クズな俺でも夢を持ったback

クズな俺でも夢を持った


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めっちゃ待ってた!
179: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/28(木) 23:11:53.82 ID:CtY83YxF0
旅館での仕事は忙しかったが
どれもやりがいのあるものばかりだったと思う
ご飯の配膳をしていればお客さんに話しかけられるし
部屋をピカピカに掃除するのだって悪い気はしなかった
こんなクズニートの俺が、仕事を楽しいと思える
誰かの笑顔のためになってると思える
それが本当に嬉しくてさ
何より、親父さんと女将さんに本当に感謝してた
181: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/28(木) 23:16:18.99 ID:CtY83YxF0
働き始めて間もない俺の事を
「○○君来てごらん!」「○○君調子はどう?」
と言っていつも気にかけてくれるんだ
そしてたまに、夜の暇な時間になると
食堂に俺を呼んで「どう、一杯?」と誘ってきたりする
優しくて温かい、でもどこかお茶目な
そんな人達だったんだ
182: 名も無き被検体774号+ 2013/03/28(木) 23:19:18.29 ID:0gZA9m1h0
「だった」ってことは...
183: 名も無き被検体774号+ 2013/03/28(木) 23:19:35.58 ID:1Nk9n49h0
>>182
俺も思った
185: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/28(木) 23:48:10.06 ID:CtY83YxF0
そんな風にして、俺の人生初の仕事生活は
上手くいかないこともあったけど、順調に進んでいった
俺が働き始めてから間もなく、子供のいる家族連れが来た
宿の食堂には、大きなテレビとゲーム機が置いてあって
親父さんに「子連れさん来たから、ゲームを出しておいてね」と言われた
Wiiやプレステ3など、新しいゲーム機の中に
スーパーファミコンと、何やらスコープのようなコントローラがあった
俺はそれが何か分からず、手にとってまじまじと眺めた
186: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:01:18.90 ID:IiE2+kBw0
俺「これは何ですかw」
親父さん「ああ、それね。スーパースコープ…だったかな?」
俺「ああ、聞いたことがあります」
確かに聞いたことはあったが、けっこう往年のもので、
俺は持っている人を初めて見たくらいだった
俺「なかなか珍しいものだと思うんですけど…」
親父さん「そうなの?うちの子が小さい時に買ったんだけど」
俺「あれ、子供さんいたんですか」
187: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:03:46.76 ID:IiE2+kBw0
俺がそう聞くと親父さんは
「二人ね、いるんだよ」と言ったきり続けなかった
あまり話したげではなかったので、俺も詮索するのはやめた
そうか、二人には子どもがいたんだ
でもここに居ないということは、外に働きにでも出たのか
俺はこの時、その程度にしか思わなかった
190: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:27:08.51 ID:IiE2+kBw0
そして夕飯が終わると、ゲームタイムだ
男の子の小学生の二人兄弟を相手に、Wiiスポーツやスマブラなどで激しく盛り上がる
「兄ちゃんふざけんな!」「今のはなし!なし!w」
などど言われながら、服を引っ張られたり叩かれたりするw
俺も童心に帰って楽しくゲームの相手をする
そのうちその子たちのお父さんや、親父さんまでもが混ざって
食堂はなんとも賑やかな雰囲気に包まれた
191: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:30:30.63 ID:IiE2+kBw0
大の大人と小学生が一緒になって、ムキになって遊んでいるw
絶え間ない笑い声響いて、
こんな楽しいことが仕事でいいのか、と思うほどだった
夜もだいぶ暮れるまでゲーム大会は続き
ちびっ子たちは親御さんに促されて渋々部屋へと帰っていった
「兄ちゃん今度は負けねーぞ!」 そう言って指さして言ってくる姿がかわいかった
193: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:52:12.21 ID:IiE2+kBw0
その後、玄関の外で親父さんと煙草を吸いに行った
俺が親父さんに「楽しかったですねw」と言うと
親父さんは優しく笑って、「こういう事がね、結構あるんだ。」と言った
「だからいいものなんだ。これからも、色んな人に会えるよ」
そう言って、俺の横で笑顔で煙草をふかした
俺はそれを見て胸が一杯になった
親父さんはどれだけの人に出会ってきたんだろう?俺もこれからどれだけの人に出会えるだろう?
街灯もまばらな真っ暗な庭で煙草を吸いながら、頑張ろうって思った
194: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:55:56.38 ID:IiE2+kBw0
次の日の朝、俺が朝食の片付けをしていると
昨日の親子連れが俺のもとへとやってきた
するとお母さんが、「あの…良かったら一緒に写真撮ってもらえませんか」と言った
俺は驚いて、「え、僕ですか?」と変な声を出してしまった
「この子たち、昨日からずっと楽しかったってそればっかりでw」
「お兄さんと別れるのが嫌みたいで…」
そう言われて見ると、お母さんの後ろで恥ずかしそうにしている兄弟がいた
195: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 00:59:37.76 ID:IiE2+kBw0
俺は嬉しくなって「全然いいですよw」と答えた
すると親父さんが「なになに写真撮るの?w」と嬉しそうに近づいて来た
親父さんの「はい、チーズ」という声と共に
親子四人と俺、という何とも面白い写真が撮られた
兄弟のお父さんが「良かったなーちゃんとお礼を言いな」と言うと
ちびっ子二人は「ありがとう!」と笑顔で俺に言ってくれた
196: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/29(金) 01:04:34.42 ID:IiE2+kBw0
お母さんも、「あの子たち本当に楽しかったみたいで。次も必ずここに来ますよ」
と俺に言ってくれた
玄関で俺が手を振って見送る最後まで、兄弟は「ばいばい!」と手を振り続けた
振り返ると、番台で親父さんが「良かったね」と言って笑っていた
ああ、俺はどうしてしまったんだろう
もの凄く感激して嬉しくて、泣きそうになるのを必死でこらえた
この世界、まだまだ捨てたもんじゃない、本当にそう思えたんだ
242: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:28:56.74 ID:kiv8TQWr0
働いてみて初めて、
誰かに本気で「ありがとう」と言われる喜びを知った
あのちびっ子二人の笑顔を見て
俺は今までに感じたことのない嬉しさや達成感を味わった
俺にも、誰かの役に立つ、そんな事ができるだろうか
そんな考えを持ち始めて、仕事にも徐々に慣れた頃
とある出来事が起こった
245: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:31:50.96 ID:kiv8TQWr0
その日は休日ということもあって、朝からバタバタしてたんだけど
ひと通りやる事が終わり
少し休憩をしていた夕方頃、呼び鈴を鳴らす音が聞こえた
玄関の方から、「ごめんください」という声がしたので
俺は駆け足で向かった
そこには、この前の女の子が立っていた
247: 名も無き被検体774号+ 2013/03/30(土) 00:37:14.20 ID:mSV2P6fk0
追いついた!
