花丸「おらの幼馴染がこんなにも可愛い」back

花丸「おらの幼馴染がこんなにも可愛い」


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1:
私の名前は国木田花丸、図書委員である。
今日もこうして私は図書室のカウンターに座り、この聖地の秩序を維持すべく努めている。
しかるに、図書室の秩序とは何か。
善子 「ヤッホー、ずら丸、見て見て、この黒い羽……」
花丸 「……」
善子 「ごめんなさい」
そう、静謐である。
図書室はおしゃべりをするところではない。本を読むところなのだ。
ここで発してもよい言葉は「服に値札ついてますよ」と「頭にカメムシがとまってますよ」だけだ。
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2:
もしそれ以外の言葉を発する不届きな輩がいれば、私は無言の威圧によりかの女のお口のチャックを閉める。
それでも口をつぐむことができないなら、吹き矢を使うことも辞さない。
吹き矢を浴びてもまだ喋るのをやめないようなら……ああ、語るもおぞましいような手段を採らざるをえまい。
コブラツイストとか、ジャーマンスープレックスとか、いずれにせよ、そういう横文字のプロレス技をかけるしかない。
善子 「……」
いまお口にチャックをすることによって「吹き矢の刑」と「プロレスの刑」を免れた女の子は、私の竹馬の友、津島善子ちゃんである。
善子 「……」
3:
かの女は沈黙している。
ずらアロー・シュートを浴びることを恐れているのである。
善子 「……」
善子ちゃん、ごめんね。帰り道ではいっぱいおしゃべりしようね。
善子 (善子じゃなくてヨハネよ)
今、かの女は私に目配せをして、何やら伝えたい様子である。
おおかた、「今日の帰りに食べるのっぽパンはチョコ味にするわ! 食べるのが今から楽しみよ、ハアハア」とか言いたいのだろう。
大丈夫、善子ちゃんと私はツーカーでつながりあっているから、目配せでも十分に言いたいことは伝わるのだ。
「ツー」と「カー」というのが何のことなのかいまいちよく分からないのだが、とにもかくにも、ウインクでお返事をしておこう。
花丸 (おらはピーナッツ味にするね! 食べるのが今から楽しみずら、ハアハア)
楽しみだね、善子ちゃん。
善子 (善子じゃなくてヨハネよ)
4:
そういえば善子ちゃんは、私が敬愛してやまない太宰センセの本名と同じ、津島姓である。
うらやましいかぎりである。
国木田センセと同じ姓に生まれたことはもちろん嬉しいのだが、津島姓も情緒にあふれていると思う。
それにもかかわらず、頭が少なからずプリティー・ボンバーな善子ちゃんは、自分の名前が地味であるなどとほざいてヨハネと名乗っている。
これは敬虔なキリスト教徒の方々に対する冒涜であり、そして何よりも自分の名前に対する冒涜であると言わざるをえない。
津島、かっこいい姓ではないか。
善子、すばらしい名ではないか。
花丸 (大丈夫だよ、善子ちゃん。善子ちゃんの名前はステキだよ)
そんなふうに私は、精一杯の慈愛と敬愛と友愛の念をこめて、善子ちゃんの目を見つめた。
思いをこめれば、それはきっと伝わる。
だから言葉なんか使わなくても、善子ちゃんは私のメッセージを受けとってくれるにちがいない。
善子 (どうして私のことをそんなに見てるの? もしかして私の顔に何かついてる?)
5:
おや、善子ちゃんが私のことを怪訝そうに見つめ返してきた。
きっと「そんなに私の名前がうらやましいの?」と考えているのだろう。
花丸 (そうだよ、マルは大好きだよ、津島っていう苗字も、善子っていう名前も)
私はそんなふうなことを伝える感じで、微笑んだ。
この微笑みに込めた言外の仄めかしも、たぶん伝わっていると思う。
善子 (ん? どうして嬉しそうなの? ああわかった、天気がいいからね)
善子ちゃんは、そんな私の微笑みに答えるように、顔を綻ばせた。
善子 (お日さまポカポカ、いい天気)
6:
この微笑み……私に何を伝えているのだろうか。
まさか、
(私と結婚すれば憧れの津島姓になれるのよ)
というプロポーズではあるまいか。
私の心臓は早鐘のように鳴りだした。
お寺の鐘の音を早送りするような感じで「ぼんぼんぼん」という音なき音が図書室に響き渡る。
花丸 (ダメだよ善子ちゃん、オラたちは、まだ高校生なんだよ?)
善子 (ずら丸、どうして顔が赤いの? ああ分かった、直射日光に当たっているからね)
7:
すみれ色の瞳が、心配そうに揺らめいた。
きっと、
(怖がることはないよ、マイ・スイート・ハニー。
ヨハネと一緒に、堕天しましょ?)
