八幡「別にいらねねぇよ、本物なんて」back

八幡「別にいらねねぇよ、本物なんて」


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平塚「どうして学校に来ない、比企谷」
自宅にかかって来た電話は、生活指導の平塚からのものだった。
八幡「うちの学校、テストさえ点数取れてれば出席あんま関係ないでしょう」
平塚「確かにそうだが、しかし……」
俺は何も言わずに次の言葉を待つ。しかし煙草を吹かすような吐息が聞こえてくるだけで、いつまでたっても
平塚は口を開こうとはしない。
八幡「……用事がないなら切りますよ」
平塚「いや、待て。とりあえず今から学校に来なさい」
どうやら交渉を諦めたようだ。
八幡「まぁ別にいいですけど」
平塚「ず、随分と素直じゃないか」
八幡「はぁ、別に行きたくないわけではないですし」
実際、俺は引きこもっているわけではない。学校がつまらないから行かないだけだ、一人で外に出もするし、
体も鍛えるし、文句を言われない程度に学力もつけている。
平塚「それじゃあ来たらまず職員室に寄りなさい、いいかね?」
八幡「わかりました」
受話器を戻して顔を洗ってから、前回の定期テスト以来袖を通していなかった制服を着て、仏壇に手
を合わせる。
八幡「行ってくるよ」
当然、返事はない。もう慣れたけどな。
家を出る直前、飼い猫のカマクラがどこからともなくやってきて体を摺り寄せる。俺が出かけるときは
いつもそうだ。
八幡「大丈夫だ。ちゃんと帰ってくるよ」
そう言って頭を撫でてやると、カマクラは『みゃぁ』と声を漏らした。一瞬だけ頬が緩んだのを感じてから、
俺は扉を開いた。
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5: 以下、
学校に着いて、俺は言われた通りに真っ直ぐ職員室に向かった。失礼します、と扉を開けると、平塚が「来てくれたか」と
言って俺の肩を叩いた。
平塚「前よりも肩幅が広くなったんじゃないか?」
八幡「そうですかね」
平塚「あぁ、逞しくなったよ。まぁ立ち話もなんだ、そこに掛けなさい」
言われた長椅子に座り、なんとなくホワイトボードの文字を目で追っていると、間もなく正面に先生が座った。
平塚「無事に二年に上がれてよかったよ。勉強はしているようだな」
八幡「えぇ、そうですね」
そう答えた俺を見る平塚の眼は、どこか寂しさを感じる。同情されても困るだけなのに。
平塚「君は言えばこうして来るあたり、本当に来る理由がないと思ってるだけみたいだな」
八幡「えぇ、そうですね」
平塚「……ならば、居場所があれば来るのか?」
俺は口を開くことが出来なかった。どうしてだろう。はい、と言えるはずなのに。
平塚「まぁいい。今日は君に紹介したい場所があるんだ。着いてきたまえ」
そう言って立ち上がった平塚を、俺は黙って後を追った。
長い廊下をしばらく歩くと、とある教室の前で先生は歩を止めた。
平塚「ここだ」
ガラッ、と勢いよく扉が開かれる。その中には一人の少女が座っていた。
雪ノ下「先生、ノック……」
彼女のセリフはそこで止まった。どうやら俺の顔を見ているようだが、どうしてだろう。
6: 以下、
平塚「ん?どうした、雪ノ下。比企谷を知っているのか?」
雪ノ下、と呼ばれた少女は一度咳ばらいをしてから、目線を先生に向け、「いいえ」と言った。
平塚「そうか、まぁいい。彼は今日一日ここに仮入部をする。比企谷」
ボケっと突っ立っていたが、言われて俺は一歩踏み出し教室の中に入った。
八幡「比企谷八幡です。えーっと、仮入部って?」
平塚「軽い暇つぶしだと思ってくれてかまわないよ」
八幡「暇つぶし、ですか」
どうして職員室で「はい」と言えなかったのかが今わかった。こうして気を使われるのが俺はすごく嫌なんだ。
平塚「私は席を外すから、後を頼むぞ雪ノ下」
ポツンと残された俺に、目の前の少女は何度かチラチラと目線を配る。
雪ノ下「座ったらどうかしら」
立っているのが目障りだったらしい。
八幡「あぁ、すいません」
近くにあった椅子を引き寄せて座ったが、どうにも落ち着かない。ただ居心地の悪い沈黙だけが流れていく。
雪ノ下「どうしてここに?」
7: 以下、
突然、彼女が口を開いた。姿を見やれば、本を閉じてこちらに顔を向けている。
八幡「さぁ、詳しくはわからん。ここの部員補充とかじゃねぇの」
雪ノ下「……そう」
また、彼女は目線を伏せる。あまり人が好きじゃないのかもしれない。
そう思うと、自分から口を開くのも憚られる。というか、そもそも俺から話すことはないわけだが。
時計の秒針の音だけが教室内に響いていた。彼女がページをめくる音も止まり、軽い耳鳴りが起こっている。果たして
先生は俺にどうさせようとしていたのだろうか。
何も起こらないままただ時間だけが過ぎていたが、ふいにノックの音が届く。雪ノ下が小さく「どうぞ」と言うと、
前方のドアが開かれた
由比ヶ浜「失礼しまーす。ここって奉仕部であってますか?」
ドアの向こう側からひょこっと覗いたその顔に、俺は見覚えがない。というか、そもそもこの雪ノ下という少女の事も知らない。
由比ヶ浜「あれ、比企谷くんだ」
しかし、彼女は俺の事を知っているようだ。つーか奉仕部っていうのも今知った。少し位は説明してくれてもよかったんじゃねぇの?