248: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:37:33.92 ID:kiv8TQWr0
俺「こんにちは…」
女の子「あ… この前はどうも」
ときまり悪そうに言ってきた
俺「いえいえ…こちらこそ」
俺もどうしていいか分からず、どぎまぎして応対する
女の子「これ、回覧板ですんで…よろしくお願いします」
俺「あ、わざわざどうも」
女の子「いつもの事ですから」
そう言うと、「それじゃ」とだけ言い残し
何か急いでいたのか、そそくさと女の子は出て行ってしまった
249: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:41:20.35 ID:kiv8TQWr0
相変わらず、何か引っかかる人だなぁと思いつつ
俺は親父さんに回覧板を渡す前に
チラッと開いて中を見てみることにした
「河川及び路地清掃ご協力のお願い」
そこにはそう書かれた紙切れが一枚はさんであって、
俺は最初「なんだこれ」とまったくピンと来なかった
250: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:45:31.58 ID:kiv8TQWr0
俺は不思議に思いながら、届いた回覧板を親父さんに渡した
俺「これ、例のあの子が持ってきてくれました」
親父さん「おおそうか、ありがとう」
親父さんは眼鏡をかけて、帳簿をつけながら受け取ってくれた
親父さん「何か言われた?w」
俺「いえ、何も…?w」
親父さんは、俺と「カドワキ」という女の子の関係を楽しんでいたのだろうか
正直、女の子は俺の好みではあったけれどw
252: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:50:42.72 ID:kiv8TQWr0
俺「それより、この川と道の清掃っていうのは…」
親父さん「ああ、2月に一度くらいね、
ここらの町内会の人達で近所の川や道を掃除するんだ」
俺「掃除…?」
親父さん「え、そうだよ?○○君のとこではなかったの?」
いくらそういう類のことを親に任せきりだったとは言え
初めて耳にする風習だった
253: ◆GZ9LcuBAFk 2013/03/30(土) 00:57:29.31 ID:kiv8TQWr0
俺「でもそういうの、何かいいですね。」
親父さん「みんな、ここが好きだからね」
そう言って親父さんは笑った
俺「いいなぁ…」
俺がテンションを上げて言うと、親父さんは何か察したのか
親父さん「○○君、今度のやつ行ってみたら?ちょうどいい」
俺「いいんですか?」
親父さん「いいよいいよ。みんな若い人が来てくれると喜ぶし」
親父さんはそう言って俺の肩を叩いた
そうか、こんなものがあったんだ、と少しワクワクした
地区の行事、地域のつながり。
なんだかとても温かい 俺はそういうのに憧れてたんだ
429: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 17:33:37.64 ID:iH3diVCK0
河川清掃は朝早くから行われる
地区にはお年寄りが多いので、早い時間帯からやるのは昔からの慣例だそうだ
特にどこをやるだとか、何をしなきゃならないという決まりはなく、
各々が開始の時間になると外に出てきて
自分の家の周辺の側溝?であったり道を掃除する
初対面の人が大勢いるだろうから、かなり緊張した
タオルを首にかけて軍手して…変な感じだったなw
430: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 17:39:58.33 ID:iH3diVCK0
とりあえず、俺は宿の敷地前の道の雑草にとりかかった
草取りなんて、学生時代の行事でやった以来だ…
実家の庭の草取りくらいしろ、とよく怒鳴られたっけ…なんて思い出した
草を抜いていると、何となくニート時代の事を思い出してモヤモヤした
それを振り払いたくて、しばらく路端に生えている雑草取りに熱中していると、
カランカランと音を立てて、誰かが近寄ってきた
433: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 17:50:13.49 ID:iH3diVCK0
そこには、例の女の子が立っていた
髪を結んでいたので、最初すぐに誰か分からなかった
俺に気づいて、目を丸くした
女の子「あ、おはようございます…」
俺「ああ、おはようございます」
女の子「空き缶を集めてるので…もしあれば…」
気まずいのか、恥ずかしそうに話しかけてくる
でも俺はその気遣いが嬉しかったし、知り合いがいて良かったと思えた
434: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 17:55:01.32 ID:iH3diVCK0
しかもこの偶然、俺にとってはとてもラッキーなものだった
偶然持て余していた空き缶ゴミがあったし、
その子も俺の近くで一緒に草を取るような流れになった
俺「親父さんに、この近くに住んでると聞きましたが…」
女の子「ええ…目と鼻の先ですよ。本当にすぐそこです。」
ぶっきらぼうではあるが、会話が成り立つ
それがとても嬉しくて、ウキウキして草取りに励んだ
435: 名も無き被検体774号+ 2013/04/06(土) 17:58:47.77 ID:UwPOcPb50
みてるぞ
439: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 18:30:34.06 ID:iH3diVCK0
こんなに可愛らしい人と一緒に草取りしてる事が不思議だった
というより、なんだかシュールで笑えてきそうな位だった
俺「この辺っていいところですよね」
女の子「田舎ですからね…何もないですけど」
こんな他愛もない会話を繰り返していた
話し方にトゲはあるけど、きっとそれがこの人なんだろうって思って
最初ほど違和感や変な印象は受けなくなった
でもなんでこんなにドライなんだろう、という疑問はあったけど
440: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 18:37:14.46 ID:iH3diVCK0
それでいて、やけに生真面目で
草をまとめると「それ、こちらの袋にどうぞ」とか、
靴が汚れそうになると「ああ、靴が汚れちゃいますよ」
とか言ってきて、なんだかとても不思議な感じだった
本当のアナタはどっちなの?って感じで
全然性格とかそういうのが掴めなかった
一緒にいて、特段居心地が悪いとかはなかったんだけど
今までに会ったことのない影を持った感じの人だったので
すごく興味深かった
441: 名も無き被検体774号+ 2013/04/06(土) 18:45:29.81 ID:UwPOcPb50
ほうほう、それでそれで?
443: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 18:50:52.12 ID:iH3diVCK0
しばらく一緒になって草取りして、時間が過ぎた
すると唐突に女の子が立ち上がった
女の子「あ、時間ですね」
俺「え?何のですか?」
俺がそう言うと女の子は嫌そうな顔をした
女の子「知らないんですか?」
俺「ええ…」
女の子「取った草を燃やす時間なんです」
ため息混じりで教えてくれた。やっぱり、まだまだイラッと来るところはあるw
444: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 18:57:05.61 ID:iH3diVCK0
女の子「一箇所に集めて草を燃やすんです。そこで簡単なお茶会もします」
俺「あ、そういう事なんですか…」
女の子「集まりだって大切な行事の一貫ですからね?一人だったらどうしたんですか?」
何故か知らないが怒られた
俺に落ち度があったとは言え、なんだかあんまりだ…
女の子に促されるまま、草が目一杯入った袋を抱えて歩いた
小さな空き地に出て、すでに焚き火が行われていた
その周りを、何人もの人が取り囲んで談笑していた
445: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 19:02:48.25 ID:iH3diVCK0
女の子「お疲れ様です」
「あ、カドワキさんご苦労様ー」「カドワキちゃんだ、いつもありがとねー」
輪に入っていった女の子は次々と声をかけられる
地区の人からの評判はとても良いみたいだ
コミュニティ、人付き合い…そんなワードが頭に浮かんだ途端
俺は緊張して足が前に出なかった
家に引きこもっていた時間が長かった分、こういう場が本当に苦手になってたんだ
どうしたらいいんだ、と顔が熱くなって変な汗が出そうだった
447: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 19:21:46.34 ID:iH3diVCK0
俺がどうしようもなくて輪に入らず立ち尽くしていると
女の子が向こうから「来なよ」と言って手を振った
俺はそれでもダメで、グズグズとして動けない
すると、女の子が輪から飛び出してきて俺の前に来た
「大丈夫だから」そう言って笑って、強引に俺の腕を引っ張っていった
女の子「〇〇さんとこで働いてる俺さんです」
俺「あ…初めまして。〇〇と言います」
449: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 19:31:43.51 ID:iH3diVCK0
「あー◯◯さんとこの人なんだ」「まだ若いねーよろしくねー」
と、輪の中に入ると瞬く間に会話が走りだした
近くにいたお婆ちゃんに「疲れたでしょ」と言ってチョコレートを渡された
「どこからきたの?」とか「若いのに行事に来て感心だ」
とか、地区の人はみんな暖かくて、本当に安心した
女の子が小声で「ね、大丈夫でしょ」と笑ってた
450: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 19:35:47.35 ID:iH3diVCK0
その時の笑顔が印象的で、俺はドキッとしてしまった
正直、俺はこの時に女の子の事を好きになったんだと思う
勇気が出なくて一歩踏み出せなかった俺を
腕を引いて輪の中に連れて行ってくれた
その瞬間のときめきが、忘れられずにいたんだよ
女の子がいたから、地区の人達とも関係を築けて
打ち解ける事ができた
女の子が、俺を助けてくれた そんな風に思ったんだよな
460: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 23:35:34.49 ID:iH3diVCK0
草を燃やす焚き火をみんなで囲いながら
水筒に入った温かい緑茶をもらって団欒する
みんなが他愛もない会話で笑っていて
俺は自分がそんな場所に居合わせられる事に感動した
前の俺だったら考えられない
宿で働き始めたこと、女の子と出会ったこと
そういうことが全部作用して
こういう事が楽しめるくらいに、段々変化してきてたんだと思う
462: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 23:42:58.60 ID:iH3diVCK0
帰り道、方向がまったく一緒だったので女の子と2人で帰った
俺「なんかその…ありがとうございました」
女の子「何がですか?」
俺「あの…輪に入れてくれて…」
俺は恥ずかしいのに耐えながら、お礼を言う
女の子「ああ。だって何か躊躇してましたから…」
俺「いえ、ありがとうございます」
女の子「そうでしたか」
そう言うと女の子は、珍しく笑ってくれた
463: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 23:45:02.60 ID:iH3diVCK0
かつてなくいい雰囲気だったので、俺はここで勇気を出した
今しかない。
俺「あの、ご近所さんですし…良かったら連絡先教えてくれませんか?」
女の子「いいですよ」
そう言うと、女の子はすぐに携帯を取り出してくれた
やった、これはやったぞ!と思ったのも束の間
女の子「でも忙しいんであまりメールとかしませんよ」
464: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 23:48:22.41 ID:iH3diVCK0
メールする前からの念押しか…
これは脈なしか…?と少し落ち込んだけど
何はともあれ連絡先はゲットできた
これは凄い進歩だぞ!と思った
俺「全然大丈夫ですよ。ありがとうございます」
そう言って意気揚々とアドレスを交換した
少し前までニートだった俺が、もの凄く進歩だ
仕事も始めて、外交的にもなってきた
自己満足かもしれないけど、そう思えるだけで凄く嬉しかったんだ
465: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/06(土) 23:53:44.70 ID:iH3diVCK0
こうして、今では連絡もとることのない寂しい名前の並ぶ携帯の電話帳に
「カドワキ」という新しい名前が増えた
アドレス交換なんて、何年ぶりだったろうか。
丁寧に「さよなら」と言ってぺこっと頭を下げてカドワキさんは家に帰って行った
俺はなんだか久しぶりに胸がドキドキしちゃって、
宿の自分の部屋に帰ってから
ひたすら「よし!よし!」って言ってガッツポーズをしてた
馬鹿だったよなぁw
466: 名も無き被検体774号+ 2013/04/06(土) 23:54:47.88 ID:45Ld1ZsTI
wktk
468: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:10:14.77 ID:4WWO0I6y0
それから俺は、さらに宿の仕事を一生懸命やるようになった
真面目に働いて、沢山お客さんの笑顔見て、それが楽しかった
そして、早くカドワキさんに会いたい
次会ったらどんな顔をするかな?どんな事を話すかな?
