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魔王「この空とともに旅をしよう」


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なんだか考えさせられるなあ
65: 以下、
面白い世界観だ
魔王を倒したのに荒れている王国、それを導く三傑
あれ?でも勇者一行の数は…
66: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 00:53:22.42 ID:rk//pNLX0
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僧侶「勇者さん、この魔王城なんかおかしくないですか?」
勇者「魔王城なんだから基本的におかしいだろ」
僧侶「それはそうですけど……、挙げ足を取って裏切りがどうとか、魔王城の住人は何でそんなことばかり言うんでしょうか?」
勇者「うーん、奴らはみんな魔王城の秘密警察だったとか?」
僧侶「そういうのは魔王の忠臣を監視するんじゃないですか? 私たちは裏切りとか関係なく、問答無用で彼らの敵なはずです」
勇者「そうなんだよなぁ」
僧侶「彼らの目的がさっぱりわかりません」
勇者「まあ、答えは魔王を見つけて訊くしかないと思うよ。とにかく今は魔王探しに専念しよう」
僧侶「そうですね」
67: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 00:55:23.14 ID:rk//pNLX0
勇者「この館は今までで一番大きい」
僧侶「天井も高く、中も広そうですね」
勇者「魔王がいるとしたら、ここだろうか」
僧侶「開けてみましょう」
勇者「そうだな」ギイッ
??「魔王様の執務棟へようこそ、勇者殿」
勇者「魔王だと!?」
僧侶「ついに来ましたね!」
勇者「……っと、その前にお前は誰だ!」
僧侶「勇者さん気を付けてください。この人は勇者さんを勇者だと認識しています」
68: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 00:58:13.79 ID:rk//pNLX0
勇者「ああ」
??「その大きな両手剣を仕舞ってください、勇者殿。私にはあなたと戦闘する意思はありません」
勇者「なんだと?」
??「私の名は側近。ここ、魔王様の執務室で、魔王様の執政の補佐と身の回りの世話を仰せつかっております」
勇者「そうか。では俺を魔王のもとに案内してほしい」
勇者「俺の名を知っているという事は、来訪目的も承知しているのだろう」
側近「かしこまりました」
勇者「えっ、いいのか?」
僧侶「側近さん、魔王はどこにいるんですか?」
側近「ご案内できるのは勇者殿のみです」
69: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:00:00.52 ID:rk//pNLX0
僧侶「へっ!? 何言ってるんですか? 私たちは勇者討伐隊ですよ」
側近「裏切者は抹殺せよとの命を受けておりますので」
勇者「まだ裏切者とか言ってるのかよ。僧侶は小さいころから教会で神に仕えてきた身だぞ。裏切りとは無縁だ」
僧侶「そうです。神に誓って断言できます」
側近「あなた自身はそうかもしれませんね」
勇者「なら無罪放免だな」
側近「しかし、あなたの所属組織はどうでしょうか?」
勇者「おいおい……。俺たちは魔王討伐隊なんだから、魔物のいくらかは裏切ってても仕方ないだろ」
側近「魔物ではありません。我々は魔族という誇り高き種族です」
僧侶「そういえば、魔法使いさんもそう呼んでましたね」
70: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:01:17.56 ID:rk//pNLX0
側近「話を戻します。僧侶殿、問題はあなたの所属する教会です」
僧侶「教会が裏切り? 何のことですか?」
側近「その胸に聞いてみてはいかがですか?」
僧侶「この胸……?」タユンタユン
勇者「いや僧侶、多分胸っていうのはそういう事では……///」
僧侶「やっぱり分かりません。側近さんと違って聞く胸はあるんですけど……」
勇者「ブッ!」
側近「はあぁぁ??? 何、私の胸がないみたいな風説を流布しようとしてんの???」
僧侶「すいません! そういうつもりじゃなかったんですけど、触れてはいけないことに触れてすいません!」
側近「殺す! ぶっ殺す!」
71: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:03:04.35 ID:rk//pNLX0
勇者「まあまあ、僧侶も謝ってることだし……」
側近「お前も笑ったよな? 『ブッ!』とか言ってたよな? 殺す! 一緒に殺す!!」
勇者「ちょ……っ! 魔王のもとに案内してくれる話はどうなったんだよ」
側近「……コホン。取り乱してしまい失礼しました」
側近「そこの僧侶殿が事実無根の風評被害を招こうとしていたので、ついムキになってしまいました」
勇者(事実無根(笑)の風評被害(笑))
側近「勇者殿! 心は読めてますからね、(笑)の部分まで!」
72: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:05:03.88 ID:rk//pNLX0
側近「教会は、長年私にコンタクトをとってきました」
勇者「教会が魔族に……?」
僧侶「そんな話、聞いたことがありません!」
側近「僧侶殿は聞き及んでいないのですか? 教会上層部の間では周知の事実かと思いましたが」
勇者「……とりあえず話を聞こう。詳しく教えてくれ」
側近「人間界の教会は、神に仕え、ときには神の声を聞く立場にありながら、政治的に王家より低い地位に置かれることに不満を抱いていたようです」
側近「王家主導で人間界と魔界間の戦争を始めて以降、特にその傾向は強まっていたようです」
側近「ある時、教会の上層部が極秘に私を訪ねてきました」
側近「そして彼らは『魔界を実務的に統べるあなたと、人間界の神を代弁できる我々が手を組めば、人間界と魔界を我々の自由にできますよ』と提案してきたのです」
73: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:07:59.66 ID:rk//pNLX0
僧侶「そんな……嘘です!」
勇者「仮に本当だとして、教会は何で魔王ではなく側近を訪ねたんだよ。おかしいじゃないか」
側近「実は、魔界はこのところ、魔王様が10年ほどで代替わりし続けているのです。これは、1000年単位で生きる種族も多い魔族にあっては、非常に不安定な状態なのです」
側近「それに引き換え、我が側近家は命ある限り魔王様を補佐し続けますから、安定性を買われたのかもしれませんね」
僧侶「信じられません」
側近「では、これをご覧いただきましょう。教会側が私に提示した契約書案です」
勇者「!! 教皇聖下のサインだ……」
僧侶「そんな……」ガクッ
74: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:10:06.63 ID:rk//pNLX0
側近「さ、これでお分かりいただけたでしょうか? 魔王討伐隊に私と手を組もうという勢力がいたという事実を」
僧侶「……私が裏切者だとしたら、教会と手を組もうとした側近さんも裏切者じゃないですか!」
側近「私が教会側の提案を受け入れたと、いつ言いましたか? 私は答えを保留したままです」
僧侶「……っ!」
勇者「確かに、教会上層部の行為は人類に対する裏切りそのものだ。でも、それを知らなかった僧侶は裏切りとは無縁だろう!」
側近「何と言われようと、裏切る勢力を魔王様に近づけるわけにはいかないのです」
僧侶「分かりました」
勇者「おいおい僧侶。側近は裏切者を抹殺すると言ってるんだ。納得しちゃだめだ」
僧侶「私は側近さんと戦います」
勇者「無茶だ! 僧侶は回復専門じゃないか」
75: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:11:53.46 ID:rk//pNLX0
僧侶「魔王を倒して、王国に凱旋したとします」
勇者「え? ……ああ」
僧侶「その時、私は教会という、魔界と手を組もうとした邪悪な組織と対峙しなければなりません」
僧侶「そのためには、教会がすがろうとした人も生かしてはおけないのです。教会と側近さんは、どちらが残っても世界を不安定にしてしまいます」
僧侶「これは私の出身母体が起こした不祥事です。私に始末させてください」
勇者「だったら俺も加勢する」
僧侶「私にやらせてください!!」キッ
勇者「そうはいかない。一連の討伐は我々4人の任務なんだから」
僧侶「勇者さんには勇者さんにしかできない役割があります!」
勇者「あるとしたら、今ここで僧侶とともに戦うことだ」
76: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:13:20.85 ID:rk//pNLX0
側近「勇者殿をここに留めておく理由はありません。魔王様の執務室にお行き下さい」
勇者「待て! 俺は絶対に僧侶を一人にはしないぞ! 共に戦い、共に帰るんだ」
僧侶「……勇者さん」
勇者「僧侶の生まれ故郷の港町に戻って、二人で暮らそう」
僧侶「ありがとうございます。でも……」
側近「勇者殿、自ら魔王様の執務室に行かないのなら、強制的に行ってもらいます」コォォ
勇者「なっ、転移魔法など……やめろ!」
77: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:15:50.85 ID:rk//pNLX0
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側近「……これで邪魔者がいなくなりました」
僧侶「なら、始めましょうか」
側近「この状況でよく落ち着いていられますね」
僧侶「私は側近さんに勝てないかもしれません」
側近「そうでしょうね。ではなぜ落ち着いていられるのですか?」
僧侶「私はいいんです」
側近「何が良いのですか?」
僧侶「どうなっても構わないです、私は」
側近「随分諦めがいいですね」
側近「私も任務ですからあなたと戦いますが、正直あなたに罪はないと思っていますよ」
僧侶「……いいんです」
僧侶「私ががどうなろうと、勇者さんが魔王を倒して王国に青空を取り戻してくれると信じていますから」ニコ
80: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:31:14.54 ID:rk//pNLX0
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(↑僧侶 vs 側近 回想シーン終わり↑)
男(この峠を越えれば港町が見えるはず)
男(辺境の港町というから、静かな所なんだろう)
男(お、そろそろ海が……)
男(おお、海が……見えたけど……あれ?)
男(……随分立派な都市にみえるぞ)
男(しかも、王都並みに立派な城が建っているようだけど、何の城だ?)
