糸使い「私は糸を扱うのが得意です」面接官「当社で働く上でのメリットは?」back

糸使い「私は糸を扱うのが得意です」面接官「当社で働く上でのメリットは?」


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1:
<会社>
面接官「では……あなたの特技をお答え下さい」
糸使い「はいっ! 私は糸を扱うのが得意です!」
面接官「ふぅ〜ん、糸をねえ……」
糸使い(お、好感触!?)
面接官「で、当社で働く上でどういったメリットがありますか?」
糸使い「え……」
               
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5:
糸使い「あの……その……」
糸使い「たとえば、あやとりで……同僚を楽しませることができます」
面接官「はぁ……」
面接官「もう結構です」
糸使い「え」
面接官「私もあなたのような方を相手しているほど暇じゃないんです」
面接官「そもそもうちの会社はイベント企画や運営が主な業務ですから」
面接官「糸を扱う技能なんか全く必要じゃないしねえ」
面接官「席を立ってお帰り下さい」
糸使い「は、はい……失礼します……」
               
          
11:
バタン……
糸使い(またダメだったか……)
男「おや、いかがでしたか?」
糸使い「いやー、全然ダメでしたね」
男「採用面接なんてのは縁ですよ、縁! すぐに切り替えた方がいいですよ!」
糸使い「ありがとうございます……」
糸使い(この人、俺より前に面接受けてた人だよな。なんでまだいるんだろ)
糸使い(もしかして、採用されたのかな……いいなぁ)
               
          
13:
<会社の外>
妹「お兄ちゃーん!」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「おお、我が愛しき妹と愛しきペットよ!」
妹「面接、どうだった?」
糸使い「いやー……この顔見れば分かるだろ?」
妹「あらら……」
蜘蛛「ダメダッタノネ」
…………
……
               
          
19:
……
妹「ったく、ダメだなー」
妹「そういう時はさ、『糸を扱って培った器用さを生かします』とか」
妹「いくらでも言いようがあるじゃない!」
妹「そこで詰まっちゃうから、いつまでたっても面接で受からないんだよ」
蜘蛛「ソウソウ」
糸使い「そういうもんか……」
妹「ったく、いつまでもくよくよしない! あたしのハサミで切っちゃうよ!?」チョキチョキ
糸使い「あぶねっ!」
妹「お、少し元気出たね。一緒に帰ろ」
糸使い「ああ、ありがとう」
               
          
22:
<糸使いの自宅>
テレビ『昨夜、またしても怪盗が現れ……綿密な計画があったものと……』
糸使い「ええい、テレビうるさい!」ピッ
糸使い「あーあ、やべえよ……」
糸使い「お前と二人暮らしするようになって、糸専門店なんて始めたけど、客全然来ないし」
糸使い「なんとか普通の会社に就職しようとしても、糸使いなんて需要がなさすぎる……」
妹「糸専門店は閑古鳥だけど、もう一つの商売は順調じゃん」
糸使い「俺あれあまりやりたくないんだよ。やっぱり糸って平和的に使うもんだし」
糸使い「はぁ……糸使いなんて時代遅れなのかもな。女にもモテないし」
妹「まあまあいつまでも愚痴ってないで。一緒に納豆食べよ?」
糸使い「お、納豆あるのか! 食う食う!」
               
          
23:
糸使い「やっぱり納豆は500回以上混ぜないとな!」マゼマゼマゼ
蜘蛛「ロサンジンキドリカヨ」
糸使い「うるせえ!」マゼマゼマゼ
糸使い「ほーれ、ネバネバ〜」ネバァァァ
糸使い「ネバネバ〜」ネバァァァァァ
妹「……お兄ちゃんが女にモテないのって、糸使いだからじゃなくて、性格の問題だと思う」
蜘蛛「ウン」
糸使い「うるせえよ!」
               
          
24:
糸使い「いいよな、お前は彼氏がいるから!」
糸使い「あの……カッターナイフが好きな彼氏! あいつとはどうなんだよ?」
妹「んー……ボチボチってとこかな」
糸使い「そういやあいつとは一度会ったけど……」
妹彼氏『こんにちは、お兄さん!』
妹彼氏『ボク、カッターナイフの刃をポキッて折る時に最高にエクスタシーを感じちゃうんです!』
糸使い「……なかなかの好青年だった。あいつならお前を任せられる」
妹「そりゃどうも」
糸使い「さて、納豆食うか!」モグモグ
               