雪ノ下「えぇ、そうよ。あなた、F組の由比ヶ浜さんね」
由比ヶ浜「私の事知ってくれてるんだー、雪ノ下さん……だよね?」
彼女たちの中でどんどん会話が進んでいく。まぁ一年も普通に通ってればクラスが違っても顔と名前を少しくらいは覚えるか。
雪ノ下「それで、どうしてここへ?」
由比ヶ浜「あ、それがね……?」
彼女の話によると、どうやら最近クラスメイトの男子からテニス部が全く試合に勝てなくて、見切りをつけた部員が次々辞めてしまって
いるとの相談を受けたという事だった。
由比ヶ浜「それでね、ここって生徒の悩みを叶えてくれるって聞いたから。さいちゃんの代わりに相談に来たの」
16: 以下、
雪ノ下「願いを叶えるわけではないわ。飢えている人に魚の釣り方を教えるのが奉仕部の仕事」
なるほど、なんとなくここの活動内容が分かってきたぞ。つまりこうして依頼に来る生徒たちの手伝いをしろって
事か。
八幡「けどそれならそのさいちゃん?ってのがここに来るのが通りなんじゃねぇの」
思わず口を挟んでしまった。
由比ヶ浜「それなんだけど、最初は二人で雇用と思ってたんだけど、さいちゃん予定はいっちゃって。ていうか比企谷くん同じ
クラスなのに知らないの?」
八幡「悪いけど、俺あんま学校来てないし」
由比ヶ浜「……そっか。ちなみにあたしの事は?」
八幡「……悪い」
そう言うと、由比ヶ浜はアハハ、と小さく笑った。
雪ノ下「まぁ状況は分かったわ。とりあえず今日のところは保留にして、また明日の放課後に戸塚さんとここに来てくれるかしら」
由比ヶ浜「うん、わかった!ありがとう雪ノ下さん!」
雪ノ下「礼を言うのは早いわ。まだ問題に取り組んですらいないもの」
由比ヶ浜「そうだけどさ、嬉しいんだ―」
不思議な掛け合いだった。見ている分にはとてもいいものに感じる。
雪ノ下「そういう訳だけど、あなたはどうするのかしら?」
雪ノ下がこっちに向き直る。言われてみれば確かにそうだ。今日ここに居るからと言って、別に明日俺がここに居るわけでは
ない。
八幡「まぁ言われれば来るけどよ。というかその辺は先生に訊いてくれ」
由比ヶ浜「そっか、比企谷君、今日はたまたま学校に来てたんだね」
やたらと優し気な口調にムズムズする。俺は優しい女の子は嫌いなんだ。
17: 以下、
八幡「その、なんだ。もっと気を使わないでくれていいというか。あまりそう畏まられると調子が狂う」
由比ヶ浜「そう?ならヒッキーって呼ぶね、あたしはなんでもいいからっ!」
ひ、ひっきー?まぁ、周りから見ればそう思われても仕方ないかもしれんが、それにしてもいきなり距離を縮めすぎなんじゃねぇの?
八幡「お、おう。よろしく」
雪ノ下「あまりその吹抜けた情けない顔を見せないでくれるかしら?デレ谷君」
そんでもってなんでこっちもいきなりこんな毒舌なの?
八幡「すいません」
俺もなんか素直に謝ってるし。
雪ノ下「それと、さっきもあなたが私を見ていたの気が付いていたわよ。あなた、節操がないのね」
八幡「いや、それはどうしていいかわかんなかったから」
雪ノ下「試験の問題が分からなくてキョロキョロするの?よく今まで退学にならなかったわね。キョロ谷くん」
八幡「その呼び方はやめて」
もしかして、これは彼女なりに気を使わないでいるつもりなのだろうか。
由比ヶ浜「なんか、楽しそうだね!」
八幡「……まぁ今日一番で愉快だよ」
皮肉をどう受け取ったのかは知らないが、なぜか由比ヶ浜は雪ノ下の隣に椅子を引いてそれにチョンと座った。
雪ノ下が困ったようにどうしたのかと問うと。
由比ヶ浜「なんでもないよー?それでさぁ、ゆきのん」
雪ノ下「その呼び方辞めてくれるかしら」
なんて会話を始めた。閥が悪い俺はただ部屋の端で先生が来るのを待っていたが、結局先生がここに来たのは最終下校時刻ギリギリだった。
22: バイト中、ケータイから 2016/04/25(月) 03:59:51.55 ID:tFhznHEnO
……その夜、俺は夢を見た。妹がだらしくなくソファで寝そべり、母と父がその横でテレビを見ている。俺はただ黙って、その様子をリビングの扉の向こうから見る事しかできないでいる。
妹が俺に何かを言いながら足をバタつかせているが、それが何なのか、いくら耳を澄ませても聞こえる事はなかった。
とても長い時間、そんな風景を見ている気がしていたが、いや、凄く短い時間だったかもしれない。まぁいいか。
気がつくと、カマクラが器用にリビングの扉を開けて、珍しく俺の足元にすり寄っていた。なぜ珍しくと感じたのか、それを考えた時にこれが夢なんだと、俺は理解した。
思考した瞬間、眼前には扉ではなく見慣れた天井。いつの間に起きたんだろう。カマクラは、この部屋にはいなかった。
八幡「夢か……」
目を開けた事にすら気がつかなかった。やたらと冴えた意識は、もう俺を睡眠に誘う事は無いだろうと、直感で分かった。
八幡「……おはよう」
誰に言ったわけでもない挨拶は、虚しくこの小さな部屋に響く。
久しぶりに他人から優しくされて、俺の気が緩んでしまったのかもしれない。だから、あんな夢を見た、そんな気がするのだ。
酷く脆い自分の形と、家族の姿とを思い浮かべて、俺は少しだけ泣いた。
23: 以下、
学校の授業を受けるのは、一体どれくらいぶりだろう。
やたらとクラスメイトの視線が気になったが、それでも授業は新鮮で面白いものだった。
授業と授業の間、由比ヶ浜が俺の元に駆け寄って、「おっす」と挨拶を寄こしたが、それに対して何の愛想も含まれていないような返事しか俺は返す事が出来なかった。
由比ヶ浜「なんか凄く変な感じ。テスト以外でヒッキーが学校にいるのって」
どうやら彼女の中で、俺は完全にヒッキーであるらしい。
八幡「平塚先生に言われたからな」
昨日の帰り際、通学を促されたのだ。
由比ヶ浜「先生が言ったから来たの?」
八幡「いや、別に。断る理由がないってだけだ」
由比ヶ浜「ふーん」
