狐神「お主はお人好しじゃのう」【その2】back

狐神「お主はお人好しじゃのう」【その2】


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うーん、良い
427: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 20:57:15.57 ID:MFCDpTua0

狼男「予想以上に早く仕事が片付いてしまいましたね」
お祓い師「部屋の“憑き物”を祓っただけだからな。大して強いものでも無かったし」
狐神「久々に“らしい”姿が見れた気がするわい」
お祓い師「どういう意味だ」
狐神「いやなに。専門家らしく手こずらずに解決したからの」
お祓い師「……刀を持った狂人を相手にするのは専門じゃないんだよ」
428: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 20:58:22.70 ID:MFCDpTua0
狐神「ふふっ、わかとっるわい」
狼男「あんまりからかっているとまた怒られますよ」
狐神「わしがこやつのなにを恐れろと?」
お祓い師「……昼飯……減量」
狐神「か、勘弁しておくれ……!」
お祓い師「ふん、あんまり生意気な気な口を利くなよ」
狐神「わしの方がよっぽど年長者であるというのに……」
お祓い師「生憎だが俺は年功序列という言葉が嫌いだ」
狐神「歳上は敬うべきじゃと思うがな」
お祓い師「一応考えておく」
429: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 20:59:09.43 ID:MFCDpTua0
狐神「本当かのう……」
狼男「……!」
狼男(あれは……)
お祓い師「どうした?」
狼男「い、いえ」
狼男「忘れ物を思い出してしまって。きっと昨晩の酒場です」
お祓い師「どうする?」
狼男「自分一人で取りに戻ります」
お祓い師「おう、わかった」
狼男「では」
430: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 21:02:59.80 ID:MFCDpTua0
狐神「ふむ……?」
狐神(えらく焦っておったが、あれは一体……)
お祓い師「さ、本屋に行くぞ。まだ色々と調べたいんだ」
狐神「うむわかった」
狐神「わしも少々調べたいことがあっての」
お祓い師「ほう、珍しい」
狐神「わしが本を読んだらいけないのかの?」
お祓い師「怒んなって、冗談だ」
狐神「からかうのも大概にせい……」
お祓い師「じゃあ行くか」
狐神「うむ。調べ物は早々に終わらせて早う昼食にしたい」
431: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 21:05:40.73 ID:MFCDpTua0

──とある手紙──
『復讐、だなんて私には思いつきもしないことでした。』
『思いつきもしなかったと言うのは嘘かもしれません。知らないふりをしていただけなんでしょう。』
『私はずっと神の御前で良い聖職者として振舞ってきました。』
『ふたりの良い友人であろうと振舞ってきました。』
『でも今気が付きました。私は二人が言うような“いい子”ではないんです。』
『私だって怒ります。私だって恨みます。』
『こんな理不尽な仕打ちには、仕返しをする他に無いのだと気が付かされました。』
『ごめんなさい。感謝祭、一緒に回りたかったです。』
『さようなら。』



432: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 21:08:26.77 ID:MFCDpTua0

路地裏の酒場の娘「……で、翌朝になってもあの従者さんは戻ってこなかった、と」
お祓い師「ああ。ここに荷物を忘れたから取りに行くと言っていたんだが姿は見なかったか」
路地裏の酒場の娘「いや、昨日今日で会った人が来たなら気がつくはずなんだけど……。そもそも忘れ物なんて無かったし」
お祓い師「そ、そうか……。邪魔したな」
路地裏の酒場の娘「力になれなくてごめんね」
お祓い師「いや、いいんだ」
路地裏の酒場の娘「…………」
433: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 21:30:03.95 ID:MFCDpTua0

お祓い師「…………」
狐神「おぬし、これは……」
お祓い師「……違和感には気がついていたんだ……。もう少しちゃんと聞くべきだった……!」
狐神「あやつの様子がおかしかったのはいつからじゃ?」
お祓い師「この街に来た時……、いや、東の森であの修道女に会った辺りからだ」
狐神「そういえば、なぜか外で寝るなどと言い出したのう」
434: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 22:00:11.78 ID:MFCDpTua0
お祓い師「そうだ、あの時点で何かがおかしかった」
お祓い師「なぜあいつはあの時小屋を出たがったのか……」
お祓い師「…………」
お祓い師「……まさか……!おい狐神!」
狐神「な、なんじゃ!?」
お祓い師「さっきは察知できなかったみたいだが、もう一度できるだけ広範囲で『狼男に遭遇できる地点』を探してくれ!」
狐神「う、うむ。じゃが、さっき力を使ったせいでどうにも広い範囲は探れそうにないんじゃが……」
狐神「供物になるものがあれば、もう一度使えそうなんじゃが……」
お祓い師「食べ物はいま手元にない……。他に代わりになるものはないのか?」
狐神「……依り代の契約の時と同じように血でも構わぬぞ」
435: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 22:30:39.68 ID:MFCDpTua0
お祓い師「……わかった。血をやるからこっちの路地裏に来い」
狐神「おぬし、あまり引っ張るでない……!い、痛い……」
お祓い師「あ……。す、すまん……」
狐神「だ、大丈夫じゃが、どうしたのじゃ。何をそんなに焦っておる」
お祓い師「……」
お祓い師「具体的にあいつが何をしようとしているのかはわからないが、マズいことになるのは間違いない」
狐神「どういう意味じゃ、きちんと説明せんか」
お祓い師「あの晩にあいつ、狼男が小屋の外で寝ると言い始めた理由を考えてみろ」
狐神「り、理由じゃと……?」
お祓い師「あいつが小屋を出るといった直前にあの修道女が何をした」
436: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 22:36:22.17 ID:MFCDpTua0
狐神「え、ええと……。暖炉に火をつけて……」
狐神「……まさか……!」
お祓い師「ああそうだ。あの暖炉には“魔の者を遠ざける魔術”が仕掛けられていると言っていた」
お祓い師「狼男はその術を嫌がって外に出たんだ」
狐神「つまりあやつは魔の者ということか……」
お祓い師「ああ、そうだ。つまりあいつは絶対神信仰とは真逆の思想を持っているということだ」
お祓い師「そんな奴が、この絶対神信仰の布教のための街でやらかそうとしていることなんてロクなことじゃない」
お祓い師「とにかく、まずはあいつに会わないとまずい」
お祓い師「……よし、血だ。飲んでいいぞ」
狐神「う、うむ……」
437: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/06(日) 22:37:54.08 ID:MFCDpTua0
狐神「ではもう一度探ってみる……」
狐神「…………」
狐神「……む、あっちじゃ……」
お祓い師「正確な場所はわからないのか」
狐神「あくまでわしの力は『目的地に導く力』じゃ。道筋がわかるだけで場所まではわからぬ」
狐神「もっと近づけば、力の気配や臭いでわかるはずじゃから、力が続く限り向かうのが先決じゃ」
お祓い師「わかった、急ぐぞ……!」
狐神「うむ……!」
446: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:19:19.18 ID:jMo8pRMr0

狼男「ぐあっ……!つ、強い……」
黒髪の修道女「だ、大丈夫ですか……!?」
西人街の聖騎士長「二人とも大人しく投降しろ。俺一人相手に勝てないのに、この人数を相手に逃げられると思うのか」
肥えた大神官「……早くその愚か者を捕らえて処刑してしまえ」
狼男「ぐ……」
お祓い師(……!いた……!)
447: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:22:37.27 ID:jMo8pRMr0
聖騎士A「待て!」
聖騎士A「貴様はあの不届き者の同行者であったな。この場で拘束させてもらう」
お祓い師「なっ、どけっ!俺はあいつを止めないとならない!」
聖騎士B「もう遅い。あの者はあろうことか魔女と手を組み大神官様に牙を剥いた」
お祓い師「魔女……?」
お祓い師「あいつ……」
お祓い師(やはりあの修道女が“魔女”か。だが、なぜ狼男と一緒に……)
役所の快活な受付嬢「追いついた……!」
お祓い師「お前、いつの間に……」
役所の快活な受付嬢「あの子からの手紙がさっき酒場に届いたのよ!」
448: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:25:05.21 ID:jMo8pRMr0
役所の快活な受付嬢「お願い、そこを通して!」
聖騎士C「それは出来ない。如何なる者も通すなという命令だ」
役所の快活な受付嬢「命令?命令ってあの馬鹿の命令!?」
聖騎士B「なっ、聖騎士長に向かって馬鹿とは失敬であるぞ!」
聖騎士C「貴様も拘束させてもらう!」
役所の快活な受付嬢「いやっ!離してよっ!」
西人街の聖騎士長「待て、そいつは離してやれ」
聖騎士C「は、はっ!」
役所の快活な受付嬢「……どういうつもり。やっとその子が見つかったっていうのに……!」
西人街の聖騎士長「見つかったから拘束したんだろう。こいつは教会の教えに背いた魔女なんだぞ」
449: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:27:03.66 ID:jMo8pRMr0
黒髪の修道女「…………」
役所の快活な受付嬢「教会の教えに背いた!?いつその子が教会の背いたっていうのよ!」
役所の快活な受付嬢「その子ほど献身的に祈りを捧げていた信徒はそうそういない!」
役所の快活な受付嬢「それをあんたら教会の勝手な都合で魔女裁判にかけて!なにそれ、ふざけないでよ!」
西人街の聖騎士長「……大神官様の言うことは絶対だ」
お祓い師「おい」
西人街の聖騎士長「……お前との二度目の対面がこんな形になるとは残念だ」
お祓い師「……大神官サマの言うことが絶対だ?」
お祓い師「お前たちにとっての絶対ってのは神のことだろうが……!」
西人街の聖騎士長「……絶対神のお言葉を聞けるのは神官様たちだけだ」
450: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:30:39.08 ID:jMo8pRMr0
お祓い師「自分の意志を持たないクズが……!」
狐神「……!」
聖騎士B「貴様っ!」
聖騎士C「なんということをっ!」
お祓い師「ぐはっ!」
西人街の聖騎士長「……お前がなんと言おうとこの状況は覆らない。諦めてそこで眺めていろ」
西人街の聖騎士長「とは言っても、お前たちもタダでは帰れないな。ま、覚悟はしておけよ」
黒髪の修道女「……あなたも落ちたものですね」
西人街の聖騎士長「落ちたどころかここまで偉くなったぞ」
役所の快活な受付嬢「あんたね……!」
451: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:31:58.26 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「で、お前が“逆恨み”で大神官様を襲いに戻ってきたのはわかるが、そっちの男はどうやって知りあった?」
西人街の聖騎士長「見たところ狼男のようだが……」
黒髪の修道女「……たまたまこの人の心の中を覗いたら、同じ相手に恨みを持っていたから声をかけただけです……」
お祓い師(あの晩に俺たちが眠った後に接触したか……。そこで仇がこの街にいることを知って様子がおかしかったのか)
西人街の聖騎士長「大神官様、お心当たりは」
肥えた大神官「……ふん、知らんな。狼男の知り合いなどいるはずもない」
狼男「とぼけるな!お前が“罪のない妻に人狼の疑いをかけて殺した”神官だということは分かっている!」
お祓い師「なっ……!」
お祓い師(自身が人狼として疑われた、という話は嘘だったのか……)
狼男「あの後貴様が皇国へと転属されたと聞き、遥々国を越えてここまで来た……」
452: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:34:17.35 ID:jMo8pRMr0
狼男「小国といえど国は広い。年月をかけてようやく貴様を見つけ出した!」
狼男「例え自分が死んででも、貴様だけは必ず殺す……!」
肥えた大神官「ふん、言いがかりもいいところだな」
肥えた大神官「おい、あとは任せたぞ。私は感謝祭の準備で忙しい」
西人街の聖騎士長「はっ、わかりました」
狼男「待てっ!!」
西人街の聖騎士長「通さねえぞ……!」
狼男「くそっ!」
狼男「おい待てっ!クソッ!!待ちやがれええええぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
西人街の聖騎士長「諦めるんだな」
453: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:38:33.05 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「大体お前の話には無理がありすぎる。将来に大神官になられる素質のある方が魔の者の気配を読み間違えるなど……」
黒髪の修道女「この方は人の姿の時には全く気配を発しません。誰であろうと見分けるのは非常に困難です……」
西人街の聖騎士長「……何としても大神官様を侮辱したいか」
西人街の聖騎士長「しかし、……なるほど?“それがその男の力というわけか。お前は狼男だものな”」
西人街の聖騎士長「だがそうなると、更におかしな点が出てくるな」
西人街の聖騎士長「不遜も甚だしいが、もし仮にこの男が大神官様を討ち取ろうと考えていたならば、もっと円滑にできたはずだ」
狼男「さ、さっきから何を言っている……」
西人街の聖騎士長「んん……?」
西人街の聖騎士長(……なるほど。自分の力を理解していない、か)
西人街の聖騎士長「まあいい。祭りで活気づいた街の往来でこれ以上こうしているわけにもいかないからな」
454: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:41:28.56 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「あとは裏で処理する。ひとまずは牢へ連れて行け」
聖騎士D「はっ」
聖騎士E「おい立て」
狼男「ぐっ……」
黒髪の修道女「…………」
お祓い師「待て……!」
聖騎士A「貴様も動くな!」
お祓い師「離せ!」
聖騎士A「なっ……!ぐわっ!」
聖騎士B「貴様っ……!」
455: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:42:59.96 ID:jMo8pRMr0
聖騎士C「ここで処断してやろう……!」
お祓い師「どけっ!」
お祓い師『滅却!!』
聖騎士B「炎だとっ!?」
聖騎士C「近付けん……!」
西人街の聖騎士長「……さすが、だな」
西人街の聖騎士長「お前ほどのお祓い師ならば、その攻撃は並の威力ではないか」
西人街の聖騎士長「その相手をするのは非常に困難だが……」
お祓い師「そいつらを離せ!」
西人街の聖騎士長「……それでもまだ俺のほうが強い」
456: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:57:29.44 ID:jMo8pRMr0
お祓い師「なっ……!」
お祓い師「ぐはっ!!」
狼男「だ、旦那……!」
狐神「大丈夫かの……!?」
西人街の聖騎士長「……うーん」
西人街の聖騎士長「やっぱり違和感があるんだよな……」
お祓い師「なんの、ことだ……」
西人街の聖騎士長「いや、お前が今使った力と、別の何かをお前から感じてね」
西人街の聖騎士長「……だが残念だな。その正体が何かは分からないが、“お前の場合は手遅れだろう”」
お祓い師「……訳がわからないことを……!」
457: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 18:59:00.45 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「おっと、話が長くなっちまったな」
西人街の聖騎士長「よし、そいつらもまとめて連れて行け」
西人街の聖騎士長「あとその受付嬢は……」
西人街の聖騎士長「一緒にこの街で育った仲だ。いま黙って立ち去るなら見逃してやるぞ」
役所の快活な受付嬢「……誰がっ……!あんたの言うことなんか……!」
路地裏の酒場の娘「待って!」
路地裏の酒場の娘「お願い、冷静になって……!」
西人街の聖騎士長「お前も来たのか。ははっ、まるで同窓会みたいだな」
路地裏の酒場の娘「なんであなたはそうも……!」
役所の快活な受付嬢「離して……!私はあいつに一発くれてやらないと気がすまない……!」
458: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 19:02:35.56 ID:jMo8pRMr0
路地裏の酒場の娘「気持ちは同じだけど抑えて。このままじゃ捕まっちゃう……!」
役所の快活な受付嬢「でもっ……!」
路地裏の酒場の娘「お願い、こらえて……!」
役所の快活な受付嬢「でも……、やっとあの子に会えたのに……!」
黒髪の修道女「私は、大丈夫だよ……。二人とも心配してくれていて、嬉しかった……」
黒髪の修道女「でも二人が捕まっちゃったら私は悲しい……。だから二人はもうこの場を離れて……!」
役所の快活な受付嬢「だけど……!」
黒髪の修道女「ごめんね……。私、二人が思っているようないい子じゃない」
黒髪の修道女「ずっとこの街の近くにいた理由も、やっとわかったんだ」
黒髪の修道女「……ずっと、復讐したかったんだ」
459: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 19:05:22.09 ID:jMo8pRMr0
黒髪の修道女「その気持ちを、たまたまあの時にこの人の心を覗いて気付かされただけ……」
黒髪の修道女「だから……」
役所の快活な受付嬢「…………」
路地裏の酒場の娘「行こう……。私たちに出来ることは、ないから……」
黒髪の修道女「お願い、行って……!」
役所の快活な受付嬢「っ……!」
役所の快活な受付嬢「私は絶対に許さないから!あんたも、教会も!絶対に許さないから……!」
西人街の聖騎士長「…………」
役所の快活な受付嬢「絶対に……!」
西人街の聖騎士長「……さて、他の四人は牢に連行する」
460: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 19:06:40.30 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「おい、やられた三人もそろそろ立てるだろう」
聖騎士A「は、はっ……!」
西人街の聖騎士長「じゃあそこの女も連れて来てくれ」
聖騎士B「よし立て」
聖騎士B「……どうした、立てと言っている!」
狐神「…………」
お祓い師「狐神……?」
聖騎士C「待て、様子がおかしい。……顔色が酷く悪いな」
聖騎士A「体調でも崩したか」
西人街の聖騎士長(……いや、あの女からは僅かながら力を使っている気配がする)
461: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 19:08:28.50 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「まて、何かあるぞ警戒を……」
狐神「……!」
狐神「今じゃおぬし、立てっ!」
お祓い師「くっ……!」
西人街の聖騎士長「なっ……!?」
狐神「こっちの路地じゃ!」
お祓い師「ま、待て!それだと……!」
狐神「迷っておる暇はあらん!はようせんか!」
お祓い師「いいから離せ!」
狐神「聞き分けのない……!」
462: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 19:10:54.28 ID:jMo8pRMr0
お祓い師「あっ、おい!」
聖騎士A「待てっ!」
西人街の聖騎士長「お前たちは追え。こっちの二人は俺が牢にぶち込んでおく」
西人街の聖騎士長「だが見つからなければ深追いはしなくていい」
聖騎士A「な、なぜですか」
西人街の聖騎士長「……その方が面倒事が減っていいからだ」
聖騎士A「へ……?」
西人街の聖騎士長「ま、いいから一応追ってみろ」
聖騎士A「はっ!よし、行くぞっ!」
西人街の聖騎士長「…………」
463: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/12(土) 19:11:40.38 ID:jMo8pRMr0
西人街の聖騎士長「さて、二人とも」
狼男「…………」
黒髪の修道女「…………」
西人街の聖騎士長「牢まで来てもらおうか。いろいろと話がある」
470: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 21:37:34.31 ID:V3khLlu10

