善子「堕天使バレンタイン」back

善子「堕天使バレンタイン」


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ちかよしss
ちょっと遅れました
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2: 以下、
「はぁ……」
何度目か分からないため息。私は今ある人を待っている。
本日は2月14日。クリスマスに負けずとも劣らないリア充のリア充によるリア充のための日、そう、バレンタインデーである。
外国ならいざ知らず、日本では、言うまでもないが、好きな人にチョコを渡すことで愛情を表現する儀式が、執り行われている。
それはもちろんloveなのだが、近年では友チョコなるものも存在し、どうやらlikeでも別に問題はないようだ。
ようだ、などと伝聞の形をとっているのは、私が実際に「それ」に参加したことがないからだ。
(去年まではクラスの子達がチョコを交換するのを横目で見ているだけだったけど、今年は違うわ!)
ちらりと、手の中の綺麗にラッピングした手作りチョコレート──市販の板チョコを溶かして違う形に固めただけだけど──を見る。
義理ではない。
義理のチョコは、既にAqoursのみんなに配ってある。というか交換しあった。
これは、本命だ。
3: 以下、
つまり、私は今、告白を控えたような心持ちでその人を待っている。……いや、「ような」ではない。本命チョコを渡すからには、それは告白と同義であるから、私はまさしく告白するために待っているところだ。
緊張するに決まっている。
ため息だって、何度もつきたくなる。
だけど決めていた。今日が想いを告げるベストタイミングだと自分に言い聞かせていた。
去年の夏の初め頃から抱えてきたこの気持ちはもう抑えようがなく、だから打ち明けることにした。
──多分、この恋が叶うことはないと理解していながら。
その人の名前は、高海千歌。
私は、千歌さんが好きだ。
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(そろそろかな)
放課後の練習が終わった後、私は素早く着替えて、この場所、つまりは靴箱にきた。
色々と考えた上で、ここで待ち伏せして渡すのがベストだという結論を出した。
みんな一緒に来ると思う。
みんなではないにしろ、ほぼ確実にリリーと曜さんは一緒にいるだろう。
しかし、覚悟を決めたからには他人がいようがなんだろうが関係ない。
時は今、場所はここだ。絶対に告白する。
決意を新たにしていると、話し声が聞こえてきた。
とても楽しそうに話すその声、聞き間違えようもない。千歌さんだった。
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自覚したのは、いつだったか。
多分恋に落ちたのはあの日、私がAqoursに入った日だと思う。
初対面は最悪だった。
千歌さんがではない。私の登場がだ。
木から落ちてくるのがファーストコンタクトだなんて、いや、綺麗に飛び降りていればあるいは少女漫画のような素敵な出会いだったのかもしれないが、奇声を発しながらの落下、頭上に落ちてくる鞄、意味不明な言動の3コンボを鮮やかに決めた私の印象は最悪だっただろう。
それが、次にあった時彼女は私のことを「可愛い」などとのたまった。
はっきりいって私は、自分のことを棚にあげ、彼女を変人だと認識した。
……実は今でもその認識に変わりはないのだが。
少しの間一緒にいただけで、私は段々と彼女が好きになっていった。
単純なことだが、ヨハネを肯定してくれたり、私は私のままでいていいと言ってくれたり、そんなことで私は救われて、そして虜になっていった。
Aqoursとして過ごす中でさらに彼女のことを知り、その感情は確固なるものとなった。
それが積もりに積もって、自分でも分かるくらいに強い想いになって、今私はここに立っている。
告白する。
千歌さんの姿が廊下の奥に見えた。
……行こう。
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──踏み出そうとした足が、止まる。
前を見据えて歩き出そうとしたところに、彼女の顔が見えた。
見たことのない笑顔だった。
隣にいるのは曜さん。リリーはどうしたのだろう、教室に忘れ物でもしたのだろうか。
その笑顔を見て、既に飲み込めていたと思い込んでいたものが、逆流してきた。
私は、曜さんに敵わない。
ずっと近くにいたそうだ。
所謂幼馴染みというやつで、お互いのことなら何でも知っている風な雰囲気を醸し出している。
そして、なにより、千歌さんは曜さんの隣にいる時が、一番いい笑顔を見せる。
充分に理解していた、はずだった。
なのに。
気がつけば私は、外に向かって走り出していた。
逃げ出していた。
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ただ走った。
何も考えることは出来なかった。
考えたら最後、もう涙は止められないと思った。
覚悟とは、何だったのか。
そんなもの、初めからありはしなかったのか。
あるいは、あの笑顔は、それを粉々に打ち砕きうるものだったのか。
冷たい空気で喉が痛くなり、やがて足を止めた。
深い呼吸で体力の回復を試みる。
吐く息がとても白い。
自分には不釣り合いだと、思った。
手に持った覚悟の証を一瞥する。
怖じ気付いた自分に、これはもういらない。
