八幡「一色が死んだって……?」」back

八幡「一色が死んだって……?」」


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1:
その人の指がわたしの首にかかる。
苦しい。息ができない。
その人の目は快楽に酔っている。ああ、この人はわたしが憎いんじゃない。ただ、愉しんでいるんだ。
わたしを苦しめることを。
わたしの命を奪うことを。
その対象は別にわたしじゃなくてもいい。
誰でも、よかった。
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2:
――
――――
こんにちは。初っ端から殺されちゃったいろはちゃんです。
じゃあ何でいま話しているんだって? そんな細かいところは気にしないでくださいよ。
以下はこのお話を読むにあたっての注意点です。
グロあり。鬱あり。
とりあえずマイナスなものは全部盛り込んであります。
それでも大丈夫だという方のみ、お読みください。
それと、このお話はいくつかの『ルール』を破ったお話ですので、その辺もご了承ください。
それでは続きをどうぞ?♪
3:
――
――――
八幡「どういうことだよ……!?」
平塚「どうもこうも、そのままだ。この近くの公園で遺体が発見された」
結衣「そんな……いろはちゃんが……!」
八幡「冗談……ですか?」
平塚「そう言いたいところだが、事実だ。君たちも今日は解散してくれ。明日は恐らく休校だろうが、連絡を待つように」
八幡「ちょっと待ってください。そんなこと急に言われても……」
平塚「私たちも寝耳に水なんだ。このあとすぐに職員会議があるから、ここでゆっくりもしてられない」
八幡「そもそも一色はなんで……」
平塚「……殺された可能性が高い」
八幡「えっ?」
4:
平塚「遺体が発見されたのは今朝の話だ。警察が発表していないとは言え、話はもう学校にまで届いている」
八幡「発表していない……?」
平塚「遺体が酷く損傷していたから、身元の確認が今もまだできていないらしい。しかし一色の行方が昨晩から今に至るまでわかっていない。言いたいことはわかるな?」
結衣「そんしょー……?」
八幡「……聞かない方がいい。何となく想像できた」
平塚「とりあえずいま君たちに話せるのはこのくらいだ。比企谷、君は大丈夫だろうが、雪ノ下と由比ヶ浜は保護者に迎えに来てもらうように」
八幡「…………」
結衣「……なに、これ…………」
雪乃「…………」
5:
結衣「嘘……嘘だよね……」
八幡「…………」
結衣「ねぇヒッキー、嘘だって言ってよ!」
八幡「わりぃ……。俺も今は何も言えん。なにも、よく、わからないんだ」
結衣「……ごめん」
八幡「いや、由比ヶ浜が謝ることじゃない」
雪乃「…………」
6:
結衣「……ゆきのん?」
雪乃「な、なにかしら……?」
結衣「大丈夫……?」
八幡「…………」
雪乃「え、ええ……。少し気分が……ね。あんな話を唐突に聞かされたから……」
結衣「そう、だよね……」
八幡「今はとりあえず何も考えない方がいいだろ。ほら、さっさと部室出るぞ」
7:
結衣「いろはちゃんが……」
八幡「それ以上言うな。考えたって仕方ない」
結衣「だってこんなの突然すぎるよ! 人が死んじゃったんだよ!
? ついこの間まで一緒にいた人が!」
八幡「…………」
雪乃「…………」
八幡「雪ノ下は、どう思う?」
雪乃「……えっ?」
八幡「話を聞く限りだとまともな死に方だとは思えない。どうして一色がそんな……?」
雪乃「……わからないわ。そんな恨みを買うようなことがあったのかしら……」
8:
結衣「どうして二人ともそんなに冷静でいられるの……?」
八幡「……正直、実感がわかない」
結衣「……えっ?」
八幡「いきなり死んだなんて言われて、それで納得なんてできない。受け入れられない」
雪乃「……そうね、私も同じ感想だわ」
八幡「まだ身元の特定はできていないなら、一色が生きている可能性はまだ残っているわけだ。あいつがそう簡単に死ぬようなやつか?」
結衣「…………」
八幡「……まぁ、これもただの現実逃避なんだろうけどな」
9:
結衣「小町ちゃんは大丈夫なのかな……?」
八幡「……まぁ、熱出して寝込んでるしな。家から出ていないから安心だ」
結衣「えっ、そうなの?」
八幡「ああ、朝具合悪そうで熱測ったら普通に熱があった」
結衣「そうなんだ……。お大事に」
八幡「おう。……でも、ある意味タイミング良いのかもしれん」
結衣「どうして?」
八幡「まだ犯人は捕まってないんだろ。こんなタイミングで家の外に出せねぇよ」
結衣「あはは……」
雪乃「…………」
雪乃「…………」チラッ
八幡「?」
10:
数日後
ザワザワ
八幡「まぁ、こうなるよな」
葉山「比企谷」
八幡「ん……?」
葉山「君も聞いたか?」
八幡「……一応な」
葉山「そうか……」
八幡「…………」
葉山「君は」
八幡「?」
葉山「君は、誰が犯人だと思う?」
11:
八幡「……は?」
葉山「いろはを殺した犯人は、誰だと思う?」
八幡「そんなの俺が知るかよ……。てかまだ死んだとは限らないだろ」
葉山「俺だってそう思いたいさ。でも、状況的にそう考えざるを得ないだろ」
八幡「…………」
葉山「俺は、正直身内が犯人だと思う」
八幡「やめろ」
葉山「!」
八幡「探偵ごっこがしたいなら他でやれ。戸部とか」
葉山「別にそういうつもりじゃない」
12:
八幡「それに俺は別に一色のことなんてよく知らん。俺の知っていることはお前も知ってる」
葉山「俺はそうとは思わない。いろはが君にしか見せなかった側面はいくつもあるはずだ」
八幡「…………」
葉山「……まぁ、もしも何の関係もない異常者が犯人なら、こんなの杞憂だろうけど」
八幡「だから俺には関係な――」
葉山「俺の予想通りだったら、雪ノ下さんたちに危害が及ぶかもしれないんだぞ」
八幡「なんでそこであいつらの名前が出るんだよ」
葉山「……俺の仮説を聞いてくれないか?」
八幡「心当たりがあるのか?」
葉山「もし犯人が本当にイカれているなら俺には予測もできない。でもまだ俺に予測がつく範囲でのなら」
八幡「……聞くだけな」
13:
葉山「俺はまだ詳しい状況を知らない。だから動機から探るしかない」
八幡「まぁ妥当だな」
葉山「いろはが狙われた理由として考えられるのは、誰かから恨みを買ったというのが一番あり得そうだと思う」
八幡「それ以外はあまり考えられなさそうだしな」
葉山「それでだ。いろはが恨みを買った場合、それは誰のものだろう」
八幡「知るかよ、んなもん」
葉山「いや、君も知っている範囲で思いつくよ」
八幡「……?」
14:
葉山「君といろはが関わったことを思い返せば、そこまで難しいことじゃないはずだ」
八幡「俺と一色……、あっ」
葉山「わかったかい?」
八幡「クリスマス会か……?」
葉山「その通りだよ」
八幡「なんでそこでそれが出てくるんだよ」
葉山「あとから聞いたけど、奉仕部三人で海総の生徒会をコテンパンにしたらしいな」
八幡「その恨みで一色が? そして雪ノ下たちも?」
葉山「……そうだ」
八幡「バカバカしい。聞いた俺がバカだった」
15:
葉山「そこまでかい?」
八幡「そうだろ。その程度で人を殺すような奴が海総に入るわけがない」
葉山「頭の良さと異常性は必ずしも一致するとは限らない」
八幡「いや、完全に一致しないまでもある程度はそうだ。人殺しなんてすれば自分が損しかしないことはわかるはずだ」
葉山「それはまともな思考での話だ。……比企谷」
八幡「……なんだよ」
葉山「君は、聞いたのか? その、遺体の状態とかは」
八幡「一応、いろいろあれだったらしいってのは」
葉山「身元の確認が未だにできていないということは、それくらいに原型を留めないくらいに……」
八幡「…………」
葉山「そんな相手に常識が通用するわけがないと俺は思う」
16:
葉山「もう三つ、仮説がある。まずは、色恋沙汰だ」
八幡「お前、自分で言ってて恥ずかしくねぇの?」
葉山「俺は真面目だよ。君も知っての通りいろははモテる。男子から告白されるのもよくあったらしい」
八幡「……つまり、フラれた腹いせに?」
葉山「あるいは、その男子に気がある女子の嫉妬か」
八幡「あいつはいろんなところに敵がいるんだな……」
葉山「二つ目。この場合はどうしようもないが」
八幡「…………」
葉山「誰でもよかった場合だ」
17:
葉山「動機からでしか推測できない以上、これだとどうしようもない」
八幡「それなら誰でも犯人になり得るからな」
葉山「そして三つ目は……」
八幡「…………あっ」
葉山「どうかしたのか?」
八幡「いや、ちょっとな。その話はまた今度だ」
葉山「……あぁ、なるほど。そうだ。ヒキタニくん」
八幡「あ?」
葉山「君も、気をつけろよ」
