男「よく人に道を聞かれるんだけど」友「それってナメられてんだよ」男「マジで!?」back

男「よく人に道を聞かれるんだけど」友「それってナメられてんだよ」男「マジで!?」


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1:
通行人「あのー……」
男「はい?」
通行人「公民館ってどっちですか?」
男「えーっと、ここをまっすぐ行って、床屋の角を曲れば、あとは分かると思います」
通行人「どうもありがとうございます」
男(俺ってよく人に道を聞かれるなぁ……今日、これで三度目だぞ)
               
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4:
男「あのさぁ」
友「ん?」
男「俺、よく人に道を聞かれるんだけどさ」
友「うん」
男「これって、ようするに俺が他人に親しみを抱かせる人間だからってことだよな?」
友「……いや、そういうわけじゃないと思うぞ」
男「え?」
友「それってナメられてんだよ」
男「マジで!?」
               
          
9:
男「なんで!? なんでそんなこというの!?」
友「だって考えてみ?」
友「警察官でもない赤の他人に道を尋ねる、ってわりと勇気のいる行為だよな」
友「もしかしたら、冷たく断られちゃうかもしれないし」
男「まぁ……そうだな」
友「で、そういう行為をどうしてもしなきゃいけない時、人はどういう相手を選ぶと思う?」
男「…………」
友「気弱そうな奴、パッとしない奴、断れなさそうな奴を選ぶんだよ」
友「親しみを感じる人だから、とかじゃなくて、“まぁこいつなら”って感覚で選ぶんだよ」
男「!」ガーン
               
          
11:
男「いや……そんなの暴論だ! 極論だ!」
友「じゃあ聞くけど、お前がもし誰かに道を聞かなきゃいけないって状況になった時……」
友「マッチョな奴とヒョロイ奴がいたら、どっちに聞く?」
男「……ヒョロイ奴」
友「スライムと竜王だったら?」
男「……スライム」
友「コイキングとギャラドス」
男「……コイキング」
友「そういうことなんだよ」
男「そうだったのかあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
               
          
15:
男「俺は……俺は今までナメられてたのかあああああああ!!!」
男「うわあああああああああああああああああああ!!!」
友「悪い悪い、ちょっと言いすぎたわ」
友「オレ、あんまり人に道聞かれないから、ちょっとムッとして変なこといっちまった」
友「冗談みたいなもんだから、気にする――」
友「あれ……? いなくなってる……」
               
          
18:
男(くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!!!)
男(そうだったのか! 俺はナメられてたんだ!)
男(だから、みんなして、俺をナビゲーター扱いしてたんだ!)
男(ナメやがって……!)
男(こうなったら、俺は“絶対に道を尋ねられない男”を目指す!)
幼女「おにいちゃん、おにいちゃん」
幼女「こうえんのあるばしょ、おしえてちょーだいな」
男(さっそくきた!)
               
          
20:
男「公園なんか知らねえよ! てめえで探しな!」
幼女「あ!?」
男「この道をまっすぐ行って、ラーメン屋さんで曲がると公園があるよ」
幼女「どうもありがとう!」タタタッ
男(ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!)
               
          
23:
男「まさか、あんな女の子にビビっちまうなんて……」
男「そりゃナメられるわけだわな……」
男「なんとかして、この“ナメられオーラ”を払拭しないと、俺は永久に人間ナビだ……」
男「こうなったら……」
               
          
25:
不良「俺に用だとぉ!?」
男「ひっ!」ビクッ
男「あ、あの……君って人に道を聞かれたことある?」
不良「あるわけねえだろ! 喧嘩売ってんのか!」
男「で、ですよね〜」
男(いちいちおっかねえ! だけど、こいつにコツを教えてもらえば……)
男「お願いします! 俺を人からナメられない男にして下さい!」ガバッ
不良「おいおい、土下座なんてすんなよ。頭上げろや」
男「は、はいっ!」
不良「いいぜ、お前を人からナメられない男にしてやらぁ!」
               
          
27:
不良「まず、髪の毛は金髪に染める」
男「はい」サッサッ
不良「んでもって、ヘアスタイルはもちろんリーゼント」
男「こうですか?」サササッ
男「おおっ、たしかにだいぶ怖くなった!」
不良「服装はもちろんラフにして……」
不良「あとは眉間にしわ寄せながら、肩いからせながら歩けば、誰も近づいてこねえさ」
男「ありがとうございます!」
               
          
30:
男(よぉ〜し、周囲にメンチ切りながら歩いてやんぜ!)
男(オラオラ、かかってこいや!? パンピーども!)
学生「あのー」
男「はい?」
学生「○○大学のキャンパスってどっちかな?」
男「えーっと、ここから大通りに出て、右に曲れば、キャンパスが見えると思います」
学生「どうもありがとう」スタスタ
男「…………」
男(ダメじゃねえか!!!)
               
