美希「デスノート」【その3】back

美希「デスノート」【その3】


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【765プロ事務所/執務室】
 ガチャッ
P「社長。春香と美希、連れて来ました」
社長「おお、すまんね」
春香「わ、ホントに皆いる」
亜美「もー! 遅いよー! はるるんにミキミキー!」
真美「真美達チョー待ちぼうけだよー」
美希「ねぇ、一体何なの?」
真「それがボク達もまだ聞いてないんだ」
雪歩「これから社長さんから発表されるみたいだよ」
美希「ふぅん」
春香「何だろう?」
美希「さあ……」
P「よし。じゃあ二人も来たことだし、全員注目! ……それでは社長。お願いします」
社長「うむ。えーではまず……天海春香君」
春香「! は、はい」
社長「おめでとう! アイドルアワード、受賞決定だ!」
春香「えっ!」
美希「!」
伊織「あ……アイドルアワード!」
真「春香が!?」
雪歩「すごいよ春香ちゃん!」
亜美真美「はるる?ん!」ギュッ
春香「わっ」
やよい「あの、アイドルアワードって?」
響「えっと……全アイドルが対象で、ファンの投票によって選ばれる……とにかくスゴイ賞だぞ!」
やよい「そうなんだぁ。すごいです! 春香さん!」
春香「私が……アイドルアワード……」
12:以下、
律子「最終候補には皆も入ってたのよ」
伊織「じゃあどうして春香なの?」
P「やっぱり舞台での評価じゃないか」
律子「『春の嵐』は話題になりましたしね」
貴音「あれは素晴らしいみゅーじかるでした」
雪歩「私もすごく感動したから……」
あずさ「私も泣いちゃったわ?」
伊織「まあ、それは異論無いけど……」
亜美「おやおや?。なんだか不満気ですなぁ、いおりん?」
真美「やっぱり『なんで私じゃないのよ!』とか思ってるのカナ??」
伊織「べ、別にそうは思ってないけど……でも、悔しい気持ちを持つのは当然でしょ。私達は仲間だけど、ライバル同士でもあるんだから」
春香「伊織……」
伊織「まあでも、それはそれとして……春香」
春香「! う、うん」
伊織「アイドルアワード、受賞おめでとう!」
春香「!」
伊織「でも、負けないからねっ!」
春香「……うん! ありがとう! 伊織」
社長「改めておめでとう。天海君」
小鳥「うぅ……おめでとう……春香ちゃん」グスッ
春香「社長さん。小鳥さん。ありがとうございます」
千早「春香」
春香「千早ちゃん」
千早「おめでとう。本当にすごいわ。ずっと頑張ってきたものね」
春香「ううん。千早ちゃんの……皆のおかげだよ。どうもありがとう!」
美希「春香」
春香「美希」
美希「……おめでとう」
春香「……ありがとう」
美希「あはっ」
春香「ふふふっ」
千早「?」
13:以下、
社長「ウォッホン。えーでは続いて……星井美希君」
美希「! はいなの」
社長「おめでとう! ハリウッドデビュー決定だ!」
美希「えっ?」
伊織「は……ハリウッド!?」
真「って、あのハリウッド……ですよね?」
P「ああ。とある超有名映画監督から直々にオファーが入ってな。ヒロインに起用したいとのことだ」
雪歩「す、すごいよ美希ちゃん……! は、ハリウッドだなんて……」
響「春香のアイドルアワードも驚いたけど……美希は美希でまたスゴイことになってるな……」
美希「ミキが……ハリウッド……」
春香「美希」
美希「! 春香」
春香「……とりあえず、ちょっと歯ぁ食いしばろっか」ニコッ
美希「なんで!?」
春香「いやだっていきなりハリウッドデビューとか普通に腹立つし……」
美希「そこはもうちょっとオブラートに包んでほしいの!」
春香「あはは。なーんて、冗談はさておき……おめでとう! 美希!」
美希「春香」
春香「私も、美希に負けないように頑張る!」
美希「……うん! ありがとうなの! 春香」
14:以下、
社長「うむ。互いに切磋琢磨し、高めあう……これこそが、私が理想とするアイドル像そのものだ。他のアイドル諸君も、天海君と星井君に負けないよう、これからも精進していってくれたまえ」
伊織「よーし! 負けてられないわ! 次は私が世界に羽ばたいてやるんだから!」
亜美「いよっ、出ました! いおりんの負けず嫌い!」
伊織「う、うるさいわね。別にいいでしょ! 負けず嫌いでも!」
真美「うんうん。それでこそ我らがいおりん! ってカンジだよねー!」
伊織「何で『我らが』なのよ……」
響「でも美希って英語できるのか?」
美希「んーん。中学英語ですら怪しいよ?」
真「最近高校受験終わったばかりとは思えない台詞だね……」
やよい「あ、じゃあ美希さんもライト先生に教えてもらったらいいんじゃないかなーって! きっとすごく丁寧に教えてもらえますよ!」
春香「!」
美希「あ、ああー……例のイケメン東大生の」
やよい「はい! ね、春香さん?」
春香「! そ、そうだね。うん、良いと思うよ。あはは……」
美希「ま、まあ、ちょっと考えとくの。あはは……」
やよい「?」
響「美希ってば、受験終わったばっかなのにまた勉強なんて嫌だって思ってるんだろー?」
美希「え? あ、あー……うん。まあね」
亜美「ミキミキは相変わらずのマイペースだねぇ」
真美「ま、それがミキミキの良い所だけどね」
千早「美希。何なら私が教えてあげましょうか?」
美希「ち、千早さん。……とりあえず、その気持ちだけありがたく受け取っておくの」
 アハハ…
P「――よし。では皆、春香と美希に続いていけるよう、これからもより一層、力を合わせて頑張っていこう!」
アイドル一同「はい!」
15:以下、
【同日夜・765プロ事務所からの帰路】
(他のアイドル達と別れ、二人で帰っている春香と美希)
春香「はあ……なんかまだ夢みたいだよ」
美希「…………」
春香「まさか私がアイドルアワードに選ばれて……美希は美希でハリウッドデビューなんて」
美希「…………」
春香「このままいけば私達、本当のトップアイドルに……って、美希?」
美希「え?」
春香「もう。何ボーっとしてるの?」
美希「え、あ。いや……」
春香「分かった。まだ実感湧かないんでしょ?」
美希「…………」
春香「まあ分かるよ。なんせハリウッドだもんね」
美希「…………」
春香「あーいいなぁ。私も行きたいなーハリウッド!」
美希「……春香」
春香「? 何? 美希」
美希「いいんだよね……これで」
春香「え?」
美希「ミキは、デスノートを使って沢山の人を殺してきた……いや、今も殺している」
春香「美希」
美希「でもそれは、皆が平和に暮らせる世界をつくるため……皆が幸せに生きていける世界をつくるため」
春香「…………」
美希「その『皆』の中には……ミキも入っていて、いいんだよね。ミキも幸せになって……いいんだよね?」
春香「……何言ってるの? 美希」
美希「えっ」
春香「そんなの、当たり前じゃん」
美希「……春香……」
17:以下、
春香「美希にだって当然、他の皆と同じように……幸せになる権利がある。きっと今回のハリウッドデビューは、いつも犯罪者裁きを頑張っている美希に神様が与えてくれたご褒美なんだよ」
美希「……ご褒美……」
春香「それに、ずっと前から言ってることだけど……私には私の使命がある。765プロの皆と一緒に、トップアイドルになるっていう使命がね」
美希「! …………」
春香「そしてその『皆』の中には、当然美希も入っている。だから美希のハリウッドデビューは、私がこの使命を果たすことにもつながっているんだよ」
美希「……うん」
春香「美希も、他の皆も、そしてもちろん、私自身も……それぞれがより大きな舞台で活躍できるようになって……いつか765プロのアイドル全員が、誰からも認められるトップアイドルになる」
春香「それが私にとっての使命であり、幸せでもある」
美希「…………」
春香「ねぇ、美希」
美希「! 何? 春香」
春香「美希の目指す『皆が幸せに生きていける世界』の『皆』の中には……私も入ってるんだよね?」
美希「それは……うん。もちろんなの」
春香「なら、何も気にすることは無いじゃない。美希のハリウッドデビューは、美希自身の幸せにも、そして私の幸せにもつながっている。つまりそれは、美希の目指す『皆が幸せに生きていける世界』の実現にもつながっているということ」
美希「……うん。そうだね。……これで、いいんだよね」
春香「これでいい。これでいいんだよ。美希」
美希「春香」
春香「もしそれでもまだ不安があるのなら、私は何回でも……いや、何百回、何千回でも美希に言ってあげる。『これでいいんだよ』って」
美希「……春香……」
春香「『765プロの皆と一緒にトップアイドルになる』という私の使命」
春香「『皆が幸せに生きていける世界をつくる』という美希の理想」
春香「そのどちらも、もう実現間近のところまできている」
春香「だからこのまま、最後まで……力を合わせて、一緒に頑張っていこう! 美希」
美希「……はいなの! 春香」
22:以下、
春香「でも、こうやって考えていくと……実は全部つながっていたのかも、って思えるんだよね」
美希「? どういうこと? 春香」
春香「うん。遡れば……元々私は、去年のファーストライブの日に死ぬはずだった」
美希「……うん」
春香「でもそこを、ジェラスに……私のファンに救ってもらった」
春香「もしジェラスが私のファンになってくれていなかったら……死神界から、私を見つけてくれていなかったら……今ここにいる私はいない」
美希「…………」
春香「でもそのジェラスは、私の寿命を延ばしたために死んでしまった」
春香「すると今度はレムが、ジェラスの遺したデスノートを私に渡してくれた」
レム「…………」
春香「その結果、私は、当時、961プロとそれに追随する複数のアイドル事務所により行われていた“765プロ潰し”計画……その主要人物のほとんどを殺害することができ、その所為もあってか、私達に対する妨害工作はほぼ無くなった」
春香「もし私がノートを持つことが無ければ、今でも黒井社長達による私達への妨害は続いていただろうし……何より、黒井社長が送り込んだスパイだった、前のプロデューサーさんを美希が殺すこともなかった」
美希「! …………」
春香「だから、もし私がノートを持つことが無ければ……私と美希が『春の嵐』に出演することも、私がアイドルアワードを受賞することも、そして美希がハリウッドデビューすることも……全部無かったと思うんだ」
リューク「……だが、ミキは俺の落としたノートを使って前のプロデューサーを殺している。ならどのみち、ハルカがノートを持つかどうかに関係無く、ミキはそいつを殺していたことになるんじゃないのか?」
春香「……とぼけないでよ。リューク」
リューク「えっ」
春香「私がノートを持つことが無ければ、リュークが美希にノートを渡すこともなかった……そうでしょ?」
リューク「! ……お前、気付いていたのか?」
春香「そりゃあね。だってこんな身近にデスノートの所有者が二人もいるなんて、普通に考えてそんな偶然ありえないし……リュークの性格を考えたら、元から仲間同士だった私達に各々ノートを持たせる形にして、互いにどう動くのかを見て楽しもうとしたとしても全然不思議じゃないしね」
リューク「ククッ。まさかそこまで読まれていたとはな。大したもんだ」
春香「……でも動機はどうあれ、感謝はしてるんだよ? リューク」
リューク「? 感謝?」
春香「うん。だってリュークが美希にノートを渡してくれたおかげで、美希が前のプロデューサーさんを殺してくれたわけだし」
美希「! …………」
春香「まあ仮に美希があのタイミングで殺していなくても、そのうち私が殺していただろうとは思うけど……でも、やっぱりあのタイミングで殺してくれたのはベストなタイミングだったと思う」
美希「……春香……」
春香「あのタイミングで美希が前のプロデューサーさんを殺してくれたからこそ、そのすぐ後に、私が黒井社長を脅迫して今のプロデューサーさんを961プロから移籍させ、彼が元々持っていた業界のネットワークのおかげもあって私達がより多くのお仕事をもらえるようになり、それが結果的には『春の嵐』、私のアイドルアワード受賞、美希のハリウッドデビューにもつながっていったわけだからね」
春香「だから私は、最初から全部がつながっていたように思えるんだ。ジェラスが私を見つけてくれた時から、今日までの事全部が……。ねぇ? レムもそう思うでしょ?」
レム「ああ……そうだな。それはきっと、ハルカに夢と希望を託して死んでいったジェラスの願いでもあっただろうからね」
リューク「レム。お前、死神のくせに随分ロマンチックな事言うんだな」
レム「…………」
リューク「まあ、俺は面白いものが観られれば何でもいい。さっきハルカも言っていたが、たとえばミキとハルカが仲違いをして、互いに殺し合うようになったりすれば最高なんだがな」
美希「! …………」
23:以下、
春香「……悪いけど、その期待には応えられないよ。リューク」
リューク「ほう」
春香「確かにデスノートの力はすごいけど……それ以上に強い力を持つものが、私達765プロにはあるからね」
リューク「へぇ。一体何なんだ? それは」
春香「私達765プロをつないでいる“絆”だよ。これだけは、デスノートだろうと何だろうと、絶対に引き裂くことはできない。……ね? 美希」
美希「……うん。春香の言うとおりなの」
リューク「“絆”ねぇ……。俺達死神には到底理解できない概念だな。なあ? レム」
レム「いや、私はそうでもないがね」
リューク「あれっ」
レム「私はジェラスと一緒に、ハルカを……いや、ハルカだけでなく、ハルカと共にアイドル活動に励むミキや、他の765プロのアイドル達の姿もずっと見てきたからね」
美希「! ……レム……」
レム「そうやって、頑張る彼女達を見てきたからこそ、ハルカの言う“絆”という不思議な力を持つものも、現実に存在するのだろうと思えるよ」
リューク「……いっそのこと、お前が765プロのプロデューサーになった方がいいんじゃないか? レム」
レム「…………」
春香「あはは。レムがプロデューサーか。うん、それいいかも!」
美希「確かに。少なくともリュークがなるよりは千倍良いって思うな」
リューク「千倍ってお前」
春香「じゃあ、また明日ね。美希。これからも気を緩めずに頑張っていこう! お互いの目標に向かって!」
美希「はいなの! 春香。それじゃあまた明日」
(春香と別れた美希)
リューク「……ククッ。それにしても、流石は天才アイドルだな」
美希「え?」
リューク「日々、犯罪者裁きに精を出していながら、本業では早くもハリウッドデビュー……案外お前の方が、ハルカより先にトップアイドルになったりしてな」
美希「……どっちが先とかは無いの。ミキがトップアイドルになるときは、春香や、他の皆と一緒なんだから」
リューク「あくまでも『皆と一緒に』ってわけか。まあいい。そのスタイルをいつまで貫き通せるか、見届けさせてもらうぜ。ククッ」
美希「…………」
美希(皆と一緒に……トップアイドルに……)
美希(そして皆が平和に、幸せに暮らせる世界……)
美希(春香の言うとおり、どっちももうすぐそこまできている)
美希(今のまま……このままいけば……)
美希(大丈夫。うん……大丈夫なの)
美希(きっと……)
美希「…………」
49:以下、
【翌日・春香の自室】
(勉強休憩中の月と春香)
月「アイドルアワード?」
春香「はい。正式な発表はまだなんですけど……昨日、事務所に連絡があったみたいで」
月「すごいじゃないか。確か……全アイドルが対象で、ファン投票によって選ばれる賞だよね?」
春香「そうです。ライトさん、よく知ってますね」
月「ああ。この手の話は粧裕のやつがうるさいからね。確か、去年は流河旱樹が受賞したんだっけ?」
春香「ええ」
月「そうか……でもそうすると、春香ちゃんはもうトップアイドルになったってこと?」
春香「い、いえ! そんな、私なんてまだまだです」
月「そうなの?」
春香「はい。トップアイドルっていうのは、なんていうか、もっとこう、誰からもその実力を認められる存在っていうか……」
月「なるほど。まだまだ鍛錬が必要ってわけだ」
春香「はい!」
月「でもそれはそれとして、勉強の方も鍛錬しないとね。じゃあそろそろ再開しようか」
春香「はぁ?い」
月(今日は、前みたいに父の仕事の事について聞いてくる素振りは無いな)
春香(ライトさんと前に事務所に来た刑事さんが親子ってことは分かったけど……お父さんの事は前に結構聞いちゃったから、今日は少し様子を見よう。あんまり聞き過ぎてもかえって怪しまれるだけだしね)
月(僕の方からも『父が何の事件を担当しているかまでは分からない』と言ってあるから、これ以上は聞きようがないともいえるが……しかし)
春香(でも、ライトさんのお父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしているのは間違いない)
月(もし本当に天海春香と星井美希の二人がキラの能力を持っているとすれば……少なくとも、天海春香は星井美希から『“L”が警察と共にキラ事件の捜査をしている』という情報を連携されている可能性が高い。もちろん、星井係長がその情報を自分の娘である星井美希に話したことがある、という前提での話にはなるが)
春香(そしてもし警察志望のライトさんが、お父さんからある程度キラ事件の捜査状況を聞いているとした場合……)
月(そして警察官である僕の父は……僕の年齢から逆算すれば、現在それなりの地位と役職に就いていると推測することは可能だろう)
春香(ライトさんが『お父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしている』という事実を知っている可能性は十分にある)
月(そう考えれば、『父が捜査本部で直接Lと顔を合わせている』ということまでは分からなくとも、『父がLについての何らかの情報を持っている』という可能性に辿り着くことは十分ありえる。そうであるとすれば……)
春香(その場合、ライトさんは私に嘘をついていることになるけど、Lが美希をキラとして疑っていたことからすれば、美希と同じ事務所に所属している私に対し、それくらい警戒していたとしても不自然ではない。ならば今、下手に動くことはかえって命取りになりかねない。しかしやはり、そうであるとしても……今……)
月(天海春香が僕に提案してくる事は――)
春香(私がライトさんに言うべき事は――)
月(僕の父と接触できる機会を求める事)
春香(ライトさんのお父さんに会わせてもらう事)
51:以下、
月(だがもし実際に天海春香が父と顔を合わせるようなことになれば、当然、天海春香には父が以前事務所に来た刑事……すなわち、“L”と共にキラ事件の捜査をしている刑事だということが分かってしまう。さらには父が偽名を用いていたことも)
春香(なぜなら、たとえそれが危険を伴う行為だとしても……もしそれが実現すれば、私は当然の疑問を口にできるから。『あれ? 以前事務所に来られた時、違う名前を名乗っていましたよね?』と)
月(そのような事態は当然避けなければならない。もしそれがばれるようなことがあれば、偽名を使ってまでキラ事件の捜査をしていた父……さらにはその息子である僕さえも殺される危険が生じる)
春香(警察官が一般市民に対して偽名を使って行った聞き取り調査……単に『キラ事件捜査の為』などというだけでは十分な説明とはいえない。偽名を使ったことの理由・背景……そこまで含めて十分に説明してもらう必要がある)
月(しかし黒井社長に対する脅迫の内容から考えると、キラは“L”の正体を知ること……すなわち“L”を殺すことにかなりこだわっているものと考えられる。そうであるとすれば、キラとしても、“L”の正体を知る前に、安易に“L”につながる者を殺すとは思えない。……よって天海春香がキラなら、父がキラ事件の捜査をしているということを知ったとしても、すぐに父や僕を殺すのではなく、むしろ“L”と共にキラ事件の捜査をしている父を通じて……)
春香(その説明内容から、私は現在のキラ事件の捜査状況をある程度知ることができる。そしてそこから、現在その捜査指揮を執っている者……すなわち)
月・春香(“L”に至る手がかりを掴む!)
月(キラなら必ず)
春香(それを目指す)
月「どうかな? 解けた?」
春香「えっと……こうですか?」
月「そう。正解だ」
春香「えへへ。やったぁ!」
月(だが現状、今の天海春香の立場から、いきなり一家庭教師に過ぎない僕の父親に会わせてほしい、などと申し出るのは不自然)
春香(そのためには、まずは私が『ライトさんのお父さんに会わせてほしい』と言っても不自然じゃない程度の状況を作り出す必要がある。そして、そのためには……)
月(それを自然にする為に最もとりやすい手段としては……)
春香(ライトさんに対する好意・好感……それを自然に抱いていくようにみせること)
月(まずは僕に対する積極的な好意を示していくこと)
春香(粧裕ちゃんと私は既に友達になっている。その状況なら、『いつも家庭教師をして頂いてお世話になっているので、ライトさんのご両親にもご挨拶させて下さい』などと申し出たとしても、そこまでおかしくはないはず)
月(そして粧裕とはもう友人関係になっていることから……後は僕の父……だけでは不自然なので、母も含め……家庭教師の礼も兼ねて両親に挨拶したい、とでも言い出す気だろう)
春香(今すぐにとはいかないけど、そう遠い日ともいっていられない)
月(しかしそれならそれで、そのような申し出をしてくるようなら、天海春香に対するキラとしての嫌疑は一層強まる。それにそうやって向こうから距離を縮めてくるようであれば、それを逆手に取って暴いてやるまでだ)
 
春香(なるべく早く、でも決して焦らずに……。絶対に、逆に暴かれるようなことがあってはならない)
月(キラの能力を)
春香(キラの正体が)
月「……じゃあ、次はこの問題を解いてみて」
春香「はい!」
963: 以下、
【一週間後・アイドルアワード授賞式会場】
(記者達のフラッシュが瞬く中、春香はトロフィーを胸に抱き、壇上の中央に立っている)
司会『それでは天海さん。受賞のコメントを一言お願いします』
春香『ファンの皆と、事務所の皆のお陰です。本当に……ありがとうございました!』ペコリ
司会『ありがとうございます。天海春香さんでした』
 パチパチパチパチ……
春香「…………」
春香(アイドルアワード……私が、この手で……!)
