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モバP「サンタさんといちゃこらいちゃこら」


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モバマスSSです。
地の分を含むのでご注意ください。
更新不定期。
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2: 以下、
薄っすらと暗闇に包まれた街並み。
吐いた吐息は冷たい。
冷たい風が頬を打つ。
この季節になると寒さに耳元に痛みすら感じる暴力的なものを感じる。
……うむ、やってられん。
季節はクリスマスも終わり、年の暮れ。
街は正に師走、とでもいいたげな多くの人が行き交う様相であった。
かくいう俺も駆けずり回って仕事をなんとか回しているのだから人のことを言えた義理でもないのだろうけど。
「……さむ、さむ」
こんな日はとっとと自宅で暖かくしてお酒呑んで、寝るに限る。
半ば無意識に掌同士を擦る。
そして、辿り着いた一軒家、我が家である。
俺は、鈍い銀の輝きを放つ明らかに冷たそうなドアノブにポケットから鍵を取り出して刺そうとする。
だが、それよりも一足先に内側から鍵が開かれるほうが早かったようで――。
「えっへん」
開かれた扉の隙間から銀色の髪を纏った生首が生えてくる。
「どうですかぁ。このサンタ特有の気配察知能力!こうっ、あなたの気配をびびびっとですねぇ――」
自慢げな笑みを見せる銀髪生首。
なんだか、その表情が微妙にムカついたので、なんともなしに、冷え切った掌を銀髪生首の両頬に添えた。
「……ッォ!にょぎゅぉぉぉ!」
百年の恋も冷めそうな悲鳴が寒空とご近所に響いた。
3: 以下、
「弁明を、どうぞ」
外は冷え切っていた。
だが、なぜか家の中の空気まで冷え切っている。
ついでに、目の前に立っている少女の表情は凍りついている。
普段は呑気そのものな表情を引き締めて銀髪生首、もといイヴ・サンタクロースは俺にジト目を向けていた。
「ついカッとしてやった」
悪びれずに俺は言う。
「寒い中帰ってくるあなたを優しく迎えてあげた私に……ですかぁ?」
胡乱げな視線。
「溢れ出る感情が抑えきれなかった」
「あの……その傍迷惑な溢れ出る感情でわたしは恥をかいたんですけど?」
確かに通りすがりのご近所さんもビクっとしながら振り返っていた記憶がある。
「正直、色っぽい声を出してくれるのを期待してた」
「……ご期待に添えました?」
冷たいジト目。
先程のあれがまるで宇宙怪獣みたいな悲鳴だと思った記憶は墓場まで持っていこうと思う。
4: 以下、
イヴのこめかみが怒りにヒクついている。
少しだけ考える。
そして、俺は努めて真面目な表情を作った。
「色っぽいというよりはイロモノっぽくはあった思う」
「……んふっ、……ンッ、ごほんっ!」
一瞬、イヴが表情を崩してから咳払いをする。
そして、その掌を俺の頬にあて、こねくりまわし始める。
「笑っら!今、お前笑っらりゃん!」
「え?、笑ってないですぅ」
イヴは俺の掌の動きを加させる。
整った顔つきをゆっくりとこちらに近づけてくるイヴ。
「悪いことをしたら言うことがあります」
「ごれんらひゃい」
「聞こえませんねぇ」
「ごめんらはい」
「聞き取れないですぅー」
「ごれんらはい」
十分ほどそんなやりとりを繰り返すと、ようやく俺の頬に押し付けた掌を剥がしてくれた。
「……?あの、どうしたんですかぁ、いきなり難しい顔して」
イヴの掌は柔らかく、そして暖かく、離れたそれが少しだけ惜しくなった。
そんなことを俺が言ったらやはり気持ち悪いと思われるのだろうか。
…………。
無言で俺はイヴの頬にぴったりと添えるように掌をつける。
俺の奇行に目を白黒させるイヴ。