狐神「はあっ……、はあっ……」
お祓い師「おいっ……! 離せって!」
狐神「はあ……、ここまでくれば平気じゃろう……」
お祓い師「おい、聞いてんのか! なんであそこで逃げた!」
お祓い師「まだ二人が捕まったままだろうが!」
狐神「……見えなかったのじゃ」
471: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 21:45:32.06 ID:V3khLlu10
お祓い師「あ……?」
狐神「……あの場から二人も連れて逃げるという道筋が、どれだけ力を使っても見えなかったのじゃ……」
狐神「もう力が尽きようという時に、仕方なしに二人だけで逃げきれる道を選んだのじゃ……」
お祓い師「な……」
お祓い師(……ずっと力を使っていたからあんなに疲弊していたのか)
お祓い師「……あの二人を連れて逃げる道筋が見えなかったということは……」
狐神「うむ……。あやつがそれだけ強いということじゃろう」
狐神「それに加えて、辻斬りの時とは違って、他にも沢山の聖騎士がおった。状況の悪さはあの時以上じゃ」
狐神「そんな中を手負い四人で逃げるなど無理じゃ……」
お祓い師「くそっ……!」
472: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 21:56:02.20 ID:V3khLlu10
狐神「こうなってしまった以上わしらにはそうすることも……」
お祓い師「見捨てるってことか……?」
狐神「現実的な話をすれば、じゃ」
狐神「あやつらのしていることは、少なくともこの皇国内では違法」
狐神「しかし聞く所によるとこの都市においては、あやつらに自治権があるに等しいらしいではないか」
お祓い師「……そうだ。この西人街の教会は共和国の大使を兼ねている」
お祓い師「国軍であろうとも無闇に手を出せないのは事実だ」
狐神「力に訴えても、言論を持ってしても、わしらに勝ち目はあらん、ということじゃろう……」
お祓い師「そうだ、だがそれでも……!」
お祓い師「…………」
473: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:01:41.01 ID:V3khLlu10
狐神「…………」
狐神「わしだって……、わしだって本当ならば……」
お祓い師「なら……!」
???『──聞き分けさない。“貴方は諦めてこの街を出るの”。その方が楽で“魅力的な”方法でしょう?』
お祓い師「な……」
お祓い師「…………」
お祓い師「……わ、わかっている……。俺だってわかってるさ……」
お祓い師「……復讐という選択をしたあいつらが、自ら招いた結末だ」
お祓い師「もう俺たちには関係のない……」
狐神(……なんじゃ?もう少し粘るとは思ったのじゃが、意外とあっさりと……)
474: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:06:34.96 ID:V3khLlu10
狐神「……思ったよりも早く諦めたのう」
お祓い師「……お、俺は冒険物語の主人公じゃないんだ」
狐神「…………」
お祓い師「どうしようもない逆境を覆せるような力はない……」
お祓い師「今から、あいつらを助けに行くのはただの蛮勇だ」
狐神(言っていることがさっきと真逆じゃ……。一体何が……)
狐神(しかし、今のわしらに逃げる以外の選択肢はない。再びこやつの気が変わらん内に行かねば……)
狐神「……そうか、では早くこの街を出るとしよう」
狐神「わしらもすでにこの街ではお尋ね者じゃ」
お祓い師「……馬車馬は捨てていくしかないか」
475: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:08:45.77 ID:V3khLlu10
狐神「いや、一応取りに戻ってみてはどうじゃろうか」
狐神「わしの力で馬車ごと街から出ることが可能かもしれぬからな」
お祓い師「……そう、だな」
狐神「じゃあ急ごうかの。あの役所に聖騎士の張り込みが入るのも時間の問題じゃろう」
476: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:10:45.49 ID:V3khLlu10

狐神「(聖騎士の姿はなさそうじゃ)」
お祓い師「(いや待て、人の姿があるぞ……)」
狐神「(……あの受付嬢と酒場の娘ではないか)」
お祓い師「(……行ってみよう)」
役所の快活な受付嬢「あっ、君たち……!」
路地裏の酒場の娘「無事だったんだね……」
477: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:21:20.66 ID:V3khLlu10
お祓い師「ああ、だが……」
役所の快活な受付嬢「……いや、いいんだ。それに捕まっちゃったのはそっちの連れも同じでしょ?」
お祓い師「……なあ」
お祓い師「俺たちがあの晩に、あの修道女と出会っていなかったら」
お祓い師「あの修道女が心の中を覗かなければ、こんな事にはならなかったのか……?」
路地裏の酒場の娘「……いや、違うよ……」
路地裏の酒場の娘「復讐っていう方法を選んだのはあの二人」
路地裏の酒場の娘「たしかにもっと早く気がついていれば、私たちはあの子たちを止められたかもしれない……」
路地裏の酒場の娘「それでも最後にあの選択をしたのは、他でもないあの子たちだから……」
役所の快活な受付嬢「…………」
478: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:28:43.73 ID:V3khLlu10
お祓い師「……そうか」
お祓い師「俺たちは少なくともこの街ではお尋ね者になってしまった」
お祓い師「今すぐにでもここを発つつもりだ」
役所の快活な受付嬢「そうだと思って馬の綱は外しておいたよ」
お祓い師「すまないな」
役所の快活な受付嬢「街を出ちゃえば安全だと思うから」
路地裏の酒場の娘「あとは、他にも教会が力を持っている街は少しだけどあるから、そこだけは注意すれば」
お祓い師「だな、忠告ありがとう」
役所の快活な受付嬢「ううん、気をつけて」
お祓い師「……ああ」
狐神「では、の……」
479: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:35:14.89 ID:V3khLlu10