          
26:
糸使い「あ〜……美味かった」
糸使い「さっそく糸で……」シーハーシーハー
妹「やだ! あっち向いてやってよ!」
蜘蛛「キタナイナー」
糸使い「ほれ、こんなに歯クソが取れたぞ! すげえだろ!」
妹「汚いっての!」ビュオンッ
糸使い「あぶねっ! ハサミ振り回すなよ!」
               
          
27:
……
糸使い「食後のコーヒーでも飲むか」
糸使い「コーヒー出してくれよ」
妹「あ、ごめん。切らしたまま買ってないや」
糸使い「マジで!?」
糸使い「仕方ない。近くのコンビニで一杯やってくるか」
妹「まーたイートイン? お兄ちゃんも好きだねえ」
糸使い「なにしろ俺は糸使いだからな」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「お前も来るか?」
蜘蛛「イクイク」
糸使い「よし、ついてこい!」
               
          
28:
<コンビニ>
店長「お、糸使い君、いらっしゃい。就職活動はどうだい?」
糸使い「いやー、全然ダメですね」
蜘蛛「…………」カサカサ
店長「ま、気長にやるこった」
糸使い「はい……」
店長「蜘蛛君も、ご主人を支えてあげてな」
蜘蛛「モチロン!」
               
          
29:
糸使い「コーヒーうめえ〜」グビグビ
蜘蛛「ガムシロウメー」ペロペロ…
糸使い「――ん?」
女「…………」
糸使い「あそこで買い物してる女の人……おしとやかそうで、すげえ美人じゃないか!?」
蜘蛛「タシカニ」
糸使い「ちょっと声かけてきてくれよ」
蜘蛛「ナンデヤネン」
糸使い「いいじゃんか、頼むよ〜」
蜘蛛「ヤダヨ」
               
          
30:
女「…………」チラッ
糸使い(ゲ、俺の視線に気づいた!?)
女「…………」スタスタ
糸使い(やべえ、こっちに来た! どうしよう!?)
女「あのー……」
糸使い「は、はいっ!」
女「とても素敵な蜘蛛ちゃんですね」ニコッ
糸使い「あ、はいっ! あ、こいつ、俺のペットでして……アハハ……」
               
          
31:
糸使い「女性はこいつ見たら大抵ビビるのに……もしかしてあなた、蜘蛛オタクですか?」
女「いえ、そうではなく……」
女「私、ファッションデザイナーをしているんです」
糸使い「へえ、そうなんですか!」
女「自分で裁縫をして、服を仕立てることもするので、よく糸を扱ったりするんです」
女「だから、自分で糸を出す蜘蛛は、怖いというよりむしろ尊敬してるんです」
糸使い「なるほど〜(分かるような分からんような)」
               
          
32:
女「でも、悩みがありまして……」
糸使い「悩み?」
女「実は今、大きなファッションショーに出展するためのドレスを作っているんです」
糸使い「すごい! 売れっ子なんですね!」
女「ですが、いい布はあるんですけど、いい糸がなくて困ってるんです……」
糸使い「!」
糸使い「あ、あのっ……でしたらっ!」
女「はい?」
糸使い「俺、糸専門店を営んでおりまして、品質には自信があるんです!」
糸使い「ぜひ一度ご覧になって下さい!」
女「本当ですか? ぜひ!」
蜘蛛「オモワヌチャンス」
               
          
35:
<糸使いの自宅>
妹「お帰りー……ってあれ? お兄ちゃん、その女の人は?」
糸使い「ああ、ついさっき知り合ってね。俺の店の糸を見たいっていうんだ」
妹「へえ〜、珍しいこともあるもんだ」
女「あなたが妹さんね? こんばんは」
妹「こんばんは!」
妹「お兄ちゃんは糸に関してだけは誰にも負けませんから! 品質は保証しますよ!」
糸使い「あんまハードル上げるなよ」
女「ふふっ、期待してます」
糸使い「店はこちらになります。さ、どうぞ!」
               
