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魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」


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1:
魔王「えーーーー!?」
魔王「い、今から? 今からボクが魔王?」
女側近「さようでございます。貴方は先代魔王様のご子息」
魔王「いやいや……何かの間違いでしょ?」
女側近「間違いではありません。やはりご存知なかったのですね」
魔王「え? ボクの父親は昔死んだって母さんが…」
女側近「おそらく……下級魔族と関係を持った先代魔王様は、その事実を隠蔽したのでしょう」
魔王「え、先代魔王様は……今どちらに?」
女側近「お亡くなりになりました。ですので、貴方を迎えに来たのです」
魔王「……」
女側近「貴方がこの魔界を統一する魔王です」
魔王「ええええぇぇ……」
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2:
魔王(ボクは魔界の冥都・最下層に住む普通の魔族……弱いし、魔法も使えない。急に“魔王”になるって言われても)
女側近「では魔王様。城へご案内致します」
魔王「ちょ、ちょっと待って!」
女側近「はい?」
魔王「まだ状況が掴めてない……質問していい?」
女側近「どうぞ」
魔王「ボクが“魔王”ってことは、ボクがこの魔界で一番偉いの?」
女側近「その通りです」
魔王「ボク……背も低いし、ヒョロヒョロで、どう見ても“魔王”には見えないよ」
女側近「先代魔王様の遺言で息子である貴方が次期魔王です。魔王様の命令は絶対です」
魔王「キミも何でも命令聞くの?」
女側近「はい」
魔王「ボクが服を脱げって言ったら脱ぐの?」
女側近「かしこまりました」ヌギヌギ……
魔王「わ、わっ、いやいや! だ、ダイジョウブです…」
魔王(こんな美人で巨乳なお姉さんのおっぱいが見れちゃう…)
女側近「私が夜のお供をすることも出来ますし、城には専属のサキュバスも沢山おります」
魔王(ゴクリ……)
3:
魔王「“魔王”って……何するの?」
女側近「魔界の統治。この世界の法は貴方です。すべて貴方が決める。そして、人間との戦争」
魔王「戦争……」
女側近「ご存知だとは思いますが魔界と人間界は戦争を続けております。先代魔王様が亡くなられた今、最大の危機です」
魔王「それって、先代魔王様は人間に殺されたってこと?」
女側近「いえ、病でございます」
魔王「信じられない……」
女側近「現在、先代魔王様が亡くなられたことは極秘事項です。城の者一部と幹部の者しか知りません」
女側近「人間に知られてしまえば総攻撃を受けるでしょうし、兵士達に知られれば軍の士気に大きく関わります」
魔王(ひぇぇ……)
女側近「長くは隠しておけません。明るみになる前に、“魔王”としての地位を確立してください」
魔王「いやいやいや……ムリでしょ」
女側近「他に質問は?」
魔王「無いけど……」
女側近「では、参りましょう」
4:
 ■ 第1話 魔王即位 ■
 
 
 
5:
ーーー魔界 冥都・最上層 黒魔城ーーー
女側近「こちらが玉座です。お座りください」
魔王「う、うん」
魔王(……ボクに出来るの?)
女側近「魔王様?」
魔王「ボク自信がないよ。ここに座っていいのかな?」
女側近「最初からなんでも出来るとは思っておりません。私が貴方を助けます。思った通り判断し命令して頂くだけです」
魔王「……」
魔王(……“魔王”になれば……あんなこと……こんなこと……)
魔王「よ、よし……」
 魔王は玉座に腰掛けた。
女側近「魔王様……王位継承おめでとうございます」
魔王「ありがとう。とりあえず、がんばるよ」
女側近「それでは……さっそくですが」
女側近「先代魔王様が亡くなられて10日。すぐ対応しなければならない問題は“勇者”です」
魔王「まさか、もう近くまで来ている?!」
女側近「いえいえ、まだゲートを通って魔界へ来た人間はおりません」
魔王「そうか……じゃ、早いうちに倒してしまおう! 放っておいたらレベル上がっちゃうでしょ」
女側近「もちろんそのつもりですが……勇者パーティは現在12パーティ存在しています」
魔王「えーーー!?!」
魔王「 そんなに?! 1人じゃないの?!」
女側近「確認出来ているだけで12パーティです。実際はもっと存在と思われます」
魔王「えええぇ……勘弁してよ」
6:
女側近「刺客を送りたい思いますがどうしますか?」
魔王「すぐ倒しに行かせよう! 強くなってからでは遅いもん」
女側近「かしこまりました。刺客はどうしますか? 魔王軍四天王、上位魔族が2人、中級魔族4人、これがすぐ動かせる戦力です」
魔王「あれ? 全部で10人? 12人の勇者に対して足りない……」
女側近「はい。敵は勇者だけではありません」
魔王「?」
女側近「人間界の王都や帝都といった“国”の王国軍とも戦争をしております。他の側近と配下はそちらの対応をしております」
魔王「えーーー」
女側近「勇者達の対応はどう致しますか?」
魔王「うーん。勇者達をレベルが高い順に四天王、上位魔族、中級魔族の順にぶつけよう」
女側近「人数的にレベル最下位の2人の勇者は放置になります。ちなみに最近旅立ったばかりのレベル1の勇者は光の魔法が使えるとか」
魔王「むむ……」
魔王(放っておくと驚異になるかな?……それに中級魔族を、レベル中級の勇者に当てるのは負けちゃうかも……)
魔王「よし、勇者はレベルの低い順に倒していこう。レベルの低い勇者に中級魔族を。レベル中級の勇者には上位魔族を。さらにそのうえの勇者に四天王をぶつけよう」
女側近「かしこまりました。人数的にレベルの高い勇者が2人放置になりますがよろしいですか?」
魔王「うん……まだ時間はある。その勇者達が片付いたら総攻撃しよう」
女側近「かしこまりました。勇者討伐をすぐ手配致します」
7:
魔王「あとは……?」
女側近「次にエルフ族捜索について、次にゲート警備隊編成について、冥都下層の瘴気対策を…」
魔王(えーーーー。“魔王”って忙しい……)
 夜。
ーーー黒魔城・自室ーーー
女側近「魔王即位初日お疲れ様でした」
魔王「ふぃー……疲れた。わからないことばかりだなぁ」
女側近「明日、配下の者を集めてご紹介致します。主力はほとんど勇者討伐に出ておりますが………」
魔王「ボクみたいなのが、新しい“魔王”なんてガッカリされそう」
女側近「……」
魔王「……」
女側近「ご紹介の前に装備を整えましょう。魔王っぽく」
魔王(見掛けだけではなく、実際も弱いからなぁ……)
魔王「……」
女側近「では明日もよろしくお願いします」
魔王「うん、おやすみ」
女側近「失礼します」
魔王「あ、まって」
8:
女側近「はい?」
魔王「あ、あの……」
女側近「はい?」
魔王「これから寝るわけで……さ、サキュ……」
女側近「はい?」
魔王「さ、さ、サキュ……」
女側近「サキュバスですか?」ジッ……
魔王「え、あ、ちちちち違うよ! サンキュー女側近さん! 明日もよろしく!」
女側近「はい、よろしくお願いします」
 ガチャ。
魔王「……命令出来ない」ショボン
魔王「ボクに魔王はなんて出来る……の?」
 ■ 第1話 魔王即位 終 ■
10:
 ■ 第2話 ボクの装備:魔王 ■
 
 
 
11:
魔王「ZZZZZzzz……うーまゃ」
魔王「……う、うーん朝?」
魔王(……ふかふかベット、気持ち良過ぎる)
 ふかふか……
魔王(気持ちいい……ZZZzz……)
 ふにふに……
魔王(気持ちいい……ん?ふにふに?)
 ふにゃふにゃ
女側近「……ま、魔王様……」
魔王「zzz……ん?」パチリ
女側近「お……おはようございます。魔王様」ポッ
魔王「うわあああああ! ごめんごめごめごめごめん!」
女側近「お目覚めになりましたか?」
魔王「う、うん。一気に目が覚めた」
女側近「お召し物を失礼致します」
 ヌギヌギ……
12:
魔王「え、あ、いや……一人で着替えられるよ」アセ
女側近「いえ、遠慮なさらずに」
 ヌギヌギ……
女側近「ズボンも失礼しますね」
魔王「あ、あっ……ちょ、あーー」
女側近「……」
魔王「……ッ(恥ずい)」
女側近「お目覚めは如何でしょうか?」
魔王「す、すごくいいよ。朝日が気持ちいい! 前住んでた最下層はほとんど日が当たらなかったから」
女側近「それはそれは。これからは日の光で起きることができますよ。では朝食をお持ち致します」
メイド「失礼致します」
 ガラガラ……
メイド「本日の朝食、ジャミラスのパストラミとズッキーニャのサンドイッチ、キメラ卵のスクランブル、お化けきのこのポタージュでございます」
魔王(おおお……朝から豪華過ぎる)
 パクッ
魔王「お、おいしいーーー!」
女側近「では本日のご予定ですが……」
魔王(“魔王”って幸せ……)
 モグモグ……
 
 
 
 
13:
ーーー黒魔城・武器防具庫ーーー
魔執事「初めまして魔王様。身の回りのお手伝いをさせて頂く魔執事っつーもんです」
魔王「よ、よろしく」
女側近「彼も側近の一人。遠慮無くご命令を。口は悪いですが腕はあります」
魔執事「チッ……姉御、一言余計だっつーの」
女側近「他にもう1人の側近“魔伯爵”がおりますが、現在人間界にて前線の指揮を一任させております。本日ご紹介することが出来ませんが、またいずれ」
魔王「うん」(側近は全部で3人かぁ)
女側近「魔執事、とりあえず魔王様の装備を見繕ってもらえるかしら」
魔執事「ふん、もう準備してあるっつーの」
 ガシャガシャ……
魔執事「これが特注で造った鎧」
魔王「おお……黒くゴツゴツして全身に死角なしって感じの鎧だね」
魔執事「魔力を強化するオリハルコンをふんだんに使って、魔石を埋め込み装飾。眠り、痺れ、毒、呪い、あらゆる属性の耐性がある最強の鎧っつーわけです」ニヤ
女側近「魔王様、ご試着を」
魔王「うん」
女側近「失礼します。お服を脱がさせて頂きますね」
魔王「あっ」
 ス……ヌギヌギ……
魔王(一人で着替えられるんだけどな)アセ
 ガシャガシャ……
14:
女側近「うん、これでよし」
魔王「う……」
魔執事「お、いいじゃん」
女側近「そうですね。ちょっと小柄ですが全身甲冑なので少し“魔王”っぽくなったんじゃないでしょうか?」
魔王「あ、あの……」
魔王「お、重過ぎるんだけど」
女側近「……」
魔執事「……」
魔王「ま、まともに動けないよ。戦うどころか普通の生活も出来ないよ」
女側近「それは……どうにもならないですね」アセ
魔執事「オリハルコンは重いからな」
魔王「この装飾されてる魔石だけ外して装備できないかな?」
魔執事「それじゃ魔力強化の特性はなくなっちまいます。オリハルコンを身に纏わねぇと」
魔王「いいよ、ボク魔法使えないから魔力を強化しても意味ないもん」
魔執事「は?! 魔法使えない?」
女側近「“無属性”という……体質ですね。非常に稀な体質です」
魔王「生まれつきみたいで……チカラも少ないし、魔力はからっきし」
魔執事「マジかよ……」
女側近「魔石だけでは……せめてマントと肩当てだけでも装備しましょう」
魔王「うん、それなら大丈夫かな」
 ガチャカチャ……
魔王「どうかな?」
魔執事「……(なんか不自然)」
女側近「……(かわいい)」
15:
魔執事「つーか……チカラもなくて、防御力も低いし、魔法も使えないんじゃ……マズくないっすかね」
女側近「……武器なんですが」
魔王「う、うん……どの武器も扱いに自信ないんだけど」
女側近「“魔剣”をご存知でしょうか?」
魔執事「あの……伝説の魔剣か。 魔王様のみが使える最強の剣」
魔王「そ、そんなのあるの?」
女側近「はい、最下層で育った魔王様に戦闘力が無いのは初めから分かっていました」
女側近「しかし、この剣があれば大きなチカラを得ることができます」
魔王「チカラか……うーん」
女側近「魔剣はここにはありません。手に入れるには……」
魔王「とりあえずいいよ。使いこなせないし」
魔王(戦いとかボクには出来ないよ)
16:
−−−黒魔城 玉座の間−−−
女側近「それでは魔王様。幹部の者達をご紹介致します」
魔王「ボクなんかが上官なんて、どう思われるんだろう……不安だ」
女側近「自信をお持ちください。貴方は紛れもなく“魔王”なのですから」
魔執事「しかし、姉御。魔王様の戦闘力については……」
女側近「ええ。とりあえず部下達には伏せておきましょう。血の気の多い輩も沢山います」
魔王「ボクが弱いのは隠さなきゃいけないのか……嘘かぁ……苦手」
魔執事「ハッタリも立派な武器。覚えといて損はないっすよ」
女側近「少しの間です。王として認められれば隠す必要がなくなります」
魔王「うん……」オドオド
魔執事「魔王様、まずは玉座に寄りかかって」
魔王「うん? こ、こう?」
魔執事「そうそう、次にポカンと開けてる口を閉じて」
魔王「ん……」
魔執事「次は真顔で。目を細めて遠く一点を見る」
魔王「……(こ、こうかな?)」
魔執事「おし、なかなか“魔王”っぽい。後は何言われても『うむ』のひと言だけしか返事はしないっつーことで」
魔王「うん」
魔執事「違いますっ『うむ』っすよ」
魔王「う、うむ」
女側近「幸い魔王様からは魔力を感じませんので、強さを悟られることはないでしょう」
魔王「うむ(魔法使えないからね)」
……
17:
女側近「入れ」
 女側近の合図で部下達が入ってくる。皆ひと言ずつ挨拶していく。
魔族兵長「はじめマして、マおう様。城の警備を担当しております魔族兵長ですンマー。よろしくンマ」
魔王「うむ」
黒騎士「魔王軍兵士長、黒騎士です。自分は魔王様の為に人間を斬ります」
魔王「うむ」
黒魔術師「ワシは魔王軍魔道隊長の黒魔術師。担当は……」
魔王(えーーーーー! いっぱいい過ぎて覚えられないって)
魔王(しかもずーと真顔で顔の筋肉が……)ピクピク
魔王「うむ」ピクピク
魔王(顔が疲れる……)
魔王「うむぅ」ピクピクッ
魔憲兵「私は魔王軍諜報部隊……」
魔王「うにゅー」ビクビクッ
……
 魔王の前に十数人の魔族幹部が跪く。
女側近「魔王様、以上が魔王軍幹部でございます。以後お見知りを」
魔王「うむ(やっとおわるーーー)」
18:
女側近「では、皆も揃っているのでこのまま幹部会議に移る」
幹部達「「「ハッ」」」
女側近「まず、勇者討伐についてだ。新魔王様の決定により即時討伐作戦を開始する」
女側近「人間達の恐ろしさは数とその成長力だ。魔族より寿命が短い人間だが強くなるのもあっという間だ」
女側近「勇者達は放っておくと、わずか数年たらずで脅威となる。早いうちに倒してしまおうという判断だ」
魔王(『勇者を倒してこい』なんて簡単に命令したけど、命をかけて戦うのは皆なんだ)
女側近「次に反乱組織『黒のサーカス団』の様子について……」
魔王(うわーーー会議ながぃ。よくわからないことばかりだよ。あとで女側近さんに全部教えてもらわないとなぁ)
……
……
……
女側近「以上です。魔王様」
魔王「うむ(やっとおわりか……)」
19:
黒魔術師「魔王様……」
魔王(えーーー?まだ何かあるの?)
女側近「なに? 黒魔術師」
黒魔術師「ワシを含め皆、新しい魔王様にお初にお目に掛かりました」
女側近「それが?」
黒魔術師「先代魔王様のご子息でありながら、貴方様は今までどちらにいらっしゃったのですか?」ジロッ
魔王(なんて鋭い眼差し。ボクのことを不信に思っている)
女側近「先代魔王様の意志によって城を離れていた。黒魔術師……身分を弁えろ。魔王様に殺気を向けるなど死にたいのか?」
黒魔術師「姐さんには聞いとりませんわ。魔王様、お答えください」
魔王「うむ……」
魔王(不信に思うのは当然かもしれない。突然、知りもしない人が上官になり命令してきたら……任務に命を懸けれない)
女側近「上官の私が貴様には伝える必要がないと判断した。死にたくなければ下がれ」
黒魔術師「わかりましたよ……」
魔王「いや……」
黒魔術師「!」
魔王「ボクが答えるよ」
魔執事「魔王様っ!」
20:
魔王「昨日までは最下層に住んでいたよ。それが先代魔王様の意志なのかどうかは知らないけど」
魔王「皆が不信に思うのは無理はないよ。ボクのことを何も知らないんだもん、当たり前だよ」
女側近「魔王様……」
魔王「今は信用してくれなくていいよ。ボクの仕事ぶりを見て、魔王として相応しいかどうか判断してほしい」
黒魔術師「……」
魔王「だけど信用していないのはボクも同じだよ。みんなのこと知らないし。ボクも皆の仕事を見させてもらうからね、よろしく」ニコッ
女側近「……」
魔執事「……」
黒魔術師「わかりました……大変無礼な態度、失礼致しました」
……
−−−黒魔城 自室−−−
魔王「ふぅ……疲れた。魔執事さん、喋っちゃったね、ごめん」
魔執事「いえ……案外堂々としていたので大丈夫かと」
魔王「案外ね」アセ
女側近「魔王様、やはりレベルの低さは隠してください。少なくとも魔剣を手に入れるまでは」
魔執事「だよな。バレたら命狙われかねないっすよ」
魔王「う、うん。わかったよ、ボクだって死にたくないもん」
魔執事「先代魔王様の血を引いていながら魔力がないなんて……なんなんだ?」
女側近「非常に稀ですが、そういった障害を持った魔族が生まれることがあるそうです」
魔王「……」
21:
女側近「先代魔王様は沢山の方と性行為を行っておりましたが……」
魔王「せっせせせ……性行為??!」
女側近「私が知る限りご子息は貴方一人です」
魔執事「まぁ魔族は簡単に身篭らないしな。人間はすぐポンポン生まれるらしいっすよ」ハハッ
女側近「あえて子を作らなかった、唯一の貴方も隠していた」
女側近「魔王様の魔力は……先代魔王様によって封印されてるのかもしれません」
魔王(ボク……本当は魔力がある? 魔法を使えるの?)
魔執事「本当は先代クラスの魔力を持っているっつーこと? そいつを引き出せれば」
女側近「先代魔王様のいない今……どうすればいいのか」
魔執事「……エルフの薬で潜在魔力を引き出すものがあったような??」
女側近「エルフの薬なんて簡単には手に入らないわ」
魔王(先代魔王様はなんで子を作ろうとしなかったのだろう? なぜボクを最下層へ隠したのだろうか? 母さんは知ってるのだろうか)
 ■ 第2話 ボクの装備:魔王 終 ■
26:
 ■ 第3話 社畜、いや魔畜 ■
 
 
 
