美優「三角関係……」【後半】back

美優「三角関係……」【後半】


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――ヴェールSN-52(休憩所)
菜々「ナナたちがこれから向かうリトットは土星圏内で指定されている資源衛星宙域の1つになります」ピッ、ピッ
菜々「リトットは木星圏と土製圏の境目付近に置かれているコロニーで、元々は土星圏に進出する際に資源運搬用として建設してからは、一時中継地点として利用されていました」
菜々「で、ホクドウをはじめとする土星圏の居住用コロニーがある程度完成したタイミングで解体する予定でしたが……」
P「採掘場への移動拠点として再利用したってことですか」カタカタカタッ
菜々「そうです。当時から宇宙用航行船に使用されているレアメタルは黒川重工から提供されているものでしたが、宇宙での生活圏の拡大に伴って既存の採掘場じゃ軍の要求に追いつかなくなったんですよ」
菜々「あとはお偉いさん同士のお話なのでナナも詳しいことは知りませんけど、リトットの監視局を黒川重工のほうで買い取り、国連と共同してのコロニー運用に変わりました」
P「で、現在はキラー・ビーの出現に伴って運用体制は黒川重工と軍の2体制になったってことですね」
菜々「まあそういうことです。グレイプニールの装甲素材とかの大半も黒川重工から来ているものですからね」
菜々「ただ運用主体が黒川重工になっているので、軍本部は設置されていません。各採掘場を管理している監視局がその代わり担っています」
320:以下、
パシュンッ!
楓「……あら、お2人とも、何をしているんですか?」フワッ
菜々「おや、楓さん休憩ですか? いまP少尉とお勉強していたところですよ」
P「お疲れ様です」
楓「お勉強……」スススッ
P「なんで離れるんですかね」
楓「いえ、休憩のときまでお勉強はちょっと……」
菜々「いや別に楓さんにもお勉強してくださいなんて言いませんけど……P少尉はリトットに行くのがはじめてみたいなので、ちょっとその説明です」
楓「ああそうでしたか。リトットって色々面倒くさいですからね」
P「そこら辺も色々教えてもらいましたよ。マーケットや海賊の話とかも」
楓「私たちは海賊に触れないほうがいいですからね。海賊は海賊でお仕事でやってるみたいですけど」
菜々「デブリ荒らしや開拓中の進入禁止宙域にいるのを見かけたらこっちも動きますからね。でも必要ならコロニー側も利用していますし」
P「あれですか、金さえ出せばってヤツ」
菜々「その通りです。まあそこは大佐たちが裏でコッソリとやってることみたいなので……」
P「俺たちは必要なとき以外は考えなくてもいいか……分かりました」
菜々「お勉強はこれくらいですかね。少し休憩したら訓練にしましょうか」
……
…………
321:以下、
――数時間後、ヴェールSN-52(Pの部屋)
P「……」カタカタカタッ!
『7番街の当店で新しくホッパーが1台入荷しました! パーツ交換済、関節部は最新のXT-3004を――』
P「マーケットの宣伝とか、意外とやってんだな……デブリから漁った物とか、そこら辺を取り扱ってる店の宣伝はさすがにないか」
ピピピッ!
P「はい、Pです」ピッ!
大佐『やあ、調子はどうだね? もうホクドウから出ているんだろう?』
P「ええ、まだ安全航路圏内なので戦闘もありません。まあ、1ヶ月の短期任務ですよ」
大佐『気をつけてくれよ。あと、アルヴィスの更新も入るとは思うが新種との戦闘記録を転送しておくよ』
P「本当ですか! 丁度その記録が権限が低くて見れなかったところだったので助かります」
大佐『ただねえ……難しいのが、戦闘記録の中で新種との交戦データがあまり採取できてなかったんだよ。丁度、採掘場に向かう輸送艦の護衛任務もあってね』
大佐『輸送艦周辺の戦闘状況の記録は多いんだが、どうにも新種のほうが……ヴェールから撮影された映像記録もあまり良い物じゃないがね』
322:以下、
ピピッ!
P「映像が小さいな……高機動戦闘にはなっていないですね。F型と同じか……? いや、でも形状が違う」ピッ、ピッ……
P「拡大……背面がF型やS型よりも発達している。立体機動に特化している……いや、でもOPFのパイロットが誰かは分からんが問題なく戦闘できているように見えるが……」
大佐『それ以上の映像が無くてね。護衛任務中の映像ということもあって、後は黒川重工のほうから開示許可が出ないと権限レベルが下がらないんだ』
P「大佐でも見れませんか?」
大佐『いや私なら問題ないんだがね、ただ全データがアルヴィスのほうにも上がっていないからこれだけしかないんだよ』
P「あとは現地で直接聞いたほうが早いか……」
大佐『ま、そういうことだ。無いよりはマシだろうから、麗奈君にも渡しておいてくれ』
P「小関大尉に?」
大佐『ああ、いるんだろう?』
P「ええ、まあ……よく知ってましたね。黒井大佐から聞いたんですか?」
大佐『ん……んんっ! ま、まあそういうことだよ。それじゃ、私は別件があるからこれで失礼する』
P「了解です。ありがとうございました」ピッ!
P「確かにデータが無いよりはマシか……小関大尉から安部中尉に回してもらって訓練に使うか」
……
…………
323:以下、
――数十分後、ヴェールSN-52(休憩所)
麗奈「へえ……F型に混じって1匹だけ新種がいたのね。極小規模の蜂の巣も見えるけど、ホーネットもいたのかしら」カタカタカタッ
P「添付されていたログを見た限りだと、ホーネットは撃破したそうです。新種のほうは――」
ドスッ!
麗奈「その口調やめなさいっての」
P「痛って……新種のほうは、ホーネットが輸送艦に接近していたからそっちに手が回っていたらしくて、いま映っているOPFと他3機のG1とで相手をしていたらしい」
麗奈「ふーん。単純に形状が違うだけなのか、でもグレイプニールのほうが手こずってるわね……何じゃれ合ってるのかしら。映像が小さくてこれじゃ見えないわよ」
P「より立体機動に特化した相手なのかもしれん」
麗奈「OPFが落としきれてないところを見ると、それもあるかもしれないわね。ま、出てきたら落とせばいいだけだけど」ピッ!
麗奈「ま、とりあえずソレ想定してまた訓練でもする? どうせアンタ暇でしょ?」
P「艦長の仕事はいいのかよ」
麗奈「あんなもん、戦闘になったら座って指示するだけでいいでしょ。まだ被害報告もらうような場面でもないんだし」
P「まあいいけど……それなら安部中尉にも声を掛けてくるから、格納庫に行っててくれ」
麗奈「さっさとしなさいよ」フワッ
P「へいへい……」
……
…………
324:以下、
――数時間後、ヴェールSN-52(格納庫)
パシュンッ!
菜々「こ、この訓練の……連続はっ……つ、疲れる……」ハァ、ハァ、ハァ……
P「どうだった?」
麗奈「さっきのココ、もうちょっと旋回度出せたでしょ。ドラウプニルが間に合ったらこのタイミングで落とせたじゃないの」カタカタカタッ!
P「G1で無茶言うなよ……OPFより小回りが利かないんだからこれくらいで限界だ」
麗奈「そんなもん気合でなんとかしなさい」
P「気合もへったくれもないだろ……」
菜々「……むー……むー!」
麗奈「ん、どうしたの菜々?」
P[どうしました中尉?」
菜々「麗奈ちゃん! ナナがP少尉の上官なんですよー! 2人だけで盛り上がらないでくださいっ!」バタバタッ!
麗奈「はいはい分かった分かった。んでここの射撃だけど……」
P「ああ、そこは……」
菜々「ううう……2人の会話についていけない……というかナナは完全に無視されているというか……」
325:以下、
ピピピッ!
菜々「おっと、はーいナナでーっす☆」ピッ!
楓『あ、お疲れ様です。訓練中でしたか?』
菜々「はい、もう麗奈ちゃんとP少尉がハッスルしちゃってまして……」
楓『私が前に休憩に来たときも訓練に行ってましたよね? 大丈夫ですか?』
菜々「あの2人ちょっと元気すぎて……ナナは若者のパワーには付いていくのが大変なのでそろそろ腕が……」
楓『それなら一緒に休憩しませんか? 私、いまから食事にしようかと思っていたんですけど』
菜々「いいですねー、休む口実ができましたよ。ってわけでそこで盛り上がってるお2人! 休憩所行きますよ休憩所!」
麗奈「ん?」
P「ん?」
菜々「休憩です! 休憩! P少尉も少しは隊長を労わってください!」
P「労わるって……まあ、それじゃあ休憩しますか」
麗奈「休憩終わったらもう5セットね」
菜々「まだやる気ですか……」
……
…………
326:以下、
――ヴェールSN-52(食堂)
楓「艦長、もう少しお仕事して頂きたいんですけど……」
麗奈「ん? アタシはいいのよ。アンタが仕事覚えなさい、将来のためよ」モグモグ
P「艦長の仕事押し付けられてるんですか……」
楓「デスクワークだけですけどね。でもブリッジにいて、いきなり艦長席に座れって言ってくるんですよ」
菜々「それいいんですか?」
麗奈「いいのよ。レイナサマは前線に出るのが一番仕事になるんだし、それなら若いヤツに艦長の仕事なり、指揮官やらせたほうがいいでしょ」
P「大尉のくせに随分と適当だな」モグモグ
麗奈「やれって言われたら出来るから何でもいいのよ。てかちょっと前もペースト食で生活してたから飽きたわね……菜々、お菓子持ってきてないの?」
菜々「ええっ!? ああいや、お部屋のほうにこっそりポテチをいくつか……じゃなくて!」
楓「出航時に、各個人で許可されていない食品類の持ち込みは禁止されてますよ」
P「……」
P(酒さえ飲んでなかったら、仕事はできるし程々に真面目なんだよなこの人……)
楓「……」ピクッ
327:以下、
楓「……Pさん、どうかしました?」
P「ん? あ、いえ」
楓「本当ですか? いま私に何か言おうとしてませんでしたか?」ズイッ!
P「いえいえ、そんなことはないので」
楓「そうですか? でも私に何か言いたそうな顔をしてるように見えますけど」ズズイッ!
P「そんなことないですって、そして顔近づけないでください」
楓「例えば……この人お酒飲んでるときはゲロ吐き掛けるダメ上司とか」ズズズイッ!
P「エスパーかよ!」
楓「……」ストンッ
P「あっ……」
楓「そうですよね、飲みすぎて2回もゲロ吐き掛ける上司なんてどうしようもなくダメで嫌な人ですよね……」ズーン……
P「ああいや、別にそういうわけじゃないんですがね、いや……」
麗奈「何あれ?」
菜々「若者同士で乳繰り合ってるんですよ……ナナには無かった青春です」
……
…………
328:以下、
――食堂前
美優(休憩に入るの遅くなっちゃった……)フワッ
美優「あら?」ピクッ
楓「だって2回もゲロですよ、ゲロ……マーライオン楓ですよ」
P「そんなプロレスのリングネームみたいな名前つけなくていいですから……」
美優(Pさんと楓さん……)
楓「それじゃあ、今度Pさんのお部屋にお酒入れておいていいですか? 持ってきますから」
P「ちょっと待ってください、さっき安部中尉には菓子の持ち込みを指摘しておいて自分は酒持ち込んでるんですか?」
楓「……勘のいい部下はいけませんよ」
P「どういうことだよ……」
美優(お2人とも……あんなに楽しそうにお話して……)
美優(……ご飯、後で食べよう)フワッ
……
…………
329:以下、
――数日後、ヴェールSN-52(ブリッジ)
麗奈「リトットの入港許可は?」
美優「事前に送信していた許可申請、承認されています……コードも発行されています」カタカタカタッ!
麗奈「駐在している調査隊からの回答は? 新種の件、連絡してるんでしょ?」
「回答来ています。スクリーンに出します」
麗奈「輸送艦の護衛任務に行った艦が戻ってきてないから詳細がまだ分からず、か……ちんたらやってるわね……」
麗奈「楓、各班に通知出しておきなさい。SN-52はリトット入港後、補給を済ませたら同ルートを経由して採掘場に向かうわ」
麗奈「必要な補給品の申請を出させておきなさい。リトットに着いたら急いで補給作業させるから」
楓「この艦だけで採掘場に行くんですか? 艦の規模に対して、採掘場へ向かう場合の蜂との戦闘数を想定すると……」
麗奈「別に本当に行くわけじゃないわよ。その新種と遭遇したルートを通ればこっちも遭える可能性はあるでしょ」
麗奈「見つけたらそれでオッケーだし、見つからなくても輸送艦が戻ってくるときに蜂が減っていれば向こうも楽になるし」
楓「はあ……分かりました」カタカタカタッ
330:以下、
ピピピッ!
菜々『もしもし、麗奈ちゃ……じゃなかった小関大尉』
麗奈「ん、どうしたの菜々?」
菜々『リトットと採掘場の現場のお話し、ナナたちも回答は見させてもらったんですけどおかしくないですか?』
菜々『新種との戦闘があったのってしばらく前ですよね? 輸送艦のレアメタル移送作業って往復でこんなに日数掛かるものでしたっけ?』
麗奈「なんでも、帰還時に新種と遭遇した場合の対応策でもめてるらしいわよ。黒川重工側としては早く戻りたいんでしょうけど――」
ピピピピピッ! ピピピピピッ!
麗奈「ん! ちょっとレーダー見て!」ピクッ!
美優「は、はい……レーダー、前方距離4200、キラー・ビーです……!」カタカタカタッ!
菜々『うげっ!? ここまだ安全航路圏内ですよ!?』
331:以下、
麗奈「いい加減退屈だったしそろそろ出てきてもいいとは思ってたけど……数は!」
美優「レーダー確認……6匹です。警報出します」
麗奈「アンタたち、戦闘態勢よ! コンディションレッド! GNS-001、002小隊とGRS-1小隊は出撃準備!」
菜々『し、出撃ですか! 了解です、ラピッドストライカー隊出ます!』
ピッ!
楓「オートメーション機能で戦闘信号を自動発信します。現宙域を安全航路圏から除外、周囲を航行中の民間船に警報を出します」
麗奈「新種がいる可能性を考慮して除外範囲をもう1段階広げておきなさい。あと艦の戦闘記録をミーミルにリアルタイム転送できるようにしておきなさい」
「コンディションレッド、コンディションレッド。前方距離4200、キラー・ビー出現。グレイプニール小隊は発進してください」
麗奈「こっちも準備するわよ。複合ミサイル発射管にアルヴァルディを装填、レーヴァテイン1番2番装填よ」
美優「艦長、レーダー照合しました……6匹ともF型です」
麗奈「新種はいないか……とはいえ、新種は前回の戦闘では逃げられているからこの宙域で遭遇する可能性は十分にあるわ。気をつけなさい」
……
…………
332:以下、
――ヴェールSN-52、カタパルト(G1機体内)
P「安部中尉」
ピピピッ!
菜々『準備できていますよ。P少尉、そっちの装備は?』
P「増設用の試作ブースターユニット、機体認証問題ありません。F型相手であれば運動性能を確認するには問題ないと思います」ピッ、ピッ、ピッ!
菜々『ナナのほうは、この前P少尉が使っていた単装ビーム砲塔の改修版を積んでもらっています。仮コードも発行されています』
P「仮コード? てことは正式実装の検討対象ってことですか。スコープ外れてます?」
菜々『邪魔だったってことでバッチリ外されてますよ。仮コードはレギン、単装ビーム砲塔レギンです』
P「ようやく1個目が検討対象になったか……了解、そちらのテストはお願いします」
菜々『P少尉のほうもブースターユニットの性能テストお願いしますね。いつもと操縦の癖が変わって難しいと思いますけど』
P「一応シミュレーターは回したから何とかなるはず……何かあったらヘルプ出しますよ」
333:以下、
ピピピッ!
美優『は、ハッチ開放しました……出撃、お願いします』
P「りょうか……あれ、今回は三船少尉がオペレーターですか?」
美優『そっ、そうなんです……今回の任務中は、私が配置されたので……』
麗奈『アンタたちそんな無駄話してないでさっさと行きなさい!』
美優『ひっ!? す、すみません……』
P「すみません……それじゃ、出撃します」
美優『お、お願いします。あの、Pさん……気をつけてくださいね』
菜々『あのそれ、Pさんだけじゃなくてナナにも言って欲しいなー、なんて』
美優『えっ!? あっ……』
麗奈『アンタたちぃ!!!!』
P「……出撃する」
……
…………
334:以下、
――戦闘宙域
P「ブースターユニットの具合はイイ感じか……立体機動はこっちで何とかするしかないが……」
菜々『P少尉、蜂の距離1800ですよ!』
P「初動はどうしますか?」
菜々『他2小隊がヴェールのアルヴァルディに合わせて展開するみたいなのでこちらも合わせます。コンビネーションマニューバはI02で!』
菜々『あとは……こっちに蜂が流れてこなかったらとりあえずGNS-002小隊の援護で!』
P「了解……!」ギュンッ!
ズドドドドドドドドドッ!!!!
蜂「!」ギュンッ!
蜂「!」ギュンッ!
菜々『ミサイル着弾……こっちに2匹です!』
P「了解、いまの蜂の飛行から軌道予測ルートを算出……前に出ます。安部中尉は射撃のほうを」カタカタカタッ!
菜々『任せてください!』
335:以下、
蜂「!!」ズドォンッ!
P「粒子砲か、当たるかよ!」ギュオオオオオッ!
蜂「……!」ブブゥゥゥンッ!!
蜂「……!」ブブゥゥゥンッ!!
P「2匹釣られたか……だがブースターユニットのおかげで度勝負はいける……安部中尉!」
菜々『いきますよ……単装ビーム砲塔レギン、発射です!』ズドォンッ!
蜂「!?」ドガアアアアアアンッ!!
菜々『1匹目!』
蜂「!」ズドォンッ!
菜々『そっちの粒子砲は当たってあげませんよー!』ギュンッ!
P「中尉のほうに気はやらせん、ドラウプニル!」ガションッ!
ドガガガガガッ!!
蜂「!?」ギュンッ!
P「よし、そのまま――」
ピピピピピッ! ピピピピピッ!
P「何!?」
ピピピッ!
美優『レ、レーダー更新……キラー・ビーの増援が来ています。距離は前方4000……!』
菜々『ゲェッ! 増援!?』
P「こっちの分がまだ片付いていないときに……!」
……
…………
336:以下、
――ヴェールSN-52(ブリッジ)
楓「艦長、レーダー上に新しい蜂が出ました。数は5匹です」カタカタカタッ!
麗奈「追加発注なわけ……照合掛けて!」
楓「レーダー照合……! 1匹だけ該当データ無しの個体がいます。映像出します」
ピピッ!
麗奈「背面が発達している……こいつが新種ね! 各小隊、新種が出たわよ! 戦闘記録は取ってるからしっかりぶっ飛ばしなさい!」フワッ
楓「ちょ、ちょっと艦長、どこに行くんですか?」
麗奈「アタシも行くに決まってんでしょ!」
楓「指揮はどうするんですか?」
麗奈「今からブリッジの第2指揮官は高垣中尉よ! アンタに教本読ませてたのはこういうときのためだったんだから、ちゃんと仕事しなさい!」
パシュンッ!
楓「えっ、えええええ……?」
美優(かわいそう……)
……
…………
343:以下、
――戦闘宙域
P「安部中尉!」
菜々『P少尉はルート計算お願いします! ナナたちのほうでひきつけますので!』ギュンッ!
ピピピッ!
楓『前線のグレイプニール各機、本艦は報告を受けている新種のキラー・ビーと遭遇しました。該当種を暫定D型とします』
ピピッ!
P「コードが来たか……安部中尉、無理に接近はしないでください。遠距離から他小隊と包囲しての射撃戦で」カタカタカタッ!
菜々『分かってますよ! GNS-002小隊、そっち合流しますね!』
D型「……!」ブブブゥゥゥンッ!!
P「足が遅い……いや、F型と同か、S型とまではいかんが……!」ピピッ!
D型「!」ズドォンッ!!
P「粒子砲か! くっ……」ギュンッ!
菜々『P少尉! いまこっちも攻撃を……』ズドォンッ! ズドォンッ!
バシュゥンッ……! バシュゥンッ……!
D型「……」ギュンッ!
菜々『うええええっ!? ぐ、グラムじゃ抜けない!?』
『コイツはダメだ、G1やOPFの装備じゃ抜けんぞ!』
344:以下、
P「単純に硬いのかコイツは! くそっ、標準兵装のリストは……!」カタカタカタッ!
ピピッ!
P「G2に装備されている高出力版のグラム以上の兵装が無い……いま出ている部隊でG2を運用しているパイロットはいないぞ……!」
菜々『それなら!』ギュオオオオオッ!
D型「!」
菜々『こういうときの新兵装ですよ! レギンなら!』ガションッ!
ズドォンッ!
D型「……!?」ドガァンッ!
P「足が止まった……装甲は抜けなかったがダメージはあるのか」ピピッ!
菜々『それならもう1発ですよ!』ズドォンッ!
D型「……!」ギュンッ!
菜々『げげっ!? 避けられた……』
P「相手も馬鹿じゃあないか……あのビーム砲塔も射撃可能数は多くないが……」
蜂「!」ギュンッ!
蜂「!」ギュンッ!
P「追加で来たコイツ等の相手もあるってのに! ヴェールのほうが……!」ギュオオオオオッ!!
……
…………
345:以下、
――ヴェールSN-52(ブリッジ)
楓「……」
「高垣中尉! 右舷前方よりF型2匹、戦闘宙域を抜けてきました!」
美優「前線、D型と交戦中……小関大尉のOPFはまだ出撃準備が完了していません……!」
楓(こんなタイミングで……通常戦闘ならまだマニュアルがあるのに、新種も出ているときに……)
蜂「!」ズドォンッ!
「蜂の砲撃……回避! うううっ!」
「もう1匹蜂が抜けてきます! 前線のグレイプニール、何機か戻ってきて!」
楓(こんなときに……)
ピピッ!
楓「っ!」ビクッ!
P『高垣中尉、いま送ったデータを使え! F型の予測飛行データだ!』
楓「P少尉……」
346:以下、
楓「で、でもっ……前線のほうは……」
P『安部中尉もいるから問題ない。俺が一時的に後退するがそれまで蜂を捌いておいてくれ!』
美優「Pさ……」
P『必ず戻る。頼りにしているぞ……高垣中尉』
ピッ!
美優「……」
楓「……」グッ!
楓「……艦を下げます。度4、レーヴァテイン装填、右舷前方のF型2匹を牽制します」カタカタカタッ!
「F型、更に接近してきます!」
楓「オートメーション機能を使用して1番から3番のブリンガーを自動掃射」
楓「続いて複合ミサイル発射管の1番から10番に多目的粒子減衰ミサイルを、11番から20番には迎撃用のマグニを装填します」
美優「レーヴァテイン……装填準備完了しました」ピピッ!