明日からも、今までと同じ日々が待っていることだろう。
多分二度と想いを告げることはない。
「こんなものっ……!」
林に向かって投げようとした。
その時に。
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私の手には、未だ可愛らしい袋が握られていた。
私の腕を、掴む手があった。
「はぁっ、はぁっ……善子ちゃん」
「千歌……さん……」
まさか。
まさかとは思うが、私の気持ちに気づいて──?
「食べ物を粗末にしちゃダメだよっ!!」
「……え?」
「それ、チョコでしょ? なんで投げるの? 食べ物を無駄にするのは良くないよ」
「は……はい……」
拍子抜けした。
淡い期待は、まるでシャボン玉のようにすぐさま弾けた。
そんなことを言うために、わざわざ追いかけてきて私を止めたのか。
本当に変人だ。
……いや、待って。
私がこれを投げようとしたのは今この瞬間だ。
なら、なぜ彼女は私を追いかけてきた?
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「ねぇ……」
今度はなんの期待もしていない。
ただただ純粋な疑問だった。
「なんで、私を追いかけてきたの?」
「えっ、そ、それは……」
ひとしきりモジモジした挙句、彼女はあははと笑うだけだった。
……あぁ、好きだな。
知らず、私はチョコレートの入った袋を差し出していた。
「好きです」
「え……え!?」
彼女はとても驚いた様子だった。
「あ……えと……これってもしかして……」
「チョコよ。本命」
千歌さんは笑顔と泣き顔が混ざったような顔で固まった。
静止したような世界の中で、私の心臓の鼓動だけが耳に聞こえそうなほど鳴り響く。
泣きそうだった。
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「っ……それじゃあ!」
押し付けるようにして、踵をかえす。
そのままバス停へと走り出そうとしたその瞬間小石につまずき前のめりに倒れそうになったが、すんでのところでとどまった。
「……!」
恥ずかしさで死にそうだった。いくら堕天使とはいえ、この一連の流れは不幸というかなんというかもう、生き恥だ。
「大丈夫? 善子ちゃん」
「え、えぇ……」
「ならよかった」
そう言って、ほっとしたように笑う。
「それなら」
ゴソゴソと鞄を漁っている。
何を取り出すつもりだろう。絆創膏だろうか。怪我はしていないのだけれど。
「はい」
予想を裏切り、出てきたのは何やらオレンジ色の花柄の袋だった。
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「……何、これ」
「チョコだよ」
「さっき貰ったんだけど」
部室で貰った、はず。記憶違いだろうか。
「それはみんなに配る用だよー。これは本命」
……。
は?
「は?」
思考と言動が一致する。全く意味がわからなかった。脳内がクエスチョンマークで埋め尽くされる。
「どういう……こと?」
「だから、このチョコは、善子ちゃんへの本命チョコ」
「本命の意味知ってる?」
「うん」
「私が誰だか分かってる?」
「善子ちゃん」
「はぁ!!?」
「えぇ!!?」
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「な、なんで、どうして?」
「えへへ……私、善子ちゃんが好きなんだ」
「嘘……」
嘘だ。そんな素振り、全く無かった。
事実は小説より奇なりとは言うが、これは流石に度が過ぎている。
「よ、曜さんは!?」
「曜ちゃん? 曜ちゃんがどうかしたの?」
「だって、千歌さん、曜さんと一緒にいる時は私の見たことないような顔してて、だから、私、千歌さんは曜さんが好きだって」
「んー、まぁ曜ちゃんは家族みたいなもんだし」
「私の前ではあんな笑顔、しない……」
自分で言ってて悲しくなる。この事実は嬉しいはずなのに、なぜか自ら否定にかかっている。
「いやぁ……善子ちゃんの前だと、緊張しちゃって……」
「そ、それじゃ、本当? 本当に私が好きなの?」
「もう、しつこいなぁ。そうだよ。私、善子ちゃんが好き」
13: 以下、
「り、理由! 理由は!?」
「そんなに信じられない? 理由……理由かぁ。ないよそんなの。とにかく好き! 全部好き!」
「なっ……!!」
よくもまぁ、そんなことを恥ずかしげもなく言えるものだ。
「そういうものでしょ? 好きって!」
……案外、そういうものなのかもしれない。
「まだ納得いかないなら……」
彼女は、ニヤリと笑って、
「ひゃ……!?」
私を抱きしめた。
「えっへへー。可愛い声出しちゃってもうー」
「い、いきなり抱きつくからよ!」
「……善子ちゃんは、私のどこが好きなの?」
「……」
「ねぇ」
「……全部よ」
「そうなんだ」
彼女は満足げに笑った。
それは、私がいままで見たどの彼女よりも、可愛くて、輝いていて、魅力的で。
「……大好き」
「私もだよ」
冷たい空気が世界を満たす冬の宵に、私を抱きしめるその温もりは信じられないほど暖かくて、現実離れした幸せを私に染み込ませた。
14: 以下、
人生において、幸福と不幸は釣り合いが取れているという。
もしかしたら、私は、この時のために、堕天使になったのかもしれない。
今までの不幸を差し引いても余りある幸せを手にして、私はそんなことを考えていた。
15: 以下、

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