸署にいつも通り出勤した青島は、ふと違和感を覚えた。何かがおかしい。
署内に喧騒が満ちている。これはまずいい。
普段からこの警察署は騒がしい。それは確かだ。
しかし、目の前に広がる光景は、おかしい。
青島「なーんでこんなに並んでんだ……?」
長い行列。しかも、2列。
それぞれ、男女に分かれている。
そしてその例の先には……トイレがあった。
青島「首から出る汗……ありゃうんこだな」
皆一様に青い顔をして腹を押さえている。
喉元には冷や汗が浮かび、苦しげだ。
彼らを苛む生理的衝動を、刑事として培った鑑識眼によって、即座に看破する。
青島の呟きを数人の署員が聞き咎め、睨む。
特に女性署員達の視線が痛い。
それを誤魔化すように半笑いを浮かべ、足早にその場を後にする。長居は無用だ。
これが事件の始まりであった。
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3: 以下、
青島「おはようございまーす!」
和久「朝からデカい声出すな。腰に響く」
警官になる前のセールスマン時代に身につけた持ち前の快活さを発揮して元気に挨拶をする青島に、和久は小言を言ってきた。
それに対して、少しむっとする。
朝だからこそ、元気に挨拶をしたのに。
すっかり禿げあがった和久平八郎の頭を思わずひっ叩きたくなる。しかし、我慢する。
何せこの後期高翌齢者はすこぶる頑固だ。
叩くなど以ての外だし、口答えすら許さない。
そんなことをすれば、倍返しをされてしまう。
仕方なく青島はじじいを放置して自分のデスクへと向かう。戦略的撤退である。
そんな彼に、丁度後ろの席から声が掛かる。
すみれ「和久さん今日、機嫌悪いみたいね」
青島「いつもだろ」
すみれ「こりゃ失敬」
すぐ後ろのデスクに腰掛けるのは、恩田すみれ刑事だ。愛嬌のある笑みを浮かべている。
こちらを慮る口調ではあるが、騙されない。
この年上の女性刑事は青島が困っている様子を見て、楽しんでいるのだ。実にたちが悪い。
まったく……この悪癖さえなければ。
頭を掻きつつ青島は、そんな益体もないことを思わずにはいられないのだった。
4: 以下、
すみれ「ほら、これでも飲んで元気出して」
青島「おっ!サンキュー!」
すっかりしょげてしまった青島にすみれはコーヒーを淹れてくれた。お礼を言って受け取る。
こんな気配りを彼女は忘れない。
先ほどの憤りなどすっかり忘れたように、刑事課に置かれたコーヒーメーカーから抽出されたそれに舌鼓を打つ彼。まるで子供みたいだ。
そんな青島を手のかかる子供の様に見つめていたすみれは、不公平にならないように和久さんにもコーヒーを差し入れ、そしてついでに自分の分も淹れて、美味そうにゴクリと飲んだ。
緒方「俺の分は淹れてくれないんですね……」
その様子を物欲しげに見つめる緒方薫。
まだまだ刑事になって日の浅い彼が恩田刑事のコーヒーにありつける道理はなく、仕方なく自分で淹れて飲む。苦さが目にしみる。
真下「やあやあ皆さん!揃ってますね!今日も1日、頑張りましょー!!」
そんな折、ヘラヘラと満面の笑みを携えて、湾岸署の新署長である真下正義が刑事課を訪れた。
5: 以下、
魚住「これはこれは真下署長。おはようございます」
現れた真下に、刑事課の課長である魚住二郎が慌てて駆け寄り、恭しく朝の挨拶を述べる。
もちろん、揉み手をしながら。
魚住「見回りですか?朝から精が出ますな」
真下「ああ。署内を見回るのも、署長の勤めだからね」
元部下の真下に対してすっかり腰巾着と化した魚住に、署長は尊大に応じる。
これが国家公務員第?種と第?種との格差だ。
キャリアとノンキャリの違いである。
真下「そんなことより魚住課長」
魚住「なんでしょう?」
真下「コーヒーはもう飲んだかね?」
唐突な真下署長の問いかけ。
質問の意図がわからず魚住は困惑する。
魚住「いえ、今朝はまだ飲んでいませんが……」
真下「早く飲みたまえ」
魚住「なぜでしょう?」
真下「コーヒーに含まれるカフェインによって、眠気が緩和され、仕事が捗るからに決まっているでしょう。いいから早く飲みなさい」
早口でそうまくし立てると、真下は声を張り上げて、他の署員達にも同様に命じる。
真下「署員全員、今すぐコーヒーを飲むこと!これは署長命令だ!従わなければ服務規定違反で左遷する!!ほら、早く飲んだ飲んだっ!」
その命令によって、コーヒーメーカーに長蛇の列が出来る。左遷などたまったものではない。
その様子を、真下はにこやかに眺めていた。
6: 以下、
青島「なーに朝から威張ってんだあいつ」
すみれ「そういうお年頃なんじゃないの?」
