志希「それじゃあ、アタシがギフテッドじゃなくなった話でもしよっか」back

志希「それじゃあ、アタシがギフテッドじゃなくなった話でもしよっか」


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この話を聞いた人がもしもアタシの知り合いだとすれば、その人にとっての”一ノ瀬志希”の見方がほんのちょっぴり変わるかもって思う。
うーん、たとえば、その名前から思い浮かぶことってね。
アタシが知ってる限りでは、「帰国子女の18歳で、ルックスも良くて、ダンスも歌も抜群なアイドル」なんだって。
ふつーのJKとして振る舞ってたはずが、アイドルとしてまばゆいデビューしてから、それはもうズイブンと注目されてさ。
カメラのフラッシュをたくさん浴びて、テレビにもたくさん出演して。も?、世間の人たちがその名前を聞いただけで、あっ、あの子だ! ってわかるくらい有名になるには、あんまり時間はかからなかったなあ。
それもこれも、アタシが“ギフテッド”なんていう、大それた肩書きを持っていたからなんだろうけど。
神さまから愛されたアタシは、まわりの誰もが羨む才能をもらって。
時には化学者として海外を渡り歩いたし、ステキな論文だって書いた。
あまりある才能を存分に発揮して、これまでの人生を何不自由なく過ごしてきたの。
だけど、そんなアタシがさ。
――この恵まれた才能を失ってしまったら、どうなると思う?
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4: 以下、
新しい自分に「ハロー」と挨拶したのは、着慣れた白衣で過ごすティータイムの時間だった。
午前中の実験を終えたアタシが、プロデューサーにもらった台本を読んでいたとき。
お気に入りのカップから漂うカモミールの香りに酔いしれながら、いつもどおり紙面に目を走らせていく中、アタシは微かな違和感を覚えた。
そのほんの些細な違和感は、徐々に色濃くなり、思わず眉間に皺を寄せた。
「えーっと、あれー? おっかしいなあ……」
まるでそれは濁りのように思えた。綺麗な湖の中に汚泥が溜まっていくかのように。
頭はすっきりしてるのに、なぜだか台本の内容が入ってこない。もういちど、アタシはあれー? と声を漏らした。
おかしい。なにかがおかしい。
ボソボソと呟いて、こめかみに人差し指を当てる。
ポコポコとフラスコの中で煮沸された液体の音がいやに耳に届いた。
何度読んでもアタシは台本の内容が暗記できないでいた。
……ちがうな、暗記は出来る。
だけど、何度も読み返して、声に出して覚えないと忘れてしまいそうになるってだけ。
パタリと本を閉じて、呆然と宙を眺めた。
ふと、自分自身の人生を振り返ってみて。紐を手繰り寄せるかのように、少しずつ記憶をたどっていく。
けれど、この短い18年の時間で、そんなことを経験した記憶は一切なかった。そう、まったくと言っていいほどにね。
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結論から言えば、アタシは“才能”というものを失ったということになる。……らしい。
ケミストの立場から発言させてもらうと、そんな抽象的な、極めて概念的なお話はまったくもってあり得ない、と指摘したくもなるけど。
んー、だけどね。これが現実となって、この身に火の粉のように降りかかったのだから、もはやシキちゃんも両手を挙げて認めざるを得ないってわけ。現実は小説よりも奇なり?ってよく言うよね。
理由も分からない。原因不明の才能消失事件。どうやらアタシの性格と似て、才能ちゃんにも失踪癖があったりして。なーんて。
そうそう、才能のはなしだっけ。
さっきも言ったけど、アタシって、それはもう才能に満ち溢れててね。
シンデレラになりたがる女の子がたくさんいるなかで、ふらふら?と業界にやってきたアタシが新人として頭角を現すことが出来たのだって、これがあったからなんだって今更ながら思ってて。
だからそれを失ったことで、
台本やダンスを覚えるのに今までの数倍時間がかかったことも、
それのせいで今までこなしていた仕事がだんだんと手に負えなくなっていったことも、
プロデューサーが毎日お得意先に頭を下げる姿を見かけることになったことも、
仕方ないことだったのかなって納得できたんだ。
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才能って一口に言っても、物事の暗記だけがすべてじゃなくってさ。
えーっと、軽く一例をあげるとするなら。
たとえば、匂い。これまでは誰かが何を考えてるのかってことくらいなら、はすはすしてなんとなーく理解できたけど。あの日から、アタシは匂いを感じなくなってしまった。普通の匂いは分かる。だけど、それはアタシの求める匂いじゃなかったってこと。
たとえば、物事の考え方。周りからは突飛なことをしなくなったねって言われる機会も増えたけど、それは単純にアタシが“それ”のやり方を忘れてしまっただけだった。これまでどうやって生きてきたんだろう、なんて自分に問いかけて。むむっ、そう考えてみれば、アタシってまともな過ごし方をしてこなかったなと一人反省した。
たとえば、化学の実験。まあ、これについては大体わかると思うけど、こんな状態になったアタシが適当に混ぜた薬品がフラスコ内で勢いよく火を上げたことで事務所が炎上しかけたんだよね。それにより、アタシのラボは没収。どんな薬品が潜んでいるかもわからないので厳重に封鎖されることになった。
にゃはは、なんだかのっけから暗いはなしになっちゃった。
だけど、ここからいよいよシキちゃんの転落ストーリーは口火をきったのだった。はい、はじまりはじまりー。
7: 以下、
ゆっくり更新していきます。
9: 以下、
この劇薬を飴細工で包んだような文章には覚えがある
期待
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志希と聞けばホイホイですよ私
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さてさて、何から話そっか?。
んー、それじゃあ、とっておきの一つを語ろうかなあ。
あれはたしか、まだ新しいアタシに生まれ変わったばかりのとき。そのころって、まだアタシの人気も衰えてなくてね。イベントに顔を出す機会の減ったアタシを心待ちにしてるファンだっていたし、会社としての期待値も今よりずっと高いままだった。
そんなことだから、ちょっと落ち目になった人気を取り戻そうってプロデューサーがなんとか取り付けてくれたのが、とある音楽番組の生放送だったわけ。
そこでは“秘密のトワレ”っていう、これまた難しい曲をうたうことになってて。初披露になるそのソロ曲で、アタシはステージに立たないとダメだった。
で、その時点でアタシはすっかり“落ちこぼれ”になっていたんだけど。そのことは、もちろん誰にも知られちゃいけないと思っていたし、アタシも周りに言うつもりはなかった。打ち明けても誰にも信じてもらえない、そう思い込んでたんだよね。
だから、なかなか振り付けが覚えられないことに、トレーナーさんから首を傾げられたりもして。その度に「ちょっと今のは遊びだったかな?」とかなんとか軽口を叩くようになった。
内心はそりゃあもうアタシも必死でさ。移動中は録音した音源を何度も何度も聴いたし、家に帰ったら振り付けを練習したの。
これまでのアタシなら、ちゃちゃっとフリを覚えて、あとはラボで呑気に実験でもしてたんだろうけど。そんなことをする暇なんて、アタシには与えられなかった。
とにかくアタシには絶望的に時間が足りなかった。ただそれだけだった。
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そんなこんなで地を這いつくばりながら迎えたステージ。
絶対に成功させるんだっていうプレッシャーを肩に背負って。
アタシは、そこで、どうしようもないくらいの大失敗をしたの。
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簡単に言えば、アタシは歌うことをやめちゃったんだよね。それだけならまだよかったのかもしれないけど、ついにはステージ上で座り込んじゃったの。
信じられないとは思うけど、BGMが鳴り続ける中でアタシは極度の緊張であたまが真っ白になって。足もガクガクって震えてたし、喉もカラカラに乾いててさ、とても歌を披露できるような状態じゃなかった。
あんなにやったダンスの振り付けも、歌も、なにも思い出せなくなって。ただただ誰かに見られることに吐きそうになって。
だけどその場所は生放送のソロステージ、それはもう放送事故もいいところで。
顔を抑えて蹲るアタシの元にすぐさまスタッフが駆けつけてくれて。タオルを被せられて舞台裏に連れていかれる中、目の前に広がるきれいな景色は、まるでアタシに襲い掛かる怪物にさえ見えた。
俯いたアタシがようやく明るみから暗がりまでやってきたときには、プロデューサーが胸倉をつかまれていてさ。番組のディレクターに怒号を飛ばされていたの。
客席からの鳴りやまない声と、せわしなく動くスタッフと、何度も頭を下げるプロデューサーと、それを呆然と見守るアタシ。
その光景に、もう目の前がくらくらって白く瞬いて。
そこで、ようやく気づいたんだよ。
ああ、アタシは取り返しのつかないことをしてしまったんだって。
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そこからはそりゃあもうあっという間でさ。ネットには動画がアップされるし、掲示板にはアタシへの批判コメントが書かれるしで、これまで大切に作り上げられてきたシキちゃんのイメージはどこへやらってカンジだった。
会社の上層部は、この件を体調不良が?とか精神的な問題が?とか適当な理由をつけて記者に回答してたかな。事実なんてものはこの際、重要なことじゃなかったんだよ。だってアイドル事務所だって慈善事業じゃないんだし。悪い噂を払拭することが先決。そんなの、当たり前だったんだよね。
だけど実を言うとさ、アタシは、このとき会社の言っている話がホントのことだってどこか期待してたの。
だってそうでしょ? 