27:
 数日後……
魔王「あああああ、忙しい!」
女側近「魔王様、大丈夫ですか?」
魔王「なんだよ、遊ぶ時間なんてないじゃん……」
女側近「まだ王に即位したばかり、慣れるまでは仕方ありません」
魔王「うぅ……仕事遅くてごめん。女側近さんに経済関係の仕事すべて丸投げになっちゃってるよね」
女側近「いえ、他にも部下を使えたら良いのですが………皆手一杯です」
魔王「……まだ仕事を分かってないから、指示もできないよ」
女側近「勇者ですが…」
魔王「全員倒した?」
女側近「まだ3人倒せていません。上位魔族が一人やられてしまいました」
魔王「えーーーー……なんだよそれ、圧倒的なチカラの差があったのになんで負けちゃうんだよ」
女側近「“奇跡”というものですね。時々、信じられないような展開で勇者達に有利にことが進むことがあります」
魔王「時々って……めったに起こらないから奇跡って言うんじゃないのー」
女側近「ギリギリまで追い詰めても、突然ひっくり返されたりします」
魔王「まぁでも3人除いて他の勇者は倒したってことか。レベルの高い勇者を2人放置してたから、今は計5人か。すぐ刺客を向かわせよう」
女側近「いえ、新たに4人の勇者が現れたと報告がありました。計9人ですね」
魔王「えーーーー!」
28:
魔王「 現れたってなんだよ……ゴブリンじゃないんだから、いきなり現れる?」
女側近「正確には新たに4人の勇者を確認したということです」
魔王「今までいたけど気が付かなかったってこと?」
女側近「そうですね、しかし内二人は故郷を旅立ったばかり。仲間も少なくレベルも低いです」
魔王「人間ってそんなにしょっちゅう勇者になるの?」
女側近「皆戦争で魔族に恨みを持っていますから。“勇者”と名乗れば勇者ですし、名乗らなくても実質“勇者”もいます」
魔王「どゆこと?」
女側近「なんらかのキッカケで戦争に巻き込まれ、魔族と戦うことになった者…世界を救おう!っなどと言わなくても実質勇者と同じことをやってる輩もいますね」
魔王「そもそも勇者って何を持って“勇者”というのさ?」
女側近「基本的には魔王である貴方を倒す為に旅をしている者。つまりは戦争を終わりするのが目的です」
魔王「ついでに平和の為に人助けとかしちゃうんだよね」
女側近「元ソルジャーとか、傭兵、シーフ、召喚士、空賊など…実際の職業が違くても、やってることが勇者であれば魔王軍にとっては“勇者”です」
魔王「“勇者”はボクを倒して世界を平和にするのが目的……じゃ“魔王”の……ボクの目的はなんだろ?」
女側近「それは貴方が決めることです。先代魔王様の目的は人間界の征服でした」
魔王「ボクの目的……」
女側近「何か世の中で変えたいことはありませんか?」
魔王「うーん」
魔王(“魔王”が世界平和とか言っちゃいけないのかな……)
29:
魔王「えっと、ボクがここへ来る前に居た冥都の最下層なんだけど……治安があまりよくなかった」
女側近「スラムに一番近い区画ですから」
魔王「地元の為にも、なんとか出来ないかな」
魔王「それにつきましては、先代魔王様も対策を練っておられました」
魔王「どんな?」
女側近「スラムを焼き払うと……もうほぼ準備は出来てます」
魔王「えーーー?!?! 」
女側近「実行しますか?」
魔王「まってまって! それ根本的な解決にならないよ」
女側近「どういうことでしょう?」
魔王「今スラムを焼き払ったとして……弱肉強食のこの魔界じゃ再びスラムが出来るだけ」
魔王「この魔族の価値観『弱肉強食』弱い者は切り捨てるって言う考え方にこそ、問題があると思うんだ」
女側近「……」
魔王「すぐその作戦を中止、計画を放棄してください」
女側近「かしこまりました」
魔王「お、おかしい? ボクの考え」
女側近「いえ……貴方が王です。魔王様の命令は絶対です」
魔王「……上官には納得いかなくても従うの?」
女側近「魔王様の言うことはすべて納得します。なんであろうと」
女側近「『絶対的上下関係』と『弱肉強食』。これは魔界の根底的な考えです。これこそがこの魔界に安定をもたらしています」
魔王「……」
30:
女側近「人間の世界には王が何人もいるそうです。国が沢山あり、国同士で殺し合いする。しっかりとした上下関係がない故の、破綻した社会が人間社会。甘い考えは同じような破綻を生みます」
魔王「“絶対的上下関係”と“弱肉強食”って“魔王”が魔界で一番強い前提の理論だよね……」
女側近「その通りです。チカラ無き弱き王の命令は聞き入れられないでしょう」
魔王「ボクには闘うチカラがない……」
魔王「この理論では“魔王”を続けることができない」
女側近「……。ですから魔剣が必要なのです。ただ」
魔王「ただ?」
女側近「王とは、戦闘力だけが“強さ”ではありません。統率力、指導力、先導力など、必ずしも戦闘力が必要とは限りません」
女側近「国をまとめ上げるには一人ではどうにもなりません。部下をいかに上手く使うかはとても重要です」
女側近「魔王軍には、力に任せて恐怖で部下を従わせる指揮官もいれば、人柄や素晴らしい指示や命令で部下から慕われる指揮官もいます」
魔王「“強さとは戦闘力だけではない”……なるほど」
魔王(王としてやり方は色々ある……)
女側近「しかし、“どんな王でも支持しない者達が増えた場合…反乱が起るでしょう”」
魔王「……」
女側近「貴方は王ですが、今は王であるというだけです。無茶な命令ばかりしていれば、誰もついてきません」
魔王(地位、資金、労働。この魔界は完全縦社会。下に行くほどキツくなる。あまりにも不公平じゃないのかな?)
魔王(でもこの構造が安定をもたらしているのか? 平等な世界で安定した世界を作れないのだろうか?)
31:
 夜。
ーーー黒魔城・転移魔法陣ーーー
魔王「人間界へ?」
女側近「はい、もう1人の側近である“魔伯爵”から私にきてほしいと」
魔王「魔伯爵さんは人間界の魔王軍の指揮官だったね」
女側近「はい、人手がいるようで。すぐ戻りますが……大丈夫でしょうか?」
魔王「うん。仕事なんだから、気にしないでよ」
女側近「申し訳ありません……」
魔王「大丈夫だって、行ってきてよ」
女側近「何かあればすぐ戻ります。明日のスケジュールは書斎に置いてあります」
魔王「わかったよ、心配しないで」
女側近「印鑑は二番目の引き出しに……寝る前に歯磨きを……」
魔王「女側近さん、母親じゃないんだから」ハハッ
女側近「失礼しました。では行って参ります」ビュゥゥッン
 女側近は転移魔法陣で飛んで行った。
32:
ーーー自室ーーー
魔執事「失礼しまっす。魔王様、寝巻きをこちらへ置いとくっすよ」
魔王「うん、ありがと」
魔執事「姉御が留守の間は、俺が仕事を引き継ぎます」
魔王「うん、よろしく」
魔執事「明日、8時に起こしに来ます。おやすみなさいませ」
魔王「うん、おやすみー」
魔執事「あ、魔王様。どんなのがお好みっすかね?」
魔王「うん? 何が?」
魔執事「もちろん女の好みっすよ」
魔王「え? 女性の??」
魔執事「清純派、ロリ系、お姉さん系、熟女系、S系……巨乳など体型とかでもいいですけど」
魔王「あ、え、その……性格がいい子なら特にこだわりは無いけど? なんで?」
魔執事「かしこまりました。それでは」
魔王(……ふぁわぁ眠)
ガチャ……
魔少女「失礼しまーすっ」
魔王「うわ!」
魔少女「あれ?」
魔王(な、何この魔女っ子)
魔王「だ、だれ?」
魔少女「アンタこそ誰よ? てか、まおー様は?」
魔王「ボクが魔王だけど……」
魔少女「はぁ? 何言ってんのよ。アンタみたいなガキがまおー様な訳ないでしょ」
魔王「が、ガキってキミも子供じゃん」
魔少女「しつれーい! ウチはガキじゃないよっ! おっぱいだって少しはあるんだから!」プンプン
魔王「わ、わっ」アセアセ
33:
魔少女「まおー様は? ウチは夜のお相手する様に言われてきたの」
魔王「夜のお相手って……まさか君は」
魔少女「ん? ウチはサキュバスの魔少女。まおー様と、しに来たの」
魔王「えーーーー!」
魔少女「てか、アンタ誰?」
魔王「あの……だから新しい“魔王”です」
魔少女「え……だって魔力なんにも感じないし、明らかに弱そう」
魔王(弱いのバレちゃいけないんだっけ? 魔執事さん直伝のハッタリ!)
魔王「き、キミごときに魔力を悟らせるほど、その辺の魔族と一緒にされては困るよ」
魔少女「え? マジ? たしかに全く魔力を感じないなんて初めて……」
魔王「ここは“魔王”の部屋だろ? ここに一人で立ってるボクが魔王以外なんだって言うのさ」
魔少女「……うそでしょ、し、失礼しました」
魔王「いや、わかってくれればいいよ」
魔少女「ではご奉仕させて頂きます」
魔王「え、あ、いや、あの……」
魔少女「失礼します」
 ヌギヌギ……
魔王「あ、ちょ、えっと、あの……」
魔少女「ジッとしてください、まおー様。服が脱がせません」
魔王「わわわわっ」
魔少女「ふふ、まおー様かわいい…………♫」
魔王「〜〜っ!」
魔少女「ふふ、全部ウチに任せて☆」
 ポロン……
魔少女「いただきます☆」
 バタンッ!!
魔執事「魔王様っ!!」
34:
魔王「うわあああああっ!」
魔執事「大変です!」
魔王「ちょちょちょ……ちょっと! ノックぐらいしてよー!」
魔執事「大変です!!」
魔王「な、何があったの?」
魔執事「この城に侵入者っす。勇者が現れたと!」
魔王「え……」
魔王「えーーーーー!」
 ■ 第3話 社畜、いや魔畜 終 ■
39:
 ■ 第4話 初めてのラストバトル! ■
 
 
 
40:
ーーー黒魔城・玉座の間ーーー
魔王「誰もゲートを通ってないって……魔界には人間は来てないって聞いたんだけど」アセ
魔執事「人間界へのゲートを警備している兵からは異常無しっつー連絡があったんすけどね」
魔王「じゃなんで??」
魔執事「わかんないっすけど、この城の地下で多数の兵がやられ……目撃者によると人間のパーティだったと」
魔王(ひえぇぇ)
魔執事「地下の水路から侵入したようで。現在1Fロビーの辺りまで来ています」
魔王「け、警備はどうなってるの?」
魔執事「おい、デブ兵長。魔王様に説明を」
魔族兵長「ンマ……2Fに副隊長と3Fにドラゴン、この部屋の前は儂が警備するンマ」
魔王「え、この魔族本拠地に警備がそれだけ???」
魔執事「皆、上位魔族は他の勇者討伐の為、人間界に行ってます。ご自身で命令したんでしょーが」
魔王「うわーそうだった……」
魔族兵長「マおう様、安心してくだされ。皆やられても儂がここを通さンマ」
魔王「ちょっと!  副隊長さんも兵長さんもドラゴンも一緒に戦ってよ。なんで分散して警備するの?」
魔族兵長「な、なにを言ってるんマ。儂が自分より階級の低い者と一緒に戦ったら、示しがつかんマ」
41:
魔王「えーーーーー……だって、勇者パーティは4人とかでしょ? リンチにされるって」
魔族兵長「それでも共闘などはありえんですンマ。2Fは副隊長が守ってくれマす。それを信じるだけンマ」
魔王(一緒に戦った方が断然有利なのに……手を取り合うってことが、この弱肉強食の魔界じゃありえないことなのか)
魔王(“魔王”の権限で命令して、共闘させることも出来るけど……プライドを傷つけてしまう)
魔王「わかったよ……配置について」
魔族兵長「ンマー!」
魔少女「ウチはどうすればいい?」
魔執事「おめーいたのか、引っ込んでてくれ」
魔王「隠れててよ、あ、それと……」
……
42:
伝令「勇者パーティ2Fを突破! 副隊長がやられました! 現在3Fでドラゴンと交戦中です」
魔王(うわーヤバイよヤバイよ……)
魔執事「ご安心を。デブ兵長がやられても俺がいます」
魔王「え? キミも戦えるの?」
魔執事「当然っすよ。側近ですから」
魔王(女側近さんがいないのが不安……大丈夫かな)
魔執事「姉御にはすぐ戻ってこいと伝達してあります」
魔王「!」ビクッ
魔王「よく考えてることわかったね……」
魔執事「ふん」
……
伝令「勇者パーティ3Fを突破! すぐ前のフロアまで来ます!」
魔王「あわわ……」
魔執事「デブ兵長は簡単にはやられません。パワーだけは魔界一。パワーだけは」
魔王「……ちょっと覗いてみよう」
 ガチャ
43:
魔王「……」ソォ……
魔族兵長「ンマー!! 勇者共よ! ここは死んでも通さンマ!」
 ドゴォォオオッ!
勇者T「くっ、なんてパワーだ……」
魔法使いA「魔王まで後少しだ! 踏ん張れっ!」
女僧侶A「ここまで来て負ける訳にはいかないわ!」
戦士A「へっ……勇者よ。てめぇには魔王を倒す義務があんだ。ここは俺らに任せて先を急げ」
魔王(えーーーー!?)
魔族兵長「ンマー! 通さん!」
戦士A「おりゃああっ」
魔法使いA「はああああっ」
 ガッキィインッ!
女僧侶A「勇者っ! 今のうちにっ先へ!」
魔族兵長「ンンンンンーマ!」
勇者T「かたじけないっ」シュッ
魔王(ええーーーーー!)
魔王「魔執事さん! もう来ちゃうよ!」
魔執事「魔王様、少しどいてもらえますかね?」
魔王「へ?」
 魔執事はネクタイをとると玉座に座り、足を組みニタリと笑う。
44:
 ダダダッ……バタンッ
勇者T「魔王っ!! ついに追い詰めたぞ!」
魔執事「ふん……威勢がいいな、人間」
勇者T「きさまが魔王かっ!」
魔執事「ああ。この俺が魔界の王っつーわけだ」
勇者T「貴様を倒し戦争を終わらせる! 死んでいった仲間達の仇だ!」
魔王(魔執事さんが……影武者。勇者はボクもいるのに見向きもしない。魔執事さんの方が全然“魔王”っぽい)
魔執事「ふん、ボロボロじゃねぇか。たった一人で戦うなんて、そんなに死にたいのか」
勇者T「一人じゃない! 沢山の仲間たちの絆があって、ここへたどり着けたんだ」
勇者T「みんなの為にも僕は負ける訳にはいかない!」
魔執事「絆だと? くだらん。雑魚が集まっても雑魚は雑魚っつーの」
勇者T「魔族には仲間が分からないだろう? 人間は手と手を取り合う」
魔執事「何度も言わすな、くだねぇ」
勇者T「さぁ! 行くぞ魔王!」
 キンッ!
 キンッ!
 ドーンっ!
魔王(ひぃぃ……これが魔王と勇者の戦い。でも……)
魔執事「うらぁっ」ゴォォォオ!
 魔執事は爆炎魔法を放った!
勇者T「ぐああああっ」
魔執事「弱ぇっつーの」
45:
魔王(手負いの勇者一人じゃ、魔執事さんに敵う訳ない……もう瀕死だ)ホッ
勇者T「くそっ」
魔執事「さぁ止めだ」
勇者T「まだだっ」
 勇者Tは完全回復薬を使った!
 キュイイイン
勇者T「よし」
魔王(えーーーー! 傷も魔力も完全回復?!?!)
 キンッ!
 キンッ!
 ゴォォォオ!
勇者T「ぐああああっ」
 勇者Tは完全回復薬を使った!
 キュイイイン
勇者T「まだだーっ!」
魔執事「小癪な。何度でも殺す!」
魔王(えーーーーー! また?!)
46:
 キンッ!キンッ!キンッ!
 ガキィイィィッ!
魔王(瀕死にしても回復しちゃう。でも圧倒的に魔執事さんの方が強い……勇者の回復アイテムが尽きた時が終わりだ)
 ドオォオンッ!
勇者T「くそっ……つよい……」
魔執事「ハハハッ……ようやくアイテムも尽きたようだな」
勇者T「だめだ……勝てない……」
魔執事「トドメだ。さよなら勇者よ」
魔王「……」
勇者T「くそぉぉ……」
 『あきらめるなっ!』
 『勇者っ!』
 『キミのチカラはそんなもんじゃないわ!』
魔王「!」
魔執事「な、なんだ? 声が聞こえる……」
47:
勇者T「こ、この声は……親父、師匠、姫……」
 『アニキにチカラを送るッス』
 『てめぇには貸しがあるからよ』
 『私たちの魔力を使って!魔王を倒してっ!』
勇者T「人間界のみんな……」
 キュイイイン……
 勇者Tのステータスが爆発的に上昇する。
勇者T「チカラが……溢れてくる」
魔王「ええーーーーーっ!」
魔執事「チッ……」
勇者Lv99「くらえっ!!」
 ザンッ
 勇者Lv99は魔執事に会心の一撃!
魔執事「ぐあああああっ」
魔王「な、なんて強さ……」
勇者Lv99「はあああぁぁっ!」
 勇者Lv99は雷の魔法を放った!
 バリバリバリィィッ!!
魔執事「ぎゃああああああっ!」
魔王「なんてこと……」
魔執事「く、くそ……」
勇者Lv99「魔王……死んでくれ、戦争を終わりにする」
魔王(魔執事さんがやられてしまう……どうすれば!?)
48:
勇者Lv99「やああああっ」
魔王「魔執事さんっ! 退却します!」
魔執事「はぁ?!」
魔王「逃げましょう! ついて来てっ!」
勇者Lv99「え? え?」
魔執事「“魔王”が逃げる……だと?!」
魔王「命令です!」
魔執事「くっ……」
 ダダダッ……魔王達は逃げ出した。
魔王「はぁはぁ走ってっ!」
魔執事「く……無様だっつーの」
魔王「勇者はパワーアップしていて勝てません。しかし、時間が立てば元の勇者に戻るかも……」
魔執事「くそっ追ってくる」
魔王(勇者のパワーアップさえ解ければ勝てる)
 ダダダッ……
魔執事「はぁはぁ……逃げるったってどこへ」
魔王「こっちです」
勇者Lv99「待てぇ魔王っ!」
魔執事「お、追いつかれる……」ダダダッ
49:
魔王「はぁはぁ……」
勇者Lv99「行き止まりだ! 追い詰めたぞっ」
魔王(パワーアップしたままだ……これでは勝てない)
勇者Lv99「……ここで終わらせる」
勇者Lv99「やああああああっ!!」
魔王「今だっ! 魔少女さん! 転移魔法陣起動っ!」
魔少女「はいやっ☆」
 パアアアアアァァァ……
 勇者Lv99の足元に魔法陣が浮かび上がる。
勇者Lv99「な?!?」
 バヒュゥンッ……
 勇者Lv99は転移魔法陣で魔界の彼方へ飛んで行った。
魔王「ふぅ……ありがとう。魔少女さん」
魔少女「ううん。ウチはまおー様の指示に従って逃げる準備してただけ〜☆」
魔執事「……」
魔王「あぶなかった」
魔執事「逃げてるフリをして、この魔法陣の部屋まで誘導したってっつーことですか……?」
魔王「いや……フリっていうか実際逃げてたし、パワーアップが解けてたらキミに倒してもらおうと思ってたんだけど」
魔執事「こんな戦い方……負けと変わらねぇ」
魔王「いや、最善の策だったよ。うん」
魔執事「……」
魔王「キミのプライドは傷付いたかもしれないけど……」
魔王「魔執事さん生きてるじゃん!」
魔執事「……俺の為っつーことですか?」
魔王「魔界の為にだよ。キミの力が必要だもん」
魔執事「……」
魔王「納得いかない?」
魔執事「いえ……大変失礼致しました。心使い感謝致します」
魔王「勇者は倒せなかったけど、今のうちに城の守りを固めよう」
 ■ 第4話 初めてのラストバトル! 終 ■
53:
 ■ 第5話 裏物語−−−−−END ■
 
 
 
54:
 翌朝……
魔執事「とにかくみんな無事でよかったっすね」
魔王「いや、沢山兵士達がやられた」
魔執事「兵士は補充できます。気にすることはありませんよ」
魔王「するよ! みんな家族や友達、恋人がいたはず……」
魔執事「皆、覚悟の上です。それが仕事っーことっすよ。俺も含めて 」
魔王(……この被害はボクのせいだ)
魔王(城の守りをどうするべきか……勇者や王都軍などの攻めるべき敵は沢山。守りばかりにチカラを入れられない)
魔王(今回みたいに勇者に沢山刺客を送ると城の警備が薄くなる……)
魔少女「まおー様、昨晩の続きしよー☆」
魔王「え、いやいやいやいや」アセ
魔執事「昨晩は失礼しました。緊急事態だったもんで」
魔少女「今日は誰にも邪魔させないぞ」ニコッ
魔王「遊んでる場合じゃないよー」アセアセ
魔少女「まーた照れてるの? サキュバスのウチに任せて☆ シャワー浴びてこよー!」ルンルン
魔執事「あの勇者は魔界の彼方。戻ってこれないよう、転移魔法陣を停止させたっすよ。心配はいりません。ごゆっくり」ニヤ
魔王「いやいや……そんなことより」
魔王(今はこれからどうするか考えないと)
 ダダダッ……バタンッ!
女側近「魔王様っ!」
55:
魔王「うわっ……女側近さん」
女側近「生きてますか?! 怪我してないですか?! 酷いことされてないですか?!」アタフタ
魔王「だ、大丈夫だよ」
女側近「よ、よかった……」
 スゥ……ギュ
魔王(わ、わわ。抱きつかれた……)
魔王「ごめん、心配してくれてたんだね」
女側近「あ! し、失礼しました」パッ
魔王「………(離れちゃった)」
女側近「……」
魔王「……」ドギマギ
魔少女「んーー! いいシャワーだったぁ☆ まおー様、お待たせー! 昨晩の続きしましょ♪」
女側近「え……」
魔王「えーーーー!」
56:
魔王「あ、いや、あの……いやいやいやいや」アセアセ
女側近「あ、私はお邪魔でしたね。失礼しました」
魔王「いやいやいや、あの、その……」
魔少女「あれ? お姐ぇ帰ってたんだ」
女側近「ごゆっくり」ジィー
魔王(なんかこわい……)ビクビク
魔王「あ、あの! 今回の勇者のことなんだけど」
女側近「はい?」
魔王「なんで突然現れたの? ゲートは誰も通ってないんでしょ?」
女側近「ゲート警備からは異常無しと報告が入っております。しかし、この魔界に人間がいたのは事実」
魔王「警備に気付かれないで、ゲートを通ったってこと? 出来るの? そんなこと……」
女側近「ゲートの魔界側と人間界側も魔王軍が制圧しております。見つからずに通過できるとは思えません」
魔執事「それってよ。魔王軍の誰かが手引きしたっつーことか? じゃねぇと無理だろ?」
魔王「うわっ、魔執事さんいたの?」
女側近「その可能性は非常に高いです。先代魔王様が亡くなってすぐの騒ぎ、誰かが新しい魔王様の命を狙っているのかもしれません」
魔王「ひぇぇ……魔族の裏切り者?」
女側近「ここ最近、人間界へのゲートを通った者をピックアップして調査を致します。裏切り者が判明するまで油断は出来ません」
魔王「人間に協力する魔族がいるなんて……」
魔執事「人間に肩入れするとは考え難い……弱みを握られ脅されたか、魔王様の地位を狙って勇者を差し向けたか……」
魔王「勇者に、裏切り者に、戦争に……問題ばかり」
女側近「魔王様っ! 微力ながら私がチカラをお貸致します。乗り切りましょう」
魔執事「先代魔王様と違って頼りないが、どうにか助けたいと思っちまうな。魔王様、何でもお申し付けを」
魔少女「ウチもご奉仕する〜☆」
魔王「みんな……ありがとう」
57:
ーーー黒魔城・テラスーーー
魔王(……勇者に勝つ? 戦争に勝つ? 魔界を守る?……ボクのやるべきことは何だ?)
女側近「魔王様、大丈夫でしょうか?」
魔王「え?……な、なにが?」
女側近「思い詰めてるように見えましたので」
魔王「うん……気が滅入りそう」
女側近「……」
魔王「あ、ごめん。“魔王”が弱気なこと言っちゃダメだよね」
女側近「そうです。部下に示しがつきません」
女側近「貴方は“魔王”です。弱音は許されません。凛とした態度」
魔王「ぅん……」シュン
女側近「しかし」
魔王「?」
女側近「私の前では構いません。甘えてください」
魔王「女側近さん……」
女側近「愚痴でも弱音でも、言いたいこと言ってください。私は受け止めます」
魔王「ボク……魔王できてる?」
女側近「はい」
魔王「ホントに?」
女側近「はい、魔王様……失礼します」
魔王「?」
 ス……ナデナデ
女側近「一生懸命なのは、とても伝わってますよ」ニコッ
魔王(女側近さんが……笑顔)
魔王「……ありがとう」
女側近「出過ぎた真似を失礼しました」ペコリ
58:
魔王「今回攻めて来た勇者……強かったね」
女側近「強制転移させた場所は魔界の彼方です。しばらくはここへは近づけません。戻ってこれないよう魔界全土の転移魔法陣はすべて停止させました」
魔王「優先事項としては…やはり魔剣が必要だと思うんだ」
女側近「…………」
魔王「どうかな?」
女側近「魔剣は冥都より遠く離れた魔界の果て“世界樹”にあると言われております」
女側近「魔剣は魔王様以外触れることが出来ません。直接取りに行く必要があります」
女側近「現在転移魔法陣が使えませんので、かなり城を空けることになります。城の公務、守り、勇者達の対応など問題が多数出てきます」
魔王「…………」
女側近「どうなさいますか?」
魔王「う、うーん」
魔王(ボクは魔王)
魔王(ボクの指示でみんなの命がかかってる、凛とした態度で命令しないと)
59:
魔王「魔剣を取りに行こう」
魔王「仕事、執務は移動中にやる」
女側近「はい」
魔王「城は守らなくていい……城の兵力はほぼゼロで」
女側近「え?!」
魔王「その兵力は、勇者討伐と人間の王国軍への対応にすべてまわす」
女側近「どういうことでしょう?」
魔王「裏切り者がいる状況じゃ、守りを固めても意味がないし……」
魔王「“魔王”が城にいないことは勇者に伝わる。魔王不在の城にわざわざ攻めてくるとは思えない」
女側近「…………」
魔王「ボクがいなければ勇者達は攻めてくる理由がない。ボクがいない方が冥都は安全だ」
魔王「攻めだ。守りはいらない」
女側近「……」ゾクッ
魔王「魔剣を手に入れ……冥都を守る。そして」
魔王「人間との戦争を終わらせる!」
魔王「これがボクの“魔王”としての目的だ」
女側近「……っ!」
魔王「ど、ど、どうかな? ボクの考え……」
女側近「魔王様の命令は絶対です」
魔王「う、うん」
女側近「必ずや不備のないようお支え致します」
魔王「女側近さんはボクと一緒に来てもらえる? ボクと女側近さん……配下への指揮系統さえちゃんとしていれば、城にいる必要はないと思うんだ」
女側近「はい。魔執事には城に残ってもらいましょう。やはり公務をある程度任せられる者が城に残らないと」
魔王「あとボクの護衛役を……」
女側近「それも私が致します」
魔王「女側近さん戦えるの?」
女側近「……!」
 女側近は少し驚くと、口元に笑みを浮かべ答えた。
女側近「こう見えて先代魔王様に次ぐ、魔界No2でございます」
 
