那珂ちゃんは申したい!back

那珂ちゃんは申したい!


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艦これです。地の文有りです。シリアスな内容ですので話の内容を。捨て艦の那珂ちゃんに提督候補の大佐さんが色々とお話を聞くという内容です。ちなみに鳳翔さんのお話とは一切関係ございません。
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私は一体の艦娘の動向から目が離せなくなった。
それはさも天気絶好の物見遊山に心踊り、隠しきれないそれを体で表現しているようで。その幸福なステップを踏み笑顔あふれるそれを見ると、私はこの先起こりうる現実とは裏腹に乖離した心情を持つあれに、気味の悪さを隠しきれないのだ。
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まさか知らないのか。軍艦から生まれ変わり艦娘として人生をやり直し、最初に与えられた任務の内容を。
いや、そんなはずは無いと直感する。
私の直属の上司にあたる「提督」は作戦内容を立てる祭には必ず入念な準備をする。作戦に必要な弾薬に燃料。作戦海域当日の天気、何体の艦娘が必要でそれを動かすには幾らの経費が掛かるかなど。
前後に纏わる全ての事柄を綿密に、綿密を重ね資料を作成する。そしてその資料は誰が目を通しても相違なく一致する見解を示すように、提督は作り上げるのだ。
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ならば何故だ。あの艦娘。川内型軽巡洋艦「那珂」に与えられた任務は、危険海域に到達するまでの本隊の護衛。
提督では無く、本作戦には関わらない大佐の階級を持つ私でも作戦内容は把握している。那珂に渡された資料の内容も勿論私も存じている。
危険海域までの護衛、としか書かれていなかった資料を目にする前、私は那珂が艦娘として生まれ変わり初めての作戦が今回の様に大規模なものでは、携わるには荷が重すぎると思っていた。
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しかしその那珂の任務を知った時、那珂は遂行できない任務の責任を自らの命で贖えと突きつけられているのだと知ったのだ。
それは那珂に限った話ではない。那珂一体の命では本隊護衛の額に遠く及ばないのだから。
他にも様々な艦娘の名前が挙がっていた。名を挙げると埒が明かないくらいに。私は先程作戦開始前から死が約束された物達の集いを覗いた。
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その有様に私は何とも心が痛んだ。
私がこの物達だったら抑えきれない自殺願望に自ら先に命を絶とうと決意するくらいに、澱んだ死の空気がその建物を支配していた。一人として隣に座る艦娘に声を掛けず、下を向き刻々と迫るその時まで延々と待機していたのだ。
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車屋行くので8時くらいに再開します。あとずっとこんな雰囲気でお話は進みます。
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それ故、私はあの「那珂」に釘付けになったのだ。
だがどうやら私に限った話ではないようだ。その那珂とすれ違った他の艦娘も後ろ指を刺すようにひそひそと異様な行動について話しあっている。
今まで見かけた捨て艦とは違う、「那珂」とは違うその一体に疑問を生じ得ないのだろう。
私は並み居る艦娘をかき分け脇目も振らず那珂に近づく。すると私の存在に気がついた那珂はこちらを振り向いた。
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那珂「あっ!こんにちは!提督....って違いましたね。大佐さん」
那珂は私に戯けた雰囲気で直立し敬礼をすると笑顔ではにかんだ。まるですれ違った仲の良い近所の方に挨拶をする様な自然体だ。
大佐「那珂、少し話しをしたいのだが、時間はあるか?」
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那珂「うーん...。時間はあるかって言われても作戦開始まで残り一時間切ってますからねぇ...。まぁいっか」
だって私はこのままでいいですから。時計台で時刻を確認する那珂は人差し指を唇に押し当てそう言った。そして私の方へ向き直すと、