          
37:
<糸使いの店>
糸使い「自宅の一部を改装して開業したんですけど……」
糸使い「今までに来たお客の数は……ほんの数人といったところでして」
糸使い「……いかがです?」
女「……すごい」
糸使い「え?」
女「一目で分かります! どれもこれもすごい糸ばかりだわ!」
糸使い「ほ、本当ですか!?」
女「もちろんです!」
糸使い(うう……長年の苦労がやっと報われた。生きててよかったぁ〜)
               
          
38:
女「ぜひ、こちらの店の糸を、私が今作っているドレスに使わせて下さい!」
糸使い「え、いいんですか!?」
女「はい、この店の糸なら……あなたの糸なら、最高のドレスが作れると思います!」
糸使い「ありがとうございます!」
妹「おお……いい感じだよ」
蜘蛛「ウン」
               
          
41:
女「ところで……またお会いできませんか?」
糸使い「え……」
女「ぜひまた……あなたとお話ししたいので……」
糸使い「え、あ……そりゃもう! もちろんかまいませんとも!」
糸使い「でも俺、携帯電話とか持ってないんですよ」
女「あら、そうなんですか」
糸使い「だから、この糸電話を差し上げます!」
糸使い「ものすごく細くて長い糸なんで、どこからでも俺に通話していただけます!」
女「本当ですか? ありがとうございます」
妹「今時携帯電話もスマホも持ってないって、ありえないよねー」
蜘蛛「ネー」
               
          
42:
妹「――あ、お兄ちゃん、服がほつれてるよ」
糸使い「あ、ホントだ」
妹「あたしが縫ったげる」
女「いえいえ、ここは私が」シュバババッ
女「できました」
糸使い「え、もう!? ありがとうございます!」
妹「ふえぇ〜……すごい早さ! さっすがファッションデザイナー!」
               
          
43:
女「じゃあ今夜はこれで……」
糸使い「さようならー!」
妹「お兄ちゃん、よかったねえ。いい人そうじゃない」
糸使い「ああ、俺にもやっと春が来たんだ!」
蜘蛛「センテンススプリング!」
               
          
45:
数日後――
<糸使いの自宅>
糸使い「ふんふ〜ん」
妹「お兄ちゃん、やけにはりきってるね。どうしたの?」
糸使い「実は……明日デートなんだ」
妹「え、マジ? やったじゃん!」
糸使い「頑張るぜ!」
妹「ちょっと……いやかなり不安……」
妹「そっとついていこっか」
蜘蛛「オウ」
               
          
46:
翌日――
<駅前>
糸使い「お待ちしておりました!」
糸使い「今日は……俺が寝ずに考えたデートスポットをご案内しますよ!」
女「まぁっ、とても楽しみです」
妹「…………」コソッ
蜘蛛「…………」カサカサ…
妹「自分から“寝ずに考えた”とかいっちゃうところがもう、センスないよね」ハァ…
蜘蛛「マッタクデスナ」
               
          
48:
糸使い「見て下さい、あの電線を! 複雑に交じり合って、とても美しいでしょう?」
女「まぁ、とてもステキですね」

糸使い「コーヒーでも飲みましょうか……コンビニのイートインで!」
女「ええ、そうしましょう」

糸使い「この店の糸こんにゃくは格別なんですよ!」
女「あら、とても楽しみですわ」
妹「ひどい、ひどすぎるよ……。こんな悲惨なデートコース、あたし見たことないよ……」
蜘蛛「オワッタナ」
               
          
49:
デートが終わり――
女「今日は楽しかったです。こんなに楽しい一日は久しぶりでした」
糸使い「本当ですか!? ありがとうございます!」
妹「あのデートが楽しかっただって! ……信じらんない!」
蜘蛛「アリエンナ」
妹「うん……なんか、あの女の人……ちょっと怪しいかも」
妹「もしかしたら……結婚詐欺師とか」
妹(お兄ちゃん……お兄ちゃんはあたしが守るからね! このハサミで!)チョキンッ
               