我先にとコーヒーを飲み始める署員達を尻目に、言われるまでもなく既に命令を実行に移していた青島とすみれは、陰口を囁き合う。
まあ、真下の奇行は今に始まったものではないので、気にするだけ無駄だろう。
結局そう結論付けて、仕事に戻ろうとした彼らの肩を、何者かがポンポンと叩く。
何用かと二人揃って振り向く。
するとそこには、懐かしい顔ぶれがいた。
神田「僕が署長だった時には、あんな無茶な命令はしなかったよね?ねえ、秋山くん」
秋山「おっしゃる通りで」
神田「君もそう思うだろう?袴田くん」
袴田「ごもっとも」
退職した神田元署長と秋山元副署長に付き従うのは袴田現副署長である。姿が見えないと思ったら、どうやら朝から接待していたらしい。
ちなみに神田と秋山は現在、和久と同じく退職者再雇用制度によって指導員として後進の育成に当たっている。もっとも和久はともかく元署長と元副署長に教わることなど無いに等しい。
署員達は彼らを反面教師と位置付けていた。
真下「また来たんですか、神田元署長」
真下がやってきて、嫌味がましく非難する。
神田達も敵意を露わに、剣呑な雰囲気だ。
神田「随分なご挨拶じゃないか真下くん」
秋山「我々は指導員として、後進の育成を……」
真下「余計なことはしないで、応接室でコーヒーでも飲んでいてください。袴田副署長、彼らのことは任せましたよ」
袴田「お任せ、下さい。では、こちらに」
結局現署長の権力には勝てずに、神田達は袴田に連れられて悔しそうに応接室に軟禁されることとなった。本当に何をしに来たんだか。
7: 以下、
そんなひと騒動が終わった後、青島達署員はひたすら書類仕事に黙々と取り組んだ。
刑事課が出動する事件など、早々起こらない。
ましてや強行犯係ならば尚更だ。
大抵は街の交番がなんとか解決する。
だから平時はこうして過去の事件における情報や報告を整理するのが彼らの仕事だ。
それは平和の証拠なれど、とても退屈である。
常に胸が熱くなるような事件を追い求める青島のような熱血刑事にとっては、拷問に等しい。
しかし、そんな束の間の平穏は……
あっさりと終わりを迎えた。
『キャアアアアアアアアアッ!!!!』
署内に悲鳴が響き渡る。
耳をつんざく、まるで断末魔のような金切声。
その声を受け、咄嗟に身構えるのは刑事の性。
椅子から立ち上がり、姿勢を低くしながら悲鳴の出所を探る。どうやら、通路からのようだ。
青島「緒方!行くぞっ!!」
緒方「は、はいっ!!」
ようやく巡り会えた事件に胸を高鳴らせながら、青島は緒方を連れて現場へと向かった。
9: 以下、
青島「はいはーい!ちょっと通してね」
緒方「強行犯係です。どうしましたか?」
通路に出ると、人垣が出来ていて、そこが事件現場であると察した彼らは野次馬どもを押し退け、現場の保護と聞き込みを行う。
しかし、保護する必要も、そして聞き込みすら必要なかった。何が起きたのかは一目瞭然だ。
青島「……漏らしてるな」
緒方「ええ。間違いありません」
うつ伏せで床に倒れ伏す男性署員。
彼の尻とその周りの床に便が広がっている。
かなり水気の多い、下痢便である。
現場の保護をするまでもなく、野次馬は必要以上に近寄ろうとはしない。だって、臭いから。
青島と緒方はハンカチで鼻を覆いつつ、ものすごい臭気を発するその人物へと歩み寄る。
そしてうつ伏せで気を失うその人物の顔に、見覚えがあることに気がついた。
中西「うぅ……」
青島「中西係長じゃないっすか!?」
緒方「しっかりして下さい!!」
便に塗れていた男性署員は中西係長だった。
彼は刑事課の窃盗犯係の係長である。
つまり、恩田すみれの上司だ。
その為、青島は咄嗟にすみれを呼ぼうとした。
青島「今、すみれさんを呼んで来ますから!」
中西「ま、待て。彼女には言わないでくれ」
青島「でも!」
中西「僕は刑事として、覚悟は出来ている」
下痢便に塗れながらも中西の目には力がある。
少しばかりの逡巡の後、青島は頷いた。
それを見て、漏らした中西はほっと安堵した。
10: 以下、
中西「あ、青島くん……これは事故ではなく、事件だ。どうか、僕の仇を討って欲しい」
床に這いつくばったまま、青島を見上げて中西は懇願する。仇を打てと。極めて物騒である。
青島「どういうことっすか?」
中西「僕は朝、きちんと家で排便してから出勤した。それなのに、この有様なんだ」
中西の証言を聞いた青島は戦慄した。
朝排便をした彼がどうして漏らしたのか。
実に不可解な事案だった。
とりあえず、聞き込みを続ける。
青島「朝飯は何を食べましたか?」
中西「トーストを2枚。それだけだ」
青島「ヨーグルトとかは?」
中西「食べていない」
そこまで聞いて、隣で熱心にメモを取る緒方と顔を見合わせる。トースト2枚でこの有様?
