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提督「伊58の天国と地獄」


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もしこの世界に全人類があるのなら、きっと人類は滅亡したのだと伊58は考えている。
「人類は滅んだんでち。もう守るべきものは何もないでち。だから、休ませろでち」
提督はその言葉を一笑に付し、伊58に任務を言い渡す。伊58は海に出た。
冬の海は冷たい。寒さで死ぬことがないとはいえ、全身が凍えかじかみ震える。
水の中、直上から砲弾が降り注いでくる。間近を過ぎ去る砲弾の残した気泡に撫でられると、より一層震えが強くなった。
目標ポイントに到達すると、潜水艦用の小型ドラム缶に燃料を積み込み、元来た道を再び戻る。
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深海棲艦は帰路にある艦娘を攻撃しないので、砲弾に怯えることはない。しかし、荷物の燃料が重い。
ドラム缶に容量一杯の燃料を入れず、あえて空気を含ませ海上に浮かせて滑らすように運搬する水上艦と違い、潜水艦のドラム缶を運搬するには非常に体力を消耗する。
行きの砲撃は脆弱な潜水艦にとって恐怖だったが、帰りもまた潜水艦にとって重労働だった。
それを一日に何度も繰り返す。「いいじゃない、単純にきついだけの仕事で。こっちは毎日戦って命のやりとりをしているんだから」。ある艦娘はそう言った。
だから? だからの後にどんな言葉を続けるつもりなのか。なるほど確かに命のやりとりは大変だ、こちらの与り知らぬ苦悩もあるだろう。
でも、そちらの仕事が戦うことなら、こちらは耐えることが仕事なのだ。
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シーシュポスの神話というのがある。罪を犯した巨人シーシュポスは神から大岩を山の頂上まで運ぶという罰を受ける。しかし、その大岩はひとたび山頂まで到達すると転がり落ちていき、シーシュポスは再びそれを運び上げなければならない。永遠の罰。
伊58はその運命をいつしか己に重ねみるようになっていた。果てなき消耗と積み重なる塵労。それらに理由を求めた伊58は些か宗教的な自罰性を精神の型にしていた。
そして、その自罰の観念は伊58という個人から世界全体へと拡大するのにそう時間は要さなかった。すなわち、この世界そのものが何らかの罰を与えるための監獄なのだ。
伊58はそんな世界体系を「地獄」と称した。悪さをした人間が死後に行くとされるあの地獄。
この世を死後の地獄と考えることは伊58にとっては不本意ながらも都合が良いものだった。
この世界モデルを採用することによって、この世界で明らかに不自然な存在に説明がつくと考えている。
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艦娘と深海棲艦。これら問題の存在。そもそも現代に蘇った軍艦としての艦娘なんて存在を受け入れる方がおかしいと伊58は思うのだ。
復活なんてことを受け入れるより、むしろ人類側こそが死した軍艦達のいる世界に降りてきたと考える方がまだ経済的ではないだろうか。
艦娘として人格じみたものが宿ったのは兵器に罪と罰を認めさせるためで、深海棲艦はある種罰刑の一形態なのではないか。
深海棲艦という存在について人類はたゆまぬ研究と分析を行ってきた。とりわけ人類に敵対的であるその理由については生物学的、心理学的、経済学的にとあらゆるアプローチで探求されてきている。動機さえ分かれば和解の可能性もあるというわけだ。
それにも拘わらず深海棲艦の目的について合理的な結論は出せずにいた。例えば、種の保存という原理、人類に対する何らかの復讐心、人類を攻撃することによって得られる利益。
当てはめようと思えば出来なくもなかったが、いずれにしてもそれで彼ら全ての行動を十全に説明することは困難だった。
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でも、もしこの世界が罰を与えるために設計された地獄ならば、深海棲艦というのは本当に単純に人類を苦しませるためだけプログラムとなる。