楓「レーヴァテインは発射です。合わせてマグニも撃ってください」
「艦砲射撃はこっちでやるわ! レーヴァテイン……発射!」
ズドドドドドドッ!!
美優「レーヴァテイン回避されました。マグニ発射確認、F型2匹が後退します」
347:以下、
楓「いまのうちに艦前方に粒子減衰ミサイルを発射してください。散布率は45%、ギリギリでレーヴァテインが有効になるようにお願いします」
美優「了解です。ミサイル発射します……炸裂範囲、粒子減衰区域になります」ドシュシュシュシュシュッ!!
楓「発射管11番から20番にもう一度粒子減衰ミサイルを装填してください。装填後は散布率80%で艦後方に射出します」
楓「前線が後退する場合は、こちらも更に後方に下がって蜂の粒子砲をやり過ごして弾幕支援に切り替えます」
ピピピッ!
麗奈『いいじゃないの、そうやって仕事してなさい!』
楓「小関大尉……出撃ですか?」
麗奈『整備班がOPFを移動させるのに手間取ってたのよ! ほら、ハッチ開けなさい!』
美優「ハッチ開放します……OPF、発進お願いします」
麗奈『よっし、行くわよ!』
……
…………
348:以下、
――戦闘宙域後方
蜂「……!」ギュンッ!
P「ブースターユニットのおかげで間に合うか……追加の1匹、行かせんぞ! ドラウプニル!」ガションッ!
ドガガガガガガッ!!
蜂「!?」ドガアアアアンッ!!
P「後は先行して抜けた2匹か……!」
ピピピッ!
楓『P少尉、こちらは防衛のため粒子減衰ミサイルを発射しました。現在蜂が飛んでいる位置は粒子減衰区域になります』
P「それなら接近するまでだ!」ギュオオオオオッ!
麗奈『そりゃそうでしょ!』ギュンッ!
ドガガガガガガッ!
蜂「……」
蜂「……」ブブブ……
ドガアアアアアンッ!!!!
P「小関大尉……出撃したのか!」
麗奈『面白そうなイベントにレイナサマが行かないわけないでしょ! ヴェールはそこで待機してなさい、後はこっちでやるわ!』
P「よし、高垣中尉、艦を頼みます」ギュンッ!!
……
…………
349:以下、
――ヴェールSN-52(ブリッジ)
P『よし、高垣中尉、艦を頼みます』
ピッ!
楓「……了解です」
楓「……」
「オートメーション機能によるブリンガーの自動掃射……現状維持します。ミサイル発射管1番から20番にアルヴァルディを装填します」
美優「前線の各小隊……戦闘区域が流れています。安全航行圏に流れないよう気をつけてください」
楓「……」
P『必ず戻る。頼りにしているぞ……高垣中尉』
楓「……頼りにされちゃうなら、仕方が無いですよね」
美優「高垣中尉」
楓「……はい?」ピクッ
美優「もう少しだけ、頑張りましょう。前線のみなさんの援護をしませんと……」
楓「……お仕事中でも、中尉でなんて呼ばなくいいですよ。意外と……マニュアル見ながらでも何とかなるんですね」
……
…………
350:以下、
――戦闘宙域
ピピピッ!
P「安部中尉、大丈夫か!」
麗奈『アンタたちも、ちんたらやってんじゃないわよ!』ギュオオオオッ!
菜々『P少尉、麗奈ちゃん! 遅いですよぉ!』
麗奈『GNS-001と002小隊は他の蜂の相手でもしてなさい! D型はこっちで引き離しておくわ、ラピッドストライカー隊はついてきなさい!』
『了解! そちらはお願いします!』
菜々『了解です!』
D型「!」ズドォンッ!!
麗奈『粒子砲なんて当たるわけないでしょ! そらっ!』ズドォンッ!
バシュゥンッ……!
麗奈『チッ、グラムも役に立たないわね……!』
ピピッ!
P「小関大尉、安部中尉、D型の予測飛行ルートの算出は終わった。転送するから立体機動戦闘のときに対応してくれ」
菜々『で、でもぉ、グラムが通らないならドラウプニル撃っても仕方が無いですよぉ……』
351:以下、
麗奈『アンタまた……って、まあ仕事中なら仕方ないわね。それなら……』ギュンッ!
菜々『麗奈ちゃん!? いきなり接近して……』
麗奈『食らいなさい!』ガションッ!
ドガガガガガガガッ!
D型「!」ガキキキキキィンッ!!
麗奈『……』
菜々『だからダメですってばぁ!』
P「……安部中尉、そちらのOPFに溜めてる直前の戦闘記録データをください。D型が出現した後の物です」
菜々『えええ……ナナ、飛行しながらのマルチタスクって苦手なんですけど……えっと、これ、これと……』ピピッ!
ピピッ!
P「……」カタカタカタッ!
麗奈『……』
ドガガガガガガガッ!
D型「……!」ガキキキキキィンッ!!
菜々『あああ麗奈ちゃんっ! いまミョルニルで弾幕張りますから離れてください!』ボシュシュシュッ!!
D型「!」ギュンッ!
352:以下、
ピッ!
P「出た、大尉!」
麗奈『ドコよ!』
菜々『いきなり何の話しですか!?』
P「安部中尉がD型の装甲にレギンを当てた箇所をマークした。2人ともそのポイントに射撃だ!」
麗奈『装甲強度を見てもドラウプニルじゃどの道どうしようもないか……グラムでいいわね!』ギュンッ!
菜々『ナナは精密射撃も苦手なんですけど!』
P「中尉、レギンの残段数は!」
菜々『やっぱり消耗が激しくて……あと2発くらいでおしまいです』
P「1発はどこでもいいからD型に当ててください。足が止まったタイミングで俺と大尉のほうで射撃を行います」
菜々『それくらいなら……ターゲット、発射!』ガションッ!
ズドォンッ!
D型「……!?」ドガァンッ!
P「足が止まった!」
麗奈『今よ!』ズドォンッ!
ズドォンッ! ズドォンッ!
D型「!?」ドガアアンッ!!
麗奈『ホラホラ、早くその背中に穴開けなさい!』
353:以下、
P「コイツ、それでも硬いか……だが足は遅くなってるか!」ガションッ!
ズドォンッ!
D型「……!」ドガアアンッ!!
麗奈『菜々!』
菜々『これくらい動きが止まってるならナナでも当てれますよぉ!』ズドォンッ!
D型「……」ブブブ……ブ……
ドガアアアアアアンッ!!!!
菜々『や、やった……』ハァ、ハァ……
P「D型撃破確認……ヴェール、こちらの戦闘記録は届いているな? ミーミルに転送する分の他に、ローカルに貯めたデータは別出ししておいてくれ」
麗奈『こんなもんね……面倒くさいヤツ』ピッ、ピッ……
菜々『や……やりましたよー! ラピッドストライカー隊、新種と初遭遇で初戦闘で初撃破ですよぉ! 麗奈ちゃん、P少尉、やりましたねぇ!』
麗奈『はいはい、よかったよかった』
P「ははは……」
麗奈『ほら、そんなはしゃいでないで、まだ他の小隊がF型の相手してるでしょ。片付けに行くわよ』
菜々『分かりましたぁ! P少尉、行きますよ!』
P「へいへい、了解……ま、いいか」
……
…………
373:以下、
――数分後、ヴェールSN52(カタパルト)
パシュンッ!
P「ふいー……さすがに今回は疲れたな……新種の相手は巣との戦闘とはまた違うか……」フワッ
菜々「Pーしょーいー!」
P「ん、安部中尉……」
ボフッ!
P「うげっ!?」
菜々「やりましたよぉ! ナナたちラピッドストライカー、新種撃破で戦闘データもバッチリ取れるなんてバッチリな実績じゃないですか!」ググググッ!
P「うぐおおおお……く、首、首……」
麗奈「なーにアンタたちはまた乳繰り合ってんのよ」フワッ
菜々「あ、麗奈ちゃん! 今回はナナたち大活躍でしたね! これ、本部も良い評価出してくれますよね!?」
麗奈「まーそうね。黒川んトコがデータくれなかった分こっちが面倒なことやってるんだし……で、そろそろ肩車外してやんないとコイツの首絞まってるわよ」
P「……」ピクッ、ピクッ……
菜々「えっ……ああっ!?」バッ!
P「いや……別に、いいんですけどね……」ハァ、ハァ……
菜々「す、すみませんつい……」
355:以下、
麗奈「それにしても、アンタよくレイナサマと同じようなこと考えてたわねー。D型の装甲の抜き方、菜々のデータ見てから気付いたの?」
P「いや、大尉が立体機動しながらD型に機関砲で同ポイントに射撃しているのを見たときに」
P「まあ、実際にそれで精密射撃して抜けるかは分からなかったが……G2の装備も無いしやるしかないだろうと思ってな」
麗奈「ま、何だかんだ蜂って撃破するときは爆散するから死体検証も出来ないしね、構造分からないからとりあえずやってみたって感じだったけど」
P「それにしても、ここでG2が欲しくなるとは思わなかった……あんな鈍足でも使い道が出てきそうか」
麗奈「機体的にもG1やOPFじゃそれほど高火力な兵装も積めないし、今回のヤツが出てくるならG2の配備も一部見直しが入るわね」
菜々「はー……飛んでる相手に連続で精密射撃しようとする2人の神経がナナには理解できませんよ」
麗奈「何言ってんのよ、菜々もやれば出来るじゃないの!」バシバシッ!
菜々「おっふおっふっ!? ちょ、ちょっと背中叩かないで……」
P「まあいいや……とりあえず今回は戦闘時間は長くなかったが疲れた……早く戻りましょう」
麗奈「何よ、鍛え方が足りないわね」
P「大尉みたいな化け物と同じように戦えっていうのが無理あるんだよ……」
菜々(ナナから見ればP少尉も大概なんですけどね)
……
…………
356:以下、
――数分後、ヴェールSN52(通路)
麗奈「それじゃアンタたち、レイナサマはブリッジに戻るけど評価報告やっときなさいよ」フワッ
P「了解」
菜々「P少尉、後でお部屋行きますからね」
P「遅く来てくれていいですよ」
菜々「ちょっとシャワー浴びてからになるかもしれないんで、行く前には連絡しますよ」シュッ!
P「さてと……俺も部屋に戻るか」
ピッ!
……
…………
357:以下、
――ヴェールSN52(Pの部屋)
ドサッ!
P「……」
P(……疲れた)
P(何で俺は……大尉と同じように出来たんだろうか……安部中尉のフォローも、しなきゃならなかったが……)
P(高垣中尉も、大尉に無茶振りされてたが……そうだ、艦は、無事だったんだ……)
P(よかった……艦が無事なら、艦が……)
『彼の両親は?』
『残念ながら……』
『何? 分かった、後でそちらさんとは話しておく……P君、非常に残念だが……どうだね? もしよければだが……』
P(どうして俺は……昔から戦えなかったんだ。今回みたいに……俺が戦えたなら……)
P(死ぬことは無かった。親も……だけど、そんなのは無理な話だ。俺は、あのときは……)
……
…………
358:以下、
――――――――
――――――
――――
――
359:以下、
「お帰りなさい、母さん」
「ただいま。良い子にしていた? 母さんたち、コロニーのほうのお仕事も一段落したから、しばらくは地球で休暇を取れるようになったわ」
「来月にはまた土星圏に戻ることになっているけど……あ、お父さんは用事があって軍のほうに行っているわ。夜には戻ってくるみたいだから」
「……」
「……母さん、その子は?」
「ええ、たまたま帰りのシャトルで一緒になったんだけど、母さんたちの知り合いの方のお子さんよ」
「軍の人?」
「ええ、お父さんよりも偉い方よ。お迎えに来る予定だったみたいだけど、都合が付かなかったみたいで……今日はうちで預かることになったの」
「そっか」
「母さんもこれから少し軍のほうに行かなきゃならないから……この子のこと、お願いね」
「分かった……ねえ、名前は?」
「……す」
「ん?」
「たち………り…」
「……まあいいや、地球に来るのって初めて?」
「……はい」
「そっか、俺は宇宙には行ったことないんだけどな……俺はP、よろしく」
「よろしく……お願いします」
360:以下、
「丁度いいや。今日スタジアムのほうで野球の試合があるんだ!」
「野球……?」
「俺が応援してるプロのチームが出る試合で、チケットも取れてるんだ。一緒に行こう!」
「で、でも……」
「なんだ? 野球、嫌か?」
「……嫌じゃ、ないです。でも、野球……テレビでしか、見たことなくて」
「それじゃ本物も見よう。女の子に男のスポーツって難しいかもしれないけど、楽しいぞ」
ギュッ……
「あ……」
「母さん、スタジアム行ってくるよ。試合終わったら帰ってくるから、行ってきます!」
「……」
「ほら、行こう?」
「……はいっ」
361:以下、
「なあ、聞いていいか?」
「なんですか?」
「宇宙に住んでて、楽しいか? 宇宙って……どんな感じ?」
「どうなんでしょう……どこかに行くときは、いつも暗くて、少しだけ……怖くて……」
「だけど、とっても綺麗なんです。怖いと思うときもあるけど……綺麗で、私は嫌いじゃありません」
「そっか……俺も、父さんや母さんみたいに、宇宙に行ってみたいなぁ」
――違う。
362:以下、
――俺にはこんな記憶は無い。
――こんな景色は見ていない。
――こんな景色を見る前に……終わってしまったはずだから。
――見るはずだったのかもしれない。だけど、それはもう見ることは無い。
――だから、俺は……。
363:以下、
――――――――
――――――
――――
――
364:以下、
――ヴェールSN52(Pの部屋)
P「……」ピクッ
楓「……」
P「……」
楓「……」
P「……何してるんですか」
楓「いえ……よく、寝てるなぁって……」
P「まあ、自分の部屋ですから」
楓「でも、自分のお部屋でうんうん唸りながら寝る人は、あまりいませんよ?」
P「そうですか……」
楓「あ、動かなくていいですよ。私も、動くの面倒ですから。いま、報告書書いてますし」カタカタカタッ
365:以下、
P「……よくまあ、起さないように寝てる人間の頭を膝に乗せましたね」
楓「こういう器用なところもあるんです、私」
P「はぁ……」
楓「もう少し……寝ても大丈夫ですよ。菜々ちゃん、シャワー浴びてから来るそうですから」
P「そうですか……そう……」
P「……」
楓「……」スッ
P『必ず戻る。頼りにしているぞ……高垣中尉』
楓「あんなに格好良いのに……こういうところは、格好良くないんですね」
楓「でも……格好良くないほうがいいところも、あるかもしれませんね」
……
…………
366:以下、
――数十分後
ピッ!
パシュンッ!
菜々「お待たせしましたー……いやぁ、辛い戦闘の後のシャワーっていうのはやっぱりいいものですねぇ……」
菜々「あ……」
楓「お疲れ様です」カタカタカタッ
P「……」ギュウウウ……
菜々「……ナナはお邪魔だったでしょうか?」
楓「いえ、Pさん、疲れて寝ちゃったんですよ」
菜々「さいですか……いえ、そのPさんの体勢は……楓さんのお腹にしがみ付いてますけど」
楓「意外と甘えん坊さんなんです、Pさんって……ふふっ」
P「……」
……
…………
374:以下、
――数日後、ヴェールSN52(格納庫)
「抽出した戦闘記録も見たんですけどね、やっぱり少尉の立体機動じゃいまのG1に高負荷が掛かってますね」
P「やっぱりか……」
菜々「Pさん操縦荒いですもんねぇ」
麗奈「んっとに、アンタはそういうところもう少し何とかしなさい」バシッ!
P「痛って……叩くなよ」
菜々「試作兵装のブースターユニットとG1の噛み合わせが悪かったのもあるんでしょうけど、そこにPさんの操縦ですからねー」カタカタカタッ!
ピピッ!
菜々「ほら、この前の戦闘のここ、蜂3匹が前線抜けてきたときのPさんの旋回、これちょっと無理ありますよ」
麗奈「ていうか飛行ルートが悪いのよ。敵のルート解析ばかりしてないで自分の操縦も気にしなさいよ」
P「そこは攻撃が当たらなきゃ問題ないし……」
「それはそれでこちらも困るんですが……」
375:以下、
菜々「結局ブースターユニットに負荷掛かって破損しましたからね。あんまり壊すようなことするのもダメですよ」
P「んんん……まあ、G1もオーバーホールする羽目になったし、そこは考えておきます」
麗奈「ま、そうしておきなさい」
菜々「被弾してないのに機体をオーバーホールまで持ってくって相当ですからね……」
麗奈「レイナサマみたいに、もっとこう……繊細で、ちゃんと操縦しなさい」
P「マルチタスクで解析作業と平行してるとそこまで気が回らないんだが……」
菜々「まあ……それじゃデータ確認はこれくらいで終わりましょっか。まだ何かあります?」
「いえ、特には。D型との戦闘記録もこちらに回してもらいましたから、ついでに参考にします」
菜々「了解ですっ。よろしくお願いしまーす」
……
…………
376:以下、
――ヴェールSN52(通路)
P「でも結局どうするんだ? リトットに行く前にD型は落としてしまったし……」フワッ
麗奈「とりあえずは向こうとは1度合流する話しになってるんだし、行くだけ行くでしょ」
菜々「現場にいる調査隊の状況次第ですね。何もなければホクドウに戻ればいいですし」
麗奈「ま、S-01のメンテも予定通りには終わるだろうし、用が無くなったならさっさと帰ればいいわよ」カタカタカタッ!
P「不満そうだな」
麗奈「思ったよりあっさり終わってつまんないのよね。もうちょっと遊べると思ったんだけど」
P「よくそんなこと言えるな……こっちは結構しんどかったのに」
菜々「いまの装備でアレとは戦いたくないですね……」
麗奈「もっと鍛えなさい。特にP、アンタはもう少しやれるでしょ」
P「無茶言うなよ……麗奈のマニューバについていくほうの身にもなってくれ」
麗奈「特に問題なくついてきてたでしょ。後は機体潰すような操縦だけは何とかしときなさい」
P「……了解」ハァ
……
…………
377:以下、
――数時間後、ヴェールSN52(ブリッジ)
美優「艦長、3番ゲートからの入港になります。ガイドラインが来ていますので艦を移動させます」カタカタカタッ
麗奈「一般船の出入りが多いわね……海賊もいるじゃないの」
楓「特に、黒川重工からの通達等は来ていませんが……」
麗奈「てことは、ゴミ漁りにでも行ったわけね。ま、アタシたちの仕事じゃないからどうでもいいけど」
美優「整備班……補給作業の準備は出来ているみたいです。搬入口の準備はできています」
麗奈「合流予定の調査隊は?」
美優「監視局のほうにいるみたいです……今回の件は、黒川重工にも被害がありましたし……」
麗奈「はーめんどくさ……楓、外出る準備しなさい」
楓「え?」
麗奈「他に行くメンバーいないでしょ……菜々連れてっても仕方ないし、Pは……アイツは気にしてたけど、どうしようかしらね」
美優「……」
楓「……」
麗奈「……まあ、菜々1人にしておくのもアレだし、今回は置いてくかしら」
楓「……」ハァ……
美優「……」ホッ
……
…………
378:以下、
――ヴェールSN52(Pの部屋)
P「え、俺たち待機なんですか?」
菜々「そうなんです。楓さんは麗奈ちゃんについていくみたいですけど……」カチカチカチッ!
P「不満そうですね」
菜々「だってだって! ラピッドストライカー隊はナナが隊長なんですよ! 隊長!」
P「適材適所って言葉知ってます?」
菜々「うぐぅ……あっ、死んだ!」ポチポチッ
P「いいじゃないですか。待機って言っても補給作業で艦は港に置きっぱなしだし、艦も直接戦闘したから外装メンテ入るじゃないですか」
菜々「まっ、前線部隊のナナたちは仕事もないからお休みですね。そうそう、一応外出許可も取ってますよ。艦のローカルにスケジュール突っ込んでおきましたから」
P「随分準備いいな……」
菜々「せっかく暇してるんですから、訓練もいいですけどたまには休みましょうよ。ナナもリトットは久しぶりだからちょっと遊びたいですし」
P「遊ぶってもなぁ、民間管理だから他のコロニーにない施設もあるんでしたっけ」
菜々「さすがにギャンブルとかは行きませんけどね。マーケットくらい行きませんか?」
P「行ったことないからな……まあ、そうですね」
菜々「それじゃ入港後落ち着いたら外行きますか。てことで……ちょっとPさん、2P持ってくれませんか?」カチカチッ!
P「ゲームばっかりやってんじゃないよ……」
……
…………
379:以下、
――ヴェールSN-52(休憩所)
楓「で」ジーッ
P「はい、外出許可も安部中尉が出たのでマーケットのほうまで行こうかと」
菜々「あ……あはは……」
楓「……」
菜々「いや、そんな睨まないでください……」
P「そんなに町行きたかったのか……」
パシュンッ!
美優「あっ、いた……か、楓さん……小関大尉が探してましたよ。外に車だしたから監視局に行くって……」
菜々「あら美優さん」
美優「ブ、ブリーフィング中……でしたか?」
P「ああいえ、別にそういうわけじゃ……あ、そうだ美優さん」
美優「は、はいっ……?」
380:以下、
P「美優さんは艦に残る予定ですか?」
美優「え? ええ……」
P「それじゃ俺と安部中尉がマーケットまで行くんですけど、一緒に行きますか? 艦のメンテがはいるからブリッジ作業もありませんよね?」
楓「!」
美優「え、一緒に? 一緒……」
楓「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
菜々「く、黒いオーラが……」
P「まあ他の作業が残ってるなら無理にとは言いませんけど」
美優「いえ、行きます……一緒、一緒に……」
パシュンッ!
麗奈「ちょっと楓! アンタどこほっつき歩いてるのよ! さっさと準備していくわよ!」
楓「……はい」シュン
菜々「す、すみません、ホント……あ、お、終わったら連絡くださいよぉ! 夜は飲み屋行きましょう☆」
楓「はいっ!」キリッ!