ある日とつぜん天才が凡人にまで落ちてしまったとしたら、その人はどうなるんだろう、なんて誰も考えたくもないよね。アタシだってそれはおなじ。そんなの信じたくもなかったわけ。
だから、ちょっと体調が悪いだけ。ちょっと気持ちが落ち着いていないだけ。
何度も頭でそれを繰り返して、アタシは平静を保とうとした。
そうでもしないと、アタシはこのどうしようもない不安に押しつぶされそうだった。つまり、そういうことだったの。
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ファンが離れ始めたのは、そんな事件が起きてしばらく経ってからだった。
ここで弁解させてほしいのは、アタシは一片たりとも仕事を怠けていなかったということ。アタシはアタシなりに苦しみながら頑張っていたし、頭にこびりついた凡人って言葉を振りほどこうともしていた。
あの事件以来アタシは小規模のライブをこなしていたんだけどね。言い換えれば、昔からついてきてくれていたファンに向けたステージで歌をうたっていたの。それに文句を吐き出すつもりもなかったし、どこか調子の悪いアタシを気遣ってくれた事務所の素晴らしい配慮だったとも思う。
もういちど繰り返すけど、アタシはそれまで十分に努力をしていた。それだけは認めてほしいの。
それじゃあどうしてステージをこなす度に来てくれる人の数が少しずつ減っていったのかというと、これはもうアタシの中で一つの結論が出てる。
んー、つまりね。天才アイドルから、天才を引いて出来上がったただの女の子には、どうにもみんなキョーミなかったってことなの。
ファンのみんなは、人とは違う天才的なアタシをステージで見たかった。ギフテッドのアタシに焦がれていた。アタシの一挙一動を見逃すまいと目をこらした。だからアタシがただふつーに頑張るステージなんてなんの魅力も感じなかったのかなって、そう思うの。だってさ、そんなのアタシじゃなくっても出来るんだから。ほかのみんなだってアタシと同じように頑張ってるんだから。
簡単な話だけど、だからこそアタシにどうすることも出来なくて。皮肉なことに、そのときようやくアタシは自分の手のひらから“才能”がこぼれ落ちたことを理解したんだよね。
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にゃはは。ここまで話してみて、アタシが崖の淵で足を踏み外して、そのまま勢いよく下まで転がり落ちたということはなんとなく分かってくれたよね。
でもさ、アタシが本当に言いたいことっていうのは、一ノ瀬志希のファンが減ったことでも、アイドルとしての価値がいくぶん下がったことでも、来てほしくもない明日を考えてぐっすりと眠れなくなったことでもないんだよね。
ここでアタシがしたいのは単なる不幸自慢なんかじゃなくて、もっともっと大切なことなの。
さてさて、話の続きをしよっか。
このころのアタシってね、何をやってもうまくいかないんだって心の中で決めつけてたんだよね。だから、努力なんて無駄だとか、才能がないとアタシは何にも出来ないんだとか、生まれ変わる前のアタシを知っている人がそれを聞いたらビックリしちゃうような、くら?い性格になってたの。
ほらアタシってギフテッドだったからさ。努力の方法も、挫折からの立ち直り方も知らなかったわけ。
まわりの皆が経験してきたことが一切分からないんだから、そりゃもー、お手上げ状態で。海外で培ったはずのフランクさはどこへやら?って思えるくらい、アタシには自分を取り巻くすべてが敵に見えてた。アタシの現状を心配してくれる子もいたけど、それを受け止める心の隙間ってものもやっぱりなかったんだよね。
神さまから愛されてきたアタシの人生は、なにもかもが悪い方向へ傾いていた。まるで今までの与えられた幸福を丸ごと奪い取られたかのように。
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でもね、たったひとつだけ、アタシにとってすごーく大きな変化があったの。
ちょっとだけ時間は巻き戻ることになるけど、アタシの担当プロデューサーについての話をしよっか。
アタシがギフテッドとして、その類まれなる才能を見出されて、アイドル業界に足を踏み入れた時についてくれたのが今の担当プロデューサーだった。
彼とはそりゃまあながーい付き合いをしてきたんだけど、それでもアタシと彼との間には大きな溝があったんだよね。溝って言っても、単にアタシが一方的に穴を掘っていただけなのかもしれないけどさ。
アタシと彼はあくまでビジネスパートナーで。アタシは彼がどんな人なのか知らなかったし、普段何をしているのかなんて科学誌一冊分の興味すら湧かなかった。それでも仕事では二人とも笑顔を振りまいていたし、人から見ればアタシたちはそれこそ十年来の仲も同然だった。
つまり何が言いたいかというと、表面上ではアタシたちは深く理解しあったような素振りを見せてただけってこと。
そんなことを一度たりともアタシたちは口に出そうと思わなかったけど、たぶんお互いになんとなくそれに気づいてて。だからアタシはプロデューサーのことがあんまり得意ではなかったし、それこそ彼もアタシと同じことを考えていたんじゃないかな?とも思う。
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だけどね、生まれ変わってからのアタシたちっていうのは、今までの関係とは大きくかけ離れていたの。
――最初のきっかけは、きっとモーニングコールだろうね。
さっきも少し話したとは思うけど、このときのアタシは夜ってものがホントに苦手で、一人きりで眠ることすらままならなかったの。なによりもイヤだったのは“あの事件”の光景がまざまざと瞼の裏に映ることだった。
布団のなかで、アタシは膝を抱えて、胎児みたいに丸まって。そしたらあのときの景色が思い浮かんでさ。大勢の前で歌えなくなったアタシが、ステージの上で「ごめんなさい」って何度も何度も子供みたいに謝るの。そしたら浴びせられる罵声のひとつひとつが鮮明に聞こえてきて。「お前にはアイドルの資格なんてない」「俺達を失望させないでくれ」「それで努力したつもりなのか?」なんて次々と棘が飛んでくる、そんな悪夢がアタシを苦しめて、いつしかアタシはうまく眠ることが出来なくなっていた。
そんなことだから、アタシは移動中の車内でうとうとと頭を揺らすようになって。ついには朝イチバンの仕事に遅れてくることも増えた。
ここで注意しておきたいのは、アタシがもともと真面目な優等生じゃなかったということ。何度も言うようで悪いけど、アタシがギフテッドじゃなくなったことは他の誰も知らなかった。
「一ノ瀬志希はてきとーに仕事をやっている」なんて噂が流れていることも知ってはいたけど、それはそれとして。
とにかくアタシ自身の“変化”は、まわりの人たちにはすこぶる分かりづらかったわけ。
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プロデューサーから「朝にモーニングコールする」という申し出があったのは、三度目の遅刻を迎えた日のことだった。
それは渋々だったかもしれないし、はたまた単に愛想つかされたからかもしれないけど、何も言わないでアタシはうなずいた。きっと、「イヤだ」と言っても彼は電話をかけてくるってなんとなく分かっていたから。
彼がアタシの変化に気付いていたかどうかは、今になっても分からないけど。それでも、アタシ達の関係が変わり始めたのは、まさしくその一言からだったと思う。
次の日の早朝のこと。枕元に置いておいたスマホが鳴り響いて、寒さに体を震わせながらも、もぞもぞと布団から顔を出してアタシはそれを耳に当てた。
「おはよう。今日の寝起きはどうだ?」なんてコーヒーを淹れる音が電話越しに届いて、茶化す元気もないアタシはあくびを一つかいて「あんまり」とだけ答えた。
仕事がある日の朝は、いつも二人でそんな会話をしていた。そんな取り留めもない会話を。
だけど、これまでのアタシたちは、プライベートで電話をかけるなんてことはしなかったし、それが二人にとっての当たり前だった。だからこそ、そんな当たり前が崩れたことにアタシは少なからずビックリしてたんだよね。
ときどき「おはよう」だけじゃなくて「朝食は何を食べるんだ?」なんてことも話してさ。 アタシがコーンフレークって答えたら、仕事前にフレッシュなサンドイッチを渡してきたっけ。
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でも困ったことに、ホントは彼の気遣いみたいな、そういうのぜーんぶがイヤだったんだよね。
あまりにも周囲の変化がすぎて、きっとものすごく疲れてたんだろうね。アタシには誰かからのやさしさが、ささくれみたいに思えて仕方なかった。
彼に声をかけてもらうたび、心配してもらうたび、じくじくと胸が痛んだ。
いつだってフラッシュバックするのは、胸倉をつかまれた彼と、怒号を飛ばすディレクターの姿。
あの日、「ごめんなさい」と頭を下げるアタシに、彼は「そんな日もあるさ」と笑った。
彼が何を思ってそう言ったのかなんて、アタシには分からない。だけど、日を追うごとに罪悪感が募っていったのだけは確かだった。