そればかりが頭を過るようになっていた
やっぱり、恋のパワーって半端ないね
毎日を全力で生きる原動力になっていたもの
469: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:17:02.34 ID:4WWO0I6y0
だが、昼の休憩時間にフラついても
夕刻にケンの散歩に行っても、一向に会えなかった
学校だろうか?忙しいのだろうか?
色んな考えが頭をよぎった
そして例の清掃からけっこう時間が空いた日だ
俺はその日は休みをもらって、一日好きに過ごしていた
夜になって蒸し暑くて、散歩ついでにコンビニ向かったんだ
471: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:22:42.24 ID:4WWO0I6y0
煙草と飲み物を買って、ボーっと帰り道を歩いてた
街灯があまりなくて、夜になるとなかなか不気味な道なんだよな
そんな事考えてたら、前方から人が歩いてきて少し身構えた
こんな時間に一人で歩いてるって、けっこう怖い…
カドワキ「こんばんは」
俺「あ、こんばんは…」
思っていたのとは違う形でドッキリした
前から歩いてきたのは犬を連れたカドワキさんだった
472: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:28:20.07 ID:4WWO0I6y0
俺は思わぬ偶然に飛び上がるくらい嬉しかった
俺「こんな時間に散歩なんて…部活とかだったんですか?」
俺がそう言うと、カドワキさんは苦い顔をして「え?」と言った
カドワキ「私働いてるんですが…」
俺「え?」
そう、高校生だというのは勝手な俺の勘違いだったんだ
正直、本当に驚いた
見た目はもの凄くあどけないから、高校生だって言われても全然分からない
473: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:34:19.18 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「私はもう今年で20歳で…社会人ですが」
俺「そうだったんですか…」
そういえば、この前の清掃の時にお互いの事をまったく聞いてなかった
俺はなんだか怖くなった
カドワキ「さっき仕事から帰ってきて…だからこんな時間で」
俺「ああ、大変ですね…」
カドワキ「そういえば、〇〇さんは何歳なんですか?」
俺はこの質問に「え?」とどもってしまってなかなか答えられえなかった
475: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:38:44.15 ID:4WWO0I6y0
俺「24歳ですが…」
まずい、この流れはまずい…俺は凄く嫌な感じがした
少し前までの、恥ずかしい自分を必死に押し殺して隠してきた感情だ
カドワキ「24?若いから珍しいとは思ってたんですが…」
カドワキ「前は何かやってたんですか?」
来た。この質問だ。
この質問が怖いんだ よりによって自分が惹かれている異性に、この質問をされるなんて
476: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:41:00.94 ID:4WWO0I6y0
言うのか?好きな人に、
自分が「今までニートしてたんです」ってことを。
言いたくない、そりゃそんなの誰だって言いたくない
でも俺は咄嗟に上手い言い逃れも思い浮かばず、
カドワキさんを信じて、全てを曝け出すことにしたんだ
どうせ、いつかは絶対にバレることだしね。
そんなの、ニートをやっていた奴の宿命だろう 悪いのは全部自分だ
479: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:54:33.07 ID:4WWO0I6y0
俺「あの…大学を卒業してから…その…」
カドワキ「はい?」
俺「ちょっとの間ニートだったんです」
俺がそう言うと、彼女は目を見開いた
カドワキ「ニートって?あのニートですか?」
俺「はい、そうです」
カドワキ「え、本当ですか?」
480: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 00:57:07.57 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「うっそ…初めて見た…」
俺「ですよね」
彼女の表情がどんどんこわばっていく
カドワキ「信じられない…どうして?なんでそんな事したんですか?」
俺「それが…自分でも分からなくて…」
カドワキ「分からない?何ですかそれ?なにやってたか分かってるんですか?」
俺「ええ…」
彼女がどんどんヒートアップしていく
まずい流れだ
481: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 00:57:41.27 ID:533LZ6bq0
カドワキ怖
482: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 00:59:06.96 ID:zbKPD5x20
おもろい
483: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 01:00:55.38 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「それでここに来たんですか?なんで?なんでですか?」
俺「いや、とてもいい所で…」
カドワキ「夢とか、やりたい事とか、ないんですか?」
俺「いや、特には…あることにはあったんですが…」
カドワキ「なんですかそれ?」
俺も、どんどん感情的になる彼女に押される一方だった
カドワキ「結局、ニートができるだけの環境と余裕があったからですよね?」
カドワキ「必死にならなくても、それができるだけの自由があったんですよね?」
普段からは到底考えらないくらい、彼女は感情を剥き出しにした
485: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 01:06:41.50 ID:4WWO0I6y0
彼女は大声で「信じられない」と言って首を振った
俺は、もう呆然として見つめているだけだった
カドワキ「どうしてそんな恵まれていて…そんな事したんですか?」
カドワキ「あり得ないです」
そう言って彼女は大きく息を吐いた
俺は、ただ黙るだけだった
カドワキ「私、ダメです。ごめんなさい」
そう言い残し、彼女は駆け足で俺の元から去って行った
486: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 01:10:27.55 ID:4WWO0I6y0
怒涛の罵声を浴び、一人取り残された俺は
「まあ、そりゃそうだよな」って自分に言い聞かせるように考えた
ニートなんてしてた自分が悪いのだから
でも、あそこまで感情的になるなんて思わなかった
それも、好きになっていた女の子に、あそこまで言われると思わなかった
ニートとかそういった類のものに、何か特別な想いがあるのだろうか
流石の俺も、この日のカドワキさんからの言葉は
かなり心に重くのしかかってしまった
487: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 01:12:15.84 ID:4WWO0I6y0
ということで今日はこの辺で落ちます
明日あたりに終わらせると思います
見てくれてる人、ありがとうです。
488: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 01:12:53.33 ID:zbKPD5x20
ニートってこんなに弾圧される存在なのか…
489: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 01:13:33.54 ID:zbKPD5x20
おもしろかった
あしたもできればたのみます
490: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 01:17:22.76 ID:pjH2WrHg0
面白いな
明日も期待
495: 忍法帖【Lv=13,xxxPT】(1+0:
続きが楽しみだ
497: 忍法帖【Lv=8,xxxP】(1+0:
カドワキさん……
500: 忍法帖【Lv=20,xxxPT】(1+0:

501: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 16:24:53.03 ID:hoRHwgr20

502: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 17:36:10.29 ID:4WWO0I6y0
どうも
保守ありがとうです
続きいきますね。
504: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 17:40:22.98 ID:4WWO0I6y0
俺はとにかくショックだった
あそこまで言われた事はもちろん、
好きになった人に嫌われてしまった事実が、どうしようもなく嫌だった
こんな歳になってせっかく恋に落ちて、こんな終わり方をするんだなって
一人虚しくなった
俺はこの時初めて、実感的に、自分がニートだったことを
心底後悔して恨んだ
馬鹿やってたなぁ、って
505: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 17:48:12.16 ID:4WWO0I6y0
今思えば、あそこまで言うカドワキさんも少々変だけど
この時の俺は不思議と、全面的に自分がいけないんだって信じて疑わなかった
宿に戻ってから、玄関に置いてある灰皿の前でひたすら煙草を吸った
なんかもう、この世の終わりと感じるくらいに悲しかった
次の日から朝起きるのもひたすらしんどくなって
あと一歩でまたニート時代に戻る寸前だった
親父さんにも「元気ないけど大丈夫?」と心配されるくらいだった
506: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 17:57:30.17 ID:4WWO0I6y0
勝手に落ち込んで、元気をなくして周りに心配させる自分
そんな状態が本当に申し訳なくて、自分に嫌気が差した
あんなにも楽しかった宿の仕事の一つ一つが、
「なんで事してんだろう」に変わり始めて
「そろそろ辞めてしまおう」そんな思考になりかけていた頃だった
昼のヒマな時間、休憩してる時
滅多に鳴ることのない俺の携帯に着信があった
508: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:06:26.70 ID:4WWO0I6y0
俺「もしもし…」
カドワキ「あの…」
その声は、聞いてすぐに普通じゃないと分かるくらいにしゃがれ声だった
俺「どうかしたんですか?」
カドワキ「助けてくれませんか」
俺「え?」
510: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:12:59.85 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「いあ…その、なんというか…」
俺「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
カドワキ「体調を壊して…」
俺は突然のことだったので動転した
カドワキ「動けないんです…今…」
俺「は、はい…」
カドワキ「凄く近所なので…何か食べるものを…」
俺「持っていけばいいんですね?」
512: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:28:26.18 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「は…はい…」
俺「分かりました。てきとーに見繕ってすぐ行きますね?」
カドワキ「ごめんなさい…」
この時、様々な疑問が浮かんだ
何故俺なんだ?確かに至極近所ではあるが
他に頼る人は?親はいないのか?