那珂「でもここじゃ那珂ちゃんにみんな釘付けみたいだし、控え室みたいな落ち着いた場所でお話しましょうか。私の居場所だと話したい内容も好きに話せないでしょうしから」
勿論大佐さんのお部屋で、ですけど。
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人類には永遠のテーマがある。
どれだけ文明が栄え人類の英知では絶対に対抗できなかったとされた深海棲艦への抵抗。不可能を可能にした人類の目まぐるしい日進月歩をもってしても抗うことができないそれは人の運命とも言われ、あるいは終焉とも連想されるテーマの一つ。
人はいつか死ぬ。古来から現在に至るまで、権力者からごく普通の一般人にまで続き挙げ句の果てには万物全てに通づる悩みでもある。こんな話も有名だ。
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自らの権力を持続し続けるために死を無視しようとした秦の始皇帝は、毒物である水銀を不老不死の霊薬と称し服薬し続けたとか。
しかし見るからに危なかしいどろどろとした銀色の液体を躊躇なく飲める神経を持つ人間は少ない。無論鈍感では皇帝とは務まらないのは明々白々だ。歴とした理由がある上での行動だ。
秦より以前の中国には錬丹術という思想がすでに存在していた。不老不死に近づくにはと、長寿の秘訣を探る思想が。
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その夢物語な錬丹術を現実的に生産しようと派生したのが外丹術という思想だ。
それは、不老不死を可能とする秘薬の生産。その錬丹術では賢者の石と異名がある、辰砂という禍々しい地獄の猛火をその身に押さえ込んだ様な紅色をもつ鉱物使用した。
この辰砂は水銀と硫黄が結合した化合物だ。そしてこの辰砂は約400度から600度で加熱すると水銀蒸気と亜硫酸ガスに分解される。その水銀蒸気を冷却凝縮させると外丹術で使われる物質、水銀が精製されるのだ。
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この様に手間がかかり尚且つ鉱物から採れる水銀という液体は神聖なものであったに違いない。
面白いことに中国に限らず西洋でもエリクサーを製造するにあたり賢者の石、辰砂を触媒にしたという話もある。
過去でも逃れられない死の運命に人類は様々な手段を用いて抵抗しようとしていた。現代においても不可能を可能にしようと未だ躍起になっている者もいるくらいにだ。
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どうして受け入れるのを拒み続けるのか。有りのままを拒むのか。それは、誰一人として死の先に待つ何かを知らないからだ。
哲学の最初の一歩。人間死んだらどうなるか。
宗教の最初の一歩。死んだら貴方は天国か地獄に落ちます。
道徳の最初の一歩。死んだ先天国行きには徳を積まなければいけません、だから他人に優しく。
その答えを、艦娘は知っているのだ。
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声優さんのあの番組見てたら遅なりました。ほうちゅうさんがいなかったのは、えっ!ってなりました。仕方ないですけど。
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目の前に座る那珂は先程とはうって変わり静かに私が差し出したお茶を啜り極楽気分でいるようだ。一通り飲み終わり落ち着いたところで那珂は話し始めた。
那珂「それで、大佐さんは一体何のお話を私としたいんですか?まさか....アイドルの裏話とかですか!?そ、れ、は、秘密ですよぉ?いくら大佐さんでもそういった事は...」
大佐「いや....そういう類の話はあまり興味がない」
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那珂「え?。なら那珂ちゃんに聞きたい事は、一体何ですか?」
私がこの艦娘に聞きたい事は二つ。
一つは死の先に待つ深淵について。そして、これから那珂は死ぬのだが、死の先を知っている那珂は何故そんなに気楽でいられるのか。これらを知るため那珂を呼び止め自室に招いた。
しかし、私はどの面を下げて那珂に教えを請えばいいのだろうか。
今から貴方は死にますがどんな心境ですか。もう一度海の藻屑になりますがその先には何が貴方を待っているんですか。
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毎回報道番組にいるうんざりしてやまない記者の真似事を私はしなければならない。