P「うーんこの……」
菜々「お酒があれば元気ですからね楓さんは……」
……
…………
381:以下、
――数時間後、資源衛星監視コロニー『リトット』、監視局
麗奈「はぁ? 戦闘記録の開示許可まだ降りてない?」
責任者「それがどうも我が社の本部のほうで止めているみたいで……開発部のほうから何か言われているようで」
麗奈「ったく何やってんだか……」ピクッ
麗奈(採掘場での戦闘記録、か……新種が来たってことなら、もしかしたら……)
楓「それなら私たちが戦闘したD型との戦闘記録で代替できませんか?」
局長「よろしいですかね? 申し訳ありませんが……対策方針としてはやはり、新種……暫定D型でしたか。D型の装甲を突破できる装備の配備ですか」
責任者「こちらで持っている分と頂いた戦闘記録を見ても、少なくとも第ニ世代グレイプニールに搭載されている大口径グラムがなければ……」
楓「それは……現在オート・クレール社と黒川重工で実施している共同プランの、試作兵装の開発のほうでは何とかなりませんか?」
責任者「あぁ……そうでしたね。そちらの部隊のほうで運用テストを実施して頂いておりましたか……ふむ」
麗奈「評価報告だと、単装ビーム砲塔だと若干の効果があったかしらね。それ以上の装備が必要ってことだろうけど」
楓「随伴しているのがオート・クレール社のスタッフですから、黒川重工のスタッフとはホクドウで合流してからの兵装検討になりますね」
局長「ひとまずはG2の配備を検討しましょうか。前線部隊からは不満の声は上がるでしょうが」
責任者「D型を撃破できなければどうにもなりませんからね。G2の兵装で対応してもらわねば」
麗奈「アタシたちのところも、G2用意するしかないかしらねぇ……」
……
…………
382:以下、
――リトット、マーケット(入口)
P「おおお……」
美優「……」
菜々「いやー、マーケットも久しぶりに来ましたねー」
P「思ったよりも随分大きいな……」
美優「ホクドウのショッピングモールと同じくらいの規模はあるんですね……」
菜々「あれ、美優さんも来たのははじめてでしたか?」
美優「え、ええ……その、哨戒任務の延長でリトットに立ち寄る機会はあったんですけど……」
菜々「ガラの悪い人とかもいるから、気をつけてくださいね」
P「まあ、7番街とかに行かなければ大丈夫なんですよね?」
菜々「ええ、1番から5番街までは一般企業がお店を展開していますからね。6番から7番街がジャンク屋とか海賊辺りが顔を利かせていますから」
美優「ちょ、ちょっと怖いですね、やっぱり……」
菜々「まあまあそんなところに行かなきゃいいんですよ! ささっ、早く行きましょう!」タタタッ!
P「あんまり走ると腰悪くしますよー」
菜々「そこまで衰えてませんからっ!」タタタタッ!
美優「……ふふっ」
……
…………
383:以下、
――リトット、監視局(通路)
「ああ、お前の言うとおり次元振動が確認されている。規模としては小さなものが計測されていただけだが……」
麗奈「やっぱりそっちの話しか……前回の計測期間からどれくらい経ったの?」
「同規模のものであれば、前回の計測から6ヶ月前だ。たまたまなのかは分からんが、その前と計測期間の感覚は若干狭くなっている」
麗奈「であれば、やっぱり奴らがこっちに直接移動してきている機会も多くなっているのね」
「断定はできんがな。土星圏の広域レーダーでは次元振動の有無に関わらず、蜂が観測されている」
「こちらに来る手段としては、次元振動も関係なく飛んできている蜂のほうが多いだろう」
麗奈「とはいえこのまま続くようで、感覚が短くなれば面倒臭いことになるわね……やっぱり、黒川重工の情報公開制限はこの件?」
「恐らくな。私はそっちの仕事についてはあまり詳しくない。志希が見つかれば話は聞けるんだろうが……連絡手段もないし、地球の何処をふらついているのか」
「……そうだ、麗奈が地球に行って志希を捕まえることはできないのか?」
麗奈「バーカ、いまのレイナサマはただの戦闘機乗りよ。そういう反則はやらないのよ」
「っと、すまんな。そういう話しだったか」
384:以下、
麗奈「まあ、あの入れ知恵もレイナサマがやったわけだけど……どう使うかはアンタたち次第ってことよ」
麗奈「とは言っても、アタシ自体は難しいことはわかんないし、何となく覚えてたこと話しただけだけど? もっと詳しい奴は他にいたんだけどね」
「そうだな……おかげで救える命も増えた」
麗奈「とりあえず話は分かったわ。黒川重工のほうがあの仕事の絡みで公開制限掛けてるなら特に言うことはないわ」
麗奈「それに、どうせプロジェクト・ヴァルキュリアの進捗が進んだらあっちの仕事とも合流するんでしょ?」
「合流というか、こちらに提供という形になるだろうな」
「アーキタイプは別にせよ、基幹システム本体は外部流出を考慮してブラックボックスのままだろうが」
麗奈「こういうときに人間同士で何揉めてるんだか……まあいっか。それじゃ切るわ」
「ああ、気をつけてな」
385:以下、
麗奈「レイナサマに向かって何言ってんのよ。それじゃあね、晶葉」ピッ!
……
…………
386:以下、
――リトット、マーケット2番街、喫茶店(店内)
菜々「はー……疲れた」
P「はしゃぎすぎですよ。買った物、どうするつもりなんですか」
菜々「ヴェールに持って帰るに決まってるじゃないですかー……麗奈ちゃんなら見逃してくれます」
美優「あ、新しい服でしたら……ホクドウに戻ってから買っても……」
菜々「いえいえ! ホクドウはこういう物の品揃えが悪いんですよ、メイド服と靴! そろそろ新しい組み合わせも試したかったので!」
P「……それ着て、黒井大佐とワイワイやるんですか?」
菜々「はぐっ!?」ビクッ!
美優「え?」
P「いや、何となく……」
菜々「……あれはですねぇ、黒井大佐には……お忙しいところナナに付き合って頂いているだけですから」
P「え、そうなんですか?」
P(どう見ても本人はノリノリだったんだが……)
菜々「そういうものなんです。それに、ナナもこの歳になると階級以上には忙しかったりしますから……暇を見つけてこういうことはやっておきたいですし」ハァ……
387:以下、
美優「……ところで、この後は私たち……どうするんでしょうか」
菜々「えーっとですねぇ……夕方頃には楓さんも来るだろうし……」
P「いやそういう話じゃないと思うんですけど。まあ、他にD型が出るって話しならそいつらの撃破任務でも来るとは思いますけど」
菜々「ああそっち……そうですねー、何も無しなら艦のメンテナンスと補給したらホクドウに帰りますね」
美優「そうですよね。やっぱり、こういう任務で少数体制なのは……」
菜々「ちょっと不安ですか? あ、すみませーん、コーヒー3つで」
P「SN-05より編成も少ないですしね。気持ちは分からなくもないですけど」
美優「で、でもっ……私、Pさんがいるなら……その、大丈夫……です……」
P「そ、そうですか……」
菜々「すみませーん! さっき頼んだコーヒー、砂糖いりませんから!」
美優「はい、その……やっぱり、Pさんなら……私たちが危ないときでも、必ず助けに来てくれますし……今回だって……」
P「……まあ、間に合ってよかったですよ。楓さんが艦を上手く下げてくれたのもありますし」
美優「はい……」
菜々「すみませんミルクもいらないんで!」
美優「ふふっ……」
388:以下、
「お待たせしました。コーヒーです」
P「どうもすみません」
菜々「……あのー、Pさん。聞いてもいいですか?」ズズーッ!
P「はい?」
菜々「あのですね、ナナあんまりそういう話には縁が無いんでよく分からないんですけどー」ズズーッ!
美優「……?」
菜々「Pさんっていまお付き合いしている女性の方っています?」
美優「っ!」ブッ!!
P「え? いや、いませんけど」
菜々「へー、そうですかー……ちなみに、いま気になってる女性の方っています?」ズズーッ! ズズッ……
P「珍しいこと聞いてきますね。普段ゲームの話しくらいしかしないのに……」
菜々「ナ、ナナだってこういうお話しは興味ありますからね!? で? どうなんですか?」
ガチャッ!
「いらっしゃいませ」
楓「あ、すみません……えっと、先に来ている人たちが……あっ」
389:以下、
P「おっ! 楓さん来ましたよ」
P(助かった……)
菜々「お疲れ様です楓さん。こっちですよー」
楓「すみません、お待たせしてしまって……」ガタッ
美優「お疲れ様です……」
P「丁度良かった。それじゃこれから――」
楓「いま何のお話をしていたんですか?」
菜々「Pさんがいま気になっている女性の方がいるんですかーってお話を少し」
楓「なるほど、どうなんですか?」グルンッ!
P「……男は俺1人なんですから、その話はやめましょうよ」
美優「いえ、こういうときくらいは……」
楓「……」ウンウン
菜々「まあ確かに不公平かもしれませんね。それじゃ少し変えて……好きな女性のタイプとかあります?」
P「まあ、それなら……」
390:以下、
菜々「それでそれで、どんな人がイイんですかぁ?」
P「木星圏にいた頃の上官の1人がそうだったっていうのもあるんですけど、酒癖の悪くない人がいいですね。酔い潰れて面倒なことにならないような人とか」
美優「」グサッ!
楓「」グサッ!
菜々(あ、やってしまった……)
P「しかもその上官なんですけどね、半日延々と訓練した後に飲みに連れて行かされるんですよ。ホントしんどいのなんのって」
菜々「あの、もうこのお話しやめませんか?」
P「え? 振ってきたのそっちじゃないですか……」
菜々「いえ、そのー……やっぱり男の人がPさん1人だと不公平かなーと思ったので」
P「まあそれならいいですけど……それじゃ店でますか?」
美優「そ、そうしましょう……楓さんも来ましたし……」
楓「はい……」
菜々「それじゃもう少し適当にぶらついて、夜になったらどこかでご飯食べて戻りましょうか!」
P「了解」
……
…………
391:以下、
――数時間後、夜、リトット、マーケット4番街(居酒屋)
菜々「えーと、フライの盛り合わせ、土星サラダ、砂肝、モツ鍋と」
P「生4つですか?」
菜々「あ、ナナは17歳ですからお酒は飲みませんからね? りんごジュースで」
P「ああそう……じゃあ生3つ」
楓「すみません、私ウーロン茶で」
美優「私も……」
P「えっ」
菜々「えっ」
楓「何か?」
P「いえ……じゃありんごジュース1つとウーロン茶2つ、生1つで」
「へいっ」
P「珍しいですね。美優さんはともかく、楓さんも酒頼まないなんて」
楓「私、真面目ですから。帰りのことも考えて、お酒飲んで体調を悪くしたらいけませんし」
P「お、おお……そんなこと言う人でしたっけ……」
楓「何か言いましたか?」
P「いえ……」
美優(今日は絶対に飲まないようにしないと……)
……
…………
392:以下、
――数十分後
楓「かんぱぁーい♪」ガチャッ!
美優「乾杯……」ウーン……
菜々「まあ20分くらいは持ちましたね」
P「最初の我慢はなんだったんだ一体……」
楓「ほらほらPさん、ビール来ましたからもう1回乾杯しますよ」
P「酒来るたびに乾杯するのかよ……乾杯」ガチャッ
美優(飲まないようにしないと……飲まないように……)
楓「あら、美優さん手が止まってますよ? もう飲まないんですか?」
美優「飲みます……飲みます……」ゴクゴクッ
菜々「ま、まあ限界来る前にはナナのほうでストップ掛けますから……」
P「もうゲロ吐かれるのは勘弁してほしいからな……頼みますよ」
ピピピッ! ピピピッ!
P「ん? 安部中尉、端末鳴ってませんか?」
393:以下、
菜々「あらら……はーい、ナナでーっす☆」
麗奈『はいはい。アンタたち何やってんの?』
菜々「いま飲んでたところですよ。どうかしましたか?」
麗奈『いや、アタシいま監視局から出たのよ。アンタたち、今日は外出るって申請出してたでしょ?』
菜々「まだ帰ってなかったんですか? 別件あったんですか?」
麗奈『ちょっと用事があったのよ。ドコ行ってんの? レイナサマもそっち行くから』
菜々「あーえっと、4番街の飲み屋に来てますよ。近くまで来たら連絡ください。迎えにきますから」
麗奈『4番街ね。了解』
ピッ!
P「麗奈が来るんですか?」
菜々「さっきまでお仕事してたみたいですね。まあ麗奈ちゃんもたまにはこういうお店行ったりしますから」
P「まあ、麗奈が来てあの飲んだくれも少しは大人しくなるといいんですけど……」
楓「すみませーん、生おかわりで」
……
…………
396:以下、
――数十分後、リトット(マーケット4番街)
P「んっとに、大尉はどこだよ……ここら辺だとは思うけど……」キョロキョロ
P「お、あそこに……大尉、じゃなかった麗奈!」タタタタッ!
麗奈「ん? ああアンタ、ようやく迎えに来たわね」
P「この人混みだと探すのも大変だよ……中尉たちは店で飲んでるから――」
麗奈「その前にちょっと付き合いなさい。どうせアイツらならまだ飲んでるでしょ」
P「ん?」
麗奈「いいから、付いてきなさい」
P「まあいいけど……」
……
…………
397:以下、
――リトット、マーケット2番街(広場)
麗奈「ほら、コレ飲んでいいわよ」ポイッ!
P「ありがとうございます」
麗奈「ふー……艦長の仕事もやるもんじゃないわね。たまにやると面倒ね、ホント」
P「S-01だと適当にしてたんだろ? むしろ普段がそれでよく艦長やれるな……」
麗奈「別に黒井がいるからレイナサマがやる必要ないでしょ。オモチャに乗って遊べればいいのよ」
P「遊ぶって……まあ、いいけど」
麗奈「……」
P「……」
麗奈「……ねえ」
P「ん?」
麗奈「アンタ、これから先……この世界のためにずっと戦っていける?」
P「なんだ突然」
麗奈「いいから答えなさい。どうなの」
398:以下、
P「……さあ、どうだろ」
麗奈「いつかは戦闘機から降りるってこと?」
P「そりゃ誰だっていつかは引退するだろ。俺だって……いまは蜂と戦っているけど、いつかは引退するだろうし」
麗奈「そう、いつか……いつかね」
P「どうした?」
麗奈「じゃあ、アンタはそのいつかの時まで……何があっても戦い続けることが出来る?」
P「どうだろうな。どうあれ、戦うのが仕事なら続けるだろうし、ただ……」
麗奈「ただ?」
P「……俺は、色んな物を無くしてしまったときの、あの感情を覚えている。俺が戦わないことで、誰かが俺と同じような思いをすることになるなら……」
グッ……!!
P「戦い続ける。それだけは、変わらない……俺がここまで来た理由。誰でもない、誰かのために……」
麗奈「……そう。やっぱそっか」
P「麗奈?」
399:以下、
麗奈「安心したようで安心できなかったっていうか……ま、アンタはアンタね」
麗奈「っと……アンタがこっちに来てからまだそんなに経ってないけど、何となく分かるってコトよ。そういうヤツかなって」
P「なんだよ、俺のことは分かりやすいヤツって言いたいのか?」
麗奈「別にそうは言わないわよ。ほら、それ飲んだらさっさと行くわよ」
P「んっとに……まあいいや。それじゃ行くか」
麗奈「……」
麗奈「ア……」
P「何か言ったか?」クルッ
麗奈「……何も言ってないわよ! ほら、さっさと案内しなさい!」バシッ!
P「痛って、叩くなよ……」
麗奈(正義のヒーロー、とまではいかないけど……それがアタシのやるべきことだから、これでいいのかしらね)
……
…………
400:以下、
――数十分後、マーケット4番街(居酒屋)
楓「ほらほら、大尉もぐいっとぐいっと♪」
麗奈「……あのね、レイナサマは酒はあまり――」
楓「はいはい飲みましょうねー。まさかあの大尉がもう飲めないなんて言わないですよねー?」グググッ!!
麗奈「ちょっ!? ぶっ……んぐぐぐ……!」
P「思いっきりビール流し込まれてるけど、アレ大丈夫なのか……?」
菜々「ああもう楓さん! そんな無理やりなんてダメですよぉ!」
美優「解放されてよかった……」
麗奈「ちょっ、ヤダ! 楓アンタ!! やめっ、飲ませんなっ! ちょっと! 燃やすわよ!!」
楓「ダメですー、ダメですー。燃やすのは焼き鳥だけで十分ですー。飲んでくださーい」グググッ!
P「燃やしたら炭になるだろ」
麗奈「菜々! コレ、コイツ! 早くどっかやって! 早く!」ググググッ!
菜々「あわわわわ……か、楓さん、少し飲むのやめましょう? ね?」
……
…………
401:以下、
――翌日、ヴェールSN-52(ブリッジ)
パシュンッ!
麗奈「……」
楓「あ、おはようございます大尉」
美優「おはようございます……」
麗奈「……」
楓「どうかしましたか?」
麗奈「アタシ、絶対アンタとはもう飲み屋行かないわ……」
楓「え?」
美優「うーん……」
麗奈「菜々もよく付き合うわねホント……まあいいわ、作業はどうなってんの」ガタッ
402:以下、
美優「整備班からは補給作業の完了連絡が来ています……艦のメンテナンスは後1時間程掛かるみたいです……」
麗奈「それじゃあ出航準備よ。メンテ終了後、ホクドウに向けて移動を開始、港を出た後、本部に一報入れておきなさい」
楓「了解です。それにしても、すぐ帰ることになって残念ですね」
麗奈「レイナサマは問題ないけど、現状のうちの装備じゃどの道あまり役に立てないでしょ」
麗奈「それにうちの調査隊……まあレイナサマはホクドウに戻ったら降りるけど、次の調査指示も来ているしね」
「デブリの索敵調査ですね。規模の大小に関わらず蜂の巣が紛れていないかって話しですけど」
美優「大丈夫なんですか……?」
「レドームで索敵調査するだけだからね。巣があったとしても極小規模程度だし、もしものときのために、別枠で前線部隊に随伴してもらうから大丈夫よ」
楓「調査隊もお忙しいんですね……」
麗奈「ほら、あまり喋ってないでさっさと出航準備済ませておきなさい。帰りは哨戒区域通るんだし、戦闘が発生する可能性はあるんだからね」
美優「り、了解です……」
……
…………
403:以下、
――数時間後、ヴェールSN-52(食堂)
菜々「へぇー、教導員の方、ようやく来たんですか」
黒井『どうやらギチトーのほうで別件が入ったらしい。全く、土星圏のほうが余程人員が必要だというのに、地球に引き篭もっている奴らは本当にどうしようもない』
菜々「まあまあそう言わずに。はむっ……そういえば黒井大佐、今期の実績どうすればいいですか? Pさんの分ですけど」モグモグ
黒井『ヤツからは色をつけておくように言われている。菜々ちゃんが書く分については思ったとおりに出してくれて構わん』
菜々「ヤツって、あっちにいる大佐のことですか? 別に、ナナはPさんなら普通に優良で付けていいと思いますけどね」
黒井『あの男の今後の仕事の為だ。ヤツとしては今後迎え入れる為の準備をしたいのだろう』
菜々「うげっ……てことはPさんはそのうち他所に行っちゃうってことですか……ううう、せっかく初めてのナナの部下でしたのに」
黒井『ま、まだしばらくはこちらで預かることになっているから、そ、そんな顔をする必要はない!』
菜々「でもぉ、Pさんがどこに異動することになるのかは知りませんけど、ナナはまだまだこっちでのお仕事だし……」
黒井『ん……ん、まあ、もし菜々ちゃんに適性があれば異動という可能性もある』
菜々「あ、それ前に聞きましたね。なんかそのうち、新規に立ち上げる別働部隊の適性試験をするって。全員対象なんですか?」
黒井『まあ……そうだな。大体の者は受けさせるみたいだ』
404:以下、
菜々「うー、それならその適性試験でいい結果が出せれば……! あわよくば次のI@LPの適性判定のネタにも……」
黒井『い、いやぁ……菜々ちゃん、そっち行きたいなら、ここで頑張ったほうがいいかもしれんが……』
菜々「とは言っても、結果がついてこないんですよねぇ……ナナなりには頑張ってるつもりなんですけど」
パシュンッ!
P「ん、安部中尉」フワッ
菜々「お疲れ様ですPさん。休憩ですか?」
P「ええ、グレイプニールの調整も終わったので今のうちに飯でも食おうかと……端末で誰と話してたんですか?」
菜々「ああ、それなら……」スッ
黒井『私だ』
P「黒井大佐……お疲れ様です」
405:以下、
菜々「いま丁度Pさんのお話してたんですよ。頑張ってるぞーって」
P「そ、そうですか」
黒井『勘違いをするな。私は安部中尉の評価を聞いていただけで、私自身は貴様を評価しているわけではない』
P「分かってますよ……」
菜々「あ、そうそうPさん、ホクドウにいたとき、地球からこっちに来る教導員のお話しがあったじゃないですか」
P「ありましたね。到着が遅れるとかでしたけど」
菜々「ホクドウに来たみたいで、ナナたちも戻ったら訓練はそっちに混ざるみたいですよ。どんな方なんでしょうかねー」
P「まあ……戻った後に何度訓練できるかは分かりませんけどね。俺も楽しみです……じゃ、食券買いますので」
菜々「あ、すみませんね呼び止めちゃって」
黒井『貴様、あまり安部中尉に迷惑を掛けるなよ』
P「了解です」
……
…………
406:以下、
――十数分後、ヴェールSN-52(食堂)
P「ふうん、土星圏の作業用コロニーが一部統合か……」カタカタカタッ
P「とはいえ、まあ軍が常駐する事を考えたら場所によってはそうなるか。部隊の運用も――」
美優「こんにちは」フワッ
P「ん……お疲れ様です。美優さんも休憩ですか?」ピクッ
美優「はい。楓さんがまだ空かないので、先にご飯をと思って……」
P「珍しいですね。あの人、仕事終わらせるの早いと思ってたけど」
美優「ほら……昨日の、小関大尉と飲んでいたときのことで……大尉に色々お仕事振られちゃっていましたから」
P「ああ……まあ、それならいいや」
美優「ふふっ。端末で何を見ていたんですか?」ガタッ
P「ニュースと、広報から来てる広告ですよ。あまりこっちの事情とかには触れてなかったので……ん?」ピピッ!
P「新しい広報か……なんだこんなのか」ピッ
407:以下、
美優「何が届いたんですか?」
P「I@LPってやつ、ほら……なんだっけ、広報のほうでやってるアイドルの」
美優「そういえばこの間、適性試験があったみたいですね。でも、このお仕事をやりながらアイドルなんて……難しいですよね」
P「まあ、土星圏に来たらそっちの仕事はないみたいですからね。木星圏だと、ヴェールにスペース作ってレッスン場とかありましたよ」
美優「そうなんですか……」
P「まあそれも土星圏だと無いみたいだし、こっちで適性試験に受かった人は木星圏か火星圏に戻されるみたいですけど」
美優「でも……やっぱりこっちでも人気ですよ。同僚とも、たまにI@LPのお話しもしますし……」
P「へえ、美優さんもこういう、興味あるんですね」
美優「わ、私がやりたいとか……そういう話じゃないんですよ? ただ、知り合いの誰が試験を受けたとか、そういうお話とかで……」
P「……」
美優「……え、あの……なんですか?」
P「いや、美優さんならイイとこ行けるんじゃないかと思って」
美優「え……えっ……?」
408:以下、
P「まあこっちの仕事ありますからね。I@LPと任務両方消化するなんて……広報のアイドルもよくやるよなぁ……」カタカタカタッ
美優「……」
P「休暇に利用する施設の広告とか……2泊3日の休みなんていつ取るんだよ……」ピピッ
美優「……あの」
P「はい?」
美優「わ、私が……アイドル、やったとしたら……どうですか?」
P「は?」
美優「あっ、えっ……いえ、な、何でもないです……」
P「……まあ、応援するだろうなあって。俺、アイドルはあんまり興味ないけど、美優さんがアイドルとかやり始めたら……うーん」
P「どうするのかなあ、応援とかって……安部中尉とか色々教えてくれたりするのかな」
美優「……そ、そうですか」
……
…………
409:以下、
――数日後、戦闘宙域
蜂「!!」ズドォンッ!