深海棲艦が罰のための存在ならば、和解は不可能であるし、またその存在を根絶することも不可能だろう。
人間はまだ己が死後の世界にいることを知らずに和解や殲滅のための方策を練っているがそれは無駄な努力。もしかしたら人類への罰は根源的に全く無意味な努力を、そうと気づかずに、延々とさせられることにあるのかもしれない。
伊58はまた今日も海に出る。任務の内容に変化はない。繰り返し。一年を二十回繰り返すよりも二十年を一回経験する生の方が良いというが、伊58は一日を何度も繰り返していた。
日々を繰り返す度に己を空費していき、より貧弱に薄まりゆく感覚こそが伊58の冷笑的姿勢を補強していくものだった。
伊58にとってこの世界が地獄であってくれることは、己の薄弱さを正当化してくれる気がするのだ。結局全てが無価値なら己がいかに無価値であってもそれは平均値となる。
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一般的に言えば、これは余り健常な精神的姿勢でないのだろう。それは伊58も自覚している。
しかし、鎮守府を去ったところで行く宛もない伊58にとって居場所はこの日常だけであり、このような思想が伊58に日々へと立ち向かうある種前向きな勇気を供給してくれるのならば、それを止める気は伊58にはない。
伊58にとってこの世界が地獄であることこそがやはり救済なのであった。
ある日、大本営が大規模作戦を発令した。鎮守府はそれに参与するため出撃編成を大幅に見直し、特殊な艦隊運営を行った。
その影響で伊58も普段とは違う任務を割り当てられた。といっても敵と戦うわけではなく、任務内容は燃料の回収といつもと変わらないが、出撃海域がかなり遠方のポイントにあった。
伊58は少し心が弾んだ。たとい海はどこまでいっても海だったとしても、いつもと違う場所に行くというのは僅かに伊58を楽しませた。
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補給ポイントの小島に上陸し、小型ドラム缶を組み立てている時のこと。海中から浮上してきたかと思うと、波打ち際に座り込む一人の艦娘をみた。
アルビノに近い白っぽい金髪、白い肌。日本の艦娘ではない。艤装のブーツ部分が損傷したらしく、それを取り外そうと四苦八苦している。
ちらりと目があった。その艦娘が何を考えているのか読みとれなかったが、僅かに瞳が気弱に揺れ動いた気がするので、助けてやることにした。
相手が潜水艦仲間ということもあり、比較的親切になりやすいというのもあった。
伊58は壊れたブーツ部分を持つ。相手は特に抵抗を見せなかった。そのまま引っ張る。砂浜の上をずるずるとその艦娘ごと引きずった。
更に引っ張ると更にそれも引きずり回される。少しは踏ん張るなり抵抗を見せてくれないと外れるものも外せない。ブーツを上に高くし、逆さまにして振ってみた。外れない。
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手を離すとその潜水艦娘は頭からどさりと砂浜に落ちた。そして、彼女は起きあがると、伊58が気づかなかった金具部分を外してこともなげに艤装を外した。
伊58は作業に戻った。後ろからあの艦娘もひょこひょこ付いてきた。目的は同じなのだろう。
伊58は手早く作業を終えると、再び海へ。何気なく振り返ると先ほどの艦娘が付いてきていた。
「いったい58に何の用でち」。浮上して尋ねた。「ゆーは、あなたについてっちゃだめ……?」
なるほど家出艦娘かと思った。おおかた不必要なほど過剰なノルマと余りに道具的な酷使に耐えきれなくなったというところか。
しかし、伊58にとって潜水艦の宿命から逃れようとするこの名も知らぬ艦娘の態度はどこか容認しがたいものもあってか、「どこにいこうと地獄は地獄でち」と呟いた。
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「地獄?」。意外と耳ざとく聞き返してきた。伊58は己の見解を述べてやった。少しでも生きやすい世界観を教えるというのは、親切心を満たした。宣教師とはこういう気分なのか。