          
50:
デートから一週間後――
<糸使いの自宅>
糸使い「明日はちゃんとした服装しないとな。ジャケットに……ネクタイに……」
妹「ずいぶんはりきってるけど、どうしたの、お兄ちゃん?」
糸使い「実は明日、高級レストランでデートなんだ」
糸使い「……で、きちんと俺の気持ちをぶつけるつもりだ」
妹「へぇ〜、ちなみにレストランの名前は?」
糸使い「『レストラン○×』だったかな」
妹「そこってたしか、前にお兄ちゃんが落ちた会社の近くじゃん」
糸使い「あ、そういえばそうだな……。嫌なこと思い出しちまった」
               
          
53:
妹「――で、どうやって告白するつもり?」
糸使い「この赤い糸を、俺の小指と彼女の小指に結び付けて……」
糸使い「俺たち、赤い糸で結ばれてるよね……って」
妹「ええ……」
蜘蛛「ダサーイ」
糸使い「なんだよ、その反応は!」
妹「やめた方がいいよ、絶対」
糸使い「いーや、絶対やる! 明日が楽しみだぜ!」
妹「…………」
               
          
54:
次の日の夜――
<レストラン>
女「今日はありがとうございます」
女「こんな立派なレストランに招待していただいて」
女「でも、お金の方は……」
糸使い「あ、大丈夫! 俺の仕事は糸専門店だけじゃないんで」
女「あら、そうなんですか」
糸使い「ってわけで、カンパイ!」
女「はい!」
カチンッ
               
          
55:
<レストランの外>
妹「お兄ちゃんが心配だから、レストランの近くまで来ちゃうなんて」
妹「いやー、あたしらも兄想いだねえ」
蜘蛛「ホントホント」カサカサ
妹「でも、レストランに入るわけにはいかないし、どうしよう……」
妹「とりあえず、二人が出てくるのを待とうか」
妹「――ん?」
妹(あれ? お兄ちゃんが落とされた会社のビルに、怪しい集団が入っていく……)
               
          
56:
<レストラン>
糸使い「俺、最近はあやとりに凝ってて……。のび太君は心の師匠ですよ!」
女「まぁっ、ステキな趣味ですね」
糸使い「ところで、例のドレスは完成したんですか?」
女「ええ、おかげさまで」
女「ついさっき、すぐそこにあるファッションショーを運営する会社に、納入したところです」
女「これもあなたの糸のおかげです」
糸使い「いやいや、そんなことありませんよ〜」
糸使い(そろそろ告白したいけど、なかなかタイミングが掴めないな……)
糸使い(果たして、俺とこの人は、本当に赤い糸で結ばれてるんだろうか……)
               
          
58:
<会社>
妹「気配を殺して、と……」ササッ
妹「さっきの集団は一体なんだったんだろう……?」
蜘蛛「アッチニダレカイル」カサカサ
妹「うん……そっと近づこう」
妹「――あっ!」
               
          
59:
怪盗「おやおや、これは素晴らしい!」
怪盗「今をときめくファッションデザイナーの未発表のドレス!」
怪盗「私のコレクションにするに相応しい一品です……!」
部下A「ビルに残っていた社員たちは全員縛り上げました」
怪盗「ご苦労」
社員A「くそっ、ファッションショーはもう間近だというのに!」
社員B「うちのビルのセキュリティが、こうも簡単に解除されるなんて……」
面接官「あれが盗まれたら、うちの会社は終わりだ……!」
妹「こいつら……今話題になってる怪盗一味だ!」
妹「ようし……あたしが捕えてやる! あんたはここで待ってて!」
蜘蛛「キヲツケナヨ」
               
          
60:
妹「待ちなさいよ!」
怪盗「おや、あなたは?」
妹「あたしは『ハサミ使い』よ! あんたらの悪事はあたしがチョキッと切ってやるわ!」チョキチョキ
怪盗「ほう……もしやあなたは“仕事人”ですか?」
妹「そうよ、よく知ってるわね」
部下A「……なんですか、仕事人というのは?」
怪盗「政府から“独断で犯罪者を退治していい”と強力な特権を与えられた人間のことです」
怪盗「仕事人はそれぞれ『○○使い』というコードネームを持っているのだとか」
部下A「あんな小娘が……?」
怪盗「人は見かけによらない、というものですよ」
部下B「ですが、相手は一人! ここは我々にお任せ下さい!」
妹「かかってきなさい!」チョキチョキ
               