春香(もう目の前まできている。私が使命を果たす、その瞬間が)
春香(見ててね。ジェラス)
春香(あなたのくれた命、決して無駄にはしないから)
春香(あなたの望んだ、夢見てくれた理想のアイドルに―――絶対になってみせるから)
春香(美希と、765プロの皆と一緒に……必ず)
春香「…………」
53:以下、
【一時間後・765プロ事務所】
P「いやあ、それにしても、皆よく遅刻せずに集まれたな」
春香「えへへ……自分達で時間調整するの、慣れてきちゃいました」
真「うちの事務所は未だに、プロデューサー二人体制ですからね」
P「ああ、皆には助けられてるよ。美希と千早は、もう準備を進めてるのか?」
千早「はい」
美希「バッチリなの」
響「なになに? もしかしてハリウッド行きの話?」
やよい「千早さんはニューヨークにレコーディングですよね?」
千早「ええ」
真美「いいなあ。真美もハリセンフォードと握手したいよぅ」
亜美「りっちゃーん。亜美たちもニューヨークでセレブなモーニングを食べたいよ?」
律子「それ、全然仕事とは関係無いじゃない……」
P「そうだ。春香の方はどうだった? アイドルアワードの授賞式。ついさっきだっただろ?」
春香「はい。つつがなく終えてきました!」
P「そうか。それならよかった」
亜美「とか言いつつもはるるんのことだから、つい壇上で転んじゃったりとか??」
真美「うんうん。それでこそのはるるんだよねー」
春香「残念でした。つまづくことすらなく、しっかりきっちりやり遂げてきましたよ」
亜美「ちぇっ。なーんだ。つまんないのー」
真美「でも確かにはるるん、最近めっきり転ばなくなったよね」
貴音「重心を固定させる術を体得したのでしょうか」
春香「貴音さん。私を何者だと思ってるんですか」
美希「…………」
 ガチャッ
社長「皆、集まったようだね」
P「社長」
社長「えー、諸君。今更言うことでもないが、星井君のハリウッド映画への抜擢、如月君の海外レコーディングをはじめ、アイドル諸君には日々目覚ましい活躍を見せてもらっている。そこでだ。皆には、そろそろ次のステップに進んでもらっても良い頃だと思ってね」
アイドル一同「次のステップ?」
54:以下、
社長「うむ。では頼むよ、君」
P「はい」
アイドル一同「…………?」
P「――皆、アリーナだ! アリーナライブが決定したんだ!」
アイドル一同「アリーナ!?」
春香・美希「! …………」
P「ああ。今から四か月後、8月の開催だ。最高に暑い季節に、最高に熱いライブをするんだ!」
亜美「うわー! やっぱり夏ライブだったんだー! 亜美の予想大当たりっしょー!」
真美「でもまさかアリーナとはね?。真美達も遂にここまできたってカンジだね」
律子「それに今回のアリーナは、765プロにとって過去最大のライブになるわ。皆にとっても、次につながる大切なライブになるわよ」
響「そう言われると……なんか緊張するな」
貴音「真、気を引き締めて臨まねばなりませんね」
P「そこでだ。今回のライブは合宿を組みたいと思っているのと、さらに新しい試みが二つあるんだ」
貴音「試み……ですか?」
P「ああ。まず一つ目に、今回はバックダンサーを取り入れたステージにしてみたいと思っている」
真「ダンサー……すごい! 広いステージでも、派手に見えますよね!」
P「ああ。スクールに通っているアイドル候補生に頼むことになると思うが、皆はアイドルの先輩として、支えてあげてほしい」
あずさ「あらあら、にぎやかになるわね」
やよい「えへへ……先輩って、なんかかっこいいかも!」
雪歩「うぅ、ちょっと緊張しちゃうなぁ……」
P「それから二つ目だ。今回初めて、皆の中にリーダーを立てようと思う。リーダーを中心に、まとまっていってほしい」
伊織「リーダー?」
真美「そういえば、今までいなかったよね?」
響「ねえ、誰がリーダーになるの?」
(互いに見つめ合い、頷き合うプロデューサーと律子)
P「色々と考えたんだが……」
アイドル一同「…………」
56:以下、
P「リーダーは……春香。お前に任せたいと思うんだ」
春香「……え、えぇ!? わ、私がリーダーですか?」
P「どうだ? この半年間、俺なりに皆を見てきた結果なんだけど」
春香「えっ、と……」
(他のアイドル達を見回す春香。春香に向けて微笑む他のアイドル達)
春香「……はい! 天海春香、リーダー頑張ります!」
アイドル一同「おおー!」
 パチパチパチパチ……
真「よろしく、リーダー」
千早「頑張って。春香」
春香「うん! ありがとう。真、千早ちゃん」
美希「春香」
春香「美希」
美希「おめでとう。これからもよろしくね、リーダー」
春香「うん。ありがとう。美希」
美希「……あはっ」
春香「……ふふっ」
真・千早「?」
P「よし、皆。新しい試みで不安もあるだろうけど、全員で力を合わせて成功させよう! 最高のステージを俺に見せてくれ!」
アイドル一同「はい!」
伊織「っていうか、なんであんたのためなのよ?」
亜美「そうだそうだー!」
P「あ、あはは……えっと……」
春香「…………」
春香(アリーナで、ライブ……)
春香(そして私が、リーダー……)
春香「…………」
57:以下、
【765プロ事務所の屋上】
(二人で屋上のベンチに腰掛けている春香と美希)
春香「アリーナでライブができるってだけでも夢みたいなのに……まさか私がリーダーに選ばれるなんて」
美希「春香」
春香「生きてて良かった」
美希「……その台詞、春香が実感込めて言うとすごく重いの」
春香「まあこの前も言ったけど、私本来なら一年前に死んでたからね」
美希「だから重いの! あえてまた言わなくても分かってるの!」
春香「はぁ……なんか私、アイドルアワードのあたりから幸運が続き過ぎてて、ちょっと怖いくらいだね」
美希「……でも、ミキ的には『当然』って思うな」
春香「美希」
美希「春香は他の誰よりも、アイドルとして頑張ってきたと思うから……だから全部幸運なんかじゃなく、当然の事だって思うの。アイドルアワードの受賞も、アリーナライブのリーダーに選ばれたのも」
春香「……美希……」
美希「うん」
春香「……でもそれ、ハリウッドデビューが決まってる美希に言われても嫌味にしか聞こえないんだけど」
美希「えっ」
春香「なーんちゃって。ウソだよ、ウソ。ありがとうね。美希」
美希「……もー。春香ってば、驚かさないでなの」
春香「あはは。ごめんごめん。でもこれで後は……」
美希「? 何? 春香」
春香「……いや、とにかく今は目の前のお仕事に集中しよう」
美希「……Lの事?」
春香「……うん。正直言って、やっぱり気にはなるけど……でも今のところ、特にその手がかりも掴めそうにないしね。暫くはこのまま様子見かな」
美希「そうだね。例の『救世主キラ伝説』の掲示板にも、今のところそれらしい書き込みは無いし」
春香「うん。それに私の目標はあくまでも美希や他の皆と一緒にトップアイドルになることだからね。それが果たされるのであれば、そこまでLにこだわる必要も無いかなって」
美希「…………」
58:以下、
春香「? どうしたの? 美希」
美希「ううん。なんでもないの」
春香「そう? ならいいけど」
美希「…………」
美希(春香……口ではそう言ってるけど、本心ではまだきっと、Lの事を……)
春香「…………」
春香(気付かれたかな? 美希ってば、妙に勘が鋭いとこあるからなぁ……)
春香(まあでも、仮に美希に気付かれたとしても、私がやることは何も変わらない)
春香(たとえ今は何も仕掛けて来ていないとしても、そう遠くないうちに、Lは必ずまた私達の前に立ちはだかる)
春香(一時的とはいえ、美希の部屋にあそこまでの数の監視カメラを付けたほどの者が、そんなに簡単に、キラを捕まえることを諦めるはずがないからだ)
春香(だから私は……必ずLを殺さなければならない)
春香(それが美希の為であり……いずれトップアイドルとなる私達の、765プロ全員の為になるのだから)
春香(もうここまできたんだ。絶対に負けるわけにはいかない)
春香(そのためにも、まずは夜神月……そして彼からその父親である夜神総一郎、そしてLへと……必ず辿り着いてみせる)
春香「……さて、そろそろ戻ろっか。もうお昼休憩終わりだし」
美希「……うん。そうだね」
美希(春香……今、何を考えているの?)
春香(美希……もう少しだよ。もう少しで……私達の理想とする世界がつくれる!)
84:以下、
【二週間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「…………」
L(夜神月のコミュニケーション能力を活かしての接触が期待できそうな、星井美希と天海春香以外の765プロダクション所属アイドル……)
L(現時点での最有力候補は……やはり既に夜神月が家庭教師として接点を持っている高槻やよいか)
L(彼女も含め、星井美希と天海春香以外の765プロダクション所属アイドルについては、まだ765プロダクション側に顔の割れていない相沢と松田とで手分けして尾行捜査をしてもらっているが……)
L(やはり皆、今を時めく人気のアイドル……一般人が簡単に接触できそうな隙は見付けられない)
L(だが同時に、捜査としての進展もあった)
L(夜神月が直接接触している高槻やよいを含め……現時点で、星井美希と天海春香以外に特に怪しい動きのあったアイドルはいない)
L(南空ナオミからの報告にあった萩原雪歩の一人焼肉も、どうやら彼女にとっては日常の一コマのようだし……)
L(また765プロダクション全体が、組織的に犯行を行っているという可能性もあったことから、夜神局長と模木に、765プロダクションという組織全体に何か不審な点が無いか、という観点からの調査もしてもらっているが……)
L(こちらの方も現状、特に不審な点は無い。確かに黒井氏が言っていたとおり、961プロダクションおよびそれに追従していた他のアイドル事務所が765プロダクションを陥れようとしていた事実はあったようだが、この件についての765プロダクション側は完全に被害者……形式的には765プロダクション側に非や落ち度があったこともあったようだが、それらも実際は全て765プロダクションの前任のプロデューサー……黒井氏が送り込んだスパイであった者によるもの。つまり結局は全て961プロダクション側の自作自演であり、765プロダクション側には何ら帰責性は無かった)
L(結論として、組織体としての765プロダクションはクリーンと言っていい。また社長の高木順二朗氏をはじめ、その他所属従業員にも特に不審な点は無い)
L(キラ……いや、天海春香によって961プロダクションから移籍させられたと思われる現プロデューサーも、現時点では、プロデューサーとしての仕事以外に不自然な行動はみられない)
L(とすると、やはりこの事件……組織体としての765プロダクションとは無関係に、天海春香・星井美希の両名が順次、何らかのきっかけで殺しの能力を得て、今は二人で連携を取りながら行っているものとみるのが自然)
L(そうであるとすれば、765プロダクション内においても、この二人以外の者はこの事実を知らないものと考えられる)
L(また星井係長の録音捜査からも、今のところ特に星井美希との会話から有益な情報は得られていない)
L(もっとも、星井係長から星井美希には『キラ事件の担当からは外れた』と伝えてあるとのことなので、星井美希からも星井係長に対しては探りを入れようがない状況であるとはいえるが)
L(だとすれば、現状ではやはり、高槻やよい……彼女しかいないか)
L(夜神月が今後、家庭教師を通じて彼女とより懇意になることで、そこから星井美希または天海春香の情報を得る……)
L(幸いにも、現在、高槻やよいは夜神月をまるで兄のように慕っており、二人の関係性は極めて良好)
L(ただそうは言っても、同じ事務所の他のアイドル仲間との関係性に比べれば、まだまだ表面的なものに留まっているとはいわざるをえない)
L(なら今はもう少し、二人の信頼関係が熟すのを待つべきか……)
L「…………」
85:以下、
月「どうした? 竜崎。少し疲れているように見えるが」
L「月くん。そうですね……確かに捜査自体は着実に進展しているものの、現状、少し行き詰まってきたようにも感じています。疲れて見えるのはそのせいかと」
月「まあ、予想はしていたがやはりそう簡単にはキラの尻尾は掴めないな。根気よくやるしかない」
L「そうですね。……そういえば先週に続き、今週も天海春香の家庭教師はお休みですか」
月「ああ。アリーナライブのリーダーになった関係で、スケジュールが色々動いたらしい」
L「なるほど。まあ仕方無いですね」
総一郎「……竜崎」
L「はい。何でしょう。夜神さん」
総一郎「たまには竜崎も休みを取ってはどうだ? 我々はある程度交代で休んでいるが、竜崎はずっとこの捜査本部に篭りきり……それでは疲れが溜まるのも当然だ」
L「ありがとうございます。でも今は事件の事を考えているときが一番落ち着きますので」
松田「すごいっすね、竜崎は……世間はゴールデンウィークで浮かれてるっていうのに」
L「別に松田さんも外で浮かれて頂いて構いませんよ? 今日は星井さんと相沢さんも休まれていることですし」
松田「えっ。そ、そうですか? それじゃあお言葉に甘えて……」
L「もっとも、模木さんは今朝からずっと、黙々と765プロダクションの各アイドルの尾行データを集約してくれていますけどね」
模木「…………」カタカタカタカタ
松田「はい。僕も手伝います。そもそもそれ、僕が尾行した分のデータも含まれてますしね……」
月「……さて。すみませんが、僕は今日はこのへんで失礼します」
松田「おっ。月くん、もしかしてデート?」
月「違いますよ。これから大学の学祭を回る予定なんです。友人達とその待ち合わせをしていて」
総一郎「そうか。東大の学祭は5月と11月に二回やると言っていたな」
月「そう。それで今日はその一回目の方ってわけ。そういうわけで申し訳無いけど、後はよろしく頼むよ。父さん」
総一郎「何、お前はまだ大学生になったばかりの身なんだ。何も遠慮することなく、存分に楽しんできなさい」
月「ああ。そうさせてもらうよ」
L「……大学の学祭、ですか」
月「竜崎」
L「楽しそうですね。羨ましいです」
月「なんなら、竜崎も行くか?」
L「えっ」
月「ほら」スッ
(学祭のパンフレットをLに渡す月)
L「…………」パラパラ
月「といっても、『顔を見るだけで人を殺せる』能力を持ったキラがどこに居るか分からないんだ。流石に無理か」
L「……そうですね。残念ですが…… ! 」
月「?」
L「……月くん」
月「? 何だ? 竜崎」
L「私も……行きたいです」
月「え?」
L「連れて行ってもらえませんか? ……学祭」
86:以下、
【一時間後・東応大学キャンパス】
(賑わうキャンパス内を二人で歩いているLと月。Lは、東応大学の入学式の日に着けていたのと同じ、ひょっとこのような面を着けている)
L「気を遣わせてしまってすみません。月くん。せっかくご友人達と回る予定だったところを、別行動にさせてしまって」
月「いや、それは別にいいが……。(流石に、友人達をこんな変な面を着けた奴と一緒に歩かせるわけにはいかないからな……)」
L「? 何か言いましたか?」
月「いや、なんでもないよ。それより竜崎。なんでわざわざ、またそんな面を着けてまで学祭に来る気になったんだ?」
L「……どうしても、会っておきたい人物がいまして」
月「? 会っておきたい人物? 一体誰だ?」
L「……彼女です」スッ
月「え?」
(人だかりの向こう側、屋外のステージ上でライブをしている女性アイドルを指差すL)
月「……? アイドルのライブイベントか? どれどれ……」パラパラ
(学祭のパンフレットを捲る月)
月「……弥海砂? ……知らないな」
L「まだデビューして半年と少しくらいですからね。月くんが知らないのも無理は無いと思います」
月「……彼女に会いに来たってことは……あのアイドルのファンなのか? 竜崎は」
L「いえ、そういうわけではありません。キラ事件の捜査で星井美希を調べていたら、彼女に辿り着いたんです」
月「えっ」
L「覚えていますか? 月くんを初めて捜査本部にお連れした日に、私が『星井美希と接点のある、他の事務所所属のアイドルに接触してもらおうと考えて月くんをこの捜査本部にお呼びした』と言ったこと……」
月「ああ……そういえば言っていたな。じゃあそれがこのアイドル……弥海砂ってことか?」
L「はい。星井美希の身辺を洗っていたら行き着きました。二人は昨年、○×ピザのCMでコラボ出演して以来親交があり、今ではプライベートでもよく遊ぶ仲だそうです」
月「よくそんなことまで分かったな」
L「はい。ワタリが調べた情報なので確かです。しかし、こんな所に来る予定があったとは知りませんでした。……最近は、765プロダクションの方ばかり調べていて、弥海砂の方はほとんどチェックしていませんでしたので」
月「僕が既に天海春香と接点を持っていた以上……今、僕が両者に対して同時に接触するのはやめておいた方がいいだろう、という話になったからか」
L「はい。ですが、こんな所に来ていたとなれば話は別です。この状況なら、上手くやれば極自然な形で弥海砂との接点が作れる……東応大学の学祭に来ていたのは弥海砂の方なのですから、この大学の学生である月くんとこの場で偶然知り合いになったとしても、何らおかしくありません」
月「それはまあ、そうかもしれないが……では、僕が彼女……弥海砂に近付き、そこから星井美希を探っていくということか? 竜崎が元々考えていた計画を実行するとしたら」
L「はい。月くんの卓越したコミュニケーション能力なら十分可能だと思います」
月「……竜崎。家庭教師の件以外に、僕に危害が及びかねないような捜査は頼まないって言っていなかったか? 捜査本部では」
L「それはそれ、これはこれです。月くんだって、キラを捕まえたいという気持ちは私と同じのはずです」
月「答えになってないぞ、竜崎……。まあ僕は別に構わないが、父への説明と説得は後でちゃんとしておいてくれよ」
L「はい。勿論です。夜神さんも誠意を込めて説明すればきっと分かってくれると思います」
月「じゃあそれは任せるが……しかし実際問題、仮に上手く接触できたとしても、そこからキラの情報を掴むというところまでいけるか? 単に星井美希と交流があるというだけのアイドルだろ?」
L「もちろん、ただのアイドル友達というだけなら難しいでしょう。……ですが、私が弥海砂に着目したのは、単に星井美希と交流関係があるからというだけではありません」
月「? というと?」
87:以下、
L「実は……彼女は今から一年半ほど前に、両親を強盗に殺されています」
月「!」
L「そしてその犯人は……それから約一年後に、キラによって裁かれています」
月「! ……そうだったのか……」
L「はい。これは彼女のファンサイトに書かれていた内容ですが……ワタリに裏を取らせた情報なので確かです」
月「なるほど……つまり弥海砂にとっては……キラは両親の仇を討ってくれた恩人、というわけか」
L「はい。ゆえに、彼女は完全にキラ肯定派……いえ、もはやキラ信者といってもいいくらいのレベルです。今でもブログやSNSではキラ肯定をほのめかす発言をしばしば行っていますし、『キラに会いたい』など内容が過激過ぎて削除されたものすらあります。おそらく事務所側からストップがかかったんでしょうね」
月「そんなことまで調べていたのか」
L「はい。キラに付け入るのであれば、キラ信者は最適ですから」
月「なるほど。ちなみに、弥海砂は星井美希とプライベートでも親交があるとのことだが……現時点で、キラ肯定派であることを打ち明けているのか?」
L「残念ながらそこまでは分かりません。ですが、元々親交のあった弥海砂がキラ肯定派であることを打ち明ければ……星井美希がキラだった場合、何らかの形でキラのヒントを掴める可能性は高いと思います。むしろ場合によっては、キラの支持者として犯罪者裁きの手伝いを要請されるという可能性も」
月「まあそこまでいけば出来過ぎなくらいだが……しかしその前提として、まずは僕が弥海砂に接触しないといけないんだろう?」
L「はい。ですが間違っても、キラを追っているということを気付かれてはなりません。キラ信者である弥海砂にそんなことを気付かれたら最後、ネット上に顔と名前をアップされてキラに殺されてしまうかもしれませんので」
月「……お前、そんな危険な事をよく平気で人にさせようとするな」
L「もちろん、月くんならそんな事態にはならないと確信しているからです」
月「まあいいが……しかしそうすると、当然の事ながら、こちらがキラを追っていることは隠し……いやむしろ、いっそキラ肯定派であるかのように振る舞う……」
L「はい。その方が、弥海砂も早い段階で心を許す可能性が高くなると思います」
月「そしてある程度、弥海砂との距離が縮まった段階で、『キラはアイドルの星井美希かもしれない』と伝える……」
L「はい。『キラに会いたい』とまで言っていた弥海砂なら、その手の話には確実に興味を持つ。そしてそれが自分の親しい友人となれば、本当にキラかどうかを必ず確かめたいと思うはずです」
月「そうなれば、弥海砂を通じて、星井美希からキラに関する情報を得られるかもしれない……ということか」
L「はい」
88:以下、
月「……だが問題は、この状況からどう弥海砂との接点を作るか……」
L「なんとかなりませんか? 月くん」
月「なんとかって言われてもな……同じ大学の学生ならまだしも、単に学祭のイベントに呼ばれただけのアイドルとなると……」
L「たとえば、あの司会らしき女性を介して……などはどうでしょうか」
(海砂がライブをしているステージの脇で、マイクを持って立っている女性を指差すL)
月「司会?」
L「はい。彼女はおそらくこの大学の学生ではないかと思うのですが……月くんと、面識があったりしませんか?」
月「ああ……彼女は確か……高田清美、といったかな」
L「! ご友人ですか?」
月「いや……ミス東大の呼び声高い新入生だ。現に、秋の方の学祭で開催される『ミス東大コンテスト』に出場するよう、実行委員会から早くも声を掛けられていると聞いた。自分で言うのも何だが、全科目満点で首席入学した僕と並んで注目の新入生だ」
L「そうでしたか。では、彼女との面識は……」
月「残念ながら、直接は無いな。まあ向こうも、そういう事情でおそらく僕の存在は知っているとは思うが」
L「ではなんとかなりそうですね。同じ大学の注目の新入生同士……一方が他方に声を掛けても全く不自然ではありません」
月「まあ高田清美はそれでもいいが……そこから弥海砂につながるかはなんともいえないな。今のところ、弥海砂は学祭のイベントに呼ばれただけのアイドルで、高田清美はそのイベントの司会というだけだろう」
L「イベントの後に打ち上げに行ったりしないでしょうか? 関係者同士で」
月「それはあるかもしれないが……普通に考えて、ゲストに呼ばれたアイドルまでは参加しないんじゃないか?」
L「そういうものですか……あ、歌が終わりましたね」
月「…………」
89:以下、
海砂『はーい。というわけでミサの新曲、『もっとキラキラにして♪』を聴いて頂きました?! どうもありがとうございまーす!』
 ワァアアアア……
清美『弥さん、ありがとうございました。ではここで、会場の皆様にも参加して頂けるコーナーに移らせて頂きたいと思います』
海砂『…………』ジー
清美『? あ、弥さん?』
海砂『ずっと思ってたけど……あなた、すごい美人ね。ミス東大候補ってカンジ?』
清美『は、はぁ!? わ、私はミス○○だとかうわついた物は嫌いです』
海砂『えー? でもなんかまんざらでもなさそうだけどー?』
 ドッ アハハハハハ……
清美『も、もう! 進行もあるんだから、あんまり台本に無いことを言わないで下さい!』
海砂『はぁ?い』
清美『ええと、では会場の皆様の中から、何人かステージの方へ…… ! 』
清美(……あれは……)
海砂『? どうしたの?』
清美『…………』
L「……あの司会の女性……高田清美……でしたか。何か、我々の方を見てませんか?」
月「? そうか?」
清美『…………』
清美(間違い無い。あれは……今年度の入試を全科目満点で合格したという……主席入学者の夜神月!)
清美(……ちょうどいいわ。彼とは一度話をしてみたいと思っていたし……それに私と並んで注目の新入生。ステージの盛り上げ役としても最適でしょう)
清美『おや? あそこにおられるのは……今年度の首席入学者、夜神月くんではないでしょうか?』
観客一同「!?」ザワッ
L「!」
月「なっ……」
海砂『首席入学者?』
清美『……どうやら、そのようですね! では、今年度の東応大学の入学試験を全科目満点で突破された天才・夜神月くん! ここで巡り合わせたのも何かの縁です。どうぞステージの方へ!』
 ワァアアアア……
月「! …………」
L「月くん。絶好のチャンスです」
月「竜崎」
L「場も盛り上がっていますし、是非ステージに上がって、弥海砂と接点を」
月「……分かったよ」
清美『えっと、そのお隣の……ユニークなお面を着けておられる方はお友達でしょうか?』
L「え?」
清美『ではせっかくですので、お友達の方もご一緒にステージへどうぞ!』
 ワァアアアア……
L「…………」
月「……どうせだ。お前も来い、竜崎。その面を着けていれば大丈夫だろ」
L「……はぁ。仕方ありませんね」
90:以下、
(ステージに上がった月とL。二人は両隣を清美と海砂に挟まれる形で立っている)
清美『……というわけで、今年度の東応大学の首席入学者、夜神月くんと、そのお友達の……』スッ
(マイクをLに向ける清美)
L『……竜崎です』
清美『はい、竜崎さんですね。ところで竜崎さんは、どうしてそんなお面を着けていらしてるんですか?』
L『えー……これはですね……』
月「…………」
海砂「…………」チラッ
海砂(この首席入学者の人……すごくカッコイイ……ぶっちゃけタイプかも)
海砂(ってことは、もしかして……友達のお面の人も、素顔はすごくイケメンだったりするのかな?)
海砂(だったらちょっと見てみたいかも……)
海砂(……よし。それにどうせなら、場も盛り上がった方が良いしね)
月「…………」
月(それにしても妙な事になったな……)
月(まあでも、確かにこの状況ならこのアイドル……弥海砂と接点を持つのも容易に……ん?)