八幡「俺なんかわざわざ殺す価値もねぇよ」スタスタ
葉山「……三つ目は、君に好意を抱いている人間が犯人の可能性だよ」ボソリ
18:
結衣「あ、あれ、ヒッキー? なんで? 隼人くんと話してたんじゃないの?」
八幡「なんかチラチラこっちの方を見てたろ。あんなことされたら気になるっつーの」
結衣「えっ!? べっ別にヒッキーのことなんか見てないし!」
八幡「……で、どうしたんだよ。いつもなら俺のことなんか待たないのに」
結衣「うん……ちょっとね……」
八幡「…………」
結衣「いろはちゃん、良い子だったのに。なんで……」
八幡「……さっさと帰って休め」
結衣「うん、そうする……」
八幡「それと、俺よりも雪ノ下にそういうことは話した方がいいぞ。あいつの方がよっぽどちゃんと応えるし」
19:
結衣「ゆきのんは……」
八幡「?」
結衣「ううん! なんでもない!」
八幡「お、おう……?」
結衣「じゃあまた明日ね、ありがと」
八幡「ああ」
八幡「……さて、俺も帰るか」
20:
八幡「…………」スタスタ
めぐり「あっ」
八幡「あっ」
めぐり「こんにちは」
八幡「うす」
めぐり「……一色さんのことは」
八幡「…………」
めぐり「そっか。……どうして、こんなことになっちゃったんだろうね」
八幡「…………」
めぐり「私、許せないよ……。犯人が……!」
めぐり「たとえ誰でも、許せない……!」ポロポロ
21:
八幡「……泣かないでください。城廻先輩」ナデナデ
めぐり「ひき……がやくん……?」ポロポロ
八幡「……はっ! あ、すいませんでした」サッ
めぐり「……ありがとう。少しだけ気が楽になった」
八幡「犯人……早く捕まるといいですね……」
めぐり「うん、本当に……」
雪乃「…………」
 
23:
次の日
八幡「嘘……だろ……?」
結衣「今度はめぐり先輩が……?」
平塚「まだ行方不明だ。しかし、一色の件を考えると……」
結衣「……だ」
結衣「……やだ」
八幡「由比ヶ浜?」
結衣「もう嫌だよこんなの! なんであたしの好きな人ばっかり!!」
平塚「落ち着け由比ヶ浜!」
結衣「どうして!? どうしてこんなことができるの!?」
雪乃「…………」
 
24:
――
――――
葉山「……生徒会長が二人とも、なんて」
八幡「なぜ俺のところに来る。事件のせいで下校になったんだから帰らせてくれよ」
葉山「その前に俺の話を聞いてくれないか?」
八幡「また探偵ごっこかよ……」
葉山「だが、君だっておかしいと思っているはずだ」
八幡「はっ?」
葉山「どうして、君の周りの人間が狙われているのか」
八幡「……!」
葉山「君は自称他称ボッチなんだろう? そんなそもそも人との関わりが少ない君の知り合いが二人も殺されたなんて、偶然だと思えるのか?」
25:
八幡「つまり、俺に近しい人間が狙われるってことか?」
八幡「……バカバカしい。そんなことをして何のメリットがある。結論ありきで過程を捻じ曲げるのはやめろ」
葉山「なら、他に何があると言うんだ」
八幡「順当に考えれば生徒会に恨みがある人間の犯行だ。逆にそれ以外考えられない」
葉山「本気で言っているのか?」
八幡「少なくともお前のよりは信憑性があるだろ。俺は帰る。じゃあな」
葉山「待てよ! 俺の考えが正しかったら――」
八幡「じゃあ俺のせいだと?」
葉山「!」
八幡「お前の言っていることはそういうことだ」
葉山「そんなつもりじゃ……」
八幡「そう聞こえんだよ。もしかしたらそうなのかもしれねぇ。それでも、言われて気分のいいものじゃない」
葉山「……すまない」
八幡「…………」
26:
八幡「…………」スタスタ
結衣「…………」
八幡「……何してんの?」
結衣「一人で、帰りたくなくて……」
八幡「なら雪ノ下と帰ればいいだろ。こんなとこで誰かを待ってるんじゃなくて」
結衣「あたしはヒッキーを待ってたんだよ」
八幡「は?」
結衣「あっ、いや、別にヒッキーがどうとかじゃなくてねっ!」アタフタ
八幡「い、いや、知ってるっつーの」
結衣「……じゃなくて、聞いてほしいことがあるの」
27:
結衣「先に言っておくけど、別にゆきのんのことが嫌いになったとかそういうわけじゃないんだ」
八幡「はぁ……」
結衣「ただ、最近のゆきのん、ちょっとこわい……」
八幡「こわい?」
結衣「うん。いろはちゃんのことがあってからずっと」
結衣「無口でいることが多くなって、話しかけてもどこかそっけなくて。何を考えているのかも全然わからなくなっちゃった」
結衣「嬉しいのか、悲しいのか、怒っているのか、そういうのが全然わかんない」
八幡「雪ノ下が……か」
28:
結衣「あたしが話してって言っても、誤魔化されだけで結局何も教えてくれない」
結衣「やっと仲良くなれたと思ったのに、こんなのってあんまりだよ……!」
八幡「…………」
結衣「それに、もしかしたら……」
八幡「?」
結衣「……ううん。でもね、ヒッキーはいつものヒッキーだから、なんか話してて落ち着くんだ」
結衣「みんな、変わっちゃったから。いつも通りのヒッキーを見てると嫌なことも忘れられて」
八幡「いつも通り……」
結衣「ヒッキー?」
八幡「俺としては結構ショックを受けているつもりだったからそんな風に言われるとは思ってなかった」
結衣「それはさすがにわかるよ。でも、大きくはブレないというか」
八幡「……かもな」
29:
――
――――
八幡「ただいまー」
八幡「って、誰もいないか」
八幡「いや、小町は家だっけ」
ガチャッ
八幡「……寝てるな」
バタン
八幡「……こうなると小町はもう家から出せねぇよな」
八幡「はぁ……」
八幡「……」
八幡「…………」
八幡「……一色が死んで、城廻先輩が行方不明」
八幡「なら次は……?」
30:
――
――――
ピリリリリ
八幡「……電話?」
八幡「てかいつのまに寝てたんだ俺は……」
ガチャッ
八幡「もしもし」
八幡「はい……。はい」
八幡「はい……。……はっ?」
八幡「いま、なんて……?」
八幡「……っ」
八幡「由比ヶ浜が……!?」
31:
――
――――
ピリリリリ
八幡「……もしもし、比企谷です」
葉山『葉山です』
八幡「……!?」
葉山『……すまない。こんなタイミングに』
八幡「ならわざわざ電話してくんじゃねぇよ……! 人が死んでるのに、悲しいとかそういうのはねぇのかよ……!」
葉山『……あのな、比企谷』
葉山『俺だって悲しいに決まってるだろ……!』
八幡「……!」
葉山『同じ部活の後輩に友人が殺されたんだぞ……。悲しいし、それ以上に悔しいんだ……』
八幡「…………」
32:
葉山『俺がもっと早く動けていれば、気付けていれば、結衣のことだって助けられたかもしれない……!』
葉山『何もできなかった自分に腹が立って仕方がない……!』
八幡「……なら、自分一人でやれよ。俺を巻き込むな」
葉山『いや、君の力は必要だ』
八幡「なんでだよ」
葉山『いろは、城廻先輩、そして結衣。この三人の共通点は主に君と面識のある女子だということだ』
八幡「…………」
葉山『つまり、この一連の事件は君の周りで起こっているも同然なんだ。だから、君の協力なしには犯人を見つけることはできない』
八幡「…………」
葉山『……ダメか?』
八幡「……わかった」
葉山『……!』
八幡「このままだと小町や戸塚が危ないかもしれないからな」
葉山『……相変わらずだな』クスッ
八幡「うっせーよ」
33:
葉山『親のつてで事件の状況を聞いた』
八幡「状況?」
葉山『そうだ。具体的な話の中身はしらなかったから。……ヒキタニくんはそういう、グロテスク系は苦手か?』
八幡「まぁ、それなりには耐性はあるが」
葉山『じゃあ……いや、それでも心して聞いてくれ』
葉山『城廻先輩はまだ行方不明だからわからないが、いろはと結衣の遺体は発見された』
葉山『まずはいろはから。……恐らくこれが一番ひどく、むごい』
葉山『公園に大きめのバケツが数個あり、そこにいくつかに分けられて入っていたそうだ』
八幡「バケツ……? 入っていた……?」
葉山『そう。そしてその中には固形といえるものがほとんど入っていなかった』
葉山『赤黒く変色したドロドロとした流体がその中には入っていた』
八幡「流体?」
葉山『皮膚や肉、内臓から骨に至るまで人間の身体一体分が全て粉々にすり潰されてバケツの中に入っていたんだ』
34:
八幡「どういうことだよ……!?」
葉山『身体の中身が抉り取られて、代わりに綿が詰められていた……と、資料には書いてあった』
八幡「なんだよそれ……、完全に頭がイカれてんじゃねぇか……っ」
葉山『……同感だ』
八幡「くそ……」
葉山『これで終わるとは思えない。比企谷、次の心当たりはないか?』
八幡「俺の知り合いでってことか……。材……はないな。相模……もないか。……っ!!」
葉山『どうした?』
八幡「……つか」