          
61:
妹「えーいっ!」
ザシュッ! ズバッ! ザクッ!
「ぐわぁっ!」 「ぐぎゃっ!」 「いでぇぇっ!」
妹「さあさあ、こんなもんなの!?」チョキチョキ
部下A「つ、強い……!」
部下B「我らとて、一人一人が並のボディガード10人分の力があるのに……!」
怪盗「おやおや、なるほどなるほど……さすがですね」
怪盗「これ以上、部下に傷を負わせるわけにはいきません」
怪盗「私自ら相手をして差し上げましょう……このサーベルでね」ジャキッ
妹(こいつ……メチャクチャ強い!)
               
          
62:
<レストラン>
ブチッ!
糸使い「!」
女「どうしました?」
糸使い(俺がいつも手首に巻いてる糸が……ひとりでに切れた! 不吉だ……)
糸使い(まさか……妹たちになにかあったんじゃ!?)
女「もうすぐメインディッシュですね。楽しみです」
糸使い(だけど、せっかくデートがいいムードだし……ただの偶然かもしれないし……)
糸使い(――いや!)
糸使い「すみません! 俺、ちょっと席をはずします!」ガタッ
女「えっ!」
               
          
65:
<会社>
妹「たあああああっ!」
怪盗「はあっ!」
キィンッ! キィンッ! ガキンッ!
ガキィンッ!
妹「きゃあっ!」ドサッ…
妹(やっぱり強い! あたしじゃ……勝てない!)
怪盗「おやおや、どうやらここまでのようですね」
               
          
66:
怪盗「仕事人の中にはどんな悪党も敵わない、恐るべき使い手が二人いるらしいですが」
怪盗「あなたはその二人のうちのどちらかではなかったようだ」
怪盗「しかし、あなたは将来、私の脅威になるおそれがある」
怪盗「殺しはしません、が……腕の腱を切断して、『ハサミ使い』としては死んでもらいましょう」
怪盗「彼女を押さえておきなさい」
部下A「はい」ガシッ
妹「は、はなしてっ!」ジタバタ
怪盗「これからは平凡な女子として幸せに生きていくことです」
妹(お兄ちゃん……っ!)
怪盗「それでは、トドメを――」チャキッ
               
          
67:
グルグルッ!
怪盗「!」ビンッ
怪盗(サーベルが、細い糸に絡め取られた!?)
怪盗「――誰だ!?」
糸使い「『糸使い』……参上!」
               
          
69:
妹「お兄ちゃん!? なんでここにいるの!?」
糸使い「嫌な予感がしてレストランを出たら、こいつが糸で道案内してくれてたんだよ」
蜘蛛「キキイッパツ」カサカサ
妹「そうじゃなくて……デートは!?」
糸使い「すっぽかしちゃった」
妹「なにやってんの! ったく、本当にバカなんだから……!」
妹「でも……ありがとう、お兄ちゃん」
糸使い「いいってことよ」
               
          
70:
部下A「新手か!」バッ
部下B「始末してやる!」バッ
糸使い「ほれっ」ヒュバッ
ザシュシュッ!
部下AB「ぐはぁ……っ!」ドザザッ
糸使い「さて、残るはお前一人だな」ヒュルルッ
怪盗「ほう……妹さんも強かったが、あなたはそれ以上だ」
糸使い(――って、こいつ、たしかこないだの面接の時に見たツラだな)
糸使い(そうか……あの時は求職者のふりをして、このビルを下見に来てたってわけか)
怪盗「なるほど、仕事人の中でも特に優秀な二人……あなたが“そのうちの一人”というわけですか」
糸使い「あいにく、この仕事はあまり好きじゃないんだけどな」
糸使い「糸は戦うためのもんじゃないと思ってるから」
怪盗「ふっ、あなたほどの使い手に出会えるとは嬉しいですよ! さぁ、勝負です!」
               