「アタシね、才能がなくなっちゃったみたい。だからさ、アタシのこと憐れむなんて、そんなのやめてよー」そんなふうに話せれば、こころのなかの濁りも取れたのかもしれない。彼のことを嫌いにならなかったかもしれない。表面上の付き合いすらも放棄しなかったかもしれない。
人生のなにもかもが悪くなっていく中で、たったひとつだけ、サイアクに到達しちゃったわけ。
アタシ達の関係は大きく変わった――そう、それも、一番わるい方にね。
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えーっと、とりあえず、ここまでのことをまとめると。
一ノ瀬志希はある日を境にふつうの女の子になって、そしたらシンデレラガールになりそこなって、たくさんのファンから見放されて、まわりからの信頼を失って、プロデューサーとの関係にもヒビが入った、ということになるのかなあ。
うわー、字面だけ見ると、もうめちゃくちゃだねー。
たったひとつの要因だけでここまでガラッと変わってしまうんだなーって、おもわず笑いそうになったけど、でもさ、きっかけなんて案外そんなものなんだよね。
むしろ、これまでの人生がうまくいきすぎてたんだと思うようにもなった。自由気ままに過ごしても、だれもアタシを怒らない。あたたかく見守ってくれる。でもさ、それっていうのは、まわりがアタシのことを認めてくれていたから成り立っていたに過ぎなかったんだね。
時間が経つにつれて、どんどんとアタシはアタシでなくなっていく。今まで出来ていたことができなくなっていく。思い描いたイメージと乖離していく。その感覚は、もはや恐怖でしかなかった。
自分がどうおもわれているのか、レッスンでトレーナーから「一ノ瀬」と名前を呼ばれるたびに、両手で顔を覆いたくなった。
だって、誰かの前で失敗することがこんなにも恥ずかしいことだなんて、アタシには知る由もなかったのだから。
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休日は家で毛布にくるまって、ぼーっと過ごすことが増えた。なにをするでもなく、仕事のときの自分を振り返って、「なんで、あのときこういう風に出来なかったんだろう」と頭のなかで繰り返した。
ひとりの時間っていうのは、窮屈ではあったけど、物事をゆっくりと考えられるイイ機会でもあったんだよね。
部屋のなかで決まって考えたのは「どうしてアタシは、ギフテッドじゃなくなったのか」っていうことだった。
今、この状況は、夢でもなんでもない、たしかな現実で。原因不明の才能消失事件は、いまだに解き明かされてはいなかった。
神さまの気まぐれで与えられたものを、どうして今になって奪い取られてしまったのか。アタシの身に、いったいなにが起きたのか。才能は、どこに消えていったのか。
その答えを導くためには、どうにも頭が足りなかった。ほら、アタシがギフテッドだったら良かったのにねー。なーんて。
とにもかくにも、アタシは、生まれ変わる前のじぶんに執着していた。それも、憎しみだとか、怒りだとか、そんな負の感情を引っさげてさ。
藁にも縋る思いだったんだろうね。だって、そのときのアタシって、なにかの拍子にぷつんと切れてしまいそうなくらいギリギリの精神状態だったんだから。
それでもアイドルという仕事を続けていたのは、きっと「もういちど、あの輝かしい日々を取り戻す」っていう気持ちを捨て切れなかったからで。
そしてそれこそが、世界のすべてに絶望していたアタシの、「生きたい」と願う、せめてもの原動力でもあったの。
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そうだねー。今思うと、「アイドルを辞めてしまう」って選択肢が図らずとも潰えたのは、ぐうぜんにしては良かったのかなあ。
だって、そうじゃないと、アタシに取り付いた「死にたい」って言葉が主張をはじめてしまうはずだったから。もう既にイヤになっていたアイドルが、滑稽なことに、この命を守ってくれていたんだね。嫌なことを、嫌なことで上塗りして、アタシは心をなんとか保っていたの。
あくまで、アタシには生きる目的があった。さっきも言ったとおり、“元の一ノ瀬志希に戻るんだ”っていう、とっても重要な目的がね。
さーて、“答え探し”のため、アタシが手始めにしたのは、なんだと思う? ほらほら、考えてみてー。
……まあ、大かたの人なら察しはつくだろうけど、アタシは結局、何も出来なかったんだよねー。だって、大した手がかりなんてものも一つもなくって、何から手を付ければいいのやらってカンジでさ。しょーじきな話、八方塞がりで、どうしようもなかったんだから。
病院に行けば治してもらえるのかなって思ったりもしたけど、そもそも「才能を失ったんです」なんて話を信じてもらえる術を、アタシは思い付きもしなかった。それこそ、会社と同じように体調が悪いだけってことにされるはずだと思い込んでいたんだよね。
38: 以下、
* * *
思い返してみれば、この才能消失事件にはおかしな点がたくさんあった。
そもそも、「才能を失った」なんて抽象的な話が、ほんとーにあるのかどうかも怪しいところでさ。
元々出来ていたことが、ある日を境に、出来なくなったのは、どうして?
変わってしまった理由や、変わってしまったときの出来事を、うまく思い出せないのは、どうして?
物事には、きちんと理由が付きまとう。
勝手に変わったりもしないし、勝手にいなくなったりもしない。
――そう。まるで、フラスコの中で起きる、化学反応のようにね。
* * *
39: 以下、
魔女宅でキキが飛べなくなった展開を思い出すな これから理由が書かれそうで楽しみ
40: 以下、
答え探しをしている間、アタシにとって、大きな問題が立ちはだかった。
うん、まあ。それっていうのが、ずばり、プロデューサーとの関係だったんだよねー。
アタシがアイドルを続けるという選択をしたってことは、それはつまり、彼と毎日でも顔をあわせなくちゃいけないってことを意味していたわけで。それはアタシにとって、どんなものにも代えられない苦痛だった。
彼からのモーニングコールが鳴り響いても、じぶんで起きれた日は電話に出ない日もあった。だけど、決まって彼は会って真っ先に「今日はちゃんと寝れたか?」と言ってくれた。
彼はいつだってアタシを怒らなくて。そんな彼の気遣いがやっぱりアタシは嫌だった。
41: 以下、
ある日、仕事が終わり帰り支度を済ませたアタシは、さっさと事務所を去ろうとしていた。夕暮に染まった窓の外を眺めるアタシはとても疲れていたし、「早く家に帰りたいなー」なんてことも思っていた。
だけど、扉に手をかけたアタシに向かって「あのさ」と彼が何かを言いかけたものだから、そのまま振り返って「んー、どうしたのー?」と甘ったるい声を漏らすことになったんだよね。
彼は何か言いたそうにしたけれど、すぐに「いや、すまない。大丈夫だ……」と手を横に振った。
……生まれ変わってから、彼について分かったことがある。
ときどき、この男はこういう素振りを見せる。こういうとても分かりにくい素振りを、だ。
そして、そういうときは決まって、彼は何かどうしてもアタシに言いたいことがあるのだ。
それなのに、アタシを気遣ってそれを言わないようにしている。
ギフテッドの頃ならば「そうなんだー、それじゃアタシ帰るねー」なんて適当に流していたかもしれない。
だけど、今はちがう。何もかもが違っている。
だからこそ、その素振りは、いつだってアタシの虫の居所を悪くさせたのだろう。
「なになにー、このシキちゃんに何か言いたいことでもあるのー?」
あくまで平静を装って、アタシはアタシであることを務めた。この気持ちを気づかれないように、悟られないように。大丈夫、なんて心の中で自分に言い聞かせて。
彼はそんなアタシを一度だけ眺めると、聞こえないように溜息を吐いた。
それでね。扉の前に立っていたアタシに向けて、しばらく黙りこくった彼が、
「大きな仕事が入るかもしれないんだ――とある映画の、主演女優の話だ」
なんてことを突然言うもんだからさ。
だから、ドアノブを握ったアタシの手のひらから力が抜けてしまったのも、別におかしくはないのかもしれないね。
42: 以下、
「え……?」と思わず声を漏らしたアタシに、プロデューサーはこう続けた。 
「海外の監督で、わりと有名な人だ。どうにも監督曰く、世界中から選りすぐりの人材を集めた映画を撮りたいらしくてな。国籍を問わず、その手の業界の人間の紹介を通じてオーディションをしているみたいなんだ」
彼の丁寧な説明に、アタシはほんの少しだけ、胸を躍らせた。
なにせ、その監督の名前は彼の言うように、たしかに有名な人だったのだから。
そんな人の撮る映画の、主演女優? 今、こんなにも落ち目のアタシに、そんな良い話が舞い降りてくるなんて、とその瞬間は考えていた。
「それで、その映画出演のオファーが海を飛び越えてこのプロダクション宛てに飛んできたわけだ。他の誰でもない、一ノ瀬志希に向けてな」
だけど、火のないところに煙は立たないのと同じでさ。やっぱり、良い話には、大抵ウラがついてまわるんだよね。
「俺もさ、思わず聞いたんだよ。どうして、数ある役者を差し置いて、うちのアイドルをオーディションに指名したのかって」