だが、まぁ流石というべきか、十秒もすると平静を取り戻している。
「ご感想をどうぞ」
「…………あの、むにゅむにゅって仕返ししないんですか?」
ちょっとその答えは予想外だった。
「……前々から思ってたけど、やはり少しマゾっ気が」
「な、ない!ないですからぁ!もぅ?!」
“うわぁ、引いたわー”みたいな表情を作りながら言うと、大げさに手をぱたぱたさせながらイヴが否定を繰り返していた。
5: 以下、
「……やっぱ中も寒いわ。よくこんな中で平然としてられるな」
外ほどではないが、家の中も相当に寒い。
暖房の温度設定がやはり低い。
……ありえん。
「私、雪国出身ですからねぇ」
……そうだった。
冬場でも薄着にダンボールまでなんでもござれのサンタ娘にこの話題は意味を為さなかった。
俺は黙って暖房の温度を上げる。
「あぁー、エコロジー精神は大事ですよぉ」
「俺を不快にさせるエコロジーなら滅びてしまえ」
ふと、ベランダへと続く窓ガラスへと視線をやる。
雲のない夜空には星々が瞬いている。
「今見える星の光って遠いものだと何百億年前の光だっていうけど、使い古された話でもやっぱ、ロマンはある気がする」
「そ、そうですねぇ」
イヴはなぜか夜空ではなく、別の場所に視線を向けている。
釣られて俺も視線を動かす。
イヴの視線の先では、なぜか庭に住み着いているトナカイ……っぽいなにか、ブリッツェンの鼻水が星明かりの下で神々しく輝いていた。
「おい、俺のロマンを返せ」
イヴはそっぽを向いて吹けない口笛をぷしゅー、ぷしゅーと吹いていた。
6: 以下、
こたつ。
日本人の……いや、人類の叡智の結晶。
その中でも、大の大人が寝転がっても尚、余力のある大きめのこたつは素晴らしい。
夕食を終え、TVを流し見しながらこたつで横になり無為に時間を浪費するのは至上である。
程よい満腹感を感じながらビールを煽る。
程よく回ったアルコールとこたつの魔力で脳みそが溶ける。
嗚呼、ぬくい。
「んー?」
ぼんやりとした意識でTVに視線を向けながらビール缶を煽っていると隣から圧迫感。
「ぷはぁ」
隣から銀髪の生首が生えてくる。
中でなにかもぞもぞしているかと思えば潜ってたのか。子供かこいつ。
「……せまい。別の場所にいきなさい」
再びビールの缶を開けながら銀色生首に非難の目を向ける。
流石に一箇所に二人横になるのはきつい。
「いーじゃないですかぁ、なにも減らないんですしぃ。んふふ」
ただでさえ狭い中を転がって俺の肩に自分の肩ををぽんぽんとぶつけてくるイヴ。
一体なにが楽しいというのか。
「どうしよう。この娘うざい」
「……あの、なんかお酒入ってから、私への思いやりの心というか、オブラートに包む優しさが消えてません?」
多分、割りと最初からない。
11: 以下、
肩をこつこつとぶつけてくる謎の攻撃を繰り返すイヴ。
ころころ、と横になったまま転がるコイツは唐突に回転をやめ、俺の方を向いて止まる。
「んっと、その……クリスマスも終わったので」
「……終わったな」
ふすーと一つ鼻息を吐くサンタが一人。
なぜかテンションがやたらと高い。
「こう、私のお役目も一段落、といいますか!」
「ほう」
勢いづいた一言に少しだけ気圧されそうになる。
「準備とか色々で、ここ最近寂しい想いをさせてしまったなぁ、と負い目を感じている次第でして」
なぜかこいつはアンニュイな表情を俺に向けてくる。
誰が寂しい想いをしていているのか。
「あなたが一人きりの夜に枕を涙で濡らしていると考えると私も……んへへ、しょうがないなぁ、みたいな」
――俺かよ。
生憎、そんな繊細な精神性をしているつもりもないのだが。
「……やっぱり、たまには私がかまってあげないとだめですねぇ。みたいな」
へにゃっとだらしない笑みを浮かべるイブ。