 魔王は出発点に立つ。
 未だ嘗てない旅が始まる。
 ■ 第5話 裏物語プロローグEND 終 ■
64:
 ■ 第6話 魔族文明都市“冥都” ■
 
 
 
65:
ーーー冥都・最上層街ーーー
《最上層、魔界最大の都市“冥都”の一番上にある上位魔族だけが住む事を許された街。おもに貴族の住宅街となっており、洗練された芸術的な建造物が並ぶ。中央には魔界の頂点である魔王の住む“黒魔城”がある》
魔王「うわぁ綺麗な街!!」
魔少女「まおー様、城の外に出たことなかったの?」
魔王「“魔王”になる前は最下層に住んでたから。こんな上層階を歩くの初めて」
魔少女「ウチが案内してあげるよ☆まおー様」
魔少女「魔界のこの“冥都”はひろーぃ街が縦に何層にも積み重なっていて塔みたいになってるの☆」
魔少女「ここはその一番上、冥都最上層でーす。空も見えるし空気綺麗♫」
女側近「正確にご説明をさせて頂きますと、冥都の街は大小様々あり、全部で13層積み重なっております。身分が高い者ほど上の階層に住むことができます」
魔少女「ちょ、ちょっとお姐ぇ! ウチが説明する〜」
女側近「冥都の外は“外界”<フィールド>といって地上には瘴気が漂いモンスターがいます」
女側近「最上層でこの赤い空が見えるのは、魔界の大地に漂う瘴気の影響を受けることがないからです」
魔王「これだけ高いとね……瘴気もないよね。冥都の街を縦に積み重ねていったのは、瘴気のないところに住む為だったのかな」
女側近「下の階層には、中央に位置する魔導エレベーターで行き来できます」
魔少女「ウチが説明しようと思ったのにー」ブー
66:
女側近「魔少女。陛下に対して口の利き方が無礼よ。気をつけなさい」
魔少女「えー。いいじゃん、新しいまおー様優しいし。お姐ぇ厳しい」
女側近「よくありません」
魔少女「大丈夫だよー☆ね、まおー様」
魔王「う、うん。別にいいよ」
魔少女「ほらーー♫」
女側近「そもそも、なんで貴方がついてくるんですか?」
魔少女「まおー様がいいっていったんだもん☆」
魔王「いや、彼女はこの間助けてくれたし、数少ない信用できる仲間だよ」
女側近「しかし……」
魔少女「あれ〜☆お姐ぇウチがまおー様とヤったから嫉妬してるんでしょ?」
女側近「」ピキッ
魔王「えーーーーー!」
魔王「いやいやいやいやいやいやいやっ! してないじゃん!」アセアセ
女側近「嫉妬などではありません。それはサキュバスである貴方の仕事です」
魔王「いやいや、だからしてないよ?」アセ
女側近「貴方と魔王様に何があっても身分を弁えなさいと言っているのです!」
魔王「何もしてないよー???」
魔少女「まおー様がいいって言ってるもん。まおー様の命令は絶対じゃん」
女側近「…………。魔王様、よろしいんですか?」
魔王「う、うん。だって長旅で危険もあるし、仲間は多い方がいいでしょ?」
女側近「違います。言葉使いのことを言ってるのです」
魔王「あ、うーん。ま、いいじゃない? 旅の道中はボクが“魔王”ってバレない方がいいだろうし」
女側近「それはそうですが……」
魔少女「やったーー!」
67:
魔王「それよりさ、魔剣の在りかまでどうやっていくの? 遠いんでしょ?」
女側近「魔剣は……“世界樹”の麓にあるといわれております」
女側近「冥都を出て、外界の瘴気の上を飛空船で飛びます。“最果ての町”まで行き、そこから徒歩で“世界樹の森”へ向かいます。その森の奥に魔剣はあります。まずは飛空船の港、第七層へ向かいましょう」
魔王「遠いなぁ……行く前に寄りたいところがあるんだけど」
女側近「はい、どちらでしょう?」
魔王「最下層の実家に……。母さんに聞きたいことあるから」
魔王(母さんに父さんのことを伝えなきゃ……)
68:
−−−冥都 最上層・柱−−−
魔王「ここが“柱”かぁ……」
 塔のような都市、冥都を支える巨大な柱。中には50m四方はある大きな魔導エレベーター。
 受付を済ませ乗り込む。中には数十人の魔族と貨物や家畜なども乗っている。
 ガヤガヤ……
 ガヤガヤ……
魔少女「わりと混んでる」ブー
魔王「冥都すべての転移魔法陣を停止しちゃったからね……移動はエレベーターでするしかないよね」
女側近「物流などに影響が出ないよう上手くエレベーターを稼働させています。混んでいるのは仕方ありません」
魔少女「はぅ……う、ウチだって知ってたもん!」
女側近「魔王様、エレベーターが動きます。お気を付けください」
アナウンス「これより最下層行きエレベーターを運行致します。途中第5層に停止、他の階層には止まりませんのでご注意ください」
 ウィィィン……
 みんなを乗せた大きなエレベーターは少し振動すると、ゆっくりと下降し始める。
魔少女「まおー様っ! 外みてっ」
魔王「おお! すごい景色〜」
 最上層から下降するエレベーターからは、すぐ下の階層“第12層”の風景が見える。
 はしゃぐ魔王と魔少女。
魔少女「あ、まおー様みて、あの赤い建物ウチの実家〜」
魔王「えっ?どれどれ??」
魔少女「あの広場のとなりの!」
魔王「んー??」
女側近「魔王様」
魔王「ん?……魔少女、どこ〜??」
女側近「魔王様、公務があります」
魔王「えええぇ。し、仕事か……」
女側近「はい、こちらの書類に目を通してください」
 ドサッ
魔王「こ、これ全部読むの……?」
女側近「はい、最下層まで少し時間がありますので公務でございます」
魔王「……」
魔少女「まおー様、みてみてアレはー」
女側近「……」ジ……
魔王「仕事……しないとね」シュン
 ……魔王達の乗った魔導エレベーターは、最下層に向けて下降していく。
69:
……
魔王「女側近さんは何でも知ってるんだねっ」
女側近「何でもではありませんが……魔王様のことは把握しておくようにしております」
魔少女「ほんとに〜? じゃあ、まおー様について質問しちゃおっかな?」
女側近「魔王様……お答えしてもよろしいでしょうか?」
魔王「……別にいいけど」
魔少女「まおー様の年齢は?」
女側近「70歳でございます」
魔少女「お! ウチのほうが5歳年上ー!」
魔王「5歳ってほぼ同じじゃん」
魔少女「えーと、まおー様の身長は?」
女側近「152cmです」
魔少女「体重は?」
女側近「39kgですね」
魔王「おおぉ……本当に知ってるんだ」
魔少女「彼女は? 今までどの位付き合った??」
女側近「おりません。交際歴はありません」
魔王「ちょちょちょちょっちょーー!」アセ
女側近「はい?」
魔王「な、なんでわかるのさー!」
女側近「以前に身辺調査させていただきましたので」
魔王「えーーーー!」
魔少女「そうなんだ。じゃ、エッチは?」
女側近「それもありませんね」
魔王「だああああっすすす、ストップ! 女側近さん、もうやめてっ」アセ
女側近「かしこまりました」ニコッ
魔少女「あ〜ん。まおー様の性癖は??」
女側近「魔王様の命令は絶対です。許可が無いので答えません」
魔王「えっ! そそそ……そんなこと知らないでしょ」アセアセアセ
魔少女「つまんなーい」
女側近「魔少女、サキュバスといえど外では羞恥の心をもって発言しなさい」
魔少女「はーぃ」
女側近「分かればよろしい」
70:
魔少女「じゃあ、今度はお姐ぇにエッチな質問してやるっ」エヘ
魔王「全然わかってなーい!」
魔少女「お姐ぇは一人でするのっ!?」イヒヒ
魔王「〜〜っ」ドギマギ
女側近「貴方の質問には答える必要はありません」
魔少女「あれ? お姐ぇ彼氏って……??」
女側近「ですから答えません」
魔少女「そういえばなんか噂で聞いたような……」
魔王「えーーーー?? 女側近さん彼氏いたの?!」
女側近「え、えーと……」
魔少女「あ! まおー様の質問だよ、答えて!」
女側近「恋人とい……
 ドオオオォォンッ!!!!
 突然、エレベーターに衝撃が走り急停止する。
 ギイイィィィィッ!
魔王「うあああああっ」グラグラ……
71:
魔少女「な、なにぃ〜?!」
魔族「何事だ?!」
女側近「魔王様、お下がりください」
 さっきの衝撃でエレベーター内の天井に穴が空いていた。そこから6、7人の魔族が入ってくる。
 明らかに好意的ではない。
魔盗賊A「ケケケケ……このエレベーターは俺らが乗っ取った! 抵抗すれば殺すっ!」
魔貴族「ひぃぃっ」
魔族村人「きゃああ」
魔商人「わあああっ」
魔王「うわぁぁ……」
女側近「スラムの賊ね……物流を魔導エレベーターに移したものだから狙われたのね」ヤレヤレ
魔盗賊B「全員床に伏せろっ!」
魔盗賊C「てめぇら! 金目の物を出せっ! 逆らったらぶっ殺すっ!」
 エレベーター内はパニックだった。皆が壁際に後ずさり恐怖に顔をしかめている。
 そんな中、女側近だけは黙って盗賊達に近づいていく。
女側近「……」スタスタ……
72:
魔盗賊A「おいっ! 女っ動くんじゃねぇ! 死にてぇのか?!」
女側近「ここまで下の階に来ると私の顔も知らないのね」スタスタ
魔盗賊D「動くなって言ってんだろっ!」
魔盗賊A「ヤッちまえっ」
魔盗賊G「このクソアマがっ!」
 魔盗賊達は火炎魔法を放った!
 ゴオオオォッ!
 ゴオオオォッ!
 ゴオオオォッ!
魔王「女側近さんっ!」
女側近「……っ」フゥ
 女側近が小さく息を吹くと、見えない壁が魔法を弾き返す!
魔盗賊A「なっ?!?!」
 
 ドオオオォォンっ!
 魔盗賊達を倒した。
魔盗賊E「ぐああああ……な、何が起きた?」
魔盗賊B「ぐぅ……上位魔族? こんな下の階層に?」
魔王(えーーー!? なんて強さ……桁が違い過ぎる)
女側近「賊め、冥都の秩序を乱すお前たちに生きてる価値はない」
魔盗賊A「秩序だと?! スラムを放ったらかしの上位魔族が偽善をいうんじゃねぇ!」
魔盗賊D「そうだっ! 秩序なんて糞食らえ」
 女側近は掌を前に突き出すと魔力を込める。ピキピキっと、その手元に氷の剣が現れる。
女側近「お前達と議論するつもりもない。死んでもらおう」
73:
魔盗賊B「くそぉっ!」
 魔盗賊は火炎魔法を放った!
 ゴオオオオオオッ!
女側近「こざかしい……」
 女側近が氷の剣をゆらりと振ると、火炎魔法は消え去った。
女側近「魔界は弱肉強食。弱く従わないものは死、あるのみだ」
魔盗賊C「弱い下層の魔族は……てめぇら上位魔族に苦しみ続けて生きてかなきゃなんねぇのかっ!」
女側近「それが魔界の摂理」
魔盗賊E「……くっそ! みんなずらかるぞっ!」
魔盗賊F「にげるぞ!」
女側近「逃げられると思っているのか!」
 女側近は大氷冷魔法を唱えた!
魔王「まって女側近さん……」
女側近「魔王様!?」
魔王「彼らを……」
魔王「殺さないで……」
 女側近は大氷冷魔法を止めた。
 魔盗賊達は逃げだした……。
女側近「よろしかったのでしょうか?」
魔王「彼らは低級でも魔族。敵は人間でしょ? 殺すことないよ……」
女側近「……? あの者達はいかがなさいますか?」
魔王「軍に探させて、牢へ閉じ込めよう」
女側近「かしこまりました。すぐに手配致します」
魔王(冥都も下の方に行くと魔族の闇が見えてくる)
 ■ 第6話 魔族文明都市“冥都” 終 ■
76:
 ■ 第7話 ステータス:仕事Lv1 ■
 
 
 
77:
 女側近の手配で“柱”の管理組織の魔族数名が到着する。彼女は手際よく事情を説明し、指示をだす。
魔少女「エレベーター壊れちゃったね。すぐ直るのかな?」
魔王「時間がかかるって。女側近さんすごいなぁ……強いし、なんでも知ってるし、みんなに指示も出来て」
魔王(ボクもそんな風にならないと“魔王”は務まらないだろうな)
魔少女「まおー様だってすごいじゃん」
魔王「えーーー。どこが?」
魔少女「さっき」
魔王「アタフタしてただけじゃん……」
魔少女「お姐ぇに……『殺すな』って命令してたでしょ」
魔王「あ、うん」
魔少女「お姐ぇに命令できる人は他にはいないよ。かっこよかった★」
魔王「……!」
魔王(ボクは“魔王”として周りから見られてる……自覚を持たないとな)
女側近「魔王様、さきほどの賊は追撃班を編成して追いかけさせております」
魔王「う、うむ」
女側近「魔導エレベーターは修理にしばらくかかりそうです。ただ上層階には影響ありませんので、物流などの心配もありません」
魔王「よかった」ホッ
魔少女「今、ウチら何処にいるの??」
女側近「第2層です。この階で賊が待ち伏せしてたようです」
魔王「ここにしばらく足止めか……」
女側近「とりあえず街へ出ましょう。今後の予定は宿にて」
78:
−−−冥都 第二層−−−
《第二層。冥都の下から二番目に位置する街。おもに低級魔族が利用する商業街が広がる。街並みは古く老朽化し綺麗とは言えないが、学校、病院、役所など公共施設も揃っている》
魔王「えっと……宿はこっちだ」
魔少女「あれ? まおー様、第二層は来たことあるんだ?」
魔王「うん、家が最下層だからね。仕事は第二層でしてたよ」
魔少女「まおー様が魔王様になる前はなんの仕事を……?」
魔王「えっと……図書館の整理の仕事」
魔少女「あは、今とは全然違うー」キャハ
魔王「ボクは魔法が使えないから、やれることが凄く限られてちゃってね。第三層の産業区の仕事はあんまりできなかったんだ」
魔少女「産業区……?」
魔王「魔少女さんも上位魔族だもんね、下位の仕事は知らないよね」
魔王(あの死ぬほど辛い労働を……)
女側近「魔王様、こちらの宿に予約をしております。本日はこちらでお休みください」
魔王「あれ? 女側近さんは?」
女側近「柱へ戻って事後処理を行ってまいります」
魔王「そ、そか。よろしくお願いします」
魔少女「ウチは?」
女側近「護衛を。魔王様の隣の部屋を取ってあります。貴方も上位魔族、下位の賊ぐらいは相手にならないでしょう?」
魔少女「まあね、さっきは可愛こぶっちゃってたけど」エヘ
女側近「……では行ってまいります。夜には戻ります」
魔王「うん」
 女側近は柱へ戻っていった。
79:
−−−冥都 第二層・宿−−−
 部屋のベットに横たわり一時の休息。ぼんやり思いにふける。
魔王(第二層……そんなにたってないけど、久しぶりな感じがするな)
魔王(せっかく第二層に寄ったし、図書館行こうかな。黙って辞めちゃったし)
魔王(まぁボクがいなくても誰も困ってないだろうけど)
魔王(謝りに行ってみようかな)
 コンコン……
魔王「はい?」
魔少女「まおー様、ウチです。入っていい?」
魔王「うん、、どうぞー」
魔少女「失礼しまーす」
魔王「?どしたの?」
魔少女「仕事★」
魔王「?」
 魔少女はパチンッと指を鳴らすと、目のやり場に困る姿に変貌する。
魔王「うわあああああっ! ちょちょっと仕事って……」
魔少女「サキュバスの仕事はひとつ。まおー様の疲れをとること」ウフフ
魔王「あ、わわわわわわ。ま、マズイよー」
魔少女「なんでー? まおー様、お姐ぇがいると恥ずかしがっちゃうじゃん。今しかないよ」
魔王「でも……でも……」
魔少女「うるさーい★」ドンッ
 魔王はベットに押し倒された!
魔少女「貴方はまおー様。サキュバスの部下の相手をするのも仕事だよん」
魔王「仕事……」
魔少女「そ、大人しくして………………」
魔王「あ……」
80:
 ガチャ
女側近「魔王様。失礼します」
魔王「うわあああああああっ!」
女側近「お取り込み中失礼します。やっていただかなければならない仕事が……」
魔王「いやいやいや、違うよ、違うんだっ」
女側近「あ、コトが済んでからで結構ですので、こちらの資料をご確認ください」
魔王「す、す、すぐ確認するよ! すぐすぐ!」
女側近「いえ。後で構いません。お取り込み中失礼しました」
魔王「いやいやいや!」
魔少女「まおーさまー」ぶー
 女側近は出て行った。
魔王「く……はぁー……」
魔少女「もぅお姐ぇってたら」プンプン
魔王「し、仕事しよ」
……
81:
 勤勉に仕事をする魔王と、それを不満そうに見る魔少女……
魔王「うーんと……えーと……」
魔少女「むぅー」
魔少女「まおー様……仕事、凄く一生懸命。サボったってウチと違って誰にも怒られないのに」
魔王「え? そうかな」
魔少女「なんで? そんなに頑張るの?」
魔王「うーん。嬉しいからかな」
魔少女「嬉しい? 仕事が?」
魔王「うん、ボクは魔法が使えないから、あまり仕事がなかったんだ」
魔王「ずっとさ、ろくに何も出来ないって白い目で見られてきたから……今頼られること、仕事がある事が嬉しい」
魔少女「そうなんだ」
魔王「魔少女、仕事終わったら付き合ってほしいところがあるんだけど……」
魔少女「にゃ?」
82:
−−−第二層 旧商業区・図書館−−−
魔少女「ここって、まおー様が魔王になる前の職場??」
魔王「そう……黙って辞めちゃったから謝ろうと思って」
魔少女「え、えっ……まおー様は王様なんだから謝らなくてもぉ……」
魔王「仕事だから。勝手は許されないよ」
 テクテク……
魔族館長「ん?」
魔王「あ、館長さん……」
魔族館長「クズじゃねぇか。何してやがる」
魔王「あの……突然辞めてしまって申し訳ありませんでした」
 深々と頭を下げる魔王。
 魔族館長はそんな姿を無表情で見下ろすと吐き捨てるように言う。
魔族館長「魔法使えないクズは必要ねぇよ。邪魔だから失せろ」
魔少女「なっ?!……ちょっと! この人誰だと思ってんのよ!」
魔族館長「あ? 魔法の使えないクズだろ?」
魔少女「魔法が使えない? この人はね!ま……」
魔王「まって魔少女さん、館長さん……すみませんでした」
魔族館長「クズが! おめーは何も出来ねぇ。これから何処で働こうとそれは変わらねぇ」
魔族館長「……貴様の母親は素晴らしい魔導師だった。彼女に頼まれたから貴様を雇ってやったんだ。母親の義理を無駄にしやがって」
魔王「……本当に申し訳ありませんでした」
……
−−−第二層 商業区・広場−−−
魔少女「きぃぃぃっ!」
魔少女「なんなの! あの下級魔族! まおー様なんであんな奴に頭さげるの?!」
魔王「仕事を突然辞めてしまったのは事実だし……こっちの事情は関係ないよ。謝らなきゃ」
魔少女「まおー様優しすぎ!! まおー様にあんな言葉遣いする無礼な奴は串刺しにしてやればいい」プンプン
魔王「言葉遣いについては、キミが言うことではない気が……」ハハッ
魔少女「まおー様が止めなかったら、ウチが魔法で死ぬまで悪夢の刑にしてやったのに」
魔王「こわ……」
魔王(魔法か……母さんはすごい魔導師だった。父も魔王。そんな二人の子供のボクに魔法が使えないなんて)
魔王(やっぱり本当はすごい魔力があるのだろうか……ボクの身体には)
魔少女「図書館の仕事なんてまおー様っぽくない!」
魔王「案外よかったよ、たくさん本読めたし、いろんな知識ついたもん」
魔少女「ふーん。ウチは勉強きらい!」
魔王「本はいいよ! 色んなことわかるし……」
魔少女「ま、まおー様! アレっ!」
魔王「え?」
83:
 魔少女の指差す方向をみると、数人の魔族が旧市街へと続く路地へ入っていく。
魔王「あ、あれは…エレベーター襲った盗賊達」
魔少女「よーし! ウチが捕まえてくるよ! まおー様ご褒美ちょうだいね」タタタッ
魔王「えーーーー! あ 、まってまって!」
 魔王の言葉が耳に入らず魔少女は魔盗賊達を追いかけてしまう。
 辺りは人通りの少ない旧市街。誰も住んでいない古びた民家が立ち並ぶ。
魔少女「まっ〜てぇっ!!!」
魔盗賊A「あん?」
魔盗賊B「なんだ? てめぇは」
魔少女「ウチはまおー様の自称側近の魔少女よん! 悪党っ! 覚悟しろー★」
魔王(ひぃぃー! 女側近さんいないのに)
魔盗賊C「こ、こいつらエレベーター襲った時にいた奴らだっ」
魔盗賊A「なんだと?! チッ……ヤるか」
魔王「まって! 抵抗しないでください。投降すれば悪いようにはしません」
魔盗賊B「あ? 投降したら殺されるだけだろーが!」
魔王「いや、君達の気持ちや生活状況を考慮して情状酌量する。それには投降してもらえないと」
魔盗賊A「ああ?? 俺らを家畜としか見ていない上位魔族のアンタらが情状酌量だと??? ふざけんな!」
魔盗賊C「なんで俺らがこんな生活してると思ってんだっ! 全部おめーらのせいだろがっ」
魔盗賊A「上の奴らより、ちょっと魔力が低いだけで何でこんなに格差ができるんだ」
魔盗賊C「俺らは言いなりにはならねぇ!」
魔王「……」
魔王(何も言い返せない。戦うしかない)
魔王「だ、大丈夫なの? 魔少女さん……」
魔少女「ウチに任せて☆」
魔王「殺さないで。捕まえるんだ」
魔少女「OK♪」
魔王(魔少女の戦闘力をボクは知らない。いざとなったら……ど、どうしよう)
84:
魔盗賊C「上位魔族め……しねぇ」ゴオオオッ
 魔盗賊Cは火炎魔法を放った!
魔少女「おっとー!」
 魔少女はヒラリとかわすと、ぴょんっと飛び上がる。魔盗賊達は一斉に魔少女に襲いかかる。
 しかし、1:3にも関わらず魔盗賊達の攻撃は当たらない。ヒラリヒラリと攻撃をかわす魔少女の口元は笑っていた。
魔王(ホッ……問題なかった)
魔盗賊B「はぁはぁ……くそ」
魔盗賊A「あたらねぇ……」
魔少女「ウチだってやる時はやるのよん。じゃ、終わりにしちゃうよ」
 魔少女は幻覚魔法を放った!
 ボオオオン……
魔盗賊A「うあ……こいつサキュバスだ、幻覚に気をつけろっ!」
魔盗賊B「くそ……」プシュッ
 魔盗賊達は自らを傷つけ正気を取り戻す。
魔盗賊C「いってぇ……」
魔盗賊A「おい、あのガキを狙え!」
魔盗賊B「おしゃぁっ!」
魔王「うわぁ!」
 魔盗賊Bは魔王に攻撃!
魔少女「まおー様あぶないっ!」
 ザシュッ!
 魔少女は魔王をかばった。
魔少女「いったぁー」
魔王「魔少女さん!?」
魔少女「大丈夫。かすり傷だ……よ……んう??  身体が」グラッ
 魔少女はフラフラとよろける。
魔王「魔少女さん! まさか毒……」
魔盗賊B「この毒で即死しねぇのかよ」
魔盗賊C「さすがは上位魔族か。だが、いけるぞ」
魔少女「ぷっちーん! ウチ怒ったよ……もう手加減……しない」
 魔少女はよろけながらも詠唱を始めると、魔盗賊達は「殺せっ」と叫びながら突っ込んでくる。
魔少女「来てっ! 召喚っキマイラぁぁああ!」
 キュイイイインッ!
 