しかしそんな事は気にせず、
とにかくすぐにカドワキさんの家へと向かうことにした
513: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:36:17.53 ID:4WWO0I6y0
俺はコンビニへと走って、
栄養ドリンクやバナナ、お粥のパックなんかを買って
すぐにカドワキさんの家へと向かった
自分が何をしていて、何故こんな状況になっているのか
よく分からなかったけど、必死になって走って
早く届けてあげよう、と思った
あんな事を言われた後だったのに、頼ってくれた嬉しさがあったんだ
なぜか、ドキドキしてる自分がいたんだよな
514: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:47:31.12 ID:4WWO0I6y0
コンビニの袋を下げて、必死になって走った
6月の終わりくらいでもう凄く熱くて、汗だくになった
カドワキさんの家の前に着くと、息が上がりきってクラクラした
「カドワキ豆腐店」と書かれた家の前は、シャッターが下りていた
豆腐屋だったのか、と一人で思って
急いで入れるドアを探す
回りこんで家の側面に入ると、玄関らしき扉があったので
インターホンを鳴らして「いますかー?」と必死に呼びかけた
516: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:55:11.75 ID:4WWO0I6y0
しばらく待っていると、古ぼけた薄茶色の扉が開いた
マスクをして、目を真っ赤にしたカドワキさんが出てきた
俺「大丈夫ですか…?これ、買って来ましたよ」
カドワキ「ありがと…」
そう言ってだるそうにして差し出した袋を受け取る
本当に虚ろと言った感じなので、俺は心配になった
俺「いや、熱何度あるんですか…?」
517: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 18:58:37.91 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「ん…40度くらい…」
俺「はい?そんなんじゃお粥なんか自分で作れないでしょう」
カドワキさんは「う?…」という返事ともとれない返事をしたので、俺は決心した
俺「嫌かもしれませんが、お粥くらい作ってきますよ?」
カドワキ「あ…え…」
俺「なんか食べないと本当に死んじゃいます」
カドワキ「う…」
519: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 19:02:00.04 ID:4WWO0I6y0
俺「お粥だけ作って、すぐに出て行きます…」
カドワキ「あー…」
俺「ちょっとだけ、入れてもらえますか?」
俺が意を決してそう言うと、
カドワキ「どうぞ…」
とだけ言ってフラフラと家の中に戻っていった
俺は「お邪魔します…」とだけ生真面目に言って、カドワキさんの家に入った
520: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 19:07:05.35 ID:4WWO0I6y0
カドワキさんの家の中は昔ながらの感じで
イメージとはまったく違った 何というか、年季が入っている
板張りの廊下は昼間なのに暗くて、なんだかひんやりしていた
もっと、小綺麗でおしゃれな感じにしてるかと思っていた
俺が居間に入ると、カドワキさんはその場に座り込んでしまった
カドワキ「ごめんなさい…」
俺「いいんです。すぐにお粥だけ作っちゃうんで、少しだけ待っててくださいね」
521: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 19:13:46.16 ID:4WWO0I6y0
台所に続く玉のれんをくぐると、使い込まれたキッチンがあった
年季が入った家ではあったけど、いつも綺麗にしてるんだなってすぐ分かった
買ってきた栄養ドリンクやゼリーなどを冷蔵庫に入れていると
冷蔵庫に貼ってある一枚の写真に気付いた
あどけない少女と初老の男性が、ピアノの前で花束を持って笑っている
カドワキさんだろうか?そんな事を思ったけど
すぐに袋からお粥のパウチを取り出して、
今自分がやるべきことに専念することにした
526: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 21:53:22.79 ID:E7PaeShw0
はよ続き!
527: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:06:02.36 ID:4WWO0I6y0
鍋を探して、水を入れて、火にかける
沸騰するのを待ってる間、買ってきた冷えピタをカドワキさんに渡し
スポーツ飲料をコップに入れて居間のテーブルに置いた
カドワキさんは「ありがと…」と言いながらグッタリしていた
本当に朦朧としている様子
俺はありがとう、と言われることが何だか嬉しくて
こんな状況ながら、少しだけときめいていたんだ
528: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:10:08.45 ID:4WWO0I6y0
そうこうしてるうちに鍋の中が沸騰して、お粥が完成した
俺「お粥できました。卵は無理だろうから、普通のやつです」
俺「海苔とか、塩とかで味つけましょうね」
カドワキ「ありがと…」
俺「いえいえ」
そう言って、居間のテーブルにお粥と、塩を並べた
そして、しばらくぼーっと出来上がったお粥を眺めているカドワキさん
529: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:17:10.51 ID:4WWO0I6y0
俺「食べられそうにないですか?」
カドワキ「うん…」
俺「まいったな…少し、頑張ってみましょう」
そう言って俺もゆっくり待つことにした
居間を見回していると、わきにピアノがあるのに気付いた
さっきの写真は、やっぱりカドワキさんだったのか…
気づけば、そのピアノの上に幾つかの盾やトロフィーも並んでいた
530: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:20:23.21 ID:4WWO0I6y0
しかし、こんな状況下でさすがに
「カドワキさんピアノ弾くんですかー?」なんて話しかけることもできず
自分の中で納得しただけだった
趣味でピアノ弾くのかな…なんて一人で思っていたら
カドワキ「だめ…だめだ…」
と話しかけてきた
俺「え、やっぱり無理ですか?」
カドワキ「食べる…どころじゃない…」
531: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:23:02.45 ID:4WWO0I6y0
参った、これが食べられないなら、とうとう急いで病院に行かないと
俺「少しも無理ですか?」
カドワキ「ん…」
そして喋るのすら辛そうになってきている
俺「分かりました。カドワキさん、外に車ありましたね?」
カドワキ「え…はぁ…」
俺「病院行きましょう」
533: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:30:36.82 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「あ…え…」
俺「いやいや、悩んでる暇ないです。」
俺「大丈夫です、安全運転で連れてってあげますw」
そう言うと、カドワキさんの顔が少しだけほころんで、
「わかった…」とだけ俺に言った
俺「財布はどっちでもいいですけど、保険証だけは持ってくださいね」
カドワキ「うん…」
もうフラフラだったので、俺が肩を貸して外に出て、車に乗せた
535: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:47:59.24 ID:4WWO0I6y0
正直、俺はペーパードライバーに近かったので、かなり緊張した
ただ、助手席で今にも崩れ落ちそうなカドワキさんを乗せていたので
そんな事は言い出せなかった
幸い、一度こっちに来てから消化不良で内科に行ったことがあったので
病院の場所だけは頭に入っていたんだ
カドワキさんを安心させたかったので、
「すぐに着きますよ」とか言いながら車を発進させた
536: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/07(日) 22:55:54.81 ID:4WWO0I6y0
道中、俺が車の運転に集中していたのもあって、沈黙が続いた
すると、熱に浮かされたのか、カドワキさんが喋り出した
カドワキ「良かった…」
俺「はい?」
カドワキ「ありがとう…」
シートを倒して背もたれに倒れかかっているカドワキさんが
必死になって喋っていた
俺「無理して喋らなくていいんですよ」
537: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 23:08:56.33 ID:BZDmFy8P0
支援
540: 名も無き被検体774号+ 2013/04/07(日) 23:29:14.05 ID:5NAfVeI0O
支援
585: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 22:37:30.41 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「いいの…あのね…」
俺「はい…」
熱気が溜まって蒸し暑い車内で、カドワキさんは必死に喋る
カドワキ「頭のこれ…が」
俺「ええ」
カドワキ「ひんやりしてて…気持ちいい」
俺「ああ、冷えピタですね。買ってきて良かったw」
586: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 22:39:59.89 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「昔…さ…」
俺「はいはい」
カドワキ「よく…お父さんがね…」
俺「ええ」
カドワキ「氷枕を…作ってくれて…」
俺「氷枕ですか。」
カドワキ「すごく…嬉しくて…」
俺「へえ、そうなんですかw」
588: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 22:43:37.80 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「なんだか…それをね」
俺「はい。」
カドワキ「思い出しちゃった…」
俺はその言葉に、何も言い返せなかった
信号に止まって横を見ると、ぐったりして椅子に寝ているカドワキさんがいる
カドワキ「本当はすごく…不安で…」
俺「はい」
カドワキ「嬉しい…よ」
589: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 22:46:35.16 ID:1qYjTR8a0
俺「嬉しいって…何がですか?」
カドワキさんは、そんな俺の言葉も意に介さず続けた
カドワキ「誰かと一緒だと…」
カドワキ「こんなに嬉しいんだね…」
俺はその言葉に胸がきゅんとしたが、何も言えず
そして、カドワキさんもそれだけ言うと
疲れてしまったのか、まったく喋らなくなった
590: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 22:50:41.95 ID:1qYjTR8a0
しばらく車内は沈黙のまま病院に向かった
カドワキさんのお父さんはどんな人なんだろう?
さっきの写真の人?それにしても何故食べ物くらい買ってこないのか?
今はお父さんは家にいないのか?