狐神「ふう、どうにか街を抜けられたかの……」
お祓い師「立て続けに力を使って疲れているだろ。少し休め」
狐神「……うむ、そうさせてもらうかの」
狐神「…………」
狐神「……なあおぬしよ」
お祓い師「なんだ」
480: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:44:34.92 ID:V3khLlu10
狐神「あの騎士の言っていた、おぬしの中の“別の何か”のことじゃ」
お祓い師「…………」
狐神「わしも違和感は感じておったし、今まで相対した奴らもおぬしのことを何かおかしいと感じておるようじゃった」
狐神「おぬし自身の体のことじゃろう。本当は何か知っているのではないのかのう……?」
お祓い師「……知らねえよ」
狐神「じゃが……」
お祓い師「知らねえし、知りたくもない」
狐神「……おぬし、何を片意地を張っておる」
お祓い師「……あ?」
狐神「おぬしから感じる別の力があればあの二人を救えたのではないのか……?」
481: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:47:27.59 ID:V3khLlu10
お祓い師「……何を根拠に」
狐神「根拠などあらん。しかし、その力の可能性にかけてみようとは思わなかったのかの?」
お祓い師「あの二人を助けだすという選択肢を最初に捨てたのはお前の方だろうが……!」
狐神「わしの力ではあの状況を打破することはできなかったということじゃ」
狐神「じゃがおぬしは、隠し玉を持っておるではないか……!」
狐神「おぬしは本当はその力の正体を知っているのではないのか?」
狐神「わしが思うにそれはおぬしの親の……!」
お祓い師「──うるせえ!!」
狐神「っ……!」
お祓い師「……知らねえって言ってるだろ……!」
狐神「……お、ぬし……!」
482: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 22:54:12.17 ID:V3khLlu10
狐神「なんじゃその反応は!」
狐神「それは肯定と取っていいということじゃな!?」
お祓い師「だったら、なんだっていうんだよ!」
狐神「痛っ……!」
お祓い師「あ……」
お祓い師「……すまん……」
狐神「……いや、平気じゃ……」
狐神「……なあ、おぬしよ。最後にいいかの」
お祓い師「…………」
お祓い師「……なんだ」
483: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 23:00:56.82 ID:V3khLlu10
狐神「……おぬしは。おぬしは本当にお父上を尊敬しておるのか……?」
狐神「おぬしはその身に宿る力のことをどう思っておるのじゃ?」
お祓い師「…………」
484: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 23:03:34.53 ID:V3khLlu10
《現状のランク》
※潜在能力ではなく、その時点で判明している実力
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長
B1 狼男
B2 お祓い師
B3
C1 
C2
C3 河童
D1 
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の修道女
485: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/17(木) 23:05:42.12 ID:V3khLlu10
《魔女》編終わりです。
章題の魔女がほとんど出てこないという回でした。
主人公が負けっぱなしですが、格上には割と負ける感じの人です。
色々とすっきりしないまま終わりましたが、回収はまた後ほど。
489: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 20:01:15.20 ID:cLx3pPmv0
《天狗》
狐神「…………」
お祓い師「…………」
狐神(あれから一晩以上、口を利いていないのう)
狐神(してはいけない質問だとはわかっておったが……)
狐神(こうもこやつが頑固であったとはのう)
狐神(……いや、頑固なのは知っておったわ)
490: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 20:09:14.83 ID:cLx3pPmv0
狐神(なんにせよ、居心地が悪い。どうにかならんものか……)
狐神「……のう、ぬしよ」
お祓い師「……なんだよ」
狐神(……自ら話しかけてしまえば、ここまで呆気ないものじゃったか)
狐神「いや、あの二人のことじゃ」
お祓い師「…………」
狐神「わしが思うに、あの二人は殺されてはいないはずじゃ」
お祓い師「気休めで場を取り繕おうとしているなら逆効果だぞ」
狐神「気休めではあらん」
お祓い師「……まあそれに関しては俺も同意見だ」
491: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 20:21:23.24 ID:cLx3pPmv0
お祓い師「いかに皇国において、数カ所の街で自治権を得ているとはいえ、罪人を死刑にする権利は与えられていない」
お祓い師「もし死刑を行えば、皇国における反教会団体がここぞとばかりにうるさくなるだろうからな」
狐神「そう思っていながら、無謀にも奴らに挑もうとしたのかの」
お祓い師「あの場で助けられるならそれに越したことはないだろうが」
お祓い師「出会って一ヶ月少しとはいえ俺達の仲間だ。そう簡単に見捨てられるかよ」
狐神「……その通りじゃな」
狐神「更に気休めを言うならば、あの聖騎士長という者からは殺意が感じられんかった、ということじゃな」
狐神「本当にあの大神官という者を狼男から守っていたのならば、もう少し殺意やそれに似た何かを感じても良かったはずじゃ」
狐神「じゃが、あやつにはそれが無かった」
狐神「ああ振る舞ってはおったが、やはり旧知の仲である修道女を手に掛けるつもりなど初めから無かったのではないのかのう」
492: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 20:35:53.57 ID:cLx3pPmv0
お祓い師「あいつもあいつで事情あり、ってことか……」
狐神「うむ」
狐神「……じゃが、そうはいっても特に狼男の方はいつまでも無事である保証はない。何よりあやつは既に人ではない」
狐神「人為らざるものに、人の世の法が適用されるかのう……」
お祓い師「…………」
狐神「あやつらを助けるためには、おぬしとわしが力をつける他ないのじゃ」
お祓い師「……わかってる」
狐神「また怒られる覚悟で言うがの、それでもおぬしは、その内に秘めた力を使わぬというのかの」
お祓い師「…………」
狐神「おぬし……」
493: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 20:48:00.49 ID:cLx3pPmv0
お祓い師「……得体も知れない力に頼らなくても、己の力を鍛えれば済む話だろうが」
狐神「……それができるなら、それでいいんじゃが」
お祓い師「チッ……」
狐神「怒るでない。その点についてはわしも人のことを言えんからのう……」
お祓い師「……力を取り戻せている感覚はないのか」
狐神「初めて会った時よりは幾分かマシじゃが、それでも力を使うとすぐにに意識が薄くなっていってしまう」
お祓い師「……あまり無理はするなよ」
狐神「わかっておる」
狐神「…………」
狐神「……ぬしよ」
494: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 21:05:57.93 ID:cLx3pPmv0
お祓い師「あ?」
狐神「物の怪が近づいてきておるぞ」
お祓い師「なに……!」
お祓い師「……いつの間に。一体こいつは……」
狐神「天邪鬼、じゃな。人の心を読むことが出来る妖怪の一種じゃ」
お祓い師「あの修道女と同じだと……!?」
狐神「いや、こやつら自身の知能は低く、“覚”のような強力な力の持ち主でもあらん」
狐神「せいぜい、心を読んだ人間の口真似をしたりする程度じゃと聞いておる」
狐神「適当に追い払ってこの場を抜けてしまうのがよいじゃろう」
お祓い師「……わかった」
495: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 21:18:10.68 ID:cLx3pPmv0
お祓い師『──滅却』
天邪鬼「……ッ!?」
お祓い師「消し炭になりたくなかったら早く失せな」
天邪鬼「…………」
お祓い師「…………」
お祓い師「……行ったか」
狐神「やはりおぬしはあまいのう……」
お祓い師「別に危害を加えられてないから、わざわざ祓う必要もないだろ」
狐神「じゃがわざわざわしらの元へ来たということは、何らかの悪意があったと考えるのが妥当じゃろう」
狐神「命を救われた身として言うのもなんじゃが、おぬし自身の足をすくうような事にならねば良いのじゃがな……」
496: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 21:30:11.17 ID:cLx3pPmv0
お祓い師「……肝に銘じておく」
狐神「うむ」
狐神「……して、今わしらはどこへ向けて馬を進めておるのじゃ」
狐神「まさかお父上がいるという場所は直接行けるほど近くはないのじゃろう?」
お祓い師「ああ、途中で一つ町を経由していく」
お祓い師「今向かっている所はそれなりに大きな退魔師協会の支部があるらしい」
狐神「退魔師協会の支部、というといつもわしらが役所でお世話になっておる窓口のことかの」
お祓い師「ああそうだ。あの窓口は正確には役所がやっている公的機関じゃなくて、国と協会が提携して運営している場所なんだ」
狐神「ふむ、なぜそんなことを」
お祓い師「お祓い師……、一般的に言う退魔師は個人個人が強い力を持っている」
497: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 21:39:56.06 ID:cLx3pPmv0
お祓い師「それが組織化され集団になるということは、ある意味軍事力を持つことと同じだ」
お祓い師「国からすれば自国軍以外に大きな力を持つ集団を野放しにするのは得策じゃないからな」
お祓い師「提携という名の牽制をしているわけだ」
狐神「ふむふむ、なるほどのう」
狐神「ではさきの街で対峙した聖騎士団というのはどうなるのじゃ。あれも国の正規軍ではないのじゃろう?」
お祓い師「ああ、あいつらは例外だ」
狐神「例外、とな」
お祓い師「俺たち協会が牽制されている一方で、あいつら教会は国と癒着をしている」
お祓い師「国をまたがって信仰されている教会の力は非常に大きなものだ」
お祓い師「国としてはその権力にあやかりたいし、教会としても自分たちの活動をより自由にするには国の協力が不可欠だ」
498: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 21:44:05.65 ID:cLx3pPmv0
狐神「互いに利用しあっている、ということかの」
お祓い師「ああ」
狐神「なるほどのう……。いろいろあるんじゃな」
お祓い師「ま、平和に過ごしたいならなるべく関わらないほうがいいのは間違いないがな」
狐神「ふむ……。ちなみに目的の町はいつごろ着く予定なんじゃ」
お祓い師「あー、最短進路を選んで進んでいるから、まあ日が落ちるまでには着くと思うんだが」
お祓い師「先に見える双子の山の横を通り過ぎるような感じで進むつもりだ」
狐神「順調にいけば今日中に着く、ということじゃな」
お祓い師「なにか問題に遭遇する前提で話すかよ」
狐神「……いや」
狐神「“まさに問題に遭遇しそうじゃぞ”」
499: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/20(日) 21:44:50.88 ID:cLx3pPmv0
ここまでです。
《天狗》編が始まりました。
503: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 21:20:30.69 ID:G1G9vLQz0
お祓い師「なに……!?」
狐神「物の怪が近づいてきておる……!天邪鬼のような雑魚ではないぞ……!」
お祓い師「クソッ!どこから来る……!」
狐神「……これは……!」
狐神「上じゃ!!」
???「────貴様ら、何用でこの山に来たのか」
504: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 21:24:13.57 ID:G1G9vLQz0

お祓い師「狐神っ!着いて来てるか!?」
狐神「わしは平気じゃ!それよりも馬車は乗り捨ててきて良かったのかの!?」
お祓い師「この場合どうしようもないだろう!あいつはヤバイ!」
お祓い師「感じる力が今まであってきた奴らとは段違いだ……!」
お祓い師(おそらく辻斬りや聖騎士長よりもずっと強い……!)
お祓い師(冗談じゃねえぞ……!もしかしたら勝てるかも、とかそんなレベルじゃねえ……!)
505: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 21:29:48.76 ID:G1G9vLQz0
???「──逃がすと思うか」
お祓い師「……!」
お祓い師(……一瞬で回りこまれた……!)
狐神「……こやつ。天狗、じゃな」
???→赤顔の天狗「いかにも。儂はこの山の長、天狗である」
お祓い師「天狗、だと……」
お祓い師(確かあの受付嬢が『A1級の天狗の依頼が』とか言っていたがまさか……)
お祓い師「……何故俺たちを狙う」
赤顔の天狗「決まっているではないか。儂はこの山の長。下僕あり同胞である天邪鬼の仇討である」
お祓い師「嘘だな」
506: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 21:40:20.80 ID:G1G9vLQz0
赤顔の天狗「……ふむ。なぜそう思う」
お祓い師「俺たちが天邪鬼を追い払ったのはついさっきだ。来るのがあまりに早すぎる」
お祓い師「それに、お前がこの辺りで暴れているという情報は少し前から街にも入ってきていた」
赤顔の天狗「……ふむ、儂の名も街まで轟くようになったか」
赤顔の天狗「その通りである。元より天邪鬼のような弱小者共に興味はない」
赤顔の天狗「儂は、このような危険な山道をわざわざ選んで来る愚か者どもと力比べをしたいに過ぎぬ」
お祓い師(時間短縮のことばっかりを考えて近道を選んだのが失敗だったか……)
赤顔の天狗「さあ力比べをしようぞ愚かな人間よ」
赤顔の天狗「なに、時間は取らせぬ」
赤顔の天狗「──すぐに終わらせてやろう」
507: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 21:49:03.62 ID:G1G9vLQz0
お祓い師「くっ……!」
お祓い師『滅却!!』
赤顔の天狗「ムゥッ……!」
お祓い師(よし、直撃だ……!)
狐神「おぬしよ、よく見るのじゃ!」
赤顔の天狗「…………」
赤顔の天狗「……効かんぞ」
お祓い師「ば、かな……」
赤顔の天狗「……ではこちらも行かせてもらうぞ」
お祓い師「……!」
508: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 22:20:33.83 ID:G1G9vLQz0
お祓い師「狐神!麓の方へ逃げるぞ!」
狐神「う、うむ!」
赤顔の天狗「逃さぬ……!」
赤顔の天狗「ムゥンッ!」
お祓い師「がはっ……!」
お祓い師(突風、か……!?)
狐神「あれは『大天狗の扇子』……!?」
お祓い師「知っているのか……?」
狐神「うむ。あれは『大天狗の扇子』と呼ばれておっての、その名の通り大天狗の持つ扇子なのじゃが」
狐神「その一振りは嵐を起こし、その一帯を更地に変えてしまうという……」
509: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 22:28:19.93 ID:G1G9vLQz0
狐神「皇国でも指折りの宗教の、とある経典にはこのように記されておるらしい」
狐神「──『大天狗とは即ち魔王のことである』、と……」
お祓い師「魔王、だと……?」
お祓い師「とんだバケモンじゃねえか……!そんなのどうやって──」
赤顔の天狗「──貴様らに呑気に話している暇はないぞ」
お祓い師「……!!」
お祓い師『滅却……!』
赤顔の天狗「くははっ、効かぬわ!」
お祓い師(クソッ!避けすらしない……!)
お祓い師(それだけ力の差が……!)
510: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 22:40:16.45 ID:G1G9vLQz0
赤顔の天狗「いくぞォッ!!」
お祓い師「ぐああっ!」
狐神「っ……!!」
赤顔の天狗「くははっ、まだまだいくぞ!」
お祓い師「クソがっ!」
お祓い師(情けなさすぎる……!辻斬りにも敗れ、聖騎士長にも敗れ、またこうして負けようとしている……!)
お祓い師(相手が強すぎるとか、そんな言い訳以前に)
お祓い師「……俺が、弱すぎる……」
狐神「ぬしよ!弱音を吐いている場合ではないぞ!」
お祓い師「そんなことは分かっている……!だが……!」
511: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 22:53:26.62 ID:G1G9vLQz0
お祓い師(あまりに実力がかけ離れている……。あいつからすれば俺たちは赤子のようなものだ……)
赤顔の天狗「どうした、もう諦めたか。つまらない奴め」
お祓い師「……別にお前を楽しませようって気はねえよ!」
お祓い師『滅却!!』
赤顔の天狗「ぬるいわッ!」
お祓い師「な……、扇子の一扇ぎで……」
狐神「かき消しおった……」
赤顔の天狗「ふ、ふはは……」
赤顔の天狗「ふはははは! 弱い! 弱いぞ人間よ!! まるで儂の相手になっておらん!!」
赤顔の天狗「もうよい飽きたわ! 終わらせてやろう!!」
512: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/26(土) 23:04:38.25 ID:G1G9vLQz0
赤顔の天狗「死ねえッ!」
狐神「──おぬしよ、こっちじゃ!!」
お祓い師「やっとか……!」
狐神「“飛び降りるのじゃっ!”」
お祓い師「またそれかよ……! って、うおわああああっ!?」
赤顔の天狗「…………」
赤顔の天狗「崖から飛び降りおった……」
赤顔の天狗「……ふむなるほど、下は川か」
赤顔の天狗「儂を撒くとは面白い」
赤顔の天狗「だがこの山で逃げきれると思わぬことだな、人間」
518: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 21:44:40.26 ID:mFiGrpK90

お祓い師「ぶはぁっ……!」
お祓い師「はあ……はあ……」
お祓い師「狐神は、平気か……?」
狐神「なんとか、のう……」
狐神「この通り、きゃすけっと帽も無事じゃ」
お祓い師「その調子なら平気そうだな」
519: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 21:48:30.13 ID:mFiGrpK90
お祓い師(だいぶ下流に流されたか……)
お祓い師「もう日が沈む、下手に動くよりはどこかに身を潜めた方がいいだろうな」
狐神「はっ……」
お祓い師「は……?」
狐神「……くちゅん」
狐神「……風邪を引いたかも知れぬ」
お祓い師「まずいな……」
お祓い師「まあ確かに、もう寒くなってきてるからな……」
お祓い師「……お、丁度いい。取りあえずはあそこの洞窟の中に入ろうか」
狐神「……うむ」
520: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 21:50:31.18 ID:mFiGrpK90
狐神「……おぬし、何をしておるのじゃ?」
お祓い師「……見てわかんねえのか、薪集めだ」
521: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 21:53:54.96 ID:mFiGrpK90