「理由は、すごく、単純な話だったんだ」
彼のこれから言うことがアタシには分かった。だって、それは、世界で一番アタシが渇望していたもので、そして、すでに失ったものだったのだから。
……やめて。それ以上は、言わないで。アタシの中の何かが、そう訴えていた。
けれど、無情にも彼が口にした言葉は、アタシの予想した通りのものだった。
「それは――お前が、ギフテッドだからだったんだよ」
46: 以下、
ぐらぐらと歪んでいく視界の端に、彼の顔が微かに見えた。
「ギフ、テッド……」
息苦しくなった体が、酸素を求めていた。思考が追い付いていない。気を抜けば、このまま足元から崩れ落ちそうだ。
それから、ほんの数秒の間が生まれた。なにも言わず顔を俯かせたアタシに「でもな」と前置きをして、彼は椅子に背中を預けた。
「俺はこの話、断ろうと思っているんだ」
アタシは目を見開いて、湯気の立たないコーヒーを一口だけすする彼を見た。そんな彼に「どうして」とは言えなかった。
その代わりに、彼はそんなアタシの目をまっすぐに見つめ返して、「……ここずっと、調子が悪いんじゃないのか」と続けた。
そっか。そうだったんだ。
彼は、きっと、アタシのことを分かったつもりだったんだ。
また余計な気をまわして、アタシのことを理解した気でいたんだ。
だから、彼は何かを諦めたような表情でそんなことを言ったんだ。
アタシが、いちばん言ってほしくないことを。彼は平気で言ったんだ。
49: 以下、
「……やめてよ」
「え?」と眉を寄せる彼は不思議そうにアタシを見ていた。
いっそ、なにか、言ってやろうかと思った。ココで、この場所で、この男になにかを叫んでやろうかと思った。
だけど、どうしてだろうね。アタシは、はち切れそうになった心を無理やり押さえつけてさ。「ううん、なんでもない」なんて首を横に振って、それから、とびっきりの笑顔を見せてやったんだ。
「アタシね。受けるよ、その仕事」
そう言って、事務所の扉を開いた。去り際に、彼はなにかを言おうとしたけど、アタシはそのまま扉を閉じた。
幸いにも、外にはアタシ以外誰もいなかった。
いまは、ひとりで居たかった。彼の声も聞きたくなかった。
胸の鼓動が、やけに大きく伝わってきた。とても息苦しかった。まるで深い海の底に沈んでしまったかのようだった。
50: 以下、
扉の外で、アタシは両手で顔を抑えて蹲った。
すべてを吐き出してしまいたいと思った。この抱え込んだ何もかもを、ぜんぶ、誰かに叫んでしまいたいと思った。
ムキになって、出来もしないことを引き受けた。あんな大きな仕事、いまのアタシに出来るはずもない。
きっと、アタシは、また失敗するんだろう。みんなの前で恥をかいて、家に帰って、ひとりで泣くんだろう。
……嫌いだった。彼の心配そうな声が、とても嫌いだった。だから、あんなことを言ったんだ。
アタシはあのとき、彼のもとへ駆け寄って「やめてよ! アタシに同情なんてしないでよ!」なんて叫べばよかったのかな。 そしたら、彼はまたアタシを慰めてくれたのかな。後で「なにかあったのか?」って聞いてくれたのかな。
涙が勝手に溢れ出してきて、服の袖でそれを拭った。生まれ変わってから、何度流したことだろう。悔しくなって、苦しくなって、それがどれくらい涙に変わっただろう。
嫌いだった。彼のことが、だいきらいだった。
だけど、いちばん嫌いなのは――そんなアタシ自身だった。
ちゃんと、じぶんの気持ちを伝えることが出来ない、アタシ自身だった。
51: 以下、
――その日から、めまぐるしいくらいに時間は過ぎていった。
オーディションに向けた準備を着々と進めるために、これまで以上にレッスン量が増えた。
泣き言も言わず、アタシはがむしゃらにそれらすべてをこなしていった。
家に帰ったらトレーナーから言われたことをすべて書き出し、くりかえし反復練習をした。
足に血豆が出来るのは珍しくもなかった。ゆっくりと、少しずつでもいい。アタシは前に進もうとしたんだ。
プロデューサーとの会話はあれから確実に少なくなった。
理由はとっても単純で、アタシ自身が彼を避けていたからだった。
車での移動中も、アタシは一言もしゃべらずに窓の外を眺めていたし、打ち合わせでも最低限の言葉以外は声を出さなかった。
あの日、扉越しに泣いた日から、アタシは彼との間に壁をつくった。
きっと、自己防衛のつもりだったんだろうね。アタシはこれ以上彼からの気遣いを受けないようにしたんだ。
もう傷ついてしまわないように、じぶんを守ろうとしたんだ。
52: 以下、
あんなプロデューサーでも、それだけされたら、やっぱり分かってしまうんだねー。
彼は彼で、極力アタシを気に掛けるのをやめたんだ。だからもう、誰がどう見てもアタシ達の関係は冷え切っていた。でも、そんなのは、ずっと前からなのかもしれないけどさ。
だけどね、彼は朝のモーニングコールだけはかかさなかったんだよね。あれだけ嫌いな彼の声も、電話越しだったら不思議と素直に「おはよう」って言うことが出来た。もしかすると、彼からの「おはよう」は、アタシにとってあんまり嫌じゃなかったのかもね。
えーっと、そっか。オーディションについてのはなしだったね。
オーディションでは、歌とダンス、それから演技の三つが評価の対象となっていたんだけどね。どれが審査員からいちばん見られるかについては、やっぱり演技の項目にちがいないだろうとアタシは勘ぐっていたの。
演技に関する審査については、すでに台本をプロデューサーから手渡されていた。
その映画には“苦悩”に立ち向かう少女が登場する。
アタシは、この少女を演じることになっていた。
53: 以下、
『少女には才能があった。だから、物心がついたころには、勉強だって、スポーツだって、じぶんが興味を示したことは何だってできた。
ただ、まわりからその心を理解されないことに、もがき苦しんでいた。少女には分からなかった。みんなよりも先へ先へと前に進むたびに、みんなから取り残されていく不安感が、どうして積もっていくのかが、分からなかった。
日を重ねるごとに「死んでしまいたい」という感情が増していった。生きることをやめてしまえば、この苦悩から解放されるんじゃないかと考えるようになった。
しかし、ある日、知り合いだった男からひとつのアドバイスを受ける。
「そんなに今の自分が嫌だと言うのなら、いっそ、普通の人間を装えばいいじゃないか」
少女は、男の言葉を聞いた次の日から“普通の人間”を演じるようになった。わざと努力するフリをした。わざと仕事で失敗をした。今までの生き方をすべて捨てて、少女は生涯を終えようと考えた。
もちろん、自分以外の誰かから怒られることも増えた。そのたびに「そんなことは言われなくても分かっています」なんてことは口に出さず、きちんと「すいませんでした」と頭を下げた。
普通の人間になって、三年の月日が経ったころ。少女はボーイフレンドと無事に結婚し、ひとつの家庭を築いた。男は平凡ながらも、心優しい青年だった。 まわりの誰もが、少女のことを「幸せそうだ」と言った。
しかし、それから一年が過ぎて。少女は突如として姿を消した。机の上に「ごめんなさい」という書置きだけを残し、何も言わずどこかへと去っていったのだ。
少女がどこへ行ったのか、どうして消えてしまったのか、取り残された男には知ることさえできなかった』
54: 以下、
はじめに台本に目を通したとき、そのストーリーが、まるでアタシのために作られたのかと勘違いして、すごくビックリしたっけ。だって、そう思ってしまうくらい、その女の子がいまのアタシに似ていたんだから。
でもね、女の子とアタシとでは決定的にちがうところがあったんだよね。
えっとね。つまり、その物語に出てくる女の子は“才能を残したまま”普通の人間になって。だけど、アタシは“才能を失って”普通の人間になったの。
たったそれだけのことだけど、アタシにとってはぜんぜん違うように思えたわけ。
そう。この子には、まだ二つの人生が与えられている。
元の自分に戻る道と、今の自分に納得する道が、残っている。
でも、アタシはちがった。あのころのじぶんを、追い求めるしかなかった。あの輝かしい過去に、縋るしかなかった。
そうするしか、なかったんだから。
55: 以下、
そう言えば、渡されたストーリーのなかで、ひとつだけ疑問点があったんだけどさ。
どうして、女の子はいちばん最後に“男の子のもとを去る”という選択肢を選んでしまったんだろうね。
考えてもみてよ。幸せに暮らしていたはずの女の子が、どんな理由があれば、なにも言わない消えてしまうのかってことを。
これはアタシの推理でしかないけど。もしかすると、この子は普通の人として生きるのが嫌になっちゃったのかもしれないね。才能を捨てて、ふつうに生きていくことに嫌気がさして、幸せな生活に飽きてしまって。だから、持ってるものをぜんぶ放り投げちゃったのかなって。
女の子が書置きに残していった「ごめんなさい」という言葉には、過去のじぶんを諦めきれなかった謝罪の意がふくまれているのかな。
だとしたら、アタシはこの子のことを少しだけ理解できた。
だって、ふつーに生きていくためには、この世界はちょっとだけ、辛いことが多すぎたからさ。
65: 以下、
さてさて、ずいぶんと長話をしちゃったね。もう聞くのも疲れちゃった? 