いろんな考えが頭を渦巻いた
そして小十分車を走らせると、病院に着いた
ドアを開けて「さ、行ける?もう大丈夫ですよ」と言ってカドワキさんの手を取る
カドワキさんはもう限界のようで
無言のまま俺に手を取られ、病院に入った
591: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 22:56:24.00 ID:1qYjTR8a0
まあ予想通りというか、カドワキさんは典型的な風邪だった
しばらく何も食べてないと伝えると、点滴を打つことになったので
俺はベッドで朦朧としてるカドワキさんに
「これでもうバッチリですね。」と話しかけた
するとカドワキさんは寝たままこちらを見上げて、口元だけで笑ってみせた
それを見て、これならもう安心だな、と気が抜けた
点滴が終わるまで駐車場に戻って煙草を吸う事にした
592: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:21:03.50 ID:1qYjTR8a0
1時間ほど経って、カドワキさんを迎えに行く
相変わらずフラフラな状態は変わらなかったので
病院のお金と薬代は、俺が立て替えた
俺が腕を引いて、カドワキさんを車まで連れて行く
俺「点滴もしたし、これでひとまずは安心です」
するとカドワキさんは笑顔になって
「ありがとう」とだけ言った
593: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:24:45.94 ID:1qYjTR8a0
帰りの車も、カドワキさんは点滴を打って眠くなったのか終始無言だった
俺も、負担にならないようにゆっくり運転して、黙って帰った
家に着いて、カドワキさんを部屋まで連れて行く
カドワキさんはやはりよっぽど辛いのか、着替えることもなくベッドに倒れ込んだ
俺「もらった薬はここに置いておきます」
カドワキ「うん…」
俺「ゼリーとかバナナがあります。夜になったら食べて、ちゃんと薬飲んでくださいね?」
カドワキ「うん…」
595: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:27:06.63 ID:1qYjTR8a0
俺「ここにタオルも置いときますね。汗かいたらちゃんと拭くんですよ?」
カドワキ「うん…」
俺もすっかり安心して、帰ろうとする
俺「もう大丈夫です。何かあったら、電話してください」
そう言って部屋から出て行こうとした
カドワキ「あ…」
カドワキさんが不意に俺を呼び止めた
596: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:31:05.21 ID:1qYjTR8a0
俺「どうかしました…?」
カドワキ「まだ…その…」
とてもか細い声で話しかけてくる
カドワキ「氷…枕…」
俺「え?でも…そんな作り方とか知らないですし…」
カドワキ「や…やだ…」
正直驚いた 普段強気なカドワキさんが
こんな風に駄々をこねてわがままを言うなんて、想像がつかなかった
598: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:37:17.95 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「台所の下に…あるから…」
俺「は…はあ…」
それを無視することもできず
俺は言われるまま、台所下の収納を探す
すると、グレーのゴムで出来た枕?が見つかる
これに氷水を入れればいいんだな、と分かり
急いで水道水と冷凍庫の氷を突っ込んで、氷枕をこしらえた。
599: 名も無き被検体774号+ 2013/04/10(水) 23:42:24.14 ID:b8MCgzqMP
なんだかこんな女性にめぐり会いたいな。
600: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:43:25.88 ID:1qYjTR8a0
このまま頭を乗せたら冷たかろう、と思って
台所にあったタオルを巻いて、俺特製氷枕の完成だ
それを急いでカドワキさんの待つ部屋に持っていく
部屋に戻ると、カドワキさんはもうグッスリ眠っていた
そのまま起こさないようにゆっくり頭を持ち上げて
枕を氷枕に入れ替える
少し揺らしてしまったが、一向に起きる気配はなかったw
601: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/10(水) 23:49:05.96 ID:1qYjTR8a0
さっきまでとても辛そうにしていたのが、氷枕に入れ替えて
より一層心地よく眠っているように見えたので
俺は嬉しくなって、一人で「良かったね」と呟いてしまった
そのまま「薬はここに置いときます。ちゃんと食べて飲んでね。」
というメモだけ残し、俺はカドワキさんの家を後にした
できる事なら、もう少し寝顔を眺めていたかったけど
俺が宿を出てから、実に2時間以上が経っていた
602: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:12:57.68 ID:aKJ0yOno0
俺はこの間、宿に連絡するのをすっかり忘れていた
いくら暇な時間帯とは言え、無断の長時間外出は許されない
そのことを、宿に戻ってから気付いたのだ
玄関から入ると、番台に親父さんが立っていた
親父さん「おかえり。どこに行ってたの?」
俺「すいません…全然連絡もなしに外に出て行ってしまって…」
親父さん「さすがに困るよ。最近、おかしいんじゃないのかい?」
604: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:16:11.82 ID:aKJ0yOno0
普段優しい親父さんも、この時ばかりはだいぶ怒っていた
親父さん「仕事なんだから…許されないよ、こんな事」
俺「本当に、すいません…」
もうだめだと思った
カドワキさんとのひとときの時間の代償に
俺は今日で終わりなんだなぁって思いもした
それだけ、無責任な事をしたんだって、自覚してたんだ
605: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:19:03.77 ID:aKJ0yOno0
親父さん「…で、どこに行ってたの?」
俺「はい…?」
親父さん「ワケがあるんでしょう。君が理由もなくそんな事しないって知ってるから。」
親父さん「話してよ。」
親父さんは、厳しい表情をしながらも、俺の事を見つめて
俺の言い分を聞こうとしてくれた
それで、俺は勇気を持って話そうと決心した
606: 名も無き被検体774号+ 2013/04/11(木) 00:20:53.61 ID:BK9sefz3P
ええ話や
607: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:21:55.46 ID:aKJ0yOno0
カドワキさんが死ぬほど体調を崩して、苦しんでいたこと
俺はいたたまれなくなって、全てを投げ打って助けに行ってしまったこと
普通の大人なら、到底聞き流して「理由」とも捉えてくれない事を
俺は一生懸命に親父さんに伝えた
すると、親父さんも玄関の方に出てきて、煙草を吸い始めた
親父さん「なるほどね…」
親父さんは固い表情を保ちながらも、俺に「〇〇君も吸えば?」
と優しく促してきた
609: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:24:48.79 ID:aKJ0yOno0
促されるまま、俺も煙草に火をつけた
親父さんは厳しい表情のまま、淡々と話を続けた
親父さん「なるほどね…でも、ダメだろ?仕事なんだから」
俺「そうですよね…」
親父さん「でもさ」
俺「え?」
610: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:28:16.78 ID:aKJ0yOno0
親父さん「困ってる人を見ると、ほっとけない。」
親父さん「誰かの力になりたい気持ちは止められない。」
俺「え…?」
親父さんは粛々と語り続けた
親父さん「そうだろ?」
俺「はい、そうです…」
611: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:31:19.11 ID:aKJ0yOno0
親父さん「そんでもってさ」
親父さん「〇〇君は、カドワキさんの事が大好きだ、だろ?」
俺は突然の指摘に思わず吹き出しそうになった
でも、それは間違いなく本当の事だったんだ
俺「大好きです」
俺が親父さんの方を見て真剣にそう言うと、親父さんは大声で笑い出した
親父さん「やっぱりかw」
612: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:34:19.85 ID:aKJ0yOno0
親父さん「今回の件は、事が事だし、大目に見るよ。」
親父さん「でも、次はないからね」
そう言うと、親父さんは俺の肩を叩いて「恋する少年!」
と言って笑ってみせた
その瞬間、俺の中で鬱屈として、刻々と溜まっていた何かが一気にはじけて
俺はどうかしたのか、本当に何故か分からないが、
その場で涙を流して泣いてしまった
613: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:37:55.93 ID:aKJ0yOno0
大の24の男が、古びた宿の玄関で涙をこぼして泣いている
その光景は、はっきり言って相当痛いものだったろうな
でも、俺はそんな温かい言葉をかけられてしまって、本当に崩れてしまった
ちょっとでも、こんな仕事辞めてやる、と思っていた自分が情けなくて
もう、本当に言葉にできない感情だった
俺が泣いているのを見て、親父さんは笑うのを辞めて
「なんか辛かったみたいだな」と優しく頭を叩いた
615: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:43:08.95 ID:aKJ0yOno0
どうしようもなくなって、子どものようにただ涙を流すだけの俺
親父さんはそんな中でもまったく動揺しなかった
親父さん「溢れる涙も青春だな」
俺はボロボロ泣いてしまって、上手く返答ができない
親父さん「歳の割に◯◯君は本当に子どもだね。子どもだよ」
親父さん「でも大丈夫さ」
親父さん「それでいて凄くひたむきだから。」
616: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:46:04.56 ID:aKJ0yOno0
親父さんはそう言ってニッコリ笑うと、そのまま奥に入っていった
「ひたむきだ」
そんな事を言われたのは人生で初めてで、俺は今でも忘れない
この時の親父さんの言葉があったから、今の俺もあるんだと思う
こんなクズの俺の事を、そんな風に思ってくれる親父さんに出会えたことは
本当に、俺の人生という人生を大きく変えてくれた
617: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/11(木) 00:47:00.86 ID:aKJ0yOno0
今日はここで落ちます
続きはまた明日書きます
見てくれてる人ありがとう
なんだかんだ言ってもう佳境なので…
618: 名も無き被検体774号+ 2013/04/11(木) 00:48:17.74 ID:5nmyQRvk0
>>617
終わりまで末長く待ってます
619: 名も無き被検体774号+ 2013/04/11(木) 01:37:30.13 ID:GYpfxf/vO
>>617
最初から見てます
最後まで応援してます
620: 名も無き被検体774号+ 2013/04/11(木) 02:24:58.83 ID:mZfl/fcW0
追いついた!
続きが楽しみだ
625: 名も無き被検体774号+ 2013/04/11(木) 08:28:48.37 ID:SlfpDmlc0
読みやすい支援
637: 名も無き被検体774号+ 2013/04/12(金) 00:02:53.15 ID:/uQSJlc40
まだか!?