狐神「……なるほどのう、こういう時おぬしの火を使う力は役に立つのう……」
お祓い師「……いいから黙って体調回復に専念しろ。見張りは俺がやるから」
狐神「……うむ、すまぬ……」
お祓い師「…………」
お祓い師(状況は最悪だ……。できればいち早く、こいつの力を使ってこの山を脱出したいところだが……)
お祓い師(いまのこいつじゃ十分に力が発揮されないだろうし、なんなら体調が悪化するだけだろう)
522: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 21:58:37.43 ID:mFiGrpK90
お祓い師(日が昇った時のこいつの体調次第で、この先どうするかを決めるしかないな)
お祓い師(もし再びあいつと交戦した場合のことだが、どうする……)
お祓い師(あの風の発生源は大天狗の扇子とやらで間違いないだろう。ならばあれを狙うか……?)
お祓い師(……いや、おそらく無理だろうな。風にかき消されるのがオチだ)
お祓い師(炎を目眩ましに逃げる以外ない、か……)
お祓い師「クソッ……、情けねえ……」
お祓い師「俺はお祓い師だ……。物の怪を前にして逃げてどうすんだよ……」
お祓い師「俺ならどうにか出来るはずだ……」
お祓い師「出来るはずなんだ……!」
お祓い師?『──なぜなら俺は、“あの伝説的な退魔師の息子なのだから”』
523: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:00:35.10 ID:mFiGrpK90
お祓い師「…………」
お祓い師「……うるせえ」
お祓い師?『“あの人の息子ならば”出来て当然だ』
お祓い師?『“あの人の息子ならば”もっと力を出せるはずだ』
お祓い師?『“あの人の息子ならば”──』
お祓い師「──うるせえ!!」
お祓い師?『…………』
お祓い師「うるせえぞ……!」
524: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:01:45.77 ID:mFiGrpK90

お祓い師「…………」
お祓い師「……いつまでいるつもりだ」
お祓い師「もう夜が明け始めたぞ」
お祓い師?『俺は負の感情に引き寄せられる』
お祓い師?『その感情が強く黒々しいほど俺を惹きつけて離さない』
お祓い師「……別に俺は気にしていない。とうの昔に割り切っている」
525: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:06:29.19 ID:mFiGrpK90
お祓い師?『嘘だな』
お祓い師?『俺はお前だからよく分かっている』
お祓い師「嘘をつくな……!俺は俺だ……!お前に俺のことなどわかるものか……!」
お祓い師?『いいや、俺はお前だよ。“そういう”物の怪だからな』
お祓い師「違う……!俺はそんなことを思っちゃいない……!」
お祓い師?『そんなこと、とは』
お祓い師?『……お前が、実は親父のことを尊敬なんか、全くしていないってことか?』
お祓い師「……!」
お祓い師?『いや、この言い方だと語弊があるか……。正しく言うならそうだな……』
お祓い師?『嫉妬、そう劣等感を抱いている』
526: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:11:16.37 ID:mFiGrpK90
お祓い師「黙れ!」
お祓い師『滅却!!!』
お祓い師?『……ムキになるなよ。それは肯定しているようなものだろうが』
お祓い師「チッ……、待て……!」
お祓い師「……どこに行った……」
お祓い師?『ははっ、自分に素直になるところから始めたらどうだ』
お祓い師「いつの間に崖の上に……!」
お祓い師?『はははっ……』
お祓い師『滅却!!』
お祓い師(……直撃した……!これなら……!)
527: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:17:07.17 ID:mFiGrpK90
お祓い師?『──お前、いや俺はもう少し自分を理解する必要がある』
お祓い師「な……!?」
お祓い師(効いてないだと……!?そんな馬鹿な……!)
お祓い師?『もう会わないことを祈っておく。じゃあな』
お祓い師「ま、待て!」
お祓い師「……クソッ……!」
狐神「お、おぬしよ、どうしたのじゃ……?」
お祓い師「狐神……、お前はもう少し休んでいろ」
狐神「あれほど騒ぎ立てられては休まらんわ……!それに無闇に力を行使していては……!」
赤顔の天狗「────儂に気が付かれてしまうぞ?」
528: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:20:08.96 ID:mFiGrpK90
お祓い師「くっ……!?」
赤顔の天狗「儂から逃げきれるとでも思ったか」
お祓い師『滅却ッ……!』
赤顔の天狗「…………」
赤顔の天狗「……つまらん。つまらんなあ人間よ。そのような火の粉で魔の長たる儂が墜ちるとでも思ったか」
赤顔の天狗「貴様がその内に宿す力を扱えておれば、まだ少しは楽しめたであろうに」
赤顔の天狗「まあ、“手遅れであるようだから”今更言っても詮なきことか」
お祓い師(またそれか……!河童が狐神に、聖騎士長が俺に対して言った言葉……)
お祓い師「……おい、一つだけ聞かせろ」
お祓い師「その“手遅れ”というのは、一体どういう意味なんだ……」
529: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:25:59.26 ID:mFiGrpK90
赤顔の天狗「……なんだ、そんなことか」
赤顔の天狗「まあよい、冥土の土産に教えてやろう」
赤顔の天狗「儂や、貴様が扱う特殊な力。これはそう簡単に習得できるもではない」
赤顔の天狗「この力は、例えば魚が泳ぐように。また例えば鳥が飛ぶような、そんな技術を後付で覚えることに等しい」
赤顔の天狗「だからこそ、それ以上に新たな力を習得することは非常に難しい」
赤顔の天狗「魚の泳ぎを覚えた後に鳥の羽ばたきを覚えることは困難であるということだ」
赤顔の天狗「それ故に、複数の力を身に着けるということは先天的な才でもない限りまず無理だろう」
赤顔の天狗「道具などを使えば力の行使に関してはその限りではないが、やはりその身に力をいくつも宿すというのは難しい」
赤顔の天狗「これは貴様も、そして儂とて例外ではない」
お祓い師「…………」
530: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:28:23.71 ID:mFiGrpK90
赤顔の天狗「つまりは、だ。貴様がそのうちに宿している力、まあ生まれ持った強い力があるわけだが……」
赤顔の天狗「どういうつもりかは知らんが、貴様はそれを使うことを放棄し、別の力を修めることにしたようだ」
赤顔の天狗「貴様は既にその別の力を行使するための身体に、魂になってしまった」
赤顔の天狗「今更後悔したところで貴様の内に眠る力を発芽させることは出来ぬということだ」
お祓い師「…………」
お祓い師(そういう、ことか……)
赤顔の天狗「さて、儂の話は終わりである」
赤顔の天狗「そろそろ飽きを通り越して苛立っていたところだ。不可避の一撃を以って終わりとしよう」
お祓い師(いまの俺にはこいつに対抗しうる、一発逆転のための力は無いって事か……)
お祓い師「……ち、くしょう……!」
531: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:32:31.87 ID:mFiGrpK90
赤顔の天狗「……ム」
赤顔の天狗「……いや待て、そうだ。あの狐はどこだ。姿が見えぬ」
お祓い師(そ、そういえばあいつはどこに……)
赤顔の天狗「……ムゥッ!上かっ……!!」
狐神「チィッ、気づかれたか……!」
お祓い師(あいついつの間にあれほど崖を登って……!)
狐神「鈍ったとはいえ獣の爪じゃ!とくと喰らうがよい……!!」
お祓い師「ばかっ……!飛び降りやがった……!!」
赤顔の天狗「ムゥゥッ!!」
狐神「くぅっ……!」
532: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:37:12.58 ID:mFiGrpK90
お祓い師(……避けた……?)
お祓い師「……! 狐神、平気か!?」
狐神「げほげほっ……。あ、あまり平気とは言えんのう……」
お祓い師「なんであんな無茶なことを……!」
狐神「そ、そりゃあ、おぬしを助けるために決まっておろう……。不意打ちで当たってくれればと思ったのじゃが甘かったのう……」
赤顔の天狗「……ふ、ふははははっ! 捨て身の一撃も無駄だったようだなァ!」
赤顔の天狗「いい加減飽いたと言っているだろう! この大天狗の扇子で粉微塵にしてくれよう!!!」
お祓い師「……!!」
お祓い師(せめてこいつだけでも……!)
お祓い師(……いや、それじゃ意味がねえ……! 俺が死ねばこいつも死ぬ。いまの俺達はそういう関係だ……!)
533: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:41:58.53 ID:mFiGrpK90
赤顔の天狗「死ねェ!」
お祓い師(どう、すれば……!)
赤顔の天狗「────ガハッ!?」
お祓い師「な……!」
お祓い師(……一体何が起きた……? 天狗が。落ちた……!?)
赤顔の天狗「な、何奴……! グフッ……!」
お祓い師「……銃声だ……!」
お祓い師(だがそうだとしたら、なぜこいつはこんなにダメージをくらっている……! 俺の炎をくらって平然としているような奴が……)
狐神「おぬしよ! 色々と考えたいことがあるのはわかるが、今の機会を逃してはならぬ……!」
狐神「一旦またどこかに身を潜めたほうがよい……! まだ天狗は余力を残しておる!」
534: ◆8F4j1XSZNk 2016/03/29(火) 22:42:51.83 ID:mFiGrpK90
狐神「仕留められる確証がない今は逃げるほか手立てはないのじゃ……!」
お祓い師「あ、ああ……! 狐神は走れるか!?」
狐神「げほげほっ……! か、肩を貸してくれると、助かるのじゃが……」
お祓い師「わかった、しっかり掴まれ……!」
赤顔の天狗「ぐぬぅっ……! 待たぬかァ……!」
538: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 22:18:18.88 ID:PZtGJKCV0

お祓い師「はあはあ……、これ以上は、走れない……」
狐神「……げほげほっ……。……わしをそこの切り株に座らせてくれぬかのう」
お祓い師「……ああ任せろ」
狐神「ごほっ、……すまぬな」
お祓い師「体調は良くならないか」
狐神「……むしろいま走ったことで悪化したわい」
539: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 22:24:00.02 ID:PZtGJKCV0
お祓い師「早期に決着をつけないとまずいな……」
狐神「……うむ……」
狐神「……確証はないのじゃが、わしの仮説を聞いてもらってもいいかの」
お祓い師「今のところ全く打開策がないから、どんな些細な事でも言ってくれ……」
狐神「……うむ、まずじゃが、天狗という物の怪についてじゃ」
狐神「……ごほごほっ……。天狗というのは実は大きな括りでのう、その由来は様々じゃと聞いておる」
狐神「中でもあやつのような人の形をした者は、元が高名な層、あるいは破戒僧じゃと言われておる」
お祓い師「破戒僧、か……」
狐神「うむ、道を外れた僧のことじゃな」
狐神「道に通ずるものからすれば、破戒僧とは思い上がりの化身のようなものじゃと聞く」
540: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 22:32:51.39 ID:PZtGJKCV0
狐神「けほっ……、おぇっ……」
お祓い師「お、おい血が……!」
狐神「平気、じゃ……」
狐神「……で、皇国にはこんな言い回しがあるのじゃが知っておるじゃろうか」
狐神「天狗になる、というものなんじゃが……。これは得意になって態度が横柄になるさまを言うものでな……」
狐神「まるで天狗のように鼻高々になっている人間をさして使う言葉じゃな」
お祓い師「それが今の状況を打破する鍵になるのか……?」
狐神「ごほごほっ……。まあ落ち着いて聞くのじゃ……」
狐神「わしが思うにあやつはこの山全体に結界を張っておる」
お祓い師「結界、か……」
542: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 22:41:08.84 ID:PZtGJKCV0
狐神「うむ」
狐神「結界とはその仕組みが単純であればあるほど威力を増す事が多い。複雑な結界を単純化するのが術者の目標じゃろう?」
お祓い師「ああ、その通りだ」
狐神「そしてその仕組み、言い換えるならば結界の発動条件。それとの相性が術者と合えば会うほど威力は絶大なものとなる」
狐神「のう、思い出してみよ。わしが崖の上から捨て身の一撃を放った時、あやつはわざわざわしの攻撃を避けおった」
狐神「こほっ……、おかしいと思わぬか。おぬしの炎を避けすらしなかったあやつが、わしのような老いた獣の爪を恐れるというのか」
狐神「そして先程の銃声じゃ。音からしてあれはおそらく崖の上からのものじゃ。鉛球ごときがあやつを地に落とすほどの力を持っていると思うか」
お祓い師「……それは俺も変だと思っていた」
狐神「狐神この二つに共通することは、──“上からの攻撃”じゃということ」
狐神「あくまで予想に過ぎぬが、おそらくあやつの張っている結界は『上からの攻撃が強化される』というものじゃ」
543: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 22:49:15.76 ID:PZtGJKCV0
狐神「条件としても単純じゃし、思い上がって人を見下しおっておる天狗には術の相性もよかろう」
お祓い師「……なるほどな。おそらくだがその予想は正しい」
お祓い師「さっき俺の姿に化けて現れた物の怪、まあ昨日の天邪鬼だと思うんだが」
お祓い師「感じる力は弱いくせに俺の術をモロに食らっても平気そうな顔をしていた」
お祓い師「いま思えばあいつ、崖の上に登っていた。俺を遥かに見下す位置にいたってわけだ」
狐神「けほっ……、なるほどのう。ということは、わしの予想に賭けても良さそうかの」
お祓い師「ああ、どのみちそうするしかない」
狐神「……して、おぬしよ。あの天邪鬼に大層心乱されておったようじゃが、何を言われたのじゃ」
お祓い師「……なんでもねえよ」
狐神「……天邪鬼は自分の写し鏡じゃ。あやつらは嘘はつかぬ。それだけは覚えておくと良い」
544: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 23:02:35.10 ID:PZtGJKCV0
お祓い師「……はあ、わかったわかった……」
お祓い師「今の状況を片付けたら話してやるよ」
狐神「ごほっ……。うむ、わかった。……では行くかの」
お祓い師「……ああ、辛いだろが頑張ってくれ」
お祓い師「登るぞ」
545: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 23:05:04.79 ID:PZtGJKCV0