          
71:
ビンッ!
怪盗「あれ……?」ギシッ…
糸使い「残念だが、もう勝負はついてる」
糸使い「ここに姿を現す前に、お前の全身は糸で縛りつけておいた。手強そうだし」
怪盗「な、なんですとぉ!? くっ……こんなもの、こんなものっ!」グッグッ…
糸使い「無理無理、妹のハサミじゃなきゃ俺の糸は切れねえよ」
怪盗「う、ぐぐ……!」
怪盗「私は……すでに負けていた、ということか……!」
妹「お兄ちゃん、やったーっ!」
蜘蛛「ヤルジャン」
               
          
73:
怪盗「さすがです……『糸使い』……」
怪盗「しかし……ただでは負けませんよ……。手に入らないのならいっそ……」
糸使い「?」
怪盗「部下よ、そのドレスを破り捨ててしまいなさい!」
部下C「はいっ!」タタタッ
妹「ゲッ、さっきあたしが倒した奴! ――お兄ちゃん!」
糸使い「ちっ!」ヒュルルッ
グササササッ!
               
          
75:
部下C「か、体が動かな……!」ドサッ
糸使い(俺の糸より早く、何本もの針があいつに刺さりやがった!)
糸使い(しかも……正確にツボに刺さってやがる! とんでもねえ腕前だ!)
糸使い「――何者だ!?」バッ
女「あ、どうも……」ニコッ
糸使い「――え!?」
妹「なんで!?」
蜘蛛「アンタガココニ」
               
          
76:
女「ありがとうございました」
女「あなたたちがいなければ、私のドレスは盗まれていたでしょう」
糸使い「今の針さばき……あなたもまさか!?」
女「はい……副業で仕事人をしております。『針使い』として」
妹「『針使い』っていえば、仕事人の中でお兄ちゃんに並ぶ凄腕ってウワサの……」
蜘蛛「コリャタマゲタ」
怪盗(まさか、仕事人の最上位二名とばったり出くわすことになろうとは……)
怪盗(やれやれ、私の悪運も尽きたということだな……)
…………
……
               
          
77:
怪盗一味は逮捕され――
面接官「あ、あのっ!」
糸使い「なんでしょう?」
面接官「このたびは本当にありがとうございました! 先日はすみませんでした!」
面接官「大変ムシのいい話ですが、是非我が社で……」
糸使い「いえいえ、そういう意図があって、怪盗を捕えたわけじゃありませんから」
糸使い「糸使いだけに」ニヤッ
面接官「…………」
妹「うわ……さっむ」
蜘蛛「シカモワカリニクイ」
               
          
78:
糸使い「それにしても驚きでした。あなたが『針使い』だったとは」
女「私も驚きです。あなたが『糸使い』だったなんて」
女「やっぱり私たち、お似合いみたいですね!」
糸使い「そうですね!」
糸使い「あ、あの……」
女「はい?」
糸使い「…………」シュルルッ
糸使い「俺たち、赤い糸で結ばれてますよね!」ギュッ
女「はい……私という針の穴に、あなたという糸を通して下さいませ!」
妹「あー……あの二人がなんで相性がいいのか、やっと分かったよ」
蜘蛛「ナンデ?」
妹「二人とも、根本的なところのセンスが同レベルなんだ」
蜘蛛「ナルホド」
               
          
80:
妹「で、晴れて恋人ができたところで、今後どうすんの、お兄ちゃん?」
妹「就活続けるの? それともコンビで仕事人すんの?」
糸使い「ん〜……俺としてはやっぱり糸専門店を頑張りたいんだけど」
妹「それじゃ全然稼げないじゃん」
女「大丈夫ですよ、私がデザイナーの仕事で養ってあげますから。お店に専念して下さい」
糸使い「それはいくらなんでも情けなすぎる……男として」
蜘蛛「ヒモダナ」
妹「いいんじゃない? ヒモでも。糸使いなんだし、ピッタリじゃん!」
糸使い「おいおい、そいつは勘弁してくれ〜!」
アッハッハッハッハ……!
〜おわり〜
               
          
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乙乙
               
          
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