そんなこと、あり得るのだろうか。
中西「今日は昨日残した仕事をする為に少し早めに出勤しててね。その後しばらくして出勤してきたすみれくんにコーヒーを貰ってそれを飲んだ。僕は今日、それ以外は口にしてない」
これまでの彼の証言には異常は見られない。
それなのに、どうしてこうなったのか。
青島と緒方は聞き込みを続けた。
11: 以下、
中西「君達が出勤してくる前に、突如便意を催した僕はトイレに急行した。しかし、トイレには長蛇の列が出来ていて、しかも、トイレに入った人達はなかなか出てこなかった」
その話を聞いて、ぞっとする。
それと同時に納得もした。
確かにトイレには今朝、長い列が出来ていた。
青島自身もそれは確認している。
となると、その後の結末は想像に難くない。
中西「僕は必死で我慢をして自分の順番を待った。歯を食いしばって、拳を握りしめ、ひたすらに堪えた。だけど……間に合わなかった」
心底悔しそうな中西の声が胸を打つ。
なんと声をかければ良いかわからない。
緒方も同じ気持ちらしく、顔を真っ青にして俯いている。やるせないのだろう。
中西「くそっ!大の大人が職場で漏らすなんてっ!!ちくしょうっ!ちくしょうっ!!」
声を荒げて拳を床に打ち付ける中西。
目尻には涙が浮かび、震え声の怒声。
虚しい叫びをそれ以上聞くことに耐えきれず、遅れてやってきた鑑識に任せて立ち去る。
青島「行くぞ、緒方」
緒方「す、すみません……青島さん」
青島「……緒方?」
デスクに戻って情報の整理に当たろうと緒方に声を掛けるが、彼はその場を動こうとしない。
青島が怪訝な視線を向けると……
緒方「あ、ああ、ああああああ……」
ぼたぼたと、緒方の足元に何がが溢れた。
それは中西と同様の……下痢便だった。
12: 以下、
青島「ちょっと!何してんの!?」
緒方「すみません……!すみません……!」
慌てて後ずさる青島に滂沱の涙を流しながら謝罪をする緒方。彼は立ったまま脱糞していた。
野次馬が再び悲鳴を上げる。
そしてそれは、この場だけでは収まらない。
青島「ど、どしたのよ、みんな」
あちらこちらで署員が便を漏らしていた。
人の漏らす様に驚いて漏らす者までいる。
さながら便の連鎖とでも呼ぶべきか。
とにかく、湾岸署は阿鼻叫喚に包まれた。
そんな中でも冷静に、青島は分析する。
便を漏らした署員の多くは、中西と同じくトイレに並んでいた者達である。
つまり、便意に耐えきれずに漏らしたのだ。
それほど、トイレに続く列は果てしない。
一応この場所以外にもトイレはあるのだろうが、どこも同じだろう。
階下からも上階からも悲鳴が聞こえる。
また1人、また1人と便を漏らしていく。
湾岸署に『うんこハザード』が発生した。
13: 以下、
その頃。
警視庁捜査一課は俄かに慌ただしくなった。
湾岸署で『うんこハザード』が確認された。
その一報を受けて、凶悪犯罪を担当するエリート捜査員達の派遣が決定されたのだ。
既に鑑識課は現場に向かわせている。
大勢の捜査員達が乗り込む黒塗りのバンが何台も警視庁から出動する。唸るエンジン音。
けたたましいサイレンの音。
迅に、やかに、現場へと急行する。
そしてこの大事件は、警察庁でも物議を醸していた。大会議場の扉が開かれ、幹部達が入室する。
皆一様に、固い表情を浮かべ、おし黙る。
最後に入室したのは警察庁長官。
警視庁のトップである警視総監すらも指揮下におく、警察官僚の頂点である。
そんな彼が、重い口を開いた。
長官「由々しき事態だ。事態の沈静化を図る」
その決定に、意を唱える者はいない。
この場にいる全員が同じ気持ちだった。
事態の沈静化。それが共通の目的である。
長官「室井。室井はいるか?」
室井「なんでしょう、長官」
警察庁長官に名指しされ、官房審議官として会議に参加していた室井は名乗りを上げる。
長官は彼をしばらく睨め付け、命令を下した。
長官「湾岸署に行って、現地の指揮を執れ。手段は問わない。やかに事態を沈静化させろ」
室井「……わかりました」
会議に参加し発言権を持つ室井でも、長官から直接下される命令には首を縦に振るしかない。
絶対的な縦割り社会。上が下を駒として使う。
成果が出せなければ責任を負わされる。
その摂理を重々承知している室井は……
眉間に深く皺を刻み、湾岸署へと向かった。
14: 以下、
湾岸署に続々と捜査車両が到着する。
最初に現れたのは警視庁の鑑識課だ。
アタッシュケースに入れた様々な試験薬や道具を運び入れ、『うんこハザード』の具体的な原因を探っていく。鑑定のエキスパートだ。
ややあって、捜査員一課の刑事が現れた。
彼らは糞塗れの所轄警察官には目もくれず、湾岸署の会議室を占拠した。冷徹そのもの。
出世の為なら手段を問わない、捜査畑の職人。
だいぶ間を空けて、公安部も到着した。
彼らはまるで人目を避けるように、正面玄関からではなく裏口から入ってくる。
手荷物は必要最低限。普段あまり人気のない資料室の片隅に巣を作りひそひそと声を潜める。
警察官の悪事を暴く、プロフェッショナルだ。
そんな物々しい彼らが現場を制圧した後も、被害者は増加していた。増え続けている。
署内の全てのトイレには未だに長蛇の列が伸びているし、中には署内から逃亡して、外で用を足そうと考える者が続出した。