P「安部中尉!」ギュンッ!!
菜々『大丈夫ですよ! っていうかグレイプニールへの搭載用の粒子減衰膜とか使っちゃったせいでこっちもグラム使えませんから!』ギュオオオオッ!
P「これ機体周辺が減衰区域になるのってダメだろ……安部中尉が前に出れないならこっちで対処します。弾幕支援お願いしますよ」ギュンッ!
菜々『うううう……ミョルニルで奥で固まってる3匹を散らしますよ! 手前に来たヤツからお願いします!』ボシュシュシュッ!
蜂「……」ギュンッ!
蜂「……」ギュンッ!
蜂「……」ギュンッ!
P「中尉の機体周りにいるとこっちの手数が減るからマニューバも組めん……まあいい、ドラウプニル!」ギュオオオオオッ!
ドガガガガガガガッ!!
蜂「!?」ドガアアアアアンッ!!
P「単独のマニューバでも問題ない……!」ギュンッ!
419:以下、
ピピピッ!
麗奈『前線、弾幕支援するわよ。攻撃範囲には気をつけなさい』
ズドドドドドドドッ!!
P「アルヴァルディの援護か……これで後1匹……!」
ズドォンッ!
ドガアアアアアアアアンッ!!
P「他の小隊で片付けたか……」
ピピピッ!
『最後1匹、片付けといたぜ。そっちばかりにスコア取られてばかりだと、俺たちも困るからな』
P「すみません、ありがとうございます」
『気にすんなよ。そっちは運用テストで出ずっぱりなんだから、少しはこっちの部隊にも分けてくれよ』
P「了解。それじゃ……戻りますか」
菜々『そうですねー。はぁ、戦闘無く平和にホクドウに戻りたかった……』
P「んな無理なこと言わないで下さいよ。リトットで特に対応も無く戻るから哨戒区域を通っているんですから」
菜々『ですよねー……はぁ』
……
…………
411:以下、
――数時間後、ヴェールSN-52(格納庫)
菜々「いやいや、今回の兵装はダメですよ」
P「まあな……制限が掛かるってのはちょっと」
菜々「そもそもですよ? 機体粒子保護して被弾抑えるつもりがビーム出力も落ちるなんて、逆に動きにくかったですよ!」
P「まあ、立体機動で頑張ってくださいってことで」
菜々「ナナはか弱い隊長なので、Pさんや麗奈ちゃんみたいな危ないことはできないんです!」
「むう……こちらとしても、想定以上に機体側に影響が出てしまったので……」
P「コンセプトとしては悪くないと思うんだけどな。実際、F型やS型相手にして怖いのって粒子砲だし」
菜々「防御用の兵装だったら、別で検討してるサイドバインダーだけでいいんじゃないですか?」
「いくつか検討されているものがあるんですよ。今回の粒子保護膜が上手く行けば機体の拡張性も確保できると思ったんですが……」
P「難しいな。追加兵装で被弾を抑えるならその分、装備も制限されるだろうけど」
菜々「まー当たらないのが一番なんですけどね」
412:以下、
楓「粒子減衰ミサイルと同様の効果で補おうとしたからダメだったと思いますけど……専用の粒子保護膜を作る、とか……」
菜々「それ、コスト高そうですけどね」
P「いまの運用テストで使っている装備は量産前提だから高級生産品となるとダメですね」
「了解です。こちらも頭からやり直しですね。機体保護用の装備については詳しそうな方が別にいますし、そちらに一旦回してみます」
菜々「今回の運用テストの開発部ですか?」
「いえ、ナシヤマに勤めてる方で、別プロジェクトに参画されている方ですね。いまの仕事内容はちょっと聞いてませんが」
楓「こういうことに凄く詳しい人っていそうですよね」
P「まあ、そういう頭良さそうな研究者っていうのなら、いそうっちゃいそうですけど」
「凄い人ですよ。グレイプニールの基本設計にも関わっていますからね」
菜々「おおお、それは確かに凄そう……」
P「それが何でG2なんて足の遅いもん作ってしまったんだか……」
「ははは……とりあえず再検討ということで、こちらは戻しておきます。次のテストもお願いします」
菜々「はーい」
……
…………
413:以下、
――ヴェールSN-52(通路)
菜々「うーん……ようやく安全航路圏に戻れる……」フワフワ
P「まあ、艦の編成も少ないから長時間哨戒区域に滞在できませんからね。次の戦闘までは休みか……」
楓「お疲れ様です。少し、お休みになりますか?」
P「評価報告も書くし、それ終わってからにしますよ」
菜々「それじゃいつも通りPさんのお部屋でダラダラ過ごしましょうか!」
美優「あ……」フワッ
楓「お疲れ様です美優さん。交代ですか?」
美優「はい……哨戒区域に入ってからは、ずっとブリッジ担当になっていましたので……」
菜々「大変ですねー。ナナたちは戦闘になったら部屋からダッシュすればいいですけど」
414:以下、
美優「あの、みなさんもこれからお休みですか?」
菜々「運用テストの評価報告書くんですけどね。Pさんが」
楓「はい、Pさんが書きます」
P「結局俺ばっかり書いてるんですよ」
美優「そ、そうですか……」
菜々「なのでラピッドストライカー隊は、これからPさんの部屋でダラダラ過ごす時間なんです」
P「休むなら自分の部屋で休んでくれませんかね……」
楓「エナドリ、新しいの入れてくれましたか?」
P「この前入れたヤツ全部持ってったじゃないですか……そろそろ飲んだ分返してくださいよ」
楓「Pさん? それは上官に奢れって言ってますか?」
P「奢る奢らない以前の話で、他人の部屋の冷蔵庫の中身を勝手に持っていかないでください」
楓「お酒飲んだ後はエナドリが効くので……」
菜々「いまの聞かなかったことにしておきましょうか」
415:以下、
美優「……あ、あの」
菜々「はい?」
美優「み、みなさん、これからPさんのお部屋に行くなら……」
P「この人たちが勝手に言ってるだけなんですよ」
美優「わ、私も……その、お邪魔してもいいですか……?」
楓「……」
P「え、いいですけど……」
菜々「でもナナたち、一応お仕事やってますけどいいですか?」
美優「い、いえ、大丈夫です……大丈夫……」
P「そっちはゲームやってばかりだけどな……まあ、特に何も無くていいなら」
美優「そ、そうですか……ほっ、それじゃあ、失礼しますね」
菜々「美優さんもラピッドストライカー隊に臨時参戦ですね!」
楓「お酒、こっそり持ってきましょうか?」
美優「い、いえっ! だ、大丈夫ですから……」
P(というか隣の2人が完全に遊んでるだけだし断るに断れん……)
……
…………
420:以下、
――数十分後、ヴェールSN-05(Pの部屋)
菜々「ちょっと楓さん! そこ右! 右から来てますよ!」ポチポチッ!
楓「あっあっ……あ、死ぬ……」ポチポチ
菜々「ダミーバルーンで敵の視線を逸らしておくから回復しといてください!」
美優「……」
P「搭載兵装の変更等が発生せず、えーっと……現行運用と同等の戦闘を行えるため……」カタカタカタッ!
菜々「あああっ!? ナナ、ナナのほうにヤツが来ちゃいましたよ! あっ、死ぬっ! あっ、あ……」
<ドガーンッ!
楓「ああああ……リーダーがお亡くなりになってしまいました……」
菜々「ナナはもう亡霊になりました……あとは楓さんのほうで削りきってください……」
P「グレイプニール自体の耐久性については第二世代で大幅に改善されたが、機動性が低下しており採用率が低いこともあるので……」カタカタカタッ!
美優(本当にPさんがお仕事している横でゲームで遊んでる……)
421:以下、
P「んー……改善提案の部分どうするかな。運用は何となく書けそうだけどコスト面のところはよく分からんな……」
美優「あの、Pさん」フワッ
P「んー……ん、はい? どうしました?」ピクッ
美優「いえ、評価報告……どうですか?」
P「ちょっと書く内容が難しくて。今回中尉が使った粒子減衰膜が思った以上に使い物にならなくて、改善提案の部分をどう書こうかなって」
美優「スクリーンで戦闘を見ていましたけど……効果自体はあったんですよね?」
P「ええ、直撃コースじゃなかったみたいですけど、機体周辺の減衰区域になったところに飛んできた粒子砲の威力は下がっていたみたいですからね」カタカタカタッ!
ピピッ!
P「貰ってきた戦闘記録だとここかな……20の範囲を通過した辺りで粒子砲の減衰が確認できていますし」
美優(Pさんの背中……)
422:以下、
P「ただ結局、中尉のOPFからグラムを撃とうにも粒子減衰区域からの射撃で威力が出なくなったってところがあって……」
美優「すみません、後ろから失礼します……端末のキーボードを……えっと、計測範囲がこの位置からなので……」グイッ!
ムニュッ
P(おうふ……弾力のあるモノが……)
楓「……」ピクッ
美優「粒子減衰区域をこの範囲まで縮めることができれば……機体の耐久性も確保できますし、外付けの装備でなら戦闘に参加することも……」カタカタカタッ
ムニュッ、ムニュッ!
P「は、はい……そうですね。それなら評価報告もとりあえず形は作れそうだし、それで……」
P(やめろ、悪意無くそんなモノを押し付けるな……やめてくれ……!)
菜々「うーん、強化素材が足りない……楓さんもう1回行きます? 楓さん?」クルッ
423:以下、
楓「それじゃあダメです。Pさん、格納庫でお話ししたじゃないですか。専用の粒子保護膜を作ったほうが良さそうですって」ズイッ!
美優「楓さん……」ハッ!
P「えっ? あ、ああ……そ、そうでしたね。でもそれだとコストは高いだろうって話も……」
楓「とはいえ今回の試作兵装は現行で使用している機能の流用でしたし……グレイプニールの機体仕様を見ても、標準兵装として盛り込む形にしほうが……」カタカタカタッ!
フニッ、フニッ
P(こっちからも何か当たっとる……)
美優「いえ、ですけど楓さん、運用テストの観点としては……」
楓「だけど実際に導入する場合は機体仕様を変える方向でいかないと……」
ムニュッ! ムニュッ!
フニッ、フニッ!
P「すみません安部中尉、この2人を――」
菜々「あーはいはい。ナナは今から1回クエストへ行くのに忙しいのでそっちでよろしくやってくださいはいはい」シッシッ!
P「……」
……
…………
424:以下、
――数日後、ヴェールSN-05(ブリッジ)
麗奈「はぁ……わざわざ哨戒区域を通ってきたから、戻るのに時間掛かったわね」
楓「まあ、リトットでの調査も実質やりませんでしたから……」
麗奈「来る途中でD型を始末したのもねぇ……ま、たくさん来られたら面倒な奴らだろうけど」
美優「大尉、ホクドウからガイドラインが来ました。入港準備に入ります」カタカタカタッ!
麗奈「それじゃS-01から来たメンバーは1度本部に立ち寄ってから戻るわよ。調査隊メンバーは艦で待機、こっちの艦長からは連絡があって木星圏から帰ってきてるわ」
麗奈「再編成で艦長は戻るから、後はそっちの指示に従っておきなさい」
「いやー、新種は倒したけどあんまり成果無かったわねぇ」
美優「直近で最新の戦闘データを採取できただけでも……十分な成果だと思いますけど……」
麗奈「そこら辺は黒川重工に文句言っておきなさい。それじゃ、アンタたちもお疲れ様」
楓「私たちはS-01に戻った後のほうが大変ですけどね」
麗奈「土星圏にいるならドコも似たようなもんよ。ほら、さっさと艦は港に入れて、アタシたちは降りる準備するわよ」
……
…………
425:以下、
――数時間後、ホクドウ、軍本部(会議室)
黒井「で、成果はこれだけだというのか」バサッ!
麗奈「まあいいでしょ。レイナサマも暇潰し程度にはなったわよ」
菜々「ま、まあ調査隊の本作業には参加しないで帰ってきましたけど、その分戦闘データは結構揃いましたからね? ラピッドストライカー隊としての活動は大成功でしたけど」
P「ラピッドストライカー隊の運用テストについても、今回の調査活動で予定より早く項目を消化できましたので……」
黒井「フンッ! 黒川の馬鹿共が、これではリトットの運用管理を民間に渡している意味がない! これならばコロニーの管理を国連に戻したほうが余程マシだ!」
美優「ひっ……」ビクッ!
麗奈「……」
楓「まあまあ、そんなに怒らないでください。そういうお話は偉い人たちがすることですから……」
P「他に報告内容ありました?」
菜々「あとは……ないですね。とりあえずナナたちからはこれくらいですかね」
426:以下、
麗奈「それにしても、D型のことを考えるなら現行の対応としてはG2を引っ張り出すしかないってのがね」
P「非常に面倒だ……あんな物乗りたがるパイロットは中々いないぞ……」
菜々「でも少なくともG2で標準搭載している大口径のグラムくらいは無いと戦うのも大変ですよ。そりゃ麗奈ちゃんとPさんなら何とかしちゃうんでしょうけど……」
麗奈「他の奴らの鍛え方が足りないのよ」
P「麗奈の訓練に付き合って平然としていられる奴のほうが少ないと思うんだが」
楓「G2自体は工場のほうで大量に余してそうですし、すぐ持ってこれると思いますけどね」
菜々「運用手段ないんですけど」
麗奈「ふーん……よしP、アンタG2使いなさい」
菜々「えっ」
P「は?」
427:以下、
麗奈「アンタならいけるでしょ。楓、テストやったブースターユニットってどうなったの?」
楓「ええと……まだオート・クレールのほうでの採点は終わってないみたいですけど、恐らく実装対象になるかも……っていうお話なら……」
麗奈「じゃそれ貰っておきなさい。G2に括りつけて機動力確保すれば飛ばすくらいいけるでしょ」
P「操作性も分からんから出来るなんて言えないぞ」
麗奈「出来なくてもやるのよ。アンタはそれくらいやらないとダメよ」
P「……」チラッ
黒井「その目はなんだ。私に助けを求めるな」
菜々「ま、まあまあ、そのお話しはまた今度ってことで……」
P「もう嫌な予感しかしないんだが」
……
…………
428:以下、
――数時間後、ホクドウ、軍本部(資料室)
P「……」カタカタカタッ!
ピピッ!
P(アルヴィスの更新情報にリトットでの戦闘はないか……俺たちの戦闘記録は載せられているが)
P(黒川重工のほうで何かあるのは間違いないだろうが、そこら辺の情報はここに乗っかってこないだろうな)ピッ……
パシュンッ!
P「ん」ピクッ!
麗奈「……あれ、アンタ1人?」
P「たい……麗奈か。資料室に用事……あるのか?」
麗奈「何よその顔、レイナサマも仕事してるわよ。アンタより忙しいんだから」
429:以下、
P「まあ、そうだろうけど……」
麗奈「あれ、他のミーミルも点検中じゃないの……ちょっとアンタ、そこ除けなさい」
P「俺も調べ物があるんだが」
麗奈「レイナサマの命令に逆らうんじゃないわよ。それに何見てんのよ」
P「いや、結局黒川重工のほうでストップ掛けていたD型との戦闘記録は公開されなかったのかと思ってな」
麗奈「ああ、それならアンタは気にしなくていいわよ」ガタッ
麗奈「ほら、そんなことどうでもいいから、さっさとレイナサマに椅子渡しなさい!」バシッ!
P「痛って……わかったよ」ガタッ
麗奈「アンタ、明日休みでしょ? 休み明けたら訓練なんだから、しっかりやりなさいよ」
P「分かってるよ……あれ、麗奈は休みじゃないのか?」
麗奈「ちょっと工場に用があるのよねー。楓も菜々の代わりに評価報告の結果もらいに行くみたいだから一緒に連れてくけど」カタカタカタッ!
P「そういえば2人してそんな話はしてたな……了解」
パシュンッ!
……
…………
430:以下、
――ホクドウ、軍本部(通路)
P「んっとに麗奈は……S-01はまだ入れないんだったか。明日また資料室に行くか……?」
P「……ん」ピクッ
麗奈『ああ、それならアンタは気にしなくていいわよ』
P「あの言い方……麗奈、なんか知っていたのか?」
P「……」
P「いや……麗奈なら、必要なら俺たちには何かしら教えてくれているだろうし、気にすることでもないか」
……
…………
431:以下、
――夜、ホクドウ、軍本部、宿舎(Pの部屋)
ドサッ!
P「ふう……疲れた」
P「明日1日休み挟んでから訓練か……教導員の話でも誰か捕まえて聞いておくか」
P「明日、明日……そういえば、明日は……」
ピピピッ! ピピピッ!
P「ん、通信……しまった、履歴付いてる……本部にいたとき気付かなかったな」ピッ!
P「すみません、Pです」
美優『は、はい……お疲れ様です……』
P「すみません美優さん。ちょっと本部に残っていたんですけど、連絡に気付かなくて……」
美優『いえ、お忙しかったのなら……』
432:以下、
P「ミーミルを使ってただけですよ。それより、何かありましたか? 何回か連絡してくれたみたいですけど」
美優『え、えっと……その……』
P「……」
美優『あ、明日、お休みですよね、私たち……その、特に予定が無ければ、なんですけど……町に行きませんか……?』
P「分かりました」
美優『そ、そうですよね、Pさんも別件とか……え?』
P「朝に少し作業があるので、昼頃に広場前のステーションで合流ってことでいいですか?」
美優『えっ? あっ、あ……は、はい……』
P「それじゃ明日ステーションでってことで……今日はもう遅い時間ですし、失礼しますね」
美優『は、はい。し、失礼します……』
ピッ!
P「……」
P「……これはあれか、デートか」
……
…………
433:以下、
――ホクドウ、軍本部、宿舎(美優の部屋)
美優「明日、明日……えっと、お昼に駅前で待ち合わせならご飯を食べてってことになるし、近くのお店……」カタカタカタカタッ!!
美優「あ、あと、行く場所、行く場所……え、映画とか……あ、でも映像舞台もやってるはずだから」カチッ!
ピピッ!
美優「よ、予約で埋まりきってる……空いてる時間、内容は……レビューで評判が良さそうなモノで……」
美優「ああでも、Pさんはこういうことはよく知らないってお話ししてたから……ううう……さ、誘えたのは良かったけど、明日やることが……」
美優「……」チラッ
美優「お昼に待ち合わせだから、寝る前にもう少し色々調べておいて……」カタカタカタッ!
……
…………
434:以下、
――翌日
ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!
美優「……」
ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!
美優「ん……んぅ……」モゾッ
ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!
ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!
美優「目覚まし……朝……!?」ガバッ!!
ピピピピ……
美優「あ、あああ……! も、もうすぐで……お昼……」サーッ……
……
…………
435:以下、
――午後、ホクドウ、ショッピングモール(広場前)
P「……」カタカタカタッ
P「……これか、朝に教えてもらった教導員のデータ……財前時子……地球から来たってことはエリートってとこか」
P「財前中尉……この年齢で中尉か。エリートっつってもコレは中ないな……」
P「本人の宇宙での戦闘経験は無し、か……いや、ヴェールの運用経験が残ってるな。この年齢でどういうルートでそこまでやれてるんだ?」
P「まぁわざわざ地球から来たってことはそれなりってことなんだろうけど……教導を受けたパイロットや指揮官で実績をあげている奴もいるんだろうか」
P「この辺の事情はよく分からんな……」
美優「P……Pさん……!!」タタタタタッ!!
P「ん、美優さん……お疲れ様です」ピッ!
436:以下、
美優「すっ、すみま……すみません……お、遅れて……」ハッ、ハァッ、ハァッ……
P「わざわざ走ってきたんですか……いや、俺のほうも朝に貰ったデータの確認をしていたので別に……」
美優「で、でも、その……す、すみませんでした……」ハァ、ハァ……
P「ま、まあまあ……それじゃあ、これからどうしますか?」
美優「え? あ、そ、そうです……えっと、ま、まずは……えっと……」
P「……それじゃあ、どこか店に入ってもいいですか? 待ち合わせってお話しだったんですけど、朝から別件があってまだ飯食ってないんです」
美優「へ? あ、わ、わかりました……」
P「えーっと……俺はこっちの店はよく分からないんで、美優さんの知ってる店とかがあれば教えてくれませんか?」
美優「は、はい……」
……
…………
437:以下、
――数十分後、ホクドウ、ショッピングモール(喫茶店内)
P「スイーツの店か……」キョロキョロ
美優「い、一応軽食もありますから……あの、いまいち、でしたか?」
P「いや、1人だとこういう店に来る機会もないですし……すみません」
「はーい♪ ご注文どうぞっ」
美優「ええと……コーヒーとランチのAをお願いします」
P「ああ、コーヒー2つで。あとランチCと……ショートケーキ」
「かしこまりましたー♪」
美優「……甘い物、お好きなんですか?」
P「え? いや、むしろあまり食べませんよ」
美優「そ、そうなんですか?」
P「美優さんの知ってるお店ですし、普段は来る機会もないですからね。せっかくだし甘い物でも頼んでみるかなと思って」
美優「ほっ……それならよかったです。あまり食べないのに注文するのはどうしてなのかと思って……」
P「物は試しってヤツです。たまにはこういうのもいいかなって」
……
…………
438:以下、
――数分後
「お待たせしました、ショートケーキになりまーす♪ ごゆっくり☆」
P「さて……ケーキなんて随分と食べてなかったからな」
美優「私は、お昼ご飯があるから頼みませんでしたけど、ここのケーキは美味しいですよ」
P「どれどれ……」スッ……
美優「どうですか?」
P「……甘い。思ったより甘いな……うん、美味い。たまにはこういうのも、いいかな」
美優「そうですよね。私も、買い物の帰りに寄ったときには頼むんです。美味しいですよね」
P「うん……美味しいです。こういうのが流行りなのか」
P(ダメだ……甘すぎる。1つでも余るなこれは……)
美優「ふふっ、気に入ってくださったなら嬉しいです」
P(まあ……本当にたまになら、いいか……)モグモグ……
……
…………
439:以下、
――ホクドウ、ショッピングモール(百貨店内)
美優「これ、どうですか?」
P「麦わら帽子か……うーん、まだ夏の季節じゃありませんからねぇ……」
美優「……そ、それじゃあ、例えば……水着を着ていたら……」
P「……それは、まあ……似合うと思います、多分」
美優「……」
P「……」
美優「……え、えいっ!」
ポスッ
P「ん……なんですか」グイッ
美優「……Pさんは、あまり麦わら帽子は似合わないですね」
P「被せてきておいてそれを言うのか……」
美優「ふふっ……♪」
……
…………
444:以下、
――ホクドウ、工業ブロック、オート・クレール社(オフィス)
楓「予定していた兵装分のテストも全部終わらることが出来たのでよかったです」
麗奈「採用予定のレギンと、後は検討対象になったのがテストした分の半分か……まっ、思ったよりは使えそうなもんあったんじゃないの?」
楓「あとはG2の手配も纏めて頼めたのはラッキーでしたね。ブースターユニットの調整と合わせて準備してもらえることになりましたし」
麗奈「軍の工場に置いてあるヤツ持ってくるのも面倒だったから丁度いいわ。調整はPが勝手にやるだろうから、とりあえず括りつけてもらえばいいし……っと、ちょっと待って」ピピピッ!