キマイラ「グオオオオオオォォンッ!」
魔王(えーーー! 召喚魔法!!)
85:
魔盗賊A「な、なにぃぃ?!」
魔盗賊B「くそっこんなの勝てるかっ!」
魔王(サキュバスはモンスターを魅了して手懐けるって……本に書いてあったけど、これがサキュバスの戦い方)
魔少女「キ……マイラちゃん。やっちゃえ!」フラフラ
 キマイラは凍てつく波動を放った!
 ゴオオオオォォッ!
魔盗賊達「「「うわああああっ」」」
魔盗賊A「くそっ! 逃げるぞ」
魔少女「逃がさないよ! キマイら……ちゃん。くぅ……」
 毒で蹌踉めく魔少女。キマイラは逃げ惑う魔盗賊に攻撃やめない。
キマイラ「グオオオオオオォォンッ」
魔少女「く……」フラフラ
魔王「魔少女さんっ! しっかりしてっ」
魔少女「まおーさま……ご、ごめん……なさい」ガクッ
魔王「魔少女さん! 意識が……」
キマイラ「グオオオオオオォォンッ!」
魔盗賊B「ぎぁあああっ」
 魔盗賊達を倒した!
 しかし、キマイラは魔王達の方を向いて威嚇する。
キマイラ「グルルルゥ……」
魔王(やばい……キマイラを制御できない)
魔王(こんな街中でキマイラが暴れまわったら大変なことになっちゃうよ。魔少女さんも治療しないと死んじゃう)
 キマイラはズシリとズシリと近づいてくる。
86:
魔王(どうする? どうする?……)アセ
魔王(やばいよ……)
魔王(ボクに魔法が使えたら……)
キマイラ「グオオオオオオォォンッ!」
魔王「ひぃ……」
魔王(いや!)
魔王(ボクにだって使えるはずだ! 先代魔王様と母さんの血を受け継いでるんだ!)
魔王(ボクは……
 “魔王”なんだ!!)
 魔王はキマイラに手をかざす。
魔王「く、くらえええぇぇぇええっ!!!」
 魔王は火炎魔法を放った!
 しかし、何も起こらなかった!
魔王「え、えーーーっ!!!!」
 キマイラは大きな爪を振り上げる。
 その刹那、冷たい風が吹いたと思うとキマイラの背後から氷の剣をもった女性が一線に飛んでくる。
女側近「貫くっ!」ジャキィィン
 
キマイラ「ギャアアアアアアア……」
 ドシーン……
 キマイラを倒した。
魔王「お、女側近さん……」
女側近「魔王様、大丈夫ですか!??」
魔王「う、うん。背後から脳天一突き。すごい」
女側近「よくぞご無事で……よかった」ホッ
魔王(やっぱり魔法使えなかった……)
87:
−−−冥都 第二層・宿−−−
魔王「魔少女さんは大丈夫??」
女側近「はい、もともと致死量ではありませんでした」
魔王「よかった……本当にあぶなかった」
女側近「魔王様……申し訳ありませんでした」
魔王「いや、今回の事態はボクの勝手な行動が招いたことだよ。ボクの方こそゴメン」
女側近「盗賊達ですが……アジトを発見しましたが抵抗された為、全員殺害しました」
魔王「……」
女側近「重ねてお詫びいたします」
魔王「“弱肉強食”弱い盗賊達を退治しても、根本的な解決にはならない」
魔王「彼らは上位魔族に不満を持っての悪行だった。きっと同じ不満をもった輩がまた現れる」
女側近「はい」
魔王「悪行に対して断固たる制裁は必要だけど、彼ら下級魔族の労働状況、生活環境を見直し改善することが同じ事態を防ぐことに繋がると思う」
女側近「はい」
魔王「すぐに取り掛かろう」
女側近「かしこまりました」
魔王(下位で育ったボクが“魔王”である意味は、この視点で魔界を見ることができる。きっとボクの存在意義はそこにある)
魔王(ボクは“魔王”)
魔王(……これがボクの仕事だ)
 ■ 第7話 ステータス:仕事Lv1 終 ■
89:
 ■ 第8話 ボクと私とウチと ■
 
 
 
90:
魔少女「はぁ……はぁ……」
魔王「ふぅ……ふぅ……」
 ギシギシ……
魔少女「はぁはぁ……あっ」
魔王「ちょ……ま、魔少女さん……先にイかないでよ……はぁはぁ」
 ギシギシ……
魔少女「あぁーもぅ……ダメっ」
魔王「もう……もぅ……」
魔王・魔少女「「歩けない!!!」」
女側近「まだ第一層までかなりあります。ちょっと休憩しますか?」
魔王・魔少女「「賛成!」」
91:
−−−冥都 第二層と最下層の間−−−
 場所は第二層と第一層の間の“柱”。その周りの非常階段である。
 壊れてしまったエレベーターが直らないので、下の階層に行く為、非常用の階段をひたすら降りる魔王達だが……
魔王「想像以上に階段キツイね……」
魔少女「もう歩けなーい」
女側近「まだ半分も来ていません。夜になる前には地上につかないと」
魔少女「お姐ぇ……回復魔法かけて☆」
女側近「魔法では傷は癒せても、疲れまでは回復しません。休んだら行きますよ」
魔王「そか……」
女側近「魔王様、足をマッサージさせて頂きます」
 モミモミ……
魔王「おふっ」
魔王「す、すごい! き、気持ちいい!」
 モミモミ……
女側近「マッサージLv99でございます」ニコッ
魔王「わぁふっ……そんなところまで……」
魔少女「お姐ぇウチにも☆」
女側近「貴方はサキュバスなのですから、マッサージの技術は必須です。自らの足での鍛錬しなさい」
魔少女「はぁぃ」ショボン
女側近「魔王様は魔法で足の筋力を強化致しますね」キュルリン
魔王「あ、ありがと……」
魔少女「ヒーン……ずるい。それにしても、なんか辺りに靄が……これって」
魔王「瘴気……だよ」
92:
 柱の階段は外に面しているのだが、薄い瘴気が漂い下の景色はあまり見えない。空気が悪く余計に疲れを感じる……
魔少女「これが最下層の空なのね……この空を見てると気持ちが落ちるぅ」
魔王「だよね……ん?」
女側近「魔王様っ下がってください!」
魔少女「な、なんか飛んでくるよ! 鳥?」
魔王「複数いるよ! 鳥じゃない敵だっ」
女側近「ワイバーンです。エンカウントします!」
ワイバーン「ギャアギャアッ!」バッサ…バッサ…
魔王「ひぃっ……囲まれた。8、いや9体」
 一斉に襲ってくるワイバーン。
 女側近は氷撃魔法を放った!
女側近「はぁっ!」シャキイィン
 現れた無数の氷の矢はワイバーン達を捉える。
ワイバーン「ギャアギャア!」
 ワイバーン達を倒した。
女側近「魔王様お怪我はありませんか??」
魔王「うん、大丈夫」
魔少女「なんだー。あっけなかったじゃん」
女側近「同じ場所に留まるのはモンスターの標的になります。行きましょう」
魔王「う、うん」
 ギシギシ……
93:
魔少女「休憩なしぃ。モンスター来てもお姐ぇいれば問題ないじゃん」
魔王「階段の老朽化が激しい、派手に戦うと階段ごと崩れちゃいそうだよ」
女側近「その通りです。急ぎましょう」
 ギシギシ……
魔王「女側近さん、本当に強いね」
魔少女「この間の勇者もお姐ぇがいたら倒せてたよ☆」
女側近「……どうでしょう? わかりませんが」
魔王「勇者達はーーー強かった」
女側近「……」
魔王「たった4人で冥都の最上層のボクの前まで辿り着いたんだ。警備の眼をすり抜けて、ずっと戦ってた訳じゃないだろうけど半端じゃないよ」
女側近「人間とは恐ろしいものです」
魔王「勇者達は……仲間で“連携”して戦ってた。攻撃、守り、支援、援護、回復。勇者パーティは役割分担がしっかりして、互いに補い合う」
魔王「魔王軍にもこの戦い方、出来ないのかな」
女側近「連携ですか……」
魔王「チームで戦う。とても理にかなってたと思うんだ……」
魔王「ボクら魔王軍はさっきのワイバーンと同じ。個々が一斉に攻撃するだけ。攻撃が得意な兵士もいれば、守りが得意な兵士もいると思うんだ」
魔王「役割をしっかり分けて、チームで補い合えば大きな戦闘力になる」
94:
女側近「難しいかもしれません……人間達は上下関係をあまり気にしません。勇者の仲間達は同じように命を懸けているのにも関わらず、手柄はほとんど勇者一人に持っていかれます。魔族には考えられない戦い方ですね」
魔王「じゃぁ魔族の場合、“手柄”がチームみんなに行き渡るようにすればいいのかな?」
魔王「えっと……兵士達に同じ階級同士をチームにして、評価や成果をチーム毎に与える」
魔少女(難しい話……)
魔王「手柄を上げたチームはチーム全体で階級を上げる。そうすればチーム内で助け合うんじゃない? 」
女側近「兵士達には個々に能力が違います。レベルの低い兵士と組まされたメンバーは不満に思うのではないでしょうか?」
魔少女(全然わかんなぃ……)
魔王「成果の低いチームは再編成し続ける。あとチームをまとめるリーダーはいるよね。たぶん」
女側近「なるほど……上手くやればメリットの方が大きくなりそうですね。“魔伯爵”に連絡し具体的にシミュレーションさせてみます」
魔少女「ウチもいいと思う! まおー様すごい!」
魔王「うん、よろしく」
魔王(これで軍全体の底上げになればいいんだけどな)
95:
−−−冥都 最下層−−−
《縦に塔のように重なる街の冥都、その一番下に位置するのが最下層。冥都は第二層より下は瘴気が漂い、魔力や力の弱いものが住む。建物はほぼ住宅のみだが何処も老朽化して、継接ぎのように補強されたものばかりだ。そこが魔王の育った故郷である》
魔王「やっとついたぁ〜」
魔少女「想像以上にボロボロの街……」
魔王「そりゃ最上層に比べたらね。スラムはもっと酷いよ」
女側近「それにしても、この靄……瘴気が」
魔王「なんか前より瘴気がひどくなってる??」ケホケホ
 女側近が言った通り薄黒い靄が街には立ち込め、10m先がなんとか見える程度だ。
 魔王が最下層を離れてそれほど立ってはいないが、明らかに前より瘴気が濃くなっていた。
魔王(なんでだろう……)
魔少女「そもそも瘴気ってなんなの? 吸い込んじゃって大丈夫なの?」
女側近「瘴気とは空気中に漂う毒性の魔力のことです。魔界全土を覆っていると言われ、少量吸い込む分には一時的にステータス値が下がるだけですが、多量に吸い込むとモンスター化してしまいます」
魔少女「うえぇぃ……吸っちゃマズイじゃん!」
女側近「この程度の濃さでしたら問題ありません。冥都内では結界があるので、瘴気の進入を防いでいます」
魔少女「全然防げてないけど!」
女側近「外の瘴気はこの程度ではありません」
魔王「それにしても急に瘴気が濃くなってる……これじゃスラムと変わらない」
魔王(母さん……)
96:
−−ー冥都 最下層・実家前−−ー
魔王「ここ、ここ! やぁ−−っと着いたぁ」
魔少女「ここがまおー様の実家。お母様にキチンと挨拶しなきゃ☆」
女側近「貴方は節操の無い格好なので、外で待っててください。挨拶は私が……」
魔少女「え! ズルい! そーゆーお姐ぇだって身なり整えてるじゃん! ウチも」
 氷の鏡で身なりを整える女側近を横目に、魔少女はパチンっと指を鳴らし装備を清楚な服に変化させる。
魔王「ちょちょちょっと! 二人とも外で待っててよ……急に女の子連れて帰ったら母さん腰抜かしちゃうよ」
女側近・魔少女「うぅ……」
 ガチャ
魔王「ただいまー」
魔王(久しぶりの我が家……やっぱり落ち着く)
魔王「母さーん、ただいまー」
……
魔王「……」
魔王(留守かぁ……ん?)
 居間の床に似つかわしく無い物が転がっていた。
 絶対に我が家のものでは無い。
魔王「……」
魔王(これは……)
魔少女「ナイフ?」
女側近「これはジャグリング用のナイフ……ですね」
魔王「うわっ!! 二人ともビックリさせないでよ…」
 果物ナイフや戦闘用ナイフでは無い。
 ジャグリングナイフ。
 大道芸人が複数のナイフを空中に投げたり取ったりを繰り返し、常に1つ以上の物が浮いている状態を維持し続ける芸で、その技に使うのがジャグリングナイフだ。
女側近「お母様は留守ですか」
魔王「そうみたい。嫌な予感がする……」
97:
魔少女「え? どうして?」
魔王「このナイフに見覚えがあるんだ。これは……『黒のサーカス団』のナイフだ」
魔少女「何? サーカス団?」
女側近「『黒のサーカス団』……冥都の基本労働に参加せず、スラムを縄張りとする反乱組織」
魔王「母さん……何かあったのかな? うちはあんなギャングみたいのと関わることなんてないのに」
女側近「争った形跡はありませんが……何かあったのは間違いありませんね」
魔少女「直接聞きに行こうよ、サーカス団に」
女側近「そうですね、確かめに行きましょう」
魔王「か、簡単に言わないでよ……物騒な人達なんだから!!」
魔少女「え、だってお姐ぇいるし。なんかしてきたらブチのめすだけだよん☆」
魔王(もし黒のサーカス団と関わりがあったなら母さんが心配だ……)
魔少女「何処にいるの? サーカス団は??」
魔王「冥都の最も底辺……スラム」
98:
−−ー冥都 最下層・スラム−−ー
魔王「……」
魔少女「……」
女側近「……」
 スラムの入り口に立つ魔王達は驚愕していた。瘴気がさらに濃く、3m先が見えないほど。魔王は生まれてから70年最下層住んでいたが、こんなことは初めてだった。
 ペタペタと裸足の子供魔族達が瘴気に包まれながら歩いていた。
魔王「ねぇねぇ、君たち。いつからこんな瘴気がすごいの??」
少年魔族A「ん? えっと10日前ぐらいからかなー」
少年魔族B「なんかモンスターも出るようになっちゃって、お家に帰れないの」
魔王「えーーーー……どうして?? こんな」
女側近「ただ事ではありませんね……」
少年魔族C「“魔王”がスラムを潰そうとしてるんだってー」
魔王「えーーーー?!?!」
少年魔族B「冥都の上位魔族が瘴気をばらまいたって」
魔王「−−ーッ」チラッ
女側近「……いえ、違います」
魔王「だ、誰がそんなことを??」
少年魔族A「サーカス団の団員が言ってたよ。でも団員達が奥でモンスターと戦ってくれてるよ!」
少年魔族B「瘴気もサーカス団が消してくれるって!」
少年魔族D「黒のサーカス団マジかっこいいー!」
魔王「……」
99:
魔少女「なんかまおー様のせいにされてる……」
魔王「とりあえず行こうか、ボク道案内するから」
魔王(母さんがいなくなったのと関係あるのかな? 何事もないといいんだけど)
……
 テクテク……
魔王「女側近さん、前にスラムを焼き払う計画があるって言ってたじゃん? あれはどうなったの?」
女側近「もちろん、ご命令通り計画を破棄しました。魔王様の命令は絶対です」
魔王「誰かがその計画を勝手に実行したってことはない? なんか裏切り者がいるかもしれないんだし」
女側近「そもそも、スラム一掃計画は魔法で焼き払う計画でしたので……このような瘴気やモンスターを使うものではありませんでした」
魔王「なんでボクがやったことになってるんだ……ぁ」
魔少女「まおー様可哀想……」
女側近「冥都は高さ30mの結界の壁で覆われています。外界の瘴気とモンスターは通常入ってこれません」
魔王「結界……に異常があるのかな?」
女側近「おそらくは。……ん?」
魔少女「にゃ?」
魔王「どしたの? 二人共」
女側近「敵、モンスターですね。囲まれてます」
魔王「えーーーー! ちょっ……瘴気で全然視界がないよっ!」
女側近「大丈夫です。任せてください」ニコッ
魔王「う、うん」
女側近「魔少女、魔王様の側を離れず護衛しなさい。魔王様はゆっくり目的地へお進みください。私は敵を殲滅しながらついて行きます」
魔王「わ、わかったよ」
 女側近はもう一度ニコリと微笑むと瘴気の中へ消えて行った。
 ジャキンッ!
 ドカッ
  ガガアアアァッ
 瘴気でまったく見えないが、女側近が敵を倒す音だけが周りから聞こえる……
100:
魔王「い、行こう。魔少女さん」
魔少女「はいな」ムギュ
魔王「ちょ、近すぎるって歩きづらいよ」
魔少女「ウチ、まおー様から離れないー」エヘ
魔王「くっつき過ぎーいろいろ当たってる。それじゃボクを守れないでしょ」
狼型魔物「グルルルゥッ」
 魔物が現れた!
魔少女「にゃらー!」ボオオオンッ
 魔少女は闇魔法を放った!
狼型魔物「ギャアアア……」
 狼型魔物を、倒した!
魔少女「いえい! ほら大丈夫☆」
 ドオオォンッ
 キンッ
魔王(結構なモンスターがいる……)
魔王(女側近さんが戦い、魔少女さんが守る。ボクが先導……これも立派なチームの連携)
魔王(ボクら魔族にだってチームは出来るんだ)
 ■ 第8話 ボクと私とウチと 終 ■
103:
 ■ 第9話 母を訪ねて…… ■
 