由比ヶ浜は、どこまでも優しい女の子なのだろう。クラスの中に仲のいい生徒もいるだろうに、わざわざこんなつまらん会話に時間を割いて、あたかも俺がいる事は違和感がないかのように演出しようとしている。
けれど。
八幡「そういうの、いいから」
由比ヶ浜「へ?」
俺がいることで、他人の何かをもらってしまう事が、俺には耐えられない。
八幡「いいんだ、由比ヶ浜」
優しさを、いや、嘘を受け取るという事すら、俺にはもったいないのだ。
由比ヶ浜「……そっか。ごめんね?ヒッキー」
そう言うと、彼女は小さく笑ってから、仲間の元ではなく教室の扉から外に出て行った。
これは彼女のためなんかじゃない。俺が悲しみから逃げるための処世術だ。
24: 以下、
全ての授業が終わると、帰りのホームルームの前に廊下ですれ違った平塚先生と出会った。
平塚「やぁ、比企谷。どうだった?久々の学校は」
八幡「そうですね、勉強が捗ったかもしれないです」
平塚「そうか、まぁ独学では時間がかかる所も教えて貰えばすぐにわかるようになったりするからな。それなら来た価値もあるってものだな」
腕を組みながらウンウンと頷く平塚を見て、ふと休み時間に耳に入ってきたクラスメイトの会話を思い出し、この人はどうして結婚出来ないのだろうかと思った。
平塚「……。何かとても失礼な事を考えていないか?比企谷」
鋭いな。
八幡「いえ、そんなことは」
そうか?と明らかに人を[ピーーー]視線を不登校児に向ける目の前の先生を見て、それでもやはりこの人が結婚できないのは何故だろうと思ってしまった。
平塚「まぁいい。それよりも比企谷。今日も奉仕部に参加してくれるか?」
八幡「嫌とは言いません」
平塚「そうか。なら頼むぞ。しかし今日は私は会議があってな、顔は出せないと思うが、まぁうまくやってくれたまえ。それじゃあ」
廊下の奥へと歩いていく先生の背中を見ながら、俺はまたあの人の結婚について考えていたが、すぐに何の意味もない事に気がついて、二度と考えない事を密に誓った。
25: 以下、
ホームルームを終えると、俺はたまたま今日だった当番の掃除をこなして昨日の教室へと向かった。多少時間がかかってしまった為か、ドアを開けると既に雪ノ下と由比ヶ浜、それともう一人、ジャージ姿の女子生徒が中で話し合ってる。
八幡「うす」
雪ノ下「こんにちは、比企谷くん」
挨拶が返ってくるとは思っていなかったが、しかし別段驚く事もしない。軽く頷いてから、昨日と同じ位置に椅子を引いてそこに座った。
少しの間、由比ヶ浜ともう一人の女子生徒がこっちを見ていたが、雪ノ下がすぐに会話を再開させたようだ。
雪ノ下「それで、戸塚くんはどうしたいのかしら」
戸塚「うん、出来れば強くなるために練習に付き合ってもらいたいんだ」
あの女子生徒、戸塚くんと言うらしい。
……戸塚くん?
雪ノ下「そう、わかったわ」
由比ヶ浜「ゆきのん、どうするの?」
雪ノ下「そうね、死ぬまで走り込み、死ぬまで素振り、そして死ぬまで筋トレかしらね」
戸塚「僕、大丈夫かなぁ……」
なにやら物騒な会話が聞こえるが、問題はそこではない。思わず口を開いてしまう。
八幡「なぁ、戸塚くんってあんたのことか?」
戸塚「うん、そうだよ。比企谷くん」
八幡「由比ヶ浜が言ってた、テニス部の男子生徒の?」
戸塚「うん。昨日由比ヶ浜さんが話しを通してくれてたおかげで助かったんだ。あ、でも一応」
そう言って、彼女(彼)は椅子から立ち上がった。
戸塚「初めまして、戸塚彩加です」
……なるほど。まぁそう言う事もあるか。
31: 以下、
話がまとまり、一応俺を含んだ四人でグラウンドにあるテニスコートに移動する途中、離れて歩いていた俺に由比ヶ浜が声をかけてきた。
八幡「どうした」
由比ヶ浜「あの…ね?あたし、奉仕部に入ったんだ。今まで部活とか入ってなかったから。エヘヘ」
そういうことらしい。
八幡「そうか。そりゃよかったんじゃないの」
由比ヶ浜「うん。あとね」
一瞬目を逸らして、由比ヶ浜が話を続ける。
由比ヶ浜「あたし、別に気を使ってる訳じゃないよ?ただ、話したかったの。ヒッキーと…ダメ、かな」
次第に言葉が弱々しくなって、最後には微かに聞こえる程度だったが、それでもその声はしっかりと俺の耳に届いていた。だから俺は。
八幡「あぁ、よくないな。まるでよくない」
そう、強く否定した。
由比ヶ浜は、笑わなかった。何が彼女をそうさせるのか、俺には少しだって分からない。いくらいい言葉を投げられても、何か裏があるんじゃないかと、どうしてもそう考えてしまう。だから、彼女のその、どこか見覚えのある切ない表情に同情することは出来ない。
由比ヶ浜「……ばか」
呟いた彼女は、前の二人にの間に割って入り、俺にもわかるくらいに悲しい嘘を表情に浮かべていた。
32: 以下、
………
小町「お兄ちゃん!今日から高校生だね!制服似合ってるよっ!」
父親は出張先での事故で死に、母親は闘病の末に亡くなった。残された俺たちは、親戚の手を借りずに二人で何とか生きようと、そう誓っていた。
八幡「よせよ、小町」
両親は俺たちに、多額の保険金と二人で住むには大きすぎる家を残してくれた。おかげで年をごまかしてやっていた安いアルバイトでも、余裕を持って食い繋ぐことが出来ていた。
小町「お兄ちゃん、ずっとバイトばっかりで目が腐っちゃってるからね。新しい格好でリフレッシュして、ちょっとはマシに見えると思うよ!あ、今の小町的にポイント高い!」
妹は小学生の頃から、アルバイトでほぼ家に居ない俺を支えてくれていた。日をまたいで帰っても必ず夕飯が置いてあって、着ていくシャツは必ず洗剤の匂いがして、そんな妹に、俺はどれだけ感謝していただろう。
八幡「そうだな。ありがとな、小町」
だから俺は、いつだって妹の理解者であるよう、兄として生きることに誇りを持っていた。
小町「ちょっ!やめてよ、そんな素直なのお兄ちゃんぽくないんだからねっ」