ワーワー キャーキャー
男(歓声!? とりあえず長閑とは縁遠そうだな)
81: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:33:30.01 ID:rk//pNLX0
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案内係「こんにちは」
男「え? ああ、こんにちは」
案内係「パスポートのご購入はあちらのチケットブースですよ」
男「パスポート? 通行税か何かのことですか?」
案内係「ホーリーランドの入場チケットですよ」
男「ホーリーランド? えっと、パスポートとやらを買えばこの街に入れるのですね?」
案内係「初めてのご来園ですか?」
男「来園……ええ、初めてです」
案内係「今日一日のご利用でしたらワンデーパスポートをご購入ください」
男「滞在は1日の予定ですから、それでよさそうですね」
82: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:36:05.68 ID:rk//pNLX0
案内係「お目当てのアトラクション等はおありですか?」
男「アト、ラク、ション……?」
案内係「えっと、行きたいところ、と言いますか……」
男「ああ、行きたいところはいくつかありますね」
案内係「1日で複数のアトラクションを確実に楽しみたい方は、園内で免罪パスをご利用になると便利ですよ」
男「免罪……だと?」
案内係「アトラクションの前で事前にチェックを済ませると、予定の時刻にアトラクションを楽しめるという魔法のパスです」
男「訪問先で待たされないというのは魅力ですね」
案内係「では、あちらのチケットブースでワンデーパスポートをお買い求めの上、ゲートをお通り下さい」
男「ふむ、あそこの小屋で衛兵に挨拶して通行税を払い、市門をくぐればよいのですね」
83: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:37:57.42 ID:rk//pNLX0
案内係「あっ、その前に!」
男「何でしょう?」
案内係「その大きな剣は園内に持ち込めません」
男「えっ、これは護身用に持っておきたいのですが……」
案内係「規則で園内にはいかなる武器も持ち込めません」
男「しかし、街の中で誰かに襲われたら……」
案内係「園内には武器を持ったものは一人もいませんので、そんな心配は無用です」
男「街の中の治安はいいのですか?」
84: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:39:21.38 ID:rk//pNLX0
案内係「勿論です。オープン以来、園内の暴力沙汰は1件も発生していません」
男「う?ん……」
男「分かりました」
案内係「では、その剣は私がお預かりしましょう」
男「はい」ドサッ
男「では、小屋に行ってきます」
案内係「……」
85: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:42:04.88 ID:rk//pNLX0
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男(市門をくぐったら静かな町が現れるかと思たけど……)
男(何だ、この生活感が一切感じられない空間は)
男(しかも……)
幸せ娘「パパー、次は魔海の海賊に行こー」キャッキャッ
幸せ父「えぇ? 市場の向こうじゃないか」
幸せ娘「いーくーのー!」
幸せ母「あらあら、この娘ったら」フフフ
男(なんで幸せそうな奴らで溢れかえってるんだ???)
男(まあ、そんなことはいい。まずは目的を……)
86: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:43:26.87 ID:rk//pNLX0
幸せ女「晴れてよかったね」
幸せ男「最近雨が多かったからね」
幸せ女「私達の想いが通じたんだね」
幸せ男「うん、そうだね」
幸せ女「でも、晴れるとホーリーランドは一段と綺麗ね」
幸せ男「確かにホーリーランドも綺麗だけど、幸せ女ちゃんの方がもっと(ry」
男(ああ、歴代の魔王は滅ぼすべき街を滅ぼし忘れたんだな)
キャッキャウフフ
87: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:44:41.49 ID:rk//pNLX0
男「すいません!」
幸せ男「あっ!?」
幸せ女「えっ!?」
男「お尋ねしたいんですが!」
幸せ女「は、はい?」
男「大神官の生家はどちらでしょうか?」
幸せ女「大神官様の生家……」
幸せ男「大神官の家と言えば、あれじゃね?」
幸せ女「えっ、あれ、生家じゃ……」
幸せ男「でも、大神官の家っぽいのあれしかないし」
88: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:46:16.42 ID:rk//pNLX0
幸せ女「まあ……確かにね」
幸せ女「たぶんあれだと思いますよ、ホーリーランドで一番目立つところにある、あのお城」
男「なんと! 大神官は王女か何かだったのですか?」
幸せ男「いやぁ、違うと思うけど」
幸せ女「でも、ここで大神官様がお住みになりそうなところは、あのホーリー城だけですから」
男「分かりました。行ってみます。ありがとうございました」ペコリ
幸せ男「あいつ、こんなところに独りで何しに来たんだ?」
幸せ女「さあ……?」
89: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:48:04.67 ID:rk//pNLX0
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男(なんか、言われるままに城の3階に上がらされてしまったけど)
男(こんな生家があるだろうか? どう考えても住居じゃないぞ)
マオウヲタオスゾ! オー!!!
男「わっ!」
男(な、なんだいきなり)
男(からくり人形か……。魔王を倒す様子を表現しているみたいだな)
男(あ、危ない! そこ、左だ! よしよし……しむ、否、戦士後ろ!)
男(……無事に魔王を倒したみたいだ。次に行こう)
90: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:49:29.51 ID:rk//pNLX0
男(大きい絵だ。けど随分おぞましい絵だな)
男(悪魔のような領主と教会が村の人を苛めている構図かな。趣味の悪い絵だ)
男(次も絵か)
男(大神官が旗をもって民衆と立ち上がる絵……)
男(次は……隣の部屋か)
男(おおすごい!これは天国のジオラマか?)
男(見るだけで幸せな気持ちになれそうだけど……)
男(神が描かれるべき位置に大神官の像が置かれてるんだが)
男(次の部屋は……っと、城の入り口に戻ってきたか)
91: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:51:38.25 ID:rk//pNLX0
男(この町は一体……)
幸せモブA「おい、スプラッシュ的な何かが空いてそうだぞ」
幸せモブB「この時間から濡れるのはなぁ」
幸せモブA「でも、普段はいつも行列してるから」
幸せモブB「ま、時間つぶしにはなるかもな」
男(わざわざ濡れに行くというのか? いったい何を考えているんだろう)
92: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:53:36.54 ID:rk//pNLX0
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司祭「ずぶ濡れじゃないですか、どうされたんですかの?」
男「いや、まさか晴れている日に水しぶきを浴びるとは思わなかったもので……」
司祭「それは大変でしたの。あちらの神殿で拭くものをお貸ししましょう」
男「ありがとうございます。……って、あなたは教会関係の方ですか?」
司祭「教会? ええ、まあそうですが」
男「ちょうどよかった。神殿とやらでお話を伺えますか?」
司祭「わかりました。参りましょう」
93: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:55:31.85 ID:rk//pNLX0
司祭「さあ、手拭いです。使ってください」
男「ありがとうございます」フキフキ
男「あの、ところで、この町は……?」
司祭「町、といいますと?」
男「ここのことです。大神官の産まれた町と伺っていたのです。港町と伺っていたのです」
男「それなのに、ここは何なんですか?人が生活している感じが全くありません。何というか、みんな王国の真似事をして楽しんでいるような感じじゃないですか」
司祭「なるほど」
男「納得したいのはこちらです」
司祭「これは申し訳ない。見慣れない装束ですが、貴方は異国からいらしたのですかの?」
94: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:56:48.20 ID:rk//pNLX0
男「ええ、隣国から来ましたが……」
司祭「隣国……鉱山の国ですかの」
男「ええ」
司祭「なるほど、あそこはこの王国と教圏が同じですから、余計にこの王国が奇妙に映るのかもしれませんの」
男「王国というか、この町が奇妙なんですが……」
司祭「分かりました。一からご説明しましょう」
男「お願いします」
95: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 01:59:00.33 ID:rk//pNLX0
司祭「三傑によって魔王が滅ぼされるまで、この王国や鉱山の国を含む教圏では、一人のトップ、教皇聖下が全ての教会を統率していました」
男「それは知っています」
司祭「しかし、魔王討伐に参加した僧侶、つまり今の大神官様によって、教会が腐敗していることが明らかにされたのです」
司祭「各地方の教会は利益を得んがために各地方の領主と結託し、教皇聖下は各国の国王に対抗するために魔王と結託しようとしていましての」
男「……」
司祭「驚かれませんね。この辺りは鉱山の国にも伝わっているのですかの」
男「まあ、風の噂といいますか、その程度には……」
司祭「なるほど」
司祭「さて、そのような腐敗を目の当たりにした大神官様は、王都に凱旋すると同時に行動を起こしました」
男「教皇聖下の行いを糾弾したわけですか?」
96: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:02:02.54 ID:rk//pNLX0
司祭「簡潔に言えば、そういうことになります」
司祭「しかし、問題はどのように糾弾したかでしての」
男「国王を味方につけるため、魔王討伐の報告を兼ねて国王にお伝えしたのではないですか?」
司祭「それでは現在の王国の教会はなかったでしょう」
男「それは一体どういう……」
司祭「大神官様は、教会が自らの利益のために領主や魔王と結託した結果、多くの民を救えなかったことに心を痛められたのです」
司祭「国王と結託してしまっては、結託する相手以外は何も変わりません。大神官様は、いかなる権力とも結託しないことこそが民を救える道だと悟ったのです」
司祭「大神官様は、知り合いのいた王都の小さな教会から、王都の民に向けて、これまでの教会の行いを発表したのです」
男「なるほど……」