厚顔無恥、恥を知れと心で罵った彼らは職業として厚かましくできる。だが私は探究心から顔を出した突発的な知識欲に苛まれて、那珂に取材をするのだ。
あぁ誰か私を罵ってくれ。罵声を大きく上げ張り倒し私が謝り続けても殴るのをやめないでくれ。卑怯者、屑野郎と言ってくれ。
私はこの鎮守府に在籍するどの艦娘に答えを問わなかった。長い付き合いになる初期艦の電にも聞けなかった。
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那珂に教えを請うたのは、捨て艦として出撃したらもう二度と会うことがないと解っているからだ。
この先を生き抜く艦娘に聴けなかったのは陰口を言われるのではないかと臆病風が吹いたせいだ。そんな抑えつけた疑問の捌け口に私は、敢えて先の無い那珂を選択したのだ。
唇が震える。喉がからからに乾き水をくれと声なき声が叫ぶ。まるで告解だ。ひた隠しにした罪から逃れられようと神に赦しと和解を得ようとする行為に似ている。
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私はぐるぐると脳内を輪廻する言葉を繋ぎ合わせ、こう言った。
大佐「那珂は、死んだら、どうなると思う?」
吐瀉物を吐き出した後の爽快感が私を包み込む。その胸糞悪い不快感に私は自らに苛立つを感じ始めた。そして那珂を見ると眉を潜め考え込むように俯いたのだ。
那珂「死んだらどうなるかですか....。ごめんなさい。私にはわかりません」
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那珂は私に向き直すとか細い笑顔をした。それは期待に応えられず笑うしかない、そんな風に思えた。
大佐「....知らないのか?」
那珂「はい、知らないです。でも大佐さん?何でそんな答えのない事を私に聞いたんですか?」
私の心を鋸歯状の刃物で突き刺しまるで痛ぶるようにじわじわと那珂に引き裂かれている錯覚を得た。鈍痛を胸に感じる。
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敢えて言葉を濁して質問したのが仇となり私に帰ってきたのだ。見透かしているのか、那珂は。私の真意を。
しかしそれは間違えだと那珂の瞳が教えてくれた。純な瞳の奥には罪人を嘲笑うかの様な天使は存在していなく本当に私の質問の意図を理解できなかったため質問を返したようだ。
だが逆に辛い。私は那珂に一から十まで説明しなければならないからだ。
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大佐「那珂は自分が艦娘と呼ばれているのは知っているな」
那珂「はい、そう呼ばれているのは知っていますけど、艦娘が一体何なのかはよくわからないんですよね。だって私が知っている「那珂」は軍艦っていう船だったはずで、その那珂が急に人間になった。しかも私と同じ顔と性格をした那珂が沢山いる。可笑しな話ですよね」
那珂艦娘として日が浅い。日が浅い、といえば人の主観によって定義が異なり日数は曖昧だ。
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言葉の便利さで濁さず数字で語るなら那珂はこの世に復活してから、本日を入れておよそ三日目だ。
その急造工事の賜物である那珂には二日間で自らの役割を果たす上で必要な知識と動きを学んでもらわなければならない。そうでもしないと作戦の頭数には数えられないからだ。
その盾として機能させるためだけの二日間には那珂は自己の知識、艦娘とは何かなどまるで必要ないのだ。
大佐「艦娘とは....その名に由来する、軍艦の魂を、移植した、兵器の総称名だ。世間一般にはこの様なイメージが根付いている」
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大事な一節を省いた。勿論敢えてだが。
本来なら、艦娘とは深海棲艦を模倣して造られた人型兵器。そしてその名に由来する軍艦の魂を移植した兵器の総称を言うのだ。
前略を省略したのはそこまで知る意味はないと判断したためだ。
那珂「なんだかむずかしいですねぇ...。軍艦の魂を移植した兵器だなんて....」
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大佐「那珂は軍艦の魂を有している。だから私は那珂が、....死後の先を知っていると思っていたのだが、那珂は知らないのだな?」
那珂「あ、そういうことだから私には聴いたんですね!」
しかし那珂は知らない。なぜだ?