と言いたいに違いない。
花丸 (ダメだよ! 失楽園は18歳を過ぎてから)
熱っぽく善子ちゃんのことを見つめる私。
そんな私の顔を、善子ちゃんはますます心配そうに覗きこんだ。
善子 (あまり日に当たりすぎるのも良くないわよね。ちょっと待ってね、いまカーテン閉めるから)
8:
善子ちゃんは、何かを察した様子で立ち上がり、カーテンを閉めた。
噫! これまでの遠回しなジェスチュアーに較ぶれば、今の動作は何と直截にして明白な情交への誘いであろうか。
早鐘のように鳴っていた私の心臓は、度重なる善子ちゃんの蠱惑の乱打に耐えかねて、今や割れんばかりである。
図書室での情事……歴史上、これほどまでに背徳的なシチュエーションがかつてあっただろうか。
9:
除夜の鐘の音は煩悩の数を表すと言われているが、たとえ何百回鳴らされようと、私の内なる煩悩が滅却されることはないだろう。
しかし、それでよいのかもしれない。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
無常ということは、何も無い事ではない。
無常のままに、すべてのものが移ろいつつ有るということなのだ。
善子ちゃんは有る。だからこそ私は、ありのままの善子ちゃんを愛するのだ。
善子ちゃんのパンツは有る。だからこそ私は、ありのままの善子ちゃんのパンツを愛するのだ。
善子ちゃんの○〇〇は有る。だからこそ私は、生まれたままの善子ちゃんの○〇〇を〇〇○○して〇〇
(注)〇に当たる部分は著しく公序良俗に反するため、黒澤ルビィ氏の検閲により削除された。
検閲という処置を採らざるを得なかった理由について、ルビィ氏は「そりゃ私も善子ちゃんの○○○は○○ですけど」とコメントしている。
10:
花丸 (はじめてだから、優しくしてね)
善子 (ずら丸、まだ顔が火照ってるわね。もしかして熱でもあるのかしら)
アーム・ジョー!
ついに善子ちゃんの手が私の頬に触れる。
温もりを確かめるように私の頬を撫でさすったあとで、ついに善子ちゃんは私の額にかかった髪を掻き上げた。
善子 (やっぱり、ほっぺたは熱いわね。でも正確な体温を知るには額のほうがいいかな)
善子ちゃんは普段は堕天使と称して悪い子のふりをしているが、本当はとても慎ましく優しい、善い子なのだ。
だから善子ちゃんは、きっと私の嫌がることはしないだろう。
安心した私は、目をそっと閉じて善子ちゃんのしなやかな手指の進むがままに身をまかせた。
きっとこの後、額から頸、頸から鎖骨へと進み、ついには私の〇〇○を〇〇して〇〇○○
(注)〇に当たる部分は著しく公序良俗に反するため、黒澤ルビィ氏の検閲により削除された。
検閲という処置を採らざるを得なかった理由について、ルビィ氏は「そりゃ私も花丸ちゃんの〇〇○は〇〇ですけど」とコメントしている。
11:
そして私は、ためらう善子ちゃんの手をとって〔以下数字、検閲により削除〕
官能と愛欲の海の中で善子ちゃんと私は〔以下数字、検閲により削除〕
そしてついにエクスタシーがサンシャインして〔以下数行、検閲により削除〕
(注)大幅な削除という処置を採らざるをえなかった理由について、ルビィ氏は「国木田先生は私たちの知らない世界にイッてしまったようです」とコメントしている。
12:
(以下、全文削除)
(注)全文削除という処置を採らざるを得なかった理由について、ルビィ氏は「国木田先生の次回作にご期待ください」とコメントしている。
――――――――
13:
――――――――
梨子 「ねえルビィちゃん、この続きは?」
ルビィ「編集者として責任をもって処分しました」
梨子 「……」
ルビィ「ごめんなさい梨子さん、もう花丸ちゃんには図書館新聞の連載で暴走しないように注意しておきますから」
14:
梨子 「あら、誤解を与えたならごめなさいね。別に私は怒っているわけじゃないのよ」
ルビィ「そうなんですか?」
梨子 「ただ純粋に、この甘美な新聞連載の続きが知りたいのよ」
ルビィ「でもそれは、私がシュレッダーにかけてコマギレに」
梨子 「ルビィちゃん、嘘をついたらダメよ」
ルビィ「……」
梨子 「お持ち帰りして、こっそり愉しんでいるんじゃないかな」
ルビィ「……さすがに、梨子さんの目は誤魔化せませんね」
15:
梨子 「きっと国木田センセは、日本の同人誌文化に名を残す偉大な作家になるわ」