葉山『?』
八幡「戸塚だ!」
葉山『!』
八幡「次は……戸塚かもしれない……!」
35:
八幡『わり、切る!』プツッ
葉山「あっ」ツーツー
葉山「……まぁ、そう考えるのが自然か」
葉山「優美子たちにも言って……」
葉山「……いや、巻き込むわけにもいかないか」
葉山「それにまだ確証はないし、犯人が今日動くとも限らない」
プルルルル
葉山「!」
ガチャッ
葉山「もしもし、葉山です」
八幡『まずい! 携帯に出ないし家に電話したら外に出たらしい!』
葉山「なんでこんなタイミングで……!」
八幡『親も外に出すつもりはなくて、でも家にいないことにも気づいてなかったんだ!』
葉山「事件に巻き込まれた……!?」
八幡『葉山、今外に出られるか!?』
葉山「あ、ああ!」
八幡『……なぁ』
葉山「なんだ?」
八幡『一色が最初に見つかったのは、総武高の近くの公園だったよな?』
葉山「ああ、そうだな」
八幡『もしかしたらその近くにいる可能性はないか?』
36:
――
――――
葉山「…………」タッタッタッ
葉山「…………」タッタッタッ
葉山「比企谷、先に着いてたのか」
八幡「しっ」
葉山「! まさか――」
八幡「そのまさかだ」
葉山「……! 戸塚……、早く助け――」
八幡「待てよ」
葉山「はっ?」
八幡「戸塚が話をしてる。その相手を見てみろ」
葉山「話……?」
37:
戸塚「……えっ?」
戸塚「どうして……」
戸塚「どうして……、なんで……」
??「…………!」
葉山「……っ!」
葉山「やはり、そうか……」
葉山「くそ……、そうじゃなければと何度も思ったが……」
八幡「あいつが……」
八幡「……犯人」
83:
雪乃「…………」
戸塚「雪ノ下さんが……なんで……」
葉山「まずい! 雪ノ下さんを止めないと!」
八幡「だから待てって」ガシッ
葉山「なんでだ! 戸塚が危ないんだぞ!」
八幡「一色たちの殺され方を忘れたのかよ。今の雪ノ下は正常じゃねぇ。何をするかわかったもんじゃない」
葉山「そうだな……。でも――」
八幡「だからまずは俺が出て雪ノ下の注意を引く。即殺すようなことはしないはずだ」
八幡「注意が俺に行ったところでお前が後ろから羽交い締めするなりして雪ノ下を動けなくしてくれ」
葉山「……なるほど。たしかにその方が確実性がある」
八幡「……雪ノ下が動いた。俺は出る。葉山、あとは頼んだ」
葉山「わかった」
84:
雪乃「戸塚くん。あなたは――」
八幡「そこまでだ、雪ノ下!」
雪乃「!」
戸塚「八幡!」
八幡「大丈夫か! 戸塚!?」
戸塚「う、うん……。でも、なんで雪ノ下さんが……?」
雪乃「……正直、信じられないわ」
雪乃「あなたが、こんな……」
雪乃「でも、それも……、キャッ!?」ガシッッ
葉山「動かないで、雪ノ下さん!」
雪乃「葉山くん!? どうしてあなたが……、はっ!」
八幡「よくやった、葉山」
雪乃「待って、葉山くん! これは――」
85:
八幡「お前が馬鹿で、本当に助かった」
 
86:
雪乃「キャッ……」バチッ
葉山「……えっ?」
八幡「…………」ブゥン、バチバチッ
葉山「ひき……がや……?」
八幡「ありがとな、葉山」スッ
葉山「ぐっ!」バチッ
八幡「……」
八幡「……ふぅ」
87:
――
――――
雪乃「う……ん……ここは……」
八幡「目が覚めたか」
雪乃「……!」グッグッ
八幡「わりぃな。動けないように縄で縛らせてもらった」
雪乃「痛……っ」ズキッ
八幡「スタンガン使ったから当たったところは痛いぞ」
雪乃「……比企谷くん、あなたが…………」
八幡「正解。全員な」
雪乃「一色さんも、城廻さんも、……そして、由比ヶ浜さんも……!」ギリッ
八幡「いつから俺を疑ってたんだ?」
雪乃「最初から容疑者の一人ではあったわ。でも、あなたがこんなことするなんて……」
雪乃「……信じたく、なかった」
八幡「俺がもっと優しくて模範的な人間だと思っていたのか」
雪乃「いえ、あなたはまともではない。それでも一人間としての倫理観くらいは持っていると思っていた……」
雪乃「そう信じたかったのね……」
八幡「それがお前の敗因だ。雪ノ下」
88:
雪乃「……どうして、こんなことを?」
八幡「これは俺の友達の知り合いの話だ」
八幡「ある所にとても純粋な男の子がいた。虫一匹殺せないくらいに優しい子がな」
八幡「その子はある日、親を強盗に無残に殺された。一生癒えない傷をその犯人から受けたんだ」
八幡「憎悪と後悔がその子から消えることはなかった。そうしてその子は狂気の中で生きるようになった」
八幡「復讐という執念に憑りつかれて」
八幡「……なんて話はどうだ、傑作だろ」
雪乃「それが……原因……? でも由比ヶ浜さんたちを殺す理由なんて……」
八幡「さぁてな。それにしても、見事に罠にハマってくれて面白かったぜ」
八幡「さすがのお前も、あの葉山が来るとは思わなかっただろ? お前を殺すための策に葉山が出てくるなんて」
八幡「俺が戸塚を呼び出したのをお前は盗み聞きしているつもりだったんだろうな」
雪乃「……それすらも見越していたの。そこから私はもうおびき寄せられていたわけね」
八幡「その通り。いつものお前で相手が俺じゃなかったらこんな単純な罠、気づいていたんだろうがな」
89:
雪乃「……! そう言えば戸塚くんは!? 姿が見えないのだけれど」
八幡「ああ、もう死んだよ」
雪乃「死……!」
八幡「戸塚は良かったぞ。最後の最後まで俺がこんな人間だったのを信じられない様子でな。ひたすら叫ぶんだよ」
八幡「『八幡、帰ってきて。元に戻って』って」
八幡「そうやって泣き叫ぶのは、聞いていてかなりそそるものがあったぞ。おまえにも聞かせてやりたかったくらいだ」
雪乃「あなたは……!」
雪乃「あなたはどうしてそんなひどいことができるのっ!?」
八幡「ひどい、ねぇ」
雪乃「あなたのしていることなんて人として最低のことだわ!!」
90:
八幡「まぁ。んなことどうだっていいんだけどな」
ピーンポーン
八幡「誰か来たのか」
雪乃「! すぅー……」
八幡「大声あげても構わんが叫んでも外には聞こえねぇぞ」
雪乃「えっ……」
八幡「いろいろやって相当な音じゃないと外に漏れないようにしてんだよ。んなことしても疲れるだけだ」
ガチャッ
八幡「じゃあ」
キィーバタン
雪乃「…………」
91:
インターホンガチャッ
八幡「はい」
??『比企谷さんのお宅ですか? 少しお話を聞きたいのですが』
八幡「警察か何かですか?」
??『そこですぐに警察って単語が出てくるとはね』
八幡「……?」
??『じゃあね、比企谷くん。聞き方を変えるよ』
??『私の妹はまだ生きてる?』
92:
八幡「……雪ノ下さん」
陽乃『そんなことは聞いてないよ。質問に答えなさい』
八幡「生きてるも何も、身体中穴だらけで息なんてしていませんよ」
陽乃『……っっ!』
八幡「嘘ですよ。まだ元気です」
陽乃『……』ホッ
八幡「それも嘘です」
陽乃『……比企谷くん。今ならまだ入院くらいで許してあげる。その代わりに雪乃ちゃんを解放しなさい』
八幡「ずいぶんと上からですね」
陽乃『うちが本気を出したら君の家なんてすぐにつぶせるんだよ。そうしたら君の親や妹も悲しむでしょ?』
八幡「……ええ」チラッ
八幡「…………」
八幡「……そうですね」
93:
八幡「……雪ノ下さん」
陽乃『なに?』
八幡「雪ノ下さんは俺を信じずに疑ったんですね。その判断は正しいと思います」
八幡「でも、なのに一人で来たのはなぜですか?」
陽乃『そんなの、どうでもいいでしょ』
陽乃『それに一人で来ているわけではないから。今だってボディーガードがすぐに後ろにいるよ。インターホン越しの君には見えないだろうけどね』
94:
八幡『……思い込みって怖いと思いませんか』
陽乃「……?」
八幡『本当に大切なものを見失わせてしまうんです』
陽乃「何を言って…」
ガチャッ
八幡「つまり――」
陽乃(玄関から外に……?)
八幡「――こういうことですよ」
バチンッ
陽乃「キャッ……!?」ドサッ
八幡「……一人で来てるのはバレバレでしたよ、雪ノ下さん」
八幡「あとは……」
95:
「誰かーーーーーーっ!!!」
もう何度叫んだことだろう。この部屋の外からの反応は皆無と言ってもいい。比企谷くんの言う通り、外には声がもれないのかもしれない。
喉が枯れ、疲労で身体が重くなったのを感じ、ため息が漏れる。
これから私はどうなるのだろう。やはり他の人たちと同じように殺されてしまうのだろうか。
真っ赤な血で汚れた自分の姿が脳裏に浮かぶ。その凄惨な光景に思わず背筋が震えた。
嫌だ、死にたくない。こんなわけのわからない理由で、わけのわからない状況で死にたくない。まだ生きていたい。
「いや……こんなの、いや……」
自分の心を支配する絶望に耐えきれず嗚咽する。どうして、こんなことに……?