海砂「…………」コソコソ
(音を立てずにLの背後に忍び寄る海砂)
月(……何を……?)
清美『魔除け……ですか?』
L『はい。それと他には……』
海砂(……よし。全く気付かれてない。今だ!)
月「! ま、待て……」
海砂「えーい!」バッ
L「!」
(背後から海砂に面を外されたL)
清美「あっ」
L「…………!」
月「なっ……!」
91:以下、
海砂『もう、せっかくのステージなのに、こんなの着けてちゃ盛り下がっちゃうでしょー』
 アハハハハ……
清美『あ、弥さん! お客さんに対して勝手にそんな……』
海砂『ん?? でもあなた、結構個性的で素敵なお顔じゃない。お面なんて着けてない方が全然いけてるじゃん』
L「…………」
清美『ひ、人の話を聞きなさい!』
 アハハハハ……
海砂(あー、こういうタイプだったかぁ。ミサ的にはあんまりタイプじゃないかな? まあ嫌いじゃないけど……)
L「…………」
月「りゅ、竜崎……」
L「……まあ、学祭のプログラムは事前に全てチェック済みです。今日のイベントに765プロダクションのアイドルは誰も呼ばれていませ……」
「海砂ちゃーん!」
海砂『あっ、美希ちゃん!』
L「!」
月「えっ」
美希「ちょっと遅れちゃったけど、来たの!」ブンブン
(ステージ近くの観客席から手を振っている美希)
海砂『来てくれたんだー! ありがとー!』
L「……星井、美希……」
月「な、何でここに……?」
「……あれ? ライトさん?」
月「えっ」
春香「……なんで、ライトさんがステージに?」
月「! …………」
粧裕「ホントだ。何やってるの? お兄ちゃん」
やよい「あーっ! ライト先生だー!」
(美希の横に春香、粧裕、やよいの三人が並んで立っている)
月「……な……」
L「……あま、み……はるか?」
月「! 竜崎」
春香「…………」
美希「えっ? もしかして……あのステージにいる人が『夜神月』って人なの? 春香」
春香「…………」
美希「春香?」
春香「…………」
春香(ライトさんの横にいる人の、名前……)
春香(…… L Lawliet ……?)
春香「…………」
141:以下、
【一週間前・美希の自室】
美希「さて、今日の分の裁きも終わったし、そろそろ寝ようかな」
リューク「しかし大変だな。ハリウッド行きの準備もしながら、犯罪者裁きもこれまで通りにこなさないといけないってのは」
美希「まあね。でも今のところは全然大丈夫なの。ハリウッドも実際に行くのはアリーナライブが終わってからだし、まだ大分余裕あるからね」
リューク「なるほど。ちなみに、アメリカに行ってる間はアメリカの犯罪者を中心に裁くのか?」
美希「……そんなあからさまな事したら、ミキがキラだって言ってるようなものなの」
リューク「それもそうか」
美希「当面の間はこれまで通り、日本の犯罪者を中心に裁いていって、他の国の犯罪者も、世界的に報道されるような凶悪なのは裁くようにするの」
リューク「ふむ」
美希「まあでも将来的には……他の国の犯罪者も、偏り無く裁けるようにするのが理想かな。日本だけが平和になっても、本当の意味で『平和な世界』とはいえないしね」
リューク「じゃあミキは世界全体を平和にしたいんだな」
美希「そうだよ。だからミキは最初からずっと、そう願ってデスノートを使ってるの」
美希「世界中の人が皆、平和に幸せに暮らせたら、それが一番良いに決まってるの」
リューク「なるほどな。(……言ってることは立派だが、やってることは人殺し……。やっぱり人間って面白!)」
美希「? 何か言った? リューク」
リューク「いや、別に」
美希「むー。……あっ。電話だ。……海砂ちゃん?」ピッ
美希「ミキなの」
海砂『ミサだよー。美希ちゃんまだ起きてた?』
美希「うん。ちょうど寝ようとしてたとこだったの」
海砂『あ、ごめん。じゃあ明日にした方がいいかな?』
美希「ううん。大丈夫なの。何? 海砂ちゃん」
142:以下、
海砂『うん。実は来週の日曜日、東大の学祭でライブイベントをするんだけど……もしよかったら観に来てくれない?』
美希「行くの!」
海砂『即答ありがとう。流石美希ちゃん』
美希「海砂ちゃんのライブって観たことなかったから、すごく楽しみなの」
海砂『ミサも美希ちゃんに観に来てもらえると思うとやる気が出るよ。あ、じゃあよかったら765プロの他の友達も誘っておいでよ。ミサも仲良くなりたいし』
美希「わかったの! じゃあ皆に声掛けてみるね」
海砂『あ、でも流石に765プロのアイドルが何人も集まったら大騒ぎになっちゃうかもしれないから……美希ちゃん以外に一人か二人くらいの方が良いかな?」
美希「わかったの。じゃあそんな感じにするの」
海砂『ごめんね。誘っておきながら注文多くて』
美希「ううん。誘ってくれてありがとうなの。本当に楽しみなの」
海砂『そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ詳しい場所や時間はメールで送るね』
美希「らじゃーなの」
海砂『じゃあそういうことでよろしくね。おやすみ』
美希「おやすみなさいなの」ピッ
美希「……そっか。海砂ちゃんライブやるんだ。しかも東大で……ん? 東大?」
リューク「それって確か、『夜神月』ってやつが通ってる大学じゃないのか? 今、ハルカの家庭教師をしてるっていう」
美希「……うん。そうだね」
リューク「どうするんだ? ミキ。じゃあやっぱり、ハルカを誘うのか?」
美希「…………」
美希(……春香……か)
美希(でも確かに、良い機会かもしれない)
美希(最近、春香の考えてる事がよく分からないときがあるし……)
美希(少し開放的な場所で、二人でゆっくり話ができれば……)
美希「そうだね。春香を誘ってみるの」
リューク「おっ」
美希「…………」ピッ
春香『――もしもし。美希?』
美希「ミキなの。まだ起きてた? 春香」
春香『うん。何か用事?』
美希「えっとね。前に話してた、弥海砂ちゃんって覚えてる? ミキと○×ピザのCMでコラボ出演したことのある……」
春香『あー、確か……ヨシダプロの人だっけ?』
美希「そうそう」
春香『その人がどうかしたの?』
144:以下、
美希「うん。実は今連絡があって、来週の日曜、東大の学祭でライブイベントやるんだって」
春香『! 東大で』
美希「うん。で、よかったら観に来ない? って誘われたから、ミキは行くつもりなんだけど……もし予定が合えば春香も一緒にどうかなって思って」
春香『あー……そういうことね』
美希「あっ。もしかして、もう予定入ってた?」
春香『いや、そういうわけじゃないんだけど……』
美希「?」
春香『ほら、東大ってことは……ライトさんも来てるかもしれないでしょ?』
美希「? それがなんかまずいの?」
春香『いやほら、アリーナライブのリーダーになった関係でスケジュールが色々動いたから、今週と来週、家庭教師お休みにしてもらったって言ったでしょ?』
美希「ああ、うん。そういえば言ってたね」
春香『なのに、普通に学祭に遊びに来てたらなんか感じ悪いっていうか……好感度下がらないかな? 『お前、家庭教師休みにしといて……』みたいな』
美希「うーん……ミキ、その人のこと直接知らないから分かんないけど……フツーに考えて、それくらい別に大丈夫なんじゃない? 別にウソついて休みにしてもらったわけでもないし」
春香『まあそうかもしれないけど……でも私、ライトさんにほのかな恋心を抱きつつある少女を演じているところだからなあ……。あんまりそのイメージを崩すような行動は……』
美希「じゃあ行かないの?」
春香『……いや、正直行きたい。他のアイドルのライブってそんなに観る機会無いから、純粋に勉強したい……アリーナライブも控えていることだしね』
美希「じゃあどうするの?」
春香『……分かった。行くよ。まあ東大って言っても広いから、そうそう会うことも無いだろうしね。それにライトさんがアイドルのライブイベントに足を止めるとも思えないし』
美希「じゃあ行くってことでいいんだね」
春香『うん』
美希「わかったの。詳しい時間や場所はまたメールするね」
春香『はーい』
美希「じゃあそういうことで。また明日ね、春香。おやすみなさいなの」
春香『うん。誘ってくれてありがとうね、美希。じゃあおやすみ』
美希「はいなの。それじゃあね」ピッ
美希「…………」
美希(……電話やメールでは、デスノートやキラについての話はしないようにしているとはいえ……)
美希(……なんか、すごくいつも通りの春香だったな……)
美希(ミキの考え過ぎだったのかな?)
美希「…………」
リューク「なあ、ミキ」
美希「? 何? リューク」
リューク「学祭って、リンゴ飴売ってるかな」
美希「……売ってたとしても買わないの」
リューク「…………」
145:以下、
【現在・東応大学キャンパス内/屋外ステージ前の観客席】
美希「…………」
美希(今日はまだ、二人で落ち着いて話はできていない)
美希(大学に着いて割とすぐに、たまたまこの学祭に遊びに来ていたやよいと粧裕ちゃん……例の『夜神月』って人の妹さん……とばったり会って)
美希(そのまま四人で話し込んじゃって……海砂ちゃんのライブイベントの開始時間過ぎちゃって)
美希(慌てて走ってここまで来たけど……)
美希「…………」
春香「…………」
美希「……ねえ、春香ってば」
春香「え? ああ、うん。何? 美希」
美希「いや、何じゃなくて。あれが春香の家庭教師の『夜神月』って人なの? って」
春香「あ、ああ……うん。そうそう。ライトさんがこんな所にいるなんて思わなくて、つい……ね。あ、あはは……」
美希「…………」
美希(……めちゃくちゃ怪しい……)
美希「ねえ、春香」
春香「な、何? 美希」
美希「……何かあったの?」
(小声で春香に尋ねる美希)
春香「! …………」
美希「…………」
春香「……流石美希。鋭いね」
美希「もう。これくらいミキにはお見通しなの」
春香「あはは……参ったな。……でも今はちょっとまずいから、また後で話すよ。二人きりの時に」
美希「……ん。分かったの」
やよい「何話してるんですか? 春香さん、美希さん」
春香「ん? ああ……あれがライトさんだよ、って。美希に」
やよい「あっ、そうか。美希さんはライト先生と会ったことないですもんね」
美希「うん。噂通り、すごいイケメンの先生だね。でも何でステージの上にいるの?」
やよい「さあ……? 粧裕ちゃん、何か知ってる?」
粧裕「いや、全然……。ホント何やってんだろ? お兄ちゃん……」
146:以下、
清美『……ええと、弥さん?』
海砂『ん? 何?』
清美『今、『美希ちゃん』って言ってましたけど……それってもしかして、あの765プロの?』
海砂『うん、そうだよ。765プロの星井美希ちゃん。実はミサと美希ちゃんは大の仲良しなの。だから今日は個人的に『観に来てくれない?』って声掛けてたんだー』
観客一同「!?」ザワッ
「えっ。じゃああそこにいるのってミキミキ……?」
「つーかその横の子、よく見たらはるるんっぽくないか?」
「やよいちゃんらしき子もいるぞ……」
 ザワ…… ザワ……
美希「あ、やばい。ばれたかな」
春香「いやばれたも何も、今普通に『765プロの星井美希ちゃん』って言われたからね」
やよい「うーん、大丈夫でしょうか?」
粧裕「な、なんか周りの人が皆、私達の方を見ているような……」
(ステージの上に立たされたままの月とL)
月「りゅ、竜崎……」
L「そうですよね……アイドルとしては呼ばれていなくても、普通に友達としてなら呼ばれている可能性はありますよね……。残念ながら、生まれてこの方友達というものができたことのない私には、その発想が全く思いつきませんでした」
月「…………」
L「いえ、違いますね。一点訂正します」
月「? 何だ?」
L「今言った、『私に友達ができたことがない』という点です。……月くんは私の初めての友達ですから」
月「……ありがとう。僕にとっても竜崎は気が合う友達だよ」
L「どうも」
月「だから二人で考えよう。この状況をどう乗り切るか……いや、むしろ逆に……」
L「はい。この状況を……」
月・L「どう利用するか」
海砂「何二人でこそこそ喋ってるのー?」ヒョコッ
月「! …………」
L「……弥さん。とりあえず」
海砂「はい。何でしょう」
L「殴っていいですか」
海砂「何で!?」
L「人の面を勝手に取るのは重罪ですから」
海砂「い、いやいや! そりゃ確かに勝手に取ったのは悪かったと思うけど!」
L「一回は一回です。さあ歯を食いしばって下さい」グッ
海砂「一回は一回って! ちょっと目がマジなんですけど!? っていうかその拳下ろして! 怖い!」
月「……もうそのへんでやめとけ。竜崎」ポン
L「月くん」
147:以下、
月「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ。見ろよ、本気で怖がってるじゃないか」
海砂「じょ、冗談……?」
L「はい。もちろん冗談です。まさか弥さんは、私が本気で女性に手を上げるように思いますか? そんな人間に見えますか?」
海砂「思います。見えます」
L「月くん。やっぱりこの人殴っていいですか?」
海砂「ひっ」ビクッ
月「……だからやめとけって。それに……」チラッ
L「?」
月「……それどころじゃないみたいだぞ。観客席の方は」
清美『み、皆さん! 落ち着いて下さい!』
観客A「ねぇミキミキ、この後空いてる? もしよかったら俺と……」
観客B「いや美希ちゃん、ここはこの僕と!」
観客C「いやいや俺と!」
美希「ちょ、ちょっと……もう! 押さないでほしいの!」
観客D「やよいちゃんもあのアイドルの子……え?っと、ミカちゃん? と仲良いの?」
やよい「え? み……ミカちゃん?」
観客E「春香さん! 踏んで下さい!」
春香「ふ、踏みません! どさくさに紛れて何言ってるんですか! もう!」
観客E「ありがとうございます!」
観客F「君もアイドル? 可愛いね?」
粧裕「へっ? わ、私はそんなんじゃ……」
 ワイワイ…… ガヤガヤ……
L「……今を時めく765プロダクションのアイドルが三人も集まれば、まあ普通に考えてこうなりますよね」
月「ああ。それにさりげなく、粧裕までアイドル扱いされてるしな……」
海砂「むぅ……このステージの主役である私を差し置いて……っていうかミカって誰よ! ミカって!」
148:以下、
L「……司会の方」
清美『えっ。あ、はい』
L「すみませんが、ちょっとマイクを貸してもらえませんか?」
清美『? は、はあ……』スッ
(清美からマイクを受け取ったL)
月「? 竜崎? 一体何を……」
L『えー……ではここで、追加でステージに上がって頂く方のお名前を発表したいと思います』
清美「えっ」
月「!」
海砂「へっ?」
L『弥さんからご招待されていたという星井美希さん、そしてそのお友達の天海春香さん、高槻やよいさん、夜神粧裕さん。どうぞ皆さんまとめてステージの方へ』
美希「!」
春香「えっ」
やよい「私達がステージに……ですか?」
粧裕「な、何で私まで!?」
清美「ちょ、ちょっと、何を勝手に……」
L「このまま観客席が混乱したままですと、イベントの進行に支障をきたします。ならいっそ全員まとめてステージに上げてしまった方がよろしいかと」
月「! ……竜崎……」
清美「で、でもこの後のコーナーは、そんなに大勢の人数で行う想定では……」
L「それくらいアドリブでなんとかして下さい。東大生の知能をもってすれば造作も無いはずです」
清美「そ、そんな簡単に……大体これは弥さんのライブイベントであって……」
海砂「いいんじゃない? 別に」
清美「! 弥さん」
海砂「私も美希ちゃんや、他の765プロの人達と共演してみたいし。……てゆーか、私の事そっちのけで観客席で盛り上がられてる方が腹立つしね」
清美「腹立つって……」
海砂「というわけで……コホン」
海砂『はい! では今呼ばれた四名の方、やかにステージの方へどーぞー!』
 ワァアアアア……
美希「! 海砂ちゃん」
やよい「えっと……どうしましょう?」
春香「まあ確かに、このままだともみくちゃにされちゃいそうだし……それならいっそ行った方がいいかもね」
美希「よーし、じゃあ皆で行くの! 海砂ちゃんの待つステージへ!」 
粧裕「えっ? これってやっぱり私も行く流れなの!?」
149:以下、
(ステージに上がった美希、春香、やよい、粧裕)
海砂『ごめんねー美希ちゃん。せっかくお客さんとして来てもらってたのに』
美希『ううん。大丈夫なの。ミキ的にはこっちの方が面白そうだし。あはっ』
清美『星井さんは、弥さんとはいつ頃お友達になられたんですか?』
美希『んっとねー。○×ピザのCMでコラボ出演した時だから、去年の――……』
粧裕「うぅ……何で私まで……」
月「粧裕」
粧裕「お兄ちゃん」
月「何で、お前までここに……。それにやよいちゃんと春香ちゃ……天海さんも」
やよい「ライト先生! 私、びっくりしました。まさかこんな所でお会いできるなんて」
春香「あはは……ちょっとご無沙汰してます……」
月「ああ……皆で一緒に来てたのか?」
粧裕「ううん。私とやよいちゃんは元々学校の子達と遊んでたんだけど、東大で学祭があるってお兄ちゃんから聞いてたのを思い出して……それで折角だから皆で行ってみようってなったんだ」
月「じゃあ天海さんと……あと星井さんとは、偶然会ったのか?」
粧裕「うん。色々回ってるうちにアイドルのライブイベントがあるって知って、私とやよいちゃんはこれ観に行こうってなって。でも他の皆は別のイベント観たいって言うから、一旦別行動にして……」
月「粧裕は知ってたのか? この弥海砂ってアイドルのこと」
粧裕「ううん。知らなかったけど……アイドル好きとしてはチェックしとかなきゃって思って。それにやよいちゃんも、他のアイドルのライブを観る機会はあんまり無いから是非観たいって言って。で、私とやよいちゃんがこのステージに向かっている途中で、同じようにこのステージに向かっていた春香さんとミキミキ……美希さんとばったり会ったってわけ」
月「そうだったのか」
粧裕「私、まさかミキミキ……美希さんに会えるなんて思ってなかったから、すごく興奮しちゃって。それで色々話し込んでる間に、肝心のライブイベントの時間過ぎちゃってたの。だからさっき急いで来たんだ」
月「……そういえばお前、僕が家庭教師を始める前に天海さんとやよいちゃんと四人で会った時もすごく興奮してたな」
粧裕「うん。だって私、春香さんに会ったのはあの時が初めてだったんだもん」
海砂『なになに? もしかしてその子、あなたの妹さんなの?』ヒョコッ
月「……ええ、まあ」
海砂『へーっ。そうなんだ?可愛いね! 私、弥海砂。ミサミサって呼んでね』ニコッ
粧裕「は、はい。(か、カワイイ……)」
152:以下、
春香「あ、あの……ライトさん」コソッ
月「……春香ちゃん。それにしても驚いたよ。まさかこんな所で会うなんて」
春香「私の方も驚きました。まさかライトさんがこんな所でステージに立っているなんて」
月「はは……本当にね」
春香「ええと……ちなみに、怒ってます?」
月「? 怒る? なんで?」
春香「いや、その……私の都合で二週も家庭教師お休みにしてもらったのに、こんな所で遊んでて……」
月「ああ……でもそれはやむを得ないスケジュール変更だろ? そんなことで怒る理由は何も無いよ。それにアイドルであれ受験生であれ、息抜きの時間は必要だからね」
春香「……ライトさん。よかったぁ。私、てっきり怒られちゃうのかと……あっ。ところで……」
月「? 何?」
春香「その……そちらの方、なんですけど……」
(月の隣にいるLの方に目をやる春香)
月「! …………」
L「…………」
春香「……ライトさんの大学のお友達……ですか?」
月「ああ……えっと……」チラッ
L「……私は……」
清美『えー、なんだか非常に賑やかになって参りましたが、これから、今ステージに上がって頂いたこちらの皆さんと弥さんとで、いくつかのゲームをしてもらおうと思います』
春香「あっ」
L「…………」
清美『本当はもっと少ない人数で行う想定だったのですが……まあ、なんとかなるでしょう』
 アハハハハハ……
清美『では、改めて……といっても、半分くらいの方は既に説明不要かもしれませんが……まあ折角ですので、会場から参加して頂いた皆さんに、順次自己紹介をして頂こうと思います』
清美『それでは、こちらの方から順番にお願いします。はい、夜神くん』スッ
(マイクを月に渡す清美)
月「…………」
153:以下、
月『……東応大学一年、夜神月です。よろしくお願いします』
 パチパチパチパチ……
L『……竜崎ルエ。オンラインゲーム内で夜神くんと知り合ったネトゲ廃人の27歳無職童貞です』
 ドッ アハハハハハ……
月「…………」
粧裕「無職……何?」
やよい「さあ……?」
美希「…………」
美希(……変な人……)
春香「…………」
春香(……“りゅうざき るえ”……?)
春香(でも見えてる名前は“ L Lawliet”だから……“りゅうざき るえ”は偽名……ってことだよね?)
春香(それに、いかにもデタラメっぽいプロフィール……)
春香(まあこんな所で本名や素性を晒すのは抵抗あるって人も珍しくはないだろうけど……)
春香(…………)
春香「…………」
美希「春香」
春香「え?」
美希「次。春香の番なの」
L「…………」
(春香に向けてマイクを差し出しているL)
春香「あ、ああ……す、すみません」サッ
L「いえ」
春香『え、ええと……コホン』
春香『……765プロダクション所属アイドル・天海春香です! トップアイドル目指して頑張ってます! どうぞよろしくお願いします!』ペコリ
 ワァアアアア…… パチパチパチパチ……
美希『ミキだよ。よろしくね。……はい、やよい』スッ
海砂『美希ちゃんマイク回すの早っ!』
美希『だって今日はお仕事じゃないし……ミキはあくまで自然体でいくの。あふぅ』
海砂『でもなんか普段の美希ちゃんとあんまり変わらない気もするけど……』
美希『そう?』
 
 アハハハハ……
やよい『うっうー! 高槻やよいでーっす! 会場の皆さん、はいたーっち! いぇい!』
 ウォオオオオオオ!!!!