しかしそんな逃亡者を機動捜査隊が阻む。
ポリカーボネート製の強固な盾を並べて、鼠一匹逃さない完璧な布陣。湾岸署は封鎖された。
現在、湾岸署には戒厳令が敷かれている。
便に塗れた署員の姿を衆目に晒す訳にはいかないのだ。警察庁からの厳命である。
腹を押さえて盾を叩く署員を必死に宥める。
しかし、便意に取り憑かれた彼らの耳には届かない。また1人、また1人と下痢便を漏らす。
訓練された機動捜査隊員達が堪らず目を背けるような地獄絵図。そんな中、1人の男が現れる。
室井「……通してくれ」
かっちりとしたダークスーツを身に纏う室井が警察手帳を翳すと、機動捜査隊員達は即座に敬礼して、道を開けた。畏怖すらも感じる。
これもまた絶対的な縦割り社会。
だが、彼らの遥か上を歩む室井は、他の超越者達とは違う。少々変わっているとも言える。
彼は便を漏らして泣き喚く湾岸署の署員の傍に膝をつき、深々と頭を下げた。
室井「……遅くなって、すまない」
短い謝罪。その後、顔を上げる。
その目には、事件解決への決意が満ちていた。
15: 以下、
署内に入った室井は革靴を響かせて会議室を目指す。道中の有り様は酷いものだった。
そこら中に便が撒き散らされ、署員が呻く。
凄まじい臭気が鼻をつき、胃液がせり上がる。
しかし、そんな中でも黙々と作業を続ける鑑識課の者達の前で、みっともない姿は晒せない。
上に立つ者の矜持が、室井の理性を守った。
落ち着きを取り戻した彼は、規則正しく靴音を響かせる。そして、刑事課の前に差し掛かる。
青島「……何してんすかこんなとこで?」
刑事課から顔を出した青島が、声を掛ける。
彼の問いかけに、室井は足を止めて答えた。
室井「今回の事件の陣頭指揮を任された」
青島「これがあんたの仕事っすか?」
室井「どういう意味だ?」
言わんとすることはわかる。青島の苛立ちも。
けれど室井は敢えて立ち向かう。
それもまた、上に立つ者の務めだった。
青島「あんた偉くなったんだ。うんこの事件を解決している場合じゃないでしょ?」
室井「この事件だからこそだ。これは極めて高度な政治的事案だ。だから私が派遣された」
青島「……また政治、ですか」
室井「言いたいことがあるならはっきり言えっ!」
こちらの言い分をせせら笑う青島に腹が立って、室井は怒気を露わに詰問する。
つい、胸倉を掴んでしまった。それでも、離さない。それが、不器用な室井のやり方なのだ。
16: 以下、
青島「……仲間が漏らした」
ポツリと、泣きそうな声で青島が呟く。
思わず目を見張り、胸倉を掴む手を緩める。
青島が……泣いていた。
青島「どうして署内でうんこが漏れるんだ!」
今度は室井が胸倉を掴まれる番だった。
泣きながら、青島は問う。どうして、と。
しかし現状、それに対する答えを室井は持ち合わせていない。それは青島もわかってる。
沈黙を貫く室井を、乱暴に突き飛ばす。
よろめきながらも、室井はシャツの襟を直す。
そして、青島に向けて命令した。
室井「捜査を立て直す。……力を貸してくれ」
不器用な室井の命令は、半ば懇願であった。
しかし、それが実に彼らしい。
そんな室井の頼みを、青島は快諾した。
青島「任して下さい。俺達の湾岸署ですから」
そう嘯いて涙を拭い、笑顔を見せる青島を従えて、室井は久しぶりの捜査会議へと赴いた。
キャリアとノンキャリ。現場をよく知る青島を室井は重宝し、しっかりと手綱を握る。
互いが目指すところは事件解決の一点のみ。
それだけを胸に携え、彼らは共に歩む。
けれど室井は気づかない。
青島の喉元に浮かぶ、冷や汗をことを。
17: 以下、
その後、捜査会議で事件について話し合った。
事件発生時刻は本日早朝。
まず当直の署員がやられた。
彼らは腹痛によってトイレに籠らざるを得なくなり、その後1時間近く個室を占拠した。
その間に続々と出勤してきた署員達が腹痛を訴え、トイレに長蛇の列が生まれた。
この事件の特徴は、便を出し終えるまでの時間が非常に長いということだ。つまり、それだけ長い時間、便意に苛まれる。厄介な症状だ。
そのことについて、鑑識はこのように語る。
鑑識「被害者の便から強力な下剤の成分が検出されました。これが便を漏らす要因となったものと考えられます。比較的入手が簡単な市販の下剤を何らかの形で服用させたと思われます」
室井「下剤の製造元は?」
鑑識「すみません。そこまでは……」
室井「引き続き遺留品の鑑定を進めると共に、対症療法のレクチャーも受けて下さい」
凶器が明らかになったことで捜査は前進した。
しかし、市販の薬というのが厄介だった。
病院で専門的に処方される物とは異なり、誰にでも買える市販品ならば犯人の特定は困難だ。
他に証拠に繋がりそうな証言が欲しい。
室井「他に何か気づいたことはないか?」
そう尋ねた直後、会議室の扉が突然開いた。
ざわつく会場を駆け抜けて、1人の女性警官が青島の元へと向かう。恩田すみれである。
すみれ「青島くんっ!和久さんがっ!!」
18: 以下、
すみれの悲痛な叫びに言い知れない不安を抱いた青島は、会議を中座して刑事課へと急いだ。
そこに、和久が倒れ伏していた。
青島「和久さん!?」