狐神「けほっ……」
狐神「ごほっごほっ……。はあ……」
狐神「……やっと来たか、の」
赤顔の天狗「……貴様一匹か」
狐神「うむそうじゃ。随分と時間がかかったのう」
赤顔の天狗「……ふん。あのお祓い師の人間はどうした」
546: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 23:09:57.35 ID:PZtGJKCV0
狐神「さての、気がついたらはぐれておったわい」
赤顔の天狗「……嘘をつくならばもう少し上手くつくことだ」
狐神「…………」
赤顔の天狗「結界の仕組みに気がつくとはあっぱれ。だがその陳腐な足掻きも儂には通用せん」
赤顔の天狗「狐一匹と油断した儂に、儂よりも高い場所からの一撃を加えるという算段であったのだろうが……」
赤顔の天狗「そこの山の頂に隠れているのだろう人間!! そこに立てば儂よりも上になれると思ったか!」
赤顔の天狗「儂は飛べるのだぞ、このようにな!!!」
赤顔の天狗「さあ姿を……! ……ムゥ?」
赤顔の天狗「いない、だと……」
狐神「…………」
547: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 23:16:11.64 ID:PZtGJKCV0
赤顔の天狗「……待て、山の頂に何か……。札、か……?」
赤顔の天狗「……くははっ、なるほど考えたな。儂が油断して降りようという時に遠隔式の術を作動させるつもりであったか」
赤顔の天狗「だが残念であったな!!儂は不用心にそれより下に降りるような真似はしない!!」
赤顔の天狗「儂はこの山の王!何ぴとたりとも儂より上に立つことはないのだ!!」
赤顔の天狗「さあ人間よ、どこに隠れているか知らぬがもうすべてを見破った!諦めるのだなあ!!ふははははっ!!!」
狐神「…………」
狐神「……さて……」
548: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/09(土) 23:16:57.45 ID:PZtGJKCV0

赤顔の天狗「────な、に……!?」
557: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 12:55:27.01 ID:agXFFr5C0

狐神「けほけほっ……、ここで種明かしとさせてもらおうかの」
狐神「あの遠隔作動のおふだは下方のおぬしを狙ったものではなく、上方のおぬしを狙ったものじゃ」
狐神「不意打ちで避けられなかったようじゃのお。てっきり上方向には攻撃が来まいと油断しておったな」
赤顔の天狗「……だ、だが何故上方の儂にこれ程の威力を……」
狐神「……あやつは別に、おぬしが不用心におふだに近づくことなど期待しておらんかったよ」
狐神「あやつはここが双子の山だったことを利用だけじゃ」
558: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 12:58:29.00 ID:agXFFr5C0
赤顔の天狗「ま、さか……」
狐神「ごほごほっ……。そうじゃ、あやつは向こうに見えるもう一つの山の頂におる」
狐神「双子とはいえども、向こうの山のほうが少々高いようじゃな」
狐神「おぬしがおふだの上方に飛び、かつ術を作動させる自分より下の位置に来るまでじっと待っていたというわけじゃ」
狐神「おそらくあやつは高さ稼ぎのために木の上にでも登って、望遠鏡を構えておぬしの到着を待っておったのじゃろうな」
狐神「げほげほっ……! ……まさか、このような状態のわしとあやつが別行動を取るとは思わなかったのじゃろう」
狐神「おかげでまんまと、血の匂いのするわしの方を追って来てくれたようじゃな」
赤顔の天狗「ヌゥゥッ、貴様ァ……!」
狐神「道具には頼らない主義じゃとぬかしておったが、さきの街での敗北が響いたようじゃな」
狐神「荷台に押しこんであったおふだを懐に忍ばせておったようじゃ」
559: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 13:02:11.13 ID:agXFFr5C0
狐神(やれやれ、お陰で助かったわい……。しかしわしも意識が限界が近いのう……。熱は下がるどころか上がっておるようじゃな……)
狐神(あとはこのように地に伏せて、あやつの合流を待つ他ない……)
赤顔の天狗「ヌゥゥゥゥッ……!」
狐神「なっ……!まだ立ち上がる余力が……!?」
赤顔の天狗「許せぬッ……! 儂はこの山の王であるぞ! 魔王と呼ばれた存在であるぞ!! これしきの事でやられるわけがなかろうッ!!!」
狐神「げほげほっ……!」
狐神(……まずい、とてもではないが今のわしに逃げる余力はない……」
狐神(あやつ……、お祓い師も向こうの山からこちらに来るまでは時間がかかる……。このままでは……)
赤顔の天狗「まずは目障りな狐よ、貴様からだ!!」
赤顔の天狗「嬲り殺してくれよう!!」
560: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 13:08:14.12 ID:agXFFr5C0
狐神「……!!」
赤顔の天狗?『まあ、落ち着くがよい儂よ』
赤顔の天狗「……!」
狐神(天狗がもう一体……、いやあれは天邪鬼じゃな……)
赤顔の天狗「……下等な物の怪よ、何をしに来た。いま貴様にかまっている暇はない……!」
赤顔の天狗?『愚問であるな。“儂は負の感情に引き寄せられる”。それだけだ』
赤顔の天狗「何ィ……」
赤顔の天狗?『貴様は、儂は認めてしまったのだ。長たる天狗が下等な人間と老いた獣に敗れてしまったことを』
赤顔の天狗?『貴様の心が認めているからこそ、儂はこの姿で貴様の前に現れたのだ』
赤顔の天狗「馬鹿な! 儂はまだまだ余力を残しておるのだぞ……! 塵二つを掃除することなど容易い……」
561: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 13:39:48.11 ID:agXFFr5C0
赤顔の天狗?『気持ちの問題だと言っておる』
赤顔の天狗?『いま貴様は再認識しているはずであろう。────自分が“所詮紛い物であることを”』
狐神(紛い物……、じゃと……?)
赤顔の天狗「黙れェ! 儂はこの山の長であるぞ!! 紛い物ではなく、それは真実だ!!」
赤顔の天狗?『ウム、まあそれはあっておる。だが、所詮はお山の大将。儂も貴様も本物には遠く及ばぬ』
赤顔の天狗?『そうであろう? “大天狗の扇子を拾い、思い上がった僧”よ』
赤顔の天狗「グヌゥゥゥゥ……!」
赤顔の天狗?『貴様のことはなんでも知っておる。なぜならは儂は貴様だからな』
赤顔の天狗?『その本物への劣等感と、弱者に負けたことへの憤りが、儂という姿を形作ったのだ』
赤顔の天狗?『否定はできぬはずだ。儂が一番良く知っておる』
562: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 14:08:24.26 ID:agXFFr5C0
赤顔の天狗「弱小物の怪程度が……! 知ったような口をォ……!!」
赤顔の天狗?『…………』
赤顔の天狗?『……ウム』
赤顔の天狗「……な、んだと……」
狐神「……じゅ、銃声……」
563: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 14:29:03.42 ID:agXFFr5C0

狐神(何が起きておる……。もう目の前も霞んでよく見えぬ)
狐神(天狗が血を流しておる……。いや、天邪鬼も同様じゃ……。……もしや撃たれたのか……)
狐神(……天狗がそれでもヨロヨロと逃げて行く……。ひとまずは助かったということかの……)
狐神(……天邪鬼は……、倒れて動かぬか……。当然じゃな。本質としてはか弱い物の怪じゃ……)
狐神「……げほっ……。……のうぬしよ」
狐神?『……わしか?』
564: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 15:10:05.49 ID:agXFFr5C0
狐神「……貴様はなにゆえ生きてきたのじゃ。負の感情を持つものに近づき、それを真似て、最後にはその有様じゃ……」
狐神「一体それに何の意味があったというのじゃ……」
狐神?『……ふん、この行動に意味があったのではない』
狐神?『これがわしという存在なのじゃ』
狐神「……ごほっ……」
狐神「それだけなのかの……」
狐神?『……それだけじゃ』
狐神?『……生きること自体に意味などあらん。……大事なことといえば、何のために生きるか、じゃ』
狐神?『……その中身などそれぞれ違い、その価値は他からはわからぬ』
狐神?『……そこに説明できるような意味を求めることが愚かじゃ』
565: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 15:10:50.00 ID:agXFFr5C0
狐神?『……のう、わしよ?』
狐神?『…………』
狐神「…………」
狐神「……わからぬ、そんなこと言われてもわからぬ……」
狐神「……価値もわからぬもののために死ぬ、それに何の意味があるのじゃ……」
狐神「……わからぬ、わしにはわからぬ……」
狐神「…………」
566: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 15:11:51.39 ID:agXFFr5C0

???「……フン」
お祓い師「……はあ、はあ……。お、おい待て……!」
???「…………」
お祓い師「そいつに何をした……! まさかその猟銃で撃ったのか……!」
???「…………」
お祓い師「だとした俺はお前を……!」
567: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 15:12:55.28 ID:agXFFr5C0
???「……フン、落ち着け若造が」
???「オメェの言う“そいつ”ってのは、ここで倒れてる嬢ちゃんのことだろ」
???「俺が撃ったのはその横の……、さっきは天狗の姿をしていたんだが……。……マァ、とにかくそいつの方だ」
???「……もう一体の天狗は、頑丈な野郎で逃がしてしまったがな……」
お祓い師(横で倒れてるのは天邪鬼か……。出会った時の姿だが、既に死んでいるのか……)
お祓い師「……河原で助けてくれたのもあんたか」
???「……フン、覚えてねェな」
お祓い師「……お礼は言わせくれ。ありがとう……ございます」
???「……礼なんざ言ってる暇あったら、まずはその嬢ちゃんをなんとかしねェといかんだろ」
お祓い師「そ、そうだ……! ひとまず馬車のところまでおぶって行かねえと……!」
568: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/19(火) 15:13:41.44 ID:agXFFr5C0
???→マタギの老人「……一応名乗っておくか、若造。俺はマタギをやっているモンだ」
マタギの老人「オメエはその嬢ちゃんを運ぶことに専念しろ。周りの警戒は俺がしちゃる」
573: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:05:58.21 ID:SU2KDsUU0

お祓い師「……う、馬が……」
お祓い師(殺されている……)
お祓い師(……クソッ、天狗にやられてたのか……! 俺たちがこの山から逃げ出せないように周到に……)
お祓い師「……ご老人、ここから一番近い人里はどこか教えてくれないか……!」
マタギの老人「……俺が住んでいる町がちけえが……。マァ、歩いて半日といったところだ」
お祓い師(半日……。狐神をおぶって行けば更に時間はかかるだろう……)
574: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:09:39.41 ID:SU2KDsUU0
狐神「はあ……はあ……」
お祓い師(だがこいつの様態はそんな悠長なことを言ってられるような状況には見えねえ……)
お祓い師(なんなら運ぶ時も、なるべく馬車に寝かせてやりたいところだ)
お祓い師「クソッ……、どうすれば……」
若い道具師「……おーい! じいさーん!! どこですかー!!」
お祓い師「……あ、あれは?」
マタギの老人「……フン、おせっかい焼きが来たな」
若い道具師「……あ、いた! 勝手に出て行かないでくださいとあれほど!」
マタギの老人「……フン、新しい弾をテメエで試さねえでどうするってんだよ」
若い道具師「ですからそれはまだ試作品で……!」
575: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:17:52.83 ID:SU2KDsUU0
若い道具師「そもそも勝手に持ち出さないでくださいよ!」
マタギの老人「……まだまだ威力不足だな。天狗を仕留めるには至らなかった」
若い道具師「天狗なんかに挑まないでくださいよあぶないなあ!」
マタギの老人「マア、辛うじて人助けはできたがな」
お祓い師「…………」
若い道具師「……えっと、それででそちらの方は……」
お祓い師「……おい、緊急だから頼みを聞いてもらっていいか」
若い道具師「え、は、はあ……」
お祓い師「お前の乗ってきた馬、今すぐ貸してくれ……!」
若い道具師「馬、ですか?」
576: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:22:14.75 ID:SU2KDsUU0
若い道具師「って、そちらの方大丈夫なんですか!? かなり辛そうですけれども……」
お祓い師「こいつを荷台に乗せて町まで運びたいんだが、俺の馬はやられちまったんだ」
若い道具師「……なるほど、そういうことでしたか……」
若い道具師「もちろん、協力させてください。急いだほうが良いでしょう?」
お祓い師「あ、ああ! 助かる!」
お祓い師「おっと名乗り忘れていたな。俺はお祓い師やっている者だ」
若い道具師「あ、自分は道具師です」
お祓い師「恩に着るぜ、道具師」
若い道具師「いえいえ。では急ぎましょうか」
577: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:23:15.72 ID:SU2KDsUU0