粧裕『ひっ。す、すごい歓声……え、えっと。夜神粧裕、です……。アイドルでもなんでもなくて、えっと、お兄ちゃ……じゃなくて、そっちにいる、夜神月の妹です……』
 アハハハハハ…… パチパチパチパチ……
清美『はい。皆様どうもありがとうございました。それでは早、最初のゲームですが――……』
154:以下、
【三十分後・東応大学キャンパス内/屋外ステージ上】
清美『――はい。ではこれにて、本日の弥海砂さんのライブイベントは全て終了となります。会場にお越し頂いた皆様、そして私達と一緒にこのステージを盛り上げて頂いた飛び入りの参加者の皆様、本当にありがとうございました』
 パチパチパチパチ……
海砂『皆ー! これからも弥海砂をよろしくねー! もしどこかで見かけたらミサミサって呼んでねー!』
 ワァアアアア…… 
海砂「……ふぅ。皆、今日は本当にありがとね! すごく楽しかったよ」
美希「あはっ。それならよかったの」
春香「いきなりステージに呼ばれた時はどうなることかと思ったけど……」
やよい「意外となんとかなりましたね! ね? 粧裕ちゃん」
粧裕「あ、あはは……まあ、私はもういいかな……」
やよい「あっ! 大変!」
粧裕「? どうしたの? やよいちゃん」
やよい「粧裕ちゃん、他の皆との待ち合わせの時間、もうとっくに過ぎちゃってる!」
粧裕「ぎゃっ! ホントだ! メールもすごく溜まってる」 
やよい「えっと、じゃあ私達、このへんで失礼しますね! 美希さん春香さん、また明日! ライト先生もまた次の授業、よろしくお願いします!」ペコリ
美希「うん。また明日なの。やよい」
春香「バイバイ、やよい」
粧裕「じゃあもう行くね。お兄ちゃん」
月「ああ。二人とも気を付けて」
(ステージを降り、駆け足で去って行くやよいと粧裕)
海砂「……さて、と」
清美「お疲れ様でした。弥さん。色々台本と変えてしまってごめんなさい」
海砂「ううん。こっちの方が盛り上がったし、すごく良かったと思う! まさか765プロの皆が飛び入り参加してくれるなんて夢にも思わなかったし」
清美「そう言ってもらえて良かったです」
海砂「これも全部、あなたの機転の利いた司会のおかげね。本当にありがとう!」
清美「いえいえ、そんな……恐縮です」
海砂「…………」
清美「…………」
海砂「…………」チラッ
海砂(それにしても、あの夜神月って人……やっぱりすごくカッコイイ……。なんとかしてお近付きになれないかな……)
清美「…………」チラッ
清美(夜神くん……前々から一度話してみたいとは思っていたけど、今回折角こうして接点ができたのだし、連絡先でも……)
月「?」
L「…………」
155:以下、
春香「じゃあ美希。私達も帰ろっか」
美希「ん。そーだね」
春香(……早く美希に話しておきたいこともあるしね)
美希(そういえばステージに上がる前に春香が言ってたこと、まだ聞いてないの。早く聞かないと……)
L「あの」
春香・美希「!」
海砂・清美「?」
L「……せっかく一つのステージで共演した仲ですし、もし良かったらこの後軽くお茶でもいかがですか? 皆さん」
月「! 竜崎」
海砂「えっ」
清美「! …………」
L「もちろん皆さんお忙しいでしょうし、無理にとは言いませんが……」
海砂「ミサは良いよ。皆のお陰ですごく良いイベントになったから、そのお礼も兼ねて」
清美「わ、私も……やぶさかではありませんが」
L「ありがとうございます。天海さんと星井さんはいかがですか?」
春香「……私は……」
美希「どうする? 春香」
春香「……大丈夫です。行きます」
美希「じゃあ、ミキも行くの」
L「ありがとうございます。月くんも大丈夫ですよね?」
月「……ああ」
L「では皆さん、そういうわけでよろしくお願いします」
【三十分後・東応大学近くの喫茶店】
月「…………」
L「…………」
海砂「…………」
清美「…………」
春香「…………」
美希「…………」
月(……竜崎……)
L(…………)
海砂(これは願っても無いチャンス……! なんとしてでも彼……夜神月くんとお近付きに……!)
清美(夜神くんとはいくつか同じ授業も取っているし、今ここでどうこうということも無いけれど……でも連絡先くらいなら……)
春香(……竜崎ルエ…… L Lawliet ……)
美希(お腹すいたの)
165:以下、
(歓談をしている月、L、海砂、清美、春香、美希)
月「へぇ。高田さんはアナウンサー志望なんだ」
清美「ええ。それで今回の弥さんのイベントでも、学祭の実行委員の方にお願いして司会をやらせてもらったの。早いうちに、マイクを持って人前で話すことに慣れておいた方が良いと思って」
海砂「そうだったんだ。じゃあマイクで喋ったのも今回のイベントが初めてだったの?」
清美「ええ。だから本当に緊張しました」
月「それにしては見事な司会ぶりだったね。いきなりステージに呼ばれたときは焦ったけど」
清美「あれは……ごめんなさい。有名人の夜神くんの姿が見えたものだから、つい」
春香「? ライトさんって大学内では有名人なんですか?」
清美「それはもう。入試を全科目満点で合格した首席入学者ですもの。今やうちの大学では知らない人の方が珍しいわ」
春香「全科目満点って……東大の入試で!? まあ全国模試一位って聞いてたからそこまで驚きはしないですけど……いややっぱり驚きますけど!」
月「流石に盛り過ぎだよ、高田さん……。それに高田さんだってミス東大の呼び声高い注目の新入生じゃないか」
清美「わ、私はミス○○だとかうわついた物は嫌いです」
海砂「そのネタもう二回目よ。清美ちゃん」
清美「ね、ネタとかじゃないですから! っていうか清美ちゃんって……」
海砂「だってその方が呼びやすいし。あ、ミサのこともミサって呼んでいーよ?」
清美「……では、これからは海砂さんとお呼びしますね」
海砂「うーん。まあいいけど、なんかカタいなー」
清美「だってあなたの方が年上ですし」
海砂「まあ、アナウンサー志望ならそれくらいの方がいいのかもね。なんかNHNとか似合いそう」
清美「そう言っていただけると嬉しいですね。私も第一志望はNHNなので」
海砂「へーっ。今の時点でもう第一志望の放送局まで決めてるんだ。流石東大生、意識高いわ」
清美「べ、別にそんな大層なことでは……。あ、そういえば」チラッ
月「?」
清美「……夜神くんは、将来はどうするつもりなの? やっぱり官僚志望? それとも法曹関係かしら?」
月「ああ、官僚は官僚だが、警察庁に入りたいと思っているよ」
海砂「へーっ。ライトくんは警察志望なんだ。でもなんで警察?」
月「父が現職の刑事なんです。幼い頃から刑事として働く父の背中を見て育ってきたので、その影響で」
海砂「あー、そういうことね。あ、ライトくんも私のことはミサって呼んでくれていいよ」
月「……では僕も、高田さんにならって海砂さんと」
海砂「むー、だからカタいってばー。まあ東大生らしいけど」
166:以下、
春香「でもすごいですね。アナウンサー志望に警察志望……お二人とも、私と一つしか違わないのに、ちゃんと将来の事を考えていて……」
月「何言ってるんだよ。春香ちゃんはもう既にプロのアイドルとして第一線で頑張ってるじゃないか」
春香「ライトさん」
月「それにアイドル活動だけじゃなく、ちゃんと学生の本分としての勉学にも勤しんでいる。これはなかなか出来ないことだと思うよ」
春香「そ、そう言われると照れちゃいますけど……でも、勉強の方は完全にライトさん頼りだし……」
海砂「? ライトさん頼りって? っていうか、二人は前からの知り合いなの? なんか話し方とかそんな感じするけど」
春香「あっ、そっか。まだ言ってませんでしたね。実は私、今年の4月からライトさんに家庭教師してもらってるんです。あとさっきまで一緒にステージにいた、やよいも」
海砂「えっ!」
清美「!」
L「……………」
美希「……………」
海砂「そうだったんだ。どうりで……」
春香「はい。実はそうだったんです。説明してなくてすみません」
清美「でも、なんでまた夜神くんに? お二人は、もっと前からのお知り合いだったということですか?」
春香「あ、そうじゃなくて……。実は、やよいと、これまたさっきまでステージにいた、ライトさんの妹の粧裕ちゃんが同じ中学の友達同士だったんです。で、私はやよいから、学校の友達ですごく頭の良いお兄さんがいる子がいるって聞いていて……」
海砂「あー。だからさっき全国模試一位とか言ってたんだ」
春香「はい」
清美「では、今日あなた達があのイベントの場で出会ったのは偶然だったんですか?」
春香「そうですね。実は先週から、私の都合で家庭教師をお休みにしてもらっていて……ライトさんとも連絡を取っていなかったので」
月「ああ。だから今日、春香ちゃんに会って本当に驚いたよ」
春香「私もです。まさかライトさんがステージに立っているだなんて思いもしませんでした」
月「はは。それは僕自身も思いもしなかったけどね」
清美「……その節は本当にごめんなさい」
月「あっ。ごめん高田さん。そういう意味じゃなくて……」
海砂「でもホント、こんな偶然ってあるもんなんだね。ミサも、美希ちゃんに『765プロの友達を誘って来て』とは言ったけど、特に誰を、とかは指定しなかったのに」
美希「……うん。ミキ的にはたまたま春香を誘っただけだったんだけど、まさかこんなことになるなんて思わなかったの」
167:以下、
春香「でも今にして思えば、誘ってくれた美希には感謝だよ」
美希「春香」
春香「だってそのおかげで……こうやって海砂さんや高田さんとお話ができて、仲良くなることができたんだし」
海砂「えへへ。そう言ってもらえると嬉しいな。ミサも、春香ちゃんと話せて……ううん、友達になれてよかった!」
春香「海砂さん」
清美「私も同じ気持ちです。将来アナウンサーとして働くことを望んでいる私にとって、既にプロとして芸能界で働かれている天海さんや星井さんとお話できたことは大変貴重な経験となりました」
春香「高田さん。ありがとうございます。そう言って頂けると光栄です」
美希「うんうん。ミキも友達が増えて嬉しいの」
海砂「ちょっとー清美ちゃん。私はー?」
清美「まあ一応、海砂さんも」
海砂「一応て!」
美希「あはっ。海砂ちゃんのツッコミ面白いの」
月「…………」
L「…………」
春香「あっ。ご、ごめんなさい。なんか私達ばっかで盛り上がっちゃってて……」
月「え、ああ……いいんだよ、春香ちゃん。気にしないで」
L「…………」
海砂「そういえば……あなた。竜崎さんだっけ?」
L「! ……はい」
海砂「元はといえば、あなたが『お茶でもいかがですか』ってミサ達を誘ったのに……いざお店に入ったらちっとも喋らないのね」
L「…………」
海砂「ステージの時は結構饒舌だった気もするけど……もしかして、実は内気なタイプだったりするの? なんか座り方も妙に独特だし」
L「…………」
168:以下、
月「あ、ああ……多分彼は緊張しているんですよ」
海砂「? 緊張?」
L「…………」
月「ええ。無理も無いでしょう? 現役のアイドル三人に、ミス東大候補の女子大生……こんな華やかなメンバーに囲まれて、緊張しない方がおかしいですから」
清美「や、夜神くん。だから私はミス○○だとか――……」
L「……はい。そうです」
一同「!」
L「私は今、非常に緊張しています。なぜなら――……」
一同「…………?」
L「――自分がずっとファンだったアイドルが、今目の前にいるのですから」
月「!」
海砂・清美・春香・美希「!?」
月「…………」
月(竜崎……ずっと黙っているから何か考えているんだろうとは思っていたが……これは……)
海砂「ずっとファンだったアイドル? 誰なの? それ……」
L「…………」ジッ
(無言のまま、春香の顔を見つめるL)
春香「え?」
L「―――あなたです。天海春香さん」
春香「……え?」
L「私は……ずっと前からあなたの……アイドル・天海春香の大ファンです」
春香「!」
月「! …………」
169:以下、
月「…………」
月(やはりそうきたか……)
月(昨年の765プロのファーストライブの日に天海春香のファンだった男が心臓麻痺で死んだ件、そして黒井氏に対する『“L”の顔写真だけでも入手してほしい』という脅迫の内容から……天海春香は、『顔を見ただけで人を殺せる能力』を持つキラである可能性が高い)
月(その天海春香に竜崎が顔を見られてしまったことで、どう対策すべきかとずっと考えていたが……)
月(竜崎の考えもおそらく……いやほぼ間違い無く、僕と同じだ)
月(天海春香は、偏執的と言ってもいいほどに、765プロに対して強い愛着を持っている。そしてそれは演技でも何でもない……それこそがたった一つの彼女の行動原理であり、嘘偽りの無い本心)
月(そうであるからこそ、彼女は765プロの利害に直結する形でキラの殺しの能力を行使し、また黒井氏を脅迫している……)
月(そんな彼女に対し、竜崎が“L”であることを悟られず、それどころか、キラを追っているということさえ気付かれないようにするための唯一にして最大の防御策……)
月(それは――……天海春香の持っているであろう『アイドルとしての良心』に訴えかけること)
月(『アイドルとしての良心』……それが何であるかはいうまでもない。アイドルとして、ファンの存在を何よりも尊重し、ファンの為にただひたすら尽くすという献身の心だ)
月(天海春香がキラであり、その能力を行使して何人もの人を殺めてきたとしても、その一点だけは彼女の中で唯一折れ曲がることのない絶対の信念、正義)
月(そうでなければ、彼女が今キラとしてここまでリスクの高い行動を取り続けている理由が無い)
月(だからこそ、そこを攻めれば……こちらに対する害意を最大限に取り除くことができるうえに、逆に相手の懐に一気に飛び込むことのできる可能性すら生じる。まさに一石二鳥の策)
月(しかし逆に、少しでもボロを出せば、嘘を見抜かれれば……即座に殺されてしまう危険が生じる諸刃の剣でもある)
月(ここが正念場だな……。竜崎にとってはもちろん、僕にとっても)
月(竜崎の嘘がばれれば、その友人として接点がある僕も当然疑われることになるだろう)
月(もちろん、竜崎の嘘がばれても彼が“L”であると看破されるわけではない……竜崎は捜査本部以外ではどこにも“L”として自分の顔は晒していないのだから当然だ)
月(だがそれでも、つく必要のない嘘をついていたと分かれば確実に怪しまれる。そして天海春香は765プロに害をなす者、あるいはなそうとしている者は容赦無く殺している……それがたとえ犯罪者でなくとも)
月(つまりそれは、僕や竜崎が765プロに害をなす者、あるいはなそうとしている者と見做されれば即座に殺される可能性があるということ)
月(加えて、現職の警察官である僕の父は『“L”の情報を持っている可能性がある者』と思われていてもおかしくはない。だとすれば、その息子で警察志望である僕も、父からその情報を得ていると推測される可能性は十分にある)
月(“L”の情報を持っている可能性がある僕と、その友人と名乗り素性を偽っていた謎の男・竜崎……もしここまで条件が揃ってしまった時、天海春香がどのような行動に出るか……)
月(まず考えられるのは、今も黒井氏に対してしているように、“L”の情報を明かすようにキラとして僕達二人を脅す……そしてその情報が得られなければ当然に、また得られたとしても用済みとなればやはり殺す……といったところか)
月(現状、黒井氏はまだ殺されてはいないようだが……だからといって、僕達も同様に殺されないなどという保証はどこにも無い。むしろ、これくらいの最悪のケースは当然想定しておかなければならないだろう)
月(またもう一人のキラ……星井美希も、自分の事務所の前任のプロデューサーとクラスメイトの男子……いずれも犯罪者でない者を二人も殺している)
月(星井美希は天海春香ほど765プロそのものには固執していないと考えられるが……それでもどんな行動に出るかは読めない)
月(いや、そもそも現時点ではこの二人は連携してキラとしての活動を行っている可能性が高い……だとすれば、二人の行動を切り分けて予測することにあまり実益は無い)
月(もはや、この二人のいずれかに少しでも怪しまれたら僕も竜崎も殺される……そこまで考えて動かなければ駄目だ)
月(そのためにも、竜崎……)
月(今からお前がするであろう、この二人に対する最初の説明が全ての鍵を握る)
月(打ち合わせなどはしていないが、これからお前が言うであろうこと、また彼女らに思わせようとしているであろうことは大体予測がつく)
月(あとは竜崎を信じ、この二人に怪しまれないよう、極力自然な演技をすること……)
月(大丈夫だ……僕ならできる。いや、やってやる!)
月「…………」
171:以下、
春香「え、えっと……」
L「天海さん」
春香「は、はい」
L「あなたがいなければ、きっと今頃私は、この世界に生きてはいなかったでしょう。そういう意味で、あなたは私に生きる喜びを教えてくれた、この世で最も尊ぶべき存在……」
春香「え? そ、それってどういう……」
L「……少し長い話になりますが、いいですか?」
春香「は、はい」
L「……他の皆さんもよろしいでしょうか?」
(無言で頷く月、海砂、清美、美希)
L「ありがとうございます。では……」
L「……私は、幼い頃に両親と死別しました。交通事故です。以来私は、ずっと祖父の下で育てられてきました」
海砂「! …………」
L「ただ、見ての通り、私は決して印象の良い見た目の人間ではありません。目はぎょろっとしていますし隈も深い……はっきりいって『キモイ』と揶揄されるタイプの外見の人間です」
春香「そ、そんなことは……」
L「いえ。いいんです。客観的な事実ですから」
春香「…………」
L「それゆえ、私は幼少期からずっといじめに遭ってきました。幼稚園でも小学校でも……常に『キモイ』『死ね』『ゴミクズ』などと罵られ続けていました。また殴られたり蹴られたり、持ち物を壊されたり隠されたりといったこともしょっちゅうでした。小学校の六年間で上履きを便器の中に放り込まれた回数は優に100を超えるでしょう」
美希「! …………」
L「それでも小学校まではなんとか耐えていましたが……中学に上がるともう無理でした。言葉の暴力も身体への暴力も益々エスカレートしていき……はっきりいって殺されかけたことすら何度もありました」
海砂「ひどい……」
美希「…………」
L「やがて心身ともに限界を感じた私は、中学二年の途中くらいから学校に行かなくなり……自分の部屋に閉じこもるようになったのです。ただ幸いにも、祖父は私にはとても優しかったので、学校に行かなくなった私を咎めたりはしませんでした」
L「祖父は私の唯一の理解者だったのです」
L「しかし私が中学を卒業するくらいの年齢になったとき、祖父が急死しました。祖父は元々持病もあり身体は決して良くなかったのですが……それはあまりに突然の別れでした」
L「私は絶望しました。私の唯一の理解者であった祖父の死は、私がこの世界で誰ともつながらなくなったということと同義だったのです」
海砂「…………」
L「ただ不幸中の幸いといいますか……祖父は、自分がいつ死んでもおかしくないと分かっていたのでしょう。私が一人になっても困らないよう、多額の預金を遺してくれていました」
L「そのおかげで、私は生活に困ることはなかったのですが……朝起きてから夜寝るまでずっと家の中に引きこもり、誰とも一言も会話をしない日々……。祖父の死後、当然の事ながら、元々低かった私の会話能力、コミュニケーション能力は一層低下していきました」
L「また家に居る間はずっと自分の椅子の上で体育座りをしていたため、それ以外の座り方だと情緒に不安をきたすようにもなってしまいました。だから今もその座り方をしているという次第です」
清美「…………。(それでこんな奇妙な座り方をしていたのね……)」
378:以下、
L「それでも、全く外に出ないというわけにはいきません。人間である以上、生活必需品を購入するための外出は避けられないからです。しかし、祖父が死んでから一週間ほどが経ったある日……いざ外に出ようと思い、家のドアを開けようとすると……身体が、全く動かなくなったんです」
L「思えば、学校に通うのをやめてから、私は一歩も家から外に出ていませんでした。必要な買い物は全て祖父がしてくれていたからです」
L「そのため、いつの間にか私は、一人では外に出ることのできない身体になってしまっていたのです。また外に出たとき、かつて私をいじめていた者達がいたら……そんなことまで脳裏をよぎり、尚の事、動こうにも動けなくなってしまったんです」
美希「…………」
L「しかしそのとき、私はふと、祖父の遺品を整理していた時に、昔縁日で祖父に買ってもらったとある物を見つけたことを思い出しました」
清美「? とある物?」
L「はい。それが……これです」スッ
(ひょっとこのような面を皆に示すL)
海砂「! それって……」
春香「?」
美希「ひょっとこの……お面?」
L「ああ……天海さんと星井さんは知らなかったですね。私は今日、途中までこの面を着けていたんです」
春香「えっ」
美希「そうだったの?」
L「はい。……学祭のステージに上がった直後に、弥さんによって外されてしまいましたが」
海砂「う」
月「…………」
清美「そのお面が……昔、おじいさまから買ってもらった物……ということですか?」
L「はい。おぼろげな記憶ですが……まだ小さかった私は、縁日の出店で見かけたこの面を何故だか無性に気に入り、祖父にねだって買ってもらいました」
L「今思えば、何故こんな物を……とも思いますが、とにかく私は、祖父から買ってもらったこの面をしばらく大切にしていました」
L「しかし、子どもというものは得てして飽きっぽいもの……いつの間にか私はこの面の存在を忘れ、その後ずっと思い出すことも無く、日々を過ごしていました」
L「そんな中、祖父が死に……その遺品の中からこれを見つけたんです。幼い私がとっくに飽きて見向きもしなくなった物でも、祖父はちゃんと大事に取っておいてくれていたんですね」
L「私は昔から感情の起伏が乏しく、自分の欲しい物を口に出すこともほとんど無かった……。おそらく、祖父に何かをねだって買ってもらったのもこの面くらいだったと思います」
L「だからきっと、祖父も嬉しかったんでしょうね。私からこの面を買ってほしいとねだられたことが……。そんな想いがあったからこそ、祖父はずっとこの面を取っておいてくれたのだと思います」
L「恥ずかしい話、私は祖父が死んで初めてその想いに気付きました。そしてそのとき、ふと思ったんです。『この面を着ければ、また祖父が自分を守ってくれるのではないか』と……」
L「そうして私は、祖父に買ってもらったこの面を着けて外出することにしたのです」
海砂「そうだったんだ……」
176:以下、
清美「じゃあ……今日のステージ上で、私が面を着けている理由を尋ねたとき、『魔除け』と答えていらしたのは……」
L「はい。祖父が私を守ってくれている……そんな想いからの回答です」
清美「そうだったんですね……」
L「はい。そして結果的に、面を着けることで私はなんとか外出することはできるようになりました。もっとも、それはそれで、道行く人から奇異の視線を向けられはしましたが……しかしそれでも、素顔を晒して歩くことを考えれば、私の精神状態は遥かに安定していました」
月「…………」
L「しかし外出はできるようになっても、私の中の根本的な問題が解決したわけではありませんでした。他人と一切接すること無く、ただずっと一人で家に引きこもるだけの日々……祖父の遺した財産を食いつぶすだけの無意味な人生」
L「私は何のために生きているのか? 何のために生まれてきたのか? そんなことを考え続けたまま、気が付けば十年以上の歳月が流れていました」
L「そんなある日、私はふと『もう死のう』と思い立ちました」
春香「! …………」
L「もうこれ以上生きていても、自分の人生には何の変化も無いし楽しみも無い。生きる意味も喜びも見い出せない。そう悟った時、『こんな無意味な現世には早く別れを告げて、祖父の待つあの世へ行こう』……自然とそう思ったのです」
清美「…………」
L「その頃の私は、朝起きて無感動に食事をし、暇潰しでオンラインゲームをプレイし、眠くなったらそのまま寝る……ただそれだけの日々を繰り返していました」
L「誰が見たって、とても有益とは思えない人生。そのことは誰よりも私自身が一番よく分かっていました」
月「…………」
L「そしてその日……今からちょうど一年前くらいのある日です。私は『もう死のう』と思い、自分の死に方を考えながら、いつものように面を着けて街に出ました」
L「私の中でもう死ぬこと自体は決まっていて、後はどう死ぬかを決めるだけ……飛び降り、首吊り、電車への飛び込み……様々な方法を考えました」
海砂「…………」
L「そんな時でした。まあ一番簡単な飛び降りにでもするか……そう思った時、私はあなたに出会ったんです。……天海春香さん」
春香「……え?」
177:以下、
L「……商店街のCDショップの前で、事務員らしき女性と、手売りでCD『太陽のジェラシー』の路上販売をしていたあなたに」
春香「! ……それって……」
美希「小鳥が律子の代わりにヘルプで入った時? 確か何回かあったよね。そういうの」
春香「うん……まだ私がデビューして間もない頃……本当に駆け出しの時……」
L「はい。後から調べて分かりましたが、その頃の天海さんはデビューしてからまだ数ヶ月しか経っていない新人アイドル……文字通りの駆け出しアイドルそのものでした」
L「しかし……私はその時、電撃にも似た衝撃を感じたのです」
春香「えっ?」
L「天海さんの弾けるような笑顔、『天海春香をよろしくお願いします』という元気に満ち溢れた張りのある声……その全てが私の世界の光となりました」
春香「! …………」
L「私はつい数秒前まで自分が死に方を考えていたことも忘れ、ただじっと天海さんを見ていたんです」
春香「そうだったんですか……全然気付かなかったです」
L「無理もありません。天海さんは本当に一生懸命CDを販売されていましたし、私も少し離れた物陰から見ていたに過ぎませんので」
L「とにかく、私は天海さんに見蕩れていました。こんなに魅力的な人がこの世にいたなんて俄かには信じられなかった」
春香「…………」