 
 
104:
 濃い瘴気の中、魔王達は戦いながらスラムを進む。
 昼間なのに日の光があまり届かない。なおかつ足場も舗装されておらず瓦礫が散乱している。
 魔王は記憶を頼りに黒のサーカス団の本拠地であるテントを目指す。
 ガキンッ
 ドゴォォンッ
魔王「くっ……視界がなくて道がわからない」
女側近「魔少女、魔王様をガードしなさい」
魔少女「はいな☆」
女側近「はぁああああっ!」
 女側近は氷風魔法を放った!
 ゴオオオオオオッ!!!
 女側近の魔法で辺りの瘴気を吹き飛ばす。
 周りの建物などがピキピキと凍りつき冷たい空気が立ち込める。……が、一気に視界が開け目的地の黒のサーカス団のテントが見えた。
魔王「あ、あそこだよ!」
女側近「いきましょう!」
105:
−−ー最下層 スラム・サーカス団テント−−ー
魔王「すみませーん!」
魔王「誰かいませんかーーー?!!」
魔王「母さぁぁん!」
魔少女「誰もいない? 逃げちゃったかな」
女側近「あちらに気配が……」
 シュッ
女側近「魔王様、あぶないっ」キンッ
 突然ナイフが飛んできたが、女側近が叩き落とした。
魔王「あ、ありがとう」
女側近「何者だ?! 姿をみせろっ」
??「……オイラは許さない」
 姿を現したのは道化師。それも少年である。
 手にはジャグリングナイフを持ち、敵意の目で睨んでくる。
魔道化師「オイラの街をこんなにしやがって〜!!」
魔王「き、キミは黒のサーカス団の団員??」
魔道化師「オイラ達を抹殺しにきたんだろ〜! 上位魔族め!」
魔王「ちょっ……違うよ! ボクらは母さんを探しに来ただけ! 誤解だよ」
魔道化師「あぁー?!?」
魔王「ホラ、このナイフ……キミのじゃないの?」
 魔王は実家に落ちていたナイフを見せた。
106:
魔道化師「!……オイラのナイフ。これを何処で?」
魔王「ボクん家に落ちてたから。母さんが何処行ったか知らない?」
魔道化師「母さんって……お前、“女魔賢者”の息子か?」
魔王「そ、そうだよ。知ってるの??」
魔道化師「そうなのかー……ごめん。ピカピカな服着てたから、てっきり上位魔族かと思ったよー」
女側近「……」
魔少女「……」ギクッ
魔王「母さんは何処に??」
魔道化師「団長達と“死の丘”へ行ってるよー」
女側近「なぜ?」
魔道化師「少し前によー。“魔王”達、上位魔族がスラムを潰すために結界に穴を開けてさ。おかげでスラムは瘴気とモンスターに溢れちゃった」
魔王「結界に穴……」
魔道化師「お前の母親は最下層で一番魔力が高いじゃん?」
魔王「そうなの?!」
魔道化師「そんな訳で、穴の空いてしまった結界を直すために協力してもらってんだよー。そうとは知らずごめん、急にナイフ投げたりして」
女側近「なるほど………“死の丘”。結界の壁すぐ近くです」
魔王「行こう! 急がないと瘴気がどんどん濃くなっちゃうよ」
魔道化師「オイラ達、黒のサーカス団に協力してくれるのか??」
魔王「もちろんだよ!」
魔道化師「うひゃっ! 女魔賢者の息子が力になってくれるなら団長達も喜ぶ! オイラが案内するよー」
……
107:
 魔道化師の案内で“死の丘”へ急ぐ魔王達。
 相変わらず瘴気は凄いがモンスターはあまり現れない。
魔道化師「オイラ、魔道化師だ。サーカス団ではピエロって呼ばれてる。よろしく、うひゃ」
魔王「ボクは魔お……あっ、えーと……」
魔道化師「マオか、うひゃよろしくー」
魔少女「ウチは魔少女。こっちの巨乳は女側近だよ。ピエロくんよろしくー☆」
魔王「ピエロくん。結界に穴が空いたのって“魔王”の仕業って聞いたんだけど本当??」
魔道化師「おう、少し前から上位魔族がスラムを潰そうとしてるって情報があったんだー」
魔王(それは事実だ……)
魔道化師「オイラ達、黒のサーカス団はその情報の詳細を調べていた所だったんだけど」
魔道化師「つい10日前か? 大きな魔力の波動を感じたと思ったら結界に穴が空いて、ごあーって瘴気が噴き出したわけよー」
魔王「それで犯人はボク……あ、いや魔王軍ってことなのか……?」
魔道化師「穴を開けられた時に上位魔族が目撃されてるからなー」
女側近「どんな奴ら??!」
魔道化師「あ、白いフードを被ってて顔は分からなかったらしいけどー。数は4人。でも綺麗な身なりだったらしいからスラムの魔族ではないじゃん」
魔王(白いフードを被った4人……)
女側近「……」
108:
−−ー最下層・死の丘−−ー
 ゴオオオオオオッ!
 キンッ キンッ
 ドオォォンッ!
サーカス団長「ひるむなーーー! いけえぇ!」
団員達「「「「あいさー!」」」」
サーカス団長「女魔賢者殿にモンスターを近づけるなっ!」
女魔賢者「……$€〆⌘tx……△∞c∬……」
 死の丘では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
 中央には魔王の母、“女魔賢者”が結界を塞ごうと詠唱し、それを護るように黒のサーカス団が無数のモンスター達と戦っていた。
魔王「母さんっ!!!」
魔少女「ひぇぇっ! サーカス団のみんな、めっちゃ囲まれてるよっやばいやばいっ」
女側近「魔王様は下がっていてください!」
 魔少女は全体回復魔法を放った!
 キュイイィィン!
サーカス団長「!」
獣型魔物「グウウゥ!」
団員B「はぁっ!」ガンッ
鳥型魔物「ギャアギャアッ」ズバッ
女側近「やぁっ!」ジャキンッ
 鳥型魔物を倒した!
サーカス団長「お、おぬしは……」
女側近「加勢致します」
魔道化師「うひゃ団長っ! 援軍つれてきたよー」
サーカス団長「ピエロ……危険だからテントにいろと」
 獣型魔物はしゃくねつほのうを放った!
 ゴオオオオオオッ!
団員A「うわああっ」
魔道化師「ぎゃあああ」
団員E「くぅ……」
109:
女側近「外界の敵相手に出し惜しみは良くないわね……」
 女側近が刀身に手を添えると氷の剣が輝き出す。
女側近「はあああぁぁぁっ!!」キィィィン!
 女側近は絶対零度魔法を放った!
 キィィイインッ
 キィィイインッ
 キィィイインッ
獣型魔物「」
鳥型魔物「」
狼型魔物「」
 女側近の剣から放たれた光に触れたモンスターは一瞬で凍りつき塵となり消える。
団員C「な、なんだ? この魔法は?!」
女側近「はああああああぁっ!」
 キィィイインッ
 キィィイインッ
 キィィイインッ
 魔物の群れを倒した!
団員A「つ、つぇ……」
魔王「母さんっ!」
サーカス団長「近づくなっ! 女魔賢者殿は結界を修復するために集中しているっ」
女魔賢者「°#€=〆lo……」
魔王「……」
サーカス団長「結界を塞がなければモンスターは入ってくる。あと2日ほど耐えれば塞がるはずだ」
魔少女「あと2日も?!」
魔王「女側近さん……出来る?」
 死の丘から空を見上げると瘴気の中にバチバチと光が見える。
 女側近は大きさを確認するとニコリと微笑んで言った。
女側近「お任せください。魔王様の命令は絶対です」ニコッ
 女側近は女魔賢者の肩に手を当てると魔力を注ぎ込む。
 その瞬間、まるで突風が吹いたように瘴気が晴れていく……。
サーカス団長「塞がった?!」
団員A「やったー!」
団員B「うおお!」
団員C「すげー!」
団員D「やたぁぁあああ」
魔少女「さっすがお姐ぇ」フフン
女魔賢者「う……くぅ……。なんて魔力」
女側近「……ふぅ」クラクラ
魔王「母さんっ!」
女魔賢者「ええ?! アンタ……なんでここに……」
 ■ 第9話 母を訪ねて…… 終 ■
112:
 ■ 第10話 アビリティ:ネゴシエイト ■
 
 
 
113:
−−ー最下層スラム・サーカス団テント−−ー
魔少女「お母様、無事でよかったね」
魔王「うん、でもサーカス団に連れてかれちゃったけど」
魔少女「どういうつもりかしら」
魔王「……女側近さん大丈夫?」
女側近「……はい。ご用があればなんなりと……」フラフラ
魔王「わっわっ! まだ寝てていいって!」
女側近「だ、大丈夫です。魔力を使い過ぎただけですから……」
魔王「だめ、休んで! ボクの命令は」
女側近「……絶対です……」
魔王「うん」ニコッ
魔少女「お姐ぇがヘロヘロになるなんて珍しー。というか初めて見た!」
女側近「申し訳ありません……」
魔王「いやいやいや! 謝らないでよ。ボクなんもしてないんだから」
魔少女「今のうちに♫ まおー様☆」モニュ
魔王「ちょっ」アセ
女側近「」ピキッ
 女側近は氷撃魔法を放った!
 ドドドドドッ!
魔王「わああああっ」
魔少女「きゃああああっ」
女側近「サキュバスといえども場所と時間をわきまえなさい。次は当てますよ」ニコッ
魔少女「こっちのセリフよーもぅ」
 ……
団員「おい、お前ら」
サーカス団長「元気そうだな。さすがは上位魔族といったところか」
魔王「……」
114:
女側近「私達が上位とわかっているなら部下達に剣をしまえと言ってもらおうか」
団員「……」チャキ
サーカス団長「上位魔族だから武器を手放せん。我々がおぬし達と敵対しているのはわかっているのだろう?」
女側近「敵対だと? こちらから見ればお前らは弱すぎて敵と認識するまでもない、お前らはただの……」
魔王「女側近さんっ! 挑発しないでっ」
女側近「……はい。かしこまりました」
サーカス団長「……」
団員達「……」
魔王「団長さん、ボク達は貴方達と話し合いがしたい」
サーカス団長「スラムを潰そうとしておいて、話し合いも何もないだろう」
魔王「今回の事態は上位魔族のやったことではないよ」
サーカス団長「それを信じろというのか? では、誰がやったのだ? 結界に穴を開けた者も目撃されているのだぞ」
魔王「……」
女側近「……」
魔少女「まおーさま……」
サーカス団長「ふん、我々を納得させなければ話し合いに応じることはできん」
魔王「じゃぁ納得させるよ。ボクの考えを聞いてよ」
女側近「!」
サーカス団長「申してみよ」
115:
魔王「えっと……約10日前、白いフードをかぶった4人組が目撃されてる。顔は誰も見ていない」
サーカス団長「状況からして上位魔族だな」
魔王「ちがうよ、その4人組は……」
魔王「人間だ」
魔少女「あっ! そうか」
女側近「勇者達……」
魔王「そう、先日最上層の黒魔城が人間に攻められたのは皆知ってるよね?」
魔王「彼らは結界に穴を空け、冥都に侵入。人間と気づかれないよう最上層まで上がってきたんだ」
サーカス団長「……」
魔王「考えてみてよ、上位魔族がスラムを潰そうとしたなら魔法で焼き払うよ。それだけの武力があるし。わざわざ結界に穴を空けたりしない。瘴気がどんどん濃くなりスラム以外も潰れてしまう」
サーカス団長「ふむ……」
団員「団長……」
魔王「ボクと団長さんの2人だけで話がしたい」
サーカス団長「……。いいだろう」
団員「団長! 危険です!」
サーカス団長「いや、スラムのリーダーは私だ。任せてくれ」
……
116:
−−ー黒のサーカス団テント 団長の部屋−−ー
サーカス団長「結界を直した女魔族は……見覚えがある。あれほどの強さを持っているのに、おぬしはそんな彼女に命令をしていた」
魔王「うん、彼女はボクの側近……」
サーカス団長「まさか……」
魔王「ボクが“魔王”だ」
サーカス団長「なんと……こんな子供が。ピエロと変わらないぐらいではないか」
魔王「話し合いに応じてくれてありがとう」
サーカス団長「脅しの間違いだろう? 我々では束になってもおぬしらに敵わない」
魔王「ボク達は貴方達より圧倒的な力があるよ、でも脅す気はない」
サーカス団長「ふん、信じられるものか。魔王よ、おぬしの母親“女魔賢者”の身柄はこちらにある。私に何かあれば……」
魔王「貴方をスラム……いや、下位のリーダーとして我々魔王軍と交渉して頂きたい」
魔王「お互い納得いくようにしたい」
サーカス団長「……信用できない」
魔王「信用してほしいから、ボクは身分と素顔を明かしたんだよ」
サーカス団長「チカラのある“魔王”が何故話し合いなのだ?」
魔王「チカラだけでは解決しないこともあるよ。そしてボクに出来ないことが貴方にはできる」
サーカス団長「……」
魔王(どう……だ?)
117:
サーカス団長「いいだろう……」
魔王(よし!)
サーカス団長「交渉というからには、何か要望があるのだろう? そちらが我々に求める条件はなんだ?」
魔王「うん、まず……」
 魔王は真っ直ぐ団長を見つめ、口を開く。
 魔王軍の条件
 ・下位層の犯罪組織解体
 ・スラム市民の労働への参加
 ・“黒のサーカス団”が魔王軍の傘下に入る
サーカス団長「ふん、無理難題ばかりだ」
魔王「だけれど、貴方なら不可能じゃないよ。下位層を掌握している貴方にしかできない」
サーカス団長「こちらの条件を言わしてもらおう」
 下位層スラムの条件
 ・スラム街のインフラ整備
 ・生活保障
 ・減税
 ・スラム住民の犯罪歴の抹消
 ・労働環境の整備
 ・スラム住民の上層階への通行許可
 ・食料と資金
 ・私の上位魔族の地位
サーカス団長「こんなところか」
魔王「……」
サーカス団長「無理ならこの話は……」
魔王「すべて受け入れるよ」
サーカス団長「な、なんだと?!」
魔王「減税と労働環境に関してはすでに動いているよ。他も改善するから、そちらも誠意を見せてよ」
サーカス団長「しかし……」
魔王「すぐじゃなくていい。少しづつでも犯罪が減ったり、魔王軍に対立する魔族が減ってくれればそれでいい」
魔王「ボク達は同じ魔族だよ? お互いが歩み寄れば格差は減らせる」
魔王「力で抑えつければ、反発を生む。その反発をまた力で抑えつける」
魔王「何も良くならない! 必要なのは話し合いだ」
118:
サーカス団長「……」コクリ
 言葉には出さなかったが、サーカス団長は頷いた。
魔王「交渉……成立!」
サーカス団長「しかし、私が“魔王”と手を組んだというのは……」
魔王「うん、しばらくは秘密だね。今はスラムで上位魔族への不信感が強すぎるもん」
サーカス団長「これは密約ということで……おぬしがしっかり動いてくれるなら、私も必ず答えよう。そうすれば徐々に不信感も消えるだろう」
魔王「うん、よろしく団長さん」
サーカス団長「……はい。魔王様よろしくお願いします」
魔王「あ、もう一つ条件だしていい?」
サーカス団長「?」
魔王「母さんを返してほしい……」
 ■ 第10話 アビリティ:ネゴシエイト 終 ■
121:
 ■ 第11話 なれそめ ■
 
 
 
122:
−−ー冥都 最下層・実家−−ー
女魔賢者「アンタ〜! どこ行ってたんだいっ」
 魔王の母、女魔賢者は息子をぎゅ〜〜っと抱きしめると満面の笑みで言った。
 “魔王”に即位してから初めて母の元へ帰ってきたのだ…ハグされる恥ずかしさもあったがホッとした気持ちが強かった。
魔王「母さんっ! 苦しいって〜」アセ
女魔賢者「ちょっと顔見せないなぁと思ったら……」チラ
女側近「……」ペコリ
魔少女「どーも☆」エヘ
女魔賢者「女の子連れてくるなんて……それも2人も。お母さん寂しい」
女側近「初めまして、部下で女側近と申します。お母様」
女魔賢者「あらあら、どうもご丁寧に〜。こんな美人な方を。やるわね〜アンタ」
魔少女「お母様! ウチは恋人兼部下の魔少女です☆ よろしく〜」
女魔賢者「あらあら、こちらも可愛らしいお嬢さんだこと。我が息子ながら隅に置けないわ」
魔王「母さんっ! なんか勘違いしてるようだけど、2人は仕事仲間だから。それより聞きたいことあって帰ってきたんだけど」
女魔賢者「そうなのかい。ふーん。なんだい? 聞きたいことって??」
魔王「父さんのことだよ!」
女魔賢者「? なに?? そーりゃーイケメンでダンディだったよ。私の旦那だもん」アハ
魔王「そうじゃなくて……」
女魔賢者「まぁアンタの顔見ないで亡くなったって言ったろ……旦那っていっても、戦争で一緒に暮らすことさえ叶わなかったけどさ」
 顔は笑っていたが、眼が悲しみの色に変化したのを魔王は見逃さなかった。
魔王(何も知らないのか……? 生きていてたことも、“魔王”だったことも……)
魔王「父さんは……父さんが……」
女魔賢者「なんだい?」
魔王「……」
女側近「……」
魔王「ボクの父さんはどんな魔族だった?」
女魔賢者「珍しいわね、そんなこと聞くの初めてじゃない? そうね、アンタの父さんはすごい男だったよ」
魔王「……」
女魔賢者「母さんはね、昔最上層で魔法の研究する仕事してたんだ。魔王軍の騎士だった父さんとは黒魔城で知り合ったの」
123:
 魔王の母は思い出を語った。
 父親は勇敢な騎士であったこと。
 身分の違いが有り秘密の関係で愛を育んだこと。
 子を宿したが、人間との戦争が始まり結婚出来なかったこと。
 子供の顔を見ることなく戦死してしまったこと。
 その後、子供に魔法のチカラが無かった為、最下層へ移ったこと。
 女魔賢者は笑顔で寂しそうに語った。
魔王(父さんが騎士?? 父さんが“魔王”になったのは数百年前だ)
魔王(つまり父さんは“魔王”という身分を隠して、母さんと付き合っていたってことなのか。その上、死んだことにして別れた……)
魔王(ひょっとしたら、生まれて来るボクに魔力が無いのが分かって別れたのかも)
魔王(そんなのって……)
 魔王は母親の笑顔から目をそらす。
魔王(酷すぎる)
魔王(母さんは最下層で魔法の使えないボクを育て、ずっと苦労してきた)
魔王(きっと父さんの忘形見だと思ってたんだ。それなのに……本当はのうのうと生きていたんだ)
124:
魔王「母さん、魔力の無いボクをここまで育ててくれてありがとう」
女魔賢者「……なんだい急に……」
魔王「ボク新しい仕事頑張るから! これから母さんを楽にさせるから!」
女魔賢者「何言ってんだい。魔力があるか無いかなんて関係無いよ、アンタは私の子」
女魔賢者「魔法が使えない体質を魔法学じゃ“無属性”って言うんだ。世間じゃ偏見もあるし障害者扱いだけど……」
女魔賢者「母さんはね、本当はアンタに凄い力が眠ってるんじゃないかって思ってる。それがなんの才能かわからないけど……」
女魔賢者「勇敢な父さんと私の子供なんだから」
女魔賢者「だから……
 自分を信じるのよ」
魔王「うん」
女魔賢者「よし」ニコッ
魔王「ありがとう……」
女魔賢者「ところで新しい仕事ってなんなんだい?」
魔王「えーと……。今は最上層で働いてるんだけど……」
魔王「と、図書館の整理だよ!」
125:
−−ー冥都 最下層・中央通り−−ー
女側近「本当のことを言わなくてよかったんでしょうか?」
魔王「うん。今はまだ……母さんまだ父さんを好きだもん。言えない」
女側近「“好き”ですか……70年経っても忘れられないとは」
魔王「そーゆーものなのかな。夫婦って。わからないけど」
女側近「そうですね。わかりません」
魔少女「あれぇ? お姐ぇが分からないなんて珍しいっ! あは☆」
女側近「……。わからないのではなく理解出来ないのです」ムッ
魔少女「同じじゃーん。好きになったらそのすべてが宝物♫」
女側近「……。そういうもの……?」
魔少女「え?! マジでいってんの?? 彼氏かわいそー」
魔王「あ!!!」
女側近「はい?」
魔王「……そ、そそそそ、そういえば……お、女側近さんのカカカカ……彼氏って?」
女側近「え?……彼氏といいますか……い」
魔王「あああああああっ! ウソウソっ! 言わなくていい!」
女側近「あ、はい……」
魔王(なんか分からないけど聞きたくない!)
魔少女「えーーーー! 教えてよ、お姐ぇ! 彼氏どんな男なのー?」
女側近「いえ、答えられません。魔王様の命令は絶対ですから……」
魔王「……」ショボーン
魔王(女側近さんに恋人……)
魔王(いろいろ聞いたら甘えられなそう……)
魔王(いやいや! なるべく甘えないようにしよう!)
魔王(彼氏のこと考えて迷惑してたかもしれないし……)
魔王「……」ショボーン
126:
魔少女「まおー様。愛とは何があっても信じること。その相手の全てを受け入れること☆」
魔王「受け入れることかぁ……」
女側近(……なるほど)
魔少女「ウチはお母様にぜーんぶ言っても大丈夫だと思うよ☆」
魔王「そか……わかった。ボクがみんなに“魔王”として認められたら言う!」
魔少女「うん!」
女側近「賢明なご判断です。魔王様の素性が広まるとお母様が狙われる危険性があります。一応、部下に極秘裏に護衛させます」
魔王「ありがとう……」
魔少女「元気だして、まおー様」
魔王「げ、元気だよ! とにかくボクの素性バレないのにしないとね」
女側近「今の所、黒のサーカス団の団長にしか知られていません」
魔王「早いとこ“魔剣”を取りに行こう! そんでお城へ戻ろっ」
魔少女「あれ? まおー様、なんかこっち向かって叫んでる魔族がいるよ?」
魔王「え?」
127:
 魔少女の視線の先を見ると、大声で叫びながら手を振ってる少年が見えた。
 派手なシマシマの服に、赤い鼻の飾り。黒のサーカス団の魔道化師だ。
魔道化師「おぉぉーいっ! 魔王ぉー!」
魔王「うわあああっ! ピエロ! ちょっと内緒なんだから叫ばないでよっ!」
魔道化師「うひゃーやっぱ内緒なのかー」
魔王「なんで知ってるのさ??」
魔道化師「オイラ、マオと団長が話してるの聞いてたからなーひゃひゃっ」
魔王「えーーーー!」
女側近「貴様……それを誰かに言ってないだろうな?」ギロッ
魔道化師「うひゃ、言ってない言ってない」
魔少女「さっそくバレてる……」
魔王「誰にも言わないでよー」
魔道化師「わかったわかったー。じゃ行こ〜」
魔王「どこに?」
魔道化師「飛空船に決まってんだろ〜」
女側近「私が黒のサーカス団に依頼しました。冥都の魔導エレベーターは修理中ですので、港の第七層に行くことが出来ません」
魔道化師「オイラ達の飛空船を貸すってことなったんだよ」
魔王「そか。よろしく!」
魔少女「よーやく“魔剣”のところへいくのねー」
女側近「冥都を出て外界へ。“最果ての町”を目指します」
魔王(だいぶ寄り道しちゃったけど、いよいよ“外界”へ!)
 魔王達は黒のサーカス団の協力を得て、飛空船で飛び立つ。まだ旅は始まったばかり。
 ■ 第11話 なれそめ 終 ■
130:
 ■ 第12話 魔社会問題 ■
 