司祭「王都の民に伝わった教会の行状は、ほぼ一瞬にして王国内の民に伝わりました」
97: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:04:17.80 ID:rk//pNLX0
男「しかし、それでは王国内で教会に対する暴動が起こったのではありませんか?」
司祭「暴動が怒る直前という微妙なタイミングを逃さず、大神官様は立ち上がったのです」
男「立ち上がったところで、教会に対する怒りは収まらない気がしますが」
司祭「王国内では、魔王を倒したという称号には絶大な影響力があります」
司祭「大神官様が『教会は私たちが変えなければならない』と言ったとき、民は大神官様への協力を惜しみませんでした」
司祭「教会に対する怒りが、教会の中の困った人への怒りに変わったのです」
男「タイミングが良かったということですか」
司祭「……ここまでは、運を天に任せていた部分もあったのでしょう」
司祭「しかし、ここから先は決して運ではありません」
98: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:07:22.55 ID:rk//pNLX0
司祭「民の声を背景に、教皇聖下の影響力を王国内から排除し、新たに大神官として王国内の教会全てを統率する立場に就きました」
男「教会のトップが変わっただけではないのですか」
司祭「全く違います」
司祭「それを機に、教会は王都や一部の都市のみに集約し、各地にある教会は神殿に再編されました」
男「教会と神殿は何が違うのですか」
司祭「神殿は各地にあるお祈りするところですね。神殿は、教会時代にあった政治や金銭にまつわる一切の権限を剥奪されました」
司祭「教会は、神学の研究を行ったり、神殿を束ねたり、金銭の管理を行ったり、世俗と対外的な交渉をしたりする、事務的な組織です」
男「教会が世俗と交渉するのなら、これまでと何も変わらない気がしますが」
司祭「大神官様をはじめとする厳しい監視の目が届くところで、世俗と近づきすぎない交渉をすることが重要なのです」
男「しかし、それでは神殿はやることがなくなりそうですが」
99: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:09:48.28 ID:rk//pNLX0
司祭「教会の領地や寄付によって得られた収入は、教会から各地の神殿に分配され、各地の神殿はこの資金を各地の民に役立つよう使うことが義務付けられました」
男「役立つこととは一体……」
司祭「雨の少ない地域にある神殿では教育施設を作り、ため池や運河を作る技術を広めました」
司祭「麦が豊富にとれるけど辺境にある地域では、麦を加工する工場を作り、民の働く場を作るとともに、作物を他の地域に運びやすくしました」
男「神殿は交易まで行うのですか?」
司祭「それはあくまで民の仕事です。しかし、各地にこういった施設が増えた結果、物資の行き来が増えたのは紛れもない事実でしての」
男「そんな資金が一体どこから……?」
司祭「王宮や領主との無駄な相互干渉を無くすことで、十分捻出できます。何しろ、王宮や領主から教会への寄付はなくなったわけではないのですから」
男「それはすごい」
100: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:12:00.28 ID:rk//pNLX0
男「ですが……それなら、何で王国は混乱の真っただ中なのでしょう」
司祭「貴方は、この王国でいくつの町を巡ってこられましたかの」
男「王都とこの町だけですが……」
司祭「やはりそうですか」
男「やはりとは?」
司祭「この王国で、未だに混乱が収まらないのは、王都とごく一部の交易都市くらいです」
男「えっ……?」
司祭「王都は特別です。王宮があり、諸侯が住み、各種労働者が暮らし、魔族も集まる……利害がぐちゃぐちゃな稀有な都市です」
司祭「しかし、地方のほとんどの町は違います。農地があり、耕す農奴と、管理する領主がいるだけの世界です」
101: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:13:11.17 ID:rk//pNLX0
司祭「そういう世界では、民の暮らしが良くなればそれに異を唱える者などおりません」
男「そうだったのですか」
司祭「我々教会は、祈ることと伝えることしかできません」
司祭「街道を整備することも、街道を安全にすることもできません」
司祭「しかし、その街道を活用する人々を育てるのは、民とともに祈り、伝えることのできる教会と神殿にしかできないことなのです」
102: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:14:40.98 ID:rk//pNLX0
男「ところで、この町は一体……?」
司祭「ほっほっほっ、そうでしたの」
司祭「そもそもの話として、ここは町ではありません」
男「えっ? じゃあここは……」
司祭「テーマパークでしての」
男「テーマ、パーク……???」
司祭「魔王を倒し教会を民のものに変えた立役者である大神官様の偉業を、遊びながら知ることのできる施設ですね」
男「えっ、では、大神官の産まれた港町というのは……」
司祭「勿論ありますよ」
男「それはここにあったのではないのですか?」
103: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:16:09.86 ID:rk//pNLX0
司祭「厳密にいうと、このホーリーランドというテーマパークは、港町の手前に作られたのです」
司祭「ですから、港町はここから港に向かって歩いたところにあります」
男「峠からここに来るまで、全く見えませんでしたが……」
司祭「峠からここまでの道程と、この園内からは町が見えないように設計されていましての」
男「そんな……。なぜ、こんな施設を作ったのですか?」
司祭「大神官様が就任されたとき、当然その生家がある港町は聖地として巡礼者が殺到することが予想されました」
男「でしたら、港町を聖地にすればいいではないですか」
司祭「大神官様が、それを望みませんでした。長閑に暮らしてきた人々を好奇の目に晒したくはないと」
男「そうだったのですか……」
104: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:18:42.12 ID:rk//pNLX0
司祭「そこで、だったら別に聖地っぽく振り切った施設を作っちゃおうと、年甲斐もなく張り切らせて頂きましての」ホッホッホッ
男「あなたの悪ノリですか!」
司祭「まあまあ、結果的に王国の教会や神殿一の集客施設となり、私の株価も鰻登りでしての」
男「何の話ですか!」
男「だいたい、大神官を教祖の様に祀り上げて神格化するなんて、大神官が望んでいるとは思えません」
司祭「……それは否定しません」
男「だったら……!」
司祭「それはこの施設をオープンする前から、教会上層部で議論を交わしてきたのです」
男「でしたら、あなたが強行したということですか?」
司祭「いいえ、とんでもない。教会として出した結論です」
105: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:25:32.17 ID:rk//pNLX0
司祭「たとえ行き過ぎた表現があったとしても、今日の教会や神殿の意味を民にわかりやすく伝えることの方が重要なのです」
男「そういうことですか……」
男「ただ……」
司祭「なんですかの」
男「随分と高い通行税を取るんですね」
司祭「通行税? パスポートですよ」
男「同じですよ!」
司祭「国王も農奴も平等に同じ代金を払い、平等に同じアトラクションを楽しめるのです。究極の平等を実現した夢の世界と言って頂きたいですの」
男「いや、まあ……そういう考え方もある……のか?」
司祭「しかも、園内は全ての人が平等に平和と安全を享受できるよう配慮しています。そういう世界が現存することを体感していただきたいのです」
男「それは確かに素晴らしいですが……」
106: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:26:45.43 ID:rk//pNLX0
司祭「我々教会は、祈ることと伝えることしかできません」
司祭「しかし、我々は伝えることができるのです。この力から目を背けることは、神に対しても民に対しても裏切りです」
司祭「魔王討伐の三傑の一人であり、教会を正しい姿に変えた大神官様のことは、どんな形であっても語り継ぐべき事実です」
男「ちょっ……!」
司祭「どうしましたかの」
男「今、魔王討伐の三傑と言いましたか?」
司祭「ええ」
男「王国に来てから、ずっと気になっていたのです。その三傑っていうのは一体誰のことなんですか?」
司祭「おやおや、他国にはこんな大事なことが伝わっていないのですかの」
107: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:28:19.48 ID:rk//pNLX0
司祭「三傑というのは、僧侶、魔法使い、戦士……つまり、今の大神官様、王立魔道研究院長様、元帥閣下の3人です」
男「えっ…………」
男「あの、勇者が魔王討伐に行ったのではないですか?」
司祭「ああ……、かつての魔王討伐では勇者が他の者を引き連れて魔王討伐に向かったようですの」
男「かつて……」
司祭「今回は、 僧侶、魔法使い、戦士の3人が魔王討伐に向かい、魔王を倒して帰ってきたと聞いています」
男「勇者はいなかったというのですか?」
司祭「『いなかった』とは聞いておりませんが、『いた』という話はありませんの」
男「…………」
司祭「いやいや、他国への話の伝わり方というのは興味深いものですの」
男「…………」
108: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 02:29:24.21 ID:rk//pNLX0
本日の投下はここまでです。
110: 以下、

勇者は一体…
112: 以下、
おお、気になる気になる
さりげにテーマパーク楽しんでんなww

114: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:03:16.31 ID:snWQIdV60
???????
案内係「こんばんは」
男「え? ああ、さっきの……」
案内係「お預かりしていた剣、お返ししますね」
男「あ……、そうか」
案内係「ホーリーランドはお楽しみいただけましたか?」
男「何というか、想像とは違いましたが……」
男「まあ、貴重な体験はできましたよ」
案内係「それはよかったです」
115: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:04:17.92 ID:snWQIdV60
案内係「この後はどちらに行かれるのですか?」
男「近くに宿屋街があると聞いたので、そちらで投宿と食事をしようかと……」
案内係「幸せそうな人たちに囲まれてですか?」
男「あ……、いや、でも、仕方ないですから」
案内係「私は間もなく仕事が終わるので、よかったら港町で一緒に食事しませんか?」
男「いや、しかし……」
案内係「宿屋も港町の方がはるかに安いですよ」
男「う?ん、じゃあ」
116: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:06:49.73 ID:snWQIdV60
???????