L「そして出来ることなら、私はその場でCDを買いたかった。天海さんの前に立って、直接面と向かって『頑張って下さい』と言いたかったんです」
L「でも……そのときの私にはそれができなかった。そもそもこんな面を着けたままでは天海さんも警戒するでしょうし、かといって面を外す勇気も無かったからです」
L「またもし天海さんに自分の素顔を晒して『キモイ』とでも言われたら……いや言われなくとも、そう思われたらと思うと……どうしても行動には移せなかったんです」
春香「……そんな……」
L「そうして私は、結局天海さんのCDを買うことも面を外すこともできず……そのままその場を立ち去りました」
180:以下、
L「しかしその時から、私の頭から天海さんの姿が離れることはありませんでした。その日、天海さんと出会った後、ほとんど無意識のうちに帰宅していた私は、自分が死のうとしていたことなど完全に忘れていました」
L「そしてそのことを思い出したのは、それから何週間も経ってからのことです。その時には、もう私の中で『死にたい』などという気持ちは完全に消え去っていました」
春香「! …………」
L「ですので……少し大げさな言い方になりますが、あなたは私にとって命の恩人……今日もこうして私が生きていられるのは、あなたのおかげなんです。天海さん」
春香「そ、そんな……」
L「急にこんな話をされても困惑されると思います。当然の事です。しかしあの日、あなたに出会わなければ私は確実に死んでいた……それは紛れもない事実なんです」
春香「…………」
L「話は戻りますが……天海さんの姿を見かけた日の翌日、私は再度、天海さんが路上販売をしていたCDショップを訪れ、念願の『太陽のジェラシー』を購入しました」
L「そして家に帰り、早その歌声に身を委ね……私はまたも激しい衝撃を感じました」
L「天海さんの透き通るような歌声……それを聴いているだけで、私はあたかも、自分が本当に夏の白浜に立っているかのような錯覚に陥りました。音楽でここまで心を、いや魂を揺さぶられたのは生まれて初めての事でした」
春香「! …………」
L「そこから私は、のめり込むように天海さんのファンになりました。グッズもCDも、天海さんのものは全て買いました」
L「しかし毎日、天海さんの歌声を聴き、写真や映像を観ているうち……またもう一度、本物の天海さんの姿を見たい、との想いが湧きあがってきました」
L「ですが、私がそう思うようになった頃には、天海さんは既に人気アイドルとなっていました。昨年の夏……ちょうど765プロのファーストライブが終わった頃です」
春香「…………」
L「もうこの頃の天海さんは、地元の商店街でのイベントなどは行っていませんでしたので……生の天海さんの姿を見るには、ライブに足を運ぶくらいしかありませんでした」
L「もちろんライブにも興味はありました。生の天海さんの姿を見ながら、生の天海さんの歌声を聴く……それはまさに至高のひと時と言えるでしょう」
L「ですが、やはり私にはその勇気が無かった。引きこもりの自分があんなに多くの人が集まるところに行くということがまず想像できなかったですし、また仮に行けたとしても、面を着けたままライブに参加していいのかどうかも分からなかったからです」
L「しかしそれでも私は、CDで天海さんの歌声を聴き、ライブのBDや写真集で天海さんの姿を見ているだけで十分幸せでした」
春香「…………」
L「そんな日々の中……私は暇潰しにプレイしていたオンラインゲーム内で、とある人と出会いました」
181:以下、
清美「……とある人、って……」
L「はい。今日のステージでの自己紹介でも言いましたが……月くんです」
月「! …………」
L「私は元々、暇潰しにプレイしていただけだったので、碌にシナリオも進めず、ただフィールドをぶらぶらと歩いていただけだったんですが……」
海砂「あれ? でもあなた確か……その自己紹介の時、自分の事ネトゲ廃人って言ってなかった?」
L「あれは嘘です。流石にあんな公衆の面前で『四六時中天海春香さんの事ばかり考えている者です』と正直に言うわけにはいかなかったので」
海砂「な、なるほど……」
春香「…………」
L「ともあれ、そんな私が奇異に映ったのか、あるいは自分と同じような雰囲気を感じ取ったのか……ゲーム内のチャット機能を使って、月くんが私に話し掛けてきました」
L「これまで、ゲーム内でも私に話し掛けてくる人など一人もいなかったので、最初は私も警戒していたのですが……月くんとチャットで会話をするうち、彼には何の悪意も害意も無いということはすぐに分かりました」
L「そして話を聞けば、月くんも受験勉強の合間に暇潰しでログインしている程度だったらしく……自分と同じように、ほぼ初期状態の装備のままフィールドをウロウロしている私を見て、なんとなく親近感を覚えて話し掛けてみたそうです。……そうでしたよね? 月くん」
月「……ああ。そうだったな。懐かしいな」
L「そうしてお互いの事を色々と話すうちに……私は今まさに自分が夢中になっているアイドル……天海春香さんの事を月くんに話しました」
春香「!」
L「さっきも言いましたが、当時の天海さんはかなり売れ始めていたアイドルでしたので、当時高校生だった月くんなら名前くらいは聞いたことがあるかもしれない……そう思って話してみたのですが……驚きました」
L「月くんは天海さんを知っているどころか、彼女と同じ事務所のアイドル……高槻やよいさんが、自分の妹の粧裕さんと同じクラスで友達だというのです」
春香「! …………」
L「そして月くんは、私が天海さんのファンだということを知ると、高槻さん経由で会わせてもらえないか、粧裕さんに頼んでみようかと言ってくれたのです」
L「私の心は激しく揺れました。何といっても天海さんは、私がもう一度会いたいとずっと切望していたアイドル。その夢が今叶うのかもしれない、と思うと……」
春香「…………」
L「……しかし結局、やはり私には勇気が無く……お断りしました。いくらなんでも面を着けたまま会うのは失礼だと思いましたし、かといって面を外して会う勇気もまだ持てなかったからです」
183:以下、
L「しかし折角の申し出に気の無い返事をしたにもかかわらず、月くんは変わらず私と会話を続けてくれ……」
L「私が『もう十年以上も人とまともに話していない』『面を着けないと外出ができない』ということを正直に打ち明けるや、月くんは『なら一度僕と会おう』と言ってくれたのです」
L「『このままずっと今の生活を続けていては、いつか精神に異常をきたすかもしれない。少しずつでも克服していった方が良い』……と」
L「自分も受験勉強で大変なはずなのに、こんな申し出をしてくれるなんて……と、私は感動にむせび泣きました」
L「そして私は思いました。ここまで言ってくれている月くんの厚意を無駄にはできない、と。そして月くんが『面を着けたままでも良い』『口頭での会話が難しければその場でメールで話してもいい』とまで言ってくれたので……私は意を決して月くんに会うことにしました」
L「これが昨年の秋頃の話です」
月「…………」
L「そのすぐ後に、私は事前に言っていたとおり、面を着けて月くんと会いましたが……驚くほど自然に、自分の口で会話をすることができました。もちろん、十年以上もまともに人と会話をしていなかったので、最初は今のようには話せず、相当ぎこちなかったのですが……」
L「それでも、出会って一時間も経つ頃には、私は大分自然体で会話をすることができるようになっており……私は『彼なら自分を拒絶することは無い』と確信し、月くんの前で面を取りました」
L「案の定、月くんは私の素顔を見ても顔色一つ変えることなく、それどころかむしろ、それまでより好意的にさえ接してくれました」
L「以来、私と月くんはしばしば会う仲となり……私も月くんの前では面を外して会話をするのが普通になりました。もちろんそのときは、通行人など、月くん以外の人からも素顔を見られる形にはなるのですが……不思議なことにほとんど気にはなりませんでした」
L「おそらくこれは、月くんという、自分の存在の全てを認め、受け容れてくれる人が傍にいたからだと思います」
月「…………」
L「ただそうは言っても、人が多い状況……たとえば今日の学祭の場などでは、やはり面を着けていないと不安な気持ちに襲われるんです」
L「だから今日も、最初は面を着けた状態で学祭に来ていたんです」
海砂「そうだったんだ……ごめんね。そうとは知らず、私……」
L「いえ。気にしないで下さい。結果的に、そのおかげで私はこうして天海さんとも面を着けずに話ができるようになったのですから」
春香「…………」
184:以下、
L「こうして月くんと会い、話をするようになったことで、私は他人との会話にも慣れ、今ではある程度普通の会話ができるようになりました。ただ、まだ内面の感情を表情に表すのは苦手ではありますが……」
月「…………」
L「そんな中、今年の1月頃……月くんから、天海さんの家庭教師をしてくれないかと妹さん経由で頼まれ、そして引き受けたという話を聞きました」
春香「!」
L「この話を聞いた私は、率直に『羨ましい』と思いました……が、しかしそれよりも、月くんを介して、間接的に自分が天海さんとつながれたような気がして嬉しかったんです」
春香「…………」
L「また月くんは気を利かせて、『これで自分は天海さんと直接の知り合いになるだろうから、会える勇気が出たらいつでも声を掛けてくれ』とも言ってくれました。私は本当に嬉しかったです。もちろんまだ天海さんに会う勇気は持てませんでしたが……いつか私が、面を外して天海さんとも堂々と会えるような心境になった時には、改めて月くんに頼んでみよう……そう思いました」
月「…………」
L「そして、今から一週間ほど前……月くんは、自分の大学の学祭でアイドルのライブイベントがあるから一緒に行かないか、と私を誘ってくれました。ここでライブというものに慣れれば、いつかは765プロのライブにも行けるようになるかもしれないから、と……」
L「私もまた、どこかで今の自分を変えなければならないとはずっと思っていましたので、意を決してこれに行ってみることにしました。そして今日、実際に学祭のライブイベントに行き……まだ人が多い中で素顔を晒す勇気は無かったので、面を着けてはいたものの……月くんがずっと一緒に居てくれたため、私の精神状態は非常に安定していました」
L「そんな中……成り行きで、私は月くんと共にイベントのステージに上がるよう、司会を務めていた高田さんから呼び掛けられました」
清美「! …………」
 
L「大変驚きましたが、面も着けているし、また月くんも一緒なので大丈夫だろうと思い、私は承諾しました」
L「すると……ステージに上がった直後、私は弥さんによっていきなり面を外されました」
海砂「う」
L「私は予想もしていなかった事態に頭の中が真っ白になりかけましたが……直後、面を取られたことなど一瞬で頭の中から消え去るような出来事が起こりました」
L「天海さんが……夢にまで見た、あの天海春香さんが私の眼前に現れたのです」
春香「! …………」
L「その瞬間、私の脳裏には……一年前、CDを手売りしていた時の天海さんの姿が思い起こされ……その時の天海さんの姿と今の天海さんの姿とがぴったりと重なり合いました」
L「ただしばらくの間は、私は放心のあまり、茫然とその場に立ち尽くすことしかできませんでしたが……」
L「しかしその後、ようやく現状を認識した私は、今私がすべきこと、取るべき行動を考え……今ここで勇気を出さなかったら、自分は一生天海さんと話すことなどできないだろう。またこれまでの自分を変えることもできないだろう……そう考え、高田さんからマイクをお借りし、天海さんを含めた四名の方をステージに呼んだのです」
清美「そうだったんですか……」
L「はい。そしてその後のゲームも、天海さんがすぐ近くにいると思うと緊張で死にそうになりましたがなんとかやり終え……イベント終了後、このまま天海さんとお別れしたくないという想いから、皆さんをお茶にお誘いしたという次第です」
185:以下、
春香「…………」
美希「…………」
清美「…………」
海砂「…………」
月「…………」
L「…………」
海砂「……いいなあ。春香ちゃんは」
春香「えっ?」
海砂「だってさ、ここまでファンの人に想ってもらえるなんて……アイドル冥利に尽きるってもんじゃん。ミサもこれくらい、ファンの人から熱烈に想ってもらえるようになりたいよ」
春香「あ、ああ……そ、そうですね……」
美希「心配しなくても、海砂ちゃんならすぐにそうなれるって思うな」
海砂「うーん、ハリウッドデビューまで決まってるスーパーアイドルの美希ちゃんに言われてもイマイチ説得力無いなあ……」
美希「あはっ」
L「……天海さん」
春香「えっ。あっ、はい」
L「すみません。一方的に思いの丈をぶちまけてしまって……やはり気持ち悪かったですよね……」
春香「い、いえ! そんなことは全くありません! な、なんていうか、その、すごく驚いてしまって……」
L「? そうなんですか?」
春香「は、はい。まさか竜崎……さんが、そこまで私の事を想ってくれているファンの方だったなんて思わなくて……あとライトさんからも、特にそういう方がお友達にいるって話も聞いたことがなかったですし……」
月「……ああ。さっき竜崎自身も言っていたが、実際に会う勇気はまだ持てていないと聞いていたからね。竜崎がその勇気を持てるようになる時までは、春香ちゃんにも彼の存在は伝えるべきではないと思っていたんだ」
春香「……そうだったんですね」
月「ああ」
L「月くん。お気遣い頂きありがとうございます」
月「構わないよ。竜崎」
春香「……えっと、竜崎……さん」
L「はい」
春香「私の事をすごく想っていて下さったこと……本当に嬉しく思います。私がデビューして間も無い頃から、ずっと応援して下さっていたあなたのためにも……私、これからも精一杯、トップアイドル目指して頑張ります!」
L「……天海さん。そう言って頂けると、私も今日まで生きていて良かったと心から思えます。あの日自ら命を絶たなくて、本当に良かったと……」
春香「竜崎さん」
L「あなたに出会えて、私は自殺をせずに済んだ……それどころか、今もあなたを応援することで、私は日々の生きがいを感じることができている。……天海さん。さっきも言いましたが……比喩でも何でもなく、私にとってあなたは命の恩人です」
春香「そ、そんな……私、そこまで大したこと……」
L「いえ。これが私の嘘偽りの無い本心です」
春香「…………」
L「あと、せっかくこうしてお会いできたことでもありますので……もしよかったら、今後は『春香さん』と下の名前で呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか」
春香「……ええ、それはもちろん。あ、じゃあ私も『ルエさん』と下の名前でお呼びした方が?」
L「あ、いえ……私は『竜崎』の方が慣れていますので、すみませんがこちらでお願いします」
春香「分かりました。では竜崎さん、で」
L「はい。改めてよろしくお願いします。春香さん」
189:以下、
海砂「ところで……竜崎さんの下の名前、“ルエ”って随分変わった名前だね」
L「はい。といっても、これは本名ではありません。オンラインゲームで使っていたアカウント名です」
春香「!」
海砂「えっ。そうなんだ。じゃあ本名は何て言うの?」
L「本名は……すみません。本名で呼ばれると、学校でいじめられていた頃の事を思い出してしまうので……」
春香「! …………」
海砂「あっ。そ、そうなんだ……ごめんなさい」
L「いえ。そういう理由で、月くんにも私の本名は教えていません」
月「! …………」
春香「そうなんですか? ライトさん」
月「……ああ。元々ゲーム内で会った時から『竜崎』と呼んでいたから、その方が違和感無く呼べるしね。それに本名が何であれ、竜崎は竜崎だ。僕はそれでいいと考える」
春香「…………」
美希「まあアイドルでも芸名使ってる子は結構いるしね。ミキ達は本名そのままだけど」
清美「そうなんですね。いわゆるタレントとか芸人の方はともかく、アイドルの方は皆本名だと思っていました」
美希「ほら、本名だとファンの人が通ってた学校の名簿を調べたりして、家に来ちゃったりすることもあるから」
清美「ああ、なるほど」
春香「…………」
春香(竜崎“ルエ”……“エル”……“L”……)
春香(そして彼の本名は“L Lawliet”……)
春香(また彼はライトさんと友達関係にあり……そのライトさんのお父さん……夜神総一郎は、Lと共にキラ事件の捜査をしている刑事……)
春香(これらが全て偶然とは……)
春香(いや、でも……もし彼……竜崎さんがLなら……美希をキラではないかと疑い、その部屋に64個ものカメラと盗聴器までをも仕掛けた人物ということになるけど……)
春香(そんなLが、キラとしてそこまでの疑いを掛けていた……いや、今も掛けている可能性が十分にある美希の前で……“ルエ”なんてあからさまに怪しい偽名を使うだろうか?)
春香(それに、そもそも本名の一部が“L”なんだから、それをもじったアカウント名をゲーム内で使っていても別に不自然ではないし……)
春香(また名前が“L”というだけなら他にいくらでも……たとえばLの身代わりとしてTV出演させられていたリンド・L・テイラー……彼の本名は、死神の目で確認したけど同じ名前だった。そういう意味では、彼も“L”だったといえるわけだし……)
春香(だとすると、とてもこの人がLとは……)
春香(それにいくらLでも、美希ならともかく、キラとしてそこまで疑っていないはずの私の情報をあそこまで正確に把握しているとはとても思えない)
春香(そう考えると、やはりこの人の話は本当で、この人は純粋な私のファン……そうみる方が自然……)
春香(それに、この人がした話……どこかで聞いたことがあるような……)
春香(まだ私がデビューして間も無い頃から、ずっと私の事を想ってくれていたファン……それもただ一方的に見守るだけで、自分の存在は私に気付かれなくてもいいと……)
春香(! そうか……この人……)
春香(……ジェラスに……似てるんだ)
春香(私に対する想い、ファンとしての姿勢、考え方、その全てが……ジェラスにそっくりなんだ)
春香(もちろん私は、レムからジェラスの話を聞いただけで、本物のジェラスとは会ったことも見たことも無いけど……)
春香(ジェラスは結局、私の前に姿を現すことはなく、私の命を助け……私の寿命を延ばして死んでしまった)
春香(そしてこの人……竜崎さんは、自殺を考えていたときに、私と出会ったから死なずに済んだと言っている)
春香(この話が本当なら……驕った考えかもしれないけど、ジェラスが私の命を救ってくれたように、私もこの人の命を救ったといえるのかもしれない)
春香(そして……神様が、結局ジェラスとは出会うことのできなかった私のために、気を利かせて……私とこの竜崎さんを出会わせてくれたのかもしれない)
春香(なんて、ちょっと都合良く考え過ぎかもしれないけど……)
192:以下、
春香「…………」
美希「…………」
清美「…………」
海砂「…………」
月「…………」
春香(うん。今は信じてみよう。竜崎さんのこと)
春香(確かに、本名の件は少し気になるけど……でも、ファンを信じないアイドルなんてアイドルじゃないもんね)
春香(それに……こんな風にファンの人と面と向かって話をしたのって、すごく久しぶりのような気がする)
春香(それこそ、CDを小鳥さんや律子さんと一緒に手売りしていた頃は、一人一人のファンの人とももっと向き合っていたけど……)
春香(昨年のファーストライブの後くらいから、お仕事の数が一気に増えて……特に最近では、『春の嵐』の成功に始まり、アイドルアワードの受賞、アリーナライブのリーダーに選ばれたりと……色々な事が立て続けに起こり過ぎて、正直、そのへんの意識が少し疎かになっていたかもしれない)
春香(アイドルは、ファンあってこそのアイドルなのに……。そういう初心を思い出させてくれたって意味でも、竜崎さんには感謝しないとね)
美希(この人……竜崎さん……今でこそ、春香に出会えて生きがいを感じることができているみたいだけど……)
美希(でも元はといえば、この人は学校でひどいいじめを受けたせいでずっと苦しんでいたんだよね)
美希(どうして世の中には、こんなに腐った人間が多いんだろう……)
美希(犯罪者を裁くだけじゃ足りないのかな……? なら、もっと裁きの範囲を広げて……いや、でも流石にそれはまだ早いか……)
清美(人は見かけによら……いや、この場合よるのかもだけど……色んな背景があるものね)
清美(アナウンサーに求められるのは公平・中立な視点……そのために必要なのは、社会に存在する多様な価値観や考え方、また社会に生きる人達それぞれが置かれている立場や境遇を十分に理解しておく事……)
清美(私も、将来の為にもっと社会勉強をしておかないといけないわね)
海砂(この人、淡々と語ってたけど……両親と死別してるんだよね。ミサと同じに……)
海砂(お面、無理やり取っちゃったの本当に悪いことしたな……後でもう一回、ちゃんと謝っておこう)
月(こいつ俳優にでもなった方がいいんじゃないか)
210:以下、
(三十分後・喫茶店前の路上)
L「今日は本当に楽しかったです。こうして折角お知り合いになれたことですし、よかったらまたこのメンバーで集まりませんか?」
海砂「うん。もちろん!」
清美「私も是非お願いしたいです」
春香「私も、また呼んでもらえたら嬉しいです」
美希「ミキもまた皆と会いたいの」
月「良かったな、竜崎。ずっと前からファンだった春香ちゃんに会えたばかりか、こんなに友達が増えて」
L「はい。今日は人生最高の一日です」
春香「そんな大げさな」
L「大げさでもなんでもありません。春香さん。これは私の本心ですから」
春香「そ、そうですか……」
海砂「あの……竜崎さん」
L「何でしょう? 弥さん」
海砂「その……本当にごめんね。ステージの時、いきなりお面取っちゃって……」
L「それならもう大丈夫です。多分私はもう、月くんと出会い、面を外して話すようになったことで……外で素顔を晒すことに対する、自分の中の恐怖心はほとんどなくなっていたんだと思います。現に今もこうして、皆さんとは面を着けずにお話しすることができているわけですし」
海砂「竜崎さん」
L「なので、もう気にしないで下さい。弥さん。それに今となっては、弥さんが面を取ってくれたおかげで、私はこうして皆さんと知り合うことができた……そのことに感謝したい気持ちの方が大きいですから」
海砂「……分かった。じゃあ、改めてこれからもよろしくね。竜崎さん」
L「はい。よろしくお願いします。弥さん」
海砂「ミサでいいよ。もう友達だしね」
L「分かりました。ではよろしくお願いします。ミサさん」
清美「あ、あの……」
月「? どうしたの? 高田さん」
清美「えっと、その……多分、私以外の皆さんは、それぞれ、元々知り合いだったりすると思うんですが……」
月「?」
清美「あ、ですからその……たとえば夜神くんは天海さんと、海砂さんは星井さんと……それぞれ知り合いだったわけでしょう?」
月「ああ、そうだね」
海砂「知り合いっていうか、友達だけどね。ミサと美希ちゃんは」
美希「なの!」
清美「そしていうまでもなく、夜神くんと竜崎さんは友達同士、天海さんと星井さんは同じ事務所の仲間同士……」
月「? 高田さん?」
清美「つ、つまり……元々知り合い、または友達同士、仲間同士だった皆さんは……当然の事ながら、既にお互いの連絡先を知っていますよね?」
月「ああ、それはもちろん……?」 
清美「え、えっとですね。だから、その……」
月「……! そういうことか」
清美「…………」
月「じゃあ、僕と連絡先を交換しよう。高田さん。そうすれば僕から春香ちゃん、春香ちゃんから星井さん、星井さんから海砂さんへとつながる」
清美「! ……夜神くん。ありがとう」
L「あの、私が入ってないんですが……」
月「竜崎。心配しなくても、後でちゃんと皆の連絡先を送ってやるよ」
L「ありがとうございます。月くん」
211:以下、
(互いに連絡先を交換した六人)
海砂「よし、じゃあこれで私達全員つながったね。……って、なんかこれってサークル? みたいだね」
春香「確かに。でもそうなるとサークル名を考えないといけませんね」
美希「春香が意外とノリノリなの」
春香「だってなんか面白そうじゃん。こういうの」
美希「まあね。ちなみに春香はどんな名前が良いの?」
春香「えっ。う、うーん……そうだね……何が良いかな……」
海砂「はいはいはーい!」
美希「海砂ちゃん。はいどうぞなの」
海砂「えっとねー。『竜崎と愉快な仲間達』とか、どう?」
一同「…………」
L「ミサさん。いくらなんでもそのセンスは無しです」
海砂「えぇ!? 折角あなたを立てた名前にしたのにその言い草!?」
L「それについては感謝しますがサークル名の決定は別の話です」
海砂「むぅ……」
月「まあ名前なんて何でもいいじゃないか。それよりこうして連絡先も交換できたわけだし、また皆で集まろう」
L「はい。それ自体は大賛成です」
海砂「なんか微妙に納得いかないけど……まあ、うん。今日は皆に出会えたことに感謝するよ」
清美「ええ。今日は本当に素晴らしい一日でした。また是非近いうちに」
春香「私も楽しかったです。色々な驚きもありましたし……」
美希「ミキもお友達がたくさん増えて嬉しいの。これからもよろしくなの。あふぅ」
月(竜崎の迫真の演技の甲斐あって、とりあえず最悪の事態は免れたか……? だがまだ油断はできないな。この後すぐに捜査本部に戻って、早急に今後の対策を立てなければ……)
L(正直、天海春香と星井美希に私の顔を見られた時はどうなることかと思ったが……私がここまで詳細に自分の素性を捏造した以上、現職の刑事を父に持つ夜神月との接点を考慮したとしても……流石に現時点で私がL、またはLの関係者と推測することはできないだろう。今はそれよりも、二人との直接の接点を作れたことを良しとすべき。そして後は一刻も早く、捜査本部に戻って今後の対策を検討すること……)
海砂(ふふふ……これでライトくんの連絡先ゲット! いきなり二人で会うのはハードル高いかもだけど、またこのメンバーで同じように集まるのなら全然不自然じゃない。このチャンスを逃す手は無いわね……!)