これが天罰だとしたらそれは何の罪の贖いなのだろう。そんな罰に値する悪行を私がしたというのだろうか。いや、そんなはずはない。
この世に神様なんていない。あるのは残酷な現実だけだ。そんなのわかっていても、それでも現状を呪わずにはいられなかった。
「誰か……助けて……」
その声に応える者はいない。この部屋には私一人しか……。
「……先輩」
96:
「……えっ?」
その瞬間、自分の耳を疑った。もう二度と聞くことのないその声を、その言葉を耳にするなんて、信じられなかった。
「雪ノ下先輩、大丈夫ですか?」
「その声……、まさか……」
震える声で問う。ずっと前にこの世から去っていたと思っていた相手に。
「一色……さん……?」
「はい、助けに来ました」
顔の向きを変えるとそこには確かに、現総武高生徒会長、一色いろはの姿があった。
107:
>>34
訂正
八幡「うっ……」
葉山『大丈夫か? 俺も最初聞いた時は耐えきれずに吐いた』
八幡「……いや、そのまま続けてくれ」
葉山『……。それで、次は結衣の方だ。こっちはさっきほどではないが、それでもやはり酷い』
八幡「…………」
葉山『結衣の遺体は家の前にあって、外見上は損傷がなかったそうだ』
八幡「外見上は……?」
葉山『しかし結衣の遺体は女子高生にしてはあまりにも軽かったらしい』
八幡「どういうことだよ……!?」
葉山『身体の中身が抉り取られて、代わりに綿が詰められていた……と、資料には書いてあった』
八幡「なんだよそれ……、完全に頭がイカれてんじゃねぇか……っ」
葉山『……同感だ』
八幡「くそ……」
葉山『これで終わるとは思えない。比企谷、次の心当たりはないか?』
八幡「俺の知り合いでってことか……。材……はないな。相模……もないか。……っ!!」
葉山『どうした?』
八幡「……つか」
葉山『?』
八幡「戸塚だ!」
葉山『!』
八幡「次は……戸塚かもしれない……!」
144:
「とりあえずこの縄を切りますね」
どこから取り出したのか小さなナイフで縄を切り始めた。よく見ると着ている制服がどこか薄く汚れているように見える。
「ん……ちょっと切りづらいな……」
「どうしてあなたがここに……。死んだのでは……?」
理解不能な存在に恐れ震える。一色さんはだって……、えっ?
「先輩はわたしを殺し損ねたんです。わたしを殺そうとして、そこから逃げてずっと隠れていたんです」
「でも死体は……」
「……雪ノ下先輩、あの人が何をしたのか知っていますか?」
「城廻先輩と由比ヶ浜さんと戸塚くんを……」
「……それだけではありません」
「えっ?」
「その前に三人、先輩は殺しているんです」
「……!?」
一色さんの衝撃的な一言に言葉を失った。
「それは、先輩の両親……」
「……そして、妹の小町さんです」
そう言うのと私を縛っていた縄が切れたのはほぼ同時だった。
145:
――
――――
「さてと、マッ缶は……」
喉の潤いを求めて冷蔵庫を開くと、目的の黄色い缶よりも先に人の顔が目に入った。
「相変わらず小町は可愛いな」
「ああ、本当に。世界一可愛い」
血が通わなくなって真っ白になった肌と生気のない表情がその美しさをさらに際立たせている。
冷たい頬にそっと触れる。そのやわらかさや新鮮さは生きていた時のそのままだ。
小町の身体は全てこの冷蔵庫の中に入っている。顔も、手も、足も。さすがにそのままでは入らないから切ってバラバラにしたのだが。
原型を留められないのはやるせなかったが、こうしないと腐ってもっと酷いことになるとある本に書いてあった。
146:
「嘘……あのシスコンを取ったら何も残らないような男が自分の妹を手にかけるなんて……」
「それはどうでしょうか?」
すると、一色さんが一言はさんだ。
「好きだから殺したい。先輩はそんな風に考えているように見えました」
「見えたって……」
「さっきも言いましたけど、わたし先輩に殺されかけたんです。でも、その時に感じたのは憎悪とかそういうのじゃなくて……」
言葉が止まる。意味が合致する言葉を探しているのだろう、と私は思った。
「……歪んだ、愛情?」
「……理解できないわね」
好きだから傷つける。好きだから命を奪う。そんなの、まともな考えじゃない。本当に好きならば大切に思うべきだ。
そんな考えは自らの破壊衝動を正当化したいだけで、子どものそれと変わらない。
「それに……」
「?」
「……いえ、なんでもありません」
147:
「話を戻しますね。三人分の死体を家の中に置いておけなかったから、母親のは外に処分したんです。それが誰なのかわからないくらいにグチャグチャにして」
処分、という言い方に苛立ちを覚えた。それではまるで人をモノのように扱っているのと同義だ。そこには歪んだ愛情すらも有り得ない。
「先輩の家から逃げた私がそのまま家に帰ったら、それは身元不明として発見されたでしょう。でも、ここで先輩にとって誤算が起きた」
「……あなたは家に帰らなかった」
「その通りです。わたしが行方不明になることによって、『一色いろは』は死んだことになった」
確かに。今にして考えてみれば比企谷くんは、一色さんが死んだ可能性よりも生きている可能性について言及していた。それは他の誰よりも一色さんが死んでいないことを知っていたからだったのだ。
でも、一つだけ理解できないことがある。
「……でも、どうしてそんなことを?」
「それは……」
そう聞くと視線を逸らし口ごもった。逃げられたのなら警察などに通報するなり、やるべきことはあったのに。
そうすれば、他の犠牲者も出ずに済んだかもしれないのに。
148:
「……少年法って知っていますよね」
「え、ええ……」
「いま捕まえられても何年かしたらまた先輩は刑務所、いえ、少年院ですね、そこから出てきてしまうかもしれません」
「自分の母親を粉々にするような人ですよ。出てきた後にまた狙われかねないじゃないですか」
ふと一色さんの手に目を移すと微かに震えているのに気づいた。その様子から次に口から出る言葉があまり良くないことが予想づいた。
「……だから、殺すんです」
時間が、止まる。
「わたしが、先輩を」
149:
思考が止まる。この後輩は何を言っているのだろう。
「とは言っても直接はやりませんよ。あくまでも私の手が汚れないように、先輩の自滅になるようにやります」
「……それ、本気で言っているのかしら」
「本気も本気です。だからこの数日間ずっと方法と機をうかがってたんです。……まさかわたしが逃げたのにも関わらずこんな短期間で他にも犠牲者が出るなんて思いもしませんでしたが」
狂っている。
この子も、比企谷くんほどではないにしろ、頭のどこかがおかしい。……それとも、比企谷くんに殺されかけたという経験が倫理観を取り払ってしまったのだろうか。
しかし助けてもらった私はそこに文句を言える立場ではない。それに、もうこんな狂気が渦巻く世界に関わりたくもない。
「……そう」
だから肯定とも否定とも取れる返事をした。早くこの場から逃げてしまいたかった。
150:
「今から先輩を殺しに行きます。雪ノ下先輩はいてもちょっとあれなんで、今のうちに逃げてください」
「逃げるってどうやって?」
「そこですよ」
一色さんは部屋の端を指す。そこには薄暗さのせいで気づかなかったが比企谷くんが使ったのとはまた別のドアがあった。
「そっちなら先輩はいませんから」
「あなたはこれから――」
「殺します。……邪魔、しないですよね?」
冗談でも口にできないようなことを平然と私に言う彼女の目は、ついさっき私に手をかけようとした彼の目によく似ていた。
「あなたがそのつもりなら、私はもう何も言わないわ」
151:
ドアを開くと、その先にあったのはただの廊下だった。灯りが一つしかついていないせいで、ここもさっきの部屋ほどではないが薄暗い。
すぐそこに彼がいるのではないだろうかという恐怖に駆られながら、出口を求める欲が足を進める。
角を曲がるとまたその先にはドアが見えた。しかし今までのとは違い向こう側が透けて見える代物で、ドアの向こう側からは白く明るい光が漏れていた。
「外……出られる……」
これでこの地獄から逃げられる。そう確信した私の歩みは加し、安堵から笑みすらもれた。
ドアノブに手をかける。生きたい。逃げたい。その思いがノブを握る力を強めた。そして高鳴る鼓動を抑え込みながらドアを開いた。
「えっ?」
まず私の目に入り込んできた色は、赤だった。
赤。
赤。
――真っ赤な、血の色。
152:
――
――――
「一色、こんなところにいたのか。探したぞ」
「……先輩」
「一体今までどこにいたんだ?」
「別に先輩が知る必要はありませんよ」
「はっ?」
「だって先輩はこれから――」
153:
――
――――
ドアの先は外ではなく普通の広さのリビングだった。そしてその部屋にはそこら中に『赤』が散乱していた。
視界が赤で染められたことを認識したと同時に、強烈な異臭が鼻の奥を貫いた。腐った生ゴミの臭いを何百倍にもしたような生理的嫌悪感のかたまりのような臭いが。
「ひぃっ! う……うおぇぇぇええ……っ」
わけもわからずただ恐怖と吐き気が胃の底から湧き上がり、その中身を思いきり吐き出した。吐瀉物はすぐに地面の血溜まりで赤黒色に染まった。
「はぁ……っ、はぁ……っ。……うっ」
一通り胃の中が空っぽになっても気持ち悪さは消えてくれず、胃は存在しない中身を外へ押し出そうとする。そのせいで呼吸すらままならず涙がこぼれた。
154:
それでもどうにか体勢を立て直し顔を前に向けると、赤色のこの部屋に不自然に青白い何かがテーブルの上に置いてあるのが見えた。
やめなさい。
自分の心の声が目を向けるなと忠告する。しかしそれが何なのかを知りたいという好奇心が目を逸らさせなかった。
「…………ぁぁ……」
もはや声すらその体をなさない。
いやだ……。こんなのは……。
「ぃやぁぁ……」
言葉にならないなにかが胸の奥に押し付けられる。もしそれになにか名前があるとしたら――絶望という単語が最も相応しいだろう。
そこにあったのは、城廻先輩の首だった。
「いやああああああああああああああああっっ!!!」
私の叫び声が部屋の中をこだまする。
155:
グラりと視界が揺れて、そのまま身体が地面に倒れた。地面の血溜まりがバシャッと音を立てて飛沫を上げる。
今のは……なに……?