「……ここは生前ではなく死後、形而上学的コペルニクス的転回? でも、認識されない世界の存在論的差異にどんな意味が……?」。考え込むタイプらしい。
二人は今海上に頭を出しゆっくりと航行している。帰還中は安全だから、ドラム缶を水上艦よろしく波に乗せて引っ張ることもできるが、残念ながら潜水艦用のドラム缶では、それをすると容量上の問題でノルマが達成できなくなる。
かといって水上艦用の大容量ドラム缶は組み立て式ではないので、出撃時が大変になる。水をたっぷり含む重りを付けて敵の攻撃をかいくぐらなければならなくなる。
結局、安全策を取って七面倒なやり方を取るしかなかった。世界はうまいことうまいことにできていない。
「じゃあ、でっちは罪滅ぼし中なんだね」「こっちは何の罪も犯した記憶はないでち。冤罪でち」「……原罪、とか?」。伊58は鼻で笑ってやった。
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鎮守府に帰投すると伊58は拾った艦娘を提督に報告した。提督は彼女を一目みるなり、よくやったと伊58を誉めた。相当お気に召したようだ。
そのおかげで作業予定時刻を大幅に過ぎての帰投もお咎めなしだった。「じゃあ、今日はもう」と立ち去ろうとすると、提督は伊58に出撃命令を下した。
更に再び伊58は海に出た。必要が全く分からない。資材は鎮守府に有り余り、潜水艦の回収する資材もたかが知れている。それでもなおより多くを求める強欲が伊58には理解出来なかった。
それからしばらくあの名も知らぬ潜水艦と会うことは無かった。一日の大半は海にいる伊58だが、出撃を共にしたことも無かった。
どうやら彼女と伊58は運用方法が異なるらしい。提督はあの艦娘をいたく気に入ったらしく前線での起用を考えているようだった。
伊58は特段それを気にしてはいなかった。そもそも伊58はあの潜水艦に対し特に関心も無かったのだ。
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「わあ! でっちー! でっちー!」。しかし、そんな伊58のニル・アドミラリな気性をもってしても、彼女の変化は注意をひかざるをえないものであった。
「おまえは誰でち」「えええ!? 忘れちゃったの!? でっち、ほら私だよぉー! ろーちゃんだよー!」「初対面でち」「ちょっとひどいかなーって!」
「ろーちゃんはでっちとお話したいですって! はい!」と言うので、二人は埠頭にやってきた。
「でっちは私と初めて会ったときにこの世界は死後の地獄だって言ったよね?」「なんだ、その話」「でも、私はこの世界が天国でも良いと思いましたって!」
伊58は少し面食らった。「それはそっちが提督に優遇されているから言えることでち」。伊58は少し僻みっぽい調子になってしまったと自覚した。
「ああ! でっちの考えを否定したいんじゃなくって!」「まあいいでち。どうしてここが天国だと思うか教えろでち」。
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彼女曰く、私達はもともと何でも手に入るユートピアに住んでいたらしい。例えば、何らかのスイッチ一つで食物は調理され、建物はそびえ立つというような。
「だったらどうして今は戦争なんて過酷な状況になっているでち」。至極当然の質問だった。「それは人間が選んだからかな?」
ユートピアの余りの退屈さに人間は何か究極の自由を制限する規則を作り出したのではないか。スイッチ一つでおいしい料理や荘厳な建物が出来るかも知れないが、それより拙かろうが人間の手作業で、つまりより多くの苦労を含んだものの方が価値ありとするような。
人間は最初から手にする完全な繁栄よりもあえて不自由な文明の途上を選んだのではないだろうか。「そんなゲームの縛りプレイみたいな」
「そうゲーム! この世界は完全な天国を基盤にした娯楽的不完全さを楽しむための装置なんだって。はい!」。伊58の呟きに答えた。
「だったら、どうして人間全員がそれを忘れているの?」
「んー? 別にゲームやっている人ってそれに熱中している時はそれをゲームだって考えてないと思う」