この妹の兄でいる事が、俺はたまらなく嬉しかった。
小町「それじゃ行こっか、お兄ちゃん、レッツゴー!」
自転車の荷台に乗っかった妹は、まるで自分の晴れ舞台かのようにはしゃいで、それを見ていた俺は少し浮かれてしまっていたのだ。
小町「お兄ちゃん?小町の事は気にしなくていいから、学校はちゃんと卒業してよね?お金には困ってないんだからさぁ。少しくらいは学生っぽい事した方がいいよ」
八幡「そうか?でも小町の飯食えないのは嫌だな」
34: 以下、
小町「うわ、流石にそのシスコン発言はないわー」
八幡「ぐっ……。まぁ、でも友達とか出来たらいいとは思うけどな。一人くらいは」
小町「そうそう!そういう前向きな気持ちが大切なのだよ?」
そんな会話をしながら自転車を走らせて、妹の中学の近くまで辿り着いてからは二人横に並んで歩いていた。
小町「っしょ。……お兄ちゃん、小町、もう大丈夫だよ?お兄ちゃんが助けてくれたから、小町には友達たくさん出来たし」
八幡「別に俺がボッチなのはそのせいじゃねぇよ。兄ちゃんはなるべくしてボッチなんだ。だからお前が気に病む必要全く無し」
小町「全く、ほんと捻デレなんだから」
妹が自転車のカゴからカバンを持ち上げて、進めを示す信号機の方へ駆けていく。
小町「高校はきっと楽しいよ!だからお兄ちゃん!入学おめで……」
そこで、道の彼方から突然現れた黒い影が放った、劈くような甲高い摩擦音が聴き慣れた声を掻き消し、そして二度と手の届かない所まで、その姿ごと連れ去った。
どこかからか聴こえてくる威嚇するような犬の鳴き声と、嘆くような悲鳴を受けながら、俺はいつまでも妹の言葉が終わるのを待っていた。
35: 以下、
………
雪ノ下「…がや君、比企谷君?」
八幡「ん、あぁ、どうした」
下校して行く生徒たちの波を眺めていると、雪ノ下から声がかかった。
雪ノ下「あなた、戸塚君の筋トレを手伝ってくれるかしら」
八幡「わかった」
戸塚「よろしくお願いします」
ペコリ、とお辞儀をしてコートに座り込んだ戸塚の足を押さえ、腹筋運動の手伝いをする。
戸塚「比企谷くんは……っ、どうして……っ、学校に……っ、来ないの……っ?」
振り子のように行ったり来たりする苦しそうな表情が、そう問いかける。
八幡「来ようと思う理由がないからだよ。別に来たくないわけじゃない」
そう言うと、「そうなんだ」と言ったきり、話が途切れてしまった。雪ノ下が設定した50回という回数は、彼にはいささか辛いものらしい。
由比ヶ浜「あと少しだよ!さいちゃん!」
何故か隣で同じ事をしていた由比ヶ浜はすぐに脱落して、その代わりに応援担当として活躍している。
戸塚「よんじゅう〜はち〜っ、よんじ、よんじゅうきゅう〜」
顔を赤くしながら必死にトレーニングする彼を横目に、やり過ぎではないかとトレーナーに目で訴えたが、彼女は仏頂面で首を横に振るだけだ。
36: 以下、
休憩します
38: 以下、
艱難辛苦の末、ようやく五十回目の苦労を乗り越えた戸塚は、そのまま仰向けに倒れこんでしまった。
戸塚「ふぅ、出来た。見ててくれた?比企谷くん」
八幡「おう、よく頑張ったな」
まるで少女のように、というか見たまんまなのだが、無邪気な笑顔を戸塚は俺に見せる。
雪ノ下「少し休んだら次はランニング、校舎の周りを5周でそれなりの体力が付くはずよ」
戸塚「うん、わかったよ」
よろめきながら立ち上がる彼の姿は、さながら産まれたての小鹿のようだ。本人がやるというのなら俺が止める義理は全くないのだが、それでも見ててなんだか痛々しい。そんなハードなトレーニングをかれこれ二時間超続けたところで、ようやく雪ノ下が手を叩いた。
雪ノ下「今日はこのくらいにしましょう。明日は先生方に許可を貰ったから、昼休みにもこのコートが使えるわ」
戸塚「本当に?ありがとう、雪ノ下さん」
戸塚、お前は本当にそれでいいのか?
由比ヶ浜「さいちゃん、大丈夫?」
由比ヶ浜が戸塚の体を支えて歩く。二人がフェンスの向こう側に消えていくのを見送ってから、俺は雪ノ下に問いかけた。
八幡「なぁ、あのペースでやってたら壊れちまうぞ」
雪ノ下は、俯いたまま口を開かない。
八幡「選手を壊しちまったら、元も子もないと思うけどな」
そう言うと、しばらく雪ノ下俺を睨みつけたが、何かに観念したように深くため息を吐いた。
雪ノ下「私、体力だけには自信がないの」
八幡「……だから?」
雪ノ下「体力の付け方がわからないから、どうのくらいの加減がいいのかもわからないのよ。けれど、今日の戸塚君を見たところ、私は成功しているとは言えないわ」
驚いた。こいつは自分の非を素直に認めることができるようだ。
八幡「……じゃあ手伝うよ。仮入部とはいえ、今は部員だからな」
頭を抑える仕草を解いて、雪ノ下は目を見開く。
八幡「その情けない顔、止めたらどうだ?」
どこかで聞いたようなセリフを吐くと、雪ノ下はきっと俺があの時彼女に見せていたであろう悔しそうな表情を、俺に見せた。
39: 以下、
その翌日の昼休み、俺たちはまたテニスコートに集合し、練習を始めた。昨日の鬼のようなしごきに耐えたからだろうか。比較的に軽そうな表情で、戸塚はコート内を動き回る。が、そのうち、筋肉痛だろうか。とにかく足を立たせている事が辛くなったらしい。彼は少し歪んだ表情で「足が……」と言った。
雪ノ下「……少し待っていて」
そう言って、雪ノ下はコートの外に出て行く。少しの間、由比ヶ浜が戸塚を心配する様子を見ていると、とある生徒のグループが近づいて来た。
三浦「あー、テニスやってんじゃん。あーしもやりたいんですけどー」
戸部「マジ燃えるわー!これは参加するしかないでしょ!」
何だこいつら。
三浦「ちょっと混ぜてよ」
派手な金髪の女生徒を筆頭に、六人がコート内にゾロゾロと入って来る。
由比ヶ浜「あ、優美子……」
どこか気まずそうな表情を浮かべる由比ヶ浜。
三浦「あれ、結衣。最近付き合い悪いと思ったら何してんの?」