          
31:
不良「――え、ダメだった!?」
男「おうよ! どうしてくれるんでい!?」
不良「うーん、どうやらお前のナメられオーラはちょっとやそっとじゃ消せねえみたいだな」
男「なんだってい!?」
不良「こうなったら……俺の知り合いの親分を紹介してやるよ!」
男「親分……!?」
               
          
34:
親分「なんじゃい、ワレェ……」
男(こ、怖え! 不良の十倍……いや百倍は怖い!)
男(よく見ると、わずかに露出した肌から刺青みたいなものが……)
男「あの……親分さん!」
親分「なんじゃい!?」
男「俺をナメられない男に……人から道を聞かれない男にして下さい!」
親分「……その素直な態度が気に入った! ええじゃろ!」
男「ありがとうございます!」
               
          
36:
親分「まず……髪型はパンチパーマにするんじゃ」
男「はい!」モジャッ
親分「んでもって、グラサンかけて……」
親分「顔面にリアルな“傷シール”も貼っておこうかのう」ペタッ
男「うお! すげえ! まるで任侠映画に出てくるような風貌になりましたよ!」
親分「そうじゃろそうじゃろ」
親分「あとは背広をだらしなく着てれば、完璧じゃけえ」
男「うおおおおお! やった! こりゃ絶対カタギに見えない!」
親分「念のため、小指切っとく?」
男「やめときます!」
               
          
38:
男(うへへへ……さすがにここまでやれば、誰も話しかけてこんじゃろ)
サラリーマン「あのー、すみません」
男「なんですか?」
サラリーマン「ここらに“喫茶サッキ”って店があるはずなんですが、ご存じないですか?」
男「ああ、知ってますよ」
男「向こうに商店街がありましてね。八百屋の隣がその店です」
サラリーマン「ありがとうございます」
男「困った時はお互い様ですよ」
男「…………」
男(どうなってんだよ!!!)
               
          
39:
親分「――ダメだったじゃと!?」
男「おう」
男「この落とし前、どうつけるつもりじゃ! おんどりゃああああ!!!」
親分「となると……やっぱり小指を……」
男「小指は嫌じゃい!」
親分「なら、やっぱり武器(えもの)じゃな」
親分「この匕首をやるから、これ振り回しながら歩け」
男「短刀じゃないですか。そんなことしたら、銃刀法違反で捕まっちゃいそうなんですけど」
親分「ワレのナメられオーラはそんぐらいせんと消せん!」
男「た、たしかに……!」
男「かたじけねえ! おどれの匕首、ありがたく頂戴するけえ!」
               
          
40:
男「オラオラオラァ!」ブンブンブン
男「ワシに刺されたい奴ァ、かかってこんかい!」ブンブンブン
男「ワシは命(タマ)ァ失うことなんか怖くないぞ!」ブンブンブン
男(あ〜……気持ちいい! 今俺は、ゲームでいう無敵状態だ!)
警官「ちょっと、そこの君」
男(ゲ、やっぱり警察が来た! 逮捕されちゃう!)
男(まあええ……真にナメられない男を目指すなら、前科も必要じゃろう!)
               
          
41:
警官「交番がどこにあるか忘れちゃって……場所を教えてくれない?」
男「交番ですか? まず、あの茶色いビルを目指して歩いて下さい」
男「そうすると、銀行が見えてくるので、その裏に回って下さい。そこが交番です」
警官「どうもありがとう!」
男「いえいえ」
男(もうやだ!!!)
               
          
43:
男「てめえら、全然役に立たないじゃねえか!!!」
不良「すまねえ……」
親分「悪いのう……」
男「次はどうすりゃいいんだ!?」
不良「チャカを持たすってのはどうすかね……?」
親分「チャカじゃちょっと弱い気がするのう……」
親分「いっそ、海外風にアレンジするってのも手かもしれんのう」
男「海外風……?」
               
          
44:
不良「肌をちょいと日焼けさせて」
親分「顔に布巻いて」
不良「迷彩服着せて」
親分「アサルトライフル持たせて」
不良「――完璧!」
親分「どっからどう見てもテロリストじゃい!」
男「ワオ!」ジャキンッ
男「コレナラ、モウワタシ、ナメラレマセーン!」
               
          
46:
男(フッフッフ、ドコカ学校デモ襲撃シテヤロウカ……)ジャキッ
外国人「エクスキューズミー」
男「What?」
外国人「アナタ、同業者デスヨネ」
男「同業者……?」
外国人「今日、△△駅デ、爆破テロヲ起コス予定ナンダケド、△△駅ッテドコデスカ?」
男「さっきのおまわりさーん!!! 来て下さーい!!!」
               