人の落ちこぼれていく話なんてさ、そんなの聞いててたのしいものじゃないもんねー。
才能を失って、こんなにも人生がめちゃくちゃになったアタシだったけど。このころには既に“才能消失事件”の答え探しをするヒマも与えられていなかったの。
もちろん、脳裏の片隅にはいつだって、そのことが張り付いてはいたけど。やっぱり手がかりもなしに探すのは無理があった。
アタシはもう半分諦めていたし、悲鳴をあげだした体を引きずって、いろんなことにも溜息を吐いてしまっていた。
ある種、限界を感じていたのかもしれないね。
ここが、じぶんが努力でどうにかすることのできるラインなんだと、そう結論付けていたんだろーね。
でも、不思議だよね。神さまっていうのは、ときとして、そういう人に対して“救済”をしようとするんだから。
なにかを諦めようとした、その一瞬のスキをついてさ。
66: 以下、
きっかけは、家で着ていた白衣の裾に、淹れ立てのカモミールティーをこぼしたときのことだった。
寝不足のまま飲もうとしたのが誤りだったんだろうね。テーブルの上に置いたお気に入りのカップを持ち上げようとした矢先、それはするりと手元から滑りおちて、ぱしゃりとたちまちのうちに白い布に染みを作った。
それはオフの日の朝に起きた、ほんの些細な出来事でしかなかった。
けれど、白衣、そして、カモミールティー。この二つに妙な違和感を抱いたアタシは、腕を組んで顔を顰めた。
なにかが頭で引っかかっていた。とても、とても大事なことが。とうの昔に忘れてしまっていた、大事なことが。
両手を握りしめて、意識の全てを頭に集める。
……そうだ。
アタシがはじめて才能消失に気付いた場所、それはどこだっただろう。
白衣を着て、カモミールティーを飲んでいたのは、どこだっただろう。
違和感が、アタシのすべてを壊してしまったのは、どこだっただろう。
「――ラボ?」
ぼそり、と独り言がこぼれ落ちた。
67: 以下、
がたり、と椅子から勢いよく立ち上がったアタシはそのまま急いでクローゼットから服を引っ張り出し、それから、厚手の帽子を深くかぶった。
――どうして、もっとはやく気づかなかったんだろう。
朱色のマフラーを首に巻いて、玄関口のノブに手をかける。土曜日の朝にしては慌ただしく、がちゃがちゃと鍵をかけて、ズボンのポケットに無造作にしまい込むと、いてもたってもいられずアタシは走りだした。
――アタシは、今まで、アタシ自身を知らなさすぎたのかもしれない。
あの日、アタシはラボで才能が消えてしまったことに気が付いた。
そしてそのまま、今日までの日を無為に過ごしてしまった。こんなにも近くに答えがあったのに。
もしかすると、あまりにも近すぎて、意識の外にあったのかもしれない。
キョーミのあることなら、どんなことにでも手を出してしまう性格で、ギフテッドだったころのアタシがやりそうなことを。
どうして、それを考えることが出来なかったんだろう。
――アタシが“一ノ瀬志希”を実験台に使ったんだってことを。
68: 以下、
そうきたか?
69: 以下、
新作きてた……
物語もいよいよ佳境かな、最後まで期待
70: 以下、
つまり、才能消失事件の真相とやらは、こういうことだったの。
アタシっていう人間は、その惚れ惚れする探究心から「一ノ瀬志希から才能を一切取り除いてしまう」ってことを考えてしまったんだよ。
ギフテッドが普通の人間になったら、なんてそんなことを考えて、ついには実現しちゃったんだよ。
もうさ、おかしくて笑っちゃうよね。
だってあんなに苦しくってしかたないような、アタシの世界を丸ごと変えてしまった出来事を作った張本人が、自分自身だったなんてさ。
それじゃあ、アタシは神さまでも誰でもなくって、アタシ自身を憎めばよかったのかな。
そんなこと、できるわけもないのにね。
71: 以下、
息を切らしてラボの前までやって来たアタシは、胸に手を置いていちどだけ深呼吸をした。
無理もないけど、扉にはDANGERと書かれた黄色いテープが張り巡らされていたね。
才能消失事件のすぐ後にアタシ自身が起こしたボヤ騒ぎのせいで封鎖されちゃったわけだけれども、合いカギをあらかじめ作っていたアタシにとって、その部屋に忍び込むことは造作もなかった。
がちゃり、という金属音が静かに廊下にひびくと、そろそろと息を潜ませて部屋の中へ足を踏み入れた。
室内には、薬品の入り混じったにおいが立ち込めていた。
おもわず顔を顰めると、そのままぐるりと視線を泳がせた。
目に止まったのは、雑多に積まれた論文の山だった。
アタシはなにかに取りつかれたかのように、そこに駆け寄って、それらすべてをバサバサと床に投げ出した。
お目当てのものは、思いのほか、あっという間に見つかった。
資料の中に隠されていたのは、ピルケースと、一冊の実験ノートだった。
72: 以下、
実をいうとね、アタシはラボに向かう途中ひとつの仮説を立てていたの。
一ノ瀬志希のことをいちばん知っているアタシが言うんだから、きっと間違いないんだろうけどさ。
アタシが何らかの形で“才能”を奪い去ったとして、それをそのままにしておくなんてことは、どう考えてもありえないってことなんだよね。
アタシなら絶対「逃げ道を用意するに違いない」って思っていたの。
要は、元のギフテッドに戻るための何らかの方法を残しておくはずだって考えたわけ。
そんなの直感でしかなかったけど、どうしてか間違いだとは感じなかったっけ。
だから、ピルケースと実験ノートを手にした瞬間に、ピンと来たね。これこそがアタシの探し求めていたものだったんだってさ。
それはもう、じぶんの推理が合っていたことにびっくりもしたけど、それ以上にドキドキが鳴りやまないことにアタシはこのとき気が付いていたの。
だってさ。やっとこれで“元のアタシ”にもどれるんだって、心底カンドーしてたんだから。
82: 以下、
だけどね。家にそれらを持ち帰ってみたアタシは、どういうわけだか、そのときにはもう不安で胸が一杯だったの。
真っ白なベッドの上であぐらをかいて、布団の上に置いたピルケースとノートを見下ろしたまま、アタシはひとつのことを考えていたわけ。
それは、言うなれば、当たり前のことだとは思うけど。それでも考えずにはいられなかった。
「――どうして、アタシはこんなことをしたんだろう」
アタシの疑問はそれにつきた。ただの興味だというならば、それで終わりかもしれないけど。だけどそれだけじゃない、きっと何かの理由があるはずだってアタシはそう思ったね。
それなのにさ、アタシの記憶ってものは誰かに上書きされてしまったかのように、その理由を思い出せないようになっていたんだよ。
もしかすると、その理由が分からないと、もう一度おなじことを繰り返してしまうかもしれないのにさ。
アタシはたぶん怯えていたの。どんどん自分が分からなくなっていくみたいな、そんなただならぬ恐怖を感じていたの。
83: 以下、
それから、アタシは実験ノートを手に取った。
すべての真実が、このノートに書いてあるんだっていうことは、おおよそ予想はついたんだけどさ。その日は、どうにもそれを見る気にはなれなかった。
いろんなことが頭に流れ込んできてさ、きっと、頭がいっぱいになっていたんだろうね。
アタシはベッドに体を預けて、そして窓の外を眺めたんだ。
そこには、一匹の蝶々がいたの。冬の日にそんなものがいるわけなんてないんだから、あれは、そう、幻か何かだろうと思ったね。
青と黒が鮮やかなその子の羽には、穴が開いていた。
何度も何度も、蝶は空を目指す。だけど、そのたびに吸い込まれるように地面に落ちていく。
綺麗な蝶だった。とても、綺麗だと思った。
あの蝶のようになれたなら、そう考えながらアタシは目を閉じた。
84: 以下、
――次の日。目を覚ましたら、真っ白な雪が街を覆いつくしていた。
89: 以下、
アタシは部屋のなかだっていうのに、息すらも凍り付くように白く染まっていた。
窓の外を眺めたら、昨日の蝶はもういなくなっていて、ああやっぱりあれは幻覚だったんだって、すこしだけがっかりしたっけ。
それで、気が付いたらスマートフォンの画面が明るく輝いていて、アタシは、はっと目を見開いたね。
『今日の仕事には間に合いそうか』
プロデューサーからのメッセージと共に、アタシは急いで支度を始めた。
その日は遠方の仕事に向かう予定になっていたんだけど、アタシと言えば、不幸なことに家を出るはずの時間に起きてしまったんだよ。
すぐにバタバタと慌ただしくカバンに荷物を詰め込みはじめたアタシは、ふと、実験ノートとピルケースに意識を向けた。