 
 
131:
女側近『魔王様、本日の業務は冥都の少子化対策についてです』
魔王『うん』
女側近『男魔族の子種はとても少なく、他の生物に比べると非常に子供が作りずらい。これは他の生物より魔族の寿命が長い為だと言われております』
女側近『それに加え、近年若者の草食化にともないさらに少子化が加。冥都の社会問題になっております』
魔王『そ、草食?』
女側近『そこで魔王様自ら性行為のススメを行なって頂き、少子化を食い止めたいと思います』
魔王『はぁ?!?!』
女側近『まずは魔少女と……お願い致します』
魔少女『あは★まおー様、仕事ですよ。エッチしましょ』
魔王『え、え?!……えーーーー!!??』
女側近『それではよろしくお願い致します』
魔少女『まおー様……失礼します』
魔王『う……うわあああ…………』
魔王(頭が真っ白に……)
……
……
魔王「ハッ……」
132:
魔王「……」
魔王「え?……これからってときに急に朝に……」
魔王「ここは飛空船の中…」
女側近「おはようございます、魔王様」
魔王「え? 夢?」
 ダダダダッ……バタンッ!
魔少女「ちょっとー! なんで起きちゃったのよー」
女側近「おはようございます、魔少女。魔王様が魘されてたので私が起こしました」ニコッ
魔少女「うわっ! お、お姐ぇ……覚醒魔法か。うぐぐぐ」
魔王「え?え?え?」
女側近「魔少女、魔王様の夢に入るのは止めなさい」
魔少女「ひぃ……やっぱりバレてた」
魔王「えーーー?! ボクの夢の中に入ってたの??」
 
女側近「サキュバスは精神世界に入り込み夢を操ることができます。少子化対策については問題ありませんのでご安心を」
魔王「あ、そう。よかった……ような、残念なような」
女側近「はい?」
魔王「あ、いやいやいや! 何でもないです」アセ
133:
−−ー外界 上空・飛空船内−−ー
 魔王達は黒のサーカス団の中型の飛空船に借り、魔界の果てにある“最果ての町”へ向かっていた。
 飛空船の窓から外を見ると、赤い空、黒い雲。地上には瘴気の雲海が見渡す限り続く。
 冥都を離れて3日。
 魔王を乗せた飛空船は順調に空を飛んでいた。
魔道化師「うひゃ、ほい……ほいほいほい」
 魔道化師はナイフで器用にジャグリングする。
魔少女「わー! すごいっ」
魔王「おお! かっこいい」
魔道化師「うひゃひゃっ! お次はファイヤーナイフ投げっ」ブオォッ
魔王「うおおおお……って、アチッ」
魔少女「きゃああっ熱いっ」
 女側近は氷冷魔法を放った!
 パキーンッ
魔道化師「あひゃ」
女側近「ピエロ、船を燃やす気? コントロール出来ないならやめなさい」
魔道化師「失敗してもうた〜〜」
魔王「ちょっとーあふないじゃん」
魔道化師「ごめんごめんー」ウヒャ
魔少女「ピエロ、見かけによらず案外魔力あるのね」
女側近「それでは魔王様、休憩はこのくらいにして仕事に戻りましょうか?」
魔王「うん」
魔少女「うぇー。まおー様もっと遊ぼうよー」ブー
女側近「魔少女は自分の部屋で勉強でもしてなさい。ピエロは船の操縦に戻って」
魔少女・魔道化師「「はーい」」
 ガチャ
134:
魔王「えーと、まず何から……」
女側近「まずは……人間界の勇者についてですが、現在マークしている勇者は6人。内1人が先日の勇者、彼だけが魔界の何処にいるか把握出来ていません」
魔王「あの黒魔城で戦った勇者?」
女側近「はい。一番警戒しなければならない勇者です」
魔王「なんとか見つけださないとね」
女側近「魔界各所に手配しております。人間は目立ちますので何か目撃や痕跡があればすぐ連絡があります」
魔王「うん。あとあれだけ強い人間だもん。単独でも魔王軍の拠点や街を落とされちゃうかもしれない。警戒するよう連絡を」
女側近「はい、すでに魔界全土の警戒レベルを引き上げました。この対応は戦争の開戦時以来ですね」
魔王「早く魔剣を手に入れないと……」
女側近「人間界の勇者の対応はいかが致しましょう? 現在はマークしているだけで膠着状態ですが……」
魔王「いくら倒しても勇者が現れるからなぁ……どうしたらいいんだろう」
女側近「勇者が旅をしずらい状況を作れればいいのですが」
魔王「うーん……旅しずらい……」
魔王「じゃ人間達のインフラを破壊しよう! 船や橋を壊したり、山道やトンネルを崩すとか」
女側近「なるほど。人間界は転移魔法はあまり普及しておりませんので有効かもしれませんね」
魔王「隠密的に破壊工作すれば、こちらの被害も少なくすみそう」
女側近「すぐ手配致します」
魔王「うん!」
女側近「では次の議題へ参ります」
……
135:
魔道化師「姐さーーーん! ちょっとーーー!」
 操縦席の方から魔道化師の焦ったような声が聞こえる。
魔王「騒がしいなぁ……どうしたの?」
 飛空船の操縦席からの視界には、見渡す限りの美しい朝日と大海のように広がる瘴気の雲海が見える。
 魔少女が「あれ!なに?!」とひょんひょんと跳ねながら指を指してる。遠くに空に浮かぶ島があり、丸い大きな光が見える。
魔王「な、なに? あれ?」
女側近「人間界へのゲートです。あの光の先が人間界になります」
魔少女「うわぁ……大きいね。飛空船ごと入れそう」
魔王「ゲートって、扉みたいになってるのかと思ってた」
 実際の人間界へのゲートは、空中に浮かぶ直径20mはあろうかという光の球体。
 しかし球体ではあるものの、よく見ると奥行きがある。まさに空に浮かぶ穴。
女側近「ゲートの下には街があります。補給も兼ねて、寄って行きましょう。ピエロ、船を彼処へ」
魔道化師「ラジャ〜」
 魔王達の飛空船はゲートのある浮遊島へ入港する。
136:
−−−外界 浮遊島・境界都市−−−
《境界都市・魔界側。人間界へのゲートがある浮遊島の街。ゲートは魔王軍が管理警備しており、軍と決められた商人しか通行することができない。人間界からの物資が沢山届き、多くの商人が行き交う貿易の街》
 ガヤガヤ……
 ガヤガヤ……
魔王「うわぁ……賑やかだぁ」
魔少女「市場っいちばー!」キャピキャピ
商人「そこのボクちゃん! 人間界の野菜買っていかない?!」
魔道化師「うひゃー何この野菜! 空みたいに真っ赤だよー」
女側近「こちらはトマトと申します。人間界は瘴気がありませんので、野菜や植物がとても豊富です」
商人「食べてみるかい?」
魔少女「いいの!? やた! いただきまーす」
魔王「え、ボクもボクも」
魔道化師「オイラもー」
 パクッ
魔王少女道化師「「「うまいーーー!!!」」」
魔王「女側近さんも食べてみなよ!」
女側近「あ、あ、はい……」パク
 女側近の魔力が回復した!
女側近(おいしい……)
魔道化師「うひゃー! マオッあっちに人間界の服あるよー」
魔王「え、ピエローまって、どこー?」
魔少女「まおー様ぁこっちにもー」
女側近「皆さん、はぐれてしまいますよー」
 ガヤガヤ……
魔道化師「マオっ見てみろよ……これ」
魔王「なにこの服!……女の子の下着みたい」
魔道化師「うひゃひゃっ踊り子用の服だって。姐さんに着てもらえよ」
魔王「だ、だ、ダメだよ。そんな節操のない……」アセ
魔道化師「魔少女しゃんなら着てくれそう」
魔王「あれ? 2人ともいないよ。はぐれた??」
魔道化師「お! こっちにもお店あるぞー」
魔王「あー! ピエロまってよ」
 魔王と魔道化師は地下へと降りていく……
137:
ーーー浮遊島 境界都市・地下オークション−−−
客A「15番っ」
客B「7番」
客C「8番!」
 カンッカンッ……
オークショニア「『金剛竜の爪』7番落札っ!」
客B「よし!」
オークショニア「次……」
 広いホールに熱気に包まれた数十名の客。
 舞台の司会者に向かい、我こそはと次々に手を挙げる。
 カンッカンッと鐘を鳴らすと落札者が決まる。
魔道化師「こりゃなんだ〜?」
魔王「これって……オークションだ! 初めてみた」
魔道化師「おーく……? なにそれ?」
受付「ありゃ、ボクちゃん達、オークションは初めてかい?」
魔王「はい……みんな、手を挙げて何してるんですか?」
受付「競りだよ」
受付「全ての物資や食料は市場で競りにかけられるんだ。落札した商人<バイヤー>によって冥都の上層や下層に行くか。もしくは冥都じゃない別の町へ行くか」
魔王(魔界の物の流れ………)
魔道化師「競り?……お金払えば買えるんじゃないの〜??」
受付「違う、ここは魔界だぞ? 必要なのは『魔力』」
魔道化師「なるほど〜。客はああやって手を挙げて魔力を示しているのか〜」
受付「そう、魔力が一番高い魔族が落札できる。ここは骨董品を扱うオークションだ。君らも参加してみな。欲しい商品があったら手を挙げて魔力を集中させるんだ」
魔道化師「おおお! マオっ! やってみよっ」
魔王「う、うん。ボク魔力ないからできないけど」
受付「はい、番号札52番だね」
オークショニア「次っ! 嘘を見破る緑の輝き『エルフの瞳』っ!」
客E「16番」
魔道化師「52番っっっ!」
客F「24番!」
 カンッカンッ
オークショニア「『エルフの瞳』24番落札!」
魔王「ダメかぁ」
魔道化師「くっそ〜っ」
魔王(魔力が低いと物資や食料も回ってこない……これが魔界の物流なんだ)
 ■ 第12話 魔社会問題 終 ■
139:
 ■ 第13話 オークションバトルっ! ■
 
 
 
140:
オークショニア「次っ……初代闇騎士団の団長の遺品『アサシンダガー』」
魔道化師「ごおおぉぉぉ52ばあぁぁんっ!」
客K「33ばん!」
客B「7番」
客A「15番っ」
 カンッカンッ……
オークショニア「『アサシンダガー』7番落札!」
魔道化師「くぁーー」
魔王「勝てない……」
オークショニア「次っ……魔法薬原料、悲鳴を聴くと危険な植物『マンドレイク』」
魔道化師「5ぉぉぉ2ぃぃぃいいいいバンっ!」
客B「7番」
 カンッカンッ……
オークショニア「『マンドレイク』7番落札!」
7番の魔商人「クックックッ……」
魔王「また7番に負けた…ピエロの魔力じゃ何も落札できないんじゃないの?」
魔道化師「ぜぇ……ぜぇ……オイラ魔力つきてきた」
魔王「そっか。落札出来なくても魔力は減る…むやみやたらに手を挙げるより、本当に欲しい物だけに全力で魔力を注げば勝てたのかも」
魔道化師「うひゃ…マオ。言うの遅いよ……ゼェゼェ……」
141:
 カンッカンッ……
オークショニア「『フェアリーの琥珀』7番落札!」
魔王「7番すごいなぁ……」
魔道化師「オイラちょっと休憩……」
魔少女「まおー様っ! いたいた!」
魔王「あ、魔少女さん。女側近さんは?」
魔少女「え? まおー様と一緒だと思ってた。はぐれちゃったかな」
オークショニア「次、人間界最高級香辛料『サフラン』」
魔商人「7番」
魔道化師「52番っ!……魔少女しゃん、手を挙げて」
魔少女「え?……?」スッ……
魔道化師「魔力を集中っ」
 カンッカンッ……
オークショニア「『サフラン』52番落札!」
魔道化師「うひゃーやった!」
魔王「魔少女さんすごい!」
魔少女「え? なーに?オークション?」
魔商人「くそっ!」
オークショニア「次が最後にして本日のメインイベント……」
 ザワザワ……
142:
オークショニア「エルフ族の魔法技術の結晶。潜在魔力を解放する魔法薬『エルフの精霊薬』っ!!!」
客G「43番!」
客H「10番っ」
客L「38番!!」
客M「50番」
魔道化師「欲しーい。魔少女しゃん!」
魔少女「うん! 52番っ!」
魔少女(魔力を……)
 キィィイインッ
客M「なんだあの女の子は……」
客H「なんて魔力……」
客A「子供じゃないか……上位魔族か?」
 ザワザワ……
魔道化師「うひゃ、魔少女しゃんすごいっ」
魔少女「あは★トーゼン♪」
魔商人「……」
魔商人の仲間「……」
 魔商人の仲間は魔封結界を放った!
 パァァリィィン……
魔少女「あ、あれ?」
魔道化師「え?え?」
 オークション会場全体の魔力が弱まる……。
魔商人「7番」ニヤ
 カンッカンッ カンッカンッ!!
オークショニア「『エルフの精霊薬』7番落札っ!」
魔王「あーー!」
魔道化師「あーー! ずっりぃぃ」
魔少女「あー……もう!」
オークショニア「以上を持ちまして、終了となります。落札者は受付までお越しください」
143:
 ガヤガヤ……
魔王「結局『サフラン』だけしか落札出来なかったね」
魔少女「まおー様ごめんなさい」
魔王「いやいや、魔少女さんのせいじゃないよ」アセ
魔道化師「マオー! 『サフラン』貰ってきたぞ」
魔少女「なんなのこれ?」
魔道化師「うひゃ、しらない」
魔王「香辛料だって。料理に香りつけるやつ」
魔少女・魔道化師「……」
魔商人「その価値も分からねぇとはな……」
魔道化師「あ! 7番っ! さっきはズルしやがって〜気づいてるぞ!」
魔商人「『サフラン』を渡してもらおうか」
魔王「え?」
魔少女「なんでアンタに渡さなきゃいけないのよ」
魔商人「どーせお前らには使えない代物だろが。俺はクライアントに依頼されてんの、怪我したくないだろ渡せ」
魔王「渡さないよ。ボクらはオークションの“ルール”に従って勝ち取ったんだ」
魔商人「分かってないな。魔界のルールは“弱肉強食”だってんだ」
魔王「……」
魔少女「なに? ウチらとやりあうの? あは★勝てると思ってるの?」
魔商人「……ふっ」
 魔商人の仲間Aが現れた!
 魔商人の仲間Bが現れた!
 魔商人の仲間Cが現れた!
 魔商人の仲間Dが現れた!
魔道化師「げげっ」
魔少女「ぐぅ……」
魔商人「ふはは……さぁ渡せ」
144:
女側近「私の出番ね」
魔王「女側近さん!」
魔少女「お姐ぇ見てたの?」
女側近「貴方達は下がりなさい」
魔商人「なんだてめぇは?」
 女側近は手を挙げ魔力を集中させる。
魔商人「……この魔力は」
 部屋中がビリビリと振動するほど魔力が集中する。その場にいた全員が驚き硬直する。
魔商人「じょ、冗談だろ?」
魔商人の仲間「アニキ、これは勝てるわけないですぜ」
女側近「わかってくれたか?」
魔商人「ああ、わかったよ……サフランは諦める」
魔王「ホッ……」
女側近「いいや、わかってないわ。落札した商品はすべて渡しなさい」
魔商人「はぁ?! ちょ、ちょっと待てよ……関係ないだろそりゃ」
女側近「魔界のルールは“弱肉強食”。そう言ったのは自分でしょう?」
魔商人「く、くそ……」
魔少女「さっすが! お姐ぇ♪」
魔道化師「うひゃひゃ」
145:
魔商人「くっ! 渡しちまうくらいなら……」
魔王「あ、あの薬は」
 魔商人はエルフの精霊薬を使った!
魔商人「ぐ……ぐああああああああっっっ!!!!!!!」
魔道化師「う、うひゃ、あれってさっきのオークション最後の商品」
女側近「魔族の潜在的魔力をすべて引き出すエルフ族のアイテム“精霊薬”」
魔商人「魔力が……魔力が……」
魔商人「溢れてくる。ははははははははっ……さあ、覚悟しろ女っ!」
 魔商人は大爆炎魔法を放った!
 ■ 第13話 オークションバトルっ! 終 ■
148:
 ■ 第14話 身分=チカラ=魔力<?? ■
 
 
 