赤顔の天狗「ガハッ……!」
赤顔の天狗「……グヌゥゥゥ、弱小種族共が……!」
赤顔の天狗「……許さん……!」
赤顔の天狗「……傷が治り次第血祭りにあげてくれよう……!」
赤顔の天狗(この大天狗の扇子を以って正面からやりあえば負ける通りは無い……)
赤顔の天狗「そう、変に小細工に頼ったからこのような馬鹿げたことになってしまったのだ……」
578: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:32:40.55 ID:SU2KDsUU0
???「────あら、自覚あるじゃないの。ふざけた小細工だってこと」
赤顔の天狗「……! 何奴……!」
???「まあまあ、私が何者かなんてどうだっていいじゃない」
???「わたしはただ、それを返して貰いに来ただけよ」
赤顔の天狗「……なんのことだ……」
???「何って、一つしかないじゃない。その手に大事そうに持っている扇子のことよ」
赤顔の天狗「……返すも何も、これは儂の物であるぞ!」
赤顔の天狗「ハァッ!!」
赤顔の天狗「……何者かは知らんが愚か者め……」
???「……あらあら、乱暴ね」
579: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:36:20.04 ID:SU2KDsUU0
???「まあ、そんな攻撃当たるわけないのだけど」
赤顔の天狗「なっ……!?」
???「痛い目見ない内にそれを返しなさいな」
???「まあ正確には私のものでもないんだけれど。代理で受けて取りに来たということで」
???「“元の持ち主”が困っているのよ。『確か百年前までは持っていた気がする……』とか言っていたけれども、ボケるにはまだ早いわよねえ」
赤顔の天狗「元の、持ち主、だと……?」
???「うん、そうよ。大天狗のおっさんが探してきてくれって」
赤顔の天狗「……!!」
???「本来なら絶対断るけど、まああいつ部下を抱えて忙しいし、それに借りがないわけじゃないし」
???「と、いうわけで。返してちょーだい?」
580: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:42:47.32 ID:SU2KDsUU0
赤顔の天狗「わ、渡すものか……! これだけは渡すものか……!!」
赤顔の天狗「一日に二度も“狐”に邪魔されるとはなァ……! 未来永劫呪ってやろう……!!」
赤顔の天狗「──死ねェッ!!!!」
???「…………そんなに死にたいならどうぞ」
581: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:44:55.72 ID:SU2KDsUU0

赤顔の天狗「……が、あ……」
赤顔の天狗「貴様……まさか……」
???「…………」
赤顔の天狗「……ぐ……通りで、手も足も……」
赤顔の天狗「…………」
???「……大天狗の至宝を拾い思い上がった人間よ」
582: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:47:41.79 ID:SU2KDsUU0
???「お前は高僧であり、また破戒僧でもあった」
???「一つの道を極めた後に、更に別の高みを求めたか」
???「だがそれは道を外れることとは似て非なるもの」
???「……本当に天狗としての高みを目指したのならなぜこのような小細工を?」
???「お前は怖かったんでしょう。いつか本物がこの扇子を取り返しに来るのではないかと」
???「だから百年もかけて、こうもくだらない小細工の準備して待ち構えていたんでしょうね」
???「本当にお山の大将という言葉がよく似合う愚かな人間……」
???「見栄をはらねば、あの子達に敗れることはなかったでしょうに」
???「ここでこんな風に死ぬことも無かったでしょうに」
???「……さて。私の“愛する子”も無事に山を出られたようだし、私も帰ろうかしら」
583: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:49:07.64 ID:SU2KDsUU0
《現状のランク》
A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長
B1 狼男
B2 お祓い師
B3
C1 
C2 マタギの老人
C3 河童
D1 若い道具師
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼
584: ◆8F4j1XSZNk 2016/04/30(土) 20:51:05.79 ID:SU2KDsUU0
《天狗》編は終わりです。
格上に勝ったのは初めてですね。天狗の自爆みたいなところはありますけれども。
さて、次は《雨女》編です。よろしくお願いします。
585: 以下、

586: 以下、
乙乙!
589: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 21:27:31.28 ID:/k9h7alf0
《雨女》
お祓い師「様態はどうなんだ……。いや、どうです、か……」
やせ細った医者「ははっ、敬語に慣れていないのかい」
お祓い師「いや、まあ。ずっと使ってこなかったもんで。最近使おうと心がけてはいるんだが……」
やせ細った医者「うん、まあ少しづつ使っていけばいいんじゃないかな」
やせ細った医者「で、病気のことだけど」
やせ細った医者「……うん、流行り病だねこれは」
590: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 21:29:46.28 ID:/k9h7alf0
お祓い師「……それは難病なんですか」
やせ細った医者「難病ってほどではないよ。喀血したり、見た目は酷そうだけど命にかかわるほどのものではない」
やせ細った医者「まあ西のお国からの医療技術の伝来のお陰だね。薬を飲ませていれば平気だろう」
お祓い師「……ありがとうございます……」
やせ細った医者「うん、これが自分の仕事だからね」
やせ細った医者「また日をおいて来るよ。じゃ」
お祓い師「では」
狐神「……医者は行ったのかの」
お祓い師「起きてたのか」
狐神「けほっ……、今しがた起きたばかりじゃ」
591: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 21:39:05.65 ID:/k9h7alf0
お祓い師「無理しないで寝ておけよ」
狐神「山にいた時よりはいくらかマシじゃ」
狐神「じゃがそれでも身体を起こすの億劫なほどであるのには変わりないわい……」
お祓い師「医者がちゃんと薬を朝晩飲めば治るって言ってたからな。飯の後に忘れないように」
狐神「うむ……」
お祓い師「……あ?どうした?」
狐神「……いや、別に、なんともないぞ……」
お祓い師「……もしかして、薬が嫌なのか?」
狐神「ま、まさかのう……」
お祓い師「……ほーう、まさかなあ……」
592: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 21:47:29.93 ID:/k9h7alf0
狐神「ぐぬぬ……」
お祓い師「苦いのは苦手なのか」
狐神「そうじゃ!悪いかのう!?」
お祓い師「いやあ、別に。狐神サマにも苦手なものがあるんだなあと思ってな」
狐神「おぬし、そのにやけ面をやめぬか……!」
お祓い師「ん、さてなんのことだか」
狐神「けほっ……、おぬし……」
お祓い師「……まあなんだ。ちょっとは元気が戻ったみたいでよかった」
お祓い師「俺は仕事探しに行ってくるから、その間は安静にしててくれよ」
狐神「うむ……」
お祓い師「じゃ、また後でな」
593: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 21:54:41.90 ID:/k9h7alf0

お祓い師(ここがこの町の退魔師協会支部……)
お祓い師「でかいな……」
若い道具師「でしょう?あんまり規模が大きいもんですから、役所と建物が別になっているんですよ」
お祓い師「お前は……」
若い道具師「どうも、昨日ぶりですね」
お祓い師「……ああ。馬を貸してくれてありがとう。本当に助かった」
594: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 21:58:50.44 ID:/k9h7alf0
若い道具師「いえいえ。自分もマタギのじいさんを連れ戻すのに馬車を使わせてもらえて助かりましたから」
若い道具師「それで、あのお連れの方は大丈夫だったんですか」
お祓い師「ああ、流行り病らしいが治せないものでもないらしい」
お祓い師「今は宿で安静にさせている」
若い道具師「そうですか。いやあ、よかったよかった」
若い道具師「で、今日はこちらの支部に御用で?」
お祓い師「ああ、医療費ってのはバカにならないものだからな。ちょいと小金を稼いでおかないと先が心配になる」
お祓い師「そういうお前はどんな用で来てるんだ」
若い道具師「いやあ、実は自分も協会の一員でしてね」
若い道具師「道具を作っているだけじゃ生計がどうにも成り立たなくて、簡単な依頼を受け持って食いつないでいるんですよ」
595: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:02:38.81 ID:/k9h7alf0
お祓い師「お互い大変だな……」
若い道具師「ですねえ……」
若い道具師「まあここで立ち話というのもなんですから、とりあえず中に入りましょうよ」
お祓い師「だな。雨も降ってきたしな」
若い道具師「最近多いんですよね、雨……」
若い道具師「あ、どーもー」
蛇眼の受付嬢「あら道具師さん、こんにちは」
お祓い師「な……」
蛇眼の受付嬢「ふふっ、驚きましたか?」
お祓い師「あ、ああ……。来た時から人外に寛容な町だとは思っていたが、ここまでとは……」
596: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:06:29.07 ID:/k9h7alf0
お祓い師(退魔師協会の受付を人外がやっているとは……)
若い道具師「僕も最初は少しだけ驚きましたよ。いや、皇国の文化は独特だと聞いていましたがこれほどとは、ってね」
お祓い師「……そういえばお前のその黒い肌、南諸島連合国の出身だよな」
若い道具師「ええ、ちょっとした技術を学びに皇国に移り住んできたんです」
お祓い師「ちょっとした技術……?」
若い道具師「いやあ、南諸島連合国も皇国と同じく変わった文化を持っていることはご存知だと思うんですけれども」
若い道具師「中でも偶像崇拝については取り分け奨励されていましてね」
若い道具師「信仰する神をかたどった木彫のアクセサリーを必ず身に付けるぐらいには浸透しています」
若い道具師「実際にあんな簡単なものにも、ほんの少しですが加護の力が宿ったりするものなんですよ」
若い道具師「そこに僕は目をつけましてね。いや、僕以外にもそこに着目した人は沢山いるんですけれども……」
597: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:07:51.02 ID:/k9h7alf0
若い道具師「これを利用して一般人にも使えるような退魔道具が作れないかって」
お祓い師「なるほどな」
若い道具師「退魔道具自体は南諸島連合国にもありましたけど、結局は専門家が使うもので」
若い道具師「僕はもっとこう……、普通の人でも簡単に扱えるような護身用の道具を作りたくって」
若い道具師「力っていうのは、やっぱり先天的な部分が大きくって」
お祓い師「…………」
若い道具師「そういうものを前に為す術もなくやられてしまう、罪のない人たちの役に立てればなあ、って」
若い道具師「それで色々と文献とかを参考にしながら研究してたんだけど、どうにも上手くいかなくて」
若い道具師「そんな中ある時、興味深い文献を入手したんです」
若い道具師「まあ予想はついているでしょうけど、皇国に関する文献でしてね」
598: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:08:51.04 ID:/k9h7alf0
若い道具師「神々と人々が契約を交わすという『式神』という文化。これは契約した土着神の加護を受けるという我々の発想に似たものでした」
若い道具師「この点に関しては退魔師や魔女において浸透しているという『使い魔』との類似点も見られますが……」
お祓い師(式神と使い魔、か……)
若い道具師「他にも『付喪神』という物に霊が宿るという考え方。物を介して行うという呪術、妖刀などの力を宿した武器……」
若い道具師「とまあ非常に興味が惹かれることが多くありまして、ある日決意して皇国に移り住むことにしたんです」
お祓い師「まあ確かに、ここ皇国のその辺の文化は他から見れば異質な事が多いよな」
若い道具師「そういうあなたも皇国の人間ではないですよね。顔立ちからして、王国か、帝国か……」
お祓い師「ああ、俺は王国の出身だ」
若い道具師「あなたも何か理由があって皇国に?」
お祓い師「……まあ自己鍛錬を兼ねた人探し、ってところか」
599: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:11:46.27 ID:/k9h7alf0
お祓い師(先日の天邪鬼の言葉が引っかかって、親父を探そうって気がどうも削がれちまってるけどな……)
若い道具師「そうでしたか。見つかるといいですね、その方」
お祓い師「……ああ、そうだな」
お祓い師「お前の方はどうなんだ、成果は」
若い道具師「成果、と言うと……」
お祓い師「その道具の開発とやらだよ。皇国に来てなにか得られたことはあるのか」
若い道具師「いやあ、お恥ずかしながら。まだまだ実用的と言えるものは……」
マタギの老人「……フン、そう思うならとっとと弾の改良をせんかい」
お祓い師「あ……」
若い道具師「いやあ、じいさん。僕も頑張ってはいますからね!」
600: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:13:15.56 ID:/k9h7alf0
若い道具師「頼みますから試作品を勝手に持ちだしては物の怪退治に出向くのはやめてくださいよ!」
お祓い師「試作品、っていうのは……」
若い道具師「マタギのおじいさんに協力してもらって開発している、対魔の力が込められた弾丸です」
若い道具師「特徴としては、銃自体が特殊なものでなくても使える、ということです」
若い道具師「まだまだ威力不足が否めないんですけれども……」
お祓い師「はあ、なるほどな……」
お祓い師(一般人にも使いこなせる対魔道具か……)
お祓い師(例えば護身ためのおふだとか、そういった類のものは昔からあるが……)
お祓い師(退魔師に取って代われるような道具の開発とは思いつきもしなかったな。なかなか興味深い……)
若い道具師「……で、じいさん。なんで今日も支部にいるんですか……!」
601: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:14:03.12 ID:/k9h7alf0
マタギの老人「…………」
蛇眼の受付嬢「え、えーっと。ついさっきこちらの窓口で新しい仕事の契約をしちゃったんですが……」
若い道具師「あーもう! たですか! 手に試作品を持ちだして依頼を受けるのだけはやめてくださいとなんども……!」
若い道具師「ちゃんと前持って言っていただかないと! 僕にも準備ってものがあるんですからね!」
マタギの老人「……別について来なくていい」
若い道具師「そうはいきませんよ! この目で実際に使われているところを見ないと改良のしようがないじゃないですか」
若い道具師「いいですか、今から工房に戻って身支度しますから勝手にいかないでくださいよ」
若い道具師「他にも試してもらいたい弾がありますから」
マタギの老人「フン……、一々面倒な奴よ」
若い道具師「……ええと、じゃあまた会いましょう。表通りの一角で工房を構えてますので良かったら来てみてくださいね」
602: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:15:03.80 ID:/k9h7alf0
お祓い師「ああ、頑張れよ」
若い道具師「ええ、では」
蛇眼の受付嬢「気をつけていってらしゃーい」
お祓い師「……面白い奴らだな」
蛇眼の受付嬢「そうねー。あのおじいちゃんも気難しい人だけど、あの道具師の彼もちょっと変わりもですしねえ」
蛇眼の受付嬢「まあこの支部を中心に活動している退魔師さんは、みーんな変わり者ばっかりなんですけれどもね」
お祓い師「他にも専属で活動している退魔師がいるということになると、やはり規模の大きな支部だと再認識させられるな」
蛇眼の受付嬢「そうねー。まあさっきも話題に上がっていましたけれども、この町は人外の受け入れに寛容でね」
蛇眼の受付嬢「私たちにとってはいいことですけど、その反面人外による事件も増えるんですよね」
蛇眼の受付嬢「その対応のために必然的に大きくなった、って事でしょうね」
603: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:17:56.20 ID:/k9h7alf0
お祓い師「まあこの町の、そういった気質のおかげでちょっと助かったんだけどな」
蛇眼の受付嬢「と、言いますと?」
お祓い師「いや、俺の連れも人外でな。そいつが昨日から床に伏しちまったんだが」
お祓い師「まあ通常なら医者に見せるのも厳しいところだが、そのへんの心配をしなくて良かった事が本当に助かった」
蛇眼の受付嬢「なるほどそんな事情が……」
蛇眼の受付嬢「それで、お兄さんも依頼を探しに来たんでしょう?」
お祓い師「ああそうだ。いま言った通り連れの体調が良くないから、あまり遠くに行く必要があるような依頼は避けたいんだが……」
蛇眼の受付嬢「なるべく近場で、となると……」
蛇眼の受付嬢「ああ、ついさっきあの子に出しちゃったわね」
お祓い師「もう残っていない、ということか」
604: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:22:16.15 ID:/k9h7alf0
蛇眼の受付嬢「うーんそうですねー。ああ、じゃあこうしましょう」
蛇眼の受付嬢「ねーえ、ちょっと」
フードの侍「…………」
蛇眼の受付嬢「そう、あなたよ」
蛇眼の受付嬢「もし良かったらでいいんだけど、さっきの依頼このお祓い師さんとやってくれないかしら」
お祓い師「えっ、それは」
蛇眼の受付嬢「いま相方さんが倒れているんでしょ。いつもその代わり、とは言わないけれどもいて損はないと思うわ」
蛇眼の受付嬢「まあ報酬の関係で一人がいいなら無理には言わないわ」
お祓い師「いや、俺の方は問題ないが……」
フードの侍「…………」
605: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:23:58.24 ID:/k9h7alf0
フードの侍「(問題ない)」
お祓い師(……明らかに“作られた声”だ。喋れないのか、それとも別の理由が……?)
お祓い師(腰の剣……、いや刀か。いわゆる侍、って奴なんだろうな)
お祓い師(……フードを被っていて男か女かわからないが、随分と小柄だな。子供か?)
お祓い師(そして何よりこの感じ……。人間ではないな……)
お祓い師(顔を見せないことも含めて訳ありか……)
お祓い師「依頼の内容を聞かせてもらえるか」
蛇眼の受付嬢「はいよ。ええっとね、町に出るっている幽霊のことを調べて欲しいんだけど」
お祓い師「幽霊か……」
蛇眼の受付嬢「ええ、町の西のはずれのほうで時々目撃されているみたいで」
606: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:24:30.72 ID:/k9h7alf0
蛇眼の受付嬢「泣いている女の霊らしいんだけどね。実害は出てないみたいだけど霊は早く祓うことに越したことはないから……」
お祓い師「……わかった、その依頼を受けよう」
蛇眼の受付嬢「ですって、そっちもそれでいいんでしょ」
フードの侍「…………」
フードの侍「(大丈夫だ)」
お祓い師「よ、よろしく」
フードの侍「(よろしく)」
お祓い師(……ちょっと不安だ)
お祓い師「まあ、行くか」
お祓い師「って、ああ。本降りになってんじゃねえか……」
607: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/06(金) 22:25:00.13 ID:/k9h7alf0
フードの侍「…………」
お祓い師「ん、ああ、傘があるのか。ありがとうな」
お祓い師「それじゃあ早、幽霊の目撃情報があったって場所に行くか」
フードの侍「…………」
お祓い師「ん、ああ、そっちか」
フードの侍「…………」
お祓い師(やりにくい……!)
612: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:27:23.26 ID:KpFP05Sv0