理由もなく、その二つを手に掴んだアタシは、ぼんやりと宙を見つめた。それで数秒ほど考えて、アタシはそれらをカバンのなかに一緒に入れたんだ。
それから、クローゼットから取り出したお気に入りの服に身を包むと、冷蔵庫から取り出したサンドイッチを頬張って、アタシは靴を履いた。
玄関口で踵を合わせている間、ぐるぐると一つのことが頭を巡っていたね。それで家の鍵をかけて走り出したときにはもう、それは色濃く浮かび上がっていたんだ。
――アタシが遅刻するのは、これで何回目だっただろう。
なんて、そんな言葉がさ。
90: 以下、
……。
96: 以下、
現場からの帰り道、アタシとプロデューサーは山道を車で走っていた。
辺りはすっかり暗くなっていて、外はまだ雪が降っていた。あまりにひどい雪でさ、車道には、他の車はひとつも見当たらなかったね。
そうそう。言い忘れていたけど、残念なことに、その日の仕事は“ナシ”になったんだよ。
息を切らしてやって来たアタシに「雪の影響でなくなったんだ」と彼は言ったけれど、アタシは事の真相を理解していた。そうだね、言うなれば、やっぱり彼は嘘をつくのが下手だったってことかな。
そんなことがあったからか、車内では会話がうまれることもなく、ラジオから流れてくる声が、街に押し寄せた寒波について話をしていた。どうにも電波がわるいみたいで、声はときおり掠れたようにくぐもっていたね。
どうしてこうなってしまうんだろうって、そのときはずっとそればっかり考えていたと思う。自分のせいだって、分かっていたのにさ。
97: 以下、
それで、しばらく経ったころだったとおもう。プスンという嫌な音と共に車が止まったのは。
すぐに車から降りて気まずそうに顔を顰めた彼は「故障したみたいだ」とアタシに告げた。あいにく、電話も通じないようで、ロードサービスに助けを求めることもできなかった。
「どうするの?」とアタシが尋ねると「朝になったら、考えよう」と彼は答えた。
運が良いと言えるのかはわからないけど、近くにはバス停もあったし、日が昇れば誰か別の人がここを通ってくれるだろうと、つまり、そういうことらしい。
ただ、こんな寒空の下で、朝まで二人で過ごさなければならないことに変わりはなかったけれど。
98: 以下、
暖房が消えてしまった車のなかは、凍えてしまうほどに寒かった。アタシは白い息を吐いて、それから、朱色のマフラーに顔を埋めた。
「悪かった、こんなことになって」
ハンドルを手放して、体を椅子に預けたプロデューサーが、ふいにそんなことを言ったものだから、アタシはおもわず彼の方を見た。
「いいよ、そんなの」とアタシが言うと、「そうか」と彼はそれっきり黙ってしまった。
おそろしいくらいに、時間がゆっくりと流れている気がした。アタシは、寒さであたまがどうかしてしまうんじゃないかと思うほどに、身を震わせていた。
人って生き物は不思議なもので、そういう状況に陥ると、その場にいる誰かに無性に話しかけたくなるらしい。現に、アタシは無意識のうちに「あのさ」と口を開いていたのだから。
「……この前渡された台本のストーリー、どう思う?」
どうしてこんなことを、いま、こんな場所で聞いてしまったのか。そんな理由を考える熱さえも、すでにアタシからは奪われていた。とにかく、どんな些細なことだって、なんだっていいから、誰かと話していたかった。擦り切れてしまった心が、そう訴えかけていた。
「そうだな」と彼は呟いた。「どうして、女の子は置手紙を残して去っていったんだろうな」
99: 以下、
どうして、と問われて、アタシはなにかを諦めるように声を出した。
「きっと、戻りたかったんだよ。才能のあったころのじぶんに」口を尖らせて、そうこたえた。
じぶんが出した答えに疑問を持つことはなかった。女の子はふつうの人になりきれなかった。だから男のもとを去っていった。アタシはそう思っていた。
「それは、どうだろうな」だけど、アタシの言葉に、彼は首を傾げた。
「俺は、もっと違うことを考えていたよ」
「……ちがうこと?」アタシがそう聞くと彼は話をつづけた。
「たぶん、分かり合えないと思ったからじゃないかな」寒そうに手に息を当てながら、彼は言った。
わけもわからずアタシは「どういう意味?」と尋ねた。
「普通の人になって、それで、本当に好きな人ができて、女の子は幸せだったと思うよ。
だけどさ。それだけじゃあ埋まらない隙間があったんだとすれば、どうだろう」
突き刺さるような彼の瞳がアタシに向けられた。
「どこまで行ったって、ふたりは、普通の人と才能のある人なんだからさ」
100: 以下、
「でも」と言いかけて、アタシは口を噤んだ。
もしも、ほんとうにそれが理由だったとすれば、女の子は最後にはどんな気持ちになってしまったのだろう。どんな思いで彼に「ごめんなさい」と告げたのだろう。
アタシには分からなかった。分かりたくもなかった。
「考えていることの全てを分かり合える、そんな人たちがいると俺は思わないけど、だけど、女の子はきっとショックだっただろうな」
彼は眠そうに瞼を擦りながら、口を動かしていた。
「女の子ははじめから普通の人に憧れていた。だから、普通の生活が嫌だと感じて逃げたんじゃない。
女の子は、知ってしまったんだよ。どうあっても、男と自分が理解し合えないことをさ。
普通の人間になるフリをして、以前の自分を捨てて、それでも男のことは分からなかったんじゃないかな。
……たぶんだけどさ。俺はそう思うんだ」
アタシは何も言わずに黙っていた。まるで、それがじぶんに宛てた言葉のように思えて仕方がなかった。
101: 以下、
彼が運転席で眠りに落ちてしまってからも、アタシは助手席で自分の体を抱きしめながら、ずっと窓の外を眺めていた。
ちらちらと降る雪に見とれたアタシは、消えかかった意識の中で、どうしようもないことを考えていた。
アタシを、アタシたらしめるものはなんだろう。才能? はたまたこの顔? プロポーション、声、エトセトラ。
アタシはこの世に生まれ落ちたとき、神さまからたくさんのものを貰った。それはアタシをみんなよりも先へ先へと押しやってくれた。だからアタシも面白がって、前に前に進んでいったんだ。
でも、それでもね。アタシは神さまからいちばん大切なものは貰えなかったんだと思う。それはたぶん代償だったんだよ。アタシがこの世界で生きていくために与えられた枷だったんだよ。
104: 以下、
きっと、頭の奥底では理解していたんだと思う。それも、ずーっと前からさ。
ほら。ちょうど物質同士が触れ合って、新たな物質を生み出そうとするときにね。それらが結びつこうともせずに、そのまま離れていってしまうケースだってあるでしょ。そーいうのは、つまりは“不安定”だから、そうなってしまうんだよね。
アタシ達も、たぶん、それに該当したんだろうね。せっかく出会う運命をもらったのに、それなのに、不安定にならないように手を放さざるを得なかったんだ。
――要するに。あの物語の女の子と男の子がそうであったように、アタシ達だって同じだったんだと思うの。
だって、アタシはギフテッドとして、生まれてきてしまったから。なのに彼は、そんなアタシとは違って、ずっと普通の人だったから。
べつに彼と分かり合いたいなんて思わないし、すこしも近づきたいなんて思わないけど。
それなのに。そのはずなのに。それに気づいたアタシの胸は、苦しくて苦しくて仕方なかったんだ。
105: 以下、
「……もう、やめよう。ぜんぶ」黒いなにかが口から零れて、地面に吸い込まれていった。
アタシはカバンをひっくり返した。中からは、化粧品や手鏡、香水、いろんなものが落ちてきた。それで、アタシはそのうちの一つを手に取った。持ち上げられたそれは、からんからんと乾いた音を鳴らしていた。
ピルケースの蓋は固く閉じられていた。アタシは人差し指をかけて、それを乱雑にあけると、中身を手のひらの上に出した。
白い錠剤がごろごろと飛び出してきて、アタシはそれをじっと眺めていた。
ギフテッドだったころ、たぶん、アタシって人間はこんなにも悩みを抱えてはいなかったと思う。
だったら、もしも、これでほんとーに元のアタシに戻ることが出来たのなら――もうアタシは生きることに悩む必要はなくなるんだろう。
それで、あのころみたいに、呑気にラボで実験をして、プロデューサーとも何の諍いもなく会話して、みんなから天才アイドルってもてはやされるんだろう。
106: 以下、
アタシは、なにもかもを終わらせようとしていたの。
苦しいことも、辛いことも、ぜんぶを投げ捨てて、ギフテッドのじぶんに戻ろうとしたの。