「……犬のしつけって上下関係をきちんと教え込むのが大事らしいな」
「なんで今その話したんですか!?ねぇ、なんで今その話したんですか!?」
俺はそっぽを向いて、つまみのプロセスチーズを一口齧った。
12: 以下、
視界が揺れている。
別に酔っているからではない。多分。
「あのぉ。……あのー。…………ねぇー、ねぇー」
イヴがこたつから出した手が俺の肩を掴んで揺さぶっていた。
面倒になったので俺はそっぽを向いたまま言う。
「俺はお前の姉ではない」
「そうそう。ねぇー、ねぇー、おねぇちゃーん……って違いますよぉ!酔ってるでしょ、顔に出てないけど結構酔ってるでしょぉ!」
そんなに酔ってないよ、よ。
だが、いい気分なのは間違いない。
13: 以下、
「怖かっただけで、寂しくは、なかったな」
「……へ?」
もそもそとチーズを齧りながら独り言のように呟いた。
「クリスマスが……終わって、朝起きて――」
顔を洗って、着替えをした後に。
ふとした瞬間一つ息を吐いて、振り返って――。
「寝ぼけ眼のお前が眠たそうに瞼を擦りながらリビングに入ってきた時に、あぁ、クリスマスが終わってもコイツは消えたりしないんだ、みたいな。安心した、かな」
なまじ見た目だけは妖精じみているものだから。
……少しだけ不安にですね。なったりですね、しないこともないのですよ。
……反応がない。
少しだけ気まずくなって寝転がったままイヴへと振り返る。
14: 以下、
「……」
「……」
イヴの瞳は潤んでいた。
しかも、なぜか頬は上気して桜色をしているし、鼻息も若干洗い。
「……な、なに?」
「……」
イヴは答えない。
……マジでなんだコイツ。
そして、それは突然起きた。
イヴから伸ばされた掌が俺の頭を引っ掴む。
勢いのままに、俺の頭はイヴの胸元に引き寄せられる。
柔らかな、沈み込むような感触が耳元までを包む。
「かわいいっ!」
……は?
想定外の自体に俺の脳みそが回転を止める。
「っかわいいっ!私のあなたかわいいっ!とっても、すごく、かわいいですぅ。んふっ、んふふぅ。えへ、んふっ、えへへへぇ……」
果てしなく言わんでいいことを言ってしまった気がする。
……叶うことなら全部忘れてしまいたい。
 ◇
イヴはひとしきりへんてこな笑い声を披露して転げ回り、そのうち動き疲れたのか、それとも満足したのか、すやすやと寝息を立て始めた。
……俺の頭を抱えたまま。
寝顔だけはこれ以上ないとばかりに、幸せそうだ。
…………もうやだ、こいつ。
23: 以下、
翌日、朝。
なぜか、イヴは相も変わらずに熱浮かされたような瞳。
そして、興奮したような笑みを浮かべている。
「はふぅ……」
イヴは吐き出すように息を一つ。
「……」
明らかに面倒くさそうな空気を放っているイヴを尻目に、俺は朝食のインスタントの味噌汁とご飯と焼き魚の組み合わせを胃に流し込むことに集中する。
……正直、相手にしたくない。
「……ふぅ」
更に、わさとらしい溜息を吐くサンタ。
……だが、俺はそれをスルー。
「……ちらっ」
ちらり、とイヴがこちらに視線を向ける。
それも華麗に躱す。
というか”ちらっ”とか自分の口で言うな。
「…………」
……その”構ってくれないかなぁ”みたいな目、やめろ。
だから、その……。
……。
……………。
「……朝から、どうしたんだ?」
これは敗北ではない。
……決して敗北ではないのだ。
25: 以下、
「あの、その、えとですね!!」
堰を切ったようにイヴはふんすふんすと俺に言葉をぶつけてくる。
一体なんだというのか。
「私はですねぇ、その、サンタクロースなのですよ」
知ってる。
……きっと、今俺は”今更なにをいっているんだ”とばかりに呆れた表情をしていることだろう。
「365日、一年間でイヴの夜だけは子どもたちみんなのサンタクロースッ、なんですけど……」
だが、そこで先ほどまでの勢いが止まる。