つい数秒前に目にした光景が今の私には理解できない。どうしてあんなところに人の顔があったのだろう。きっとこんなのは誰かがふざけているんだわ。そうに違いない。
言い出しっぺは由比ヶ浜さんね。そこに比企谷くんが趣味の悪いアイデアを付け足して、ええ、そうに決まっている。
じゃなければこんなこと……。
ふと、目の前を何かが通り過ぎた。
その目の前に浮かぶ物がさらに私を困惑させた。
それは普段から目にするものだ。生きているなら必ずそれを見る瞬間がある。でも、それは普段は身体に付いていないといけないはずなのに、そこには『それ』だけがあった。
ようやく回り始めた頭がそれを認識する。
指だ。これは、人の指だ。
156:
「きゃっ!?」
それが指だとわかった瞬間に反射的に飛び上がり、また飛沫が上がる。
目を逸らそうと別のところに目を移すと、そこにもまた顔があった。今度は葉山くんの顔だ。真っ赤な部屋の中でこれもまた不自然に青白い。
「いや……っ!」
そうだ、壁。壁にならば何もないはず……!
しかしそこも血で真っ赤になっていて、肉片がそこら中に張り付いていた。
「いやあ! いやああ!! いやあああああああああああああ!!!!!」
外に、外に出れば……。そう思ってドアを探すが見つからない。
「えっ? どうして……。どこ……どこなの……?」
叫んで掠れた声を漏らしながら出口を探す。強烈な色で塗りつぶされた私の目はドアすら認識できないのだろうか。もはやさっき私がここに入るのに使ったドアすら見つけられない。自分の音以外無音で異臭と異物が占めるこの部屋は、私の精神を着実に追い詰めた。
「助けて……、誰か……そうだ、一色さんは……!」
周りを見渡しても姿が見えない。どうして? ついさっきまで一緒にいたのに……。
「一色さん……どこ……どこなの……」
157:
ピチャリ。
血が滴る音が一つ。
そして視界の中心で赤い花が咲く。
薔薇だ。
真っ赤な薔薇が一つ、何もない空中に突然現れ、そして赤い花びらを開かせた。
ピチャリ。
また同じ音がすると、もう一つ薔薇が隣に咲いた。
ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ。
音はどんどん増え、それと比例するように薔薇は急にこの部屋を埋め尽くし始めた。
ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ。
薔薇の大群は私の元へ追い迫ってくる。恐怖で逃げ出すが狭いこの部屋の中に他に逃げ場はなく、すぐに部屋の隅に追いやられてしまった。
158:
ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ。
ピチャリピチャリピチャリ。
ピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリ。
「やめてぇっっ!!!」
目の前にまで迫った薔薇を右手で払いのけると、今度はぬるぬるした厭な感触が腕に絡みついた。
もはやそれが何なのか見ずともわかった。血だ。これは人の血だ。この薔薇は人の血で出来ている。
……違う。こんなの幻……。
突然何もないはずの空中で薔薇が咲いたりするはずがない。これは現実から逃れたいだけの私が作り出した幻想に過ぎない。……そのはずなのに、腕に絡みつく感触は虚構と呼ぶにはあまりにもハッキリし過ぎていた。
「うぁぁ……。あぁぁあぁぁああぁぁぁぁ…………」
声が言葉ではなく声帯から漏れるただの音と化している。
『雪ノ下さん』
159:
「……ぇ…………?」
『僕が殺されちゃったのは雪ノ下さんのせいだよ』
「とつ……か……く……ん……?」
ついさっきまで部屋中にあった薔薇は消え、逆に戸塚くんの顔が私の前に不自然に位置している。目がだらんと見開かれて、口は操り人形のようにただ上下を繰り返す。
『雪ノ下さんは最初から八幡が犯人だってわかってたんだよね? もしも教えてくれていたら僕は殺されなかったのに』
「ちが……」
『俺も、殺されずに済んだのにな』
今度は葉山くんの顔が現れた。首から下は戸塚くんと同じように何もなく、首だけがぼんやりと浮かび上がっている。
『私もだよね。雪ノ下さん』
「葉山くん……、城廻先輩……」
『雪ノ下さんのせいだ』
戸塚くんが言う。
『雪ノ下さんのせいだ』
葉山くんが言う。
『雪ノ下さんのせいだ』
城廻先輩が言う。
160:
「私の……せい……?」
『そうだよ』
『雪ノ下さんが比企谷を止めていれば俺たちは死ななかったのに』
『どうして警察に通報してくれなかったの?』
「違う……私は……」
私のせいじゃない……。私が悪いんじゃない……。だってあなたたちを殺したのは比企谷くんなのに……。どうして私のせいだってみんな言うの……?
『雪ノ下さんのせいだ』
『雪ノ下さんが私たちを殺したんだ』
『僕、もっと生きていたかったのにな……』
「ちがう……、だってこれは比企谷くんが……」
『そうやってお兄ちゃんのせいにするんだ』
161:
「小町さん……?」
小町さんの声が聞こえて辺りを見回すが顔は見えない。どこにも小町さんの姿はなかった。
『どこを探しているの、雪乃さん。ここだよ』
「ここ……?」
声のする方へ目を向ける。その方向は……私の真下だ。
『自分のせいだってわかってるのに、それでもまだお兄ちゃんのせいだって言い張るんだ』
「ひぃっ!!」
下へ目を向けると、床の血溜まりいっぱいに小町さんの顔が並んでいた。そのどの目も虚ろに私を睨んでいる。何十という小町さんの目が一斉に私を見ている。
『そもそも奉仕部なんて変な部活に入ったからお兄ちゃんは変になっちゃったんだ』
「えっ……?」
『そうでしょ? 文化祭のことも、修学旅行も、全部お兄ちゃんから聞いた。あんなの気が狂って当然だよ。奉仕部になんて入らなければこうはならなかったのに』
『奉仕部は雪乃さんがいたから出来たんだよね。つまりお兄ちゃんがこんなふうになったのは雪乃さんがいたせいだよ』
血溜まりに映る小町さんの顔が私を責め立てる。
162:
『奉仕部なんか、雪乃さんなんかいなければよかった』
『お兄ちゃんを壊したのは奉仕部だよ。つまり、奉仕部を作った雪乃さんだよ』
「私が……いなければ……」
『そう。雪乃さんがいなかったらお兄ちゃんは犯罪者にならなかったんだよ。そうすれば小町も、お父さんもお母さんも城廻さんも結衣さんも戸塚さんも葉山さんも死なずに済んだんだよ』
『雪乃さんの『世界を変えたい』なんて幼稚なお願いのせいでみんな壊れちゃった』
「私のせい……私の…………」
私が比企谷くんを壊した。
だから私がみんなを殺した。
こんなことになってしまっているのも全部、私の自業自得。
『そうだよ。だから……』
「だから……」
「『私なんて、いなければよかった』」
163:
「あ……あ……。私は……どうして……っ」
後悔が頭の中に浮かんでは全身に流れる。それに拒否反応を示してまた吐き気が私を襲う。
「うっ……うっ、おえええぇぇぇぇぇ……っ」
私のせいだ……。みんな死んだのは、私のせいだ……。
あんなにも楽しかったのに。そんな日々を、空間を壊してしまった私。
ああああああああああああああああああああああ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ。
私なんか生まれてこなければよかった。私なんかこの世界にいなければよかった。
たくさんの人を不幸にして私はどうして生きているの? どうして生きていられるの?