640: 名も無き被検体774号+ 2013/04/12(金) 07:14:21.86 ID:uiLjV02VP
ほーしゅー
643: 名も無き被検体774号+ 2013/04/12(金) 13:26:20.08 ID:7LZUMI3L0

647: 名も無き被検体774号+ 2013/04/12(金) 21:06:02.99 ID:DsbzykhI0
(ノ`□´)ノ⌒┻━┻まだか
658: 名も無き被検体774号+ 2013/04/13(土) 13:13:32.90 ID:3e2Jgrm90
ほすほす
659: 名も無き被検体774号+ 2013/04/13(土) 15:14:12.84 ID:EZ12Sxag0
保守
660: 名も無き被検体774号+ 2013/04/13(土) 18:11:05.54 ID:yRMu5LWg0

666: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 03:17:41.29 ID:catzZBFQ0
保守
668: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:05:29.08 ID:kppVQiBj0
こんにちは
お久しぶりです
遅くてごめんなさい
続きを書いていきますね
669: 【Dliveetv1347375601300903】 本日の利用料 4,763円 2013/04/14(日) 17:06:33.02 ID:qZQHsZg20
キタ━━━━ヽ(´(・)` )ノ━━━━!!!!
670: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:09:31.97 ID:kppVQiBj0
カドワキさんが倒れた一件以来
俺はまたやる気というか、エネルギー?みたいなものを取り戻して
一生懸命働くようになっていた
でもあれから、カドワキさんから特に連絡がなくて
もういいんですか?みたいなメールを打っても返信がなくて
俺はけっこう心配していた
671: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:12:19.68 ID:kppVQiBj0
まったく連絡もしないほど不義理な人でもないだろうし
かと言って連絡もないし
休んだ分仕事も忙しいのだろうか?なんて考えてた
そろそろ流石に治ったろうな…と思っていた頃
宿の仕事が一通り終わって一息つく時間帯
確か夜の9時か10時くらいだったと思う
部屋でゆっくりしてたら呼ばれたんだ
672: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:26:03.21 ID:kppVQiBj0
親父さん「〇〇君、お客さんだよ」
そう言ってニコニコしながら親父さんが来た
俺にお客さん?と思ったけど、言われるまま玄関に行った
カドワキ「こんばんは…」
俺「あっ…」
カドワキ「こんな時間に、ごめんなさい」
俺「あ、いえ…」
673: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:30:04.92 ID:kppVQiBj0
カドワキ「この前は本当にありがとう…ございます」
俺「いやいや…もう、いいんですか?」
カドワキ「ええ、すっかり」
そう言うと、笑って小さくガッツポーズしてみせた
俺「そっか、よかったです本当に…」
カドワキ「あの…お金なんですけど…」
俺「ああ、それなら別にいいですよ」
674: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:33:43.46 ID:kppVQiBj0
カドワキ「アナタが良くても私が良くないんで…」
相変わらず、トゲのある言い方をしてくるw
でもそれ聞いてすっかり元気になったんだなって思えた
彼女は真剣に「診察台と薬代で…」と言いながら
小さなお財布から、お金を取り出して渡してくれた
俺「なんだかわざわざすいませんw」
カドワキ「いえいえ、こっちですから…」
675: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:41:50.07 ID:kppVQiBj0
カドワキ「いや本当、この前は突然…」
カドワキ「助かりました…ありがとうございました」
よっぽど悪いと思っていたのか、何度も何度もお礼を言ってくる
俺「いえいえ、本当に気にしないでください」
俺もひたすらそう返すしかなかった
俺「じゃ、お金も確かにもらったので…いいですかね…?」
カドワキ「あ、その…ちょっと待って下さい」
677: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:46:47.30 ID:kppVQiBj0
カドワキ「少し散歩にでも行ってみませんか…?」
俺「え?」
あのカドワキさんが、俺を呼び止めている
好きな人が呼んでいる!ドキッとしちゃったよw
カドワキ「その辺を…ぷらぷらと…」
気恥ずかしそうに、そう呼び止めてきた
俺「え、え、いいですけど…いいんですか?」
マジで焦って変な喋り方になってたかもしれない
678: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:49:29.59 ID:kppVQiBj0
カドワキ「や、やっぱりこんな時間だしアレですか…」
俺「あ、いえいえ、少し外の風浴びるのもいいんじゃないですか…w」
カドワキ「じゃあ…」
と言って、2人して玄関から出た
俺が玄関から出て行く瞬間、
番台の奥から親父さんが出てきて
ニコニコしながら俺のことを見ていた
679: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 17:54:11.36 ID:zY7YW+oWO
親父さんええな?
680: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 17:57:29.58 ID:kppVQiBj0
俺は急いで外に出てきたので
たまたま玄関にあった下駄を履いてきてしまった
歩く度に、「カラン、カラン」と音が鳴った
その音が妙に響いて、歩きづらかったw
俺「うわー、なんだこれw変なの履いて来ちゃったなー」
カドワキ「え、いいじゃないですか」
683: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:04:32.99 ID:kppVQiBj0
カドワキ「涼しげで、良い感じです」
俺「えーw本当ですかー?w」
カドワキ「どうですかね?w」
なんて感じに笑いのタネになってくれたから、良かった
しばらく2人で、街灯もまばらな夜の道を歩いた
どこからともなく虫の音だけが聞こえた
家の中は暑いけど、外は本当に涼しげだった
684: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:08:13.00 ID:kppVQiBj0
俺「カドワキさんは、ピアノを弾くんですか?」
俺は気になっていた事を唐突に質問した
カドワキさんは一瞬「なんでそれを」みたいな表情をしたけど
すぐに納得して話し始めた
カドワキ「ああ…弾くというか…弾いてた、が正しいですかね」
俺「え、今は弾かないんですか…?」
カドワキ「いや、今も好きなんです…けどなんというか、弾く時間が…」
685: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:12:18.45 ID:kppVQiBj0
俺「ああ、忙しいんですよね…」
カドワキ「ええ、今日もさっき帰ってきたので…」
凄く寂しそうな顔になってしまっていた
俺「でも、トロフィーとかあったし、やっぱり上手なんですよね?」
カドワキ「ああ、あれは…」
俺「なんかそういう道を目指そうとか、考えなかったんですか?」
すると、カドワキさんはしばらく黙ってしまった
687: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:14:42.75 ID:kppVQiBj0
カドワキ「そんな風に思ったことも…ありましたね」
そう言って寂しそうに笑ってみせた
俺は、「じゃあなんで…」と言いかけてやめた
きっと何か理由があったんだろう
俺「俺、カドワキさんのピアノ聞きたいです」
そして思わず、こんな事を言ってしまった
カドワキ「え……」
689: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:28:53.31 ID:kppVQiBj0
すると、カドワキさんはたちまち笑顔になったんだ
こんな顔が見れるなんて、って少しドキッとしたよ
カドワキ「本当ですか…?」
俺「ええ、すごく聴いてみたいです」
するとカドワキさんは、履いていたレギンスのポケットから鍵を取り出した
銀の輪に、鍵がいくつもついていた
690: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 18:31:15.53 ID:z0gyOCvU0
はよ
691: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:40:15.55 ID:kppVQiBj0
俺「なんですか?それ…」
カドワキ「いいからいいから」
そう言うと、カドワキさんは少し早足で、俺の前を歩き出した
普段は割と冷めてる事が多いカドワキさんが、やけに楽しそうになった
そしてしばらく歩いて、小さな家のような、施設のような建物が見えた
カドワキ「ここです…」
俺はワケが分からなくて、「はい?」と間抜けな返答しかできなかった
692: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 18:44:26.10 ID:hjrNGsG20
うんうん
694: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 18:58:18.51 ID:kppVQiBj0
カドワキ「ここは何というか…公民館みたいな…」
俺「あ、なるほど…でもなんでここに?」
そう言うと、カドワキさんはニコッと笑った
カドワキ「ピアノがあるんです」
俺「なるほど…」
俺が一人で納得してると、カドワキさんは先に行って
「こっちですよ」と手を振って呼んだ
696: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:09:24.84 ID:kppVQiBj0
カドワキさんは入り口の引き戸を開けていたので、俺は不思議に思った
俺「でもなんで鍵を…?」
カドワキ「ああ…お父さんが町内会の役員?なんで…」
俺はなんでそれをカドワキさんが持ってるんだろうってさらに不思議に感じたけど
それ以上は突っ込まないことにした
カドワキ「すごくちっちゃくて、一階建ての大広間と休憩室しかないんですw」
確かにそうで、中に入ると板張りの広間しかなかった
697: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:15:34.02 ID:kppVQiBj0
俺「でも、案外広いんですね」
カドワキ「そうですかねw」
中が予想以上に蒸し暑かったので、二人して窓を開けていく
「虫が入ってきそうですね?」「ありますあります」なんて言いながら
そして、広間の隅っこにピアノが一台置いてあった
その場に置いてあったはたきでパタパタとしながら
カドワキ「久しぶりだなー」
とカドワキさんはピアノを開けた
698: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:26:49.77 ID:kppVQiBj0