清美(まさか夜神くんが直接私の連絡先を聞いてくるなんて……もしかして、夜神くんって私の事……? いや、流石にそれは無いか……あれはあくまでもこの中で唯一誰とも連絡先を交換していなかった私に対する配慮……でも結果的に、夜神くんと連絡先を交換することができたわ……!)
春香(竜崎さんはLじゃない……いや、Lであるはずがない。それを確かめるためにも……)
美希(今日は色々と考えさせられたの……ん? 何か忘れてるような……)
美希「あっ」
春香「? どうしたの? 美希」
美希「あ、ああ……うん。何でもないの」
春香「?」
月「―――じゃあ皆さん。今日はこのへんで。また近いうちにお会いしましょう」
212:以下、
(月、L、海砂、清美と別れた後、並んで家路を歩いている美希と春香)
美希「ねぇ、春香」
春香「うん」
美希「さっき思い出したんだけど……あれ、何だったの?」
春香「え?」
美希「ほら。ステージに上がる前に、『後で二人きりになった時に話す』って言ってた……」
春香「……ああ。あれね」
美希「うん」
春香「えっとね。実は……」
(死神の目で見たLの名前を美希に教える春香)
美希「…… L Lawliet ……?」
春香「そう。それがあの人……竜崎さんの本名なの」
美希「そ、それって……」
春香「……まあ、美希の言いたい事は分かるよ。端的に言って、竜崎さんがLなんじゃないかってことでしょ? 私達がずっとその正体を知ろうとしていた……」
美希「まあ……うん。安直だとは思うけど、でもあの夜神月って人とのつながりも考えると……」
春香「うん。最初は私もそうかもと思ったんだけどね。でも……」
美希「でも?」
春香「色々考えたんだけど……私にはどうしても、彼……竜崎さんがLだとは思えないの」
美希「春香」
春香「……聞いてもらってもいい? 私の考え」
美希「うん」
春香「まずこれまでの前提として……今、私達765プロのメンバーの中で、Lから一番キラとしての疑いが掛けられているのは……やっぱり美希だと思う」
美希「……前のプロデューサーの件と、クラスメイトの男子の件があるからだね」
春香「そう。短期間で二人も、美希と関わりのあった人が心臓麻痺で死んでいる……しかもこの二人の死は、時期的にキラ事件が始まった時期とも近接している。Lが美希をキラではないかと疑う理由としては十分過ぎる……」
美希「…………」
春香「ただ、Lが美希の部屋に監視カメラを設置していた間、新たに報道された犯罪者が、美希がその情報を得ないうちに裁かれた……このことによって、Lは少なくとも美希一人だけをキラ容疑者として疑うことはできなくなったはず。だけど、それだけで美希に対する疑いを完全にゼロにしたとは思えない」
春香「つまり次に考えられるのは、美希はキラの能力を持っている可能性があるが、その能力を持つ者は美希以外にも存在していて……」
美希「その人がミキと協力して裁きをしている……という可能性」
春香「うん。そこまでは予想できてもおかしくない。でもそこで行き詰る」
美希「…………」
春香「もし仮に、前のプロデューサーさんの件から、私を含めた765プロ関係者全員が疑われているとしても、動機は私達全員に同程度にある……だからどうやっても、そこから先へ絞り込むことはできない。ましてや、私一人だけが特に強く疑われたりするはずもない」
美希「…………」
春香「例のアイドル事務所関係者の件は、全て心臓麻痺以外で殺しているから、そもそもキラと同じ能力によるものだとは気付かれていないだろうし……また万一これが怪しまれて、その背景にあった事情まで調べられていたとしても……被害者が全員“765プロ潰し”計画の主要人物である以上、彼らを殺そうとする動機が765プロ関係者の全員に等しくあるのは変わらない。だからこの点からも、やはり私だけが特に強く疑われる理由は無い」
春香「さらに言えば、一介の所属アイドルに過ぎない私なんかより、たとえば社長さんとかの方が……765プロを守ろうとする動機は強いだろうと考えられるしね」
美希「……そうだね」
213:以下、
春香「またアイドル事務所関係者の件を別にすれば、私達765プロのメンバーが疑われる理由は、?キラの能力を持っている可能性がある美希と接点がある?キラ事件の開始に近接した時期に、身近に心臓麻痺で死んだ者が一人いる、ということだけ……この条件なら、たとえば、『クラスメイトの一人が心臓麻痺で死んだ』という当時の美希のクラスメイトの人達なんかも、私達765プロのメンバーと全く同じ条件になる。とすれば、『美希と協力して裁きをしている可能性のある者』の範囲はもっと広汎に及んでいてもおかしくない」
美希「…………」
春香「だから尚の事……Lが私だけを特定して疑っているとは考えられない。現に、美希の部屋には付けられていた監視カメラも、私の部屋には付けられてないしね」
美希「? 確かめたの? どうやって?」
春香「簡単だよ。定期的に、自分の部屋に入った時に、何も言わずにレムに目配せして合図を送るの」
美希「合図?」
春香「そう。何でもいいんだけど、私の場合は、右目を二回ウィンクした時は『カメラを探して』、四回ウィンクした時は『カメラを探して、もしあった場合はそのまま壊して』、っていう風に決めてるよ」
美希「へー。そんなことしてたんだ」
春香「うん。美希の部屋にカメラが付けられたって聞いてから……大体、週に一回くらいはやってもらってるかな。このやり方なら、もし本当にカメラがあったとしても問題無く対処できるからね」
美希「死神はカメラに映らないもんね」
春香「そう。それに死神は自分の意思で自由に人間界の物体に干渉できるから、壊そうと思えばすぐに壊せる」
美希「あー。確かにリュークも普通にリンゴ食べてるもんね」
リューク「まあな。……しかし、そこまで人間に尽くす死神がいるとは驚きだな。レム、お前ちょっとハルカに入れ込み過ぎなんじゃないのか?」
レム「……別に、私がしたいからそうしているだけだ。元々、私がハルカにノートを与えたのはジェラスの遺志を汲んだからであって、そのジェラスがファンだったハルカを守るのは私の意地のようなものだ」
リューク「その価値観が俺にはさっぱり理解できないがな……まあ別に好きにすればいいとは思うが」
春香「……で、今言ったように、実際に私の部屋にカメラを付けられたりはしていないということからも……やっぱり、私が765プロの他の皆や当時の美希のクラスメイトの人達よりも強く、ましてや美希と同程度にまで……Lからキラとして疑われているとは思えないんだ」
美希「…………」
春香「そうであるとすれば、『美希と協力して裁きをしている可能性のある者』として疑いが掛けられているのは、私を含めた765プロ関係者全員と、当時の美希のクラスメイト全員……全部合わせれば50人以上にはなるはず。そして疑いの度合が全員同程度である以上、この人数の中で、Lが私に関する情報だけをあそこまで詳細に調べているとはとても思えない」
春香「たとえば、私がデビューして間も無い頃に商店街のCDショップの前でCDの手売りをしていたこととか……ね」
美希「だから……それを知っている竜崎……さんは、ただの熱烈な春香のファンで……Lじゃないってこと?」
春香「うん。まあ、Lが個人的に私のファンだった……っていう可能性も考慮するなら、まだ一応、彼がLだという可能性も残るけどね」
美希「…………」
春香「ご、ごめん。冗談にしてはつまらなかったね……」
美希「ううん。そうじゃないの」
春香「え?」
美希「ただ……」
春香「?」
214:以下、
美希「いや……そうだね。確かに本名が“ L Lawliet”っていうのは気になるけど……でもそれだけで彼がLだって決めつけるのは無理があるよね」
春香「でしょ? それに、普通に考えて本名の一部の“L”をそのまま通名にするとはちょっと思えないし……もし本当に彼がLなら、竜崎“ルエ”なんてあからさまな偽名を使うとも思えない。……キラとして一番疑っているはずの、美希の前で」
美希「? “ルエ”……あっ、“エル”ってことか。単純過ぎて逆に気付かなかったの」
春香「うん。私も先に“ L Lawliet”っていう本名の方を見てなかったら気付かなかったかも」
美希「まあ確かに……彼がもし本当にLなら、わざわざミキにこんなヒントを与えるような偽名は使わないような気がするの」
春香「うん。それにそもそも本名の一部が“L”なんだから、ゲーム内でのアカウント名が“ルエ”でも別におかしくないしね」
美希「そうだね」
春香「あとは、さっき美希も言っていたように、お父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしている、ライトさんとのつながりだけど……」
美希「うん」
春香「でもそれも、彼がLであるとする確たる証拠になるわけじゃない。……ライトさんとつながっているからといって、ライトさんのお父さんとも当然につながっているということにはならないわけだし」
美希「それはまあ……その通りなの」
春香「そう。だから彼はLじゃない……いや、Lであるはずがない……」
美希「…………」
春香「それに……今はLよりもアリーナですよ! アリーナ!」
美希「? 春香?」
春香「だってさ、アリーナライブまでもうあと三か月しかないんだよ? 正直言って、もうここまできたら、Lなんて放っておいても私達はトップアイドルになれそうだし……もうそれでいいんじゃないかなって」
美希「春香」
春香「私の目標は、あくまでも765プロの皆と一緒にトップアイドルになることであって……Lの正体を突き止めることじゃないからね」
美希「……わかったの。春香」
春香「美希」
美希「ミキ的にも、リーダーの春香にはライブに集中してもらわないと困っちゃうしね」
春香「あはは。そうでしょ? それにアリーナライブは、私達の今後にとっても大事なライブになるだろうしね。……律子さんの受け売りだけど」
美希「そうだね。あと『眠り姫』の撮影もいよいよ大詰めだしね」
春香「うん。きっとこれからもっともっと忙しくなるよ、私達は。Lの相手なんてしてる場合じゃないって」
美希「わかったの。じゃあミキも、裁きはこれまで通りに続けるけど、Lの事はもうあんまり考えないようにするの」
春香「うん。それでいいと思うよ。……で、私は当面の間はお仕事の方に集中かな。……あっ」
美希「? 春香?」
春香「……受験勉強もやらなきゃいけないの、忘れてた……はぁ」
美希「あはっ。春香ったら一気にテンション下がってるの」
春香「だってぇ……。はぁ、まあ愚痴っても仕方ないか。頑張るしかないよね。お仕事も、受験勉強も」
美希「うん。頑張ろうなの。春香」
春香「そうだね。じゃあ美希。また明日ね」
美希「はいなの。また明日。春香」
964: 以下、
(美希と別れた春香)
春香「…………」
レム「いいのか? ハルカ」
春香「? 何が?」
レム「Lの事だよ。本当にこのまま無視を決め込むのか?」
春香「……まさか」
レム「! ……じゃあお前、本当はあの竜崎って男を……?」
春香「ううん。彼の事は本当に疑ってないよ。そういう意味では、さっき美希に話したのは私の本心。あそこまで私の事を事細かに知っているような人が……Lであるはずがない」
レム「…………」
春香「確かに、彼の本名の事や、ライトさんとのつながりのことが多少引っかかるのは事実だけど……でも、それも大した問題じゃない」
レム「? どういうことだ?」
春香「竜崎さんはLじゃなくても……本物のLは今も必ずどこかにいる」
レム「…………」
春香「つまり本物のLの正体を突き止めさえすれば……竜崎さんがLではないということが証明される。それで何の問題も無い。そうでしょ? レム」
レム「まあ……それはそうだな」
春香「それにさっきも言ったけど、Lは今も、美希をキラだと疑っているに違いない。Lは美希の部屋に64個もの監視カメラを取り付けたほどの者……今度こそ、どんな手段を取ってくるか分からない」
春香「だから……美希の為にも、私は早く本物のLを見つけ出さなければならない」
レム「…………」
春香「そして本物のLを見つけることができた暁には……必ず、殺す」
レム「!」
春香「そうすれば、美希に対する危険は完全に除去できる。美希を守ることができる」
春香「もう美希にあんな怖い思いはさせない……絶対に」
216:以下、
レム「……なら、少なくともミキには、お前がそう思っているということは言っておいてやった方が良いんじゃないか?」
春香「ううん。それは言えないよ」
レム「? 何故だ?」
春香「美希は優しい子だから……私がまだLの正体に拘っていると知れば、きっと心配する。私がまた何か危険な事をするんじゃないかって」
レム「…………」
春香「でも私はこれ以上、美希に余計な心配は掛けたくないの。美希には、余計な事は考えず、自分の理想とする世界をつくることに専念してほしいから」
レム「ミキの理想とする世界……犯罪者のいない、心優しい人間だけの世界……ってやつか」
春香「うん」
レム「……まるで夢物語だな」
春香「そう。まるで夢……。でも美希は、本気でそれができると信じ、その信念の下……今もデスノートを使い続けている。なら私にできることは、その美希の夢、理想が叶うよう……できる限り協力してあげること」
春香「だからそれを邪魔しようとする者がいるのなら……私が美希に代わってでも、その者を排除してあげないといけない」
レム「……それが、お前がLを消したいと思う本当の理由なのか? ハルカ」
春香「うん。もちろん、それが『765プロの皆と一緒にトップアイドルになる』っていう私の使命ともつながっているから、っていう理由もあるけどね。美希のいない765プロなんて考えられないし」
レム「……分かった。お前がそうしたいと思うなら、そうすればいい。私は私で、これまで通り、お前の応援を続けるだけだ。ハルカ」
春香「レム」
レム「あの竜崎という男が言っていたのと同じように……私も、ハルカのファンだからね」
春香「……ありがとう。レム」
春香「…………」
春香(そう。私のやることは何も変わらない)
春香(今後、夜神月に対する好意を装い、自然な形でより距離を縮めてゆき――……)
春香(ゆくゆくは、彼の父親である夜神総一郎を通じて……必ずLの正体を掴んでみせる)
春香(―――美希を、守るために)
217:以下、
【同日夜・美希の自室】
美希「……ねぇ。リュークはどう思う?」
リューク「ん? 何がだ?」
美希「……あの竜崎って人が、Lなのかどうか」
リューク「さあ? そんなの俺が知るわけないだろ」
美希「そんな身もフタも無い言い方しないでほしいの」
リューク「じゃあお前はどう思うんだ? ミキ。ハルカと同じように、お前もあの竜崎って奴の言うことを信じてるのか?」
美希「……正直言うと、春香ほどには信じられないの」
リューク「ほう」
美希「確かに春香の言うことは、一応筋は通ってると思うけど……お父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしているっていう、あの夜神月って人の友達で……それで本名が“ L Lawliet”だなんて……正直、偶然にしてはできすぎって思うな」
リューク「それはまあ……そうだな」
美希「それに偽名の方の“竜崎ルエ”だって……確かに、春香の言うように『本物のLなら、キラとして疑っているミキの前でこんな偽名を使うはずがない』とはいえると思うけど……でも逆に、『だからこそこの偽名にした』ともいえると思うの」
リューク「なるほどな。そう読まれることを承知で、あえてその裏をかいたっていう可能性か」
美希「うん。で、そうやって考えていったら、結局どっちとも取れるわけで……裏の裏のそのまた裏、とか読んでいったらキリがないの。それならむしろ、こうやってミキを混乱させることが狙いで名乗った名前……って考えた方がすっきりするくらいなの」
リューク「まあLなら、それくらいしてきてもおかしくないかもな。……以前、この部屋に異常な数のカメラを付けてきたことからしても、常識では考えられないようなことをしてくる奴だしな」
美希「でしょ?」
リューク「……だが、そう考えるとやっぱり変だな」
美希「えっ?」
リューク「ミキでさえここまで疑ってるっていうのに……なんでハルカは、あんなに安易に竜崎って奴の言うことを信じたんだ?」
美希「……ミキでさえって言うのはひどいって思うな」
リューク「いや、だって今までも……ハルカはお前よりずっと用心深く行動していただろう? アイドル関係者殺しの時もわざわざ心臓麻痺以外で殺していたし……黒井って奴に脅迫する時も、絶対に自分に足がつかないように相当工夫していた」
美希「…………」
リューク「それに今日話していた、自分の部屋にカメラが付けられていないかの確認の仕方にしたってそうだ。ハルカはとにかく、少しでも自分が怪しまれることがないように、常に細心の注意を払って行動していたはずだ」
美希「それはまあ……うん。その通りなの」
リューク「そこまで用心深かったハルカが、あの竜崎って奴の事は全然疑おうとしない……誰だっておかしいと思うだろ」
美希「それは……」
リューク「それは?」
美希「……春香が、誰よりもアイドルだからだよ」
リューク「? どういうことだ? ミキ」
218:以下、
美希「春香は誰よりもアイドルだから……いつだって、何よりもファンの事を大切に思ってるの」
美希「アイドルは、ファンあってこそのアイドルだから」
リューク「つまり、あいつが自分のファンだって言ったから……だから無条件に信じるってことか?」
美希「うん」
リューク「いや、でも流石にそれはおかしいだろ。そのファンってこと自体が嘘かもしれないんだから」
美希「……そうだね。だから多分、これは春香の願望でもあるんだって思うの」
リューク「願望?」
美希「そう。『竜崎さんがLであるはずがない』って、春香は言ってたけど……多分より正確に言うと、『竜崎さんがLであってほしくない』だと思うの」
リューク「『Lであってほしくない』……?」
美希「うん。『ここまで自分の事を知ってくれている人が、実はLだったなんて思いたくない。信じたくない』『今日、彼から聞いた話が全部嘘だったなんて思いたくない』……どこまではっきりと意識してるかは分からないけど、多分こういうことなんじゃないかな。……春香の気持ち的には」
リューク「……なるほど。まあこれも、俺には到底理解しがたい感情だが……。しかし本当によく分かるんだな。ハルカの事」
美希「当然なの。春香は仲間で……何よりも、ミキの大切な友達なんだから」
リューク「ククッ。そうか、そうか」
美希「…………」
美希(でも……もし彼……竜崎……さんが、Lなら……)
美希(春香の言うとおり、何で春香の情報をそこまで詳しく知っていたのか? っていうのは確かに疑問なの)
美希(まさかLが元々春香の大ファンだったとも思えないし……)
美希(いや、でも……)
美希(春香の言うように、『Lが春香だけを765プロの他の皆やミキの当時のクラスメイトよりも特に強く疑っているはずがない』……そういう前提で考えれば、確かに『Lが春香の情報だけを詳しく知っているはずがない』っていえるのかもしれないけど……)
美希(……もし、そのそもそもの前提が間違っていたとしたら?)
美希(春香だけを、765プロの他の皆やミキの当時のクラスメイトよりも、特に強く疑うだけの理由があるとしたら……?)
美希(もしそうだとしたら、Lが、春香についてだけ……極端に細かい情報まで調べたりしていてもおかしくはない……。それこそ、デビューして間も無い頃に、商店街のCDショップの前でCDの手売りをしていたこと、みたいな……)
美希(でも……それだけの理由って、何かあるのかな? 春香だけが特に強く疑われるような、理由……)
美希(たとえば、そう……他の人には無くて、春香にだけあるような……何か特別な事情)
美希(……そんなの、一つしかない)
美希(デスノートを持っている事)
219:以下、
美希(でもそれがばれているはずはない……というか、それがばれていたらとっくに捕まっているはずだし……)
美希(でも何かあるとしたらそれしか……)
美希(逆に、春香が他の皆と同じ条件だったのはデスノートを拾う前まで……拾ってからは……)
美希(……ん?)
美希(デスノートを……拾った……?)