自信ありげな、なにかの強い確信を得ているような笑みを俺へと向ける。
胸をはった、意思の篭ったイヴの瞳に射抜かれる。
「残りの364日はあなたのサンタクロース、ですからっ!えへ、えへへ……」
27: 以下、
……。
…………。
「さよか」
「……あ、あれ?」
食べ終わった朝食の食器を片付けるべく、席を立ち、イヴへと背中を向けて台所へ赴く。
「……あの、昨日の夜みたいな反応が欲しいなぁって」
「昨日は帰ってきて、お酒呑んだ後の記憶はあんまり覚えてない」
当然嘘である。
「ぶー、ぶー」
文字通りぶーぶーと文句を言うイヴ。
だが、しばらくすると諦めたのか、イヴもまた空になった自らの食器を片付けるべく台所にやってくる。
「……?」
不思議そうな声が背後から聞こえる。
足音が後ろから響き、視界の端にイヴの姿認めると同時に俺はそれに再び背を向ける。
「んと、なんで私に背中を向けるんです?」
「……そんなことないだろ、たまたまだろ」
そう押し出すように言った俺の声は若干裏返っていた。
「……」
「……」
僅かな沈黙。
「あれっ、耳が真っ赤ですよ。どうしたんですかぁ」
「……ッ!」
慌てて、食器を置いて自分の両の耳を押さえる。
「はい。嘘ですよぉ。えへへ、ごめんなさい」
……はっ?
図られた?
よりによってこいつに……?
この行動が、都合の悪いことに疑惑を確信に変えてしまったのだろう。
イヴの足跡がすぐそこまで迫ってくる。
「まぁ、まぁ、その照れたお顔をこちらに、ねっ、ねぇ??」
聞こえるのは自信に満ち満ちた声。
背後からシャツの端が引っ張られる。
前に回り込んでくるな、ばか、やめて。
……本当にやめて。こっちみようとすんな。
32: 以下、
「……たまぁにはこういうのもいいですねぇ」
どこか悟りきったような、満足げな表情でイヴは口を開いた。
ただでさえ、コイツは普段からしまりのない顔付きをしているというのに、今となってはもはやでれっとした色ボケしたようなだらしない顔だ。
「……」
対して、俺は死んだ目をしてぼんやりとしていた。
……かおを、みられた。
みられた、みられた、みられた、ぜったい、みられた。
なんかもう、朝からくじけそうだ。
「まぁ、まぁ、そうお気を落とさずに、ね?」
俺の肩にイヴの掌が添えられる。
柔らかな視線、穏やかな表情。
なんだその無駄に包容力に満ちた態度、納得いかないからやめろ。
33: 以下、
「というわけで、さっきも言いましたけど、この頃はあなたにかまってあげられなかったなぁ、と私も反省している次第ですよっ」
片手を腰に当てて、なぜか自慢げに語るイヴ。
それを横目に、俺は一つ溜息を吐く。
「いや、まぁ……」
“あぁ、そういえば今日あいつの顔見てないな”みたいな日が続いたのは事実。
……正直言えば、別に言われなければ別に……、という程度であったような気もするが。
「でしょう!」
「……まぁな」
視線が交わる。
なぜに、コイツ上位、俺下位みたいな扱いになっているのか。
結構納得いかないものがある。
だが、まぁ、普段俺がイヴのことをでかいくせにやたらとじゃれてくる大型犬みたいに扱っているだけあって新鮮なものがある気がしないでもない。
たまにはそちらに付き合ってもバチはあたらないだろう。
「と、いう訳でですね」
イヴはすすす、とこたつの前で正座する。
「……こほん」
イヴは咳払いをひとつ。
そして、イヴは自身の膝をぽんぽん、と叩きながらのたまったのだ。
「では、膝枕から」
期待に満ちた瞳。
喜色に彩られた表情。
僅かに紅色に染まった頬。
……えぇぇ。
34: 以下、
「さぁ、どうぞ!」
どうぞと言われて歳下の女の子の膝に膝に飛び込める存在がどれほど居るのだろうか。
当然のごとく遠い目をどこか虚空へ向ける俺。