和久「青島……何やってんだ、捜査に戻れ」
青島「だ、大丈夫なんすか……?」
すみれがあれほど狼狽していたので、何事かと思ったが、和久はひとまず大丈夫そうだ。
そのことに、胸を撫で下ろす。
なんだかんだ言っても、青島はこの大先輩のことを尊敬していた。何事もなくて良かった。
しかし、和久は床に寝たまま起き上がる素ぶりを見せない。ただ静かに微笑んでいる。
不安そうな表情の青島を、和久は諌める。
和久「信念を持ってる奴はまた立ち上がれる」
どこかで聞いたような台詞。
それは自分に言い聞かせているようだった。
和久「お前も、すみれさんもそうだったろ?」
青島「まさか……和久さんまで……?」
和久「俺ももう歳だな。踏ん張りが効かねえ」
それで全てを察した。
和久は……漏らしたのだと。
19: 以下、
青島「和久さん俺、もうどうしたらいいか……」
和久「泣き言を言うな。頭で考えるんじゃなく、足を使え。お前はまだ、歩けるだろ?」
途方に暮れる青島を、突き放すような口調。
和久なりの激励の仕方である。
大きく頷くと、和久は嬉しそうに目を細めた。
和久「俺は平気だ。……年の功だよ」
青島「年の功……?」
和久「そんなことはひとまず置いておけ、それよりもちょっと気になることがある」
青島の質問をはぐらかした和久は、強引に話題を変更する。仕方なく、青島は耳を傾ける。
そして和久は、驚くべき目撃証言を口にした。
和久「真下が、雪乃さんを連れ去った」
青島「真下が!?」
すみれ「ちょっと何すんのよ!?離してっ!」
驚愕する青島の叫びと、すみれさんの怒声が重なった。なんの騒動だと、そちらを見ると、すみれさんが腕を掴まれて暴れていた。
掴んでいる男の顔には見覚えがない。
しかし、その陰気な雰囲気を見るからに、恐らく公安部の監察官か何かだろう。
慌てて止めに入ろうとすると、どこからともなく現れた公安畑の連中に妨害される。
公安「恩田すみれ。貴女を本事件における重要参考人として連行する。抵抗は認めない」
感情を感じさせない冷たい声音で、公安部と思しき男はすみれを被疑者として確保した。
20: 以下、
すみれ「いや!離して!私じゃないっ!!」
公安「黙れ。大人しくしろ」
青島「待ってください!!」
手錠こそかけられてはいないが、大の男2人がすみれのか細い腕を掴んで、引きずっていく。
見逃すことなど、出来なかった。
室井「これはどういうことですか?」
丁度良いタイミングで、室井が現れた。
騒ぎを聞いて駆けつけたのだろう。
公安の連中に連行されるすみれを見て、目を見張って驚いていた。状況の説明を求める。
流石の公安部も、室井のような高級官僚を無視する訳にはいかず、渋々説明をした。
公安「一部の被害者が恩田刑事からコーヒーを受け取ったと証言している。そしてコーヒーメーカーから下剤の成分が検出された。物的証拠は出揃っている。言い逃れは出来ない」
室井「コーヒーメーカーから……?そんな情報はこちらに上がってきてはいませんが?」
公安「我々が鑑識課に働きかけて情報を封鎖した。恩田刑事の逃亡を防ぐ為だ」
公安部の男の言い分に、室井の頭に血が上る。
それは言外に、捜査会議で我々にわざと無能を演じさせ、被疑者を油断させたと言ってるようなものだ。捜査員達を何だと思っているのだ。
一方で、室井の頭脳は冷静に状況を整理する。
公安部の言っていることは、筋が通っていた。
状況証拠がすみれを犯人だと語っている。
しかし、それが本当に真実なのか……?
室井は何が真実か、判断しかねていた。
21: 以下、
青島「わかりました。なら俺が連行します」
すみれ「青島くんっ!?」
室井の苦悩を見透かした青島が、先手を打つ。
すみれを一時的に容疑者扱いをしてでも、公安の奴らの好きにさせる訳にはいかなかった。
上司が考えている間に、部下が動く。
最終的に互いが納得する真実を目指して。
公安「貴様……勝手なことを言うな!!」
もちろん、そんなことは公安が許さない。
だが、室井はそれを止められる権力者だった。
室井「青島、恩田刑事を留置所へ移送しろ」
公安「室井!手柄を横取りするつもりか!?」
室井「あくまでも彼は留置所へ移送するだけです。あなた方には聞きたいことが山ほどある。それが終わったら、恩田刑事への尋問でも逮捕でも好きにしてください」
淡々と言うべきことを公安に告げる。
それを奴らは嫌味と受け取ったらしい。
目を血走らせて、負け惜しみを口にした。
公安「調子に乗るなよ、室井。我々の邪魔をしたことは上に報告させてもらう」
室井「どうぞ、お好きに。ですが、私が長官から直々に本案件の陣頭指揮を任された立場であることをお忘れなく。責任者は私であり、私の指示なく勝手な行動は差し控えて下さい」
公安「くっ……偉そうに!」
室井「私が、最高責任者だ。口を慎みたまえ」
それっきり、ぐうの音も出ずに押し黙る公安。
そんな彼らを連行するかのように引き連れて、室井は会議室へと戻った。
去り際に向けられる強い視線。
それを受け、青島は力強く頷いた。
22: 以下、
青島「よし、それじゃ行きますか」
すみれ「嫌」
青島「まあまあ、そう言わずに」
すみれの留置所への移送を任された青島を彼女に自分で歩くように促した。