ルビィ「同人誌って、あっちじゃなくて、そっちの意味の同人誌ですよね」
梨子 「読み合いっこしましょう、その原稿」
ルビィ「いや、それはちょっと恥ずかしいかも……」
梨子 「大丈夫よ、濡れ場を音読するのが恥ずかしければ私が交替するから」
ルビィ「大丈夫じゃないんですよ、だって濡れ場しかないから」
――――――――
16:
――――――――
善子 「花丸ちゃん!」
花丸 「善子ちゃん、テンパるとマルのことを昔の呼び方で呼んじゃう癖があるよね」
善子 「何なのこれ! 図書館新聞の最新号に載ってる連載小説!」
花丸 「『おらの彼女と幼馴染が修羅場すぎる』の第1356回「おらの幼馴染がこんなにも可愛い」だよ」
17:
善子 「いや、ルビィはあんたの彼女じゃないし、ルビィと私のあいだに修羅場なんてないから」
花丸 「まあそのへんは、フィクションということで、一つご勘弁ください」
善子 「フィクションって言えば聞こえはいいけど、要するにこれ、ぜんぶあんたの妄想でしょ」
花丸 「まあ、それはそうかもしれないけど」
善子 「だいたい私は、あんたが風邪でもひいてるんじゃないかと思って心配したから額を触ったのよ」
18:
花丸 「ふふふ、なかなか、思うようには伝わらないものだね」
善子 「何で嬉しそうなのよ」
花丸 「人と人のふれあいって、面白いなって思って」
善子 「すれちがいばっかりなのに?」
花丸 「ひとりぼっちだと、すれちがうこともできないからね」
善子 「……それもそうね」
19:
花丸 「ねえ、善子ちゃん」
善子 「善子じゃなくて、ヨハネよ」
花丸 「ヨハネちゃん」
ヨハネ「何かしら?」
花丸 「天界の住人は、こんなふうに勘違いをしたり、すれちがったりしないのかな?」
ヨハネ「そりゃそうでしょ、天使なんだから、テレパシーでも何でも思いのままに通じるのよ……たぶんね」
20:
花丸 「それじゃあヨハネちゃんは、地上の人間とふれあうのは、きらい?」
ヨハネ「きらいなわけないでしょ」
花丸 「どうして?」
ヨハネ「人間が恋しくなって、天界から地上に降りてきたからよ」
花丸 「ふふふ」
ヨハネ「人間風情が、何を嬉しがってるのよ」
花丸 「ヨハネちゃんとおしゃべりできることが、嬉しいんだよ」
21:
ヨハネ「言葉にすれば、勘違いも少しは解けるかもしれないからね」
花丸 「人間風情でも、黄昏の理解者になれるかもしれないからね」
ヨハネ「あ、あっちにルビィと梨子がいるわ! 二人も誘って、みんなでおしゃべりしましょ!」
花丸 「うん、そうだね!」
ヨハネ「ラン、ラン、ララララ……」
22:
花丸 「ねえ、ヨハネちゃん」
ヨハネ「何かな、花丸ちゃん?」
花丸 「ひとつだけ、マルと契約を結んでくれる?」
ヨハネ「どんな契約?」
花丸 「天界になんか帰らないで、ずっとマルたちとおしゃべりしてね」
ヨハネ「そうね」
花丸 「おばあちゃんになっても、ずっと、地上で、おしゃべりしようね」
ヨハネ「ふふふ、ステキな契約ね」
花丸 「結んでくれる?」
ヨハネ「喜んで」
花丸 「ラン、ラン、ララララ……」
ヨハネ「ラン、ラン、ララララ……」
――――――――
23:
――――――――
(その後、黒澤家でのおしゃべり)
ルビィ「私が思うに、この小説における主人公、花丸の行動は〇〇が〇〇○で……」
梨子 「それは確かにそうだけど、この描写でのヒロイン、善子の〇〇○を〇〇というのは……」
花丸 「ああ、それは〇〇○○○○が○○で〇〇○」
ヨハネ「いくら堕天したといっても、ここまで地上が破廉恥だとは思わなかったわ」
ルビィ「でも善子ちゃん、〇〇が〇〇○すれば〇〇だよね」
梨子 「なるほど、その場合は、善子ちゃんの〇〇○○を○○○というわけね!」
花丸 「うーん、それも一理あるね。……あ、そうだ、善子ちゃん!」
善子 「何かな?」
花丸 「〇〇○〇〇○○」
善子 「のわあああ!」
(注)〇に当たる部分は著しく公序良俗に反するため、黒澤ダイヤ氏の検閲により削除された。
検閲という処置を採らざるを得なかった理由に対して、ダイヤ氏は「そりゃ私も善子さんの○○○は○○ですけど」とコメントしている。
24:
おわり
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