男「いやあ、助かりました。普通に食事できるところがあったんですね」
案内係「小さいと言っても、由緒ある町ですからね」
男「でも、峠の方からはこんな町があるなんて全然気が付きませんでした」
案内係「知らない人には豪華な宿屋で高級ディナーを召し上がっていただくのが、教会流のおもてなしですから」
男「大神官様大変です。教会が金儲けに邁進しはじめてます」
案内係「そのお金は民のために使っているのですから。それに私たちは個人では蓄財を許されていません」
男「農奴も逃げだしそうな待遇なんですね」
案内係「ホーリーランドで働く者は全て聖職者ですから」
男「あ、なるほど……」
案内係「それに、ホーリーランドがあるおかげで、この町は今でもゆっくりとした時間が流れているんですから」
男「確かに、そうなのかも知れませんね」
男「来たかったのは、テーマパークではなくこの町だったのです。長閑な港町と聞いていたので」
117: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:08:17.27 ID:snWQIdV60
案内係「どなたにお聞きになったんですか?」
男「いや……、その、知人から?」
案内係「ふーん」
案内係「港と言っても小さな漁港ですから、見るようなものは特にありませんよ」
男「この先にある村に行くついでに、立ち寄ってみたかっただけですから」
案内係「この先にある村って……、確かただの農村ですよ。それこそ何もないところです」
男「知り合いの出身地でしてね」
案内係「ふーん」
118: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:09:31.76 ID:snWQIdV60
男「しかし、びっくりしました」
案内係「教会がテーマパークを運営しているのがですか?」
男「それもありますが、魔王討伐に勇者が加わっていなかったという話です」
案内係「……」
男「いえ、隣国では魔王は勇者が倒すものだと言い伝えられていましたので」
案内係「王国に凱旋したのは大神官様をはじめとする三傑の方々だけでした」
男「かつての魔王討伐は勇者主導だったのに、今回は勇者がいないなんて……」
男「何か理由があったんでしょうか?」
案内係「勇者も魔王討伐の旅に出ましたよ」
男「えっ!?」
119: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:10:54.22 ID:snWQIdV60
男「いえ、先ほどの司祭さんが言うには、直近の魔王討伐は三傑のみによって行われたと……」
案内係「凱旋したのが三傑の方々だけなのですから、間違ってはいないと思いますが」
男「しかし、司祭さんは勇者の存在を聞いたことはないと……」
案内係「それが、この王国での定説になっていますから」
男「定説とはどういうことでしょう?」
案内係「……随分、勇者の動向が気になるみたいですね」
男「いや、そういうわけでは……」
男「ただ、私が伝え聞いていた話とは色々と相違点があるもので、消化しきれないのです」
120: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:13:14.96 ID:snWQIdV60
案内係「ところで勇者さん?」
男「何でしょうか」
男「……って、えっ!?」
案内係「……やっぱり」
男「いや……二人で会話していて呼びかけられたら、反射的に答えるでしょう」
案内係「さっき、この町を『長閑な港町』と聞いたと言いましたよね? 誰から聞いたんですか?」
男「ですから、知人から聞いたと……」
案内係「ここを『長閑な田舎町』と呼ぶのは大神官様の口癖なんですけどね」
男「ぐっ……偶然?」
案内係「あと、この先の農村に行くとか言ってましたけど」
男「ええ、知り合いの出身……」
案内係「例の勇者の出身地なんですけどね」
男「」
121: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:15:04.68 ID:snWQIdV60
男「いやいや、出身地だけで人物を特定されても……」
案内係「じゃあ、その剣について聞いてもいいですか?」
男「この両手剣ですか? これは隣国の剣ですよ。鉱山の国ですから豊富な鉄鉱石をふんだんに用いて、このような大きい剣が主流になっているのです。さらに近年では、鉄に他の金属を混ぜることによって、更に強靭な……」
案内係「祝福の剣じゃないですか、それ」
男「シュクフクノツルギ……ナンデスカソレハ……」
男「もしかしてあれですか? 勇者しか装備することができないとかいう伝説の武器ですか?」
男「まさか、ありえませんね。笑っちゃいますよ。はは……ははは……」
案内係「私、見たことありますから。祝福の剣」
122: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:16:38.72 ID:snWQIdV60
男「あ、あなたは一体……」
案内係「魔王討伐隊が王都を旅立たれた日、神の祝福を受ける儀式がありましたよね?」
男「いや……そうなんですかね」
案内係「そういうのいいですから」
案内係「私、その時同席していました」
男「!! もしかして修道女さん?」
案内係「覚えていてくれましたか? 勇者さん」
男「ぐっ……!」
案内係「その通りですよ、勇者さん。私は間近で勇者さんも、その剣も見ていました」
男「いやだなあ修道女さん。間近で見ていたのなら、勇者がこんな顔だったのかどうか覚えておいて欲し……」
案内係「そういうのいいと言ったでしょう!」バンッ
男「すいません……」
123: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:18:23.67 ID:snWQIdV60
案内係「確かに、顔も口調も違っていますが、装備も所作も勇者さんそのものです」
男「それは……」
案内係「もう一度お訊ねします。勇者さんなんですよね?」
男「……ええ」
案内係「……随分酷いことするんですね、勇者さんって」
男改め勇者「結果として騙すことになってしまって、すいません」
案内係「そういうことではありません!」
勇者「では一体……」
案内係「どうして……」
124: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:20:11.81 ID:snWQIdV60
案内係「どうして、すぐに僧侶ちゃ……大神官様のもとに駆け付けてあげないんですか?」
勇者「それは……」
案内係「三傑の方々が王都に凱旋した時、教皇聖下の影響力を王国から排除した時……」
案内係「教会のたちも王都の人たちも歓喜に沸いていたけど、大神官様だけは寂しそうな瞳でどこか遠くを見つめていました」
案内係「大神官様は、魔王討伐隊として独りで王都に呼び出されて以来、あなたを頼りに生きてきたんじゃないですか?」
案内係「そんな大神官様に対する、あなたの答えがこれなんですか!」
勇者「それは……申し訳ないと思っています」
案内係「申し訳ないとか……! そういうことを言っているんじゃないでしょう!」バンッ
125: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:23:21.08 ID:snWQIdV60
勇者「でも、今は大神官のもとには行けません」
案内係「何でですか! 魔王も倒せなかった腑抜けっぷりが恥ずかしいとか?」
勇者「いや、そういうことではないのですが……」
案内係「ふん、どうだか。勇者の存在は恥ずかしいから、王国の歴史から消されたんじゃないですか?」ケッ
勇者「勇者は如何なる辱めを受けても構いません。でも今、勇者が戻ると、王国は不幸な歴史を繰り返してしまうのです」
案内係「王国が不幸って何ですか? 既に大神官様を不幸にしておいて、何が勇者ですか!」
案内係「そんな勇者ってあんまりじゃないですか! 貴方なんて勇者と言えません!」
勇者「……ええ、私は勇者とは言えないのでしょう」
126: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/27(月) 01:26:30.30 ID:snWQIdV60
本日の投下はここまでです。
既に勇者が登場していますが、本当の勇者編は次回からになります。
133: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:03:27.01 ID:UtzCKKTa0
???????
????
?
ドスン
勇者「いてっ」
勇者(確か側近に転移魔法で飛ばされて……、ということはここは……)
魔王「君が勇者か? 待っていたぞ」
勇者「お前は……魔王、なのか?」
魔王「ああ」
勇者「いや、人間の青年にしか見えないけど…」
魔王「魔王本来の形態もあるが、君とは色々話をしたかったんでな」
勇者「話す?」
魔王「ああ」
134: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:05:20.16 ID:UtzCKKTa0
勇者「一体どういうことだ? 俺たちはお前を倒すためにここに来たんだぞ」
魔王「混乱させてすまない」
魔王「しかし、我はこの通り人間の形態だし武器も持っていない。戦闘は話を聞いてからでも遅くないだろう」
勇者「まあいいだろう。俺も仲間がここに来るまでは戦闘を開始したくない」
魔王「仲間……か」
勇者「ああ、あいつらが来るまでの猶予だ。手短に話してくれないか」
魔王「では、順を追って話そう。君がいう通り、我は人間だ」
勇者「なっ……」
魔王「いや、『元』人間というべきだな」
勇者「門番の様に闇堕ちしたってことか?」
魔王「闇堕ちとは違うな。むしろ正義を貫いた結果だからな」
135: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:06:31.43 ID:UtzCKKTa0
勇者「……頼む。わかりやすく説明してくれないか?」
魔王「分かった。では我の通常形態を披露しよう。戦闘は行わないので安心してほしい」メキメキッ
勇者「つ、角と羽が……」
魔王「我は魔王だからな。これが魔王本来の形態だ」
勇者「黒いオーラも……」
魔王「さて勇者、この顔に見覚えはないか?」
勇者「魔王に見覚えなんか……、って、 先代の勇者……っ!」
魔王「さすがだな。王宮にある歴代勇者の肖像画を憶えていたか」
勇者「何てことだ……、先代の勇者が人間を裏切り、魔王となっていたなんて」
魔王「裏切ってなどいない。我は10年前、神の祝福を得て魔王討伐の旅に出て、そして魔王を討ち取ったのだ」
136: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:08:10.82 ID:UtzCKKTa0
勇者「じゃあなんだ、その形相は」
魔王「勇者よ、魔王になるにはどうしたらいいか知っているか?」
勇者「そりゃ、魔王の家に産まれるとかじゃないのか?」
魔王「魔界は力が全てに優先する世界。家柄などはそれほど大きな意味を持たない」
勇者「それじゃあ一体……」
魔王「魔王になるには、魔王を倒せばいいんだ」
勇者「何だ、単純なことじゃな……えっ!」
魔王「10年前、我は魔王を討ち取った結果、自動的に魔王になってしまったんだ」
勇者「そんな馬鹿な……。勇者が魔王を討つと魔王になるなんて」
魔王「しかし、それが事実なんだ」
137: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:09:26.66 ID:UtzCKKTa0
勇者「いや待てよ……。仮にそうだとしたら、魔王となった瞬間に王国に凱旋し、国王に事情を説明すればいいじゃないか」
魔王「勇者よ、王国による魔王討伐にどれくらいの歴史があるか知っているか?」
勇者「ああ、約50年前に始まって以降、ほぼ10年周期で魔王討伐隊が結成されている」
魔王「詳しいな」
勇者「出立前にそれくらいの知識は習得していて当然だろ」
魔王「それもそうだな。では、それが何を意味するか……?」
勇者「……まさか、50年前から魔王は人間だったってことか!?」
魔王「ああ、そういうことだ」
138: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:11:06.00 ID:UtzCKKTa0
魔王「50年前、最初の人類による魔王が誕生した」
魔王「その魔王は、今まさに君が言ったように行動しようとしたようだ」