カドワキさんはもうニコニコして、椅子をギコギコ引いて場所を調整した
「よし」と言って椅子に座って、腕まくりをした
そして俺の方を向いて、「どんなのがいいですか?」と聞いてきた
俺はその顔があまりに明るくて、瞬間ドキっとして
「一番思い入れのある曲を…」と言った
カドワキ「そうですか…実は」
699: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:29:28.72 ID:kppVQiBj0
カドワキ「私…この場所で、初めて人前で演奏したんです」
カドワキ「確か小学生の時…地区の行事で」
俺「あ、そうなんですか」
カドワキ「だから今日も…なんとなく緊張します」
そう言って、ピアノの前ではにかんだ
その姿が印象的で、すっごく惹かれてしまった
カドワキ「じゃあ、その時に弾いた曲、いきますね」
701: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:36:05.18 ID:kppVQiBj0
俺は、「やった」と言って拍手をした
彼女はすぐに真剣な顔つきになって、ピアノの上に手を置いた
目の前で、優しくて静かな旋律が流れ始めた
生まれて初めて、誰かに自分のためだけに演奏してもらって
なんとも言えない、とても不思議な気分だった
大学時代、一瞬バンドにいたからキーボードは知っていたが、
クラシックのピアノは、また全然違った
702: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:40:17.76 ID:kppVQiBj0
凄く雰囲気のあるウットリとした曲で、
殺風景な広間の中が、ピアノの旋律で満たされてく感じがした
時折、弾いてる最中に彼女が笑顔をこぼすので
俺もそれに合わせて笑って頷いた
すごく、楽しそうに、本当に楽しそうにピアノを弾くんだ
月並な感想だけど、本当に感動したんだ
目の前でピアノが演奏されて、本当に心を打たれたんだよ
704: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:50:23.61 ID:kppVQiBj0
曲が終わると、俺はすぐさま拍手して
「すごい!!よかったー!」と声を上げた
カドワキさんは照れくさそうに「ありがとう」と笑ってくれた
本当に印象的なメロディーと優しい曲調だった
俺「今のは、何ていう曲なの?」
カドワキ「渚のアデリーヌっていう曲です」
俺「へえ…いい曲だったなぁ」
カドワキ「簡単な曲ですよwもちろん小学生にも弾ける…」
俺「いえいえ、すごく良かった!」
705: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 19:57:05.51 ID:kppVQiBj0
俺はものすごくワクワクした
カドワキさんは、なんて魅力的な人なんだろうって思った
俺「いいなあ…ピアノが弾けるってすごいなぁ…」
そう言って感心しきりだった
カドワキ「ちょっと調律がずれてますね…w」
そう言ってカドワキさんも嬉しそうにしていた
俺がよっぽど期待の眼差しを向けていたのか、
カドワキ「他にも何か弾きますか?w」
と言ってくれた
706: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:06:42.15 ID:kppVQiBj0
俺「聞きたい聞きたい!」
そう言うと、カドワキさんは笑って頷いてくれた
カドワキ「じゃあ、私が一番好きな曲を…」
そう言って、またあの真剣な顔つきになってピアノに手を伸ばした
弾き始めた途端、鳥肌が立った
綺麗だし…聞いたことがあった
どこでかは分からないが、聞いたことのある曲だった
708: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:14:50.72 ID:kppVQiBj0
前半は静かにゆっくりと、物語が始まる感じで
段々、段々と物語のピークに向かって曲がうねって行く感じ
そして、物語は情熱のピークに達して、俺はそこで完全に持っていかれた
「すごい」とか「きれい」とかじゃなく、文字通りもう言葉では表現できない感覚
ずっと自分の殻に篭もって引きこもって過ごしていた俺
この世は馬鹿ばかりで、誰も俺のことを分かってくれないとか思っていた
そしてそんな俺はもっとクズで、この世は心底終わっていると思っていたこと
709: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:21:12.85 ID:kppVQiBj0
それがどうだ、今目の前にある世界は
こんなにも美しい世界は、ちゃんとあるんだなぁ…
カドワキさんの奏でるピアノを聴いて、そんな事を思ってしまったんだ
曲が終わると、俺は涙目になって笑いながら
「だめだ…本当に良かった。上手く言えない」
って言いながら必死に拍手した
俺「良かったよ!マジで良かった!」
俺はカドワキさんに向かって何度も何度も言った
711: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:33:33.83 ID:kppVQiBj0
何故か、カドワキさんも少し涙目になっていた
カドワキ「ありがとうございます」
そう言って俺の方を見て笑ってくれた
カドワキ「これは、リストの愛の夢って曲です」
俺「そういう曲なんだ…聞いたことあったよ…」
カドワキ「有名な曲ですよね」
712: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:35:52.29 ID:kppVQiBj0
カドワキ「聴いてくれて、ありがとう」
カドワキ「久しぶりに誰かに聞いてもらえて、凄く嬉しかったです」
カドワキさんは、満面の笑顔で俺に向かってそう言った
俺「いえいえ…こんな機会滅多にないから…素敵だった」
そう言うと、カドワキさんはまたニコニコして、
「そろそろ行きましょうか」と言って席を立った
713: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:39:26.29 ID:kppVQiBj0
2人で、何か少し恥ずかしなるくらいニコニコしながら
広間の窓を閉めて、電気を消して、
公民館の玄関に鍵をかけて、外に出た
外に出ても、あの綺麗な旋律の余韻がまだまだ残っていた
俺「とっても贅沢な演奏会だったよ」
カドワキ「そうでしたかw」
なんだか、とても幸せな時間が流れているように感じた
714: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:41:33.89 ID:kppVQiBj0
また、街灯のまばらな夜道を2人で歩き出す
俺「あの場所は、絶好の演奏スポットだねw」
カドワキ「ほんとですねw」
俺「よく使うの?」
カドワキ「たまに…ですね」
カドワキ「昔はよく、お父さんと行ったりしてました」
717: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:44:56.57 ID:kppVQiBj0
俺「あ、そうだ」
俺がそう言うと、カドワキさんは振り返って「はい?」と言った
俺「こんな時間まで外にいて…お父さんに何も言われない?大丈夫?」
カドワキ「ああ…大丈夫というか…」
カドワキ「お父さんは…もういないんで」
俺「え?」
カドワキさんはそう言うと、上を見上げた
718: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:49:56.65 ID:kppVQiBj0
カドワキ「去年亡くなったんです」
俺「あ…ご、ごめん…」
カドワキ「いえ、全然大丈夫です」
カドワキ「このどこかに、多分いるでしょうから…」
そう言って、カドワキさん夜空を指さした
その日は雨続きの毎日には珍しく晴れた日で
空には満天の星が光っていた
719: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:55:26.77 ID:kppVQiBj0
カドワキ「だから今日は、とっても懐かしくて」
カドワキ「少しだけ、少しだけ思い出しちゃいました」
カドワキさんは静かに話し始めた
カドワキ「愛の夢は…あの場所でお父さんに聞かせた事があって…」
カドワキ「今日の〇〇さんみたいに喜んでました」
俺も、だまってうんうん、と頷く
720: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 20:59:13.87 ID:kppVQiBj0
カドワキ「もう、随分昔の事なんですけど…」
そう話しながら、カドワキさんは次第に涙を流し始めた
カドワキ「お父さんは、ピアノを弾く私をいつも応援してくれてました…」
カドワキ「だから、私はずっと頑張ってこれた…」
カドワキ「いつだって客席で、お父さんが笑顔で見ていてくれたから…」
泣きながら必死に、でも確かに、カドワキさんは話す
俺も、もらい泣きで泣きそうになるのを必死にこらえた
721: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 21:02:00.70 ID:ZUN/2ne70
うんうん
723: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:06:49.94 ID:kppVQiBj0
カドワキ「お父さんは一人で、ずっと私を育てて、いつも苦労してて…」
カドワキ「だから、ピアノを弾いてお父さんの笑顔が見れるのが、嬉しかったんです」
泣きじゃくるカドワキさんに、俺はうんうん、と真剣に答えた
カドワキ「私は、音楽の先生になるのが夢でした」
カドワキ「大好きなピアノとずっと一緒で、生きて行きたいと思って…」
カドワキ「でも…でも…」
俺「でも…?」
724: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 21:09:34.00 ID:pZD295cw0
俺「でも?」
725: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:12:51.64 ID:kppVQiBj0
カドワキ「私が高校生の時に、お父さんが入院したんです」
カドワキ「うちは…元々…そんなに裕福じゃないからぁ…」
彼女はさらに息を大きく上げて泣き始めた
カドワキ「大学への進学を諦めて、働くことにしたんです」
カドワキ「それで、少しでもお父さんの支えになろうって決めたんです…」
カドワキ「そしたら、お父さんは最後まで「俺のせいで夢が叶わなくてごめんな」なんて言うんです…!」
726: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:18:43.05 ID:kppVQiBj0
カドワキ「でも、違うんです…違うんです…!」
カドワキ「私が自分で決めたことなのに…なのに…」
カドワキ「私は、ピアノが好きでした。音楽の先生になるのも夢でした」
カドワキ「でも、お父さんがいなくなってから、それに何の意味があったんだろうって、凄く悩んでました」
カドワキ「だから、ピアノもあまり弾かなくなってました。どうせもう、誰も聴いてくれないから」
彼女はグスグス言いながら、必死にしゃべり続けた
727: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:22:48.54 ID:kppVQiBj0
カドワキ「ごめんなさい。だから前、ニートだって言われた時、あんな風に怒っちゃったんです」
カドワキ「正直、羨ましかったんです。だからあんな事言っちゃって…」
俺「いえいえ、全然いいんですよ…」
俺「むしろ、こっちこそ申し訳ない…」
そう言うと、カドワキさんの涙でグシャグシャの顔が少しだけ笑顔になった