西はずれの町人「ああ、あの幽霊のことね」
お祓い師「ああ、なにか情報があれば聞かせてもらいたいんだが」
西はずれの町人「いいわよ。なんて言ったって私もこの目で見たからね」
お祓い師「そうか、それは助かる」
西はずれの町人「ええとね、あれは先月のことだったわ」
西はずれの町人「お買い物の帰りに、ちょうど今みたいに夕立が来てね。傘を持っていなかったもんだから小走りでいたんだけど」
613: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:28:06.50 ID:KpFP05Sv0
西はずれの町人「むこうの路地の方からすすり泣きが聞こえるのよ」
西はずれの町人「なにかなー、って覗いてみたらもう驚き。向こう側が透けて見える女の人の姿があったわ」
西はずれの町人「怖くなっちゃってすぐに逃げちゃったから、それ以上は詳しく見れていないけど」
お祓い師「なるほど……」
西はずれの町人「幽霊っていうのは、未練に縛られて成仏できない魂だっていうけど、あの人もそうなのかしらねえ……」
お祓い師「未練、か……」
西はずれの町人「ごめんなさいね、あんまりお力になれなくて」
お祓い師「いや、十分役立つ情報だった。……ありがとう、ございます」
西はずれの町人「お祓い師さんのお役に立てらなら良かったわー」
西はずれの町人「そうねえ、試しに私があの幽霊を目撃した路地に行ってみるのはどうかしら」
614: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:29:08.00 ID:KpFP05Sv0
西はずれの町人「あの幽霊、どうも雨の日の目撃が多いみたいよ」
お祓い師「そうさせてもらう、ありがとう」
西はずれの町人「ではお気をつけて」
お祓い師「ああ」
フードの侍「…………」
615: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:30:11.69 ID:KpFP05Sv0

お祓い師「ここ、か……」
フードの侍「…………」
お祓い師「……ん、あれは……」
泣いている幽霊『……ああ、どこに……』
お祓い師(いきなり大当たりだな……)
フードの侍「…………」
616: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:30:51.63 ID:KpFP05Sv0
お祓い師「待て、刀を構えてどうする」
フードの侍「(この刀は妖刀)」
フードの侍「(こいつは幽霊であろうとも斬れる)」
お祓い師「そういう問題じゃねえんだよ」
お祓い師「悪霊って決まったわけじゃないんだから。そういう強行手段がかえって悪い結果に繋がることもある」
お祓い師「幽霊の相手をするって言うのは繊細なことなんだよ」
フードの侍「…………」
お祓い師(聞き分けのいいやつで良かった)
お祓い師(それじゃあ、試しに話しかけてみるか……)
お祓い師「……おいお前。どうしてそんなところで泣いているんだ」
617: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:31:19.18 ID:KpFP05Sv0
泣いている幽霊『……あなたは、お祓い師ですか……』
お祓い師「ああ、そうだが……」
泣いている幽霊『私を祓いに来たのですか……?』
お祓い師「まあ、とりあえずは事情を聞かせてくれ」
泣いている幽霊『駄目です、私はまだ成仏するわけにはいかないのです……!』
お祓い師「違う違う、まず話をだな……!」
泣いている幽霊『逃げます……!』
お祓い師「あっ、おい!」
お祓い師「……逃げられた」
フードの侍「…………」
618: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:32:01.25 ID:KpFP05Sv0
お祓い師「……なんだよ。俺が悪いってか」
フードの侍「…………」
お祓い師「……まあ、俺が悪いか……」
フードの侍「(今日の稼ぎが)」
お祓い師「悪かったって」
お祓い師「まああの調子だと、今日はもう現れてくれないだろうな。また日を改めよう」
フードの侍「…………」
お祓い師「明日、協会の支部で会おう」
フードの侍「…………」
フードの侍「(わかった)」
お祓い師「……よし、俺も帰るか。あいつが待ってるしな」
お祓い師「……お、雨が止んだな」
619: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:32:59.63 ID:KpFP05Sv0

お祓い師「ただいま」
狐神「けほっ……。うむ、おかえりじゃ」
お祓い師「体調はどうだ」
狐神「とても良くなった、とは言わんが、ついらほどでもない」
狐神「何よりここの宿の女将さんが良くしてくれてのう。粥なども振る舞ってもらった」
お祓い師「そうか、そりゃ良かった」
620: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:33:45.58 ID:KpFP05Sv0
お祓い師「ぼちぼち夕食にしようと思っていたんだが、まだ早いか?」
狐神「いや、粥を食べてからだいぶ時間は経っておる。夕食も頂くとしよう」
お祓い師「はっ、それだけ食欲があれば治りも早いかもな」
狐神「けほっ……。その口の聞き方、すっかり以前のおぬしじゃな」
お祓い師「……お前が少し、元気そうになったからな」
狐神「なじゃあそれは。わしが元気になって嬉しいのかのう?」
お祓い師「ああ、そうだな……」
狐神「へ……!?」
狐神「き、聞き間違えかのう……。おぬしがそんなにも素直に……」
お祓い師「いや、本当に安心した……。無理だけはするなよ」
621: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:34:19.87 ID:KpFP05Sv0
狐神「う、うむ……」
狐神(なにか様子がおかしいのう……)
狐神「なあ、おぬしよ。なにかあったのかのう? 少し様子がおかしいように感じるのじゃが……」
お祓い師「おかしい?俺が?」
狐神「う、うむ」
お祓い師「気のせいじゃねえのか、俺は特になんともないぞ」
狐神「なんともないならそれで良いのじゃが……」
お祓い師「それより夕食にしようぜ。せっかく女将さんにもらってきたのに冷めちまう」
狐神「……そうじゃな。今晩の品は何かの」
お祓い師「ええと、これなんだが……」
622: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:34:56.11 ID:KpFP05Sv0
狐神「おお、川魚の塩焼きじゃな!これはおそらく岩魚じゃな」
狐神「山にいた頃を思い出すわい」
狐神「では頂くとするかの」
お祓い師「ああ、そうしようか」
狐神「いただきます」
お祓い師「いただきます」
お祓い師「……美味いな」
狐神「川魚はこの淡白な感じがいいのう」
お祓い師「そうだな。海の幸とはまた違った味だ」
お祓い師「俺も故郷を思い出すよ」
623: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:35:44.94 ID:KpFP05Sv0
狐神「けほけほっ……。おぬしも山に住んでおったのか?」
お祓い師「いや、家自体は大きな街の中にあったんだが、よく友人と馬を走らせて川へ泳ぎや釣りをしに行ったものさ」
お祓い師「おかげで運動自体はあまり得意じゃないが、泳ぎだけは上手くなった」
狐神「河童の時に特技が生かされてよかったのう」
お祓い師「ああ、本当にその通りだ」
狐神「そういえば、おぬし仕事の方はどうなったのじゃ」
お祓い師「ああ、依頼をこなしてるところだ。今日のところは、まあ失敗したんだが……」
狐神「一人で平気かの?」
お祓い師「お前と会う前は一人だったっての」
狐神「ま、それもそうか」
624: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:36:27.56 ID:KpFP05Sv0
お祓い師「まあ、今回に関しては臨時の相方がいるんだがな」
狐神「がーん。わしは振られてしまったのか……」
お祓い師「臨時の、って言ってんだろうが」
狐神「冗談じゃ。して、その相方は人かの。それとも人為らざるものかの」
お祓い師「……まああれは人ではないと思うが、なんでだ」
狐神「いや、この町は随分と人外の気配を感じると思ってのう」
お祓い師「ああ、どうやらこの町、人外に対しては寛容らしいからな」
狐神「ふうむ、なるほどのう……」
狐神(それにしても、こやつについておる臭い……。これは……)
お祓い師「ん、どうした?」
625: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:37:20.86 ID:KpFP05Sv0
狐神「……いや別に」
お祓い師「なんだよ、不機嫌そうだな」
狐神「……別にと言っておろう」
お祓い師「まあ、ならいいんだけどよ」
お祓い師「ああそうだ。お前に聞いておきたいことがあったんだがいいか」
狐神「けほっ……。ええと、なんじゃ」
お祓い師「いや、いま追っている件についてなんだが」
狐神「ふむ、話してみるがよい」
お祓い師「女の霊、なんだがな」
狐神「女の」
626: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:38:11.60 ID:KpFP05Sv0
お祓い師「そこはどうでもいいだろう。で、まあそいつを取り逃してしまったんだが……」
お祓い師「どの目撃例でもそいつは泣いているらしい。そんな霊に心当たりはないか」
狐神「ううむ、それだけじゃとなんとも……。泣いている霊などいくらでもおるからのう……」
お祓い師「まあ、だよな……」
お祓い師「ああそうだ。もう一つ特徴があった」
狐神「ふむ」
お祓い師「まあ、まだいろんな人に聞いたわけじゃないから確定ではないが、その霊が目撃された時は決まって雨が降っているな」
お祓い師「実際今日も雨が降っていたし、いなくなった途端に晴れた気がするな」
狐神「……ほお、それは大事な情報じゃ」
狐神「その女の霊、もしかすると雨女かもしれぬ」
627: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/10(火) 17:38:50.38 ID:KpFP05Sv0
お祓い師「雨女……?」
狐神「うむ、そうじゃ」
狐神「雨女とは、産んだばかりの子を雨の日に亡くした女の霊じゃ」
633: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 21:57:10.47 ID:I0Ii5Xlb0