勇者「なら、なぜその時点で人類と魔族が和解出来なかったんだ?」
魔王「魔王たるもの、魔界の統治や魔族の繁栄を第一に考えなければならない」
魔王「最初の人類魔王はその点を失念していたので、王国に行くことを側近たちに許してもらえなかった」
勇者「それじゃ、体のいい幽閉じゃないか」
魔王「まあ実際幽閉だったんだろう。しかし、そんな幽閉生活は10年ほどで終焉を迎える」
勇者「おっ、ついに解放されるか」
魔王「二代目の勇者に討たれるという形でな」
勇者「そうだった……」
139: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:12:31.69 ID:UtzCKKTa0
魔王「二代目の勇者は初代勇者であった魔王から自身の失敗を聞かされ、まず魔界統治に専念した」
魔王「そして10年ほど経った今から30年前、王国と和平交渉をするために単身王都に赴いた」
勇者「ならその時に平和が訪れたはずじゃ……」
魔王「王国の歴史では30年ほど前に何があったと伝えられている?」
勇者「人類を裏切った勇者が魔王となって王都に攻め込んできた、王国最大の危機……か!」
魔王「その通りだ」
勇者「でも何故だ? 三代目の勇者は和平交渉をするために王国に凱旋したんだろ?」
魔王「魔王の形態で乗り込んだのが誤解を招いたのだろう」
勇者「だったら人間の形態で、戦意を示さずに凱旋すればよかったのに……」
魔王「それでは凱旋する意味がない」
140: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:14:17.13 ID:UtzCKKTa0
勇者「どういうことだ?」
魔王「さっき我の人間形態を見て気付かなかったか?」
勇者「気付くって、見たこともない青年だとしか……あっ!」
魔王「ああ、魔王になってしまうと、人間形態では本来の顔とは全く別の人相になってしまう」
魔王「つまり、人間形態で王国に凱旋しても、勇者だとも魔王だとも認識してもらえない」
勇者「難しいな」
魔王「それに……」
勇者「まだ何かあるのか?」
魔王「どの形態で王国に凱旋したとしても、交渉など成立しなかっただろう」
141: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:16:23.39 ID:UtzCKKTa0
勇者「なぜだ?」
魔王「王国内には、国王と魔王の和解を快く思わない勢力がいくつもあったからな」
勇者「……」
魔王「さて、あらぬ疑いをかけられた魔王には、即座に追討隊が派遣された」
魔王「それが、三代目勇者だ」
勇者「30年前の危機に、そんな背景があったなんて……」
魔王「さて、その三代目勇者だが……」
魔王「追討の際、二代目勇者から先代と自身の悲劇を聞かされたのだろう。王国を信用できなくなってしまったようだ」
勇者「そういえば、魔界との戦争が一番激しかったのは30年前から10年前だったはずだ」
魔王「ああ、そんな話を聞きながら魔王になった三代目勇者は、王国への復讐を始めてしまったんだ」
魔王「王国の空がこの魔界の空のような色に染まってしまったのも、30年ほど前からだ」
142: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:17:51.34 ID:UtzCKKTa0
勇者「待てよ、そうしたら四代目の勇者はどこへ行ったんだ?」
魔王「20年ほど前に王都を出発した勇者隊か?」
勇者「ああ。四代目の勇者が魔王を倒したのなら、そんな復讐は終わったはずだ」
魔王「四代目の勇者隊は魔王に敗れた」
勇者「なんと……」
魔王「そして約10年前、我が五代目勇者として、魔王である三代目勇者の討伐に向かった」
勇者「お前が今ここにいるってことは、三代目勇者に勝ったんだな」
魔王「そうなるな」
勇者「『そうなるな』じゃないだろ。お前はこの10年間、いったい何をしてきたんだ」
魔王「もちろん、魔界繁栄のために尽くしたな。そのために資金が足りなければ、魔王城の巨塔等を売り払ってでも資金を調達したりしながらな」
143: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:19:55.08 ID:UtzCKKTa0
勇者「だから魔王城は小さい建物ばかりなのか」
魔王「そういうことだ。これでも善政を敷いているつもりだ」
勇者「ふん、そんな魔界にとっての名君が俺と何の話をしようというんだ」
魔王「無論、魔界繁栄のために尽くしたのは表面的な活動に過ぎない」
魔王「この10年間、君が来るのを待っていたんだ」
勇者「なっ、一体どういうことだ?」
魔王「元勇者の話を聞かずに追討隊を送り込む国王は信用できない」
魔王「かといって、側近と手を組もうとする教会も信用できない」
勇者「なぜそれを知っているんだ?」
魔王「なぜって、側近から報告と相談を受けているからに決まっている」
勇者「……」
魔王「我は、王国と魔界を和解させる最期の望みとして、勇者を待っていたんだ」
144: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:21:37.14 ID:UtzCKKTa0
勇者「信じられないな」
魔王「何が信じられないというのだ?」
勇者「人間と魔族の戦闘は、ここ10年間も続いてきた。和解を望む奴のやることとは思えない」
魔王「ここ10年の戦闘は魔族の一部の部族と王国の集落単位での小さな諍いのみだ。魔王軍として王国に乗り込んだことは一度もない」
勇者「でも、王国の空は未だに灰色のままだ」
魔王「あれは先代の魔王が掛けた呪いでな」
勇者「何で解かない」
魔王「あえて解く理由がないからだ」
勇者「解く理由がないだと?」
魔王「あの呪いは、王国の人間の心理を反映している。過半数の人間が信じる未来が暗ければ暗い色になり、明るければ晴れ間が射すというものだ」
勇者「それじゃ、空が灰色なのは……」
魔王「ああ、君たちの多くが明るい未来を信じていないからだ」
勇者「そんな……」
145: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:23:40.09 ID:UtzCKKTa0
勇者「お前の話は分かった。ただ……」
魔王「何か不明なことがあるか?」
勇者「当たり前だ。だったら何で俺の仲間たちを『裏切者』呼ばわりして妨害するんだ?」
魔王「勇者を裏切った国王、王国を裏切ろうとしている教会……王国と魔界の和解は、裏切者に阻まれてきたと言っても過言ではない」
魔王「そんな要因を排除するのは当然のことだ」
勇者「だからと言って、僧侶たちを裏切者扱いすることはないだろ」
勇者「戦士は仲間の幸せを思って行動しただけだし、魔法使いは魔族から受けた仕打ちに対抗しようとしただけだ。僧侶に至っては本人に何の落ち度もない」
魔王「気持ちはわからないでもない」
勇者「だったら……!」
魔王「だが、個々の事例をいちいち考慮していたら危険要因を排除できない」
146: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:24:56.93 ID:UtzCKKTa0
勇者「……こる?」
魔王「何だ?」
勇者「それで何が残る?」
勇者「みんな、目的を達成するために動いた結果じゃないか。それをいちいち排除していたら、残るのは何も行動しなかった奴だけだ」
勇者「そんな奴を集めて、何ができるというんだよ」
魔王「君はそうじゃないだろう?」
勇者「……平行線だな。僧侶たちを迎えに行ってくる」
魔王「それは駄目だ」
勇者「駄目かどうかなんて知るか。じゃあな」クルッ
147: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:26:29.25 ID:UtzCKKTa0
ガチャガチャ
勇者「くっ……なんだこのドアは」
魔王「そのドアは内側から封印を施している。我を倒さない限り外には出られない」
勇者「仕方ない。だったらここで僧侶たちが来るのを待たせてもらう」
魔王「彼らはここには来れないだろう」
勇者「どういうことだ?」
魔王「ここは魔王城。我の城だ。君の仲間のことはよく調べたうえで、こちらが絶対的に有利になるよう部下を配置させてもらった」
勇者「っの野郎!」
魔王「間違いなく君の仲間たちは我の部下に消される」
勇者「なら俺がやることは一つしかない」
勇者「お前を討って僧侶たちを助けに行く!」
148: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:28:12.03 ID:UtzCKKTa0
魔王「君が次の魔王になるぞ」
勇者「知るかそんなこと!」
魔王「人間と魔族の諍いが続くぞ」
勇者「そんなことは魔王になってから考える!」
魔王「君が考えている間に、何人の人間や魔族が命を落とすかな」
勇者「黙れ!」
魔王「我が黙れば、第二第三の魔法使いのようなものが現れなくて済むのか?」
勇者「それは……でも、そのために今の魔法使い達を見殺しにはできない」
魔王「我は君と戦いたいわけではない。王国と魔界の和解を実現したいだけだ」
勇者「お前が和解を実現できるという確証はない」
魔王「それはそうだが、君一人でできるという確証はもっとない」
149: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:32:48.93 ID:UtzCKKTa0
勇者「……!」
魔王「君は我と組んで和解を実現するか、我と戦うか、好きな方を選ぶといい。ただし君が我に勝った場合、君は強制的に魔王になるぞ」
魔王「魔王になるということがどういう結果を招くか、よく考えるんだな」
勇者「……」
魔王「我と組む場合、君の仲間の命は諦めてもらうが、我を倒した場合、君の仲間を蘇生するのは君の自由だ」
勇者「俺は蘇生なんてできない」
魔王「側近が蘇生術を心得ている。神の祝福を得ているわけではないので完璧とは言えないけどな」
勇者「……なら、話は簡単だ」
魔王「ほう」
勇者「俺は魔王討伐隊としてここに来たんだ。討伐隊の仲間を見捨てた先にある未来など描けるはずがない」
勇者「魔王、お前を討つ。覚悟しろ!」グイッ
???????
????
?
150: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/13(月) 02:34:30.36 ID:UtzCKKTa0
本日の投下はここまでです。
151: 以下、
毎回、気になるところで

152: 以下、

受付係のお姉ちゃんは男を勇者と見た目で判断したってことは、男が魔王ってわけじゃないのか…?
にしても魔王さんも勇者の仲間をこんなやり方で倒そうとしなければ、もう少し交渉も簡単に行きそうなもんだが
>>139三代目の勇者ってなってるとこ、二代目の間違いじゃないか?
153: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 02:37:05.69 ID:OMn78s100
>>152
読み返してみたら、>>139の三代目勇者は、二代目勇者の間違いですね。
ご指摘ありがとうございます。
それから受付係の判断基準は、>>123をご参照下さい。
なお、本日中にネタバレ含め集中投下します。
155: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:16:18.24 ID:OMn78s100
勇者(昼でも夜のように暗いこの森を抜ければ我が故郷……)
勇者(その名も『ブレイブスタジオキングダム』が見えてくる)
勇者(なんてな。でも、勇者の偉業を称える聖地を期待してしまうな)
勇者(何しろ、この森の手前までは立派な街道が開通していたんだから)
勇者(さて、その角を曲がれば……)
勇者(ああ、懐かしい光景だ……)
勇者(あの日からきっかり6年分風雨に晒された感じの集落)
勇者(そうだろうな。勇者はいないことになっているんだ、うん)
156: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:17:59.47 ID:OMn78s100
勇者(人通りのない表通りもあの頃のままだな)
勇者(さて、俺の家は……)
勇者(……)
勇者(おかしいな。あの頃のままの出身地で迷子になってしまった)
勇者(今までなら町の人とかが声を掛けてくれてどうにかなったけど……)
勇者(ここは誰もいない。さすがは我が農村。というか6年前より人がいない!)