麗奈「誰よ」ピッ!
菜々『あ、もしもし麗奈ちゃんですか? いま連絡しても大丈夫でした?』
麗奈「楓のほうの評価報告結果も貰ったし手空いたところよ。なに?」
菜々『いえー、Pさんそっちに来てませんか?』
麗奈「P?」
楓「いえ……来ていませんけど」
445:以下、
菜々『あららそうですか……どこいったのかなぁ、連絡もつきませんし』
麗奈「何かあったの?」
菜々『あ、いえ、これからちょっと用事が出来て本部に行くんですけどね、丁度いいからついでに新しい教導員の方にご挨拶しに行こうかと思ってPさんを探してたんですけど……』
麗奈「アイツ今日はオフでしょ? どこか行ってんじゃないの?」
菜々『あっ、そういえば……Pさんから外出連絡が来てたような。ちょっと確認します』
ピッ!
楓「Pさん、どこ行ったんでしょうか?」
麗奈「さあね。ま、休みなんだし好きにさせればいいでしょ。それより楓、アンタお腹空いてない? 酒は飲まないけどちょっとアタシお腹空いたのよね」
楓「お酒……」
麗奈「何よその顔は」
楓「いえ、明るいうちに飲むのも、たまにはいいかと思って……」
446:以下、
麗奈「アンタ、部屋に隠しているもん没収してもいいのよ?」
楓「!?」
楓「な、なんのことでしょうか……」
麗奈「アタシの目を見て言いなさい」
麗奈「ま、飲みたいなら夜に菜々とでも行ってきなさいよ……ほら、行くわよ」
楓「はーい」
麗奈「……」
楓「大尉?」
麗奈「ん、何でもないわよ」
麗奈(そういえば、今日は……)
……
…………
447:以下、
――ホクドウ、ショッピングモール(シティホール)
『アタシは最後まで、一緒に行くことは出来ない……だから、アタシの願いを、連れて行ってくれ』
『……まっ、それくらいならいいケド』
美優「……」
P「……」
『それじゃアタシからアンタに餞別』
『これは……』
『アタシに見せた意志……貫いてみせなさい。アンタだけは、最後まで』
『……ああ』
美優「……」ウルウル
P「……」
……
…………
448:以下、
――数時間後、夕方、ホクドウ、ショッピングモール(広場)
美優「映像舞台、どうでしたか?」
P「面白かったですよ。はじめて見ましたね。あれ、全部役者の人たちは別々の場所で撮影しているんですか?」
美優「全員が全員じゃないみたいですけど、軍に所属している方もいるみたいで、そういう人たちは専用の艦内スペースで演技の撮影を別でやっているみたいですよ」
P「へぇ、随分と大変そうだな……」
美優「そうですよね。特に広報のアイドルだと宇宙に出ている場合は収録も大変みたいで……」
P「アイドルも楽じゃないな……まあ、俺には縁のない話だけど」
美優「ふふっ、Pさんも、もしかしたらある日突然、広報から適性があるってお話でアイドルのプロデューサーになったりするかもしれませんよ?」
P「ははっ、どういう状況ですかそれは……まあ、そんなことになったら俺も前線の仕事が無くなるだろうし引退しますよ」
美優「……あら、もうこんな時間ですね。Pさん、夕食はどうしましょうか?」
P「……」ピクッ
449:以下、
美優「この時間からで、入れそうなお店は……」
P「美優さん」
美優「はい?」
P「すみません、暗くなる前に別件で済ませたい用事があるんです。それなりに時間が掛かると思うので、夕食は……」
美優「あ……そ、そうでしたか。すみません、朝もお仕事みたいで、夕方も……私、タイミングの悪いときにお誘いしちゃいましたよね」
P「いえ、そういうわけじゃ……その」
美優「……」
P「楽しかったです。久しぶりに……だから、また誘ってください」
美優「……は、はい」
P「それじゃあ、今日はありがとうございます。お疲れ様でした」
タタタタタッ……
美優「あっ、Pさ……」
……
…………
450:以下、
――同時刻、ホクドウ、ショッピングモール(広場)
麗奈「はー、結局ご飯食べてから適当にぶら付いて、大分時間潰したわね。もう夕方か……」
楓「このまま飲みに行くのはどうですか?」
麗奈「ふざけんじゃないわよ。飲みたきゃ菜々を呼びなさい、菜々を」
楓「それじゃあ菜々ちゃんに通信して……」
「楽しかったです。久しぶりに……だから、また誘ってください」
楓「……」ピクッ
楓(いまの声……)キョロキョロ
451:以下、
P「それじゃあ、今日はありがとうございます。お疲れ様でした」
美優「あっ、Pさ……」
楓(あそこに、Pさんと……美優、さん……?)
美優「……」
楓(Pさん、どこに……)
麗奈「ま、レイナサマも暇じゃないしそろそろ帰るか……」
楓「すみません大尉……私、ちょっと用事があるので」
麗奈「ん? 一人で飲みに行くの? まあゲロ吐かない程度にしときなさいよ」
楓「はい」
タッタッタッタ……
……
…………
452:以下、
――ホクドウ、ショッピングモール(花屋前)
P「……」
P(花は……今回もいいか)
……
…………
453:以下、
――数十分後、ホクドウ(共同墓地)
P「……ここも、ナシヤマの墓地とは作りが一緒か」
楓(どうしてこんなところに……Pさん……)
P「父さん、母さん」スッ
楓(……!)
楓(Pさん、もしかしてご両親を……)
P「ナシヤマの墓じゃなくても、共同墓地ならどこでもいいよな。まあ、二人とも宇宙で死んじまったけど」
P「俺も、ようやくこんなところまで来たよ。ついこの前まで木星圏にいたけど、いまじゃ前線だ」
P「二人が生きていた頃はキラー・ビーもいなかったし、土星圏は今より安全だったんだろうけど」
P「今じゃ戦いばかりで、最近は俺も何がしたくて軍に入ったのか分かんなくなっていたよ。ホクドウに来たばかりの頃は、特に……」
454:以下、
『さあ……軍にいるってことは、知らない人のために戦うってことでしょうけど、俺自身が本当は何がしたいのかは……よく分からないです』
P「だけど、蜂と戦って、守れたものもあって、みんなと一緒にいることができて、嬉しかったこともあって……」
P「いまなら、もう少し違うのかなって思ってる」
『戦い続ける。それだけは、変わらない……俺がここまで来た理由。誰でもない、誰かのために……』
P「俺が戦うことで、俺のような思いをしなくて済む人が増えるなら、戦い続けるのもいいかもしれない」
P「だから、いまはそれでいいのかなって思う」
P「最後まで、俺がちゃんとやりきれるように……見ててくれ」
455:以下、
P「……共同墓石くらいは綺麗にしてから帰ろうと思ったけど、案外綺麗なもんなんだな」
P「それだけ、ここに来る人が多いってことか」
P「そうだよな、ここは……ナシヤマ以上に戦いが多くて、その分死ぬ人も多いんだよな。ジョシュア中尉も……」
スッ……
P「また来るよ。今度は……もう少し平和になってからとか、かな」
楓(……)
……
…………
456:以下、
――夜、ホクドウ(共同墓地前)
P「……帰るか」
楓「Pさん」
P「っ!? 高垣中尉……どうしてこんなところに」
楓「中尉はダメってお話したはずですよ。その……すみません、夕方に街でPさんを見かけて、それで……」
P「……まあ、野暮用です」
楓「ご両親……なんですよね。聞いちゃって……」
P「もう随分前です。土星圏で働いてた二人が、エイルに乗って地球にいた俺に会いに来る途中……木星圏辺りで蜂に遭ってそのまま……」
楓「そう、ですか……」
P「俺が小さい頃の話ですよ。だから、今は気にしているわけじゃないです。親の代わり、じゃないですけど……その分まで軍に入って戦うことができるならって――」
楓「ダメです」
P「楓さん……?」
457:以下、
楓「それじゃあ、ダメです。私は、ダメだって思うんです」
楓「Pさんは、ずっと戦い続けるんですか? 軍にいる間はお仕事だからって、ずっとずっと……誰かのために戦い続けるんですか?」
P「……まあ、それが出来るまでは」
楓「そんなの悲しいです」スッ
ギュッ!
P「かえ……」
楓「ずっと誰かのために戦い続けるなんて、おかしいです。私たちは、そのために軍にいるのかもしれませんけれど……」
楓「でも、Pさんは自分のために戦ってもいいと思うんです。誰かのために戦っても……最後は、自分のために」
P「俺が……俺のために戦う、か……でも、どうして?」
458:以下、
楓「分かりません。ただ私は……Pさんがそんなふうに戦い続けるのは、嫌だって思ったんです」
楓「それなら私は、私のために、Pさんをお助けしてあげようって、思って……」
P「……」
楓「……ご、ごめんなさい。私、いきなりこんなこと言うなんて」
P「いえ、ありがとうございます」
楓「Pさん……」
P「俺も、なんだか最近色々あってここに来て、おセンチな気分になってたかもしれません。楓さんにまで心配掛けさせてるようじゃダメですね」
楓「いえ、私には……心配掛けても……」
P「まあ麗奈に腑抜け扱いされて蹴られない程度には頑張りますよ。それに、楓さんに助けてもらうのも悪くはないと思いますけど……」
P「やっぱり、そういうのは前線に出ている俺の仕事です。任せてください」
楓「……」
459:以下、
P「さて……帰ろうかと思ったけど、晩飯代わりに少し飲みにでも行きますか?」
楓「!!」ビクッ!
P「明日から訓練だし、あまり遅い時間までは無理ですけど」
グイッ!
楓「行きましょう。今すぐ行きましょう、今日は大尉が付き合ってくれなかったのでどうしようかと思っていたところなんです。とことん飲みましょう」
P「えっ、麗奈が……いや、その、明日訓練があるから……」
楓「行きましょう。命令です」
P「……地雷踏んだかもしれん」
楓「何か言いましたか?」グルンッ!
P「いえ、何も」
……
…………
460:以下、
――翌日、朝、ホクドウ、軍本部、宿舎(Pの部屋)
ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!
P「……」
<サーン、Pサーン!! オキテクダサイー!! クンレンチコクシマスヨー!!
ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!
P「……」
<ショニチカラチコクハマズイデスヨー!! Pサーン!! Pサァーン!!
P「……はっ!?」ビクッ!
ピピピ……
P「やべっ……訓練遅れる……っていうか頭いてぇ……」
P(楓さんと酒飲むのはホントにだめだな……)
Pサァーン!! Pサァーン!! ナナノコエキコエテマスカー!?
……
…………
461:以下、
――数十分後、ホクドウ、軍本部(訓練場)
菜々「しっ、失礼しまぁす!!」
P「申し訳ありません、遅れました」
??「アァン?」
菜々「ざ、財前時子中尉ですか! すみません、ラピッドストライカー隊、本日より訓練に合流します。よ、よろしくお願いします!」
P「よろしくお願いします」
時子「フンッ!」ビュンッ!
スパアアアアンッ!
菜々「うっひぃぃぃ!?」ビクッ!
P(なんつー過激派……今時鞭振るようなヤツがいるのか)
時子「訓練に遅れてきた分際で、しかも酒臭い豚を連れてのこのこと私に顔を見せにくるとは……ラピッドストライカー隊とやらも、さぞ上等な豚の集まりのようね」
菜々「ぶっ、ぶひいいいいい!? な、ナナはウサギというかウサミンというか!? あ、あああああ……」ガクガクブルブル
P(頭いてぇ……恨むぞ楓さん……)
462:以下、
時子「そこの豚」
P「はい」
時子「貴方……よくもまあ私の訓練に酒の臭いを持ち込んできたわね。余程、酒を飲まなければ私の訓練がやってられない、ということかしら?」
P「いえ、申し訳ありません」
時子「誰が返事をしろと言ったかしら?」ブンッ!
パァァァァンッ!
時子「豚、まずはその臭いを落としてきなさい。その後で調教してあげるわ」
P(俺が悪いから何とも言えんが何なんだコイツ……まあ、追い出されないだけマシか)
菜々(じょ、女王様プレイ……)ガクガクブルブル
……
…………
463:以下、
――同時刻、ホクドウ、軍本部、宿舎(楓の部屋)
楓「Pさん……ふふっ、もっとたくさん飲んでください……」ムニャムニャ
楓「そうです、ビールをあびーるように飲んで、お酒のときくらいは、色んなことを忘れて……」ムニャムニャ
楓「……」スー、スー……
……
…………
470:以下、
――ホクドウ、軍本部(訓練場)
時子「……」
P「……」ピッ、ピッ……ピピッ! ピピッ! ピピッ! ピピッ!
時子「……」チッ
パシュンッ!
麗奈「はー……ってあれ、アンタたちまだこんなとこに残ってたの? 訓練の時間終わってるでしょ?」
時子「チッ……貴方には関係ないでしょう」
麗奈「最近の若い奴は上官に対する口の利き方がなってないわね……ん、シミュレーターに入ってるのPじゃないの」
P「……」ピピッ! ピピッ! ピピッ!
時子「そこに入っている豚が、私の訓練に遅れてきたのよ。丁度躾をしてやっていたところよ」
麗奈「躾ねえ……」チラッ
471:以下、
ピピピッ!
麗奈「コイツにシミュレーター乗せてもあんま効果ないわよ。そこら辺の奴よりはよっぽどマシな動きするし、それに……」
麗奈「連続稼動時間3時間、G1用のシミュレーターでここまでオンラインスコアが更新されてちゃ、世話ないわね」
時子「チッ……」
パシュンッ!
P「ふう……シミュレーター終わりました……ん、麗奈、来てたのか」
麗奈「アンタが居残りしてたから面白そうだと思ったんだけどね。乗り込む前に終わっちゃったわ」
P「まあ、俺もそろそろ疲れてきた頃だし。財前中尉、次はどうすればよろしいでしょうか」
時子「終わりよ。さっさと帰りなさい」
P「了解です。本日は申し訳ありませんでした」
時子「ハッ……使い物になる豚なら、私の訓練には時間通り来なさい。それができないなら……」
P「以後気をつけます。では、失礼します」
麗奈「あ、ちょっとアンタ」
……
…………
472:以下、
――ホクドウ、軍本部(通路)
麗奈「ちょっと」タタタッ
P「ん、どうした?」
麗奈「アンタが訓練やってるのはどうでもいいけど……アンタ、大佐から連絡来てる?」
P「しばらくは連絡も貰ってないけど……何かあったのか?」
麗奈「……オフレコよ。朝方ネシマの方面で大規模級の巣が観測されたらしいわ。ジジイ達にも連絡が回っているみたいよ」
P「大規模!?」
麗奈「声が大きい! ちょっと場所変えましょう。菜々のほうにも、そのうち黒井から連絡が回ってくるだろうし」
……
…………
473:以下、
――数十分後、ホクドウ、軍本部、宿舎(菜々の部屋)
菜々「まあ、ナナも聞いたのは本当にさっきのことなんですけどね。黒井大佐からメッセージが来てたので」
P「大規模級の蜂の巣との戦闘記録は……過去3回か。俺は直接参加したことはないが……」
菜々「ヒドイもんです。前回の戦闘は……そうですね、予備艦隊の戦力だけじゃなくて、埃被ってたアウズブラも引っ張り出したくらいですし……」
麗奈「3回目の戦闘ともなると、こっち側で消耗した全力を補うのも限度があるもの」
麗奈「それに、大規模戦闘の度に潰れたヴェールの再建造もあるし、アウズブラも結局全部なくなったものね」
P「まあ、いまはユミルが主流だからそこはいいが……正式な展開はいつなんだ?」
麗奈「オート・クレールと黒川、櫻井で進めてた長距離航行試験の最中に偶然観測されたらしいから詳細待ちね」
ピピッ!
麗奈「でも、映像データは送られてきているから間違いないわ。そんなに遅くならないうちに展開されるだろうけど」
菜々「S-01は旗艦ですけど、他ヴェールを収容して、陽電子砲を外付けして前線での戦闘になりますね」
P「陽電子砲……データで見たことはありますけど、ユミルに搭載する対大型の巣の攻略用装備か」
麗奈「まとめて落としてやらないとこっちがジリ貧だもの、それ用の装備で対応するわよ……とはいえ、今回はちょっと微妙ね」
474:以下、
P「D型も発見されているし、何より1つ前の大規模戦闘からの立て直しも済んでいない、か」
菜々「残念ですね。こういうタイミングでこっちに異動なんて……まあPさんがこっちに来たのも、元々は戦力補強の話があったからですけど」
P「そこは気にしてませんけど……」
麗奈「ま、アンタは対D型用にG2に乗るんだから、死なない程度に頑張りなさいよ」
P「それは言わないでくれよ……マニュアルは見直しているけどアレ乗るの本当に嫌なんだが……」
菜々「鈍足、小回りは利かない、大きくて的になりやすいと三重苦背負ってますからね……オート・クレールもどうしてあんなの作ったのか」
麗奈「現行機だとOPFでも火力が足りないんだから諦めなさい。新型のグレイプニールが完成するまでの辛抱なんだから」
菜々「ブースターユニットも増設してくれるみたいですからねぇ……はぁ、いつまで戦闘が続くんでしょうかねぇ」
P「……さあ、どうなんでしょうかね」
……
…………
475:以下、
――夜、ホクドウ、軍本部、宿舎(Pの部屋)
P「……」ピッ、ピッ……
『オート・クレール社から提供された記録映像からは、大規模級の蜂の巣であると判定。観測済みの移動ルートから想定される戦闘宙域は――』
P「……」ピッ!
『ブースターユニットも増設してくれるみたいですからねぇ……はぁ、いつまで戦闘が続くんでしょうかねぇ』
P「いつまで、か」ゴロッ
『俺が戦うことで、俺のような思いをしなくて済む人が増えるなら、戦い続けるのもいいかもしれない』
『でも、Pさんは自分のために戦ってもいいと思うんです。誰かのために戦っても……最後は、自分のために』
P「戦い続ける。それじゃあダメなのか」
『何? 分かった、後でそちらさんとは話しておく……P君、非常に残念だが……どうだね? もしよければだが……』
P「このまま戦い続けて、俺もいつかは……」
ピピピッ!
P「……はい」ピッ!
美優『あ……Pさん、今どちらにいらっしゃいますか?』
P「美優さん……いまは部屋にいますが」
美優『そうですか……あの、もしよろしければ……』
……
…………
476:以下、
――ホクドウ、軍本部、宿舎(通路)
楓(大規模戦闘……直近の戦闘から5ヶ月前、不足したヴェールの再建造も終わっていない状態なのに……)ピッ、ピッ……
楓(通知、きっとPさんも見て……昨日のこともあるし……)
楓「……あれは」ピクッ
美優「……」タッタッタッタッ……
楓(美優さん……もしかして、Pさんのところに……)
……
…………
490:以下、
――ホクドウ、軍本部、宿舎(Pの部屋)
美優「すみません、こんな時間に……」
P「いえ、俺は別に……どうしましたか?」
美優「黒井大佐からの通知、見ましたか? 大規模戦闘の……」
P「ええ、麗奈からはいつ展開されるかは分からないと言われていましたけど、黒井大佐のほうから内々で回ってくるとは思いませんでしたけど……」
美優「はい。S-01は前回も前線任務だったので、恐らく今回も前線のはずだって楓さんが……」
P「美優さんも大規模戦闘は初めてなんですか?」
美優「いえ……前回戦闘のときは後方に……でも、今度は自分が前線だと思うと……」
P「……前に戦闘した中規模の巣は、蜂は30数匹……大規模の巣は3、4倍程度と聞いていますが」
美優「……」
P「まあ、どうなるか分からないし、俺も少しは不安ですよ。大規模戦闘にもなれば……」
美優「ちっ、違うんです……」
P「違う?」
478:以下、
美優「私……私は、怖いことなんて、ないんです……私は……ただ、Pさんが大丈夫かと思って……」
P「俺が? そんなまたどうして」
美優「前に、お話したと思いますが……私は、Pさんがいてくださるなら、怖くないんです」
美優『私は……あなたに助けてもらいました。あのとき……』
美優『それがPさんのお仕事でも……私は嬉しかった……私以外のみなさんも、本当に嬉しかったと思います』
美優『はい、その……やっぱり、Pさんなら……私たちが危ないときでも、必ず助けに来てくれますし……今回だって……』
美優「あのときから、私は……でも、Pさんは私たちの分まで戦うから……」
P「……そうですね。怖くないかといえば、嘘になります」
479:以下、
P「俺は、俺じゃない誰かの分まで戦い続ける。それでいいと思ってました」
P「だから……このまま戦い続けるなら、俺はいつか両親と同じところに行くんだろうなと思って」
P「だけどこっちにきて、それはダメだって言ってくれた人がいるんです。俺と一緒に戦ってくれる人たちがいるんです」
P「俺に付き合ってくれる人たちがいるなら、俺は死んだらダメなのかなって、そうやって戦い続けるのは、俺自身が色々なものを諦めているからなのかなって」
P「そう思うと……少し、怖いと思いました」
P「それでも一度決めたことなら、最後まで――」
美優「Pさんっ……!」ギュッ!
ドサッ!