艦娘は軍艦の魂を移植した兵器。それ即ちその名に由来する軍艦の頃の記憶も憶えているはずだ。
これは私の憶測からの希望的観測ではない。艦娘には前世の記憶がある。どうやって沈んだか、どんな戦いぶりだったかをしっかりと憶えているのだから。
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那珂「.....なんで知らないのか。うーん....」
突如那珂は茶を飲み干した湯呑みを掴み私に見せつけた。その行動の意図がわからない私は、
大佐「どうした那珂...?」
那珂「なぜ知らないのか、ご説明しますね!って言っても今なんとなく思いついたのですけどね。大佐さんは、命と魂。これを何と考えますか?」
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大佐「単なるニュアンスの違いだと思う」
那珂「私は、こう考えました。命は生き物にあって、魂は物に宿るんじゃないのかなって。この違いはニュアンスの問題じゃなくて、時間の流れの感じ方」
大佐「時間の流れの感じ方.....。それが私の質問の答えに対し何を意味するのことなのか。教えてくれ」
人間にも時間の流れが心理的であれ変わってはくる。それはジャネの法則といい、人間が体感する時間の流れは心理的に変わりゆくものである。年齢を重ね、重ねれば反比例するように時間の流れは短く感じるという提唱だ。
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もしかして那珂はそのことを言いたいのか。
那珂「これは憶測ですけど、人間には思い出を記憶できるんだと思います。....私が受けた水上訓練での体感を頭が忘れていないから言えるんですけど、まちがっていませんか?」
大佐「あぁ間違がっていない。人間の記憶はここに詰め込まれる」
私は自分の頭を指差し2回ほど突く。すると那珂は安堵の声をし胸をなでおろす。
31: 以下、
那珂「あぁ...よかった...。じゃは話は早いです。物にも記憶があるっているのを言いたかったんです。もしかしたら人間が元軍艦の私と一緒、艦娘と一緒じゃないのかもしれないと思うと勝手話じゃ進めるわけにもいかないですからね」
大佐「それは知っている。那珂以外の艦娘から前世の武勇伝はよく小耳にはさむからな」
那珂「それなら次にもう一ついいですか?大佐さんは、人は死んだらどうなると思いますか?」
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大佐「.....那珂。私の質問を質問で返すのか」
那珂「はい。けど私は答えを聴いていません。大佐さんが考える人間の死の先を教えてほしいんです」
死んだら貴方は天国か地獄に落ちます。その時天国へ行きたいのなら人には優しくしておきなさい。
大佐「人は、死んだら天国か、地獄に行く」
33: 以下、
那珂「人は死んだら天国か地獄に行くんですか....。それってどこにあるんですか?」
那珂は子供の様に知らない事を聴きあさる。しかし比喩ではない。那珂はたった2日と少ししか世界を知らないのだから。
仮に人間ならばここで哲学の問答などせず新生児室で生を受肉した喜びで泣き喚いているのだから。
大佐「天国はこの空の上にあるらしい。地獄はこの大地より下に。これでいいか」
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那珂「もう大丈夫です。大佐さん。さっき、私は物には魂が宿り、生き物には命があると言いましたね。そして大佐さんがずっと聴きたがっているのは生き物にある命の終わりの話ですね」
大佐「あぁそうだ」
那珂は大事そうに両手で掴んでいた茶碗を机の上に置き、自分の右手を握り拳にすると茶碗の隣に置いたのだ。
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最近ぢろうになったので死んでました。明日で終わらせます。誰も見てへんと思いますが....。
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そして那珂は右手を宙にあげる。生き物である右手。
那珂「人は、生き物は死んだら天国に行くんですね。それと」
右手を机に落とす。衝撃音がなると那珂は握り拳を解き手の平を広げる。
まるで中身いっぱいに詰め込んだ水風船を落として割る様な仕草。だが話の流れ的に感受すると品が悪い。命が詰め込まれた肉袋を破裂させているみたいだ。中身が弾け迸るのは水ではなく血液。赤血球44%。血漿成分55%。白血球、血小板1%。からなる、私達の命の源。
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那珂「地獄に行く。これが人の終わり方。でも正解かどうかもわからない。大佐さん。私達は元軍艦です。物の終りは人とは違います。.....終わるっていうのも違いますけど....。だから、私は人の死後の先を知らないんです」
大佐「那珂は生き物には命。物には魂と分けていたのはそういう理由か」