やたらと高圧的な態度で由比ヶ浜を詰める優美子と呼ばれた女は、距離を縮めるように歩を進め、その対面で由比ヶ浜はたたらを踏んでいる。
由比ヶ浜「あ、えっと。部活……かな」
三浦「ふーん。まぁちょうどよかった。あーしもテニスやるから、ラケット貸してくんない?」
由比ヶ浜「え、えーっと……」
三浦「何?嫌なの?」
由比ヶ浜「嫌と言いますか、何と言いますか……」
どうも雲行きが怪しい。
三浦「つーかさ、あーし結衣のそういう態度ムカつくんだよね。はっきりしてくんない?」
由比ヶ浜「その……ごめん」
こいつ……。
葉山「まぁまぁ、優美子、ちょっと落ち着いて」
しかし、彼女は落ち着かない。
三浦「いや、隼人は黙ってて。ちょっと結衣、なんか言ってくんない?」
40: 以下、
………
女生徒1「その暗い態度、ホントむかつくんだよね」
小町「えっと……」
女生徒2「あんた、親死んでるからって悲劇のヒロイン気取り?キモいんだよ」
男子生徒1「こいつの兄貴、夜全く帰らねぇって話だぜ。見捨てられてんじゃねぇの?」
女生徒3「マジで?ウケるんだけど」
小町「お兄ちゃんは、関係ないでしょ?」
男子生徒2「あ、反抗的な態度、お仕置き決定〜」
小町「えっ、ちょっと待って、止めてよ。止めてくだい……」
女生徒1「それがムカつくって、言ってんのよ!」
41: 以下、
………
頭が、少し熱くなって来るのが分かる。
由比ヶ浜「えっと、その……」
三浦「次それ言ったら手ぇ出すら」
海老名「ちょっと、優美子」
由比ヶ浜「あの、その……」
三浦「言ってるそばから。あんた、いい加減にしろっつーの!」
そう言って、三浦は手を振り上げた。しかしその手を振り下ろす事は。
三浦「んな、触んなよ!つーかあんた誰!?」
俺が許せなかった。
由比ヶ浜「ひ、ヒッキー?」
少し、手に力を込めて、女の手を持ち上げる。
三浦「いっ……。ちょっと!」
その瞬間、後ろから俺の手が振り払われた。
葉山「やめておけ。相手は女だぞ?」
八幡「テメェはなにほざいてんだ?由比ヶ浜の敵はてめぇら全員だろうが」
視線を全員に向け顎をしゃくる。カチューシャを付けた男が「あぁ?」と睨みをきかせるが、こいつが雑魚なのは見ただけで分かる。問題は。
葉山「……悪かった、少し止めるのが遅かったよ」
由比ヶ浜「あの、ヒッキー。ごめん」
八幡「何で謝る、お前が何かしたのか?問題を起こしたのも、勝手に熱くなったのも全部こいつらだろ」
三浦「……っ。あんたさっきから!」
八幡「なんだ、喧嘩がしてぇのか?それとも見下して欲しいのか?このスピーカーだけに言わせてねぇでなんとか言ってみろよ」
由比ヶ浜「もういいよ」
八幡「どう転んでもテメェらはもう悪者なんだよ、だったら最後まで俺が付き合ってやるって言ってんだ」
由比ヶ浜「もういいから!ヒッキー!」
43: 以下、
そう言うと、由比ヶ浜は俺の腕を両手で強く握った。
由比ヶ浜「……あたし、大丈夫だから」
八幡「……そうか」
大岡「おいおい、何勝手に畳んでんだよ。やるんならやろうぜ」
その一言に、金髪の男が。
葉山「おい、大岡。あんましゃしゃり出るな。今終わっただろうが」
と、語気を荒げて制した。周りのメンツもその一言で冷めたようで、一様に黙り込んでいる。
葉山「すまなかった。最初は俺たちも、ただテニスに混ぜてもらいたかっただけなんだ。喧嘩するつもりで来たわけじゃない」
八幡「結果で物事を見ろよ。言い訳してる暇があるならとっとと消えてくれ」
葉山「……あぁ、わかった」
三浦「ちょっと、隼人……」
葉山「これ以上続けるのか?優美子」
三浦「……えっと、ごめん」
会話が終わると、踵を返して校舎に帰っていった。どうやらそれなりに話がわかるリーダーのようだった。
由比ヶ浜「……ちょっと、話してくるね」
それまで握っていた手を離して、由比ヶ浜は彼らの後を追っていった。自分で決着をつけに行ったのだろう。なかなかどうして、勇気のある奴じゃないか。
戸塚「比企谷君、大丈夫?」
八幡「うん?なにがだ?」
戸塚「足、震えてたよ」
八幡「……まぁ、男四人相手じゃ、負けは目に見えてたからな」
戸塚「本当に喧嘩するつもりだったんだね。でもダメだよ、人を叩いちゃ」
八幡「そうだな、悪い。それに練習も止まっちまったな、時間食ってもう残ってないし」
戸塚「いいよ、僕は大丈夫だから」
結果、俺がした事は戸塚の邪魔だけだ。しゃしゃり出て、練習に付き合うとか言っておきながらこの様は、本当に情けない。
八幡「試合まで、個人的に付き合うよ」
それは俺の、責任だから。
戸塚「本当に?実は今週の日曜なんだ。そこまではご指導よろしくお願いします」
その後少しだけ筋トレをしていだが、雪ノ下と由比ヶ浜は、コートには戻って来なかった。
70: 以下、
帰りのホームルームが終わってからまた戸塚のテニスの練習を手伝っていたが、やはりあの二人は来なかった。
戸塚「愛想つかされちゃったのかなぁ……」
ボソッとつぶやく戸塚の表情は、どこか悲しげだ。
八幡「まぁ1日くらいなら事情があってもおかしくはないんじゃないか?」
そっか、と頷くと、戸塚はまたラケットを振り始める。初めと比べれば随分と上達したのではないだろうか。ここのコーチは一体何をしていたのだろう。
その日の帰り道、一応部室に寄ってはみたものの、やはり彼女たちの姿は見えない。が、しかし、雪ノ下からの書き置きと思わしきメモ帳が、彼女がいつも座っている席に置いてあって、そこには「今日は少し用事があるのでお願い」と記してある。宛名は無いが、俺への物だという事くらいは解る。そのまま戸塚とコートに行ったものだから、これを読まなかった俺にも落ち度はあるだろう。
鍵を閉めて連絡通路を歩いていると、窓から校舎の裏でしゃがみ込むここ最近よく見る少女を見つけた。
そのまま知らないフリをして帰ろうと思ったのだが、その考えはすぐに書き換えられた。