149:
 ドォォォンッ
 ゴオオオッ!
 精霊薬でチカラを手にした魔商人と女側近のバトルが密閉された地下ホールで繰り広げられる。
 バトルというには語弊があるかもしれない。
 魔商人の放った魔法を女側近は受け止めることしかしない。
 一方的な攻撃に女側近は只々守る。
魔商人「ははははっ俺は最強だぁぁ!」
 魔商人は火炎魔法を放った!
 ゴオオオッ
魔少女「お姐ぇっ! 早くやっちゃってよ!」
女側近「……」
魔道化師「姐さん、なんで攻撃しないんだー?」
魔王「女側近さんは周りの魔族をかばって、かわすことができない?」
魔商人「オラオラッ」
 ドォォォンッドォォォンッドォォォンッ!
女側近「……」
魔商人「魔力が湧いてとまらねぇははははっ」
女側近「……」
魔商人「素晴らしい魔法薬だぜ。もう商品はいらん……バイヤーなんて辞めてやる」
魔商人「これだけの魔力があれば何だって可能だ」ハハッ
女側近「愚かね」
魔商人「あ?」
女側近「魔力が上がっても根本は何もわかってない。それは強さではないわ」
魔商人「気に食わねぇな。この魔界は魔力がすべてだろうがっ」
 魔商人は大爆炎魔法を放った!
 しかし、何も起こらなかった!
魔商人「なっ?!」
150:
魔王「え?」
魔商人「あ、あ、あ、あああああ……」
魔少女「アイツの魔力が失われていくわ」
女側近「精霊薬の効果は永続的でないわ。一時的に魔力が上昇するが、効果は切れる」
魔商人「あ゛あ゛あ゛……」
魔道化師「うひゃーなに? 顔がシワだらけになっていくよ?」
魔王「え?……老化してる?」
女側近「精霊薬には副作用があります。どんな代償を払うかはその魔族次第です」
魔王「怖っ……なんて怖い薬」
女側近「魔王様の身体から魔力を引き出すために、この薬が有効かとも思いましたが」
魔王「やだやだ……飲みたくないよ」アセ
女側近「そのようですね。こんな薬に頼るのは愚かなことです」
魔商人「あ゛……あ゛……魔力が……魔力が……」
 200歳くらいは老化しただろうか……シワだらけになり、すっかり魔力も少なくなってしまった。
 彼はこれから下級魔族のような、不自由な生活が待っている。
魔王(それが、魔界なんだ)
 絶望する魔商人を横目に、魔王達はオークション会場を後にする。
151:
−−−浮遊島 境界都市・ゲート−−−
魔王「ほぉぇー」
魔道化師「うひゃー」
魔少女「はにゃー」
女側近「……」
 魔王達は口をぽかんと開けて目の前の光景に驚く。
 街の中央には砦があり、その上空に直径20mほどの大きな光の球体。ゲートがある。
 近くで見ると圧巻である。
魔王「人間界見えないかな……」
魔道化師「うひゃひゃ、見えない」
魔少女「に、人間が出てきたりしないの??」
女側近「人間界側も魔王軍が制圧しているので、人間が攻めてくることはありません」
魔王(でも……こちらの世界に勇者達が現れた。どうやってきたんだろう?)
魔王「この先で魔王軍と人間が戦争しているんだね」
女側近「先日……魔王様にご提案頂いた魔王軍のチーム制ですが」
魔王「うん、どう?」
女側近「実験的に人間界の前線に投入しました。まだまだ問題もありますが、とても成果を上げております」
魔王「そっか! よかったー」
魔少女「さっすが! まおー様☆」
女側近「長らく膠着状態でしたが、戦況が変わりそうです」
魔王「人間との戦争って今どんな状況なの?? なんか凄い今更な質問だけど……」アセ
152:
女側近「はい、まず魔界に関してですが、先日勇者の進入を許してしまいましたが、人間に侵略されておりません。全領土、魔王軍のほぼ管理下にあります」
魔王「ほぼ?」
女側近「エルフ族。彼らだけが魔界で唯一魔王軍に従っておりません。ただ数は村1つ程度、優れた魔法技術で村ごと隠れていて中々発見出来ない状況です」
魔王「エルフ族……だけね。味方なのか敵なのか」
女側近「人間界ですが、魔王軍は一つの大陸を制圧。領土として獲得しております。次に侵略しているのが人間界の西大陸です。ここにある国“帝都”という王国軍との戦闘が最前線になります」
魔王「すごい沢山の兵士が人間界に行っているんだよね……」
女側近「兵士だけではありません。制圧した人間界の領土にはすでに魔族の村が10ほどあります。兵士達の家族、人間界の開拓労働者や商人、最近では人間界生まれの魔族もそれほど珍しくありません」
魔王「もう1人の側近の“魔伯爵”さん……だっけ? それ全部管理してるんだ」
魔王(実質、人間界の魔族の王様……ボクと女側近さんはそっちのことは何もタッチしてないし)
女側近「はい、大変優秀な方です」
魔少女「伯爵……それってお姐ぇの噂の……」
女側近「噂?」
魔王「えーーーー!!??」
魔王(噂のカ、カカカカ、カレシ???)
女側近「?」
153:
 ザザッ……
 ゲートを見上げる魔王達の前に初老の魔族が現れる。このゲートを管理警備している部下“黒魔術師”だ。
黒魔術師「魔王様、姐さん……長旅お疲れ様でございまする」
女側近「黒魔術師、忙しい中出迎え感謝する。転移魔法陣が止まってしまって大変でしょう?」
黒魔術師「かなりバタバタしましたが、ようやく落ち着いてきました。魔王様、先日の無礼を改めてお詫びいたしまする」
魔王「え?」
女側近「その件はもういいわ。それより今夜一泊する部屋を用意して」
魔王(なんだっけ?)
黒魔術師「かしこまりました。街で一番良い宿をお取り致します」
魔王「ありがとう」
黒魔術師「あと軍の飛空船用意しました。サーカス団の船では不便でしょう? 新しい船をご利用ください」
魔道化師「ひゃ?」
黒魔術師「優秀な部下も数人付けましょう。ピエロよ、ご苦労だった。自分の船で冥都に戻りなさい」
魔王「えーーー?!」
女側近「……」
魔道化師「オイラは帰る??」
黒魔術師「お主の役目は終わりじゃ、礼は弾む。安心しなさい」
魔道化師「ま、マオ……」
魔王「ピエロ……」
154:
魔道化師「お、オイラ……マオと一緒に行きたい」
黒魔術師「お主は下級魔族……意見するというのか?」
魔道化師「上位とか下級とか……そんなことよりマオは友達……」
黒魔術師「は?」
魔王「ピエロ……」
黒魔術師「貴様……自分の身分を……
魔王「女側近さん、ピエロとサーカス団の船で行く。いいよね?」
女側近「はい、魔王様の命令は絶対です。黒魔術師、護衛は私一人いれば十分でしょう。魔王様の命令に従いなさい」
黒魔術師「……」
黒魔術師「かしこまりました。では物資はサーカス団の船に運んでおきまする」
魔王「あ、あと……」
黒魔術師「はい?」
魔王「魔界の物流なんだけど」
女側近「はい」
魔王「魔力が高い者に物資や食料が流れる仕組みを変えられないかな?」
黒魔術師「は? 意味が分かりませんが?」
魔王「このままだと貧富の差が永遠に変わらなくて……もっと平等に皆んな裕福になれるようにしたくない?」
女側近「何か……代替え案がありませんとどうにもできませんが」
魔王「例えば、今日のオークションみたいに1人が買い占めることのないよう制限を設けるとか」
黒魔術師「……」
155:
女側近「なるほど、そうすれば必然的に下級にも物資が渡る。その制限を少しずつ行って行けば混乱せずに済むかもしれません」
黒魔術師「……それでは上位層に十分に物資が届かなくなってしまいますが……」
女側近「そこはうまく調整するしかないでしょう」
魔王「黒魔術師さん、シュミレーションしてみてもらえないかな?」
黒魔術師「ワシがですか?」
女側近「黒魔術師、魔王様の命令に従いなさい」
黒魔術師「かしこまりました……」
−−−宿 部屋−−−
女側近「それでは魔王様、おやすみなさいませ」
魔王「うん、女側近さん。今日はわがまま言っちゃってゴメン」
女側近「とんでもございません」ニコッ
女側近「ただ、黒魔術師は納得していませんでした。そのような命令は忠誠度を下げます」
魔王「うん、わかってる……明日謝ろうかな」
女側近「部下に頭を下げる、それも場合によってはよくありません」
魔王「……じゃぁどうすれば?」
女側近「“魔王様の意志と思いをしっかり伝える”」
女側近「そうすれば、きっと分かっていただけます」
魔王「うん、明日出発前に時間もらう」
魔王(場合によってはボクに魔力が無いことも話した方が伝わるかもな)
女側近「かしこまりました、黒魔術師に朝来るように伝えておきます。それではお休みください」
魔王「おやすみ………」
156:
 コンコン……
魔王「うん? はい?」
魔道化師「マオー! オイラ、入るよ」
 ガチャ
魔王「ピエロ、どうしたの?」
魔道化師「えっと……あの、今日の話なんだけどさ、あ、ありが……」
魔王「?」
魔道化師「あ、いや、あの……魔王様、本日はありがとうでごさいますた……」
魔王「……」
魔道化師「……」
魔王「ぷっ……あははは。なにその敬語、やめてよー」
魔道化師「あ、えっと、あ、ありがとうでございますを申し上げます……」
魔王「あはは! ちょっと!」
魔道化師「はい……」
魔王「ピエロ、ボクら友達でしょ?」
魔道化師「……」コクリ……
157:
魔王「じゃあ、敬語も遠慮もいらないよ」
魔道化師「オイラついてっていいのかい?」
魔王「当たり前でしょっ!」バンッ
魔道化師「いてっ!」
魔王「何ショボくれてるの? らしくないよ……笑って」バンッ
魔道化師「あたっ……このぉっ!」ポカッ
魔王「いたっ! このをぉーー」コチョコチョ
魔道化師「うひゃひゃひゃひゃー、やめーマオーやめてー」
魔王「あはは……そうそう、ピエロはそれでいいよ、いつも笑っててよ」
魔道化師「マオ……」
魔王「これからもよろしくね」
魔道化師「ありがとう……」
魔王(お礼言いたいのはこっちだよ。友達になってくれて“ありがとうでございますた”)
 次の日。
魔少女「まおー様おはよー!」
魔道化師「うひゃおはよー」
魔王「おはようー。あれ? 女側近さん、黒魔術師さんは?」
女側近「おはようございます。それが……朝一で外出してしまったそうです」
魔王「えーーーー?」
女側近「仕方ありません、出発しましょう」
魔王「……」
 ■ 第14話 身分=チカラ=魔力<友達 終 ■
161:
 ■ 第15話 乱れる気持ち流れゆく雲 ■
 
 
 
162:
 ゲートのある浮遊島を離れて2日。魔王達の乗る飛空船は魔剣のある“世界樹”を目指して順調に空を飛ぶ。
−−−外界 飛空船・甲板−−−
 飛竜が現れた!
魔王「うわあああぁ! ドラゴンッッッ!」
飛竜「ギャアアアオオォォ」
魔少女「この船を狙うなんてバカね★ お姐ぇやっちゃって!」
女側近「……」
魔少女「お姐ぇ?」
女側近「いえ……魔少女、貴方が戦いなさい」
魔王・魔少女「「えーーー!?」」
魔少女「ななななな、なんでー??」
女側近「貴方のレベルを上げるためよ。護衛を任せることもあるのだから、少しは鍛錬しなさい」
魔少女「うぅ……わ、わかったわよー」
魔王「大丈夫なの?」
女側近「何かあれば私が仕留めます」ニコッ
魔王「魔少女さんの武器は??」
魔少女「もちろんこの身体よん♬」ウフ
魔王「……」
飛竜「ギャアアアッッッ!」ブオオオォォ
 飛竜はファイアブレスを放った!
魔少女「うぅわっと!」ピィーン
 魔少女は結界を張りガード!
163:
女側近「魔少女、弾き返さないと船が燃えるわ」
魔少女「わかってるけど! 口出さないでよー」ピョンッ
 魔少女は飛び上がると飛竜の頭の上に乗る。
魔少女「くらえいっ」
 魔少女は睡眠魔法を放った!
飛竜「ギャアアア…………ZZzzz……」
 ドシーン……
 飛竜を倒した!
魔少女「いえいっ! こんなもんよーおほほほ★」
魔王「すごい……無傷で捕まえた」
女側近「よくやったわ……契約を」
魔少女「うん」
魔王(契約? 魔少女さんがドラゴン話しかけてる……)
魔少女「汝、あるべき姿を知れ……我が魂を主とし……己の欲せざる所は我に施す勿れ……」
魔王「これが召喚契約……」
飛竜「ギャアアアアアッ」バサバサ
 飛竜は飛び立っていった。
魔少女「まおー様〜! どう? すんごいでしょー!!!」
魔王「う、うん」
魔少女「まおー様をお守りする為にウチも強くなる!」
魔王(本当にすごい……とてもボクみたいな下級魔族とは大違いだ)
164:
……夜。
 コンコン……
魔王「はい?」
女側近「魔王様、お茶をお持ちしました、失礼致します」
 ガチャ
 夜遅いせいか、普段とは違う薄着の寝巻き姿に魔王は少しドキッとした。
魔王「お、遅くにありがとう……」
女側近「まだお勉強しているのですね、少しはお休みになられた方がよろしいかと」
魔王「なんだか寝付けなくて。勉強っていうよりは本を読むのは好きだから、趣味みたいなものだよ」
女側近「それはそれは……お邪魔してしまって申し訳有りません」
魔王「あ、いや、大丈夫だよ。それより、ちょっと話したいな……」
女側近「?……私とですか?」
魔王「うん、なんかいつも仕事話ばかりだし。女側近さんの趣味とかって何?」
女側近「趣味ですか……」
魔王「何もないことないでしょ?」
女側近「あまり考えたことがありませんね」
魔王「えーーーー?」
165:
女側近「私の一族は皆、魔王様の側近になるべく育てられます。小さい時から、側近として必要な知識、技術、魔法、鍛錬を行ってまいりました」
魔王「……」
女側近「その生活に“娯楽”や“趣味”という個人を優先することは禁じられてきました」
魔王(そんな……。魔王軍No2でありながら、生活自体に自由はなかったっていうの?)
女側近「私は側近になってまだ間もないですが、魔王様のお手伝いをし魔王様の想いを叶える。魔王様の喜びが、私の喜びでもあります」
女側近「それが我が一族です」
魔王「キミの意思は?」
女側近「魔王様の意志が私の意思です」
魔王「……」
魔王(さびしい……でもそれが女側近さんの仕事のスタンスなんだ)
魔王(女側近さんがいないと困るけど、それっていいことなのかな)
魔王(女側近さんが僕を助けてくれるのは、彼女の意志ではなく、そういう一族だから)
魔王(ピエロのように自分の気持ちじゃない)
魔王(女側近さんはただ……“魔王”の命令に従っているだけ)
魔王(でも)
魔王(彼女から感じるこの優しさなんだ?)
魔王(この暖かさはウソだと思えない)
 いつの間にか魔王はベットに横になっていた。
 思いを巡らせているうちに、徐々に眠りにつく。
 そんな魔王を女側近は微笑みながら頭を撫でていた。
166:
 次の日。
魔道化師「うひゃー! な、なんだっ! あれー??」
魔王「どうしたの?」
魔少女「ひぃぃっ! な、なんか雲の壁が」
 魔王達の乗る飛空艇の進行方向に、見渡す限りの瘴気の壁が現れた。
 地上には瘴気の雲海が広がり、その雲海が空に昇るように壁を作る。このまま進めば瘴気に突っ込んでしまう。
魔道化師「姐さん! 姐さん、どうすりゃいい? 突っ込んじゃうよー」
女側近「構いません、そのまま最大度で突っ切ってください」
魔王・魔少女「「えーーーー?!」」
女側近「これは“瘴嵐”と呼ばれる気象。乱気流で地上の瘴気が舞い上がったものです。この辺りでよく発生する現象です」
魔王「乱気流? 入ったらヤバいんじゃ……」
女側近「私が飛空船全体に結界を張り、風と瘴気の影響を受けないよう守ります。瘴嵐は一時的な気象で、すぐに通過できます」
魔王「そ、そか」
女側近「ただ瘴嵐の中は視界がありません。上下左右の感覚がなくなります」
魔王「ど、どうするの?」
167:
女側近「魔少女」
魔少女「はいな」
女側近「魔力の流れを感じ取って進行方向がブレないようにピエロのサポートを」
魔道化師「オイラは……?」
女側近「魔少女の指示通り舵をしっかりお願い」
魔少女・魔道化師「「ラジャー!」」
魔王「ボクは……?」
女側近「多少は揺れると思われます。何処かに摑まっていてください。私は甲板で結界を張ります」
 そう言うと、女側近は甲板へ上がる。
 飛空船は最大スピードを維持したまま、瘴気の壁へと突っ込んでいく。
魔道化師「わわ、わー! 入るよ!」
魔少女「いっけー!」
 操縦席から見える視界が瘴気に包まれ一気になくなる。
 魔道化師は舵を取られまいと必死に力み、横で魔少女が進行方向を指示する。
魔王「……」
168:
魔王(ボクも何か手伝えることは……)
 甲板へ出ると、女側近が両手を上げ詠唱していた。
 船は瘴気に包まれていた。しかし結界が周りを囲み、風はあまり感じないがゴォッっと風音だけが響く。
魔王「女側近さん!」
女側近「魔王様! 危険です! 船内に……」
 グラッっと船体が揺れると、魔王の小さい体が甲板を転がる。
魔王「うわああああっ」ゴロゴロゴロ
女側近「魔王様っ!」シュンッ
 女側近は氷冷魔法を放った!
 魔王の足は甲板の床と共に凍りつき張り付く。
魔王「うわぁ、船から投げ出されるかと思った……ごめん、女側近さん」
女側近「大丈夫ですか??! なんとかこちらへ!」
魔王「う、うん」
 グラグラ……
 揺れる船体をよろめきながら、女側近の元へといく。
女側近「私にしっかり摑まってて下さい」
魔王「うん」
 むにゅ
魔王「ふぁっ! ごめん!」
女側近「魔王様っ離さないで、危険です」
魔王「は、はい」
 両手を上げ結界を作る女側近に魔王は抱きつく。
女側近「間もなく瘴嵐を抜けます」
 ゴオオオォォオォォォッ
 
 
 
169:
…………
 ゴオオォオッッッ……
魔王「ぬっ…………
 ………っけたぁ!!」
女側近「ふぅ……」
 再び夕日のような赤い空に、果てしなく続く雲海が広がる。
魔少女「まおー様っ★ すごかったねー!」
魔王「うん、女側近さん本当ごめん……」
女側近「いえ、魔王様をお守りするのは私の責務です。お気になさらずに」
魔少女「すっごい雲だったねー!」
女側近「このエリアを抜ければ目的地はもうすぐです」
魔王「よかった……なんとか何事もなくたどり着けそう」
魔少女「ん?……ねぇねぇまおー様、あれは?」
魔王「今度は何ぃ〜?」
 魔少女が指差す方向を見ると、別の飛空船がすぐ近くに。
 あっという間に近づき、魔王達の船の上空を並行して飛ぶ。
魔王「え?! なになに??」
魔少女「どっから現れたの?!」
女側近「瘴嵐のせいで接近に気が付きませんでした……これは……まさか」
 正体不明の飛空船を見上げていると、複数の人影が魔王達の飛空船に飛び移ってくる。
女側近「敵ですっ!!」
 乗り移ろうと飛び降りた人影の1人が空中で叫ぶ。
??「ラストバトルだ。いくぞっ!」
 ■ 第15話 乱れる気持ち流れゆく雲 終 ■
172:
 ■ 第16話 新たな勇者 ■
 
 
 
173:
 飛び移ってくる人影の1人が空中で魔法を放つと、魔王達の乗る飛空船全体が魔法陣に包まれる。
 魔王達の攻撃力が下がった。
 魔王達の防御力が下がった。
 魔王達の素早さが下がった。
 魔王達の魔力が下がった。
 魔王達の体力が下がった。
魔王「うわああああっ」
魔少女「きゃあああっ」
 ダンッ!
 魔王達を取り囲むように、甲板に飛び移ってくる。人数は5人。
 魔族の浅黒い肌とは違う、白色人種の肌。
 そのうちの1人、魔王と同じぐらいの歳の少年はニヤリと笑い剣を抜いた。
少年勇者「初めまして“魔王”、俺っちが勇者だ」
魔王「人間っ?!?」
騎士A「こいつが“魔王”かっ」
女賢者D「魔力を感じないってことはそうね」
武道家A「情報通りだな」
僧侶B「神のご加護を……」キィィンッ
 僧侶Bは強化魔法を放った!
 少年勇者達は攻撃力が上がった!
 少年勇者達は防御力が上がった!
 少年勇者達は素早さが上がった!
 少年勇者達は魔力が上がった!
 少年勇者達は体力が上がった!
少年勇者「みんな、作戦通りにね!」
女側近「魔王様、お下がりください」
魔王(この間とは違う勇者ッ)
魔王(なんで魔界に人間がいるの? どーやって来てる??)
174:
 女側近は目を瞑ると詠唱し始める。魔力で周りの空気が震える。
 魔少女は魔王を守るため結界を展開する。
 相手は最大の敵勇者、女側近はリミッターを解除する。
女側近「凍れ」
 女側近は大爆冷魔法を放った!
 一瞬音が無くなり、風が無くなり、色もなくなる。時が止まるかのように周囲を凍りつかせる。
 しかし、少年勇者達は誰1人として止まらなかった。
少年勇者「いっけぇぇぇっ!!」ジャキィィィン
 女側近は痛恨の一撃をくらう。
女側近「ぐっーー!!!」
騎士A「うらあああああぁぁっっ!!!」
 体勢を立て直そうと動き出す前に、少年勇者の仲間達の攻撃が次々に女側近のみを狙って打ち込まれる。
 自分の攻撃がほとんど効かなかったこと、勇者達の攻撃が予想よりも重かったこと、一瞬の戸惑いが大きな隙を作ってしまった。
 少年勇者達の攻撃によって吹き飛んだ女側近は、甲板の壁にめり込む。
 ドオオオォォォッ
女側近「ぐはぁ……」メキメキ
魔王「お、女側近さんっ!」
少年勇者「やはり仕留めきれないか、化け物め」
魔少女「お姐ぇが……なんで……」
魔王(女側近さんの魔法が全く効かなかった。なぜ??!)
魔王「魔少女さん! 回復魔法をっ!」
魔少女「は、はいっ」
175:
魔王(身体が重い。弱体化魔法をかけられた……完全に奇襲)
魔王(ボクらが来るのを知っていたのか? ボクらの情報が漏れてる?!)
少年勇者「みんな、もう一度だ」キンッ
魔王(あれは火属性の剣……これってまさか)
魔王「女側近さんっ」
女側近「……大丈夫……です…。油断しました」
魔王「待って! 彼らは対氷属性の装備をしてる。氷系の魔法は効かないよ!」
魔少女「ええ?!?!」
少年勇者「げぇっ! もうバレたのかっ」
騎士A「かまうことない。このままゴリ押しするぞ」
女側近「そういうことなら…………」ピキピキ
 女側近は魔力を固め氷の剣を作り出す。
女側近「斬り刻むまでだ」ダダッ
少年勇者「ふふん……そうこなくっちゃね」タタッ
 女側近の氷の剣と少年勇者の炎の剣が交じり合う。
 ガッキイィィンッ!!!!!
 ■ 第16話 新たな勇者 終 ■
178:
 ■ 第17話 アンタを殺したって戦争は終わらない ■
 
 
 
179:
……
 キンッ! キンッ!
 ガッ
 ドオオオォォォッ
武道家A「うがああああっ」
少年勇者「陣形を崩さないようにっ!」
騎士A「つよい……」
女側近「はぁはぁ……」
魔王(女側近さんは剣技のみで、勇者達の連携をさばかなきゃいけない、一瞬でも隙を作ったらやられてしまう)
女側近「小賢しい」
 女側近は氷撃魔法を放った!
 ヒュンッ
僧侶B「へっ魔法はきかねぇよ」
少年勇者「僧侶Bさんっ避けて!」
僧侶B「え? っと……」サッ
 パリィ!
 