P「美優……」
480:以下、
美優「私は……Pさんがいてくれて、嬉しい……私自身は守られてばかりで、何もお返しできていなくて……でも……」
美優「Pさんの楽しそうなお顔も、悲しそうなお顔も見て……私は、私から何かできないかって、ずっと思っていたんです」
美優「だけど、そう思って一緒にいればいるほど……私はただ、Pさんの傍にいたいんだって、自分で分かって……」
P「俺は……悲しいこと、楽しいこと……」
『本当に残念だ。キミのご両親は良い軍人だった……いつかキミがご両親のような立派な軍人になるのなら……』
『そうだな……まあ、頑張ってほしい。私も大佐も、キミには期待しているからね』
『やっ、やりましたぁっ! やりましたよ! ラピッドストライカー隊の初出撃、大成功ですっ!!』
『勘違いをするな。私は安部中尉の評価を聞いていただけで、私自身は貴様を評価しているわけではない』
P「……たくさんあった。たくさんあって……俺自身がどうしたいのか、分からなくなっていたときもあった」
美優「だから……私じゃあ、ダメですか?」
P「え……?」
美優「私が、Pさんの傍で……だから、Pさんも、私の傍に……」
P「……」
美優「だ、ダメ……でしょうか……」
P「……」
481:以下、
P「……前に、美優さんに似たようなことをしてもらったときに、思ったんです」スッ……
ギュッ……
美優「あ……」
P「温かい、温かい……それだけで、だけど……こうしていたい」
P「この温かさは、長いこと感じていなかった……だから、心地良かった」ギュッ……
美優「そう……ですか」
P「すみません、わざわざ俺のために、色々考えさせてしまって……」
美優「いいんです。私がそうしたいって思ったから……私が、Pさんのために何か出来ないかって、ずっと思っていて……」
P「美優」
美優「んっ……」
……
…………
482:以下、
――ホクドウ、軍本部、宿舎(Pの部屋前)
楓「……」
……
…………
491:以下、
――翌日、ホクドウ、軍本部(訓練場)
P「ふう……」
麗奈「お疲れさん。これでシミュレーター10回目で今日の訓練ノルマは達成っと……どうする? もうちょっとやる?」
P「頼む。正直G2はいくらやってもまともに動かせる気がせん。こんな手間が掛かるならOPFをベースに作ってる新型を貰ったほうが早いと思うんだが……」
菜々「いやー、新型いきなり貰うのはちょっと……しかもまだ完成してないみたいですし。それに仕様も大幅変更が入るみたいですから、どうなるんでしょうかねぇ」
麗奈「ま、新型は開発中だし無い物ねだりしても仕方がないでしょ。アンタは鈍臭いG2で頑張りなさい」
P「はぁ……まあ、仕方がないか」
時子「ちょっと貴方たち、訓練中に無駄話をしているんじゃないわよ」
麗奈「ん? いいでしょ別に、レイナサマたちはアンタの訓練から外れてるんだから」
P「まあ、こっちは小関大尉が見てくれてるし……」
時子「チッ……それなら勝手にしなさい。とはいえ、教導隊主導の訓練の枠に収まっているのも事実……私の代わりに一人豚が来るわ」
菜々「豚?」
時子「別件で管制塔のほうに行ってた1人が今日からここに来るわ。私がいれば特にすることもないけれど……丁度良いから貴方たちの面倒を見させるわ」
パシュンッ!
???「えーっと、ここが訓練場ですね。うん、シミュレーターもあるし」
麗奈「ん、アイツ……」
???「あ、時子さーん。お待たせしましたー」
492:以下、
時子「ようやく来たわね。随分と遅かったじゃない」
???「すみません、ちょっと管制塔から出る前に本部に呼ばれちゃって……」
菜々「この方がもう1人の教導員ですか?」
???「あ、はい。本当は管制塔側のお仕事で来たんですけどね。こっち側にも呼ばれたので今日から来ることになりました」
P「そうですか。よろしくお願いします」
ちひろ「はい。あ、ご挨拶が遅れました。国際連合……は長いですね。教導員の千川ちひろ、階級は少尉です。よろしくお願いします」
菜々「ユミルS-01所属、ラピッドストライカー隊隊長の安部菜々中尉です。こっちは部下のP少尉です」
ちひろ「どうもよろしく……」ピクッ
麗奈「……」
ちひろ「……はい?」
麗奈「……」
菜々「どうしたんですか、麗奈ちゃん?」
麗奈「……いや、何でもないわよ。レイナよ、よろしく」
ちひろ「はい。よろしくお願いします……というわけで、教導隊側の監督としては時子ちゃんの代わりに私が皆さんを見ておきますので」
時子「……まあいいわ。せいぜいしっかりやりなさい」
……
…………
493:以下、
――数時間後、ホクドウ、軍本部(食堂)
ちひろ「あなたたち化け物ですか?」
麗奈「ん?」モグモグ
P「なんですか突然」ズズーッ!
菜々「あ、ナナは一般人ですからこの2人と一纏めにしないでください」
ちひろ「いやあ……だって、シミュレーターのオンラインスコアに載ってるような記録ばっかり出してましたから……」
P「あれ上位のほとんどがこの人のスコアだから気にしないほうがいいですよ」
麗奈「若い奴の訓練が足りないのよ」モグモグ
ちひろ「はあ、さいですか……それにしてもPさんもG2に乗ってよく小関大尉の立体起動に付いてこれてますね。あの機体って相当動かし難いって聞いてましたけど」
P「G1の弱点だった装甲強度を重点的に改善した結果の鉄屑みたいなもんですからね。まあ、外付けのブースターユニットをもらえるからそれで何とか……」
菜々「あんまり使い難いものですから、結局G1ベースでOPFが作られちゃいましたからね」
麗奈「早く第3世代に代わってほしいわ。今の機体も飽きてきたところだし」
ちひろ「……ところで、次の作戦のお話、聞いていますか?」
麗奈「ん? まだ正式展開されていないのにそっちから振ってくるってことは」ピクッ
ちひろ「ちょーっと本部に寄ったときに黒井大佐とお話しちゃったので」
P「作戦の開始日でも決まったんですか?」
黒井「14日後だ」
494:以下、
菜々「あっ、黒井大佐! お疲れ様でぇす!」ガタッ!
P「お疲れ様です」
麗奈「ん? アンタこっちに来たの? 珍しいわね」
黒井「別件で食事の時間が取れなかったから来たまでだ。まったく、なぜセレブな私がこんなところで……」
菜々「ささっ黒井大佐、どうぞお席に……」
黒井「……フンッ」ガタッ
P(安部中尉に言われりゃ座るのか……)
ちひろ「お疲れ様でーす……って、作戦開始日決まったんですか。これまたずいぶんとお早いスケジュールですね」
黒井「観測されている巣の移動ルートを見ても、ネシマは素通りされるがホクドウ付近を通過する可能性が非常に高い。ホクドウ宙域付近に来る前には片付ける」
P「こっちに来るのか……艦隊は揃っているんですか?」
黒井「哨戒任務に当たっている一部のヴェールにも帰還指示が出る。ユミルはS-01を含めて5隻を投入する」
菜々「5隻……前より更に減りましたね」
麗奈「防衛用にユミルの戦力もある程度残しておかなきゃダメでしょ。アウズブラは全部使い潰したんだし」
ちひろ「いやー、私も嫌なタイミングでこっちに来ちゃいましたね……時子ちゃんと一緒に編成に組み込まれるみたいですし」
黒井「ともかく、貴様等はS-01の前線部隊として成果を出せ。私の指揮下にいてつまらんことはするなよ」
麗奈「はいはい……っとに、面倒なことばかり起きるわね。暇よりはいいけど」
……
…………
495:以下、
――夕方、ホクドウ、軍本部(通路)
菜々「それじゃあPさん、明日の訓練もよろしくお願いしますねー」
P「残りのマニューバも全部合わせてしまいましょうか」
菜々「そうですそうです。ウサミンパワーでレッツゴーですっ」タタタタッ!
P「ふう……あの人も大概、訓練やり続けても元気だな。部屋に戻った後とかは死んでるけど」
P「さて、俺も早いとこ……ん?」ピピピッ!
P「端末にメールか……」ピッ!
美優『お疲れ様です。訓練、終わりましたか? 夕食がまだでしたら、一緒に少し町に行きませんか?』
P(美優さんからか……今日なら時間も空いているし)
ピピッ!
P『了解です。今日は管制塔での仕事ですよね? 行くまで少し時間が掛かるので広場で待ち合わせしましょうか』
P「さて、シャワー浴びてから……」
楓「Pさん」
496:以下、
P「楓さん、お疲れ様です。今日はこっちに来ていたんですか?」
楓「ええ、S-01内の定例会があったのでこっちに……Pさん、今あがりですか?」
P「はい、訓練も終わったので。ちょっとこれから町に出ようかと思っていましたけど」
楓「町……ですか?」
P「少し用事で……それじゃあ、一度宿舎に戻らなきゃなりませんからこれで――」
楓「ダメです」
P「はい?」
楓「Pさん、今週の週報まだ出してくれていませんよね? 明日は午前中までに出しておかなきゃダメですから、先に仕上げてください」
P「え? でも普段は日中までで……」
楓「ダメです」
P「……はあ、分かりました。それじゃあ急いで作るか……資料室で作ってくるんで、後でメール送ります」
楓「私も行きます。ダメなところがあったら書き直してもらわなきゃなりませんから」
P「そうですか……了解です」
……
…………
497:以下、
――ホクドウ、軍本部(資料室)
P「……」カタカタカタッ!
楓「ここの部分、稼動時間が合ってないです。移動時間が入っているので省いてください」
P「ここか……」カタカタッ
楓「……いまのところ、オペレーターとの合同訓練に時間を巻き込んでいるので消してください」
P「はい」カタカタッ
楓「……」
P「……」カタカタカタッ……
楓「Pさん」
P「なんですか?」
楓「この後、美優さんとお出かけですか?」
P「えっ……いや、え?」
楓「飲みにいくなら、私も誘ってほしかったんですけど」
P「いや……飲みに行くわけじゃあ」
楓「それじゃあ、朝までしっぽりしに行くんですか? 昨日みたいに」
P「は!?」
498:以下、
ギシッ……
楓「どうなんですか?」
P「いや、ちょっ、膝に乗られると椅子が折れる……いや、そうじゃなくて」
楓「私も、実はPさんのこと好きなんですよ。いまも好きなんで、自分でもちょっと困っているんですけど」
P「え、あ?」
楓「のんびりしていたら、美優さんに取られちゃいましたけどね」スッ……
楓「んっ……」
P「んんっ……!」
楓「ん……んふぅ……」チュッ、チュルッ……
P「ちょ、ちょっと!」バッ!
楓「……」ハァ、ハァ……
P「いや、いきなりこんなことされると……」ハァ……
499:以下、
楓「私、Pさんさえよければ、2番目でもいいんです。3番目でも、4番目でも……本当は、1番が良かったんですけど」
楓「でも、きっとPさんは嫌ですよね。そういう女……だから、私はこれっきりにします」スッ……
P「かえ……」
楓「明日からはいつも通りです。菜々ちゃんと一緒にPさんのお部屋でゲームをしたり、美優さんと一緒に飲みにいったり……私、美優さんのことも結構好きなんです」
楓「だから……美優さんのこと、大事にしてあげてくださいね」
楓「あと、週報は私のほうで直しておきますから」
パシュンッ!
P「楓……」
……
…………
500:以下、
――夜、ホクドウ、ショッピングモール(広場前)
美優「……あっ、Pさん」
P「……」
美優「お疲れ様です。もしかして……まだお仕事残っていましたか? 少し遅いなって思っていたんですけれど」
P「いえ……まあ、少しありまして。遅くなってすみません、行きましょうか」
美優「……」
P「美優さん?」
美優「え……えいっ」ギュッ!
P「な、なんですか突然腕にしがみ付いて……」
美優「その……き、昨日みたいに、言ってください。私のこと……美優って」
美優「嬉しくて、今日もPさんにそう言ってもらえたら、いいなって思って……」
P「……」
楓『だから……美優さんのこと、大事にしてあげてくださいね』
P「……ああ、行こうか、美優」
美優「はい」
……
…………
501:以下、
――――――――
――――――
――――
――
502:以下、
「母さんもこれから少し軍のほうに行かなきゃならないから……この子のこと、お願いね」
「分かった……ねえ、名前は?」
「……す」
「ん?」
「たち………り…」
「……まあいいや、地球に来るのって初めて?」
「……はい」
「そっか、俺は宇宙には行ったことないんだけどな……俺はP、よろしく」
「よろしく……お願いします」
――また、この夢か。
503:以下、
――知らない記憶、知らない景色。
――本当の俺は、この頃は何をしていたんだったか。
――少なくとも、こんな穏やかな景色を見ることは無くなっていた。
――今俺が見ているこの景色は、誰が見ているんだろうか。
――俺ではない、誰か……。
504:以下、
――――――――
――――――
――――
――
507:以下、
――翌日、早朝、ホクドウ、軍本部、宿舎(Pの部屋)
P「……俺は」
美優「んっ……」
P「……」
P(夢に出る女の子……もし、俺が違う生き方をしていたら、美優には会うことはなかった……)
P「……美優」
美優「P、さん……P……」スー、スー……
P(今の俺には、美優がいてくれる……今は、それだけでいい)
……
…………
508:以下、
――2週間後、ホクドウ、ユミルS-01(メインブリッジ)
楓「黒井大佐、S-02以下の各ユミルから通信が来ています。出港準備が完了したみたいです」
麗奈「ようやく出航ね……」
黒井「こちらの準備はどうなっている」
美優「港の接続アームは解除済です……収容したヴェール各艦の艦システムも来ています」
ピピピッ!
「黒井大佐、通信が来ました。ナシヤマからです」
黒井「ナシヤマから? 映像をまわせ」
ピッ!
大佐『やあ黒井、出航前かね?』
黒井「何の用事だ。木星圏に引きこもってる貴様と違って私は忙しい身だ。下らん話なら切るぞ」
大佐『まあそう言わないでくれ。激励……というわけではないが、良い知らせを1つと思ってね』
黒井「なんだ」
509:以下、
大佐『例の件、どうやらオート・クレールと黒川重工のほうである程度目途が付いたらしい』
大佐『地球側のチームとも合意が取れたみたいでね、この作戦が終わった後には本格的にプランが進むことになりそうだ』
麗奈「……」
黒井「……そうか。であればあの糞ガキをさっさと引き取りに来い。私が必要なのは結果だけだ」
楓「……」ピクッ
大佐『おいおいそれはないだろう? たまに話すときは彼のことを褒めているくせに……素直じゃないなお前も』
黒井「知らん。貴様にそんなことを言った覚えもない」
大佐『まったく……まあ分かった。大規模の巣の攻略、頼んだぞ』
黒井「問題ない。貴様は今後のことだけ考えていればいい」
大佐『そうだな……それじゃあ邪魔をしたな。頑張れよ』
ピッ!
510:以下、
麗奈「……ま、今後に期待ってトコね。ある程度軌道に乗るまではそれなりに掛かるでしょうけど」
黒井「この作戦には関係のない話だ……では、これより本艦を含むユミル艦隊で大規模蜂の巣攻略作戦を開始する」
黒井「各自、巣との遭遇予定ポイント到達までに作戦概要を叩き込んでおけ。S-01を発進させろ」
楓「分かりました。各ユミル艦隊に展開、宙域に出た後は予定航路を進行して戦闘予定の指定宙域ポイントX17に向かいます」
「ユミルS-01、発進させます」
麗奈「……さて、アタシはちょっとグレイプニールのところにでも行ってくるかしらね」
黒井「好きにしろ。どうせ出撃以外ですることもないだろう」
麗奈「まっ、そうね」
……
…………
511:以下、
――ユミルS-01(格納庫)
菜々「……出撃しましたね」ピッピッ……
P「ええ、中尉は大丈夫ですか?」
菜々「これでも大規模戦闘の前線参加は経験してますからね。ナナは大丈夫ですよ」
P「そうですか」
菜々「ナナはいいとして……Pさんは大丈夫ですか?」
P「俺は……」
美優『私が、Pさんの傍で……だから、Pさんも、私の傍に……』
P「俺は、大丈夫ですよ。戦い抜いて……戻ってきます。今まで通り」
菜々「……そうですね、ラピッドストライカー隊、今回も頑張りましょう! Pさんも、もらったG2の調整はしっかりやってくださいね!」
P「了解」
……
…………
517:以下、
――数時間後、ユミルS-01(Pの部屋)
P「……」
楓「巣の移動ルートについては、各宙域の中継点からホクドウの管制塔に伝送されている広域光学レーダーによる測定結果がS-01に転送されます」
楓「蜂の総数についての詳細は詳しくは分かりませんけれども、前回の大規模戦闘を想定した上での艦隊展開が行われます」
菜々「ラピッドストライカー隊は前線ですね。ナナと麗奈ちゃんとPさんの3人でコンビネーションマニューバで戦闘、D型の対応はPさんがメインになります」
P「……了解」
麗奈「めんどくさいわね。レイナサマなら1人のほうが楽なんだけど」
美優「……」
楓「予定ポイントのX17周辺にはデブリもありませんね。各グレイプニール小隊はヴェール及びユミルの移動ルートを確保を優先します。ここまでは大丈夫ですか、Pさん?」カタカタカタッ!
P「まあ……巣の破壊を優先して、ユミルに搭載されている陽電子砲の射程圏内まで各艦を連れて行くのが俺たちの仕事ってことで」
楓「そうです」
美優「……あの」
518:以下、
楓「はい? どうしました美優さん?」
美優「お2人は……どうして、そんなにくっ付いているんでしょうか……」
楓「?」ギュウウウウウウ……!
P「いや……」
美優「そ、その……Pさん……」
楓「あ、大丈夫ですよ。私、Pさんと美優さんがムフフな関係になっているのは知っていますから」
美優「えっ……」
菜々「ああっ!? リア充オーラがナナを焼いてくるぅっ!」
麗奈「……」ハァ……
519:以下、
美優「そ、それなら……もう少し、離れてもらえると……」
楓「私、一応階級的にはPさんの上官ですから。いいですよねPさん? それに、Pさんが空いているときは……ちょっとつまみ食いをしようと思っているので」
美優「ダ、ダメですっ……! Pさんも、楓さんに何か言ってください……!」
P「は、はあ……いや、楓さん、あなたこの前、これっきりだって言ってましたよね」
楓「何のことでしょうか?」
P「とぼけやがって……」
美優「これっきりって……な、何があったんですか……」
楓「まあ、色々と」
菜々「暑い! 焼ける! ナナにはこの空間は辛すぎて……!!」
麗奈「あーアホくさ……ちょっと菜々、どうせこいつらこの調子じゃ人の話も聞かないだろうし、食堂にでも行きましょ」ガタッ
……
…………
520:以下、
――ユミルS-01(食堂)
ちひろ「で、あの3人は置いてきたと」
麗奈「後でまた打ち合わせすりゃいいでしょ……このチューブ、前の味のほうが美味かったわね」チューッ……
時子「下らないわね……はっ、豚同士お似合いということかしら」
菜々「いやそんなことで豚扱いはちょっと……」
麗奈「いいじゃない。戦闘前だし、少しくらい好きにさせてやっても」
菜々「おや、麗奈ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいですね」
麗奈「そう?」
ちひろ「私と時子ちゃんもヴェールで前線に出ますし、出来ればもう少しのんびりしたいんですけどね」
菜々「そういえばユミルの護衛で前に出るんですよね。どこのヴェールですか?」
時子「SN-05よ」
ちひろ「こっち来ていきなり前線部隊ってちょっと過酷じゃないですかね……」
麗奈「甘ったれたこと言ってんじゃないわよ。手間掛けてアンタたちをこっちに来させたんだから、仕事はしっかりやりなさい」
ちひろ「はぁ……最初は教導員のお話だけだったはずなのに」
……
…………
521:以下、
――数十分後、ユミルS-01(格納庫)
P「ったくあの2人は……G2でも見ているか……」フワッ
ちひろ「あらPさん、もうお部屋にはいなくていいんですか?」
P「千川少尉……その話、安部中尉か麗奈から聞いたのか……」
ちひろ「色男が隊の風紀を乱しているって菜々さんが嘆いてましたよ。本気かは知りませんけど」
P「俺はそんなつもりじゃないんだけど」
ちひろ「まあまあ……で、こっちに逃げてきたんですか?」
P「2人でぎゃあぎゃあ騒いでいるからいなくてもいいかなって……少尉はどうしてここに?」
ちひろ「私と時子ちゃんはSN-05での打ち合わせです。時子ちゃんはその前に黒井大佐のところに行ってますけど」
P「教導員の2人も前線か……財前中尉はヴェールの運用経験だけはあるのは知っているが……やれるんですか?」
ちひろ「まあ第一指揮官はSN-05の艦長ですし、私たちはサブですよ。上手いことやれればいいなーって思ってます」
P「少尉は大規模戦闘の参加は初めてですか?」
ちひろ「初めてですよ。というか、木星圏に一時出向した時期にたまたま戦闘した以外に実績ないです」
P「大丈夫か……?」
ちひろ「大丈夫なんじゃないですか?」
P「随分適当だな……まあ、いいか」
ちひろ「適当でも最後は上手くやればいいんですよ。それじゃ、私はSN-05に行きますので」
P「了解。俺もG2のチェックするか……」
……
…………
522:以下、
――数日後、戦闘宙域
菜々『Pさん、残りのF型は他小隊と一緒にナナたちのほうで受け持ちますよ!』
麗奈『アンタは追加兵装の確認、さっさと済ませておきなさい!』
P「了解、D型は2匹……1匹は高出力グラムで……!」ギュンッ!
D型「!!」ブブゥゥゥンッ!
P「取り付けてもらったブースターユニットのおかげでOPFまでとはいかんが、G2でもG1程度の機動性は確保できている……そこだ!」ズドォンッ!
ドガアアアアアンッ!!
D型「……!?」ブブ……
P「ダメージはあるだろうが落としきれない……! レギンでも一撃で抜くことはできんが……!」
ピピピッ!
楓『Pさん、オート・クレールから提供されている試作型ポジトロンビームで対応してください』
523:以下、
P「試作兵装か……スペック表ではG2グラムを上回る性能だが……!」カタカタカタッ!!
ガションッ!
D型「……!」ギュンッ!
D型「……!」ギュンッ!
P「展開に手間が掛かる……ターゲットロック、ポジトロンビーム発射!」ズドォォンッ!!
D型「!?」
ドガアアアアアンッ!!
P「抜いた! さすがに戦艦用の陽電子砲のスケールダウン版だけはあるか……!」ギュンッ!
菜々『試作兵装のテストもいいですけど、早くそっち片付けちゃってくださぁい!』ピピピッ!
P「っとそうだった、了解!」ガションッ!!
麗奈『ったく、アンタたちに付き合ってると時間が掛かって仕方がないわね……』
……
…………
524:以下、
――数十分後、ユミルS-01(格納庫)
P「火力は十分だけど、どうしても展開に時間が掛かるな」
菜々「ま、このポジトロンビームもやたらと大型ですからね。大きいから射角も制限されていますし」
麗奈「コレ、もうちょっとサイズ小さくならないの?」
「いえ、いまの段階では難しいので……」
楓「展開に時間が掛かる……射角が狭いので取り回しに難がある……」カタカタカタッ!