勇者(いや、落ち着け。あの切り株を右に曲がって……、この麦畑を左に曲がったところに我が家が……)
勇者(野菜畑が広がってる。どういうことだ?)
勇者(隣りの牧草地に人がいる! 話を聞いてみよう)
勇者(……っていうか隣に住んでいたおじさんじゃないか、あの人)
157: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:19:25.92 ID:OMn78s100
勇者「あの、すいません」
牧夫「ん? 誰だおまえっちは」
勇者「っと、旅の者なんですけど」
牧夫「旅? 何だ、王都からの技能者じゃないのか」
勇者「技能者?」
牧夫「旅の者には関係ない話だ。それより、こんな農村に何の用だ?」
勇者「いえ、その、昔の知り合いを訪ねに来たのですが……」
牧夫「知り合い? 誰だか知らんけんが、若い衆らなら村はずれの川のところにおるに」
勇者「いえ、この隣りの野菜畑のところにあったお宅なのですが……?」
牧夫「隣りって……! おまえっち、勇者一家の知り合いけ?」
158: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:20:42.93 ID:OMn78s100
勇者「やっぱり、勇者はいたのですか!?」
牧夫「いたも何も、この村の衆らはみんな勇者の帰りを待ってるもんでね」
勇者「そうなんですか!? いえ、王都や港町では勇者の存在を知らないという人ばかりでしたので」
牧夫「それはな、そういうことにしてるだ」
勇者「どういうことですか? 勇者は何かやらかしたのですか?」
牧夫「詳しくは俺っちも知らん。王都の役人さんに聞いた話だもんでね」
勇者「どんな話でも構いません。ご存知でしたら教えてください」
牧夫「そうだなあ。ペラペラしゃべっちゃ意味ない話だけんが……」
牧夫「遠くからわざわざおいでになったんだし……」
勇者「お願いします」
159: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:22:14.08 ID:OMn78s100
牧夫「6年前、俺っちの隣に住んでいた若者が神の祝福を受け、仲間とともに魔王討伐に旅立った」
勇者「しかし、王都でも港町でも、勇者がいたという話はほとんど……」
牧夫「若者が神の祝福を受けた時、王都の役人や教会の偉い人が沢山やってきて、村長も交えて協議をしたに」
牧夫「その後、若者を勇者として送り出す宴を、一晩かけて行ったに」
牧夫「6年前、勇者がこの村から旅立ったのは紛れもない事実だに」
勇者「なるほど」
牧夫「しかし5年前、勇者一行が魔王を倒したとの知らせが入った直後、王国には勇者を除く一行だけが凱旋した」
勇者「……」
牧夫「その後、王都の役人衆が隣の勇者の家にやってきて、勇者の家族をこっそり王都に移住させようとしたに 」
勇者「一体。なぜ……!」
160: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:23:45.96 ID:OMn78s100
牧夫「いい機会だと思って俺っちは役人衆らに聞いてみた」
牧夫「勇者はなぜ戻ってこないだ? 何があっただ? とな」
牧夫「役人衆らは黙って首を横に振るばかりだった」
勇者「そんな」
牧夫「俺っちもそれで納得するわけにはいかないもんで、『王都の衆らは理由も話さず村の衆を拉致するのか!』と問い詰めたら、少しだけ理由を話してくれた」
牧夫「詳しくは話せないが、勇者は別の世界に行っておりしばらく王国に戻ることができない」
牧夫「しかし、必ず戻ってくる時が来る」
牧夫「その時、勇者がどのような形でも王国に戻ってきやすいように、王国の民には勇者の去就や勇者の存在を積極的に公表しないでおきたい」
牧夫「勇者の家族も、この村にいては噂を聞きつけた旅人の格好の餌食にされてしまう恐れがあるので、その時が来るまで王都で保護したい」
牧夫「……王都の役人衆らはそんなことを言っていたに」
161: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:25:13.57 ID:OMn78s100
勇者「なるほど。どんな形でも帰ってきやすいように、あえて存在を伏せたということですか」
牧夫「そんな話を聞いても、いまいち理解できやせんかったけどな」
牧夫「ただ、役人衆らの話に嘘はなさそうだったし、勇者は戻ってくると聞いたもんで決めたに」
勇者「何をですか?」
牧夫「この村は、勇者の帰りをいつまでも待つってな」
勇者「……」
勇者「……いや、だったら」
牧夫「なんだ?」
勇者「何で、勇者の家を取り壊して、畑にしているんですか?」
牧夫「え、いや、その……これからは野菜畑の時代だって若い衆らが言うもんで」
162: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:27:17.59 ID:OMn78s100
???????
村人A「さて、今日は畑の水路づくりけ?」
村人B「そろそろ俺っちの村の畑も完成しちゃうで」
村人C「折角、王都の技能者とも仲良くなれただに」
村人D「大方はもう帰ったけん」
村人A「俺っちは無口の魔道研究院長たんが帰ってしまってから、院長ロス状態に」
村人B「あー、わかるわかる」
村人C「お前っちは趣味が悪いだよ」
村人A「何だと!」
村人C「氷の女執事様の冷たい魅力が分からないなんて、餓鬼もいいところじゃんね」
村人D「そうそう。女執事様に罵倒されながらハイヒールで踏みつけられたい!」
村人A「女執事の先生はハイヒールなんて履いてないだら。いつも茶色の編み上げのロングブーツだ」
村人B(うわぁこいつ実は詳しい)
163: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:28:47.99 ID:OMn78s100
村人C「あっ、女執事先生、おはようございます」
女執事「おはようございます」
女執事「早ですが、今日は……」
村人A「畑の水路づくりだらあ?」
女執事「ええ、畑の灌漑事業の総仕上げです」
村人B「はい」
女執事「では、畑に水路を引くにあたって、灌漑事業のおさらいをしておきましょう」
女執事「この村の野菜は甘みが強く肉厚で、王都では人気があります」
女執事「にもかかわらず、この村では野菜を定期的に王都に出荷するどころか、自分たちで食べる分すら満足に作れません」
女執事「それはなぜですか? 村人C」
村人C「ひゃいっ!」
村人A「女執事先生、村人Cに話しかけないでください。刺激が強すぎるに」
164: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:31:27.15 ID:OMn78s100
女執事「……? いいから答えを、村人C」
村人C「雨が少なく、日照りが続きがちで、野菜の生育が不安定だからだに」
女執事「正解です。しかし、この村の傍には川が流れています。なぜ、川の水を使わなかったのでしょうか? 村人D」
村人D「この村は台地になっています。川は谷底の渓谷のようなところを流れているため、川の水を村の段々畑に汲み上げる手段がありません」
女執事「その通りです。ですから、今回の灌漑事業は水を川の上流にある滝の上から確保することにしたのです」
村人B「しかし女執事先生。水を確保しやすい対岸の滝の上から水道橋を作ったのはいいのですが……」
村人B「一旦対岸の川岸まで下ってきた水道橋の水は、こちら側の村の段々畑の上の方まで、上がっていかないんじゃ?」
女執事「そこは問題ありません。水は、下った高さより低い高さなら難なく登ります」
女執事「畑の水路を完成させたのち、村の広場に共同の水場を作ることも十分可能です」
村人B「なんと」
165: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:32:54.44 ID:OMn78s100
女執事「それに、水道橋が対岸経由でこの村に繋がっているということは、何を意味するでしょう? これは難問ですけどね」
村人A「俺っちが対岸に行きやすくなるし、対岸にも水があるから、対岸にも畑を作って王都に沢山野菜を集荷できるら?」
女執事「………」
村人A「あれ、欲張りすぎたけ?」
女執事「……まさか、正解が出るとは思いませんでした」
村人A「おおっ!」
村人C「おい村人A! その役は俺に譲れや!」
村人D「そうだそうだ!」
村人B「いや、お前っちは痛罵されたいんだら!?」
166: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:35:13.55 ID:OMn78s100
女執事「はい静かに! それでは全容の説明を終えたところで、今日の作業です」
女執事「村の川岸にある水道橋から畑に水路を引き、村の広場に共同の水場を作ります」
女執事「地面を掘り返すだけの作業ですので、魔法は不要です。皆さんだけで作業をお願いします」
村人C「ええっ!?」
村人D「いきなり水路なんて作れれないに」
村人B「おい、お前っち!」
女執事「もし、技術的に不安なら、神殿が水路技術の指導をしてくれるはずです」
村人C「そこは技能者の力も借りて一気にドカンドカンと……」
女執事「確かに魔法を使えば早いのかもしれませんが」
女執事「本当にそれでいいのですか?」
村人A「……」
女執事「異界からの技能者と村人が協力するのは結構ですが、この村の畑に爆発系の魔法を使って、あなたたちは何も感じないですか?」
女執事「5年前まで続いた魔族との戦いにおいて、魔法で畑を焼かれていたのではないですか?」
167: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:37:15.46 ID:OMn78s100
牧夫「もういいだら、お前っち!」
村人B「どうした牧夫」
牧夫「お客さんが若い衆らにも会いたいというもんで、連れてきたに」
牧夫「そんなことより、畑で魔法を使うとか、冗談でも言っていいことと悪いことがあるら?」
村人A「その通りだに」
村人B「この畑は俺っちのものだ。畑に手を加えていいのは俺っちだけだ」
村人C「……そんなことは分かってるだよ」
村人D「女執事先生ごめんね。ちょっと絡みたかっただ」
村人A「絡む……、踏みつけられたいのが、絡む……ね」
女執事「……」
村人A「さ、じゃあ作業を始めまい」
村人B「ああ、勇者が帰ってくるのにふさわしい村を作らなきゃな」
村人C「おお、この村は勇者の里だからな」
村人D「王国中でこの村の野菜を売って、王国に帰ってきた勇者をびっくりさせるら」
女執事「……やはりこの村の野菜は、王国一美味しい野菜になりそうですね」
168: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:38:38.44 ID:OMn78s100
女執事「お久しぶりですね」
勇者「ええ」
女執事「……さっきから笑っていますけど、何か言いたそうですね」
勇者「まあ」
女執事「『誰からも恐れられていないとか言ってたくせにこの有様かよ?』ですか」ジト
勇者「いやいや」
勇者「王都で見た光景は混沌と憎悪しかなかったけど、この村では村人が魔族と付き合い、積極的に村を良くしようとしているんだなと思って……」
女執事「開発の恩恵を受ける者がいれば、必ず犠牲になる者がいます」
勇者「えっ?」
女執事「開発に取り組む者の陰には必ず、開発を阻止したい者がいます」
勇者「一体、何を……?」
169: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 18:40:09.82 ID:OMn78s100
女執事「あなたは、たまたま王都では陰の部分を目撃し、この村では光の部分を目撃しただけかもしれません」
勇者「そう言われると何とも……」
女執事「ただしこの村には、村を良くしたいと思う方が非常に多いのは確かです」
女執事「勇者とかいう、不思議な伝説のおかげですかね」
勇者「やはり勇者の存在は、信じられていないのですか?」
女執事「魔王討伐隊に勇者がいたかどうかは、存じません」
女執事「しかし今、私の目の前には勇者がいます」
勇者「えっ!」
170: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 20:06:02.12 ID:OMn78s100
女執事「自分たちの手で畑に水路を作り、野菜を育て、村を繁栄させようという勇者たちがいます」
勇者「……ああ」
女執事「私たちは街道を作り、橋を作り、灌漑設備を作ります」
女執事「でも、その設備を使って村や町や王国を反映させるには、それを活用する勇者たちが必要なのです」
女執事「この村にはその勇者がいます。この王国に村の勇者と王都の三傑がいれば、いずれその中間にいる者たちは良き方に流れていくはずです」
勇者「ええ」
勇者「……そうでしょう。ここは勇者たちの里なのですから」
171: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 22:55:51.52 ID:OMn78s100
???????