少年勇者「氷の矢は打撃ダメージだよ。気をつけて」
僧侶B「わりぃ……」
女側近「そういうことだ……はあぁぁぁっ」
 女側近は氷撃魔法を放った!
 女側近は氷撃魔法を放った!女側近は氷撃魔法を放った!女側近は氷撃魔法を放った!氷撃魔法を放った!
 氷撃魔法を放った!氷撃魔法を放った!氷撃魔法を放った!
 氷撃魔法を放った!放った!放った!放った!
僧侶B「なっ!!!!! 避けきれな……」
 ドドドドドドォッ!!!!
 僧侶Bを倒した!
 
少年勇者「僧侶Bさんっ! くそっ」
魔王「やった!」
魔少女「さっすがお姐ぇ!」
魔王(これで連携が乱れるはず……)
180:
女側近「次はお前だ……」
少年勇者「みんな……やはりゴリ押しじゃ勝てない。例の作戦で」
騎士A「だな」
武道家A「了解」
女賢者D「あいよ」
 少年勇者の合図でパーティ全員が攻撃魔法を放つ。
 奇襲の先ほどとは違い、女側近に避けられない魔法ではない。
 しかし、今度の狙いは魔王。
魔王「う、うわあああっ」
女側近「魔王様っ!!」
 女側近は魔王をかばった。
 ドオオオォォォッ!
女側近「く……チッ」
少年勇者「よし、予想通り。攻撃し続けるんだ!」
 少年勇者達は遠距離から攻撃魔法を集中放火する。
 ドオオオォォォッ!!
女側近「くぅ……っ!」
魔王(ボクをかばって攻撃を避けることができない……ボクが弱いっていうのも知ってる??)
女賢者D「いけるわっ! 勝てる!」
武道家A「僧侶Bの仇だぁぁっ!」
騎士A「おらおらおらっ!」
女側近「きゃああああっ……」
魔王(ボクのせいで……)
少年勇者「くらえぇぇっ!」
 少年勇者は雷の魔法を放った!
 バリィリィリィリィッ!
魔王(……やられる……)
181:
 しかし、女側近は魔法を弾き返した!
少年勇者「なっ!?」
女側近「はぁはぁ……時間切れだ」
魔王「身体が軽い……弱体化魔法の効果が切れてる」
 少年勇者達の支援魔法の効果が切れた。
騎士A「くそっ! あと少しだったのに」
女側近「今回は奇跡とやらは起きないようだな」
少年勇者「……」
魔少女「ホッ……」
魔王「女側近さん……大丈夫?」
女側近「はい、すぐ片付けます」
魔王「ちょっと待って……勇者さん、聞きたいことがあるんだけど」
少年勇者「うにゃ?」
魔王「ボクらの情報を何処で手に入れたの?」
少年勇者「ふふん……言わねーよ」
魔王(誰が裏切り者なの? 人間を魔界へ連れ込み、ボクらの情報を流す……)
少年勇者「でも俺っちも聞きたいことあんだよね」
魔王「え?」
少年勇者「…………」ジロッ
少年勇者「“鍵”は何処にある?」
魔王(鍵?)
少年勇者「アンタを殺したって戦争は終わらない。俺っちは本当の意味で戦争を終わりにする」
182:
魔王「い、意味がわからないよ」
少年勇者「やっぱ言わないよね。ふむふむ」
女側近「……」
少年勇者「じゃ、みんな! シナリオBに変更で」
女賢者「あいよ」
武道家A「ふん」
騎士A「それしかねぇな」
魔王「?」
女側近「?」
魔少女「な、なにー?」
女賢者D「はあぁぁぁっ! いでよゴーレムっ!」
 頭上に大きな光が広がる。轟音とともに飛空船とほぼ変わらない大きさのゴーレムが現れた。
ゴーレム「グゴオオオオォォッ!」
魔少女「召喚魔法っ! おっきーい!」
 ゴーレムは魔王達の飛空船にそのまま着地する。が、巨大なゴーレムの体重を支えられる訳もなく、メキメキと音を立ててゴーレムは飛空船に沈む。
 飛空船はまるでオモチャのように折れ曲り始めた。
 バキィバギィィィンッッッ!
魔王「う、うわあああっ」
魔少女「おちる〜〜!」
女側近「魔王様ーーーーっ!!」
ゴーレム「グゴオオオオォォッ!」
魔王「ああああああぁぁぁっ!」
 魔王達は飛空船もろとも、瘴気の雲海へと落ちて行った……
 ■ 第17話 アンタを殺したって戦争は終わらない 終 ■
184:
 ■ 第18話 独り ■
 
 
 
185:
−−−外界のどこか−−−
魔王「………………ぅぅ……」
魔王「……こ、ここは?……」
 辺りを見渡しても瘴気が濃く何も見えない……
 足元は荒地。氷の欠片が落ちている。
魔王「ケホケホ……」
魔王(なんて瘴気。息苦しい……)
魔王(この氷……。また、女側近さんに助けられたのかなボク。あの高さから落ちて生きてるなんて)
魔王「女側近さぁぁぁああんっ!」
魔王「魔少女さーーん!」
魔王「ピエロぉぉおおお!」
魔王「………………。」
 
魔王「ケホケホッ……」
魔王(みんな無事だろうか……?近くには誰もいないみたいだ)
 
魔王(このまま瘴気を吸い続けたら魔物になっちゃう)
魔王(早く女側近さん達と合流しなきゃ!)
魔王「女側近さぁぁぁああん!!!……ゲホゲホッ」
魔王(瘴気が……大声出すと苦しい)
魔王「………………」
魔王(返事もないし、周りに誰かいる気配もない)
魔王(探さなきゃ…………)
魔王(どうやって?? 瘴気で自分の足元しか見えない。前も後ろもわからない)
魔王(下手に動かない方がいいかも……きっとボクを探してるはず)
186:
魔王「ケホケホっ……」
魔王(苦しい…………魔物になりたくない)
魔王「…………」
魔王(ボクは“無属性”。魔力を感じ取ってもらえない。視界のない中、ボクを見つけることなんて出来るのかな?)
魔王「ゲホゲホッ……ゲホゲホッ……」
魔王(なるべく息を止めて……)
魔王「………………」
魔王(なんの音もない、この世でボクが独りになったみたいだ……)
魔王(ボクは……独りだと何も出来ないんじゃん)
魔王(偉そうに王様ぶってたけど、結局独りだと下級も下級……低級魔族なんだ)
魔王(もともとボクに“魔王”なんて……)
魔王(このまま誰に知られるわけでもなく魔物になっちゃう)
魔王(嫌だな)
魔王「ゲホゲホ……」
魔王(女側近さん……)
187:
魔王「…………」
魔王(あれ?)
魔王(なんか……)
魔王(少しだけど風がある……瘴気がゆっくり流れてる)
魔王(この風は……)
魔王(女側近さんだ!!)
魔王(間違いない、ボクには分かる)
魔王(スラムの時のように魔法で瘴気を吹き飛ばしてるんだ)
魔王(女側近さんがボクを探してる)
魔王(風上へ行けば女側近さんがいる!)
魔王(行こう)
 魔王はわずかに感じる風に向かい歩き出す。
 確信があった、冷たい風なのに包み込むような暖かみと優しさを感じる風。
 いつも女側近から感じてたことだ。
 テクテク……
魔王(声が届かないってことはかなり遠い)
魔王「ゲホゲホッゲホゲホッ……」
魔王(急ごう)
 テクテク……
188:
魔王(本当に助けられてばかりだ)
 テクテク……
魔王(苦しい……なんでこんなことに)
 テクテク……
魔王「ゲホゲホッ……」
魔王(頭の中がチリチリする)
 テクテク……
 魔族館長『グズがっ、さっさとしろっ!』
魔王(え?)
 魔族館長『お前、マジでなんもできねぇなっ』
魔王「館長さん……」
 魔族館長『1度死んで生まれ変わったほうがいいぞ?』
魔王(走馬灯?)
189:
 少年魔族『すみません……』
 魔族館長『お前って本当に必要ない』
 魔族館長『お前何ができんだよ?』
 少年魔族『すみません……』
 魔族館長『お前何のために生まれてきたんだよ?』
魔王「く……」
魔王「ちくしょおおおぉぉ……」
魔王「ゲホゲホッゲホゲホッ……ゲホゲホ……」
魔王「う……」バタッ
 魔王は力尽きた……
 ■ 第18話 独り 終■
192:
 ■ 第19話 非力な武器 ■
 
 
 
193:
魔王「……う……あ……」
 魔王は目を覚ます。最初に見えたのは自分の足元だった。
 ポタポタと水の音がするが、周りはとても静かで薄暗い。視線を上げて自分の置かれている状況を理解した。
 魔王は吊るされていた。
魔王「こ、ここは……」
??「おはよう、我が宿敵」
 天井から下がった鎖で両手を吊るされた魔王は、目を凝らして薄暗い部屋の中を見渡す。目の前に見覚えのある少年が立っていた。
魔王「キミは……勇者!」
少年勇者「うにゃ、俺っちは“少年勇者”っていうんだ。よろしく」ニヤッ
魔王「……ボクは捕まったの?」
少年勇者「そうだよ、手こずらせてくれたねー」
魔王「……」
魔王(なんで生きてるのだろう……? 勇者の目的はボクの討伐じゃないの?)
魔王「ボクらの仲間は?」
少年勇者「仲間? 部下でしょ? 人間みたいな物言いしないでよ魔族が。彼女達なら生きてるよ、あの女側近はヤバイね。予想を遥かに超えた強さだったよ。ふふん」
魔王(みんな捕まってしまったのか……誰も助けに来ない)
魔王「ここは何処?」
少年勇者「瘴気の隠れ里。人間のアジトだよ」
魔王(魔界にアジトがあるなんて……思ったより沢山の人間が魔界へ来てるのかもしれない)
少年勇者「状況は分かってくれたかな? そろそろ俺っちの方から質問したいんだけど」
魔王「質問?」
少年勇者「……改めて」
少年勇者「“鍵”は何処にある?」
194:
魔王「……」
魔王(正直なんの話だか分からない……)
魔王(でも、何も知らないってバレたらボクは用済み。殺されるかも)
少年勇者「お前が持ってんだろ? 何処にあんの??」
魔王「なんの鍵のこと?」(トボけたフリするしかない……)
少年勇者「ゲートの鍵に決まってんだろっ!」
 少年勇者は雷の魔法を放った!
 ビリイィイィッッ!!
魔王「うああああああああっっっ!」
少年勇者「これ以上手間取らせないでよ」
魔王「くっ……」
魔王(ゲートって……? 人間界へのゲートのこと?)
魔王「知らない。知ってても人間には教えない」
少年勇者「そう……」
 少年勇者は雷の魔法を放った!
 バリィリィリィッ!!
魔王「ぎゃあああアァァ……」
少年勇者「いつまで耐えられるかな」ニヤッ
 バリィリィリィッ!!
魔王「ぎゃああああああああああっ…あ……」
195:
少年勇者「2つあるうちの1つ……“人間界側の鍵”は俺っちが持っている」
魔王(鍵はふたつ?)
少年勇者「あとは魔界側の鍵があればゲートを閉じることができる」
魔王「ゲートを……閉じる……」
少年勇者「そうだ。ゲートを閉じて、この意味のない戦争を終わりにするんだ」
魔王(……)
 少年勇者は雷の魔法を放った!
 バリィリィリィッ!!
魔王「あああああああっ!」
少年勇者「痛いでしょ? 拷問の時はね、あえて弱めの魔力にするんだ。神経が麻痺しない程度に」
 バリィリィリィッ!!
魔王「があああああっ……はぁはぁ……」
少年勇者「痛みってのは、案外慣れないもんだよ」
魔王(くぅ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……)
少年勇者「言う気になった?」
魔王(言うも何も本当に知らない……でも、知らないなんてバレたら殺される)
魔王(嫌だ嫌だ嫌だ……)
196:
魔王(どうすればいい? 動けないし、逃げられない。助けもない)
魔王(ボクは独りなんだ………)
少年勇者「おい、黙ってちゃわからないよ。返事くらいしてよ!」
 ドガッ
魔王「ぐああっ……」
魔王(いたい……何かに頼ってちゃだめだ)
魔王(覚悟を……決めるんだ)
魔王(独りで戦うんだ)
魔王(武器、武器は??)
魔王(何か……ないのか!?)
少年勇者「痛いかい?」
魔王「……」
魔王「痛く……ないよ」ニィ
少年勇者「……そう」
 少年勇者は雷の魔法を放った!
 バリィリィリィッ!!
魔王「−−−ッ!!!」
 バリィリィリィッ!!
 バリィリィリィッ!!
魔王「い、痛くない」
魔王(痛い……痛いよ。でも……
 ハッタリだ。武器はこれしかないっ)
少年勇者「強がっちゃって、新しい“魔王”のアンタは下級魔族なんでしょ? ちゃんと情報得てんだから」
魔王(そんな情報まで漏れてるのか……)
魔王「ハハッ……」
197:
少年勇者「何がおかしい?」
魔王「そんな情報を鵜呑みにしたんだ?」
少年勇者「……」
魔王「そろそろ本題に入らさせてもらうかな」
少年勇者「……」
魔王「残念だけど、ボクは“魔王”だが……囮だ」
魔王「キミたち人間のアジトを探すためにわざと捕まったんだよ。すでにこの隠れ里は魔王軍が包囲している。投降すれば命は助けてやろう」
少年勇者「……なん……だと?」
魔王「投降すること。人間界側の鍵を渡すこと。内通者の名前を教えること。この3つがキミたちが助かる方法だ」
魔王(堂々と、凛とした態度だ)
少年勇者「……そんなわけ……」
魔王「内通者をあぶり出す為、わざと嘘情報を流したんだ」
198:
少年勇者「……ガセ情報だと?」
魔王(誰だ? 誰が裏切り者なんだ……?)
少年勇者「……」
魔王(信じてよ、たのむよ……)
少年勇者「……いや、ありえるか」
 少年勇者はブツブツと何かを呟きながら部屋を出て行った。
魔王(信じたのかな……)
魔王(今信じたとしても、すぐにハッタリってバレる。自力で脱出しなきゃ)
 両手を縛られ吊るされている魔王は、バタバタと足掻くが拘束を解くことは叶わない。
 魔法が使えたら……魔王は己の非力を憎んだ。
 ■ 第19話 非力な武器 終 ■
202:
 ■ 第20話 さぁボクを殺せっ! ■
 
 
 
203:
少年勇者「隠れ里の周りを調べたけど……誰もいなかったよ」
魔王「フフッ」
少年勇者「何がおかしい?」
魔王「瘴気で見えないのにどう探したっていうの?」
少年勇者「敵が近づけば気配でわかるに決まってんだろっ」
魔王「気配ね……魔力を感じなかったってだけでしょ?」
少年勇者「同じことでしょ」
魔王「じゃぁボクの魔力を感じることができるの?」ハハッ
少年勇者「…………」
魔王「本当に“魔王”のボクが魔法の使えないクズな下級魔族って情報を信じたの??」
少年勇者「……」
魔王(堂々と……)
魔王「そんなわけないでしょ」
魔王(悲しいけど説得力ある……)
204:
少年勇者「現に魔力を感じない」
魔王「カモフラージュしてるだけだよ。外の部下達みんなそうだよ」
少年勇者「じゃあ何故俺っちを殺さない?! 何故捕まったままでいるんだ!」
魔王「キミがドヤ顔で拷問めいた事してくるから、本当の姿見せる前にネタバレしたくなったんだよ」
少年勇者「じゃあ本当の姿見せてみろよ! 上位魔族なんだろっ」
魔王「なめないでもらえるかな? 上位魔族? ボクは魔王。魔界の頂点だよ」
少年勇者「……っ」
魔王「見せてあげるよ」
少年勇者「……」ゾクッ
魔王「無属性カモフラージュを解くには、この肉体は死ななきゃいけない」
魔王(ハッタリにしても怖い)
魔王「ボクは拘束されて動けない。代わりにお願いできるかな?」
魔王「ボクを殺してよ」
少年勇者「……」
魔王「そうすれば真の姿を見せる事ができる。見たいんでしょ? “魔王”のチカラを」
魔王「さぁボクを殺せっ!」
205:
少年勇者「……っ」
魔王(信じろっ……信じてくれ……)
少年勇者「…………」
魔王「……」
少年勇者「…………つまり、お前は今自分の力で元の姿に戻ることができない」
魔王「……」
魔王(信じた……のか?)
少年勇者「取り囲んでる魔王軍が攻めてこないのは、お前の合図を待っているのか?」
魔王(よし……交渉する武器ができたぞ)
魔王「そうだよ、ボクの合図でキミたちを殺すことができる」
魔王(なんとか、お互いに戦わずに済む方向に持っていかないと)
魔王「少年勇者……キミはこの戦争を終わりにしようとしているんでしょ?」
少年勇者「ああ……」
魔王「だったらボクも目的は同じだ。無益な殺戮を行いたくはない」
魔王「この戦争は人間がゲートを開き、魔界へ侵略したことから始まった」
勇者「……」
魔王「でもどちらが悪いなんて言わないよ。もう70年も戦い……お互いに多くの犠牲を出したんだ」
少年勇者「憎しみが憎しみを生む。俺っちは考えたんだ戦争を終わらす方法を」
魔王「ゲートを閉じる。それが最善だよ。ボクと共に来てくれ」
魔王(ゲートを閉じることが出来るなら、もし本当にそれが可能なら。本当に最善だと思う。嘘はない)
少年勇者「信用できない……」
魔王「信用してよ、じゃないと殺して奪うしかない。キミを殺そうと殺すまいとゲートはボクが閉じる」
206:
少年勇者「本当に信じていいのか? 俺っちを騙そうと嘘をいっているんじゃないのか?」
魔王「信じて。嘘は言ってない」
少年勇者「じゃあ鍵はどこにある? 持ってないようだけど」
魔王(知らないなんて言えない……)
魔王「側近に持たせてる。解放してくれれば誰も殺さないと約束しよう」
少年勇者「……」
少年勇者「嘘か……」
魔王「え?!」
少年勇者「魔界側のゲートの鍵である“魔剣”は……魔王以外は触れることができない」
魔王「!!……ゲートの鍵が“魔剣”……?!」
少年勇者「騙したのか」
 少年勇者は剣を抜く。
魔王「ち、違う!」
少年勇者「真の姿に戻るために殺せって? それも嘘じゃないのか?」
魔王「……っ」
少年勇者「殺してやるから真の姿を見せろよ……そうしたら信用してやるよ」
魔王「鍵が“魔剣”であることを知らなかったことは認める! ゲートを閉じたいという気持ちは嘘じゃないっ」
少年勇者「……」
少年勇者「何が本当で……何が嘘なのか……」
少年勇者「お前を殺せばわかる……」
魔王「−−−−−ッ!!」
 ドオオオオゴォォンッッ!!!!
 突然轟音と地響きが魔王達を襲う。
207:
少年勇者「な、なんだっ!」
女賢者「少年勇者っ! 敵だっ!」
少年勇者「…………!!」
魔王(助け? だれが?!?……)
少年勇者「…………!!」
 ドオオオオゴォォンッッ!!!!
少年勇者「くっ……こいつの言ってたことは本当だったのか……?」
魔王「……」
女賢者「沢山の魔族兵が攻めてきてるよ!!」
魔王(助かったの……?)
女賢者「ど、どうする? 逃げないと……」
 ドオオオオゴォォンッッ!!!!
少年勇者「くそっ!」
 激しい轟音と共に里の建物は揺らぐ。
 狼狽した少年勇者は必死にどうするべきか考えているようだった。
208:
 意を決した少年勇者は魔王を拘束したまま引きずっていく。
少年勇者「来いっ」
 監禁されていた建物から出ると、外は壊滅していた。
少年勇者「−−−−っ!!!」
 瘴気は吹き飛んだのか里全体が見渡せたが、無数の戦艦が取り囲み砲撃していた。
 瓦礫の山に人間達の死体も散乱していた。
 少年勇者はその光景に呆然と固まっている。
 
魔王(こんな戦力……魔界には無かったはず誰が……?)
魔族兵「勇者発見!」
 魔王達の周りを物凄い数の魔族兵が取り囲む。
少年勇者「う、……うあああああああああっっ!!!!」
 少年勇者は魔王に向けて剣を振り下ろす。
 が、その攻撃が届く前に動きが止まる。
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生まれてくる子供が「全員障害者になる」とかいう呪いにかかった家族の画像…

まず50%突破←もうこれいい加減辞めないか?

海外で広まってる「おつり投資」ってのが日本でも始まったらしい

韓国シンクタンク所長「日本は、文在寅大統領に反日のレッテルを貼らないでほしい」

魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」

【画像】痴漢を裁く最凶の方法が提案される!!これなら冤罪でも逃げられず確実に逮捕出来るぞ!!!

【超!閲覧注意】硫酸を飲んだ結果・・・

【画像】人気オンラインゲームが突然サービス終了でユーザーがデモ行進wwwwwwwww

「方向性」といえばいい所を「ベクトル」という奴wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

【情熱】美人妻がいる葉加瀬太郎(49)が54歳の年上女性と不倫wwww 路上でキスまでwww

睦月「え?龍驤さんぶちぎれドッキリ?」夕立「一緒にやりまへんかー、っぽい!」

言われるまで気づかなかったけど、約束事の話が難しくなると私は一旦は必ず粘るらしい

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