P「まあD型を一撃で落とせるなら、現状は装備の選択余地もないか」
麗奈「手間掛ければ落とせるっちゃ落とせるものね」
菜々「装甲抜くためにあれだけ連続してピンポイントの精密射撃が出来るパイロットが何人いると思ってるんですか……」
「予備のもう1本はどうしますか?」
菜々「OPFじゃサイズ的に搭載できないので埃被ってもらうしかないですね」
P「あとはG2を使っている他の部隊に回すか? 試作兵装を他所に回すのって出来るのか?」
楓「大規模戦の前ですし、装備的に使える物ならいいと思いますけど……黒井大佐に話しておきましょうか?」
菜々「そうですね。お願いします」
麗奈「んじゃ、アタシたちも引き上げるわよ」
……
…………
525:以下、
――数時間後、ユミルS-01(展望室)
P「……」ピッ、ピッ……
P(この進行ペースだと、予定通りにポイントに到着するか。艦隊が展開するのに十分な時間があるならそれでいいが……)
パシュンッ!
美優「いた……Pさん」フワッ
P「美優さん、ブリッジは交代の時間ですか?」
美優「はい、次のポイントまでは……今日の戦闘、お疲れ様です」
P「それなら早めに休んでください。X17の到着まであまり日もありませんし」
美優「……」
P「美優さん?」
ギュッ……
美優「いまは、誰もいませんから……」
P「……まあ、別にいいが」
美優「戦闘、大丈夫ですか?」
P「特に問題ないよ。まあ、いつもどおりやれているし」
526:以下、
美優「……えいっ」フワッ
ギュッ!
P「な、なんだよ突然……」
美優「後ろから……抱きつくの、宇宙だとやりやすいですね」ギュッ……
P「やめてくれよ、恥ずかしい」
美優「いいじゃないですか。誰もいませんよ」
P「……」
美優「ふふっ……Pさん、可愛い」
P「くっ……」
美優「んっ……嫌ですか?」チュッ
P「別に、嫌じゃない。嬉しいけど……慣れない」
美優「慣れてください……私が、たくさんしてあげますから」
P「よくそんな恥ずかしいこと言えるな……普段の美優なら絶対にそんなこと言わないぞ……」
美優「えっ……あっ、いえ、その……」
P「……まあ、いっか」
527:以下、
美優「……少し前に、SN-05の展望室でもPさんと2人でお話したときがありましたよね」
P「ああ、あの頃か……そのときから美優は随分と大人しい人だと思っていたけど」
美優「どんなお話をすればいいのか分からなかったので……あのとき、言っていましたよね? Pさん、G1に乗るのが好きだって」
P「そんなことも言ったな……」
美優「いまでも、好きですか?」
P「まあ、乗ることが好きってわけじゃないけど……親や、昔のことを思い出して、懐かしい気分に浸れて……それがいいなって思っていただけだよ」
美優「……今度」
P「ん?」
美優「2人でお休みを取って……私を、連れて行ってくれますか?」
P「どこに?」
美優「地球……Pさんが小さい頃に住んでいた場所……」
P「……ああ、そうだな。落ち着いたら行こうか」
美優「はい」
P「親が死んで、もう俺の家は無くなったけど、美優と行くなら……久しぶりに帰る地球も楽しそうだ」
美優「私も、楽しみです……」
……
…………
528:以下、
――数日後、ポイントX17宙域、ユミルS-01(メインブリッジ)
黒井「光学レーダーの更新はどうなっている。サブブリッジの監視と」
美優「ホクドウからの更新データ、まだ来ていません……サブブリッジで採取しているレーダーでも巣を捕捉していません」ピッ、ピッ!
麗奈「最後の更新を見ても、予定よりも早くポイントに到着できたものね。各艦隊の展開はどうなってんの?」
楓「ユミルS-02からS-04、予定通り艦隊を展開、搭載しているヴェールも順次発進させています」カタカタカタッ!
黒井「こちらのヴェールも出せ。グレイプニールのパイロットはコンディションイエ口ーで待機、蜂の巣を捕捉した時点で作戦開始だ」
楓「了解、各艦隊に展開します」
ピピピッ!
美優「SN-05から通信です……回線開きます」
529:以下、
ピッ!
SN-05艦長『こちらのほうが先手を取れるか……ユミル艦隊の移動は、S-01が先頭だったな』
黒井「それがどうした。貴様等はこちらの陽電子砲発射までの仕事だけを考えておけ」
SN-05艦長『そう言うなよ、こちらも体を張っているんだ。少しは作戦前のつまらない話に付き合ってくれてもいいだろう』
黒井「……大規模戦といえど、現在判明している戦闘規模は幸いなことに前回戦闘未満となっている。それでもこちらが苦しいことに変わりはないが、上手くやれ」
SN-05艦長『そうだな。上手くやるさ……お前から預かっている教導隊の者たちもいるからな』
黒井「フンッ……」
SN-05艦長『そういえば、彼はどうだ? そっちでは上手くやっているか?』
黒井「誰のことだ」
SN-05艦長『木星圏から来た彼だよ。アルヴィスに乗っている実績も見ているが、良いパイロットじゃないか』
黒井「パイロット適性が高いだけでは困る。奴は後々他の仕事があるし、まだまだ伸びてもらわなければならん」
SN-05艦長『珍しいな。お前がそんな評価をするなんて。気に入ったか?』
黒井「何を言っている。あの男の唾が付いたガキを私が気に入るはずがないだろう」
530:以下、
SN-05艦長『素直じゃないなお前も……まあ、分かった。そろそろホクドウからレーダーの更新データが転送される。こちらも待機しておく』
ピッ!
黒井(プロジェクト・ヴァルキュリアか……そんな物のために、奴は……)
ピピッ!
美優「黒井大佐……ホクドウからレーダーの更新情報が来ました。蜂の巣、ポイントX17に到達済……」カタカタカタッ!
ピピッ!
楓「こちらのレーダーも更新されました。距離8400……更新タイミング、被ってしまいましたね」
黒井「下らんことを言ってる暇は無い。各艦隊に通達、これより作戦を開始する」ガタッ!
黒井「コンディションレッド、これより蜂の巣攻略作戦を開始する。各グレイプニール小隊は順次出撃、蜂共の展開を確認後、移動ルートを算出してユミル艦隊を移動させる。それまでは弾幕支援を行う」
美優「了解です……コンディションレッド、警報出します」
楓「部隊展開、各グレイプニール小隊は出撃してください」カタカタカタッ!
麗奈「んじゃ、アタシも行ってくるわ」
黒井「しっかりやれよ」
麗奈「アンタに言われなくても分かってるわよ。レイナサマ舐めんじゃないわよ」フワッ
パシュンッ!
……
…………
531:以下、
――ユミルS-01、カタパルト(G2機体内)
『コンディションレッド、コンディションレッド。前方距離8400、蜂の巣の出現を確認。グレイプニール小隊は発進してください』
P「来たか……!」
菜々『大規模戦闘……よぉーし! ラピッドストライカー隊、行きますよ!』パンッ!
P「気合入れすぎて空回りしないでくださいよ。こっちもフォローするの大変なんですから」
菜々『大丈夫ですっ! Pさんも麗奈ちゃんもいるなら、ナナ的に困ることはありませんので!』
P「俺としては隊長を頼りにしたいんだが……D型が出たらなるべくはこっちで対応します。そのときの支援はお願いします」
菜々『そ、そうだった……最近そんな気がしなくなったけど、ナナが隊長……了解です! Pさんはナナがちゃんと守ってあげますからね!』
P「よし、それじゃ行きましょうか」
菜々『あ! ちょっと、それは隊長のセリフですからね!』
P「調子戻ったと思ったらこれだ……」
532:以下、
ピピピッ!
美優『Pさん、菜々さん……お気をつけて』
楓『私たちも結構大変なことになると思いますけど、お互い頑張りましょうね』
P「了解です」
菜々『あー、あなたたちイチャイチャするなら作戦終わってからにしてくださいね? いまそんなことされるとナナのモチベーションが下がりますから』
楓『私も下がります』
美優『いっ……!?』
P「別にイチャイチャなんてしないんだが……そんな茶化さないでくれ」
黒井『貴様等! 下らん話をしていないでさっさと出撃しろ!』
菜々『は、はいぃぃっ!』
P「んっとに……」カタカタカタッ!
楓『ハッチは開放しています。出撃、お願いしますね』
菜々『それじゃ、GRS-1小隊からRS-01、安部菜々出撃しまーすっ!』
P「RS-02、G2で出撃する!」ギュンッ!
……
…………
533:以下、
――同時刻、ユミルS-01(通路)
麗奈「っとに、ブリッジにいないで格納庫辺りでも行ってればよかったわね。出遅れたし……」
ピピピッ!
麗奈「ん? 誰よこんなときに」ピッ!
晶葉『おい麗奈、作戦中か?』
麗奈「ああアンタ? いま始まったところよ。レイナサマも出るけど……何かあった?」
晶葉『普段よりも大きい次元振動が計測された。巣の出現はどのタイミングで分かった?』
麗奈「ええ? んー……ホクドウの光学レーダーの更新データが来たときと、こっちで展開しているレーダーが巣を捉えたのはほとんど同じタイミングね」
晶葉『そうか……移動ルート自体は観測出来ている話だったか。偶然といえば偶然だが……』
麗奈「そっちで観測している次元振動、ホントにあってんの?」
晶葉『観測自体は間違っていない。とはいえ、そちらの戦闘とは関係ないか……』
534:以下、
麗奈「元から光学レーダーで観測されていた奴らだもの。そりゃそうでしょ」
晶葉『であれば、他の宙域で空間転移がされた可能性もある、か……』
麗奈「どうかしらね。あのジジイに話してみれば? 都合付けば適当な部隊で調査できるでしょ」
晶葉『……それもそうだな。いや、話に聞いていた大規模の巣の戦闘とこちらの計測タイミングが被っていたから、気になっただけだ。邪魔して悪かった』
麗奈「別にいいわよ。それじゃ切るけど」
晶葉『うむ、気をつけてな』
麗奈「人類最強のレイナサマに何言ってんのよ。アンタこそ、さっさと新しいオモチャ作るのと、やることやっちゃいなさい」
晶葉『分かっている。ではな』
ピッ!
麗奈(次元振動、まだ周期的にはマシなもんだろうけど……そのうち……)
麗奈「……まあ、いまはこっちね。アタシもさっさと行かないと」シュッ!
……
…………
540:以下、
――戦闘宙域
菜々『Pさん、グレイプニール小隊は作戦全体を通して001から053まで出撃予定です。事前の編成リストは見ていますよね?』
P「確認しています。G2が俺を含めて23機、D型がこちらで優先して相手をします」カタカタカタッ!
ピピッ!
P「俺たちは宙域中だと中央での戦闘……高垣中尉、蜂の展開はどうなっていますか?」
ピピピッ!
楓『前方距離8200より大規模級蜂の巣、F型30、S型10、D型8、ホーネットが6です。多いですけど、巣の規模からまだまだ出てきていないと思います』
菜々『いま観測できている分のもう1、2セットは巣の中にいますね……近くの小隊とのグループ回線を回します。P少尉、ラピッドストライカー隊は麗奈ちゃんが編成に入るので高機動戦闘になります』
P「了解。G2だが麗奈のOPFにどこまでついていけるか……」
楓『お2人とも、ユミル各艦隊より弾幕支援が入ります。着弾ポイントを転送しますので衝突後はお願いします』
菜々『任せてください!』
P「巣はまだ遠いが、先頭の群れとの距離は4000……そろそろ当たるか」ギュンッ!
……
…………
541:以下、
――ヴェールSN-05(ブリッジ)
SN-05艦長「ミサイル発射管にアルヴァルディを装填。ティルウィング、レーヴァテイン照準、ユミル艦隊の前に出る」
ちひろ「ミサイル発射管1番から20番にアルヴァルディを装填します。ティルウィング準備、レーヴァテイン1番から2番、前方キラー・ビーの群れに照準合わせます」
時子「ちひろ、ユミルのほうで出している艦進行ルートを映しなさい。算出されたルートパターンから私たちの立ち回りを決めるわ」
ちひろ「はいはいっと……蜂も満遍なく左右に広がってますね。S-02以下や他の強襲艦隊の動向次第でしょうか」カタカタカタッ!
SN-05艦長「ともあれ、奴らの手薄になったポイントから進行するしかあるまい。陽動部隊と上手いこと連携を取らねば機会を逃す、気をつけろよ」
「S-01から砲撃指示がきました。先頭キラー・ビーとの距離3500です」
SN-05艦長「うむ、では戦闘開始だ」
……
…………
542:以下、
――戦闘宙域
ピピピピピッ!
P「艦隊からのミサイル……安部中尉!」ピッ!
菜々『戦闘開始です! コンビネーションマニューバはI02で行きますよ!』
蜂「!」ギュンッ!
蜂「!」ギュンッ!
赤蜂「!!」ブゥゥゥンッ!!
D型「……」ギュンッ!
P「中央だと数は多いか……中尉、ホーネット1匹です。D型を落としたらフォーメーションの交代頼みます」カタカタカタッ!
菜々『はい! ミョルニル発射!』ボシュシュシュッ!!
ドガガガガァンッ!!
蜂「……!」ギュンッ!
赤蜂「!」ギュンッ!
D型「……」ギュンッ!
P「1匹落ちたか、丁度良い! 先手は貰うぞ!」ギュオオオオッ!!
ピピピピッ!
P「ポジトロンビーム、ダインスレイヴ展開……ターゲットロック!」ピピッ!
ズドォォンッ!!
D型「!?」ドガアアアアアンッ!!
543:以下、
P「よしっ! 中尉、ミョルニルを撒きます。交代を!」ボシュシュシュッ!!
菜々『了解! ホーネットを落とすのは難しいけど、F型なら!』ギュオオオオッ!
蜂「!!」ズドォンッ!!
菜々『粒子砲なんかに! ドラウプニル……えええいっ!』ガションッ!
ドガガガガガガッ!!
蜂「……」ブブ……
ドガアアアアンッ!!
赤蜂「!!」ギュンッ!
菜々『後はホーネット! Pさん、マニューバプラン変更です! I04で挟みますよ!』
P「了解、初動で飛行ルートは割り出している……6連装ミサイルコンテナを射出。中尉、飛行ルート転送します」ピピッ!
菜々『Pさんに付き合ってたらナナもマルチタスクには慣れてきましたからね、隊長らしくやりますよ!』ギュンッ!
赤蜂「!」ドシュシュシュッ!!
菜々『立体機動勝負で針を飛ばしてくるなんて分かってますよ! そこです!』ギュンッ!
ドガガガガガッ!!
赤蜂「!?」ドガアアンッ!!
菜々『ホーネットが怯みましたよ、Pさん!』
P「落ちろ!」ズドォンッ!!
ドガアアアアアンッ!!
544:以下、
菜々『よーしっ、ラピッドストライカー隊、出だしは好調ですね!』
P「あまり油断しないでくださいよ……左のGNS-004小隊の方面が手こずっているか。中尉、援護のほうは……」
ピピピッ!
麗奈『ちょっとアンタたち! 2人で楽しんでるんじゃないわよ!』
菜々『あっ、麗奈ちゃん!』
P「遅いじゃないか。どこでサボってたんだ?」
麗奈『レイナサマも色々やることがあんのよ。こんな楽しそうなイベント、来ないわけないでしょ』
菜々『いや、いまのところ前回の大規模戦闘と同数の戦いですし、何も楽しくないんですけど……』
ズドドドドドドドッ!!!!
P「無駄話している場合じゃないぞ。麗奈、安部中尉、強襲艦隊からの砲撃が来ています」ピピッ!
麗奈『あ、そう。菜々、蜂の展開はどうなってんの?』
545:以下、
ナナ『えーっと、えーっと……S-03艦隊の陽動が上手くいっているみたいです。戦闘区域が徐々に左に流れていってます』
麗奈『予定通りね。アタシたちも少し突っつきにいくわよ』
P「高垣中尉、こちらは一旦S-03、S-05側に向かいます。ある程度蜂の数を減らしたらそっちに戻ります」
楓『了解です。気をつけてくださいね』
P「お互いにです。では」ピッ!
麗奈『メインで陽動しているS-03の支援はS-05が受け持つけど、こっちでも潰しておかないと向こうが持たないものね。無駄に蜂を連れてこない程度にはやるわよ』
菜々『それじゃあコンビネーションマニューバはY05で行きましょうか。Pさん、D型の潰しは優先してくださいね』
P「分かっています。急いで済ませてS-01に戻らないと……」
……
…………
546:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
「サブブリッジより通信、光学レーダーの更新あります。巣との距離、6000です」
美優「GNS-008、後退します。GNS-022小隊がバックアップに入ります」
楓「艦隊の進行ルート、再度算出します。S-02、S-04、方面に4小隊分の蜂が来ています」カタカタカタッ!
黒井「アルヴァルディで援護。こちらに来てる奴らはヴェールに任せる。念のためにブリンガーは展開しておけ」
楓「了解です。陽電子砲の準備はどうしますか?」
黒井「フルングニルは距離3000の時点で展開準備だ。先にそれまではS-02、S-04と足並みを揃えて発射する」
黒井「S-03から出ているグレイプニール小隊が先行して巣へと向かっている。追加で巣から出てくる奴らも向こうが引き受けたのを確認するまで無理はせん」
ピピッ!
楓「GNS-011から016、GRS-1、それぞれS-05艦隊の援護に回ります。合流ポイントの座標転送します」カタカタカタッ
黒井「合流予定は巣との距離が4000の地点だ。奴らには遅れるなと伝えておけ」
楓「遅れるなと黒井大佐が言ってましたよ……っと」カタカタカタッ
……
…………
547:以下、
――戦闘宙域
麗奈『ホラホラ! ドン臭いことやってんじゃないわよ!』ギュオオオオッ!!
ズドォンッ! ズドォンッ!
P「安部中尉、こちらのミサイルコンテナは使い切りましたのでパージします。S-01と合流した後の弾幕支援は任せますよ」ガションッ!
菜々『巣から追加で来た分が全部で30ちょっと……うう、さすがに厳しいですね……』
麗奈『菜々、あっちはどこまで進行してんの?』
菜々『ちょっとお待ちを……距離4600、そろそろナナたちもここから引き上げて合流しませんと』
P「了解。高垣中尉から来ているポイントに向かいますか」
麗奈『部隊の数が揃わなかったとはいえ、あっち行ったりこっち行ったりと面倒臭いわね……まあいいわ、ほら行くわよ!』ギュンッ!!
P「前線部隊も消耗しているか……このまま巣のほうに――」
ピピピピピッ!
P「緊急通信……これは、麗奈、中尉!」
麗奈『わかってるわよ! チッ……先行部隊がしくじったわね』
菜々『あわわわ……巣から出てきている蜂のほとんどがS-01、S-02、S-04に流れていってますよ!』
P「こっちもこれまで引き付けていた数が多いとはいえ、本命が足止めを食らうわけには……!」ガションッ!
麗奈『アンタたち、さっさと戻るわよ!』
P「分かってる!」ギュオオオオオッ!!
……
…………
548:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
黒井「前方に穴を開ける! ティルウィング発射!」
楓「ティルウィング発射します。強襲艦隊を抜けてS型が3匹接近しています」カタカタカタッ!
黒井「マグニで迎撃! ブリンガーも撒け!」
楓「ブリンガー、オートメーション機能による自動掃射を行います。マグニ発射……ああっ、回避されました」
美優「だ、大丈夫です……GNS-006と007小隊が援護に来ました。艦の進行は……」
「GNS-013小隊後退、巣よりキラー・ビー、更に8来ています。前線のグレイプニール各小隊では対応しきれていません!」
黒井「足を止めるな! ここで進行を止めれば陽動しているS-03艦隊が持たん!」
美優「り、了解です……」
ピピピッ!
麗奈『ちょっとそこのジジイ!』
黒井「ジジイとは何だ! 貴様、どこをほっつき歩いている!」
麗奈『歩いてるんじゃなくて飛んでんのよ! いまそっち行くから、もうちょっと待ってなさい!』
549:以下、
ピピピッ!
P『黒井大佐、美優、楓さん、大丈夫か!』
美優「Pさん……!」
黒井「貴様に言われんでも何ともない!」
楓「美優……美優……美優ですか……」ジーッ……
美優「えっ、いや、あの……」
菜々『あーもーこれですよ……っていうかそっちに結構蜂流れてきますよね!? ホントに大丈夫なんですか!?』
黒井「合流予定ポイントまでは進行できる。そちらも早く戻って来い」
麗奈『へいへい、ちょっと待ってなさいよ』
ピッ!
黒井「まったく……」
……
…………
550:以下、
――戦闘宙域
P「追いついた……だが、前線も相当押されているか!」ギュンッ!!
麗奈『先頭張ってんのはSN-02と05、あのままじゃ辛いわね』
楓『ラピッドストライカー隊はSN-05の援護を、他小隊はSN-02のほうに向かってください』
菜々『ちひろさんと時子さんがいますからね、了解です!』
蜂「!」ブゥゥゥンッ!!
蜂「!」ブゥゥゥンッ!!
蜂「!」ブゥゥゥンッ!!
P「奴らもこっちに気付いたか! 麗奈!」カタカタカタッ!
麗奈『レイナサマに命令すんじゃないわよ! 菜々、コンビネーションマニューバーY09、後方任せたわよ!』
菜々『2人で勝手に決めないでください! ああもうっ、6連装ミサイルコンテナ射出!』ボシュシュシュシュシュシュッ!!
ドガガガガガガガガァンッ!!
赤蜂「!!」ギュンッ!
赤蜂「!!」ギュンッ!
D型「……」ギュンッ!
P「弾幕を抜けてホーネットが2体……!」
551:以下、
麗奈『ハッ、雑魚が!』ガションッ!
麗奈『P! すごいレイナサマの天才的なマニューバ、見てなさい!』ギュオオオオオオッ!!
ヒュカカカカッ!!
赤蜂「!?」
赤蜂「!?」
麗奈『アンタたちとじゃれ合ってる暇なんてないのよ!』ドガガガガガガッ!!
ドガアアアアアアンッ!!
P「な、何だありゃ……高接近してからの一撃離脱するマニューバか……? いや、さすがにあの度を維持した立体機動からのドラウプニルは中々当てれんぞ……」
麗奈『アンタもこれくらいやらないとダメよ! ほら、さっさとそこのD型片付けておきなさい!』
P「分かってる! ダインスレイヴ発射!」ガションッ!
ズドォンッ!!
D型「……」ブブブ……ブ……
ドガアアアアアンッ!!
菜々『SN-05、聞こえますか? 陽動部隊の援護から戻ってきましたから、体勢を立て直してください!』
552:以下、
ピピピッ!
SN-05『すまん、助かった』
ちひろ『いやー、やっぱりあなたたちって化け物ですね』
時子『チッ……来るならさっさと来なさい』
菜々『だからナナをそこの化け物2人と一緒にしないでくださいって』
P「誰が化け物だ、誰が」
麗奈『化け物で結構じゃないの。この先、アンタたちはその化け物くらい戦えないとダメってことよ。菜々、P!』
菜々『あ、ナナはまだいけますよ!』
P「こっちはブースターユニットがそろそろ限界だ。あまり長くは麗奈のマニューバに付き合ってられん!」
麗奈『あっそ! 楓、巣との距離は!』
ピピピッ!