一向に煮え切らない俺の姿に業を煮やしたのか、イヴは真っ直ぐに自分自身に指先を向ける。
「私、楽しい!」
そして、今度は俺へと指先を向ける。
「あなた、嬉しい!」
ふんす、ふんすと鼻息を鳴らすイヴ。
「うぃんうぃん、ですねっ!」
Win-Win。
いや、それは……そんなこと……。えぇ……。
俺は完全に気圧されていた。
興奮したようなイヴの吐息は荒い。
もしかして、クリスマスを終えた昂ぶりでも残っているのだろうか。
36: 以下、
目を開けば、白銀。
桃色のセーターを着たイヴの胸元の辺りまで零れ落ちている白銀の髪。
現在、俺の頭は膝の上。
誰の膝の上かは言うまでもない。
俺の頭を膝に乗せたまま顔を覗き込むように自身の顔を近づけてくるイヴ。
そして、ほっそりとした指先に耳元をくすぐるように探られる。
背中にぞくぞくとしたものが奔って、目を細めてしまう。
狭まった視界が戻る。
優しげな目をしたイヴが俺の顔を見下ろしている。
――どうしようもなく、恥ずかしい。
……どうしてよいのか分からない。
俺はイヴから少しだけ視線を逸らして、天井へと視線を動かす。
だが、それを遮るようにイヴが上半身を動かし俺の視線を逸らした先へ動かす。
自然、視界一杯にイヴの姿が。
なぜだか、顔のあたりがが熱くて堪らないし、頭が回らない。
「はふぅ」
イヴはなぜか満足気な吐息を吐く。
……無駄に色っぽい声。なぜにそんなに楽しそうなのか。
イヴの穿いていたデニム越しに体温を感じる。
若干ごわごわした繊維のデニムで良かったと思う。
この若干のざらざらとした異物感が俺に若干の理性を残してくれる。
だが、逆にデニムのせいで、イヴのふともものラインが首元の感覚だけではっきりと判別出来てしまう。
……考えるな、考えてはいけない。。
40: 以下、
イヴの指先が俺の前髪をゆっくり、ゆっくりと梳くように流れていく。
二分、三分。
不本意なことに、時間の感覚が曖昧だ。
イヴは穏やかな顔付きのままにその動作だけを繰り返している。
よくもまぁ、飽きないものだ。
――俺なら頼まれてもいい歳した男の髪なんぞ撫でたくはない。
「??♪」
そうぼやくいてみるも、小さく頬んで鼻歌を口ずさむだけだ。
鼻歌なのに口ずさむとはこれはいかに。
……そんなしょうもないことを考え込んでしまう程度には調子が狂っていたらしい。
ふと、イヴの手の動きが止まる。
「これ、いいなぁ」
小さな、とても小さな呟きが聞こえる。
言葉の後には再び撫でる手が動き出す。
誰に向ける訳でもない、心から溢れ出したような言葉。
――どうしてだろうか。
そんなありふれた一言にどうしようもなく、サンタクロースでも普段からじゃれあっているイヴでもなんでもない、ごく平凡などこにでも居るような普通の少女の面影を見た気がした。
41: 以下、
「はふ、いいものですねぇ。膝枕」
熱っぽい吐息を吐いてイヴがのたまう。
おう、くねくねすんのやめぇや。
「さよか」
コメディチックな仕草を見せるイヴに少しだけ俺の調子も戻る。
なぜだろうか。
いや、理由なんぞ分かりきっているが、……疲れた。
……膝枕、されてる側なのにな。
「ずっと、こういうこと、したかったんです」
むふふ、と笑いながらイヴは言う。
だけれど、目の色だけは真剣で、奇妙なギャップがあった。
「あなたは、意地っぱりで、あまのじゃくで、月並みですけど、優しい人だから」
イヴは俺の両頬に掌を添えて、少しだけ俺の首を真っ直ぐイヴの方へと向ける。
自然、見つめ合う格好になる。
「たまにで、いいです。でも、こうやって、真っ直ぐあなたと向き合いたかったんですよねぇ。わたしも、その、少しだけ……恥ずかしくて、ですね。おちゃらけちゃうんですけどねぇ。……あなたってば、私が正直に言葉をぶつけても、逃げちゃうんですから、もぅ?」
イヴはそう言って、恥ずかしそうに首を少しだけ傾げ、照れたようにはにかんだ。