由比ヶ浜結衣が、遠目からでも分かるくらいに泣いていたからだ。
71: 以下、
八幡「どうした」
下まで降りて行って、由比ヶ浜の横に並んだ。
由比ヶ浜「あ、ヒッキー……」
俺に気づくと、由比ヶ浜はカーディガンの袖で涙を拭いて、なんでもないよ、と言った。
八幡「……それが、お前が話した結果なんだな」
由比ヶ浜「ヒッキーには、わかっちゃうんだね」
恐らく、由比ヶ浜はあの後自分の思いの丈を彼らに伝えたのだろう。
八幡「よく知ってるんだ。お前みたいな奴」
そう、よく知っている。俺が一番知っていたはずだから。
由比ヶ浜「でもなんで見つけちゃうかなぁ。ダメだよ、ヒッキー」
八幡「けど、見つけなきゃ俺が後悔してた」
えっ、と、とぼけた声を漏らす由比ヶ浜。
八幡「別に分からなくてもいい。でも」
正面を向いたまま、俺は一息をついて、それから。
八幡「いいんだ、由比ヶ浜。お前はよく頑張ったよ」
言うと、由比ヶ浜は声をあげて泣いた。止めどなく溢れる涙を何度も何度も拭っても、彼女の涙は止まらなかった。顔を伏せても声は漏れ、肩は小刻みに震えて、立ち向かった勇気に堰き止められていた恐怖の感情は、形になって溢れだしていた。
泣いて泣いて、泣き続けてから、ようやく由比ヶ浜は落ち着きを取り戻した。
由比ヶ浜「ヒッキー。あたし、どうしたらいいかなぁ……」
八幡「人に答えを求めても……」
そこまで言いかけたが、その先は口に出せなかった。だから代わりに。
八幡「助かりたいなら、まず何があったのか俺に言ってみ」
そう、嘘をついた。
78: 以下、
………
由比ヶ浜結衣は、普通の少女だった。それなりに友達が多く、成績は中の下で、運動もそこそこ程度。ルックスで時々嫉妬を買う事はあったが、超が付くほどの気の優しい女の子だった。
ある日、中学生だった彼女が校舎内を歩いていると、一人の男子に声を掛けられた。
男「好きです。付き合って下さい」
それは告白だった。
由比ヶ浜「……えっと、はい」
彼は校内一の人気者で、多くの女生徒のファンがいるような、いわゆるスターのような存在だった。そんな彼から告白された由比ヶ浜だが、当の本人にはあまり彼だからうれしい、という感情は無かった。ただ告白されて、断るとかわいそうだったから。付き合えばもしかしたら楽しいかもしれないから。そんな気持ちで付き合いだしたのだった。
先に言っておこう。彼女に非はない。それは間違いのない事だ。
件のファンである女生徒のファンの嫉妬。最初は教室内でからかわれる程度だったが、次第にそれはエスカレートしていった。嫉妬は罵声にになり、視線は暴力に変わった。
元々彼の事が好きだったわけではなかった由比ヶ浜は、楽しい事の数を辛い事の数が上回ったとき、そこから逃げるように別れを切り出した。たった二カ月程度の付き合いが終わり、そして一年間の地獄の始まりだった。
中学生という精神的に不安な時期に失恋を経験した彼は、由比ヶ浜に逆恨みしたのだ。そのカリスマ性を利用し、周りを統率して一人の少女を学校というコミュニティから追放した。
それからは、ただ毎日を誰に関わることもなく過ごしていた。学校が終わるまで息を潜め、何があっても笑う事しかできないで、家に戻ってから静かに涙を流す日々。時間が経つごとに、彼女の心は死んでいった。
それだから、彼女にとって高校入学は大きな救いになったのだ。認められたのが見た目だけでも、そこに居ていいという事実が、彼女にはたまらなく嬉しかった。今度こそは失敗しないように、一から百まで全ての事を把握して、クラスという場に溶け込めるように尽くしていた。
気を使うことが気を使わないことよりも楽である状況に、彼女がいつの間にか慣れ始めた頃、一人の男子生徒の存在を知った。媚びず、群れず、いつだって自然で取り繕わないで、そんな姿が彼女にはただただ羨ましかった。
ついに、本当に一人で生きることへの憧れを抑えきれなくなった彼女は、滅多に学校に来ない彼の機会を伺い、一度だけ勇気を振り絞って、どうして?と聞くと。
「きっと、楽しくなるって言われたから」
そう、答えた。
上目で見つめた彼の表情は、悲しそうだった。瞬間、由比ヶ浜結衣は思い出す。どこか見覚えのある表情だと。
けれど、だからと言って彼のように生きることは、彼女には出来なかった。人は簡単に何かを捨てることは出来ないのだ。憧れを抱いたまま、それまでと同じように。静かにそこにいることを望んだ。
もう一度、彼と出会うまでは。
84: 以下、
………
由比ヶ浜は、許されなかった。
その翌日から、彼女の周りには人がいない。もう戻る事は出来ないところまで、彼女は来てしまったのだ。
由比ヶ浜「いいの、ヒッキーが教えてくれたんだもん。頑張ってみるよ」
彼女に圧倒的に足りないのは、自信だ。自分に自信がない人間というのは酷く脆い。身を支えるバックボーンがないから、少し押されるだけで崩れてしまう。ならば、どうすればいいか。答えは至極単純。その支えを自分で作ればいいのだ。
強さを鍛えれば行動に自信が伴い、知識で武装すれば発言に自信が生まれる。物怖じもしない為に己を高める事は、何よりの支えになると俺は身を以て知っている。
由比ヶ浜は、自分の机で何かの本を読んでいた。きっとそこから脱出するためのファクターが含まれていると、そう思える本なのだろう。
彼女は彼女なりに、これからの生活で強く生きる為に行動を始めている。ならばこれ以上俺が口を挟む必要はないだろう。
だから。
戸部「ちょっといいか?」
ここからは、俺の喧嘩だ。
86: 以下、
連れてこられたのは、普段鍵がかかっているはずの屋上だった。
戸部「お前、誰だよ」
果たして、今から起こる事に自己紹介が必要なのだろうか。
八幡「三人も雁首並べて初っ端のセリフがそれかよ。もっと他にあんだろ」
後ろのチビが舌打ちを鳴らす。その隣には昨日の金髪女が座っていた。
三浦「あんたなんなの?結衣の彼氏なわけ?」
八幡「チンピラ共が、そんなに俺のこと知りたいか?まぁ知らないのは怖いもんなぁ」