カドワキ「〇〇さんに会えて、良かったです…」
俺「え、どうしてですか?」
732: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:34:18.48 ID:kppVQiBj0
カドワキ「なんとなく、またピアノを弾く意味が見つかったというか…」
俺「ああ…」
カドワキ「この前もあんなに面倒見てもらって…」
カドワキ「正直、すごく嬉しかったんです」
俺「いやいやそんな…」
カドワキ「これからも、私弾きますから。また、聴いてくれますか?」
そう言って、俺の方を見つめてきた
俺「うん、是非。今日のコンサートも凄く素敵だったよ」
そう言うと、「コンサートってw」って笑ってくれた
734: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:39:53.95 ID:kppVQiBj0
そうこうしてるうちに、俺の宿の前に着いた
玄関に向かう俺の前で、彼女はこっちを向いて小さく手を振った
カドワキ「夢の続きが見つかりました」
そう言って、少しだけ首を傾けて笑ってくれた
俺もそれを見て、「お伴するよ」と言って手を振った
この日、俺とカドワキさんの仲の何かが、劇的に変化した
それも、とてもいい方へ
736: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:43:39.08 ID:kppVQiBj0
この日の一件は夢のようだったけど、
次の日起きるとカドワキさんから「昨日はありがとう」というメールがあって
夢じゃなかったんだって再認識した
これから、俺の日々の体感度が格段にスピードアップした
あっという間に7月になって、宿での仕事に懸命に向かった
たまに、暇な時間を見つけて夜にカドワキさんと一緒に散歩したりするのが嬉しくて
とても純粋に、一生懸命に、俺は自分の想いを燃やしていったんだ
737: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:48:03.35 ID:kppVQiBj0
一度、俺が買い物から戻ると、食堂で言い合いをしている親父さんを見かけた
俺と同世代くらいの女性と、声を張り上げて言い合いをしていたんだ
親父さん「お前、いい加減にしろよ!」
女性「うっせーんだよ!だからこんなとこ戻って来たくねえんだよ!」
俺は、それが親父さんの娘さんであることにすぐ気付いた
738: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:51:33.08 ID:kppVQiBj0
女性「もう知らない!!行くからね!!」
そう言うと、食堂の入口で棒立ちしていた俺には目もくれず、女性は飛び出していった
親父さん「ああ…恥ずかしいとこを見られちゃったな」
親父さんは俺に気付いて、苦々しく笑ってみせた
親父さん「参ったもんだ、言っても全然分かってくれなくてね…」
そう言って、親父さんはそそくさと奥に引っ込んでいってしまった
739: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:53:39.67 ID:kppVQiBj0
俺はどうしたもんか…と思って
とりあえず煙草を吸いたいな、と思い
玄関にある灰皿の場所へと向かった
引き戸を開けると、そこには先程の女性がしゃがみこんで煙草をふかしていた
俺「あ…どうも…」
女性「え?アンタ誰?お客さん…ですか」
740: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:55:53.96 ID:kppVQiBj0
俺「いや、違くて…最近働き始めた者です」
娘さん「あー、パートさんか」
俺「ま…そんなとこです」
娘さん「さっきの見てたの?」
俺「ええ…まあ…」
そう言いつつ、俺も煙草に火をつける
こういう初対面の人と話す時、煙草は便利だ
火を点けて吸ってしまえば、ある種の気まずさや壁がなくなる
741: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 21:59:44.80 ID:kppVQiBj0
娘「なーんであんな、何言っても分かんないかね」
俺「何がですか?」
娘「え?私がずっとフラフラしてるからだよ」
フーっと煙を吐きながら話し続ける
俺「フラフラ?」
娘「高校出てからだから…4年くらい?ずっとフリーター。んで今は彼氏んとこいんの」
俺「ああ、俺もニートでしたよw」
742: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:03:41.17 ID:kppVQiBj0
なんで俺は、こんな軽々しく自分でニートだった事を言ったのか分からないが
ある種、もう過去の自分に決別し始めていたんだと思う
娘「ニート?マジでw超ウケるなそれw」
俺「まあ、そうですよねw」
娘「本当さは…分かってんだよ…やばいってこと」
娘「でもどうしたらいいかなんて、わかんねーし…」
明るい茶髪に派手なメイクという容姿をした娘さんが、急に静かになった
743: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:06:04.54 ID:kppVQiBj0
俺「分かりますよ…」
そう言って俺も煙を吐く
そこに、女将さんがやってきた
女将さん「あらあら、賑やかなのね」
娘「お母さん…」
女将さん「帰ってくるなら、連絡くらいしなさいよ」
娘「ごめん…でもさ…」
俺は黙って煙草を吸って様子を見ていた
744: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:09:11.36 ID:kppVQiBj0
女将さん「ご飯くらい、食べて行きなさいよ」
娘「ごめん、今日は帰るね」
そう言って、娘さんは吸いかけの煙草を灰皿に投げ捨て、
そそくさとその場から去って行った
女将さん「あの子はあの子なりに、分かってはいると思うんだけど…」
そういう女将さんの顔がとても切なかった
俺も、親にこんな想いをさせていたんだろうか
745: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 22:09:52.74 ID:Lafj9pnz0
見てるよ
746: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:11:22.20 ID:kppVQiBj0
その夜、俺は食堂で親父さんと飲んだ
話しにくいが、娘さんのことを親父さんに聞きたかった
ビールの入ったグラスを乾杯して、俺が切り出す
俺「娘さん…いらっしゃったんですね」
親父さん「ああ…上の兄貴はいいんだがね、あの子は本当に…」
俺「それなんですが」
747: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:16:02.30 ID:kppVQiBj0
俺「こんな事自分が言うのもオカシイですが…」
俺「焦らなくていいと思います、本当に」
親父さんは、「ほう」と言って俺に顔を向けた
俺「僕より年下じゃないですか。分かるんです。この時期って、本当に色々考えるんです」
俺「悩んで…でも何もできなくて。だからその差にイライラするんです」
親父さんはふんふん、と頷いて俺の話を聞いていた
俺「だから僕もちょっと前までは引きこもって…」
俺「でもきっかけなんて、分からないじゃないですか。」
俺「僕は、変わりましたし、これからももっと変わりたいって思ってます」
親父さん「なるほどな…」
俺「無責任な事は言えませんが、必ず分かり合える日が来るというか…」
748: 名も無き被検体774号+ 2013/04/14(日) 22:18:27.19 ID:U6LYIwpW0
とてもいい
749: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:18:49.19 ID:kppVQiBj0
親父さん「ありがとう。余計な心配をかけてしまったようだ。」
親父さん「そんな日が、来るといいね…分かってはいるんだ…」
親父さんは遠い目になって、噛み締めるようにそうつぶやいた
世の中、万事順調になんていかないもんだな
みんな、誰だって何かしら悩んでいて、上手くいかないことがあって
でも、いつかは…明日こそは…って考えてるんだ
俺は宿でのこの一件を見て、そう思ったんだ
750: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:21:52.81 ID:kppVQiBj0
いつだって自分だけがかわいそうで
自分だけが悩んでるんだと思い続けてきた俺
でもこの宿に来て働いて、色んな人に会って、色んな事を経験して、
世の中は本当に酸いも甘いもあると痛感した
一件楽しそうにしてる大学生の団体客も揉め事で喧嘩したり、
一人で暗い顔をして宿泊する女性がいたり
この仕事をしてから、本当に色んな人がいて、色んな事があるんだと体感したんだ
751: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:27:17.67 ID:kppVQiBj0
そして、とうとう俺にとっての転機の日がやってきた
宿で働きながらも、このままずっとここにいるわけにもいかないよな…
と一抹の不安を感じ始めていた頃
宿に、変わったお客さんがやって来る
なんでも、昔からの親父さんの友人の方だそうで
その日は、親父さんは朝からはりきっていたんだ
752: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:34:20.27 ID:kppVQiBj0
一通り、宿の仕事を終えた夕食終わりの時間帯、俺は親父さんに呼ばれ食堂へ行った
親父さん「〇〇君、一緒に飲まないかい。面白い人が来てるよ」
俺「え、はい」
俺が食堂へ行くと、シャツにジーンズというラフな格好をしたおじさんがいた
おじさん「はじめまして」
俺「あ、はじめまして…」
親父さん「〇〇君、ガーデンイシダって知ってる?」
753: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:36:33.18 ID:kppVQiBj0
俺「あ、知ってます。県内に何店舗かある花屋さん…」
親父さん「そこの社長さんだ」
俺「ええ!!」
俺は心底驚いた
生まれて初めて社長というものを間近で見た…
よく見ると、本当に普通の気のよさそうなおじさんだった
754: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:39:18.72 ID:kppVQiBj0
その後、3人で食卓を囲んで酒を飲み交わした
「いつもあの花屋さんで花を買っていて…」「花はいいですよね」
実は俺、親の影響で本当に少しだけ華道をやったことがあって
花の知識には普通の人より若干精通していた
そのおかげもあってか、歳のいったおじさん2人と俺という構図でも
だいぶ話は盛り上がった
755: ◆GZ9LcuBAFk 2013/04/14(日) 22:42:05.93 ID:kppVQiBj0
そして、俺が24歳で、どういった経緯でここにいるかの話になった
俺は、自分の歩いてきた道を、忌憚なくそのイシダさんに話した
自分が就活で失敗したこと、公務員試験も落ちたこと
腐ってしまって、引きこもり生活をしていたこと
決心して、変わりたいという一心でこの宿にお世話になっていること
その度に、親父さんも「そうなんだよ」とか「頑張ってるんだよ」と付け足す
親父さん…
756: 忍法帖【Lv=4,xxxP】(-1+

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