ふと那珂は笑顔をなくす。一瞬にして消え現れた冷たい視線。背筋が凍りつく様なその瞳の奥から深海の闇を垣間見た気がした。
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那珂「大佐さんは聴きたいですか物の終りを。光も音も自分も何もかも存在しなかった私の体験談を」
果たして、私はよいのだろうか。
この先の会話で私がはいと言ったら形は違えど一つの答えを得ることができる。往年の願いだ。
この世界はもう長らく生死の境を有耶無耶にしている。沈んで死んだ筈の魂を人間の姿形した兵器に誂え、よくわからない生き物と戦わせる。
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陸地を餌とする深海棲艦の侵略で人は完璧に死に、だと思ったら半分生きていたり、もう何が何だかわからない。
三つ巴を戦いの中、幼な子頃から現在まで私はずっと懊悩とした。
人は死んだらどうなると。人が俗説とする、宗教が教授する答えなどどうでもいい。確かな、体験した物にしかわからない、那珂の確かな答えがこの世界の境を解き明かす鍵となるかもしれないのだから。
私は、ここまで来たら後には引けないのだ。
大佐「....教えてほしい」
41: 以下、
那珂「....わかりました」
冥府の門を覗き込む。あるいは扉に耳を立て中の喧騒を想像する。私はやっと謎を解く術を知るのだ。
那珂「大佐さん。物には魂が宿っていますね。もちろんこの湯呑みにも宿っています」
那珂は湯呑みを持ち上げ私に見せつけた。ほんの少し前にあった行動。その時の私はこの意図が理解できなかった。だがここまでの時間を有し出来事を纏めるとやっと意図が読めた。
42: 以下、
那珂「大佐さんはこの湯呑みは生きていると思いますか?」
大佐「あぁそのはずだな」
那珂「ではこれはどうですか?」
湯呑みから手を離す。ゆっくりと宙を彷徨い始め重力に引き込まれる湯呑みを何故か神秘的に感じる。まるで私達と同じだからだ。この天国と地獄に挟まれた空間の海を泳ぐ姿は。すぐにでも片方に落ちてしまいそうな現実はここにもあったのか。
43: 以下、
那珂は破片の一つを摘まみ取り握り締めた。
目を閉じ痛みを感じる様に力を込め続ける。血は出ない。艦娘は人間よりもずっと丈夫に造られているからだ。そう易々と皮膚を切り裂き中身を晒されては困るからだ。
那珂「痛いよね。物にそんな感覚なんてないけど私にはわかるよ。体が崩れて、剥がれるあの感覚、痛いわけなんてないもん。....大佐さん、物は死にません。ずっとここにいるんです」
44: 以下、
私は湯呑みの残骸を眺める。白を基調とした陶器に二つの波線模様の青が施された、湯呑みだった物。
那珂「ですけど、この湯呑みには口はありません。自分に起きた事を話すことはできないんです」
だから。
那珂「私が軍艦の頃だった時のお話をします」
45: 以下、
大佐さん。私は物は死なないと言いました。物は例え散り散りに、粉々になっても意識はあって自分の現状把握をしっかりと確認出来るんですよ。
那珂「私が沈み始めた時丁度ここ、ですね」
頭を指差し2回小突く。人の記憶が蓄積される器官。私はここが真っ二つになってたんですよ。変な感じでした、崩れて私と私が離れていくの互いに眺め合うのは。
那珂「その後、私は直撃弾を受け浸水が悪化し、そのまま海の底に沈んだのです」
46: 以下、
天地の境にある空間の海を彷徨い、海上には青色の波線と揺蕩う光が互いに交錯し合う。
那珂「そして私は沢山に別れた。死なず、意識がハッキリとして」
水底に音もなく砂を巻き上げ落ちる。そこが軍艦の墓場。暗い石棺に押し留めるのでなく、だだっ広い暗黒の空間の緯度経度が軍艦の墓標となる。
那珂は、物は自己の現状把握を確認すると事ができると言った。そして死なずに留まるのだと。
大佐「ずっと、そこにいたのか。那珂は。死ぬ事もできず、動くこともできない。見える物は何も無い暗闇の中に」
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那珂「そうですね、私はそうでした。それに私以外の艦娘の人もみんなそうですね。そしてこの湯呑みも。でも勘違いはしないでください。軍艦の私は意識を理解してはいましたけど、頭の中で映像を無意識に流している感覚と同じなんです。ただの一瞬をずっと見続けるのとおんなじです」
那珂は淡々と話を終えた。すると那珂は不自然な程笑顔にすんなり移り変わった。
そして立ち上がり左手をピースマークに変えると眉毛と目袋を挟み込む。流石に私でも知っている。アイドルのポーズ。見知らぬ誰かを笑顔にさせる仕事をする彼女らの十八番。
那珂「だから那珂ちゃんは恐くないんです!!それに大佐さんが言うには人は死んだら天国か地獄に行くんですから!!だから、だから....」
大佐「那珂、すまない。私には止める事ができないんだ」
48: 以下、
那珂は嗚咽交じりで涙を堪えている。
何だ私は。一体何をしている。私は今にも泣き出しそうな那珂を抱きしめても、仮初めの優しい言葉一つとして囁く事もできないのか。