蛇眼の受付嬢「なるほど、その雨女っていう物の怪の一種じゃないかっていうわけねです」
お祓い師「ああ、あくまで推測段階だが」
フードの侍「…………」
蛇眼の受付嬢「しかし、雨の日に我が子を亡くした女の霊、ね……」
蛇眼の受付嬢「もしかしたら、だけどちょっと心あたりがありますよ」
お祓い師「今は少しでも情報がほしい段階だ。話してもらえるか」
634: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:01:33.76 ID:I0Ii5Xlb0
蛇眼の受付嬢「ええ、あれは五十年ほど前のこと」
お祓い師「ご、五十年……」
蛇眼の受付嬢「うふふ、私たちを見た目通りの年齢だと思っちゃダメですよ」
お祓い師「あ、いや、はい。失礼しました……」
蛇眼の受付嬢「私に敬語は要らないわ」
お祓い師「そ、そうか……」
蛇眼の受付嬢「町の西の方にね、ある一人の女性が住んでいたわ」
蛇眼の受付嬢「夫とは別れたのか、死別したのか、それともまた別の何かがあったのかはわからないけど、とにかく一人で暮らしていた」
蛇眼の受付嬢「そんな彼女は身籠っていましてね……。まあ深い詮索なんかするもんじゃないですから、その話はそこまでにしますけれども」
蛇眼の受付嬢「そんなある日、いつぶりかの大嵐がここらを襲って、そりゃあ大変だったんですよ」
635: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:04:22.42 ID:I0Ii5Xlb0
蛇眼の受付嬢「それでその人、村の外れに畑を持っていたんですけれども。そんな酷い嵐の中わざわざ様子を見に行ったみたいでして」
蛇眼の受付嬢「まああの畑が唯一の食いぶちだったんでしょうから、嵐でそこが駄目になったらお終いだったんでしょうね」
蛇眼の受付嬢「身籠っていながら、男手のない彼女は自分で行くしかなかったみたいで」
蛇眼の受付嬢「しかしここで、まあ運が悪いとしか言いようが無いことが起きてしまいましてね」
お祓い師「まさか……」
蛇眼の受付嬢「ええ、産まれてしまった、ということです」
蛇眼の受付嬢「しかし、ただでさえ介助する人がいなかったことに加えてあの嵐です」
蛇眼の受付嬢「失敗、したんでしょうね」
蛇眼の受付嬢「その女性もその場で息絶えてしまったようで……」
蛇眼の受付嬢「翌日に町の人に発見されて弔われたのですが、赤子の遺体を見たという話は聞きませんでしたね」
636: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:13:22.36 ID:I0Ii5Xlb0
蛇眼の受付嬢「嵐のせいでどこか見えない所に遺体が隠れてしまっていたのかもしれません……」
お祓い師「そんなことが……」
蛇眼の受付嬢「あ、ただ最初に言いましたけれども、もう五十年も前の話です」
蛇眼の受付嬢「最近になって出没するようになった霊の話には関係が無いですよね……」
お祓い師「……いや、そうでもない」
お祓い師「東の国々では死後のことをこう考えるらしいな。魂は死後何十年もかけて転生していくものだと」
お祓い師「もしかしたらあの霊は途中で気がついたのかもしれない。一緒にいるはずの我が子の魂がいないということに」
お祓い師「五十年たった今、ようやく我が子を探しに戻ってこれたのかもしれない」
蛇眼の受付嬢「……本当に、そうなんだとしたら……」
お祓い師「……ああ、どうにか会わせてやらないといけないな。この世に置き去りにしてしまった我が子に」
お祓い師「そうと決まれば行こうぜ」
フードの侍「…………」
637: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:35:50.43 ID:I0Ii5Xlb0

お祓い師「まだ雨じゃ、ねえか」
お祓い師「幽霊を探すのが先か、子供が亡くなったであろう場所を探すのが先か……」
お祓い師(しかし五十年も前の話だ。その場に遺体がそのまま残っているなんてことは絶対にない)
お祓い師(ましてや産まれたばかりの子だ。骨が残っているかも怪しい)
お祓い師「どうしたものか……」
???「ん……? あれは……」
638: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:40:03.46 ID:I0Ii5Xlb0
???「旦那じゃないですか……!」
お祓い師「あ、お前は……」
???→化け狸「あの時の道具屋ですよ! お久しぶりです!」
お祓い師「ああ、あの時の……! なんでまたこんなところに」
化け狸「いやあ、旦那のお陰で改心しまして、言われたとおりにあの街は出て新しく商売を始めることにしたんですよ」
お祓い師「ああ、そういえばそんなことも言ったな」
化け狸「ある日、人外でも住みやすいっていうこの町の噂を聞きつけましてね」
化け狸「退魔師協会の支部で道具師をしているいっていう、肌の黒い御仁に会いやしませんでしたかね」
お祓い師「ああ、あいつか」
化け狸「自分はあの人と協力しながらここで道具屋をさせてもらってるんですわ」
639: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:43:25.07 ID:I0Ii5Xlb0
化け狸「なんでも自分の持っている妖刀とか、そういった道具に興味があるらしくて」
お祓い師「道具の研究に使うためらしいな」
化け狸「どうやらそうらしいですねえ。まあ妖刀の一本は、そこに一緒におられるお侍さんに譲ったんですけれどもね」
フードの侍「…………」
化け狸「本当は売りには出していない一振りだったんですけれども、その方がどうしてもと言うので根負けしてしまして……」
お祓い師「ってことは、その腰の刀が妖刀か」
フードの侍「…………」
化け狸「で、何故お二人が一緒に?」
お祓い師「連れが体調を崩していてな。こいつは臨時の相方みたいなもんだ」
化け狸「なるほど、いま依頼を一緒にこなされているということですね」
640: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/13(金) 22:44:48.87 ID:I0Ii5Xlb0
お祓い師「そういうことだ」
化け狸「では引き続き頑張ってください。引き止めてしまってすいませんでした」
お祓い師「何か用があればまた来る」
化け狸「では」
化け狸「…………」
化け狸「……あーあ、雨が降ってきた。外に出しているものを片付けないと……」
化け狸「本当に最近雨が多いなあ……」
645: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 18:20:13.54 ID:r4oAqWo50

お祓い師「雨が降ってきたってことは……」
フードの侍「…………」
フードの侍「(可能性は高い……)」
フードの侍「(おそらく、こっちだ)」
お祓い師「あ、おい待てって」
お祓い師(足のいやつだ……)
646: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 18:23:59.57 ID:r4oAqWo50
お祓い師「……って、本当にいた」
泣いている幽霊『……ああ、我が子よ……。どこにいるのですか……』
お祓い師「……よし」
お祓い師「頼む、逃げないで話を聞いてくれないか」
泣いている幽霊『あ、あなたは昨日の……』
お祓い師「俺はお前を祓いに来たんじゃないんだ。ちょっと手助けをしようと思ってな」
泣いている幽霊『……手助け、ですか』
お祓い師「ああ、そうだ。そのために一つだけ聞きたいことがあるんだが、いいか」
泣いている幽霊『ええ……』
お祓い師「あんたは、出産してすぐに亡くした、あんたの子供を探しているんだよな」
647: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 18:40:17.66 ID:r4oAqWo50
泣いている幽霊『……!』
泣いている幽霊『そう、です……』
お祓い師「わかった。じゃあ俺たちもあんたの子供を探すの手伝う」
泣いている幽霊『え……』
お祓い師「構わないか」
泣いている幽霊『え、ええ……。いえ、是非お願いします……!』
お祓い師「よし、それじゃあ五十年前にあんたが見回りに行ったっていう畑の場所に連れて行ってくれないか」
泣いている幽霊『は、はい……!』
648: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 18:57:19.22 ID:r4oAqWo50

泣いている幽霊『この辺の、はずです……』
お祓い師「こ、これは……」
お祓い師(見事に荒れ地になっているな。何十年も手入れさていなかったんだろうな)
泣いている幽霊『私には身寄りがありませんでしたから……』
泣いている幽霊『もともと栄養も少なく、立地も良くない土地でしたから。私の死後に欲しがる人もいなかったのでしょうね……』
お祓い師「そういうことか……」
お祓い師「さて、それじゃあ始めるか」
お祓い師(とは言っても俺に出来ることは虱潰しに霊的気配を探ることだけだ)
お祓い師(狐神のような鋭い感覚は持っていないからな、こりゃあ大変だぞ……)
フードの侍「…………」
649: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:00:10.30 ID:r4oAqWo50
お祓い師「あ、おいっ、どこに行くんだよ……!」
フードの侍「…………」
お祓い師(せめて何とか言ってくれ……!)
フードの侍「…………」
お祓い師(立ち止まった……?)
お祓い師「おい、どうしたんだよ……」
フードの侍「…………」
お祓い師「……ここは……、まさか……!」
フードの侍「…………」
フードの侍「(亡骸を探すのは、得意だから)」
650: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:02:14.96 ID:r4oAqWo50
お祓い師「それは、どういう……」
フードの侍「…………」
泣いている幽霊『あ、あの。どうかしたのですか……?』
お祓い師「い、いや……」
お祓い師「……なあ、あんた。呼んでやってくれねえか」
泣いている幽霊『え……』
お祓い師「……ここに、いる。あんたの探している子が」
泣いている幽霊『……!!』
泣いている幽霊『本当に、ですか……?』
お祓い師「ああ、間違いないと思う……」
651: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:05:05.99 ID:r4oAqWo50
泣いている幽霊『……わかりました』
泣いている幽霊『……えっと、その……』
泣いている幽霊『……出ておいで、私の子……。……お母さんはここにいますよ』
泣いている幽霊『五十年間も寂しかったでしょう……。もう大丈夫だから出ておいで……』
泣いている幽霊『……そう、もう平気よ。だからお母さんと一緒に行きましょう』
泣いている幽霊『もう寂しい思いはさせないわ』
泣いている幽霊『……ええ、行きましょう。今度は二人で行きましょう……』
泣いている幽霊『置いて行くなんて、馬鹿なことはしないわ』
泣いている幽霊『……ええ、そうね……』
泣いている幽霊『…………』
652: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:07:17.21 ID:r4oAqWo50
泣いている幽霊『……あ、あの』
泣いている幽霊『……本当にありがとうございました』
お祓い師「……ああ」
フードの侍「…………」
泣いている幽霊『本当に……』
お祓い師「…………」
フードの侍「(さようなら)」
お祓い師「……ふう、じゃあ報告に帰るか」
フードの侍「(了解)」
お祓い師「…………」
お祓い師(家族の愛情、か……)
653: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:08:53.47 ID:r4oAqWo50

狐神「それではその幽霊は親子揃って成仏できたんじゃな」
お祓い師「ああ、無事な」
狐神「わしがいなくてもちゃんと出来るようで安心じゃ」
お祓い師「もともとお前抜きで仕事をしていたっての!」
狐神「……それで、その子の幽霊を発見したのが、そこにおる奴なんじゃな」
フードの侍「…………」
654: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:11:21.03 ID:r4oAqWo50
お祓い師「ああ、一応一緒に仕事をした仲だからな。完遂祝いを一緒にやりたかったところなんだが……」
お祓い師「まあ、お前のことがあるから店で食うのは断念して帰ってきたわけだ」
お祓い師「せっかくだからここで一緒に飯でも食うかって誘ったんだが、お前は構わないか」
狐神「……うむ、まあ問題はない」
狐神「わしも少々、そやつと話したいことがあるからのう」
フードの侍「…………」
お祓い師「よし、じゃあ女将さんに夕食を貰ってくる」
狐神「うむ、ゆっくりでいいぞ」
狐神「…………」
狐神「……さて、じゃが」
655: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:12:54.58 ID:r4oAqWo50
フードの侍「…………」
狐神「単刀直入に聞くが、おぬし、猫じゃな? 更に言うならば猫又じゃろう」
フードの侍「……!」
狐神「この程度においでわかるわい。同じ獣じゃ、驚くほどでもなかろう」
フードの侍「…………」
狐神「猫又とは時に火車と同じように死体を持ち去る物の怪として言い伝えられておる」
狐神「おぬしが子の幽霊、つまりはその遺体の在処を探し出せたのもおぬしならではの嗅覚のお陰なんじゃろう?」
フードの侍「…………」
フードの侍「(そうだ)」
フードの侍「(……しかし、あの男は面白いな)」
656: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:14:24.54 ID:r4oAqWo50
狐神「まったく、そのオドロオドロしい声も止めぬか。何をそこまで隠しているのか知らぬが……」
狐神「それで? 面白いとは、何がじゃ」
フードの侍「(幽霊を発見した時、まず祓うのではなく、原因を調査し成仏させる方法を選んだ)」
狐神「くくっ、わしもあやつのそんな所が面白いと思う。じゃからこそわしはあやつとの旅を続けておる」
狐神「あんなに面白い男はそうそうおらん」
フードの侍「…………」
フードの侍「(確かにその通りだ)」
狐神「……で、おぬしに忠告しておくことが一つ」
フードの侍「…………」
狐神「……あやつはやらんぞ」
657: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:17:11.46 ID:r4oAqWo50
フードの侍「…………」
フードの侍「(なに、他人の愛する男を寝とるような真似はしない)」
狐神「あっ……!?」
狐神「愛してるのとは違うわい!」
フードの侍「…………」
狐神「違うと言っておろう! この色猫め!!」
お祓い師「あ、どうしたお前ら。喧嘩か?」
狐神「な、なんでもないわい」
お祓い師「おい、あんまりこいつをいじめないでやってくれよ。歳ばっかりはとっているみたいだが、中身はどうにもな……」
フードの侍「(……承知した)」
658: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:18:19.39 ID:r4oAqWo50
狐神「おい、どういう意味じゃ!!」
お祓い師「いや、すっかり元気になってくれたようでなによりだ」
狐神「そんな言葉で騙されんわ馬鹿タレ!!」
お祓い師「えー、新しい出会いと、狐神の回復に祝して乾杯」
狐神「あっ、まだお酒を注いでおらんから待っておくれ!」
お祓い師「流石に病み上がりすぐに飲むなよ」
狐神「あ、あんまりじゃあ……!」
フードの侍「…………」
フードの侍(本当にやかましいけど、面白い人達……)
659: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:19:09.85 ID:r4oAqWo50
《現状のランク》
A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長
B1 狼男
B2 お祓い師
B3 フードの侍
C1 
C2 マタギの老人
C3 河童
D1 若い道具師
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊
660: ◆8F4j1XSZNk 2016/05/17(火) 19:20:26.53 ID:r4oAqWo50
《雨女》編は終わりです。
しばらくはこの町を中心に話が進んでいきます。
次回は《妖刀》編です。
661: 以下、

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