留置所は拘置所とは違い警察署内にある。
そんな短い距離を無理やり引っ張っていくのは、青島としても、そしてすみれとしても本意ではないだろうと、そう思ったのだ。
しかし、すみれは断固拒否の構えだ。
そんな彼女に肩を竦めて、言い聞かせる。
青島「俺はすみれさんを信じてる」
すみれ「じゃあ留置なんてしないで」
青島「それは出来ない」
すみれ「やっぱり信じてないじゃない」
室井との約束を違えることは出来ない。
キッパリとそう言う青島に、すみれは口を尖らせる。完全に拗ねてしまったご様子だ。
しかし、青島が室井との約束を重要視するのには、彼なりの推理に基づいた訳があった。
青島「実はこの署内で使用可能なトイレがあといくつかある。さて、それはどこでしょう?」
すみれ「何馬鹿なこと言ってんのよ。どこもかしこも満員で使用可能なトイレなんてある筈ないじゃないの。見ればわかるでしょ?」
青島「じゃあ読んでわかるヒントをひとつ。『真下』って苗字が読んで字の如くだとしたら?」
そう言うと、すみれはハッとして自分の足元を見つめる。彼女はとても勘の良い女性だ。
そう、読んで字の如く……まさに、真下。
湾岸署の留置所は地下にある。
そこには当然、トイレが設置されていた。
23: 以下、
実はこの時点で、青島の痛は限界寸前だった。
そして、すみれも青い顔をしている。
恐らく彼女もそうなのだろう。
留置所に向かう前に、刑事課の備品の一つをさり気なく懐に忍ばせた。これで準備完了だ。
青島は考察する。
もしすみれが犯人ならば、自ら下剤入りのコーヒーを口にするとは思えない。
もちろん捜査を撹乱する為に敢えて自分も漏らす作戦である可能性も捨てきれないが、青島は最初からすみれを疑うつもりなどなかった。
これに関しては感情論だ。
確かにすみれは普段からいたずら好きで、人が困っている様子を楽しげに眺めているが、今回のようなやり口は彼女らしくない。
青島が知っているすみれならば、青島だけのコーヒーに下剤を混ぜ、トイレに向かう彼を妨害したとしても漏らすまで邪魔はしないだろう。
彼女のいたずらはそこまで陰湿ではない。
不特定多数が漏らすようなやり方はしない。
必ず、ごめんねで許される、そんないたずら。
それが、彼女の愛嬌である。
今回の事件にはその愛嬌が欠如していた。
だから、すみれは犯人ではない。
そう確信して、留置所へと向かう……その間際。
和久「青島、逮捕の時には……」
青島「気をつけろ、でしょ?」
和久に呼び止められて、いつものやり取り。
もうすっかり合言葉のようなものだ。
にやっと笑うと、和久も笑い返して来た。
そしておもむろに手を伸ばし、自分のデスクの足元をゴソゴソして、何かを手渡してきた。
和久「ふんっ。それと、これを持ってけ」
青島「これって、もしかして……?」
和久「年の功だよ」
和久から手渡されたそれは、思ったより軽く、ふかふかだ。青島をそれをしっかり受け取って、すみれと共に留置所へと向かった。
そんな彼らの背に、和久は独りごちる。
和久「人の希望になってやれ……なんて、な」
24: 以下、
>>23の1行目の『青島の痛』は『青島の腹痛』です。
読みづらくしてしまい、すみません!
25: 以下、
青島「入りまーす」
ガチャリと留置所の扉を開ける。
留置所内には、沢山の犯罪者達が留置されている。奥に進むと、個室が見えてきた。
その中でも最奥。
檻のような他の部屋とは違い、電子キーで閉ざされたその部屋に、踏み入れる。
鍵は既に開いていた。まるで誘い込むように。
真下「やあ先輩。随分遅かったですね」
真っ白い部屋に、真下が佇んでいた。
部屋の方隅には留置所内の粗末なトイレに座らせられた、雪乃の姿。
後ろ手に手錠をかけられ、猿ぐつわを噛まされている彼女を見て、慌てて駆け寄る。
しかし、トイレの水道管に引っ掛ける形で手錠がかけられている為、救出できない。
青島「真下!雪乃さんを解放しろっ!!」
真下「解放だなんて、大袈裟だなぁ。こんなのただのプレイの一環ですよ」
青島の怒声にも何処吹く風。
事件の犯人である真下はヘラヘラ笑って、今回の事件をプレイと称した。完全にイかれていた。
26: 以下、
青島「お前のせいでどれほどの人が辛い目に遭ったと思ってるんだ!!」
真下「僕は愉しかったですよ。とっても、ね」
青島の糾弾は、真下には届かない。
あまりに価値観が違い過ぎていた。
真下「それより青島さん、いいんですか?」
唐突な問いかけ。何を指しているか不明だ。
話を逸らすつもりだろうかと訝しむ青島に、真下は心底愉快そうな笑みと共に言い放つ。
真下「すみれさん、今にも漏れそうですよ?」
その一言で振り返る。
するとそこには倒れ伏す、すみれの姿が。
青島「すみれさん!?」
真下「フハッ!」
狼狽する青島を嘲笑う、真下の不快な嗤い。
それに構わず、青島はすみれに駆け寄って抱き起す。彼女は今にも壊れてしまいそうだった。
すみれ「私が……漏らしても……」
すみれの荒い吐息に混じる願い。
掠れた彼女の声に、青島は耳を澄ませる。
小さな頭を掻き抱きながら、願いを聞く。
すみれ「あのバカを……逮捕して……」
青島「わかった……約束する」
その願いを受け取った瞬間。
すみれの身体から力が抜け、便の音が鳴り響く。