164:
「もう……」
このまま死んでしまおう。
そう思い、立ち上がる。するとその時――。
バチンッ。
と、どこかで聞いたような音が頭の奥で鳴り響くと、四人の首が消え入れ替わるように『黒』がこの世界を侵食し始めた。
『黒』の正体はこれもまたやはり薔薇だった。真っ黒な薔薇が部屋中に咲き乱れる。
私の視界を、世界を、意識を、その『無』の色である『黒』が喰い尽くす。
私の意識が、消えていく。
私という意識が、記憶が、魂が、闇の中に飲み込まれていく。
薄れゆく意識の中で最後に見えたものは、黒い部屋で咲き誇る一輪の真っ赤な薔薇だった。
165:
――
――――
陽乃「……はっ!」
陽乃「……!」グッグッ
八幡「……クスッ」
陽乃「! 比企谷くん……」
八幡「やっぱり姉妹ですね。反応が全く一緒です」
陽乃「雪乃ちゃんは――」
八幡「自分のことよりも先に妹の心配ですか。さすが、姉の鏡です」
陽乃「…………」ギリッ
八幡「心配しないでください。何も手を出していませんよ」
166:
陽乃「君の言うことを信じられるとでも?」
八幡「信じるか信じないかは、あなた次第です、ってやつですよ」
陽乃「……私はどうして君に…………? 君がどんな手を使ってきても大丈夫なように、そうとう注意をしていたはずだったのに……」
八幡「ぷっ……!」
陽乃「な、なにがおかしいの!?」
八幡「いえ、ついおかしくなってしまって。……まだ気づいていないなんて、雪ノ下さんも抜けているんですね」
陽乃「……!」ギリッ
八幡「じゃあ答え合わせとしましょう」
八幡「あの時も言いましたよね」
八幡「思い込みは怖いと。大切なものを見失わせてしまうと」
陽乃「…………」
八幡「つまり、雪ノ下さんはある思い込みのせいで重大なことを見落としていたんです」
??「そういうことです♪」
陽乃「!?」
167:
陽乃「一色……ちゃん……!?」
八幡「あなたは二つ、決定的な虚実を事実だと思い込んだ」
八幡「一つは、俺が一人で動いていること」
いろは「もう一つは、わたしが死んだということです」
陽乃「そんな……っ、どうして……?」
いろは「最初に見つかった死体はわたしのではなく、先輩のお母さんのです」
いろは「そしてその事件に対して、死体が誰のものであるかは、警察もまだ発表していないんですよ。特定はできているのかもしれませんけどね」
八幡「でも、ほぼ同時に一色が行方不明になり、みんな、全員が『一色が死んだ』と思い込んだ」
八幡「誰も一色が生きているなんて思わなかったんです。雪ノ下さんを含めて」
168:
陽乃「……初めから、二人でグルだったってわけね」
いろは「……まー、そんな感じですかね」
陽乃「……?」
八幡「それにしてもとても面白かったですよ。玄関から出た俺に気を取られている様は」
いろは「すぐ後ろにわたしがいても全く気づかなかったですからねー」
陽乃「そういうこと……。まんまと君たちの思惑にハマっちゃったんだ、私……」
陽乃「……ねぇ」
八幡「はい?」
陽乃「どうして、こんなことをするの……?」
八幡「そんなのすぐにわかりますよ」
陽乃「えっ……?」
八幡「好きなんですよ。こういうのが」
169:
――
――――
きっかけは些細なことだった。
道端に猫が落ちていた。
いたのではなく、落ちていたのだ。
恐らく車にでも轢かれたのであろう。ぺしゃんこに変形し内蔵やら血やらをコンクリートの地面に撒き散らしていた。
その時、俺に湧き上がってきた感情は生理的嫌悪感ではなく、むしろ高揚感であった。
『動く物』と書く動物の中身をその瞬間初めて目にし、それが俺にはどうしようもなく美しい物に見えたのだ。
コンクリートを流れるドロドロとした血。
衝撃で身体から飛び出した肉片や骨。
恐らく少し前には元気に生きて動いていたであろうそれが、全く身動きしない様がただただ美しくて、見惚れ、魅入られた。
170:
その光景は俺の目に強く焼きついて決して離れることはなかった。
授業を受けていても、ネットでくだらない動画を見ていても、勉強をしていても、本を読んでいても、奉仕部であの二人と同じ時間を過ごしていても、あの猫の死骸のことばかり考えるようになった。
そのうち、死をたまらなく求めるようになった。
だから最初は虫を殺してみた。たまたま巣にいた蜘蛛を一匹捕まえて、木の枝でその腹を潰す。
それは思ったよりもやわらかく、すぐに枝の先は地面につく。蜘蛛は真っ二つに別れその間からはなんとも形容し難い色の液体がドクドクと溢れ出した。
蜘蛛はビクッビクッと痙攣して、それから少しも動かなくなった。
それで蜘蛛は死んだのだとわかった。
その時、それまで非現実的にしか考えられなかった『死』という現象が初めてリアルに感じられた。
171:
それからも週に一回くらいのペースで虫を殺した。
蜘蛛、毛虫、蟻、芋虫、他にも、たくさん。
そんなふうに何かの命を奪い、血や中身を見ることが俺の人生のちょっとした楽しみになっていた。
その興味の対象が人間へと移り変わるのにそう時間はかからなかった。
俺の理性と自意識はやめろと叫んだ。
しかし一度開いた狂気の扉はその化物すら飲み込み、俺自身を狂気が支配し始めた。
172:
そして少しずつ俺は人の死を望み始めた。
電車で投身自殺する輩はいないものだろうか。
そこら辺で車に轢かれる子供はいないものだろうか。
殺人事件が起こったりはしないだろうか。
俺の目の前で。
まだ一度も経験したことのない人の死を待ち焦がれる。しかしどれだけ待ってもそんな瞬間は訪れない。
テレビのニュースを見れば今日もまた誰かが死んだようだ。そんな事件が日々起こっているのに、どうして俺はそれを目の当たりにすることができないのだろう。
『死』が欲しい。
『死』をこの目で見たい。
その考えを不謹慎だと思うような倫理観はとっくのとうに消えてなくなってしまっていた。
しかしどれだけ待てども『死』は俺の元を訪れなかった。
そんなある日、俺はあることに気づいた。『死』が来ないのなら、自分自身で作り出せば良いのだと。
どうしてこんな単純なアイデアに気づけなかったのだろう。
そう思った時には俺の手は小町の首にかけられていた。
173:
スースーと寝息を立てて眠る小町。
その寝顔はこの世の何よりも可愛くて、美しくて、愛おしくて、だからそれを永遠に自分のものにしたいと思った。
冷たい体温が手の中で脈を打つ。
人を殺す方法なんて知らないから、推理小説に出てきた犯人の真似をして喉元に少しずつ力を込めた。
苦しむ間もなく小町の呼吸はすぐに止まった。
なんてあっけない。人とはこんなにも簡単に死ぬものなのか。
初めての人の『死』はあまりにも一瞬で、期待外れなものだった。
違う、こんなはずではない。
『死』とはもっと劇的なものであるはずだ。
一人の人間の『死』がこんなあっさりとしたものでいいはずがないのだ。
そう思った俺は、今度は親父の首に思い切り包丁を突き刺した。
174:
殺してやる。
 
185:
――
――――
八幡「…………」
いろは「……なんかみんなあっさり死んじゃいましたねー」
八幡「そりゃそうだろ。人なんて簡単に死んじまうんだ」
八幡「……小町だって、そうだった」
いろは「…………」
八幡「みんな、死ぬのはあっさりとしてんだよ。劇的な死なんてあり得ねぇんだ」
八幡「そのことにもっと早く気付いていればな……」
いろは「……先輩、やっぱり狂ってますね」
八幡「お前こそ。葉山を喜々として切り刻んでんのを見た時は正直ドン引きしたぞ」
いろは「そうですかぁ?」
八幡「いや、そうだろ」
186:
いろは「でも、今までわたしのことを大して意識してなかった葉山先輩が、わたしの一挙一動に泣いたり叫んだりするのは……」
いろは「……少し興奮したかもしれないですね」
八幡「……やっぱりお前狂ってるな」
いろは「先輩ほどじゃないですよ」
八幡「バッカお前。俺なんてノーマルオブノーマルって言ってもいいほど普通の感覚の持ち主だぞ」
いろは「普通の人が気持ち悪くニヤニヤしながら人のお腹を解剖したりしませんよー」
八幡「……俺、そんなに気持ち悪い顔になってたか?」
いろは「はい、ものすごく」
八幡「マジか……」
187:
いろは「……さて、これからどうします? せんぱい?」
八幡「……もう終わりだな」
いろは「…………」
八幡「全部、終わっちまったな」
いろは「そうですね」
八幡「じゃあ、最初の約束通り――」スッ
いろは「…………」
八幡「――お前を殺そう」グッ
いろは「……っ」
188:
いろは「……ちょっとだけ」
八幡「?」
いろは「その前にあとちょっとだけ、待ってくれませんか?」
八幡「は?」
いろは「わたし、先輩に言いたいことがあるんです」
八幡「なんだよ、辞世の句でも残すつもりか? お前らしくもない」
いろは「違いますよっ。そんなのわたしのキャラじゃないじゃないですか!」
八幡「じゃあさっさとしろ。もうじきに警察も来る。その前に全部済ませたい」
いろは「では……」チュッ
八幡「!?」
189:
いろは「えへへ……。先輩の初めて、もらっちゃいました」
八幡「お前……どうして……。葉山のことが好きだったんじゃ……」
いろは「そうですよ? でもわたし先輩のことも好きなんです。それだけですよ」
八幡「めちゃくちゃだ……」
いろは「何人も人を殺してる先輩が言える話じゃないですからね?」
八幡「それを言われると何も返せねぇ……」
いろは「……じゃあ、わたしはもう満足できたんで、もういいですよ」
八幡「なんか、こういうの初めてだからどうすればいいのかわからねぇな」
いろは「そっか……結局あの二人は言えないまま……」ボソリ
八幡「はっ?」
190:
いろは「先輩って悲しい人ですよね」
八幡「突然どうしたんだよ」
いろは「勝手にそう思っただけですよ」
八幡「なんだよそれ……」
いろは「さあ、早くわたしを殺してください」
八幡「…………」スッ
いろは「『死ぬ』って、どんな感じなんでしょうね」
八幡「……さぁな。死んでみねぇとわかんねぇよ」
いろは「じゃあお先に見に逝ってきますね」
八幡「もしも地獄なんてのがあったら……」
いろは「その時は一蓮托生ですね」
八幡「んな難しい言葉知ってんだな」
いろは「これでもいちおー生徒会長ですからね。馬鹿にしないでくださいよ」
191:
いろは「……大好きでしたよ。先輩」
八幡「……ああ、俺もだ」グッ
いろは「……っ! も……もしかして……っ、それ……て……くどい……てます……? もう……じ……かんも……な……い……ので……無理……です…………っ」
いろは「ご……め……っ、んっ……な…………さ…………」
いろは「……………………い」
いろは「………………………………」
いろは「……………………」
いろは「…………」
いろは「……」
八幡「……最期まで、あいつはあいつだったな」クスッ
192:
――
――――
カツカツ
ガチャリ
キィー
「……!」
「よお」
「お……え……あ……い……」
「…………」
「くぉ……お……ひぃ……え……」
「……ああ」
193:
――
――――
部屋の中ではペンが掠れる音だけが不気味に鳴り響いている。
「……こんなもんでいいな」
「…………」
「どうしてこうなっちまったんだろうな」
「なぁ、雪ノ下」
そう、彼女に問いかける。
苦痛のあまり目を見開いたまま動かなくなった彼女は、ただその虚ろな目で俺を見つめている。顔にかかった赤黒い血が青白い肌に対してよく映えていた。
「なんて聞いても仕方ないよな」
194:
結局俺は何がしたかったのだろう。
俺は嘘が嫌いだし、嘘で塗り固められたこの世界も嫌いだ。
でも、それをさらなる嘘で重ね塗りしたのは誰だ?