美希(春香がデスノートを拾ったのは……去年のファーストライブの日……逆上したファンの人に殺されそうになって……)
美希(それを見ていたジェラスって死神が……そのファンの人を……)
美希「――――!」
美希「リューク!」
リューク「うおっ。何だ? いきなり」
美希「春香を……春香を助けて死んだ、ジェラスって死神のことなんだけど……」
リューク「ああ。そいつがどうかしたのか?」
美希「そのジェラスって……春香を助けたとき、どうやって相手の人を殺したのかな?」
リューク「? どうって、そりゃデスノートに名前を書いて……」
美希「じゃなくて! 死因!」
リューク「死因?」
美希「うん。やっぱり心臓麻痺? それとも別の……」
リューク「ああ……そりゃ、普通に考えて心臓麻痺だろ。レムから聞いた話だと、ハルカはそいつに殺される寸前だったってことだから……そんな状況で下手に死因なんて書いたら、そこから少なくとも6分40秒は待つはめになる。その間にハルカが殺されたら元も子も無いからな」
美希「……うん。やっぱりそうだよね」
リューク「? それがどうかしたのか?」
221:以下、
美希「……レムから聞いた話によると、その人は春香のすぐ後を追う形で、春香の家の最寄駅で降りた」
美希「その直後、春香に声を掛け……プロポーズをしたけどあえなく断られた。そして逆上して春香を殺そうとしたところで……ジェラスに名前を書かれ、心臓麻痺で死んだ」
リューク「ああ。確かにそう言っていたな」
美希「……リューク。そもそも何で、Lはミキをキラだと疑ってるんだと思う?」
リューク「? そりゃお前……今日自分でも言ってたように、事務所の前のプロデューサーとミキのクラスメイトの奴が心臓麻痺で死んだからだろ」
美希「そう。『心臓麻痺』。その死因で死んだ人が身近に二人もいたから……ミキはLに疑われたの」
美希「そして……例の春香のファンの人も、『春香の家の近くで』心臓麻痺で死んでいる……」
リューク「…………」
美希「もしLが、ミキの部屋に監視カメラを仕掛けた結果、『ミキの他にもキラの能力を持つ者がいるかもしれない』と思ったのなら……」
美希「そしてそれが、ミキと協力ができるような、ミキの身近にいる誰かだと思ったのなら……」
美希「とりあえず、ミキの身近な人の周りで、『心臓麻痺』で死んだ人がいなかったかどうか……過去に遡って調べていくんじゃないかな」
リューク「! ……そういうことか」
美希「そういうことなの。例の春香のファンの人が、『春香の家の近くで』ジェラスによって『心臓麻痺』で殺されたのは、キラ事件の開始から三か月前くらいのこと……すぐに見つかってもおかしくない」
美希「その人が春香のファンだったことは調べればすぐに分かるだろうし、また当日も春香のすぐ後を追っていたのなら、駅の防犯カメラなんかには春香とほとんど同時に映っているはず……だとすれば、『この人は死ぬ直前に春香と接触していた可能性が高い』……こう推理するのが一番自然……」
美希「そしてその推理を前提にすれば、『死ぬ直前に春香と接触していた可能性が高い人』が『心臓麻痺』で死んだことになるから……」
リューク「ハルカの周囲で心臓麻痺で死亡した人間がいたということになり……ハルカが、ミキと協力して裁きをしている可能性のある者として、他の奴らより特に強く疑われるだけの理由があることになる……ってわけか」
美希「うん。……まあ実際にはこのファンの人はジェラスが殺したわけだから、春香にとっては完全に濡れ衣なんだけど……」
222:以下、
リューク「なるほどな。しかしそう考えると、ハルカもミキと同じくらいのレベルでLから疑われている可能性があるってことになるな」
美希「うん。そしてもしそうなら、Lが春香についての情報を特に詳しく調べていてもおかしくない」
美希「……たとえば、デビューして間も無い頃に商店街のCDショップの前でCDの手売りをしていたこと……とかね」
リューク「ククッ。じゃあやっぱりそこまでの情報を持っていた……あの竜崎がLってことか?」
美希「流石にまだそこまでの断定はできないけど……」
リューク「で、早くハルカに教えてやらないのか? ミキ。Lがハルカをミキと同じくらいのレベルで疑っている可能性がある、って。そしてそのLはやっぱりあの竜崎って男かもしれない、って」
美希「……うん。春香には言わないでおくの」
リューク「? 何でだ?」
美希「さっきも言ったけど、春香はアイドルとして……竜崎……さんが、自分のファンであってほしいと願ってる。Lなんかであってほしくないって願ってるの」
リューク「…………」
美希「でも多分、春香もきっと、心のどこかでは……『でも、もしかしたら』って思ってるの」
美希「そんな中で、ミキが今のようなことを話したら、その『もしかしたら』の部分がもっと大きくなる。そしたら春香はきっと、それを否定できるだけの理由を早く見つけようとする」
美希「そして春香にとって、『本物のLが別にいる』ことさえ分かれば、それはイコール竜崎……さんが、Lでないことの証明につながる」
美希「だからそうなった場合、きっと春香は、Lの正体につながる可能性のある、あの夜神月って人に必要以上に近付いて……少しでも早く、Lの正体を突き止めようとすると思うの。今だって、Lの正体を探るために、夜神月に恋心を抱きつつあるような演技をしてるって言ってたし」
リューク「ああ、そういえば言ってたな。まあ『あくまでもそういうチャンスがあったら』という程度の言い方ではあったが」
美希「今は本当にそうだとしても……もしミキが今の話を伝えたら、春香は絶対、もっと強硬な手段に出る。それはつまり、それだけ春香が危険な目に遭う可能性が高くなるってこと……。だから、ミキの方から、今の話を春香に伝えるようなことはしない……いや、したくないの」
リューク「……なるほどな」
美希「でも、あの竜崎が本当にLなら……そして春香の情報を徹底的に調べ上げるほどにまで、もう春香の事を疑っているんだとしたら……今、ミキが春香に何も言わなかったとしても……いずれ、春香が本当に危険な状況に追い込まれてしまう可能性が高い」
リューク「…………」
965: 以下、
美希「――そんなの、絶対に嫌なの」
リューク「!」
リューク(ミキの目の色が……変わった)
美希「思えば、ミキは今まで……ずっと春香に助けられてきたの」
リューク「…………」
美希「事務所に二人組の刑事さん……そのうちの一人は夜神月のお父さんだったけど……が来て、クラスメイトのAが心臓麻痺で死んだことを言わざるを得なくなって」
美希「それで、身近な人間が二人も心臓麻痺で死んだのがミキだけになって……もうキラ容疑者はミキだけに絞られるって思って……」
美希「もうどうしようもないくらい精神的に追い詰められてた時に……春香がミキを救ってくれた」
美希「それまでのこと、全部教えてくれて……ミキを守ってくれたの」
美希「それからずっと……ミキは春香に甘えっぱなしだった」
美希「黒井社長への脅迫とかも、全部春香に任せきりで……Lの正体を探ることについて、ミキはこれまで積極的に何かをしようとはしてこなかったの」
リューク「…………」
美希「でも、もうこのままじゃダメなんだって思うの」
美希「春香がミキと同じくらいLから疑われている可能性がある以上……そしてLがあの竜崎である可能性がある以上……」
美希「ミキが春香を守ってあげないといけないの」
リューク「……じゃあ殺すのか? あの竜崎を」
美希「殺さないよ」
リューク「あれっ」
美希「今は……ね」
リューク「? 今は?」
美希「いくら怪しいって言っても……まだあの竜崎がLって決まったわけじゃないから」
リューク「なるほどな。じゃあもし本当に奴がLだと確定したら、その時は……」
美希「それでも……まだ今の段階で殺すつもりはないの。たとえあの竜崎がLでも、彼は犯罪者ってわけじゃないからね」
リューク「…………。(女子中学生の部屋を盗撮するのは犯罪のような気がするが)」
美希「何か言った? リューク」
リューク「いや、なんでも」
美希「? ……でも……」
リューク「でも?」
美希「もし彼が、本気で春香を疑い、捕まえようとしたなら、その時は……」
リューク「! …………」
美希「まあでも、それは彼がLかどうかを確かめてからの話なの」
リューク「……なるほどな。ククッ」
美希「…………」
224:以下、
リューク「…………」
リューク(これまでLに対してはずっと受け身のスタンスだったミキが、遂に自らの意思で動き出した)
リューク(思えば、俺がデスノートを765プロのどのアイドルに渡すべきかで迷っていたとき……決め手になったのは、ミキが天才アイドルと呼ばれている所以たる性質そのものだった)
リューク(普段はあまりやる気が無くマイペースだが……一度何かのきっかけでスイッチが入ると、常識では考えられないほどの集中力や人並み外れたパフォーマンスを発揮する)
リューク(俺はミキのこの性質に着目し、デスノートを使わせる人間として選んだわけだが……どうやら、俺の目に狂いは無かったらしい)
リューク(今まさに、仲間であり親友でもあるハルカの危機が、ミキにとってのスイッチとなった)
リューク(ミキが今演じている映画の役になぞらえて言うなら……さしずめ『眠り姫の覚醒』ってところか)
リューク(面白くなってきたぜ。……ククッ)
美希「…………」
美希(もう、ミキがやるしかない)
美希(たとえどんな手を使ってでも、あの竜崎がLなのかどうか……この目で確かめてみせる)
美希(―――春香を、守るために)
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「! …………」
月「? どうした? 竜崎」
L「月くん。これはいわゆる『モテ期』というやつでしょうか?」
月「? いきなり何を言ってるんだ?」
L「……今を時めくアイドルから、デートに誘われました」
月「! まさか、天海春香か!?」
L「いえ」
月「! じゃあ……」
L「はい。―――ミキミキこと、星井美希からです」
254:以下、
【一週間後・都内某スイーツ店】
(店内の一角のテーブルで向かい合って座っているLと美希。Lは特大のチョコパフェを、美希はいちごババロアを食べている)
美希「竜崎……さんって、意外と甘いもの好きなんだね」ムシャムシャ
L「ええ、まあ。意外ですか?」パクッ
美希「うん。ぱっと見、全然そういうイメージ無かったから。……あ、でもそういえば、前の喫茶店の時もコーヒーに砂糖たくさん入れてたね」
L「……よく見ていますね」
美希「まあね。で、竜崎……さんは……」
L「……“さん”付けが苦手のようでしたら、“竜崎”と呼び捨てにして頂いて構いませんよ? どのみち本当の名前じゃありませんし」
美希「そう? じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうの。で、竜崎は……」
L「はい」
美希「ミキのコト、どう思ってるの?」
L「えっ」
美希「だって前の時、春香のことはすごく熱く語ってたのに、春香と同じ事務所でアイドルやってるミキのことは完全スルーだったの。正直ちょっとひどいって思うな」
L「……はあ」
美希「あ。別に春香のファンってことに怒ってるわけじゃないんだよ? ただミキのことはどう思ってるのかなって、それがちょっと聞きたかったの」
L「それが今回、星井さんが私をデートに誘った理由ですか?」
美希「そうだよ。あ、ミキのことはミキでいいよ」
L「分かりました。では美希さんとお呼びします」
美希「別に呼び捨てでいいけど」
L「私はこちらの方が呼びやすいですので」
美希「わかったの。で、どう思ってるの? ミキのこと。あ、もちろんアイドルとしてって意味でね」
L「それは……今後のアイドル活動の参考にしたいとか、そういった理由からですか?」
美希「そうだね。ミキのファンの人はミキのことを認めてくれて、応援してくれているけど……他のアイドルのファンの人からミキがどう見られてるのかって、今まであんまり意識したこと無かったし、そもそもそういう人と知り合う機会も無かったから。一度、そういう人の声も聞いてみたいって思ったの」
L「なるほど。そういうことでしたらいくらでもお話ししますが」
美希「ホント? じゃあキタンの無い意見を聞かせてほしいの」
L「分かりました。では……」
L「…………」
L(星井美希……こいつはいまいち何を考えているのか読みづらい)
L(そもそも何故いきなり私と一対一で会おうなどと言い出したのか)
L(まさかこの前のやりとりだけで、私が“L”であると勘付いたはずもないだろうが……)
L(…………)
255:以下、
【一週間前(東応大学の学祭があった日)・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(喫茶店での美希、春香、海砂、清美との会合を終え、捜査本部に戻ってきたLと月)
 ガチャッ
L「ただいま戻りました」
月「戻りました」
総一郎「ああ、お疲れ。竜崎……って、ライトも一緒なのか? お前、今日はそのまま家に帰るはずじゃ……?」
月「……ああ。ちょっと事情が変わってね。父さん、模木さん、松田さん。今から少しいいですか?」
総一郎「? 何だ?」
模木「……?」
松田「何かあったのかい? 月くん」
月「ええ。実は――……」
L「…………」
(海砂のライブイベント以降の出来事を三人に説明する月)
総一郎「……天海春香と星井美希の二人と接触……」
L「はい。完全に想定外でしたが」
松田「うわあ、いいなあ。はるるんにミキミキにやよいちゃん……一気に765プロのアイドル三人と知り合いになった上に、ミサミサとまで」
L「……松田さんは弥海砂を知っているんですか?」
松田「ええ、もちろん。まだデビューして間も無い子ですが、僕の中ではイチオシのアイドルですよ。ヨシダプロでは一番の成長株ですね」
L「なるほど。ですが松田さん。今日はツッコミ役の相沢さんが不在なので無用なボケは控えて下さい」
松田「はい……」
月「ともあれ、竜崎の迫真の演技によって最悪の状況は回避することができたが……まだ油断できない状況であることに変わりは無い。だから今後の対策を練るため、急遽ここに戻って来たんだ」
総一郎「なるほど……。しかしまさか、そんなことになっていたとは……」
256:以下、
松田「それにしても、よくそこまで咄嗟に話を作れましたね。竜崎」
L「はい。ここ最近、765プロダクション所属アイドルの情報……特にキラ容疑者の最有力候補である天海春香と星井美希の二名については、デビューして間も無い頃の活動も含め、関係するあらゆる情報を徹底的に洗っていたのが役立ちました」
松田「でも竜崎……竜崎“ルエ”っていう、あえて“L”を匂わせる名前をミキミキやはるるんの前で名乗ったのは何故です?」
L「嘘をつくときの常套手段です。全てを嘘で固めてしまうより、ある程度真実性を織り交ぜた方が怪しまれないし説得力も増す……またおそらく天海春香は、自分がそこまで“L”に疑われているとは思っていないと考えられますが、星井美希は十中八九それに気付いている」
松田「? ミキミキが? そんな話ありましたっけ?」
総一郎「私と模木がキラ事件の捜査として765プロの事務所に聞き取り調査に行った際に、クラスメイトの件を話さざるを得なくなったからだな。それで自分がキラ容疑者として最も疑われるようになったと……」
L「はい。またその前提として、星井美希が父親である星井係長から『警察は“L”と一緒にキラ事件の捜査をしている』という情報を聞いていたとしたら……あの時事務所に来た『朝日四十郎』と『模地幹市』という二名の刑事は“L”と一緒にキラ事件の捜査をしており、“L”の指示で事務所に来た……そう考えるのが自然です」
L「とすれば、自分が二名の刑事に話したクラスメイトの件はすぐに“L”にも伝わり……その結果、“L”は自分をキラではないかと疑うようになる……星井美希の立場に立って考えれば、当然このように推測するでしょう」
L「…………」
L(さらに、これに加えて監視カメラの件……星井美希が何らかの方法によりカメラの設置に気付き……いや、気付いていなくとも、その可能性を疑い、夜神局長らの聞き取り調査があった日からしばらくの間は、裁きを天海春香に代行させていたという可能性……)
L(このことも、星井美希が今述べた推測をしていた可能性を補強しうるものといえる……。といっても、カメラ設置の事実については、この場でそれを知っているのは私と夜神局長だけ……。今ここで皆に説明するわけにはいかないが……)
L(ただ、今後捜査を進めていく上でも夜神月にだけは伝えておく必要がある……後で適当なタイミングで伝えるとしよう)チラッ
月「? どうした? 竜崎」
L「いえ、なんでもありません。ともあれ、“L”が自分をキラではないかと疑っている……そのような状況で、“L”が“ルエ”などというあからさまな偽名を用いて、キラとして疑っている自分の前に姿を現すはずがない……」
L「星井美希がキラならおそらくそう考える。……そういう理由もあって、私は二人に対して“竜崎ルエ”と名乗ったんです」
松田「なるほど……」
260:以下、
L「仮に、もう少し違う条件……たとえば『キラが殺しを行うには顔と名前の両方が必要』という当初の前提のままなら、そもそもの接触方法として、キラ容疑者である星井美希と天海春香の両名に対し、正面から堂々と『私がLです』と名乗り出て、その反応を観察する……という方法もあったんですけどね。流石に『キラは顔だけで殺せる可能性がある』ということまで推測できている現段階において、それをするのはリスクとして高過ぎるため、実行に移すことはできませんでした」
月「だが現実には、偶然の連続とはいえ、結果として竜崎の顔を星井美希と天海春香の二人に見られてしまった。そして星井美希はどうか分からないが、少なくとも天海春香は、これまでの捜査の結果から『顔を見ただけで人を殺せる能力』を持っている可能性が高い」
L「はい。それはつまり、私がいつ殺されてもおかしくない状況になったということを意味します」
一同「…………」
L「しかし『顔を知られている』というだけなら、夜神さんと模木さんは『“L”と共にキラ事件の捜査をしている刑事』である『朝日四十郎』および『模地幹市』として、既に顔を知られているわけですから……星井美希・天海春香からすれば、むしろこちらの方を先に標的とする可能性が高いとも考えられます」
総一郎・模木「…………」
L「また月くんも『父親が現職の警察官』であることは既に知られていますし、月くんの年齢から逆算すれば、その父親は警察庁でもそれなりの地位と役職に就いている人間であろうことは十分想像できます。さらに月くん自身の優秀さをも勘案すれば、その推定は一層強く働くでしょう」
松田「確かに……月くんのスペックからすれば、そのお父さんも相当すごい人なんだろうなって誰でも思うでしょうしね」
月「…………」
L「そして星井美希および天海春香が『警察は“L”と一緒にキラ事件の捜査をしている』という情報を得ているとの前提に立てば、今述べた推定から、『夜神月の父親が“L”に関する情報を持っている可能性がある』と推測してもおかしくはないですし……さらにその息子で警察志望である月くんにも、父親からその情報が伝えられている可能性がある……そこまで読んでいる可能性も十分考えられます」
月「そうだな。僕も“L”につながりうる者……そう思っているからこそ、天海春香も僕に対して好意的に振る舞っている。そう考えるべきだろう」
総一郎「……では、今ここに居る者の中では……」
松田「最悪の場合でも、僕だけは殺されずにすみそうっすね」
一同「…………」
L「松田さん。今日は無用なボケは控えて下さいと言ったはずです」
松田「はい……」
総一郎「となると現状、既に顔を知られている者の中で……一番殺される危険性が低いのは竜崎では? 設定上、ただのライトの友人というだけだからな」
松田「そうですね。捏造した話にも不自然な点は無いですし……何より、実際にあったはるるんのアイドル活動の話を入れたのは大きいっすよ。それも、本当のファンじゃないと知りえないような、デビューして間も無い頃の話ですからね」
総一郎「うむ。それで一気に話の信憑性が増したといえるな」
松田「それに元引きこもりっていう設定も、竜崎の外見なら不自然じゃないですしね」
L「…………」
261:以下、
松田「あ、でも竜崎。なんでミキミキじゃなくてはるるんのファンってことにしたんすか? 単なる好みとか?」
L「単純に、彼女の方がアイドルらしいからです」
松田「アイドルらしい?」
L「はい。星井美希がそうでないとは言いませんが……天海春香のアイドルに懸ける情熱、想いはある種独特……半ば狂気じみてさえいます」
松田「まあ……自分の事務所を守るために他の事務所の関係者を殺しちゃうくらいですもんね。いや、もちろんまだ100%そうって決まったわけじゃないっすけど……」
L「はい。そしてそれは、彼女のアイデンティティがアイドルという存在そのものと強く結びついていることを意味します。そしてそうであるならば、自分のファン……とりわけデビュー当初からの熱烈なファンなどは、彼女にとって最も尊重すべき存在となるはず……」
総一郎「だから、竜崎がそのようなファンを演じている限りは殺されない……ということか?」
L「はい。より厳密に言うと『殺す対象になりえない』でしょうか。もちろん絶対の保証などはありませんが……正直言って、私の顔を二人に見られてしまったあの状況から事態を好転させるには、これしか手がありませんでした。事前に何の打ち合わせもしていなかったので、月くんを驚かせてしまったかもしれませんが……」
月「いや、僕もあの場面ではそれ以外の手は無いと思っていたところだよ。竜崎」
月「それに、殺されるリスクが完全にゼロになったわけではないが、少なくともこれで、天海春香のみならず星井美希とも、直接接触して探りを入れられるようになった。また結果的に、竜崎が接点を持ちたがっていた弥海砂とのつながりもできた」
L「そうですね。二人に対する接触自体は我々も直接できるようになりましたが……現時点で唯一、星井美希と天海春香の二人がキラであることの物的証拠となる可能性のある『黒いノート』……いざ実際にこれを押さえるという段になれば、やはり弥海砂に協力を要請することは必要不可欠です」
月「ああ。キラ信者とまでいえるレベルのキラ肯定派であり、かつ星井美希の友人でもある……そんな彼女の協力を取り付けない手は無い。といっても、『黒いノート』を押さえるための具体的な方法については別途考えないといけないが」
L「はい。まさかキラ信者の彼女に『キラを捕まえたいから協力してくれ』などとは口が裂けても言えませんので……捜査であることを伝えず、悟られず、なおかつ星井美希と天海春香の両名からも絶対に怪しまれることなく、目的の『黒いノート』を押さえる……そんな方法を考えなければなりません」
松田「あ、あるんすかね? そんな方法……」
L「正直、現時点ではまだ何も思いついていません。が、今はとにかく弥海砂を協力者とすることです。ノートの具体的な押さえ方はそれから考えましょう」
月「そうだな。まずは弥海砂の協力を得られるような状況を作らなければ始まらない」
L「ということでよろしくお願いします。月くん。当初の計画通り、弥海砂と親密な関係になって下さい」
月「……竜崎。お前も既に彼女と接点があるんだから、別に当初の計画にこだわらず、お前が自分で彼女と親密になってもいいんじゃないか?」
L「いえ。女性を味方につけるのであれば私よりも月くんの方が圧倒的に適任です。それについては皆さん異論無いはずです」
松田「それはまあ……そうっすね」
月「…………」
262:以下、
総一郎「いや、待て。竜崎。ライトをこの捜査本部に加える条件として『天海春香の家庭教師の件以外にライトに危害が及びかねないような捜査は頼まない』としていたはずだ」
L「あ、はい」
総一郎「弥海砂はキラでなくとも、キラ信者……そうであれば、万が一、ライトがキラ事件の捜査をしていることに気付かれたら、どんな行動に出られるか分からない」
L「そうですね。既に月くんにもお話しした内容ですが……たとえば、ネットに月くんの顔写真を『キラを捕まえようとする者』としてアップし、キラに裁いてもらおうとするとか……十分ありえますね」
総一郎「! …………」
L「また、アイドル事務所関係者を殺した方のキラ……つまり天海春香は、犯罪者でなくとも、自分の邪魔になる者は殺すとみてまず間違いありません」
L「自分の事務所を陥れようとしていた他の事務所の関係者を軒並み殺しているくらいですから、自分を捕まえようとする者にも容赦はしないでしょう」
総一郎「…………」
L「ただ現状、警察官として顔を知られている夜神さんと模木さんが殺されていないのは、単にまだ星井美希・天海春香の二人がそこまでの脅威を警察および“L”に感じていないから、というのもあるでしょうが……一番大きな理由は、今殺してしまうと足がつくことは避けられない、と考えているからでしょう」
 
L「夜神さん達が警察官として顔を出して聞き取り調査を行ったのは、765プロダクションの関係者と星井美希の当時のクラスメイトだけですから」
L「しかしネットに『キラを捕まえようとする者』として顔が晒された者であれば話は別です。その時点で晒された者の顔は万人に周知の情報となるわけですから、殺したところでそこから足はつきません。キラ……こちらは今犯罪者裁きをしている方、つまり星井美希ですが……彼女がこれまで行ってきた犯罪者裁きと同じです」
L「つまり月くんにはそれだけのリスクを負ってもらうことになります。ただもちろん私は、月くんならそのリスクが現実化するような事態にはなりえないと確信していますし、またそうであるからこそ、『弥海砂との接触』という重要な役割を月くんに担ってもらいたいと考えているわけです」
総一郎「いやだが竜崎……それだけでは何の保証にも……」
月「父さん」
総一郎「ライト」
263:以下、