真下「フハハハハハハハハハハハッ!!!!」
それを聞いて高々と哄笑を響かせる真下。
青島の胸の内に秘める正義が、熱く燃えた。
27: 以下、
真下「素晴らしい!素晴らしい脱糞でした!先輩もなかなか良かったですよ。あなた方の上司であることを、僕は誇りに思います」
ひとしきり笑った後、真下は部下を労った。
慈しむような表情を浮かべて、青島とすみれを褒め称える彼は、もしかしたらそう悪くない上司なのかもしれない。それでも、認めない。
青島「……上司?」
真下「ええ、次のボーナスは期待して下さい」
真下は偉そうにこちらを査定していた。
だが、こんな奴を、認める訳には、いかない。
青島「……お前が、俺の上司だって?」
真下「そうですよ。僕が先輩の上司です」
違う。断じて、違う。
上司が部下を選べて、部下が上司を選べないなど、ナンセンスにも程がある。
従う上司は、自分で決める。
それが、縦割り社会を生き抜く上での極意だ。
青島「お前は上司じゃない。ただの変態だ」
真下「へえ?では、誰があなたの上司だと?」
そんなことは決まっている。
青島にとって、付き従う上司はただ1人。
青島「……てなわけで、真下正義を逮捕します。よろしいですね……室井さん?」
室井『青島確保だァァァァァアアア!!!!』
懐に忍ばせた無線を介し、室井の絶叫が響き渡った。その命令を受け、真下正義を逮捕した。
28: 以下、
真下「まったく、まんまと捕まってしまいましたね。まさか無線をしこんでいるとは……」
青島「独断専行して、室井さんに迷惑をかけるわけにはいかないもんでね」
あっさりと真下に手錠を嵌める。
諦観したように、真下は抵抗しなかった。
恐らくこうして逮捕されるまでが、彼にとってのゲームだったのだろう。何とも理解し難い。
真下「青島さんにも、そのうちわかりますよ」
青島「んなわけあるか」
真下「きっかけなんて、どこに転がっているかわからないものです。それより、室井さんにもここのトイレの情報を教えてあげて下さい」
不敵な笑みを浮かべて、真下はそう提案する。
もちろん、使用可能なトイレについては署員と情報を共有するつもりだったが、それを主犯者が口にするとは、どういう風の吹き回しだ?
真下「あの人には漏らして欲しくないんです」
青島「室井さんが……?」
真下のおかしな発言に、困惑する。
室井さんはこの事件で被害を受けてない筈だ。
それなのにまるで、今にも漏らすかのように。
青島「あのコーヒーを飲ませたのか!?」
真下「はい。捜査一課の皆さん全員に、ね」
慌てて、無線に語りかける。
もはや、一刻の猶予もなかった。
青島「室井さん!留置所に使用可能なトイレがある!!それを使ってくれ!!」
29: 以下、
室井「……」
青島の声を聞きながら、会議室で室井は思案に耽る。両の手のひらを合わせ、親指で眉間に刻まれた皺を揉む。それでも答えは出ない。
青島の無線とは別に、語り掛ける声がある。
それは警察庁でこれまで事件の推移を伺っていた長官である。彼の罵声が会議室に響く。
長官『室井!今すぐトイレに迎え!!警察官僚が糞を漏らすなどあってはならんっ!!』
それは極めて政治的な問題だった。
エリートが糞を漏らすなどあってはならない。
もし警察庁、もしくは警視庁のキャリアが糞を漏らせば、それはあまりに大きな汚点となる。
もちろん、出世の道は閉ざされる。
しかし、室井の事情など長官にとって知ったことではない。彼が危惧しているのは、この件が他の省庁に知られた際の風評被害だ。
1人2人が漏らした程度ならば、漏らした本人を処分すれば組織としての面目は保たれる。
しかし、それが10人、数十人単位で漏らしたならば、全員を処分するわけにはいかない。
もちろん、そんな組織を揺るがす大事件が起これば、長官の身も危うくなる。
組織を守る為、そして自身の保身の為に、長官は室井に声を大にして命令を下した。
長官『室井!!絶対に漏らすな!!可及的やかにトイレに向かい、うんこをしろッ!!』
完全に頭に血が上った長官の怒鳴り声を聞きながら長考していた室井が、静かに目を開ける。
そして彼は現地責任者として、決断を下した。
室井「全捜査員に告げる。今すぐ、トイレに向かえ。階級や役職は問わない。早い者勝ちだ」
その言葉で、一斉に捜査員が動き出した。
我先にと留置所へと向かう。皆、必死だ。
その様子を暫し呆然と眺めながら、室井もゆっくりと立ち上がった。完全に、出遅れた。
30: 以下、
新城「どちらに向かわれるのですか?」
会議室を出たところで、新城に尋ねられる。
同じ組織の頂点を目指す者同士、互い互いをライバル視している関係の男。
よもや邪魔をするつもりだろうかと、室井が警戒心を露わにすると、彼は質問を繰り返した。
新城「どちらに、向かわれるのですか?」
噛んで含めるような、問いかけ。
少しばかりの葛藤の後、室井は口を開いた。
室井「便所だ」
新城「フハッ!」
その回答に、新城は思わず吹き出す。
初めて聞く、堅物の彼のおかしな笑い声に目を丸くしていると、彼は表情を引き締めて、室井の耳元で小さく囁いた。
新城「……ご武ウンを、祈ってます」
妙なイントネーションだが、気にしない。