          
47:
男「爆破テロを未然に防げたのはよかったけど……やっぱり俺ってダメなんだなあ」
男「不良と親分さんには変なことに付き合わせちゃった……」
男「――っと、とぼとぼ歩いてたら、変なとこに来てしまったぞ?」
『黒魔術研究会 〜悪魔召喚の儀式やってます〜』
男「これだ!」
男「俺がナメられないようにするには、もう悪魔に魂を売るしかない!」
               
          
49:
黒魔術師「ほう……ナメられないようにしたい?」
男「はい!」
黒魔術師「ならば、君の体に悪魔を乗り移らせよう」
黒魔術師「そうすれば、ナメられないどころか、誰も君に逆らえなくなるはずだ!」
男「ホントですか!?」
黒魔術師「しかし、代償として、君の魂は悪魔に食われてしまうがいいかね?」
男「全然かまいません!」
               
          
50:
小指>>>魂
               
          
52:
黒魔術師「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」
黒魔術師「悪魔よ! この者に暗黒の力を与えよ!」
バリバリバリッ!!!
男「うおおおおおおおおお……!」
男「凄まじいほどの邪悪な力が俺の中に注ぎ込まれていく……!」
黒魔術師「!?」
黒魔術師「ど、どういうことだ!? 今まで感じたことのないパワーだ!」
黒魔術師「これは悪魔どころか――」
               
          
55:
黒魔術師「魔王を乗り移らせてしまった……!」
魔王「フハハハハハ……!」
魔王「我、人間界に降臨せり!」
魔王「今まで我を道案内代わりにしてきた愚かな人間どもよ……」
魔王「我の魔力をもって、一人残らず滅ぼしてくれるわ!」
黒魔術師「うあああ……! とんでもないことをしてしまった……!」
黒魔術師「魔王の手にかかれば、人類なんて一夜で絶滅させられてしまう……!」
               
          
56:
まじかよ
               
          
57:
どうなるんだwww
               
          
58:
魔王「フハハハハ……!」
老婆「ちょいと、そこの化物さん」
魔王「なんの用だ? 下等生物よ……」
老婆「町内会長の田中さんの家を探してるんだけど、知らないかねえ?」
魔王「ああ、田中さんちは、あそこにポストが見えますよね? 赤いポスト」
魔王「あのポストの前ですよ。立派な表札も出てるんで、すぐ分かると思います」
老婆「ありがとうねえ……」ヨタヨタ
魔王「…………」
               
          
60:
男(この役立たずが! 俺の中から出てけ!!!)
魔王「うぎょっ!」バシュッ
男「ったく、てめえを乗り移らせても、道聞かれたじゃねーか! なにが悪魔の王だ!」
魔王「す、すみません」
男「約束と違うから、魂もやらねえからな!」
魔王「もちろんいりません!」
男「じゃあもう許してやるから、とっとと魔界に帰れよ!」
魔王「あ、あの……」
男「?」
魔王「魔界に行くにはどうしたら……」
男「あの魔術師が描いてた魔法陣から帰れるだろ!」
魔王「ありがとうございます!」シュゥゥゥ…
男「……やれやれ」
               
          
61:
男「はぁ〜……疲れた」
男(怖い格好しても、悪魔に魂を売っても、結局俺からナメられオーラは消えなかった……)
男(あーあ……俺は一生人から道を聞かれ続ける運命なのかな……)
幼女「さっきのおにいちゃーん!」
男「――ん?」
               
          
62:
幼女「さっきはこうえんのばしょ、おしえてくれて、ありがとー!」
男「……どういたしまして」
幼女「じゃあねー!」
男「車に気をつけなよ」
男「…………」
男「……ふっ」
               
          
64:
男(今のお礼を聞いたら、今まで悩んでたことが何だかバカバカしくなってきた)
男(いいじゃん、ナメられてるんなら、ナメられてるで)
男(無理に気張るより、さっさと道を教える方がよっぽど楽な生き方だ)
男(人助けすると、多少はいい気持ちになるしな)
男(俺に道を尋ねたいなら、どんどん聞けばいい。俺はどんどん教えればいい。それだけだ)
男(それだけのことなのに……なんで悩んでたんだろう)
男(俺は今のままでいいんだ!)
友「おお、こんなところにいたのか!」
               
          
65:
友「さっきは悪かったな! お前はナメられてる、なんて言っちまって」
男「いや、別に気にしてないよ」
友「ところでお前、いきなりいなくなっちまって……一体何やってたんだ?」
男「……ああ」
男「ちょっと道に迷ってただけだよ」
おわり
               
          
68:
落語みたいなオチだな
面白かった
               
          
69:
いいオチだった、お疲れさん!さて寝るとしよう
               
          
70:
男のナビ能力は見習いたいわ
面白かった
               
          
71:
おもしろかった
               
          
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