楓『距離3500です。3000の時点で陽電子砲の発射準備に入ります』
P「こっちにいるユミル3隻で確実に巣を破壊するならそれくらいの距離が必要か……!」
麗奈『いいじゃないの、それまで遊んでやるわよ!』
……
…………
553:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
美優「S-05の援護に向かっていた各小隊の合流により……前線、蜂を押し返しています。SN-03、被弾箇所多数により後退です」
楓「巣との距離、3100です。まもなく陽電子砲の準備に入ります」
黒井「各艦に通信、フルングニルの発射準備だ!」
美優「各艦……間もなく陽電子砲の射程圏内に入ります。ユミル、ヴェールそれぞれ陽電子砲の準備をお願いします」ピピピッ!
美優「強襲艦隊の陽電子砲で……ユミルの陽電子砲の射線を確保し、距離2500でユミルの陽電子砲が発射されます」
楓「3050……3000、ポイント到達しました。陽電子砲発射準備に入ります」カタカタカタッ!
……
…………
554:以下、
――戦闘宙域
D型「!!」ズドォンッ!!
P「そんな砲撃は当たらん! 落ちろ!」ズドォォォンッ!!
ドガアアアアアンッ!!
P「奴らもこちらの動きに気付いたのか、蜂の数が減らん……!」ギュオオオオッ!!
菜々『宙域に残っている蜂、あと60……これでも全体で見れば半分は減ってるはずなんですけどねぇ!』ドガガガガガガッ!!
麗奈『後もうちょっとなんだから踏ん張りなさい!』
P「強襲艦の陽電子砲の発射まで持てば――」ガコンッ!!
P「っ!? ブースターユニットが……!」ビーッ! ビーッ!
赤蜂「……!」ズドォンッ!!
P「残りのホーネット……ぐうっ!?」ドガアアアンッ!!
菜々『Pさん!』
555:以下、
P「だ、大丈夫です! 腐っても装甲強度を改善しただけはあるか……掠ったとはいえ蜂の粒子砲を食らっても各部問題無しか……!」カタカタカタッ!
赤蜂「!」ギュンッ!
P「どうせ壊れたならブースターユニットはパージだ! この状態でも貴様に落とされるかよ!」ギュオオオオオッ!!
赤蜂「……!」ブゥゥゥゥンッ!!
P「針か!」ギュンッ!
赤蜂「!!」ドシュシュシュッ!!
P「当たらん! これで落ちろ!」ズドォンッ!!
赤蜂「……」ブブ……
ドガアアアアアアアンッ!!
P「これで……こっちに来ているホーネットは最後か……!」ハァ、ハァ……
556:以下、
麗奈『やるじゃないの! アンタ、そんな鉄屑でよく動けたわね……』
P「お前に褒められるのも……背中が痒くなるな……」
菜々『いやいや、G2でホーネット相手に立ち回るって相当しんどいと思うんですけど……』
ピピピッ!
楓『前線の各グレイプニール小隊、これより強襲艦隊の陽電子砲が発射されます。射線上より退避してください』
P「間に合ったか……!」
麗奈『さすがにちょっと面倒だったわね……ほら、さっさと離れるわよ』
菜々『ナナが後ろにつきます。Pさんは先に退避してください』
P「すみません、よろしくお願いします」ギュンッ!
P(これで、終わりか……今回の戦闘も……)
……
…………
557:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
楓「強襲艦隊の陽電子砲、発射されました。巣までの射線上に障害物はありません」カタカタカタッ!
美優「前線の各グレイプニール小隊の退避を確認しました……黒井大佐、大丈夫です」
黒井「これでチェックメイトだ……陽電子砲、フルングニル照準!」
楓「照準合わせます……フルングニル照準、S-02、S-04共に準備完了です」
黒井「フルングニル……撃て!!」
……
…………
558:以下、
――戦闘宙域
菜々『ユミル3隻の陽電子砲の発射を確認……巣の撃破、完了です。宙域に残っている蜂も逃げていってます』
P「……」
麗奈『ようやく終わったわね……』
菜々『はぁ、疲れた……』
P「……」
菜々『……Pさん? 大丈夫ですか?』
P「……ええ、大丈夫です」
麗奈『どうしたの、何かあった?』
P「いや……陽電子砲の光、これからも……何度も見続けることになるのかと思って」
麗奈『……さあ、どうかしらね。いつまで戦ってんのか知らないけど』
菜々『まあまあ、いいじゃないですか。あの光はナナたちの勝利の光なんですよ! 今回だって、ラピッドストライカー隊もちゃんと任務出来たじゃないですか!』
P「そうか……そう、ですね」
559:以下、
ピピッ!
麗奈『ん、コンディショングリーンの通達が来たわね。ホラ、帰るわよ』
菜々『そうですねー。あーあ、戻ったらPさんと美優さんが乳繰り合ってるところを見なきゃならないなんて……』
P「い、いや別に乳繰り合うわけじゃ……ていうか、嫌なら見なけりゃいいんじゃ……」
麗奈『羨ましがってんのよ、コイツ』
菜々『いぃっ!? いやいやいやいやいや!! ナナはまだまだそんな青春を送るわけにはいきませんから!? まだやることもありますから!?』
P「なんだよ……まあ、いいや。戻りましょうか」
菜々『もうっ!』
麗奈『んっとに……まあ、これからってことかしらね……』
……
…………
560:以下、
――数分後、ユミルS-01(通路)
菜々「被弾、大丈夫でしたか?」フワッ
P「硬さだけが取り得のG2ですからね。大丈夫でした」
麗奈「まあ、アンタならG1に乗ってたらそもそも被弾しなかったと思うけど」
パシュンッ!
美優「あっ……」
P「美優――」
美優「Pさん……!」フワッ
ギュッ!
美優「よかった……大丈夫そうで……」
P「美優……ああ、大丈夫だよ。ちゃんと戻ってこれたし」
561:以下、
菜々「おおうっ……また始まった」
楓「先越されました……」ヌッ
菜々「わざわざ見に来たんですか……」 
麗奈「……ホラ、アタシたちはさっさと行くわよ」グイッ!
楓「ああっ、引っ張らないでください……」
菜々「あー暑い暑い……今回の報告書は全部Pさんに書いてもらおう……」
パシュンッ!
562:以下、
P「美優のほうは、何ともなかったか?」
美優「はい……艦も、少し損傷した程度です。今回も……守ってもらいましたから」
P「そ、そうか? 俺は直接何かしたわけじゃなと思っているが……」
美優「ちゃんと来てくれたじゃないですか……それに、こうしてまた私の傍に……だから……」チュッ
P「よ、よしてくれ……さすがに、ここじゃあ恥ずかしくて無理だ……その、うん……」
美優「ふふっ……それなら、後で……ね?」
P「……ああ」
――
――――
563:以下、
――S-01以下5隻のユミル艦隊による大規模戦闘は無事に完了した。宙域より逃げた残りのキラー・ビーは、後日改めて部隊を編成、追撃作戦が行われることになった。
564:以下、
――ユミル艦隊の帰還後、程なくして国連本部から通知がS-01に届いた。これまで旗艦として運用していたアウズブラ級のユミルから、新型のノルン級大型宇宙戦艦の移行が決定された。
565:以下、
――それから数ヶ月後……。
――――
――
566:以下、
――ホクドウ、港前
楓「私は……そうですね、また土星圏に戻ってきたとき、Pさんと美優さんに何を聞かされるのかが心配ですね」
P「突然何言い出すんですかね」
楓「戻ってきたときに、もしかしたらお2人だけじゃなくて……3人目がいるんじゃないかと……いたっ」バシッ!
麗奈「昼間っから何言ってんのよ……」ハァ……
ちひろ「しばらくここの勤務でしたけど、ホント面白い人たちでしたね」
時子「ハッ……豚は豚らしく盛ってればいいじゃないの」
美優「そっ、そんな盛ってなんて……」
楓「1週間で4回は……盛ってると思いますけど……」
美優「よっ、4回って……!」
567:以下、
P「……」ハァ……
菜々「ううっ、ナナは心配です……ノルンの移行訓練だから仕方が無いとはいえ、しばらくPさんを1人にしてしまうなんて……」グスッ、グスッ
P「いや、そんな泣かなくても……」
菜々「だってぇ……部隊が分散するからラピッドストライカー隊も凍結になるんですよぉ……」
楓「訓練期間自体は3ヶ月ですし、合同演習とかも含めると……半年くらいは空けちゃいますね。そして戻ってきたら美優さんのお腹が……」
美優「そっ、そんなことにはなってませんから……!!」
黒井「……そろそろいいか?」
楓「あ、はい」
黒井「財前中尉、千川少尉、まずは部隊教導の件は礼を言う。大規模戦をはじめ、色々と別件にも関わってもらってしまったがな」
ちひろ「まあ、あとから教導隊に運用費が充てられたから大丈夫ですよ。大変でしたけどね」
時子「また機会があれば戻ってくるわ。新造艦の運用、こちらからも正式に数名は手配することになっているみたいだもの」
黒井「そうか。まあ、地球に戻ったらゆっくり休め」
時子「そうさせてもらうわ」
568:以下、
黒井「で……あとは貴様等か。木星圏でのノルンの運用訓練、しっかりとやってこい」
菜々「はいっ!」
麗奈「まあレイナサマは新しいオモチャ見に行くだけだけど」
楓「戻ってくるときは……えーっと、ノルンS-01、に乗って戻ってきますから。それまではお願いしますね」
P「はい。楓さんたちも気をつけてください」
楓「戻ってきたら……うふふっ」スススッ
P「な、なんですか、そんな擦り寄って……」
美優「だ、ダメですっ……! 楓さん……いつも私が見ていないところでPさんに……」
菜々「はぁ、最後までこんな光景を見ることになるなんて……」
麗奈「いいじゃない、しばらくこっちに戻ってこないんだし」
P「ま、まあいいや……そろそろシャトルが出る頃じゃないですか?」
菜々「あ、そうですね。もうこんな時間……」
P「まあ……安部中尉、俺たちは待ってますから」
菜々「……はいっ。行ってきます」
……
…………
569:以下、
――数十分後、ホクドウ、港前
美優「シャトル、出発しましたね」
P「ああ」
黒井「まったく、どうせ戻ってくるというのに見送りなぞ……貴様等、今日は休暇だったか」
P「はい。しばらくは運用の引継ぎで根詰めてましたから」
黒井「私は本部に戻る。ある程度はヴェールの部隊で賄うとはいえ、しばらく人員は不足した状態だ。休むときは休んで、しっかりと成果を出せ」
美優「は、はい……」
P「了解です」
黒井「フンッ。ではな、私は先に行くぞ」
570:以下、
P「さて……見送りも済んだし、俺たちも帰ろうか」
美優「はい」
P「皆がいなくなって、寂しいか?」
美優「いえ、私は大丈夫です……Pさんが傍にいてくれますから」
P「そうか……俺もだよ」
美優「ふふっ」ギュッ……
P「……行くか」
美優「はいっ」
……
…………
………………
……………………
572:以下、
――半年後、土星圏宙域、ユミルS-01(食堂)
美優「えっ、みなさん、ようやくこっちに戻ってくるんですか?」
P「そうらしい。総合艦隊演習も全部終わって、ひとまずこっちに引き上げるって菜々さんから連絡が来てた」
美優「そうですか……いつ頃に、なるんでしょうか?」
P「正式通達がまだ出回ってないけど、半月後にはホクドウに戻ってくるらしい。俺たちの哨戒任務が終わる頃には合流できるんじゃないか?」
美優「みなさんが……また、前みたいに一緒にお仕事できますね」
P「嬉しいか?」
美優「嬉しい……はい、嬉しい、ですね」
P「……なんだ? 何か言いたそうな顔してるけど」
美優「その……みなさんが戻ってきたら、Pさんと2人きりになれる時間……減ってしまうなって……」
P「なんだ、そんなことか……時間がないなら作ればいい。それに、合流した後はS-01を木星圏のオート・クレールに戻す作業もある」
P「そこら辺でしばらく休むことも出来るだろうし、一緒にゆっくりしよう」
美優「……そう、ですね」
573:以下、
ガチャンッ!!
美優「っ!?」ビクッ!
P「……く、黒井大佐……お疲れ様です」
黒井「悪かったな。時間が空いたから今のうちに食事を済ませようと思っていたが、どうやら貴様等の邪魔をしたようだ」ガタッ!
美優「い、いえそんな……邪魔だなんて……」
黒井「2人きりだか何だか知らんが、まったく、最近の若い奴らは……』
P「いや別に若い奴らとか言われても……そういえば、黒井大佐はS-01をオート・クレールに戻すときは一緒に行くんですよね?」
黒井「当然だ。ノルンS-01の艦長の移行もせねばならん。向こうにいる奴らがどれほどやれているのかは知らんが、部下に任せきりなのは性に合わん」
美優「菜々さんたちは、一度こちらに戻って、また木星圏に行って……大変ですね」
P「まあ、仕方がないさ。乗員もほとんど乗り換えになるし、少なくとも土星圏の旗艦は優先してノルンに移行しなきゃならないだろうからなぁ」
574:以下、
黒井「ユミルS-01は一時的に木星圏の防衛戦力に編成される予定だ。全宙域の旗艦の移行作業完了後、予備戦力として残すユミル以外は解体される」
黒井「全体の移行期間は約2年を想定しているが……所詮上手くいかんだろう、木星圏以下は予定は後ろ倒しになる」
美優「旗艦の入れ替えなんて、ほとんどありませんからね……」
P「ホントにな。移行作業だけで疲れそうだ……はぁ、たまには休んで美味いもんでも食いたいよ」
黒井「フン!! このセレブな私が、いつまでの戦艦のペースト食ばかりを食べていること自体がおかしいのだ!」
美優「ふふっ……Pさん、私……今回の任務が終わったら、木星圏のコロニーで美味しいもの、食べたいです」
P「そうか。それなら今度、補給で戻ったら何処か美味い物でも食べに行こうか」
黒井「まったく貴様等は、上官の前でイチャイチャしおって!」
美優「す、すみません……イ、イチャイチャなんて……」
P「勘弁してくれ大佐……そうだ、大佐も一緒に行くか?」
575:以下、
黒井「何故私が貴様等と一緒に外食をしなければならないのだ!」
美優「そ、そうですよね……すみません、大佐はいつもお忙しいのに……」
黒井「べ……別に行かないとは言ってないからな」
P「なんだそりゃ……どっちなんだよ」
黒井「……何でもない。腐っても貴様等は私の部下だ。ある程度は面倒くらい見ているだけだ」
P「まったく……」
美優「ふふっ……でも、今回の任務も後は帰還だけですからね。今回は少し遠くまで来ましたけれど……」
P「木星圏宙域との境目辺りだからな。前回の大規模戦で各艦の被害が大きくて、持ち回りが増えて随分と時間が掛かるようになったもんだ」
美優「そうですね……でも――」
576:以下、
ビーッ!! ビーッ!!
P「警報……!」ガタッ!
黒井「ブリッジ、レーダーはどうなっている」ピピピッ!
『はい、レーダーよりキラー・ビー捕捉しています。F型10、S型2です!』
P「宙域に彷徨っている奴らにしては多い……大佐、美優!」
美優「は、はいっ!」
黒井「機体整備が完了しているグレイプニールを順次出撃させろ! すぐにブリッジに向かう」ピッ!
美優「大佐……」
黒井「ブリッジに戻るぞ三船少尉。そして貴様はさっさと出撃しろ! ここまでの戦闘で出撃できる小隊も減っている状況だ、急げ!」
P「了解です」フワッ……
美優「Pさん……!」
ギュッ……!
P「美優……?」
美優「……気をつけてください」
P「ああ、行ってくる」ギュッ
パシュンッ!
……
…………
577:以下、
――ユミルS-01、カタパルト(G2機体内)
P「先に出ている前線部隊、戦闘状況はどうなっている?」カタカタカタッ!
ピピピッ!
『S-01の弾幕支援から戦闘は始まってる! 急いでくれよ!』
P「了解、ブースターユニットの接続作業が完了次第出撃する」パチッ、パチッ!
ピピピッ!
美優『Pさん……現在はGNS-004、007小隊が迎撃に出ています。戦闘中のグレイプニールは6機です……お願いします』
P「こっちの頭数のほうが少ないか。昨日の戦闘に続いて、今日の戦闘は2度目……このペースなら消耗も仕方がないか……」ガションッ!!
ピピッ!
P「ブースターユニットの接続が完了した。ハッチを開けてくれ」
美優『了解です。ハッチ開放……出撃お願いします』
P「GRS-1小隊からRS-02、G2で出撃する!」ギュンッ!
……
…………
578:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
黒井「問題はないだろうが少し先にデブリ帯がある。その方面には流れるなよ」
「了解です。アルヴァルディ装填準備完了、弾幕展開します」
黒井「前線の状況はどうなっている」
美優「前線……戦闘開始からF型を1匹撃破、拮抗状態です」カタカタカタッ!
黒井「拮抗状態だと?」
美優「は、はい……」
黒井(……これまでの戦闘実績であれば、キラー・ビー12匹に対してグレイプニール2小隊分では手に余る数だ)
美優「RS-02、前線と合流しました……単独マニューバで戦闘を開始するそうです」
黒井(戦闘開始からそれほど時間が経っていないとはいえ……何故だ、何かが――)
……
…………
579:以下、
――木星圏宙域、ナシヤマ、オート・クレール社(オフィス)
ピッ……ピピッ、ピピピピッ!!
晶葉「これは……!」ガタッ!
ピピピッ!
晶葉「おい麗奈、レイナ!」ピッ!
麗奈『はいはい。レイナサマよ、どうしたの?』
晶葉「早く出ろ! 次元振動が発生した。しかもこれまでの観測結果の中でも一際大きい。いまの時点では次元断層の測定も出来んくらいだ」
麗奈『なんですって……? わかった、いまそっち行くわ。外の守衛に話し通しておきなさい』
ピッ!
「博士! 次元断層のモニタリング記録です!」
晶葉「これは……なんだ、これは……いや、この断層状況、隣接しているデータは……予測されていた、別の――」
……
…………
580:以下、
――土星圏、戦闘宙域
ドガアアアアアアンッ!!
ピーッ!
P「なんだ!?」ビクッ!
『GN-011沈黙!』
『なんだと!? くそっ、いまどこから砲撃が……』
蜂「!?」ブゥゥゥンッ!
P「くっ、逃がすか!」ズドォンッ!
ドガアアアアアアンッ!!
P「あと7匹――」
『ぐおおおおおおっ!?』
ドガアアアアアンッ!!
ピーッ!
P「なっ……!?」
ピーッ! ピーッ!
『た、隊長!!』
『GN-019、021も沈黙!』
581:以下、
P「なんだ……なんだ、何がどうなっている……!?」
蜂「……!!」ギュンッ!
蜂「!」ギュンッ!
蜂「!」ギュンッ!
P「しまった!? 抜けられ――」
ズドォォンッ!!
蜂「!?」
ドガアアアアアンッ!!
P「い、いまのは蜂の粒子砲……F型が1匹落ちた……どこから……!」カタカタカタッ!!
ピッ、ピッ、ピッ……
P(レーダーには何も映っていない……残りのグレイプニールと、6匹の蜂……)
美優『Pさん! 前線のグレイプニールが――』
ドガアアアアアアンッ!!!!
P「……ユミル!?」
……
…………
582:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
黒井「ぐうううううっ!」
美優「きゃあっ!?」
「か、艦右舷に粒子砲直撃……出力低下しています!」
黒井「なんだと……!? 索敵を急げ! ブリンガー1番から4番を右舷前方に掃射! アルヴァルディを発射後に艦を後退させる!」
ドガアアアアアンッ!!
黒井「がっ……!?」
美優「レ、レーダー上、艦周辺にキラー・ビーがいません……先ほどの砲撃と合わせて、予測砲撃ポイントには蜂の姿がありません……!」カタカタカタッ!
黒井「レーダーに映らん蜂だと……そんな馬鹿げた話があるか! ブリッジの有視界スクリーンを起動しろ!」
「は、はいっ!」
フォンッ……
ブブブゥゥゥゥンッ!!!!
美優「ひっ……!?」
黒井「な、なんだ、コイツは……白い……蜂……」
……
…………
583:以下、
――戦闘宙域
P「S-01が、くそっ、美優!!」ギュンッ!!
蜂「!!」ギュンッ!
蜂「!!」ギュンッ!
P「邪魔だ、どけ!!」ドガガガガガッ!!
ドガアアアアアアンッ!!
『P少尉! 先にS-01に戻れ! ここはこちらで……があっ!?』
ピーッ!
P「おい、おいっ! くそっ! 貴様等……!!」ガションッ!
蜂「……!」ブゥゥゥンッ!
P「貴様等……許さん!!」ギュオオオオオオッ!!!!
P(美優……美優……!)
……
…………
584:以下、
――ユミルS-01(メインブリッジ)
白蜂「!!」ドシュシュシュッ!!
ドガガガガァンッ!!
美優「きゃあっ!?」
黒井「くっ……被害状況はどうなっている!」
「ティルウィング1番2番使用不能! レーヴァテイン3機破損です!」
「先ほどの攻撃で艦の出力低下、後退するにしても蜂の足がくて逃げ切れません!」
白蜂「……!」ズドォンッ!!
ドガアアアアアンッ!!
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「左舷エンジン被弾! このままでは航行が……!」
黒井(……ここまでか)
585:以下、
黒井「……現状の被害状況ではこれ以上の戦闘は不可能だ。総員、サブブリッジを脱出艇にして避難しろ!」カタカタカタッ
美優「そんな……黒井大佐……!」
黒井「何をもたもたしている……命令だ! 全乗員、サブブリッジに集まり避難だ!」ピッ!
「……り、了解です」
黒井「避難までの時間は稼ぐ。メインブリッジの制御を全て私の端末に移す」
美優「そ、それじゃあ大佐は……」
黒井「何度も言わせるな! さっさと避難せんか!」
「そ、総員、スーツを着用しサブブリッジに集合! 5分後にサブブリッジの切り離し作業を行う!」フワッ
パシュンッ!
黒井「生きているのはレーヴァテイン1機とヨルズ2機、ミサイル発射管か……滞空迎撃ミサイルのマグニを撒く」カタカタカタッ
美優「く、黒井大佐……」
黒井「何度も言わせるな。貴様も早く避難しろ、間に合わなくなるぞ」
美優「ですが……」
黒井「……あの男を頼む」
美優「え……」
白蜂「!」ドシュシュシュッ!!
ドガガガガァンッ!!
黒井「ぐうっ……!」
586:以下、

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