室井はそれっきり振り返ることなく、留置所のトイレを目指した。その後ろ姿を見つめる。
彼の臀部付近に……染みが広がっていた。
新城は室井のスラックスの染みを見て、またおかしな笑い声を上げる。もう、止まらない。
新城「フハハハハハハハハハハハッ!!!!」
新城の狂ったような嗤いが、響き渡った。
31: 以下、
室井が漏らした頃、青島も限界を迎えていた。
青島「……これまで、か」
真下「さっさと留置所の空いているトイレで出してくれば良かったのに」
青島「室井さんより先に俺が用を足すわけにはいかない。あの人と俺は、一連托生だ」
そんな頑なな青島に、真下は頬を緩める。
いくら本人に否定されても、真下にとって青島は大切な部下であるし、尊敬に足る先輩だ。
だからこそ、気になったことがあった。
真下「どうして、すみれさんが漏らすのを看取ったんですか?青島さんのことだから、抱き抱えてでも他の牢にあるトイレに向かうと思っていました。それだけが、少し意外です」
すみれ「ちょっと、縁起でもないこと言わないでくれる?あたし、ピンピンしてるけど?」
心底不思議そうに問いかける真下に、思わぬ人物が返答を返した。倒れ伏したすみれである。
真下「ど、どうして……?」
真下は驚愕した。信じられない。
彼女は確かに漏らした筈。
他の誰の耳は誤魔化せても、真下の耳は誤魔化せない。あの排泄音は間違いなく本物だった。
青島「年の功だよ」
真下「えっ?」
困惑する真下に、青島がネタバラシをする。
しかし、まだ真下には何のことかわからない。
すみれ「和久さんから貰ったおむつ……履き心地抜群だったわよ?」
真下「フハッ!!」
すみれの駄目押しで、真下の愉悦が吹き出す。
そうか、おむつか。なるほど、その手があった。
真下「フハハハハハハハハハハハッ!!!!」
この日、真下の小さな世界が……広がった。
32: 以下、
雪乃「青島、さん……」
青島「雪乃さん……大丈夫?」
身を震わせて便意を堪えていた雪乃が、震え声で青島に声を掛けてきた。
随分放ったらかしにしてしまった。
すぐに助けなければ。
自身の身が危うい状況でも、青島は被害者を優先した。たとえ、雪乃が同じ警官だとしても。
その信念を、人は正義と呼ぶのだろう。
雪乃はこの日、正義とは何かを知った。
青島「真下、そろそろ彼女を解放してやれ」
真下「何の話ですか?」
青島「とぼけんな。手錠を解いてやれ」
青島が真下に雪乃の解放を求める。
しかし、此の期に及んで惚ける真下。
だが、彼は……
初めから、惚けてなど……なかった。
真下「雪乃さんの手錠は、ユルユルですよ?だって、キツく締めたら痛いじゃないですか」
ネタバラシをして、真下はヘラヘラ笑う。
その衝撃的な事実に、青島達は言葉を失った。
33: 以下、
真下「だから言ったでしょう?プレイだって」
絶句する青島とすみれに、真下が説明する。
てっきり真下の戯言だと思っていたがどうやら真実だったらしい。本当にプレイだったのだ。
雪乃「青島さん……一緒に漏らしましょ?」
青島「……えっ?」
混乱の極みに追い打ちをかける雪乃。
青島の理解が追いつく前に、グルだった彼女は排便する体制に入った。トイレの上で。
対して青島は留置所の床に腰を下ろしている。
全然フェアじゃないのに急かされた青島は排便の準備を始めてしまう。理由なんて知らない。
ただ、置き去りにされるのが、怖かった。
雪乃「せーのっ!」
青島「ふんっ!」
雪乃の掛け声。青島は脱糞した。
微塵も躊躇いなく、下痢便を漏らす。
同時に、雪乃も便器にぶち撒けた。
やっぱり全然フェアじゃない。
だけど、何故か……幸せだった。
青島「フハッ!」
青島はこの日、便に対して愉悦を見出した。
青島「フハハハハハハハハハハハッ!!!!」
34: 以下、
そうして、事件は幕を下ろした。
いや、無理矢理幕を引いたと言うべきか。
湾岸署で引き起こされた『うんこハザード』の甚大な被害に憤慨した警察庁長官。
彼もまた、怒りの余り漏らしてしまったのだ。
事件は黒歴史として厳重に封印された。
そのおかげと言っては身も蓋もないが、湾岸署の署員ならびに警視庁、警察庁のキャリア組もお咎め無しであった。もちろん室井も無事だ。
真下も非公式の厳重注意で済んだ。
署長職の任も解かれることなく、健在である。
平穏が戻った湾岸署。
その応接室に清掃員が入っていく。
それはパンドラの箱。
中にはうんこ塗れのスリーアミーゴズ。
もう良い歳だろうに……
彼らは全員おむつを履いていなかった。
長年権力の座に居座ったプライドが仇となった。
そんな彼らをオチとして物語に終止符を打つ。
青島「応接室清掃できませぇ〜んっ!!」
和久「だめだこりゃ」
FIN
35: 以下、
ひでえ臭いがするスレだった
36: 以下、
タイトルからの文章力で草
・SS報VIPに投稿されたスレッドの紹介でした
 【SS報VIP】青島「どうして署内でうんこが漏れるんだ!」
・【画像】東京グール、セッ●スシーンをがっつり描写してしまうwwww
・【画像あり】今年の新人No.1候補!桁違いに可愛いチアリーダーがS1からAVデビュー!
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