月「今のこの状況……竜崎までキラ側に顔を知られてしまった以上、捜査を長期間に及ぼすのは危険だ」
総一郎「…………」
月「確かに竜崎の言うように、今は足がつくことを恐れ、父さんや模木さんを殺していないのだとしても……現実的に、自分達のすぐそばにまで捜査の手が迫っているということを知れば、たとえそれによってより疑いが強まることになるとしても……自分達を追う者は躊躇せずに殺すだろう」
月「キラにとっては、捕まればその瞬間に自分の死が確定するからだ」
総一郎「うむ……」
月「そうであれば、キラ……星井美希と天海春香が、自分達のすぐそばにまで捜査の手が迫っているということに気付かないうちに……勝負をつける必要がある」
月「そのためには、キラ信者とまでいえるレベルのキラ肯定派であり、さらに星井美希と友人でもある弥海砂の協力を得ることは必要不可欠……すなわち、彼女と一定の信頼関係を築くことが急務」
月「そして僕がその役割を担うことで捜査が進展し、キラ逮捕につながるのなら……僕は全力でその役目を果たしたい」
総一郎「ライト……」
月「頼む。父さん。キラ事件の早期解決……その為には、危険を承知でも僕が動くしかないんだ」
総一郎「……分かった」
月「父さん」
総一郎「ただし、捜査の状況は常に皆に伝えるようにしろ。絶対に、お前一人の判断だけで行動するな」
月「ああ。もちろんだよ。父さん」
L「ご理解いただきありがとうございます。夜神さん」
松田「いいなあ、月くん。はるるんとやよいちゃんの家庭教師に加えて、ミサミサとも親密になる役目だなんて……」
L「松田さん」
松田「はい。すみません」
264:以下、
L「では今後、月くんには家庭教師として天海春香への接触を続けることと並行して、弥海砂とも一定の信頼関係を築いてもらいたいと思います」
L「そして月くんと弥海砂との信頼関係が熟したと判断できれば、弥を協力者とし、星井美希と天海春香のいずれかが所持しているであろう『黒いノート』の現物を押さえる……現時点ではまだそのノートがキラとしての活動に関係するものであるという確証はありませんが、他に物的証拠となりそうなものが無い以上、まずはそこからあたります」
L「その他、今後の捜査の振り分けの詳細は明日、星井さんと相沢さんも来られた時に伝えることにします」
L「特に星井さんとは、私と月くんが星井美希の直接の知り合いとなった以上、綿密に打ち合わせをしておく必要があります。……ワタリ」
ワタリ『はい。何でしょう。竜崎』
L「今日、星井係長が着けている超小型マイクが拾った星井美希との会話の中で、何か不審なものは無かったか? 特に、星井美希が東応大学の学祭から帰宅した後、現在までの間でだ」
ワタリ『今のところ、特に不審な会話はされていません。星井美希から星井さんに対し、『学祭が楽しかった』程度の事は話していましたが』
L「分かった。だが今後、二人の会話にはより一層の注意を払って耳を傾けるようにしてくれ。星井美希が『自分の父親は以前キラ事件の捜査をしていた』という認識を持っている以上、いつ彼女が、“竜崎”と名乗る男に心当たりは無いか、などと星井係長に尋ねないとも限らない」
ワタリ『分かりました』
松田「いや、でも竜崎……現時点で、ミキミキがそのようなことを係長に尋ねる理由は無いのでは? さっき局長も言っていましたが、竜崎は設定上、月くんの友人というだけ……流石にこの段階では『竜崎=“L”』という認識は持ちようがないでしょう」
L「今はそうかもしれませんが……もし星井美希が何かのきっかけで私の正体を疑い始めた場合、警察官を父に持つ月くんとのつながりを考えると、『竜崎は“L”かもしれない』という推測はできなくとも、『竜崎はキラ事件の捜査に関係している者かもしれない』と考える可能性はゼロではありませんから」
松田「ああ、なるほど……」
L「まあでも、もし星井美希がそのような探りを星井さんに入れるようなことがあれば、もうその時点でキラ確定ですけどね……彼女がキラでないのなら、私の正体を確かめるような質問を『以前キラ事件の捜査をしていた』星井さんにする理由は無いですから」
月「確かにな。つまりその場合、星井美希に対する99%以上の疑いが――……」
L「はい。100%になります」
総一郎「…………」
L「……と言いたいところですが、まあ物的証拠が何も無い状況である以上、100%とまでは言い切れませんね。せいぜい99.9%といったところでしょうか」
381:以下、
L「このように、星井さんに対する星井美希からの接触には十分に注意を払っておく必要がありますが……それ以外の場面においても、今後はいつどこでどんな状況に陥っても適切な対処ができるように準備をしておかなければなりません」
L「もし私の正体が二人に疑われるようなことになれば、それは月くんへの不信にもつながりかねませんし……そこから『キラ事件の捜査に関係していると思われる者達が自分達の身近に迫っている』などと勘付かれた場合……最悪、既に『“L”と共にキラ事件の捜査をしている刑事』として顔を知られている夜神さんと模木さんも含め、少しでも不審な点がある者は全員殺されてしまう可能性があります」
 
L「そのような事態を避けるためにも、まずは私の嘘を完全な真実として擬制しておく必要があります。……なのでこれから、私は徹底的に“竜崎ルエ”のキャラクターを作り込みます。あらゆる状況を想定し、どんな方向から突かれても矛盾が出ないようにする」
総一郎「そうだな。今後も定期的に二人と顔を合わせることになるのであれば、対策は早めに打っておくに越したことはない」
L「はい。それでは、今日のところはこのへんで解散としましょう。少し早いですが、明日からまた忙しくなると思いますので、今日は皆さん家に帰って英気を養って下さい」
総一郎「分かった。だがあまり無理はするなよ、竜崎」
L「はい。お気遣いいただきありがとうございます。夜神さん」
松田「あー、僕もアイドルと親密になりたかったなー」
模木「明日からも全員で力を合わせて頑張りましょう」
松田「……模木さんの優しいスルーが心にしみるなあ……」
L「月くん」
月「? なんだ? 竜崎」
L「すみませんが、月くんも少し残って“竜崎ルエ”のキャラクター設定の構想を手伝っていただけませんか? 今後、二人と直接接触していくことになるであろう我々の間で認識の齟齬が出るとまずいですので」
月「ああ、分かった。じゃあ一緒に考えよう」
L「ありがとうございます。ではまず、“竜崎ルエ”の生い立ちからですが――……」
266:以下、
【現在・都内某スイーツ店】
(アイドルとしての美希の魅力について語り続けているL)
L「……他には、そうですね。美希さんは歌唱力も目を見張るものがあります。『歌姫』と称されている如月千早さんに勝るとも劣らない力強く伸びのある歌声……」
L「それでいて、『ふるふるフューチャー』などの可愛らしい楽曲についても、曲にマッチした甘めの歌声で見事に歌い上げている……アイドルとしての天性の才能を感じます」
美希「ふむふむ」
L「……とまあ、大体こんなところでしょうか」
美希「ふ?ん。竜崎って、春香のファンなのにミキのことも結構よく知ってるんだね」
L「別に、美希さんだけというわけではないですよ? 765プロの他のアイドルの方についても同程度には知っているつもりです。他ならぬ、春香さんの同僚にあたる方達ですので」
美希「なるほどね」
L「…………」
美希「ねぇ、竜崎。この後まだ時間ある?」
L「? はい。ありますが、何か?」
美希「もしよかったら、ミキのおうちに来ない?」
L「! ……いや、流石にそれは……まずいです」
美希「? なんで?」
L「いくらなんでも、今を時めく売れっ子アイドルの美希さんの家になんて……いえ、そもそもそれ以前に、家に二人きりというのは……」
美希「ああ、それなら大丈夫なの」
L「?」
美希「今日はおうちに、パパがいるから」
L「! …………」
285:以下、
【三十分後・美希の自宅】
(Lを連れて帰宅した美希)
 ガチャッ
美希「ただいまなのー」
L「お邪魔します」
美希「さあ、上がってなの」
L「ありがとうございます。……ちなみに今、家におられるのはお父上だけなんですか?」
美希「うん。ママは高校の同窓会だし、お姉ちゃんは友達に会いに行ってるの」
L「そうですか」
星井父「――ああ、お帰り、美希。って……え?」
L「……どうも」
星井父「えっと……美希? こちらさんは……?」
美希「ああ、うん。竜崎っていうの。ミキの友達」
星井父「友……達……?」
美希「うん」
星井父「えっと、美希の友達……といっても……高校生? じゃないです……よね?」
L「あ、はい」
星井父「一体どういう友達……って、まさか」
美希「?」
星井父「……まさか、美希の彼氏ってんじゃ……」
美希「違うよ?」
L「はい。違います」
星井父「じゃ、じゃあ……一体どういう関係のお友達なんだ? 美希……」
美希「まあそのへんはおいおい話すとして……とりあえず中入ろ。はい竜崎、スリッパ」サッ
L「どうも」
星井父「…………」
(リビングに入る三人)
美希「立ち話も何だし、座ってなの」
L「ありがとうございます」
(テーブルの前の椅子に座るL)
星井父「……で、二人は一体どこで知り合いに……?」
美希「…………」
(Lの正面の椅子に星井父、Lの隣の椅子に美希がそれぞれ座る)
L「……私と美希さんは、先週の日曜日、東応大学の学祭で知り合いました」
美希「そうなの」
星井父「学祭で? ……まさか、うちの娘をナンパしたんじゃ……」
美希「違うの」
L「違います」
星井父「…………」
382:以下、
美希「学祭のイベントでミキの友達の海砂ちゃんって子のライブステージがあって、たまたまそこに竜崎が来てたの。それで知り合ったんだ」
星井父「何? じゃあ竜崎……さんも、アイドルなんですか?」
美希「違うの」
L「違います」
星井父「…………」
美希「えっとね、竜崎は友達の東大生の人と一緒に学祭に来てて。で、その友達の人が東大生の中ではちょっとした有名人だったから、そのライブイベントの司会の人からステージに上がるように呼ばれたらしいの」
星井父「ほう」
美希「で、そのとき一緒にいた竜崎もついでにステージに呼ばれて、そのすぐ後にライブ会場に着いたミキや春香達もまとめてステージに呼ばれちゃって……そこで知り合ったってワケ」
星井父「……なるほど。ということは、君も東大生なのか?」
美希「違うよ?」
L「はい。違います」
星井父「…………」
美希「それでライブが終わった後、ステージに上がった皆と、海砂ちゃんと、あとその司会の高田さんって人も一緒にお茶したの」
星井父「じゃあそこで本格的に友達になったってことか?」
美希「そうなの」
L「はい。決して怪しい関係ではありません」
星井父「まあ経緯は分かったが……しかし今日は二人で会っていたのか?」
美希「そうだよ」
星井父「それは……デートってことじゃ……?」
美希「そうだね」
星井父「いや、そうだねってお前……」
L「…………」
287:以下、
美希「っていっても、別にミキと竜崎の間にどうこうなんてないの。そもそも竜崎が好きなのはミキじゃなくて春香だし」
星井父「春香? ……って、天海春香さんか? 美希と同じ事務所の……」
L「はい。その天海春香さんです。といっても、今美希さんが言った『好き』というのは、いわゆる恋愛感情という類のものとは少し違います。私はあくまで、アイドルとしての春香さんのファンですので」
美希「そうなの。それも、春香がデビューしたての頃からの大ファンなの」
L「はい。大ファンです」
星井父「じゃ、じゃあその天海春香さんの大ファンの君が、何故今日はうちの娘と二人で……?」
L「それは……」
美希「ミキが竜崎を誘ったの。『今度の日曜、二人でゆっくりお話ししない?』って」
星井父「じゃ、じゃあ美希……まさかお前の方がこの竜崎……さんを?」
美希「ううん。それも違うの。ミキはただ、春香の大ファンの竜崎が、ミキのことをどう思ってるのか聞いてみたかっただけなの。もちろん、アイドルとしてのミキのことを、って意味でね」
星井父「他のアイドルのファンの人から、自分がどう見られているのか知りたかった……ってことか?」
美希「うん。今までそういう人の意見って聞いたこと無かったし、ちょうどいい機会かなって」
星井父「なるほど……そういうことか」
美希「そうなの。だからやましいことなんて何も無いの」
L「はい。断じて何もありません。どうかご安心下さい。お父さん」
星井父「……分かった。信じるよ。しかし、今日会ったばかりの娘の友人から『お父さん』と呼ばれるのはちょっと……」
L「いけませんか? ではパパさんと」
星井父「……いや、お父さんでいい」
288:以下、
美希「あ、そうだ。まだ言ってなかったけどね」
L「? 何ですか?」
美希「ミキのパパはね、刑事さんなの」
L「! ……そうだったんですか」
星井父「ええ、まあ」
美希「あっ。そういえば、あの人……夜神月さんのお父さんも、刑事って言ってたよね?」
L・星井父「!」
美希「ねぇパパ、夜神さんっていう刑事さん、知ってる?」
星井父「あ、ああ……刑事局長の夜神さんか? もちろん知っているが……」
美希「刑事局長って、確かすっごく偉い人だよね?」
星井父「ああ。警察庁の中で、長官と次長の次に偉い人だ」
美希「へー、やっぱりすごい人のお父さんはすごいんだね」
星井父「美希。お前、もしかして夜神さんの息子さんと知り合いなのか?」
美希「うん。さっき話した、学祭に来てた竜崎の友達の東大生っていうのが、その人なの。名前は夜神月。東大の入試をトップで通過した超天才で、しかも今は春香の家庭教師をしてるんだよ」
星井父「……そうだったのか。なんともまあ、世間は狭いというかなんというか」
美希「ねぇパパ、ちなみにその夜神月さんのお父さんって、すごくイケメンだったりする?」
星井父「え?」
L「…………」
美希「あのね、その夜神月さんって、頭良いだけじゃなくて、そのままアイドルできちゃいそうなくらいのイケメンなの。だからそのお父さんもやっぱりイケメンなのかなって思って。ね、どう?」
星井父「ああ、そういうことか。まあ確かにイケメン……というか男前な感じかな。ダンディというか、精悍な顔つきというか……」
美希「そうなんだ。じゃあやっぱりある程度遺伝してるのかもね」
星井父「……というか、美希」
美希「? 何? パパ」
星井父「お前まさか、もしかしてその夜神さんの息子さんに気があるんじゃ……」
美希「ううん。ミキ、カッコ良すぎるヒトって苦手なの。なんか浮気とかされそーだし」
星井父「そ、そうか。うん。それならいいんだ。それなら……」
美希「もー、パパったらちょっと心配しすぎって思うな」
星井父「いや、そりゃ普通心配するだろ……まだ高校生になったばかりの娘が、そんな次から次へと男の知り合いばかり増やしてたら……」
美希「別にそんなに増やしてないよ? せいぜい竜崎とその夜神月さんくらいだし。しかもミキ、夜神月さんとはまだほとんど話してないしね」
星井父「そうなのか? まあそれならいいが……」
L「…………」
L(星井美希……一体何を考えている……?)
289:以下、
【一週間前(東応大学の学祭があった日)・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(総一郎、模木、松田の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)
月「星井美希の自宅に監視カメラと盗聴器を設置……か。よくあの父がそんな捜査を許したな」
L「はい。もちろん最初は難色を示されましたが……」
月「まあ相手が相手だ。ある程度は仕方が無いだろう。これが冤罪なら大問題だが……」
L「はい。ですが星井美希はキラです。99%間違いありません。またカメラ等は仕掛けていませんが天海春香も同様です」
月「ああ、それは僕も同意見だ。だがその残り1%を埋めない限りは……」
L「はい。だからこそその1%を埋めるための努力を今しているというわけです」
月「そうだな。ちなみにその監視カメラ設置の件は、僕達以外では父とワタリしか知らないということでいいんだな?」
L「はい。くれぐれも他の方には他言無用でお願いします。特に星井さんにはご内密に」
月「そうだな。下手をすると竜崎が星井さんに殺されかねない」
L「ええ。私も命は惜しいですので」
月「だがそれよりも、今はキラに殺されないための方策を練らないとな。……で、これからどうする? もう“竜崎ルエ”の設定はほぼ完成したが……」
L「はい。とりあえずはこの設定を完璧に頭に入れておき……星井美希、天海春香のいずれから探りを入れられた場合にも問題無く対応できるように準備しておきましょう」
月「そうだな。さっき竜崎も言っていたが、やはり僕達の間で認識の齟齬が出てしまうことが一番まずい……もしそれが出てしまい二人に怪しまれるようなことになれば、最悪僕達二人まとめて、などということも……」
L「! …………」
月「? どうした? 竜崎」
L「月くん。これはいわゆる『モテ期』というやつでしょうか?」
月「? いきなり何を言ってるんだ?」
L「……今を時めくアイドルから、デートに誘われました」
月「! まさか、天海春香か!?」
L「いえ」
月「! じゃあ……」
L「はい。―――ミキミキこと、星井美希からです」
月「星井美希だと? 一体何故……」
L「分かりません。とりあえずこれだけが送られてきました」スッ
(月に携帯の画面を見せるL)
月「どれどれ……」
--------------------------------------------------
From:星井美希
To:竜崎ルエ
件名:ミキなの。
ミキなの。
今日あんまりお話しできなかったから、
今度の日曜、二人でゆっくりお話ししない?
お返事お待ちしておりますなの。
みき
--------------------------------------------------
290:以下、
月「…………」
L「まさかとは思いますが、今日のやりとりだけで……私が“L”だと勘付いたのでしょうか?」
月「いや、いくらなんでもそれは無いだろう。“L”どころか、そもそもキラ事件の捜査に関係している、またはしていた者であるとすら疑われる理由は無いはず……」
L「そうですよね。では単に私個人に興味を持ったということでしょうか?」
月「確かにそういう可能性もあるな……一応……」
L「…………」
月「だがいずれにせよ、これはチャンスといえばチャンス……。今日のメンバーでの再度の会合を待つまでもなく、星井美希に直に探りを入れられる……」
L「そうですね。向こうから誘ってきているわけですから、これに応じても何ら不自然ではないですし……逆に断る方が怪しまれかねません」
月「ああ。何といっても向こうは売れっ子アイドルだからな……デートの誘いを受けて断る男なんてまずいない。それに“竜崎ルエ”は天海春香の大ファンだが、765プロの他のアイドルに対しても当然愛着・愛情はある……」
L「はい。さっきそういう設定にしたばかりですからね」
月「ならば、“竜崎ルエ”としての答えは……」
L「はい。一択です」
月・L「……行くしかない!」
291:以下、
【その翌日・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「……というのが、昨日までの捜査状況です」
相沢「そんなことになっていたのか……」
星井父「…………」
総一郎「まさか昨夜のうちに星井美希から竜崎にアプローチがあったとは……」
松田「でも月くんならともかく竜崎って……。ミキミキの好みのタイプっていったい……?」
L「…………」
松田「あっ。す、すみません竜崎」
L「……いえ」
星井父「…………」
模木「……係長……」
星井父「え? あ、ああ……何だ? 模木」
模木「いえ、その……大丈夫ですか? 顔色がかなり優れないようですが……」
星井父「あ、ああ……大丈夫だ」
L「星井さん」
星井父「……竜崎。すまない。まだちょっと頭の整理が追いついていない……」
L「心中お察しします……が、もうここまで来てしまった以上、いよいよ覚悟を決めて頂くべき時が来たのかもしれません」
星井父「…………」
L「現時点では、美希さん……いえ、星井美希がどういう意図を持って私を誘い出したのかは不明ですが……彼女がキラであるとすれば、私の素性について何らかの不信感を抱き、それを確かめるためにアプローチをしてきたとみるのが最も自然です」
星井父「…………」
L「警察官を父に持つ月くんとのつながりを怪しんだのか……あるいは、私のした身の上話のどこかに引っ掛かりを感じたのか……」
L「そこのところはまだ分かりません。流石にまだ『キラ事件の捜査に関係している、またはしていた可能性がある』というレベルで疑われているということは無いと思いますが……」
L「しかしそうはいっても、こうして現実に向こうからアプローチが仕掛けられてきている以上……これには応じるほかありません」
293:以下、
総一郎「……そうだな。星井美希の意図が何であれ、ここで竜崎が会うのを拒むのはむしろ不自然であるし……逆に、彼女に直接探りを入れるにはこの上ない絶好の機会ともいえる」
L「はい。私もそう考えています。ですのでとりあえず、私は一週間後の接触の際に、星井美希の様子をできるだけ精緻に観察します」
L「私を誘い出した真の理由、背景、思惑……彼女を直接観察することで、それらを可能な限り見極めたい」
星井父「…………」
L「そしてそのためには……星井さん」
星井父「……何だ? 竜崎」
L「この捜査にはあなたの協力が必要不可欠です」
星井父「! …………」
L「先ほど私は、流石にまだ『キラ事件の捜査に関係している、またはしていた可能性がある』というレベルで疑われているということは無いと思う、と述べましたが……それも100%そうだとまで断言できるものではありません。断言できるだけの論拠が無いからです」
L「なのでもし今、万が一……星井美希が、何らかのきっかけにより『竜崎はキラ事件の捜査に関係している、またはしていた者かもしれない』などと考えているとすれば……そしてその場合に彼女がとりうる、それを確かめるための最も確実なやり方は……」
星井父「…………」
L「私と星井さんを、不意打ち的に対面させること」
星井父「! …………」
L「星井美希の認識では『星井さんはキラ事件の捜査をしていた』ということになっているわけですから……私と星井さんとを対面させ、双方の反応を観察することで、私と星井さんが既知の関係かどうか……すなわち、私がキラ事件の捜査に関係している、またはしていた者かどうかを見極めようとするのが最も簡単です」
星井父「……確かに……」
L「ですので星井さん。今度の日曜は捜査は結構ですのでご自宅に居て下さい」
星井父「! …………」
L「そしてそのことは星井美希には言わずに……もし今日以降、彼女から『今度の日曜は家に居るか』と聞かれたら『居る』と答えて下さい」
星井父「……分かった」
L「そして言うまでもありませんが、今後もこれまで同様、この捜査本部以外の場所では常に超小型マイクを身に着けておくようにして下さい」
星井父「……ああ。今まで同様、しっかり身に着けておく」
294:以下、
L「よろしくお願いします。では、星井美希の家庭内での言動については、これまで通り星井さんのマイクを通じて常に把握することとして……その他の捜査の振り分けについて、今からご説明します」
L「まず月くんですが……昨日もお伝えしたとおり、引き続き家庭教師を通じての天海春香への接触と、弥海砂との信頼関係の構築をお願いします。……と言いたいところですが……天海春香はいいとしても、弥海砂の方はちょっと様子を見てからの方がいいかもしれませんね」
月「そうだな。星井美希がいきなり竜崎にアプローチを仕掛けてきたということは……先ほど竜崎自身も言っていたが、竜崎の素性について何らかの疑念を抱いている可能性が高い。そのような状況で僕が弥海砂に接触を図れば、弥からその友人である星井美希にもそのことが伝わり、僕の正体についても同様に不信を抱かれてしまう可能性がある……」
L「はい。まあ弥海砂もアイドルですし、月くんが出会ってすぐに口説きに掛かったとしてもそこまで不自然ではないかもしれませんが……急いては事を仕損じるとも言いますし、一旦今は天海春香との接触のみに専念して下さい」
月「分かった」
L「またこれまでの765プロダクション関係者全員に対する捜査結果からも、キラ容疑者としてはもう星井美希と天海春香の二人のみに絞り込んでよさそうですので……まだ二人に顔が割れていない相沢さんと松田さんは、今後は手分けしてこの二人の尾行捜査をお願いします。ただし絶対に気付かれることがないように」
相沢「ああ。分かった」
松田「任せて下さい」
L「特に、彼女らが二人だけで行動している時は、例の『黒いノート』の授受が無いかにつき、注意して観察しておいて下さい。また授受が無くとも、二人の外出時の携行品……特にノート大の物が入るサイズの鞄を所持しているかどうかの確認もお願いします」
L「ただしもし仮に『黒いノート』らしき物を視認しても、絶対にその場で取り押さえたりなどはしないこと」
L「これまで何度も言っていることですが、キラの能力、殺し方がまだ何も判明していない以上……こちらがキラを追っているということに気付かれた瞬間、現時点で顔を知られている者は即皆殺しにされてしまう危険性がある……最早それくらいに考えて行動しなければなりません」
L「だからこそ、これも以前から言っていることですが……絶対に二人には我々が追っているということに気付かれることなく、キラとしての証拠を押さえる……それしかありません」
相沢「うむ……」
松田「ぼ、僕達も竜崎みたいに面を着けて尾行しますか? なんて……ははは」
相沢「…………」
松田「はい。すみません」
295:以下、

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