何もできやしないのに自分は悦に浸る様にして那珂を抱きしめているのか。屑だ、私は最低のクソ野郎だ。心の奥で渦巻く、私が那珂と変われたのならばと。尚更だ、私は正真正銘の偽善者でクソ野郎だ。
那珂は私の胸に手を置き、押し離すようにして力を込めた。
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那珂「大佐さんは優しい方です。もしも、もしもまた艦娘に生まれ変わったら今度は提督になった貴方の元で戦いたいです。だから未来の「提督さん」。もう一つ、そんな貴方に聞きたい事があります」
大佐さんは、艦娘を人間とは思っていませんね。
大佐「....気付いていたのか」
那珂「はい。私は大佐さんは素直で、嘘のつけない真面目な人だと話してて気付いたんです。だからほんの少しの私との食い違いがずっと気になってたんです。大佐さんは兵器の私に気を遣ってどの言葉を使ったら傷つけないか、慎重に選んで話してましたよね?」
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大佐「あぁ、その通りだ。その通りだとも....」
艦娘は兵器であり人間ではない。どれほど精巧に造られても深海棲艦を殲滅するために造られた兵器にしか過ぎない。
那珂「だから教えて欲しいんです。私は兵器なんですか、それとも人間なんですか?」
なんてか弱い生き物なんだ艦娘は。自分は何者なのか、何物なのかもわからない。
天国にも地獄に行くのかわからない。それこそ本当にあるのかも定かでは無い。
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分かるのは艦娘が物だとするとまた一瞬が延々と続く生地獄を海底で彷徨うことになる。その恐怖を抱え大海原を深海棲艦を駆逐するために行軍する。
ふと捨て艦達が集うあの一棟と今を生き抜く艦娘達を当てはめる。何も、何も変わらないではないか。彼女らは遅かれ早かれ必ず沈む。ならばこの鎮守府は結局の所捨て艦の収容所ではないか。
私は明るく楽しげに蔓延る死の空気を今やっと嗅ぐことができた。
私は嘘が嫌いだ。事実を捻じ曲げるのことは私の人生観に反する。心で謝る。那珂、すまないと。
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大佐「艦娘は、兵器だ。紛れもない兵器だ」
那珂「知ってます。艦娘が兵器だってことは。それに大佐さんが嘘をつけない事も」
那珂は弱々しい笑顔をすると踵を返し歩き始めた。
那珂「大佐さんごめんなさい。お役に立てなくて。それにもう時間が迫っているんで、そろそろ行きますね」
私は時計を確認する。作戦開始時間の二十分を切っていた。この後班ごとに別れ各自の任務の最終確認が簡潔に行われる。勿論本作戦の要の艦娘らはもっと以前から打ち合わせをしている。那珂が作戦開始前限界の時間に回されたかというと捨て艦であるからだ。
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私は那珂に言わなければならない。
もう二度と私はこの那珂に会う事ができないのだから。私の中で移ろい変化した信条。この礼と変化した信条を絶対言わなければこの先私が提督となり那珂の主人となった時、卑怯者すぎては顔向けする事ができない。
大佐「那珂!!!!」
大声で呼び止める。普段声を荒げる事などないため少しだけ上擦ったが気にしない。その声を聞き受けた那珂は歩みを止めると私の方を振り返らず留まる。
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大佐「私は、艦娘を物だと言うことしかできない。嘘はつきたくないからだ。だがこれだけは覚えておいて欲しい。私は艦娘を尊敬している。人間よりも気品で気高いその精神と魂、いや命は艦娘にしかないものだ。そんな彼女らを私は本当に誇らしく思っていると」
那珂「だったら、大佐さんが創る鎮守府はみんなが笑っていい人生だったって言える様にしてください。約束です。私はそんな鎮守府に行きたいんですからね」
振り返らない。だが私は大きく頷いた。
那珂「じゃあ大佐さん。また会う日まで、しっかりと頑張ってくださいね!!」
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その後本作戦は大成功を収め人類は深海棲艦が巣くう海域を新たに獲得することができた。
そして那珂も、自分の任務を忠実に全うした。
これが、私が艦娘を単なる物として認識しなくなった話だ。
私は若さ故の、などと軽々しい言葉で締めくくることのできないほど、深く彼女、那珂を傷つけ得た答えだ。当初得ようとした答えよりも尊く一生のうちにこの大切な真実を見逃してしまう人々がいる中、私は本当に価値のあるものを手に入れた。
金剛にも、榛名にも雷にもまだ誰にも話すことができない私の内に潜める黒い何か。
私はそれと一緒に贖罪のため一心不乱に戦い続けなければならない。薄汚れた死の匂い漂うこの世界で。
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