????
?
戦士「痛ててっ……」
僧侶「うぅ?ん……」
魔法使い「…………」
僧侶「戦士さん……ですか?」
戦士「その声は……僧侶か?」
僧侶「ええ……って、戦士さん! その腕はどうしたんですか?」
戦士「どうしたって……どうなってんだこりゃ!? 俺の右腕がねえぞ!」
僧侶「傷口きれいには塞がってますけど……」
戦士「僧侶こそどうしたっていうんだよ!」
僧侶「えっ、私ですか?」
戦士「髪が完全になくなってるじゃねえか!」
172: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 22:56:46.29 ID:OMn78s100
僧侶「えっ? えっ?」
戦士「一体、何があったんだよ」
僧侶「何がって、側近さんと戦って、それで……あれ?」
僧侶「戦士さんこそ、門番さんとの戦いはどうなったんですか?」
戦士「そうだ!あいつと……どうしたんだっけな」
僧侶「それに、ここはどこなんでしょう?」
戦士「随分と小奇麗な部屋だが、俺たち魔王城に来たんだったよな?」
??「目が覚めたかな」ガチャ
173: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 22:58:02.21 ID:OMn78s100
戦士「貴様! 魔王! ……っと剣を掴む腕がねえ!」
僧侶「戦士さん、魔王じゃありませんよ。この顔は勇者さんじゃないですか!」
魔法使い「!!」
??「ああ、俺は勇者だ」
戦士「けどよ、この角と羽はどう見たってだな」
??「そうだな、今はその……、魔王なんだ」
戦士「一体、何がどうなっちまってるんだよ」
僧侶「勇者さん、説明してください。勇者さんのこと、私たちのこと……」
??「実は……」
174: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:00:33.36 ID:OMn78s100
???????
僧侶「そんな、魔王を倒したら魔王になったなんて……」
戦士「その突拍子もない話を信じろっていうのか?」
勇者改め魔王「この姿を見て信じられないのなら、無理に信じてくれとは言わない」
戦士「なら、その話は一旦置いといてだな……俺たちはどうしてこの部屋で寝ていたんだ?」
魔王「みんなは……、門番や黒騎士、側近に敗れたんだ」
戦士「…………」
魔王「受け入れがたいのはわかるけど、これh」
戦士「ははっ、ま、そりゃそうだろうな」
僧侶「……私も、元から勝算なんてありませんでしたしね」フゥ
戦士「俺だって、人間時代に格上だった奴が更に闇の力なんかつけやがって」ハハハ
魔王「みんな……」
175: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:01:38.21 ID:OMn78s100
僧侶「でも勇者さん……今は魔王さんでしたっけ? それなら私たちはなんで生きているんですか?」
戦士「負傷具合が尋常じゃねえけどな」
魔王「側近に頼んで、蘇生をしてもらったんだ」
魔王「ただ、僧侶や教会のように完全な蘇生をする力はなかったので、損傷のひどい部分は、どうしても諦めざるを得なかった」
戦士「……今のところ、話に大きな矛盾はねえな。だから、俺は右腕を失い……」
僧侶「私は髪がなくなって……」
僧侶「ところで、さっきから魔法使いさんがずっと黙っていますけど……」
戦士「あいつはいつも無口だったじゃねえか」
魔王「いや、彼女は思いを秘めていただけだ」
魔法使い「…………!」バンバンバン
176: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:02:55.44 ID:OMn78s100
僧侶「どうしたんですか魔法使いさん? 床なんか叩いて」
魔法使い「…………!!」スラスラスラ
戦士「今度は床に指を走らせて何だ? 魔法陣でも描こうってのか?」
魔王「書くものが欲しい……のか?」
魔法使い「!!!」コクコク
魔王「はい、羽ペンと羊皮紙」
魔法使い「…………」スラスラスラ
戦士「えっと、なんだって? <私はどうやら声を失ったようね> ……って、本当かよ、おい!」
魔法使い<魔法使いが詠唱できないのなら、もう両親や妹に会うことも叶わないわね>
戦士「ああ、俺も友人を闇から救えなかったようだしな」
僧侶「側近さんに治癒していただいたということは、王国は裏切りにあう可能性が残っているわけですし……」
177: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:04:09.37 ID:OMn78s100
魔王「それは心配ない」
魔王「戦士の友人は、魔王討伐隊参加の打診を受けたところからの記憶を消したうえで、闇から解放しておいた」
戦士「そうか……」
魔王「魔法使いの両親はさすがに蘇生できなかったけど、妹さんはリザードの集落から魔王城に移動済みだ」
魔法使い<でも、妹はリザードに酷い目に遭わされたはずよ>
魔王「それも確認済みだけど、幽閉中は丁重に扱われていたようだ」
僧侶「側近さんは……」
魔王「彼女の魔王への忠誠は本物だ。教会からのコンタクトは、全て先代の魔王に相談していたんだ」
僧侶「……まあ、それでしたらいいです。私は心置きなく教会を壊します。壊して、神に祈る場所を新たに作ります」
178: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:05:28.97 ID:OMn78s100
魔法使い<なら、みんなで王国に戻れるのね?>
戦士「いや、けどよ、魔王を倒したら自分が魔王になっちまったなんて話、見てねえ限り信じろという方がだな……」
僧侶「私は勇……魔王さんを信じたいです」
戦士「だが、これが本来の魔王の罠だとしたら……」
僧侶「ですから、勇……魔王さん、これから私のする質問に答えてください」
魔王「ああ」
僧侶「魔王さんは、これから王国に帰ったら、そ、その…///」
僧侶「ど……どう暮らしたいですか?」
戦士「なんだそのモジモジした聞き方は?」
179: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:06:44.45 ID:OMn78s100
魔王「……僧侶、ごめん」
戦士「ほら見ろ、なんだかよく分からねえが、こいつはお前の質問に答えられないじゃねえか」
魔王「俺は王国には戻れない」
僧侶「そ、それは……どういう意味ですか?」
魔王「もちろん、僧侶との約束は覚えているよ。僧侶の故郷で暮らしたいという話だよな」
戦士「お前、それって……」
僧侶「だったら、どうして……!」
魔王「俺はいま、魔王なんだ。この姿で王国に戻っても相手にされないのは、さっき話した通りだ」
僧侶「そんな……」
僧侶「だったら、何で……」
180: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:08:40.80 ID:OMn78s100
戦士「僧侶……?」
僧侶「だったら何で、私を蘇生なんてしたんですか!」
僧侶「私は側近さんと戦うとき、勇者さんと二度と会えないことを覚悟しました!」
僧侶「生き返ってもまた勇者さんと会えなくなるなら、生き返りたくなんてありませんでした!!」
戦士「おいおい勇……魔王、随分見くびられたもんじゃねえか」
魔王「どういうことだ?」
戦士「俺たちは30年前の勇者の悲劇なんて繰り返すつもりはねえ。俺たちがお前の無実を証明してやるに決まってんだろうが」
僧侶「でも、戦士さんは勇……魔王さんを信じていないんじゃ……?」
戦士「馬鹿野郎! 目の前で幸せを諦めようとしている奴を見過ごせるようなら、俺は初めから魔王討伐隊になんか加わってねえんだよ!」
魔王「……それを聞いて安心した」
戦士「ふざけるな! 俺も、僧侶も、安心なんて全然できねえよ」
181: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:09:58.40 ID:OMn78s100
魔法使い<もしかして、この魔界のことを気にかけているのかしら?>
魔王「もちろん、それもある」
魔法使い<それなら魔界は私に任せてくれない? 私は魔族に恩も負い目もあるわ。適任でしょ?>
魔王「魔王は俺なんだ」
戦士「そうは言うけどな」
魔王「みんながここで目覚めるまでの間、ずっと考えていたんだ」
魔王「俺の考えを聞いてくれないか?」
182: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:12:01.06 ID:OMn78s100
魔王「俺は魔王として、この魔界を取り仕切る責任がある」
魔王「もちろん、人間としてのプライドを捨てるつもりはない。人間に手を出す種族等には鉄槌を下す必要もある。そのためにも俺は魔界にいなければならない」
魔王「一方で、王国側も変わらなければ、王国と魔界の戦いは終わらない」
魔王「魔王憎しの感情が先行し、魔王を供給し続けている王家」
魔王「その王家の専横を快く思わない勢力の魔界への接触」
魔王「王国も魔界も、統率が取れない限り、戦いが終わることはないだろう」
戦士「だから、お前が王国と魔界を往復すれば済む話じゃねえか」
僧侶「わ、私は魔王さんと一緒に暮らせなくてもいいです! 少しでも一緒にいることができれば、それだけで……!」
魔法使い<人間とか魔族とかにこだわり続ける限り、結局いつかは諍いの元になるのよ?>
魔王「それはわかっている」
183: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:13:17.32 ID:OMn78s100
魔王「でも、今は人間と魔族が融合するには時期尚早すぎる」
魔王「仮に今、俺が王国に戻ったとして、国王や大臣たちは俺を信用しないだろう」
戦士「だから、それは俺たちがだな」
魔王「国王や大臣だけではない。王都の民衆も俺を恐れて、やがて国は恐怖に包まれるだろう」
僧侶「そんな誤解、私たちが時間をかけてでも解きます!」
魔王「そんなことに時間をかけていては駄目なんだ」
魔王「魔王に対する恐怖心を解く間に、王国の乱れは進むだろう」
魔王「魔界だってそうだ。力がすべての世界で一時でも魔王を欠くことは、無秩序状態を招くことを意味する」
戦士「くっ……! だったらどうしろっていうんだ」