42: 以下、
心臓が跳ねる。
どうやら俺は少しだけ、勘違いしていたらしかった。
もしかしたら、元々考えていないのは俺の方だったのかもしれない。
もしかしたら、この子は俺以上に俺のことを見ていてくれたのかもしれない。
意地っ張りのつもりはない。
当然、あまのじゃくのつもりもないし、男のツンデレなど流行らないと思っている。
――だけれど。
「えへへ、それじゃそろそろ終わりに―――」
金色の瞳を、イヴの瞳を見つめる。
真っ直ぐそれと向き合う。
――せめて、伝えなくてはいけない。
覚悟を決めて、口を開いた。
コミュ障でもないのに、普段の軽口とは違ってやけに口に出すのに勇気が要る。
「ありがとうな、イヴ」
ぽかん、とした表情のイヴの姿に少しだけしてやったり、と思う。
胸のあたりが少しだけすっきりしたような不思議な感覚。
「……もっと、私への感謝の気持ちを……どうぞ」
「嫌だ」
だって調子乗りそうだし、コイツ。
「……」
「……」
そして、沈黙。
油断していると、首の後ろに手が伸びて、イヴの胸元に抱き寄せられる。
「……わたしの」
声が聞こえる。
「……この人、わたしのぉっ!……あはっ、えへへへへ、んひゅぅ」
あらん限りの力で抱きしめられて、少し痛い。
しかもなぜか俺の首筋にぐりぐりと頬を擦り付けてくる。
首元に生ぬるい液体の感触。
無理やりにイヴを引き剥がす。
視界にはにでれでれとした表情で、口の端から涎が垂らしただらしない顔のイヴ。
……まさか、これ涎か?
「もう一回、もっかい……がばぁ?!」
「おい馬鹿、やめろ!こっちくんな!」
懲りずに飛びかかってくるイヴを転がって避ける。
教訓。心を曝け出すのは難しい。
……もちろん、色々な意味で。
47: 以下、
 ◇
時は流れて年末。
窓ガラス越しに見上げる空は夜の暗闇。
今年も残るところ少し。
あと、十数分といったところだ。
……本当に少し過ぎる。正直に言えば失敗した。
「じゃぁ?んっ!」
窓ガラス越しに空を眺めていた視線を、イヴへと向ける。
どうやら、イヴはめかしこんできたようで、初めて見る落ち着いた水色のワンピースを纏い、雪結晶の形の髪飾りを付けている。
「いかがでしょうっ!」
両手を大きく広げてイヴは自信ありげな顔をこちらに向けてくる。
身内の贔屓目なしに、可愛らしいのだろう。
……俺は黙って背の高いの帽子かけからニット帽をひったくり、イヴの頭の上に乗せる。
「向こうは寒いし、並ぶからもうちょっと着込んでこい」
「……むぅ」
どこか不満そうにしながらも、上からブラウンの厚手のコートを羽織るイヴ。
その姿を横目に見ながら、家の外へと、一歩踏み出す。
48: 以下、
吐く息は途端に白くなる。
やや、早歩きで車に乗り込み、それに少し遅れて助手席にイヴが乗り込んだのを確認。
そして、発進させる。
「も?、あなたがテレビ見ながら居眠りしてたせいで、年明けに間に合わなくなっちゃいますよぉ!」
「そういう自分だってだって寝てただろ!」
「私は夜更かしは苦手なんですぅ!」
「夜更かしが苦手なサンタクロースがどこに居るんだよ!」
「……それはそれ。これはこれ。ですよぉ」
―――鐘の音が響く。
ひとつ、ふたつ。いくつもの鐘の音色が続く。
間抜けな口論をしていた俺たちの口が半開きで固まる。
「……除夜の鐘」
「……明けちゃいましたね」
あまりの脱力感に、ハンドルに突っ伏してしまいたくなる。
……危ないからそんなことしないけど。
「……えと、今年もよろしくお願いいたします?」
「……よろしくな」
「そだっ、あとあと、来年と再来年も明後年もよろしくお願いしますねぇ?♪」
「そういうのは来年と再来年と明後年の年越しの時の俺に伝えてあげてくれ」
投げやり気味に、そう応える。
なぜか、助手席に座るイヴから押し殺したような笑い声が聞こえる。