鼻で笑って返すと、チビがカチューシャの隣に並んだ。
大岡「お前、調子乗りすぎだろ。昨日も隼人君に怒られちゃったじゃん」
八幡「だからいつまでも三下なんだろ。そう思ったらボスの機嫌取りでもしてる方が、この状況よりよっぽど有意義なんじゃねぇの?」
図星を突かれてよほど悔しかったのか、チビは歯を食いしばっている。カチューシャは拳をポキポキと鳴らし、シャドーボクシングのような動きをして威嚇らしき事をしていた。
三浦「ほんとムカつくね、あんた」
戸部「まぁいいんじゃね?コイツ今からやっちゃうし」
そう言うと、カチューシャはこっちに歩み寄り、俺の胸倉を掴んだ。
戸部「お前がいけないんだからな?俺らを怒らせ……ごは……っ!」
八幡「悪いな、あんまりビビったもんで思わず手が出ちまった」
87: 以下、
大岡「んな……っ!」
八幡「俺を殴る事すら俺のせいにしないと自分が保てないんだろ。まぁ分からなくもねぇけどよ」
顎を歪めた感触が、まだ拳に残っている。
戸部「テメェ……ぐあっ!」
腰を落とした状態のカチューシャに、今度は正面から拳を叩きつけた。歯が中指の付け根に食い込み、皮が裂け、そこから血が滲んできた。
三浦「ちょっ……あんた」
その声に一瞬気を取られて、チビの突進をモロに食らってしまった。肺から酸素が飛び出し、咽せるような息を漏らしてしまう。
戸部「このっ……ヤロウ!」
今度はカチューシャの蹴りを顔面に受けてしまった。上履きのつま先がこめかみを抉り、俺の頭を激しく揺らす。頭がクラッとして倒れそうになるが、なんとか踏みとどまり。
大岡「がっ…は」
そのまま飛び上がった勢いで、チビの顔面に膝を打ち付けた。衝撃に耐え切れなかったのか、そのまま地面に突っ伏せた相手の腹を、俺は思いっきり踏みつけた。
大岡「いっがああああああああああ!!」
戸部「ふざけんな!テメェ!!」
放たれた大振りの右手を、俺は体を引いてかわす。パンチの勢いに降られたカチューシャの横っ面はガラ空きだった。
戸部「ばっ、ちょ……まっ……」
顔面に拳をねじ込み、よろめいた相手の髪の毛を掴んでから何度も頭を顔面に叩きつけた。三発目から謝るような声が聞こえてきたが、そんな事は知ったことではない。
戸部「ほん……っ、ごめ、ごめんって……がはっ」
三浦「や、やめて。やめなさいって」
88: 以下、
八幡「……やめろって、元々俺は買ってやっただけだろ。何寝ぼけてんだ?」
三浦「いや、そうだけどさ……」
八幡「悪いのは俺か?それともお前らか?」
三浦「ご……ごめんて、結衣のことも謝るから」
違う。根本的に話がずれている。
八幡「別に俺はあいつの事なんてどうでもいいんだ。ただ人数集めて弱い者いじめを楽しむ奴が嫌いなだけ。だからお前らがこうして俺を呼び出してリンチしようとしたのを返り討ちにした。なんもおかしくないだろ?」
三浦「……そ、そうだけど」
額に出来てしまったコブを摩ると、血がベットリと付いている。まだ鼻を潰した感覚が生々しく残っていて、気持ちが悪かった。
八幡「お前も相手して欲しいのか?」
そう言うと、金髪はとっとと屋上から逃げて行ってしまった。それから間もなくして、何人かの教師が集まってきた。俺は体を抑えられ、そのまま職員室まで連行された。その途中、何人か集まっていたギャラリーの中に由比ヶ浜と雪ノ下の姿を見つけた。
前者は口を開けたまま何故か涙を流し、後者はただ、俺の眼を真っ直ぐと見つめていた。
89: 以下、
………
小町「お兄ちゃんのせいで、小町転校しなくちゃいけなくなっちゃったじゃん、めんどくさいなぁ」
八幡「ごめんな、小町」
小町「なーんてね、嘘だよ。正直もうあそこには行きたくなかったもん。それに、やり方は間違ってるし、むしろお兄ちゃんの方がボコボコだし、つーかぶっちゃけダサいし、どうせなら勝って欲しかったけど」
八幡「……ごめんな、小町」
小町「でもね?小町、すっごく嬉しいよ。お兄ちゃんのおかげで言いたいことも全部言えたしさ、保険室に行けなくなるのは少しだけ寂しいけど、次は小町、ちゃんと頑張るし!」
八幡「そうか、ならよかったよ」
小町「でもお兄ちゃん?もうこんな事しないでよね。別にお兄ちゃんは強いわけじゃないんだから。というかそもそも喧嘩はしちゃダメって決まってるから。わかった?」
八幡「分かってるよ。病院食よりも小町の飯の方が七万倍うまい」
小町「でしょー?だから無茶はしないでね。……でも、もしお兄ちゃんがそれでも助けたいと思った人がいたら、小町は目を瞑ってあげます」
八幡「そんなんお前以外にいないだろ」
小町「……それ、すっごく気持ち悪いよ?」
八幡「やめて、恥ずかしくて死んじゃう」
小町「でもね、すっごく嬉しい。ありがとう、お兄ちゃん!」
八幡「……おう」
101: 区切り的にここから第2部です、誤字と脱字はほんとすいません 2016/05/05(木) 02:10:53.14 ID:COjVmrVTO
自宅謹慎とは名ばかりで、実態は校舎内を永遠掃除する奴隷だった。まぁ一人を病院送りにして一週間ならば上等だろう。進学校だから世間体のために大事にしたくなかったのかもしれない。
教室には行っていないから、あの三人の所在は分からないが、平塚の話を聞く限りでは自宅課題での謹慎らしい。
平塚「君にその罰を与えても、またそのまま学校に来なくなるだけだろう」
言われてみなくてもその通りなのだが、平塚のいらん気遣いのおかげでなんだかんだ二週かばかし学校に通い続けている。
箒を振り続けて三時間程だろうか、ようやく下校時刻開始のチャイムが校内に鳴り響くと、間もなくして廊下の向こうから平塚がこちらへやって来た。
平塚「しっかりこなしているようだな」
そう言うと、先生は白衣のポケットに手を入れて、俺の前に立つ。
八幡「やれと言われたので」
やれやれといった様子で、平塚は横に首を振った。