だって、それが一番いいって思ったから。そうすれば、きっと、オーディションにだって、合格できるって思ったから。
――そんなアタシの目に、一冊の実験ノートが飛び込んできたのは、ちょうどそのときだったんだ。
107: 以下、
べつにノートを読む必要なんて一切なかったのに、気が付くと、アタシはそれに手を伸ばしていた。
どういうわけだかアタシは、最後にそれを読んでしまおうと、つまり、そういうことを考えていたの。
ずいぶんと薄茶けた表紙には“一ノ瀬志希について”とだけ書かれていたね。
パラパラとページを捲ると、アタシには到底読むことができない言語が連なっていて、おもわず眉を顰めた。
それでも、見渡せばちらほらと走り書きがあって、かろうじて読むことの出来るそれは、アタシ自身の呟きのようにもおもえた。
108: 以下、
『匂いという知覚を分解することはむずかしい。色や味覚と異なり、良いと悪いでしか評価できない。そして、それらの名前はあまりにも少ない。これを細分化するためには、何が必要だろう』
『記憶に何らかの障害を持ったとき、人は一部の機能を失う可能性がある。意図的に脳にダメージを負わせたとすれば、記憶障害を誘発させることはできるか。またそれを元に戻すにはどうすればいいだろう』
『脳とはどんな仕組みで動いているか。才能と脳は密接な関係にあるのは間違いない。しかし、どんな作用を与えれば“才能を消失させられるだろう”』
そのメモの下には複雑な化学式が無数に連なっていた。それを見て「やっぱり」とアタシはおもった。
ステージでの失敗に始まって、ファンがアタシの元から去っていって、たくさんの恥ずかしい思いをしてきた。……それで、プロデューサーとの関係もずいぶんと悪くなってしまった。才能を奪われてからのアタシは、ろくなことがなかったんだ。
一ノ瀬志希は自分自身から“才能”を奪うために、この研究を行っていた。その結果生まれたのが、アタシだったんだ。
「……でも、どうして?」アタシはページを捲る手を止めなかった。
さて。頭のいい人にはもうわかっちゃったかもしれないけどさ。
最後のページにはね、アタシでさえもビックリしてしまうようなことが書かれていたんだよ。
109: 以下、
『――幸せって、いったいなんだろう?』
110: 以下、
『もしも、アタシがふつーになれたなら。
休日は映画を観て、一緒にショッピングをしてさ。帰ってきたらエプロンを腰に巻いて、彼のために料理を作るの。
それで、すこし失敗した料理を笑って食べてくれた彼が、思い出したようにあのシーン、すごくよかったねって言うのをうんうん分かるよなんて頷いてさ。
部屋の明かりを消して、アロマキャンドルを一本立てて。何も言わずに彼の顔を眺めて、ぎゅっと手を繋いで二人して笑いあうんだ。
もしかしたらさ、そういうのが、幸せっていうのかな』
『苦しいって、どんな気持ちなんだろう。辛いって、どんな気持ちなんだろう。
アタシにはそんなこと、これっぽっちも分からないけど、でも、もしもアタシがふつーになれたらさ。そしたら、そんな気持ちも分かるようになるのかな。
彼の痛みも、手を握って、いっしょに分かち合えるようになるのかな』
『もしも、アタシがふつーになれたなら。頑張るってことも、できるようになるのかな。
みんなと同じように、汗をかいて、涙を流して。神さまからもらったものじゃなくって、自分の手で何かを掴めるようになれるのかな。
それで、ステージから戻ったら、彼によくがんばったねって褒めてもらえるのかな。
努力の意味を、知ることができるのかな』
『もしも、アタシがふつーになれたなら。
……そしたらキミに、好きだよっていえますか』
111: 以下、
それを見た時、よーやくアタシは、これまでずっと探し続けてきた“答え”を知ることができたんだ。
つまりね。アタシが今までこんなにも辛い思いをしてきたのは、ぜーんぶプロデューサーのためだったんだよ。
プロデューサーのために、これまで積み上げてきたものも、神さまからもらった才能も捨てて、それで、彼のことを深く知ろうとしたんだ。
それっていうのも、どうしようもなく彼が好きで、だけど、それが伝えられなくってさ。だから、ふつーになって、彼と同じ場所に立とうとしたんだ。
そうすれば、きっと、アタシは彼とほんとうの意味で理解し合えるって、そう信じてたんだから。
清浄なる世界で、ふたりで笑いあえるって。
112: 以下、
「……あはは、そう、だったんだ」アタシはそう呟くと、助手席の背もたれに体を預けた。
薬の副作用で、いちばん大事な記憶が頭から抜け落ちてしまったことは、もちろん不幸なことだったと思う。そのせいでアタシは、ずいぶんと遠回りをしてしまったのだから。
――そう。結局ね、彼のためにやったことは、ぜんぶ裏目になってしまったんだよ。
アタシは彼のことを知ろうとした。それなのに、才能を失ったアタシは彼を嫌いになって、それで、彼を傷つけてしまったんだ。誰よりも好きだった彼のことをさ。
このノートを書いたとき、アタシはどれくらい希望に満ちていただろう。どれくらいの期待で胸を膨らませていたんだろう。
そんなことも、もう、分かりっこないけれど。でも、その気持ちはちゃんとアタシに伝わって来た。
今までバカなことをしてきたと思う。アタシって奴はさ、ほんとーに、どうしようもないくらいに、救えない人間だったんだよ。
113: 以下、
「……どうしたんだ」誰かの声が耳に届いた。それは運転席からの声だった。
「泣いてるのか?」目を覚ました彼はアタシの方を見ていた。
アタシは首を横に振った。彼の言う通り涙がこぼれそうになっていたけれど、必死になってそれをぐっとこらえた。
彼に何を言えばいいのかなんて、分かりもしなかったの。けど、溢れそうな雫が凍り付いてしまう前に、アタシは何かを言わないといけなかったんだ。
目の前にいたのは、かつて、アタシが大好きだった人で。それで、今は大嫌いな人だった。
笑えるのなら笑ってしまいたかったよ。でもさ、そんなこと出来るはずもなかったんだよ。
114: 以下、
「……プロデューサー」とアタシは言った。
たぶん、アタシ達はもう取り返しのつかなくなる、その一歩手前まで来てしまっていたんだと思う。寄り集まった紐みたいに、こじれて、ほどけなくなくなって。そんなひどい有様だったんだろうね。
どんな言葉で取り繕えばいいんだろうって、頭では考えていたの。
けどさ、アタシ達が仲直りするためには、たくさんの言葉なんてものは、必要なかったんだよ。
「今まで、ごめんね」気づけばアタシは、彼の前で初めて涙を流していたんだ。
泣いても泣いても、それは止まらなくて。彼は何かを察したかのように、そんなアタシの右手を握ってさ、「俺も、悪かった」って言ったんだ。
たったそれだけのことだったのにさ。その瞬間に、アタシたちは、お互いの言いたいことが十分に理解できたんだよ。不思議なことにね。
115: 以下、
――それでさ。気づいたらいつの間にか、アタシ達は車の中で、これまでの出来事を話していたの。
才能を失ったことを言ったとき、彼はずいぶんと目を丸くしてたと思う。もちろん理由は言わなかったけど、そもそも信じてくれないと思っていたものだから、彼の反応にアタシもまたびっくりしていたね。
朝ごはんにはサンドイッチを食べるようにしてる、なんていう些細なことでさえも彼は喜んでいた。他の誰かが聞いたら何が面白いのかもわからないことでも、アタシ達はふたりして凄い時間をかけて話しあったんだ。
車内は相変わらずさむかったし、体も凍えてしまいそうなくらい冷たくなっていたけどさ。アタシの右手だけは、そのときは、ずっと温かかったんだ。
フロントガラスからは、見惚れるような夜空が覗いていてね。話疲れたアタシ達は、辺り一面雪景色の中で、星の数を数えたりしたの。
何ていうかさ。これまでのアタシはそーいうことを楽しむ余裕もなかったんだと思う。ううん、これまでだけじゃない。ギフテッドだったときを遡ってみても、アタシはこんなにも星が綺麗だって思えなかったんじゃないかな。
どう言えばいいのかは分からないけど。こんなことを経験してみて理解したことがあるんだ。つまりね、人って生き物は、本当にきれいなものを見るために、時として絶望だとか不幸みたいなものに身を落とさなければいけないってことなんだとおもう。
たぶん、過去のアタシはずーっとそれを求めていたんだよ。そういう景色を、彼と一緒にみることをさ。
116: 以下、
いつしか眠りに落ちてしまったアタシが目を覚ましたときには、もう朝が訪れていたの。