魔王「みんなは王国に戻って、こう伝えてほしいんだ」
魔王「『勇者と魔王は戦い、相討ち死した』とな」
184: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:14:59.43 ID:OMn78s100
僧侶「そんな……!」
魔王「王国内で魔王が死んだということになれば、少なくとも対魔戦に関する消耗や負担はなくなる」
魔王「もちろん、その隙を突いて魔界にアクセスしようとする輩が出てくるだろうが、そこは俺が魔王として目を光らせる」
戦士「勇者のいない王国で、どうやって王国を変えろっていうんだよ」
魔王「みんな魔王討伐隊じゃないか」
魔王「さっきみんな、熱い想いを話してくれただろ? その想いがあれば、王国は必ず変わるはずだ」
魔法使い<私たちに、王国を託すというの?>
魔王「ああ」
僧侶「魔王さんの言いたいことはわかりました」
僧侶「でも、私は嫌です! 魔王さんともう会えないなんて、そんなの……」
185: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:16:29.88 ID:OMn78s100
魔王「僧侶……」
魔王「一生会えないわけじゃないさ」
僧侶「でも……」
魔王「さっき言ったろ。『今は人間と魔族が融合するには時期尚早すぎる』って」
魔王「お互い、一日も早く人間と魔族が融合する環境を整えるんだ」
僧侶「魔王さん……」グスッ
魔王「俺は負けないよ」ニコ
僧侶「わ、私だって負けません! こっちが早く環境を整えて……」グスッグスッ
僧侶「『魔王さん遅いじゃないですか!』って叩いてやるんですから!』
戦士「こりゃ、僧侶のためにも俺が足を引っ張るわけにはいかねえな」
186: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:19:25.69 ID:OMn78s100
魔法使い「……」コク
戦士「けっ、詠唱できねえ魔法使いがなに頷いてんだよ」
魔法使い<あなたがさっきヒントをくれたのよ。“魔法陣”ってね>
魔法使い<ちょっと戦士、実験台になってくれない? 初めてで攻撃力の制御ができないから>サラサラサラ…
戦士「おいバカなに始めてるんだ。その変な記号を消…くぁwせdrftgyふじこlp」
魔王「この城を壊さないでくれよ。魔界への宣戦布告になっちゃうからな」
僧侶「そんなことになったら、もう一生魔王さんに会えません……」
ハハハハハ・・・
???????
????
?
187: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:21:19.81 ID:OMn78s100
ザッ
勇者改め魔王(これが水道橋か……)
魔王(わずか5年の間に、王国はこんなものを辺境にまで作るようになったというのか)
魔王(こんな辺境で作った野菜を王都に出荷? それが今の王国なのか?)
魔王(王国は魔界より変化が少ないだろうと思っていたが……)
魔王(谷底の川の流れは昔と変わらないか)
魔王(いや、あの頃の川はこんなにキラキラしていなかったな)
エイ! ヤー! エイ! ヤー!
188: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:22:27.60 ID:OMn78s100
魔王(ん? 少年……か? 威勢がいいな)
魔王「少年よ、腰をもっと低く。剣は腕ではなく全身で扱うのだ」
少年「お兄さん誰?」
魔王「旅の者だ。この王国には立派な街道や橋があると聞いてね」
少年「へえ、どこから来たの?」
魔王「隣の国だ」
少年「隣というと……鉱山の国?」
魔王「いや、そっちじゃない」
少年「でも、それ以外に隣の国なんて……?」
魔王「あるんだ。いずれ少年にも明かされる日が来るだろう」
189: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:23:46.52 ID:OMn78s100
少年「へぇ、どんな国なの?」
魔王「この王国に技能者と呼ばれる者たちがいるだろう?」
少年「うん」
魔王「そういう者たちが沢山いる国だ」
少年「え、じゃあエルフとかも沢山いるの?」
魔王「エルフか、もちろんいるぞ」
少年「そっかぁ、じゃあ、あの子もそういう所に行きたいのかな……」
魔王「あの子?」
少年「ううん、何でもない」
190: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:24:55.27 ID:OMn78s100
魔王「そうか。しかし、この村で剣術の鍛錬なんて珍しいな」
少年「うん……」
少年「僕、勇者になりたいんだ」
魔王「ほう」
少年「隣に住んでいるエルフちゃん、村の悪い奴らに虐められてるんだ」
魔王「……」
少年「僕がそんな奴らからエルフちゃんを守ってあげたいんだけど、あいつら、束になって虐めるから……」
魔王「それで鍛錬か?」
少年「うん。だから勇者になって、あいつらを成敗してやりたいんだ!」
魔王「そうかそうか」
191: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:27:31.05 ID:OMn78s100
少年「でも……」
魔王「なんだ、弱音か?」
少年「違うよ!」
少年「もう魔王はいないんだし、勇者なんて必要とされないから……」
魔王「そんなことないさ」
少年「だって」
魔王「俺はここに来るまでに、王国で沢山の勇者を見てきたぞ」
少年「えっ!?」
魔王「王国の軍制を改革し王国を守ろうとする勇者、魔法を使って人間と魔族の協力により王国を開発する勇者、教会の不正を正して民のために投資する勇者……」
少年「三傑じゃないか」
192: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:31:24.94 ID:OMn78s100
魔王「それ以上の勇者もいるぞ」
少年「誰?」
魔王「三傑を支える勇者たちだ。人を支えるには、勇気と度量と知恵が必要だ」
魔王「そして、村の野菜を王国一にしようと頑張る村の勇者たち」
魔王「彼らがいなければ王国は動かない」
少年「なんか違う……」
魔王「違うことないさ」
少年「もっとこう、悪をバサバサ斬り捨てるような……」
魔王「非常時の勇者より、平時の勇者の方が難しいんだぞ」
少年「???」
193: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:32:47.05 ID:OMn78s100
魔王「非常時の勇者なんて、神から勝手に祝福されて決まるんだからな」
魔王「でも、平時の勇者はそうじゃない。誰にも任命されず、自ら立候補し、自らすべきことを考えなきゃいけないんだ」
少年「うーーん……」
魔王「それにな、非常時の勇者は、一番大切な者を守るために二番目に大切な者を見捨てなければならないこともある」
魔王「大切なことを守るため、大切な者に会えないこともある」
魔王「そんな奴は、もう二度と現れる必要はないんだ」
魔王「大切な者を純粋に守り通せるのは、平時の勇者だけだ」
少年「……」
魔王「だから少年よ、平時の勇者を目指すんだ。そしてエルフさんをずっと守るんだ」
少年「……うん! よくわかんないけど頑張ってみるよ!」
エイ! ヤー! エイ! ヤー!
194: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:52:49.85 ID:OMn78s100
魔王(頑張れ少年……いや、小さき勇者)
魔王(この5年間で魔界は大方軌道に乗った)
魔王(各種族ごとに生計を立て、種族間の抗争も絶えない原始的な社会だったが、粘り強く抗争の仲介を行うことで魔界内の抗争はほぼ消滅した)
魔王(また、種族間の交流を進めることで、各種族の特性を生かした近代的な社会が構築されつつある)
魔王(しかしこれは、魔王が力を背景に絶対的な権力を持つ魔界だから達成できたことだ)
魔王(王宮、教会、諸侯らの利害が入り乱れる王国の安定が容易でないことなど、最初から容易に想像できた)
魔王(しかし、王都の惨状はその想像を上回っていた)
魔王(どうしたものかと思ったが……)
魔王(王都で、港町で、この故郷で、新たな勇者たちの活躍もまた、想像を上回っていた)
195: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:54:04.93 ID:OMn78s100
魔王(戦士、魔法使い、そして僧侶?)
魔王(俺は相討ち死したことにしてくれと頼んだのに、俺が帰ってきやすいように勇者の存在を隠蔽しちゃうとか……)
魔王(戦士、魔法使い、僧侶、やっぱりみんなすごい奴だ)
魔王(でもそれ以上にすごい奴らが沢山いた)
魔王(この王国は勇者の量産でも始めたのか?)
魔王(王国で勇者の裾野がこんなに広がっているなんて、想像だにしなかった)
魔王(王都に着いたとき、雨が降っていたから気付かなかったけど、王国はずっと太陽が出ているじゃないか)
魔王(俺は呪いを解いていないのにな)
196: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:55:36.83 ID:OMn78s100
魔王(……王国は、大丈夫だ)
魔王(勿論、まだまだ紆余曲折はあるだろう)
魔王(でも、王国は、大丈夫だ)
魔王(俺は必ず、魔王として王国に戻れる時が来る)
魔王(だから僧侶、もう少しだけ待っていてほしい)
魔王(この次、王国に来るときは、魔王として、数多の新しい勇者たちの末席に名を連なる者として、堂々と王都の門をくぐろう)
魔王(そして、僧侶と二人で……)
魔王「この空とともに旅をしよう」
=完=
197: ◆FqOZ7jTRCo 2017/03/20(月) 23:58:48.92 ID:OMn78s100
……という構成の長編をいつか書きたいな、というお話でした。
以上であります。
200: 以下、
おお、爽やかな終わり
乙乙
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486911559/
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