他でもない俺だ。
今の俺には全てが嘘なんだ。
この話も、この目に見える世界も、全てが非現実的な嘘なんだ。
脳が電気信号で『存在していると錯覚している』世界を知覚しているに過ぎない。
「本物が欲しい、か……」
皮肉な話だ。つい数か月前までそれが欲しくて泣いていたやつが、今はこんなふうに血と嘘に囲まれて笑っているなんて。
195:
傍らに置いてあった包丁を手に取り喉元に突き立てる。
「結局最期も独りか」
この包丁は一体今まで何人の血を吸ってきたことだろう。俺もこの包丁に血を吸われて死ぬべきだ。最後だからと、きっちり研いで準備は万端だ。
「これで終わりだな」
両手に力を込めて刃を喉の奥へ一気に押し込んだ。他の人を何度も刺してきたのと同じ感覚が手に来る。
そして刹那遅れて痛烈な痛みが脳天を貫いた。
「ぐふっ……! がはぁ……っ!」
あまりの痛みに思わず叫びそうになったが、喉に大穴が空いたせいでそれは上手く言葉にならず、ただ空気が喉の穴から音を立てて漏れた。
刺したところからだくだくと血が溢れ出る。綺麗だった床に俺の血で血溜まりが出来上がる。
「ごふっ……、げふっ……」
196:
とうとう目の前が少しずつ薄れ始めた。もうこうなってしまっては手遅れなのだろう。
意識が朦朧として身体のバランスが保てなくなり、そのまま床に崩れ落ちる。
あれだけ激しかった痛みが少しずつ小さくなる。それで自分の感覚が麻痺し始めているんだと悟った。
……。
…………。
……俺は。
俺は、何をまちがえたのだろう。
この数日間、俺は何度もそう自分に問いかけた。
しかしいくら問いかけ直しても、その答えは見つからなかった。もしかしたらそんなものは存在しないのかもしれない。
……そうだ、きっと存在しないのだ。
まちがえたまま始まった俺の人生は、何度問い直しが行われても結局まちがえたままで終わる。
何とも自分らしい結末だ。
そう、一人苦笑する。
197:
消える。
もはや光すら消えた。
何も見えない。
暗闇の世界だけが今のぼんやりとした頭で知覚できる全てだ。
暗闇の中で独り。
人は、こんなふうに最期は独りで終わるのだ。
どれだけ人との繋がりを求めても、もしも、存在しないはずの本物があったとしても、最終的に行き着く場所は同じ。
やはりボッチがこの世の真理だったか。
死ぬ寸前でもこんなくだらないことを考えるなんて、本当に俺はくだらない。
くだらない……、くだらない……、くだらない……。
くだらない人生。
……小町。
守れなくて、ごめんな。
198:
――
――――
「……お邪魔します」
あたしはそう言ってその家に足を踏み入れる。
あの事件からもう何年の月日が流れただろう。
事件の概要を説明すると、ある日、あたしの学校の生徒会長である一色いろはが行方不明になり、それと同時に学校の近所の公園で身元の確認ができないほどに損傷した死体が発見された。
多くの人はその生徒会長が死んだのだと思った。あたしもその一人だった。
悲劇はそれだけでは終わらず、それから前生徒会長であった城廻めぐり、当時あたしのクラスメイトだった由比ヶ浜結衣と、次々と総武高の生徒が行方不明になったり殺されていった。
そして、悪夢の日が訪れる。
その日一日で戸塚彩加、葉山隼人、雪ノ下雪乃、雪ノ下陽乃、一色いろはの五人を同校の生徒である比企谷八幡が殺害した。
そして五人の殺害の後、比企谷八幡は自分の喉を包丁でかっ切って自殺した。
それだけでも十分に衝撃的な事件だが、そこで事件は終わらなかった。
199:
比企谷家からさらに二人の遺体が発見されたのだ。
一人は彼の父親の遺体。
もう一人は彼の妹である比企谷小町の遺体だった。
そして後に鑑定の結果、最初に公園で見つかった遺体は比企谷八幡の母親のものであったことが判明した。
一人の男子高校生が総勢十人もの罪もない人々の命を奪ったというこの事件は、当然世間でも大きな話題となり第二の酒鬼薔薇聖斗とまで呼ばれた。
連日のようにテレビに総武高が映され、校門には多くのマスコミが押し掛けた。
しかし、あたしにはその事件が理解できなかった。
彼が、比企谷八幡がそんなことをするような人間だと信じられなかったのだ。
どこかのメディアに快楽殺人鬼とまで書かれているのを見たが、はたして彼が人殺しなどするだろうか。
『愛してるぜ、川崎!』
そんなことをあたしに言い放ったような人間が、十人もの人を殺すのだろうか。
もしかしたら隠された真相がこの事件の裏に隠れているのではないだろうか。
200:
だから事件について自分なりに調べ始めた。もしかしたらそうすることで自分を納得させようとしたかったのかもしれない。
しかし、どこを探しても事件の残虐性や犯人の異常性を煽る記事ばかりでまともな情報はほとんど得られなかった。
それからどれだけ調べたり、聞きこんだりしても、結果は変わらなかった。
そうしてあたしの中のモヤモヤが残ったまま数年という月日が過ぎる。
事件の話題はとっくに風化して、あたし自身も諦めかけた時にある人から電話がかかったのだ。
その相手は、当時あたしたちのクラスの担任である平塚静だった。
201:
事件のことについて話したいことがある、とのことだった。
事件の直後の当時、大量殺人犯の担任であるというレッテルを張られた平塚先生は、そのまま教師を辞めざるを得ないという状況に追い込まれた。
今はこうして無職のまま貯金を切り崩して生活しているらしい。しかしそれでは先がないのでお見合いなどにはしょっちゅう行っているが、数年前の事件の影響が未だに残っていてなかなか上手くいかないそうだ。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな」
そう言う先生の姿は少し、いや、だいぶやつれたように見える。
お互いの近況報告もそこそこに、早本題に入った。
「どうしてあの事件を追うんだ?」
かつての恩師はあたしにそう尋ねた。
202:
「君が今もなお学業の合間にいろいろ調べ回っているのは聞いている。だがどうして、そんなことを?」
「……知りたいからです。本当のことを」
「本当のこと?」
「先生は信じられるんですか? あいつがあんなことをしたなんて」
「…………わからない」
どこか少し見当はずれに聞こえるその返答。その真意を掴むのは今の先生の様子からでは難しい。
「あの事件以降、私はわからなくなったんだ」
「比企谷のことが、ですか?」
「それもそうだし、他のこともだよ。私は比企谷があんなことをするなんて思ってもみなかった。二年ほどだが彼のことを見ていてそれなりに理解できていたと思っていた」
寂しそうに平塚先生はうつむき微笑を浮かべる。そんな先生の姿はまるでこのままどこかへ消えてしまいそうだ。
「でも、現実は違った。比企谷は過ちを犯した。それを私は止めなければならなかったのに……、何も……できなかった……」
203:
「あたしもそうですよ。全く気づけませんでした」
そんな慰めの言葉を投げかける。しかしそれが無意味なことは言う前からわかっていた。あたしと先生とではそもそも比企谷と関わってきた時間も度合いも違う。
「……君の質問だが、答えは『わからない』だ。正直なところ、あれからは比企谷を恨んだこともあった。そのせいで私のあの頃の記憶というものはひどく歪んでいるんだよ」
「…………」
それも当然の話なのかもしれない。先生は比企谷に人生を狂わされた被害者だ。
一人の生徒のせいで教師をやめさせられ、愛する生徒を何人も殺され、だからそんなことを言う先生を糾弾する資格はあたしにはない。
「……それでも、一番恨んでいるのは自分自身だろうがな」
そう言って先生は窓の外へと視線を移した。つられてあたしも同じ方を向く。
まだお昼を回ったばかりで外はまさに青天と呼んで差し支えがない。あたしたちの心とは正反対で。
もう一度先生の方へ顔を戻した。今の言葉が自己弁護なのか、自己嫌悪なのかはあたしの中で結論づけることはできない。
204:
「……こんな話を聞いたことがあるか?」
突然、先生がそう切り出した。
「『重さが合わない』という話を」
意味がわからない。一体何を言わんとしているのか全く予測がつかなかった。
そんなあたしの困惑した様子から答えを察して先生は言葉を続ける。