運転席にいた彼はとっくの昔に目を覚ましていてね。そんな顔を見て、アタシはゆっくりと体を起こしたんだ。
「おはよう、志希」
いつもの彼の優しい声が耳に届いて、アタシはちょっぴりおかしくなって、笑った。
「ねえ、プロデューサー」
「どうした?」
大嫌いだったはずの彼にアタシがこうして話しかけようとしてる、それがたまらなく面白かった。だってさ。もう絶対に治らないって思っていた関係が、一夜のうちに元に戻っていたんだよ。それって、どれくらいすごいことなんだろうね。
「アタシ、がんばろうって思うんだ。オーディションも、これからのことも。ぜんぶ」
そうか、なんて運転席でハンドルを握る彼は嬉しそうに笑っていた。
そう。アタシはこのとき決めたんだよ。才能なんてものに頼らないで自分だけの力で、この世界を生き抜いてやろうってさ。
難しいことかもしれないけど、でも、不思議と諦めるって気持ちはなかったね。それよりもむしろ、こんなふうに思っていたんだ。
――やっと、新しい自分に向き合うことができたんだってね。
117: 以下、
さてさて。それじゃあ、ここからは“それから”のことを話そっか。
そうだね。まずはノートに貼られていた手紙について、先に話しちゃおうか。
実をいうと、ちょっとおかしいとは思ってたんだよね。だってさ、あのノートには、元に戻るための薬について、何一つ詳しいことが書いてなかったんだもん。
だから家に帰ってからその手紙の存在に気づいた時は、すぐに中身を確認したね。そしたらさ、そこにはこんなことが書かれていたんだよ。
『――親愛なる一ノ瀬志希ちゃんへ。
にゃはは、親愛なる、だって。自分自身に向けて手紙を書くっていうのはなんだかちょっと照れくさいねー。
ええっと、これを読んでいるってことは、もしかすると、今のキミはギフテッドに戻りたいと考えているのかな。
だとしたら、ラボに置いておいたお薬を飲んでください。それを飲めば、キミはたちまちのうちに今のアタシに元通り! ……になるはず。うまくいってれば。なんてね、うそうそ。アタシを信じてー。
でもね。その前に、アタシがここまでした意味を、よーく考えてみて欲しい。それで、どうしてもキミが戻りたいっていうのなら、アタシは止めないし、何も言わないよー。
さーて、アタシはこれから仕事があるから、伝えたいことはこれでおしまい。それじゃ、ばいばーい』
それはなんとも無責任な文面だったけど、書いた人間がすぐにアタシだって分かって、ちょっとおかしかったね。
でも“ここまでした意味”を十分わかっていたアタシは、もうなにも迷わずに薬をゴミ箱に捨てちゃったんだ。
もちろん、それを手元に残していても良かったんだけどさ。過去の自分に未練を残さないようにって、そういう風に思ったわけ。
それがあれば、どんな苦しい困難にだって立ち向かえるのにさ。笑っちゃうよね。
だけど、このときはすごく気持ちがよかったね。まるで背負っていた荷物を、どこかに置き去ったみたいな気分だったよ。
今だったら、あの時見た蝶のようにアタシも羽ばたけるのかもしれないって、そう思ったね。
118: 以下、
そんなことがあってから、いくらかの日が経って。アタシはオーディションにのぞんだんだ。
結果はおもしろいくらいに散々だったね。結構自分なりに頑張ったつもりだったんだけど、まあ、それも仕方ないことなのかもしれないね。
でもさ。そんなオーディションで、審査員の人たちは口々に不満を言ってきたんだけどね。そんな中で、監督だけはアタシに向かって「手を抜いているのかい」と言ったんだよ。
でさ、アタシが「そんなことはありません」ってこたえたら、監督は「なるほど」と笑っていたね。
「なにがおかしいの?」とアタシが尋ねると、彼は「ああ、それを答える前に」と言って、他の審査員たちをみんな外に追いやったんだ。
それで、その場に立ち尽くしていたアタシの目の前で、監督は一人で腕を組んでいたんだ。
「さて。さっき見せてもらったダンスと歌、それはどっちも、とても褒められたものではなかった」彼は厳しい目つきで審査シートを眺めていた。
「にゃはは、そうだねー。アタシもそう思う」
「……ただ、演技は、びっくりするくらい心がこもっていたよ。まるでそれを経験したことがあるんじゃないかって思ったね」
どきりと胸が飛び上がりそうになった。
「審査の結果は、残念ながら、不合格だ――だけどね、おそらく君はその結果を糧にこの先もやっていけるはずだ」
「うーん、そうだといいけど」アタシは頭をかいた。
「いや、断言しよう。君はここがスタート地点なんだ」
「スタート地点?」アタシは彼の言葉を繰り返した。
「そうさ。今日が、生まれ変わった君にとっての、始まりの日なんだよ」
彼は嬉しそうにそう言った。その発言に、おもわずアタシは目を丸くした。
119: 以下、
――オーディション会場を飛び出した後、アタシは急いで彼のことを探したんだ。なんだか早く彼に会いたいって、そんなことばかり考えていたとおもう。
そのときはさ、なんだかいつもよりも胸が高鳴っていたような気がしたね。駆けだした足も止まらないくらいにさ。
それで。息を切らせてしばらく辺りを走り回ったら、彼は固そうなベンチでうつらうつらと頭を揺らしていたの。
担当アイドルががんばってたって言うのに、キミはなにをやってるんだ?。なんて文句を言ってやろうとも思ったけど、ここのところつきっきりで寝る時間を惜しんで仕事をしてくれていたことは知っていたから、アタシは何も言わずに彼に近づいて、その隣に座ったんだ。
120: 以下、
「あのさ」とアタシは言った。
「オーディションに落ちちゃったんだ。あんなに頑張ったのにさ。流石のアタシでも、ほんのちょっとだけショックだったよ」
もちろん、彼からの返事はなかった。だけどアタシは話をつづけた。
「でもね。アタシ、ぜんぜん後悔してないの。自分でもびっくりするくらいに。まったく、後悔してないんだ。
監督に言われちゃったよ。今日が、生まれ変わった君にとっての、始まりの日なんだよって。
アタシもさ、そう思うんだ。今日が一ノ瀬志希の始まりなんだって。
だからね。ここからキミと一緒に時間を過ごして、少しずつ何かが変わっていくのがね、なんだかすごく楽しみになってるんだよ」
アタシはひとりで、空を見上げて笑った。
121: 以下、
「――あの日。アタシは、たくさんのものを失った。これまではずっとそれを取り返そうと必死に生きてきたんだ。
それなのに苦労してようやく答えを見つけたときには、“元の自分に戻る道”と“今の自分に納得する道”という選択肢が、アタシの手の上には残ってたんだ。
ギフテッドじゃなくなってからの世界は、辛いことも、苦しいこともあったし、今のアタシは、帰国子女の18歳で、ルックスも良くて、ダンスも歌も抜群なアイドルだったあの頃と比べたら、いくぶん落ちこぼれになっちゃったかもしれない。
……それでもさ。キミと見た星空は、そんな肩書きに負けないくらい、ほんとうのほんとうに素晴らしいものだったんだよ。
だから、神さまから与えられるだけの人生は、今日でおしまいにしよう。
この世界をあっと言わせる準備は、もう、整ってるんだ。それならアタシ達ふたりで、最後までやってやろうよ」
アタシは彼の手をそっと握った。今のアタシには、それだけで十分だった。
彼が目を覚ますまで、それまでは、このままでいようと思った。
しらないうちに流れていた涙を拭いて、アタシはもう一度空を眺めた。
そこには綺麗な青い蝶が飛び去っていく姿があった。
蝶は大きく羽ばたいて、いつしか空の彼方へと吸い込まれていった。
どこまでも自由に、どこまでも健気に。
おわり
122: 以下、

素晴らしいSSだった、掛け値なしに
読ませる感じの文章が凄いね
125: 以下、
さいごまで読んでくれた方、ありがとうございました。
また思いついた時になにか書きたいと思います。
前回 → まゆ「破ってはいけない3つの約束事について」
124: 以下、
乙乙
良かったよ
126: 以下、
おっつん
才能にリハビリはないのだ
129: 以下、

とても良かった
少し切ない余韻がなんとも言えないな
131: 以下、
おつおつ
本当に引き込まれるシリアスだったと思う
132: 以下、

思わずどんどん読み進めたくなるいいSSでした
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1478243532/
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