確かに提督などはよく「フレちゃんのSSR! シルブプレ! ……ああああ! なんでだよ! あ、ゴーヤか、もう一回出撃な」と言ってくる。苛立つぐらいなら止めれば良いと思うのだが、彼にとってはそれはゲームではないのかもしれない。
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そして、この世を天国とみなすことは伊58の地獄と同様に現在の運命を正当化しうると彼女は言う。相違点はそれが贖罪という形をとるか娯楽という形をとるかというだけ。
「でも、罰は義務だけど、娯楽は権利でち。私は別に好きでこの境遇を選んだわけではないでち」「でっちは罪に覚えはないんでしょ? だったら別に覚えのない遊びへの選択も引き受けていいと思うけど」
伊58にとって地獄は宿命を仕方なしに引き受けるための観念装置であって、原理的にいつでも降りることができる遊戯的な天国はその代わりになりえなかった。
「そっちは本当にここがそのような天国だと信じているの? そうならほとんど狂信の域と思うでち」「んーん。ろーちゃんは別に。言ったでしょ? でっちの地獄を否定する気はないって。肯定する気もないけど。でも、やっぱりこの世界はゲームだと思うかなー」
「何を言ってるでち」
「人はその生にもっとも適合する世界を選択するはずって。今でっちが天国を拒否したように、地獄を拒否して常識的な科学世界を採ることもあるんじゃないかな?
 例えばお仕事をさぼりたい時なんかは、神様に見られていると思うより、世界はこれっきりでいくら悪さしてもバレなきゃ大丈夫みたいな考え方をした方が都合がいいでしょ?」
更に「例えば、日本のアニメやマンガを楽しもうとして、それらをただの絵とする世界観を採りながら見る人はある意味間違っているよね?」状況に熱中するためには世界観の適切さがあり、それを誤ると状況に不適合な興醒めが起こると言う。
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「問題はこの興醒め!」今まで熱中していたゲームに対してある日ふと突然それをただの電子データだと見なすときのような興醒め。
その興醒めは最初一本のゲームに対するだけで、すぐに別のゲームに熱中し出すかもしれない。しかし、またそこでも興醒めが起こり、次のゲームへ行くのなら。それを繰り返すのなら。
その過去が蓄積し、その興醒めがゲーム個体ではなく、種としてのゲームへの興醒めへと跳躍するのならば。
その人はついにゲームそのものから離れるだろう。そしてこれを世界そのものに当てはめるのなら。
「でっち、私はね、ただ知りたい。夢から覚め続け、あらゆる世界を渡り歩いた果てに何があるのか」
その刹那、伊58は呂500の瞳に壊れた人形の如く虚ろな狂気を見て取った。慌てて手を伸ばすも存在は霧散してしまった。月明かりの下、伊58はただ呆然と立ちつくす。
15: 以下、
「――――でっち! でっち! プール! プール!」。ゴーヤは目を覚ました。呂500が寝ているゴーヤの上でぴょんぴょん跳ねている。
「邪魔でち。どくでち」。呂500を押しのけて起きあがった。蒸し暑い。開いた窓の網戸越しからセミの鳴き声が聞こえていた。
膨らんだ浮き輪を腰で回しながら「プール! プール!」と言ってくるので「そんな気分じゃないでち」と言ってやる。
「でっち、疲れているの? じゃあ休む? もう一度夢見る?」。何か脅かされたような気がして呂500を思わず凝視した。「?」。特に気にも留めず浮き輪で遊んでいる。
「そもそも今日も出撃があるでち。無理でち」「え、でっち今日はお休みだよ?」「休み?」「週末なんだから当たり前だよって、はい!」
休み? 休みか。うん当然? 当然のはずだなとゴーヤは思った。
「なんか今日のでっち変。やっぱり調子悪いならお休みする?」「……いや、プールに行くでち。つき合えでち」「え!? ほんと!? やったぁ!」。呂500はばたばたと退室した。今日も平穏な日常が始まろうとしていた。
おわり
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よくわからないけど熱中して読めた
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