「あの事件の直後、私は比企谷の家に何度か足を運んでいた。まだ警察が中で捜査をしている時にだ。すると家の中から警官の声が聞こえてきたんだ。もしかしたら警官じゃなくてそれとは別の捜査官とか検死官とかだったのかもしれないが、そこはどうでもいい」
そこで一度切って間を空ける。そしてまたすぐに話し始めた。
「彼らはこんなことを言っていた。『重さが合わない』と」
205:
「『重さが合わない』って、どういう……?」
「君もあの事件について調べていたなら、遺体がどのように発見されたかは知っているな?」
「……はい」
この事件が注目された理由に犯人の異常性が第一に挙げられるが、遺体の状態にそれはよく表れていた。
遺体は完全にすり潰されドロドロの液状になって、バケツの中に入っていたのだ。
このあまりの内容のショッキングさからテレビでは報道されなかったが、週刊誌やネット上ではその話がよく取り上げられていた。
「じゃあそこは省こう。それで、その重さを測ったんだよ。すると、どうにもその重さは本来あるべき重さとは違ったようだ」
「……はい?」
わけがわからない。重さが違う? それが一体何を――。
「……!?」
――ハッと、ある可能性が頭をよぎる。
「それはちょうど人間が一人分重かったんだ」
206:
「まさか……そんな……」
「……それはその時わかったことではなく私が耳にした時には既にその事実は把握していて、その正体を探っていたらしい」
「そんな話は一度も聞いたことがありません……」
「しかしその正体はついにはわからなかった。と言うよりも掴みようがなかったようだ」
「どうしてですか?」
「そもそも遺体の状態から身元の特定はほぼ不可能。結局は行方不明になった者をその遺体のと同一人物だとしているだけだ。ゆえにそこにいたもう一人の可能性は遺体の『重さ』からでしか語れない」
「でも、事件の前後で行方不明になった人たちを探せば……」
「そこについても言及していたよ。私も調べたが比企谷の周りの人間であの十人以外で行方がわからなくなった者はいなかった」
「比企谷に関係がない人も含めたら、それを絞ることもできますよね?」
207:
「だが、そうはしなかった」
「どうしてですか!?」
思わず感情が昂り、先生に問い詰める形になる。
「……いいか、川崎。人は結局は楽な方に流れるものなんだ」
「……?」
「あの現場にいたもう一人の可能性を存在させる証拠はあくまでも『重さ』だけだ」
「だから……なんなんですか……」
「そしてあの事件で『重さ』なんてたいした証拠になりえない。例えばの話だが、水を含ませるだけで『重さ』なんて簡単に変わるからな」
「だから……、比企谷が全ての犯人だということで終われば綺麗に事件が片付くから、それをなかったことにしたと……?」
先生はあたしから目を逸らす。その反応はイエスと言っているのと同義だ。
「それで先生は……、何もしなかったんですか……!? 自分の教え子の事件の真実を知りたいとは思わなかったんですか……!?」
押さえきれない感情が言葉から漏れ出る。年上に対しての態度としてあるべきではないものになっていたが、そんなことに気が回らないくらいに怒りが腹の底から湧き上がっていた。
208:
「……したさ」
「えっ?」
「そんなことを聞いて私が動かないはずがないだろう……? でもな、無駄なんだよ」
「無駄?」
「もしも私の訴えを認めたら、それは警察が証拠を隠蔽したことを認めたも同然になるだろう。だから私の口は封じ込まれた」
「脅迫……?」
「いや、……、そうだな。私が警察にそれを言いに行った次の日から、うちのアパートの前に大勢のマスコミが押し掛けるようになったんだ。ある意味脅迫よりも質が悪かったよ」
「……えっ?」
「その次の日には総武高の教師を辞めるように言われてね。そしてすべてを悟った。余計なことをしたからこんなことになったんだって」
かつての自らを嘲笑うように先生は口角を歪める。結婚ができない自分を自虐している姿は幾度か目にしたことはあっても、ここまで絶望と悲哀に溢れた表情をしているのを見るのは初めてだ。
先生は正しかった。そのはずなのに、その結果糾弾され、それまでの身分すらも剥奪された。こんなの、理不尽以外の何物でもない。
「だから川崎。お前にはこう言おう」
もう一度先生の目があたしに向く。
「もうこれ以上、足を踏み入れるな」
209:
平塚先生の重すぎる言葉に何も言い返せない。
だってそんなの間違っている。
こんな、真実を隠したままで終わるなんて、そんなの……。
「そんなの……おかしいですよ……!」
「だが、そうしなければならない時もあるんだ」
「だって……、先生の話が本当なら比企谷の家には比企谷には全く関係のないはずの人の死体があって、だったら比企谷は……」
「君の言っていることは至って正しい。でも、ダメなんだよ」
「違います! こんな比企谷に損な役回りを全部押し付けるような――」
「川崎」
優しい、しかし凛とした声があたしを押しとどめた。
「そんなことをしたって、雪ノ下や由比ヶ浜たちは帰ってこない」
210:
「もう、諦めてくれ」
万物に執着がなくなってしまったかのような風に、あたしにそう告げる。もう一度何かを言い返そうとしたが、先生のその態度に対して何を言えばいいのかわからなくなった。
ふと、外から子供の遊んでいる声があたしたちの部屋の中に入り込んでくる。走り去ったその掛け声はすぐに小さくなって聞こえなくなった。
「それを君に伝えるために今日は呼んだんだ」
「だったら、どうしてそのことをあたしに教えたんですか……? あたしを説得するのが目的なら、そんな話をする意味はないはずなのに」
「私もするつもりはなかったさ。でも……誰かに聞いてほしかったのかもしれない。この話は私が心の中に留めておくにはあまりにも重く、暗い」
そう言いながら先生は軽く頭を手で押さえる。今の言葉が本音だということはその態度からなんとなく察しがついた。
「……すまない。元とは言え、私は君の先生なのにな」
「…………」
弱い。
あまりにも、弱々しい。
かつてとは正反対なまでに弱ってしまった姿を、もうこれ以上目にしていたくないとあたしは思った。
「……もう、帰ります」
211:
玄関で足を靴に入れ、ひもを縛ってから立ち上がる。もうここに来ることはないだろうと思った。
「これから君はどうするんだ?」
「まだわかりません。でも、あともう少しだけ、考えさせてください」
「そうか。じゃあおせっかいついでにもう一つだけ」
「なんですか?」
「君はちゃんと今を楽しんでいるか?」
「どういう意味ですか?」
「そのままだよ。過去のことばかり考えて、今のことを投げやりにしてしまうのは本末転倒もいいところだ。君はまだ若い。これからだってきっと楽しいことがたくさん待っているはずだ」
「……先生が言うとなんか重いですね」
「ぐっ……それを言うな……。ともかくだ。過去の出来事にばかりとらわれるな。忘れるのは難しいだろうし、もしかしたら一生忘れられないのかもしれない。でも、どんなに考えたって時間は戻らないし、さっきも言ったがあいつらだって帰らない」
「……そうですね」
212:
「じゃあその代わり、先生も幸せになってくださいよ」
「言われんでもそうするさ。人に言う前にはまずは自分からって言うしな。でも、今日君と話せて良かったよ」
「……じゃあ」
「ああ。……お互いまた落ち着いたらどこか飲みにでも行こう。私が奢るぞ」
「その前に先生は結婚してください」
「ぐふぅっ!?」
「じゃあ、また」
「ああ、またな」
214:
平塚先生の家から帰る途中は、ただひたすらに無力感が胸の中を渦巻いていた。
結局、この事件に対してあたしたちは何もできない。
あの日、何があったのか、その時にあいつが何を考えていたのか、少しも知りえない。
でも、それももう仕方ないんだと思う。あの頃からはもうあまりにも時間が経ち過ぎてしまった。その時の流れのせいでいろんなものが風化しつつある。
事件のことも、総武高のことも、奉仕部のことも。
あたしの中にあった微かな想いさえも。
あの頃にあたしが持っていたものは、みんな崩れて消え去ってしまった。
だからもう追う必要なんてないはずなのに、それでもそれが嫌で、なくしてしまった事実を認めるのが嫌で、だからこぼれてしまった水を盆に戻そうとしていたんだ。
決して元に戻ることがないのはわかっていても。
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