「なんだよ」
「なんでもないですよぉ?♪」
新年早々訳の分からないヤツだった。
49: 以下、
人でごったがえす神社の境内。
年越しの瞬間を境内で過ごした人々が大勢帰っているにも関わらずこれだ。
少々遅れるくらいで、これはこれで良かったのかもしれない。
参拝の列に並んで、暫く経つと、ようやく賽銭箱が視界に映るようになる。
「初詣で、風邪とかインフルエンザとか感染されたら嫌だな」
「もぉ?!もうちょっと雰囲気のあること言えないんですかぁ!」
サンタクロースな異国の少女と初詣というシチュエーションでどう雰囲気を取り繕えというのだ。
無茶な話である。
「あぁっ!なんですか、その顔っ!」
「別に」
適当にイヴをあしらっていると、目の前の列が動き、ようやく賽銭箱の前に辿り着いた。
50: 以下、
賽銭を投げ込み、二礼、二拍手、一礼。
なにも考えていなかったので、無病息災でも祈っておく。
隣を覗き見ると、イヴもまた手を合わせてむにゃむにゃと祈りを捧げている。
祓え給い 清め給えとか聞こえてくるから、どうやら祝詞でも捧げているらしい。
こいつが真面目に祈りを捧げていると俺の信心が足りないのでは、という気すらしてくるのはなぜか。
横にずれて待つこと数秒、満足気なイヴがこちらに早歩きでやってくる。
「あなたがもう少し私に優しくなるようにお願いしておきましたぁ?♪」
「ありがとよ」
余計なお世話である。
「やることはやったし、正月くらいは実家に帰るかな」
出口から外に出て、更に参拝者の人の波から抜け出し、一息。
「ふむふむ。お供しますねぇ」
「なんでじゃ」
当たり前のように、人の実家にお供しようとすんじゃねぇよ。
「はやいかおそいかの違いじゃないですかぁ?♪うりうりぃ?♪」
とん、とんと馴れ馴れしく肩を触れ合わせてくるイヴ。
というか、はやいかおそいかってなんの話だ、おい。
冷え切った手が、柔らかく暖かなイヴの両の掌で包まれる。
天真爛漫な笑顔が俺へと真っ直ぐに向けられている。
「えへへ。きっと今年も、楽しい歳になりますよ」
なぜだか、イヴをあしらおうとして浮かべた言葉が自然と引っ込んだ。
「……そうだな」
きっとこいつに振り回されたり、逆に振り回したりするような慌ただしい日々が待っているのだろう。
そんな日常に、少しだけ期待をしてしまっている。
「絶対です。だって私はあなたのサンタクロースですから?♪」
俺にとってのサンタクロースの季節はまだまだ終わりそうにない。
モバP「サンタさんといちゃこらいちゃこら」 END
51: 以下、
これにて完結。
深い意味もなく、サンタさんといちゃこらしたいだけでした。
あと、今更スレタイのモバP要素さんが息してないことに気づいた。
最後までお付き合い頂き、感謝感謝。
63: 以下、
過去作教えてほしいです
64: ◆HaNMYkoamY 2017/01/16(月) 09:48:08.16 ID:L5PBD7mho
発掘してきた。多分、この酉。
初めてSS書き始めた頃から使ってるから酉で見直すと中々クルものがある。
なんかあったほうがよさげだったら、多分これ再利用すると思います。
使わなくなってからはこのへん
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モバP「うちに駄サンタが居る」
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モバP「橘さんな日々」
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モバP「サンタさんといちゃこらいちゃこら」
66: 以下、

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