平塚「全く、君はリスクリターンの計算が苦手なようだな。どうして手を出した。体を鍛えたのはそのためなのか?」
八幡「何もしなければ病院送りにされるのは俺の方だったかもしれないじゃないですか。なら掃除をするかしないかの差です。特にデメリットはないと思いますがね」
平塚「……結果的にはそうだな。確かに君の言う事は分かる。けどなぁ」
先生は廊下の窓を開けて、外を見渡すと。
平塚「何か、一枚噛んでいるんじゃないか?」
そのまま体を反転させ、ドアの淵に肘をかけて寄りかかった。
平塚「君は呼ばれて怖かったから手を出した。彼らは君が生意気だったから呼び出した。証言との辻褄は合っているが、それじゃあ何故彼らの目に君が止まったのか、それが気になって仕方がないんだよ」
表情は、優しかった。一度触れてしまうと、もう一人には戻れなくなるんじゃないかと思うほど。
102: 以下、
八幡「……さぁ。絡まれやすいんですよ、俺。群れてないと喧嘩もできない連中からしてみれば、一人でついて来て挙句啖呵を切るようなボッチは嫌われても仕方ないかと」
平塚「ふふっ、そうか。まぁどちらにせよ、私は君たち全員が悪いと思っているよ。結果はどうであれね」
やたらと意味深なセリフを吐くと、平塚は踵を返した。
平塚「話は終わりだ。箒を戻したら帰りたまえ」
八幡「いや、なんか生徒指導があるらしいんで、職員室に行かないと」
平塚は立ち止まると、振り返ってふふっと笑う。
平塚「忘れたのか?生徒指導は私だよ」
そう言って、廊下の奥へ消えていった。
俺は箒を壁に立てかけて、先ほど平塚が寄りかかっていた窓から中庭を見下ろした。ここ総武高校は丁度カタカナのロのような形をしている為、中庭をと校庭をそれぞれの窓から見ることが出来る。
幾つかのグループが集まり、それぞれに笑いあう様子の横で、男子が制服姿のままバスケットボールの試合のような遊びをしていた。
そういえば、こうして学校の動きを見るのは初めてだ。ぼーっとその様子を見ていると、妹が言っていた楽しさというのは、ああいった物を言うのだろうかと思った。
青春とは、一体何だろう。青春を謳歌する上で、必ず必要な物とは一体何だろう。俺から見ると、彼らは青春を謳歌しているように見える。しかし、彼らから青春を見たとき、果たして俺と同じ感想を持つだろうか。恐らく、答えはNOだ。
詰まる所、青春とは人の欲望の理想形なのだ。若さ故の知らない事を知る喜び、これが青春の正体。人間関係の理想、未知の知識への理想、幸せの理想、挙げていけばキリがない。
歳をとった人間が青春を羨むのは、もう既に自分の世界を見えている範囲で決めてしまうからだ。未知がある事に気付かないフリをして、いつだってそれが正解だと決め付ける事は、それはこの世で何よりも楽な事だから。
だからきっと、あの日時間が止まってしまった俺には青春が来ないのだろう。
103: 以下、
それから一週間が経過して、贖罪も終わりを迎えようとしている。大人達の中では、これで俺の罪が消えた事になる筈だ。
いつものように箒を振っていると、まだ授業は終わっていないにも関わらず、何故か雪ノ下雪乃が姿を現した。
雪ノ下「少しは学校に貢献しているようね。過程がどうであれ、奉仕部としては立派に活動してるんじゃないかしら」
八幡「皮肉のつもりだろうが、褒め言葉として受け取っておくよ」
雪ノ下は腕を組んで、立ち止まった。
雪ノ下「別に皮肉ではないわ。嫌味のつもりで言ったのだもの」
八幡「性格悪いなぁ、お前……」
俺が彼女に目をくれず掃除を続けていると、痺れを切らしたのか。
雪ノ下「……はぁ。あなたは奉仕部の一員よ。なら部長である私にも、一日くらい付き合う理由はあるわ」
そう言って、近くに避けておいたちりとりを持ち、集めたゴミの前にしゃがみ込んだ。
八幡「手伝ってくれるのか?」
雪ノ下「別に。ただあの場をあなた一人に任せてしまった私にも非はあると思っただけよ」
戸塚の練習の事だろう。
八幡「けど、俺だって結局最後まで面倒見れた訳じゃないんだ。お前がそう気負うことは……」
そこまで言ったところで、雪ノ下が言葉を遮った。
雪ノ下「気にしなくてもいいのよ。それとも何かしら、不満?」
八幡「……正直、何か裏があるとは思ってる」
動きを止めて、雪ノ下を見据えた。すると彼女は立ち上がり、壁に寄りかかって話を始めた。
雪ノ下「あの日、私は由比ヶ浜さんと一緒にいたのよ」
109: 以下、
八幡「まぁ分かってたよ。バックれたんじゃなければそれ以外に理由が無い」
あの時雪ノ下が正面出入口から校舎に入っていくのが見えていた。ならばちょうど奴らとかち合うのも容易に想像できる。
雪ノ下「話を聞こうにも、相手側が興奮して由比ヶ浜さんはただ言い篭ってしまっていたの。だから少し、私が彼らに物を言ったのだけれど」
八幡「だけど、なんだ」
雪ノ下「まさか、あぁも話が通じないとは思っていなかったわ。葉山君が止めなければ、私も由比ヶ浜さんも無事ではなかったでしょうね」
八幡「……そのくらいちょっと話せば分かることだろ。お前、実は結構すぐ熱くなるタイプなのな」
勝気なのはいいが、少しは相手を見た方がいいと今度教えてやった方がいいかもしれん。
雪ノ下「失礼ね。私は正論しか言ってないわ」
バカだなぁ……。
八幡「それが通用するなら戦争なんて起こらないっての。まぁいいや、それで?」
しかし、葉山……あの金髪の男の事だろうが、中々大物だ。勢いと暴力だけで群を率いてる訳では無さそうだ。あの場面でも実際、俺一人を叩きのめすより遥かにいい手を取ったと思う。まぁその後のせいで意味はなくなってしまったが。
雪ノ下「私の友達……うちの部員を」
いや、言い直す必要あるか?
雪ノ下「あんな目に合わせるなんて、でも私ではどうすることも出来なかったって話よ」
110: 以下、

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